説明

変位アクチュエータ、液滴吐出ヘッド及び画像形成装置

【課題】本発明の課題は、振動板の変位を抑制することなく振動板の変位量を効率的に増大できる変位アクチュエータ、この変位アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッド及びこの液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置を得ることを目的とする。
【解決手段】本発明に係る変位アクチュエータ25においては、圧電体(能動素子)2а、2bを、振動板短辺方向の変位断面において、振動板1の各端23а、23bから直近の変曲点21а、21bまでの領域内及び振動板の変曲点21аからこれに相隣る他の変曲点21bまでの領域内の少なくとも一方の領域内に設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変位アクチュエータ、この変位アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッド及びこの液滴吐出ヘッドを備え記録媒体に液滴を吐出して画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2においては、対向電極間に配置した圧電体に電圧を印加して、短辺方向の両端が固定された振動板を変位させる変移アクチュエータが開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の変位アクチュエータは、振動板の短辺方向の断面において、振動板中央部とその周辺部とに個別の対向電極を配置し、異なる極性の電圧を印加して、圧電体の伸縮が振動板の中央部と周辺部とで逆になるようにしている。
【0004】
特許文献2に記載の変位アクチュエータは、振動板の短辺方向の断面において、圧電体及び圧電体の一面側の電極を、振動板の中央部とその周辺部とに個別に配置している。
【0005】
【特許文献1】特開2003−8091号公報
【特許文献2】特開2007−139841号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の変位アクチュエータにおいては、圧電体を振動板の全面に亘って設けているため、振動板の中央部と周辺部との間の対向電極が設けられていない領域(振動板の湾曲の変曲点に跨がった領域)にある圧電体が振動板の変位を抑制して振動板の変位量を効率的に増大できないおそれがある。
【0007】
また、特許文献2に記載の変位アクチュエータにおいては、圧電体を振動板の中央部と周辺部とに個別に設けているものの、何れかの圧電体が、振動板の湾曲の変曲点を跨いでいると、振動板の変位を抑制して振動板の変位量を効率的に増大できないおそれがある。
【0008】
そこで、本発明は、振動板の変位を抑制することなく振動板の変位量を効率的に増大できる変位アクチュエータ、この変位アクチュエータを備えた液滴吐出ヘッド及びこの液滴吐出ヘッドを備えた画像形成装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、短辺方向の両端が固定された振動板と、振動板に設けられて電圧印加により伸縮する能動素子とを備え、この能動素子を伸縮させることにより振動板を面外方向に変位させる変位アクチュエータであって、振動板は短辺方向において変曲点が複数になるように湾曲変位するものであり、能動素子は、振動板短辺方向の変位断面において、振動板の各端から直近の変曲点までの領域内及び振動板の変曲点からこれに相隣る他の変曲点までの領域内の少なくとも一方の領域内に設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、能動素子は、振動板短辺方向全域に亘って一方の電極層と圧電材料層と他方の電極層とがこの順に積層されて形成される圧電体であり、少なくとも圧電材料層が振動板の変曲点を境に分離していることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載された発明は、請求項1に記載の発明において、熱伝導率の高い部材を振動板に設けており、能動素子は発熱抵抗体であり、振動板は熱電導率の低い部材から成り、熱伝導率の高い部材を振動板と能動素子との間に配置していることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明において、能動素子は複数であり、各能動素子が振動板の面内伸縮が同じとなる部分に設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載された発明は、請求項1〜4の何れか一項に記載の発明において、振動板短辺方向の変位断面において、振動板の曲率半径が極小値をとる領域に能動素子が設けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載された発明は、請求項1〜5の何れか一項に記載の発明において、振動板の長辺方向の両端部に能動素子が設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載された発明は、請求項1〜6の何れか一項に記載の変位アクチュエータと、ノズルに連通する液室とを備え、振動板は液室の壁面部分を構成しており、ノズルから液滴を吐出することを特徴とする液滴吐出ヘッドである。
