説明

塩素の電解合成用電極

【課題】塩素発生に対して優れた電気触媒活性を示す電極を提供する。
【解決手段】チタン、タンタルまたはニオブを主要割合として有するバルブメタルに基づく電気伝導性基板、ならびに50mol%までの貴金属酸化物もしくは貴金属混合酸化物および少なくとも50mol%の酸化チタンを含んで成る電気触媒的に活性なコーティングを含んで成る電極であり、該コーティングはX線回折図(Cu照射)において、線形バックグラウンドを差引いた後の最も強いアナターゼ反射の信号高さの、同じ回折図における最も強いルチル反射の信号高さに対する比率によって決定される最小割合のアナターゼ構造の酸化物を含んで成り、該比率は少なくとも0.6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願はドイツ特許出願第10 2010 031 571.0号(2010年7月20日出願)の利益を主張し、その全てを引用して全ての有利な目的のために本願に組み込まれる。
【0002】
本発明は、少なくともバルブメタル(valve metal)に基づく電気伝導性基板ならびに貴金属酸化物もしくは貴金属混合酸化物および酸化チタンの電気触媒的に活性なコーティングから成る既知の電極から出発している。
【背景技術】
【0003】
従来の塩素製造技術は、ルテニウム−チタン混合酸化物(例えば、寸法的に安定なアノード、DSA(登録商標))から成る電極コーティングを利用している。該コーティングの組成、即ち、ルテニウムのチタン酸化物に対する比は、それが電気触媒活性を決定するという点において決定的因子である。市販のDSA(登録商標)は30 モル% のRuO2 および 70 モル%のTiO2から成っている。 J. Electrochem, Soc. 124, 500 (1977)に記載されている様に、コーティングはルチル構造のTiO2-ルテニウム酸化物固溶体から成る主要相、並びに純ルテニウム酸化物および純アナターゼ相から成る第二相から構成されている。米国特許第3 562 008号は、結晶性貴金属酸化物もしくは貴金属を伴った優勢的な非晶質チタン酸化物のコーティングを記述している。更に、Russ. J. Electrochem, 38, 657 (2002) 及び Mat. Chem. and Phys. 22, 203 (1989)に記載されている様に、水和ルテニウム酸化物が非晶質な水和酸化物相に並んで存在し得る。印刷出版物Electrochimica Acta 40, 817 (1995)及び Electrochimica Acta 48, 1885 (2003)は、熱分解法の手段で製造されたRuO2-TiO2 コーティングは構造的に短周期秩序を持つ生成物に至ることを示している。これらの不均一に構成された層はRuO2 及び TiO2 領域のマイクロクラスターを含み、これらのマイクロクラスターは層中で不規則に分布している。これらの層の電子伝導性はパーコレーション理論(percolation theory) (Journal of Solid State Chemistry 52, 22 (1984))の用語を用いて記述することができる。この理論は絶縁マトリックスTiO2 領域中における非常に細かく分割された伝導性粒子(RuO2 領域)の伝導性を説明する。この理論に因れば、電子的特性はマトリックス酸化物の均一性によって決定される。コーティングの如何なる活性増強及び有益な寿命の如何なる改良も、活性成分RuO2 が分子スケールで均一に分布することができるときにのみ達成可能である。TiO2 マトリックス中におけるRuO2 のその様な分布は、Journal of Sol-Gel Science and Technology 29, 81 (2004) 及び Colloids and Surface A 157, 269 (1999)に記述されているように、ゾル-ゲル法によって達成可能である。このゾル-ゲル法において、適切な前駆体物質の加水分解の結果として成分が分子レベルで分布されるに至る。ゾル-ゲル法の利点は以下のとおりである:
1.低温での反応が非常に小さなナノ構造の製造を可能にする。
2.出発物質の加水分解が、均一に及び分子レベルで分割され並びに化学的相互作用(例えば、結合)によって形成された生成物(RuO2-TiO2)を与える。電極コーティング中に生じた酸化物の均一な分布が、電流の最適な流れを確保する伝導性の電子的経路を生じさせる。
【0004】
