説明

壁用防火防音構造

【課題】耐火性能に優れ、鋼板外装材の裏面での結露を防止でき、鋼板外装材の端部から雨水が浸入することによる錆の発生を防止でき、防音に優れると共に軽量な壁用防火防音構造を提供することを目的とする。
【解決手段】凹凸を付けた複数枚の鋼板外装材11がそれぞれの端部12、13を表裏に重ね合わせて並設され、鋼板外装材11の裏面にシート状の無機繊維断熱材20が凹凸に沿って曲げられて貼着され、鋼板外装材11の重ね合わされた端部12、13間には無機繊維断熱材20が介在しておらず、無機繊維断熱材20の裏側に少なくとも片面に防水紙が貼られたプラスターボード15が当接しており、鋼板外装材11、無機繊維断熱材20及びプラスターボード15が、鋼製の柱又は胴縁18に固定ビス19の鋼板外装材11側からの打ち込みによって止められている壁用防火防音構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、住宅、工場、倉庫等の建築物の外壁や界壁等の壁の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築物の外壁や界壁等の壁には、火災時の延焼をくい止めるための防火性能や、屋外等からの騒音等の伝わりを防ぐための防音性能を備えることが求められており、そのために様々な壁の構造が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、凸部を設けた金属補強板と、石膏ボード等の耐熱性能を有する表面板とを積層して結合することにより構成され、金属補強板と表面板との間に形成された中空部に繊維集合体等が充填された耐火パネルが提案されている。
特許文献2には、屋内側の面に鋼板等の金属板が接着された石膏ボードの屋外側面上にイソシアヌレート発泡体等の有機芯材入り金属パネル材が固定されている外壁構造が提案されている。
特許文献3には、石膏ボード等の下張り板の間の壁内部中空部に、薄い鋼板の両面に耐火接着剤でグラスウール等の断熱吸音材を張ったものを介在させ、ステープルを用いて上張り板を下張り板に固定した耐火遮音間仕切壁が提案されている。
【0004】
しかし、特許文献1の耐火パネルは、中空部以外の金属補強板と表面板との間には繊維集合体等が充填されていないことから、中空部以外では金属補強板と表面板とが接触しており、耐火性能や防音性能が低いものと考えられる。
特許文献2の外壁構造は、高温においてイソシアヌレート発泡体が炭化することから、耐火性能が低いものと考えられる。
特許文献3の耐火遮音間仕切壁は、ステープルを用いて上張り板を下張り板に固定していることから、上張り板の固定が弱く、特に外壁には用いることができないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−36328号公報
【特許文献2】特開2004−3295号公報
【特許文献3】特開平8−270115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、耐火性能に優れ、鋼板外装材の裏面での結露を防止でき、鋼板外装材の端部から雨水が浸入することによる錆の発生を防止でき、防音に優れると共に軽量な壁用防火防音構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の壁用防火防音構造は、凹凸を付けた複数枚の鋼板外装材がそれぞれの端部を表裏に重ね合わせて並設され、前記鋼板外装材の裏面にシート状の無機繊維断熱材が前記凹凸に沿って曲げられて貼着され、前記鋼板外装材の重ね合わされた端部間には前記無機繊維断熱材が介在しておらず、前記無機繊維断熱材の裏側に少なくとも片面に防水紙が貼られたプラスターボードが当接しており、前記鋼板外装材、無機繊維断熱材及びプラスターボードが、鋼製の柱又は胴縁に固定ビスの鋼板外装材側からの打ち込みによって止められている。
【0008】
また、低周波帯(例えば、500〜1000Hz)の防音性能が向上することから、無機繊維断熱体とプラスターボードとの間に、金属製の吸音シートが挿入されていることが好ましい。
【0009】
ここで、本発明の各要素の態様を以下に例示する。
【0010】
1.鋼板外装材
鋼板外装材に用いられる鋼板としては、特に限定はされないが、溶融亜鉛メッキ鋼板、ガルファン鋼板、ガルバリウム鋼板、アルミメッキ鋼板、ステンレス鋼板、塩ビ鋼板、樹脂塗装鋼板等が例示できる。外壁の場合には、耐食性が高いことから、ガルバリウム鋼板を用いることが好ましく、遮熱や耐汚染機能の塗装を施したものが軽量でより好ましい。一方、安価であることから、溶融亜鉛メッキ鋼板を用いることがコストの面からは好ましい。
