説明

壁面自動追尾型水路トンネル撮影装置

【課題】水路トンネルなどの通水状態にあるトンネルにおいて停水又は減水せずにトンネル内状況を観測し、かつ、自律して姿勢制御が可能な壁面自動追尾型水路トンネル撮影装置を提供すること。
【解決手段】水流のあるトンネル内の水面に浮遊しつつ流下する船体と、この船体に水平面で回転自在に保持された回転体ベースと、前記船体側に取り付けられ前記回転体ベースを回転させるための回転用モータと、前記回転体ベースに設置されトンネル内を撮影するための撮影用カメラと、前記回転体ベースに設置されトンネル壁面までの距離を測定する少なくとも2つの距離測定装置とを具備してなり、前記距離測定装置の各測定結果に基づいて前記回転用モータを制御して前記回転体ベースの姿勢を一定に制御するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水路トンネル などの通水状態にあるトンネルにおいて停水又は減水せずにトンネル内状況を観測する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水路トンネルなどの流水状態にあるトンネルにおいては、亀裂が生じていないかなどを定期的に点検する必要がある。通常、水路トンネルの点検は、停水又は減水した上で調査員がトンネル内を移動しながら点検、記録することで行っている。この調査方法によれば詳細な点検観測が可能であるが、停水又は減水による影響が大きく停水又は減水を行うことの出来ない水路トンネルでは、調査員による点検を行うことが出来ないため、通水状態でトンネル内を点検する装置が必要とされていた。
【0003】
通水状態においてトンネル内を撮影するための装置として、例えば、図7に示すような管路検査装置が既に提案されている(特許文献1)。この図7において、下水道管路の流下で移動するリモコン操作で作動する照明灯付きビデオカメラ41と舵機構43及び制御用超音波送受信アンテナ42を搭載したボート体40と、下水道管路入口側に超音波送受信アンテナ42に対応する超音波送受信アンテナ44を配設し、これに接続した前記ボート体40の操舵とビデオカメラ撮影を制御するリモコン用制御装置47を地上に設置し、且つ該制御装置47にビデオカメラ用モニター48を接続し、巻取リール45より引き出した引き戻しワイヤー46端をボート体40に結ぶようにしたことで、管路検査のビデオカメラ41の移動をボート体の流下で済むため、自走装置を備えることなく移動し、且つボート体40自体の方向制御、ビデオカメラ41の撮影制御を無線によってリモコン操作ができるものである。
【0004】
他の従来技術としては、図8に示すような水路点検装置が既に提案されている(特許文献2)。この図8に示す装置は、水流の流れる水路の内壁を点検するための水路点検装置であって、水路を流れる水流を受ける水流受け部材49と、水流受け部材49に連結された支持枠50と、支持枠50に取付けられた防水性を有する水中ビデオカメラ51とを備えてなるものであり、通水状態にあるトンネル内を撮影することを可能としている。
【特許文献1】実開平07−41424号公報
【特許文献2】特開2009−13643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の管路検査装置によれば、通水状態でトンネル内を検査することが可能であるが、巻取リール45より引き出した引き戻しワイヤー46端をボート体40に結ぶ構成であるため検査するトンネル距離に限界があり、また、無線通信による姿勢制御は、数100m程度の短いトンネルでしか適用できないという問題がある。
【0006】
前記特許文献2に記載の水路点検装置は、図8に示す通り、網目の水流受け部材49によって移動する構成であって自律した姿勢制御機構を持たない構成であるため、姿勢が崩れた場合に撮影記録結果が一様とならず、また、装置の移動距離を計測、記録しないために、点検した地点が不明であるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、水路トンネルなどの通水状態にあるトンネルにおいて停水又は減水せずにトンネル内状況を観測し、かつ、自律して姿勢制御が可能な壁面自動追尾型水路トンネル診断装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は、水流のあるトンネル内の水面に浮遊しつつ流下する船体と、この船体に水平面で回転自在に保持された回転体ベースと、前記回転体ベースに設置されトンネル内を撮影するための撮影用カメラと、前記回転体ベースに設置されトンネル壁面までの距離を測定する少なくとも2つの距離測定装置と、前記距離測定装置の各測定結果を比較演算する演算装置と、前記船体側に取り付けられ前記演算装置の出力に基づいて前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御する回転用モータとを具備したことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置である。
【0009】
本発明の請求項2は、請求項1に加えて、2個の距離測定装置を有し、各距離測定装置は、前記回転体ベースの回転中心を通る水平面内の基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定して設置され、2個の距離測定装置によって測定する2つの距離の値が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置である。
【0010】
本発明の請求項3は、請求項1に加えて、一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置と、他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置とを有し、これら4個の距離測定装置の各測定結果に基づいて前記回転用モータを制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置である。