不安定物質の熱分解経由で製造されるコーティングと対照的に、ゾル−ゲル法で製造された層は混合操作の均一性に起因して、より優れた電子的及び機械的特性を示す。このことは付加的に層の高い安定性を与える。Journal of Electroanalytical Chemistry 579, 67 (2005)中で述べられている様に、ゾル−ゲル法経由で製造されたサンプルは熱分解経由で製造されたサンプルよりも、塩素発生経過中にサンプルのインピーダンスの増加が少ないことを示す。この観察はゾル−ゲル法で製造されたサンプルの高い活性を示唆する。ゾル−ゲル経路の一つの不利益は、二元系 RuO2-TiO2 層中での相変化に対して範囲が制限されることである。相組成はpH、出発原料組成及び出発温度を変化させることによって狭い範囲で制御することが出来る。これらの可能性は、Materials Chemistry and Physics 110, 256 (2008), Journal of the European Ceramic Society 27, 2369 (2007), Journal of Thermal Analysis and Calorimetry 60, 699 (2000), Chem. Mater. 12, 923 (2000) 及び J. Sol-Gel. Sci, Techn 39, 211 (2006)に記述されている。RuO2-TiO2 間の相形成挙動がJournal of the Electrochemical Society 124, 500 (1977)に記述されている。TiO2は二つのポリマー相、ルチル及びアナターゼ、に生ずる。アナターゼは低温で安定である一方、ルチルは高温でのみ生ずる。両相は熱処理を経由して相互に転換可能である。転換の更なる可能性は、第二成分をドーパントの形で添加することである。このドーパントはTiO2構造上に付加し、それによって配位に影響を及ぼして、均一なルチルまたはアナターゼ相の形成に導く。正方晶系RuO2及び正方晶系TiO2(ルチル)間の非常に良好な格子マッチングにより、後者(ルチル)の形成が生じやすい。従って、従来のコーティングは正方晶系構造の固体混合物 RuO2/TiO2から成る主要構成要素を有する。製造方法によっては、20〜40mol%のRuO2含量を有する層が、小さな比率でアナターゼ相を含み得る。構造の熱力学的安定性、即ち、Ru及びTiのMO6正八面体構造の結合挙動は、ナノ粒子の表面自由エネルギーに依存し、表面自由エネルギーは表面化学(酸化物及び水酸化物形成、水吸着 (Nano Letter 5, 1261 (2005))によって影響を受ける。一般的に、酸化的条件下での非晶質相の熱誘起結晶化は、主要割合としてルチル相を有するコーティング構造へと導く。この工程は酸素の表面吸着に起因する。これまで、アナターゼを主要割合で有する電気触媒的に活性なコーティングは知られていない。
【0005】
驚くべきことに、増加したアナターゼ割合を有するコーティングが、ルチル構造に基づいた層と比較して塩素発生に対する増加した電気触媒活性を示すことが見出された。本発明は、従って、アナターゼ相を主要割合として有する電気触媒的に活性なコーティングを製造することを課題とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3 562 008号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J. Electrochem, Soc. 124, 500 (1977)
【非特許文献2】Russ. J. Electrochem, 38, 657 (2002)
【非特許文献3】Mat. Chem. and Phys. 22, 203 (1989)
【非特許文献4】Electrochimica Acta 40, 817 (1995)
【非特許文献5】Electrochimica Acta 48, 1885 (2003)
【非特許文献6】Journal of Solid State Chemistry 52, 22 (1984)
【非特許文献7】Journal of Sol-Gel Science and Technology 29, 81 (2004)
【非特許文献8】Colloids and Surface A 157, 269 (1999)
【非特許文献9】Journal of Electroanalytical Chemistry 579, 67 (2005)
【非特許文献10】Materials Chemistry and Physics 110, 256 (2008)
【非特許文献11】Journal of the European Ceramic Society 27, 2369 (2007)
【非特許文献12】Journal of Thermal Analysis and Calorimetry 60, 699 (2000)
【非特許文献13】Chem. Mater. 12, 923 (2000) 及び J. Sol-Gel. Sci, Techn 39, 211 (2006)
【非特許文献14】Journal of the Electrochemical Society 124, 500 (1977)