鋼板の厚さは、特に限定はされないが、0.25〜2.3mmであることが好ましい。厚さが0.25mm未満では、強度が小さくて変形しやすく、2.3mmを超えると重くなり、施工等がしにくくなる。
鋼板外装材の凹凸の形状としては、特に限定はされないが、丸波形状、角波形状、リブ形状等が例示できる。
鋼板外装材の凹凸は、裏面に無機繊維断熱材を貼着する前に付けても良いし、裏面に無機繊維断熱材を貼着した後に付けても良い。
【0011】
2.無機繊維断熱材
無機繊維断熱材の態様としては、特に限定はされないが、ニードリング加工等によりフェルト状になったニードルマット等が例示できる。
無機繊維断熱材の嵩密度は、特に限定はされないが、80〜200kg/mであることが、吸音性能と断熱性能に優れることから好ましい。
無機繊維断熱材の厚さは、特に限定はされないが、4〜12mmであることが、鋼板外装材への貼着加工を行う上で好ましい。より好ましくは、4〜6mmである。6mmを超えると、反発力が大きくなり、凹凸を付けた鋼板外装材への貼着が難しい場合がある。
無機繊維断熱材は、特に限定はされないが、有機繊維や、繊維状以外の有機物質を含んでいても良いし、含んでいなくても良い。また、有機繊維不織布を取着していても良いし、取着していなくても良い。また、目止め処理が施されていても良いし、施されていなくても良い。
無機繊維断熱材は、鋼板外装材との貼着に用いられる貼着材の有機物質を含め、単位面積当りの有機物質の含有量が200g/m以下であることが、防火性能上好ましい。
【0012】
2−1.無機繊維
無機繊維断熱材の無機繊維としては、特に限定はされないが、ガラス繊維、シリカ繊維、ロックウール繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、バサルト繊維等が例示できる。安全性の面で優れることから、ガラス繊維、シリカ繊維が好ましい。コストの面で優れることから、ガラス繊維がより好ましい。
ガラス繊維又はシリカ繊維の組成は、特に限定はされないが、SiO(二酸化ケイ素)が70質量%以上であり、Al(酸化アルミニウム)が4質量%以上であることが好ましい。SiOが70質量%以上含まれる(含有率が70質量%以上)ことで耐熱性に優れる。Alが4質量%以上含まれる(含有率が4質量%以上)ことで、加熱後の熱収縮を小さくすることができて隙間が生じにくくなり、防火性能や防音性能の低下を抑えることができる。SiOの上限、及びAlの上限は、特に限定はされないが、敢えて言うならば、SiOは95質量%以下であり、Alは12質量%以下である。
ここで、ガラス繊維又はシリカ繊維の組成の値は、無機繊維断熱材中のガラス繊維又はシリカ繊維をJIS−R−3101「ソーダ石灰ガラスの分析方法」又はJIS−R−3105「ほうけい酸ガラスの分析方法」で決められている湿式分析法に準拠して分析前処理を行って測定した値である。
無機繊維断熱材がニードルマットの場合には、無機繊維は長繊維であることが好ましい。これは、ニードリング加工によって繊維同士が絡み合いフェルト状になりやすいからである。
長繊維の繊維長は、特に限定はされないが、25〜200mmであることが好ましい。これは、ニードリング加工によってフェルト状になりやすいからである。
無機繊維の太さは、特に限定はされないが、敢えて言うならば、6〜12μmである。
【0013】
2−2.有機繊維
無機繊維断熱材に含まれる有機繊維としては、特に限定はされないが、ポリエステル繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維)、ポリオレフィン系有機繊維(例えば、ポリエチレン繊維やポリプロピレン繊維)等の熱可塑性樹脂繊維であることが好ましい。これは、無機繊維断熱材に熱可塑性樹脂繊維を含ませることにより、後加工における熱処理によって熱可塑性樹脂繊維を融着させて、繊維間を表面固着し、繊維の飛散を防止できるからである。
有機繊維の含有率は、特に限定はされないが、防火性能上、10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、4〜10質量%である。
有機繊維の繊維長及び繊度は、特に限定はされないが、敢えて言うならば、繊維長が25〜200mmであり、繊度が1〜10デニールである。
【0014】
2−3.有機繊維不織布
