説明

変位型ポインティングデバイスにおける静電容量センシング

【課題】水平方向だけでなく垂直方向に加えられる力を高精度で検出可能な変位型ポインティングデバイスを提供する。
【解決手段】変位型ポインティングデバイスにおける容量性センシングのシステム及び方法が開示される。一態様では、ポインティングデバイス(10)は、センス電極構造(54)及び変位可能要素(42)を備える。センス電極構造(54)は、中央センス電極(E)を囲む周辺領域に配列された周辺センス電極(A-D)を備える。変位可能要素(42)は、センス電極構造(54)上の動作領域(44)内を移動可能である。変位可能要素(42)は、センス電極(A-E)に対向し、かつ、動作領域(44)内の変位可能要素(42)のそれぞれの位置において中央センス電極(E)の少なくとも一部分とオーバーラップするターゲット電極(52)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2004年11月24日に出願された、Jonah Harley他による「Compact Pointing Device」と題する係属中の米国特許出願第10/723,957に関連する。当該米国特許出願は参照により本明細書に組み込むものとする。
【背景技術】
【0002】
マシンにコマンドを入力するために多くの異なるタイプのポインティングデバイスが開発されきた。たとえば、コンピュータマウス、ジョイスティック、トラックボール、タッチパッド及びキーボードなどの手動操作式のポインティングデバイスが、ポインティングデバイスを操作することによってコンピュータに命令を入力するために一般に使用されている。こういったポインティングデバイスによって、ユーザは、コンピュータ画面上のカーソル(すなわち、仮想的なポインタ)の移動を制御し、コンピュータ画面に表示されたアイコンや他の仮想的な物体を選択したり移動させ、また、異なる入力コマンドに対応するメニュー項目を開いたり閉じたりすることができる。
【0003】
ポインティングデバイスは、静止したままであることが意図されているデスクトップコンピュータなどの大型電子装置用に、また、携帯電話やモバイルコンピュータシステムなどの小さな携帯型電子装置用に開発されてきた。大型電子装置用のポインティングデバイスは、利用可能な空間と電力リソースが大きいために、一般に、携帯型電子装置用のポインティングデバイスよりも制約が少なく、かつ、よりフレキシブルな設計が可能である。一般に、携帯型電子装置で使用するポインティングデバイスは、ユーザが、カーソルを素早くかつ正確に動かすことができ、直感的な手法で操作でき、限られた作業空間と電力の制約の中で操作できるものでなければならない。
【0004】
変位型ポインティングデバイスは、携帯型電子装置に固有の制約に対処すべく開発されてきた。これらのタイプのポインティングデバイスは、たとえば、ユーザの指によって力が加えられると、画定された移動領域内で動く変位可能要素(たとえば、ゴム製の円盤や、ボタンまたは他の可動体)を備える。ユーザが変位可能要素を解放すると、典型的には、復元機構(たとえば、1組のばね)によって、変位可能要素は移動領域内の中央の位置に戻される。位置センサが、移動領域内の変位可能要素の変位を判定して、典型的には、変位可能要素の変位をカーソルの速度にマッピングする。典型的には、復元機構によって変位可能要素が移動領域の中央の位置に戻された後に、位置マッピングシステムは、ディプレイ上のカーソルの位置を固定する。
【0005】
典型的な変位型ポインティングデバイスでは、変位可能要素は、x−y平面に沿った水平方向(または横方向)の力に応答して2次元空間内を移動する。変位可能要素の二次元的な移動は、ディスプレイ上におけるカーソルの2次元的な移動にマッピングされる。水平方向の力に応答することに加えて、変位型ポインティングデバイスは、x−y平面に垂直なz軸に沿って変位可能要素に加えられる垂直方向すなわちz軸方向の力を検出するための機能を備えるのが望ましいことが多い。かかるz軸方向の力の検出を、たとえば、ディスプレイに表示された物体の選択を制御するための、または、ディスプレイに描かれている仮想線の幅を制御するための信号を生成するために使用することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水平方向だけでなく垂直方向に変位可能要素に加えられるユーザ入力を高精度で検出可能な変位型ポインティングデバイス及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一態様において、センス電極構造及び変位可能要素を備えるポインティングデバイスによって特徴付けられる。センス電極構造は、中央センス電極を囲む周辺領域に配列された周辺センス電極を有する。変位可能要素は、センス電極構造上の動作領域内を移動可能である。変位可能要素は、センス電極に対向し、かつ、動作領域における変位可能要素のそれぞれの位置における、中央センス電極のそれぞれの部分と少なくともオーバーラップするターゲット電極を備える。
【0008】
本発明の他の特徴及び利点については、以下の説明、図面及び特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【実施例】
【0009】
以下の説明において、同じ要素には同じ参照番号を付している。さらに、図面は、例示的な実施形態の主要な特徴を図示することが意図されている。図面において、実際の実施形態の全ての特徴を示すことも、図示の要素の相対寸法を示すことも意図されていない。また、図面は一定のスケールで描画されているわけではない。
【0010】
I.導入
以下に詳述する実施形態は、傾けるように作用する意図されていない力、及び容量式センシング構造全体にわたる意図されていないギャップのばらつきを補償するようにして、変位可能要素の位置を容量性センシングすることを含む変位型ポインティングデバイス及び方法を提供する。これらの実施形態のいくつかは、また、水平方向(または横方向)だけでなく垂直方向に変位可能要素(または変位可能部材)に加えられるユーザ入力を高精度で検出することができる。具体的には、これらの実施形態のいくつかは、水平方向の測定と垂直方向の測定との間に大きなクロストークを生ぜずに、力の印加によってもたらされた3次元における変位可能要素の変位を測定することができる。これらの測定は、変位可能要素に電気的に有線接続することなく行うことができる。さらに、これらの測定は、動作領域内の変位可能要素の水平方向の移動の全範囲にわたって行うことができる。
【0011】
II.概要
図1は、変位可能要素12、センスシステム14、測定システム16、及び処理システム18を備える変位型ポインティングデバイス10の1実施形態を示す。ポインティングデバイス10は、ディスプレイ24を駆動するディスプレイコントローラ22にディスプレイ制御信号20を出力する。
【0012】
変位可能要素12は、パック、ボタン、または、他の可動体で実施することができる。変位可能要素12は、本明細書において「動作領域」と呼ぶ、限定された移動領域内で移動可能である。操作の例示的な1つのモードでは、ユーザの指26は、動作領域内で変位可能要素12を操作する。変位可能要素12は、変位可能要素12に外力が加えられていないときには、典型的には、復元機構によって動作領域内の中心部に戻される。復元機構は、変位可能要素を動作領域の中央領域に付勢する(すなわち、中央領域に戻すように作用する)1つ以上の弾性構造(たとえば、ばね、または、弾性要素)で実施できる。