【非特許文献15】Nano Letter 5, 1261 (2005)
【発明の概要】
【0008】
本発明の実施態様は、チタン、タンタルまたはニオブを主要割合として有するバルブメタルに基づく電気伝導性基板、ならびに50mol% までの貴金属酸化物もしくは貴金属混合酸化物および少なくとも50mol% の酸化チタンを含んで成る電気触媒的に活性なコーティングを含んで成る電極であって、該コーティングはX線回折図(Cu照射)において、線形バックグラウンドを差引いた後の最も強いアナターゼ反射の信号高さの、同一方向へのバックグラウンドを差し引いた後の最も強いルチル反射の信号高さに対する比率によって決定される最小割合のアナターゼ構造の酸化物を含んで成り、該比率は少なくとも0.6である。
【0009】
本発明のもう一つの実施態様は上記電極であって、貴金属酸化物がルテニウム、イリジウム、白金、金、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム及びそれらの混合物から成る群から選択される金属の酸化物である。
【0010】
本発明のもう一つの実施態様は上記電極であって、貴金属酸化物がルテニウムまたはイリジウムの酸化物である。
【0011】
本発明のもう一つの実施態様は上記電極であって、電気触媒的活性層が10〜50 mol%の貴金属酸化物または貴金属混合酸化物から成る。
【0012】
本発明のもう一つの実施態様は上記電極であって、電気触媒的活性層が15〜50 mol%の貴金属酸化物または貴金属混合酸化物から成る。
【0013】
本発明のもう一つの実施態様は上記電極であって、酸化チタンの割合が50〜90 mol%の範囲にある。
【0014】
本発明のもう一つの実施態様は上記電極であって、酸化チタンの割合が50〜85 mol%の範囲にある。
【0015】
本発明の更にもう一つの実施態様は方法であって、貴金属塩を有機溶媒に溶解させ、可溶性チタン化合物を有機及び/または水性溶液中に添加し、溶液を混合し、貴金属塩を水、水性の酸またはそれらの混合物で加水分解し、溶液を1以上の段階で電気伝導性基板に適用(塗布)し、溶媒を除去し、250℃を超えない温度で、10〜100barの圧力下、水蒸気および随意に低級アルコールの存在下に熱的に後処理し、300℃を超える温度で酸素含有ガスの存在下に焼成して、電気伝導性基板上に電気触媒的に活性なコーティングを有する電極を形成することを含んで成る方法である。
【0016】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、可溶性チタン化合物がTi(iOPr)4である。
【0017】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、水性の酸が酢酸、プロピオン酸、HCL、HNO3 およびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0018】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、熱的後処理が100〜250℃の温度で実施される。
【0019】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、焼成が400〜600℃の温度で実施される。
【0020】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、焼成が450〜600℃の温度で実施される。
【0021】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、貴金属塩が貴金属の塩化物、硝酸塩、アルコキシド、アセチルアセトネートおよびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0022】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、貴金属塩が貴金属塩化物である。
【0023】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、有機溶媒が少なくとも1つのC1〜C8 アルコールを含んで成る。
【0024】
本発明のもう一つの実施態様は上記方法であって、有機溶媒がメタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールおよびそれらの混合物から成る群から選択される。
【0025】
本発明の更なるもう一つの実施態様は上記方法から得られた電極である。
【0026】
本発明の更なるもう一つの実施態様は上記電極を含んで成る電解槽である。
【0027】