有機繊維不織布を無機繊維断熱材の本体部に取着する方法としては、特に限定はされないが、無機繊維断熱材の本体部に有機繊維不織布を重ね、ニードリング加工により、無機繊維断熱材の本体部の無機繊維と不織布の有機繊維とを絡ませて、有機繊維不織布を無機繊維断熱材に一体積層化する方法等が例示できる。この方法によれば、無機繊維の飛散や、施工時等に無機繊維が肌を刺すことにより生じる肌への刺激(チクチク感)を少なくすることができる。
有機繊維不織布に用いられる繊維としては、特に限定はされないが、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、アクリル、ビニロン若しくはレーヨン等の樹脂又はこれらの樹脂の共重合体樹脂若しくは混合樹脂からなる長繊維等が例示できる。また、これらの長繊維と共に、アラミド繊維、天然繊維、ポリ乳酸繊維等を混合して用いても良い。
繊維の繊度は、特に限定はされないが、1〜10デニールが好ましく、より好ましくは、2〜7デニールである。
繊維の長さは、特に限定はされないが、布状になりやすいことから、連続長繊維であることが好ましい。
有機繊維不織布の目付は、特に限定はされないが、15〜40g/mであることが好ましく、20〜30g/mであることがより好ましい。15g/m未満では、繊維同士の絡みも少なく、不織布の製造が困難である。40g/mを超えると、火災時の総発熱量が著しく増加するため防火性能上好ましくない。
【0015】
2−4.目止め処理
無機繊維断熱材に目止め処理を施すことにより繊維間を表面固着し、無機繊維の飛散や、施工時等に無機繊維が肌を刺すことにより生じる肌への刺激(チクチク感)を少なくすることができる。また、有機繊維不織布を備える側の無機繊維断熱材の面にも目止め処理を施すことにより繊維間を表面固着し、その面における無機繊維の飛散や、施工時等に無機繊維が肌を刺すことにより生じる肌への刺激をより少なくすることができる。
ここで、目止め処理に用いられる固着物質としては、特に限定はされないが、アクリル系樹脂、合成ゴム等の有機ポリマー、無機バインダー、無機有機複合バインダー等が例示でき、無機繊維断熱材の柔軟性の低下が少なく、成形時等に粉落ちや飛散が起きにくいことから、有機ポリマーであることが好ましい。また、これらの固着物質は、水等の分散媒に分散したエマルジョンとして、ロールコーターやスプレー等の塗布方式で塗布される。また、その塗布量は、特に限定はされないが、無機繊維断熱材の片面に対し3〜10g/mであることが好ましい。3g/m未満では、繊維間の表面固着が乏しく、10g/mを超えると、防火性能と吸音・吸水性能が低下するおそれがある。
【0016】
3.貼着材
鋼板外装材の裏面に無機繊維断熱材を貼着する貼着材としては、特に限定はされないが、接着剤、粘着性フィルム、加熱によって接着できる接着フィルム等が例示できる。
接着剤としては、特に限定はされないが、合成ゴム系のホットメルト接着剤等が例示できる。
貼着材として接着剤を使用する場合の使用態様としては、特に限定はされないが、ロールコートやスプレー等の塗布方式で接着剤を無機繊維断熱材に塗布することで、無機繊維断熱材の接着面に接着層を設ける態様等が例示できる。この場合には、接着層に離型紙を貼り合わせることで、施工時まで接着層の接着面を保護することが好ましい。
また、接着剤の塗布量は、特に限定はされないが、10〜40g/mであることが好ましく、15〜30g/mであることがより好ましい。10g/m未満では、無機繊維断熱材が吸水した場合に、十分な接着力が得られず、無機繊維断熱材の剥離が生じるおそれがあり、40g/mを超えると、防火性能が低下するおそれがある。
【0017】
4.プラスターボード
プラスターボードは、特に限定はされないが、耐火性と靭性が向上することから、補強繊維を0.4〜20質量%含有し、含水率が5質量%以下であることが好ましい。また、補強繊維を0.4〜20質量%含有し、含水率が5質量%以下であることで、湾曲を有する曲面外壁にも用いることができる。例えば、厚さ5mmのプラスターボードを二枚以上積層して使用することで、曲面施工可能な壁用防火防音構造が得られる。
また、補強繊維としては、特に限定はされないが、カラス繊維等の無機繊維等が例示できる。
プラスターボードの厚さは、特に限定はされないは、敢えて言うならば、5〜15mmである。薄い(例えば、厚さが12mm未満)のものは、積層(重ねる)して、厚さが12mm以上にすることが、防火性能上好ましい。
【0018】
5.金属製の吸音シート
