説明

塩化ビニル系樹脂成形体及びその製造方法

【課題】特定の材料を組み合わせて用いることにより、材料自体が有する優れた特性を十分に発揮させ、より燃えにくく、燃焼時の耐亀裂・変形性に優れる塩化ビニル系樹脂成形体及びその製造を提供することを目的とする。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂組成物を加熱溶融・成形・冷却固化し、架橋して得られる塩化ビニル系樹脂成形体であって、前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニルモノマー100重量部と、式 CH2=CH−SiRn3-n(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部とを共重合して得られる架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部、錫メルカプト系化合物1.0〜10重量部、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒0.1〜3.0重量部及び水和金属化合物10〜300重量部を含む塩化ビニル系樹脂成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル系樹脂成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、塩化ビニル系樹脂は、耐衝撃性、耐熱性等の物理的性質及び耐溶剤性、耐酸性等の化学的性質に優れた特性を有する材料として、プラント用プレート、パイプ、パイプ継手、シート、フィルム等多くの用途に使用されている。
【0003】
しかし、燃焼すると有毒ガスや多量の黒煙が発生し、列車などの車両用途では火災の際に、乗客の安全性に支障をきたす場合がある。このため、より燃えにくい材料が要求されている。
【0004】
塩化ビニル系樹脂の難燃性を向上させる方法としては、例えば、塩化ビニル系樹脂に水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの難燃剤を添加する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−25347号公報
【0005】
しかし、上記塩化ビニル系樹脂組成物は、火炎にさらされた際に難燃剤から発生する水蒸気や塩化ビニル系樹脂から出る塩酸ガス等により、塩化ビニル系樹脂成形体の表面が変形し、亀裂が生じるという欠点があった。燃焼時の変形や亀裂は、塩化ビニル系樹脂成形体が車両の天井に使用された場合、燃焼物の溶融落下による延焼等の原因となる場合がある。また、塩化ビニル系樹脂成形体が車両の壁や座席等に使用された場合、亀裂による内部への火炎伝播を引き起こす恐れがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、より燃えにくく、燃焼時の耐亀裂性及び変形性に優れた塩化ビニル系樹脂成形体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の塩化ビニル系樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂組成物を加熱溶融・成形・冷却固化し、架橋して得られる塩化ビニル系樹脂成形体であって、
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニルモノマー100重量部と、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部とを共重合して得られる架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部、
錫メルカプト系化合物1.0〜10重量部、
錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒0.1〜3.0重量部及び
水和金属化合物10〜300重量部を含んでなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法は、上述した塩化ビニル系樹脂組成物を、加熱溶融・冷却固化して成形体とし、
次いで、得られた成形体を架橋処理に付す工程を含むことを特徴とする。
この塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法では、加熱溶融・冷却固化により、成形直後のゲル分率が0%以上、10%以下である成形体とし、架橋処理により、ゲル分率を10%以上、100%以下とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より燃えにくく、燃焼時の耐亀裂・変形性に優れた塩化ビニル系樹脂成形体を、簡便な方法により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の塩化ビニル系樹脂成形体は、塩化ビニル系樹脂組成物を用いて成形することができる。
この塩化ビニル系樹脂組成物は、架橋性塩化ビニル系共重合体を含有する。この架橋性塩化ビニル系共重合体は、塩化ビニルモノマーと、ビニルシラン化合物とを共重合することにより得ることができる。
【0011】
ビニルシラン化合物としては、種々のものを利用することができる。
例えば、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表わされる化合物を用いることが適している。
