説明

変化した持続性を有するクロストリジウム性神経毒

以下の(a)〜(c)からなるポリペプチドに関する。
(a)クロストリジウム毒素の神経毒成分における重鎖(HC)ドメインまたはその断片、
(b)クロストリジウム毒素の神経毒成分における第1の軽鎖(LC)ドメインまたはその断片、及び、
(c)クロストリジウム毒素の神経毒成分における少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)ドメイン。ここで、前記第1の軽鎖(LC)ドメイン及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)は、同一または互いに異なっても良く、前記第1の軽鎖(LC)ドメインの断片、及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)の断片は、依然としてタンパク質分解活性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対応する野生型の神経毒に比べてタンパク質構造が改変されたクロストリジウム性神経毒(例えばボツリヌス神経毒)に関する。ここでいうタンパク質構造の相違は、特には、活性期間のシフト、例えば、活性または持続性の長期化を引き起こす。
【背景技術】
【0002】
化学的除神経とは、神経がその標的組織(例えば、筋肉、腺または別の神経)に対して刺激を行うのを防止する作用物質を用いることをいう。化学的除神経は、例えば、フェノール、エチルアルコール、またはボツリヌス毒素でもって行われている。化学的除神経は、例えば、1つまたは2つの大きな筋肉やいくつかの小さな筋肉に局所的な痙縮のある患者に適している。化学的除神経は、筋肉のけいれんや痛み、および反射亢進などの症状を軽減するのに用いることができる。
【0003】
化学的除神経薬は、神経筋接合部における神経筋伝達をブロックすることで、麻痺や影響を受けた骨格筋の麻痺を引き起こす。「不全麻痺」との用語は、以下において、運動の部分的な損失、または運動障害に典型的な症状として定義される。不全麻痺は、アセチルコリンの合成またはその放出を阻害することによりシナプス前性に作用を行うことで、または、アセチルコリンレセプターにシナプス後性に作用を行うことで実現される。シナプス前性に作用を行う薬剤の例には、ボツリヌス毒、テトロドトキシン、及び、破傷風菌毒素がある。
【0004】
「化学的除神経」の用語も、化学的除神経薬によって直接または間接に引き起こされる全ての効果を包含する。そのため、当該化学的除神経薬の上流、下流または長期の効果をも包含する。したがって、シナプス前性効果も包含され、シナプス後性効果、組織効果、及び/または、脊髄または求心性神経を通じての間接的な効果も包含される。
【0005】
化学的除神経薬の一つであるボツリヌス毒素は、現在までに知られている最も毒性の強い化合物の1つであるが、従前、多数の疾患や障害の処置に用いられている。これらのうちのいくつかは、例えばPCT/EP2007/005754に記載されている。また、市販形態のA型ボツリヌス毒素は、「ボトックス(登録商標)」(アラガン社)の商品名、及び、「ディスポート(登録商標)」(イプセン社)の商品名でそれぞれ入手可能である。より高度に精製された神経毒からなり複合タンパク質を含まない単離された形態の医薬製剤は、商品名Xeomin(登録商標)で、ドイツでメルツファーマシューティカルズ社から市販されている。
【0006】
嫌気性グラム陽性バクテリアであるClostridium botulinumは、効能のあるポリペプチド神経毒であるボツリヌス毒を生成する。ボツリヌス毒は、ボツリヌス中毒と呼ばれる人間や動物の神経麻痺の病気を引き起こす。Clostridium botulinumの胞子は、土壌中に見いだされ、不適切に滅菌されて密封された、家庭缶詰工場の食品容器中で生育することがある。このことが、ボツリヌス中毒事件の多くの場合の原因である。ボツリヌス毒素A(BoNT/A)は、人に知られている最も致命的な天然の生物学的作用物質である。約50ピコグラムのボツリヌス毒素(精製された神経毒複合体)血清型Aが、マウスのLD50である。しかし、その毒性にもかかわらず、ボツリヌス毒素複合体、並びに純粋な神経毒は、多数の病気の治療剤として用いられている。
【0007】
ボツリヌス毒素は、溶解したクロストリジウム培地から放出され、一般にボツリヌス毒素の毒性の原因となっている蛋白質(「神経毒成分」)の形態にて、他の細菌性蛋白質(非毒性の「複合タンパク質」または「クロストリジウム性蛋白質」)に結合している。これらは、一緒になって、「ボツリヌス毒素複合体」と呼ばれる毒素複合体を形成する。ボツリヌス毒素複合体は、自然界では準安定である。というのは、毒素複合体の安定性が、例えば塩濃度および/またはpHといった、種々の要因に依存するからである。複合体の分子量は、30万〜約90万、すなわち300 kDa〜約900 kDaである。この複合化蛋白質は、例えば種々の赤血球凝集素である。毒素複合体の蛋白質は、それ自身が毒性でないが、神経毒成分に安定性を与えると考えられており、ボツリヌス中毒の経口毒性の原因となっている。また、ボツリヌス毒素には、抗原性の異なる7つの血清型がある。すなわち、ボツリヌス毒素A,B,C1,D,E,F及びGがある。ボツリヌス毒素A,B,C1,D,E,FまたはGに言及する場合、いずれも、血清型A1,A2,A3,A4などの既知の変異体を含む。
【0008】
クロストリジウム毒素の高い毒性の原因となっている成分は、神経毒成分やタンパク質(分子量が約15OkD、血清型によっては正確な分子量)である。いくつかの異なる血清型は、そのアミノ酸配列が異なるが、いずれも、次の類似の構造を持っている。1つ以上のジスルフィド結合によって結合されている場合がある約5OkDaの軽い分子鎖(軽鎖LC)と約100kDaの重い分子鎖(重鎖HC)である(総説としては例えば、Simpson LL, Ann Rev Pharmacol Toxicol. 2004; 44:167-93を参照)。ボツリヌス毒素複合体の神経毒成分は、最初に単一のポリペプチド鎖として形成されている。血清型Aの場合には、例えば、ポリペプチドに、タンパク質分解処理を施すことで、重鎖と軽鎖とがジスルフィド結合によってリンクされた二鎖(dichain)ポリペプチドの形の活性化ポリペプチドとなる。
【0009】
ヒトでは、重鎖は、シナプス前・コリン作動性の神経末端への結合と、細胞中への毒素の内部移行を媒介する。軽鎖は、毒性作用の原因をなすものであり、亜鉛エンドペプチダーゼとして機能し、膜融合を担う特定のタンパク質(SNARE複合体)を切断する作用を行うと考えられる。例えば、Montecucco C, Shiavo G., Rosetto O: The mechanism of action of tetanus and Botulinum neurotoxins. Arch Toxicol. 1996; 18 (Suppl.): 342-354を参照。
【0010】
「ボツリヌス毒素」の語は、本明細書を通して、いかなる他のクロストリジウムタンパク質も含まない神経毒成分を指すが、「ボツリヌス毒素複合体」をも指す。「ボツリヌス毒素」の語は、毒素複合体と神経毒成分との区別が必要でないが望まれない場合に用いられる。「BoNT」また「NT」は、それぞれ、「ボツリヌス神経毒素」または「神経毒」に一般に用いられる略語である。ボツリヌス毒素複合体の神経毒性サブユニットは、本文書において、「神経毒成分」または「複合体形成タンパク質を含まない神経毒成分」という。ボツリヌス毒素A型およびB型の神経毒成分の生産については、例えば、国際特許出願WO 00/74703に記載されている。
【0011】
いくつかの血清型は、治療効果の持続期間が異なる。ボツリヌス毒素A型の通常の活性期間は、ヒトに筋肉注射された場合、3カ月と4カ月の間である。単一の例では、活性期間が12カ月以上にも延長し得た。汗腺の治療中でも、27カ月の活性が報告されている(Bushara K., botulinum toxin and rhinorrhea, Otolaryngol. Head. Neck. Surg., 1996; 114(3):507 and The Laryngoscope 109: 1344 1346:1999)。ボツリヌス毒素C1型の活性期間は、ボツリヌス毒素Aの活動期間と同程度である(Eleopraら、1997&2002)。驚くべきことに活性期間は、多くのげっ歯類(例えばマウス)で、ヒトと比べて短い。すなわち、およそ、ボツリヌス毒素Aで1〜2カ月、ボツリヌス毒素Bで21日、ボツリヌス毒素Eで4日だけである(DePaivaら1999年、Juradinskiら2001)。
【0012】
フォランらは、2003年に、生体外でのラットの小脳神経に対する活性期間を調べ、グルタメート・エキソサイトーシス阻害の半減期が、次のようであることを見出した。すなわち、ボツリヌス毒素Aで31日より長く、ボツリヌス毒素C1型で25日より長く、ボツリヌス毒素B型で約10日であり、ボツリヌス毒素F型で約2日であり、ボツリヌス毒素E型で0.8日だけであることを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】de Paiva A1 Meunier FA, Molgo J, Aoki KR, Dolly JO. Related Articles, Functional repair of motor endplates after botulinum neurotoxin type A poisoning: biphasic switch of synaptic activity between nerve sprouts and their parent terminals. Proc Natl Acad Sci U S A. 1999; 96(6):3200-5.