本発明の更なるもう一つの実施態様は上記方法から得られた電極であって、X線回折図(Cu 照射)における線形バックグランドを差し引いた後の最も強いアナターゼ反射の信号高さの、同一のX線回折図における線形バックグランドを差し引いた後の最も強いルチル反射の信号高さに対する比率が少なくとも1である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、ソルボサーマル的(solvothermally)に予備処理された例1からのサンプルのX線回折図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は塩素の電解製造用の電極コーティングの製造に関するものであって、該コーティングは貴金属酸化物成分および特別のアナターゼ最小分率を持つアナターゼ−ルチル混合物を含んで成る。
【0030】
一つの特別の電極は、コーティングがアナターゼ構造のある割合を含むことによって特徴づけられるが、その構造は、それぞれの場合において線形バックグランドを差し引いた後において、X線回折図(Cu照射)における最強のアナターゼ反射((101)反射)のピーク高さが、X線回折図における最強のルチル反射((110)反射)の高さの少なくとも60%を有することで特徴づけられる。組成および電極コーティングのミクロ構造の影響の特定の調整は、例えば、2段階法によって達成される。この2段階法において、熱的に安定化されおよび非晶質の出発相は、ゾル−ゲル操作で製造されるが、最初にソルボサーマル処理(solvothermal treatment)において結晶化され、次いで熱的後処理によって結晶化される。
【0031】
ここで云うアナターゼ構造を持つ物質とは、アナターゼ型構造を持つ如何なる物質を云う。
【0032】
本発明の目的にとってのソルボサーマル処理とは、常圧に比しての高められた圧力および室温に比して高められた温度での処理である。
【0033】
先行技術と対照的に、ここで記述される方法は、塩素製造における直接的な効率増強に導くより高いアナターゼ割合(fraction)を持つコーティングを提供する。
【0034】
この目的にとって、非晶質の出発混合物を結晶化させるために、250℃を超えない処理温度、好ましくは, 100〜250℃の範囲の温度、および1〜10 MPa の処理圧力を有するソルボサーマル法が適切であると判明した。
【0035】
本発明は、バルブ金属、より具体的にはチタン、タンタルまたはニオブを主要割合で有するチタン、タンタル、ニオブまたはそれらの任意の合金並びに40mol%までの貴金属酸化物もしくは貴金属混合酸化物および少なくとも60mol% の酸化チタンでコーティングされた電気触媒的に活性なコーティングに基づく少なくとも電気伝導性基板から成る電極を提供するものであって、該コーティングはアナターゼ構造の酸化物の最小割合を含み、該最小割合は、それぞれにおいて線形バックグランドを差し引いた後のX線回折図(Cu照射)における最強のアナターゼ反射((101)反射)ピーク高さの、同じX線回折図における最強のルチル反射((110)反射)ピーク高さに対する比率によって決定され、該比率は少なくとも0.6、好ましくは少なくとも1の値を持つ。
【0036】
貴金属酸化物がルテニウム、イリジウム、白金、金、ロジウム、パラジウム、銀、レニウムから成る群から選ばれた1以上の金属の酸化物であることを特徴とする電極が好ましい。ルテニウムまたはイリジウムの酸化物が貴金属酸化物としての使用に特に好ましい。
【0037】
好ましくは、電気触媒的に活性な層は10〜50mol%の、より好ましくは15〜50mol%の貴金属酸化物または貴金属混合酸化物を含む。
【0038】
電極の好ましい実施態様としては、チタン酸化物成分の割合は50〜90mol% の範囲、好ましくは50〜85 mol%の範囲にある。
【0039】
本発明は更に、電気伝導性基板上に電気触媒的に活性なコーティングを有する電極を製造する方法提供する。より具体的には、上記の貴金属電極の製造方法であって、以下の工程を有する:
【0040】
貴金属塩、より具体的には貴金属塩化物を水性溶媒に溶解し、有機及び/又は水性溶媒中に可溶性チタン化合物、より具体的にはTi(iOPr)4 を添加し、溶液を混合し、水及び/又は水性酸、より具体的には酢酸、プロピオン酸、HClまたはHNO3を用いて加水分解し、該溶液を電気的に伝導性の物質に1以上の段階で適用し、溶媒を除去し、250℃を超えない温度で、好ましくは100〜250℃の温度および10〜100bar(1〜10 MPa)の圧力で、水蒸気の存在下、随意に低級アルコールの存在下に生成層を熱的に後処理し、それに続いて、得られた層を酸素含有ガスの存在下に300℃を超える温度で、好ましくは400〜600℃、より好ましくは 450℃〜550℃の温度で焼成する工程。
【0041】
本発明の方法は、例えば、15〜40 mol%の貴金属成分(例えば、RuO2またはRuO2/IrO2混合物)および主要割合でアナターゼ構造を有するTiO2相から成る電気触媒的に活性な層を提供する。
