説明

塗装方法および塗装装置

【課題】 被塗物の投入荷重が低減され、且つ塗装品質に悪影響を及ぼすことがない塗装方法をおよび塗装装置を提供する。
【解決手段】 表面に粉体塗料が付着したビーズが内部に充填され、上下方向に沿って筒状に形成されているとともに上面が開口した塗料充填槽21内にその下部から加圧された気体を供給することにより塗料充填槽21内のビーズ層27を攪拌しながら、被塗物W’を塗料充填層21の上方から塗料充填槽に向かって下降させることにより、被塗物W’を攪拌されたビーズ層27中に埋没させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装方法および塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被塗物を塗装する方法として、電着塗装、静電塗装、スプレー塗装、流動浸漬塗装等、様々な塗装方法が知られている。
【0003】
特許文献1は、塗料充填槽内に充填され表面に粉体塗料が付着した媒体(塗料媒体)により形成される塗料媒体層中に被塗物を埋没させるとともに塗料媒体層を攪拌し、その埋没状態を所定時間維持することにより、被塗物を塗装する流動浸漬塗装方法を開示する。槽内の塗料媒体は攪拌により被塗物に衝突する。衝突が繰り返し行われることで、塗料媒体に付着した粉体塗料が被塗物に塗布(転写)される。
【0004】
特許文献2は、粉体塗料が付着した塗料媒体の循環流を作り出し、作り出した循環流に被塗物を回転させながら晒すことにより塗料媒体に付着した粉体塗料を被塗物に塗布する塗装方法を開示する。
【0005】
特許文献3も特許文献2と同様に、粉体塗料が付着した塗料媒体の循環流を作り出し、作り出した循環流に被塗物を回転させながら晒すことにより塗料媒体に付着した粉体塗料を被塗物に塗布する塗装方法を開示する。また、特許文献3によれば、塗料媒体のカラー画像がCCDカメラで撮像され、撮像されたカラー画像に基づいて塗料媒体の循環流量が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3482225号(図8、図9、図10)
【特許文献2】特開2007−136331号公報(図12、図13、図14)
【特許文献3】特開2007−139561号公報(図6)
【発明の概要】
【0007】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に示される塗料充填槽に充填される塗料媒体は例えばセラミックス製であり、その比重は約2.5〜6程度と大きい。このように比重の大きな塗料媒体により構成される塗料媒体層中に被塗物を埋没させるために必要な荷重(投入荷重)は大きい。また、塗料媒体層中に埋没した被塗物を引き上げる際に必要な荷重(引き上げ荷重)も大きい。投入荷重や引き上げ荷重が大きい場合、装置構成が大掛かりになるとともに装置コストも増大する。また、被塗物の投入時や引き上げ時に被塗物および治具が変形するおそれがある。
【0008】
この場合において、塗料媒体が充填された塗料充填槽を振動させながら被塗物を塗料媒体層中に埋没させることにより投入荷重を低減することができる。しかし、それでも依然として被塗物の全体を塗料媒体層中に埋没させるために必要な荷重は大きい。また、塗料充填槽を振動させるための振動装置が必要であり、さらに塗料充填槽の全体を振動させるための大きな駆動エネルギーが必要である。よって、製造コストの増大を招く。
【0009】
また、先に被塗物を塗料充填槽内に投入し、その後に粉体塗料が付着した塗料媒体を塗料充填槽内に充填すれば、被塗物の投入荷重を軽減することができる。しかし、この場合は、被塗物を塗装するごとに塗料充填槽内へ塗料媒体を充填する作業が発生するので作業工数が増大し、生産性が悪化する。
【0010】
特許文献2および3に記載の塗装方法によれば、ベルトコンベアあるいは重力落下により粉体塗料が付着した塗料媒体の循環流を作り出しているが、斯かる循環流は指向性を持つため塗料媒体の攪拌が十分になされない。したがって、攪拌が十分になされていない塗料媒体の循環流に被塗物が晒されることにより、塗装膜厚の不均一化を招き、ひいては塗装品質に悪影響を及ぼす。
【0011】
本発明は、生産性を悪化させることなく被塗物の投入荷重が低減され、且つ塗装品質に悪影響を及ぼすことがない塗装方法および塗装装置を提供することを目的とする。
【0012】
(課題を解決するための手段)
本発明は、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填され、上下方向に沿って筒状に形成されているとともに上面が開口した塗料充填槽の下部から加圧された気体を前記塗料充填槽に供給して前記塗料充填槽内の前記塗料媒体により形成される塗料媒体層を攪拌しながら、被塗物を前記塗料充填槽の上方から前記塗料充填槽に向かって下降させることにより、前記攪拌されている塗料媒体層中に前記被塗物を埋没させる埋没工程と、前記攪拌されている塗料媒体層中に前記被塗物が埋没している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、前記塗料媒体に付着した粉体塗料を前記被塗物の表面に塗布する塗装工程と、を含む、塗装方法を提供する。
【0013】
この場合、本発明の塗装方法は、前記塗装工程後に、前記塗料充填槽の下部から前記加圧された気体を前記塗料充填槽に供給して前記塗料媒体層を攪拌しながら、前記塗料媒体層中に埋没している前記被塗物を上昇させることにより、前記被塗物を前記攪拌されている塗料媒体層中から引き上げる引き上げ工程を含むと良い。
【0014】
