説明

増幅器、送信装置および増幅器制御方法

【課題】使用環境の変動により発生する電力効率の劣化を抑制すること。
【解決手段】増幅器は、エンベロープ検出部と、比較部と、選択部と、電圧制御部と、電流測定部と、基準電圧制御部とを備える。エンベロープ検出部は、送信信号のエンベロープを検出する。比較部は、エンベロープの電圧と基準電圧とを比較する。選択部は、比較部による比較結果に基づいて、動作電力が異なる複数の増幅素子から送信信号を増幅する増幅素子を選択する。電圧制御部は、選択部により選択された増幅素子における送信信号の増幅に用いる電圧をエンベロープに基づいて制御する。電流測定部は、電圧制御部により制御される電圧を供給する電源の電流を測定する。基準電圧制御部は、電流測定部により測定される電流が減少するように基準電圧を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器、送信装置および増幅器制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末機器や無線中継装置等の送信装置で使用される増幅器の電力利用効率を改善する技術の一つとして、エンベロープトラッキング法(ET:Envelope Tracking)が知られている。エンベロープトラッキング法は、送信信号の包絡線(以下「エンベロープ」と言う)の変動に応じてドレイン電圧を制御する技術である。エンベロープトラッキング法は、増幅器を常に飽和に近い状態で動作させることができるため、高効率動作を実現することができる。
【0003】
ただし、エンベロープトラッキング法では、ドレイン電圧を変化させるため、増幅器の出力インピーダンスと出力負荷のインピーダンスとの不整合が生じ、増幅器の電力効率が低下してしまう。特に、増幅器が低出力側で動作する場合に、増幅器の電力効率が最も低下する。
【0004】
図8は、エンベロープトラッキング法を採用した一般的な増幅器の電力効率カーブを示す図である。図8の横軸は、出力電力[dBm]であり、図8の縦軸は、電力効率[%]である。図8の曲線301に示すように、エンベロープトラッキング法を採用した増幅器の電力効率は、ドレイン電圧が低下して出力電力が低下するに連れて、減少する。つまり、増幅器が低出力側で動作する場合に、増幅器の電力効率が最も低下する。
【0005】
このため、低出力側で動作する場合の電力効率を向上させた増幅器が種々提案されている。例えば、動作電力が異なる2つの増幅素子を並列に接続し、送信信号のエンベロープの電圧に応じて、2つの増幅素子を選択的に動作させる従来の増幅器が提案されている。
【0006】
すなわち、従来の増幅器は、送信信号のエンベロープを検出する。そして、増幅器は、エンベロープの電圧と所定の基準電圧とを比較する。そして、増幅器は、エンベロープの電圧と所定の基準電圧との比較結果に基づいて、2つの増幅素子から送信信号を増幅する増幅素子を選択する。そして、増幅器は、選択された増幅素子におけるドレイン電圧をエンベロープに基づいて制御する。これにより、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合には、相対的に動作電力が高い増幅素子を動作させ、エンベロープの電圧が基準電圧よりも低い場合には、相対的に動作電力が低い増幅素子を動作させることができる。結果として、低出力側で動作する場合の増幅器の電力効率を向上させることができる。
【0007】
図9は、送信信号のエンベロープの電圧に応じて2つの増幅素子を選択的に動作させる従来の増幅器の電力効率カーブを示す図である。図9の横軸は、出力電力[dBm]であり、図9の縦軸は、電力効率[%]である。図9の破線で示す直線301は、エンベロープの電圧が所定の基準電圧となった場合の出力電力を示す。図9の曲線302で示すように、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合には、相対的に動作電力が高い増幅素子が動作するため、電力効率が高い状態に維持される。一方、図9の曲線303で示すように、エンベロープの電圧が基準電圧よりも低い場合には、相対的に動作電力が低い増幅素子が動作するため、やはり電力効率が高い状態に維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−374128号公報
【特許文献2】特開昭62−277806号公報
【特許文献3】特開2009−10484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来技術では、温度の変化や部品精度のばらつき等の使用環境の変動により、電力効率が劣化するという問題がある。
【0010】
