説明

塗装鋼板及びサイジング材

【課題】 エンボス加工時の塗膜割れが軽微で,さらに,経時でも塗膜割れが広がらず,加工部の耐食性を長期間に渡って保持することができる塗装鋼板及びサイジング材を提供する。
【解決手段】 本発明によれば,鋼板の少なくとも片面に,1層以上の塗膜を有する塗装鋼板であって,少なくとも最表層に,主樹脂としてポリエステル系樹脂を含み,ゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であり,かつ,サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機による耐候性試験を500時間実施した後の光沢保持率が60%以上である熱硬化型樹脂塗膜を有する塗装鋼板,及び該塗装鋼板をエンボス成形してなるサイジング材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,塗装鋼板及びサイジング材に関するものであり,特に,サイジング材に使用されるエンボス加工を施された後でもエンボス加工部の耐食性に優れた塗装鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装鋼板は,屋根材やサイジング材として建材分野で幅広く使用されている。塗装鋼板をサイジング材に使用する場合には,エンボス加工と呼ばれる処理を行い,表面にスタッコ調,リシン調,木目柄等の装飾模様を凹凸で付与して,意匠性を高める方法が広く用いられている。
【0003】
近年,エンボス加工が施されたサイジング材市場において,より深いエンボス加工を施すことにより陰影を強調し,意匠性を高めたものが流行となっている。しかし,従来から使用されていた塗装鋼板に対して深いエンボス加工を行うと,下地のめっきが割れたり,塗膜が割れたりする問題があった。また,加工時に割れが生じていなくても,長期間屋外で使用すると割れや剥離が生じる問題があった。これらのめっき割れや塗膜割れ(塗膜剥離)は,サイジング材の外観の低下と長期間の屋外使用において腐食を生じさせる可能性があった。
【0004】
このような背景のもと,エンボス加工用の塗装鋼板は,下地めっき鋼板と塗膜の両面から改良が進められた。例えば,特許文献1では,下地めっき鋼板の面からの改良が提案されている。この方法は,高耐食性めっき鋼板として知られている溶融Al−Zn系合金めっき鋼板において,溶融めっき時又はめっき後の熱処理を制御することにより,溶融Al−Zn系合金めっき層の加工性を改善し,加工時のめっき割れを軽減し,さらにはめっき割れによって引き起こされる塗膜割れを軽減するものである。
【0005】
確かにこの方法により,加工直後の塗膜割れを防ぐことと,初期の耐食性を保持することは可能である。しかし,長期間に渡り屋外で使用すると,加工部には弾性的な歪みエネルギーが加わったままであるため,この歪みエネルギーにより塗膜割れが生じたりすることがあり,これによる外観の低下と,塗膜割れが生じた部分での腐食発生の懸念が残されていた。
【0006】
また,特許文献1に記載の方法では,塗膜のガラス転移温度を30〜90℃として,塗膜の面からも加工性の向上を図っている。そして,ガラス転移温度が90℃を超えると塗膜の加工性が低下して,高加工性の下地めっき鋼板を使用しても加工時に塗膜割れが生じると述べている。確かに,初期の塗膜割れは,ガラス転移温度を30〜90℃程度に設定することである程度は防ぐことは可能であるが,経時での塗膜割れ現象は必ずしもガラス転移温度では判断できない。
【0007】
また,サイジング材について考慮すると,サイジング材は屋外で使用されるので,太陽光や風雨に対する耐劣化性(耐候性)を有する必要があるが,ガラス転移温度では耐候性を判断することはできない。
【0008】
即ち,塗膜のガラス転移温度を制御して,加工時に塗膜割れが生じないようにしても,その部分には弾性的な歪みエネルギーが残存しているため,長期間に渡り屋外で使用すると,塗膜割れと腐食が引き起こされる可能性が残されている。したがって,あわせて優れた耐候性を付与しないと長期間の屋外使用で塗膜が劣化して,チョーキング,割れ,剥離を起こし,腐食が引き起こされる可能性が残されていた。
【0009】
このように,加工性に優れた下地めっき鋼板を使用する場合であっても,塗膜自体の健全性を長期間保持することが必要なのである。
【0010】
一方,このようなニーズに合う塗膜としては,フッ素樹脂塗膜が知られている。確かに,フッ素樹脂塗膜は,優れた加工性と長期間の安定性を有するため,深いエンボス加工を施すサイジング材には有効なものである。しかし,工業面では,フッ素樹脂塗装は高価であるという問題があった。
