説明

壊滅的な構造物倒壊の際に電子デバイス群を利用して生存者の位置を特定するシステム及び方法

本発明は、人工構造物の倒壊後に生存者の位置を特定するシステム及び方法を提供する。無線送信機を備える複数の電子デバイスが構造物内に分散配置される。これらのデバイスはネットワークへと自己編成し、電子デバイスのうちの少なくとも1つの既知の位置を用いて電子デバイスの互いに対する3次元の位置を記録する。構造物が倒壊すると、少なくとも1つの付加的な電子デバイスをネットワークに導入し、付加的な電子デバイスの既知の位置を用いて電子デバイスの位置を再計算する。倒壊後、再計算された電子デバイスの位置を用いて生存者の可能性のある位置が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大きな人工構造物が壊滅的に倒壊した後に、生存者の位置を特定し、生存者を救出するシステム及び方法に関する。詳細には、本発明は、構造物の倒壊後に生存者が位置している可能性がある空洞を識別し、その空洞の位置を特定することに関する。
【背景技術】
【0002】
大きな人工構造物が壊滅的に倒壊した後に生存者の位置を特定し、生存者を救出することは時間との競争である。救助者が倒壊した構造物又は倒壊した建築物に近づいたときに問うべき質問は「生存者はどこに埋まっているか」、及び「できる限り多くの生命を救出する最大限の可能性を得るためにはどこから掘り始めるべきか」ということである。
【0003】
現今の1つの標準的な手法は、専門の訓練を受けた犬を用いて構造物が倒壊した後の生存者の位置を特定することである。しかしながら、この手法は瓦礫の山の表面近くの位置に面した生存者の位置を特定することに限定される。高度に訓練された犬でさえも数メートルより深い場所にいる生存者の位置を特定することはできない。
【0004】
特許文献1には、瓦礫を貫通し生存者を発見するためのボアスコープの使用が記述されている。犠牲者の生存を確認し、犠牲者が閉じ込められている周囲状況を検出し、かつ生存者がいる場合にはその生存者に適切な医療処置を施すためのボアスコープシステムが記述されている。しかしながら、瓦礫の山に多数のボーリング穴を開けることは実用的ではないので、この技法は主に他の技術とともに用いられる。
【0005】
また、緊急作業員が連絡したときに自動的に応答する特別なチップを備えた携帯電話の使用が、特許文献2に記述されている。救助者が倒壊した構造物に近づいたときに、携帯電話によって検出される信号が送出される。信号を認証した携帯電話は応答し、その位置を送信する。しかしながら、この手法は、すべての電話機が特別なチップを備えていることを必要とし、更にはすべての建築物の占有者がそのような電話機を入手することが必要とされる。さらに、それらの人々は常に自身の電話機を携行していなければならないが、特に人々がその建築物内で働いているときに必ずしも携帯電話を携行している保証はない。携帯電話を用いていずれの生存者の位置の特定をすることも重大なプライバシーの問題にもかかわってくる。救助隊員全員が、緊急時に携帯電話に連絡するために適正な認証証明書を有することを確実にするには、証明書は広く配布されていなければならず、悪意のある者の手に渡る可能性が高くなる。適正な証明書を入手した者は誰でも、その後、本質的に、任意の電話機に照会をし、その電話機の位置を見つけ、その電話機の所有者を追跡することができることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,998,282号
【特許文献2】米国特許出願公開第2006/0166696号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、上述の問題点を克服する生存者の位置を特定する方法及びシステムが必要とされている。詳細には、このシステム及び方法は、構造物の占有者が携行しなければならないデバイスとは独立しているべきであり、かつ、倒壊した建築物全体にわたって生存者の位置の特定が更に可能であるべきである。加えて、システムは、好ましくは潜在的生存者の健康状態を判定することができるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、特許請求の範囲に記載の特徴によって達成される。
【0009】
人工構造物又は建築物の倒壊後、潜在的生存者は高い確率で充分な空間を提供する空洞の中に位置している。したがって、潜在的生存者の位置を特定することができるようにするためには、充分なサイズの空洞の位置を突き止めるべきである。好ましくは、その後、発見された空洞の中に生存者が存在するか否かを判定することができるべきである。
【0010】
本発明は、サイズが小さいがゆえに壊滅的な倒壊を切り抜ける確率が高く、かつ倒壊後の自身の位置に関する情報を求めて提供することができる小さな電子デバイスを構造建築物内に設置するという考え方に基づいている。小さな電子デバイスは生存者が占めている空洞内の同じ場所に位置している確率が高い。したがって、或る特定の場所におけるそのような小さなデバイスの存在、又は該小さなデバイスの集積若しくは密集は、潜在的生存者が位置している可能性がある空洞を示しているものとすることができる。
【0011】
したがって、本発明によれば、人工構造物の倒壊後の生存者の位置を特定する方法は、それぞれが無線送信機を備える複数の電子デバイスを構造物内に分散配置することを含む。好ましくは、電子デバイスは、該電子デバイスと同じ空洞内に生存者がいるか否かを判定するために、赤外線センサー、音響センサー、又は映像センサー等の環境センサーを更に備える。環境センサーは、生存者が救出ときにまだ生存している可能性を確認するために、空洞の周囲状態、例えば温度又は酸素レベルを更に求めることができる。