【0016】
請求項8に記載された発明は、請求項7に記載の液滴吐出ヘッドを備え、液滴吐出ヘッドから記録媒体に液滴を吐出して画像を形成することを特徴とする画像形成装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、振動板短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板に設けられた能動素子が振動板の変曲点に跨っていないので、振動板の変位を抑制することなく振動板変位量を効率的に増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、添付図面を参照して本発明の第1実施の形態を詳細に説明する。尚、図1(а)は本実施の形態に係る変位アクチュエータの変位前における縦断面図であり、図1(b)は本実施の形態に係る変位アクチュエータの変位後における縦断面図であり、図2は本実施の形態に係る変位アクチュエータを液室の反対側から見た平面図であり、図3は本実施の形態に係る振動板の短辺方向の変位断面を示す縦断面図であり、図4(a)は圧電体を振動板の短辺方向中央部に配置したことを想定した振動板の縦断面図であり、図4(b)は圧電体を振動板の短辺方向周辺部に配置したことを想定した振動板の縦断面図であり、図5(а)〜(e)は本実施の形態に係る変位アクチュエータの断面フロー図であり、図6は本実施の形態に係るインク吐出ヘッドの縦断面図であり、図7は本実施の形態に係る画像形成装置の概略的構成を示す縦断面図であり、図8は本実施の形態に係る画像形成装置の概略的構成を示す斜視図である。
【0019】
本実施の形態に係る画像形成装置81は、プリンタであり、図7に示すように、用紙83にインクを吐出して画像を記録する記録部82と、記録部82に供給する用紙を積載する給紙カセット84及び手差しトレイ85と、記録部82で画像形成された用紙を排出する排紙トレイ86とを備えている。
【0020】
記録部82には、インク吐出ヘッド(液滴吐出ヘッド)94を有し、主走査方向に移動自在なキャリッジ93と、インク吐出ヘッド94にインクを供給するインクカートリッジ95とが設けられている。
【0021】
キャリッジ93は、図8に示すように、画像形成装置81の左右の側板に支持された主ガイドロッド91及び従ガイドロッド92に摺動自在に保持されている。このキャリッジ93には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインク吐出ヘッド94が、インク滴吐出方向を下方に向けて装着されている。インク吐出ヘッド94には、複数のノズル孔(インク吐出口)65が主走査方向と交差する方向に配列されている。インク吐出ヘッド94は、インク流路の向きとノズル孔(吐出口)65の向きが異なるサイドシューター方式である。
【0022】
本実施の形態に係るインク吐出ヘッド94は、図6に示すように、変位アクチュエータ25と、ノズル孔65に連通する液室64とを備えている。
【0023】
変位アクチュエータ25は、振動板1に設けた一方及び他方の圧電体(能動素子)2а、2bに電圧を印加して、圧電体2а、2bを歪ませて振動板1を面外方向に変位させるものである。
【0024】
振動板1は液室64の底壁(壁面部分)を構成しており、液室64の振動板1に対向する壁66にはノズル孔65が形成されている。インク吐出ヘッド94は、振動板1を変位させて液室64内のインクの圧力を変化させることによりノズル孔65からインク滴(液滴)67を用紙(記録媒体)83に吐出するようになっている。インク吐出ヘッド94には、複数の液室64が壁63を隔てて形成されており、各液室64毎に変位アクチュエータ25が設けられている。
【0025】
本実施の形態に係る変位アクチュエータ25の作製方法を、図5(а)〜(e)を参照して説明する。先ず、Si基板30(図5(a)参照)の一面に、高濃度ボロン(B)を時間制御で注入し、2μm程度の高濃度ボロン層31を形成する(図5(b)参照)。次に、Si基板30における高濃度ボロン層31とは逆の面に、SiO2膜をCVD(化学気相成長法)で形成し、その後、インク吐出ヘッド94の液室64となる部分のSiO2膜を除去する。次に、KOH(水酸化カリウム)を用いて、液室64となる部分(図5(b)の2点鎖線で囲んだ部分)のSi基板30を高濃度ボロン層31に到達するまでエッチングする(図5(c)参照)。次に、高濃度ボロン層31の上面にSiO2膜32を形成して、振動板1を形成する(図5(d)参照)。その後は、図5(e)に示すように、圧電体2а、2bを構成する一方の電極層33、圧電材料層34、他方の電極層35を順次積層して、変位アクチュエータ25とした。
【0026】