例えば、温度の変化などに起因して、ドレイン電圧を供給する電源から過剰なドレイン電流が出力され、増幅器の効率カーブが移動することがある。上述した従来技術では、増幅器の効率カーブが移動した場合でも、エンベロープの電圧との比較対象となる基準電圧が固定されたままであるため、電力効率が大幅に低下する恐れがある。例えば、図9の曲線302で示した増幅素子の電力効率が温度の変化に伴って図9の曲線302aまで移動したとする。そうすると、直線301で示す、エンベロープの電圧が所定の基準電圧となった場合の出力電力に対応する電力効率が、矢印304で示すように、大幅に低下する。このように、上述した従来技術では、温度の変化や部品精度のばらつきなどの使用環境の変動により、電力効率が低下する恐れがある。
【0011】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、使用環境の変動により発生する電力効率の劣化を抑制することができる増幅器、送信装置および増幅器制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願の開示する増幅器は、エンベロープ検出部と、比較部と、選択部と、電圧制御部と、電流測定部と、基準電圧制御部とを備える。エンベロープ検出部は、送信信号のエンベロープを検出する。比較部は、前記エンベロープの電圧と基準電圧とを比較する。選択部は、前記比較部による比較結果に基づいて、動作電力が異なる複数の増幅素子から前記送信信号を増幅する増幅素子を選択する。電圧制御部は、前記選択部により選択された前記増幅素子における前記送信信号の増幅に用いる電圧を前記エンベロープに基づいて制御する。電流測定部は、前記電圧制御部により制御される前記電圧を供給する電源の電流を測定する。基準電圧制御部は、前記電流測定部により測定される電流が減少するように前記基準電圧を制御する。
【発明の効果】
【0013】
本願の開示する増幅器の一つの態様によれば、環境的な要因により発生する電力効率の劣化を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本実施例に係る送信装置のブロック図である。
【図2】図2は、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合のRF信号の経路を示す図である。
【図3】図3は、位相調整回路による位相調整を説明するための図である。
【図4】図4は、エンベロープの電圧が基準電圧未満である場合のRF信号の経路を示す図である。
【図5】図5は、基準電圧制御回路による処理を説明するための図である。
【図6】図6は、本実施例に係る送信装置の動作を示すタイミングチャートである。
【図7】図7は、本実施例における基準電圧制御回路による基準電圧制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図8】図8は、エンベロープトラッキング法を採用した一般的な増幅器の電力効率カーブを示す図である。
【図9】図9は、送信信号のエンベロープの電圧に応じて2つの増幅素子を選択的に動作させる従来の増幅器の電力効率カーブを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本願の開示する増幅器、送信装置および増幅器制御方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0016】
図1は、本実施例に係る送信装置のブロック図である。図1に示すように、本実施例に係る送信装置は、送信信号生成回路11、方向性結合器12、エンベロープ検出回路13、比較回路14、遅延調整回路15、RFSW(Radio Frequency SWitch)16、FET(Field Effect Transistor)17、FET18を有する。さらに、送信装置は、ゲート電圧制御回路19、位相調整回路20、位相調整回路21、アンテナ22、ドレイン電圧制御回路23、ドレイン電流測定回路24および基準電圧制御回路25を有する。
【0017】
送信信号生成回路11は、送信内容をデータとして含むRF(Radio Frequency)信号を送信信号として生成する。送信信号生成回路11は、生成したRF信号を方向性結合器12へ出力する。方向性結合器12は、送信信号生成回路11から入力されるRF信号を分岐してエンベロープ検出回路13および遅延調整回路15へ出力する。
【0018】
エンベロープ検出回路13は、送信信号生成回路11から入力されるRF信号に対しエンベロープ検波を行うことでRF信号のエンベロープを検出する。エンベロープ検出回路13で検出されるエンベロープの値は、ある時刻におけるエンベロープの振幅を表している。エンベロープ検出回路13は、RF信号のエンベロープを比較回路14およびドレイン電圧制御回路23へ出力する。
【0019】
