説明

塗装金属板

【課題】フッ素樹脂塗料を用いることなく優れた耐候性を有する塗装金属板を提供する。
【解決手段】金属板2に色相塗膜3を設ける。この色相塗膜3の外層に、環状脂肪族多塩基酸と脂肪族多価アルコールとから成り、且つ芳香族成分を含まないポリエステル樹脂と、紫外線吸収剤及び光安定剤のうち少なくとも一方とを含むクリヤー塗膜4を設ける。このような塗装金属板1は、クリヤー塗膜4は色相塗膜3との間で優れたな密着性を有し、また塗装金属板1を屋外へ長時間曝露した場合にも、塗膜の割れ、剥離等が生じることを防止することができ、更に併せて塗膜の変退色や光沢の劣化を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性が良好で建材等に好適に使用することができる塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板や熱延鋼板等の鋼板や、これらにアルミニウム−亜鉛合金めっき被覆等のめっき被覆を形成しためっき鋼板の表面に色相塗膜を施したプレコート鋼板(塗装鋼板)は、外装建材等に広く利用されている(特許文献1参照)。これらの塗装鋼板は、屋外にて長期にわたって暴露される環境下で使用されることから、塗膜のワレやはがれ、著しい変退色やチョーキング(白亜化)が生じないように、高い耐候性が求められている。
【0003】
そこで、塗装鋼板における色相塗膜の顔料、樹脂、硬化剤等の成分について検討がなされており、顔料の表面処理、樹脂モノマー成分の最適化、イソシアネートによるウレタン架橋の導入等により耐候性の向上が図られているが、短期間においては良好な耐候性を示すものが得られるものの、長期間に亘って高い耐候性を維持することは困難であった。
【0004】
また、色相塗膜の外層にクリヤー塗膜を設けることで耐候性を向上させる試みもなされているが、クリヤー塗膜を透過した光による下地色相塗膜の劣化により剥離が生じたり、クリヤー塗膜自体にクラックが生じて著しい変退色やチョーキングが発生するなど、長期にわたり十分な耐候性を維持確保することが困難であった。
【0005】
また、色相塗膜の外層にクリヤー塗膜を設けることで耐候性を向上する試みもなされているが、このようなクリヤー塗膜は色相塗膜との間の密着性が経時的に悪化し、長期間の使用により剥離が生じたり、塗装後長時間経過後の機械的加工を施す際にクラックや剥離が生じやすくなるいわゆる経時加工劣化が生じたりし、十分な耐候性が得られないものであった。
【0006】
一方、従来使用されてきた耐候性を有する塗装鋼板として、含フッ素樹脂を主成分とするフッ素樹脂塗料を使用するものも存在する。含フッ素樹脂は、フッ素原子−炭素原子間の結合エネルギーの大きさが、水素原子−炭素原子間の結合エネルギーよりも大きいことに起因する安定性によりその機能を発現している。
【特許文献1】特開2001−29883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フッ素樹脂塗料は優れた耐候性を備えた塗料であるが、原料である含フッ素樹脂や焼成顔料が高価であることから、限られた用途にのみ使用されているものであり、また機械的加工を施した際にキズ付きが生じた場合にはそのキズを起点として経時的にクラックが発生して塗膜の剥離が生じやすくなるために機械的加工後に詳細な表面検査を行い、キズ付きが生じている場合には補修をする必要があるなど加工時に煩雑な手間がかかるものである。このため、フッ素樹脂塗料を用いることなく塗装金属板の耐候性を従来のポリエステル樹脂系塗装金属板よりも向上することが求められている。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて為されたものであり、含フッ素樹脂を用いることなく、従来のポリエステル樹脂系塗装鋼板よりも優れた耐候性を有する塗装金属板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、従来から、塗装金属板の最上層にクリアー塗膜を形成することによりある程度の耐候性の向上が図られるとの知見を得ており、これは色相塗料中の顔料等の光活性による塗膜中の樹脂の分解がクリヤー塗膜によって抑制するためと考えられるが、従来一般的に使用されている芳香族成分を含有するポリエステル樹脂からなるクリアー塗膜では長期に亘る耐候性の維持は困難であり、塗膜に微細なクラックが生じたり剥離が生じたりすることは避けがたかった。
