説明

増幅回路とこれを有する無線通信装置及びコンピュータプログラム

【課題】 増幅器の非線形特性に安定的に収束させることができる増幅回路を提供する。
【解決手段】 本発明の増幅回路12aは、増幅器22と、この増幅器22の逆歪特性A-1を当該増幅器22の入力信号u(t)に付加して歪補償を行う歪補償部30と、歪補償部30が使用する当該増幅器22の逆歪特性A-1を所定の推定モデルAkに基づいて推定するモデル推定部32とを備える。このモデル推定部32は、過去の推定モデルAkの演算に用いた入出力データUtk,Ytkの一部U’,Y’を今回の推定モデルAk+1の演算にも使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅回路とこれを有する無線通信装置及びその増幅回路のコンピュータプログラムに関するものであり、特に、歪み補償が可能な増幅回路等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置に用いる増幅器は、高い線形性が要求されることがある。例えば、線形変調信号を増幅する電力増幅器、あるいは線形変調信号の受信機に用いる低雑音増幅器は、スペクトラム特性や信号の歪みに起因する伝送特性の劣化を抑えるために高い線形性が要求される。
しかし、増幅器の入出力特性は、出力信号電圧が増幅器の電源電圧に近い範囲では、入力信号と出力信号との関係が線形とならず、入出力比が飽和する非線形領域となる。
【0003】
従って、入出力比の線形性を確保するには、増幅器に対して十分に大きな電流・電圧(=電力)を電源電圧として与え、電源電圧よりも低く線形性の高い動作領域で増幅器を動作させる必要がある。
この結果、線形性を確保できる動作領域は狭くなり、増幅器の使用電力(電源電力)に対する出力電力比(電力効率)が悪くなる。このように、増幅器における線形性の確保と電力効率の確保とはトレードオフの関係にある。
【0004】
そこで、従来、増幅器の入出力比の線形性を確保しつつ、その電力効率の向上を図るために、非線形領域において生じる歪を補償するための歪補償方式が提案されている。この歪補償方式としては、増幅器の入力信号に対して増幅器の歪特性とは逆の特性を、予め増幅器の入力信号に付加することで、増幅器の出力信号を歪のない或いは少ない状態で得る方式(プリディストーション:Pre-distortion)法がある。
【0005】
そして、かかる歪補償を行うプリディストータ(Pre-distorter)としては、非特許文献1に示すように、予め補正量をLUT(Look Up Table)に記憶させておき、増幅器の出力信号と目標出力信号の差異を用いて、その補正量を逐次修正する方式(LUT方式)と、増幅器に対する歪み補正量を多項式で近似し、その多項式の係数値を増幅器の出力信号と入力信号とを用いて計算(適応制御)する方式(多項式近似方式)とがある。
【0006】
【非特許文献1】Lei Ding, “Digital predistortion of power amplifiers for wireless application,” Thesis, Georgia institute of Technology, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の多項式近似方式のプリディストータでは、増幅器の非線形モデルの係数を決める際に、特定のサンプル時刻に採取された一連の時系列データを用い、増幅器の非線形特性を示す推定モデルを演算するようになっている。
しかし、かかる従来手法では、ある特定のサンプル時刻に採取した入出力データのみに基づいて上記推定モデルを演算するようになっているので、その推定結果が、増幅器の出力信号に含まれるノイズ特性に非常に敏感に反応してしまい、その推定結果を増幅器の真の非線形特性に向かって安定的に収束することが非常に難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、このような実情に鑑み、増幅器の非線形特性に安定的に収束させることができる増幅回路及び無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の増幅回路(請求項1)は、増幅器と、この増幅器の逆歪特性を当該増幅器の入力信号に付加して歪補償を行う歪補償部と、前記歪補償部が使用する当該増幅器の逆歪特性を所定の推定モデルに基づいて推定するモデル推定部と、を備えた増幅回路であって、前記モデル推定部は、過去の前記推定モデルの演算に用いた前記入出力データの一部を今回の前記推定モデルの演算にも使用することを特徴とする。
【0010】
本発明の増幅回路によれば、モデル推定部は、過去の推定モデルの演算に用いた入出力データの一部を今回の推定モデルの演算にも使用するので、特定のサンプル時刻に採取した入出力データのみに基づいて推定モデルを演算する場合に比べて、推定結果が増幅器の出力信号に含まれるノイズ特性に敏感に反応するのが抑制され、推定結果を増幅器の真の非線形特性に向かって安定的に収束させることができる。