【0011】
本発明の請求項4は、請求項3に加えて、前記一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置は、前記回転体ベースの回転中心を通る水平面内の基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定して設置し、前記他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置は、前記基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定して設置し、これら4個の距離測定装置によって測定する4つの距離測定結果について対角線に位置する距離測定装置の距離測定結果の和が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置である。
【0012】
本発明の請求項5は、請求項3に加えて、前記4個の距離測定装置のうち何れか1つが測定不能であった場合には、前記一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置の組み合わせと、前記他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置の組み合わせのうち、測定可能であった2個の距離測定装置を含む組み合わせの測定結果のみに基づいて前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置である。
【0013】
本発明の請求項6は、請求項1乃至5に加えて、前記回転体ベース上に、トンネルの天井又は壁面との間で所定角度で電磁波を送受信する電磁波送受信アンテナと、受信した電磁波のドップラーシフト周波数を検出するドップラー検出装置と、電磁波の送信周波数と受信した電磁波のドップラーシフト周波数とに基づいて船体の移動速度を演算する演算装置とを設けたことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置である。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、前記距離測定装置の各測定結果に基づいて前記回転用モータを制御して、トンネル内の水流方向に対して前記回転体ベースの姿勢が一定となるように制御するようにしたので、自律して姿勢制御を行うことにより安定した回転体ベース上に設けられた撮影カメラの撮影結果が一様なものとなり、良好な撮影結果が得られる。また、自然流下式を採用することにより、トンネル内の流水を停水又は減水することなく計測を行うことが可能となる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、2つの距離測定装置によって測定する2つの距離の値が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して、トンネル内の水流方向に対して前記回転体ベースの姿勢が一定となるように制御するようにしたので、自律して姿勢制御を行うことにより安定した回転体ベース上に設けられた撮影カメラの撮影結果が一様なものとなり、良好な撮影結果が得られる。また、自然流下式を採用することにより、トンネル内の流水を停水又は減水することなく計測を行うことが可能となる。
【0016】
請求項3記載の発明によれば、4つの距離測定装置の各測定結果に基づいて前記回転用モータを制御して、トンネル内の水流方向に対して前記回転体ベースの姿勢が一定となるように制御するようにしたので、自律して姿勢制御を行うことにより安定した回転体ベース上に設けられた撮影カメラの撮影結果が一様なものとなり、良好な撮影結果が得られる。また、自然流下式を採用することにより、トンネル内の流水を停水又は減水することなく計測を行うことが可能となる。
【0017】
請求項4記載の発明によれば、4つの距離測定装置によって測定する4つの距離測定結果について対角線に位置する距離測定装置の距離測定結果の和が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して、トンネル内の水流方向に対して前記回転体ベースの姿勢が一定となるように制御するようにしたので、自律して姿勢制御を行うことにより安定した回転体ベース上に設けられた撮影カメラの撮影結果が一様なものとなり、良好な撮影結果が得られる。
【0018】
請求項5記載の発明によれば、前記4個の距離測定装置のうち何れか1つが測定不能であった場合には、前記一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置の組み合わせと、前記他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置の組み合わせのうち、測定可能であった2個の距離測定装置を含む組み合わせの測定結果のみに基づいて前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたので、何れかの距離測定装置が測定不能となった場合であっても残りの測定結果に基づいて姿勢制御を行うことが可能となるため、より安定した姿勢制御を行うことができる。
【0019】
請求項6記載の発明によれば、前記回転体ベース上に、トンネルの天井又は壁面との間で所定角度で電磁波を送受信する電磁波送受信アンテナと、受信した電磁波のドップラーシフト周波数を検出するドップラー検出装置と、電磁波の送信周波数と受信した電磁波のドップラーシフト周波数とに基づいて船体の移動速度を演算する演算装置とを設けたので、撮影カメラの撮影結果に同期させて移動速度も計測することが可能となる。このようなドップラー検出装置を有効に機能させることが出来る要因は、請求項1乃至4において回転体ベースの姿勢を一定に制御していることにある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】トンネル11内を流れる壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10を表した平面図である。