【0010】
そこで本発明者らは鋭意研究の結果、クリアー塗膜の組成を改良することによって更なる耐候性の向上を図ることを試み、本発明の完成に至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る塗装金属板1は、金属板2に色相塗膜3を設け、この色相塗膜3の外層に、環状脂肪族多塩基酸と脂肪族多価アルコールとから成り、且つ芳香族成分を含まないポリエステル樹脂と、紫外線吸収剤及び光安定剤のうち少なくとも一方とを含むクリヤー塗膜4を設けたことを特徴とするものである。このため、クリヤー塗膜4は色相塗膜3との間で優れたな密着性を有し、また塗装金属板1を屋外へ長時間曝露した場合にも、塗膜の割れ、剥離等が生じることを防止することができ、更に併せて塗膜の変退色や光沢の劣化を防止することができる。これは、光の照射等によって樹脂の劣化の反応が生じても、クリアー塗膜中における紫外線吸収剤や光安定剤の働きにより前記のような劣化の連鎖反応が遮断され、また劣化により生成される生成物の物性も脆性の小さいものとなり、これらの相乗効果が働いて良好な耐候性が発揮されるためであると推察される。
【0012】
上記塗装金属板1においては、上記環状脂肪族多塩基酸はヘキサヒドロ無水フタル酸であり、上記脂肪族多価アルコールは1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及び水素化ビスフェノールAから選択される少なくとも一種を含有するものであることが好ましく、この場合、塗装金属板1の耐候性を更に向上することができる。
【0013】
また、上記ポリエステル樹脂は、数平均分子量が1000〜10000、水酸基価が20〜150mgKOH/g、ガラス転移点が−10〜60℃の範囲であることが好ましい。この場合、クリヤー塗料の塗膜加工性、取り扱い性、耐溶剤性、塗膜硬度をバランス良く向上することができる。
【0014】
また、上記紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤とから選択される少なくとも一種であることが好ましく、この場合、塗装金属板1の耐候性を更に向上することができる。
【0015】
また、上記光安定剤は、ヒンダードアミン系光安定剤であることが好ましく、この場合、塗装金属板1の耐候性を更に向上することができる。
【0016】
また、上記塗装金属板1は、金属板2に塗布した未硬化状態の色相塗料の表面に液状のクリヤー塗料を塗布し、この状態で色相塗料及びクリヤー塗料を同時に成膜することにより上記色相塗膜3及びクリヤー塗膜4を形成したものであるが好ましい。このようにすると、色相塗膜3とクリヤー塗膜4との間の密着性を更に向上することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、フッ素塗装を施すことなく塗装金属板の塗膜に優れた耐候性を付与することができ、これにより、塗装金属板の低コスト化、使用に関する制限の緩和、廃棄時の環境への悪影響の防止、機械的加工処理時の工程の煩雑化防止を図ると共に優れた耐候性を有する塗装金属板を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0019】
本発明にて用いる金属板2としては適宜の鋼板等が使用できるが、例えば溶融アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき鋼板や、ステンレス鋼板等を挙げることができる。
【0020】
この金属板2には、塗膜の形成に先だって化成処理層を形成することができる。化成処理層としては、クロメート(クロム酸塩)処理層、リン酸塩処理層、複合酸化皮膜形成等が挙げられる。
【0021】