【0013】
詳細に後述するように、変位可能要素12はターゲット電極を有し、センスシステム14は、複数のセンス電極を備えるセンス電極構造を有する。いくつかの実施形態では、動作領域内の変位可能要素12のそれぞれの位置において、ターゲット電極は、中央のセンス電極(以下、中央センス電極という)の少なくとも一部分とオーバーラップし(すなわち、重なり合い)、センス電極は、ターゲット電極と完全にオーバーラップする(完全に重なり合う)センス領域全体に延びている。ターゲット電極は、測定システム16によって印加される入力信号28を、センス電極構造の電極のそれぞれの対に容量的に結合する。印加された入力信号28に応答して、センス電極構造は、ユーザの指26が変位可能要素12に接触したこと、及び、動作領域における変位可能要素12のそれぞれ異なる位置に応答するセンス信号30を生成する。
【0014】
測定システム16は、センスシステム14に入力信号28を供給し、生成されたセンス信号30から測定値32を生成する。測定値32は、動作領域における変位可能要素12のそれぞれ異なる水平方向(または横方向)の位置、及び、変位可能要素12に加えられる垂直方向の力を示す。このようにして、測定システム16は、ディスプレイベースの選択(ディスプレイを用いた選択)を行うために、変位可能要素12がいつ触られたか、すなわち、押下されたかを検出することができる。さらに、測定システム16は、動作領域内の変位可能要素12の現在の位置を検出することができる。センスシステム16によって生成された測定信号32は、動作領域内の変位可能要素12の現在の位置を直接伝送するか、または、動作領域内の変位可能要素12の現在の位置を導出する(または取り出す)ことが可能な情報を伝送する。
【0015】
処理システム18は、測定信号32をディプレイ制御信号20に変換する。この処理において、処理システム18は、測定信号32から、動作領域内の変位可能要素12の現在の位置を決定する。処理システム18は、また、変位可能要素12がユーザの指26と接触している接触時間を判定する。処理システム18が生成可能なディプレイ制御信号20のタイプの例には、動作領域内の変位可能要素12の位置を表す位置データ(たとえば、動作領域の原点を中心とする座標系における距離及び方向)、カーソルの位置及び速度データ、スクロール位置及び距離データが含まれる。一般に、処理システム18は、1つ以上の個別のモジュールで実施することができ、それらのモジュールは、特定のハードウエアやファームウエアやソフトウエアの構成には限定されない。これらの1つ以上のモジュールは、ディジタル電子回路(たとえば、ディジタル信号プロセッサ(DSP)などの特定用途向け集積回路)、または、コンピュータハードウエアやファームウエアやデバイスドライバやソフトウエアを含む、任意のコンピューティング環境またはデータ処理環境において実施可能である。
【0016】
ディプレイコントローラ22は、ディプレイ制御信号20を処理して、ディプレイ24上のポインタ34の動きを制御する。ディプレイコントローラ22は、典型的には、ディプレイ制御信号20を処理するためにドライバを実行する。一般に、ドライバは、ディジタル電子回路、または、コンピュータハードウエアやファームウエアやソフトウエアを含む、任意のコンピューティング環境または処理環境内に存在しうる。いくつかの実施形態では、ドライバは、オペレーティングシステムのコンポーネントか、または、アプリケーションプログラムである。
【0017】
ディプレイ24は、たとえば、LCD(液晶ディプレイ)、プラズマディプレイ、ELディプレイ(エレクトロルミネセントディプレイ)、FED(電界放出ディスプレ)などのフラットパネル(平面パネル)ディプレイである。
【0018】
いくつかの実施形態では、ポインティングデバイス10とディプレイ24は、ポータブル(たとえば、携帯型または手持ち式の)電子装置などの単一の一体型装置に組み込まれる。ポータブル電子装置は、人間が容易に持ち運ぶことが可能な任意のタイプの装置とすることができ、それには、携帯電話、コードレス電話、ページャ、個人情報端末(PDA)、ディジタルオーディオプレー、ディジタルカメラ、ディジタルビデオゲームコンソールなどがある。他の実施形態では、ポインティングデバイス10とディプレイ24は、分離したポインティングデバイスとリモートの(すなわち、離れたところにある)ディプレイベースのシステム(ディプレイを備えたシステム)などの分離した別個の装置として実施される。一般に、このリモートのシステムは、ユーザ入力を受け取る任意のタイプのディプレイベースの装置とすることができ、それには、汎用コンピュータシステム、特定用途用コンピュータシステム、ビデオゲームシステムなどがある。ディプレイ制御信号20を、有線通信リンク(たとえば、RS−232シリアルポートや汎用シリアルバスやPS/2ポートなどのシリアル通信リンク)を介して、または、無線通信リンク(たとえば、赤外線(IR)無線リンクまたは無線周波数(RF)無線リンク)を介してリモートのシステムに伝送することができる。
【0019】
III.例示的なセンスシステムの実施形態
図2Aは、ポインティングデバイス10の例示的な実施形態40の上面図である。図2Bは、線2B−2Bに沿って切り取ったポインティングデバイス40の断面図である。ポインティングデバイス40において、変位可能要素12はパック(ゴム製の円盤)42で実施される。パック42は、支持フレーム46の壁45によって画定された動作領域44内を移動可能である。一般に、動作領域は、(図示のように)円形や多角形(たとえば、矩形)形状を含む、任意の形状を有することができる。支持フレーム46は、復元機構48を機械的に支持し、図示の例では、4つのスプリング50の組で実施される。支持フレーム46は基板51(たとえば、プリント回路基板)上に搭載される。センスシステム14は、基板42上のパック42の下で支持される。
【0020】
動作時、パック42は、ユーザの指26による水平方向の力(すなわち、x−y平面内の成分を有する力)の印加に応答して動作領域44内を移動する。ユーザが指26を離すことによってパック42を開放すると、パック42は、それの中心位置に、復元機構48によって戻される。
【0021】
いくつかの実施形態では、処理システム18は、測定信号32から、ユーザが、選択された閾値を超える垂直方向の力(すなわち、z軸に沿った向きの成分を有する力)をパック42にいつ加えたかを判定する。この情報に基づいて、処理システム18は、パック42が接触状態にあるか(すなわち、ユーザがパック42を操作している最中であるか)または非接触状態にあるか(すなわち、ユーザがパック42を操作していないときであるか)を判定する。処理システム18は、非接触状態にある間カーソル34の速度をゼロに設定して、復元機構48が、ディスプレイ24上のカーソル44の位置に影響を与えることなくパック42を中心位置に戻すことができるようにする。この特徴は、ラップトップコンピュータや携帯型装置や、パック42の移動範囲が大幅に制限されているその他のモバイル(可搬式)電子装置において特に望ましい。
【0022】