金属製の吸音シートとしては、特に限定はされないが、金属製のメッシュシート(金網)、エクスパンドメタル、開口率20%以上のパンチングメタル、開口率20%以上の孔付き金属板等が例示できる。高分子系のメッシュシートより低周波(特に、500〜1000Hzの周波数帯)吸音性能が高く、耐熱性に優れることから、金属製のメッシュシートであることが好ましい。
メッシュシートは、特に限定はされないが、網目構造が30〜200メッシュ、線径が0.1〜0.4mm、開口率が10〜50%のものが例示できる。
金属製の吸音シートに用いられる金属としては、特に限定はされないが、ステンレス鋼、アルミニウム等が例示できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、耐火性能に優れ、鋼板外装材の裏面での結露を防止でき、鋼板外装材の端部から雨水が浸入することによる錆の発生を防止でき、防音に優れると共に軽量な壁用防火防音構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例1の壁用防火防音構造の一部の斜視図である。
【図2】同壁用防火防音構造の一部の分解斜視図である。
【図3】同壁用防火防音構造の鋼板外装材の端部付近の平面図である。
【図4】同壁用防火防音構造の一部の平面図である。
【図5】同壁用防火防音構造のニードルマットの一部の断面模式図である。
【図6】実施例5の壁用防火防音構造の一部の斜視図である。
【図7】本発明の別例の壁用防火防音構造の鋼板外装材及び無機繊維断熱材の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0021】
本発明の実施例1の壁用防火防音構造10について、図1〜図5を用いて説明する。壁用防火防音構造10は、建築物の外壁として用いられるものである。
【0022】
壁用防火防音構造10は、角波形状の凹凸が付けられ、その凹凸が垂直方向に延びる複数の鋼板外装材11と、鋼板外装材11の裏面に貼着された、シート状の無機繊維断熱材20と、鋼板外装材11の後方に設けられ、無機繊維断熱材20の裏面に当接しているプラスターボード15と、プラスターボード15の後方に設けられた胴縁18とを備えている。鋼板外装材11、無機繊維断熱材20及びプラスターボード15は、鋼板外装材11側から打ち込まれた固定ビス19によって、胴縁18に固着されている。従って、鋼板外装材11、無機繊維断熱材20及びプラスターボード15は、固定ビス19の鋼板外装材11側からの打ち込みによって、胴縁18に止められている。
【0023】
複数の鋼板外装材11は、それぞれの左右の端部12、13を表裏に重ね合わせて並設されている。具体的には、右端部12をその右側に隣接する鋼板外装材11Rの左端部13Rの表側に重ね合わせ、左端部13をその左側に隣接する鋼板外装材11Lの右端部12Lの裏側に重ね合わせ、右側に隣接する鋼板外装材11R及び左側に隣接する鋼板外装材11Lと並設されている。なお、鋼板外装材11は、右端部12と左端部13との表裏の重ね合わせの関係が逆である、即ち、右端部12を右側に隣接する鋼板外装材11Rの左端部13Rの裏側に重ね、左端部13を左側に隣接する鋼板外装材11Lの右端部12Lの表側に重ねるものでもよい。
【0024】
無機繊維断熱材20は、鋼板外装材11の凹凸に沿って曲げられ、鋼板外装材11の裏面の略全体に略同じ厚さになるようにして接着剤によって貼着されている。但し、右端部12の裏面には、無機繊維断熱材20が貼着されていない。そのため、右端部12と、表側にその右端部12が重ね合わされる左端部13Rとの間には、無機繊維断熱材が介在していない。なお、左端部13の裏面には、無機繊維断熱材20が貼着されている。
【0025】
プラスターボード15は、隣接するもの同士が互いに重ならないようにし、小口を互いに当接して設けられている。
【0026】
胴縁18は、鉄骨(図示略)間に架設された鋼製のC型チャンネルである。
【0027】
次に、鋼板外装材11、無機繊維断熱材20及びプラスターボード15の各材料について説明する。
【0028】
鋼板外装材11には、角波形状に形成された厚さが0.5mmの溶融亜鉛メッキ鋼板である、株式会社田中屋の商品名「TKワイド角波800 F型形状」を用いた。
【0029】
無機繊維断熱材20には、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が100mmであるシリカ繊維95質量%と、繊維長が50mmで、繊度が3デニールであるPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維5質量%とからなる本体部22及び本体部22のプラスターボード15側にあるPET繊維不織布23を備えたニードルマット21を用いた。