【0011】
以上述べたように,安価で長期間に渡って加工部の耐食性を保持し得るエンボス加工用塗装鋼板は存在せず,早急な開発が望まれていた。
【0012】
【特許文献1】特許第3507823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,長期間に渡ってエンボス加工部の耐食性を保持することができる,新規かつ改良された塗装鋼板及びサイジング材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは,上記課題を解決すべく,様々な樹脂とめっき鋼板を使用して作製した塗装鋼板に対してエンボス加工を行い,塗装鋼板の物性と加工時の塗膜割れ,さらには長期間放置した場合の塗膜割れと腐食挙動を詳細に検討した。その結果,本発明者らは,塗膜の物性を所定の範囲に制御することにより,エンボス加工時のみならず,長期間放置した後であっても加工部に割れや剥離が生じないか,又は生じたとしても軽微であって,その結果として,腐食も軽微な塗装鋼板を見出し,この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明がその要旨とするところは,以下のとおりである。
(1) 鋼板の少なくとも片面に,1層又は2層以上の塗膜を有する塗装鋼板であって:少なくとも最表層の塗膜は,主樹脂としてポリエステル系樹脂を含み,ゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であり,かつ,サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機による耐候性試験(JIS B7753−1993)を500時間実施した後の光沢保持率が60%以上である熱硬化型樹脂塗膜であることを特徴とする,塗装鋼板。
(2) 前記最表層の塗膜が,クリヤー塗膜であることを特徴とする,(1)に記載の塗装鋼板。
(3) 前記最表層の塗膜が,平均粒径10〜500μmの着色粒子を含有することを特徴とする,(1)又は(2)に記載の塗装鋼板。
(4) 前記鋼板が,少なくともZn及びAlを含有するめっき鋼板であることを特徴とする,(1)〜(3)の何れかに記載の塗装鋼板。
(5) (1)〜(4)の何れかに記載の塗装鋼板をエンボス加工してなるサイジング材。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば,エンボス加工時のみならず,長期間屋外で使用しても,エンボス加工部の割れが軽微でエンボス加工部の耐食性を長期間に渡って保持することができる塗装鋼板およびこれにエンボス加工してなるサイジング材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明者らは,上記課題を解決すべく,様々な樹脂とめっき鋼板を使用して作製した塗装鋼板に対してエンボス加工を行い,塗装鋼板の物性と成形時の塗膜割れ(剥離),さらには長期間放置した場合の塗膜割れと腐食挙動を詳細に検討した。その結果,エンボス加工は,引っ張り歪みのみが関与する単なる曲げ加工ではなく,圧縮と引っ張りの歪みの両方が関与する絞り成形的な要素があること,特に,意匠性を考慮した深いエンボス加工においてはその傾向が強いことが判明した。
【0019】
さらに検討を進めた結果,エンボス加工時に変形した塗膜の内部には弾性的な歪みエネルギーが蓄積され,その歪みエネルギーが大きい塗膜は,座屈し易く,塗膜が破壊・剥離し易いこと,また,加工直後に起きなくても,長期間放置すると塗膜の破壊・剥離が起き易いこと,その結果,下地のめっき鋼板が表面に露出して腐食が発生することを見出した。逆に,歪みエネルギーが小さい塗膜は座屈し難く,長期間に渡って塗膜が破壊・剥離し難いこと,その結果,めっき鋼板が表面に露出せず,又は露出したとしても僅かであるため,長期間に渡って腐食を抑制することができることを見出した。
【0020】
このような塗膜の内部に蓄積する弾性的な歪みエネルギーが小さくなる塗膜について研究を進めた結果,本発明者らは,変形後塗膜内部に蓄積する弾性歪みエネルギーは,塗膜を構成する主樹脂の架橋点間分子量に依存することを見出した。なお,樹脂の架橋点間分子量は,樹脂のゴム状弾性領域の平衡弾性率と相関があることは一般にもよく知られている。
【0021】
ここで,樹脂のゴム状弾性率の詳細を以下に説明する。
【0022】