いくつかの実施形態では、処理システム18は、さらに、測定信号32から、いつユーザが第2の「クリック」閾値を超える垂直方向の力をパック42に加えたかを検出することができる。この情報に基づいて、処理システム18は、パック42が選択状態(または「クリック」状態)にあるか否かを判定する。この選択状態は、典型的には、コンピュータマウスの右ボタンまたは左ボタンに関連付けられた機能に該当するディスプレイ制御機能に対応付けることができるものである。このようにして、ユーザは、パック42に加える圧力を予め較正済みのクリック閾値を超えて強めることによって、ディスプレイ24上のカーソル34の現在の位置でクリックすることができる。ポインティングデバイス10のいくつかの実施形態には、クリック閾値に対する触覚フィードバックを提供する機械式クリック機構(たとえば、弾性ドームスイッチ)が含まれる。
【0023】
図3A及び図3Bは、変位可能要素12が(破線の円で仮想的に示された)ターゲット電極52を備え、センスシステム14がセンス電極構造54を備えているポインティングデバイス10の例示的な実施形態50の上面図である。センス電極構造54は、中央センス電極Eを囲む周辺領域に4つの周辺センス電極A、B、C、Dを備える。図示の実施形態では、センス電極構造54は、基板51の平坦な面に配置されている。他の実施形態では、センス電極構造54を、基板51の1つ以上の曲線状(たとえば、凸状または凹状)の面に配置することができる。センス電極A〜Eは互いに電気的に分離されている。(不図示の)電気的接続部が、センス電極A〜Eを測定システム16に電気的に接続する。いくつかの実施形態では、ターゲット電極52とセンス電極A〜Eの間に配置された低摩擦性誘電体スペーサが、ターゲット電極52をセンス電極A〜Eから電気的に絶縁するとともに、ターゲット電極52をセンス電極A〜Eの上をスライド(摺動)できるようにしている。ターゲット電極52とセンス電極A〜Eの各々の間のオーバーラップ量は、センス電極A〜Eに対するパック42の位置に依存する。
【0024】
図3Aは、中央センス電極Eの上に中心があるターゲット電極52を示す。図3Bは、動作領域44の外壁45に接して配置されたターゲット電極52を示す。この実施形態では、ターゲット電極52は、動作領域内の変位可能要素のそれぞれの位置において、中央センス電極Eと完全にオーバーラップしている。すなわち、ターゲット電極52の半径rは、少なくとも、中央センス電極の半径rと動作領域内でのターゲット電極の半径方向の移動範囲rとを加えたものである(すなわち、r≧r+r)。さらに、センス電極A〜Eは、動作領域内のパック42のそれぞれの位置においてターゲット電極52と完全にオーバーラップするセンス領域全体に広がっている。すなわち、センス領域の半径rは、少なくとも、ターゲット電極の半径rと動作領域内でのターゲット電極の半径方向の移動範囲rとを加えたものである(すなわち、r≧r+r)。図示の実施形態では、センス領域は動作領域と一致する。他の実施形態では、センス領域は、動作領域よりも大きな領域にわたって広がるものとすることができる。
【0025】
ターゲット電極52は、(破線の円で仮想的に示されている)変位可能電極56を備える中央のターゲット電極構造(以下、中央ターゲット電極構造という)を囲み、かつ、それに電気的に結合された周辺ターゲット電極構造を有する。変位可能電極56は、周りを囲んでいる周辺ターゲット電極構造とは実質的に独立に、センス電極構造54に向かって及びそれから離れる方向に移動可能である。図3A及び図3Bに示すように、中央センス電極Eは、動作領域内のパック42のそれぞれの位置において変位可能電極56と完全にオーバーラップしている。すなわち、中央センス電極の半径rは、少なくとも、変位可能電極56の半径rと動作領域内でのターゲット電極の半径方向の移動範囲rとを加えたものである(すなわち、r≧r+r)。
【0026】
図4Aは、(図3A及び図3Bに示す)ターゲット電極52の1実施形態61を備えるポインティングデバイス10の1実施形態60を示す。ターゲット電極52は、中央ターゲット電極構造64を囲む周辺ターゲット電極構造62の平坦な(または平面状の)配列を有する。中央ターゲット電極構造64は、弾性復元機構68によって周辺ターゲット電極構造62に接続された変位可能電極66を有する。復元機構68は、変器可能電極への外力の印加に応答して、変位可能電極66を平衡位置に向かうように付勢する。たとえば、1例として、図4Bは、ユーザの指26によって加えられた力に応答して、図4Aに示す平衡位置から動かされて、センスシステム14に押し付けられた変位可能電極66を示す。図4Bは、ユーザの指26が変位可能電極66に接触している状態を説明の便宜のために示すものであり、実際の実施形態では、ユーザの指26は、ポインティングデバイス10の他のコンポーネントによって変位可能電極66から電気的に分離される。ユーザの指26によって加えられる力は、復元機構68を変形させ、この変形に応答して、復元機構68は、加えられた力に対抗する復元力を生じ、変位可能電極66を平衡位置の方に付勢する(すなわち、平衡位置に向かって動かすように作用する)。ユーザの指26によって加えられた力が除去されると、復元機構68によって生成された、対抗される力が無くなった復元力によって、変位可能電極66は平衡位置に戻される。
【0027】
図4A及び4Bに示すように、誘電体スペーサ70は、ターゲット電極52とセンスシステム14の間にある。この実施形態では、誘電体スペーサ70は、センスシステム14に対向したターゲット電極52の隔置されたそれぞれの表面領域に取り付けられた個別の誘電体フィルム72、74、76を有する。個別の誘電体フィルム72〜76のそれぞれは、ターゲット電極の周辺表面領域と、ターゲット電極52の少なくとも1つの中央の表面領域に取り付けられる。誘電体フィルム72〜76は、センスシステム14のセンス電極構造の表面上を摺動自在である。いくつかの実施形態では、誘電体ストリップ72〜76は、低摩擦性誘電体材料(たとえば、ナイロンやTEFLON(テフロン:商標)などのプラスチック材料)から形成され、ターゲット電極52のそれぞれの表面領域に結合される。
【0028】
単一の均一な誘電体フィルムではなく複数の個別の誘電体フィルムを使用することによって、ターゲット電極をセンス電極構造上の表面の任意の凹凸により良く適合(たとえば密着)させることができる。さらに、誘電体スペーサ70は、空気の誘電率に対して、ターゲット電極とセンス電極構造間の誘電率を大きくすることによって、ターゲット電極とセンス電極構造を分離するギャップのばらつきに対するセンスシステムの感度を低減する。
【0029】
図示の実施形態では、誘電体フィルム72〜76はリング形状である。他の実施形態では、誘電体スペーサ70は、誘電体フィルム72〜76とは異なる形状及び大きさの誘電体フィルムを有することができる。たとえば、いくつかの実施形態では、誘電体スペーサ70は、ターゲット電極52の底面全体をコーティング(被覆)して、変位可能電極66が中央センス電極と電気的に短絡するのを防止する誘電体材料(たとえばTEFLON(テフロン:商標))の薄膜を有する。誘電体スペーサ70は、さらに、薄膜誘電体コーティングの露出した表面領域に取り付けられた(または接着させられた)2つのリング形状の誘電体フィルム72、74を備える。薄膜誘電体コーティングは、典型的には、25〜100ミクロン(μm)の範囲の均一の厚さを有し、2つのリング形状の誘電体フィルム72、74は、典型的には、100〜300μmの範囲の厚さを有する。