【0042】
主要割合のアナターゼ構造は、各ケースにおいて線形バックグランドを差引いた後の、X線回折図中のアナターゼ構造(反射 (101))の最強反射の高さをルチル構造(反射 (110))の最強反射の高さで割った値が0.6以上のときに存在する。
【0043】
コーティング溶液は例えばゾル-ゲル法を経由して得ることができ、用いる前駆体の塩は、好ましくは、前記貴金属の塩化物、硝酸塩、アルコキシドまたはアセチルアセトネートであり、それら前駆体の塩をC1〜C8アルコール、より具体的にはメタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、n−ブタノールまたはt−ブタノールから選択される溶媒中に撹拌および超音波処理下に溶解する。出発物質が自然に加水分解し縮合することを避けるために、アセチルアセトンまたは4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンの様な錯化剤を添加する。水及び/又は酢酸、プロピオン酸、HClまたはHNO3の様な酸を前駆体の加水分解および縮合のために添加する。この様にして調製した溶液が、例えばチタン、タンタル及びニオブまたはそれらの合金の様な電気伝導性基板のコーティングに用いられる。これらの物質は異なる形状、例えば、シート、ワイヤまたはネットの形状で存在することができる。存在する如何なる酸化物層も除去し、および基材表面積の拡大を通してコーティングの機械的結合強度を達成するために、基材の機械的、化学的または電気化学的処理がおそらく要求される。コーティング溶液は、浸漬、スピンコーティング、散布、浸漬もしくは刷毛塗りの様な方法を用いて適用される。そこから得られる層は空気乾燥され、次に100〜250℃で熱的に安定化される。前述の工程を多段階繰り返すことにより、より厚い層が得られる。熱的安定化の後に、コーティングは非晶質構造を示し、この非晶質構造は本発明の方法によって結晶化される。
【0044】
ソルボサーマル法は例えば、気密に封止され及び加熱された鉄鋼シリンダー中で実施される。必要な処理圧力は鋼鉄シリンダー中のテフロン(登録商標)内管中にある蒸発可能な液体によって達成される。処理圧力は液体の量および適用温度によって設定される。水、溶媒または希釈ゾル溶液が液体として用いられる。封止された鋼鉄シリンダーを、例えば10℃/minの速度で150〜200℃まで3〜24時間加熱する。この加熱で鋼鉄シリンダー中が1〜10MPaの圧力に高まる。コーティングされたサンプルを室温まで冷却した後に、300℃を超える温度で、好ましくは400〜600℃、好ましくは450℃〜550℃で1〜2時間、熱的後処理を実施する。
【0045】
次に、塩素発生を特性づけるために、形成された電極を用いて電気化学的試験(例えばサイクリック・ボルタメトリー )を実施することができる。
【0046】
その様な試験過程において、熱的後処理はその様な電極が既知の電極に対して機能上の明確な改良を提供することが見出された。例示的実施態様が示すように、ソルボサーマル予備処理されたサンプルは、純粋な熱処理されたサンプルに対して明らかに高い電気触媒的活性を示した。
【0047】
本発明は更に、本発明による電極を、塩素の電解製造における(水性)食塩もしくは塩酸溶液の電解槽アノードとして用いることを提供する。
【0048】
本発明は更に、食塩もしくは塩化水素を含んで成る溶液の電気分解のための電解槽を提供するものであって、該電解槽は本発明による電極をアノードとして備えることを特徴とする。
【0049】
本発明を以下の例示的実施態様に沿って説明するが、しかしながら、それらの実施態様は本発明を限定するものではない。
【0050】
図1は、例におけるソルボサーマル予備処理されたサンプルのX線回折図を示す。
記号は以下の通りである:
A:アナターゼ構造型の相の反射(101)
R:ルチル構造型の相の反射(110)
【0051】
上記全ての参照は引用によってその全てを有益な目的のために取り込まれる。
【0052】
本発明を具体化するある種の特定の構造が示され記述されるが、多様な変形および部分の再配列が、底流にある発明概念の精神および範囲から外れることなく為し得ることが当業者には明白であろう。
【実施例】
【0053】
例1