【0012】
ここで、Rにおける炭素数1〜3のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル基が挙げられる。
Xは、加水分解性を有する有機基であればよく、炭素数1〜3のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ基が例示される。ただし、アルコキシ基の炭素数が大きくなると、加水分解速度が遅くなる傾向があり、架橋工程に時間がかかる傾向がある。よって、メトキシ、エトキシ基がより好ましい。
【0013】
ビニルシラン化合物の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。これらのビニルシラン化合物は目的とする用途により、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
ビニルシラン化合物は、塩化ビニルモノマー100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、さらに0.2〜6重量部であることが好ましい。ビニルシラン化合物の量が少なすぎると架橋が十分に進行せず、耐亀裂・変形性が向上しないという傾向がある。一方、多くなりすぎると成形時の架橋が顕著となりすぎて成形性を損なう傾向がある。
【0015】
架橋性塩化ビニル系共重合体中の塩化ビニルモノマーの重合度は、特に限定されないが、架橋性塩化ビニル系共重合体の適切な成形性を得るために、例えば、600〜2000程度が適当であり、好ましくは800〜1500程度である。
重合度を調整する方法としては、例えば、重合の際の温度、用いる溶媒の種類、重合度調節剤の種類及び量等を調整する方法が例示される。なかでも、重合の際の温度等を調整する方法が適している。一般に、重合温度が高いほど重合度は低くなる。
【0016】
架橋性塩化ビニル系共重合体は、目的に応じて塩化ビニルモノマー及びビニルシラン化合物以外のラジカル重合性モノマーをさらに追加して共重合してもよい。
このラジカル重合性モノマーとしては、例えば、塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマーが挙げられ、ビニルモノマーの全てが含まれる。例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のα−オレフィン類:酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類:エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル類:メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0017】
架橋性塩化ビニル系樹脂を得る方法は、特に限定されず、水懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法など、種々の共重合方法を用いることができる。なかでも、重合の制御のしやすさ、得られた架橋性塩化ビニル系樹脂の取り扱い性及び成形性のよさを考慮すると、水懸濁重合法であることが好ましい。
共重合の際には、塩化ビニルモノマー及びビニルシラン化合物の反応比、溶媒への分散性等により各々の重合率が変化することを考慮する必要がある。
重合反応は、ランダム共重合、ブロック共重合又はこれらを併用してもよい。
特に、水懸濁重合法を行う場合には、油溶性重合開始剤、分散剤、水溶性増粘剤、重合度調節剤等の1種以上の種々の添加剤を用いることが好ましい。
【0018】
水懸濁重合に用いられる油溶性重合開始剤は、通常、ポリ塩化ビニル系樹脂の重合に用いられている公知のラジカル開始剤を意味する。例えば、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、α−クミルパーオキシネオデカノエートなどのパーエステル化合物;ジイソプロピルパーオキシカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネートなどのパーカーボネート化合物、デカノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシドなどのパーオキシド化合物、α,α’−アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などが挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
水懸濁重合に用いられる分散剤は、塩化ビニル系樹脂の共重合を効率的に行う目的で添加される。例えば、ポリ(メタ)アクリル酸塩、(メタ)アクリル酸塩−アルキルアクリレート共重合体、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリ酢酸ビニル及びその部分ケン化物、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、デンプン、無水マレイン酸−スチレン共重合体等が挙げられる。これらは単独または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0020】