ここで、振動板の変位形状に関する説明を行う。短辺方向の両端が固定された振動板が1次の振動モードで振動した場合、振動板の短辺方向断面では、概ね図3のような形状を呈する。図3の振動板1の各部の湾曲において、周辺よりも大きい部分が有るが、その部分では振動板を湾曲させる力を積極的に加えることにより、振動板全体の変位を大きくすることができる。ここで、湾曲が大きいということはその部分の曲率半径が小さいということであり、図3においては領域A1、A3及びA5であり、この曲率半径が極小値をとる領域を含んで、振動板1を湾曲させるための圧電体2が形成されると好適となる。尚、領域A1と領域A3では、同一面においてその伸縮が逆になる、そのため振動板1の同一面の領域A1、A3に全く同じ動作をする圧電体2を形成すると、振動板全体の変位が抑制されてしまうため、そのような構成は避ける必要がある。一方、曲率半径が最も大きい部分は図3においてはA2、A4辺り(変曲点近傍)である。また、板厚が均一で内部応力が無視できる場合、最も小さな荷重で振動板変位量を最大にすると、その変位形状は、振動板の中央線LS1に対して対称であり、振動板の各半分の領域は振動板を1/4に分割した線LS2で反対称となる。
【0027】
本実施の形態において、図1に示すように、一方の圧電体2аは、振動板1の短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板1の一端23аから直近の変曲点21аまでの領域に亘って且つ振動板1の一面側28に設けられている。他方の圧電体2bは、振動板1の短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板1の他端23bから直近の変曲点21bまでの領域に亘って且つ振動板1の一面側28に設けられている。即ち、一方の圧電体2аは、図3に示す振動板1の曲率半径が極小となる(振動板1の湾曲が大きくなる)領域A1を含むように設けられている。他方の圧電体2bは、振動板1の曲率半径が極小となる(振動板1の湾曲が大きくなる)領域A5を含むように設けられている。また、圧電体2а、2bは、図2に示すように、振動板1の長辺方向において、端部22а(一点鎖線で示す領域)を除く全域に亘って設けられている。端部22аは、振動板1の四隅に位置する正方形の領域であり、図2において、振動板の短辺方向の長さの半分をL4とすると、端部22аの一辺の長さはL4/2となる。
【0028】
キャリッジ93には、図8に示すように、ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95が交換可能に装着されている。
【0029】
インクカートリッジ95は上方に大気と連通する大気口、下方にはインク吐出ヘッド94へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力によりインク吐出ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、記録ヘッドとしてここでは各色のインク吐出ヘッド94を用いているが、各色のインク滴を吐出するノズル孔を有する1個のヘッドでもよい。
【0030】
ここで、キャリッジ93は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、このタイミングベルト100をキャリッジ93に固定しており、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。
【0031】
一方、給紙カセット84にセットした用紙83をインク吐出ヘッド94の下方側に搬送するために、図7に示すように、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101及びフリクションパッド102と、用紙83を案内するガイド部材103と、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104と、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105及び搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106とを設けている。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
【0032】
そして、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83をインク吐出ヘッド94の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材109を設けている。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設け、更に用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
【0033】