上記発明によれば、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填された塗料充填槽の下部から加圧された気体が塗料充填槽に供給される。気体の供給により、塗料充填槽に充填されている塗料媒体からなる塗料媒体層中に、塗料媒体が充填されていない気泡状の空洞部が形成される。塗料媒体層中に形成された空洞部は上昇するとともに塗料媒体層を攪拌する。このようにして塗料媒体層を攪拌しながら被塗物を塗料充填槽の上方から下降させて塗料媒体層中に埋没させる。塗料媒体層中での空洞部の発生による塗料媒体の充填密度の低下および塗料媒体層の攪拌により、塗料媒体層中に被塗物を埋没させるときに必要な投入荷重が大きく低下する。
【0015】
また、塗料媒体層中に発生する空洞部は槽内の塗料媒体を押しのけるように上昇していく。空洞部により押しのけられた塗料媒体は不規則に運動する。このような不規則運動が槽内のいたるところで発生する結果、塗料媒体層が均一に攪拌される。このため、塗装工程では、塗料媒体層中に埋没している被塗物の表面に均一に塗料媒体が衝突し、被塗物の表面に均一に塗料が塗布される。よって、塗装膜厚の均一化を図ることができ、塗装品質が向上する。
【0016】
また、本発明によれば、塗料充填槽に塗料媒体を充填した後に被塗物が投入されるので、被塗物を塗装するごとに塗料充填槽に塗料媒体を充填する必要がない。このため生産性の悪化を招かない。
【0017】
本発明が適用される被塗物は長尺状であるのがよい。そして、長尺状の被塗物がその長手方向に沿って前記塗料充填槽の上方から前記塗料充填槽に向かって下降させられることにより、塗料充填槽内の塗料媒体層中に埋没されるとよい。さらに、塗料媒体層中に埋没された長尺状の被塗物は、その長手方向に沿って引き上げられるとよい。これによれば、被塗物がその長手方向に沿って塗料充填槽に投入されるために投入面積が小さい。したがって投入荷重がより一層低下する。また、被塗物の引き上げ時に引き上げ荷重が低減されるとともに、塗装媒体が被塗物とともに引き上げられてしまうことを防止することができる。
【0018】
また、前記塗料充填槽の下部に加圧した気体が供給される気体供給槽が設けられているとよい。さらに、前記塗料充填槽と前記気体供給槽との間に、前記塗料充填層内の空間と前記気体供給槽内の空間とを連通し前記塗料媒体よりも小さい径を有する複数の孔が形成された多孔質板が配設されているとよい。そして、前記気体供給槽に供給された気体が前記多孔質板を通過することにより、前記塗料充填槽の下部から加圧された気体が前記塗料充填槽に供給されるとよい。
【0019】
これによれば、加圧された気体がまず気体供給槽に供給される。気体供給槽に供給された加圧気体は、多孔質板に形成されている複数の孔を経て塗料充填槽に供給される。多孔質板に形成されている複数の孔の径は、塗料充填槽内の塗料媒体の径よりも小さいので、この多孔質板を経て塗料填槽内の塗料媒体が気体供給槽に落下することはない。
【0020】
本発明において、「塗料媒体」は、被塗物に粉体塗料を付着させるための媒体(メディア)である。塗料媒体は一般的には球形である。塗料媒体の径は被塗物の大きさや形状により異なるが、0.5〜1mm程度であるのがよい。塗料媒体の材質は、被塗物に衝突することにより被塗物表面を傷つけないものであればどのようなものでもよい。セラミックス製の塗料媒体が好適に用いられる。
【0021】
本発明において、「多孔質板」は、塗料媒体よりも小さい径を有する複数の孔が形成されていれば、どのようなものでも良い。この場合、塗料充填槽の径方向(水平方向)に亘り均一に気泡状の空洞部が発生するように、多孔質板に均一に複数の孔が形成されているのがよい。例えば金属製のメッシュや、微細孔が形成されたフィルターが、多孔質板として好適に用いられる。
【0022】
前記塗料充填槽にその下部から供給される気体の加圧力は0.1〜5kgf/cmであるのがよい。気体の加圧力が1kgf/cm未満であると、気泡状の空洞部による塗料充填槽内の塗料媒体層の攪拌が十分になされない(流動性が悪い)とともに塗料媒体の充填密度もさほど低下しないので、被塗物に形成される塗装膜厚の十分な均一化を図ることができず、且つ、被塗物の投入荷重が十分に低下されない。一方、気体の加圧力が5kgf/cmを越えると、気体の加圧力が強すぎるので、ほとんどの塗料媒体が塗料充填槽の上部に舞い上がり、塗料充填槽内で塗料媒体層を均一に攪拌することができない。
【0023】
また、本発明の塗装方法は、前記埋没工程の前に行われる工程であり、前記被塗物の表面に予め粘着体を塗布する工程をさらに含むのがよい。これによれば、予め表面に粘着体が塗布された被塗物を塗料充填槽の塗料媒体層中に埋没させることにより、塗装工程にて効率良く被塗物の表面に粉体塗料を塗布することができる。
【0024】
この場合、前記予め粘着体を塗布する工程は、表面に粘着体が付着した粘着媒体が内部に充填され、上下方向に沿って筒状に形成されているとともに上面が開口した粘着体充填槽の下部から加圧された気体を前記粘着体充填槽に供給して前記粘着体充填槽内の前記粘着媒体により形成される粘着媒体層を攪拌しながら、被塗物を前記粘着体充填槽の上方から前記粘着体充填槽に向かって下降させることにより、前記攪拌されている粘着媒体層中に前記被塗物を埋没させる工程と、前記攪拌されている粘着媒体層中に前記被塗物が埋没している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、前記粘着媒体に付着した粘着体を前記被塗物の表面に塗布する工程と、を含むのがよい。
【0025】
さらに、前記予め粘着体を塗布する工程は、前記攪拌されている前記粘着媒体層中に前記被塗物が埋没している状態を予め定められた時間だけ維持した後に、前記粘着体充填槽の下部から前記加圧された気体を前記粘着体充填槽に供給して前記粘着媒体層を攪拌しながら、前記粘着媒体層中に埋没している前記被塗物を上昇させることにより、前記被塗物を前記粘着媒体層中から引き上げる工程を含むと良い。