水懸濁重合法の具体的な製造方法としては、例えば、撹拌機及びジャケットを備えた反応容器に、純水、分散剤、疎水性重合開始剤、水溶性増粘剤、ビニルシラン化合物、必要に応じて重合度調節剤を投入し、その後、真空ポンプで重合器内の空気を排出し、さらに撹拌条件下で塩化ビニル及び必要に応じて他のビニルモノマーを投入した後、反応容器内をジャケットにより加熱し、塩化ビニルモノマー及びビニルシラン化合物のグラフト共重合を行う方法が挙げられる。
【0021】
また、本発明の架橋性塩化ビニル系共重合体は、後塩素化したものであってもよい。後塩素化の方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の塩素化方法を採用することができる。例えば、水懸濁熱塩素化法、水懸濁光塩素化法、溶液塩素化法等が挙げられる。後塩素化を行った架橋性塩化ビニル系共重合体は、74重量%程度以下が好ましい。塩素含有率が大きすぎると成形加工が困難となる傾向があるからである。
【0022】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、上述した架橋性塩化ビニル系共重合体の他に、錫メルカプト系化合物と、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒と、水和金属化合物とを含有する。
【0023】
錫メルカプト系化合物と、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒とを併用することにより、錫メルカプト系化合物が上述した架橋性塩化ビニル系共重合体の架橋反応の触媒となりうる錫金属を含むにもかかわらず、触媒の効果を発揮せず、熱安定剤としてのみ作用させることができる。一方、錫マレート及び/又は錫ラウレートは触媒として作用する化合物であり、通常、単独で用いるとそれらの化合物由来の水酸基が関与し、架橋反応を進行させることができる。
【0024】
従って、本発明においては、成形時の熱安定性を確保しながら、成形後において、いわゆる後架橋で架橋率を制御することができ、それによって成形体の耐久性を向上させるために、錫メルカプト系化合物と、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒との双方を組み合わせて用いる。
【0025】
錫メルカプト系化合物は、熱安定剤であるが、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物及び後述する成形体において、特に、成形時の架橋進行を制御するために用いられる。このような錫メルカプト系化合物としては、例えば、ジメチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒としては、例えば、ジメチル錫マレート、ジオクチル錫マレート、ジブチル錫マレート等;ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー、ジオクチル錫ラウレート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
錫メルカプト系化合物は、架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、1.0〜10重量部程度配合することが好ましく、1.0〜3.0重量部程度がより好ましい。なお、さらに、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒と錫メルカプト系化合物との合計が上記範囲であることが好ましい。
錫マレート及び/又は錫ラウレート系化合物は、架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、0.1〜3重量部程度配合することが好ましく、0.5〜1.0重量部がより好ましい。
【0028】
さらに、錫メルカプト系化合物と錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒との配合比率は、錫メルカプト系化合物/錫マレート及び/又は錫ラウレート系触媒=4/1〜1/1程度とすることが好ましい。錫マレート及び/又は錫ラウレート系触媒の比率が高いと、架橋反応を促進する傾向にある。この範囲とすることにより、錫メルカプト系化合物によって、架橋率の制御が可能となる。
【0029】
水和金属化合物は、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体の難燃性を向上させるために用いられる。「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠した方法で行った燃焼試験において、水和金属化合物は、火炎の接触により分解して水蒸気を発生し、成形体を冷却する効果を有する化合物である。特に、着火の抑制に有効であることは知られていない。
【0030】
このような水和金属化合物としては、燃焼時に分解して水蒸気を発生し、燃焼を抑制するものであれば特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、タルク、アルパルジャイト、カオリンクレー、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸亜鉛、未焼成クレー等が挙げられる。なかでも、取り扱いの容易さ、水分量の多さ等から、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトが特に好適に用いられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上が組み合わされていてもよい。