また、図8に示すように、キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インク吐出ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を配置している。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ93は印字待機中にはこの回復装置117側に移動されてキャッピング手段でインク吐出ヘッド94をキャッピングされ、ノズル孔65を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全てのノズル孔65のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0034】
画像形成装置81の動作を説明する。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を記録部82に搬送する。記録部82によって所要の画像を記録した後、排紙トレイ86に排紙する。
【0035】
記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じてインク吐出ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は、用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
【0036】
インク吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインク吐出ヘッド94のノズル孔(吐出口)65を密封し、チューブを通して吸引手段でノズル孔(吐出口)65からインクと共に気泡等を吸い出し、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
【0037】
インク吐出ヘッド94の動作を説明する。圧電体2а、2bに、振動板1の短辺方向に伸長する向きの電圧を印加すると、図1(b)に示すように、振動板1が液室64側に湾曲変位する。これにより、液室64内のインクの圧力が高くなり、ノズル孔65から用紙83に向けてインク滴が吐出される。
【0038】
【表1】

【0039】
ここで、振動板1に対する圧電体の配置領域を変えたことを想定して、振動板1の変位量を比較するシュミレーションを行ったので、その結果を、表1を参照して説明する。図4(а)に示すように圧電体を振動板1の短辺方向中央部に配置したことを想定したモデルタイプを比較例1〜5とし、図4(b)に示すように本実施の形態のような圧電体を振動板1の短辺方向周辺部に配置したことを想定したモデルタイプを本発明1〜3とする。比較例1〜5及び本発明1〜3において、振動板51、面内方向に伸びる力を有する領域52、拘束領域53を示す。両モデルタイプにおいて、L=60μm、振動板51の厚みta=3μm、領域52の厚みtb=0.5μm、領域52の面内方向に伸びる力は同一とし、更にヤング率=210GPa、ポアソン比=0.27は、比較例1〜5及び本発明1〜3の領域51、52の全てで同じ値とした。L6、L7をパラメータとして、振動板中央の変位量を求めて、表1に示した。比較例では、L6=30μmにおいて振動板中央の変位量が最大となる(比較例3)。一方、本発明の場合、L7=30μmの場合に振動板中央の変位量が最大となる(本発明1)。比較例1(L6=20μm)と本発明1(L7=20μm)とを比較した場合、及び比較例3(L6=30μm)と本発明2(L7=30μm)とを比較した場合に、本発明は比較例よりも若干大きな変位量となった。また、比較例4(L6=35μm)、比較例5(L6=40μm)、及び本発明3(L7=40μm)の場合、即ち、圧電体が振動板1の湾曲の変曲点21а、21bを跨ぐように配置された場合には、変位量が小さくなることが分かった。
【0040】
本実施の形態の作用効果を説明する。本実施の形態によれば、図1(b)に示すように、振動板1短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板1に設けられた圧電体2а、2bが振動板1の変曲点21а、21bに跨っていないので、振動板1の変位を抑制することなく振動板変位量を効率的に増大することができる。
【0041】
図3に示すように、振動板1の曲率半径が極小値をとる領域A1及びA5(振動板1の湾曲の大きな領域)に圧電体2а、2bが設けられているので、大きな振動板変位量を効率的に得ることができる。
【0042】
図5(a)〜(e)に示すように、振動板1及び圧電体2а、2bを半導体製造工程で製造できるので、歩留まり良く低コスト且つ信頼性の高い変位アクチュエータ25を提供できる。
【0043】
本実施の形態に係る変位アクチュエータ25は、振動板変位量を効率的に増大できるので、小型化しても必要な圧力を得ることができる。従って、変位アクチュエータ25を複数用いたインク吐出ヘッド94の小型化を図ることができる。
【0044】
圧電体2а、2bを振動板1の面内伸縮が同じとなる部分に設けているので、圧電体2а、2bに同じ極性の電圧を印加しても振動板1の変位を抑制することなく振動板変位量を効率的に増大することができる。従って、1つのアクチュエータに対して対向電極を1つにすることができ、コストダウンを図ることができる。
【0045】
