説明

塩化ビニル樹脂成形体の識別方法及びこれに使用する塩化ビニル樹脂成形体

【課題】略同じ色相を有する複数の塩化ビニル樹脂成形体を識別する識別方法、及びこの識別方法に使用される塩化ビニル樹脂成形体を提供する。
【解決手段】半導体若しくは液晶の製造の際に使用される略同じ色相を有する塩化ビニル樹脂成形体の少なくとも1つに、塩化ビニル樹脂成形時に通常添加されない識別物質1を含有させる。この成形体にX線や電磁波などのエネルギーを照射し、識別物質1の励起により放射される特有の蛍光X線や励起光を検出することで、識別物質1を含まずに前記蛍光X線や励起光を放射しない成形体と識別する。識別物質1としては、酸化アルミニウムにクロムイオンを添加したものや蛍光剤などが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体若しくは液晶の製造に使用される略同じ色相を有する品質の異なる塩化ビニル樹脂成形体の識別方法、及びこれに使用する塩化ビニル樹脂成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂板は、種々の用途に使用されていて、同一樹脂であっても用途に適した品質を持つように、樹脂自体の改良がなされると共に、樹脂に副資材を配合して必要な品質を発揮するようになされている。そして、用途によっては並列して使用され、美観上同一色相の樹脂板を使用することが求められて、異品質の塩化ビニル樹脂板同士であっても同じ色相にしてある。また、同一樹脂であっても配合組成を異ならせた異品質の樹脂板が同じ色相になされて、これを2次加工して各製品が作製され、これらが混在して使用される場合も多くみられるようになって来た。このため、これらの塩化ビニル樹脂板の品質を識別させるために、一般には、各塩化ビニル樹脂板は異なるダンボールケースに格納されたり、マスキングやラベルなど貼り付けるなどしている。
【0003】
しかし、加工されて製品になった後はマスキングもラベルも剥離されるので、どの品質の塩化ビニル樹脂板を使用したのかが識別ができなかつた。また、塩化ビニル樹脂板を加工した後の端材は、加工メーカーで保管されて再使用されたり回収されたりするが、端材が大きいとマスキングを残すことで樹脂板の種類・品質が確認できるが、ある程度以下の大きさになるとマスキングも剥離されて、端材の種類・品質がわからなくなるという問題があった。さらに、端材を回収する際にも、どの種類・品質の端材かが不明となり、回収が困難になるという問題もあった。
【0004】
特に、半導体若しくは液晶の製造に使用される塩化ビニル樹脂板は、最近、ISO5660、ASTM E1354に基づくコーンカロリーメーターを用いた最大発熱速度が120kW/m以下とされた難燃性塩化ビニル樹脂板も多く使用され、樹脂板のままで間仕切り、カバー、装置外板、筐体などとして使用され、或は2次加工して洗浄槽や越流堰やドレーンパンやダクトなどを組み込んだ製造装置などが製作されている。しかし、これと略同じ色相を有するが難燃性を有さない塩化ビニル樹脂板も使用されていて、色相が略同一であるので外観上はこれら両者の識別ができなくて、上記の如き問題が内在していた。加えて、これらの樹脂板で作製した同一形状の2次加工品は、色相が略同じ塩化ビニル樹脂であるし、外観形状も同じであるから、いずれの樹脂板の2次加工品であるかが識別できないという問題もあった。
【0005】
この問題を解決するため、彩色不透明の外層とは異なる色相の識別層を積層一体化された熱可塑性樹脂板が開発された(特許文献1)。このような識別層を有する合成樹脂板であると、種類・品質の異なる樹脂板同士であっても、その端面に現れる識別層を比較することで、お互いの合成樹脂板を識別することができる。また、2次成形品であっても端面の識別層を比較することができるので、どの種類・品質の樹脂板が使用されていたかを知ることができる。
さらに、内層の両面に顔料濃度の異なる外層を設けた熱可塑性樹脂板も開発された(特許文献2)。この合成樹脂板であっても、上記と同様に、品質の異なる樹脂板を識別することができる。
【特許文献1】実公平6−6917号公報
【特許文献2】特開2004−58443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の特許文献1にあっては、外層と異色の識別層が積層されているため、樹脂板の端面にも当該外層と識別層とが現れ、端面が異色の複数の層を有することとなり、外観が見苦しいという別の問題が発生した。
この問題は、特許文献2の熱可塑性合成樹脂板にあっては、顔料の多少だけであるので色相の変化は目立たないものの、識別できるだけの色相差は必要であり、やはり端面は異色の複数の層を有することとなり、外観が見苦しいことには変わることがなかった。
【0007】