【非特許文献2】E. L. V. Harris (Ed.), S. Angal (Ed.), "Protein Purification Methods: A Practical Approach", Oxford University Press (December 1989), ISBN- 10: 019963002X, ISBN-13: 978-0199630028
【非特許文献3】Eleopra R, Tugnoli V, Quatrale R, Gastaldo E, Rossetto O, De Grandis D, Montecucco C. Botulinum neurotoxin serotypes A and C do not affect motor units survival in humans: an electrophysiological study by motor units counting. Clin Neurophysiol. 2002; 113(8): 1258-64.
【非特許文献4】Eleopra R, Tugnoli V, Rossetto O, Montecucco C, De Grandis D. Botulinum neurotoxin serotype C: a novel effective botulinum toxin therapy in human. Neurosci Lett. 1997;224(2):91-4.
【非特許文献5】Foran PG, Mohammed N, Lisk GO, Nagwaney S, Lawrence GW, Johnson E, Smith L, Aoki KR, Dolly JO. Evaluation of the therapeutic usefulness of botulinum neurotoxin B, C1 , E, and F compared with the long lasting type A. Basis for distinct durations of inhibition of exocytosis in central neurons.J Biol Chem. 2003 Jan 10;278(2): 1363-71. [Epub 2002 Oct 14]
【非特許文献6】John M. Walker, Humana Press; ,,The Protein Protocols Handbook (Methods in Molecular Biology)", Volume: 2 (February 2002), ISBN-10: 0896039404, ISBN-13: 978-0896039407
【非特許文献7】Jurasinski CV1 Lieth E, Dang Do AN, Schengrund CLCorrela- tion of cleavage of SNAP-25 with muscle function in a rat model of Botulinum neurotoxin type A induced paralysis Toxicon. 2001; 39(9): 1309-15
【非特許文献8】Robert K. Scopes, "Protein Purification: Principles and Prac- tice", Verlag: Springer, Berlin; Auflage: 3 Sub (Januar 1994), ISBN-10: 0387940723, ISBN-13: 978-0387940724
【非特許文献9】The present invention is now further exemplified by way of the non- limited examples recited herein under.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ボツリヌス毒素A型の活性期間が、例えば、ヒトのジストニア(例えば斜頸、瞼けいれん)の治療中には、3カ月と4カ月の間である。この期間の後、患者はボツリヌス毒素を含有する薬物の注射を、さらに受ける必要がある。神経毒の活性期間を延長することは、患者にとり、大きな利点があるだろう。活性期間の延長により、1年間に必要な注射の回数が減るであろうし、クロストリジウムタンパク質の総投与量も同様に減るであろう。このことは、また、外来タンパク質に対する抗体の産生のリスクを減らすこととなるであろう。したがって、より長い持続性を有するボツリヌス毒素を提供することが望まれる。
【0015】
しかし、常に長期の麻痺が望まれているのではない。例えば、特定の美容処置では、一時的な「微調整」だけが必要なこともある。医師が持続性の低減を達成するためには、従来技術の方法によると、投与量を減らすか、または、血清型を切り替えるかのいずれかに制限されていた。これらの技術については、次のことが明らかになっている。満足のいかない結果になるのであり、活性動態と、異なる神経毒血清型による抗原性との両方についての深い知識が求められる。したがって、「生来の」持続性の調整を有する神経毒を提供することは、大幅な改良となるであろう。
【0016】
米国特許出願公開US2003/0219462、ヨーロッパ特許出願EP1849801及び国際出願公開WO02/08268は、元の神経毒素にロイシン又はチロシンベースのモチーフが加えられた、改良ボツリヌス毒素を開示する。
【0017】
これらの変更のアイデアは、次のような観察結果に基づいている。すなわち、特定のロイシン又はチロシンベースのモチーフは、特定のサブタイプの神経毒成分の軽鎖が標的細胞の内膜に局在させることを可能にするという観察結果に基づいている。このメカニズムについて、特定の軽鎖の持続性を変更することであるとの仮説に立てられた。しかし、現在に至るまで、著者らは、このような効果について何らの証拠も提供できず、新たな実験は、仮説の全体が不正確であることを示唆している。
【0018】
また、ある場合にモチーフの付加が膜への局在化を引き起こすとしても、このようなアプローチは、ボツリヌス毒素Aの改変に適用することができない。これは、次の理由のためである。ボツリヌス毒素A型の元の軽鎖が、すでに細胞内膜に局在化されており、したがって、さらなる連結は、何らの追加的な利点を与えるものでない。
【0019】
したがって、本発明は、別の道筋を通った。本出願に開示されているように、以下のことが明らかになった。タンパク質分解活性を依然として有する神経毒への、2番目の軽鎖の付加は、活性期間の改変を引き起こした。使用される血清型の組み合わせに応じて、期間は延長され得る。これにより、一人一人に合わせた神経毒性を製造することを可能にする。血清型が持続性とは独立している広範囲の神経毒性を医師に提供し、より標準化された治療を可能にすることが想定されている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、クロストリジウム神経毒に関し、一実施形態では、ボツリヌス毒素であって、増大された活性、または、引き延ばされた活性、例えば持続性を有するものに関する。そのため、本出願の第1の態様は、以下からなるポリペプチドに関する:
(a)クロストリジウム毒素の神経毒成分における重鎖(HC)ドメインまたはその断片、
(b)クロストリジウム毒素の神経毒成分における第1の軽鎖(LC)ドメインまたはその断片、及び、
(c)クロストリジウム毒素の神経毒成分における少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)ドメイン、ここで、前記第1の軽鎖(LC)ドメイン及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)は、同一または互いに異なっても良く、前記第1の軽鎖(LC)ドメインの断片、及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)の断片は、依然としてタンパク質分解活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
一実施形態ではユニットおよび/またはドメインが、結合、ペプチドリンカ、化学リンカ、ジスルフィド結合を介して、またはこれらのうちの2以上の組み合わせを介して接続されている。
【0022】
一実施形態では、前記軽鎖(LC)ドメインおよび/または前記重鎖(HC)ドメインのアミノ酸配列が、血清型A、B、C、D、E、FまたはGのボツリヌス毒素神経毒成分のアミノ酸配列と、少なくとも50%同一である。
【0023】
別の実施形態では、前記軽鎖(LC)ドメインおよび/または前記重鎖(HC)ドメインのアミノ酸配列が、破傷風毒素(tetanospasmin)のアミノ酸配列と、少なくとも50%同一である。
【0024】
一実施形態では、前記の第1および/または第2の軽鎖(LC)ドメインおよび/または前記重鎖(HC)ドメインが、少なくとも一つの改変を含む。
【0025】
前記改変が、一実施形態では変異であり、他の実施形態では欠失であり、さらに他の実施形態では挿入であり、さらに他の実施形態では付加である。または、さらに他の実施形態ではアミノ酸交換である。または、さらに他の実施形態では、これらの二つ以上の組み合わせである。
【0026】
一実施形態によると、本発明は、次のようなポリペプチドに関する。すなわち、神経毒におけるガングリオシド結合ドメインおよび/あるいはタンパク質受容体結合ドメインについて、重鎖(HC)ドメインを得るのに用いた野生型の神経毒よりも結合能力を向上させたポリペプチドに関する。
