説明

塩化ビニル系樹脂組成物およびそれを被覆したケーブル

【課題】従来組成物と同等の耐油性を保持しつつ、耐水溶性切削油性が改良されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物、および該樹脂組成物をシースとして被覆したケーブルを提供する。
【解決手段】塩化ビニル系樹脂、フィラーおよび/または金属水酸化物を含有する塩化ビニル系樹脂組成物において、該フィラーおよび/または金属水酸化物のJIS K5101に基づくpH値が9.0以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性、耐水溶性切削油性、難燃性に優れた塩化ビニル系樹脂組成物および各種電気製品用ケーブルに関するものであり、特に、耐水溶性切削油性を格段に改善した塩化ビニル系樹脂組成物および各種電気製品用ケーブル、特にロボットケーブル等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル系樹脂、可塑剤、安定剤などを配合してなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、性能およびコストバランスの良さから、軟質シート用途、電線用途など各種の用途に使用されている。その電線用途の一種として、ロボットケーブル用途があり、自動車をはじめとする種々の組み立て工場において主要なケーブルとして重用されている。
【0003】
近年、該工場で使用される切削油は、1)使用後の廃液処理等環境問題の観点、2)安全対策重視(火災事故等)の観点、3)コストダウンの観点から油溶性タイプから水溶性タイプへ切り替えが進行している。しかしながら、水溶性切削油が使用される自動車製造現場でその水溶性切削油にロボットケーブルが侵食され、絶縁不良が発生し自動車製造ラインがストップする事故が発生し、原因究明と当面の緊急対応策が実施されている。なお、一般に、切削油とは工作油剤(金属加工油剤)の一種で、旋盤やドリルなどの工作機械を用いて金属やセラミックスの材料を削り、砥石等で研削する、いわゆる「切削加工」に使用する潤滑油剤をいう。
【0004】
このような事故は、水溶性切削油中に含まれる「エタノールアミン」成分が、ケーブルの被覆として使用されている塩化ビニル系樹脂組成物中に浸透し、該組成物が硬化したりまたは膨潤したりして劣化が進行し、最悪の場合には、亀裂などが発生した箇所から水溶性切削油がケーブル内に浸入して絶縁不良に到ることが原因であると推定されている。
【0005】
通常、自動車製造ラインなどで使用されるケーブルの構造は、絶縁材の上にシース材を被せた2層構造(キャブタイヤ構造)になっており、非常に安全性の高い構造を有する。それにも関わらず、水溶性切削油の普及に伴って、その水溶性切削油がシース材を侵食し膨潤および亀裂が発生した後に、さらには絶縁材まで達し絶縁不良を起こすということが判明してきた。
【0006】
当面の緊急対応策として、被覆配合組成に拠らずしてこのような技術問題を解決するべく、1)絶縁層とシース層の境界に絶縁テープを巻く方法、2)シース層表面にテフロン(登録商標)加工を施す方法、3)シース層表面にシリコン系被覆材を使用したケーブル電線を使用することなどで急場を凌いでいる。しかしながら、絶縁テープを巻く方法やテフロン(登録商標)加工を施す方法、シリコン樹脂で被覆する方法ではコストが非常に高くなるため、工業的には極めて不利な方法である。また、テープを巻いてもさらに外側に被覆しているシース自体は、やはり水溶性切削油により膨潤または最悪の場合は破壊されるため、長期にわたって使用出来る耐水溶性切削油性をさらに改善した配合組成のケーブルが要望されている。
【0007】
従来、本発明のような金属水酸化物を使用している塩化ビニル系樹脂組成物としては、例えば特許文献1および2のように水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムを添加したポリ塩化ビニル系樹脂組成物を被覆したコード、特許文献3のようにポリ塩化ビニル系樹脂に水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムを添加した自動車用電線などが使用されている。これらの組成を変更して、従来組成物と同等の耐油性を保持しつつ、耐水溶性切削油性が改良され、かつ安価な組成物の開発が急務となっている。
【0008】
【特許文献1】特開平9−77939号公報
【特許文献2】特開2001−123033号公報