比較回路14は、エンベロープ検出回路13から入力されるエンベロープの電圧と、基準電圧制御回路25により設定される電圧である基準電圧とを比較し、その比較結果をRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。具体的には、比較回路14は、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合には、FET17を選択する旨の信号を比較結果としてRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。一方、比較回路14は、エンベロープの電圧が基準電圧未満である場合には、FET18を選択する旨の信号を比較結果としてRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。
【0020】
ここで、基準電圧の値は、基準電圧制御回路25により動的に制御された最適値であり、基準電圧制御回路25により動的に設定される。このため、比較回路14は、動的に設定された基準電圧の値(以下「基準電圧設定値」とも言う)を用いてエンベロープの電圧と基準電圧とを比較して、FET17またはFET18を選択する旨の比較結果を適切に出力する。
【0021】
遅延調整回路15は、方向性結合器12から入力されるRF信号を取得する。遅延調整回路15は、エンベロープ検出回路13および比較回路14での処理の時間分だけRF信号を遅延させ、遅延させたRF信号をRFSW16へ出力する。
【0022】
RFSW16は、遅延調整回路15から入力されるRF信号を取得するとともに、比較回路14から入力される比較結果を取得する。RFSW16は、比較結果に応じて、FET17およびFET18からRF信号を増幅する増幅素子を選択する。具体的には、RFSW16は、FET17を選択する旨の信号を比較結果として取得した場合には、FET17に接続される経路にRF信号を送出する旨を指示する信号を内部のスイッチング素子に送ることで、FET17を選択する。一方、RFSW16は、FET18に接続される経路にRF信号を送出する旨を指示する信号を内部のスイッチング素子に送ることで、FET18を選択する。RFSW16は、選択部の一例である。
【0023】
FET17およびFET18は、動作電力が異なる増幅素子であり、RFSW16に対して互いに並列に接続されている。本実施例では、FET17の動作電力がFET18の動作電力よりも大きい。言い換えると、FET17の効率カーブがピークとなる出力電力が、FET18の効率カーブがピークとなる出力電力よりも大きい。
【0024】
FET17およびFET18は、RFSW16から入力されるRF信号を取得する。FET17およびFET18は、ドレイン電圧制御回路23により制御されるドレイン電圧を用いて、RF信号を増幅する。FET17およびFET18は、増幅したRF信号をそれぞれ位相調整回路20および位相調整回路21へ出力する。
【0025】
また、FET17およびFET18は、ゲート電圧制御回路19により制御されるゲート電圧を用いて自身の状態を動作および非動作の間で切り替える。
【0026】
ゲート電圧制御回路19は、比較回路14から入力される比較結果を取得する。ゲート電圧制御回路19は、比較結果に応じたゲート電圧をFET17およびFET18に供給する。具体的には、ゲート電圧制御回路19は、FET17を選択する旨の信号を比較結果として取得した場合には、RFSW16により選択されたFET17を動作させるIdsp電圧をゲート電圧としてFET17に供給する。これとともに、ゲート電圧制御回路19は、RFSW16により選択されていないFET18を非動作とするピンチオフ電圧をゲート電圧としてFET18に供給する。一方、ゲート電圧制御回路19は、FET18を選択する旨の信号を比較結果として取得した場合には、RFSW16により選択されたFET18を動作させるIdsp電圧をゲート電圧としてFET18に供給する。これとともに、ゲート電圧制御回路19は、RFSW16により選択されていないFET17を非動作とするピンチオフ電圧をゲート電圧としてFET17に供給する。ゲート電圧制御回路19は、オンオフ電圧制御部の一例である。また、ゲート電圧は、選択された増幅素子を動作させる電圧、および、選択された増幅素子以外の他の増幅素子を非動作とする電圧の一例である。
【0027】
位相調整回路20および位相調整回路21は、それぞれ、FET17およびFET18から入力されるRF信号を取得する。位相調整回路20は、ゲート電圧制御回路19により非動作とされたFET17の出力インピーダンスが、ゲート電圧制御回路19により動作されたFET18に対してオープンとなるように、FET17から取得したRF信号の位相を調整する。位相調整回路21は、ゲート電圧制御回路19により非動作とされたFET18の出力インピーダンスが、ゲート電圧制御回路19により動作されたFET17に対してオープンとなるように、FET18から取得したRF信号の位相を調整する。位相調整回路20または位相調整回路21により位相を調整されたRF信号は、アンテナ22を介して外部に送出される。
【0028】
ここで、比較回路14、RFSW16、ゲート電圧制御回路19、位相調整回路20および位相調整回路21による処理の具体例を説明する。以下では、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合の処理の具体例と、エンベロープの電圧が基準電圧未満である場合の処理の具体例とをこの順番に説明する。