【0030】
いくつかの実施形態では、薄い(たとえば、100μmのオーダーの)誘電体コーティングをセンス電極構造54の露出した上面に取り付けることによって、ターゲット電極52とセンス電極構造54との間の電気的短絡のリスクがさらに低減される。
【0031】
図5Aは、(図4A及び図4Bに示す)平坦なターゲット電極61の例示的な1実施形態80の上面図である。ターゲット電極80は、中央ターゲット電極構造84を囲むリング形状の周辺ターゲット電極構造82を有する。中央ターゲット電極構造84は、平坦な(または平面状の)復元機構88によって周辺ターゲット電極構造82に接続された変位可能電極86を備える。復元機構88は、それぞれの可撓性の結合器92、94によって周辺ターゲット電極構造82及び変位可能電極86に接続されたリング90を備える。これらの結合器は、変位可能電極86を横断(または2等分)する軸96に整列している。図5Bを参照すると、ターゲット電極80は、ターゲット電極の底面と、薄膜誘電体コーティング98のそれぞれの底面領域に取り付けられた(または接着させられた)2つのリング形状の誘電体フィルム100、102の底面をコーティングするオプションの誘電体材料の均一な薄膜98を有する。いくつかの実施形態では、平坦な(または平面状の)ターゲット電極80は、圧断器(stamp)またはダイス(die)を用いて導電材料(たとえば金属)の板から切り取られる。
【0032】
図6Aは、ターゲット電極52(図3A及び図3B参照)の1実施形態112を備えるポインティングデバイス10の1実施形態110を示す。ターゲット電極112が、平坦な(または平面状の)平衡状態を有する代わりに、凸状の平衡状態を有するという点を除いて、ターゲット電極112は、ターゲット電極の実施形態61と類似している。この実施形態では、ターゲット電極112の周辺ターゲット電極構造114が、平衡状態においてターゲット電極112の凸形状をもたらす。周辺ターゲット電極構造114は、弾性があり、ターゲット電極112をセンス電極構造に押し付けるように付勢する加えられた力に応答して、センスシステム14のセンス電極構造の表面領域に適合(たとえば密着)する。ターゲット電極112のこの可撓性を利用してユーザの指26によって加えられた圧力を検出することができる。
【0033】
図6B及び図6Cは、周辺ターゲット電極構造14と、ユーザの指26によって加えられた力に応答して、図6Aに示す平衡位置からセンス14に近接する(または接する)ように動かされた変位可能電極66の1例を示す。図6B及び図6Cは、ユーザの指26が変位可能電極66と接触している状態を説明の便宜のために示すものであり、実際の実施形態では、ユーザの指26は、ポインティングデバイス10の他のコンポーネントによって変位可能電極66から電気的に絶縁される。ユーザの指26によって加えられる力によって、周辺ターゲット電極構造114と復元機構68が変形する。図6Bでは、ターゲット電極構造114が変形させられて、センスシステムの表面領域に適合している。図6Cでは、ユーザの指26によって加えられた力に応答して、変位可能電極66がセンスシステムに押し付けられるように動かされている。この加えられた力に応答して、周辺ターゲット電極構造114は、ターゲット電極112を平衡状態に向けて付勢する対抗力を与える。この対抗力によって、ターゲット電極112はセンス電極構造の表面領域に適合することができ、それによって、センス電極構造の表面における平坦ではない任意の凹凸に対応することができる。ユーザの指26が変位可能電極66から離れると、対抗される力が無くなった周辺ターゲット電極構造の力によって、ターゲット電極82は、図6Aに示す平衡状態に戻される。
【0034】
図7は、(図6A及び図6Bに示す)ターゲット電極112の1実施形態120の底面図である。この実施形態では、周辺ターゲット電極構造121は、中央ターゲット電極構造124を囲む個別のセグメント122を有する。個別のセグメント122は、弾性のあるそれぞれの結合器132によって周辺ターゲット電極構造121の内部の円周部分130に取り付けられている。中央ターゲット電極構造124は、変位可能電極126と復元機構128を備える。図7に示すように、ターゲット電極120は、ターゲット電極の底面と2つのリング型誘電体フィルム131、133の底面をコーティングするオプションの誘電体材料の均一な薄膜129を有する。誘電体フィルム131、133は、薄膜誘電体コーティング129のそれぞれの底面領域に取り付けられる(または接着させられる)。いくつかの実施形態では、平面状のターゲット電極120は、圧断器(stamp)またはダイス(die)を用いて導電材料(たとえば金属)の板から切り取られる。
【0035】
弾性のある結合器132によって、個別のセグメント122は、センス電極構造の表面領域に個別に適合することができる。具体的には、変形していない状態では、個別のセグメント122の各々は、センス電極構造に向かって曲げられてターゲット電極120を凸状にする。変位可能電極126に加えられた下向きの力に応答して、周辺ターゲット電極構造114及び復元機構128は、凸状の平衡状態から、センスシステム14の表面領域に適合する平面形状に変形する。このプロセスでは、結合器132の各々が、ターゲット電極114を平衡状態に向けて付勢する対抗力を与える。これらの対抗力によって、ターゲット電極114は、センス電極構造の表面領域に適合することができ、これによって、センス電極構造の表面の任意の平坦ではない凹凸に対応することができる。加えられた力が除去されると、対抗される力が無くなった結合器132の力によって、ターゲット電極114は、図7に示す凸状の平衡状態に戻される。
【0036】
図8Aは、ボタン142、ハウジング144、復元機構146、及び、ターゲット電極アセンブリ148を有する変位可能要素10の1実施形態140の分解組立図である。
【0037】
ボタン142は、中央の支柱(ポスト)151と、支持リング154に結合された上部周辺エッジ152を有する作動要素150を備える。ボタン142は、典型的には、可撓性のプラスチック材料から形成された一体型の成型構造である。支持リング154は、作動要素150を弾性的に支持する環状の板ばね158を支持するフランジ156を有する。板ばね158は、作動要素150への垂直(またはz軸)方向に沿った外力の印加に応答して、図8A及び図8Bに示すように作動要素150を平衡位置に向かって付勢する。オプションの低摩擦性材料(たとえば、TEFLON(テフロン:商標))の薄膜により、支持リング154の環状の底面をコーティングすることができる。
【0038】
ハウジング144は、内部チャンバ164を画定する上部壁160及び円柱形の側壁162を有する。この内部チャンバは、復元機構146とターゲット電極アセンブリ148を収容する。上部壁160は、上部支持表面166及び円形の開口部168を有する。この上部支持表面上をボタン142が摺動し、この開口部を通って作動要素150の支柱(ポスト)151が延伸する。ハウジング144は典型的には、金属やプラスチックなどの剛性材料から形成される。
【0039】