【0026】
これによれば、表面に粘着体が付着した粘着媒体が内部に充填された粘着体充填槽の下部から気体が粘着体充填槽に供給される。気体の供給によって、粘着体充填槽内の粘着媒体からなる粘着媒体層中に気泡状の空洞部が形成され、槽内の粘着媒体の充填密度が低下する。また、粘着媒体層中の空洞部は上昇するとともに粘着媒体層を攪拌する。粘着媒体の充填密度の低下および粘着媒体層の攪拌により、粘着媒体層中に被塗物を埋没させる際に必要な投入荷重が大きく低下する。
【0027】
また、粘着媒体層中に発生する空洞部は槽内の粘着媒体を押しのけるように上昇していく。空洞部により押しのけられた粘着媒体は不規則に運動する。このような不規則運動が槽内のいたるところで発生する結果、粘着媒体層が均一に攪拌される。このため、粘着媒体層中に埋没している被塗物の表面に均一に粘着媒体が衝突し、被塗物の表面に均一に粘着体を付着させることができる。
【0028】
本発明において、「粘着媒体」は、被塗物に粘着体を付着させるための媒体(メディア)である。粘着媒体は一般的には球形である。粘着媒体の径は塗料媒体の径と同一であるのがよい。粘着媒体の材質は、被塗物に衝突することにより被塗物表面を傷つけないものであればどのようなものでもよい。セラミックス製の粘着媒体が好適に用いられる。
【0029】
また、本発明は、上下方向に沿って筒状に形成され、上面が開口しているとともに、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填されている塗料充填槽と、前記塗料充填層の下部に設けられ内部に加圧された気体が供給される気体供給槽と、前記塗料充填槽と前記気体供給槽との間に配置され、前記塗料充填層内の空間と前記気体供給層内の空間とを連通し前記塗料媒体よりも小さい径を有する複数の孔が形成された多孔質板と、前記塗料充填槽の上部から被塗物が下降して前記塗料充填槽内の前記塗料媒体により形成される塗料媒体層中に埋没され、且つ、前記塗料媒体層中に埋没している被塗物が上昇して前記塗料媒体層中から上部に引き上げられるように、前記被塗物を上下方向に移動させるアクチュエータと、を備える塗装装置を提供する。
【0030】
本発明の塗装装置によれば、気体供給槽に加圧気体を供給することにより、加圧気体が多孔質板に形成された孔を経由して塗料充填槽の下部から塗料充填槽内に供給される。これにより塗料充填槽内の塗料媒体により形成される塗料媒体層中に気泡状の空洞部が形成されて塗料媒体の充填密度が低下されるとともに塗料媒体層が攪拌される。また、アクチュエータによって被塗物が下降することにより、塗料充填槽内で空洞部により攪拌されている塗料媒体層中に被塗物が埋没される。被塗物が埋没している状態を所定時間維持することにより、被塗物が塗装される。そして、所定時間経過後にアクチュエータによって被塗物が上昇することにより、攪拌している塗料媒体層中に埋没している被塗物が引き上げられる。
【0031】
この場合、本発明の塗装装置は、加圧された気体を発生する加圧気体発生源に連通するとともに前記気体供給槽に挿入され、前記気体供給槽内に加圧された気体を供給するための気体供給ノズルをさらに備え、前記気体供給ノズルは、前記気体供給槽の下面に向けて加圧された気体を噴出するように、前記気体供給槽内で下向きに配置されたノズル噴出口を有するのがよい。これによれば、気体供給槽に挿入された気体供給ノズルから加圧された気体が気体供給槽の下面に向けて噴出されるので、気体供給槽の上部に配置している多孔質板に局所的に気体が吹きかけられることが防止される。また、気体供給ノズルのノズル噴出口から噴出された気体が気体供給槽の下面(底面)で跳ね返り、径方向に一様に広がった後に上昇し、多孔質板を経由して塗料充填槽内にその下部から導入される。したがって、塗料充填槽の径方向に亘り均一に気泡状の空洞部を発生させることができる。このような均一な空洞部の発生により、塗料充填槽内で塗料媒体層が均一に攪拌される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係る塗装装置を含む塗装ラインの概略構成図である。
【図2】塗装装置の概略構成を示す斜視図である。
【図3】被塗物の斜視図である。
【図4】被塗物の断面図である。
【図5】第1埋没工程および粘着体塗布工程を示す図である。
【図6】第1引き上げ工程を示す図である。
【図7】第2埋没工程および塗装工程を示す図である。
【図8】第2引き上げ工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る塗装装置を含む塗装ラインの概略構成を示す図である。図1に示すように、この塗装ラインは、粘着体塗布装置10と、塗装装置20とを備える。粘着体塗布装置10により被塗物の表面に粘着体が塗布される。塗装装置20により、表面に粘着体が塗布された被塗物の表面に塗料が塗布される。
【0034】
図2は、塗装装置20の概略構成を示す斜視図である。図1および図2に示すように、塗装装置20は、塗料充填槽21と、気体供給槽22と、多孔質板23と、ノズル24と、エアシリンダ(アクチュエータ)25とを備える。
【0035】
塗料充填槽21はその軸方向が上下方向(重力方向)に沿った円筒状に形成されている。塗料充填槽21の上面は開口している。塗料充填槽21の内径は例えば80mmであり、高さは例えば600mmである。この塗料充填槽21の内部に、表面に粉体塗料が付着したセラミックス製のビーズ(塗料媒体)が充填されている。ビーズの直径は0.5mmである。塗料充填槽21内に充填されたビーズの集合体によりビーズ層(塗料媒体層)27が形成される。
【0036】