【特許文献3】特開平8−329743号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、本発明は、従来組成物と同等の耐油性を保持しつつ、耐水溶性切削油性が改良されたポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを課題とするものであり、また、該樹脂組成物をシースとして被覆したケーブルを提供することを課題とするものである。
【0010】
また、緊急対策として実施されている絶縁テープを巻くなどの方法などと比較して、安価な対策を提供して、該業界の絶縁不良事故をなくすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる実情に鑑み、本発明者らは、水溶性切削油にポリ塩化ビニル組成物が侵食されていくプロセスを緻密に精力的に研究し、特定のフィラーおよび/または金属水酸化物、すなわち、pH値が9.0以上であるフィラーおよび/または金属水酸化物を使用することにより、難燃性、耐油性を低下することなく、耐水溶性切削油性を改善できることを見出し本発明を完成した。さらに、該フィラーと金属水酸化物とを併用することにより大幅に耐水溶性切削油性を改善できることを見出し本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は塩化ビニル系樹脂、フィラーおよび/または金属水酸化物を含有する塩化ビニル系樹脂組成物において、該フィラーおよび/または金属水酸化物のJIS K5101に基づくpH値が9.0以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物に関する。
【0013】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、金属水酸化物を5〜100重量部含むことが好ましい。
【0014】
前記金属水酸化物は水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムであることが好ましい。
【0015】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、フィラーを5〜100重量部含むことが好ましい。
【0016】
前記フィラーはタルクおよび/または炭酸カルシウムであることが好ましい。
【0017】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、酢酸ビニル含量が40〜80重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を5〜50重量部含有することが好ましい。
【0018】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、可塑剤および/または安定剤を含むことが好ましい。
【0019】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤を20〜150重量部含むことが好ましい。
【0020】
前記可塑剤はポリエステル系可塑剤であることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、前記塩化ビニル系樹脂組成物をシースとして被覆してなるケーブルにも関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物は、従来の塩化ビニル系樹脂組成物と比較して耐油性と耐水溶性切削油性が高度にバランスされていることがわかる。従って、該組成物を使用してなるケーブルは、ケーブル内への水溶性切削油の浸入による絶縁低下などの工程不良を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、塩化ビニル系樹脂、フィラーおよび/または金属水酸化物を含有する塩化ビニル系樹脂組成物において、該フィラーおよび/または金属水酸化物のJIS K5101に基づくpH値が9.0以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物である。
【0024】
本発明に用いる塩化ビニル系樹脂とは、塩化ビニルの単独重合体である塩化ビニル樹脂、塩化ビニルと共重合し得る他のモノマーとを共重合させた塩化ビニル系共重合樹脂、たとえば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル−ステアリン酸ビニル共重合樹脂などの塩化ビニルとアルキルビニルエステルとの共重合樹脂、塩化ビニル−エチレン共重合樹脂、塩化ビニル−プロピレン共重合樹脂などの塩化ビニルとオレフィン類との共重合樹脂、塩化ビニルと(メタ)アクリル酸またはそのエステルとの共重合樹脂、また塩化ビニル系樹脂として例えば、塩化ビニルとアルキルビニルエーテルとの共重合樹脂も用いることができる。これらの樹脂は、単独で用いても良く、または必要に応じて2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0025】