【0029】
まず、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合の比較回路14、RFSW16、ゲート電圧制御回路19、位相調整回路20および位相調整回路21による処理の具体例を説明する。図2は、エンベロープの電圧が基準電圧以上である場合のRF信号の経路を示す図である。まず、比較回路14は、エンベロープの電圧が基準電圧以上であるため、FET17を選択する旨の信号101を比較結果としてRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。そして、RFSW16は、FET17を選択する旨の信号101を取得すると、FET17に接続される経路にRF信号を送出する旨を指示する信号を内部のスイッチング素子に送ることで、FET17を選択する。これにより、RF信号が太線の矢印102で示される経路を通過する。
【0030】
そして、ゲート電圧制御回路19は、FET17を選択する旨の信号101を取得すると、RFSW16により選択されたFET17を動作させるIdsp電圧103をゲート電圧としてFET17に供給する。これとともに、ゲート電圧制御回路19は、RFSW16により選択されていないFET18を非動作とするピンチオフ電圧104をゲート電圧としてFET18に供給する。これにより、FET18が非動作となり、FET18で消費される電力が削減される。
【0031】
ここで、FET18が非動作となると、図3に示すように、FET18の出力インピーダンスが、スミスチャートの中心点111からスミスチャートの外周上の点112へ向けて増加する。ただし、点112まで増加したFET18の出力インピーダンスは、値が無限大となるオープン点113からずれていることがある。そこで、位相調整回路21は、FET18の出力インピーダンスがFET17に対してオープンとなるように、FET18から出力されるRF信号の位相を調整する。図3の例では、位相調整回路21は、点112まで増加したRF信号の位相をオープン点113まで回転することにより、FET18から出力されるRF信号の位相を調整する。これにより、非動作のFET18の出力インピーダンスが動作中のFET17に対してオープンとなるので、FET17からFET18へRF信号が漏れこむことを回避することができる。なお、図3は、位相調整回路21による位相調整を説明するための図である。
【0032】
次いで、エンベロープの電圧が基準電圧未満である場合の比較回路14、RFSW16、ゲート電圧制御回路19、位相調整回路20および位相調整回路21による処理の具体例を説明する。図4は、エンベロープの電圧が基準電圧未満である場合のRF信号の経路を示す図である。まず、比較回路14は、エンベロープの電圧が基準電圧未満であるため、FET18を選択する旨の信号201を比較結果としてRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。そして、RFSW16は、FET18を選択する旨の信号201を取得すると、FET18に接続される経路にRF信号を送出する旨を指示する信号を内部のスイッチング素子に送ることで、FET18を選択する。これにより、RF信号が太線の矢印202で示される経路を通過する。
【0033】
そして、ゲート電圧制御回路19は、FET18を選択する旨の信号201を取得すると、RFSW16により選択されたFET18を動作させるIdsp電圧203をゲート電圧としてFET18に供給する。これとともに、ゲート電圧制御回路19は、RFSW16により選択されていないFET17を非動作とするピンチオフ電圧204をゲート電圧としてFET17に供給する。これにより、FET17が非動作となり、FET17で消費される電力が削減される。
【0034】
ここで、FET17が非動作となると、FET17の出力インピーダンスが、スミスチャートの中心点からスミスチャートの外周上の点へ向けて増加する。そこで、位相調整回路20は、図3で既に説明した位相調整回路21と同様に、FET17の出力インピーダンスがFET18に対してオープンとなるように、FET17から出力されるRF信号の位相を調整する。これにより、非動作のFET17の出力インピーダンスが動作中のFET18に対してオープンとなるので、FET17からFET18へRF信号が漏れこむことを回避することができる。
【0035】
図1に戻り、ドレイン電圧制御回路23は、エンベロープ検出回路13から入力されるエンベロープを取得する。ドレイン電圧制御回路23は、電源23aから供給される電圧をFET17およびFET18のドレイン電圧として取得する。ドレイン電圧制御回路23は、RFSW16により選択されたFET17またはFET18のドレイン電圧をエンベロープに従って制御する。ドレイン電圧制御回路23は、電圧制御部の一例である。ドレイン電圧は、増幅素子における送信信号の増幅に用いる電圧の一例である。