【0012】
その後、電子デバイスは、該電子デバイスの互いに対する3次元の位置を記録するために、ネットワークへと自己編成する(self-organize)。これを行なうには、電子デバイスのうちの少なくとも1つは、該デバイス自身の位置に関する情報を有するべきである。他のデバイスの互いに対するかつ/又構造物に対する位置を求めるために、三角測量技法に基づいてブートストラップ法を用いることができる。代替的には、GPSが配備されている場合又はGPS受信機を各電子デバイスに提供することができる場合には、各電子デバイスにGPS座標を与えることができる。構造物が倒壊すると、少なくとも1つの付加的な電子デバイスがネットワークに導入される。付加的な電子デバイスの既知の位置に基づいて、予め設置されている電子デバイスの位置を再計算することができる。再計算した電子デバイスの、倒壊後の位置を用いて潜在的生存者の位置を求めることができる。各電子デバイスの、倒壊前後の位置の変化を計算することにより、構造物の種々の部分の倒壊時の軌道を更に求めることができる。構造物がどのように倒壊したかに関するこの情報は、最初の倒壊で生き残った人々の生命を危険にさらすことがないように瓦礫の最上層を取り除く方法を判断するときに重要になる場合がある。
【0013】
本発明は、ネットワーク内の各デバイスの相対位置を記録するためにネットワークへと自己編成するように適合された無線送信機をそれぞれが備える複数の電子デバイスを備えた、人工構造物の倒壊後に生存者の位置を特定するシステムを更に提供する。電子デバイスは、好ましくはサイズが数ミリ立方メートルの微小なスタンドアローン型のデバイスであるとともに、好ましくは無線送信機及び任意選択で1つ又は複数の環境センサーと組み合わせたシステムオンチップ(SOC:system-on-a-chip)技術で構成される。送信機は、好ましくは約10メートルの通信範囲を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態による生存者の位置を特定するシステムの使用を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下で、本発明の実施形態を、添付の図を参照しながら説明する。
【0016】
この実施形態によって使用される電子デバイスを、便宜的に「スペック(Speck)」と呼ぶ。これらのスペックは、サイズが数立方ミリメートル、好ましくは100立方ミリメートル以下の微小なスタンドアローン型のデバイスである。スペックは無線送信機及び1つ又は複数の環境センサーと組み合わせてSOC(システムオンチップ)技術で構成される。これらの価格は、現在では1個あたり数百ドルと多少高価であるが、大量生産に入ればおそらく1ドル未満にまで急激に値下がると見込まれている。無線送信機は通常約1メートル〜10メートルの通信範囲を有しており、その一群がスペックネット(SpeckNet)と呼ばれるネットワークを形成するように自己編成することができる。
【0017】
壊滅的な構造物の倒壊の生存者の位置を特定することを支援するために、多数のスペックは、対象となる構造物全体にわたって分散配置される。その後、スペックは、ネットワークを自己編成することができ、互いに対する3次元の相対的な位置を記録することができる。構造物に対するスペックの位置を求めるために、ブートストラップ法が用いられ、それにより少なくとも1つのスペック、好ましくは複数のスペックには、構造物内での自身の位置が通知される。三角測量技法を使用して、この情報は、他のスペックに渡される。代替的には、GPSが配備されている場合又はGPS受信機を各スペックに提供することができる場合には、GPS座標を各スペックに与えることができる。
【0018】
対象となる構造物が倒壊したとき、スペックは、主にその小さいサイズゆえに、倒壊を切り抜ける確率が高く、空洞において生存者と共に同じ場所に位置することになる。この状況が概略的に図に示してある。充分なサイズの空洞1が倒壊時に維持された場合には、この空洞1は人々5が生存する高い可能性を提供する。したがって、生存者の位置を特定することは、充分なサイズの空洞の位置を特定し、該空洞が存命した被害者によって占められているか否かを判定する問題にマッピングすることができる。救助者21が到着した場合、救助者は付加的なスペック、又はより大きくてより強力なデバイス20を携行し、該付加的なスペックは生存者のスペック10のスペックネットに加わる。これらの新しいスペック20は、スペックネットにおける新たな相対位置の計算に用いることができる新しい座標を、元のスペック10に送信する。この情報は、好ましくは元の座標とともに、新しいスペック20に返信される。該情報は、救助者21が読むことができ、かつ、元の構造物の再生に使用することができる。その後、高性能のコンピューターシミュレーションを用いて、構造物又は建築物の種々の部分が倒壊した後で、それらの部分までの経路を求めることができる。いかにして構造物が倒壊したかを知ることは、最初の倒壊で生き残った人々の生命を危険にさらすことなく瓦礫の最上層を取り除く方法を判断するときに重要になる場合がある。
【0019】