クロメート(クロム酸塩)処理層の形成を行うにあたっては、6価クロムと硫酸等の無機酸とを含む水溶液を用いて金属板2表面を処理することができ、これにより、3価クロムおよび6価クロムを含む水和酸化物からなる層を形成する。また、リン酸塩処理層とは、第1リン酸塩とリン酸とを含む水溶液を用いて金属板2表面を処理することによって形成された、第3リン酸塩からなる層である。リン酸塩の種類としては、リン酸亜鉛、リン酸マンガン、リン酸鉄等が挙げられる。尚、化成処理層の厚みは、リン酸塩処理層の場合には、1〜2μmの範囲内が一般的である。
【0022】
金属板2表面に形成される色相塗膜3は、ポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系等の適宜の樹脂と、顔料や染料等の着色料を含有することで着色された色相塗料を塗布、成膜することで形成することができる。
【0023】
このような色相塗膜3に含有される着色料としては、適宜のものを用いることができるが、それらの具体例としては、顔料としては酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄エロー、酸化鉄レッド(ベンガラ)、アルミニウムフレーク、マイカフレーク、着色ガラスフレーク、有機ブルー(フタロシアニンブルー)などが挙げられる。また染料としては保土谷化学興業株式会社製の「AIZEN SPILON 染料シリーズ」等が挙げられる。このような着色料の色相塗料中における配合割合は、通常0.1〜40重量%が好ましく、特に0.5〜35重量%が好ましい。
【0024】
特に、色相塗料中には顔料としてアルミニウム粉を含有させることにより、塗膜にメタリックな外観を付与することができる。このときアルミニウム粉は色相塗膜3中における含有量が10〜25重量%の範囲となるように色相塗料中に配合することが好ましい。。
【0025】
色相塗料の塗布、成膜にあたっては、スプレー塗装、バーコーター塗装、ローラーカーテンコーター、カーテンフローコーター、ロールコーターなどでの塗装など適宜の手法で塗布を行い、次いで熱風乾燥炉や誘電加熱装置等を通して加熱するなどして硬化乾燥させることで成膜することができる。色相塗膜3の塗布量や膜厚は適宜調整されるが、膜厚が10〜20μmの範囲となるようにすることが好ましい。
【0026】
また、上記色相塗膜3の下層には、塗料に対する金属板2の影響を低減して塗膜の密着性を向上させたり、防錆性を付与したりするなどの目的のために下塗塗膜5を設けるようにしても良い。下塗塗膜5を形成するための下塗塗料(プライマー)としては、エポキシ系塗料、ポリウレタン樹脂系塗料等の適宜のものを用いることができ、またこれには必要に応じてクロム酸塩を主体とする防錆顔料等を含有させることができる。下塗塗膜5の形成にあたっては、下塗塗料を金属板2上に、スプレー塗装、バーコーター塗装、ローラーカーテンコーター、カーテンフローコーター、ロールコーターなどでの塗装など適宜の手法で塗布し、次いで熱風乾燥炉や誘電加熱装置等を通して加熱するなどして硬化乾燥させることで成膜して下塗塗膜5を形成することができる。下塗塗膜5は、化成処理層を設ける場合には化成処理層に密着するように形成することができ、化成処理層を設けない場合には金属板2に直接密着するように形成することができる。またこのとき、下塗塗膜5として組成の異なる二種以上のものを順次設けて二層以上の多層の下塗塗膜5を形成しても良い。下塗塗膜5の塗布量や膜厚は適宜調整されるものであるが、膜厚が1〜10μmの範囲となるようにすることが好ましい。
【0027】
本発明では、上記のように金属板2に形成された色相塗膜3の外層に、ポリエステル樹脂と、紫外線吸収剤及び光安定剤のうち少なくとも一方とを含むクリアー塗料を塗布、成膜して、クリヤー塗膜4を形成する。
【0028】
上記ポリエステル樹脂としては、環状脂肪族多塩基酸及び脂肪族多価アルコールを含み、且つ芳香族成分を含まないモノマー成分をエステル重合した構造を有するものが用いられる。モノマー成分として鎖状酸モノマーや芳香族モノマーを含む場合には、色相塗膜3に対するクリヤー塗膜4の密着性が十分に得られないおそれがあり、また屋外への長時間曝露時に割れ、剥離、変退色、光沢劣化等が生じるおそれがあって十分な耐候性が得られなくなってしまう。
【0029】
