説明

塗装装置

【課題】塗料噴霧部材及び塗料供給手段を容易に洗浄する。
【解決手段】塗装装置10は、エアモータ12によって高速回転する中空の回転軸14と、回転軸14の先端に設けられた回転霧化頭16と、回転軸14の内部に挿通された管部材18とを有する。管部材18の小径部24には、外管形成部材28が外嵌される。この外管形成部材28の先端部は、回転霧化頭16に形成された収容孔46に挿入される。外管形成部材28の先端部の外周壁と、収容孔46の内壁との間は所定間隔で離間しており、従って、環状のクリアランス(塗料流通用間隙52)が形成される。外管形成部材28の外周壁に形成された複数個の塗料吐出孔38の開口(塗料供給口)は、収容孔46の内壁に対向する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物に対して塗料を噴霧することで塗装を行う塗装装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディをはじめとする被塗装物を塗装するための塗装装置として、回転霧化式のものが広汎に用いられるに至っている。
【0003】
回転霧化式の塗装装置は、ハウジングと、該ハウジングから露呈した塗料噴霧部材としての回転霧化頭とを有する(例えば、特許文献1参照)。ハウジングの内部には、前記回転霧化頭を回転させるための回転軸が収容されるとともに、該回転軸に、前記回転霧化頭に塗料を供給するための塗料供給通路が形成される。塗料供給通路は、回転霧化頭の沿面の前端面略中心で開口している。
【0004】
塗装を行う際には、エアモータ等の回転付勢手段の作用下に回転軸が回転動作を開始し、これに伴って回転霧化頭が回転動作を行う。そして、次に、塗料供給源から供給された塗料が、前記塗料供給通路を介して前記回転霧化頭の沿面に送られる。
【0005】
回転霧化頭の沿面では、略中心から導出された塗料が、遠心力によって外方に向かう。すなわち、縁部に移動する。その後、塗料は、いわゆる液糸状態となって縁部から飛び出し、前記ハウジングから被塗装物に向かう方向に吐出されたエアによって微粒化されてミスト状(霧状)となるとともに、この状態で、前記エアに同伴されて被塗装物に向かって飛行する。すなわち、塗料が噴霧される。なお、塗料は電気的に負に帯電し、一方、被塗装物はアースされている。従って、塗料は、被塗装物に向かって飛行することが容易である。
【0006】
最終的に、塗料は被塗装物に付着する。これにより、塗装がなされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−118710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
任意の色の塗料から別色の塗料に切り替えて塗装を行う、いわゆる色替えを行うときには、色が混じり合うのを回避するべく、塗料が流動した経路を洗浄する必要がある。上記したような従来技術に係る塗装装置では、粘度が高い塗料や、洗浄することが容易ではない塗料の色替えに際し、場合によっては、回転霧化頭をハウジングから取り外して洗浄し、再取り付けを行うこともあるが、このような作業を行うことは煩雑である。
【0009】
しかしながら、回転霧化頭に形成される塗料溜め空間に面した内壁や、塗料吐出孔を、回転霧化頭をハウジングから取り外すことなく洗浄することは困難である。このような理由から、回転霧化頭を取り外し、予め清掃済の新たな回転霧化頭に交換することを余儀なくされている。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、洗浄を行う際に塗料噴霧部材を取り外さなくとも清掃を容易に行うことが可能な塗装装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、被塗装物に塗料を噴霧して塗装を行うための塗装装置であって、
回転付勢手段によって回転動作するとともに、被塗装物に臨む沿面に供給された塗料を縁部から噴霧するための塗料噴霧部材と、
前記塗料噴霧部材に塗料を供給するための塗料供給手段と、
を有し、
前記塗料噴霧部材には、前記塗料供給手段を挿入して収容するための収容孔が形成され、