本発明は、上記問題に基づき、略同じ外観色相を有し、表裏面は勿論、端面でも単一色相を有する塩化ビニル樹脂成形体同士を識別する方法を提供することを目的とする。
また、この識別方法に用いる塩化ビニル樹脂成形体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る塩化ビニル樹脂成形体の識別方法は、半導体若しくは液晶の製造に使用される略同じ色相の品質の異なる複数の塩化ビニル樹脂成形体を識別する方法であって、これらの塩化ビニル樹脂成形体の少なくとも1つに識別物質を含有させ、これら複数の塩化ビニル樹脂形成体にエネルギーを与えて、塩化ビニル樹脂成形体に含まれている識別物質を励起させ、当該識別物質から放射されるエネルギーを検出して、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とするものである。
【0009】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体の識別方法においては、半導体若しくは液晶の製造に使用される難燃性の樹脂成形体にX線を照射して、当該塩化ビニル樹脂成形体に含まれる識別物質から発生した蛍光X線を検出し、その蛍光X線の強度値などの特性を比較することにより、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別することが好ましい。
また、塩化ビニル樹脂成形体に電磁波を照射して、当該塩化ビニル樹脂成形体に含まれる識別物質から発生した励起光を検出し、その励起光のスペクトルなどの特性を比較することにより、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とすることも好ましい。
【0010】
さらに、一方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含み、他方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含まない2種類の塩化ビニル樹脂成形体にエネルギーを照射し、一方の識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体から放射されるエネルギーを検出して、他方の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とすることも好ましい。
さらに、一方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含み、他方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含まない2種類の塩化ビニル樹脂成形体にエネルギーを照射し、一方の識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体から放射されるエネルギーを検出して、他方の塩化ビニル樹脂成形体と識別することも好ましい。
【0011】
本発明に係る塩化ビニル樹脂成形体は、上記の塩化ビニル樹脂成形体の識別方法に用いられる半導体若しくは液晶の製造に使用される塩化ビニル樹脂成形体であって、識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体が難燃性を有する塩化ビニル樹脂より形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体の識別方法は、半導体若しくは液晶の製造に使用される略同じ色相で外観上識別できない複数の塩化ビニル樹脂成形体であっても、これらの塩化ビニル樹脂成形体にエネルギーを与えることで、識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体からは前記識別物質が励起して特有のエネルギーを放射するので、これを検出し、この放射物質を含まずに特有のエネルギーを放射しない塩化ビニル樹脂成形体と識別したり、或は識別物質を含む複数の塩化ビニル樹脂成形体であっても、放射エネルギーの強度値やスペクトルなどの特性を比較することで、各塩化ビニル樹脂成形体同士を識別することができる。
【0013】
この識別方法において、塩化ビニル樹脂成形体にX線を照射すれば、識別物質が特有の蛍光X線を放射するので、当該蛍光X線を検出して、この蛍光X線を照射しない塩化ビニル樹脂成形体と識別したり、強度値などの特性を比較することにより、識別物質を含む各塩化ビニル樹脂成形体同士であっても識別できる。
【0014】
また、塩化ビニル樹脂成形体に電磁波を照射すれば、当該塩化ビニル樹脂成形体に含まれる識別物質が特有の蛍光などの励起光を放射するので、当該励起光を検出して、この励起光を照射しない塩化ビニル樹脂成形体と識別したり、スペクトルなどの特有の特性を有する励起光を比較することにより、放射する識別物質を含む各塩化ビニル樹脂成形体同士であっても識別できる。