粘弾性体である樹脂は,温度,時間(動的貯蔵弾性率の場合は周波数)に依存して,弾性率が変化する。架橋された熱硬化型樹脂の場合,低温もしくは短時間(動的貯蔵弾性率の場合は高周波)の領域では,高い弾性率(一般にはこの領域をガラス状弾性領域と呼び,10〜1010Pa付近の値)を示す。そして,温度が高くなるか,もしくは時間が長くなるに従い(動的貯蔵弾性率の場合,周波数が低くなるに従い),弾性率が急激に減少する領域が現れる(一般には転移領域と呼ばれる)。さらに高温もしくは長時間(動的貯蔵弾性率の場合,低周波)になると,一定の平衡弾性率となり,この平衡弾性領域をゴム状弾性領域と呼ぶ(一般には10〜10Pa付近の値を示す)。
【0023】
本発明は,動的粘弾性測定装置にて,一定周波数(角周波数6.28rad/sec),温度−50〜200℃の領域で測定した動的貯蔵弾性率のうち,高温のゴム状弾性領域で現れる動的貯蔵弾性率の最小値で塗膜の特性を定義したものである。なお,動的貯蔵弾性率とは,一般にE’で表され,E’=(σ/γ)cosδで定義される。但し,σは応力の最大振幅,γは歪みの最大振幅,δは応力と歪みとの間の位相角を表す。
【0024】
エンボス加工が施されたサイジング材は屋外で使用されるため,屋内のみで使用される材料とは異なり,動的貯蔵弾性率に加えて,塗膜の耐候性が加工部の耐食性に大きな影響を与えることが判明した。即ち,エンボス加工性が同じ塗膜であっても,耐候性の高い塗膜の方が長期間の屋外使用で加工部の耐食性に優れていた。これは,塗膜が太陽光等の自然環境で劣化し,チョーキング,割れ,剥離を生じ,下地のめっき鋼板が露出して腐食が発生したためであり,この傾向は平面部よりも歪みの大きなエンボス加工部で顕著であった。
【0025】
本発明の塗装鋼板は,鋼板の少なくとも片面に1層又は2層以上の塗膜を有する塗装鋼板であって,最表層の塗膜が,主樹脂としてポリエステル系樹脂を含み,ゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であり,かつ,JIS B7753−1993に記載されたサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機による耐候性試験を500時間実施した後の光沢保持率が60%以上である熱硬化型樹脂塗膜であることを特徴とする,塗装鋼板である。
【0026】
本発明の塗装鋼板において,鋼板の少なくとも片面の最表層に,ポリエステル系樹脂を主樹脂としたゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下の熱硬化型樹脂塗膜を被覆しているのは,ゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Paを超えると,塗膜を構成する樹脂の架橋点間分子量が小さくなり,変形した後に塗膜内部に蓄積する弾性的な歪みエネルギーが大きくなるからである。即ち,エンボス加工を施した直後は塗膜が外観上健全に見える場合であっても,経時で塗膜の破壊や剥離が生ずる可能性が高くなり,不適当であるからである。
【0027】
また,該熱硬化型樹脂塗膜をJIS B7753−1993に記載されたサンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機による耐候性試験を500時間実施した後の光沢保持率が60%以上であることとしているのは,本発明者らが検討を進めた結果,500時間の処理は日照の強い沖縄の1.5年程度に相当し,その条件で60%以上の光沢保持率を示す塗膜は,屋外で長期間使用した後でも,加工部の塗膜劣化(割れ・剥離)が軽微であり,腐食し難いからである。より好ましくは上記光沢保持率が70%以上である。
【0028】
また,鋼板の少なくとも片面に被覆する塗膜が複層構造である場合,その塗膜における全ての層の動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であることが最も好ましいが,塗装鋼板に必要とされるエンボス加工性以外の性能を満たすために,全ての層に本発明の範囲の動的貯蔵弾性率を有するものを適用することが困難な時は,少なくとも最表層の塗膜が本発明の範囲の動的貯蔵弾性率と耐候性を満たしていれば,満足し得るレベルまでエンボス加工性を向上させることができる。
【0029】
また,本発明の塗装鋼板においては,最表層の塗膜をクリヤー塗膜とする,所謂トップクリヤー型塗装鋼板としても良く,この場合でも,優れた加工部耐食性が得られる。この時も光沢保持率は60%以上とすると,屋外使用でも優れた加工部耐食性を示し,より好ましくは70%以上である。ここで,最表層の塗膜をクリヤー塗膜とするのは,意匠性を向上させるためである。また,最表層の塗膜に着色粒子を含有させる場合には,最表層の塗膜をクリヤー被膜とすると,着色粒子の着色効果を際立たせることができる。なお,ここでいうクリヤー塗膜とは,着色顔料が含まれていないもの,又は着色顔料が含まれていても着色粒子の着色効果を阻害しない程度のものをいう。