本発明に使用する塩化ビニル系樹脂の平均重合度は、平均重合度400〜4500のものが好ましく、加工性と性能のバランスの点から700〜3000のものがさらに好ましい。
【0026】
さらに、本発明においては、ケーブルの表面性を艶消しにして風合いを向上する目的で、従来公知の架橋塩化ビニル系樹脂も使用することができ、これらを単独または2種以上を組み合わせて用いても良く、また非架橋塩化ビニル系樹脂と組み合わせて用いても良い。
【0027】
本発明においては、好ましい実施態様として、さらにエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)を配合してもよい。EVA樹脂は、高分子可塑剤として作用すると共に、耐水溶性切削油性と耐熱性、耐油性とのバランスを向上するために有効である。
【0028】
本発明に用いるEVA樹脂としては、塩化ビニル系樹脂との相溶性の観点から、酢酸ビニル含量(VAc含量)が40〜80%のものを使用することが好ましい。特に好ましくは、60〜80%のものが良い。40%以上であると、PVCとの相溶性に優れ、機械的強度などの特性が向上する傾向がある。また、80%以下とすることにより耐油性に優れたものとすることができる。
【0029】
EVA樹脂の添加量としては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、5〜50重量部が好ましく、さらには10〜30重量部がより好ましい。5重量部以上であると、ケーブルとしての柔軟性を維持するための可塑剤添加量を低減させることができ、難燃性の低下を抑制することが可能となる。また、50重量部以下とすることにより、機械的強度を向上させることができる。
【0030】
本発明に使用するフィラーは、耐水溶性切削油性を改良するための重要なポイントである。すなわち、耐水溶性切削油性を改良するには、塩基性無機物の存在が不可欠であり、フィラーとしてはpHが9.0以上のものを用いることが好ましい。
【0031】
従来、フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、カオリン、クレー、アタパルジャイト、珪酸塩粉末、ワラスナイトなどが知られているが、本発明においては、JIS K5101に基づくpH値が9.0以上のものを選択して使用する。さらに好ましくは、pH値が9.5以上のものが特に好ましい。フィラーは、その製造方法により、酸性を呈するものからアルカリ性を呈するものまで、種々のものが存在する。本発明では、pH値が9.0以上を呈するフィラーを選択的に使用することが必須であり、なかでも、耐水溶性切削油性の観点から、および、pH値が9.0以上のものを容易に、かつ安価に得られる点から、pH値が9.0以上の炭酸カルシウムおよび/またはタルクを用いることが好ましい。なお、炭酸カルシウムとしては重質炭酸カルシウムであることが好ましい。これらのフィラーは単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いても構わない。
【0032】
フィラーの平均粒径としては、特に限定されるものではなく、一般的に軟質塩化ビニル樹脂組成物に使用されるものを選択できるが、特に、組成物中への分散性、およびこれに伴なう機械的強度の維持などの観点から、0.1〜10μmであることが好ましく、0.3〜1.5μmであることがより好ましい。
【0033】
該フィラーの使用量は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、5〜100重量部が好ましい。5重量部以上であると耐水溶性切削油性の改良効果が充分に得られ、100重量部以下とすることにより機械的強度が向上させることができる。特に、初期物性と耐水溶性切削油性とのバランスから20〜40重量部であることがより好ましい。
【0034】
また、それぞれのフィラーは脂肪酸などで表面処理を施し、塩化ビニル樹脂との相溶性を改良したものを用いると、成形品の表面性改善や耐油性向上、凝集を防ぎブツ(フィラーの凝集物)を防止する効果もあり、さらに好ましい。
【0035】
本発明において、金属水酸化物の選択は、フィラーの選択と同様、耐水溶性切削油性を改良するための重要なポイントである。すなわち、耐水溶性切削油性を改良するには、JIS K5101に基づくpH値が9.0以上のものを選択して使用する。