【0027】
一実施形態によると、ポリペプチドは、以下のものよりなる群から選ばれる1種である。
【0028】
LCBoNT/A-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/C-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/B-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/A-LCBoNT/C-HCBoNT/C, LCBoNT/C-LCBoNT/C-HCBoNT/C, LCBoNT/B-LCBoNT/C-HCBoNT/C 及び LCTeNT-LCBoNT/A-HCBoNT/A。
【0029】
さらに他の実施形態では、改変が化学修飾である。ここで、化学修飾は、リン酸化、PEG化、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、メチル化、アセチル化、脂質化、水酸化、アミド化からなる群より選択される一つであり得る。または、さらなる実施形態において、これらの2つ以上の組み合わせであり得る。さらなる実施形態では、脂質化が、ミリストイル化、パルミトイル化、イソプレニル化、または、グルコシル-イノシトールリン脂質の結合であり得る。または、さらなる実施形態では、これらのうちの2つ以上の組み合わせであり得る。
【0030】
本発明は、また、上記のポリペプチドのいずれかに特異的な抗体を開示する。
【0031】
本発明は、上記のポリペプチドのいずれかをコードする核酸をも開示する。本発明はさらに、前記核酸からなるベクターまたはその断片を開示する。前記核酸または前記ベクターを含む宿主細胞もここで開示される。
【0032】
本発明は、また、ポリペプチドを生産する方法であって、以下のステップからなるものを開示する。すなわち、上述の宿主細胞を培養するステップと、前記核酸またはベクターによりエンコードされた前記ポリペプチドを産生し精製するステップとを含み、また、前記ポリペプチドから医薬組成物を処方するステップを追加可能な選択肢とする。
【0033】
本発明は、上述のポリペプチド、または上述の方法により得られるポリペプチドからなる組成物を開示する。また、本発明は、薬学的に許容される担体をさらに含む前記組成物をも開示する。別の実施形態では、さらに、pH緩衝剤、賦形・添加剤、凍結保護剤、防腐・保存剤、鎮痛剤、安定剤またはそれらの任意の組み合わせを含む組成物をも開示する。一実施形態では、組成物が、凍結乾燥物として提供される。他の実施形態では、組成物が溶液として提供される。
【0034】
本発明は、また、治療法で使用する前記組成物を開示する。
【0035】
本発明は、治療法のための医薬の製造のために前記組成物を使用することを開示する。
【0036】
本発明は、局所的なジストニア、痙縮、または分泌抑制により治療可能な状態を治療することを含む前記治療法を開示する。
【0037】
本発明は、美容整形術のために前記組成物を用いることを開示する。そのような美容整形術の範囲内において、これは、特には、しわ、または眉間のしわ筋といった治療可能な状態にある哺乳類を治療することであるだろう。
【0038】
本発明は、以下に関する。
【0039】
以下からなるポリペプチド:
(a)クロストリジウム毒素の神経毒成分における重鎖(HC)ドメインまたはその断片、
(b)クロストリジウム毒素の神経毒成分における第1の軽鎖(LC)ドメインまたはその断片、及び、
(c)クロストリジウム毒素の神経毒成分における少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)ドメイン、ここで、前記第1の軽鎖(LC)ドメイン及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)は、同一または互いに異なっても良い。
【0040】
特には、本発明は、以下からなるポリペプチドに関する:
(a)クロストリジウム毒素の神経毒成分における重鎖(HC)ドメインまたはその断片、
(b)クロストリジウム毒素の神経毒成分における第1の軽鎖(LC)ドメインまたはその断片、及び、
(c)クロストリジウム毒素の神経毒成分における少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)ドメイン。ここで、前記第1の軽鎖(LC)ドメイン及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)は、同一または互いに異なっても良く、前記第1の軽鎖(LC)ドメインの断片、及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)の断片は、依然としてタンパク質分解活性を示す。
【0041】
以外にも以下のことが知られた。前述のように定義した、クロストリジウム神経毒の少なくとも一つの重鎖(HC)と少なくとも一つの軽鎖(LC)とからなるポリペプチドに1つまたは複数の(さらなる)軽鎖(LC)を追加すると、得られたポリペプチドは、野生型毒素と比較して増大した、すなわち、より長期の持続性を有するものとなった。
【0042】
理論に縛られることなく、以下のような仮説が立てられた。細胞表面に結合した後、両方の軽鎖が細胞内へと移行して、細胞内におけるタンパク質分解活性タンパク質の濃度を増加させる。この結果、活性と持続性の両方ともが増大する。
【0043】
すなわち、本発明のポリペプチドについて、長期の持続性が望まれている場合、技能者は、重鎖(HC)と軽鎖(LC)との特定の組み合わせを用いること、例えば、長期持続性を有する血清型のものに由来する軽鎖(LC)ドメインを用いることについて、教示を受ける。他の実施形態では、より短い持続性が、特定の他の軽鎖(LC)ドメインまたは断片を組み合わせることにより、例えば、より短い持続性を有する血清型に由来するものを用いることにより実現される。
【0044】
本明細書で用いる「持続性」との語は、神経毒成分の作用期間を表す。一般に、これは、活性剤が、その初期活性と比較して半分だけの活性を示すまでの期間である。したがって、「持続性」との語は、「活性の半減期」または「代謝安定性の半減期」と同義語として用いることができる。「代謝安定性の半減期」は、代謝過程に起因して開始時のタンパク質濃度のちょうど半分が活性である時点、すなわち、タンパク質の代謝されるまでの半減期と定義される。タンパク質の半減期は、治療効果の持続時間と相関するから、「持続性」の語は、間接的に、細胞機能を有する神経毒成分によって引き起こされる干渉や影響の持続時間をも包含する。
【0045】
技能者は、持続性を決定するための種々のアッセイ法を知っている。本発明の教示によると、持続性は、マウス走行アッセイで決定することができる(Keller JE., 2006, Neuroscience. 139(2):629-37)。このアッセイ法は、持続性と運動活動とを相互に関連づけることを可能にする。このアッセイ法に代えて、持続性をSNAP-25切断アッセイで決定することもできる。SNAP-25切断アッセイは、タンパク質分解活性と持続性とを相互に関連づけることを可能にする。ここで述べたいずれかのアッセイ法にて持続性の増大が確認されたならば、持続性の増大の効果が実現されている。これには、SNAP-25切断アッセイが好ましい。
【0046】
本明細書において、増大した持続性の語と、引き延ばされた持続性の語とを、相互に置き換え可能なものとして用いる。
【0047】
本発明のポリペプチドにおける、追加の軽鎖(LC)または軽鎖(LC)断片が持続性に関して及ぼす影響を決定するためには、本発明のポリペプチドと、前記の追加の(さらなる)軽鎖(LC)を有しない対応するポリペプチドとを比較する。この対応するポリペプチドは、例えば、本発明のポリペプチドから追加の軽鎖(LC)を欠失させたもので良い。当技術分野における技能を有する者に知られている持続性アッセイ法は、いずれも、持続性を決定するのに用いることができる。一実施形態において、持続性の決定は、上記に説明したようにして、または、本発明を例示により説明する実施例にて説明したようにして行われる。
【0048】
他の実施形態において、作用期間の短い神経毒の血清型について、持続性を増大させることが想定される。例えば、血清型Eの持続性は、例えば血清型Aといった、作用期間の長い神経毒の軽鎖(LC)を追加することにより引き延ばすことができる。このようにして、野生型ボツリヌス毒素Aと同様の持続性を有する神経毒を作成することができる。神経毒の抗原エピトープのほとんどが、重鎖(HC)サブユニットに位置していることから、このような修飾・改変は、特定の血清型に対する免疫応答が発生した患者に神経毒を投与するのに用いることができる。このようにして、以前の活性期間を維持することで、異なる血清型を提供するという利点を組み合わせることができる。
【0049】
前述のように「重鎖(HC)ドメイン」の語及び「軽鎖(LC)ドメイン」の語は、野生型または組換え由来のいずれかの神経毒の神経毒成分における、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)をそれぞれ意味する。また、いくつかの実施形態において、重鎖(HC)ドメイン及び軽鎖(LC)ドメインは、異なる血清型および/または異なる毒素に由来する。この定義には、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の断片も包含されている。また、重鎖(HC)ドメイン及び軽鎖(LC)ドメインは、サブドメインに、さらに分割することができる。