【図2】トンネル11内を流れる本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10を背面から見た場合の断面図(船体部分は図3におけるE−E線断面)である。
【図3】本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の回転体ベース20より下方を表した平面図である。
【図4】回転体ベース20をリングレールギア16に固定した状態の図3におけるE−E線断面図である。
【図5】本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の構成を表したブロック図である。
【図6】(a)〜(c)は、壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の姿勢状態と第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27の測定結果A〜Dとの関係を表した模式図である。
【図7】従来の管路検査装置を表した模式図である。
【図8】従来の水路点検装置を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置は、水流のあるトンネル内の水面に浮遊しつつ流下する船体と、この船体に水平面で回転自在に保持された回転体ベースと、前記船体側に取り付けられ前記回転体ベースを回転させるための回転用モータと、前記回転体ベースに設置されトンネル内を撮影するための撮影用カメラと、前記回転体ベースに設置され一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2つの距離測定装置及び他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2つの距離測定装置とを具備してなり、前記一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2つの距離測定装置は、前記回転体ベースの回転中心を通る水平面内の基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定してなり、前記他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2つの距離測定装置は、前記基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定してなり、4つの距離測定装置によって測定する4つの距離測定結果について対角線に位置する距離測定装置の距離測定結果の和が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢を一定に制御するようにしたことを特徴とするものである。以下、詳細に説明を行う。
【実施例1】
【0022】
本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の構成について図1乃至図5に基づいて説明を行う。図1及び図2に示すように、本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10は、トンネル11内の水面13に浮いた上体で自然流にまかせて流れながらトンネル内を計測するものであり、大まかな構成としては、水面に浮遊する浮力を有し上部が開口した円筒形の船体14、この船体14に対して水平面で回転自在に設けられた回転体ベース20、この回転体ベースに取り付けられた3つの撮影カメラ21a〜21c、進行方向前方又は後方に向かって電磁波を送受信してドップラー効果を利用して船体の移動速度を測定するための電磁波送受信アンテナ22、撮影カメラ21a〜21c及び電磁波送受信アンテナ22を保護するための透明ドーム23、回転体ベース20の外周に設けられトンネル壁面12までの距離を測定する第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27によって構成されている。
【0023】
次に、回転体ベース20の設置について図3及び図4に基づいて説明する。先ず、円筒形の船体14の内側に船体ベース15が固定される。この船体ベース15の上に、リングレールギア16が、船体ベース15に固定された4つの保持ベアリング17によって保持されており、この円形リング状のリングレールギア16の中心は円筒形の船体14の中心軸と重なるように設置されている。このリングレールギア16のギア部分に駆動ギア18がかみ合わされており、この駆動ギア18を船体ベース15に固定された回転用モータ19で駆動させることで、リングレールギア16を水平面で回転自在に設置している。このリングレールギア16に回転体ベース20を固定している。回転体ベースは、円筒形の船体14の上部の開口部に蓋をするようにして同径の円板によって構成されており、前記リングレールギア16の中心点と回転体ベースの中心が重なるようにして両者を固定する。
【0024】
図5に示すのは、本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の詳細な構成を表したブロック図である。回転体ベース20の上には、撮影カメラ21a〜21cによって撮影された映像を記録する記録装置32を備えている。撮影に際しては、撮影用照明装置29が利用される。また、電磁波送受信アンテナ22によって受信した電磁波のドップラー効果を検出して壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の移動速度を検出するドップラー検出装置30と、検出した移動速度に基づいて壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10の移動距離を演算する演算装置31を備えており、演算の結果得られた移動距離も記録装置32において記録する。
