説明

塗装板の塗装検査方法

【課題】、基板の部位による温度差の影響なく、塗布抜け不良を正確に判定することができる塗装板の塗装検査方法を提供する。
【解決手段】基板1の表面に塗料を塗装した直後に塗装表面の温度分布を測定する。そして基板1の表面を複数のエリア1a,1b,1cに分割して、各エリア1a,1b,1cにおける温度分布と各エリア1a,1b,1cにおいて設定された温度の閾値a,b,cとを比較して塗装状態を判定する。基板1の複数のエリア1a,1b,1cにおいてそれぞれ温度分布を測定し、各エリア1a,1b,1cに設定された閾値a,b,cと温度分布とを比較することによって、基板1の部位によって異なる温度を加味した判定を行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の表面に塗装を施した塗装板の塗装検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
外装材や屋根材などの窯業系の建築板は、セメント板などの基板の表面に塗装を施して製造されている。
【0003】
この塗装は、例えば図4に示すように、基板1の表面にインク受理層2を塗装すると共にインク受理層2の上にインクジェットプリンターなどでフルカラー印刷を行なって着色化粧層3を塗装し、着色化粧層3の上に透明なクリアー層4を塗装した後に、この上に透明なシリコーン系無機塗料を塗装してセラミック層5を形成することによって、行なわれている。また必要に応じて、このセラミック層5の上に、酸化チタンなどの光触媒を含有する透明なシリコーン系無機塗料を塗装して光セラミック層6を形成することも行なわれている。
【0004】
セラミック層5は無機系であって耐候性が高いものであり、塗装板Aに高い耐候性を付与するために、有機系の着色化粧層3の上にこのようなセラミック層5を形成するようにしているものである。また光セラミック層6は含有される光触媒の作用によって、表面の汚れを分解し、さらに表面を親水性にして分解した汚れを雨水で洗い流すことができるものであり、防汚性を塗装板Aに付与するために光セラミック層6を形成するようにしているものである。そしてセラミック層5や光セラミック層6は材料コストが高く、また薄い塗膜でその機能を発揮させることができるため、μm単位のできるだけ薄い膜厚で塗装されている。
【0005】
このようにセラミック層5や光セラミック層6は塗料を極く薄い膜厚で塗布して形成されるため、部分的に塗料が塗布されない部分が生じる、塗布抜けの不良が発生し易い。そして塗布抜け不良が発生すると、その部分ではセラミック層5や光セラミック層6による機能が発揮されないので、建築板は不良品になる。しかも、セラミック層5や光セラミック層6はいずれも透明であるために、目視検査で塗布抜け不良を発見することはできない。
【0006】
ここで、このセラミック層5や光セラミック層6には一般的に、酸化亜鉛などの紫外線吸収剤が配合されている。そこで、この紫外線吸収剤による紫外線吸収を利用して、UV検査装置10を用いて塗装抜け不良の検査を行なうようにしている。
【0007】
すなわち図5(b)に示すように、スプレーなどの塗装機9で基板1にセラミック層5や光セラミック層6を塗装し、乾燥機15で乾燥した後、UV検査装置10で検査を行なうようにしている。UV検査装置10は図5(a)に示すように、紫外線を照射するブラックライト11と、紫外線を検出するUV検出カメラ12と、UV検出カメラ12で撮影された撮影画像の輝度を演算するパソコン13とを備えて形成されるものである。そして、乾燥機15で乾燥された塗装板Aを搬送装置14で送りながら、塗装板Aの塗装表面にブラックライト11で紫外線を照射し、反射した紫外線をUV検出カメラ12で検出して撮影し、この撮影画像から紫外線の輝度(光量)の分布をパソコン13で演算して求める。ブラックライト11から照射された紫外線はセラミック層5や光セラミック層6に含有されている紫外線吸収剤で吸収されるので、輝度は低くなるが、セラミック層5や光セラミック層6の塗装抜け不良があると、塗装抜けの部分では紫外線が吸収されないので輝度が高くなる。従って、塗装板Aの塗装面の輝度の分布によって、塗布抜け不良の発生の有無を判定することができるものである。
【0008】
しかし、例えばセラミック層5について上記の方法で塗布抜け不良を検査するにあたって、クリアー層4にも紫外線吸収剤が含有されていると、クリアー層4の紫外線吸収剤が紫外線の輝度の分布に影響を与えるので、セラミック層5の塗布抜け不良を正確に検査することができなくなるという問題があった。特に、光セラミック層6については、その下のセラミック層5には紫外線吸収剤が必ず含有されているので、光セラミック層6の塗布抜け不良の検査は一層不正確になるものであった。また、UV検査装置10による塗布抜け不良の検査は、上記のように乾燥機15で乾燥された後の塗装板Aに対して行なわれるものであり、塗装機9による塗装から塗布抜け不良の検査までの時間差が大きく、塗布抜け不良が検出された際に塗装機9を停止しても、このタイムラグによってその間に不良発生が多数枚発生することになるという問題もあった。