且つ前記収容孔の内壁と前記塗料供給手段との間に、前記塗料噴霧部材の沿面で開口したクリアランスが形成されていることを特徴とする。
【0012】
洗浄剤を流通したのみでは塗料を十分に除去し得なかったときには、前記クリアランスに清浄用ブラシ等の清掃用具を挿入して清掃を行えばよい。このため、塗料噴霧部材を取り外さずとも、塗料噴霧部材及び塗料供給手段を容易に清掃することができる。
【0013】
また、煩雑な取り外し・再取り付け作業を行う必要が特にないので、清掃作業の効率も向上する。
【0014】
なお、この構成において、塗料供給口は、塗料供給手段における前記収容孔の内壁に臨む部位に複数個形成するようにすればよい。この場合、塗装を行う際、塗料は、回転する塗料噴霧部材の収容孔の内壁に対して供給され、該内壁に対して衝突する。塗料は、このときに剪断力を受け、その結果、粘性が低下する。
【0015】
このように粘性が低下した塗料は、塗料噴霧部材の沿面を容易に流動するようになるので、該沿面を流動する塗料の膜の厚みが小さくなる。従って、沿面を流動した塗料が搬送用の気体(例えば、圧縮エア)によって塗粒となり拡散するとき、著しく微細化する。このため、塗着ムラが生じることや、塗膜の厚みにバラツキが生じることを回避することができる。これにより、高品質の塗膜を得ることが可能となる。
【0016】
塗料供給口は、周方向に等角度で離間して配置するとともに、互いの開口面積を全て同一に設定することが好ましい。この場合、洗浄剤が各塗料供給口に均等に分配されるので、洗浄が均等に進行する。従って、塗料供給口に対する洗浄剤の分配量が不十分となることや、このために塗料が残留することを回避することができる。
【0017】
また、塗料供給手段は、塗料供給管の他、ハブを含むようにして構成するようにしてもよい。
【0018】
ところで、塗料噴霧部材の被塗装物に臨む沿面の縁部から塗料を噴霧する際、場合によっては、該沿面の中央近傍の大気が塗粒に巻き込まれることがある。この場合、負圧領域が発生して塗粒が引き寄せられ、対流が起こる懸念がある。仮にこのような事態が生じると、噴霧パターンが乱れたり、塗料供給管の先端部等に塗料が付着して汚損が発生したりする原因となる。
【0019】
そこで、前記塗料噴霧部材の沿面に気体吐出口を開口させ、塗料を噴霧する際には、塗料噴霧部材の沿面の略中央から気体(例えば、圧縮エア)を排出することが好ましい。これにより、排出箇所の近傍に多量の気体が存在するようになる。このため、負圧領域が発生することが防止されるので、上記したような不具合が惹起されることを回避することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、塗料噴霧部材に形成された収容孔の内壁と、該収容孔に挿入・収容される塗料供給手段との間を所定間隔で離間させ、クリアランスを形成するようにしているので、該クリアランスに清掃用具を容易に挿入することが可能である。このため、塗料噴霧部材を取り外さずとも、前記収容孔の内壁や、塗料供給手段を容易に洗浄することができる。
【0021】
従って、清掃効率が向上するので、例えば、任意の色の塗料による塗装を終えてから別色の塗料による塗装を開始するまでの時間を短縮することができる。すなわち、色替えを迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る塗装装置の要部概略断面図である。
【図2】前記塗装装置を構成する外管形成部材の全体概略斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る塗装装置の要部概略断面図である。
【図4】前記塗装装置を構成するハブの全体概略斜視図である。
【図5】回転霧化頭に環状凹部が形成された塗装装置の要部概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る塗装装置につき好適な実施の形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態に係る塗装装置10の要部概略断面図である。この塗装装置10は、例えば、図示しない多関節ロボットの先端アームに設けられる。多関節ロボットは、例えば、5軸又は6軸のロボットである。