直径15mm(厚さ:2mm)のチタン円板を研磨し、次いで10%シュウ酸中で80℃で2時間エッチングする。その後、円板を酸から外して2-プロパノールで洗浄する。円板を窒素気流下で乾燥する。ゾル溶液の第1成分(溶液A)を調製するために、168.5mgのRuCl3xH2O (36% Ru) を6mlの2-プロパノールに溶解して12時間撹拌する。溶液Bを、予め7.52mlの2-プロパノールに溶解した333.1μlのTi(i-OPr)4および561.5μlの4-ヒドロキシ-4-メチル-2ペンタノンから調製する。均一化は30分間撹拌することによる。溶液AおよびBを超音波下に合わせる。その結果、透明な溶液が得られる。その後、12.9μlの酢酸および27μlの脱イオン水を加水分解のために添加する。得られる混合物を室温で12時間撹拌する。この混合物をコーティング溶液として使用する前に、それを26.67mlの2-プロパノールで希釈する。この溶液の50 μlを上記チタン円板上に滴下し、空気乾燥する。この操作を、4回の適用(塗布)後毎に200℃で10分間の熱安定化を行いつつ24回繰り返す。結果として40mol% RuO2および60 mol% TiO2の化学組成を持つ非晶質コーティングを得る。これは10.3g/m2のルテニウム担持に対応する。ソルボサーマル処理は、30mlのコーティング溶液(37.5mMol)を入れた250mlテフロン(登録商標)内挿管を持った上記鋼鉄オートクレーブ中で実施される。コーティングされたサンプルをガラス容器中に入れ、該ガラス容器をテフロン(登録商標)内挿管中に入れる。密封したオートクレーブを10℃/minで150℃に加熱し、150℃で24時間放置する。室温に冷却後、コーティングされた基板を空気中、450℃で1時間、熱的に後処理する。ソルボサーマル予備処理なしの対照サンプルは、単に、空気中、450℃で1時間の熱処理をするだけである。相分析はX線回折計により行う。図1はソルボサーマル予備処理を伴ったサンプルのX線回折図を示す。コーティングがアナターゼ構造を優先的に含むことが明らかである。線形バックグランドを差引いた後、X線回折図におけるアナターゼ構造(反射(101))の最強反射高さの、ルチル構造(反射(110))の最強反射高さに対する比率が3.96である。ソルボサーマル予備処理なしでは、ルチル相が生ずるのみである。塩素発生に対する電気触媒活性をクロノアンペロメトリー(chronoamperometry)(参照電極:Ag/AgCl, 3.5mol/l NaCl, pH: 3, T: 25℃)を用いて検討した。1kA/m2の電流密度を適用して、電圧を決定した。観測された電圧は、ソルボサーマル予備処理サンプルに対して1.18V、純粋に熱処理されたサンプルに対して1.32Vである。
【0054】
例2
チタン基板を例1と同様に処理する。ゾル溶液の第1成分(溶液A)を調製するために、105.3mgのRuCl3H2O (36% Ru)を4.88mlの2-プロパノール中に溶解し、12時間撹拌する。溶液Bを、7.52mlの2-プロパノールに予め溶解した333.1μlのTi(i-OPr)4および561.5μlの4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンから調製する。均一化は30分間の撹拌による。超音波下に溶液AおよびBを混合する。結果は、透明溶液となる。その後、12.9μlの酢酸および27μlの脱イオン水を加水分解のために添加する。得られる混合物を室温で12時間撹拌する。この溶液をコーティング溶液として使用する前に、この溶液を26.67mlの2-プロパノールで希釈する。この溶液の50μlを上記のチタン板上に滴下し、続いて空気乾燥する。この操作を、4回の適用(塗布)後毎に100℃で10分間の熱安定化を伴って24回繰り返す。結果として25mol% RuO2および75mol% TiO2の化学組成を持つ非晶質コーティングを得る。これは6.4g/m2のルテニウム担持に対応する。ソルボサーマル予備処理および熱的後処理を例1に記述された様に実施する。ソルボサーマル予備処理なしの対照サンプルは、単に空気中、450℃で1時間の熱処理をするだけである。相分析はX線回折計により行う。
【0055】
ソルボサーマル予備処理なしのサンプルのX線回折図から、優勢なルチル含量を持つルチル‐アナターゼ構造混合物の存在が明らかである。線形バックグランドを差引いた後、X線回折図におけるアナターゼ構造(反射 (101))の最強反射高さの、ルチル構造(反射 (110))の最強反射高さに対する比率は0.18である。ソルボサーマル予備処理サンプルのX線回折図はコーティングがアナターゼ構造を優勢的に含むことを示している。線形バックグランドを差引いた後、X線回折図におけるアナターゼ構造(反射 (101))の最強反射高さの、ルチル構造(反射 (110))の最強反射高さに対する比率は1.81である。塩素発生に対する電気触媒活性をクロノアンペロメトリー(参照電極:Ag/AgCl, 3.5mol/l NaCl, pH: 3, T: 25℃)を用いて検討した。1kA/m2の電流密度を適用して、電圧を決定した。観測された電圧は、ソルボサーマル予備処理サンプルに対して1.23V、純粋に熱処理されたサンプルに対して1.42Vである。
【0056】
例3
