説明

塗装用浸漬処理方法、及び、その方法に使用する塗装用浸漬処理装置

【課題】被塗物Wを処理槽T内の処理液Lに浸漬させて処理液L中を進行移動させる塗装用浸漬処理において、被塗物Wに対する処理液Lの相対速度を調整可能にする。
【解決手段】被塗物Wの処理液L中での移動姿勢θを調整することで、処理槽T内における被塗物W周りの処理液Lの通過断面積を調整して被塗物Wに対する処理液Lの相対速度を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物を処理槽内における脱脂処理液や電着塗料液などの各種処理液に浸漬させて処理液中を進行移動させることで被塗物に所定の処理を施す塗装用の浸漬処理方法、及び、その方法に使用する塗装用の浸漬処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の浸漬処理では、自動車ボディなどの被塗物を一定の移動速度で移動させるオーバーヘッドコンベアの延設経路を、処理槽における入槽側部分において前下がり傾斜経路にし、続いて、処理槽における中間部分において水平直線経路にし、さらに続いて、処理槽における出槽側部分において前上がり傾斜経路にし、これにより、被塗物を前下がり傾斜の移動姿勢で処理槽内の処理液中に浸漬(入液)させ、続いて、被塗物を水平な移動姿勢で処理液中を直線的に進行移動させ、その後、被塗物を前上がり傾斜の移動姿勢で処理液から引き上げる(出液)ようにしていた(特許文献1参照)
【0003】
即ち、従来の塗装用浸漬処理では、被塗物を単にその移動経路に沿う移動姿勢に保って移動させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−92998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した従来の浸漬処理では、処理品質(最終的には塗装品質)の向上などを目的として、被塗物の移動速度の設定や処理槽における処理液の流動速度の設定などにより、被塗物に対する処理液の相対速度(即ち、処理液中を進行移動させる被塗物と処理液との相対的な速度差)を大きく確保しようとしても、被塗物の移動速度を大きくする場合には、被塗物搬送に要する動力が増大するともに、前後の工程において被塗物を搬送するコンベアとは独立させた専用の増速コンベアが必要になるなどの問題が生じる。
【0006】
また、処理槽における処理液の流動速度を大きくする場合には、処理液の槽内流動に要するポンプ動力などが増大するともに、処理槽に付帯する配管系も大型化するなどの問題が生じる。
【0007】
この実情に鑑み本発明の主たる課題は、合理的な移動形態を採ることで、上記の如き問題を回避しながら、被塗物に対する処理液の相対速度を高めて処理品質の向上を可能にする点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1特徴構成は塗装用浸漬処理方法に係り、その特徴は、
被塗物を処理槽内の処理液に浸漬させて処理液中を進行移動させることで被塗物に所定の処理を施す塗装用浸漬処理方法であって、
被塗物の前記処理液中での移動姿勢を調整することで、前記処理槽内における被塗物周りの処理液の通過断面積を調整して被塗物に対する処理液の相対速度を調整する点にある。
【0009】
つまり、自動車ボディを被塗物とする場合を例に挙げれば、自動車ボディを従前の如く移動経路に沿う移動姿勢で処理液中を進行移動させるのに比べ、自動車ボディを移動経路に対して傾斜ないし直交する移動姿勢で処理液中を進行移動させる方が、処理槽内における自動車ボディ周りの処理液の通過断面積を小さくする(逆言すれば、処理液に対する自動車ボディの対向面積を大きくする)ことができ、その分、自動車ボディ周りでの自動車ボディに対する処理液の相対速度を高めることができる。
【0010】
即ち、一般に被塗物は多様な形状を有するものも多いため、被塗物の形状等に応じて処理液中における被塗物の移動姿勢を調整すれば、処理槽内における被塗物周りの処理液の通過断面積を調整することができ、この通過断面積の調整により被塗物周りでの被塗物に対する処理液の相対速度を調整することがきる。
【0011】
そして、このように被塗物の移動姿勢の調整により被塗物に対する処理液の相対速度を調整する上記方法であれば、従来の塗装用浸漬処理で生じた先述の如き問題、即ち、被塗物搬送動力の増大や処理槽専用の増速コンベアの装備あるいはポンプ動力の増大や付帯配管系の大型化などを回避しながら、被塗物に対する処理液の相対速度を増大側に調整することができ、ひいては、このように相対速度を高め得ることで、被塗物表面への異物付着を効果的に防止する、あるいはまた、被塗物の表面近傍から気泡や発生熱を効果的に排除するなどのことが可能になって、この種の浸漬処理における被塗物の処理品質(塗装品質)を効果的に向上させることができる。
【0012】
なお、この方法の実施において、処理液中における被塗物の移動姿勢を選定するには、実験や演算あるいは浸漬処理装置の試験運転やシミュレート手段による浸漬処理のシミュレートなどに基づいて最適な移動姿勢を選定するようにすればよい。
【0013】
また、処理槽は、処理液を被塗物の進行方向とは逆向きに流動させる槽に限られるものではなく、処理液を処理槽内で循環流動(対流)させる槽、あるいは、処理液を滞留状態で貯留する槽など、どのような形式の槽であってもよい。
【0014】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成の塗装用浸漬処理方法に使用する塗装用浸漬処理装置に係り、その特徴は、
被塗物を保持する搬送機と、その搬送機を移動させることで被塗物を処理槽内の処理液中において進行移動させる搬送機移動手段とを設け、
前記搬送機が保持する被塗物をその搬送機に対して移動動作させる被塗物動作手段を前記搬送機に装備し、
前記被塗物動作手段を制御して被塗物を前記搬送機に対し移動動作させることで、被塗物の前記処理液中での移動姿勢を設定最適移動姿勢に調整する浸漬処理制御手段を設けてある点にある。
【0015】