【0011】
本発明の増幅回路において、今回の前記推定モデルの演算に使用する過去の入出力データは、当該過去のすべての入出力データの中からノイズがより少ないと推定とされるデータとして選択されたものであることが好ましい(請求項2)。
この場合、過去の推定結果においてノイズが少なそうな入出力データが今回の推定モデルの演算に利用されることになるので、今回の推定モデルの演算に用いる過去の入出力データを無作為に抽出する場合に比べて、今回の推定モデルの推定精度をより向上させることができる。
【0012】
一方、本発明の増幅回路において、増幅器の時系列の入出力データから歪特性の推定モデルを逐次推定するようにしているのは、その推定モデルを増幅器の動作に併せてダイナミックに変動させるためである。従って、今回の推定モデルを演算に使用する過去の入出力データの数が余り多いと、今回の推定モデルが過去の推定結果に影響され過ぎて、増幅器の動作に対する追従性が悪くなる。
そこで、今回の前記推定モデルの演算に使用する過去の入出力データの数は、当該過去のすべての入出力データの数の50%以下に設定することが好ましい(請求項3)。
【0013】
本発明の増幅回路において、前記モデル推定部は、具体的には、前記増幅器に対する入出力データから当該増幅器の歪特性の前記推定モデルを演算する演算部と、この演算部で得られた前記推定モデルを逆行列変換して前記歪補償部が使用する当該増幅器の逆歪特性を演算する行列変換部とから構成することができる(請求項4)。
また、前記モデル推定部は、前記増幅器に対する入出力データから当該増幅器の逆歪特性の前記推定モデルを直接演算する演算部を備えたものであってもよい(請求項5)。
この後者のモデル推定部の場合、前者のものに比べて、行列変換部が削減された分だけ演算コストや実装コストを削減できるという利点がある。
本発明の無線通信装置(請求項6)は、前記増幅回路を送信信号の増幅又は受信信号の増幅のために備えた無線通信装置であって、当該増幅回路と同様の作用効果を奏するものである。
【0014】
本発明のコンピュータプログラム(請求項7)は、増幅器をデジタル信号で駆動制御するコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムであって、前記増幅器の逆歪特性を当該増幅器の入力信号に付加して歪補償を行うステップと、前記増幅器の逆歪特性を所定の推定モデルに基づいて推定するステップと、過去の前記推定モデルの演算に用いた前記入出力データの一部を今回の前記推定モデルの演算にも使用するステップとを備えていることを特徴とする。
【0015】
本発明のコンピュータプログラムによれば、過去の推定モデルの演算に用いた入出力データの一部を今回の推定モデルの演算にも使用するステップを実行するので、特定のサンプル時刻に採取した入出力データのみに基づいて推定モデルを演算する場合に比べて、推定結果が増幅器の出力信号に含まれるノイズ特性に敏感に反応するのが抑制され、推定結果を増幅器の真の非線形特性に向かって安定的に収束させることができる。
【発明の効果】
【0016】
以上の通り、本発明によれば、増幅器の非線形領域における出力信号を歪補償する場合において、その増幅器の非線形特性の推定結果が当該増幅器の出力信号に含まれるノイズ特性に敏感に反応するのを抑制できるので、増幅器の非線形特性に安定的に収束させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態を説明する。
〔無線通信システム〕
図1は、本発明の増幅回路が好適に使用できる無線通信システムの全体構成図である。
図1に示すように、本実施形態の無線通信システムは、無線通信装置としての1つの無線基地局1aと、同じく無線通信装置としての複数のユーザ端末装置1b,1c,1dとを備えている。
【0018】
これらの無線通信装置1a,1b,1c,1dは、無線信号を受信するための受信機11と、無線信号を送信するための送信機12と、送受信信号の処理を行う処理部13とを備えている。このうち、受信機11は線形変調信号を受信するものであり、この受信機は線形変調信号を受信して増幅するために低雑音増幅回路11aを有している。また、送信機12は、線形変調信号を送信するものであり、線形変調信号を増幅する電力増幅回路12aを有している。
低雑音増幅回路11aと電力増幅回路12aの基本的構成は同様であるので、以下においては、電力増幅回路12aを例にとって本実施形態の増幅回路を説明する。
【0019】
〔増幅回路のハードウェア構成〕
図2は、電力増幅回路12aのハードウェア構成を示す回路ブロック図である。
図2に示すように、本実施形態の電力増幅回路12aは、デジタル信号処理部(DSP)21、RF電力増幅器(以下、単に増幅器という)22、エンベロープ(包絡線)増幅器23などを備えている。
【0020】
