説明

増厚床版の剥離部補修並びに床版コンクリートのひび割れ補修工法

【課題】既設床版上に増厚床版とアスファルト舗装がなされた道路または橋梁において、道路内に発生した剥離部やひび割れが清浄化されたのを確認でき、且つ剥離部や狭いひび割れに樹脂接着剤が流入して確実且つ強固な補修ができるようにする。
【解決手段】道路又は橋梁の上面又は下面から少なくとも剥離部やひび割れ部分に達する深さまで複数の注入孔を設定されたパターンに基づいて穿設する工程と、少なくとも剥離部の範囲にある注入孔の近傍に複数の洗浄孔を穿設する工程と、前記洗浄孔にエアーと加圧洗浄水とを交互に供給して剥離部内と注入孔とを洗浄する工程と、該洗浄工程後に注入孔に水をパイロット注入する工程と、該パイロット注入工程後に剥離部の範囲にある隣接する注入孔の一方から樹脂接着剤を注入し他方の注入孔から吐出するのを確認する樹脂接着剤の注入工程と、前記剥離部の範囲外にある全ての注入孔に樹脂接着剤を注入する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速道路や橋梁などの床版コンクリート上に一体的に形成された増厚床版の剥離部を補修並びに床版コンクリートのひび割れを補修する工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の補修工法としては、複数の技術が公知になっている。その第1の従来例としては、床版補強注入工事において使用される水性エポキシ樹脂注入材であって、該注入材は水性エポキシ樹脂、セメント及び混和剤よりなるものであり、熱膨張係数・弾性係数・吸水時の定積膨張をコンクリートとほぼ同等にし、水性エポキシ樹脂を少量用いて接着力を増強せしめ、混和剤の使用で作業性向上と揺変性を付与し、水系化することにより安全衛生の向上を図るというものである(特許文献1)。
【0003】
そして、この水性エポキシ樹脂注入材は湿潤面でもコンクリートとモルタルとの接着、コンクリートと鋼板との接着が乾燥面と同等に堅固に接着できると共に、経時変化による接着力の低下も少ない。また、取り扱いにおいては発熱もなく、容器や器具は水で洗浄できると共に、容器は一般廃棄物として処理できるので取り扱いが容易となる、というものである。
【0004】
また、第2の従来例としては、上面増厚床版の補修工法であって、上面増厚床版及び/又は橋梁床版の内部に出来ている空隙に上部からバインダ材が充填され、前記空隙に充填されたバインダ材によって前記上面増厚床版が密実一体化されるもので、上面増厚床版に穴を穿つ穿穴工程と、前記穿穴工程で設けられた穴からバインダ材を注入する注入工程と、前記注入工程で注入されたバインダ材が上面増厚床版の内部に出来ている空隙に充填され、該充填固化したバインダ材によって前記空隙が埋められて密実一体化工程とからなること、そして、穴の径が50mmで間隔が0.5〜5mであり、バインダ材がセメント系グラウト材で、バインダ材注入に先立って、前記穴の清浄化が行われる清浄化工程を有するというものである(特許文献2)。
【0005】
そして、上面増厚床版の上部から下部に向かって穴を穿設し、この穴の開口部からバインダ材(セメント系グラウト材)を注入してやれば、この穴に連通した空隙(横(水平方向)に拡がった空隙)にバインダ材(セメント系グラウト材)がスムーズに充填されるようになる。そして、バインダ材(セメント系グラウト材)の固化によって、上面増厚床版が確実に密実構造のものになる。従って、上面増厚床版が確実に補修されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−72508号公報
【特許文献2】特開2008−208581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来例1の発明においては、床版補強注入工事において使用される水性エポキシ樹脂注入材を示すだけであって、その注入材をどのように注入して床版を補強するのか全く不明である。
【0008】
また、前記従来例2の発明においては、バインダ材注入に先立って、前記穴の清浄化が行われる清浄化工程を有するとしており、その清浄化については、水や空気などの流体を吹き込んだり吸引することにより清浄化されるとしか記載されていないのであり、流体をどこにどのように注入したりどこから吸引したりして清浄化するのか、又は、バインダ材の注入状態や清浄化の状況が全く記載されていないのである。