ニードルマット21は、厚さが5mmであり、嵩密度が120kg/mであった。
シリカ繊維の組成は、SiO(二酸化ケイ素)が95質量%、Al(酸化アルミニウム)が4質量%、CaO(酸化カルシウム)等その他が6質量%であった。
PET繊維不織布23は、繊度が2デニールのPET連続長繊維からなり、目付が30g/mであり、このPET繊維不織布23側からのニードルパンチ加工により、図5に示すように、PET繊維不織布23の繊維を本体部22の繊維(シリカ繊維等)に絡め一体化されていた。
また、ニードルマットの両面には、それぞれの面の塗布量が5g/m(両面で10g/m)となるようにアクリル系樹脂が塗布され、目止め処理が施されていた。
鋼板外装材11への貼着には、クロロプレン系ゴムの接着剤を用い、その塗布量は、40g/mであった。
【0030】
シリカ繊維のSiO、Al及びCaO等の量は、無機繊維断熱材20の無機繊維をJIS−R−3101又はJIS−R−3105で決められている湿式分析法に準拠して分析前処理を行い、SiOはシリカ凝集法で、Alはプラズマ発光分析法で、CaO等はプラズマ発光分析法又は炎光分光分析法で測定した値である。なお、以下に記載したシリカ繊維及びガラス繊維のSiO等の量も同様にして測定した値である。
【0031】
プラスターボード15には、補強繊維としてガラス繊維を10質量%含み、含水率が2質量%であり、両面に防水紙が貼られ、厚さが12.5mmである、吉野石膏株式会社の商品名「タイガーボード」を用いた。
【実施例2】
【0032】
本発明の実施例2の壁用防火防音構造32は、無機繊維断熱材20に用いたニードルマットが実施例1の壁用防火防音構造10と異なる以外は実施例1と同じであった。
【0033】
実施例2のニードルマットは、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が75mmであり、組成は、SiOが70質量%、Alが12質量%、CaO等その他が18質量%であるガラス繊維95質量%と、PET繊維5質量%とからなっていた。なお、厚さ等その他の構成は実施例1のニードルマットと同じであった。PET繊維は実施例1のニードルマットのものと同じであった。
【実施例3】
【0034】
本発明の実施例3の壁用防火防音構造33は、無機繊維断熱材20に用いたニードルマットが実施例1の壁用防火防音構造10と異なる以外は実施例1と同じであった。
【0035】
実施例3のニードルマットは、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が75mmであり、組成は、SiOが70質量%、Alが4質量%、CaO等その他が26質量%であるガラス繊維90質量%と、PET繊維10質量%とからなっていた。なお、厚さ等その他の構成は実施例1のニードルマットと同じであった。PET繊維は実施例1のニードルマットのものと同じであった。
【実施例4】
【0036】
本発明の実施例4の壁用防火防音構造34は、無機繊維断熱材20に用いたニードルマット及びプラスターボード15が実施例1の壁用防火防音構造10と異なる以外は実施例1と同じであった。
【0037】
実施例4のニードルマットは、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が100mmであり、組成は、SiOが92質量%、Alが4質量%、CaO等その他が4質量%であるガラス繊維100質量%からなっていた。また、嵩密度は実施例1のニードルマットと同じであったが、厚さが8mmであり、PET繊維不織布がなく、目止め処理が施されていないものであった。また、クロロプレン系ゴムの接着剤の塗布量が20g/mであった。
【0038】
プラスターボード15は、補強繊維としてガラス繊維を0.4質量%以上含み、含水率が2質量%であり、両面に防水紙が貼られ、厚さが15.0mmである、吉野石膏株式会社の商品名「タイガーボード タイプZ」であった。
【実施例5】
【0039】
本発明の実施例5の壁用防火防音構造40は、図6に示すように、裏面に無機繊維断熱材20が貼着された鋼板外装材11と、プラスターボード15との間(無機繊維断熱材20とプラスターボード15との間)に、金属製の吸音シート44が挿入されている点が実施例2の壁用防火防音構造32と異なり、その他の点については、実施例2と同じであった。なお、図6において、実施例1と同じ部材には、同じ符号が付している。