【0036】
ドレイン電流測定回路24は、ドレイン電圧を供給する電源23aから出力されるドレイン電流を測定する。ドレイン電流測定回路24は、電流測定部の一例である。ドレイン電流は、電圧を供給する電源の電流の一例である。
【0037】
基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流を取得する。基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が減少するように、比較回路14に設定する基準電圧を動的に制御する。
【0038】
ここで、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流は、FET17およびFET18が通常の使用環境の下で動作している場合には、大幅に変動することはない。ただし、FET17およびFET18の温度の変化や部品精度のばらつきなどの使用環境の変動が生じた場合には、電源23aから過剰なドレイン電流が出力され、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が大幅に変動する。ドレイン電流が変動すると、効率カーブが移動して電力効率が大幅に低下する恐れがある。そこで、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が減少するように比較回路14の基準電圧を制御する。これにより、過剰なドレイン電流の出力を抑えた最適な基準電圧を動的に探索することができるため、使用環境の変動に起因した電力効率の低下を抑えることができる。
【0039】
ここで、基準電圧制御回路25による処理の具体例を説明する。図5は、基準電圧制御回路25による処理を説明するための図である。図5では、本実施例の送信装置の電力効率カーブを示す。図5の横軸は、出力電力[dBm]であり、図5の縦軸は、電力効率[%]である。以下では、使用環境の変動として、FET17の温度の変化が発生する場合について説明する。
【0040】
曲線211は、FET17の電力効率を示す。曲線212は、FET18の電力効率を示す。破線の直線213は、エンベロープの電圧が基準電圧となった場合の出力電力を示す。直線213より右側の領域ではエンベロープの電圧が基準電圧以上となるため、FET17が動作する。直線213より左側の領域ではエンベロープの電圧が基準電圧未満となるため、FET18が動作する。
【0041】
FET17の温度が変化した場合には、電源23aから過剰なドレイン電流が出力されるため、図5に示すように、曲線211で示したFET17の電力効率が破線の曲線211aまで移動する。そうすると、直線213で示す、エンベロープの電圧が基準電圧となった場合の出力電力に対応する電力効率が、矢印214で示すように、大幅に低下する。
【0042】
このような状況の下で、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流の変動を検知する。例えば、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流を定期的に検知し、現在検知したドレイン電流が前回検知したドレイン電流と異なる場合に、ドレイン電流の変動を検知する。また、例えば、基準電圧制御回路25は、前回検知したドレイン電流から10%以上の変化があった場合に、ドレイン電流の変動を検知する。
【0043】
ドレイン電流の変動を検知した基準電圧制御回路25は、現状の基準電圧を基準電圧設定値の初期値として設定する。ここで、現状の基準電圧とは、基準電圧制御回路25が比較回路14に対して現在提供している基準電圧のことを言う。
【0044】
続いて、基準電圧制御回路25は、基準電圧設定値の初期値に所定値ΔVを加算し、加算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する。
【0045】
続いて、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が増加したかまたは減少したかを判定する。ここで、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が減少した場合には、電源23aからの過剰なドレイン電流の出力が抑えられ、使用環境の変動に起因した電力効率の低下が抑えられたことを意味する。一方、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が増加した場合には、電源23aからの過剰なドレイン電流の出力が発生し、使用環境の変動に起因して電力効率が低下していることを意味する。
【0046】