【0009】
そして、従来例2において、使用されるバインダ材として流動性がJ14ロートのセメント系グラウト材を使用するとしている。しかしながら、前記穴の清浄化が終わった後に、どのようにしてセメント系グラウトを注入するのかが不明であるばかりでなく、このようなセメント系グラウト材では狭いひび割れへの流入が困難であるし、また接着性と靱性にも乏しいので要求される接着強度が得られず、確実で強固な補修が実質的にできないという問題点を有している。
【0010】
従って、従来技術においては、道路内に発生した剥離部やひび割れを効率よく洗浄できるようにすること、及び、接着力の強い注入材を使用して剥離部や狭いひび割れにも流入させて確実且つ強固な補修ができるようにすることに解決すべき課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前述の従来例の課題を解決する具体的手段として、既設床版上に増厚床版とアスファルト舗装がなされた道路または橋梁で、前記既設床版と増厚床版との間及び増厚床版の継ぎ目に生じた剥離部や既設床版内に発生したひび割れを補修する補修工法であって、前記道路又は橋梁の上面又は下面から少なくとも剥離部やひび割れ部分に達する深さまで複数の注入孔を設定されたパターンに基づいて穿設する工程と、少なくとも剥離部の範囲にある注入孔の近傍に複数の洗浄孔を穿設する工程と、前記洗浄孔にエアーと加圧洗浄水とを交互に供給して剥離部内と注入孔とを洗浄する工程と、該洗浄工程後に注入孔に水をパイロット注入する工程と、該パイロット注入工程後に剥離部の範囲にある隣接する注入孔の一方から樹脂接着剤を注入し他方の注入孔から吐出するのを確認する樹脂接着剤の注入工程と、前記剥離部の範囲外にある全ての注入孔に樹脂接着剤を注入する工程とからなることを特徴とする補修工法を提供するものである。
【0012】
この発明においては、前記設定されたパターンは、略1m間隔以内で複数の線をクロス状に線引きしたものであること;前記注入孔の径が略10.5±2mmで、洗浄孔の径が略28±4mmであること;前記エアーの洗浄圧が略0.01〜0.2MPaで、前記加圧洗浄水の洗浄圧は略0.15MPa以下で、前記パイロット駆動圧が略0.7MPa以下であり、前記樹脂接着剤の駆動圧が略0.3MPa以下であること;前記注入孔の径において、アスファルト舗装部分は略14.5±2mmに拡径されていること;及び前記エアーの洗浄圧は、洗浄孔周辺の注入孔からエアーの吹き出しを確認しながら徐々に増加させること;を付加的な要件として含むものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る補修工法は、注入孔の他に洗浄孔を設け、洗浄工程で洗浄孔からエアーと加圧洗浄水とを交互に供給して洗浄することによって、内部の剥離部やひび割れ部及び注入孔の内部を水と泡とで攪拌して洗浄するので、洗浄力が大幅にアップし、また、水をパイロット注入することで、狭いひび割れにも樹脂接着剤を誘導流入させることができ、しかも、樹脂接着剤の注入工程で隣接する注入孔同士において注入状態が確認できると共に、剥離部の範囲外にある全ての注入孔に樹脂接着剤を注入するので、補修しようとする部位において確実且つ強固に補修ができるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る増厚床版の剥離部の補修工法における剥離位置の調査を行うに当たって、注入孔及び洗浄孔の割付を行うパターン図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る補修工法に関する剥離部の補修部分を略示的に示した断面図である。
【図3】同実施の形態に係る剥離部の補修部分を洗浄する工程を略示的に示した説明図である。
【図4】同実施の形態に係る剥離部の補修部分に樹脂を注入する工程を略示的に示した説明図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る補修工法に関する剥離部の補修部分を略示的に示した断面図である。