上記環状脂肪族多塩基酸としてはヘキサヒドロ無水フタル酸を挙げることができる。また上記脂肪族多価アルコールとしては、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、水素化ビスフェノールA等を挙げることができる。
【0030】
このようなポリエステル樹脂は、公知の方法を用いて製造することができる。
【0031】
また、このポリエステル樹脂は、数平均分子量が1000〜10000であることが好ましい。数平均分子量が1000未満の場合は、このクリアー塗料にてクリヤー塗膜4を形成したとき架橋密度が高くなりすぎるため柔軟性が低下し、加工性に問題を生じるおそれがある。また、数平均分子量が10000を超えると、溶液の粘度が高くなり、取扱いが困難となり、クリアー塗料とした場合の塗装作業性に問題を生じるおそれがある。また、ポリエステル樹脂の水酸基価(OH価)は20〜150mgKOH/gの範囲が好ましく、水酸基価が20mgKOH/gに満たないと、クリアー塗料の硬化性が低くなって、得られるクリヤー塗膜4に充分な被膜硬度が得られなくなったり、耐溶剤性が低下するおそれがあり、また水酸基価が150mgKOH/gを超えると、得られるクリヤー塗膜4の塗膜加工性が低下するおそれがあって好ましくない。またこのポリエステル樹脂の酸価は1〜25mgKOH/gの範囲が好ましい。またポリエステル樹脂のガラス転移温度は、−10〜60℃であることが好ましく、ガラス転移温度が−10℃に満たないと、得られるクリヤー塗膜4の硬度が低下するおそれがあり、ガラス転移温度が60℃を超えると、得られるクリヤー塗膜4の塗膜加工性が低下するおそれがあって好ましくない。
【0032】
また、クリアー塗料中には、ポリエステル樹脂の硬化剤を含有させることが好ましい。このような硬化剤としては、熱解離型ブロックイソシアネート基を1分子中に少なくとも2個含有するポリイソシアネート化合物や、メラミン等を挙げることができる。
【0033】
このようなポリイソシアネート化合物の例としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートのようなイソシアネートモノマーと呼ばれる化合物、これらのビウレット体、イソシアヌレート体、トリメチロールプロパンのアダクト体のようなポリイソシアネート誘導体などの、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の一部又は全部をブロック剤でブロック化して製造したものが挙げられる。このブロック化剤の例としては、例えば、ε−カプロラクタム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソアミルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシムなどのケトオキシム系ブロック化剤、フェノール、クレゾール、カテコール、ニトロフェノールなどのフェノール系ブロック化剤、イソプロパノール、トリメチロールプロパンなどのアルコール系ブロック化剤、マロン酸エステル、アセト酢酸エステルなどの活性メチレン系ブロック化剤などが挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0034】
硬化剤の含有量は適宜調整されるものであるが、クリヤー塗膜4に特に優れた耐候性を付与するためには、ポリエステル樹脂中のヒドロキシル基と硬化剤中の反応性官能基(ポリイソシアネート化合物の場合は熱解離型ブロックイソシアネート基)とのモル比が、ポリエステル樹脂中のヒドロキシル基1モルに対して硬化剤中の反応性官能基が0.8〜1.5モルの範囲であることが好ましい。また、メラミンを含有させる場合にはポリエステル樹脂100重量部に対してメラミンが10〜50重量部の範囲となるようにすることが好ましい。
【0035】