【0015】
また、一方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含み、他方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含まない2種類の塩化ビニル樹脂成形体であると、これらの塩化ビニル樹脂成形体にX線や電磁波などのエネルギーを照射することにより、識別物質を含む一方の塩化ビニル樹脂成形体からは識別物質が励起して放射する特有の蛍光X線や特有の励起光などのエネルギーを検出するが、識別物質を含まない他方の塩化ビニル樹脂成形体からは前記識別物質に起因する特有の放射エネルギーが放射されないために、はっきりと両方の塩化ビニル樹脂成形体を識別することができる。
【0016】
本発明の塩化ビニル樹脂成形体は、半導体若しくは液晶の製造に使用される難燃性の塩化ビニル樹脂成形体に少なくとも識別物質が均一に分散されて形成されたものであるため、略同じ色相で外観上識別できない他の塩化ビニル樹脂成形体と混在しても、これらにX線、電磁波などのエネルギーを与えて、成形体に含まれる識別物質を励起させて特有の蛍光X線や励起光などのエネルギーを放射させることにより、これらの放射エネルギーを検出したり、その強度値やスペクトルなどの特性を比較したりすることで、識別物質が含まれた塩化ビニル樹脂成形体を特定することができる。
【0017】
そして、塩化ビニル樹脂成形体は、その優れた耐薬品性を利用して半導体若しくは液晶の製造に使用される製造装置、間仕切り、カバーなどの一部に板状の形態で或は2次加工品として使用されても、これを破壊することなく、これにX線や電磁波などのエネルギーを与えて特有の蛍光X線や励起光などの放射エネルギーの検出の有無により、或は当該放射エネルギーの強度値やスペクトルなどの特性を比較することにより、識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体であるか否か、或は、如何なる品質の塩化ビニル樹脂成形体であるかを識別することができる。
【0018】
また、塩化ビニル樹脂成形体が難燃性を有するので、半導体若しくは液晶が製造されている建屋などに火災が万一発生しても、当該難燃性塩化ビニル樹脂成形体は類焼することが少なく、この成形体から煙が発生したり、塩素ガスや塩化水素ガスなどの腐食性ガスの発生が抑制されて、これらによる工場内の煤やガスなどによる弊害をなくすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態を図面に基づいて詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
図1は本発明の一実施形態を示す塩化ビニル樹脂成形体の断面図である。
この塩化ビニル樹脂成形体Pは、半導体若しくは液晶の製造に使用されるものであり、その内部に識別物質1を均一に分散させた一層構造の塩化ビニル樹脂板P1である。
【0021】
塩化ビニル樹脂板P1に用いられる塩化ビニル樹脂は、他の樹脂に比べて耐薬品性に優れ、2次加工が容易であるので、板状の形態では勿論のこと、これに曲げ、溶接、接着、真空成形、圧空成形などの2次加工を施して、洗浄槽や越流堰や装置外板やフランジやドレーンパンや排気ダクトやその他の各種部品などに組み込まれて、半導体製造装置、液晶製造装置の一部として用いられる。そして、これらの各製造装置を覆うカバーとしても使用されるし、クリーンルームと通路などを隔てる間仕切りとしても、或は他の部材にも使用される。しかし、これらの装置などが配置された建屋に万一火災が発生すると、該塩化ビニル樹脂の分解により煙やガスが発生し、この煙やガスにより建屋内の空気が汚れ、煤が製品(半導体など)に付着して不良品としたり、腐食性の塩素ガスや塩化水素ガスにより建屋内の製造装置や精密機械や製品を侵して使用不能にしてしまうので、自己消化性を有する塩化ビニル樹脂であっても、難燃性をさらに向上させ、火災時の難燃性と発煙抑制を向上させた難燃性塩化ビニル樹脂を使用することが好ましいのである。
【0022】
この難燃性の一つの基準として、ISO5660、ASTM E1354に基づくコーンカロリーメーターを用い、成形体の最大発熱速度を測定して判断する方法があるが、その速度を120kW/m以下にすることで実使用上問題のない難燃性を有するものとなる。このような難燃性を得るためには、塩化ビニル樹脂として、塩素化度が58〜73%の塩素化塩化ビニル樹脂、特に塩素化度が64〜65%の塩素化塩化ビニル樹脂を使用したり、塩素化度が56〜57%の通常の塩化ビニル樹脂に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムやタルクなどの無機物を添加したり、モリブデン化合物を添加したり、リン系やハロゲン系や窒素系の難燃剤を添加したり、硫酸バリウムを併用したり、或はこれらを組合わせたりして難燃性を向上させた塩化ビニル樹脂を使用することが好ましい。