【0025】
また、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27におけるそれぞれの測定結果に基づいて、姿勢制御のために回転用モータ19の回転方向と回転量を演算する演算装置33を備えており、この演算結果に基づいて、モータ駆動装置34からスリップリング38を介して回転用モータ19を制御する。ここで、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27としては、例えば、赤外線を利用した距離測定装置が利用される。
【0026】
これらの各構成に対しては電源装置36から電源が供給されており、また、初期設定など各種の入力を行うための入力装置35を備えている。電気的に導通させるためのスリップリング38を介して船体ベース15側に固定された蓄電池37から電源が供給され、蓄電池37からの電源によって回転用モータ19を駆動させ、また、船体14の底部に設置された水深測定装置28を駆動させる。水深測定装置28による測定結果は、スリップリング38を介して回転体ベース20側の記録装置32に記録される。
【0027】
第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27の設置位置、及び、撮影カメラ21a〜21cの設置位置について説明を行う。先ず、回転体ベース20の平面上を通りかつ回転体ベース20の回転中心を通る基準線をXとしたときに、第1の距離測定装置24と第2の距離測定装置25は、平面視において基準線Xに対して線対称の位置に配置され、第3の距離測定装置26と第4の距離測定装置27も、平面視において基準線Xに対して線対称の位置に配置される。また、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27の各測定方向と基準線Xとの間の角度をθ1〜θ4としたとき、これらの角度は各測定装置において調整可能なものであり、θ1〜θ4は等しい角度とすることが望ましい。本発明は、前記基準線Xがトンネル壁面12に対して垂直となる状態を基本姿勢とし、基本姿勢の状態において最も撮影結果が良好となるように撮影カメラ21a〜21cを設置してある。なお、撮影カメラの個数を3つとしたのはあくまで一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
次に、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27におけるそれぞれの測定結果に基づく姿勢制御の方法について説明を行う。ここで、第1の距離測定装置24によって測定したトンネル壁面12までの距離をA、第2の距離測定装置25によって測定したトンネル壁面12までの距離をB、第3の距離測定装置26によって測定したトンネル壁面12までの距離をC、第4の距離測定装置27によって測定したトンネル壁面12までの距離をDとする。各距離測定装置による測定を同時に行いA〜Dの値を得て、対角線上に位置する第1の距離測定装置24と第3の距離測定装置26における測定結果の和A+Cの値と、対角線上に位置する第2の距離測定装置25と第4の距離測定装置27における測定結果の和B+Dの値を比較することで、現在の姿勢状態を判別して、回転用モータ19の回転方向と回転量を演算装置33において演算する。
【0029】
具体的には、例えば、図6(a)に示すように基本姿勢から平面視において反時計回りに姿勢がずれた状態にある場合、A+C>B+Dとなるため、このような場合には、平面視において時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように回転用モータ19の回転方向を決定する。また、回転用モータ19の回転量については、例えば、(A+C)−(B+D)の値の大きさに比例して回転量が大きくなるように制御することもできる。
逆に、基本姿勢から平面視において時計回りに姿勢がずれた状態にある場合、A+C<B+Dとなるため、このような場合には、平面視において反時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行う。
【0030】
次に、図6(b)に示すように、基本姿勢から平面視において反時計回りに大きく姿勢がずれた状態にある場合、トンネル壁面12までの距離が離れ過ぎてしまうことが原因で第1の距離測定装置24による測定結果Aと第3の距離測定装置26による測定結果Cが測定できない場合がある。このように、A及びCが測定不能な場合には、平面視において時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行う。逆に、B及びDが測定不能な場合には、平面視において反時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行う。
【0031】
また、A〜Dのうちの1つの距離のみが測定不能となる場合も考えられる。このような場合、A、Bの組み合わせ、又は、C、Dの組み合わせの何れか一方の組み合わせのみで姿勢制御を行うようにする。例えば、Cのみが測定不能である場合には、AとBの組み合わせで比較を行い、A>Bならば時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行い、A<Bならば反時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行う。
【0032】