【0050】
神経毒成分についての「さらなる軽鎖(LC)ドメインまたは断片」との語は、本明細書において、1つまたは複数の軽鎖(LC)ドメイン、例えば第2の軽鎖(LC)ドメインを意味する。本発明の教示によれば、本発明のポリペプチドは、神経毒成分についての、さらなる追加のLCドメインまたは断片を含めることができる。例えば、本発明のポリペプチドは、クロストリジウム毒素の神経毒成分における重鎖(HC)ドメインと、該神経毒成分における第1の軽鎖(LC)ドメインまたは断片と、該神経毒成分における第2の軽鎖(LC)ドメインまたは断片と、該神経毒成分における第3の軽鎖(LC)ドメインまたは断片とを含むことができる。
【0051】
一実施形態において、前記第1の軽鎖(LC)ドメイン及び前記さらなる軽鎖(LC)ドメインについての断片は、野生型軽鎖(LC)のタンパク質分解活性を示す。
【0052】
増大した持続性についての前記の効果を得るためには、米国特許出願公開US2003/0219462、ヨーロッパ特許出願EP1849801及び国際公開WO 02/08268に開示されているようなロイシン又はチロシンベースのモチーフが、必要でなく、望まれてもいない。したがって、一実施形態では、追加の軽鎖(LC)が、前記モチーフのいずれをも有していない。
【0053】
一実施形態において、改変された神経毒は、7つのアミノ酸からなるロイシンベースのモチーフを含有しない。ここで、ロイシンベースのモチーフにおける、アミノ末端から始まる最初の5つのアミノ酸が「アミノ酸の5つ組(クインテット)」をなし、これに続く2つのアミノ酸が「アミノ酸の2つ組」をなす。また、ここで、「アミノ酸の5つ組(クインテット)」は、グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含み、「アミノ酸の2つ組」は、イソロイシン及びロイシンからなる群より選ばれる少なくとも1つのアミノ酸を含む。
【0054】
別の実施形態において、改変された神経毒は、FEFYKLL, EEKRAIL, EEKMAIL, SERDVLL, VDTQVLL, AEVQALL, SDKQNLL, SDRQNLI1 ADTQVLM, SDKQTLL, SQIKRLL, ADTQALL 及び NEQSPLLのいずれのシーケンスも含まない。
【0055】
本明細書において、「と同一」との語は、同一のアミノ酸配列を有する軽鎖(LC)ドメイン、すなわち、アミノ酸配列が100パーセント同一であることを意味する。したがって、例えば、第2の軽鎖(LC)ドメインについて、本明細書で用いられているように、「同一」であるというのは、第1の軽鎖(LC)ドメインと、アミノ酸配列が同一であることを意味する。一方、「異なる」第2の軽鎖(LC)ドメインとは、第1の軽鎖(LC)ドメインと比較して配列の同一性が100%未満である場合、例えば99.95パーセント以下であることを意味する。「異なる軽鎖(LC)ドメイン」とは、異なる血清型の軽鎖(LC)ドメイン、または、アミノ酸配列が第1の軽鎖(LC)ドメインとは異なる軽鎖(LC)ドメイン、例えばアミノ酸置換を有する軽鎖(LC)ドメインを意味する。異なる軽鎖(LC)ドメインの他の例は、N(窒素)末端またはC(炭素)末端でのトランケーション、または、内部欠失を有する軽鎖(LC)ドメインである。異なる軽鎖(LC)ドメインの、さらに他の例は、化学修飾を有する軽鎖(LC)ドメインである。したがって、異なる軽鎖(LC)ドメインは、第1の軽鎖(LC)ドメインと同一の血清型または異なる血清型にそれぞれ由来するものであり得る。以上のことは、「第3の」もの、または、いずれかの他の軽鎖(LC)ドメインにもあてはまる。
【0056】
一実施形態において、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の血清型が、いずれも、ボツリヌス毒素A1型であり、他の実施形態において、第2の軽鎖(LC)が、血清型C1のものである。しかし、当技術分野の技能を有する者にとり、A、B、C1、D、E、F及びGの血清型の全ての可能な組み合わせが本願によってカバーされていることが明らかであり、当該技能を有する者は、異なる血清型についての文献記載の持続性に基づき、適当な組み合わせを選択することができる。本発明において、血清型の組み合わせも、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の数も、限定されるものでない。したがって、別の実施形態では、長い融合タンパク質、すなわち3つ以上のサブユニットを有する融合タンパク質が想定される。例えば、3,4,5,6,7,8,9または10個の軽鎖(LC)ドメインからなるタンパク質鎖状体(コンカテマー)が想定される。
【0057】
重鎖(HC)ドメイン及び軽鎖(LC)ドメイン、例えば、ボツリヌス菌の神経毒A型及びC型における重鎖(HC)ドメイン及び軽鎖(LC)ドメインは、異なるサブドメインからなる。重鎖(HC)ドメインは、例えば、3つのサブドメインからなる。すなわち、アミノ末端の、50kDaの転移サブドメインHCNと、これに続く25kDaのHCCNサブドメインと、カルボキシ末端に位置する25 kDaのHCCCサブドメインとからなる。HCNドメイン、HCCNドメイン及びHCCCドメインは、まとめて、重鎖(HC)ドメインと呼ばれる。
【0058】
ボツリヌス毒素A(BoNT/A)の異なる血清型、及びそれらのバリエーションについて、それぞれのドメインのそれぞれのアミノ酸範囲を表1に示す。;
表1:ボツリヌス毒素Aのサブタイプ1〜4についてのアミノ酸配列のデータベース受入番号、及び、各ドメインにおけるアミノ酸範囲。
【表1】

【0059】
本明細書において用いられる「軽鎖(LC)ドメインの断片」の語は、生物学的活性を有する、軽鎖(LC)ドメインの断片をいう。本明細書において用いられるように、生物学的活性を有する断片は、好ましくは野生型の、タンパク質分解活性を(依然として)示す断片である。この断片は、SNARE複合体のポリペプチドを切断することができるものであり、例えば、シンタキシン、SNAP-25またはシナプトブレビンである。そのため、生物学的活性は、例えば、SNAP-25プロテアーゼアッセイ、LD50アッセイ、HDA(ヒストンデアセチラーゼ)アッセイなどによって検査することができる。したがって、SNAP-25アッセイにおいて、対応する野生型の軽鎖(LC)ドメインの、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%より大きく、100%以下のタンパク質分解活性を示す、いずれの軽鎖(LC)ドメインの断片も、本発明の範囲内にて「生物学的に活性である」または「タンパク質分解活性を示す」と判断される。
【0060】
適したSNAP-25アッセイは、例えば、「GFP-SNAP25蛍光放出アッセイ」(WO/2006/020748)、または、「改良SNAP25エンドペプチダーゼ・イムノアッセイ」(Jones et al., Journal of Immunological Methods, Volume 329, Issues 1-2, 1 January 2008, Pages 92-101)である。
【0061】
本明細書において用いられる「重鎖(HC)ドメインの断片」の語は、生物学的活性を有する、重鎖(HC)ドメインの断片をいう。より具体的には、当該断片が導き出されたところの天然の重鎖(HC)ドメインの受容体に依然として結合することができる断片である。また、この断片は、これに付着した軽鎖(LC)ドメインを、転位置させることができる断片である。
【0062】
したがって、断片は、例えば、1、2、3、5、または、10、50または100以下のアミノ酸が欠失したポリペプチドである。ここで、欠失は、N(窒素)末端またはC(炭素)末端でのトランケーション、または、内部欠失であり得る。
【0063】
いくつかの実施形態HCおよび/またはLCドメインで
いくつかの実施形態において、重鎖(HC)ドメイン及び/または軽鎖(LC)ドメインは、例えば、変異、欠失、挿入、付加、またはアミノ酸交換によって、さらに改変されている。さらなる実施形態において、重鎖(HC)ドメイン及び/または軽鎖(LC)ドメインは、さらに化学的に修飾されている。例えば、リン酸化、ペグ(PEG)化、グリコシル化、リン酸化、硫酸化、メチル化、アセチル化、脂質化(ミリストイル化、パルミトイル化、イソプレニル化、または、グルコシル-イノシトールリン脂質の結合)、水酸化、アミド化、または任意の他の適切な修飾であり得る。また、ガングリオシド結合ドメインおよび/または神経毒素の結合ドメインは、一実施形態において、結合能力が、重鎖(HC)ドメインを導き出したところの野生型の神経毒素に比べて、高くなるように改変が加えられる。いくつかの実施形態では、重鎖(HC)及び/または軽鎖(LC)が、タグ配列をふくむ。すなわち、簡易な精製操作を可能にする、別のアミノ酸配列を含む。
【0064】
「精製方法」の語は、タンパク質精製の技術分野で知られているすべての方法をカバーする。神経毒の精製方法の例は、本明細書に引用により組み込まれているDasgupta&Sathyamoorthyの刊行物、及び、WO2000074703である。組み換え型の神経毒性分の生成に有用なタンパク質の精製方法のさらなる指針としては、「先行技術文献」の欄に記載した以下の文献が引用される。Walker et al., 2002; Harris et al. 1989 and Scopes et al., 1994。