【0023】
一方、塩化ビニル樹脂に均一に分散・混合される識別物質1は、一般に塩化ビニル樹脂に含有若しくは添加されない物質が使用される。このような識別物質1は、これにX線が照射されると特有の蛍光X線などが放射され、電磁波が照射されると特有の励起光(線スペクトル、蛍光など)などが放射される。そのため、識別物質1が含有されない塩化ビニル樹脂板は、この特有の蛍光X線や励起光が放射されないので、当該蛍光X線や励起光の検出の有無により識別できる。さらに、識別物質1を1種乃至複数種含む複数の塩化ビニル樹脂板P1同士であれば、蛍光X線や励起光の強度値やスペクトルの波長や強度などの特性を比較することで、識別物質の種類や含有量などを特定し、これらが含まれる塩化ビニル樹脂板P1を特定して識別できる。
【0024】
この識別物質1の一例を挙げると、元素番号が31から88までの元素、例えばネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロビウム、ガドリニウム、テルビウム、ホルミウムなどが、単独で或は2種以上を組合せて使用される。
【0025】
また、他の識別物質1として、3d軌道を有する遷移元素或は4f軌道を有する希土類元素が添加された単結晶やガラス、4f軌道を有する希土類元素、3d軌道を有する遷移元素、或はこれらの錯体などが挙げられ、具体的には、酸化アルミニウムにクロムイオンを添加したもの、タングステン酸カルシウムやYAG結晶にネオジウムイオンまたはジスプロシウムを添加したもの、フッ化マグネシウムやフッ化亜鉛にフッ化カルシウム、フッ化バリウム、ニッケルイオン、コバルトイオンを添加したもの、ガラスにネオジウムイオン、イッテルビウムイオン、ホロミウムイオン、エルビウムイオンを添加したもの、酸化マグネシウムにマンガン、リチウムを添加したもの、希土類元素を含む錯体なども用いられる。
【0026】
さらに、識別物質1として蛍光剤も好ましく用いられる。この蛍光剤には有機蛍光剤と無機蛍光剤とがある。有機蛍光剤は透明塩化ビニル樹脂成形体を作製するために好ましく用いられ、具体的には、クマリン系樹脂、オキサゾール系樹脂、スチルベン系樹脂、ピラゾリン系樹脂、イミダゾロン系樹脂、シミダゾール系樹脂、トリアゾール系樹脂、ナフタルイミド系樹脂などが用いられる。
【0027】
また、無機蛍光剤としては、YS:EU、ZnGeO:Mn、BaMgAl1427:Eu、ZnO:Zn、Sr(POCl:Eu、YS:EU、ZnGeO:Mn、BaMgAl1627:Eu、3(Ba、Mg)O.8Al:Eu、ZnSiO:Mn2+、MgWO、(Zn,Be)SiO:Mn2+、Y(P、V)O:Eu、Y:Eu、(Y、Gd)BO:Eu、YS:Eu、BaMgAl1017:Euなどが挙げられる。
【0028】
そして、これらの無機蛍光剤にビストリフルオロメタンスルホニルイミドなどの熱失活抑制機能を有する有機物を被覆したもの、これらの無機蛍光剤にペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]や2−(2−ヒドロキシベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メンチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノールや2−ヒドロキシ−4−オクチロキシベンゾフェノンなどの光増感機能を有する有機物質を被覆させたものが特に好ましく用いられる。
【0029】
これらの識別物質1は、一般には塩化ビニル樹脂には含有されていないし、添加・配合もされないので、X線や電磁波などのエネルギーを与えることで、これら識別物質1に起因して放射される特有の蛍光X線や励起光などの検出が容易であるし、これを含まない塩化ビニル樹脂板との識別も容易となる。また、塩化ビニル樹脂への影響も少なく、酸化物として容易に入手できるので経済的であるので好ましい。また、塩化ビニル樹脂への分散を均一に行なわせるために、10μm以下の径を有する微粒子が特に好ましい。更に、その添加量も放射エネルギーの検出が行なえる量は含ませる必要があるが、余り多く含ませると塩化ビニル樹脂に悪影響を及ぼすので、0.1〜1000ppm、好ましくは0.5〜200ppmの範囲で添加するのが好ましい。
【0030】