【0040】
金属製の吸音シート44には、線径0.22mmのステンレス鋼(SUS304)線を平織した30メッシュのステンレスメッシュシート(480g/m)を用いた。また、ステンレスメッシュシートは、固定ビス19によって、無機繊維断熱材20とプラスターボード15との間で固定されている。
【実施例6】
【0041】
本発明の実施例6の壁用防火防音構造36は、無機繊維断熱材20に用いたニードルマットが実施例1の壁用防火防音構造10と異なる以外は実施例1と同じであった。
【0042】
実施例6のニードルマットは、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が75mmであり、組成は、SiOが55.3質量%、Alが15.1質量%、CaO等その他が29.6質量%であるガラス繊維(Eガラス繊維)95質量%と、PET繊維5質量%とからなっていた。なお、厚さ等その他の構成は、実施例1のニードルマットと同じであったが、目止め処理のためのアクリル系樹脂の塗布量は3g/m(両面で6g/m)であった。PET繊維は実施例1のニードルマットのものと同じであった。
【実施例7】
【0043】
本発明の実施例7の壁用防火防音構造37は、無機繊維断熱材20に用いたニードルマットが実施例1の壁用防火防音構造10と異なる以外は実施例1と同じであった。
【0044】
実施例7のニードルマットは、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が100mmであり、組成は、SiOが92.4質量%、Alが3.4質量%、CaO等その他が4.2質量%であるシリカ繊維95質量%と、PET繊維5質量%とからなっていた。また、厚さ、嵩密度及び接着剤の塗布量は実施例1のニードルマットと同じであったが、PET繊維不織布がなく、目止め処理が施されていないものであった。PET繊維は実施例1のニードルマットのものと同じであった。
【実施例8】
【0045】
本発明の実施例8の壁用防火防音構造38は、無機繊維断熱材20に用いたニードルマットが実施例1の壁用防火防音構造10と異なる以外は実施例1と同じであった。
【0046】
実施例8のニードルマットは、平均繊維径が9μmで、平均繊維長が50mmであり、組成は、SiOが66質量%、Alが12質量%、CaO等その他が22質量%であるガラス繊維100質量%からなっていた。なお、厚さ等その他の構成は実施例1のニードルマットと同じであった。
【0047】
次に、上記の実施例1〜8の壁用防火防音構造に対する防火試験を行うと共に、実施例2、5の壁用防火防音構造についてはその吸音率を測定した。そして、防火試験の評価結果と吸音率の測定結果を表1に示す。なお、それぞれの壁用防火防音構造の構成についても表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
(1)防火試験
○試験方法
防火試験は次のようにして行った。
各試験体の表面から80cm離したところに設けたバーナーにより、試験体の縦0.54m、横0.79mの範囲を加熱して試験を行った。ISO834標準加熱温度曲線に従って加熱した。加熱時間は、実施例4以外は30分であり、実施例4は60分であった。
【0050】
○評価方法
防火試験における遮熱性、遮炎性及び非損傷性の評価は次のように行った。
・遮熱性は、試験体の裏面温度(鋼板外装材11側ではないプラスターボード15の表面の温度)が、平均で140℃以下であり、且つ最高で180℃以下である基準に対し、良好の場合は○と、ぎりぎり満たす場合は△と、不可の場合は×と評価した。
・遮炎性は、試験体の非加熱側に10秒を超えて継続する火炎の噴出及び発炎がなく、且つ火炎が通る亀裂等の損傷が試験体に生じないという基準に対し、良好の場合は○と、ぎりぎり満たす場合は△と、不可の場合は×と評価した。
・非損傷性は、熱収縮量が1%を超えない基準に対し、良好の場合は○と、ぎりぎり満たす場合は△と、不可の場合は×と評価した。
【0051】
(2)吸音率
○測定方法
吸音率は次のようにして測定した。
JIS−A−1405に規定される円板形状の試験片に刃物で打ち抜き、管内法による垂直入射吸音率測定法に従って各周波数(125Hz、250Hz、500Hz、1000Hz、2000Hz)における吸音率を測定した。
【0052】
