説明

塩組成物およびその製造方法

【課題】血圧上昇抑制、血栓発生予防に効果があり、食味の良い塩組成物を、海水を利用して簡便な方法で製造し提供すること。
【解決手段】海水を脱塩処理し、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めたことを特徴とする塩組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水を利用した塩組成物およびその製造方法に関する。詳しくは、ミネラル成分を豊富に含む海水を脱塩処理し、ナトリウム塩およびカリウム塩の濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めた塩組成物およびその簡便な製造方法に関する。該塩組成物は、血圧上昇抑制および血栓発生予防の効果を有しつつ、食味が良いため有用である。
【背景技術】
【0002】
生活習慣病の一つである高血圧の対策として食生活の改善が挙げられる。日本では醤油、味噌、漬物、梅干し、塩辛などの塩化ナトリウム含量が高い食品が好まれている。ナトリウムは人体にとって必須元素であるが、過剰摂取は高血圧を引き起こす原因であるとされている。反面、カリウムの摂取は血圧降下作用があるという研究結果が報告されている(非特許文献1)。また、その他にも様々なミネラルが血圧に影響を与えることが知られており、特にマグネシウムおよび珪素化合物は血圧上昇抑制効果が大きいことが知られている。
【0003】
また、マグネシウムは、血圧の上昇を抑制する効果とともに、血栓の発生を防止する効果を有することが知られている。これらのミネラルについて、それぞれの効用及び欠乏症について表1にまとめた。
【0004】

【0005】
イオン交換膜、天日乾燥などの手段により調製された市販の食用塩はナトリウム濃度が高く、特にイオン交換膜法による食塩のナトリウム純度は99.5質量%以上である。塩化カリウムは、塩化ナトリウム同様に塩味を呈しているため、塩化ナトリウムの一部を塩化カリウムに置き換えることにより、ナトリウム純度を低下させた代替塩が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記代替塩は、市販の食用塩と比較して、血圧上昇を抑制する効果を有するが、塩化カリウムの含有量増加にともない、塩化カリウムの苦みを原因とする食味の悪さが発生するなどの問題を有している。
【0007】
また、近年では、他にも上記した各種のミネラルを含有する塩化ナトリウムの代替塩が市販されているが、それらの調製法は複雑であり、各ミネラルの体内における吸収度合いがばらつくなどの問題を有している。
【0008】
【非特許文献1】Journal of American Medical Association 277巻、1624−1632ページ(1997年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、ミネラルバランスを考慮しつつ、海水を脱塩処理することにより、血圧上昇抑制および血栓発生予防の効果を有し、さらに食味の良い塩組成物を簡便な製造方法で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の構成は、下記の通りである。
1.海水を脱塩処理し、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めたことを特徴とする塩組成物。
2.ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩の合計を100質量%とした場合の各塩の含有量が、下記の通りである前記1に記載の塩組成物。
ナトリウム塩:60〜70質量%
カリウム塩:0〜10質量%
カルシウム塩:0〜10質量%
マグネシウム塩:15〜30質量%
3.海水が、海洋深層水である前記1に記載の塩組成物。
4.更にトクサ科植物由来の珪素化合物を全塩100質量部当たり0.001〜0.5質量部の割合で含む前記1に記載の塩組成物。
5.更にトレハロース化合物を含む前記1に記載の塩組成物。
6.海洋深層水をモザイク荷電膜により脱塩処理し、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めることを特徴とする塩組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、海水を脱塩処理することにより、血圧上昇抑制および血栓発生予防の効果を有し、さらに食味の良い塩組成物およびその簡便な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に好ましい実施の形態を挙げて本発明を更に詳しく説明する。
本発明の塩組成物は、海水を脱塩処理し、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めたことを特徴としている。
【0013】
本発明で使用する海水としては、海洋の表層水または深層水を利用することができる。好ましくは、一般に表層水と比べて、生菌数が少なく、栄養塩類が豊富な、水深200m以上の海洋から取水された深層水を利用する。
【0014】
また、海中では、深度が高くなるにつれて珪素濃度が高くなることが知られており、この点からも表層水と比較して、深層水の方が本発明の原料として有利であるといえる。珪素化合物は鉱泉水、地下水にも豊富に含まれているため、これらを原料の一部として利用することも可能である。
【0015】