つまり、この構成によれば、前述の如く被塗物の移動姿勢の調整により被塗物に対する処理液の相対速度を調整することにおいて、最適な相対速度を得ることができる最適な移動姿勢を適宜選定し、その選定した最適移動姿勢を上記の設定最適移動姿勢として浸漬処理制御手段に設定しておけば、搬送機が保持する被塗物を浸漬処理制御手段による被塗物動作手段の制御により選定最適移動姿勢に自動調整して被塗物に対する処理液の相対速度を最適化した状態で搬送機移動手段による搬送機の移動により処理液中を進行移動させることができる。
【0016】
従って、上述した第1特徴構成の塗装用浸漬処理方法で得られる効果を一層確実かつ容易に得ることができる。
【0017】
なお、この構成の実施において、搬送機、搬送機移動手段、被塗物動作手段の夫々は、どのような形式及び構造のものであってもよく、また、被塗物動作手段は、搬送機に対する被塗物の移動動作により被塗物の処理液中における移動姿勢を調整するのに、被塗物を搬送機に対してどのような動作形態(回動や傾動など)で移動動作させるものであってもよい。
【0018】
本発明の第3特徴構成は、第2特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記浸漬処理制御手段は、前記搬送機が保持する被塗物の種別の情報に基づいて、被塗物の前記処理液中での移動姿勢を被塗物種ごとの設定最適移動姿勢に調整する構成にしてある点にある。
【0019】
つまり、この構成によれば、各種別の被塗物をその被塗物種に応じた被塗物種ごとの設定最適移動姿勢に調整するから、例えば、多品種少量生産などのために種別の異なる被塗物を混在させた状態で、それら被塗物を浸漬式処理装置で順次に処理する場合などでも、それら種別の異なりにかかわらず、被塗物に対する処理液の相対速度を確実に最適化した状態で、それら被塗物を処理液中において進行移動させることができ、この点で、一層優れた塗装用浸漬処理装置にすることができる。
【0020】
なお、この構成の実施において、被塗物の種別情報の取得については、搬送機に被塗物を保持させる段階ないしその近傍段階で被塗物形状の検出や各被塗物に付けたタグの読み取りなどにより得る方式、あるいは、生産管理装置から生産計画情報の一部として得る方式など、種々の方式を採用することができる。
【0021】
本発明の第4特徴構成は、第2又は第3特徴構成の実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
被塗物の前記処理液中における複数種の移動姿勢について、被塗物を前記処理液中において各移動姿勢で進行移動させたときの被塗物に対する処理液の相対速度の大小関係を自動的に演算する演算手段を設けてある点にある。
【0022】
つまり、この構成によれば、被塗物に対する処理液の相対速度を最適化し得る被塗物の最適移動姿勢を上記演算手段の演算結果に基づいて容易に選定することができる。
【0023】
そして、このように選定した最適移動姿勢を浸漬処理制御手段に設定最適移動姿勢として設定することで、前述の如く、搬送機が保持する被塗物を浸漬処理制御手段による被塗物動作手段の制御により選定最適移動姿勢に自動調整して被塗物に対する処理液の相対速度を最適化した状態で搬送機移動手段による搬送機の移動により処理液中を進行移動させることができる。
【0024】
なお、この構成の実施において、上記演算手段の演算結果に基づき最適移動姿勢を自動的に選定する機能や、自動選定した最適移動姿勢を設定最適移動姿勢として浸漬処理制御手段に対し自動的に設定する機能を演算手段や浸漬処理制御手段に備えさせるようにすれば、浸漬処理の運転管理を一層容易にすることができる。
【0025】
本発明の第5特徴構成は、第2〜第4特徴構成のいずれかの実施に好適な実施形態を特定するものであり、その特徴は、
前記浸漬処理制御手段は、前記搬送機移動手段を制御することで、被塗物の前記処理液中における進行移動速度を設定最適移動速度に調整する構成にしてある点にある。
【0026】
つまり、この構成によれば、前述の如く被塗物の移動姿勢の調整により被塗物に対する処理液の相対速度を調整することに加え、被塗物の処理液中における進行移動速度も種々に処理条件等に応じて適宜設定した設定最適移動速度に自動調整することができ、これにより、処理品質面で一層優れた塗装用浸漬処理装置にすることができる。
【0027】
なお、この構成の実施においては、搬送機が保持する被塗物の種別の情報に基づいて、被塗物の処理液中における進行移動速度を被塗物種ごとの設定最適移動速度に自動調整するようにしてもよい。
【0028】
また、被塗物の移動速度調整が可能な搬送機移動手段については、自走速度の調整が可能な種々の構造の自走手段を搬送機移動手段として搬送機に装備する方式、あるいは、搬送機送り速度の調整が可能な種々の構造の搬送機送り出し手段を搬送機移動手段として搬送機の移動経路に沿って並置する方式など、種々の方式や構造の搬送機移動手段を採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】塗装システム(特に前処理工程部)の全体構成図
【図2】塗装システム(特に塗装工程部)の全体構成図
【図3】搬送機の正面部
【図4】搬送機の斜視図
【図5】搬送機の拡大正面図
【図6】搬送機の要部の拡大側面図
【図7】浸漬式処理部での処理形態を示す側面図
【図8】集中吹付式処理部での処理形態を示す側面図
【図9】同じく集中吹付式処理部での処理形態を示す側面図
【図10】他の吹付式処理部での処理形態を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1及び図2は自動車ボディの電着塗装設備に係る塗装システムを示し、この電着塗装設備では、前処理工程部における複数の処理部として、湯洗部1、予備脱脂部2、脱脂処理部3、第1脱脂水洗部4、第2脱脂水洗部5、表面調整部6、化成処理部7、第1化成水洗部8、第2化成水洗部9、前処理純水水洗部10を、その順に被塗物である自動車ボディWの搬送方向に並べて装備してある。
【0031】