本発明の実施例1〜8の壁用防火防音構造は、鋼板外装材11の凹凸に沿って鋼板外装材11の裏面に無機繊維断熱材20が貼着されていることから、耐火性能に優れていた。特に、無機繊維断熱材20に、SiOが70〜92質量%、Alが4〜12質量%の組成のガラス長繊維又はシリカ長繊維からなるニードルマットを用いた実施例1〜5の壁用防火防音構造は耐火性能に優れていた。
本発明の実施例1〜8の壁用防火防音構造は、裏面に無機繊維断熱材20が貼着されていることから、鋼板外装材11の裏面での結露を防止できた。
本発明の実施例1〜8の壁用防火防音構造は、右端部12の裏面に無機繊維断熱材20が貼着されていないことから、重ね合わされた左右の端部の間に無機繊維断熱材20が介在せず、雨水が浸入することがなく、鋼板外装材11(特に裏面)の錆の発生を防止できた。
本発明の実施例1〜8の壁用防火防音構造は、鋼板外装材11の裏面に無機繊維断熱材20が貼着されていることから、防音性能にも優れていた。特に、無機繊維断熱材20とプラスターボード15との間に、ステンレスメッシュシート44が挿入されている実施例5の壁用防火防音構造は低周波(125〜500Hz)の吸音率が大きく、低周波帯の防音性能に優れていた。
本発明の実施例1〜8の壁用防火防音構造は、鋼板外装材11と無機繊維断熱材20とプラスターボード15とからなることから、軽量であった。
本発明の実施例1〜8の壁用防火防音構造は、補強繊維を0.4質量%以上又は10質量%含有し、含水率が2質量%であるプラスターボード15を用いたことから、曲面外壁にも施工することができた。
【0053】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することもできる。例えば、図7に示すように、平らな鋼板51の裏面に無機繊維断熱材52を貼着した(図7のa)後に、鋼板51と無機繊維断熱材52とに凹凸形状を一体的に付けたもの(図7のb)を、本発明の壁用防火防音構造の鋼板外装材及び無機繊維断熱材として用いる。
【符号の説明】
【0054】
10 壁用防火防音構造(実施例1)
11 鋼板外装材
12 右端部
13 左端部
15 プラスターボード
18 胴縁
19 固定ビス
20 無機繊維断熱材
21 ニードルマット
32 壁用防火防音構造(実施例2)
33 壁用防火防音構造(実施例3)
34 壁用防火防音構造(実施例4)
36 壁用防火防音構造(実施例6)
37 壁用防火防音構造(実施例7)
38 壁用防火防音構造(実施例8)
40 壁用防火防音構造(実施例5)
44 吸音シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸を付けた複数枚の鋼板外装材(11)がそれぞれの端部(12、13)を表裏に重ね合わせて並設され、前記鋼板外装材(11)の裏面にシート状の無機繊維断熱材(20)が前記凹凸に沿って曲げられて貼着され、前記鋼板外装材(11)の重ね合わされた端部(12、13)間には前記無機繊維断熱材(20)が介在しておらず、前記無機繊維断熱材(20)の裏側に少なくとも片面に防水紙が貼られたプラスターボード(15)が当接しており、前記鋼板外装材(11)、無機繊維断熱材(20)及びプラスターボード(15)が、鋼製の柱又は胴縁(18)に固定ビス(19)の鋼板外装材(11)側からの打ち込みによって止められている壁用防火防音構造。
【請求項2】
前記無機繊維断熱材(20)は、嵩密度が80〜200kg/mであるニードルマットであり、
前記無機繊維断熱材(20)の無機繊維は、ガラス繊維又はシリカ繊維であり、
前記ガラス繊維又はシリカ繊維の組成は、SiOが70質量%以上であり、Alが4質量%以上である請求項1記載の壁用防火防音構造。
【請求項3】
前記プラスターボード(15)は、補強繊維を0.4〜20質量%含有し、含水率が5質量%以下である請求項1又は2記載の壁用防火防音構造。
【請求項4】
前記無機繊維断熱材(20)とプラスターボード(15)との間に、金属製の吸音シート(44)が挿入されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の壁用防火防音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102459(P2012−102459A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249056(P2010−249056)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(390029735)日本グラスファイバー工業株式会社 (20)
【Fターム(参考)】