【0025】
塗装装置10は、図示しないケーシングを有し、このケーシング内には、エアモータ12と、該エアモータ12の作用下に高速回転する回転軸14とが収容されている。すなわち、エアモータ12は、図示しない圧縮エア供給源から圧縮エアが供給されることにより、回転軸14を高速回転させる回転付勢手段である。
【0026】
この回転軸14は、高電圧を発生する図示しない高電圧発生器に電気的に接続されている。従って、該回転軸14の先端に設けられたベルカップ形の回転霧化頭16(塗料噴霧部材)には、回転軸14を介して負の高電圧が印加される。
【0027】
また、回転軸14は、両端部が開口した中空部材であり、その内部には、管部材18(塗料供給管)が挿入されている。
【0028】
この管部材18は、固定支持部材20を介して前記ケーシングに固定されている。従って、管部材18が回転動作することはない。
【0029】
管部材18は、前記固定支持部材20に支持された大径部22と、X1方向側に位置して前記大径部22よりも小径な小径部24とを有する。この中の小径部24は、X1方向端部がエア吐出口26として開口された中空部であり、その大部分は、回転軸14の開口から突出している。この突出した部位の外周壁には、外管形成部材28(塗料供給管)が外嵌される。第1実施形態では、管部材18及び外管形成部材28の2つの塗料供給管が含まれるようにして、塗料供給手段が構成される。管部材18が回転動作することはないので、外管形成部材28も回転動作することはない。すなわち、塗料供給手段は非回転体である。
【0030】
外管形成部材28のX2方向端部には、小径部24を挿入する大径な挿入口30が形成される。その一方で、X1方向端部には、小径部24のX1方向端部に形成されたエア吐出口26に臨む開口32が形成される。この開口32の径は、小径部24の外径に略一致する。また、開口32(及びエア吐出口26)の周囲は、テーパー状に拡径するテーパー面34によって囲繞される。なお、挿入口30は、開口32(及びエア吐出口26)に向かうにつれて縮径している。
【0031】
外管形成部材28には、さらに、挿入口30に連通して外管形成部材28の長手方向に延在する環状の連通路36と、該連通路36に連通する複数個の塗料吐出孔(塗料排出用通路)38とが形成される。塗料吐出孔38は、連通路36に対して略直交する方向に延在し、図2に示すように、外管形成部材28の外周壁で開口する。従って、複数個の塗料吐出孔38は、外管形成部材28の直径方向略中心から外周壁に向かって放射状に形成される。
【0032】
塗料吐出孔38同士は、外管形成部材28の周方向に沿って互いに等間隔で離間していることが好ましく、さらに、全ての塗料吐出孔38の孔径及び開口径、ひいては断面積及び開口面積は、互いに同一であることが好ましい。互いに等間隔で離間させ、且つ断面積及び開口面積を等しくすることにより、挿入口30に導入された塗料が各塗料吐出孔38に均等に分配される。従って、塗料が各塗料吐出孔38から均等に導出される。
【0033】
このように形成される外管形成部材28の挿入口30及び連通路36の各内壁は、小径部24の外周壁に対して所定の距離で離間している。すなわち、小径部24の外周壁と外管形成部材28の内壁との間にクリアランスが環状に形成される。従って、管部材18の小径部24が内管として機能する一方、その内壁が小径部24の外周壁から離間した外管形成部材28が外管として機能する。
【0034】
一層詳細には、固定支持部材20から管部材18にかけて、エア通路40及び塗料通路42が形成されている。この中のエア通路40は、小径部24のX1方向端部まで延在して開口する。一方、塗料通路42は、大径部22と小径部24の境界近傍で開口するとともに(図示せず)、前記挿入口30に連通している。勿論、塗料通路42の開口は外管形成部材28に覆われており、従って、回転軸14の内部に塗料が漏洩することはない。
【0035】
また、塗料通路42には図示しない塗料供給源(塗料充填用シリンダ等)及び洗浄液供給源が接続され、一方、エア通路40には、圧縮エア供給源(工業用エアライン等)が接続される。
【0036】