また、この前処理工程部に続く塗装工程部における複数の処理部として、電着処理部11、第1UF水洗部12、第2UF水洗部13、第3UF水洗部14、第1RO水洗部15、第2RO水洗部16、電着純水水洗部17、エアブロー部18を、その順に自動車ボディW(以下、ボディと略称することがある)の搬送方向に並べて装備してある。
【0032】
各処理部のうち、前処理工程部における脱脂処理部3と化成処理部7並びに塗装工程部における電着処理部11と第2UF水洗部13と第1RO水洗部15は、主なる処理形態として処理槽T内の処理液Lに搬送ボディWを浸漬させる浸漬式の処理部であり、脱脂処理部3や化成処理部7では、搬送ボディWを脱脂槽T内の脱脂処理液Lや化成槽T内の化成処理液Lに浸漬させることで搬送ボディWの表面に脱脂処理や化成処理を施す。
【0033】
また、電着処理部11では、搬送ボディWを電着槽T内の電着塗料液Lに浸漬させることで搬送ボディWの表面に塗膜を形成する電着処理を施し、第2UF水洗部13や第1RO水洗部15では、搬送ボディWを水洗槽T内の洗浄水Lに浸漬させることで電着処理後の搬送ボディWに水洗処理を施す。
【0034】
なお、各UF水洗部12〜14は、限外ろ過膜(UF)による浄化水Lを用いて搬送ボディWを水洗する水洗部であり、各RO水洗部15,16は、逆浸透膜(RO)による浄化水Lを用いて搬送ボディWを水洗する水洗部である。
【0035】
一方、これらの浸漬式処理部以外の処理部は、主なる処理形態としてノズルなどの噴出手段Nによる噴出流体F(噴出液や噴出気体)を搬送ボディWに吹き付ける吹付式の処理部であり、湯洗部1、予備脱脂部2、表面処理部6では、噴出流体Fとして湯洗用温水や予備脱脂用の処理液あるいは表面調整用の処理液を搬送ボディWに吹き付けることで搬送ボディWに湯洗処理や予備脱脂処理あるいは表面調整処理を施す。
【0036】
また、吹付式の各水洗部では、噴出流体Fとして洗浄水を搬送ボディWに吹き付けることで搬送ボディWに水洗処理を施し、エアブロー部18では、噴出流体Fとして空気を搬送ボディWに吹き付けることで水洗処理後の搬送ボディWに水切り処理や予乾燥処理を施す。
【0037】
なお、塗装工程部にはエアブロー部18に続き、予熱炉、焼付け乾燥炉、冷却処理部などをその順に搬送ボディWの搬送方向に並べて装備し、また、この塗装工程部(下塗り工程部)に続いては中塗り工程部及び上塗り工程部が装備されているが、本例では、これらの説明は省略する。
【0038】
被塗物である自動車ボディWを各処理部1〜18に対して順次に搬送する搬送装置Uは、図3〜図6に示す如く、ガイド架構20上に各処理部1〜18にわたる一対のレール21を敷設するとともに、このレール21に沿って各処理部1〜18に順次移動させる複数の搬送機22を設けて構成してあり、これら搬送機22に搬送ボディWを一台ずつ保持させた状態で各搬送機22を各処理部1〜18にわたらせて順次に移動させることで、各自動車ボディWを各処理部1〜18に順次搬送する。
【0039】
搬送機22には、レール21上を転動する走行車輪23と、レール21に対し両側から当接して搬送機22を振れ止めする振止車輪24と、レール21の下面に当接して搬送機22の浮き上がりを防止する浮止車輪25とを設けるとともに、一方のレール21の側面にレール21に沿わせて延設した給電レール26から搭載装置の駆動電力を受電する集電器27を設けてある。
【0040】
また、搬送機22の下部には走行用摩擦板28を設け、レール21に沿う搬送機22の移動経路上には、走行用摩擦板28を挟圧する遊転ローラ29と駆動ローラ30との挟圧ローラ対、及び、その挟圧ローラ対における駆動ローラ30を駆動回転させる移送用モータ31を搬送機送り出し手段として所定間隔でレール延設方向に並置してあり、これら遊転ローラ29と駆動ローラ30との挟圧ローラ対により挟圧した摩擦板28を移送用モータ31による駆動ローラ30の駆動回転により挟圧ローラ対29,30による挟圧部から送り出すことで搬送機22をレール21に沿って走行移動させる。
【0041】
つまり、搬送機送り出し手段を構成する挟圧ローラ対29,30と移送用モータ31との組の並置群は、各搬送機22を各処理部1〜18にわたらせて順次に移動させる搬送機移動手段を構成し、各移送用モータ31の回転速度をインバータ制御等により調整することで、各移動位置にある各搬送機22の移動速度(即ち、送り速度)を随時、個別に調整することができる。
【0042】
また、搬送機22には、昇降アーム32Aと駆動アーム32Bとを備える昇降装置32を搭載してあり、昇降アーム32Aの先端部には搬送ボディWを吊り下げ保持する吊下機構33を装備してある。
【0043】
昇降装置32は、駆動アーム32Bの基端を連結固定した第1支持軸34を搬送機22上の固定軸受35により回転自在に支持し、一方、ガイド36により案内される前後方向(搬送機22の移動方向)に移動自在な移動架台37を搬送機22に設けて、この移動架台37に設けた移動軸受38により第2支持軸39を回転自在に支持し、この第2支持軸39に昇降アーム32Aの基端を回転自在に連結するとともに、その昇降アーム32Aの中央部に駆動アーム32Bの先端を枢支連結してある。
【0044】
また、スライダ40をネジ軸41の駆動回転により前後移動させる昇降用駆動装置42を搬送機22に設け、この昇降用駆動装置42のスライダ40と第1支持軸34に連結固定した操作アーム43とを連結ロッド44により連結してある。
【0045】
即ち、この昇降装置32は、駆動モータMaによるネジ軸41の駆動回転により昇降用駆動装置42のスライダ40を前後移動させて連結ロッド44を介し第1支持軸34の操作アーム43を揺動操作することで、第1支持軸34を回転させて駆動アーム32Bを駆動揺動させ、この駆動アーム32Bの揺動により移動架台37,移動軸受38、及び、第2支持軸39の前後移動(換言すれば、第1支持軸34に対する第2支持軸39の接近離間)を伴う形態で昇降アーム32Aを第2支持軸39周りにおいて揺動させることで、吊下機構33により保持した搬送ボディWを搬送機22に対して昇降させる構造にしてある。
【0046】