チタン基板を例1と同様に処理する。ゾル溶液の第1成分(溶液A)を調製するために、105.3mgのRuCl3H2O(36% Ru) を4.88mlの 2-プロパノール中に溶解し、12時間撹拌する。溶液Bを、7.52mlの2-プロパノールに予め溶解した333.1μlのTi(i-OPr)4および561.5μlの4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンから調製する。均一化は30分間の撹拌による。超音波下に溶液AおよびBを混合する。結果は、透明溶液となる。その後、12.9μlの酢酸および27μlの脱イオン水を加水分解のために添加する。得られる混合物を室温で12時間撹拌する。この溶液をコーティング溶液として使用する前に、この溶液を26.67 mlの2-プロパノールで希釈する。この溶液の50μlを上記のチタン板上に滴下し、続いて空気乾燥する。この操作を、4回の適用(塗布)後毎に250℃で10分間の熱安定化を伴って24回繰り返す。結果として25mol% RuO2および75 mol% TiO2の化学組成を持つ非晶質コーティングを得る。これは6.4g/m2のルテニウム担持に対応する。ソルボサーマル予備処理を例1に記述された様に、30mlのコーティング溶液(37.5mMol)を充填した250mlテフロン(登録商標)内挿管を持つ鋼鉄オートクレーブ中で実施する。コーティングされたサンプルをガラス容器中に入れ、該ガラス容器をテフロン(登録商標)内挿管中に入れる。密封したオートクレーブを10℃/minで150℃に加熱し、150℃で24時間放置する。室温に冷却後、コーティングされた基板を空気中、450℃で1時間、熱的に後処理する。ソルボサーマル予備処理なしの対照サンプルは、単に空気中、450℃で1時間の熱処理をするだけである。相分析はX線回折計により行う。ソルボサーマル予備処理なしのサンプルのX線回折図は、ルチル相のみが存在することを示す。ソルボサーマル予備処理されたサンプルのX線回折図は、コーティングがルチル相に加えてアナターゼ相を含んでいることを示す。線形バックグランドを差引いた後、X線回折図中のアナターゼ構造(反射(101))の最強反射高さの、ルチル構造(反射 (110))の最強反射高さに対する比率は0.21である。
【0057】
塩素発生に対する電気触媒活性をクロノアンペロメトリー(参照電極:Ag/AgCl, 3.5 mol/l NaCl, pH: 3, T: 25℃)を用いて検討した。1kA/m2の電流密度を適用して、電圧を決定した。観測された電圧は、ソルボサーマル予備処理サンプルに対して1.32V、純粋に熱処理されたサンプルに対して1.41Vである。
【0058】
例4
チタン基板を例1と同様に処理する。ゾル溶液の第1成分(溶液A)を調製するために、63.2mgのRuCl3H2O (36% Ru)を1.26mlの2-プロパノール中に溶解し、12時間撹拌する。溶液Bを、11.1mlの2-プロパノールに予め溶解した377.5μlのTi(i-OPr)4および561.5μlの4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノンから調製する。均一化は30分間の撹拌による。超音波下に溶液AおよびBを混合する。結果は透明溶液となる。その後、12.9μlの酢酸および27 μlの脱イオン水を加水分解のために添加する。得られる混合物を室温で12時間撹拌する。この溶液をコーティング溶液として使用する前に、この溶液を26.67mlの2-プロパノールで希釈する。この溶液の50μlを上記のチタン板上に滴下し、続いて空気乾燥する。この操作を、毎回の適用(塗布)後に200℃で10分間の熱安定化を伴って8回繰り返す。結果として15mol% RuO2および85mol% TiO2の化学組成を持つ非晶質コーティングを得る。これは3.86g/m2のルテニウム担持に対応する。ソルボサーマル予備処理を、例1に記述された様に30mlのコーティング溶液(37.5mMol)を充填した250 mlテフロン(登録商標)内挿管を持つ鋼鉄オートクレーブ中で実施する。コーティングされたサンプルをガラス容器中に入れ、ガラス容器をテフロン(登録商標)内挿管中に入れる。密封したオートクレーブを10℃/minで150℃に加熱し、150℃で3時間放置する。室温に冷却後、コーティングされた基板を空気中、250、300、350、400および450℃で、各場合に10分間、熱的に後処理する。サンプルのX線回折図は、高い割合のルチル相を有するルチル‐アナターゼ混合相が存在することを明らかにする。線形バックグランドを差し引き後、X線回折図中のアナターゼ構造(反射(101))の最強反射高さの、ルチル構造(反射(110))の最強反射高さに対する比率は0.10である。塩素発生に対する電気触媒活性をクロノアンペロメトリー(参照電極:Ag/AgCl, 3.5mol/l NaCl, pH: 3, T: 25℃)を用いて検討した。1.27Vの電圧が見出された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極であって、