【0036】
本発明に用いる金属水酸化物としては、従来公知のものを使用できるが、特に好ましくは、pH値が9.0以上の水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムから選択するのが良い。特に、耐水溶性切削油性改良効果の観点からは水酸化マグネシウムが好ましい。
【0037】
本発明においては、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して金属水酸化物を5〜100重量部使用するのが好ましい。金属水酸化物の使用量が5重量部以上であると耐水溶性切削油性の改良効果が充分に得られ、一方、100重量部以下とすることにより、機械的強度を向上させることができる。特に、初期物性と耐水溶性切削油性とのバランスから10〜40重量部がより好ましい。
【0038】
本発明において、耐水溶性切削油性の改良には、塩基性無機物として前記フィラーおよび金属水酸化物の少なくとも一方のpH値が9.0以上であることが不可欠である。なお、組成物全体中における塩基性成分量が増大し、耐水溶性切削油性の改良効果が大きくなる点から、その両者のpH値が9.0以上であることが好ましい。
【0039】
このような塩基性無機物の作用効果については、未だ充分には解明されていない。従来、アルカリ性物質は、塩化ビニル樹脂の脱塩酸作用を促進することが知られており、配合剤として、アルカリ性物質を使用することは忌避されてきた。しかしながら、塩基性無機物が存在することにより、その表面にエタノールアミンのような水溶性塩基性化合物をイオン的に吸着して、塩化ビニル系樹脂組成物内部への進入を阻害するものと考えられる。このことにより、エタノールアミンによる可塑剤の加水分解などが阻害され、結果として硬化や膨潤による劣化・破壊を防ぐことが可能となると考えられる。ただし、フィラーおよび金属水和物のpH値が極端に高くなり過ぎると、このアルカリ性物質の作用による脱塩酸が顕著になると推測されるため、pH値には最適領域が存在すると考えられる。
【0040】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には可塑剤を添加してもよい。該可塑剤としては従来公知の可塑剤を使用できるが、ロボットケーブル用途においては、耐油性の維持および耐水溶性切削油性の向上のためには、ポリエステル系可塑剤を用いることが特に好ましい。
【0041】
特に好ましく用いられるポリエステル系可塑剤としては、例えば、セバシン酸系、アジピン酸系、アゼライン酸系、フタル酸系のポリエステル系可塑剤があげられる。
【0042】
該ポリエステル系可塑剤の使用量は、塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、20〜150重量部が好ましく、40〜80重量部がより好ましい。使用量が150重量部以下であると、特に高温・高湿下におけるブリードの発生を抑制することができ、20重量部以上とすることにより、ケーブルの柔軟性を維持することが可能となる。
【0043】
本発明においては、ポリエステル系可塑剤を主たる可塑剤として用いると共に、従たる可塑剤として、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油などのエポキシ系可塑剤、トリメリット酸トリオクチルなどのトリメリット酸系可塑剤、ピロメリット酸テトラオクチルなどのピロメリット酸系可塑剤を併用することにより、耐熱老化性などの特性とのバランスを向上させることができる。または、従たる可塑剤として、ジ(2−エチルヘキシルフタレート)、フタル酸ジウンデシル(DUP)などの分子量の大きいフタル酸系可塑剤を用いることにより、耐寒性などとのバランスを向上させることができる。
【0044】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には安定剤を添加してもよい。該安定剤としては、鉛系、錫系、金属石鹸系に大別されるが、近年環境問題により鉛系は忌避される傾向にあるため、金属石鹸系を用いることが好ましい。金属石鹸系安定剤については、CaZn系またはBaZn系にさらに大別されるが、電線分野での使用実績を考慮するとCaZn系を用いることが好ましい。CaZn系安定剤を用いる場合には従来使用されていた三塩基性硫酸鉛等の鉛系安定剤と比較し、一般的に耐熱性および耐候性に劣るため、カルシウムステアレート(CaSt)と亜鉛ステアレート(ZnSt)のみでなく、通常ハイドロタルサイト等の助剤と併用して複合安定剤として用いることが好ましい。