45は連結ロッド44を介して第1支持軸34の操作アーム43を自動車ボディWの上昇操作側に付勢する空気圧シリンダであり、この付勢により昇降用モータである駆動モータMaの負荷を軽減する。
【0047】
吊下機構33は、昇降アーム32Aの先端に吊下支持軸46を回転自在に取り付けて、この吊下支持軸46に連結した吊下部材47を上部フレーム48の長手方向中央部に連結するとともに、上部フレーム48の前後両端部夫々に縦フレーム49の上端を枢支連結し、そして、各縦フレーム49の下端から搬送機22とは反対側に横フレーム50を延設して、これら前後の横フレーム50に対し2本の下部フレーム51夫々の前後端部を回転自在に連結して構成してあり、この構造をもって搬送ボディWを横フレーム50と下部フレーム51とからなるフレーム枠に載置した状態で、そのフレーム枠における四隅部の保持具52により搬送ボディWを保持する。
【0048】
そして、上部フレーム48と前後の縦フレーム49と下部フレーム51とで平行リンク機構を構成し、これに対し、吊下支持軸46に取り付けた従動スプロケット53と第2支持軸39に取り付けた駆動スプロケット54とに伝動チェーン55を巻回するとともに、スライダ56をネジ軸57の駆動回転により前後移動させる姿勢変更用駆動装置58を搬送機22上に設け、この姿勢変更用駆動装置58のスライダ56と第2支持軸39に連結固定した操作アーム59とを連結ロッド60により連結してボディ姿勢変更装置61を構成してある。
【0049】
即ち、このボディ姿勢変更装置61は、駆動モータMbによるネジ軸57の駆動回転により姿勢変更用駆動装置58のスライダ56を前後移動させて連結ロッド60を介し第2支持軸39の操作アーム59を揺動操作することで、第2支持軸39を回転させて駆動スプロケット54を駆動回転させ、この駆動スプロケット54の回転により伝動チェーン55を介し従動スプロケット53とともに吊下支持軸46を回転させて吊下部材47を揺動させることで、上部フレーム48と前後の縦フレーム49と下部フレーム51とからなる平行リンク機構の変形を伴い上部フレーム48及び下部フレーム51を姿勢変化させて、保持具52により保持した搬送ボディWを搬送機22に対して前下がり傾斜姿勢や後下がり傾斜姿勢に姿勢変化させる構造にしてある。
【0050】
つまり、これら昇降装置32及びボディ姿勢変更装置61は、搬送機22により搬送する自動車ボディWをその搬送機22に対して移動動作(昇降及び傾動)させるボディ動作手段を構成する。
【0051】
一方、この電着塗装システムには、各処理部1〜18にわたらせて順次に移動させる複数の搬送機22を制御上で統括する統括制御器CC(統括制御手段の一例)を設けてあり、この統括制御器CCは、位置検出手段Isにより得る搬送機22夫々の移動位置の情報iと、ボディ種検出手段Bsにより得る各搬送機22に載置保持された自動車ボディW夫々のボディ種の情報bとに基づき、レール21の延設方向に並置した各移送用モータ31と各搬送機22に装備した昇降装置32及びボディ姿勢変更装置61とを制御することで、搬送機22の移動による自動車ボディWの搬送において、その搬送ボディWを処理部ごと及びボディ種ごとに設定されている合成移動パターンP(即ち、搬送機22の移動と搬送ボディWの搬送機22に対する移動動作との合成によりなる移動パターン)で移動動作させるものにしてある。
【0052】
なお、この合成移動パターンPは、後述の如く、搬送機22が保持する搬送ボディWの移動経路rと移動速度vと移動姿勢θとについての移動パターンP(r,v,θ)としてある。
【0053】
また、本例において特に断りのない限り、搬送ボディWの移動速度vとは搬送経路rに沿う方向の移動速度を言い、搬送ボディWの移動姿勢θとは水平に対する移動姿勢を言う。
【0054】
各移送用モータ31の制御については、レール21の延設方向に並置した移送用モータ31夫々の回転速度(即ち、搬送機送り速度)をインバータ制御等により調整する走行用の中継制御器Caを設け、この走行用の中継制御器Caを統括制御器CCからの制御指令により制御動作させることで、移送用モータ31夫々の回転速度を随時調整して各移動位置にある各搬送機22の移動速度を、処理部ごと及びボディ種ごとの設定合成移動パターンPに従って個別に調整する構成にしてある。
【0055】
また、各搬送機22に装備した昇降装置32及びボディ姿勢変更装置61の制御については、昇降装置32におけるネジ軸42の駆動モータMa及びボディ姿勢変更装置61におけるネジ軸57の駆動モータMbを制御するボディ動作用の中継制御器Cb(中継制御手段の一例)を各搬送機22に搭載し、これら各搬送機22に搭載したボディ動作用の中継制御器Cbの夫々を統括制御器CCから制御指令により制御動作させることで、各搬送機22の搬送ボディWを処理部ごと及びボディ種ごとの設定合成移動パターンPに従って各搬送機22に対し移動動作させる構成にしてある。
【0056】
以上の構成により、各処理部1〜18では搬送ボディWを処理部ごと及びボディ種ごとの設定合成移動パターンPで移動動作させて搬送ボディWに所定の処理を施すが、それについて次に説明する。
【0057】
・浸漬式処理部(特に電着処理部11)での移動動作について
浸漬式処理部ついては、処理部ごと及びボディ種ごとの設定合成移動パターンPとして、具体的には(図7参照)、
搬送機22が保持する搬送ボディWを下降させて処理槽T内の処理液Lに浸漬させる入槽工程と、それに続き、その搬送ボディWを処理槽T内の処理液L中で進行移動させる槽内進行工程と、それに続き、その搬送ボディWを上昇させて処理槽T内の処理液Lから引き上げる出槽工程と、それに続き、その搬送ボディWを浸漬式処理部から搬出する搬出工程との各工程の工程中及び工程間における搬送ボディWの移動経路rと移動速度vと移動姿勢θとについて、
ボディ種ごとの移動経路変化パターンPr(r)と移動速度変化パターンPv(v)と移動姿勢変化パターンPθ(θ)とを統括制御器CCに設定してある。(即ち、P(r,v,θ)=Pr(r)+Pv(v)+Pθ(θ))
【0058】