【0065】
「ポリペプチドの生産」の語は、ポリペプチドの産生に必要な全てのステップを包含する。すなわち、例えば、コード化核酸の作成、該核酸のベクターへの組み込み、ポリペプチドの生体外及び/または宿主細胞中での発現、ポリペプチドの生体外及び/または生体内での改変、ポリペプチドの精製、及び/または、当該ポリペプチドを含む組成物の産生を含む。そのため、「発現」または「遺伝子発現」の語は、本明細書において、DNA配列などの、遺伝子中の遺伝可能な情報が、タンパク質またはRNAといった機能的な遺伝子生成物に変換されるロセスとして定義される。
【0066】
一実施形態では、次のことが想定されている。本発明のポリペプチドに、追加の受容体結合部位を組み込むことにより、持続性の増大に加えて、新規の応用を可能にする特性を与える。例えば、アレルギーや痛みの治療などに適した特異的結合部位を神経毒素に与える(WO 2007/13839)。これに代えて、重鎖(HC)ドメイン内に位置する天然の結合部位を、本発明のポリペプチドを標的にすべく、特定の細胞型に改変することができる。より具体的な例では、本発明の重鎖(HC)ドメイン内についてである。
【0067】
一実施形態において、第2の軽鎖(LC)は、第1の軽鎖(LC)の窒素(N)末端に接続されている。この接続は、直接に結合(bond)を介して、または間接的にリンカーを介して行うことができる。一般的にドメイン間の結合は、異なるサブユニットを共に保持するのに適したいかなる媒体を介しても行うことができ、とりわけ、ペプチドリンカー、化学リンカーまたはジスルフィド結合を介する結合、または、直接結合からなる。この結合は、切断可能または切断不能である。切断不能な結合は、細胞への取り込み後に安定である。言い換えれば、切断不能な化学結合により結合されたいくつかの軽鎖(LC)ドメインは、細胞質中への転位置の後も、互いに結合したままである。
【0068】
「結合(bond)」または「結合する(bonding)」との語は、異なるポリペプチド鎖を互いに接続する可能性を表す。一実施形態において、前記結合は、化学結合であり、例えば、共有結合(例えばジスルフィド結合)、極性共有結合、イオン結合、配位共有結合、屈曲結合、3c-2e及び3c-4E結合、1電子及び3電子結合、芳香族結合、金属結合、分子間結合、永久双極子―永久双極子間結合、水素結合、瞬間双極子−誘導双極子間(ファンデルワールス)結合、及び/または、カチオン-π相互作用である。前述のように、「結合(bond)」などの定義は、直接結合と、化学リンカーを介した間接的な結合とを包含する。
【0069】
本明細書において「化学リンカ」は、化学的手段により産生される分子媒体であって、ポリペプチドの異なるサブユニットを接続するのに適したものとして定義される。これらの化学結合は、当該技術分野で知られている二官能性結合剤などによって実現することができる。他の実施形態において、化学結合は、ジスルフィド結合により、野生型における重鎖(HC)と軽鎖(LC)の間の接続と同様に、実現される。さらに他の実施形態において、ジスルフィド結合の導入は、重鎖(HC)のシステイン含有シーケンス(例えばボツリヌス毒素Aのアミノ酸449〜459)を軽鎖(LC)に導入することにより実現される。このような化学リンカーについての、さらなる非限定的な例には、カルボン酸、エトキシル化の多価アルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコールなどである。
【0070】
本明細書において「ペプチドリンカー」は、本発明のポリペプチドにおける異なるサブユニットを互いに連結する、アミノ酸長が1、2、3、4、5、10、20、30、40、50、または100までのペプチドとして定義される。一実施形態では、前記ペプチドリンカが、少なくとも2つのシステインを含む。他の実施形態では、ペプチドリンカが、1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、または20個までのヒスチジンを含む。他の実施形態では、ペプチドリンカが、プロテアーゼ切断部位である。さらに他の実施形態では、ペプチドリンカが、組換え法により、完全な融合タンパク質の産生を可能にする。
【0071】
他の実施形態において、プロテアーゼ切断部位は、例えば、第1の軽鎖(LC)と第2の軽鎖(LC)との間に導入することができる。例えば、大腸菌プロテアーゼで切断することができる部位を、例えばDE102005002978に挙げられているようにして導入することができる。但し、これらのプロテアーゼに限定するものでない。他の実施形態において、プロテアーゼ切断部位は、以下のいずれかのプロテアーゼまたはそれらの任意の組み合わせによる認識部位である。すなわち、セリンプロテアーゼ(例えば、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、ズブチリシン)、スレオニンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ(例えば、パパイン、カテプシン、カスパーゼ、カルパイン)、アスパラギン酸プロテアーゼ(例えば、HIVプロテアーゼ、キモシン、レニン、カテプシン、ペプシン、プラスメプシン)、メタロプロテアーゼ、または、グルタミン酸プロテアーゼ、またはそれらの任意の組み合わせによる認識部位である。
【0072】
当業者ならば次のことを理解するであろう。すなわち、本発明は、野生型の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)を用いるのにのみ適しているのではなく、組換えペプチド及び/またはハイブリッド神経毒成分も包含されることにつき、当業者が理解するであろう。したがって、一実施形態において、少なくとも一つの重鎖(HC)と、少なくとも第1の軽鎖(LC)と、少なくとも第2の軽鎖(LC)との融合タンパク質であって、用いられたドメインのうちの少なくとも一つ、いくつかまたは全てが遺伝子組み換えによって産生されたものが想定される。他の実施形態において、ハイブリッドペプチド、すなわち、異なる血清型のサブドメインから構成されたペプチドを用いることが想定される。例えば、重鎖(HC)が、異なる血清型についての、または、他の毒素(例えば、破傷風毒素、コレラ毒素または百日咳毒素)についての、結合及び転位置のドメインからなるから構成されることが想定される。
【0073】
他の実施形態において、他のクロストリジウム毒素の軽鎖(LC)、例えば、以下のようなクロストリジウム毒素の軽鎖(LC)を用いることがでできる。クロストリジウム・ビファーメンタンス、別の血清型のクロストリジウム・ボツリヌム(ボツリヌス菌)、クロストリジウムディフィシル、クロストリジウムヒストリチカム、クロストリジウム・クライベリ、ノーヴィ菌、クロストリジウム オーディマティエンス、ウエルシュ菌、クロストリジウム‐ラモーサム、クロストリジウム・スポロゲネス、破傷風菌、クロストリジウム‐テルチウム またはウェルチ菌を用いることができる。一実施形態において、異なる毒素の血清型の任意のバリエーションを用いることができるとともに、破傷風毒素(テタノスパスミンまたは攣縮性毒素とも呼ばれる)を用いることができる。また、重鎖(HC)の細胞結合部分について、融合タンパク質に他の標的ドメイン、すなわち他の細胞特異性を付与するポリペプチドシーケンスと交換することができる(例えばWO 2007/13839)。また、更に他の実施形態において、分子的または生化学的方法で変更を加えた重鎖(HC)及び軽鎖(LC)を用いることができる。より好ましくは、削除、挿入、アミノ酸交換または伸長が施されたた重鎖(HC)及び軽鎖(LC)を用いることができる。
【0074】
一実施形態では、重鎖(HC)の転位置サブドメイン(重鎖のN末端部分)の血清型は、第1の軽鎖(LC)のいずれかの血清型と同一である。
【0075】
一実施形態において、軽鎖(LC)ドメインにおけるSNARE複合体の切断能力は、主要な関心事である。したがって、一実施形態では、融合タンパク質の軽鎖(LC)ドメインのいずれかが、淋菌からのIG(免疫グロブリン)Aのプロテアーゼによって交換される。これは、SNARE複合体に対しても切断能力を有している。
【0076】
別の実施態様において、本発明はまた、化学的に改変を加えた神経毒素について言及する。例えば、PEG化、グリコシル化、硫酸化、リン酸化、または、その他の改変を加えるのであり、特には、表面に露出するか、溶媒に対して露出されるアミノ酸についての改変を加える。
【0077】
また、他の実施形態において、神経毒がタグシーケンスを有し、簡略化した精製方法を可能にする。このような既知のラベリングの方法は、小分子やペプチドを使用する。例えば、ビオチン、ストレプトアビジン、Strep-tag、ヒスチジンタグ(His-tag)、抗原、抗体断片等である。これらは、共有結合により、または非共有結合により、本発明のポリペプチドに結合され、親和性クロマトグラフィー、ビーズまたは他の分離法による精製を可能にする。
【0078】