塗料充填槽21の上端開口縁の全周に亘りホッパー26が取り付けられている。このホッパー26は、塗料充填槽21の上端から溢れ出たビーズを回収して再び塗料充填槽21に落とし込む。
【0037】
気体供給槽22は塗料充填槽21の下方に設けられている。気体供給槽22は、筒状の側面部および底面部を有する有底円筒形状に形成されている。気体供給槽22の径は塗料充填槽21の径と等しい。塗料充填槽21と気体供給槽22との間に多孔質板23が配設される。したがって、多孔質板23は、塗料充填槽21の底板を構成するとともに気体供給槽22の天板を構成する。多孔質板23には、塗料充填槽21内の空間と気体供給槽22内の空間とを連通する複数の孔が形成されている。この孔の径は0.5mmよりも小さい。したがって、塗料充填槽21内のビーズがこの孔を経由して気体供給槽22に落下することはない。本実施形態において多孔質板23は、径が0.5mmよりも小さい孔が均一に形成された金属メッシュ(金網)である。
【0038】
ノズル24は、その基端側にて図示しない加圧気体発生源に連通されている。ノズル24の先端には噴出口24aが形成されている。そして、噴出口24aが気体供給槽22の中心に位置するように、ノズル24が気体供給槽22内に挿入されている。本実施形態では、加圧気体発生源は、圧力が約2kgf/cmの工場エアー(加圧エアー)である。また、この工場エアーをドライヤーに通して乾燥させたドライエアーをノズル24に供給してもよい。また、噴出口24aは、加圧エアーが気体供給槽22の底面(下面)に向けて噴出されるように、気体供給槽22内で下向きに配置されている。
【0039】
エアシリンダ25は塗料充填槽21の上方に配設されている。エアシリンダ25はシリンダボディ251およびシリンダロッド252を備える。そして、シリンダロッド252の先端が塗料充填槽21の上面に対面するように固定される。シリンダロッド252の先端に被塗物を固定することができるように、シリンダロッド252の先端部分の形状が工夫されている。
【0040】
また、図1に示すように、粘着体塗布装置10の装置構成は、基本的に塗装装置20の装置構成と同じである。すなわち、粘着体塗布装置10は、粘着体充填槽11と、気体供給槽12と、多孔質板13と、ノズル14と、エアシリンダ(アクチュエータ)15とを備える。
【0041】
粘着体充填槽11はその軸方向が上下方向(重力方向)に沿うように円筒状に形成されている。粘着体充填槽11の上面は開口している。粘着体充填槽11の内径は例えば80mmであり、高さは例えば600mmである。この粘着体充填槽11の内部に、表面に粘着体が付着したセラミックス製のビーズ(粘着媒体)が充填されている。ビーズの直径は0.5mmである。粘着体充填槽11内に充填されたビーズの集合体によりビーズ層17が形成される。
【0042】
粘着体充填槽11の上端開口縁の全周に亘りホッパー16が取り付けられている。このホッパー16は、粘着体充填槽11の上端から溢れ出たビーズを回収して再び粘着体充填槽11に落とし込む。
【0043】
気体供給槽12は粘着体充填槽11の下方に設けられている。気体供給槽12は、筒状の側面部および底面部を有する有底円筒形状に形成されている。気体供給槽12の径は粘着体充填槽11の径と等しい。粘着体充填槽11と気体供給槽12との間に多孔質板13が配設される。したがって、多孔質板13は、粘着体充填槽11の底板を構成するとともに気体供給槽12の天板を構成する。多孔質板13には、粘着体充填槽11内の空間と気体供給槽12内の空間とを連通する複数の孔が形成されている。この孔の径は0.5mmよりも小さい。したがって、粘着体充填槽11内のビーズがこの孔を経由して気体供給槽12に落下することはない。本実施形態において多孔質板13は、径が0.5mmよりも小さい孔が均一に形成された金属メッシュ(金網)である。
【0044】
ノズル14は、その基端側にて図示しない加圧気体発生源に連通されている。ノズル14の先端には噴出口14aが形成されている。そして、噴出口14aが気体供給槽12の中心に位置するように、ノズル14が気体供給槽12内に挿入されている。本実施形態では、加圧気体発生源は、圧力が約2kgf/cmの工場エアー(加圧エアー)である。また、この工場エアーをドライヤーに通して乾燥させたドライエアーをノズル14に供給してもよい。また、噴出口14aは、加圧エアーが気体供給槽12の底面(下面)に向かけて噴出されるように気体供給槽12内で下向きに配置されている。
【0045】
エアシリンダ15は粘着体充填槽11の上方に配設されている。エアシリンダ15はシリンダボディ151およびシリンダロッド152を備える。そして、シリンダロッド152の先端が粘着体充填槽11の上面に対面するように固定される。シリンダロッド152の先端に被塗物を固定することができるように、シリンダロッド152の先端部分の形状が工夫されている。
【0046】
図3は被塗物Wの斜視図である。図に示すように被塗物Wは長尺状である。被塗物Wは、例えば車両のシートレールである。図4は被塗物Wをその長手方向に垂直な平面で切断した断面図である。図4からわかるように、被塗物Wは薄板状の鋼板を折り曲げて成形され、断面形状は略コの字形状である。
【0047】
上記構成の塗装ラインにおいて、以下、被塗物Wの表面を塗装するまでの過程を工程順に説明する。
【0048】
(準備工程)