そして、これら3つの変化パターンPr,Pv,Pθの設定により、図7に示す如く、浸漬式処理部では基本的に例えば次のa.〜d.の如き移動形態(即ち、ボディ種ごとの個別移動形態の基礎となる基本移動形態)で各搬送機22の搬送ボディWを移動動作させる。
【0059】
a.入槽工程において各搬送機22が保持する搬送ボディWを急角度の前下がり移動経路r及びその前下がり移動経路rに沿う急角度の前下がり移動姿勢θで、かつ、大きな移動速度vで処理槽Tに入槽させて処理槽T内の処理液Lに浸漬させる。
【0060】
b.出槽工程において各搬送機22が保持する搬送ボディWを急角度の前上がり移動経路r及びその前上がり移動経路rに沿う急角度の前上がり移動姿勢θで、かつ、大きな移動速度vで処理槽T内の処理液Lから引き上げて処理槽Tから出槽させる。
【0061】
即ち、このような入出槽移動形態を採ることで、搬送ボディWの処理液Lへの浸漬(入液)及び処理液Lからの引き出しを速やかにして処理槽Tの短尺化を可能にし、また、入槽工程で搬送ボディWを処理液Lに入液させる際の入液速度の不足が原因となる処理ムラ(例えば、電着処理でのいわゆる段付き)が生じるのを防止する。
【0062】
c.槽内進行工程において各搬送機22が保持する搬送ボディWを水平移動経路rで、かつ、処理液Lによる搬送ボディWへの処理を良好に行なえる適当な移動速度vで液中進行させる。
【0063】
d.搬出工程において各搬送機22が保持する搬送ボディWを水平移動経路rで、かつ、傾斜移動姿勢θで搬出移動させ、搬送ボディWの袋構造部等に残存する処理液Lの排出を促す。
【0064】
また、これらの基本移動形態を採りながら個別的には各搬送機22が保持する搬送ボディWのボディ種に応じたボディ種ごとの移動形態(略言すれば、上記の基本移動形態をボディ種に応じて微調整した移動形態)として、例えば次のe.〜i.の如き移動形態で各搬送機22の搬送ボディWを移動動作させる。
【0065】
e.各搬送機22が保持する搬送ボディWを処理液Lに浸漬させる入液時に生じる浮力が搬送ボディWのボディ種によって異なることに対し、また、入液時におけるボディ局部への気泡の噛む込みの程度や箇所がボディ種によって異なることに対し、入槽工程における前下がり移動経路rや前下がり移動姿勢θを上記の如き浮力発生や気泡の噛み込みが抑止されるボディ種ごとの最適傾斜角度の前下がり移動経路rや最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θにした状態で搬送ボディWを処理槽T内の処理液Lに入液させる。
【0066】
f.上記浮力発生の主な原因部位が搬送ボディWのボディ種によって異なることに対し、入槽工程のうち搬送ボディWにおける浮力発生の主な原因部位が処理液Lへの入液過程にある期間だけ移動速度v(即ち、入液速度)を小さくし、入槽工程における他の期間については移動速度vを大きくするボディ種ごとの最適な移動速度変化形態で搬送ボディWを処理槽Tに入槽させる。
【0067】
即ち、このようなボディ種に応じたボディ種ごとの入槽移動形態を採ることで、搬送機22が保持する搬送ボディWが処理液Lへの入液の際に生じる大きな浮力のために搬送機22から離脱するなどの搬送トラブルや、ボディ局部に噛み込んだ気泡に原因する処理不良などを防止する。
【0068】
g.搬送ボディWを処理槽T内の処理液Lに浸漬させた状態で進行移動させることにおいて、搬送ボディWの移動姿勢θを調整すれば、処理槽T内における搬送ボディW周りの処理液Lの通過断面積を調整することができ、この通過断面積の調整により搬送ボディWに対する処理液Lの相対速度を調整することができる。
このことから、槽内進行工程では搬送ボディWをそれに対する処理液Lの相対速度を最適化し得るボディ種ごとの最適移動姿勢θ(例えば、最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θや最適傾斜角度の前上がり移動姿勢θ、また場合によっては垂直移動姿勢)で液中進行させる。
【0069】
即ち、このことにより、処理品質の低下原因となる搬送ボディWへの異物付着や搬送ボディWの近傍における気泡や発生熱の滞留などを防止する。
【0070】
h.出槽工程において搬送ボディWを処理液Lから引き上げる際、搬送ボディWにおける袋構造部等からの処理液Lの抜け出しの良否がボディ種によって異なることに対し、出槽工程における前上がり移動経路rや前上がり移動姿勢θを処理液Lの抜け出しが良くなるボディ種ごとの最適傾斜角度の前上がり移動経路rや最適傾斜角度の前上がり移動姿勢θにした状態で搬送ボディWを処理槽Tから出槽させる。
【0071】
i.搬出工程において搬送ボディWを傾斜移動姿勢θで搬出移動させる際、搬送ボディWにおける袋構造部等からの残存処理液Lの排出の良否がボディ種によって異なることに対し、搬出工程において搬送ボディWを傾斜移動姿勢θにする傾動動作として、搬送ボディWをボディ種ごとの最適傾斜角度の後下がり移動姿勢θにする、又は、最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θにする、又は、最適な傾斜角度範囲で前後揺動させるなど、搬送ボディWからの残存処理液Lの排出を良くするボディ種ごとの最適な傾動動作形態で搬送ボディWを搬出移動させる。
【0072】
・吹付式処理部での移動動作について
吹付式処理部については、処理部ごと及びボディ種ごとの設定合成移動パターンPとして、具体的には(図8〜図9及び図10参照)、
搬送機22が保持する搬送ボディWを噴出手段Nによる噴出流体Fの吹付処理域Sに搬入する搬入工程と、それに続き、その搬送ボディWを吹付処理域S内で進行移動させる域内進行工程と、それに続き、その搬送ボディWを吹付処理域Sから搬出する搬出工程との各工程の工程中及び工程間における搬送ボディWの移動経路rと移動速度vと移動姿勢θとについて、
浸漬式処理部と同様、ボディ種ごとの移動経路変化パターンPr(r)と移動速度変化パターンPv(v)と移動姿勢変化パターンPθ(θ)とを統括制御器CCに設定してある。
【0073】