振動板変位量及び発生圧力を効率的に増大できるので、必要な圧力を得るための駆動電圧を下げることができ、結果として駆動ドライバ等のコストダウンを図ることができる。
【0046】
インク吐出ヘッド(液滴吐出ヘッド)94は、振動板変位量を効率的に増大できる変位アクチュエータ25を備えているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良を防止でき、安定したインク滴吐出特性が得られる。
【0047】
画像形成装置81は、上述の効果を奏するインク吐出ヘッド94を搭載しているので、画像品質を向上できる。
【0048】
次に、他の実施の形態を説明するが、以下の説明において、上述した第1実施の形態と同一の作用効果を奏する部分には同一の符号を付することにより、その部分の詳細な説明を省略し、以下の説明では上述の第1実施の形態と異なる点を主に説明する。
【0049】
第2実施の形態を、図9を参照して説明する。尚、図9は本実施の形態に係る変位アクチュエータの縦断面図である。第1実施の形態では、振動板1に圧電体2а、2bを設けているが、本実施の形態では、図9に示すように、圧電体2а、2bに代えて、発熱抵抗体27а、27bを設けている。発熱抵抗体27а、27bへの電圧印加により、発熱抵抗体27а、27bが設けられた部分に対応する振動板領域が温度上昇により膨張し、この材料膨張により振動板1は面外方向に変位することになる。
【0050】
本実施の形態における振動板1には熱伝導率が低い部材を用いており、熱伝導率が高い部材4を振動板1と発熱抵抗体27а、27bとの間に形成している。
【0051】
本実施の形態によれば、振動板1の一面側28中央部の熱伝導による温度上昇を抑制できるので、発熱抵抗体27а、27bに対する電圧印加を連続して行う場合に生じる蓄熱による振動板1の一面側28中央部の膨張を抑えることができ、変位アクチュエータ25の動作安定性を向上することができる。
【0052】
第3実施の形態を、図10〜図12を参照して説明する。尚、図10(а)は本実施の形態に係る変位アクチュエータの変位前における縦断面図であり、図10(b)は本実施の形態に係る変位アクチュエータの変位後における縦断面図であり、図11は本実施の形態に係る変位アクチュエータを液室側から見た平面図であり、図12は圧電体を振動板の短辺方向中央部及び短辺方向周辺部に配置したことを想定した振動板の縦断面図である。
【0053】
本実施の形態では、図10に示すように、第1実施の形態における圧電体2а、2bに加えて、振動板短辺方向の湾曲変位した断面において、一方の変曲点21аから他方の変曲点21bまでの領域に亘って且つ振動板1の他面側29に圧電体2cを設けている。即ち、振動板1の曲率半径が極小値をとる領域A1及びA5の一面側28と、振動板1の曲率半径が極小値をとる領域A3の他面側29に圧電体を設けている。尚、圧電体を設けていない領域では圧電材料層そのものを形成しない構成となっている。
【0054】
また、圧電体2cは、図11に示すように、振動板長辺方向において、端部22b(一点鎖線で示す領域)を除く全域に設けられている。端部22bは、振動板短辺方向の中央に位置し、振動板短辺方向の幅がL4で振動板長辺方向の幅がL4/2の長方形の領域である。
【0055】
ここで、振動板1に対する圧電体の配置領域を変えたことを想定して、振動板1の変位量を比較したシュミレーションの結果を、表1を参照して説明する。図12に示すように本実施の形態のような圧電体2を振動板1の短辺方向中央部及び周辺部に配置したことを想定したモデルタイプを本発明4とする。本発明1〜3及び本発明4において、振動板51、面内方向に伸びる力を有する領域52、拘束領域53を示す。両モデルタイプにおいて、L=60μm、振動板51の厚みta=3μm、領域52の厚みtb=0.5μm、領域52の面内方向に伸びる力は同一とし、更にヤング率=210GPa、ポアソン比=0.27は本発明1〜3及び本発明4の領域51、52の全てで同じ値とした。L7=L8=30μmとして、振動板中央の変位量を比較すると、本発明4(L8=30)における振動板中央の変位量は、本発明2(L7=30)の場合の約2倍となった。
【0056】
インク吐出ヘッド94の動作を説明する。圧電体2а、2b及び2cに、振動板1の短辺方向に伸長する向きの電圧を印加すると、図10(b)に示すように、振動板1が液室64側に大きく湾曲変位する。これにより、液室64内のインクの圧力が高くなり、ノズル孔65から用紙83に向けてインク滴が吐出される。
【0057】
本実施の形態によれば、第1実施の形態における圧電体2а、2bに加えて、振動板短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板1の一方の変曲点21аから他方の変曲点(これに相隣る他の変曲点)21bまでの領域に圧電体2cを設けているので、第1実施の形態よりも大きな振動板変位量を確実に得ることができる。
【0058】