なお、塩化ビニル樹脂には、成形に必要な安定剤や、品質を満たすために必要な添加などのように、成形や品質を得るために一般に添加される公知の添加剤は当然添加・使用される。このような添加剤としては、鉛系や錫系などの熱安定剤、滑剤、加工助剤、補強剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤、着色剤、発泡剤、架橋剤、充填剤などがあり、必要な量が適宜添加される。
【0031】
このような識別物質1を含む塩化ビニル樹脂板P1にX線や電磁波や電子線や中性子や放射光や紫外線や赤外線などのエネルギーを照射すると、これらの識別物質1が励起して、これに特有の蛍光X線や特性X線や励起光や2次電子などのエネルギーを放射するので、これらは検出器で容易に検出できる。従って、略同じ色相で目視などでは識別できない塩化ビニル樹脂板同士であっても、識別物質1を含まない塩化ビニル樹脂板から当該特有の放射エネルギーを検出しないので、特有の放射エネルギーの検出の有無で識別物質1を含む塩化ビニル樹脂板P1とこれを含まない塩化ビニル樹脂板とを識別できる。
【0032】
また、識別物質1を含む複数の塩化ビニル樹脂板同士であっても、この識別物質1の含有量を変えたり、異なる識別物質1を含ませることにより、放射エネルギーの強度値やスペクトルなどの特性が異なるので、個々の識別物質1の基礎データ(種類、含有量などに関する強度値、スペクトルなどの特性)と比較することで、各塩化ビニル樹脂板P1を特定することができる。
なお、ここで略同じ色相であるとは、人の目では外観上識別できない程度の色相を有することであり、JIS Z8729に定められるL表色系における透過色相a及びbの各色相差が、共に−5〜+5の範囲内であることをいう。
【0033】
さらに具体的に述べると、X線を照射して識別する場合は、X線が照射された塩化ビニル樹脂板P1からは種々の蛍光X線が放射され、塩化ビニル樹脂板P1に含まれている識別物質1からも、これに特有の蛍光X線が放射される。これらの全ての蛍光X線のエネルギー値及び/又は強度値などの特性を受信し、その中から識別物質1から放射された蛍光X線のエネルギー値及び/又は強度値などを選別する。識別物質1が含まれている塩化ビニル樹脂板P1と識別物質を含まない塩化ビニル樹脂板とを識別するのであれば、この特有の蛍光X線の検出の有無により識別できる。しかし、識別物質1を1種乃至複数種含む複数の塩化ビニル樹脂板同士を識別するには、続いて、前記エネルギー値及び/又は強度値などの特性をコンピューターに送り、各識別物質1の基礎データ(エネルギー値及び/又は強度値などの特性)と比較させることで、識別物質1の種類及び/又は含有量或いは配合比を算出させ、各塩化ビニル樹脂板に含まれている識別物質1を特定し、当該各塩化ビニル樹脂板P1の品質を特定することができる。
【0034】
また、電磁波を照射して識別する場合は、ある波長の電磁波、例えば紫外線から赤外線までの波長領域の電磁波を塩化ビニル樹脂板に照射し、識別物質1から放射される特有の励起光(蛍光、線スペクトルなど、或いはこれらの波長、強度など)を検出する。なお、電磁波発生源としては、フラッシュランプやLEDやレーザーやハロゲンランプ(キセノンフラッシュランプなど)などが用いられる。識別物質1が含まれている塩化ビニル樹脂板P1と識別物質を含まない塩化ビニル樹脂板とを識別するのであれば、この特有の励起光の検出の有無により識別できる。識別物質1を含む複数の塩化ビニル樹脂板P1を識別するには、続いて、この検出した励起光の情報をコンピーターに送り、ここで受信した励起光のスペクトル特性、即ちスペクトル波形、スペクトルのピーク波長やピーク波長における光強度やピーク波長近傍の波形(半値幅)、複数のピーク波長における光強度比、或は時間的な減衰特性などの特性を求め、当該コンピーターにて各識別物質1に関する基礎データ(各識別物質のスペクトル、時間的減衰特性などの特性)と比較することで、識別物質1の種類及び/又は含有量を特定して、塩化ビニル樹脂板P1の品質を特定することができる。
【0035】
図2は本発明の他の実施形態の塩化ビニル樹脂成形体の断面図である。
この塩化ビニル樹脂成形体Pは、内層2の両面に外層3、3を積層一体化した塩化ビニル樹脂板P2である。そして、該内層2と外層3とは略同じ色相にされていると共に、内層2には識別物質1を含ませて、外層3には識別物質を含ませていない。そのため、外観的には、表裏両面と端面は略同じ単一の色相を有し、しかも端面であっても内層2と外層3、3とは略同じ色相を有して層別できない単一層となっている。
【0036】
この塩化ビニル樹脂板P2の内層2、外層3に使用される塩化ビニル樹脂は、前記塩化ビニル樹脂板P1に使用された難燃性を有する塩化ビニル樹脂が使用され、内層2に含まれる識別物質1は前記塩化ビニル樹脂板P1に使用されたものと同じものが使用されるので、説明を省略する。
【0037】