復元機構146は、支持フレーム170とリボンスプリング(ribbon spring)172を備える。リボンスプリングは、支持フレーム170の内部環状表面176から上に向かって延びる4つの支柱(ポスト)174(これらのうちの3つが図8Aに示されている)によって支持される。支持フレーム170とリボンスプリング172は典型的には、金属やプラスチックなどの剛性材料から形成される。
【0040】
ターゲット電極アセンブリ148は、保持構造180、ドームスイッチ182、及びターゲット電極184を有する。保持構造180は、作動要素150の支柱(ポスト)151の端部を保持するコネクタ186と、ドームスイッチ182を収容するキャビティ188を有する。保持構造180は、キャビティ188を覆うターゲット電極184に結合される(たとえば、熱固着(heat-staked)される)。ターゲット電極184の底面は、薄い誘電体フィルムでコーティングされ、誘電体材料の2つの薄膜リング190、192は、薄い誘電体フィルムの底面領域に取り付けられる。
【0041】
図8Bは、ボタン142、ハウジング144、復元機構146、及び、ターゲット電極アセンブリ148を最終の一体化構造に組み立てた後の変位可能要素140の断面図である。
【0042】
動作時、ボタン142は、ハウジング144の上面166の上を摺動可能であり、その動きの範囲は、ハウジング144の上部壁160内の開口部168によって画定される。ターゲット電極アセンブリ148は、支柱(ポスト)151によってボタン142に取り付けられているので、ターゲット電極アセンブリ148は、同じ動きの範囲で横方向(または水平方向)に動く。垂直(またはz軸)方向に沿って作動要素150に加えられる下向きの力が支柱(ポスト)151によってドームスイッチ182とターゲット電極184の変位可能電極に伝えられる。このような下向きの力の印加に応答して、ドームスイッチ182は触覚フィードバックをユーザに与え、変位可能電極は、(図1に示す)センスシステム14の中央センス電極に向かって移動する。
【0043】
IV.測定回路と処理システムの例示的な実施形態
A.概要
(図3Aと図3Bに示す)ポインティングデバイス50に関して、例示的なポインティングデバイスの方法を以下に説明する。図9Aに示すように、本実施形態のセンス電極構造54は、単一のセンス電極Eを囲む4つの周辺センス電極A〜Dを有し、ターゲット電極52は、単一の中央ターゲット電極構造56を囲む周辺ターゲット電極構造を有する。他の実施形態では、センス電極構造54は、これとは異なる数の周辺センス電極を有することができる。たとえば、図9Bは、中央センス電極Iを囲む3つの周辺センス電極F、G、Hを有するセンス電極構造198を示している。
【0044】
図9は、センス電極構造54の上に重ね合わされた2次元x−y座標系の1例を示している。この座標系は、x軸によって周辺センス電極A、Bが周辺センス電極C、Dから分離され、y軸によって周辺センス電極A、Cが周辺センス電極B、Dから分離されるように配向されている。この配向では、周辺センス電極A、Cはx軸の一方の側のみにおいて画定されるx軸座標を有し、周辺センス電極B、Dは、x軸の他方の側のみにおいて画定されるx軸座標を有する。x軸とy軸のそれぞれは、中央センス電極Eと交差する(ままたはそれを2等分する)。
【0045】
図10は、ターゲット電極52とセンス電極構造54の等価回路のブロック図である。センス電極A〜Eとオーバーラップするターゲット電極52のそれぞれの部分は、対応するオーバーラップ量に比例する(静電)容量を有する平行板コンデンサをそれぞれ形成する。全てのコンデンサがターゲット電極52の各部を分け合うので、等価回路は、共通のターゲット電極52に接続された5つのコンデンサC、C、C、C、Cを有し、それらのコンデンサは、参照番号52A、52B、52C、52D、52Eによって識別されるそれぞれの部分を有する。図示の実施形態では、入力信号28が、中央センス電極Eと周辺センス電極A〜Dの各1つとのそれぞれの対に印加される。したがって、等価回路は、周辺センス電極A〜Dの並列に結合された容量C、C、C、Cと直列に結合された中央センス電極Eの容量Cを有する。
【0046】
所与の測定サイクルにおいて、測定回路16は、それぞれの入力信号を対応する周辺センス電極と中央センス電極Eに印加することによって、周辺センス電極A〜Dの各々に対する測定値32を生成する。入力信号28を中央センス電極Eを通るように駆動して、周辺センス電極A〜Dの出力端子で測定を行うことができる。代替的には、入力信号28を周辺センス電極A〜Dの各々を通るように駆動して、中央センス電極Eの出力端子において時分割方式で測定を行うことができる。ターゲット電極は、測定システム16から印加された入力信号を中央センス電極Eと周辺センス電極A〜Dの各1つとの対応する対に容量的に結合する。この印加された入力信号に応答して、センス電極構造54は、ユーザの指26が変位可能要素12に接触したこと、及び、動作領域における変位可能要素12の位置が変わったこと(または変位可能要素12の異なる位置)に応答するセンス信号30を生成する。具体的には、測定システム16によって生成される測定値の各々は、ターゲット電極52と対応する周辺センス電極とのそれぞれのオーバーラップの度合い(程度)を示す。さらに、所与の測定サイクル中に生成される測定値の組み合わせは、変位可能要素に加えられた垂直(またはz軸)方向の力を示す。
【0047】
処理システム18は、測定値32からディスプレイ制御信号20を生成する。このプロセスでは、処理システム18は、測定値32に基づいて、周辺センス電極A〜Dに対するターゲット電極52の位置を判定する。
【0048】
B.測定回路の例示的な実施形態
図11は、測定回路16の1実施形態200を示す。測定回路200は、駆動増幅器202と、周辺センス電極A〜Dの各々の出力端子に接続された各測定回路204、206、208、210を備える。駆動増幅器202は入力信号28を中央センス電極Eを通すように駆動する。図示の実施形態では、入力信号28は方形波パルスである。測定回路204〜210の各々は、積分器212、214、216、218、フィルタ220、222、224、226、及び、アナログ−ディジタル(A/D)変換器228、230、232、234を備える。積分器212〜218の各々は、基準電圧(VREF)に接続されたそれぞれの正極性入力端子と、それぞれの負帰還ループを介して対応する出力端子に接続されたそれぞれの負極性端子を有する。負帰還ループは、帰還コンデンサCとリセットスイッチを有する。フィルタ220〜226の各々は、積分器212〜218の各々の出力をフィルタリングする。アナログ−ディジタル変換器228〜234の各々は、フィルタ220〜226の各々からのフィルタリングされた信号出力をサンプリングする。処理システム18は、アナログ−ディジタル変換器228〜234によって生成されたディジタル測定値を受け取る。
【0049】
図12は、測定システム16が測定値32を生成するための方法を1実施形態を示す。この実施形態によれば、測定サイクルのインデックスkは0に初期化される(図12のブロック240)。各測定サイクルの開始時(図12のブロック242)に、測定サイクルのインデックスが1だけ増分される(図12のブロック244)。測定回路16は、入力信号VIN,Kを周辺センス電極iと中央センス電極Eに印加する(図12のブロック246)。ここで、
【0050】
【数1】