本発明の海水を脱塩処理する方法としては、従来公知の脱塩方法、例えば、逆浸透膜法、電気透析法または拡散透析法などが使用できる。好ましくは、原水から有用ミネラル成分を選択分離することができる電気透析法または拡散透析法であり、特に好ましくは、モザイク荷電膜を用いた拡散透析法である。
【0016】
上記のモザイク荷電膜は、カチオン性重合体成分およびアニオン性重合体成分からなるカチオン性およびアニオン性のイオンチャンネルが、互いに相接し、且つ膜の表裏両面間を貫通している構造を有し、膜のイオンチャンネルを透過しやすい塩類などのイオンと透析されにくい非イオン性または分子量の大きい分子とが容易に分離される特異な分離膜である。
【0017】
工業的に使用できる大型のモザイク荷電膜を製造する方法は、特許第3012153号公報、特許第3234426号公報、特許第3236754号公報、特許第3156955号公報、特許第3453067号公報および特許第3626650号公報に例示されている。特に荷電性重合体成分の少なくとも一成分が架橋した粒状重合体を成膜したモザイク荷電膜を有する透析装置を使用する方法が好ましい。
【0018】
モザイク荷電膜を使用した脱塩方法は、蒸留法のような加熱エネルギーを必要とせず、また、電気透析のような塩類のイオン量に対応する電気エネルギーを必要とせず、イオン交換樹脂のような再生は不要であり、装置も構造が簡単で安価に製造できるため、初期投資、ランニングコストともに安く、非常に経済的である。また、操作中における液温上昇が小さい、熱変性しやすい物質の変質、劣化などが起こりにくい、無孔膜のため分画分子量が非常に小さく、栄養塩類、有機物の漏れが実質的にない、さらに、脱塩処理時に原海水の流速、透析水の流速、膜面の線速を調整することで、得られる脱塩水のイオン含有比率およびイオン含有濃度を制御することができるなど他の分離方法に見られないような優れた特徴を有する脱塩システムである。
【0019】
次に本発明の具体的な実施の態様を図1に基づき説明する。モザイク荷電膜1を装着した透析槽2には原海水通水部分3と透析水通水部分4とがあり、3および4は膜1を介して接触している。原海水は原海水貯槽5から原海水送液ポンプ6により3に供給され、透析水は透析水貯槽7から透析水送液ポンプ8により4に供給される。原海水と透析水とは1を介し接触する際、原海水中のイオンは拡散により透析水中に移動する。透析槽より取り出された脱塩水、透析水はそれぞれ受槽9、10に貯められる。ここで、原海水および透析水の流速比、膜面線速(=流速/膜面積)を調整することで、受槽に得られる脱塩水および透析水の塩濃度、塩組成をコントロールすることができる。
【0020】
受槽9に得られた液は、再度透析操作の原海水として供することも可能である。また、透析槽より取り出された脱塩水および透析水を受槽に入れず、それぞれ原海水貯槽5、透析水貯槽7に直接戻すことも可能である。
【0021】
また、原海水中のイオンの拡散透析速度は、原海水と透析水とのイオン濃度差が大きいほうが高くなるので、原海水を予め濃縮しておくことにより、脱塩速度を向上させることができる。上記の濃縮方法としては、例えば、逆浸透膜処理、電気透析処理、減圧処理およびかん水処理などが使用でき、特に限定されない。
【0022】
海水を脱塩処理することにより製造された本発明の塩組成物は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩の合計を100質量%とした場合の各塩の含有量が、ナトリウム塩:60〜70質量%、カリウム塩:0〜10質量%、カルシウム塩:0〜10質量%、マグネシウム塩:15〜30質量%であることが好ましい(上記の濃度は、各元素が塩を形成しているものに加え、イオンとして解離している状態とを含む。)。
【0023】
ナトリウム塩の含有量を60〜70質量%とすることで、食味の良さを維持しつつ、ナトリウム過剰摂取による血圧上昇を抑制することができる。また、カリウム塩の含有量を0〜10質量%とすることで、カリウムの苦味を原因とした食味の低下を防ぎ、さらにカリウム塩含有時は血圧上昇を抑制することができる。また、カルシウム塩の含有量を0〜10質量%とすることで、カルシウム塩含有時はカルシウム摂取不足による血圧上昇を抑えることができる。また、マグネシウム塩の含有量を15〜30質量%とすることで、血圧上昇を抑制するとともに血栓の発生を防止することができる。このような濃度は、モザイク荷電膜による脱塩を複数回繰り返すことによって達成される。
【0024】
本発明の塩組成物には、更に海水から得られる成分以外に、珪素化合物を添加することができる。特に、珪素含有量の高いトクサ科植物由来の珪素化合物を添加することが好ましい。トクサ科植物としては、好ましくはトクサ属、例えば、スギナ(Equisetum arvense)、トクサ(Equisetum hyemale L.)、イヌスギナ(Equisetum palustre L.)であり、さらに好ましくはスギナである。
【0025】
トクサ科植物由来の珪素化合物の添加量は、食味および血圧上昇防止の観点から、全塩100質量部当たり0.001〜0.5質量部の割合とすることが好ましい。
【0026】
また、添加するトクサ科植物は、植物体、例えば地上茎、地下茎、栄養茎、胞子嚢穂などを乾燥、切断、粉砕したものだけではなく、それらの抽出物さらにはその分画物であってもよい。上記の加工方法は、公知の方法により行うことができ、また、これらのトクサ科植物は、公知の方法を用いて、原海水中または塩組成物中に添加することができる。
【0027】