この準備工程では、粘着体塗布装置10および塗装装置20を作動させる。まず、ノズル14の基端およびノズル24の基端に連通された加圧気体発生源から加圧エアーをノズル14およびノズル24に供給する。すると、ノズル14の噴出口14aおよびノズル24の噴出口24aから加圧エアーが噴出される。ここで、ノズル14の噴出口14aが図1に示すように下方を向いているので、噴出口14aから噴出された加圧エアーは気体供給槽12の底面に衝突して径方向に一様に広がり、その後上昇する。そして、多孔質板13に形成されている孔部を経由して粘着体充填槽11内にその下部から加圧エアーが供給される。同様に、ノズル24の噴出口24aが図1に示すように下方を向いているので、噴出口24aから噴出された加圧エアーは気体供給槽22の底面に衝突して径方向に一様に広がり、その後上昇する。そして、多孔質板23に形成されている孔部を経由して塗料充填槽21内にその下部から加圧エアーが供給される。
【0049】
粘着体充填槽11の下部から加圧エアーが供給されることにより、図1に示すように粘着体充填槽11内のビーズ層17中に気泡状の空洞部が発生する。発生した空洞部はビーズ層17中を上昇し、やがてビーズ層17の上面から放出される。空洞部がビーズ層17を上昇していく過程でビーズ層17が攪拌されるとともに、ビーズ層17を構成するビーズが空洞部に押しのけられることにより不規則に運動(流動)する。
【0050】
同様に、塗料充填槽21の下部から加圧エアーが供給されることにより、図1に示すように塗料充填槽21内のビーズ層27中に気泡状の空洞部が発生する。発生した空洞部はビーズ層27中を上昇し、やがてビーズ層27の上面から放出される。空洞部がビーズ層27を上昇していく過程でビーズ層27が攪拌されるとともに、ビーズ層27を構成するビーズが空洞部に押しのけられることにより不規則に運動(流動)する。
【0051】
(第1埋没工程)
図5は、第1埋没工程および後述する粘着体塗布工程を示す図である。準備工程によって粘着体塗布装置10および塗装装置20を作動させた後に、エアシリンダ15のシリンダロッド152の先端に、長尺状の被塗物Wを固定する。このとき、図5(a)に示すように、被塗物Wの長手方向が上下方向(重力方向)に一致するように、すなわち被塗物Wの長手方向が粘着体充填槽11の軸方向に一致するように、被塗物Wをシリンダロッド152の先端に固定する。これにより被塗物Wが粘着体充填槽11の上方に配置される。続いて、エアシリンダ15を駆動させて、シリンダロッド152を伸長させる。シリンダロッド152が伸長することにより、その先端に取り付けられた被塗物Wが粘着体充填槽11の上方から下降する。
【0052】
粘着体充填槽11の上面は開口しているので、エアシリンダ15の駆動により下降する被塗物Wは粘着体充填槽11内にその上方から投入される。このとき粘着体充填槽11内にその下部から供給されている加圧エアーによって槽11内のビーズ層17中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部の上昇によりビーズ層17が攪拌されている。つまり、槽11内のビーズ層17を攪拌しながら被塗物Wを粘着体充填槽11内に向けて下降させることにより、攪拌されているビーズ層17中に被塗物Wを埋没させる。そして、図5(b)に示すように被塗物Wがビーズ層17内に埋もれる位置まで下降した時点でエアシリンダ15の駆動を停止させる。
【0053】
(粘着体塗布工程)
次いで、図5(b)に示した状態(空洞部の上昇により攪拌されているビーズ層17中に被塗物Wを埋没している状態)を、予め定めた時間(例えば5秒間)だけ維持する。ビーズ層17は攪拌されていて、この攪拌によりビーズ層17を構成するビーズは流動しているので、流動したビーズが被塗物Wに衝突する。ビーズの衝突によってビーズの表面に付着している粘着体が被塗物Wに付着する。次々にビーズが被塗物Wに衝突することにより被塗物Wの表面に粘着体が塗布される。また、ビーズは空洞部に押しのけられるようにランダム(不規則)に流動しているので、被塗物Wの表面に均一に粘着体が付着される。
【0054】
(第1引き上げ工程)
図6は、第1引き上げ工程を示す図である。粘着体塗布工程にて粘着体充填槽11内のビーズ層17中に被塗物Wを予め定められた時間だけ埋没させた後に、エアシリンダ15を駆動させてシリンダロッド152を収縮させ、ビーズ層17に埋没した被塗物Wを上昇させることにより、被塗物Wをビーズ層17中から引き上げる。被塗物Wの引き上げ時にも粘着体充填槽11内にその下部から加圧された気体が供給されているので、槽11内のビーズ層17中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部によりビーズ層17が攪拌されている。つまり、第1引き上げ工程では、槽11内のビーズ層17を攪拌しながら、ビーズ層17中に埋設されている被塗物Wを図6(b)に示すように上昇させて、被塗物Wをビーズ層17中から引き上げる。引き上げられた被塗物Wの表面には均一に粘着体が付着されている。
【0055】
(第2埋設工程)
図7は、第2埋設工程および後述の塗装工程を示す図である。第1引き上げ工程にて引き上げられた被塗物の表面には粘着体が一様に付着している。表面に粘着体が付着された被塗物W’をエアシリンダ25のシリンダロッド252の先端に固定する。このとき図7(a)に示すように、被塗物W’の長手方向が上下方向(重力方向)に一致するように、すなわち被塗物W’の長手方向が塗料充填槽21の軸方向に一致するように、被塗物W’をシリンダロッド252の先端に固定する。これにより被塗物W’が塗料充填槽21の上方に配置される。続いて、エアシリンダ25を駆動させてシリンダロッド252を伸長させる。シリンダロッド252が伸長することにより、その先端に取り付けられた被塗物W’が塗料充填槽21の上方から下降する。
【0056】