前記増幅器22は、線形変調信号を増幅するためのものであるが、非線形特性を示す動作領域を有しており、後述の図3のプリディストータ(歪補償部)30が必要とされる。また、この増幅器22では、入力信号の変化や増幅器特性のばらつきによって電力効率や歪特性が変化することがある。
【0021】
デジタル信号処理部21は、増幅器22をデジタル信号で駆動制御するプログラマブルなコンピュータ(例えば、FPGA:Field Programmable Gate Array)よりなり、増幅器22への入力となる信号(ベースバンド信号)を出力するとともに、増幅器22の出力(ベースバンド信号)を取得することができる。
デジタル信号処理部21から増幅器22の入力端までの間には、DAコンバータ(DAC)24、ローパスフィルタ(LPF)25、アップコンバータ26、バンドパスフィルタ27、ドライバ28が設けられている。
【0022】
増幅器22の出力端からデジタル信号処理部21までの間には、ダウンコンバータ29a、ローパスフィルタ29b、ADコンバータ(ADC)29cが設けられている。
更に、デジタル信号処理部21は、増幅器22に付与する電源電圧を示す信号(デジタル信号)をエンベロープ増幅器23に対して出力する。デジタル信号処理部21からエンベロープ増幅器23の入力端までの間には、DAコンバータ(DAC)24、ローパスフィルタ29dが設けられている。
【0023】
〔デジタル信号処理部による増幅器の制御〕
図3は、デジタル信号処理部21のうち、増幅器22の駆動制御に関する部分を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、デジタル信号処理部21は、増幅器22に与える入力信号の歪補償を行うプリディストータ(歪補償部)30と、増幅器22に与える電源変調電圧(ドレイン電圧)を決定する電源変調部31と、プリディストータ30が使用する増幅器22の逆歪特性A-1を推定するモデル推定部32とを備えている。
【0024】
プリディストータ30は、歪補償前のベースバンド信号である入力信号x(t)に増幅器22の歪特性に応じた歪補償処理を施して、歪補償後のベースバンド信号である出力信号u(t)(増幅器22の入力信号)を得るためものである。
この歪補償は、増幅器22の非線形の歪特性Aとは逆の逆歪特性A-1を、予め信号x(t)に付加することによって行われる。かかる歪補償が施されたプリディストータ30の出力信号u(t)を入力信号として増幅器22に与えることで、増幅器22からは歪みのない或いは少ない出力信号y(t)が得られる。
【0025】
一方、電源変調部31は、増幅器22の入力信号u(n)のエンベロープ(包絡線)に応じて、増幅器22に与える電源電圧v(t)を変化させる。すなわち、電源変調部31は、入力信号u(t)(のエンベロープ)が小さければ、電源電圧v(t)も小さくし、入力信号u(t)(のエンベロープ)が大きければ、電源電圧v(t)も大きくして、入力信号u(t)の変化に沿った電源変調電圧v(t)を決定する。
このように、電源変調部31が、入力信号u(t)に応じて電源変調電圧v(t)を決定することで、増幅器2の電力効率を向上させることができる。
【0026】
〔モデル推定部の構成とその演算処理〕
図4は、デジタル信号処理部21のモデル推定部32の機能ブロック図である。
図4に示すように、モデル推定部32は、増幅器22に対する入出力データからその歪特性Aの推定モデルを演算する演算部33と、この演算部33で得られた歪特性の推定モデルAを逆行列変換してプリディストータ30が使用する逆歪特性A-1を演算する行列変換部34と、歪特性Aの推定モデルの演算結果とこれに用いた変数を一時的に記憶する記憶部35とを備えている。
【0027】
以下、上記モデル推定部32の演算部33が行う歪特性Aの演算処理を説明する。
まず、図4に示すように、ある時刻tにおける増幅器22の入力信号をu(t)とし、その時刻tにおけるu(t)に対応する増幅器22の出力信号をy(t)とする。
また、時刻tから所定期間の間にN個のバースト状のデータ列が増幅器22に入出力されているものとし、その所定期間t+1〜t+Nにおけるそのバースト状の入力データ列U(t)と出力データ列Y(t)を、それぞれ次のように定義する。
【0028】
○ 所定期間t+1〜t+Nでの入力データ列
U(t)=〔u(t+1),u(t+2),……,u(t+N)〕
○ 所定期間t+1〜t+Nでの出力データ列
Y(t)=〔u(t+1),u(t+2),……,u(t+N)〕
【0029】
ここで、増幅器22の非線形特性を、ベクトルAとベクトルfとを用いて、次の式(1)で表すものとする。式(1)において、ベクトルfは、x(t)の複素べき級数と、その1階微分及びその2階微分とを並べたものであり、ベクトルAは、その複素べき級数の複素係数ベクトルである。
【数1】

【0030】
従って、上記式(1)を前記データ列に当てはめると、所定期間t+1〜t+Nの入出力データの関係式として、次の行列式(2)が得られる。