また、クリアー塗料中には硬化反応触媒を含有させても良い。硬化反応触媒としては、例えばスズ化合物や亜鉛化合物が挙げられる。スズ化合物としては、例えば塩化スズ、臭化スズなどのハロゲン化スズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレートなどの有機スズ化合物などが、亜鉛化合物としては、例えば、塩化亜鉛、臭化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、オクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛などの有機酸の亜鉛塩などが挙げられる。硬化反応触媒としてのスズ化合物や亜鉛化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよく、また他の硬化反応触媒と併用してもよい。硬化反応触媒は、クリアー塗料中の全加熱残分に対して、0.01〜5重量%の割合で用いることが好ましい。この量が0.01重量%未満であると、硬化反応の促進効果が十分に発揮されないことがあるし、5重量%を超えると、クリヤー塗膜4の耐水性や耐湿性などが低下し、ひいてはクリヤー塗膜4の耐汚染性、汚染除去性、耐候性などが低下する原因となることがある。硬化速度及びクリヤー塗膜4の物性のバランスの面から、この硬化反応触媒のより好ましい配合量は、組成物中の全加熱残分に対して0.01〜2重量%の範囲である。
【0036】
また紫外線吸収剤(UVA)としては、下記式(1)に示すようなベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、下記式(2)〜(7)に示すようなヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤等を用いることができ、これらは一種単独で用いるほか、二種以上を併用することができる。このような紫外線吸収剤としては、チバ・スペシャリティ・ケミカル株式会社から提供されている品番「TINIVIN 384−2」、「TINIVIN 400」、「TINIVIN 411L」、「TINIVIN 900」、「TINIVIN 928」等を用いることができる。
【0037】
【化1】

【0038】
【化2】

【0039】
【化3】

【0040】
【化4】

【0041】
また、光安定剤(HALS)としては、下記式(8)(9)に示すような高分子量タイプヒンダードアミン系光安定剤、下記式(10)〜(13)に示すようなヒンダードアミン系光安定剤等を用いることができ、これらは一種単独で用いるほか、二種以上を併用することができる。このような光安定剤としては、チバ・スペシャリティ・ケミカル株式会社から提供されている品番「TINUVIN 111 FDL」、「TINUVIN 123」、「TINUVIN 144」、「TINUVIN 292」等を挙げることができる。
【0042】
【化5】

【0043】
【化6】

【0044】
クリアー塗料中にはこれらの紫外線吸収剤と光安定剤をいずれか一方のみ含有させるようにしても良いが、双方共に含有させることがより好ましい。このとき紫外線吸収剤と光安定剤の含有量は適宜調整されるものであるが、これらの含有量が過剰であるとクリヤー塗膜4に著しい黄着色が生じるおそれがあり、またクリヤー塗料の保存時などに低温環境において紫外線吸収剤や光安定剤が結晶化して凝集しやすくなり、これを再生することが困難となるおそれがある。そこで、クリアー塗料中に紫外線吸収剤のみを含有させる場合にはその含有量をクリアー塗料中の樹脂成分全量に対して1〜3重量%の範囲とすることが好ましく、また光安定剤のみを含有させる場合にはその含有量を樹脂成分全量に対して1〜3重量%の範囲とすることが好ましい。また紫外線吸収剤と光安定剤とを併用する場合には、紫外線吸収剤の含有量を樹脂成分全量に対して0.5〜3重量%の範囲、光安定剤の含有量を樹脂成分全量に対して0.5〜3重量%の範囲とし、また更に両者の合計量を樹脂成分全量に対して1〜5重量%の範囲となるようにすることが好ましい。
【0045】
クリアー塗料の塗布、成膜にあたっては、色相塗料が塗布された金属板2に対して、スプレー塗装、バーコーター塗装、ローラーカーテンコーター、カーテンフローコーター、ロールコーターなどでの塗装など適宜の手法で塗布を行い、次いで熱風乾燥炉や誘電加熱装置等を通して加熱するなどして硬化乾燥させることで成膜することができる。
【0046】