【0009】
一方、塗料を塗布した直後の塗装面の温度分布を測定することによって、塗布抜け不良を検査する方法も提案されている(特許文献1参照)。この方法は、塗料を塗布した直後の塗装面の温度は、塗料に含まれる溶剤が蒸発することによって低下するという現象を利用したものである。例えば塗料を塗布した直後の表面温度は、塗料塗布前よりも10℃程度低下するが、塗料が塗布されていない部分は温度低下が少なく他の部分よりも10℃程度温度が高くなる。従って、塗装直後の塗装面の温度分布を測定して、表面温度が他の部分よりも所定の設定された温度範囲で高い部分があれば、その部分には塗料が塗布されていないと判定することができるので、塗布抜け不良を検出することが可能になるのである。しかもこの方法では、塗料を塗布した直後に検査するため、タイムラグによる不良発生を少なくすることができるものである。
【特許文献1】特開平9−318448号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、塗装を施す前の基板の温度は、放熱性の差などによって、例えば中央部が高く、端部が低いというように、基板の部位によって温度が異なる。このため、上記のように塗料を塗布した直後の塗装面の温度分布を測定するにあたって、この温度分布には基板の部位による温度差が影響するので、測定された温度分布に基づいて塗布抜け不良を正確に判定することは難しいという問題があった。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、基板の部位による温度差の影響なく、塗布抜け不良を正確に判定することができる塗装板の塗装検査方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1に係る塗装板の塗装検査方法は、基板の表面に塗料を塗装した直後に塗装表面の温度分布を測定し、基板の表面を複数のエリアに分割して、各エリアにおける温度分布と各エリアにおいて設定された温度の閾値とを比較して塗装状態を判定することを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、基板の複数のエリアにおいてそれぞれ温度分布を測定し、各エリアに設定された閾値と温度分布とを比較するようにしているため、基板の部位によって異なる温度を加味した判定を行なうことができ、基板の部位による温度差の影響を受けることなく、塗布抜け不良を正確に判定することができるものである。
【0014】
また請求項2の発明は、請求項1において、基板の中央部側のエリアにおいて温度の閾値を高く、基板の端部側のエリアにおいて温度の閾値を低く設定することを特徴とするものである。
【0015】
基板は端部からの放熱が大きいので、基板の温度は中央部が高く、端部が低いという傾向があり、この温度差を加味した正確な判定を行なうことができるものである。
【0016】
また請求項3の発明は、請求項1又は2において、基板を一方向に送りながら塗装表面の温度分布を測定し、基板の表面をこの送り方向と平行な帯状の複数のエリアに分割して上記の判定を行なうことを特徴とするものである。
【0017】
基板の搬送に伴って、基板の全長に亘って各エリアでの温度分布の測定を行なうことができ、温度分布の測定を効率良く行なうことができるものである。
【0018】
また請求項4の発明は、請求項1乃至3のいずれかにおいて、赤外線サーモグラフィにより塗装表面の温度分布を測定することを特徴とするものである。
【0019】
塗料を塗布した直後の塗装面の表面温度を非接触で測定することができ、塗膜の状態に影響を与えることなく温度分布の測定を行なうことができるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、基板の複数のエリアにおいてそれぞれ温度分布を測定し、各エリアに設定された閾値と温度分布とを比較することによって、基板の部位によって異なる温度を加味した判定を行なうことができるものであり、基板の部位による温度差の影響を受けることなく、塗布抜け不良を正確に判定することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0022】