【図6】同実施の形態に係る剥離部の補修部分に樹脂を注入する工程を略示的に示した説明図である。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る補修工法に関する高架高速道路又は橋梁における剥離部の補修部分を略示的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を図示の実施の形態に基づいて詳しく説明する。図1において、例えば、高速道路における補修をしようとする位置において、補修用の樹脂を注入するための注入孔と洗浄水の注入孔を設定する目安のためのパターン図であり、該パターンを路面1上に予め略1m間隔でクロス状に線2を引くパターン図作成工程を行い、線2の各交点部分が注入孔3の穿設予定位置である。この場合に、黒丸部分が交点に注入孔3を穿設したもので、白丸部分は剥離部分が存在している範囲Aにおいて穿設した注入孔3であって、その近傍に剥離部内を洗浄するために複数個の洗浄孔4が所定間隔をもって穿設される。また、補修すべき範囲およびひび割れの状況等によっては線引きパターンの間隔を適宜変更できるのであり、例えば、ひび割れ幅が0.05mm以下の小さい場合には、略0.5m間隔でパターン図を作成する場合もある。なお、剥離範囲が小規模な補修の場合には、略0.5mや1m間隔でのクロス状の線引きパターン図作成を行わずに、剥離範囲内に適宜間隔で注入孔等を設けて施工する場合もある。従って、略1m間隔のパターン図作成は、あくまでも洗浄と樹脂注入の作業上好ましい注入孔穿設の目安となる間隔なのであって、これに限定されることはないのである。
【0016】
また、これら注入孔3及び洗浄孔4の穿設に当たって、剥離部分の検出は900gのハンマーで道路を叩くことによる打音により範囲Aを判断し、且つ道路勾配を考慮すると共に道路内に配設又は敷設してある鉄筋が存在するか否かも検出する工程を行い、鉄筋に当たる部分については交点から少しズラして鉄筋を切断しない位置に約10.5mm程度の注入孔3と約28mm程度の洗浄孔4とを穿設する工程を行う。この場合の注入孔3と洗浄孔4の孔の径については、対象物である躯体の損傷を少なく且つ効率よく作業を行うために使用される装置の容量および器具の大きさ等によって決まるものであって、一応実施する上で好ましい範囲を記載したに過ぎないのである。つまり、注入孔3については実質的に10.5±2mm程度、洗浄孔4については実質的に28±4mm程度の範囲まで変更可能なのである。なお、洗浄孔4は道路勾配の上方位置で剥離の大きい(深そうな)位置を選んで穿設する。
【0017】
図2に示した第1の実施の形態においては、上面にアスファルト舗装を剥がして除去した状態で補修する例であって、既設床版5上にコンクリート製の増厚床版6が全面的に露出したものであり、既設床版5には上部鉄筋7と下部鉄筋8とが配設されている。このような道路部分において既設床版5と増厚床版6との間に生じた剥離部10や増厚床版6の施工時に発生する打ち継ぎ目に生じた剥離部10aが有ったり、既設床版5の内部に水平または縦方向に生じたひび割れ11が有ったり、各鉄筋7、8の下部に隙間12、13が生じていたりする。
【0018】
このような補修を必要とする道路1において、まず、表面に露出していて補修工程において注入される注入材が漏れるようなひび割れについては、事前に調査して速硬性樹脂モルタル等により予め表面側から塗布してシールしておく。次ぎに、道路1に対して穿孔工程で補修のために穿設される複数の注入孔3と複数の洗浄孔4は、少なくとも既設床版5の下部鉄筋8と同レベル位置までの深さに穿設される。
【0019】
そして、穿設工程後に洗浄工程が行われる。この洗浄工程は、図3に示したように、洗浄孔4に洗浄装置14が取り付けられる。この洗浄装置14は、コンプレッサー15と、圧力可変自在の加圧水装置16と、レギュレータ17と、Y字状を呈する二股の洗浄プラグ18とから構成され、洗浄プラグ18の先端側にゴム製のパッカー部19が設けられており、該パッカー部19を洗浄孔4に装着して増厚床版6の位置で圧接し定着させるようにして取り付ける。
【0020】
洗浄プラグ18の二股の一方18aには、レギュレータ17が着脱自在に接続され、他方18bには加圧水装置16が着脱自在に接続され、コンプレッサー15からの加圧エアーをレギュレータ17を介して洗浄孔4に供給すると共に、加圧水装置16に水の供給9とコンプレッサー15からの駆動用エアーとを供給して加圧水(洗浄水)が洗浄孔4に供給される。また、二股の部分にはそれぞれ開閉自在なバルブ20a、20bが設けられている。
【0021】