振動板1の湾曲の変曲点21а、21bを境として圧電体2а、2bを一面側28に且つ圧電体2cを他面側29に(各圧電体2а、2b及び2cを振動板1の面内伸縮が同じとなる部分に)設けているので、各圧電体2а、2b及び2cに同じ極性の電圧を印加しても振動板1の変位を抑制することなく振動板変位量を効率的に増大することができる。従って、1つの変位アクチュエータ25に対して対向電極を1つとすることができ、コストダウンを図ることができる。
【0059】
尚、本発明は上述した実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0060】
上述の実施形態では、圧電体2а、2bを振動板1の各端23а、23bから振動板1の湾曲の変曲点21а、21bまでの領域内に設けているが、これに限らず、圧電体2dを振動板1の一方の変曲点21аから他方の変曲点21bまでの領域内にのみ設けても良い。この場合、図15に示すように、圧電体1を振動板1の曲率半径が極小値をとる領域A3(図3参照)を含むように設けることが好ましく、更に圧電体1を一方の変曲点21аから他方の変曲点21bまでの領域に亘って設けることが好ましい。
【0061】
第3実施の形態では、圧電体2cを振動板1の他面側29に設けているが、これに代えて、圧電体2cを振動板1の一面側28に設けても良い。但し、この場合、圧電体2cには、圧電体2а、2bと異なる極性の電圧を印加する必要がある。
【0062】
第1実施の形態及び第2実施の形態では、振動板短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板1の各端23а、23bから直近の変曲点21а、21bまでの領域に亘って圧電体又は発熱抵抗体を設けているが、これに限らず、例えば、図3における領域A1及び領域A5(振動板1の曲率半径が極小値をとる領域)のみに圧電体又は発熱抵抗体を設けても良い。
【0063】
第3実施の形態では、振動板短辺方向の湾曲変位した断面において、振動板1の一方の変曲点21аから他方の変曲点21bまでの領域に亘って圧電体を設けているが、これに限らず、例えば、図3における領域A3(振動板1の曲率半径が極小値をとる領域)にのみ圧電体を設けても良い。
【0064】
上述の実施の形態では、変位アクチュエータ25を液滴吐出ヘッドに用いているが、これに限らず、振動板とミラーとを一体に成形した光学デバイス(電子プレゼンテーションに用いられるデータプロジェクター等)に用いても良い。
【0065】
上述の実施の形態では、変位アクチュエータ25を液滴吐出ヘッドに用いているが、これに限らず、複数の変位アクチュエータ25を、振動板1が流体流路の壁面部分を形成するように並べて配置して、医療機器や半導体製造機器等に用いられるマイクロポンプに用いても良い。
【0066】
図13に示すように、振動板1の一面側28の長辺方向端部22а(一点鎖線で示す領域)にも圧電体又は発熱抵抗体を設けると良い。振動板長辺方向端部22аの変位を大きくできるので、上述の実施の形態よりも、振動板変位量を増大することができる。この場合、振動板1に対する圧電体又は発熱体の配置領域としては、振動板1の短辺長さをL1とした場合、L2=L1/4、L3=L1/4とすることが好ましい。
【0067】
第1実施の形態及び第3実施の形態では、振動板1に、能動素子として圧電体を設けているが、これに代えて、能動素子として、発熱抵抗体を設けても良い。
【0068】
第2実施の形態では、発熱抵抗体27а、27bを振動板1の一面側28に熱伝導率の高い部材4を介して設けているが、これに加えて、発熱抵抗体を振動板1の一方の変曲点21аから他方の変曲点21bまでの領域内の他面側29に熱伝導率の高い部材を介して設けても良い。
【0069】
図14に示すように、振動板1の他面側29の長辺方向端部22b(一点鎖線で示す領域)にも圧電体又は発熱抵抗体を設けると良い。上述の実施の形態よりも大きな振動板変位量を得ることができる。この場合、振動板1に対する圧電体の配置領域としては、振動板1の短辺長さをL1とした場合、L2=L1/4、L3=L1/4とすることが好ましい。
【0070】
上述の実施の形態におけるインク吐出ヘッド94は、インク流路の向きとノズル孔(吐出口)8の向きが異なるサイドシューター方式であるが、インク流路からノズル孔にかけての形状が直線的であるエッジシューター方式であっても良い。
【0071】
上述の実施の形態においては、液滴吐出ヘッドとしてインク吐出ヘッド94に適用した例で説明したが、インク吐出ヘッド以外の液滴吐出ヘッドとして、例えば、液体レジストを液滴として吐出する液滴吐出ヘッドを半導体基板の製造に用いても良いし、液晶を液滴として吐出する液滴吐出ヘッドを液晶パネルの製造に用いても良いし、DNAの試料を液滴として吐出する液滴吐出ヘッド(スポッタ)をDNAチップの製造に用いても良い。
【0072】
上述の実施形態では、画像形成装置81として、プリンタを用いているが、これに限らず、画像読取部を有する複写機や、この複写機と用紙後処置装置との複合機等であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】(а)は第1実施の形態に係る変位アクチュエータの変位前における縦断面図であり、(b)は第1実施の形態に係る変位アクチュエータの変位後における縦断面図である。