図2は塗装装置と塗装検査装置の一例を示すものであり、塗装ブース16の前後に搬送装置17a,17bを設けて塗装装置が形成してある。また塗装検査装置は赤外線サーモグラフィ装置8で形成されるものであり、塗装ブース16の後側の搬送装置17bの上方に設けた赤外線カメラ18と、コントローラ19と、パソコン20と、モニター21を備えて赤外線サーモグラフィ装置8を形成するようにしてある。
【0023】
一方、塗装板Aは記述の図4のように、セメント板などで形成される基板1の表面にインク受理層2を塗装すると共にインク受理層2の上にインクジェットプリンターなどでフルカラー印刷を行なって着色化粧層3を塗装し、着色化粧層3の上に透明なクリアー層4を塗装した後に、この上に透明なシリコーン系無機塗料を塗装してセラミック層5を形成し、さらに必要に応じて、このセラミック層5の上に、酸化チタンなどの光触媒を含有する透明なシリコーン系無機塗料を塗装して光セラミック層6を形成することによって製造されるものであり、図2の塗装装置は、シリコーン系無機塗料などの透明塗料を塗装してセラミック層5を形成するためのものであり、あるいは光触媒含有シリコーン系無機塗料などの透明塗料を塗装して光セラミック層6を形成するためのものである。
【0024】
基板1を塗装装置で塗装するにあたっては、搬送装置17aで基板1を塗装ブース16に搬入し、塗装ブース16内で塗料をスプレー等して塗布した後、搬送装置17bで送り出し、乾燥機(図示省略)に通して塗料を焼き付けることによって行なうことができるものである。ここで、基板1は前工程で塗装・加熱乾燥されているために、基板1は55〜70℃程度の温度に予熱されており、この表面温度を有する状態で塗装ブース16に搬入されるが、塗装ブース16で塗布された塗料中の溶剤が揮発する際に気化熱として基板1の温度が奪われるので、塗装ブース16から出てきた直後の表面温度は10℃程度下がって、45〜60℃程度になっている。
【0025】
そして塗装ブース16で塗料を塗布した基板1を搬送装置17bで送り出す際に、基板1の塗装直後の塗装面から放射される赤外線が赤外線カメラ18で撮影される。基板1はその先端から順に後端に至るまで赤外線カメラ18の下方を通過するので、塗装面の全面において放射される赤外線の強度分布が赤外線カメラ18で撮影されるものである。この赤外線の強度分布のデータはコントローラ19に入力され、赤外線の強度分布に基づいて基板1の塗装面の全面の表面温度分布が演算される。尚、図3の実施の形態では、2枚の基板1を並行して送ることによって、1台の赤外線カメラ18で2枚の基板1の表面温度を同時に測定するようにしてある。
【0026】
ここで、コントローラ19による表面温度の演算は、パソコン20の操作によって設定されるようになっており、基板1の塗装面を複数のエリアに分けて、各エリア毎に表面温度の分布が演算されるように設定してある。例えば図1(a)に示すように、搬送装置17bによる基板1の送り方向と平行な3つのエリア1a,1b,1cに塗装面を分けるようにしてある。そして、各エリア1a,1b,1cにおいて、その幅方向(送り方向と垂直な方向)での表面温度の平均値を求め、基板1の前端から後端に至るまでのこの表面温度の平均値を順次プロットすることによって、各エリア1a,1b,1cごとに図1(b)(c)(d)のような温度分布のグラフを得ることができるものである。一方の端部のエリア1aにおける表面温度の分布のグラフを図1(b)に、中央部のエリア1bにおける表面温度の分布のグラフを図1(c)に、他方の端部のエリア1cにおける表面温度の分布のグラフを図1(d)に示すものであり、各グラフにおいて横軸の数値は基板1の前端からの寸法(単位は10cm)である。
【0027】
また、パソコン20の操作によって各エリア1a,1b,1cごとに温度の閾値a,b,cを設定してコントローラ19に入力してあり、各閾値a,b,cは図1(b)(c)(d)の温度分布のグラフに合成されるようにしてある。
【0028】
これらの閾値a,b,cは、試験的に集めたデータに基づいて設定されるものである。上記のように基板1に塗料を塗布すると、塗料中の溶剤が揮発する際の気化熱として基板1の温度が奪われるので、塗装面の表面温度が下がるが、塗料が塗布されていない部分では表面温度の低下は小さいものであり、塗料が塗布されていない部分でのこの温度低下のデータを試験的に集めて閾値a,b,cを設定することができる。そして、基板1の温度低下はこの塗料中の溶剤の蒸発によるものの他に、自然放熱によっても生じるが、自然放熱は端部のエリア1a,1cのほうが中央部のエリア1bよりも大きく、塗装直後の塗装面の表面温度は端部のエリア1a,1cより中央部のエリア1bが高くなっている。このため、中央部のエリア1bの閾値bは端部のエリア1a、1cの閾値a,cよりも高い温度に設定するようにしてある。例えばエリア1aでは閾値aは57℃、エリア1bでは閾値bは62℃、エリア1cでは閾値cは57℃に設定し、中央部のエリア1bの閾値bを端部のエリア1a、1cの閾値a,bよりも5℃高い温度に設定するようにしてある。