塗料充填槽21の上面は開口しているので、エアシリンダ25の駆動により下降する被塗物W’は塗料充填槽21内にその上方から投入される。このとき塗料充填槽21内にその下部から供給されている加圧エアーによって槽21内のビーズ層27中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部の上昇によりビーズ層27が攪拌されている。このようにして槽21内のビーズ層27を攪拌しながら被塗物W’を塗料充填槽21内に向けて下降させることにより、被塗物W’を攪拌されているビーズ層27中に埋没させる。そして、図7(b)に示すように被塗物W’がビーズ層27内に埋もれる位置まで下降した時点でエアシリンダ25の駆動を停止させる。
【0057】
(塗装工程)
次いで、図7(b)に示した状態(空洞部の発生により攪拌されているビーズ層27に被塗物W’が埋没している状態)を、予め定めた時間(例えば5秒間)だけ維持する。ビーズ層27は攪拌されていて、この攪拌によりビーズ層27を構成するビーズは流動しているので、流動するビーズが被塗物W’に衝突する。ビーズの衝突によってビーズの表面に付着している粉体塗料が被塗物W’に付着する。次々にビーズが被塗物W’に衝突することにより被塗物W’の表面に粉体塗料が塗布される。また、ビーズは空洞部に押しのけられるようにランダム(不規則)に流動しているので、被塗物W’の表面に均一に粉体塗料が塗布される。
【0058】
(第2引き上げ工程)
図8は、第2引き上げ工程を示す図である。塗装工程にて塗料充填槽21内のビーズ層27中に被塗物W’を予め定められた時間だけ埋没させた後に、エアシリンダ25を駆動させてシリンダロッド252を収縮させ、ビーズ層27に埋没した被塗物W’を上昇させることにより、被塗物W’をビーズ層27中から引き上げる。被塗物W’の引き上げ時にも塗料充填槽21内にその下部から加圧された気体が供給されているので、槽21内のビーズ層27中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部によりビーズ層27が攪拌されている。つまり、第2引き上げ工程では、槽21内のビーズ層27を攪拌しながら、ビーズ層27中に埋設されている被塗物W’を図8(b)に示すように上昇させて、被塗物W’をビーズ層27中から引き上げる。引き上げられた被塗物W’の表面には均一に粉体塗料が付着されている。以上の工程を経て被塗物Wが塗装され、図8(b)に示すように塗装製品W”が製造される。
【0059】
第2埋没工程にて塗料充填槽21内のビーズ層27中に被塗物W’を埋没する際に要した投入荷重は1kgf以下であった。また、第1埋没工程にて粘着体充填槽11内のビーズ層17中に被塗物Wを埋没する際に要した投入荷重も1kgfであった。なお、被塗物Wの重量は0.5kgである。したがって、本実施形態で示した塗装方法によれば、ほとんど被塗物Wの自重により粘着体充填槽11内のビーズ層17および塗料充填槽21内のビーズ層27中に被塗物を埋没させることができる。これに対し、塗料充填槽21に気体を供給することなく、すなわち塗料充填槽21内のビーズ層27を気泡状の空洞部により攪拌することなく、槽21内のビーズ層27中に被塗物W’を埋没させた場合は、投入荷重は20kgf以上であった。
【0060】
また、第2引き上げ工程にて被塗物W’を塗料充填槽21内のビーズ層27中から引き上げる際に要した引き上げ荷重は1kgf以下であった。さらに、第1引き上げ工程にて被塗物Wを粘着体充填槽11内のビーズ層17中から引き上げる際に要した引き上げ荷重も1kgf以下であった。これに対し、塗料充填槽21に加圧エアーを供給することなく、塗料充填槽21内のビーズ層27中に埋没された被塗物W’を引き上げた場合、要した引き上げ荷重は2〜4kgfであった。
【0061】
以上のことから、本実施形態に示した方法によれば、投入荷重および引き上げ荷重を大きく低下できることがわかる。投入荷重および引き上げ荷重が低下する理由は、槽内での気泡状の空洞部の発生により槽内のビーズの充填密度が低下すること、および、槽内の空洞部が上昇するときに空洞部によりビーズ層が攪拌されることに起因すると考えられる。したがって、塗料充填槽21内のビーズ層27や粘着体充填槽11内のビーズ層17に被塗物を埋没させる際および、塗料充填槽21内のビーズ層27や粘着体充填槽11内のビーズ層17から被塗物を引き上げる際に駆動するエアシリンダ15,25の駆動力を低減することができ、装置構成のコンパクト化を図ることができる。
【0062】
本実施形態に示した方法により被塗物を塗装した場合における塗装被膜の均一性を評価するため、被塗物Wに形成された塗装被膜の膜厚(塗装膜厚)を測定した。測定結果を表1に示す。表1において、実施例に記載された数値が、本実施形態に示した方法により被塗物を塗装した場合における塗装膜厚の測定結果(単位:μm)である。比較例に記載された数値は、従来の方法(塗料充填槽内のビーズ層に被塗物を埋没させた状態で、塗料充填槽を振動させることにより被塗物を塗装する方法)により被塗物を塗装した場合における塗装膜厚の測定結果(単位:μm)である。また、被塗物Wの長手方向の異なる2部位(図3に示す被塗物WのA部位およびB部位)のそれぞれの断面において異なる6位置(図4に示す被塗物Wの断面に表わされる各位置a,b,c,d,e,f)での膜厚を測定した。部位Aと部位Bとの間隔は300mmであり、部位Aは部位Bよりも上方である。また、位置a,b,cは断面コの字状の被塗物Wの外側面上の位置であり、箇所d,e,fは内側面上の位置である。また、表中の「Ave.」は、同一部位における6位置a,b,c,d,e,fでの測定結果の平均値であり、「σ」は分散である。なお、実施例における塗装時間は5秒とした。
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、本実施形態の塗装方法(実施例)によれば、測定部位A,Bのいずれにおいても、膜厚の分散σが小さい。これに対し、従来の塗装方法(比較例)によれば、測定部位A,Bのいずれにおいても膜厚の分散σが大きい。このことから、本実施形態の塗装方法により被塗物を塗装することにより、被塗物の長手方向に垂直な断面において均一な被膜が形成されることわかる。