このような塩化ビニル樹脂板P2であっても、X線や電磁波などのエネルギーを照射すると、この塩化ビニル樹脂板P2の内層2に含まれる識別物質1から特有の蛍光X線や励起光などの放射エネルギーが放射される。この放射エネルギーを検出することで、識別物質1を含まない塩化ビニル樹脂板と識別できるし、前記エネルギー値及び/又は強度値やスペクトルや時間的な減衰特性などの特性を基礎データと比較することで、識別物質1を含む複数の塩化ビニル樹脂板同士を識別することができる。
【0038】
この実施形態では、内層2のみに識別物質1を含ませたが、外層3のみに含ませてもよいし、両層2,3に含ませてもよい。また層数は3層に限定されるものではなく、2層以上であれば何層でもよい。
【0039】
上記各実施形態では、塩化ビニル樹脂板について記述したが、この塩化ビニル樹脂板を2次加工、例えば切断加工、曲げ加工、接着加工、溶接加工、真空成形、圧空成形、型押し成形などの公知の加工方法で、洗浄槽や越流堰や装置外板や排気ダクトやドレーンパンなどに加工した種々の異形形状の成形体であっても、これらの加工成形体を破損することなく、同様にして、X線や電磁波などのエネルギーを照射し、そこに含まれている識別物質から放射される特有の蛍光X線や励起光などの放射エネルギーを検出することで、略同じ色相を有する塩化ビニル樹脂成形体の品質を特定できて、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別できる。
【0040】
また、塩化ビニル樹脂板や2次加工成形体のみならず、これらの端材であっても同様にエネルギーを照射することで、当該端材の品質を特定することができるので、再使用や回収などが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る塩化ビニル樹脂成形体の断面図である。
【図2】本発明の他の実施形態に係る塩化ビニル樹脂成形体の断面図である。
【符号の説明】
【0042】
P 塩化ビニル樹脂成形体
P1、P2 塩化ビニル樹脂板
1 識別物質
2 内層
3 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体若しくは液晶の製造に使用される略同じ色相の品質の異なる複数の塩化ビニル樹脂成形体を識別する方法であって、これらの塩化ビニル樹脂成形体の少なくとも1つに識別物質を含有させ、これら複数の塩化ビニル樹脂形成体にエネルギーを与えて、塩化ビニル樹脂成形体に含まれている識別物質を励起させ、当該識別物質から放射されるエネルギーを検出して、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とする塩化ビニル樹脂成形体の識別方法。
【請求項2】
塩化ビニル樹脂成形体にX線を照射して、当該塩化ビニル樹脂成形体に含まれる識別物質から発生した蛍光X線を検出し、その蛍光X線の強度値などの特性を比較することにより、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル樹脂成形体の識別方法。
【請求項3】
塩化ビニル樹脂成形体に電磁波を照射して、当該塩化ビニル樹脂成形体に含まれる識別物質から発生した励起光を検出し、その励起光のスペクトルなどの特性を比較することにより、他の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とする請求項1に記載の塩化ビニル樹脂成形体の識別方法。
【請求項4】
一方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含み、他方の塩化ビニル樹脂成形体には識別物質を含まない2種類の塩化ビニル樹脂成形体にエネルギーを照射し、一方の識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体から放射されるエネルギーを検出して、他方の塩化ビニル樹脂成形体と識別することを特徴とする請求項1もしくは請求項3のいずれかに記載の塩化ビニル樹脂成形体の識別方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかの識別方法に用いられる半導体若しくは液晶の製造の際に使用される塩化ビニル樹脂成形体であって、識別物質を含む塩化ビニル樹脂成形体が難燃性を有する塩化ビニル樹脂より形成されていることを特徴とする塩化ビニル樹脂成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−78521(P2007−78521A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−266923(P2005−266923)
【出願日】平成17年9月14日(2005.9.14)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】