また、クリヤー塗料の塗布及び成膜は色相塗料が成膜された後に行っても良いが、色相塗料のウェット膜上にクリヤー塗料をスプレーやカーテンコータ等により塗布した後、色相塗料とクリアー塗料とを同時に焼付乾燥して成膜を行う、いわゆるウェットオンウェット塗装と焼付により成膜しても良い。この場合、形成される色相塗膜3とクリヤー塗膜4との間の密着性が更に向上することとなる。
【0047】
クリアー塗料の硬化に要する温度及び時間は、各成分の種類や使用する反応触媒により左右されるが、180〜250℃の範囲の温度で、10秒〜数分程度が一般的である。このクリアー塗料を形成する際の塗布量や膜厚は特に制限されないが、あまりに厚膜であると成膜時にワキが生じるおそれがあり、通常は膜厚が3〜20μmの範囲となるようにすることが好ましい。
【0048】
またこのようにして形成されるクリヤー塗膜4のガラス転移温度は、10〜80℃となるようにすることが好ましく、このガラス転移温度が10℃に満たないと、塗膜硬度が低下するおそれがあり、ガラス転移温度が80℃を超えると加工性が低下するおそれがあり、好ましくない。
【0049】
以上のように構成される塗装鋼板等の塗装金属板1では、クリヤー塗膜4は色相塗膜3に対して優れた密着性を有し、また、塗装金属板1を屋外へ長時間曝露した場合にも、塗膜の割れ、剥離等が生じることが防止され、更に塗膜の変退色や光沢の劣化も防止されることとなる。これは、光の照射等によって樹脂の劣化の反応が生じても、クリアー塗膜中における紫外線吸収剤や光安定剤の働きにより前記のような劣化の連鎖反応が遮断され、また劣化により生成される生成物の物性も脆性の小さいものとなり、これらの相乗効果が働いて良好な耐候性を発揮するものと推察される。
【0050】
このため、フッ素樹脂塗装を施すことなく塗装金属板1の塗膜に優れた耐候性を付与することができ、これにより、塗装金属板1の低コスト化、使用に関する制限の緩和、廃棄時の環境への悪影響の防止、機械的加工処理時の工程の煩雑化防止を図ると共に優れた耐候性を有する塗装金属板1を得ることができるものである。
【実施例】
【0051】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
厚み0.35mmのアルミニウム含量55重量%の溶融アルミニウム−亜鉛めっき鋼板の表面に塗布型クロメート処理をCr量換算で40mg/m2となるるように施した。
【0052】
次に、下塗塗料(日本ファインコーティングス株式会社製「NSC667プライマー」)を塗布し、最終到達板温200℃で30秒間加熱することで焼付硬化させて膜厚4μmの下塗塗膜5を形成した。
【0053】
次に、色相塗料(日本ファインコーティングス株式会社製「NSC300HQ ブラウン色」;ポリエステル系;カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄エロー及び酸化鉄レッドを含有)を塗布し、最終到達板温220℃で40秒間加熱することで焼付硬化させて、膜厚15μm、カーボンブラック含有量0.5重量%、酸化チタン含有量3重量%、酸化鉄エロー含有量6重量%、酸化鉄レッド含有量6重量%の色相塗膜3を形成した。
【0054】
この色相塗膜3の表面にクリヤー塗膜4を形成し、塗装鋼板を得た。
【0055】
クリヤー塗膜4を形成するためのクリヤー塗料としては、実施例1,3,4並びに比較例1,2については表1,2中に示される各ポリエステル樹脂ワニスに対して、架橋剤であるブロックイソシアネート(住化バイエルウレタン株式会社製「デスモジュール VPLS2253」)を水酸基とイソシアネート基との当量比が1:1.2となるように配合し、更にポリエステル樹脂100重量部に対して、硬化触媒として有機スズ系触媒(三共有機合成株式会社製「SCAT−24」)を0.5重量部、アクリル樹脂系表面調整剤を0.5重量部、ワックスを0.2重量部(有効成分量)添加した。
【0056】
また実施例2並びに比較例3,4については、表1,2中に示される各ポリエステル樹脂ワニスに対して、架橋剤であるメラミン樹脂ワニス(大日本インキ化学工業株式会社製「スーパーベッカミン J−820−60」)を、ポリエステル樹脂の固形分100重量部に対して固形分比率で20重量部配合し、更にアクリル樹脂系表面調整剤を0.5重量部、ワックスを0.2重量部(有効成分量)添加した。