回転霧化頭16のX2方向端部には、前記回転軸14が係合される係合孔44が形成され、X1方向端部には、係合孔44に連通し且つX1方向からX2方向に向かうに従ってテーパー状に縮径する収容孔46が形成される。外管形成部材28における係合孔44から突出した部位は、この収容孔46に挿入される。従って、外管形成部材28のX1方向端部が回転霧化頭16に囲繞されるとともに、前記塗料吐出孔38の開口(塗料供給口)が収容孔46の内壁に臨む。
【0037】
ここで、収容孔46の内壁における塗料吐出孔38の開口に対向する部位には、環状凹部48が周回するように形成される。後述するように、塗料吐出孔38の開口から吐出された塗料は、この環状凹部48に一旦貯留される。
【0038】
収容孔46は、回転霧化頭16に向かってテーパー状に拡開しながら延在し、該回転霧化頭16の前端面である沿面50で開口している。塗料吐出孔38の開口から吐出された塗料は、収容孔46の内壁を伝いながら、沿面50に向かって流通する。すなわち、外管形成部材28の外周壁と収容孔46の内壁との間のクリアランスは塗料の流動路となる。以下、このクリアランスを塗料流通用間隙と表記し、その参照符号を52とする。
【0039】
沿面50は、半径方向外方となるにつれて矢印X1方向側に向かうように若干傾斜している。回転軸14が回転動作することに追従して回転霧化頭16が回転動作すると、沿面50を流動する塗料が遠心力によって薄膜化し、いわゆる液糸状態となる。
【0040】
液糸状態となった塗料は、前記ケーシングに設けられたエア噴出口(図示せず)から吐出された圧縮エアによって霧状となり、この状態で、図示しない被塗装物に噴霧される。
【0041】
第1実施形態に係る塗装装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、次に、その作用効果につき、塗装方法との関係で説明する。
【0042】
被塗装物は、搬送ラインに沿って緩やかに移動し、図示しない塗装ブース内に搬入される。なお、被塗装物は予めアースされている。
【0043】
このようにして被塗装物が塗装ブース内に搬入されると、多関節ロボットが適切な動作を営むことにより、塗装装置10を前記被塗装物に対向するように移動させる。
【0044】
この状態で、エアモータ12が付勢されて回転軸14が高速回転を開始する。従って、該回転軸14に取り付けられた回転霧化頭16も高速回転する。また、前記高電圧発生器が付勢され、回転霧化頭16が負の帯電状態となる。さらに、前記エア噴出口から圧縮エアが吐出される。
【0045】
次に、塗料供給源(塗料充填用シリンダ等)から塗料が送り出され、塗料通路42を経て、外管形成部材28の挿入口30の内壁と管部材18との間に導入される。塗料は、さらに、挿入口30及び連通路36を通過し、該連通路36に連通する複数個の塗料吐出孔38を流動する。塗料は、塗料吐出孔38の開口(塗料供給口)から吐出される。
【0046】
塗料吐出孔38同士が外管形成部材28の周方向に沿って互いに等間隔で離間しており、且つ塗料吐出孔38の断面積及び開口面積同士が全て同一であると、上記したように塗料が塗料吐出孔38の各々に均等に分配される。従って、塗料が各塗料吐出孔38から均等に導出される。
【0047】
吐出された塗料は、高速で回転している回転霧化頭16に形成された収容孔46に向かう。そして、収容孔46の内壁に形成された環状凹部48に一旦貯留される。すなわち、環状凹部48は塗料溜まり部として機能する。環状凹部48に貯留された塗料は、その後、該環状凹部48から溢れた後、収容孔46の内壁を伝いながら流動する。
【0048】
環状凹部48が存在しない場合、塗料吐出孔38から吐出された塗料が収容孔46の内壁から跳ね返り、該内壁を伝うことなくスピットとして落下する懸念がある。このような事態が生じると、塗膜不良が生じる原因となる。
【0049】
これに対し、第1実施形態では、上記したように環状凹部48に塗料を一時的に貯留するようにしているので、塗料は、該環状凹部48から溢れた後に収容孔46の内壁に沿って容易に流動する。このため、塗料がスピットとして落下することを回避することができる。
【0050】
以上のように、塗料溜まり部である環状凹部48に塗料を一旦貯留することにより、塗料が収容孔46の内壁を伝わり易くなる。これにより、塗膜不良が生じることを回避することができる。