【数2】

【0031】
そして、モデル推定部32の演算部33は、t=tkで始まるフレームについて、次の式(3)で定義される推定誤差|etk2を演算し、この推定誤差が最小値となるようにAkを演算する。具体的には、|etk2=ε(十分小さい値)となるAkを演算する。
【数3】

【0032】
ところで、従来では、ある特定のサンプル時刻tkに採取した入出力データUtk,Ytkのみに基づいて、増幅器22の非線形特性Aを示す推定モデルAkを演算しているので、推定モデルAkの演算結果が増幅器22の出力信号に含まれるノイズ特性の影響を受けやすく、推定モデルAkの演算結果が収束しないことがある。
そこで、本実施形態では、演算部33は、過去の推定モデルAkの演算に用いた入出力データUtk,Ytkの一部を、それ以降の推定モデルAk+1の演算にも使用する繰り越し処理を行う。
【0033】
〔繰り越し処理のアルゴリズム〕
すなわち、モデル推定部32の演算部33は、ある特定の演算時刻tkにおいて、|etk2=εとなるAkを演算したあと、それ以降の演算時刻tk+1において|etk+12=εとなるAk+1を演算するに当たり、次のステップS1〜S5に従った繰り越し処理を行う。
【0034】
(ステップS1)
演算時刻tkで用いた|etk|の中から、小さい順にp個のものを選ぶ。ただし、pは入出力データ列の数Nの50%以下の数とする。
(ステップS2)
ステップS1又は下記ステップS4で選択した、値が小さいp個のeiを与えるYiとUiの組をp組選び、これを記憶部35に記憶させる。なお、選択されたUiとYiのベクトルをY’とU’と記述する。
【0035】
(ステップS3)
時刻tk+1における推定モデルAk+1の更新に際して、etk+1を次の式(4)のように定義して、過去の推定モデルAkの演算に用いた入出力データUtk,Ytkの一部であるp組のUi,Yiを付加し、|etk+12=εを満たすAk+1を演算する。
tk+1=〔Ytk+1,Y’〕−Ak+1・〔Utk+1,U’〕 ……(4)
(ステップS4)
【0036】
|etk+1|の中から、小さい順にp個のものを選ぶ。ただし、pは入出力データ列の数Nの50%以下の数とする。
(ステップS5)
k→k+1にインクリメントして、ステップS2に戻る。
【0037】
〔繰り越し処理による効果〕
このように、本実施形態の増幅回路12aによれば、モデル推定部32が、過去の推定モデルAkの演算に用いた入出力データUtk,Ytkのうちの一部のデータ U’,Y’を使用して、今回の推定モデルAk+1の演算を行う。
従って、特定のサンプル時刻tk+1に採取した入出力データUtk,Ytkのみに基づいて推定モデルAk+1を演算する場合に比べて、推定結果が増幅器22の出力信号に含まれるノイズ特性に敏感に反応するのが抑制され、その推定結果を増幅器22の真の非線形特性Aに向かって安定的に収束させることができる。
【0038】
また、本実施形態の増幅回路12aによれば、今回の推定モデルAk+1の演算に使用する過去の入出力データU’,Y’は、推定誤差|e|が小さいものが選択されており(ステップS2)、過去のすべての入出力データUtk,Ytkの中からノイズがより少ないと推定とされるデータU’,Y’だけを次の演算に繰り越しているので、今回の推定モデルAk+1の演算に用いる過去の入出力データを無作為に抽出する場合に比べて、今回の推定モデルAk+1の推定精度をより向上させることができる。
【0039】
更に、本実施形態の増幅回路12aによれば、今回の推定モデルAk+1の演算に使用する過去の入出力データU’,Y’の数pが、当該過去のすべての入出力データUtk,Ytkの数Nの50%以下に設定されているので、今回の推定モデルAk+1が過去の推定結果に影響され過ぎて、増幅器22の動作に対する追従性が悪化するのを防止することができる。
【0040】
〔ベクトル定義式の変形例〕
上記実施形態では、前記式(1)のベクトルfを、x(t)の複素べき級数と、その1階微分及びその2階微分とを並べたものであるとして定義したが、このベクトルfは、より広義には、次の式(5)のように定義することができる。
【数4】

【0041】
上記式(5)から明らかな通り、この場合のベクトルfは、x(t)の複素べき級数で表現される直交多項式を基底とした級数と、その1階微分及び2階微分とを並べたものとして定義されている。
【0042】
〔モデル推定部の変形例〕
図5は、モデル推定部32の変形例を示す機能ブロック図である。
図5に示すように、この変形例に係るモデル推定部32は、増幅器22に対する入出力データからその逆歪特性A-1の推定モデルを演算する演算部36と、逆歪特性A-1の推定モデルの演算結果とこれに用いた変数を一時的に記憶する記憶部37とを備えている。
すなわち、図5のモデル推定部32では、演算部36が、増幅器22の歪特性Aではなく、その逆歪特性A-1を直接演算するようになっているので、図4に示す行列変換部34が設けられていない。