【0051】
である。測定回路16は、次に、測定値VOUT,kiを生成する(図12のブロック248)。測定回路16は、次に、処理を繰り返す前に次の測定サイクルを待つ(図12のブロック242)。
【0052】
したがって、各測定サイクルkの間、プロセッサ18は、積分器212〜218のリセットスイッチを閉じて、中央センス電極Eに振幅がVIN,Kの方形波パルスを与える。各積分器212〜218の出力端子は、式(1)によって与えられる電圧VOUT,kを生成することになる。
【0053】
【数2】

【0054】
ここで、Cは、積分器212〜218の負帰還ループ内の帰還コンデンサの値である。CEQ,iは、中央センス電極Eの(静電)容量Cと、周辺センス電極A〜Dの各々の容量Cとの直列接続の和と等価であり、式(2)によって与えられる。
【0055】
【数3】

【0056】
式(1)は、CEQ,iに関して、式(3)に書き換えることができる。
【0057】
【数4】

【0058】
ここで、
【0059】
【数5】

【0060】
である。したがって、VIN、VREF、Cが既知なので、測定された出力電圧VOUTがCEQ,iの値を与える。
【0061】
図11に示した実施形態では、測定回路200が中央センス電極Eを通るように入力信号28を駆動し、周辺センス電極A〜Dの出力端子から出力されるセンス信号30を測定する。(図1に示す)測定回路16の他の実施形態は、周辺センス電極A〜Dの各々を通るように入力信号28を駆動して、中央センス電極Eの出力端子から出力されるセンス信号30を時分割方式で測定することができる。
【0062】
C.処理システムの例示的な実施形態
図13は、処理システム18が測定信号32からディスプレイ制御信号20を生成するための方法の1実施形態を示す。この実施形態によれば、処理システム18は、(i)座標軸Pの一方の側にある周辺センス電極について所与の測定サイクルkにおいて生成された測定値と、(ii)座標軸Pの他方の側にある周辺センス電極について所与の測定サイクルkにおいて生成された測定値との間の差分値(Δ)を決定する(図13のブロック260)。ここで、たとえば、
【0063】
【数6】

【0064】
である。処理システム18は、所与の測定サイクルkにおいて生成された全ての測定値の合計に対して差分値(Δ)を正規化して、
【0065】
【数7】

【0066】
を生成する(図13のブロック262)。処理システム18は、正規化された差分値
【0067】
【数8】

【0068】
を出力する(図13のブロック264)。座標軸の全てについて決定されているわけではない場合(図13のブロック266)には、処理は、次の座標軸について繰り返される(図13のブロック260〜264)。座標軸の全てについて決定された場合には、処理システム18は、プロセスを繰り返す(図13のブロック258〜266)前に次の測定サイクルを待つ(図13のブロック268)。
【0069】
したがって、図9で画定されるx軸及びy軸について、処理システムは、式(4)及び(5)にしたがって、差分値Δ及びΔを決定する。
【0070】
【数9】

【0071】
正規化された差分値
【0072】
【数10】

【0073】
は、VREFがゼロ電位に設定されると仮定すれば、式(6)及び(7)にしたがって計算される。
【0074】
【数11】

【0075】
これらの正規化された差分値
【0076】
【数12】

【0077】
をスケーリングして、動作領域における変位可能要素のx及びy座標に対応する値を生成することができる。式(6)及び(7)にしたがって差分値Δ及びΔを正規化することにより、ターゲットを傾斜させる傾向がある意図しない力の影響、及び、ターゲット電極とセンス電極を分離するギャップのばらつきが低減される。
【0078】
図3A〜図8Bに関して説明した実施形態では、ターゲット電極は、変位可能電極56を有する中央ターゲット電極構造を囲む周辺ターゲット電極構造を備え、変位可能電極56は、周囲のターゲット電極構造とは実質的に無関係に、センス電極構造に向かって、及び、センス電極構造から離れるように移動可能である。これらの実施形態のいくつかでは、中央センス電極Eは、動作領域内の変位可能要素のそれぞれの位置において変位可能電極56と完全にオーバーラップする。これらの実施形態では、変位可能電極56の垂直方向の動きが、中央センス電極Eの容量Cのみに影響する。したがって、容量Cは、全ての周辺センス電極についてなされる測定に影響する。その結果、容量Cだけが、変位可能要素のx及びy座標の決定に最小限の影響を与える。なぜなら、これらの座標は、全容量に対して正規化されるからである。
【0079】
いくつかの実施形態では、変位可能要素に加えられる垂直(またはz軸)方向の力を、測定値32から全容量(C)を求めることによって測定することができる。VREFがゼロ電位に設定されると仮定すれば、Cは式(8)によって与えられる。
【0080】
【数13】