【0030】
本発明の塗装鋼板は,最表層の塗膜に平均粒径が10〜500μmの着色粒子を含有していても良い。
【0031】
通常の塗膜において粒径の大きな着色粒子を入れると,エンボス加工時に着色粒子と塗膜の界面で塗膜に割れ(剥離)が生ずる可能性や,長期間の屋外使用で同様の現象が起こる可能性があるが,本発明の最表層の塗膜中に添加すると,それを防ぐことができることを見出した。これは,加工した後に塗膜内部に蓄積する弾性的な歪みエネルギーが小さいため,着色粒子と塗膜の界面での割れが生じ難いためと考えられる。
【0032】
着色粒子の平均粒径を10〜500μmとしたのは,10μm未満では,着色粒子の粒子の外観形状が付与する意匠性の効果が不十分であり,一方,500μm超では,塗料を焼き付ける際に溶剤が抜け難くなるため,所謂ワキと呼ばれる現象が多く発生するようになるので好ましくないからである。より好ましくは20〜200μmである。
【0033】
なお,ここで述べた着色粒子は,その色のみならず,外観形状により意匠性を付与する特徴を持つもので,一般に使用している粒径10μm以下の着色顔料や染料とは異なるものであり,本発明の塗膜に粒径10μm以下の着色顔料や染料を含んでも全く問題はない。
【0034】
本発明の着色粒子は特に限定されるものではなく,通常,添加剤として使用されている粒子をそのまま適用することができる。例えば,ポリアクリロニトリル粒子,ポリエステル粒子,ポリウレタン粒子等の樹脂系粒子,マイカ,雲母,アルミ粉,ガラスビーズ等の無機系粒子などを挙げることができる。これらは単独で使用しても良く,2種類以上を混合しても使用しても良い。例えば,白色粒子を白色アクリル粒子と白色マイカの両方を使用する等,同一色を複数の粒子で構成しても良いし,白色粒子をポリアクリロニトリル粒子,青色粒子をポリエステル粒子としても良い。また,着色粒子の形状は特に限定されるものではなく,例えば,球状,鱗片状,円盤状,繊維状,不定形状等が挙げられる。
【0035】
着色粒子の色は,ベースの色にも影響されるので,特に限定されるものではないが,黄色粒子,赤色粒子,白色粒子,黒色粒子の少なくとも1種を基本粒子として添加すると,サイジング用途には比較的適した外観となる。
【0036】
本発明の塗膜に用いる樹脂は,ポリエステル系樹脂を主樹脂とした熱硬化型のものである。ポリエステル系樹脂としては特に限定するものではなく,一般に公知の多塩基酸と多価アルコールとのエステル化合物であって,公知のエステル化反応によって合成される。
【0037】
ポリエステル系樹脂を得るための多塩基酸としては,例えば,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸,無水フタル酸,無水トリメット酸,マレイン酸,アジピン酸,フマル酸等を挙げることができる。これらの多塩基酸は1種又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0038】
一方,ポリエステル系樹脂を得るための多価アルコールとしては,例えば,エチレングリコール,ジエチレングリコール,ポリエチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ネオペンチレングリコール,1,4−ブタンジオール,1,5−ペンタンジオール,1,6−ヘキサンジオール,1,4−シクロヘキサンジメタノール,ポリテトラメチレンエーテルグリコール,グリセリン,トリメチロールエタン,トリメチロールプロパン,トリメチロールブタン,ヘキサントリオール,ペンタエリスリトール,ジペンタエリスリトール等を挙げることができる。これらの多価アルコールは1種又は2種類以上を混合して用いてもよい。
【0039】
また,ポリエステル系樹脂を主樹脂として用いるに当たって,硬化剤を配合してもよい。この硬化剤としては,公知のポリイソシアネート化合物とアミノ樹脂のいずれか一方又は双方を用いることができる。
【0040】