そして、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が減少した場合には、電源23aからの過剰なドレイン電流の出力をさらに抑えられる可能性があるため、現在の基準電圧設定値に所定値ΔVを加算し、加算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する。
【0047】
一方、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が増加した場合には、電源23aからの過剰なドレイン電流の出力が発生している可能性があるため、現在の基準電圧設定値から所定値ΔVを減算し、減算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する。
【0048】
続いて、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が増加したかまたは減少したかを再度判定する。そして、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が減少した場合には、電源23aからの過剰なドレイン電流の出力をさらに抑えられる可能性があるため、現在の基準電圧設定値から所定値ΔVを減算し、減算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する。一方、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が増加した場合には、現在の基準電圧設定値を最適値として決定し、決定した最適値を比較回路14に設定する。
【0049】
このようにして、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が変動した場合に、現状の基準電圧を初期値として基準電圧設定値を段階的に増減しながら、ドレイン電流が最小となる基準電圧値の最適値を探索する。言い換えると、基準電圧制御回路25は、過剰なドレイン電流の出力を抑えた最適な基準電圧を動的に探索する。基準電圧制御回路25により最適な基準電圧が動的に探索されると、エンベロープの電圧が基準電圧となった場合の出力電力が、図5に示すように、直線213から直線213aに遷移する。このため、使用環境の変動により発生した電力効率の低下を、矢印214で示す低下量から矢印214aで示す低下量まで抑えることができる。
【0050】
次に、図6を参照して本実施例に係る送信装置の動作の流れについて説明する。図6は、本実施例に係る送信装置の動作を示すタイミングチャートである。図6は、波形図50、波形図60、波形図70、波形図80および波形図90を含む。
【0051】
波形図50は、時間軸上に表されたRF信号の波形を示す。波形図60は、時間軸上に表された比較回路14の出力信号の波形を示す。波形図70は、時間軸上に表されたRFSW16の内部信号の波形を示す。波形図80は、時間軸上に表されたゲート電圧制御回路19のFET17に対する供給電圧の波形を示す。波形図90は、時間軸上に表されたゲート電圧制御回路19のFET18に対する供給電圧の波形を示す。
【0052】
波形図50に示すように、エンベロープ検出回路13は、RF信号51のエンベロープ52を検出する。そして、比較回路14は、エンベロープ検出回路13により検出されたエンベロープ52の電圧と、基準電圧制御回路25により制御される基準電圧53とを比較する。
【0053】
そして、波形図60に示すように、比較回路14は、エンベロープ52の電圧が基準電圧53以上である場合には、FET17を選択する旨のHigh信号61を比較結果としてRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。一方、比較回路14は、エンベロープ52の電圧が基準電圧53未満である場合には、FET17を選択する旨のLow信号62を比較結果としてRFSW16およびゲート電圧制御回路19へ出力する。
【0054】
そして、波形図70に示すように、RFSW16は、FET17を選択する旨のHigh信号61を取得すると、FET17に接続される経路にRF信号51を送出する旨を指示する信号71を内部のスイッチング素子に送ることで、FET17を選択する。これにより、RF信号51がFET17に接続される経路を通過する。一方、RFSW16は、FET18を選択する旨のLow信号62を取得すると、FET18に接続される経路にRF信号51を送出する旨を指示する信号72を内部のスイッチング素子に送ることで、FET18を選択する。これにより、RF信号51がFET18に接続される経路を通過する。
【0055】
そして、波形図80および波形図90に示すように、ゲート電圧制御回路19は、FET17を選択する旨のHigh信号61を取得すると、RFSW16により選択されたFET17を動作させるIdsq電圧81をゲート電圧としてFET17に供給する。これとともに、ゲート電圧制御回路19は、RFSW16により選択されていないFET18を非動作とするピンチオフ電圧91をゲート電圧としてFET18に供給する。
【0056】