チタン、タンタルまたはニオブを主要割合として有するバルブメタルに基づく電気伝導性基板、ならびに
50mol%までの貴金属酸化物もしくは貴金属混合酸化物および少なくとも50mol%の酸化チタンを含んで成る電気触媒的に活性なコーティングを含んで成り、
該コーティングはX線回折図(Cu照射)において、共に線形バックグラウンドを差引いた後において、最も強いアナターゼ反射の信号高さの、最も強いルチル反射の信号高さに対する比率によって決定される最小割合のアナターゼ構造の酸化物を含んで成り、該比率が少なくとも0.6である電極。
【請求項2】
貴金属酸化物が、ルテニウム、イリジウム、白金、金、ロジウム、パラジウム、銀、レニウムおよびそれらの混合物から成る群から選ばれた金属の酸化物である、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
貴金属酸化物がルテニウムまたはイリジウムの酸化物である、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
電気触媒的に活性な層が10〜50mol%の貴金属酸化物または貴金属混合酸化物を含んで成る、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
電気触媒的に活性な層が15〜50mol%の貴金属酸化物または貴金属混合酸化物を含んで成る、請求項4に記載の電極。
【請求項6】
酸化チタンの割合が50〜90mol%の範囲にある、請求項1〜5のいずれか1つに記載の電極。
【請求項7】
酸化チタンの割合が50〜85mol%の範囲にある、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
方法であって、
貴金属塩を有機溶媒に溶解し、
可溶性チタン化合物を有機及び/または水性溶液中に添加し、
溶液を混合し、
貴金属塩を水、水性の酸またはそれらの混合物で加水分解し、
溶液を1以上の段階で電気伝導性基板に適用し、
溶媒を除去し、
250 ℃を超えない温度で、10〜100barの圧力下、水蒸気および随意に低級アルコールの存在下に熱的に後処理し、ならびに
300 ℃を超える温度で酸素含有ガスの存在下に焼成して、
電気伝導性基板上に電気触媒的に活性なコーティングを有する電極を形成する工程を有して成る方法。
【請求項9】
可溶性チタン化合物がTi(iOPr)4である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
水性の酸が、酢酸、プロピオン酸、HCL、HNO3およびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
熱的後処理が100〜250℃の温度で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
焼成が400〜600℃の温度で実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
焼成が450〜550℃の温度で実施される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
貴金属塩が貴金属の塩化物、硝酸塩、アルコキシド、アセチルアセトナートおよびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
貴金属塩が貴金属塩化物である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
有機溶媒が少なくとも1つのC1〜C8アルコールである、請求項8に記載の方法。
【請求項17】
有機溶媒が、メタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、t-ブタノールおよびそれらの混合物から成る群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
請求項8に記載の方法で得られる電極。
【請求項19】
請求項1に記載の電極をアノードとして含んで成る電解槽。
【請求項20】
比率が少なくとも1である、請求項1に記載の電極。

【図1】
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【公開番号】特開2012−7238(P2012−7238A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−132304(P2011−132304)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】