【0045】
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃剤、滑剤、着色剤、充填剤、加工性改良剤、その他の改質剤などを1種または2種以上を組み合わせて用いることもできる。特に、高い難燃性が要求される場合においては、ハロゲン元素と効果的に難燃性を発現する三酸化アンチモンを添加することが好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物を用いて電気製品用ケーブルを製造する方法は、特別な限定はなく、通常の方法で製造すればよい。たとえば、塩化ビニル系樹脂組成物をロール、バンバリー、押出機などで混練し、得られたペレットコンパウンドと導体とをクロスヘッドダイを付設した従来公知の電線用押出機で電線被覆押出成形することにより製造することができる。
【0047】
本発明でいう耐油性とは、JIS K6723に規定されている耐油性試験を意味する。従来、組成物中に含有されるフタル酸ジイソノニル(DINP)などの可塑剤を代表とする油溶性配合剤が絶縁油に抽出され引張強度残率が極端に高くなったり、伸び残率が著しく低下することがあったり、充填剤の種類によっては、絶縁油を吸収するなどして引張強度残率、伸び残率が著しく低下する場合があったが、本発明の組成物は極めて優秀な耐油性を示す。特に、EVA、ポリエステル系可塑剤を使用した系は優れた耐油性を示す。
【0048】
本発明でいう耐水溶性切削油性については、現在JIS規格がなく、各社各様の自主規格を設けて運用している。前述したように、耐水溶性切削油性を制御する配合要因は充分には判っていない。同様に、水溶性切削油による絶縁トラブルの原因も充分には解明されていない。なお、水溶性切削油としては、ユシローケンEC−50T5、シンセティック#770TG(以上、ユシロ化学工業(株)製)、マルチクールCSF8000、エマルカットKT−100ST(以上、共同油脂(株)製)、スギカットCS68−JS−1(スギムラ化学工業(株)製)などがあげられる。
【0049】
本発明でいう各種電気製品用ケーブルとは、JISC3306、JISC3307、JISC3312、JISC3316、JISC3317、JISC3340、JISC3341、JISC3342などに規定されているポリ塩化ビニル樹脂を絶縁材あるいは被覆材(シース材)として、使用する電線・ケーブルを意味する。特に、背景技術の項で説明したように、特にC3312、C3342などに規定されるビニル絶縁ビニルキャブタイヤケーブル、ビニル絶縁ビニルシースケーブルなどのロボットケーブルには極めて好適に使用できる。
【0050】
本発明の塩化ビニル系樹脂組成物を絶縁材として使用した電線は、絶縁材単層でも極めて大きな耐水溶性切削油性を発揮するが、被覆材を使用して二重構造にすることによって、極めて優秀な耐水溶性切削油性を発揮する。しかも、従来の電線・ケーブル特性についても同等以上の性能を保持できる。また、本発明の樹脂組成物を用いたケーブルはJIS2号油または水溶性切削油によって侵食により絶縁不良を起こすことや、電線被覆体を突き破って火を吹くことがなく、さらにはこれらの対策として取ってきた絶縁テープの巻きつけやテフロン(登録商標)加工、シリコン樹脂の被覆等の二次加工をする必要性もなく、実用的にも非常に有用である。
【実施例】
【0051】
つぎに、本発明の樹脂組成物を実施例および比較例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものでない。
【0052】
以下に、実施例および比較例で用いる材料および評価方法をまとめて示す。
【0053】
(使用材料の説明)
1.塩化ビニル系樹脂
1)(株)カネカ製、カネビニールKS1700(平均重合度=1700)
2)(株)カネカ製、カネビニールKS2500(平均重合度=2500)
【0054】
2.可塑剤
1)旭電化(株)製ポリエステル系可塑剤
2)大日本インキ化学工業(株)製トリメリット酸系可塑剤(TOTM)
3)新日本理化工業(株)製ジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP)
【0055】
3.金属水酸化物
(イ)水酸化マグネシウム
1)協和化学(株)製水酸化マグネシウム(平均粒子径=0.8μm、pH=9.3)
2)協和化学(株)製水酸化マグネシウム(平均粒子径=0.8μm、pH=9.6)
(ロ)水酸化アルミニウム
1)昭和電工(株)製水酸化アルミニウム(平均粒子径=0.8μm、pH=8.6)
2)昭和電工(株)製水酸化アルミニウム(平均粒子径=0.8μm、pH=9.1)
【0056】
4.フィラー