そして、吹付式処理部のうち、ノズル等の噴出手段Nを横一列状態や横二列状態で吹付処理域Sの上部や側部に配置する吹付式処理部(例えば、電着純水水洗部17、前処理純水水洗部10の後半部、エアブロー部18など一般に高圧の噴出流体Fを集中的に吹き付ける吹付式処理部)については、上記3つの変化パターンPr,Pv,Pθの設定により、図8〜図9に示す如く、各搬送機22が保持する搬送ボディWのボディ種に応じたボディ種ごとの移動形態として、例えば次のj.〜m.の如き移動形態で、各搬送機22の搬送ボディWを移動動作させる。
【0074】
j.前の処理部において各搬送機22が保持する搬送ボディWの袋構造部等に入り込んだ残存処理液L(又はF)の吹付処理域S側への排出(即ち、吹付処理域Sに装備した排液部への排出)を促すため、基本的には搬入工程において搬送ボディWを前下がり移動姿勢θで吹付処理域Sに搬入移動させるが、この際の残存処理液L,Fの排出の良否がボディ種によって異なる。
【0075】
このことに対し、搬入工程において上記残存処理液L,Fの吹付処理域S側への排出を良くするボディ種ごとの最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θにした状態で搬送ボディWを吹付処理域Sに搬入移動させる。
【0076】
k.域内進行工程において搬送ボディWを吹付処理域Sにおいて単に水平移動経路でかつ水平移動姿勢で域内進行させた場合、噴出手段Nとそれら噴出手段Nによる噴出流体Fが吹き付けられる搬送ボディW上の被吹付部(ここでは、搬送ボディWの域内進行に対する噴出手段Nの相対移動で搬送ボディW上をボディ進行方向とは逆向きに移動する各時点の被吹付部)との位置関係について、特に側面視で、搬送ボディWの域内進行に伴い、噴出手段Nと被吹付部との距離d(吹付距離)がボディ形状によって逐次変化し、また、噴出手段Nからの流体噴出向きに対する搬送ボディW上の被吹付部の向きα(吹付向き)もボディ形状によって逐次変化し、その上、搬送ボディWのボディ種の異なりによるボディ形状の相違によって上記吹付距離dや吹付向きαの変化の形態がさらに異なるものなる。
【0077】
このことに対し、域内進行工程において、側面視で、噴出手段Nと搬送ボディW上の被吹付部との距離d(吹付距離)を一定に保ち、かつ、噴出手段Nからの流体噴出向きに対して搬送ボディW上の被吹付部が垂直姿勢となる吹付向き状態(α=90°)を保つボディ種ごとの最適な進行移動形態で搬送ボディWを域内進行させる。
【0078】
l.また、噴出手段Nによる噴出流体Fの吹き付け処理を特に重点的に行なうべき特定被吹付部x(例えば、隙間構造部など搬送ボディW上の固定部位である特定の被吹付部)について、その有無や存在位置がボディ種によって異なることに対し、域内進行工程において噴出手段Nによる噴出流体Fが搬送ボディW上の特定被吹付部xに吹き付けられるとき(即ち、図8の(b)に示す如き状態のとき)、その特定被吹付部xを噴出手段Nに近付けて吹付距離dを短くするとともに、搬送ボディWの域内進行を一時停止状態や一時徐行状態あるいは一時的に前後進切り換えを反復する状態にするなどして、特定被吹付部xに対し他部よりも時間的に長く噴出流体Fを吹き付けさせるボディ種ごとの最適な進行移動形態で、搬送ボディWを域内進行させる。
【0079】
なお、上記の如く特定被吹付部xを噴出手段Nに近付けたとき、噴出手段Nからの流体噴出向きに対して特定被吹付部xを垂直姿勢や所定の斜交姿勢する吹付向き調整も併せて行なうのが望ましい。
【0080】
m.搬送ボディWの袋構造部等に入り込んだ吹き付け流体F(洗浄水)の排出を促すため基本的には搬出工程において各搬送機22の搬送ボディWを傾斜移動姿勢θにして搬出移動させるが、この際の入り込み流体F(入り込み洗浄水)の排出の良否がボディ種によって異なる。
【0081】
このことに対し、搬出工程において各搬送機22の搬送ボディWを傾斜移動姿勢θにする傾動動作として、搬送ボディWをボディ種ごとの最適傾斜角度の後下がり移動姿勢θにする、又は、最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θにする、又は、最適な傾斜角度範囲で前後揺動させるなど、入り込み流体F(洗浄水)の排出を良くするボディ種ごとの最適な傾動動作形態で搬送ボディWを搬出移動させる。(エアブロー部18については一般に、この搬出工程における傾動動作は不要である。)
【0082】
なお、上記J.〜m.の移動形態は夫々、電着純水水洗部17、前処理純水水洗部10の後半部、エアブロー部18以外の吹付式処理部に適用することもできる。
【0083】
また一方、吹付式処理部のうち、ノズル等の噴出手段Nを搬送ボディWに対する群状の囲み配置形態で吹付処理域Sに多数配置した吹付式水洗部(即ち、比較的低圧の洗浄水Fを搬送ボディWに対し広く群がり状に吹き付ける吹付式水洗部)については、上記3つの変化パターンPr,Pv,Pθの設定により、図10に示す如く、各搬送機22が保持する搬送ボディWのボディ種に応じたボディ種ごとの移動形態として、例えば次のn.〜p.の如き移動形態で、各搬送機22の搬送ボディWを移動動作させる。
【0084】
n.前記の集中吹付式処理部と同様、基本的には搬入工程において各搬送機22の搬送ボディWを前下がり移動姿勢θで吹付処理域Sに搬入移動させるが、前の処理部において搬送ボディWの袋構造部等に入り込んだ残存処理液L(又はF)の排出の良否がボディ種によって異なることに対し、搬入工程において上記残存処理液L,Fの吹付処理域S側への排出を良くするボディ種ごとの最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θにした状態で搬送ボディWを吹付処理域Sに搬入移動させる。
【0085】