【0029】
上記のようにコントローラ19で演算して得られた図1(b)(c)(d)の温度分布と閾値のグラフはモニター21に画像として表示され、またパソコン20に保存されるようにしてある。
【0030】
そして、図1(b)(c)(d)の実線のように、各エリア1a,1b,1cで表面温度の温度分布が閾値a,b,cより低い場合には、基板1の表面の全面において塗料の溶剤が蒸発しているということであるので、塗布抜けなく良好に塗料が塗布されていると判定することができる。一方、例えば図1(c)に破線で示すように、エリア1bにおいて表面温度の温度分布の一部が閾値bを超えて高い場合には、この部分において塗料の溶剤が蒸発していないということであるので、塗料の塗布抜けが生じていると判定することができる。ここで、塗装前の基板1の温度は、中央部と端部のように部位によって温度が異なるが、上記のように基板1の塗装面を温度が異なる複数のエリア1a,1b,1cに分け、各エリア1a,1b,1cにその基板1の温度に応じた閾値a,b,cを設定し、各エリア1a,1b,1cにおいて塗装面の温度分布を測定すると共に閾値a,b,cと比較することによって、塗布抜けの有無を判定するようにしているので、基板1の部位によって異なる温度を加味した判定を行なうことができるものである。従って、基板1の部位による温度差の影響を受けることなく、塗布抜け不良を正確に判定することができるものである。
【0031】
また上記のように塗布抜け不良が判定された際に、基板1の塗装面のうち、エリア1bにおいて閾値bを超える温度分布の箇所に、塗布抜けが発生していると知ることができるので、この部分に塗料を再塗布することによって、補修を容易に行なうことができるものである。
【0032】
この塗布抜けの有無の判定は、モニター21に表示される図1(b)(c)(d)のグラフを作業者が監視して行なうことができるが、温度分布と閾値のデータをパソコン20で比較演算することによって、自動的に行なうことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示すものであり、(a)は基板(塗装板)のエリアを示す平面図、(b)(c)(d)はそれぞれ各エリアにおける温度分布と閾値のグラフである。
【図2】本発明で使用する装置を示す概略図である。
【図3】同上の赤外線カメラによる撮影を示す斜視図である。
【図4】塗装板の塗装構成を示す概略図である。
【図5】従来例を示すものであり、(a)は斜視図、(b)は平面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 基板
1a,1b,1c エリア
a,b,c 閾値
2 インク受理層
3 着色化粧層
4 クリアー層
5 セラミック層
6 光セラミック層
A 塗装板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に塗料を塗装した直後に塗装表面の温度分布を測定し、基板の表面を複数のエリアに分割して、各エリアにおける温度分布と各エリアにおいて設定された温度の閾値とを比較して塗装状態を判定することを特徴とする塗装板の塗装検査方法。
【請求項2】
基板の中央部側のエリアにおいて温度の閾値を高く、基板の端部側のエリアにおいて温度の閾値を低く設定することを特徴とする請求項1に記載の塗装板の塗装検査方法。
【請求項3】
基板を一方向に送りながら塗装表面の温度分布を測定し、基板の表面をこの送り方向と平行な帯状の複数のエリアに分割して上記の判定を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装板の塗装検査方法。
【請求項4】
赤外線サーモグラフィ装置により塗装表面の温度分布を測定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の塗装板の塗装検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−292605(P2007−292605A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−120935(P2006−120935)
【出願日】平成18年4月25日(2006.4.25)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】