【0031】
この水和金属化合物は、架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部に対して、10〜300重量部で含有されることが適しており、50重量部〜250重量部であることがより好ましい。少なすぎると、燃焼抑制効果が低い。多すぎると、成形性が悪化したり、成形体の機械的物性が著しく低下することがある。
【0032】
また、本発明における塩化ビニル系樹脂組成物には、上述した水和金属化合物の燃焼抑制効果を補助する目的で、さらに難燃剤が添加されていてもよい。
【0033】
難燃剤としては、例えば、二酸化アンチモン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等の酸化アンチモン、三酸化モリブデン、二硫化モリブデン、アンモニウムモリブデート等のモリブデン化合物、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロムエタン等の臭素系化合物、トリフェニルフォスフェート、アンモニウムポリフォスフェート等のリン系化合物等が挙げられる。
【0034】
さらに、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて、錫メルカプト系化合物以外の熱安定剤、架橋反応の触媒、安定化助剤、滑剤、衝撃改質剤、加工助剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料等の各種添加剤の1種又は2種以上が添加されていてもよい。
【0035】
熱安定剤は、成形時の架橋進行を制御するために用いられる。この熱安定剤は、上述した錫マレート及び/又は錫ラウレート系化合物と別個に添加してもよいし、あらかじめ錫マレート及び/又は錫ラウレート系化合物と混合して、混合剤を調製し、これを添加してもよい。
このような熱安定剤としては、例えば、ステアリン酸鉛、二塩基性亜リン酸鉛、三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤、カルシウム−亜鉛系安定剤、バリウム−亜鉛系安定剤、バリウム−カドミウム系安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
架橋反応の触媒としては、例えば、カルボン酸金属塩、チタンキレート化合物、チタン酸アルキル、ジルコン酸アルキル等の金属有機化合物、有機塩基、有機酸等を用いることができる。
具体的には、カルボン酸金属塩として、ジブチル錫ジオクトエート、ジブチル錫ジアセテート、オクタン酸第一錫、オクタン酸鉛、2−エチルヘキサン酸亜鉛、ブテン酸コバルト、オクタン酸コバルト、2−エチルヘキサン酸鉄、チタン酸テトラブチル、チタン酸エチレングリコール等が挙げられる。
有機塩基としては、エチルアミン、ヘキシルアミン、ジブチルアミン、エチレンジアミン等が挙げられる。有機酸としては、p−トルエンスルホン酸、酢酸等が挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
架橋反応の触媒の添加量は、架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部に対して0〜5重量部が好ましい。添加量を多くしても一定のところで触媒効果が平衡するからである。
【0038】
安定化助剤としては、特に限定されず、例えば、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ豆油エポキシ化テトラヒドロフタレート、エポキシ化ポリブタジエン、リン酸エステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
滑剤としては、特に限定されず、例えば、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸、ステアリルアルコール、ステアリン酸ブチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
衝撃改質剤としては、塩化ビニル系樹脂の衝撃改質剤として使用されているものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレングラフト共重合体(MBS樹脂)、塩素化ポリエチレン(CPE)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、アクリル系改質剤等が挙げられる。これらの衝撃改質剤は、単独で用いられても良いし、2種類以上が併用されても良い。
【0041】
衝撃改質剤の添加量は、少なくなると耐衝撃性を改良する効果は殆どなく、多くなると耐熱性、機械的強度等が低下するので、1〜30重量部であり、好ましくは3〜25重量部である。
【0042】
加工助剤としては、(メタ)アクリレート系モノマーを主体とする重合体であり、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系モノマーの単独重合体もしくは共重合体;上記(メタ)アクリレート系モノマーとスチレン、ビニルトルエン、アクリロニトリル等のビニル系モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系抗酸化剤、硫黄系抗酸化剤、ホスファイト系抗酸化剤等が挙げられる。
【0044】