このように洗浄装置14をセットし、注入孔3を開放した状態で、バルブ20aを開にしバルブ2bを閉にして、まず最初にコンプレッサー15から0.01〜0.2MPa(0.7MPaエアー圧力時):1m/分程度のエアーを供給する。この場合に、いきなり強い風圧のエアーを送付すると増厚床版6が浮き上がったりしてさらにひび割れを増大させる危険性があるためレギュレータ17で徐々に圧力を上昇させてエアー漏れを確認する。エアー漏れが確認されない場合には、洗浄孔4と注入孔3間の増厚コンクリートに、900g程度のハンマーで打撃を加えて貫通させる。
【0022】
このエアーの供給によって、剥離部10、10a、ひび割れ11及び隙間12、13に溜まっているコンクリートの粉末や切削屑等の汚れが周囲の注入孔3から外部に吹き出す。もし、剥離しているとした範囲内において、エアーの吹き出しが確認できない注入孔3があった場合には、再度ハンマー打撃を行って状態を確認するし、逆に剥離部の範囲Aと認められない位置の注入孔3からエアーが吹き出した場合も同様に確認をする。
【0023】
エアーが吹き出す注入孔3を確認したら、好ましくは洗浄孔4に近い順番に注入孔3とその近傍の剥離部やひび割れ部等の洗浄を行う。この洗浄は、洗浄対象の注入孔3を開放し他の注入孔は栓などで閉鎖した状態で行う。バルブ20aを閉にしバルブ20bを開にして、加圧水装置16から0.15MPa以下(0.7MPaエアー圧力時):1.5L/分程度の水を適宜供給する。なお、図中の矢印aはエアーまたは水の流れ方向を示すものである。
【0024】
加圧洗浄水の供給を一次中断し、バルブ20bを閉にしバルブ20aを開にして、コンプレッサー15から最初と同じようにレギュレータ17で徐々に圧力を上昇させてエアーを供給する。このエアーの供給によって内部にある洗浄水を泡立たせて攪拌し不純物や汚れ(泥状のコンクリート粉)を含む水を注入孔3から外部に排出させる。この動作を繰り返し行って、汚れのない洗浄水が出るまで行う。そして、他の注入孔3についても、順番に同様な洗浄作業を行うのであり、予定した範囲の洗浄が行われた後に、最後にはエアーを供給して一番遠い勾配の低い位置にある注入孔3から内部の洗浄水をできる限り排出するのである。洗浄工程が終了した後に洗浄装置14を洗浄孔4から除去し、洗浄孔4は栓等で封鎖する。この洗浄工程において、泥状のコンクリート粉等の汚れをいかにきれいに除去するかが、良好な接着(補修)を確保する上で極めて重要なのである。
【0025】
なお、剥離部の範囲A外に設けられた注入孔3については、穿設によって生じた切粉又は切り屑などを除去するために、例えば、洗浄プラグ18に径の細い所要長さのノズルを付けて各注入孔3を個別にエアーと加圧洗浄水とで洗浄すれば良いのである。その理由は、要するに、道路に剥離部がない正常な状態であるので、後で補修用の樹脂接着剤で埋めれば良いからである。
【0026】
次ぎに、図4に示した補修用の樹脂接着剤の注入工程について説明する。
使用される樹脂接着剤は主剤(変性エポキシ樹脂)と硬化剤(変性脂肪族ポリアミン)とからなる二液性で水中接着型の速硬エポキシ樹脂剤であり、使用時に両者を混合させた時に、温度により粘度、可使時間、硬化時間が変化する性質を有する。外気温度によっては、作業に最適な性状になるように樹脂接着剤の温度調整を行う。好ましくは20℃程度であるから、それよりも外気温度が低い場合は保温し、外気温度が高い場合には冷却するようにして最適温度に保温調整をする。
【0027】
この樹脂接着剤の特性(物性)値について表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
全ての注入孔3に着脱自在なニップル21付の注入プラグ22を取り付ける。この注入プラグ22の先端部側にはゴム製のパッカー部23を備えており、該パッカー部23が増厚床版6に圧接して強固に水密状態に取り付けられる。そして、一つの注入プラグ22にプランジャーポンプ24がニップル21を介して着脱自在に接続され、該プランジャーポンプ24はコンプレッサー25により駆動され、樹脂接着剤26をプランジャーポンプ24により注入プラグ22を介して注入孔3内に所要の注入圧力をもって注入するのである。また、隣接する一つの注入プラグ22には、ニップル21を外した状態でビニールチューブ27を取り付けておき、その自由端部側には流出物を受けるための容器28を設置しておき、さらに、他の注入プラグ22は全て閉塞状態にしておく。
【0030】