硬化剤として用いられるポリイソシアネート化合物としては,例えば,フェノール,クレゾール,芳香族第二級アミン,第三級アルコール,ラクタム,オキシム等のブロック剤でブロック化したイソシアネート化合物が好ましい。さらに好ましいポリイソシアネート化合物としては,HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)及びその誘導体,TDI(トリレンジイソシアネート)及びその誘導体,MDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)及びその誘導体,XDI(キシリレンジイソシアネート)及びその誘導体,IPDI(イソホロンジイソシアネート)及びその誘導体,TMDI(トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート)及びその誘導体,水添TDI及びその誘導体,水添MDI及びその誘導体,水添XDI及びその誘導体等が挙げられる。
【0041】
一方,硬化剤として用いられるアミノ樹脂としては,尿素,ベンゾグアナミン,メラミン等とホルムアルデヒドとの反応で得られる樹脂,及びこれらをアルコールによりアルキルエーテル化したものなどが使用できる。具体的には,メチル化尿素樹脂,n−ブチル化ベンゾグアナミン樹脂,メチル化メラミン樹脂,n−ブチル化メラミン樹脂,iso−ブチル化メラミン樹脂等を挙げることができる。
【0042】
塗装鋼板の分野で広く使用されている樹脂は,ポリエステル系樹脂を主樹脂とし,メラミン系樹脂を硬化剤としたポリエステル/メラミン系樹脂である。なお,ここで言うメラミン系樹脂は,メチル化メラミン,n−ブチル化メラミン,iso−ブチル化メラミンのうちの少なくとも1種以上を示す。
【0043】
このポリエステル/メラミン系樹脂においては,ポリエステル系樹脂の数平均分子量8000以上であり,かつメラミン系樹脂の添加量がポリエステル系樹脂100質量部に対して5〜45質量部であることが望ましい。ポリエステル系樹脂の数平均分子量が8000未満またはメラミン系樹脂の添加量が45質量部を超えると,塗膜中の架橋点間分子量が小さくなり,熱硬化させた後の塗膜の動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa超となり易く,エンボス加工時に塗膜の破壊や剥離が生じたり,加工時は良好であっても,経時で塗膜の破壊や剥離が生じたりする可能性が高くなり,不適当となるおそれがある。また,メラミン系樹脂の添加量が5質量部未満であると,塗膜は形成されるものの硬化反応が不十分となり易く,エンボス加工性以外の塗膜性能,例えば,塗膜硬度,ラビング性,汚染性,耐候性等が劣る可能性が高まり,不適当となるおそれがある。
【0044】
一方,ポリエステル系樹脂の上限は特に設けないが,好ましくは数平均分子量30000以下である。30000超では粘度が高くなるため,多量の希釈溶剤が必要となり,塗装作業性が低下したり,適正な塗膜が得られ難くなったりするおそれがある。
【0045】
また,本発明の塗膜には,塗装鋼板の塗膜に通常添加されている物であれば問題なく添加することができる。
【0046】
例えば,本発明の塗膜には,シリカ等の光沢調整剤が含まれていても良いし,必要に応じて,染料,顔料,表面平滑剤,紫外線吸収剤,ヒンダードアミン系光安定剤,粘度調整剤,硬化触媒,顔料分散剤,顔料沈降防止剤,色別れ防止剤等が含まれていても良い。
【0047】
本発明の塗膜は,任意の方法で塗装することができる。例えば,バーコーター,スプレー塗装,刷毛塗り,ロールコーター,オーバーフローカーテンコーター,スリットカーテンコーター,ローラーカーテンコーター,Tダイ,複層カーテンコーター等により塗装することができる。
【0048】
但し,粒径の大きな粒子を含有する塗料を低膜厚で塗装するためには,適切な塗装方法を選択することが必要となる。ロールコーターでは,粒子がロールと被塗物との間を通過することができず排除されるため,60μm以上の粒子入り塗料を20μm程度の膜厚で塗装することは非常に困難である。また,スプレー塗装では,塗膜厚を薄くすることが難しい。しかし,オーバーフローカーテンコーター,スリットカーテンコーター,ローラーカーテンコーター,複層カーテンコーターのような塗装方法では,上記のような問題が生じないため好ましい。ここで,カーテンコーターは,塗料を薄いカーテン状に落下させ,その下を金属板等の被塗物を通過させて塗装する方式である。非接触式の塗装方法であるため,大粒径の粒子でも排除されることはなく,塗料中の含有物は確実にそのまま被塗物上に塗布される。また,被塗物を通過させるスピードを速くすることで,薄膜塗装が容易に可能である。上述したような粒径の大きな着色粒子を含有するトップクリヤー塗膜を塗装する場合には,これらのカーテンコーターを使用することが極めて有用である。
【0049】
また,本発明の塗膜の乾燥(硬化)方式は任意であり,熱風加熱,高周波誘導加熱等の加熱乾燥,自然乾燥,電子線や紫外線の照射による硬化等,使用する塗料に適した方式を選択すれば良い。
【0050】