光安定剤としては、特に限定されず、例えば、サリチル酸エステル系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系等の紫外線吸収剤、あるいはヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
顔料としては、特に限定されず、例えば、アゾ系、フタロシアニン系、スレン系、染料レーキ系等の有機顔料、酸化物系、クロム酸モリブデン系、硫化物・セレン化物系、フェロシアン化物系等の無機顔料等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
添加剤の添加方法及び添加順序は、特に限定されるものではなく、任意の方法及び順序とすることができる。例えば、添加方法としては、特に限定されず、塩化ビニル系樹脂に、ホットブレンド法、コールドブレンド法等により添加することができる。
【0047】
本発明の塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法は、上述した塩化ビニル系樹脂組成物を、加熱溶融・冷却固化して、成形体とし、次いで、得られた成形体を架橋処理に付すことを含む。
成形体を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、押出成形法、射出成形法、カレンダー成形法、プレス成形法等が挙げられる。なかでも、押出成形法、射出成形法が好ましい。
【0048】
成形中及び成形直後においては、成形体のゲル分率が、0%以上、10%以下となるように成形を行うことが好ましい。ゲル分率が大きくなると、成形機内の圧力が高くなったり、表面状態が平滑な成形品が得られなくなる傾向がある。
ゲル分率とは、試料を、例えば、常温〜40℃程度にて、テトラヒドロフラン(THF)中に16時間抽出したときの重量変化率であり、
(ゲル分率)=(THF抽出後の試料重量)/(THF抽出前の試料重量)
で定義される。
【0049】
また、成形直後とは、塩化ビニル系樹脂成形体の最終形状に成形した後であって、通常、成形機から排出され、後述するような、成形体の物性を変化させるための何らかの処理が行われる前のゲル分率を指す。このような処理としては、例えば、架橋処理、好ましくは水分の存在下での架橋処理等が挙げられる。
【0050】
成形直後までの成形体のゲル分率を10%以下にするために、上述した錫メルカプト系化合物と、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒との双方のバランスのとれた組み合わせが有効であり、それらの種類及び量等を適宜調整することが適している。
また、成形温度は特に限定されないが、成形温度が高すぎると、脱塩化水素による分解が発生するため、210℃以下であることが好ましい。
【0051】
成形体の架橋処理は、必要に応じて水分の存在下において行うことができる。水分の供給方法は特に限定されず、系内の水分又は空気中の水分のいずれを利用してもよい。また、加熱により架橋速度を著しく促進することができる。このため、熱水により架橋処理を行ってもよい。加熱方法は特に限定されないが、水分の供給を同時に行うことから、60℃以上の温水、水蒸気、加圧水蒸気を供給することが好ましい。
【0052】
架橋処理は、処理後のゲル分率が10%以上、100%以下となるように行うことが好ましい。ゲル分率が小さければ、機械的強度が不十分となることがある。
このようなゲル分率の調整は、架橋処理の温度及び/又は時間、上述したビニルシラン化合物、錫メルカプロ系化合物、錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒の量等を調整することにより行うことができる。
【0053】
以下、本発明の塩化ビニル系樹脂成形体及びその製造方法を実施例等に基づいて詳細に説明する。ただし、下記の例に限定されるものではない。
【0054】
実施例1〜8、比較例1〜7
(架橋性塩化ビニル系共重合体の製造)
攪拌機の備えられたジャケット付25リットルの耐圧重合器に、イオン交換水133部、ビニルトリエトキシシラン及び塩化ビニルモノマーをそれぞれ表1に示す所定重量部、油溶性ラジカル開始剤としてジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカルボネート0.05部、界面活性剤としてポリプロピレンオキサイドオレイルエーテル1部、水溶性増粘剤としてポリ塩化アルミニウム0.1部を供給した。
重合器を密閉して空気を排除した後、塩化ビニルモノマー100部を圧入した。次いで、攪拌しながら64℃まで昇温し、重合器内の温度が64℃に保持しながら水懸濁重合を行った。
【0055】
重合器内圧が降下を始めてから30分経過してからジャケットに冷却水を通して重合器を冷却した。
その後、未反応の塩化ビニルモノマーなどを除去し、重合スラリーを取り出した。これをイオン交換水で洗浄し、乾燥して架橋性塩化ビニル系共重合体を得た(A1〜A3及びB1、B2)。
なお、表1に示すように、ビニルトリエトキシシランを用いないで、同様に重合を行い、塩化ビニル共重合体を得た(B3)。
【0056】
【表1】

【0057】
(塩化ビニル系樹脂成形体の作製)
表2及び表3に示した所定量(重量部)を、200Lスーパーミキサー(カワタ社製)に供給し、攪拌混合して塩化ビニル樹脂組成物を得た。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

使用した材料は以下の通りである。