上述のように、いくつかの実施形態において、融合タンパク質が、組換えのドメインを含むか、または、完全に組換えにより産成される。ボツリヌス毒素の全ての血清型についての重鎖(HC)及び軽鎖(LC)のDNA配列が公開データベースから入手可能である。したがって、これらのデータベースの情報に依拠して、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)に、所望の遺伝子を運ぶベクターを構築することが想定される。ベクターは、例えば大腸菌中で発現し、融合タンパク質を生成する。他の実施形態において、ベクターは、他の発現系中で発現される。例えば、酵母菌、昆虫細胞またはCHO細胞中で発現される。他の実施形態において、タンパク質ドメインは、別個に産生され、後で化学的方法により接続されます。得られたタンパク質は、既知のタンパク質精製法により単離され、その後、必要に応じて、さらなる工程(例えば、切断、化学結合または処理)に供されて、医薬製剤中の活性成分として用いられる。
【0079】
一実施形態において、改変が加えられた神経毒について、さらに改変を加えることで、受容体に対する該神経毒の結合親和性を変化(すなわち増加及び減少)させる。結合親和性は、天然の神経毒との比較により決定することができる。すなわち、野生型のアミノ酸配列を有するボツリヌス菌由来の神経毒との比較により決定することができる。これに代えて、上記神経毒の断片について、結合アッセイを行うことができる。好ましくは、上記神経毒はボツリヌス菌から得ることができるものである。増大した親和性は、本発明の神経毒が、非改変の神経毒に比べて、低い解離定数を有することを意味する。好ましくは、天然の神経毒は以下で詳細に定義されている任意のサブタイプAを含む、血清型のボツリヌス神経毒素である。組換え的に産生される血清型Aのボツリヌス神経毒素は、アミノ酸配列が、ボツリヌス菌から得られるボツリヌス神経毒素と同一であり、ボツリヌス菌から得られる天然のボツリヌス神経毒素と、薬理学的に同一または同様の挙動を示す。そのような組換え神経毒素は、例えば大腸菌中で産生され、一般に「組換えボツリヌス神経毒素」と呼ばれる。結合アッセイは、ボツリヌス菌から単離された神経毒、または組換えタンパク質の発現によって得られる神経毒について行うことができる。好ましくは、本発明によるポリペプチド、活性断片または誘導体は、具体的には、細胞膜に結合する分子、膜貫通タンパク質、シナプス小胞タンパク質、シナプトタグミンファミリーのタンパク質、またはシナプス小胞タンパク質2(SV2)である。好ましくは、シナプトタグミンI及び/またはシナプトタグミンII及び/またはSV2A、SV2BまたはSV2Cであり、特に好ましくはヒトシナプトタグミンI及び/またはヒトシナプトタグミンII及び/またはヒトSV2A、SV2BまたはSV2Cである。結合は、好ましくは生体外にて決定される。当業者は、第1のタンパク質(神経)と第2のタンパク質(受容体)との間の結合親和性を決定するための種々のアッセイを知っている。何らかの、このようなアッセイは受容体結合の変異の効果を決定するのに有用であり得る。このようなアッセイの一つがGST-プルダウンアッセイであり、これは、本発明の教示によると好ましい。このアッセイは、本発明の実施例に記載されている。表面プラズモン共鳴も、結合親和性を調べるのに用いることができる。実験条件は、例えばYowlerら(Biochemistry 43(2004), 9725- 9731)に記載されている。さらには、結合親和性を、等温微小熱量測定を用いて評価することができる。一実施形態において、神経毒素におけるガングリオシド結合ドメインおよび/またはタンパク質受容体結合ドメインについて、結合能力が、重鎖(HC)ドメインを導き出したところの野生型の神経毒素に比べて、高くなるように改変が加えられる。参考のため、WO2006/027207 A1, WO 2006/114308 A1 及び PCT/EP2008/006151 (EP 07 014 785.5)が引用され、本明細書に完全に組み込まれている。
【0080】
他の実施形態において、ボツリヌス毒素のアイソフォーム、ホモログ、オルソログ及びパラログであって、配列同一性が、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、60%以下、70%以下、80%以下、90%以下、100%以下であるものが包含される。配列同一性は、信頼性の高い結果を得るために適した任意のアルゴリズムを用いて算出することができる。例えば、FASTAアルゴリズムを用いることができる(W.R. Pearson & D.J. Lipman PNAS (1988) 85:2444-2448)。配列同一性は、2つのポリペプチド、または、2つの軽鎖(LC)ドメインまたはその断片といった2つのドメインを比較することにより算出することができる。
【0081】
一実施形態において、本発明のポリペプチドは、次のいずれかであるLCBoNT/A-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/C-LCBoNT/A- HCBoNT/A, LCBoNT/B-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/A-LCBoNT/C-HCBoNTVC, LCBoNT/C-LCBoNT/C-HCBoNT/C, LCBoNT/B-LCBoNT/C-HCBoNT/C 及び LCTeNT-LCBoNT/A-HCBoNT/A。
【0082】
これらうちで、前述の改変された神経毒、特には、血清型Aの追加の軽鎖(LC)を有するものについて述べる。特には、その優れたタンパク質分解活性と安定性のために、述べる。
【0083】
本発明は、また、本発明のポリペプチドに特異的に結合することのできる抗体に関するものである。
【0084】
本明細書において「抗体」の語は、本発明のポリペプチドに特異的に結合することのできる任意のタンパク質またはポリペプチドである。例えば、アミノ酸、一次、二次または三次構造要素、エピトープ、断片などである。抗体の例は、γ-グロブリンIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM、これらの断片、これらを改変したバージョン(改変物)等である。また、V、D、J遺伝子の任意の遺伝子の製品、T細胞受容体、B細胞受容体などである。また、単鎖抗体またはヒト化抗体などの改変抗体も含まれる。抗原は、抗体と結合する能力によってのみ定義されているので、非常に不均一なグループとなっている。「抗原」の例は、タンパク質;オリゴペプチド;糖、脂質、リポ多糖類、細胞性、ウイルス性または細菌性の表面分子;高分子などである。「特異的」の語は、異なる構造のパターンを区別するのに十分なだけの高い親和性を意味する。すなわち、抗原の親和性の差は、抗原またはエピトープでない参照構造の親和性に比べて、少なくとも10倍、20倍、102倍、103倍、104倍、105倍、106倍、107倍、108倍で109倍までであるべきである。一実施形態では、参照構造が、血清型A〜Gの神経毒でない。本発明の抗体は、本発明のポリペプチドに特異的である。一実施形態において、これは、野生型神経毒(すなわち血清型A〜G)、及び/または、他の神経毒、及び/または、当技術分野で知られている神経毒断片に結合しない。他の実施形態において、前記抗体は、野生型神経毒、及び/または、当技術分野で知られている他の神経毒に対して、大幅に低減した親和性でもって結合するものの、親和性の差は、精製、毒素の不活化及び/または検出の方法に適するように十分に高い。本発明の抗体の例は、追加の軽鎖(LC)ドメイン、及び/または、追加の軽鎖(LC)ドメインの改変を認識する抗体である。
【0085】
このような抗体は、当該技術分野で公知の方法で製造することができる。さらに、どのように積極的または消極的に抗体を選択するかについての、いくつかの方法が知られている。抗体は、本発明のポリペプチドを認識するが、既知の神経毒及び/または断片を、認識しないか、または、大幅に低い度合でした認識しない。例として、WO2005/063817, WO2003/029458及びWO2002/086096の文献が引用され、以下に完全に組み込まれる。
【0086】
一実施形態において、前記抗体は、精製、毒素の不活化および/または検出法に適している。このような抗体の応用例は、例えば、HDA(片側横隔膜アッセイ)、免疫沈降、親和性クロマトグラフィー、ウェスタンブロットなどである。
【0087】
本発明は、また、本発明のポリペプチドをコードする核酸を包含する。一実施形態において、前記核酸は、例えば、本技術分野で知られている追加のシーケンスを含む。例えば、プロモーター、エンハンサー、細菌性要素、IRES(配列内リボソーム進入部位)-領域、端末キャップ構造などである。この核酸分子は、hnRNA, mRNA, RNA1 DNA, PNA, LNA、及び/または、改変された核酸分子などである。核酸は、円形状、直鎖状、またはゲノムに統合された形態であり得る。また、融合タンパク質をコードするDNA鎖状体は、3、4、5、6、7、8、9または10個の軽鎖(LC)ドメインを包含する。
【0088】
本発明は、生体外及び/または生体内での本発明のポリペプチドの発現に適したベクターをも包含する。生体内において、ベクターは、一時的及び/または安定的に発現される。一実施形態において、ベクターは、さらに、調節エレメント及び/または選択マーカーを含んでいる。一実施形態において前記ベクターは細菌由来であり、さらに他の実施形態ではファージ由来であり、別の実施形態ではウイルス由来である。
【0089】
本発明は、前記ベクターと、特には本発明のポリペプチドを表現するのに適した、原核生物及び/または真核生物の宿主細胞をも包含する。一実施形態において前記宿主細胞はクロストリジウム由来であり、他の実施形態において、前記宿主細胞は、組換え発現のための標準的な細胞、例えば大腸菌などに由来する。一実施形態において、ポリペプチドは、宿主細胞内で改変される(例えば、グリコシル化、リン酸化、プロテアーゼ等による処理など)。したがって、最終的なポリペプチドだけでなく、プレ-ポリペプチド及び何らかのの中間タンパク質製品のいずれも、本発明に包含される。