【0081】
処理システム18は、所与の測定サイクルにおいて生成された全ての測定値の合計に基づいて、中央センス電極56に向かう変位可能電極56の動きを検出する。具体的には、変位可能電極の垂直方向の変位によって、変位可能電極の下のギャップが減少し、これによって、処理システム18によって測定される全容量が大きくなる。
【0082】
図14は、ユーザが、変位可能電極56に、時間Tの間接触力を与え、時間Tの間選択力を与える場合の全容量Cを時間の関数としてプロットしたグラフである。いくつかの実施形態では、処理システム18は、所与の測定サイクルにおいて生成された全ての測定値の合計が第1の閾値CTOUCHを超えたという判定に応答して、変位可能要素に外力が接触した(たとえば、外力が加わり始めた)ことを示す接触状態信号を生成する。処理システム18はまた、所与の測定サイクルにおいて生成された全ての測定値の合計が第1の閾値CTOUCHより大きな第2の閾値CSELECTを超えたという判定に応答して、選択を行うために変位可能要素が押下されたことを示す選択状態信号を生成する。
【0083】
V.結論
本明細書において詳述した実施形態は、意図しない傾ける力、及び、容量性センシング構造全体にわたる意図しないギャップのばらつきを補償するようにして、変位可能要素の位置を容量性センシングすることを含む変位型ポインティングデバイス及び方法を提供する。これらの実施形態のいくつかはまた、水平方向だけでなく垂直方向において変位可能要素に加えられるユーザ入力を高精度で検出可能である。具体的には、これらの実施形態のいくつかは、水平方向の測定と垂直方向の測定との間に大きなクロストークを生じることなく、3次元における変位可能要素の力によって誘起された変位を測定可能である。これらの測定は、変位可能要素に対する有線の電気接続を設けることなく行うことができる。さらに、これらの測定は、動作領域における水平方向の全移動範囲にわたって行うことができる。他の実施形態は、特許請求の範囲に含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】例示的な動作環境において、変位可能要素、センスシステム、測定システム、及び処理システムを備えるポインティングデバイスの1実施形態を示す図である。
【図2A】図1に示すポインティングデバイスの1実施形態の上面図である。
【図2B】図2Aに示すポインティングデバイスを線2B−2Bに沿って切り取った断面図である。
【図3A】図1に示すセンスシステムのセンス電極構造の1実施形態の上の所定の位置にある、破線で示すターゲット電極の1実施形態の上面図である。
【図3B】図1に示すセンスシステムのセンス電極構造の1実施形態の上の図3Aとは異なる位置にある、破線で示すターゲット電極の1実施形態の上面図である。
【図4A】変位可能電極を有するターゲット電極の1実施形態を備えた、図1のポインティングデバイスの1実施形態の断面図である。
【図4B】図4Aに示すポインティングデバイスの断面図であり、変位可能電極は、ユーザの指によって加えられた力に応答してセンスシステムに押し付けられるように動かされている。
【図5A】変位可能電極を有する中央ターゲット電極構造を囲む周辺ターゲット電極構造を備えるターゲット電極の1実施形態の上面図である。
【図5B】変位可能電極を有する中央ターゲット電極構造を囲む周辺ターゲット電極構造を備えるターゲット電極の1実施形態の底面図である。
【図6A】変位可能電極を有する弾性ターゲット電極の1実施形態を備える、図1のポインティングデバイスの1実施形態の断面図である。
【図6B】図6Aに示すポインティングデバイスの断面図であり、ターゲット電極を変形させてセンスシステムの表面領域に密着させている。
【図6C】図6Bに示すポインティングデバイスの断面図であり、変位可能電極は、ユーザの指によって加えられた力に応答してセンスシステムに押し付けられるように動かされている。
【図7】変位可能電極を有する中央ターゲット電極構造を囲む周辺領域に、個別の類似のセグメントを備えた周辺ターゲット電極構造を有するターゲット電極の1実施形態の底面図である。
【図8A】図1に示す変位可能要素の1実施形態の分解組立図面である。
【図8B】図1に示す変位可能要素の1実施形態の断面図である。
【図9A】図3A及び図3Bに示すセンス電極構造の実施形態の上に重ね合わされた2次元座標系の上面図である。
【図9B】中央センス電極を囲む3つの周辺センス電極を有するセンス電極構造の1実施形態の上面図である。
【図10】処理システム、並びに、図3A及び図3Bに示すターゲット電極及びセンス電極構造の等価回路に電気的に接続された測定回路のブロック図である。
【図11】図1に示す測定回路の1実施形態の回路図である。
【図12】図3A及び図3Bに示すターゲット電極及びセンス電極構造に入力信号を与えることによって測定値を取得する方法の1実施形態のフロー図である。
【図13】図12の方法にしたがって生成された測定値からディスプレイ制御信号を生成する方法の1実施形態のフロー図である。
【図14】図12の方法にしたがって測定サイクル中に測定された全容量(静電容量の合計)を時間の関数としてプロットしたグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポインティングデバイスであって、
中央センス電極を囲む周辺領域において周辺センス電極の配列を有するセンス電極構造と、
前記センス電極構造の上の動作領域内を移動可能な変位可能要素であって、前記センス電極と対向し、かつ、前記動作領域内の前記変位可能要素の各位置において前記中央センス電極の少なくともそれぞれの部分とオーバーラップするターゲット電極を備える、変位可能要素
を備える、ポインティングデバイス。
【請求項2】
前記ターゲット電極は、前記動作領域内の前記変位可能要素の各位置における前記中央センス電極と完全にオーバーラップする、請求項1のポインティングデバイス。
【請求項3】
前記センス電極は、前記動作領域内の前記変位可能要素の各位置において前記ターゲット電極と完全にオーバーラップするセンス領域全体に延びる、請求項1のポインティングデバイス。
【請求項4】
前記ターゲット電極は、変位可能電極を備える中央ターゲット電極構造を囲む周辺ターゲット電極構造を有し、前記変位可能電極は、前記周辺ターゲット電極構造とは実質的に独立して、前記センス電極構造に向かって、及び、前記センス電極構造から離れるように移動可能である、請求項1のポインティングデバイス。
【請求項5】
前記中央センス電極は、前記動作領域内の前記変位可能要素の各位置において前記変位可能電極と完全にオーバーラップする、請求項4のポインティングデバイス。
【請求項6】