【0065】
また、本実施形態の塗装方法(実施例)によれば、測定部位Aに形成された膜厚の平均値と測定部位Bに形成された膜厚の平均値との差が小さい。これに対し、従来の塗装方法(比較例)によれば、測定部位Aに形成された膜厚の平均値と測定部位Bに形成された膜厚の平均値との差が大きい。特に測定部位Bに形成された膜厚が測定部位Aに形成された膜厚よりも顕著に厚い。このことから、本実施形態の塗装方法により被塗物を塗装することにより、長手方向に均一な被膜が形成されることがわかる。
【0066】
以上のように、本実施形態の塗装方法は、表面に粉体塗料が付着したビーズが内部に充填され、上下方向に沿って筒状に形成されているとともに上面が開口した塗料充填槽21の下部から加圧エアーを供給して塗料充填槽21内のビーズにより形成されるビーズ層27を攪拌しながら、被塗物W’を塗料充填槽21の上方から塗料充填槽21に向かって下降させることにより、塗料充填槽21内で攪拌されているビーズ層27中に被塗物W’を埋没させる第2埋没工程と、攪拌されているビーズ層27中に被塗物W’が埋没している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、ビーズに付着した粉体塗料を被塗物Wの表面に塗布する塗装工程と、を含む。また、本実施形態の塗装方法は、塗装工程後に、塗料充填槽21の下部から加圧された気体を塗料充填槽21に供給してビーズ層27を攪拌しながら、ビーズ層27中に埋没している被塗物を上昇させることにより、被塗物を攪拌されているビーズ層27中から引き上げる第2引き上げ工程を含む。
【0067】
本実施形態の塗装方法によれば、塗料充填槽21内のビーズ層27中での気泡状の空洞部の発生によるビーズの充填密度の低下およびビーズ層27の攪拌により、ビーズ層27中に被塗物を埋没させるときに必要な投入荷重および、ビーズ層27中から被塗物を引き上げるときに必要な引き上げ荷重を大きく低下させることができる。
【0068】
また、塗料充填槽21内のビーズ層27中に発生する気泡状の空洞部によりビーズ層27が均一に攪拌される。このため、ビーズ層27中に埋没している被塗物W’の表面に均一にビーズが衝突し、被塗物W’の表面に均一に塗料が塗布される。よって、塗装品質が向上する。
【0069】
また、被塗物W’は長尺状であり、第2埋没工程ではその長手方向に沿って塗料充填槽21の上方から塗料充填槽に向かって被塗物W’が下降させられることにより、塗料充填槽21内のビーズ層27中に埋没される。さらに第2引き上げ工程では、長手方向に沿って被塗物W’が引き上げられる。これによれば、被塗物W’が塗料充填槽21に投入される際における投入面積が小さいので、投入荷重がより一層低下する。また、引き上げ荷重も低減されるとともに、槽21内のビーズが被塗物W’とともに引き上げられてしまうことが防止される。
【0070】
また、本実施形態の塗装方法は、第2埋没工程の前に行われる工程であり、被塗物の表面に予め粘着体を塗布する工程を含む。したがって、塗装工程にて効率良く被塗物の表面に粉体塗料を付着させることができる。
【0071】
また、粘着体塗布装置10を用いて予め粘着体を塗布する工程(第1埋没工程、粘着体塗布工程、第1引き上げ工程)は、塗装装置20を用いて被塗物W’に粉体塗料を塗布する工程(第2埋没工程、塗装工程、第2引き上げ工程)と同じ様な工程であるので、粘着体塗布装置10と塗装装置20の装置構造も同じ用な構造である。よって、設備費用を低減できる。
【0072】
また、本実施形態の塗装装置20は、気体供給槽22に挿入されて気体供給槽22内に加圧エアーを供給するためのノズル24を備える。ノズル24は気体供給槽22の下面に向けて加圧された気体を噴出するように、気体供給槽22内で下向きに配置されたノズル噴出口24aを有する。このため、ノズル24から加圧された気体が気体供給槽22の下面に向けて噴出されるので、気体供給槽22の上部に配置している多孔質板23に局所的に気体が吹きかけられることが防止される。また、ノズル24のノズル噴出口24aから噴出された気体が気体供給槽22の下面(底面)で跳ね返り、径方向に一様に広がった後に上昇し、多孔質板23を経由して塗料充填槽21内にその下部から導入される。したがって、塗料充填槽21の径方向に亘り均一に気泡状の空洞部を発生させることができる。このような均一な空洞部の発生により、塗料充填槽21内でビーズ層27が均一に攪拌される。
【0073】
また、上記特許文献に示された方法では、塗装後に被塗物に付着している塗料媒体を払い落す工程が必要であるが、本実施形態に示された方法によれば、エアー攪拌中に塗料充填槽21から被塗物を引き上げるので塗料媒体の付着が最小限に抑えられる。よって、塗装後の被塗物に付着した塗料媒体を除去する工程や、除去時に外部に散乱した塗料媒体を回収する工程を省略することができる。また、本実施形態によれば、粘着体充填槽11と塗料充填槽21とが同様の構成であるので、粘着体塗布工程および塗装工程のいずれの工程においても、その後に被塗物に付着した媒体を除去する工程や、除去時に外部に散乱した媒体を回収する工程を省略することができる。また、振動機等を併用して塗装工程後(および粘着体塗布工程後)に槽上に引き上げられた被塗物を振動させることにより、被塗物に付着している僅かな媒体を効果的に槽内に落下させることができる。
【0074】