【0090】
本発明のポリペプチドは、組成物または医薬組成物の一部であり得る。「医薬組成物」とは、治療または診断に用いるための有効成分を含むか、またはこれからなる製剤である。このような医薬組成物は、人間の患者に対する診断または治療のための投与(すなわち、筋肉または皮下注射により)に適している。
【0091】
ここで用いる医薬組成物は、本発明のポリペプチド(すなわち、改変された神経毒成分)を、唯一の活性成分として含むことができ、または以下の追加的な活性成分を含むことができる。例えば、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドンまたはポリエチレングリコールをも含むことができる。このような組成物は、場合によりさらに、pH緩衝剤によって、特には、酢酸ナトリウム緩衝液及び/または凍結保護ポリアルコールによって、pHを安定化することができる。
【0092】
本発明の一実施形態中にて、医薬製剤は、本発明のポリペプチドの一部である神経毒性成分以外のタンパク質以外には、ボツリヌス毒素複合体中に見いだされるタンパク質を含まないことが想定されている。本発明のポリペプチドの前駆体は、切断されていても良く、切断されていないのでも良い。しかし、特に関心のまととなる実施形態においては、前駆体が、重鎖(HC)及び軽鎖(LC)に切断されている。上記に指摘したように、ポリペプチドは、野生型配列のものであり得るし、また、1つ以上の残基が改変されたものであり得る。改変には、化学修飾が含まれる。例えば、グリコシル化、アセチル化、アシル化等である。化学修飾は、例えば、ポリペプチドの取り込みや安定性に有益であり得る。しかしながら、本発明のポリペプチドのポリペプチド鎖は、上記の化学修飾に代えて、または上記の化学修飾に加えて、1つ以上のアミノ酸残基の、置換または欠失によって改変し得る。
【0093】
一実施形態において、本発明のポリペプチドは、マウスLD50アッセイで決定されるように、本発明のポリペプチド1ナノグラムあたり10〜500 LD50ユニットの生物学的活性を有する。他の実施形態において、本発明のポリペプチドは、ナノグラムあたり約150 LD50ユニットの生物学的活性を有数る。一般に、本発明の医薬組成物は、約30ngあたり約6ピコグラムの量の本発明のポリペプチドを含む。
【0094】
単離した形のボツリヌス毒素A型の神経毒成分からなる医薬組成物が、ドイツでは、メルツファーマシューティカルズ社からXeominの商標で市販されている。ボツリヌス毒素A型およびB型の神経毒成分の産生は、例えば、WO00/74703及びWO 2006/133818に記載されている。当業者は、前記組成物を、ここに引用する発明のポリペプチドに適用することができる。
【0095】
一実施形態において、前記組成物は、本発明のポリペプチドを再溶解した溶解液である。他の実施形態において、前記組成物は、さらにショ糖、またはヒト血清アルブミン、またはこれら両方を含み、さらに他の実施形態において、ヒト血清アルブミンとショ糖との比率が約1:5である。他の実施形態において、ヒト血清アルブミンは、組換えヒト血清アルブミンである。また、上記に代わる形態において、前記組成物は、ヒト血清アルブミンなどの哺乳動物由来のタンパク質を含まない。このような溶液は、血清アルブミンを他の非タンパク質の安定剤(インフラ)で置き換えることにより、充分な神経毒安定性を付与することができる
本特許出願の範囲内において、上記の改変神経毒成分をベースとする薬剤を使用することができる。
【0096】
ボツリヌス毒素をベースとする薬剤の組成及び投薬に関して、また、ボツリヌス毒素の神経毒成分をベースとする薬剤の組成、投与法及び投与頻度に関して、PCT/EP2007/005754を参照することとする。
【0097】
医薬組成物は凍結乾燥または真空乾燥してから溶解して再構成することができる。または、溶液のままで用いることができる。再構成する場合、一実施形態において、再溶解溶液は、滅菌した生理食塩水(0.9%のNaCl)を加えることで調製される。
【0098】
このような組成物は、追加の賦形・添加剤を含むことができる。「賦形・添加剤」の語は、医薬組成物中に存在する、活性な医薬成分以外の物質を意味する。賦形・添加剤は、緩衝剤、担体、接着防止剤、鎮痛剤、バインダー、崩壊剤、充填剤、希釈剤、防腐・保存剤、ビヒクル、シクロデキストリン及び/または増量剤であり得る。増量剤は、アルブミン、ゼラチン、コラーゲン、塩化ナトリウム、防腐・保存剤、凍結保護剤及び/または安定剤といったものである。
【0099】
「pH緩衝剤」は、組成物、溶液などのpH値を、特定の値または特定のpH範囲に調整する能力を有する化学物質をいう。pH範囲は、一実施形態においてpH5からpH8の間であり、他の実施形態ではpH7からpH8の間であり、別の実施形態ではpH7.2からpH7.6の間であり、さらに別の実施形態ではpH 7.4である。他の実施形態において、医薬組成物のpHは、再溶解時または注射の際に、およそ4と7.5との間であり、別の実施形態においてpH 6.8とpH 7.6との間であり、さらに別の実施形態においてpH 7.4とpH 7.6との間である。
【0100】
一実施形態において、組成物は、1〜100 mMの酢酸ナトリウム緩衝剤をも含み、他の実施形態において10mMの酢酸ナトリウム緩衝剤をも含む。
【0101】
上述のpH範囲の指定は、単に典型的な例であり、実際のpHは、上記に指定した数値範囲の間の任意の間隙領域を含み得る。本発明の教示による適した緩衝剤は、例えばナトリウムリン酸緩衝剤、ナトリウム酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、または、その他の緩衝剤であって、上記のpH範囲内で緩衝作用を行うのに適したものである。
【0102】
「安定」、「安定にする」または「安定化」は、活性成分、すなわち本発明のポリペプチドが、再構成溶液または水溶液の医薬組成物中にて、医薬組成物に組み込む前において生物学的に活性な本発明のポリペプチドが有する毒性の、およそ、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%より大きく、そして、最大約100%までの毒性を有することを意味する。
【0103】
このような安定剤の例は、ゼラチンまたはアルブミンであり、一実施形態において、ヒト由来の、または、組換え供給源から得られたものである。ヒト以外の供給源から、または動物以外の供給源からのタンパク質も含まれる。安定剤は、化学修飾により、または、組換え遺伝子によって改変を加えることができる。本発明の一実施形態において、凍結乾燥中にタンパク質を安定させるための凍結保護添加剤としてアルコール、例えば、イノシトール、マンニトールを用いることが想定される。
【0104】
本発明の他の実施形態において、安定剤は、非タンパク安定剤であり得る。非タンパク安定剤には、ヒアルロン酸、ポリビニルピロリドン(コリドン(登録商標))、ヒドロキシエチル化澱粉、アルギン酸またはポリエチレングリコール、またはこれらの任意の組合せが含まれる。このような組成物は、さらに、適当なpH緩衝剤により、特には、酢酸ナトリウム緩衝液または凍結保護剤またはこれらの両方により、pHを安定化させることができる。前記組成物は、上述の水の安定剤に加えて、マンニトール又はソルビトールまたはそれらの混合物といった、少なくとも一つの多価アルコールを含むことができる。前記組成物は、グルコース、ショ糖または果糖といった、単糖類、二糖類または多糖類を含み得る。このような組成物は、顕著な安定性を有する安全な組成物であると考えられる。
【0105】
本医薬組成物中におけるヒアルロン酸は、一実施形態において、200U/mLのボツリヌス毒素溶液1mLあたり、0.1〜10mgの量で、特には1 mgのの量で、本発明のポリペプチドと組み合わせることができる。
【0106】
ポリビニルピロリドン(コリドン(登録商標))は、本医薬組成物中に存在する場合、200U/mLの本発明のポリペプチドの溶液1mLあたり、再構成溶液中に、10〜500 mg含まれるように、特には100 mg含まれるように、本発明のポリペプチドに組み合わされる。他の実施形態において、溶解して戻す再構成は、最大8mlまでの溶液となるように行われる。この結果、25U/mLのポリペプチドの本発明の溶液1mLあたり、最小12.5 mgまでのポリビニルピロリドンの溶液濃度となる。
【0107】
本医薬組成物中のポリエチレングリコールは、一実施形態において、200U/mLのボツリヌス毒素溶液1mLあたり、10〜500 mgの量で、特には100mgのの量で、本発明のポリペプチドと組み合わせることができる。他の実施形態では、本溶液が、さらに、酢酸ナトリウム緩衝剤を100〜100 mM、特には10mM含む。
【0108】
本発明による医薬組成物は、一実施形態において、約+8℃と約-200℃との間の温度で保存されたならば、6カ月、一年、2年、3年および/または4年の期間にわたって、効力を実質上変化なしに保つ。また、本医薬組成物は、再溶解による再構成の際、約20%と約100%の間の効力または回復率を有し得る。
【0109】