【0051】
また、第1実施形態では、回転動作する回転霧化頭16の収容孔46の内壁(環状凹部48の底壁)に対し、回転することなく静止した外管形成部材28の塗料吐出孔38の開口から供給された塗料が衝突する。塗料は、この衝突に際し、剪断力を受ける。その結果、塗料の粘性が低下する。
【0052】
すなわち、塗料は、粘性が低下した状態で、収容孔46から回転霧化頭16の沿面50に排出される。沿面50に到達した塗料は、遠心力の作用によって、該沿面50の直径方向外方(外周縁部)に向かって流動する。ここで、回転霧化頭16が負の帯電状態となっているため、塗料は、上記のようにして収容孔46の内壁及び沿面50を流動する過程で、負に帯電する。
【0053】
塗料は、沿面50を外周縁部に向かって流動する過程で、遠心力によって薄膜化して液糸状態となる。上記したように塗料の粘性が低下しているため、該塗料が沿面50に沿って容易に流動する。従って、液糸(塗料の薄膜)の厚みが小さくなる。
【0054】
液糸は、前記エア噴出口から吐出された圧縮エアの作用下に塗粒となって拡散し、霧状態となる。液糸の厚みが小さいため、塗粒は、回転霧化頭16の沿面50で塗料供給管を開口させ、この開口から塗料を吐出する一般的な従来技術に係る塗装装置において形成される塗粒に比して著しく微細である。
【0055】
この塗粒は、沿面50の外周縁部から被塗装物に向かって噴霧される。上記したように被塗装物がアースされ、且つ塗料が負に帯電しているので、塗粒の大部分は被塗装物に引き寄せられながら飛行し、最終的に、被塗装物に塗着する。これにより、塗装が実施される。このときの塗粒の噴霧パターン、ひいては塗装パターンは、前記エア噴出口からの圧縮エアの吐出量を制御することにより調整される。
【0056】
第1実施形態では、塗料が塗料吐出孔38から吐出される際に剪断力を受けているので、塗粒が極めて微細なものとなっている。このため、塗着ムラが生じることや、塗膜の厚みにバラツキが生じることを回避することができる。これにより、塗膜の品質向上を図ることができる。
【0057】
以上のようにして塗粒を噴霧する際、場合によっては、沿面50の前端面略中央、すなわち、管部材18のエア吐出口26の近傍に、塗粒の噴霧流に大気が巻き込まれることに起因して負圧領域が発生し易くなることがある。仮に負圧領域が発生すると、該負圧領域に塗粒が引き寄せられて対流が起こるようになる。この対流は、噴霧パターンが乱れたり、塗粒が管部材18(小径部24)の先端部に付着することで汚損が発生したりする原因となる。
【0058】
そこで、エア吐出口26及び外管形成部材28の開口32を介してエアを吐出することが好ましい。このエアにより、エア吐出口26の近傍に負圧領域が発生することが防止される。従って、上記したような不具合が惹起される懸念が払拭される。
【0059】
塗粒の噴霧が終了した後、残留した塗料があればこれを排出し、洗浄を行う。すなわち、塗料供給源からの塗料の供給を停止し且つ図示しない塗料供給バルブを閉止するとともに、洗浄液供給源からの洗浄液の供給を開始し且つ図示しない洗浄液供給バルブを開く。これにより、塗料通路42に洗浄液が流通し始める。
【0060】
洗浄液は、塗料と同じ経路を流動する。すなわち、管部材18から外管形成部材28の挿入口30及び連通路36を経由し、塗料吐出孔38に到達する。ここで、塗料吐出孔38の断面積及び開口面積が全て等しいと、各塗料吐出孔38に洗浄液が均等に分配される。従って、全ての塗料吐出孔38を洗浄することが容易である。
【0061】
塗料は、塗料吐出孔38の開口から吐出された後、回転霧化頭16の収容孔46の内壁を伝って該回転霧化頭16の沿面50の前端面から導出される。
【0062】
回転霧化頭16は、塗装時と同様に回転させておくことが好ましい。この場合、遠心力によって洗浄剤が沿面50の略全体に拡散するので、沿面50の全体を効率よく洗浄することができるからである。
【0063】
このように、外管形成部材28の外周壁と収容孔46の内壁との間に塗料流通用間隙52、すなわち、クリアランスが形成されているので、外管形成部材28の外周壁と収容孔46の内壁を清掃することが容易である。しかも、この場合、回転霧化頭16を取り外す必要も特にない。従って、洗浄を効率よく行うことができる。