また、本実施形態の塗装方法は、粉体塗料が充填された充填槽内に被塗物を投入して槽内で被塗物に直接粉体塗料を塗布する通常の流動浸漬塗装ではなく、粉体塗料が付着したビーズ(塗料媒体)が充填された充填槽中のビーズを攪拌しながらその中(ビーズ層中)に被塗物を投入し、槽内でビーズを被塗物に衝突させることにより被塗物に粉体塗料を塗布(転写)する塗装方法である。本実施形態の塗装方法によれば、均一にビーズが被塗物に衝突するので、通常の流動浸漬塗装と比較して塗装品質が向上する。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態では、塗料充填槽21や粘着体充填槽11に被塗物を投入し、あるいは引き上げるためにエアシリンダーを用いた例について説明したが、油圧シリンダや電動モータを利用したものであってもよい。また、塗料充填槽21や粘着体充填槽11に充填するビーズの材質はプラスチック等でもよい。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて変形可能である。
【符号の説明】
【0076】
10…粘着体塗布装置、11…粘着体充填槽、12…気体供給槽、13…多孔質板、14…ノズル(気体供給ノズル)、14a…噴出口(ノズル噴出口)、15…エアシリンダ(アクチュエータ)、16…ホッパー、17…ビーズ層、20…塗装装置、21…塗料充填槽、22…気体供給槽、23…多孔質板、24…ノズル(気体供給ノズル)、24a…噴出口(ノズル噴出口)、25…エアシリンダ(アクチュエータ)、26…ホッパー、27…ビーズ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填され、上下方向に沿って筒状に形成されているとともに上面が開口した塗料充填槽の下部から加圧された気体を前記塗料充填槽に供給して前記塗料充填槽内の前記塗料媒体により形成される塗料媒体層を攪拌しながら、被塗物を前記塗料充填槽の上方から前記塗料充填槽に向かって下降させることにより、前記攪拌されている塗料媒体層中に前記被塗物を埋没させる埋没工程と、
前記攪拌されている塗料媒体層中に前記被塗物が埋没している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、前記塗料媒体に付着した粉体塗料を前記被塗物の表面に塗布する塗装工程と、
を含む、塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗装方法において、
前記塗料充填槽の下部に加圧した気体が供給される気体供給槽が設けられ、
前記塗料充填槽と前記気体供給槽との間に、前記塗料充填層内の空間と前記気体供給槽内の空間とを連通し前記塗料媒体よりも小さい径を有する複数の孔が形成された多孔質板が配設され、
前記気体供給槽に供給された気体が前記多孔質板を通過することにより、前記塗料充填槽の下部から加圧された気体が前記塗料充填槽に供給される、塗装方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗装方法において、
前記塗料充填槽にその下部から供給される気体の加圧力が、0.1〜5kgf/cmである、塗装方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の塗装方法において、
前記埋没工程の前に行われる工程であり、前記被塗物の表面に予め粘着体を塗布する工程をさらに含む、塗装方法。
【請求項5】
請求項4に記載の長尺状の被塗物の塗装方法において、
前記予め粘着体を塗布する工程は、
表面に粘着体が付着した粘着媒体が内部に充填され、上下方向に沿って筒状に形成されているとともに上面が開口した粘着体充填槽の下部から加圧された気体を前記粘着体充填槽に供給して前記粘着体充填槽内の前記粘着媒体により形成される粘着媒体層を攪拌しながら、被塗物を前記粘着体充填槽の上方から前記粘着体充填槽に向かって下降させることにより、前記攪拌されている粘着媒体層中に前記被塗物を埋没させる工程と、
前記攪拌されている粘着媒体層中に前記被塗物が埋没している状態を予め定められた時間だけ維持することにより、前記粘着媒体に付着した粘着体を前記被塗物の表面に塗布する工程と、を含む、塗装方法。
【請求項6】
上下方向に沿って筒状に形成され、上面が開口しているとともに、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填されている塗料充填槽と、
前記塗料充填層の下部に設けられ内部に加圧された気体が供給される気体供給槽と、
前記塗料充填槽と前記気体供給槽との間に配置され、前記塗料充填層内の空間と前記気体供給層内の空間とを連通し前記塗料媒体よりも小さい径を有する複数の孔が形成された多孔質板と、
前記塗料充填槽の上部から被塗物が下降して前記塗料充填槽内の前記塗料媒体により形成される塗料媒体層中に埋没され、且つ、前記塗料媒体層中に埋没している被塗物が上昇して前記塗料媒体層中から上部に引き上げられるように、前記被塗物を上下方向に移動させるアクチュエータと、
を備える塗装装置。
【請求項7】
請求項6に記載の塗装装置において、
加圧された気体を発生する加圧気体発生源に連通するとともに前記気体供給槽に挿入され、前記気体供給槽内に加圧された気体を供給するための気体供給ノズルをさらに備え、
前記気体供給ノズルは、前記気体供給槽の下面に向けて加圧された気体を噴出するように、前記気体供給槽内で下向きに配置されたノズル噴出口を有する、塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−245431(P2012−245431A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116903(P2011−116903)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】