(イ)タルク
1)林化成(株)製タルク(平均粒子径=1.4μm、pH=9.8)
2)林化成(株)製タルク(平均粒子径=1.4μm、pH=8.2)
(ロ)炭酸カルシウム
1)日東粉化工業(株)製炭酸カルシウム(平均粒子径=0.6μm、pH=9.2)
【0057】
5.EVA樹脂
1)大日本インキ化学工業(株)製EVA(VAc含量=60%、分子量=31万)
2)大日本インキ化学工業(株)製EVA(VAc含量=80%、分子量=30万)
3)住友化学工業(株)製EVA(VAc含量=35%、分子量=30万)
4)住友化学工業(株)製EVA(VAc含量=85%、分子量=30万)
【0058】
6.エポキシ系可塑剤
1)旭電化(株)製エポキシ系可塑剤
【0059】
7.安定剤
1)旭電化(株)製CaZn系複合安定剤
2)旭電化(株)製BaZn系複合安定剤
【0060】
8.難燃剤
1)日本精鉱(株)製三酸化アンチモン(平均粒子径=1μm)
【0061】
(評価方法)
(A)pH測定方法
JIS K5101に基づき、pH計を用いて次のような煮沸法で測定した。
【0062】
試料5gを三角フラスコ300mlに0.1gの桁まで計量し、イオン交換水100mlを加え5分間加熱して煮沸状態にした後、さらに5分間煮沸した。煮沸後、常温まで放冷し、その後、pH計にてpH値を測定した。
【0063】
(B)機械的初期特性の評価方法
1.硬度
JIS K7215に基づき、試験温度23℃、相対湿度50%の恒温室にて試料調整をした後、デュロメーターA硬度計で測定した。
【0064】
2.引張り試験
JIS K6723に基づき、試験温度23℃、相対湿度50%の恒温室にて試料調整をした後、引張り試験機を用いて、引張り速度=200mm/minで測定した。
【0065】
3.体積抵抗率
JIS K6723に基づき、定法通り評価した。試験温度は30℃とした。
【0066】
4.耐寒性
JIS K6723に基づき、定法通り評価した。
【0067】
5.酸素指数
JIS K7201−2に基づき、定法通り評価した。
【0068】
6.熱安定性
JIS K6723に基づき、定法通り評価した。試験温度は180℃とした。
【0069】
7.加熱変形率
JIS K6723に基づき、定法通り評価した。試験条件は、温度120℃、荷重1kg、時間は1時間とした。
【0070】
(C)熱老化性の評価方法
JIS K6723に基づき、試験サンプルを温度条件136℃のギアオーブン中に168時間放置し老化させた。その後、該試験サンプルを取出し、上記引張り試験に供し、初期特性に対する引張り強度残率および伸び残率で評価した。
【0071】
(D)耐油性の評価方法
JIS K6723に基づき、次のようにして評価した。
【0072】
試験サンプルを温度70℃に加温した試験油槽の中に4時間浸漬した。その後、該試験サンプルを取出し、表面のオイルを取除き、上記引張り試験に供し、初期特性に対する引張り強度残率および伸び残率で評価した。なお、試験油として、JIS C2320記載の1種2号絶縁油を使用した。
【0073】
引張り強度残率および伸び残率が80%以上を合格とした。
【0074】
(E)耐水溶性切削油性の評価方法
上記耐油試験と同様に、試験サンプルを下記条件1または2にしたがって加温した試験油槽の中に下記所定時間浸漬した。その後、該試験サンプルを取出し、表面のオイルを取除き、上記引張り試験に供し、初期特性に対する引張り強度残率および伸び残率で評価した。なお、試験油として、水溶性切削油10%水溶液(ユシローケン:EC−50T5(自動車規格指定油、ユシロ化学工業(株)製))を使用した。
[条件1]試験油温度:85℃、浸漬時間:120時間(5日間)
[条件2]試験油温度:70℃、浸漬時間:1440時間(60日間)
【0075】
なお、独自基準として、条件1では、引張り強度残率=70%以上、伸び残率=70%以上を合格とし、条件2では、引張り強度残率=60%以上、伸び残率=60%以上を合格とした。
【0076】
実施例1〜23および比較例1〜8
表1〜6に示す配合組成に基づき、ポリ塩化ビニル樹脂、可塑剤、安定剤などを配合し、下記条件にて、ブレンド、ロール混練りを行ない、作成したロールシートをプレス加熱して、プレスシートを作成した。該プレスシートから試験片を作成し、前記各種試験に供した。結果を表1〜6に示す。
配合ブレンド方法 : 全ての成分を一括してハンドミキシング
混練機種 : 2本ロールにて、170℃×7分間混練
プレス条件 : 180℃予熱5分、加熱5分後、冷却プレスにて5分。1mm厚(耐寒性・加熱変形率は2mm厚)に調整。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
