説明

塞栓術のための血管容積決定

標的血管の寸法を測定するマッピング要素と、血管の寸法に基づき標的血管の選択部分の容積を計算する計算要素とを、遠位末端を含む塞栓物質の送達要素と組み合わせて含む血管塞栓術システムであり、遠位末端は作動位置にあるときに標的血管内に開口し、塞栓物質を標的血管の選択部分内に沈着させる。本発明の実施形態は、標的組織塊に血液を供給する血管の容積を決定し、この血管に供給される塞栓成分の最適量の算出を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
腫瘍処置における一つの形態は、腫瘍に血液を供給する血管を閉塞させることから構成される。このような血管閉塞の手順については様々なものが公知であり、放射線治療、化学療法、外科手術など他の治療的アプローチの代わりに、または他の治療的アプローチと共に行うことができる。例えば、血管はクランプまたは他の機械装置を用いて外科的処置中につぶされてもよい。紐、止血帯、または他の締め付け用デバイスも、腫瘍に向かう血流を止めるのに使用できる。いくつかのケースでは、化合物を用いて血管を収縮させるかまたはつぶしてもよい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0002】
(発明の要旨)
一態様では、本発明は血管塞栓術システムに関し、標的血管の寸法を測定するマッピング要素と、該血管の寸法に基づき標的血管の選択部分の容量を計算する計算要素とを、遠位末端を含む塞栓物質送達要素と組み合わせて含む。遠位末端は、作動位置にあるときに標的血管内に開口し、塞栓物質を標的血管の選択部分内に沈着させる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0003】
(詳細な説明)
本発明は、以下の説明および添付の図面を参照すればさらに理解することができる。ここで、同じ要素は同じ参照番号で表される。本発明は、組織塊に向かう血流を減らすことで組織塊を処置する方法およびシステムに関する。より詳細には、本発明は腫瘍などの標的組織塊に血液を供給する血管を閉塞させる塞栓物質の量を決定する方法およびシステムに関する。
【0004】
本発明の実施形態は、標的組織塊に血液を供給する単数または複数の血管の容積を決定して、この血管に供給される塞栓成分の最適量を算出できるようにする。算出された量の塞栓成分が血管内に挿入され、血管を閉塞させて標的組織を壊死させる一方、周辺の非標的組織への影響は最小限にとどめる。この手順の有効性を評価するのに、例えば塞栓成分を適用した後、閉塞させた血管の血流を測定するという本発明による追加のステップを行ってもよい。したがって、塞栓成分の算出量および/または適用後の血流測定のフィードバックは、用いられる塞栓成分のサイズを選択する際に、およびいつ塞栓が完了したのかを判定する際に用いることもできる。
【0005】
図1に示すように、標的組織塊に血液を供給する単数または複数の血管が第1に特定される。例えば、蛍光透視スクリーン100は標的組織塊(例えば、腫瘍104)およびそれに結合している血管102を表示している。医師は、蛍光透視スクリーン100上の画像を用いて、塞栓成分を配置する適切な場所を決定してもよい。蛍光透視法に加えて、腫瘍104に血液を供給する標的血管を特定して可視化する他の従来方法、例えばCTおよび造影剤、またはMRIおよび造影剤などの方法を用いてもよい。
【0006】
標的血管(単数または複数)を特定した後、本発明による可視化およびマッピング処理が行われる。標的血管の寸法は、例えば、各標的血管の長さに沿った複数の位置において、内壁および外壁の位置確認をすることで決定される。このデータに基づいて、各標的血管の標的部分の容積が算出される。図2および図4は、標的血管102をマッピングする手順の代表的な実施形態を示す。この手順では、マッピング・ヘッド212を有するプローブ210が標的血管102内に挿入され、その選択部分の長さに沿って移動させられる。例えば、プローブ210は、MediGuide社製のMediGuide可視化デバイスであってよい。
【0007】
可視化プローブ210は、標的血管102の内腔200内に挿入され、腫瘍104の近傍にある内腔200の選択部分の長さに沿って進められる。当業者であればわかることだが、マッピング・ヘッド212は標的血管102の内壁202および外壁204を特定して内腔200の寸法を決定するようになっていることが好ましい。本発明による装置は、血管102内でマッピング・ヘッド212の位置を追跡し、内腔200の長手方向軸に沿って血管のプロフィールを生成することもできるようにする。当業者であればわかることだが、マッピング・ヘッド212は、任意の様々な公知の機構を用いて内腔200を視覚化および/またはマッピングしてもよい。例えば、超音波エネルギー、CTエネルギー、MRIエネルギー、光または電気エネルギー、ならびに他の視覚法を用いて、標的血管102の寸法を測ってもよい。
【0008】
本発明の実施形態では、プローブ210のマッピング・ヘッド212から得た寸法データを利用して血管102の内部容積を計算する。当業者には当然のことであるが、電子計算機、機械式計算機、数表もしくはグラフを用いて、測定されたデータからこの容積を算出してもよいし、または医師の思う通りにさせるために、そのままにしておいてもよい。図4に示す代表的な一実施形態では、標的血管102の内腔200は、複数の別個の区分(discrete section)250に細分される。各別個の区分250において、プローブ210は、血管の内壁および外壁の場所を突き止めることによって内腔の寸法を決定する。別個の区分250は、例えば、容積計算のための始/終ポイントである、腫瘍104の遠位にある第1ポイント252と腫瘍104に隣接する第2ポイント254との間に位置している。
【0009】