o.また基本的には域内進行工程において各搬送機22が保持する搬送ボディWを前後揺動させながら域内進行させて吹き付け処理の処理効果(即ち、洗浄水の吹き付けによる洗浄効果)を高めるが、噴出手段Nによる噴出流体Fの吹き付け処理を特に重点的に行なうべき特定被吹付部x(例えば、隙間構造部など)について、その有無や存在位置がボディ種によって異なることに対し、域内進行工程において噴出手段Nによる噴出流体Fが搬送ボディW上の特定被吹付部xに吹き付けられるとき搬送ボディWの域内進行を一時停止状態や一時徐行状態あるいは一時的に前後進切り換えを反復する状態にするなどして、搬送ボディW上の特定被吹付部xに対し他部よりも時間的に長く噴出流体F(洗浄水)を吹き付けさせるボディ種ごとの最適な進行移動形態で、搬送ボディWを域内進行させる。
【0086】
p.前記の集中吹付式処理部と同様、基本的には搬出工程において各搬送機22の搬送ボディWを傾斜移動姿勢θにして搬出移動させるが、搬送ボディWの袋構造部等に入り込んだ吹き付け流体F(洗浄水)の排出の良否がボディ種によって異なることに対し、搬出工程において各搬送機22の搬送ボディWを傾斜移動姿勢θにする傾動動作として、搬送ボディWをボディ種ごとの最適傾斜角度の後下がり移動姿勢θにする、又は、最適傾斜角度の前下がり移動姿勢θにする、又は、最適な傾斜角度範囲で前後揺動させるなど、入り込み流体F(洗浄水)の排出を良くするボディ種ごとの最適な傾動動作形態で搬送ボディWを搬出移動させる。
【0087】
・処理部どうしの間での移動動作関係について
浸漬式処理部のうち電着処理部11では、処理槽T(電着槽)内の処理液L中における先行搬送ボディWと後続搬送ボディWとの間隔が小さいと、それら搬送ボディWに対する電着処理の相互干渉に原因する処理品質の低下(いわゆるバイポーラ不良)が生じ易くなる。
【0088】
このことに対し、電着処理部11についての処理部ごと及びボディ種ごとの合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)の設定と、他の浸漬式処理部である脱脂処理部3や化成処理部7についての処理部ごと及びボディ種ごとの合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)の設定とにより、脱脂処理部3、化成処理部7、電着処理部11の夫々における入出槽工程については、先行搬送ボディWと後続搬送ボディWとをそれらの接触干渉を確実に防止できる移動間隔eで移動させる。
【0089】
そして、電着塗装部11では、槽内進行工程11において移動間隔eを拡大した移動形態で先行搬送ボディWと後続搬送ボディW22とを液中進行させ、逆に、脱脂処理部3や化成処理部7では、先行搬送ボディWと後続搬送ボディWとの接触干渉が生じない範囲において移動間隔eを縮小した状態で先行搬送ボディWと後続搬送ボディWとを液中進行させる。
【0090】
つまり、このような移動間隔関係の移動形態を採ることにより、先行搬送ボディWと後続搬送ボディWとの接触干渉を確実に防止しながら、また、電着処理部11でのいわゆるバイポーラ不良も一層確実に防止しながら、塗装設備全体の小型化を可能にする。
【0091】
・その他の制御について
エアブロー部18で水切り処理や予乾燥処理した搬送ボディWは、炉内搬送用の搬送装置における搬送台車に移載して後続の予乾燥炉及び焼付け乾燥炉に順次搬送するが、この搬送ボディWの移載処理、その移載処理に続き搬送ボディWが無い空状態の搬送機22をボディ受取部へ戻す還送処理、及び、ボディ受取部で次の搬送ボディWを受け取るボディ受取処理の夫々についても、統括制御器CCにより搬送機22夫々の移動位置情報iに基づき移送用モータ31と各搬送機22に装備した昇降装置32及びボディ姿勢変更装置61とを制御することで自動的に行なうようにしてある。
【0092】
なお、位置検出手段Isについては、搬送機22の移動経路に沿って並置した搬送機検出センサの検出情報に基づき各搬送機22の移動位置情報iを得る方式や、各搬送機22の移動距離を計測する計測手段の計測情報に基づき各搬送機22の移動位置情報iを得る方式、あるいは、監視カメラの撮像情報に基づき各搬送機22の移動位置情報iを得る方式など、種々の方式のものを採用することができる。
【0093】
また、ボディ種検出手段Bsについても、搬送機22に自動車ボディWを保持させる段階ないしはその近傍段階でのボディ形状の検出や各自動車ボディWに付けたタグの読み取りなどによりボディ種情報bを得る方式や、塗装システムの生産管理装置から生産計画情報の一部としてボディ種情報bを得る方式など、種々の方式のものを採用することができる。
【0094】
他方、この塗装システムには、統括制御器CCともに、シミュレート装置SMを設けてあり、このシミュレート装置SMは、各処理部1〜18の構造に関するデータや処理内容に関するデータ、搬送機22の移動特性に関するデータ、昇降装置32及び姿勢変更装置61の動作特性に関するデータ、並びに、塗装対象である自動車ボディWのボディ種ごとの形状や構造に関するデータなどに基づき、塗装対象である各ボディ種の自動車ボディWの夫々について、前記処理部ごと及びボディ種ごとの合成移動パターンP(具体的には処理部ごと及びボディ種ごとの前記3つの変化パターンPr,Pv,Pθ)を種々変更したときの各処理部1〜18での処理の処理過程及び処理結果(例えば、浸漬処理における槽内進行工程での搬送ボディWに対する処理液Lの相対速度の大小関係など)をモニタ表示しながらシミュレートするものである。
【0095】
そして、このシミュレート装置SMは、処理品質の重み度合や処理能率の重み度合あるいは省エネルギ化の重み度合や運転コストの重み度合など、種々の基準要素も含めて設定される選択基準に従って、処理部相互の関係も考慮しながら、ボディ種ごとの最適な合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)を各処理部1〜18について自動的に選択する自動選択機能を備えるものにしてある。
【0096】
また、このように自動選択した各処理部1〜18についてのボディ種ごとの最適な合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)をオペレータの承認操作を受けた上で統括制御器CCに対し自動的に設定する自動設定機能も備えるものにしてある。
【0097】