まず、樹脂接着剤の注入に先行して、水を用いたパイロット注入を行う。この場合に使用されるプランジャーポンプ24(エアーレスポンプ)は、
ポンプレシオ・・・・・30対1
駆動圧力・・・・・・・0.4MPa以下
最大吐出流量・・・・・4.2L/分
であって、既設床版内の微少隙間では穿設時の切粉または切り屑が除去しきれないため樹脂接着剤が侵入して貫通するまで時間が掛かり、材料の初期硬化や能率低下を防ぐ目的で一種の水先案内的な意味、つまり、狭いひび割れでも水は侵入するので、その水に沿って樹脂が入りやすいように道を造るパイロット注入を行うのである。この場合に、洗浄圧力となる駆動圧力を0.4MPa以下にしたのは、躯体に損傷を与えないで効率よく洗浄できる圧力なのであり、種々実験の結果から確認したものである。
【0031】
次ぎに、セットしたプランジャーポンプ24(エアーレスポンプ)を用いて樹脂接着剤26を注入する。使用されるプランジャーポンプ24(エアーレスポンプ)は、
ポンプレシオ・・・・・40対1
駆動圧力・・・・・・・0.3MPa
最大吐出流量・・・・・15L/分
であって、注入された樹脂接着剤26は注入孔3に面している剥離部10、10a、水平または縦方向のひび割れ11や隙間12、13内を流れて、その一部が開放状態にある隣接の注入孔3に取り付けられたビニールチューブ27から直接外部に吐出する。この吐出した樹脂接着剤26の状態を目視して、その中に水や汚物等の不純物が混じっていた場合には、不純物がなくなるまで樹脂接着剤26の注入をし続け、不純物がなくなった時点でビニールチューブ27を折り曲げて流出を止める。この場合に、注入圧力となる駆動圧力を0.3MPaにしたのは、やはり躯体に損傷を与えないで効率よく注入できる圧力なのであり、実験の結果から確認したものである。
【0032】
このような操作を、隣接の注入孔3同士の間で順次繰り返して行うことによって、剥離部の範囲A内の全ての注入孔3に樹脂接着剤26を注入すると共に、剥離部の範囲A外の注入孔3については、各注入孔3毎に注入プラグ22を介して樹脂接着剤26を注入するのであり、この樹脂接着剤の注入によって内部にパイロット注入で溜まっている水が押し出されるとともに、縦方向の狭いひび割れ11等にある水も押し出されて樹脂接着剤と置換されるので効率よく且つ隙間なく樹脂接着剤が注入できるのであり、全ての注入孔3に樹脂接着剤26が注入されるので、剥離部の有無に拘わらずひび割れも含めて全体が補強され、より一層強固なものとなるのである。なお、図中の矢印bは樹脂接着剤の流れ方向を示すものである。
【0033】
樹脂接着剤26を注入した後、樹脂接着剤が初期硬化するまで約2時間程度養生し、樹脂接着剤が初期硬化したら注入プラグ22や栓材等を撤去する。これらの撤去によって注入孔3又は洗浄孔4の上部に孔が存在する場合には、速硬性樹脂モルタルを用いて増厚床版6の上面に合わせて孔埋めをする。なお、樹脂接着剤の注入時に外気温度が低く樹脂粘度が高い場合には、無理に注入圧力を上げると、注入プラグの抜け出しや注入プラグ周囲のひび割れ発生又は床版の爆裂等の不具合が生ずる恐れがある。そのような時は、樹脂接着剤の加温のみならず、マット状のカーボンヒータを用いて増厚床版6や既設床版5も加温することで3時間程度で3〜4℃上昇させることができ、それによって速やかな注入作業が行えるのである。
【0034】
次ぎに、図5及び図6に示した第2の実施の形態について説明する。この実施の形態は道路又は橋梁の表面にあるアスファルト舗装を除去することなく行う補修工法である。なお、前記第1の実施の形態と同一部分には同一符合を付してその詳細は重複するので省略する。
【0035】
この第2の実施の形態において、表面のアスファルト舗装30を剥がすことなく、そのままの状態で補修するのである。もちろん、既設床版5と増厚床版6との間や増厚床版6の継ぎ目に剥離部10、10aがあること、既設床版5や増厚床版6に水平または縦方向のひび割れ11があること、上部鉄筋7と下部鉄筋8に沿って隙間12、13がある点では、前記第1の実施の形態と同じ例である。
【0036】