一方、ゲート電圧制御回路19は、FET18を選択する旨のLow信号62を取得すると、RFSW16により選択されたFET18を動作させるIdsq電圧92をゲート電圧としてFET18に供給する。これとともに、ゲート電圧制御回路19は、RFSW16により選択されていないFET17を非動作とするピンチオフ電圧82をゲート電圧としてFET17に供給する。
【0057】
そして、波形図50に示すように、ドレイン電圧制御回路23は、RFSW16により選択されたFET17またはFET18のドレイン電圧54をエンベロープ52に従って制御する。
【0058】
次に、図7を参照して本実施例における基準電圧制御回路25による基準電圧制御処理について説明する。図7は、本実施例における基準電圧制御回路25による基準電圧制御処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、図7に示す基準電圧制御処理は、送信装置が図6に示す動作を実行している際に、基準電圧制御回路25により定期的に実行される。
【0059】
まず、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流の変動を検知する(ステップS101)。基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流の変動を検知しない場合には(ステップS101否定)、基準電圧を変更せずそのまま待機する。
【0060】
一方、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流の変動を検知した場合には(ステップS101肯定)、現状の基準電圧を基準電圧設定値の初期値として設定する(ステップS102)。
【0061】
続いて、基準電圧制御回路25は、基準電圧設定値の初期値に所定値ΔVを加算し、加算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する(ステップS103)。
【0062】
続いて、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が増加したかまたは減少したかを判定する(ステップS104)。基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が減少した場合には(ステップS105肯定)、現在の基準電圧設定値に所定値ΔVを加算し、加算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する(ステップS103)。
【0063】
一方、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が増加した場合には(ステップS105否定)、現在の基準電圧設定値から所定値ΔVを減算し、減算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する(ステップS106)。
【0064】
続いて、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流測定回路24により測定されるドレイン電流が増加したかまたは減少したかを再度判定する(ステップS107)。基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が減少した場合には(ステップS108肯定)、現在の基準電圧設定値から所定値ΔVを減算し、減算後の基準電圧設定値を比較回路14に設定する(ステップS106)。
【0065】
一方、基準電圧制御回路25は、ドレイン電流が増加した場合には(ステップS108否定)、現在の基準電圧設定値を最適値として決定し、決定した最適値を比較回路14に設定して処理を終了する。
【0066】
上述してきたように、本実施例に係る送信装置は、エンベロープの電圧と基準電圧との比較結果に応じて2つのFETを選択的に動作させる際に、選択されたFETのドレイン電流を測定し、ドレイン電流が減少するように基準電圧を動的に探索する。このため、本実施例に係る送信装置は、FETにおける温度の変化や部品精度のばらつきなどの使用環境の変動により発生する過剰なドレイン電流の出力を抑えた最適な基準電圧を探索することができる。結果として、本実施例に係る送信装置は、使用環境の変動により発生する電力効率の劣化を抑制することができる。
【0067】
また、本実施例に係る送信装置は、基準電圧の制御において、現状の基準電圧を基準電圧設定値の初期値として設定するとともに、基準電圧値を段階的に増減しながら、ドレイン電流が最小となる最適な基準電圧値を探索する。このため、本実施例に係る送信装置は、設計時などに設定された値に基づいて基準電圧値を動的に探索する手法と異なり、現状の基準電圧に基づいて最適な基準電圧値を動的に探索することができる。結果として、本実施例に係る送信装置は、使用環境の変動に対してより緻密に追従することができるので、使用環境の変動により発生する電力効率の劣化を高速に抑制することができる。