【0064】
次に、本発明の第2実施形態に係る塗装装置につき説明する。なお、第1実施形態に係る塗装装置10と同一の構成要素に関しては同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。ただし、同一の構成要素であっても形状が相違するような場合等は必要に応じて別の参照符号を付し、説明することもある。
【0065】
図3は、第2実施形態に係る塗装装置70の要部概略断面図である。この塗装装置70は、管部材18の先端側にハブ72を設けている点で第1実施形態に係る塗装装置10と相違する。
【0066】
塗装装置70を構成する図示しないケーシング内には、エアモータ12と回転軸14が収容される。勿論、回転軸14は、エアモータ12の作用下に高速回転する。
【0067】
中空の回転軸14の内部には、固定支持部材20を介して大径部22が前記ケーシングに固定された管部材18が挿入される。この場合、管部材18の小径部24は、その大部分が回転軸14の開口から突出する。一方、外管形成部材73はX1方向側に延在する小径先端部74を有し、この小径先端部74に、小径部24における回転軸14の開口から突出した一部が囲繞される。なお、残部は、小径先端部74からさらに露呈する。
【0068】
第2実施形態では、小径部24の外周壁と、外管形成部材73の小径先端部74の内壁との間に形成される環状のクリアランスが連通路36となる。すなわち、この場合、管部材18の中空な小径部24が内管として機能する一方、管部材18との間に連通路36を形成した小径先端部74が外管として機能する。
【0069】
小径部24及び小径先端部74には、前記ハブ72が嵌着される。すなわち、ハブ72には、その軸線方向に沿って延在する挿入孔76が貫通形成され、この挿入孔76に、小径部24と外管形成部材73の各先端部が嵌合されている。なお、ハブ72は略円錐台形状をなし、且つX1方向からX2方向に向かうに従ってテーパー状に縮径する。
【0070】
外管形成部材73の小径先端部74には、その周方向に沿って環状に隆起した係合凸部78が形成されている。一方、ハブ72の最も小径なX2方向端部には、その周方向に沿って環状に陥没した係合凹部80が形成されており、前記係合凸部78は、この係合凹部80に係合する。この係合により、ハブ72が外管形成部材73に対して位置決め固定される。
【0071】
ここで、ハブ72の少なくとも係合凹部80が形成された部位は、ゴムや樹脂等の弾性材料からなる。従って、この部位は、挿入孔76に係合凸部78を通す際に容易に弾性変形(拡開)し、係合凸部78と係合凹部80との位置が合致したときには、その弾性復元力によって元の形状に戻る。これにより、係合凸部78と係合凹部80が互いに係合する。
【0072】
第1実施形態と同様に、管部材18が回転動作することはない。従って、外管形成部材73及びハブ72も回転動作することはない。
【0073】
図4に示すように、ハブ72には、挿入孔76の直径方向略中心から外壁に向かって延在する複数個の塗料吐出孔(塗料供給用通路)82が放射状に形成される。外管形成部材73の先端に設けられた開口は、この塗料吐出孔82に臨む。換言すれば、小径部24の外周壁と小径先端部74の内壁との間に形成された連通路36は、塗料吐出孔82に連通して該塗料吐出孔82に塗料を送る塗料通路42として機能する。
【0074】
塗料吐出孔82は、ハブ72の側壁で開口している。この開口が、塗料供給口として機能する。この場合も、上記した理由から、塗料吐出孔82同士がハブ72の周方向に沿って互いに等間隔で離間しており、且つ塗料吐出孔82の断面積及び開口面積が全て同一であることが好ましい。
【0075】
また、小径部24に形成されたエア通路40は、ハブ72の前端面で開口している(図3参照)。換言すれば、エア通路40の開口と挿入孔76の開口の位置は、互いに合致している。
【0076】
回転霧化頭16のX2方向端部には、回転軸14が係合される係合孔44が形成され、X1方向端部には、係合孔44に連通し且つX1方向からX2方向に向かうに従ってテーパー状に縮径する収容孔46が形成される。ハブ72は、この収容孔46に収容されている。従って、ハブ72が回転霧化頭16に囲繞されるとともに、ハブ72に形成された塗料供給口(塗料吐出孔82の開口)は収容孔46の内壁に臨む。