そして、前記第1の実施の形態と同様に、注入孔と洗浄孔を穿設するためのパターン図を作成し、各交点部分で鉄筋を切断しない位置に約10.5mm程度の注入孔3と約28mm程度の洗浄孔4とを穿設する。この場合に、各注入孔3は約10.5mm径で穿設した後に、アスファルト舗装30部分に設けられる孔3aは、その孔径を14.5mm程度に拡径して形成する。その理由は、注入プラグ22を確実に増厚床版6に定着固定するためと、垂直なひび割れを伝った樹脂接着剤によってアスファルト舗装30を浮かせない圧力抜きのためである。なお、この実施の形態においても、各孔径については、前記各数値に±2mmの範囲で変更可能であることはいうまでもない。
【0037】
この第2の実施の形態においても、洗浄工程は、前記第1の実施の形態で説明したと同様に洗浄装置14を使用して同様の操作をして注入孔3及び剥離部10、10a、ひび割れ11及び隙間12、13を洗浄するのである。
【0038】
更に、洗浄後において、樹脂接着剤26の注入については、図6に示したように、全ての注入孔3に着脱自在なニップル21付の注入プラグ22を取り付ける。この場合に、注入プラグ22を注入孔3の上部の孔3aから差し込む時に、ゴム製のパッカー部23が孔3aの内周面に全く接触しない状態であるので、更に、差し込んで増厚床版6の注入孔3に接触する感覚が得られるのであり、それによって、注入プラグ22を確実に注入孔3に取り付けることができるのである。そして、樹脂接着剤26の注入に工程については、前記第1の実施の形態とほとんど同じであり、重複するのでその説明は省略する。
【0039】
次ぎに、第3の実施の形態を図7に示してある。この第3の実施の形態においては、例えば、橋梁の下面側から補修する工法である。この場合に、橋梁の道路1は既設床版5の肉厚部分5aが桁31により支持されており、該既設床版5の上部に増厚床版6とアスファルト舗装30とが積層された構成であると共に、既設床版5内には上部鉄筋7と下部鉄筋8とが配設されている。
【0040】
そして、既設床版5と増厚床版6との間や増厚床版6の継ぎ目に剥離部10、10aがあること、既設床版5と増厚床版6とに水平または縦方向のひび割れ11があること、上部鉄筋7と下部鉄筋8に沿って隙間12、13がある点、及び下面側に露出していて注入材が漏れるようなひび割れについては、事前にエポキシ樹脂等を塗布してシールしておく点では、前記第1の実施の形態と同じ例である。
【0041】
このような構成の橋梁の道路1において、下側の既設床版5側から径が10.5mmの注入孔3と、径が28mmの洗浄孔4とが穿設される。この場合でも、注入孔3の実質的な孔の間隔を略1mにするために、桁31で支持される肉厚部5aについては、斜めに穿設した方が好ましいのである。そして、各注入孔3の終端部は既設床版5と増厚床版6との境界部分、即ち、剥離部10が発生している位置に達する深さまでとする。また、洗浄孔4についても同様である。なお、この実施の形態においても、各孔径については、前記各数値に±2mmの範囲で変更可能であることはいうまでもない。
【0042】
さらに、洗浄工程は、上部からと下部からの差があるけれども、実質的に前記第1の実施の形態で説明したと同様に洗浄装置14を使用して同様の操作をして注入孔3及び剥離部10、10aひび割れ11及び隙間12、13を洗浄するのである。
【0043】
この第3の実施の形態で使用される樹脂接着剤については、前記第1の実施の形態で示した樹脂接着剤26と同種のものが使用される。また、各注入孔3に取り付けられる注入プラグ22や樹脂接着剤の注入工程についても前記第1の実施の形態とほとんど同じであり、重複するのでその説明は省略する。なお、前記いずれの実施の形態においても使用される樹脂接着剤としては、好ましくはエポキシ樹脂であるが、その他に水が存在する場合にはアクリル樹脂が使用可能であり、水を乾燥させた状態では、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂及びビニルエステル樹脂などが使用可能なのであり、樹脂接着剤として実施の形態に記載の樹脂に限定されるものではないのである。
【0044】
本願発明の実施の形態1に係る発明を実験例1とし、前記従来例2の発明を比較例1として、同一の条件下において実験した。
[実験例1]
既設の道路において、増厚床版が剥離していると認められる領域に1m間隔で10.5mmの注入孔を複数個穿設し、これら注入孔の近傍に28mmの洗浄孔を所要の間隔をもって複数穿設し、洗浄孔から0.1MPa:1m/分のエアーを供給して周囲の注入孔からエアーの噴出を確認してから、洗浄孔から水を0.1PMa:1.5L/分程度供給して増厚床版内の隙間に存在する汚れを水と一緒に注入孔から外部に排出した(洗浄工程)後、再度エアーを供給して内部の水と共に汚れを概ね排除する。この排除行為と共に、全ての注入孔及び洗浄孔に順番に細いチューブを差し込み吸引除去することも行った。