【表3】

【0080】
【表4】

【0081】
【表5】

【0082】
【表6】

【0083】
実施例1〜23の耐水溶性切削油性試験後の特性を観ると、85℃×120時間の条件1の引張り強度残率、伸び残率は共に70%以上の結果を示している。また、同様に70℃×1440時間(60日間)の条件2の引張り強度残率、伸び残率は共に60%以上の結果を示している。一方、比較例1〜6、特に比較例4〜6においては、pH値が9.0未満のフィラーまたは金属水酸化物を使用した場合は、条件1では、引張り強度残率、伸び残率は共に70%以下の結果を示しており、条件2では、60%以下の結果となっている。
【0084】
また、JIS2号絶縁油を使用した耐油性についても、実施例1〜21は、引張り強度残率、伸び残率共に80%以上を示し、いずれも良好な結果が得られている。一方、可塑剤としてDEHPを使用した比較例1〜3は、耐油試験後の伸び残率が80%未満となって、規格外の結果となり、ポリエステル系可塑剤を使用した比較例4〜6は、耐油試験後の伸び残率は80%以上を維持できるものの、耐水溶性切削油性のレベルが低いことがわかる。
【0085】
さらに、実施例22、23および比較例7、8の結果からわかるように、フィラーまたは金属水酸化物を単独で使用した場合であっても、そのpH値が9.0以上であれば耐水溶性切削油性が合格範囲に到達していることがわかる。
【0086】
以上のように、本発明により提供される塩化ビニル系樹脂組成物は良好な耐油性および耐水溶性切削油性を有しており、両特性のバランスが高度に保たれていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系樹脂、フィラーおよび/または金属水酸化物を含有する塩化ビニル系樹脂組成物において、該フィラーおよび/または金属水酸化物のJIS K5101に基づくpH値が9.0以上であることを特徴とする塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、金属水酸化物を5〜100重量部含む請求項1記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
金属水酸化物が水酸化アルミニウムおよび/または水酸化マグネシウムである請求項1または2記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、フィラーを5〜100重量部含む請求項1、2または3記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項5】
フィラーが、タルクおよび/または炭酸カルシウムである請求項1、2、3または4記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項6】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、酢酸ビニル含量が40〜80重量%のエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂を5〜50重量部含有する請求項1、2、3、4または5記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項7】
可塑剤および/または安定剤を含む請求項1、2、3、4、5または6記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項8】
塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、可塑剤を20〜150重量部含む請求項7記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項9】
可塑剤がポリエステル系可塑剤である請求項7または8記載の塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の塩化ビニル系樹脂組成物をシースとして被覆してなるケーブル。

【公開番号】特開2006−291145(P2006−291145A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−117464(P2005−117464)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(399034378)昭和化成工業株式会社 (6)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】