本発明に用いる下地鋼板は特に限定されるものではないが,ステンレス鋼板及びめっき鋼板が適している。ステンレス鋼板としては,フェライト系ステンレス鋼板,マルテンサイト系ステンレス鋼板,オーステナイト系ステンレス鋼板等が挙げられる。めっき鋼板としては,亜鉛めっき鋼板,亜鉛−鉄合金めっき鋼板,亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板,亜鉛−クロム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミ合金めっき鋼板,アルミめっき鋼板,亜鉛−アルミ−マグネシウム合金めっき鋼板,亜鉛−アルミ−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板,アルミ−シリコン合金めっき鋼板,亜鉛めっきステンレス鋼板,アルミめっきステンレス鋼板等が挙げられる。
【0051】
特に好適な下地鋼板は,少なくともZn及びAlを含有するめっき鋼板であり,例えば,Zn−Al合金めっき鋼板,Zn−Al−Si合金めっき鋼板,Zn−Al−Mg合金めっき鋼板,Zn−Al−Mg−Si合金めっき鋼板を挙げることができる。これらのめっき鋼板は,耐食性に優れるため,長期間屋外で使用して,塗膜の劣化により,エンボス加工部に割れが生じても,腐食の進行を抑えることができる。
【0052】
鋼板の塗装前処理としては,水洗,湯洗,酸洗,アルカリ脱脂,研削,研磨等があり,必要に応じてこれらを単独または組み合わせて行うと良い。塗装前処理の条件は適宜選択することができる。
【0053】
また,鋼板上には必要に応じて化成処理を施しても良い。化成処理は,塗膜と下地鋼板との密着性をより強固なものとすること,及び耐食性の向上を目的として処理される。化成処理としては公知の技術を使用でき,例えば,リン酸亜鉛処理,クロメート処理,シランカップリング処理,複合酸化被膜処理,ノンクロメート処理,タンニン酸系処理,チタニア系処理,ジルコニア系処理,Ni表面調整処理,Co表面調整処理,これらの混合処理等が挙げられる。
【0054】
2層以上の塗膜構成を有する塗装鋼板の塗膜として,少なくとも最表層には,本発明のポリエステル系樹脂を主樹脂としたゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下である熱硬化型樹脂塗膜を使用する必要があるが,それ以外の層の塗膜としては,通常用いられている公知の樹脂塗膜をそのまま使用できる。即ち,高分子ポリエステル系樹脂,ポリエステル系樹脂,アクリル系樹脂,エポキシ系樹脂,ウレタン系樹脂,フッ素系樹脂,シリコンポリエステル系樹脂,塩化ビニル系樹脂,ポリオレフィン系樹脂,ブチラール系樹脂,ポリカーボネート系樹脂,フェノール系樹脂,あるいはこれらの変成樹脂等の樹脂成分を,n−ブチル化メラミン,メチル化メラミン,iso−ブチルメラミン,メチルブチル混合メラミン,尿素樹脂,イソシアネートやこれらの混合系の架橋剤成分により架橋させたものを適用できる。
【0055】
この場合の下層や表層は,必要に応じて顔料によって着色しても良いし,耐食性を向上させる目的で,防錆顔料を添加しても良い。着色顔料としては公知の着色顔料を使用でき,例えば,酸化チタン,酸化亜鉛,酸化ジルコニウム,炭酸カルシウム,硫酸バリウム,アルミナ,酸化鉄,フタロシアニンブルー,カーボンブラック等を用いることができる。防錆顔料としては公知の防錆顔料を適用でき,例えば,リン酸亜鉛,リン酸鉄,リン酸アルミニウム,亜リン酸亜鉛等のリン酸系防錆顔料,モリブデン酸カルシウム,モリブデン酸アルミニウム,モリブデン酸バリウム等のモリブデン酸系防錆顔料,酸化バナジウム等のバナジウム系防錆顔料,カルシウムシリケート等のシリケート系顔料,ストロンチウムクロメート,ジンククロメート,カルシウムクロメート,カリウムクロメート,バリウムクロメート等のクロメート系防錆顔料,水分散シリカ,ヒュームドシリカ等の微粒シリカ,フェロシリコン等のフェロアロイ,等を用いることができる。これらは単独で用いても良いし,2種以上を混合して用いても良い。
【実施例】
【0056】
以下,実施例により本発明をさらに詳細に説明するが,本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0057】
(A)下地鋼板及び塗装前処理
下地鋼板としては,溶融亜鉛めっき鋼板(両面めっき付着量180g/m,板厚0.27mm),Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si合金めっき鋼板(両面めっき付着量120g/m,板厚0.27mm)と55%Al−43.4%Zn−1.6%Si合金めっき鋼板(両面めっき付着量150g/m,板厚0.27mm)を使用した。各めっき鋼板は,脱脂後,化成処理として塗布型クロメート処理(日本パーカライジング(株)製ZM1300を全Cr量50mg/m)を行った。