以上のようにして、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27におけるそれぞれの測定結果A〜Dに基づいてA+C=B+Dの状態に近づくように回転用モータ19の回転方向と回転量を制御することで、前記基準線Xがトンネル壁面12に対して垂直となる状態を維持するように姿勢制御が働き、結果として撮影カメラ21a〜21cによる撮影結果を一様なものとすることが可能となる。なお、図6(c)に示すように、トンネル11の中央を進まずに一方のトンネル壁面12側に近づいて移動していたとしても、距離測定の結果がA+C=B+Dという状態である場合には、撮影カメラ21a〜21cによる撮影結果は一様なものとなり、良好な撮影結果を得られる。
【0033】
次に、船体14の移動速度の測定方法について説明する。移動速度の測定は、電磁波送受信アンテナ22から送信される電磁波のドップラー効果を利用して測定する。電磁波送受信アンテナ22は、平面視において前記基準線Xと直交する方向で、かつ、鉛直よりも斜め前方又は後方に角度φ(例えば、60°)で電磁波が送信されるように設置される。トンネル11の天井によって反射された電磁波を電磁波送受信アンテナ22で受信してドップラーシフト周波数fbをドップラー検出装置30において検出する。ここで、発振信号周波数をfo、空中の電磁波伝播速度をc、船体14の移動速度をvとすると、ドップラーシフト周波数fbとの関係は以下の数式で表すことができる。

【0034】
また、鉛直よりも斜め前方に角度φで電磁波を送受信している関係から、上記の数式のドップラーシフト周波数fbにはsinφの係数を乗ずる必要があり、これらに基づいて船体14の移動速度vを演算装置31において求める。例えば、鉛直よりも斜め前方に角度60°で電磁波を送受信している場合には、係数は約0.866となる。このようにして求めた船体14の移動速度vから船体14の移動距離を算出して経過時間と共に記録装置32に記録していく。
なお、電磁波送受信アンテナ22での電磁波の送受信は、トンネル11の天井との間で行う場合に限られるものではなく、トンネル壁面12との間で電磁波の送受信を行ってドップラーシフト周波数fbを得るようにすることも可能である。
【0035】
以上のような機能を備えた壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10を使用する際の手順を説明する。先ず、計測を開始するスタート地点において、入力装置35による操作によって、撮影カメラ21a〜21cによる撮影、水深測定装置28による水深測定、電磁波送受信アンテナ22を用いた移動速度の測定、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27によるトンネル壁面までの距離の測定等を開始し、トンネル11の水面13に浮遊させて自然に流下させる。壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10は、撮影映像と各種の測定データを同期させながら記録装置32に記録してゆく。これを回収地点において回収するまで継続して、回収後に測定を終了する。途中、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27によるトンネル壁面までの距離A〜Dの測定とこれに基づく姿勢制御とを繰り返し行うことによって、基準線Xがトンネル壁面12に対して垂直となる状態を常に保つように制御されるため、撮影カメラ21a〜21cによる撮影結果が一様なものとなる。
【0036】
このように、本発明による壁面自動追尾型水路トンネル診断装置10は、推力機構や舵機構を持たず自然流の流れにまかせて使用するものであって、トンネル内の流水を停水又は減水することなく使用できるという効果を有し、スタート地点から流下させた後は、回収地点で回収するまで自律的に姿勢制御を行いながらトンネル内の撮影を行えるため、トンネルが長距離である場合やトンネルが途中で急激に曲がっているような場合であっても使用することが可能であるという効果を有する。
【実施例2】
【0037】
前記実施例においては、図2に示すように、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27の4つの距離測定装置の測定方向は水平面と平行な面内であったが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、水平よりも上方に向かって等角度で距離測定を行うようにしてもよい。この場合、平面視における第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27の各測定方向と基準線Xとの間の角度をθ1〜θ4が等しい角度となっていれば、前記実施例1と同様の姿勢制御が可能である。
【実施例3】
【0038】
前記実施例1及び2においては、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27の4つの距離測定装置の測定結果A〜Dに基づいて姿勢制御を行うものとして説明したが、一方のトンネル壁面12に対して距離測定を行う第1の距離測定装置24及び第2の距離測定装置25の2つの距離測定装置の測定結果A及びBのみで姿勢制御を行うようにしてもよい。この場合、A>Bならば時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行い、A<Bならば反時計回りの方向に回転体ベース20が回転するように姿勢制御を行う。また、Aのみが測定不能の場合には時計回りに制御、Bのみが測定不能の場合には反時計回りに制御するなどして、A=Bとなる状態を維持するように制御することで、2つの距離測定装置の測定結果A及びBのみでも姿勢制御を行うことが可能となる。
【0039】