本発明の実施形態によると、塞栓する血管の形状、サイズおよび容積はプローブ210から得られるデータに基づいて算出される。プローブは例えば、MediGuideの技術を用いるプローブであってよい。あるいは、プローブ210によって生成された入力を用いて、血管の容積の値または他の指標を生成する計算モジュールが提供されてもよい。計算モジュールは血管の3D画像を表示することもでき、血管の容積をmLまたはccで出力する。計算モジュールは、血管の寸法ならびに使用するインプラントのサイズおよび/または形状などを含む入力に基づいて、血管の容積、ならびに処置用塞栓成分の最適量および種類を、医師に直接提供することもできる。当業者であればわかることだが、成分の充填効率は成分のサイズおよび形状によって変わるので、血管内に導入される塞栓成分の量は、単独の塞栓成分の量に、供給する成分の数を掛けたものとは異なる。このため、算出される量は、複数の塞栓成分が標的血管中に充填されているときの量を反映していることが好ましい。
【0010】
図5は塞栓成分の複数の例を示す。塞栓成分は、例えば、標的血管(単数または複数)のサイズに応じて選択することができる、異なるサイズの球状PVAであってよい。本発明によると、塞栓成分の正確なサイズおよび数は、プローブ210によって決定した場合の、標的血管102の一部の容積に基づいて決定する。例えば、本発明による代表的な塞栓システムは、様々な数の塞栓成分で占められる容積とともに、様々な塞栓成分の寸法を示す表を含んでもよい。
【0011】
あるいは、図5の表は、プローブ210のデータから得られる通りの、標的血管102を閉塞させる塞栓成分の適切なサイズおよび最適数をユーザに提供する電子モジュール中に含めてもよい。代表的な一実施形態では、塞栓成分は直径約100〜300μmの小さな楕円状物または球状物300から直径約900〜1200μmの大きな楕円状物または球状物302の範囲であり得る。これらのサイズの塞栓成分は、サイズが約1.5Frと約4〜5Frとの間である内腔を有する血管を閉塞させる際に有効である。当業者であればわかることだが、閉塞させる血管がこの範囲よりも小さければ、または大きければ、これら用いる物質の数/容積を算出するのに同じ方法を使用せずに、より大きな、またはより小さなサイズの塞栓成分を用いることもできる。
【0012】
本発明の実施形態によると、適切な数の塞栓成分を標的血管内に注入し、それによってこの血管を通る血流を遮る。図6に示すように、塞栓物送達デバイス310は、血液を腫瘍104に送る単数または複数の血管102まで進むことよって、塞栓成分312をそこへ送達することができるようになる。例えば、塞栓物送達デバイス310は、標的領域に到達するまで血管102に沿って進むカテーテルまたは他の同じようなデバイスであってよい。送達デバイス310が標的領域にあると、成分312または他の塞栓成分は、例えば成分312を送達デバイス310内にシリンジまたは他の注入機構を使用して注入することによって、標的血管102内に導入される。一旦送達されると、成分312は血管102で閉塞320を生じさせ、血液が血管の末端部314、316に到達するのを防ぎ、腫瘍104を壊死させる。
【0013】
本発明によると評価ステップおよびシステムは、塞栓成分が標的血管に送達された後の閉塞の有効性を判断するのに用いることができる。例えば、図7に示すように、蛍光透視ディスプレイ400の照準を腫瘍104および標的血管102に合わせ、閉塞402の有効性を判断してもよい。血管102、特に閉塞された領域402の形状および寸法を評価し、標的血管102に十分な数の塞栓成分が送達されたかどうかを判断してもよい。腫瘍104も蛍光透視法で評価し、処置の結果サイズが縮小されたかどうかを判断してもよい。
【0014】
本発明による手順の有効性は、他の診断ツールで評価することもできる。例えば、流れ感知マイクロカテーテルを用いて閉塞部を通過する血流を測定し、塞栓手順の有効性を判断してもよい。図8に示すように、マイクロカテーテル414は、矢印412の方向に内腔416内を流れる血液の流量を測定する流れ感知要素410を含む。流れ感知要素410は、圧力センサ、静電センサ、または内腔416内の血流を測定できる他の要素を含んでもよい。標的組織塊を処置する前に流れ感知要素410によって生成された信号は、選択された生理学的条件の始状態を判断するのに用いられる。塞栓剤を投与して組織塊を処置した後に生成された信号は、生理学的条件の進行状態を判断するのに用いられる。始状態および進行状態を比較して、所望の変化が達成されたかどうかを判断する。流れ感知マイクロカテーテルは、2003年12月17日出願の米国特許出願第10/739,584号に記載されている。
【0015】
本発明の代表的な実施形態は、血液を腫瘍に供給している血管を閉塞させるのに必要な塞栓物質の種類および量を評価する、客観的かつ有効な方法を提供する。例えば、血管を閉塞させるのに用いる塞栓成分の数およびサイズは、血管の内部の寸法を計測することで算出する。このため、本発明による手順およびシステムは、医師が塞栓に必要な物質の量を推測し、しばらくしてから結果を検証してその量が正しかったのかを判断するという試行錯誤手法を省くものである。
【0016】
本発明を、具体的な実施形態、さらに具体的には球状PVAなどの塞栓成分を用いる塞栓システムに関して述べてきた。しかしながら、本発明の範囲から逸脱することなく、他の塞栓物質に適用できる他の実施形態が考え出されてよい。したがって、添付の特許請求の範囲に記載されるような本発明の広範な趣旨および範囲から逸脱することなく、実施形態に対して様々な改良および変更がなされてよい。このため、明細書および図面は一例であって、限定の意味を持つものではないと考えるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】腫瘍に血液を供給する血管の、蛍光透視による位置確認の画像図である。
【図2】本発明による、血管をマッピングするプローブの概略図である。
【図3】本発明による、血管のマッピングされた内壁および外壁を示す図である。