【0043】
このため、上記変形例に係るモデル推定部32の場合には、図4に示すモデル推定部32と比較して、行列変換部34が削減された分だけ演算コストや実装コストを削減できるという利点がある。
そして、上記変形例に係るモデル推定部32の場合、増幅器22の非線形特性は、ベクトルAinv とベクトルfとを用いて、次の式(6)で表すことができる。
u(t)= Ainv *f(y(t)) ……(6)
【0044】
もっとも、関数の基底ベクトルがf(x(t))とf(y(t))とで相違するため、式(6)におけるベクトルAinv は増幅器22の逆歪特性A-1と同値にはならない。
しかし、増幅器22の動作を非線形関数で表現するという観点からすると、前記式(1)で得られたベクトルAを逆行列変換して逆歪特性とする解法と、上記式(6)から直接的に演算したベクトルAinv を逆歪特性とする解法とは原理的に同じであり、いずれの解法を用いても歪補償に関する効果は同等である。
【0045】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
本発明の技術的範囲は冒頭の特許請求の範囲によって示され、その構成と均等なものは本発明の対象に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】無線通信システムの全体構成図である。
【図2】増幅回路のハードウェア構成を示す回路ブロック図である。
【図3】増幅回路の機能ブロック図である。
【図4】モデル推定部の機能ブロック図である。
【図5】モデル推定部の変形例を示す機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0047】
1a:無線基地局 1b〜1d:端末装置
11:受信機 11a:低雑音増幅回路 12:送信機 12a:電力増幅回路
13:処理部
21:デジタル信号処理部 22:RF電力増幅器 23:エンベロープ僧服器
24:DAコンバータ 25:ローパスフィルタ 26:アップコンバータ
27:バンドパスフィルタ 28:ドライバ 29a:ダウンコンバータ
29b:ローパスフィルタ 29c:ADコンバータ
30 歪補償部(プリディストータ) 31:電源変調部 32:モデル推定部
33:演算部 34:行列変換部 35:記憶部 36:演算部 37:記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
増幅器と、この増幅器の逆歪特性を当該増幅器の入力信号に付加して歪補償を行う歪補償部と、前記歪補償部が使用する当該増幅器の逆歪特性を所定の推定モデルに基づいて推定するモデル推定部と、を備えた増幅回路であって、
前記モデル推定部は、過去の前記推定モデルの演算に用いた前記入出力データの一部を今回の前記推定モデルの演算にも使用することを特徴とする増幅回路。
【請求項2】
今回の前記推定モデルの演算に使用する過去の入出力データは、当該過去のすべての入出力データの中からノイズがより少ないと推定とされるデータとして選択されたものである請求項1記載の増幅回路。
【請求項3】
今回の前記推定モデルの演算に使用する過去の入出力データの数は、当該過去のすべての入出力データの数の50%以下である請求項1又は2に記載の増幅回路。
【請求項4】
前記モデル推定部は、前記増幅器に対する入出力データから当該増幅器の歪特性の前記推定モデルを演算する演算部と、この演算部で得られた前記推定モデルを逆行列変換して前記歪補償部が使用する当該増幅器の逆歪特性を演算する行列変換部とを備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の増幅回路。
【請求項5】
前記モデル推定部は、前記増幅器に対する入出力データから当該増幅器の逆歪特性の前記推定モデルを直接演算する演算部を備えている請求項1〜3のいずれか1項に記載の増幅回路。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の前記増幅回路を送信信号の増幅又は受信信号の増幅のために備えている無線通信装置。
【請求項7】
増幅器の逆歪特性を当該増幅器の入力信号に付加して歪補償を行うステップと、
前記増幅器の逆歪特性を所定の推定モデルに基づいて推定するステップと、
過去の前記推定モデルの演算に用いた前記入出力データの一部を今回の前記推定モデルの演算にも使用するステップとを、
前記増幅器をデジタル信号で駆動制御するコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−194432(P2009−194432A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30296(P2008−30296)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】