(1)塩化ビニル系樹脂 表1の通り
(2)熱安定剤
オクチル錫マレート(商品名「TVS #8604」日東化成工業社製)
オクチル錫ラウレート(商品名「TVS #8604」、日東化成工業社製)
オクチル錫メルカプト(「ONZ 7F」、日東化成工業社製)
(3)滑剤
HW220MP(商品名「Hiwax220MP」、三井化学社製)
ステアリン酸(商品名「ルナックS30」、花王社製)
【0060】
得られた塩化ビニル樹脂組成物を直径50mmの二軸異方向回転押出機(長田製作所社製、商品名「SLM−50」)に供給し、樹脂温度190℃で溶融押出して、厚さ3mmのプレートを得た。押出成形後のゲル分率は表2及び表3に示すとおりである。
また、上記で得られた塩化ビニル系樹脂成形体を架橋処理に付し、塩化ビニル系樹脂管継手を得た。架橋処理は、実施例1〜7では、60℃の熱水に5時間暴露し、実施例8では、90℃の熱水に24時間暴露することにより行った。
熱水処理後のゲル分率は表2及び表3のとおりである。
【0061】
押出成形性および車両燃焼試験を、以下の方法で評価した。その結果を表2及び表3に示す。
【0062】
(押出成形性)
押出成形性:バレル先端温度185℃での条件下で、厚さ2mmの塩化ビニル系樹脂プレートを成形した際に、表面状態が平滑な良品を○、表面状態が平滑な成形品が得られない又は、成形できなかったものを×として判断した。
【0063】
(車両燃焼試験)
着火:「鉄道に関する技術上の基準を定める省令(平成13年12月25日国土交通省令第151号)」の第5節車両の火災対策等第83条に準拠して評価
燃焼後の亀裂変形:
◎:亀裂変形なし
○:亀裂変形が少ない
×:亀裂変形が大きい
【0064】
実施例9
水和金属化合物として水酸化アルミニウムを75重量部にしたこと以外は実施例1と同様に、成形体を作製した。
得られた成形体について車両燃焼試験を行ったところ、着火時間、燃焼後の亀裂変形とも実施例1とほぼ同等の結果が得られた。
【0065】
実施例10
水和金属化合物として硼酸カルシウムを100重量部にしたこと以外は実施例4と同様に、成形体を作製した。
得られた成形体について車両燃焼試験を行ったところ、着火時間、燃焼後の亀裂変形とも実施例4とほぼ同等の結果が得られた。
【0066】
このように、本発明では、特定の材料を組み合わせて用いることにより、材料自体が有する優れた特性を十分に発揮させることができ、難燃性に優れ、かつ燃焼時の耐亀裂・変形性に優れる塩化ビニル系樹脂成形体を得ることができる。
また、このような塩化ビニル系樹脂成形体を、簡便な方法によって、架橋率の制御を行うことができ、成形性を損なわず後架橋を行うことにより、鉄道車両の内装材として好適に使用することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、塩化ビニル系樹脂を使用することを期待するあらゆる分野において利用することができる。特に、難燃性と燃焼時の耐亀裂変形を有した車両内装材の成形等に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂組成物を加熱溶融・成形・冷却固化し、架橋して得られる塩化ビニル系樹脂成形体であって、
前記塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニルモノマー100重量部と、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部とを共重合して得られる架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部、
錫メルカプト系化合物1.0〜10重量部、
錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒0.1〜3.0重量部及び
水和金属化合物10〜300重量部を含んでなることを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項2】
塩化ビニルモノマー100重量部と、式
CH2=CH−SiRn3-n
(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基、Xは炭素数1〜3のアルコキシ基、nは0〜2の整数である。)
で表されるビニルシラン化合物0.1〜10重量部とを共重合して得られる架橋性塩化ビニル系共重合体100重量部、
錫メルカプト系化合物1.0〜10重量部、
錫マレート及び/又は錫ラウレート触媒0.1〜3.0重量部、及び、
水和金属化合物10〜300重量部を含んでなる塩化ビニル系樹脂組成物を、加熱溶融・冷却固化して成形体とし、
次いで、得られた成形体を架橋処理に付す工程を含むことを特徴とする塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
加熱溶融・冷却固化により、成形直後のゲル分率が0%以上、10%以下である成形体とし、
架橋処理により、ゲル分率を10%以上、100%以下とする請求項2に記載の塩化ビニル系樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−77255(P2010−77255A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246385(P2008−246385)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】