前記実施例1においては、第1の距離測定装置24〜第4の距離測定装置27におけるそれぞれの測定結果A〜Dに基づいてA+C=B+Dの状態に近づくように回転用モータ19の回転方向と回転量を制御して、トンネル内の水流方向に対して前記回転体ベースの姿勢が一定となるように制御していたが、本発明はこのような制御方法に限定されるものではない。例えば、一方側のトンネル壁面までの距離を測定する第1の距離測定装置24及び第2の距離測定装置25の測定結果A及びBを用いてA=Bの状態に近づける制御と、他方側のトンネル壁面までの距離を測定する第3の距離測定装置26及び第4の距離測定装置27の測定結果C及びDを用いてC=Dの状態に近づける制御とを並列的に同時に実行するような制御であってもよい。
【符号の説明】
【0040】
10…壁面自動追尾型水路トンネル診断装置、11…トンネル、12…トンネル壁面、13…水面、14…船体、15…船体ベース、16…リングレールギア、17…保持ベアリング、18…駆動ギア、19…回転用モータ、20…回転体ベース、21a〜21c…撮影用カメラ、22…電磁波送受信アンテナ、23…透明ドーム、24…第1の距離測定装置、25…第2の距離測定装置、26…第3の距離測定装置、27…第4の距離測定装置、28…水深測定装置、29…撮影用照明装置、30…ドップラー検出装置、31…演算装置、32…記録装置、33…演算装置、34…モータ駆動装置、35…入力装置、36…電源装置、37…蓄電池、38…スリップリング、40…ボート体、41…ビデオカメラ、42…制御用超音波送受信アンテナ、43…舵機構、44…超音波送受信アンテナ、45…巻取リール、46…引き戻しワイヤー、47…リモコン用制御装置、48…ビデオカメラ用モニター、49…水流受け部材、50…支持枠、51…水中ビデオカメラ。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流のあるトンネル内の水面に浮遊しつつ流下する船体と、この船体に水平面で回転自在に保持された回転体ベースと、前記回転体ベースに設置されトンネル内を撮影するための撮影用カメラと、前記回転体ベースに設置されトンネル壁面までの距離を測定する少なくとも2つの距離測定装置と、前記距離測定装置の各測定結果を比較演算する演算装置と、前記船体側に取り付けられ前記演算装置の出力に基づいて前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御する回転用モータとを具備したことを特徴とする壁面自動追尾型水路トンネル診断装置。
【請求項2】
2個の距離測定装置を有し、各距離測定装置は、前記回転体ベースの回転中心を通る水平面内の基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定して設置され、2個の距離測定装置によって測定する2つの距離の値が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする請求項1記載の壁面自動追尾型水路トンネル診断装置。
【請求項3】
一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置と、他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置とを有し、これら4個の距離測定装置の各測定結果に基づいて前記回転用モータを制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする請求項1記載の壁面自動追尾型水路トンネル診断装置。
【請求項4】
前記一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置は、前記回転体ベースの回転中心を通る水平面内の基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定して設置し、前記他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置は、前記基準線に対して平面視において線対称な方向にそれぞれ距離測定をするように角度設定して設置し、これら4個の距離測定装置によって測定する4つの距離測定結果について対角線に位置する距離測定装置の距離測定結果の和が等しくなるように前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする請求項3記載の壁面自動追尾型水路トンネル診断装置。
【請求項5】
前記4個の距離測定装置のうち何れか1つが測定不能であった場合には、前記一方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置の組み合わせと、前記他方側のトンネル壁面までの距離を測定する2個の距離測定装置の組み合わせのうち、測定可能であった2個の距離測定装置を含む組み合わせの測定結果のみに基づいて前記回転用モータの回転方向及び回転量を制御して前記回転体ベースの姿勢をトンネル内の水流方向に制御するようにしたことを特徴とする請求項3記載の壁面自動追尾型水路トンネル診断装置。
【請求項6】
前記回転体ベース上に、トンネルの天井又は壁面との間で所定角度で電磁波を送受信する電磁波送受信アンテナと、受信した電磁波のドップラーシフト周波数を検出するドップラー検出装置と、電磁波の送信周波数と受信した電磁波のドップラーシフト周波数とに基づいて船体の移動速度を演算する演算装置とを設けたことを特徴とする請求項1乃至5記載の壁面自動追尾型水路トンネル診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−13595(P2012−13595A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151678(P2010−151678)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000230973)日本工営株式会社 (39)
【出願人】(000228811)日本シビックコンサルタント株式会社 (8)
【出願人】(394019370)株式会社ウオールナット (1)
【Fターム(参考)】