【0058】
(B)塗料の作製方法と貯蔵弾性率の測定方法
様々な数平均分子量を有する市販のリニアポリエステル樹脂を有機溶剤(ソルベッソ150(エッソ石油(株)製)とシクロヘキサノンとを質量比で1:1の割合で混合したもの)に溶解し,さらに硬化剤のメラミン系樹脂として,メチル化メラミン(三井化学(株)製,サイメル303)を様々な配合比で添加し,さらに触媒としてp−トルエンスルホン酸(サイテック(株)製,キャタリスト6003B)を添加し,攪拌して各種塗料を作製した。作製した塗料のポリエステル樹脂とメラミン樹脂の詳細を表2に示す。
【0059】
さらに,これらの塗料をブリキ板の上に乾燥膜厚で20μmとなるように塗装し,到達板温が230℃の条件で加熱硬化後,水銀アマルガム法によりブリキ板から塗膜を剥離し,塗膜のフリーフィルムを作製した。この塗膜のフリーフィルムを用いて,動的貯蔵弾性率の測定を実施した。動的貯蔵弾性率は,動的粘弾性試験装置(レオメトリクス社製,RSA−11)を使用し,温度領域−50〜200℃において測定した。測定条件は,歪み0.01%,角周波数6.28rad/secとした。本実験においては,温度と動的貯蔵弾性率との関係から,ゴム状弾性領域に現れる貯蔵弾性率の最小値を求めた。図1に本実験で得られた温度と動的貯蔵弾性率(対数表示)との関係の代表例を示す。このグラフからもわかるように,低温領域(図1では約20℃以下の温度領域)で動的貯蔵弾性率の高いガラス上弾性領域が現れ,これより温度が高い領域(図1では約20〜60℃の領域)で動的貯蔵弾性率の値が急激に低下する転移領域が現れ,さらに温度の高い領域(図1では約60℃以上)では動的貯蔵弾性率が低い値で平衡になるゴム状弾性領域が現れている。本発明では,ゴム状弾性領域にて現れる貯蔵弾性率の最小値を比較している。なお,本実施例では,通常,塗装鋼板に使用されている塗膜が確実にゴム状弾性領域となる温度として150℃における動的貯蔵弾性率を示した。
【0060】
本発明の実施例に係る塗料及び比較例に係る塗料に種々の粒径の着色粒子(赤色のアクリルビーズ)を2質量%添加した塗料も作製した(下記表6参照)。
【0061】
(C)塗装鋼板の作製方法
(A)で塗装前処理まで行っためっき鋼板に対して,(B)の塗料を以下の方法で塗装した。即ち,2層の塗装の場合は,下塗り塗料をローラーカーテンコーターで乾燥膜厚が5μmになるように塗装し,熱風加熱炉で到達板温が210℃の条件で硬化乾燥させた。さらにその上に,上塗り塗料をローラーカーテンコーターで乾燥膜厚が15μmになるように塗装し,熱風加熱炉で到達板温が230℃の条件で硬化乾燥させた。一方,1層の塗装の場合は,上塗り塗装のみを施した。
【0062】
また,着色粒子を添加した塗料は,Zn−11%Al−3%Mg−0.2%Si合金めっき鋼板上にのみ塗装した。
【0063】
(D)耐候性の評価方法
(C)で作製した塗装鋼板に対し,サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機(スガ試験機社製,WEL−SUN−DC−B.EM型)を使用し,JIS B7753−1993に準拠した耐候性試験(SWOM試験)を500時間実施し,試験前後の光沢値から光沢保持率を算出した。なお,耐候性の評価はエンボス成形を施さない平板の状態で行った。
【0064】
(E)エンボス加工及びサイジング材の作製
木目柄を刻んだエンボスロールを使用し,(C)で作製した塗装鋼板にエンボス加工を施した。さらに裏面にはウレタン発泡処理を行って,ウレタン層を付与して,サイジング材とした。
【0065】
(F)耐食性評価方法
サイジング材は,150mm×70mmのサイズに切断し,沖縄県の具志頭村で屋外暴露試験を行った。実際のサイジング材の取り付け状況を考慮して,試験片は軒下に設置した。屋外暴露試験は1年間行い,エンボス加工部の腐食発生状況を目視により,下記表1に示したように5段階で評価し,評点4以上を合格とした。
【0066】
上記各試験の結果を下記表3〜6に示した。なお,表3は,下地めっき鋼板が溶融亜鉛めっき鋼板の場合(No.1〜10),表4は,下地めっき鋼板がZn−11%Al−3%Mg−0.2%Siめっき鋼板の場合(No.11〜20),表5は,下地めっき鋼板が55%Al−Znめっき鋼板の場合(No.21〜30),表6は,着色粒子を含有する場合(No.31〜49)の例をそれぞれ示したものである。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