【図2】第1実施の形態に係る変位アクチュエータを液室の反対側から見た平面図である。
【図3】第1実施の形態に係る振動板の短辺方向の変位断面を示す縦断面図である。
【図4】(a)は圧電体を振動板の短辺方向中央部に配置したことを想定した振動板の縦断面図であり、(b)は圧電体を振動板の短辺方向周辺部に配置したことを想定した変位アクチュエータの縦断面図である。
【図5】(а)〜(e)は本実施の形態に係る変位アクチュエータの断面フロー図である。
【図6】第1実施の形態に係るインク吐出ヘッドの縦断面図である。
【図7】第1実施の形態に係る画像形成装置の概略的構成を示す縦断面図である。
【図8】第1実施の形態に係る画像形成装置の概略的構成を示す斜視図である。
【図9】第2実施の形態に係る変位アクチュエータの縦断面図である。
【図10】(а)は第3実施の形態に係る変位アクチュエータの変位前における縦断面図であり、(b)は第3実施の形態に係る変位アクチュエータの変位後における縦断面図である。
【0074】
第3実施の形態に係る変位アクチュエータの縦断面図である。
【図11】第3実施の形態に係る変位アクチュエータを液室側から見た平面図である。
【図12】圧電体を振動板の短辺方向中央部及び短辺方向周辺部に配置したことを想定した振動板の縦断面図である。
【図13】変形例に係る変位アクチュエータを液室の反対側から見た図である。
【図14】変形例に係る変位アクチュエータを液室側から見た図である。
【図15】(а)は変形例に係る変位アクチュエータの変位前における縦断面図であり、(b)は変形例に係る変位アクチュエータの変位後における縦断面図である。
【符号の説明】
【0075】
1 振動板
2а、2b、2c 圧電体
21а、21b 変曲点
23а 振動板の短辺方向の一端
23b 振動板の短辺方向の他端
25 変位アクチュエータ
27а、27b 発熱抵抗体
28 振動板の一面側
29 振動板の他面側
33 一方の電極層
34 圧電材料層
35 他方の電極層
64 液室
65 ノズル孔
67 インク滴(液滴)
81 画像形成装置
83 用紙(記録媒体)
94 インク吐出ヘッド(液滴吐出ヘッド)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
短辺方向の両端が固定された振動板と、振動板に設けられて電圧印加により伸縮する能動素子とを備え、この能動素子を伸縮させることにより振動板を面外方向に変位させる変位アクチュエータであって、振動板は短辺方向において変曲点が複数になるように湾曲変位するものであり、能動素子は、振動板短辺方向の変位断面において、振動板の各端から直近の変曲点までの領域内及び振動板の変曲点からこれに相隣る他の変曲点までの領域内の少なくとも一方の領域内に設けられていることを特徴とする変位アクチュエータ。
【請求項2】
能動素子は、振動板短辺方向全域に亘って一方の電極層と圧電材料層と他方の電極層とがこの順に積層されて形成される圧電体であり、少なくとも圧電材料層が振動板の変曲点を境に分離していることを特徴とする請求項1に記載の変位アクチュエータ。
【請求項3】
熱伝導率の高い部材を振動板に設けており、能動素子は発熱抵抗体であり、振動板は熱電導率の低い部材から成り、熱伝導率の高い部材を振動板と能動素子との間に配置していることを特徴とする請求項1に記載の変位アクチュエータ。
【請求項4】
能動素子は複数であり、各能動素子が振動板の面内伸縮が同じとなる部分に設けられていることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の変位アクチュエータ。
【請求項5】
振動板短辺方向の変位断面において、振動板の曲率半径が極小値をとる領域に能動素子が設けられていることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の変位アクチュエータ。
【請求項6】
振動板の長辺方向の両端部に能動素子が設けられていることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の変位アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の変位アクチュエータと、ノズルに連通する液室とを備え、振動板は液室の壁面部分を構成しており、ノズルから液滴を吐出することを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項8】
請求項7に記載の液滴吐出ヘッドを備え、液滴吐出ヘッドから記録媒体に液滴を吐出して画像を形成することを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−279775(P2009−279775A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131589(P2008−131589)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】