【0057】
また、クリヤー塗料中に紫外線吸収剤(チバ・スペシャリティケミカル株式会社製「TINUVIN400」)、光安定剤(チバ・スペシャリティ・ケミカル株式会社製「TINUVIN144」)を配合する場合には、あらかじめ必要量をキシロールに溶解してから配合した。
【0058】
そして、このクリヤー塗料を色相塗料の表面にバーコーターにて塗布し、最終到達板温230℃で40秒間加熱することにより焼付硬化させて、表1,2に示す膜厚のクリヤー塗膜4を形成し、塗装鋼板を得た。
【0059】
(実施例5)
色相塗料を塗料用シンナー(日本ファインコーティングス製「Nシンナー600(NFC)」)にて希釈して室温におけるNo4フォードカップで測定される粘度が20秒となるように調整した後、バーコータにて塗布し、続いて色相塗装がウェットな状態で直ちにエアースプレーガン塗装機を用いてクリヤー塗料を塗布し、次いで最終到達板温230℃で40秒間加熱することで色相塗料とクリヤー塗料を同時に焼付硬化させた。それ以外は実施例4と同様にして塗装鋼板を得た。
【0060】
(比較例5)
クリヤー塗膜4の形成を行わなかった以外は上記実施例1等と同様にして塗装鋼板を得た。
【0061】
(比較例6)
塗装鋼板として、フッ素樹脂塗装鋼板(日鉄鋼板株式会社製「エバーフロン」)を用いた。
【0062】
《促進耐候性試験1》
各実施例及び比較例の塗装鋼板について、エッジ部分にポリエステルテープを貼着してカバーした状態で、JIS K5400(1990)9.8に準拠した試験を行い、このときサンシャインカーボンアーク灯式による光沢保持率及び色相変化の測定を行った。このとき、ブラックパネル温度を83℃として連続照射試験を行い、4000時間経過後の評価を以下の基準により行った。
光沢保持率
◎…70%以上。
○…50%以上70%未満。
△…30%以上50%未満。
×…30%未満
色相変化
◎…3.0以下。
○…3.0超、6.0以下。
△…6.0超、9.0以下。
×…9.0超。
【0063】
《促進耐候性試験2》
各実施例及び比較例の塗装鋼板について、エッジ部分にポリエステルテープを貼着してカバーし、超促進耐候性試験機(岩崎電気製「SUV−F2」)および耐湿試験機(スガ試験機製「CT−3型」)を用い、照射時間24時間、ブラックパネル温度63℃、紫外線強度100mW/cmの条件でのUV照射試験と、試験時間24時間、槽内温度50℃、槽内湿度98%以上の条件での湿潤試験を1サイクルとする試験サイクルを10サイクル繰り返して行った後の、光沢保持率及び色相変化の測定を行い、下記基準により評価を行った。
光沢保持率
◎…70%以上。
○…50%以上70%未満。
△…30%以上50%未満。
×…30%未満
色相変化
◎…3.0以下。
○…3.0超、6.0以下。
△…6.0超、9.0以下。
×…9.0超。
【0064】
《曲げ密着性試験》
各実施例及び比較例の塗装鋼板について、20℃の室温において塗装面を外側として180°折り曲げた後、セロハン粘着テープを折り曲げ部分の表面にあてがい、手指で十分に擦って貼着させた後、これを直ちに引きはがした。この試験を折り曲げ時のT数を変更して行い、折り曲げ部分におけるセロハン粘着テープを引きはがした箇所を目視で観察し、以下のように評価を行った。T数とは、折り曲げ時に折り曲げ部分の内側に挟む塗装鋼板と同じ厚さの板の数である。
◎…0T折り曲げで塗膜の剥離なし。
○…塗膜の剥離が2T以下で発生。
×…塗膜の剥離が3T以下で発生。
【0065】
《塗膜硬度》
各実施例及び比較例の塗装アルミニウム−亜鉛合金めっき鋼板の上塗り被膜の硬度を、JIS K5400(1990)8.4.2に準拠して求めた。
○…素地に至る塗膜の亀裂が3H以上で発生。
△…素地に至る塗膜の亀裂がH以上で発生。
×…素地に至る塗膜の亀裂がF以上で発生。
【0066】
《密着性試験》
各実施例及び比較例につき、塗装鋼板を98℃以上の沸騰したイオン交換水中に6時間浸漬した後、23℃のイオン交換水中に18時間浸漬する処理を1サイクルとしてこれを5サイクル施した後、室温で2時間乾燥させ、次いで1mm間隔で10×10=100個の塗膜カット碁盤目を作った。この塗装鋼板をエリクセンにて6mm押出を行ってセロハン粘着テープを塗膜に粘着させ、これを直ちに引きはがし、下記評価基準にて評価した。