【図4】本発明による、血管容積の算出法を示す図である。
【図5】本発明による、血管の塞栓に用いられる塞栓成分の代表的な種類を示す表である。
【図6】本発明による、塞栓成分の標的血管への送達を示す概略図である。
【図7】血管の塞栓部の蛍光透視法による評価の画像図である。
【図8】本発明による流れ感知マイクロカテーテルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的血管の寸法を測定するマッピング要素と;
前記血管の寸法に基づいて前記標的血管の選択部分の容積を計算する計算要素と;
作動位置にあるときに、前記標的血管内に開口し、塞栓物質を前記標的血管の前記選択部分内に沈着させる遠位末端を含む前記塞栓物質の送達要素と
を含む血管塞栓術システム。
【請求項2】
処置後の塞栓の程度を判定する評価要素をさらに含む請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記標的血管と前記標的血管からの流体を受ける標的組織塊とを可視化する特定要素をさらに含む請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記マッピング要素は、前記標的血管の前記選択部分内に挿入可能なプローブを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記プローブは、前記標的血管の前記選択部分を音響エネルギー、光学エネルギーおよび電気エネルギーのうちの1つによって測定するマッピング・ヘッドを含む請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記塞栓物質は、複数の塞栓成分を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記容積を計算する要素は、前記標的血管内に導入される塞栓成分の所望のサイズおよび数を決定する請求項2に記載のシステム。
【請求項8】
前記容積を計算する要素は、塞栓物質と前記選択部分の容積との相関関係を含む請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記容積を計算する要素は、前記マッピング要素によって測定される前記寸法から前記標的血管の前記容積を算出するようにプログラムされているコンピュータを含む請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記特定要素は、蛍光透視型可視化デバイスを含む請求項3に記載のシステム。
【請求項11】
前記評価要素は、蛍光透視型可視化デバイスおよび流れ感知マイクロカテーテルのうちの1つを含む請求項2に記載のシステム。
【請求項12】
標的組織塊を処置する方法であって;
前記標的組織塊に流体を供給している標的血管を特定するステップと;
前記標的組織塊に近接している前記標的血管の一部をマッピングするステップと;
前記マッピングに基づくデータから前記標的血管の内部容積を決定するステップと;
前記決定された内部容積に基づいて塞栓物質の種類および量を選択するステップと;
前記塞栓物質を前記標的血管内に投与して、前記標的組織塊に前記流体が供給されるのを制限するステップと
を含む方法。
【請求項13】
前記標的血管の処置後の閉塞部を評価するステップをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記標的血管の内壁および外壁の位置確認をするマッピング・ヘッドを有するプローブを用いて、前記標的血管をマッピングするステップをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記標的血管をマッピングし、その内部寸法を決定するステップをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記マッピングされた内部寸法から、前記標的血管の前記内部容積を計算するステップをさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記塞栓物質が複数の塞栓成分を含み、前記塞栓物質の前記種類および量を選択するステップが、前記標的血管の所望の閉塞を達成するのに最適な前記塞栓成分の直径および数を選択することを含む請求項12に記載の方法。
【請求項18】
カテーテルを介して前記塞栓物質を投与するステップをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項19】
前記標的血管の長手方向軸に沿う複数の位置の各々において、前記標的血管の内側および外側の断面積を測定することで、前記標的血管の前記内部容積を決定するステップをさらに含む請求項12に記載の方法。
【請求項20】
前記位置は、前記標的組織塊に隣接する所定の開始位置と前記開始位置より遠位にある所定の終了位置との間にある請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記標的血管の前記内部容積に基づき、コンピュータを使用して塞栓物質の前記種類および量を選択するステップをさらに含む請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−528882(P2009−528882A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558251(P2008−558251)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/045014
【国際公開番号】WO2007/102858
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(500332814)ボストン サイエンティフィック リミテッド (627)
【Fターム(参考)】