【0077】
ハブ72の外壁と、収容孔46の内壁との間には、環状の塗料流通用間隙84が形成される。この塗料流通用間隙84は、回転霧化頭16に向かって延在し、該回転霧化頭16の前端面である沿面50で開口している。塗料吐出孔82の開口(塗料供給口)から吐出された塗料は、収容孔46の内壁を伝いながら、沿面50に向かって流通する。すなわち、塗料流通用間隙84は、塗料が流通する塗料流動路である。
【0078】
以上から諒解されるように、第2実施形態では、管部材18、外管形成部材73及びハブ72が塗料供給手段を構成する。
【0079】
次に、第2実施形態に係る塗装装置70の作用効果につき、塗装方法との関係で説明する。
【0080】
塗装に際しては、第1実施形態と同様に、搬送ラインに沿って緩やかに移動して塗装ブース内に搬入された被塗装物に塗装装置70が対向するように、多関節ロボットが適切な動作を営む。さらに、エアモータ12が付勢されて回転軸14が高速回転を開始すること、及び高電圧発生器が付勢されることに伴い、回転霧化頭16が高速回転するとともに負の帯電状態となる。また、エア噴出口から圧縮エアが吐出される。
【0081】
次に、塗料供給源(塗料充填用シリンダ等)から塗料が送り出され、塗料通路42を経て、外管形成部材73の挿入口30の内壁と管部材18との間に導入される。塗料は、さらに、挿入口30及び連通路36を通過し、ハブ72に形成された塗料吐出孔82に流動した後、該塗料吐出孔82の開口(塗料供給口)から吐出される。塗料吐出孔82同士がハブ72の周方向に沿って互いに等間隔で離間しており、且つ塗料吐出孔82の断面積及び開口面積同士が全て同一であると、塗料が塗料吐出孔82の各々に均等に分配され、塗料吐出孔82の開口から均等に導出される。
【0082】
回転することなく静止したハブ72の塗料吐出孔82から吐出された塗料は、高速で回転している回転霧化頭16に形成された収容孔46の内壁に衝突する。従って、この場合も塗料が剪断力を受け、その結果、該塗料の粘性が低下する。
【0083】
粘性が低下した塗料は、遠心力の作用によって収容孔46の内壁を伝いながら、ハブ72の側壁と収容孔46の内壁とで形成される塗料流通用間隙84内を、沿面50側に向かって移動する。塗料は、その後、沿面50に形成された開口から導出される。
【0084】
以降は第1実施形態と同様にして、被塗装物に対する塗装が施される。塗料が剪断力を受けてその粘性が低下しているので、回転霧化頭16の沿面50を流動する液糸の厚みが十分に小さくなり、このため、沿面50の外周縁部から飛び出す塗粒が著しく微細なものとなる。従って、塗着ムラが生じることや、塗膜の厚みにバラツキが生じることを回避することができるので、塗装品質の向上を図ることができる。
【0085】
勿論、第1実施形態と同様に、塗粒を噴霧する間、エア吐出口26、及びハブ72の前端面の開口を介してエアを吐出するようにしてもよい。このエアにより、エア吐出口26の近傍、換言すれば、沿面50の前面略中央に負圧領域が発生することが防止される。従って、塗粒の対流が生じることが回避され、その結果、噴霧パターンが乱れたり、塗粒が管部材18(小径部24)の先端部に付着したりすることが回避される。
【0086】
洗浄についても、第1実施形態と同様に行うようにすればよい。すなわち、塗料供給源からの塗料の供給を停止し且つ図示しない塗料供給バルブを閉止するとともに、洗浄液供給源からの洗浄液の供給を開始し且つ図示しない洗浄液供給バルブを開く。これにより、塗料通路42、外管形成部材73の挿入口30、連通路36、塗料吐出孔82に洗浄液が流通する。塗料吐出孔82の断面積及び開口面積が全て等しい場合、各塗料吐出孔82に洗浄液が均等に分配されるので、全ての塗料吐出孔82を洗浄することが容易である。
【0087】
塗料は、塗料吐出孔82から吐出された後、塗料流通用間隙84に沿って、回転霧化頭16の収容孔46の内壁を伝って該回転霧化頭16の沿面50の前端面から導出される。なお、回転霧化頭16を回転させておくと、遠心力によって洗浄剤が沿面50の略全体に拡散するので、沿面50の全体を効率よく洗浄することができる。