本発明の塩組成物には、更にミネラル吸収促進剤として、トレハロース化合物を添加することができる。トレハロース化合物としては、例えば、トレハロース骨格にグルコースがさらにα−1.4結合したグルコシルトレハロース、マルトシルトレハロース、マルトトレオシルトレハロースなどを用いることができる。トレハロース化合物は分子中の水酸基がカルシウム、マグネシウムなどの金属イオンと複合体を形成することがNMRを用いた研究により推定されており、ミネラル吸収向上効果が報告されている。
【0028】
トレハロース化合物の添加量は、全塩100質量部当たり0.1〜10質量部の割合とすることが好ましい。トレハロース化合物は、公知の方法を用いて、原海水中または塩組成物中へ添加することができる。
【0029】
本発明の塩組成物は、液剤として使用されるだけではなく、更に濃縮、固化、乾燥などの操作を行うことにより、例えばペースト剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤などの形態として使用することもできる。その調製法は医薬、食品などの分野において利用されている公知の手段を使用し得る。
【実施例】
【0030】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。尚、文または表中の「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0031】
[実施例1]
駿河湾海洋深層水(水深687m)10Lを減圧濃縮し、1Lの濃縮海洋深層水(原海水)を得た。これを、モザイク荷電膜を装着した透析装置を用いて、原海水/透析水流速比を1として脱塩処理をし、表2に示される本発明の液体状塩組成物を作成した。表2に示すとおり、上記透析操作を行うことにより、該組成物は、原海水と比較して、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、マグネシウム塩濃度およびカルシウム塩濃度を高めることができた。
【0032】
[実施例2]
実施例1で用いた濃縮海洋深層水(原海水)を、モザイク荷電膜を装着した透析装置を用いて、原海水/透析水流速比を0.5として脱塩処理をし、表2に示される本発明の液体状塩組成物を作成した。表2に示すとおり、該組成物は、原海水と比較して、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、マグネシウム塩濃度を高めることができた。
【0033】

尚、表2の組成はナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩およびカルシウム塩の合計を100%とした場合の各塩の含有%を示している。
【0034】
[実施例3]
漢方薬として市販されているスギナ(学名:Equisetum arvense)5グラムを500ccの水に入れ、弱火で約20分煮出した。実施例1で得られた組成物100%に対して、本抽出液を1%の割合で配合し、珪素が強化された本発明の塩組成物を得ることができた。
【0035】
[実施例4]
実施例3で得られた組成物1Lにトレハロース2gを溶解し、これを凍結乾燥した後、粉砕し、52gの粉末状の本発明の塩組成物を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、海水を脱塩処理することにより、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、マグネシウム塩濃度を高めた塩組成物を提供することができる。前記塩組成物は、血圧上昇抑制および血栓発生防止の効果があり、食味が良いため、食品などの用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に用いたモザイク荷電膜装着透析装置の一実施形態を説明するための図である。
【符号の説明】
【0038】
1:モザイク荷電膜
2:透析槽
3:原海水通水部分
4:透析水通水部分
5:原海水貯槽
6:原海水送液ポンプ
7:透析水貯槽
8:透析水送液ポンプ
9:受槽
10:受槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水を脱塩処理し、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めたことを特徴とする塩組成物。
【請求項2】
ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩およびマグネシウム塩の合計を100質量%とした場合の各塩の含有量が、下記の通りである請求項1に記載の塩組成物。
ナトリウム塩:60〜70質量%
カリウム塩:0〜10質量%
カルシウム塩:0〜10質量%
マグネシウム塩:15〜30質量%
【請求項3】
海水が、海洋深層水である請求項1に記載の塩組成物。
【請求項4】
更にトクサ科植物由来の珪素化合物を全塩100質量部当たり0.001〜0.5質量部の割合で含む請求項1に記載の塩組成物。
【請求項5】
更にトレハロース化合物を含む請求項1に記載の塩組成物。
【請求項6】
海洋深層水をモザイク荷電膜により脱塩処理し、ナトリウム塩濃度およびカリウム塩濃度を低減させ、且つマグネシウムイオン濃度を高めることを特徴とする塩組成物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−7332(P2008−7332A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176258(P2006−176258)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】