また、スペックは、関連付けられたセンサーを用いて、生存者が該スペック自身と同じ空洞内にいるか否かを判定することができる。この目的で使用可能なセンサーの種類には、限定ではないが赤外線センサー、音響センサー、及び映像センサー等が含まれる。生存者が検出された場合、この情報は、スペックの位置とともにネットワークを通して救助者へ送信される。スペックに関連付けられたセンサーはまた、生存者が救出時にまだ生存している可能性を確認するために、空洞の周囲状態、例えば温度又は酸素レベルを求めることができる。スペックのサイズが小さいことで、スペックが構造物倒壊を切り抜ける可能性が非常に高く、かつスペックが充分に安価になっていくであろうことから、充分な数のスペックを配備して、高い確率で、生存者が占めている空洞内の同じ場所にスペックが位置することを保証することができる。自己編成型のスペックネットという特性を用いることによって、瓦礫の山における空洞及び生存者の位置を特定することができる。
【0020】
本発明を上述の記述及び図面において詳細に図示及び記述してきたが、このような説明及び記述は、例証的又は例示的なものであり、限定するためのものではないとみなされるべきである。すなわち、本発明は開示した実施形態に限定されない。本明細書において記述されている1つの実施形態に関連して述べられている特徴はまた、これらの特徴を明示的に示すことなく、本明細書において記述されている別の実施形態の特徴として有利なものとすることができる。本開示及び添付の特許請求の範囲の検討から、開示している実施形態の変形形態は、当業者によって、及び特許請求される発明を実践することによって理解し、達成することができる。特許請求の範囲においては、用語「含む、備える(”comprising”)」は他の要素又は他のステップを排除しないし、また、数に指定がないもの(”a” or ”an”)は複数形を排除しない。或る特定の手法(measure)が相互に異なる従属項において列挙してあるという単なる事実は、これらの手法の組合せを有利に役立たせることができないということを示すものではない。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工構造物の倒壊後の生存者の位置を特定する方法であって、
無線送信機を備える複数の電子デバイスを前記構造物内に分散配置すること、
前記デバイスをネットワークへと自己編成させ、前記電子デバイスのうちの少なくとも1つの既知の位置を用いて該電子デバイスの互いに対する3次元の位置を記録すること、
前記構造物の前記倒壊に際して、少なくとも1つの付加的な電子デバイスを前記ネットワークに導入し、該付加的な電子デバイスの既知の位置を用いて前記電子デバイスの位置を再計算すること、及び、
前記倒壊後の前記電子デバイスの前記再計算された位置を用いて生存者の、可能性のある位置を求めること、
を含む、人工構造物の倒壊後の生存者の位置を特定する方法。
【請求項2】
三角測量技法を用いて前記電子デバイスの前記位置が計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電子デバイスのうちの少なくとも1つの前記位置及び/又は前記付加的な電子デバイスの前記位置は、該少なくとも1つの電子デバイス内及び/又は該付加的な電子デバイス内に設けられるGPS受信機を使用して求められる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記倒壊時の前記構造物の種々の部分の経路を求めるために、前記倒壊の前後の各電子デバイスの位置の変化を計算することを更に含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記電子デバイスのうちの少なくともいくつかは環境センサーを備える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記環境センサーを使用して電子デバイスの近傍における生存者の存在を判断することを更に含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
人工構造物内に分散配置した無線送信機を備える複数の電子デバイスを備える、該構造物の倒壊後に生存者の位置を特定するシステムであって、該デバイスは、ネットワークへと自己編成し、前記デバイスのうちの少なくとも1つの既知の位置を用いて互いに対する3次元の位置を記録するように適合され、該システムは、前記ネットワークに導入されるように適合される少なくとも1つの付加的な電子デバイスを更に備え、前記構造物の前記倒壊後に前記付加的な電子デバイスの既知の位置を用いて前記デバイスの前記位置を再計算することができるようにする、人工構造物の倒壊後に生存者の位置を特定するシステム。
【請求項8】
前記電子デバイスのうちの少なくともいくつかは環境センサーを備える、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記電子デバイスはシステムオンチップデバイスである、請求項7又は8に記載のシステム。
【請求項10】
各電子デバイスのサイズは約100立方ミリメートル以下である、請求項7〜9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
各電子デバイス内の前記無線送信機は約1メートル〜10メートルの通信範囲を有する、請求項7〜10のいずれか1項に記載のシステム。

【公表番号】特表2012−532325(P2012−532325A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518762(P2012−518762)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/058797
【国際公開番号】WO2011/003458
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(510063834)エヌイーシー ヨーロッパ リミテッド (3)
【Fターム(参考)】