【0088】
洗浄液を流通させたのみでは、ハブ72の外壁や収容孔46の内壁が十分に清浄化されない場合には、塗料流通用間隙84に清掃用ブラシ等を挿入して清掃を行うようにしてもよい。このように、第2実施形態では、ハブ72の外壁と収容孔46の内壁との間に塗料流通用間隙84、すなわち、クリアランスを形成するようにしているので、ハブ72の外壁と収容孔46の内壁を清掃することが容易である。
【0089】
場合によっては、ハブ72を取り外して洗浄を行うようにしてもよい。上記したように、ハブ72の少なくとも係合凹部80が形成された部位がゴムや樹脂等の弾性材料からなるので、ハブ72を取り外す際、この部位が容易に弾性変形(拡開)する。従って、ハブ72を容易に取り外すことができる。勿論、上記したように、ハブ72を取り付ける際に係合凸部78と係合凹部80を互いに係合させることも容易である。
【0090】
このように、第2実施形態においても回転霧化頭16を取り外す必要が特にない。従って、洗浄を効率よく行うことができる。
【0091】
以上のように洗浄が容易である塗装装置10、70は、任意の色の塗料を噴霧した後、いわゆる色替えを行って別色の塗料を噴霧する際に特に有利である。
【0092】
本発明は、上記した第1実施形態及び第2実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の変形が可能である。
【0093】
例えば、第2実施形態においても、図5に示すように、塗料吐出孔82の開口に対向する収容孔46の内壁に、塗料溜まり部として機能する環状凹部90を形成するようにしてもよい。また、第1実施形態において、環状凹部48を形成することなく回転霧化頭16を構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0094】
10、70…塗装装置 12…エアモータ
14…回転軸 16…回転霧化頭
18…管部材 26…エア吐出口
28、73…外管形成部材 30…挿入口
36…連通路 38、82…塗料吐出孔
40…エア通路 42…塗料通路
44…係合孔 46…収容孔
48、90…環状凹部 50…沿面
52、84…塗料流通用間隙 72…ハブ
78…係合凸部 80…係合凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗装物に塗料を噴霧して塗装を行うための塗装装置であって、
回転付勢手段によって回転動作するとともに、被塗装物に臨む沿面に供給された塗料を縁部から噴霧するための塗料噴霧部材と、
前記塗料噴霧部材に塗料を供給するための塗料供給手段と、
を有し、
前記塗料噴霧部材には、前記塗料供給手段を挿入して収容するための収容孔が形成され、
且つ前記収容孔の内壁と前記塗料供給手段との間に、前記塗料噴霧部材の沿面で開口したクリアランスが形成されていることを特徴とする塗装装置。
【請求項2】
請求項1記載の塗装装置において、前記塗料供給手段の、前記収容孔の内壁に臨む部位に、複数個の塗料供給口が形成されていることを特徴とする塗装装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の塗装装置において、前記複数個の塗料供給口が周方向に等角度で離間して配置され、且つ全開口面積が互いに等しいことを特徴とする塗装装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の塗装装置において、前記塗料供給手段がハブを含むことを特徴とする塗装装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗装装置において、前記塗料噴霧部材の沿面に開口した気体吐出口が形成されていることを特徴とする塗装装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−71050(P2013−71050A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211739(P2011−211739)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】