つまり、新設した塗装システムの運転に先立ち、あるいは、新しいボディ種の自動車ボディWが塗装対象として加わるときや、いずれかの処理部を改造するときなど、オペレータは適時、このシミュレート装置SMを用いて処理部ごと及びボディ種ごとの最適な合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)を選択し、そして、選択した処理部ごと及びボディ種ごとの最適な合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)を統括制御器CCに設定することにより、各処理部1〜18において、その最適な設定合成移動パターンP(Pr,Pv,Pθ)で、各搬送機22の搬送ボディWを移動動作させる。
【0098】
以上、本実施形態の塗装システムにおいて、搬送装置U及び浸漬式処理部の処理槽Tは、被塗物W(自動車ボディ)を処理槽T内の処理液Lに浸漬させて処理液L中を進行移動させることで被塗物Wに所定の処理を施す塗装用の浸漬処理装置を構成する。
【0099】
また、本実施形態の塗装システムでは浸漬式処理部での浸漬処理(特に槽内進行工程)について、被塗物Wの処理液L中での移動姿勢θを調整することで、処理槽T内における被塗物W周りの処理液Lの通過断面積を調整して被塗物Wに対する処理液Lの相対速度を調整するようにしてある。
【0100】
そして、統括制御器CCは、浸漬式処理部での浸漬処理(特に槽内進行工程)において、被塗物Wの種別情報(ボディ種情報b)に基づき、搬送機22に装備した被塗物動作手段(昇降装置32及びボディ姿勢変更装置61)を制御して、被塗物Wを搬送機22に対し移動動作させることで、被塗物Wの処理液L中での移動姿勢θを被塗物種に応じた被塗物種ごとの設定最適移動姿勢(即ち、設定姿勢変化パターンPθとして設定された最適移動姿勢)に調整する浸漬処理制御手段を構成する。
【0101】
また、シミュレート装置SMは、浸漬式処理部での浸漬処理(特に槽内進行工程)について、各種別の被塗物Wを処理液L中において各移動姿勢θ(即ち、種々の移動姿勢変化パターンPθ)で進行移動させたときの被塗物Wに対する処理液Lの相対速度の大小関係を自動的に演算する演算手段を構成する。
【0102】
〔別実施形態〕
処理液L中における被塗物Wの進行移動速度vは、浸漬処理制御手段CCにより調整される被塗物Wの移動姿勢θなどに応じて調整するようにしてもよい。
【0103】
また、その場合、処理液L中における被塗物Wの移動姿勢θを設定最適移動姿勢に調整する姿勢調整機能とともに、処理液L中における被塗物Wの進行移動速度vを設定最適移動速度に自動調整するなどの速度調整機能を浸漬処理制御手段CCに備えさせてもよい。
【0104】
本発明による塗装用浸漬処理方法や塗装用浸漬処理装置の実施において、処理対象の被塗物は自動車ボディに限られるものではなく、自動車部品や鋼板類あるいは電気機器のケーシングや部品など、種々のものを処理対象の被塗物とすることができる。
【0105】
また、本発明による塗装用浸漬処理方法や塗装用浸漬処理装置は電着塗装に限らず、種々の方式の塗装における各種目的の被塗物処理に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、被塗物を処理槽内の処理液に浸漬させて処理液中を進行移動させることで被塗物に所定の処理を施す種々の処理目的の塗装用浸漬処理に適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
W 被塗物
T 処理槽
L 処理液
θ 移動姿勢
22 搬送機
29,30,31 搬送機移動手段
32,61 被塗物動作手段
P(θ) 設定最適移動姿勢
CC 浸漬処理制御手段
v 移動速度
b 種別情報
SM 演算手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗物を処理槽内の処理液に浸漬させて処理液中を進行移動させることで被塗物に所定の処理を施す塗装用浸漬処理方法であって、
被塗物の前記処理液中での移動姿勢を調整することで、前記処理槽内における被塗物周りの処理液の通過断面積を調整して被塗物に対する処理液の相対速度を調整する塗装用浸漬処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の塗装用浸漬処理方法で使用する塗装用浸漬処理装置であって、
被塗物を保持する搬送機と、その搬送機を移動させることで被塗物を処理槽内の処理液中において進行移動させる搬送機移動手段とを設け、
前記搬送機が保持する被塗物をその搬送機に対して移動動作させる被塗物動作手段を前記搬送機に装備し、
前記被塗物動作手段を制御して被塗物を前記搬送機に対し移動動作させることで、被塗物の前記処理液中での移動姿勢を設定最適移動姿勢に調整する浸漬処理制御手段を設けてある塗装用浸漬処理装置。
【請求項3】
前記浸漬処理制御手段は、前記搬送機が保持する被塗物の種別の情報に基づいて、被塗物の前記処理液中での移動姿勢を被塗物種ごとの設定最適移動姿勢に調整する構成にしてある請求項2記載の塗装用浸漬処理装置。
【請求項4】
被塗物の前記処理液中における複数種の移動姿勢について、被塗物を前記処理液中において各移動姿勢で進行移動させたときの被塗物に対する処理液の相対速度の大小関係を自動的に演算する演算手段を設けてある請求項2又は3記載の塗装用浸漬処理装置。
【請求項5】
前記浸漬処理制御手段は、前記搬送機移動手段を制御することで、被塗物の前記処理液中における進行移動速度を設定最適移動速度に調整する構成にしてある請求項2〜4のいずれか1項に記載の塗装用浸漬処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−115762(P2011−115762A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−277948(P2009−277948)
【出願日】平成21年12月7日(2009.12.7)
【出願人】(000003643)株式会社ダイフク (1,209)
【出願人】(000149790)株式会社大気社 (136)
【Fターム(参考)】