【0068】
また、本実施例に係る送信装置は、RFSW16により選択されたFET以外の他のFETを非動作とするピンチオフ電圧をゲート電圧として他のFETに供給する。このため、本実施例に係る送信装置は、信号の増幅に利用されていない他のFETを非動作とすることができ、他のFETで消費される電力を削減することができる。
【0069】
また、本実施例に係る送信装置は、非動作のFETの出力インピーダンスが動作中のFETに対してオープンとなるように、非動作のFETから出力される送信信号の位相を調整する。このため、本実施例に係る送信装置は、非動作のFETから動作中のFETへ信号が漏れこむことを回避することができる。
【符号の説明】
【0070】
11 送信信号生成回路
12 方向性結合器
13 エンベロープ検出回路(エンベロープ検出部)
14 比較回路(比較部)
15 遅延調整回路
16 RFSW(選択部)
17、18 FET(増幅素子)
19 ゲート電圧制御回路(オンオフ電圧制御部)
20、21 位相調整回路
22 アンテナ
23 ドレイン電圧制御回路(電圧制御部)
23a 電源
24 ドレイン電流測定回路(電流測定部)
25 基準電圧制御回路(基準電圧制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号のエンベロープを検出するエンベロープ検出部と、
前記エンベロープの電圧と基準電圧とを比較する比較部と、
前記比較部による比較結果に基づいて、動作電力が異なる複数の増幅素子から前記送信信号を増幅する増幅素子を選択する選択部と、
前記選択部により選択された前記増幅素子における前記送信信号の増幅に用いる電圧を前記エンベロープに基づいて制御する電圧制御部と、
前記電圧制御部により制御される前記電圧を供給する電源の電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部により測定される電流が減少するように前記基準電圧を制御する基準電圧制御部と
を備えたことを特徴とする増幅器。
【請求項2】
前記基準電圧制御部は、
前記電流測定部により測定される電流が変動した場合に、現状の基準電圧を初期値として設定するとともに、該基準電圧を段階的に増減しながら、前記電流が最小となる最適の基準電圧を探索することにより、基準電圧を制御することを特徴とする請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記比較部による比較結果に基づいて、前記複数の増幅素子のうち前記選択部により選択された増幅素子を動作させる電圧を該増幅素子に供給するとともに、前記選択部により選択された増幅素子以外の他の増幅素子を非動作とする電圧を該他の増幅素子に供給するオンオフ電圧制御部をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の増幅器。
【請求項4】
前記オンオフ電圧制御部により非動作とされた増幅素子の出力インピーダンスが、前記オンオフ電圧制御部により動作された増幅素子に対してオープンとなるように、非動作とされた前記増幅素子から出力される送信信号の位相を調整する位相調整部をさらに備えたことを特徴する請求項3に記載の増幅器。
【請求項5】
送信信号を生成する送信信号生成部と、
前記送信信号のエンベロープを検出するエンベロープ検出部と、
前記エンベロープの電圧と基準電圧とを比較する比較部と、
前記比較部による比較結果に応じて、動作電力が異なる複数の増幅素子から前記送信信号を増幅する増幅素子を選択する選択部と、
前記選択部により選択された前記増幅素子における前記送信信号の増幅に用いる電圧を前記エンベロープに基づいて制御する電圧制御部と、
前記電圧制御部により制御される前記電圧を供給する電源の電流を測定する電流測定部と、
前記電流測定部により測定される電流が減少するように前記基準電圧を制御する基準電圧制御部と
を備えたことを特徴とする送信装置。
【請求項6】
増幅器により実行される増幅器制御方法であって、
送信信号のエンベロープを検出し、
前記エンベロープの電圧と基準電圧とを比較し、
比較結果に基づいて、動作電力が異なる複数の増幅素子から前記送信信号を増幅する増幅素子を選択し、
選択された前記増幅素子における前記送信信号の増幅に用いる電圧を前記エンベロープに基づいて制御し、
制御される前記電圧を供給する電源の電流を測定し、
測定される電流が減少するように前記基準電圧を制御する
ことを含むことを特徴とする増幅器制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−244251(P2012−244251A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109826(P2011−109826)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】