【表3】

【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
【表6】

【0073】
上記試験結果を以下にまとめる。
【0074】
上記表3〜5に示したように,最表層にゴム状弾性領域での動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であり,かつ,耐候性試験の光沢保持率が60%以上の熱硬化型有機樹脂塗膜を有する塗装鋼板は,エンボス加工部の塗膜割れも軽微で良好な耐食性を示す,ということがわかった。(表3〜5の実施例No.1,2,5〜8,11,12,15〜18,21,22,25〜28を参照)。
【0075】
一方,ゴム状弾性領域での貯蔵弾性率の最小値が2×10Paを超える塗装鋼板では,光沢保持率が60%以上であっても耐食性に劣り(表3〜5の比較例No.3,9,13,19,23,29を参照),屋外暴露試験後のエンボス加工部の塗膜割れが大きく,また白錆も多く,不適当であった。
【0076】
また,ゴム状弾性領域での貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であっても,光沢保持率が60%未満の場合は耐食性に劣り(表3〜5の比較例No.4,10,14,20,24,30を参照),屋外暴露試験後のエンボス加工部の塗膜割れが大きく,また白錆も多く,不適当であった。
【0077】
また,下塗り塗装と上塗り塗装の双方のゴム状弾性領域での動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であり,かつ,上塗り塗装の光沢保持率が60%以上の条件で,下地めっき鋼板がZn−11%Al−3%Mg−0.2%Si合金めっき鋼板と55%Al−43.4%Zn−1.6%Si合金めっき鋼板の条件(表4,5の実施例No.15,16,25,26を参照)は,特に優れたエンボス加工部耐食性を示した。
【0078】
さらに,表6に示したように,着色粒子を添加した条件でも,ゴム状弾性領域での動的貯蔵弾性率が2×10Pa以下で,かつ,耐候性試験の光沢保持率が60%以上の熱硬化型有機樹脂塗膜を有する塗装鋼板で,着色粒子の粒径が10〜500μmの範囲にあれば,エンボス加工部の耐食性は良好な状態に保たれた。
【0079】
以上,本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本実験で得られた温度と動的貯蔵弾性率(対数表示)との関係の代表例を示すグラフである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は,塗装鋼板及びサイジング材に適用可能であり,特に,サイジング材に使用されるエンボス加工を施された後でもエンボス加工部の耐食性に優れた塗装鋼板に適用可能である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の少なくとも片面に,1層又は2層以上の塗膜を有する塗装鋼板であって:
少なくとも最表層の塗膜は,主樹脂としてポリエステル系樹脂を含み,ゴム状弾性領域における動的貯蔵弾性率の最小値が2×10Pa以下であり,かつ,サンシャインカーボンアーク灯式耐候性試験機による耐候性試験を500時間実施した後の光沢保持率が60%以上である熱硬化型樹脂塗膜であることを特徴とする,塗装鋼板。
【請求項2】
前記最表層の塗膜が,クリヤー塗膜であることを特徴とする,請求項1に記載の塗装鋼板。
【請求項3】
前記最表層の塗膜が,平均粒径10〜500μmの着色粒子を含有することを特徴とする,請求項1又は2に記載の塗装鋼板。
【請求項4】
前記鋼板が,少なくともZn及びAlを含有するめっき鋼板であることを特徴とする,請求項1〜3の何れかに記載の塗装鋼板。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の塗装鋼板をエンボス加工してなるサイジング材。


【図1】
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【公開番号】特開2006−346934(P2006−346934A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−173826(P2005−173826)
【出願日】平成17年6月14日(2005.6.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】