【0045】
次ぎに、清水によるパイロット注入を行った。このパイロット注入では、洗浄孔から清水を0.4MPa:4.2L/分で略1分間注入することにより、内部にある0.05mm以下の狭い隙間(ひび割れ)にも清水は浸透する。その後に各注入孔から順次樹脂接着剤を注入する。この樹脂接着剤の粘度は600mPa・sであり、注入に際しては、洗浄孔は所要の栓部材により塞いでおき、隣接する1つの注入孔は開放し他方の1つの注入孔から0.3MPa:15L/分で注入すると、開放する注入孔側からパイロット水が徐々に溢出し、さらに樹脂接着剤が吐出する状態になったときに注入を中止する。順次同様にして他の注入孔から樹脂接着剤を注入して全ての注入孔を埋めると共に、洗浄孔は速硬性樹脂モルタルで埋めた。
【0046】
[比較例1]
前記実験例1と同じ既設道路において、同じ日時に増厚床版が剥離していると認められる領域に1m間隔で50mmの穴を複数個(5、6)穿設した。これら穴の隣接する1つの穴(5)から水を(水の供給については、その量や注入圧などについて何等記載がないので、実験例1と沿うように)0.1PMa:1.5L/分程度供給して増厚床版内の隙間に存在する汚れを水と一緒に他の穴(6)から溢れ出させた後、一つの穴(5)から圧搾空気を約5分間程度注入して穴や空隙の内壁面を乾燥させた。
【0047】
セメントグラウト材として、比較例1の明細書中に記載の材料配合を忠実に再現し、流動性がJ14ロートによる流下時間が20秒以下のセメントグラウト材を使用した。このグラウト材を(グラウト材の注入の仕方についても記載がないので)隣接する1つの注入用の穴(6)は開放し他方の1つの注入穴から0.3MPa:15L/分で注入し、開放する注入穴側からセメントグラウト材が目視できる状態で注入を中止する。順次同様にしてセメントグラウト材を注入し穴の上部に残った空間部には上部からセメントグラウト材を詰めて全ての穴を埋めた。
なお、セメントグラウト材の注入において、一方の穴から注入したセメントグラウト材が他方の穴から吐出する状態になるには、グラウト材の滑り性が悪いので時間が掛かると共に注入圧を上げなければならないので、目視できる程度で注入を中止したのである。
【0048】
[実験結果]
前記実験例1と比較例1とを24時間後にそれぞれ複数箇所(3箇所)で50mmのコアサンプルを採取して調べた結果、一方の実験例1のものは0.05mm以下の狭い隙間(ひび割れ)にも樹脂接着剤が侵入して隙間を埋めると共に強い接着強度が確認された。他方の比較例1のものは、0.1mm以上の隙間(ひび割れ)にはセメントグラウト材は侵入していたが、0.05mm以下の狭い隙間にはほとんど侵入していなかった。また、セメントグラウト材が侵入して固化した部所でも、接着面にはコンクリートの粉末や切削屑等の汚れが残っており、手で少し捩るだけでボロボロと剥がれるのであり、実質的な接着強度は確認出来なかった。
【0049】
上記の実験結果からして、実験例1の樹脂接着剤は粘性が低く且つ滑り性が良いので、パイロット水に導かれて狭い隙間(ひび割れ)にも侵入して隙間を完全に埋めると共に、硬化した状態においては増厚床版と一体的に強固に結合しており、接着強度が強いことが確認され、0.05mm以下のひび割れが多く存在して問題となっている道路の補修に適していると認められた。他方の比較例1のセメントグラウト材は、流動性が良いといっても骨材となる珪砂を混合しているため、0.1mm以下の狭い隙間には侵入できないばかりでなく、固化しても増厚床版との馴染性または接着性が弱いこともあって、問題となっている道路の補修には適さないことが確認できた。
【0050】