◎…クリヤー塗膜の剥離なし。
○…クリヤー塗膜の剥離5%未満。
×…クリヤー塗膜の剥離5%以上又は色相塗膜以下の塗膜の剥離が発生。
【0067】
但し、クリヤー塗膜を形成していない比較例5については次の基準で評価した。
○…塗膜の剥離なし。
×…塗膜の剥離発生。
【0068】
《塩水噴霧試験》
各実施例及び比較例につき、横7cm、縦15cmの寸法にカットした塗装鋼板の端縁部をポリエステルテープにてシールし、更にこの塗装鋼板の上下に分割した下側の領域にカッターナイフにて十字に交差する2本のカット傷を形成し、これを試験サンプルとした。この試験サンプルに対してJIS K 5400 9.1に定める試験方法によって塩水噴霧試験を3000時間行い、平面部の塗膜及びカット部について白錆、ブリスターの発生状況を観察し、下記評価基準にて評価した。
◎…上側の領域に異常なし、且つ下側の領域のカット部の錆ふくれが片側5mm以下
○…上側の領域に異常なし、且つ下側の領域のカット部の錆ふくれが片側10mm以下
×…上側の領域に錆ふくれ発生
【0069】
【表1】

【0070】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る塗装金属板の一例を示す概略の断面図である。
【符号の説明】
【0072】
1 塗装金属板
2 金属板
3 色相塗膜
4 クリアー塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板(2)に色相塗膜(3)を設け、この色相塗膜(3)の外層に、環状脂肪族多塩基酸と脂肪族多価アルコールとから成り、且つ芳香族成分を含まないポリエステル樹脂と、紫外線吸収剤及び光安定剤のうち少なくとも一方とを含むクリヤー塗膜(4)を設けたことを特徴とする塗装金属板。
【請求項2】
上記環状脂肪族多塩基酸がヘキサヒドロ無水フタル酸であり、上記脂肪族多価アルコールが1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール及び水素化ビスフェノールAから選択される少なくとも一種を含有するものである特徴とする請求項1に記載の塗装金属板1。
【請求項3】
上記ポリエステル樹脂の数平均分子量が1000〜10000、水酸基価が20〜150mgKOH/g、ガラス転移点が−10〜60℃の範囲であることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
上記紫外線吸収剤がベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤とヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤とから選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項5】
上記光安定剤がヒンダードアミン系光安定剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の塗装金属板。
【請求項6】
金属板(2)に塗布した未硬化状態の色相塗料の表面に液状のクリヤー塗料を塗布し、この状態で色相塗料及びクリヤー塗料を同時に成膜することにより上記色相塗膜(3)及びクリヤー塗膜(4)を形成したものであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の塗装金属板。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−55137(P2007−55137A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244758(P2005−244758)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000207436)日鉄住金鋼板株式会社 (178)
【出願人】(503234872)日本ファインコーティングス株式会社 (13)
【Fターム(参考)】