前記中央ターゲット電極構造は、前記変位可能電極を前記周辺ターゲット電極構造に接続する弾性復元機構を備え、前記復元機構は、前記変位可能電極への外力の印加に応答して、前記変位可能電極を平衡位置の方に付勢するよう動作可能である、請求項4のポインティングデバイス。
【請求項7】
さらに、前記ターゲット電極と前記センス電極構造の間に誘電体スペーサを備える、請求項1のポインティングデバイス。
【請求項8】
前記誘電体スペーサは、前記センス電極構造に対向する前記ターゲット電極のそれぞれの隔置された表面領域に取り付けられた個別の誘電体フィルムから構成され、前記誘電体フィルムは、前記センス電極構造の表面上を摺動自在である、請求項7のポインティングデバイス。
【請求項9】
前記個別の誘電体フィルムの各々は、前記ターゲット電極の周辺の表面領域と、前記ターゲット電極の少なくとも1つの中央の表面領域に取り付けられる、請求項8のポインティングデバイス。
【請求項10】
前記ターゲット電極は、弾性を有しており、前記変位可能要素に加えられ、かつ、前記ターゲット電極を前記センス電極構造に近接させるように付勢する力に応答して、前記センス電極構造の表面領域に適合する、請求項1のポインティングデバイス。
【請求項11】
前記ターゲット電極は、個別のセグメントからなる周辺ターゲット電極構造によって囲まれた中央ターゲット電極構造を有し、前記個別のセグメントは、前記センス電極構造の表面領域に個別に適合する、請求項10のポインティングデバイス。
【請求項12】
変形させられていない状態では、前記周辺ターゲット電極構造のセグメントの各々は、前記センス電極構造に向かって曲げられる、請求項11のポインティングデバイス。
【請求項13】
前記センス電極に結合された測定回路であって、前記ターゲット電極と前記センス電極の各々との間のオーバーラップの度合いを示す測定値を生成するよう動作可能な測定回路をさらに備える、請求項1のポインティングデバイス。
【請求項14】
所与の測定サイクルにおいて、前記測定回路は、前記対応する周辺センス電極と前記中央センス電極にそれぞれの入力信号を印加することによって、前記周辺センス電極の各々についての測定値を生成するよう動作可能であり、前記測定値の各々は、前記ターゲット電極と前記対応する周辺センス電極との間のそれぞれのオーバーラップの度合いを示す、請求項13のポインティングデバイス。
【請求項15】
前記測定値からディスプレイ制御信号を生成するよう動作可能な処理システムをさらに備える、請求項14のポインティングデバイス。
【請求項16】
前記処理システムは、(i)前記動作領域に関して画定された座標軸の一方の側のみにおいて画定された位置を有する周辺センス電極について、前記所与の測定サイクルにおいて生成された測定値と、(ii)前記座標軸の他方の側のみにおいて画定された位置を有する周辺センス電極について、前記所与の測定サイクルにおいて生成された測定値との間の差分値を求め、かつ、前記所与の測定サイクルにおいて生成された全ての測定値の合計に対して前記差分値を正規化することによってそれぞれの変位値を求めるよう動作可能である、請求項15のポインティングデバイス。
【請求項17】
前記ターゲット電極は、中央ターゲット電極構造を囲む周辺ターゲット電極構造を有し、該中央ターゲット電極構造は、前記周辺ターゲット電極構造とは実質的に独立して、前記センス電極構造に向かって、及び、前記センス電極構造から離れるように移動可能な変位可能電極を有し、
前記処理システムは、前記所与の測定サイクルにおいて生成された全ての前記測定値の合計に基づいて、前記中央センス電極に向かう前記変位可能電極の動きを検出するよう動作可能であることからなる、請求項15のポインティングデバイス。
【請求項18】
前記処理システムは、前記所与の測定サイクルにおいて生成された全ての前記測定値の合計が第1の閾値を超えたという判定に応答して、変位可能要素に外力が接触したことを示す接触状態信号を生成するよう動作可能であることからなる、請求項17のポインティングデバイス。
【請求項19】
前記処理システムは、前記所与の測定サイクルにおいて生成された全ての前記測定値の合計が前記第1の閾値より大きな第2の閾値を超えたという判定に応答して、選択を行うために前記変位可能要素が押下されたことを示す選択状態信号を生成するよう動作可能であることからなる、請求項18のポインティングデバイス。
【請求項20】
前記ターゲット電極は、変形されていない平衡状態では概ね凸状であり、前記ターゲット電極が、印加された力によって前記センス電極構造に近接するように付勢されているバイアスされた状態では概ね平坦であり、
前記処理システムは、前記ターゲット電極が前記平衡状態から前記バイアスされた状態まで動く間に前記測定回路によって生成された測定値から、外力が前記変位可能要素に接触したことを示す接触状態信号を生成するよう動作可能であることからなる、請求項15のポインティングデバイス。
【請求項21】
前記ターゲット電極は、変位可能電極を有する中央ターゲット電極構造を囲む周辺ターゲット電極構造を有し、前記変位可能電極は、前記周辺ターゲット電極構造とは実質的に独立して、前記センス電極構造に向かって、及び、前記センス電極構造から離れるように移動可能であり、前記処理システムは、前記周辺ターゲット電極構造が前記センス電極構造に近接するように付勢された後において、前記中央ターゲット電極構造が前記センス電極構造に向かって動いている間に前記測定回路によって生成された測定値から、選択を行うために前記変位可能要素が押下されたことを示す選択状態信号を生成するように動作可能である、請求項20のポインティングデバイス。
【請求項22】
中央センス電極手段を囲む周辺領域において周辺センス電極手段の配列を備えるセンス電極構造手段と、
前記センス電極構造の上の動作領域内を移動するための変位可能要素手段であって、前記センス電極手段に対向し、かつ、前記動作領域内の前記変位可能要素手段の各位置において前記中央センス電極手段の少なくともそれぞれの部分とオーバーラップするターゲット電極手段を有する変位可能要素手段
を備える、ポインティングデバイス。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−97579(P2008−97579A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−186472(P2007−186472)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(506076606)アバゴ・テクノロジーズ・ジェネラル・アイピー(シンガポール)プライベート・リミテッド (129)
【Fターム(参考)】