特に、高速道路における床版コンクリートと増厚床版との間の剥離現象によって、増厚床版には0.05mm以下のひび割れなどによる狭い隙間が多数存在しているのであり、その狭い隙間は走行する自動車及びトラックの走行による振動によって、ひび割れが徐々に拡大するのであり、脆くて接着力の弱いセメントグラウト材では、振動によって粉砕されてしまうので、この種の道路の補修には実質的に適さないことが実験の結果から明らかになったのである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る増厚床版の剥離部補修並びに床版コンクリートのひび割れ補修工法については、道路又は橋梁の上面又は下面から少なくとも剥離部やひび割れ部分に達する深さまで複数の注入孔を設定されたパターンに基づいて穿設する工程と、少なくとも剥離部の範囲にある注入孔の近傍に複数の洗浄孔を穿設する工程と、前記洗浄孔にエアーと水とを供給できる洗浄装置を連設し、エアーと加圧洗浄水とを交互に供給して洗浄する工程と、該洗浄工程後に水をパイロット注入する工程と、該パイロット注入工程後に隣接する注入孔の一方から樹脂接着剤を注入して他方の注入孔から吐出するのを確認する工程とからなる構成としたことによって、どのような状況にある道路又は橋梁であっても広く利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 道路又は橋梁
2 クロス状の線(パターン)
3 注入孔
3a 拡径された孔(アスファルト舗装部位)
4 洗浄孔
5 既設床版
5a 既設床版の肉厚部
6 増厚床版
7 上部鉄筋
8 下部鉄筋
9 水供給
10、10a 剥離部
11 ひび割れ
12、13 隙間
14 洗浄装置
15、25 コンプレッサー
16 加圧水装置
17 レギュレータ
18 洗浄プラグ
19 パッカー部
20a、20b バルブ
21 ニップル
22 注入プラグ
23 パッカー部
24 プランジャーポンプ
26 樹脂接着剤
27 ビニールチューブ
28 容器
30 アスファルト舗装
31 桁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設床版上に増厚床版とアスファルト舗装がなされた道路または橋梁で、前記既設床版と増厚床版との間及び増厚床版の継ぎ目に生じた剥離部や既設床版内に発生したひび割れを補修する補修工法であって、
前記道路又は橋梁の上面又は下面から少なくとも剥離部やひび割れ部分に達する深さまで複数の注入孔を設定されたパターンに基づいて穿設する工程と、
少なくとも剥離部の範囲にある注入孔の近傍に複数の洗浄孔を穿設する工程と、
前記洗浄孔にエアーと加圧洗浄水とを交互に供給して剥離部内と注入孔とを洗浄する工程と、
該洗浄工程後に注入孔に水をパイロット注入する工程と、
該パイロット注入工程後に剥離部の範囲にある隣接する注入孔の一方から樹脂接着剤を注入し他方の注入孔から吐出するのを確認する樹脂接着剤の注入工程と
前記剥離部の範囲外にある全ての注入孔に樹脂接着剤を注入する工程とからなること
を特徴とする補修工法。
【請求項2】
前記設定されたパターンは、略1m間隔以内で複数の線をクロス状に線引きしたものであること
を特徴とする請求項1に記載の補修工法。
【請求項3】
前記注入孔の径が略10.5±2mmで、洗浄孔の径が略28±4mmであること
を特徴とする請求項1に記載の補修工法。
【請求項4】
前記エアーの洗浄圧が略0.01〜0.2MPaで、前記加圧洗浄水の洗浄圧は略0.15MPa以下で、前記パイロット駆動圧が略0.4MPa以下であり、前記樹脂接着剤の駆動圧力が略0.3MPa以下であること
を特徴とする請求項1に記載の補修工法。
【請求項5】
前記注入孔の径において、アスファルト舗装部分は14.5±2mmに拡径されていること
を特徴とする請求項1又は3に記載の補修工法。
【請求項6】
前記エアーの洗浄圧は、洗浄孔周辺の注入孔からエアーの吹き出しを確認しながら徐々に増加させること
を特徴とする請求項1または4に記載の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−7400(P2012−7400A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144877(P2010−144877)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(505398941)東日本高速道路株式会社 (66)
【出願人】(505398952)中日本高速道路株式会社 (94)
【出願人】(505398963)西日本高速道路株式会社 (105)
【出願人】(507194017)株式会社高速道路総合技術研究所 (33)
【出願人】(391048016)アルファ工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】