「凍結保護剤」は、活性成分、すなわち本発明のポリペプチドが、再構成溶液または水溶液の医薬組成物中にて、凍結乾燥前において生物学的に活性な本発明のポリペプチドが有する毒性の、およそ、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%より大きく、そして、最大約100%までの毒性を有することとなる賦形・添加剤を意味する。
【0110】
他の実施形態において、上記組成物は、凍結保護剤として、ポリヒドロキシ化合物、例えば多価アルコールを含むことができる。使用され得る多価アルコールの例には、例えば、マンニトール、イノシトールおよびその他の非還元性アルコールが含まれる。組成物のいくつかの実施形態において、タンパク質安定化剤を含んでいないか、または、凍結保護剤として用いられる、トレハロースまたはマルトトリオースまたはラクトースまたはスクロースまたは関連の糖または糖化合物を含んでいない。
【0111】
「防腐・保存剤」の語は、組成物内における微生物、昆虫、細菌、または他の汚染の生物の成長または生存をそれぞれ防止する一群の物質をいう。防腐・保存剤は、前記組成物における不所望の化学変化をも防止する。本特許の範囲内において使用可能な防腐・保存剤は、当業者に知られている全ての技術水準の防腐・保存剤である。使用され得る防腐・保存剤の例としては、とりわけ、例えば、ベンジルアルコール、安息香酸、塩化ベンザルコニウム、プロピオン酸カルシウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、亜硫酸塩(二酸化硫黄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウムなど)、EDTA二ナトリウム、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、珪藻土、エタノール、メチルクロロイソチアゾリノン、ブチル化ヒドロキシアニソール及び/又はブチルヒドロキシトルエンである。
【0112】
「鎮痛剤」は、末梢及び中枢神経系に種々の方式で作用する鎮痛薬に関するものであり、とりわけ、パラセタモール(登録商標:アセトアミノフェン)と、サリチル酸などの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と、モルヒネ、及びトラマドール(登録商標)などの麻薬特性を有する合成薬といった麻薬と、その他種々のものとが含まれる。局所的な鎮痛作用を有するいずれの化合物も、また含まれる。例えば、リドカイン、ベンジルアルコール、安息香酸その他である。
【0113】
鎮痛剤は、一実施形態において組成物の一部であり、他の実施形態においては、化学的除神経剤による処置の前、最中または後に投与される。
【0114】
本明細書で用いる「凍結乾燥」の語は、本発明のポリペプチドを含む溶液の処理であって、該溶液を凍結し、組成物中の固形成分だけが残留するまで乾燥するものである。したがって、この処理による凍結乾燥製品は、本明細書において「凍結乾燥物」と定義される。
【0115】
本明細書における「再構成」の語は、本発明のポリペプチドについての前記凍結乾燥製品を可溶化するプロセスとして定義される。再構成は、例えば、必要な全ての成分が既に凍結乾燥物に含まれている場合、適切な量の滅菌水を加えることによって行うことができる。そうでない場合、再構成は、例えば、滅菌塩水溶液を、単独で加えるか、または、可能ならば成分とともに加える。ここでの成分は、例えば、pH緩衝剤、賦形・添加剤、凍結保護剤、防腐・保存剤、鎮痛剤安定剤、またはこれらの任意の組み合わせである。上述の「塩水溶液」における塩水は、塩溶液であり、例えば、塩化ナトリウム(NaCl)溶液であるか、または、等張性の塩化ナトリウム溶液(すなわち0.9%の塩化ナトリウム濃度)である。可溶化は、最終的な「再構成」が、直接または間接に、例えば希釈された後、患者への投与が可能になるように行われる。神経毒は、等張性媒体中にて再構成することができ、例えば、等張性の塩水または滅菌塩水中にて再構成することができる。
【0116】
以下についで注目すべきである。本発明のポリペプチドの投与を含む、本発明の概念は、筋肉の過活動コリン作動性神経支配または外分泌腺に関連した症状の処置のためであり、ここで、本発明のポリペプチドは、アセチルコリンがシナプス間隙へと分泌されるのを阻害する。したがって、本発明によって提供される処置・治療は、下記に示すもののいずれかに対して行い得る。これらのほとんどは、Dressier D (2000) (Botulinum Toxin Therapy. Thieme Verlag, Stuttgart, New York)に詳述されている。;
・ジストニア、
・頭蓋ジストニア、
−眼瞼けいれん、
−顎口腔ジストニア
−−あご開放型、
−−あご閉鎖型、
−歯ぎしり、
−メージュ症候群、
−舌ジストニア、
−開眼失行、
・頸部ジストニア、
−前頸部ジストニア(antecollis)
−後頸部ジストニア(retrocollis)
−側頸部ジストニア(laterocollis)
−斜頸、
・咽頭ジストニア、
・喉頭ジストニア、
−痙攣性発声障害/内転型、
−痙攣性発声障害/外転型、
−痙攣性呼吸困難、
・四肢ジストニア、
−腕ジストニア、
−−作業課題特異性ジストニア、
−−−書痙、
−−−ミュージシャンのけいれん、
−−−ゴルファーのけいれん、
−脚ジストニア、
−−太ももの内転及び外転、
−−膝の屈曲及び伸展、
−−足首の屈曲及び伸展、
−−内反尖足変形、
−足のジストニア、
−−線条体つま先、
−−つま先の屈曲、
−−つま先の伸展、
−軸性ジストニア、
−−ピサ症候群、
−−ベリーダンサージストニア、
−分節性ジストニア、
−片側ジストニア、
−全身性ジストニア、
・Lubag型ジストニア、
・大脳基底核変性症のジストニア、
・Lubag型ジストニア、
・遅発性ジストニア、
・脊髄小脳失調症ジストニア、
・パーキンソン病ジストニア、
・ハンチントン病ジストニア、
・ハレルフォルデン‐スパッツ症ジストニア、
・ドーパ誘発性ジスキネジア/ドーパ誘発性ジストニア、
・遅発性ジスキネジア/遅発性ジストニア、
・発作性ジスキネジア/ジストニア、
−運動起源性、
−非運動起源性、
−動作誘発性、
・口蓋ミオクローヌス、
・ミオクローヌス、
・ミオキミア、
・硬直、
・良性筋肉けいれん、
・遺伝性あごけいれん、
・奇異性筋肉痙攣
・片側咀嚼痙攣、
・肥大性鰓ミオパチー、
・Maseteric肥大症、
・脛骨前部肥大症、
・眼振、
・動揺視、
・多汗症、
・核上性注視麻痺、
・持続性部分てんかん、
・痙性斜頸動作、
・予定痙性斜頸動作、
・転声帯麻痺、
・不応性突然変異発声、
・上部食道括約筋機能不全、
・声帯肉芽腫、
・吃音、
・ジルドイアトゥレット症候群、
・中耳ミオクローヌス、
・保護喉頭閉鎖、
・喉頭摘出後の音声障害、
・保護眼瞼下垂、
・眼瞼内反症、
・オッディ括約筋障害、
・疑似アカラシア、
・非アカラシア食道運動障害、
・膣痙、
・術後不動、
・振戦、
・生殖器尿症、
−膀胱機能障害、
−過活動膀胱、
−−尿失禁、
−−尿閉、
−−痙性膀胱、
・胃腸疾患、
・排尿筋括約筋協調不全、
・膀胱括約筋のけいれん、
・顔面けいれん、
・神経再支配ジスキネジア、
・化粧用、
・カラスの足、
−不機嫌・顔面非対称、
−オトガイえくぼ、
−眉間のしわ筋、
−おでこのしわ筋、
−広頸筋、
−喫煙者のしわ筋、
−マリオネットライン、
−咬筋のつり上げ、
・スティッフパーソン症候群、
・破傷風、
・前立腺疾患、
−前立腺肥大症、
−前立腺癌、
・肥満症、
・小児脳性麻痺、
・斜視、
・混合、
・麻痺性、
・随伴性、
・網膜剥離手術後、
・白内障手術後、
・網膜剥離手術後、
・無水晶体、
・筋炎性斜視、
・筋性斜視、
・交代性上斜位、
・斜視手術の補助として、
・内斜視、
・外斜視、
・アカラシア、
・肛門亀裂、
・外分泌腺の亢進、
・フレイ症候群、
・ワニの涙症候群、
・多汗症、
−腋窩、
−掌、
−足裏、
・鼻漏、
・比較的唾液分泌過多、
−発作中、
−パーキンソン病中、
−筋萎縮性側索硬化症中、
・けいれん症、
−脳炎及び脊髄炎で、
−−自己免疫性プロセス、
−−−多発性硬化症、
−−−横断性脊髄炎、
−−−Devic症候群、
−−ウイルス感染、
−−細菌感染、
−−寄生虫感染、
−−真菌感染、
−遺伝性痙攣不全対麻痺で、
−脳卒中後症候群、
−−片側梗塞、
−−脳幹梗塞、
−−脊髄梗塞、
−中枢神経系外傷で、
−−片側梗塞、
−−脳幹梗塞、
−−脊髄梗塞、
−中枢神経系出血で、
−−脳内出血、
−−くも膜下出血、
−−硬膜下出血、
−腫瘍で、
−−片側腫瘍、
−−脳幹腫瘍、
−−脊髄腫瘍、
・頭痛、
−片頭痛、
−緊張型頭痛、
−副鼻腔炎による頭痛、
−慢性頭痛、
・および/または脱毛。
【0117】
ボツリヌス毒素を含有する医薬組成物は、一実施形態において数回、患者の症状を改善するの有効な量が投与される。また、本発明のポリペプチドの持続性に応じて、より多くの量、または、より少ない量が必要とされる。したがって、以下の投薬処方は、オリエンテーションの目的のためだけであることに留意すべきである。
【0118】
典型的には、患者への投与量は約1000ユニット以下であろう。しかし、一般には、患者一人あたり400ユニットを超えるべきでない。一実施形態において、投与量範囲は約80ユニットと約400ユニットとの間である。これらの値は、一実施形態において、成人患者に対して有効である。子供の場合、投与量範囲は、一実施形態において、25〜800ユニット、他の実施形態において、50〜400ユニットである。
【0119】
上記の範囲は、最大の総投与量に関するものであり、筋肉当たりの投与量の範囲は、一実施形態において、3〜6ユニット/kg体重であって、小さな筋肉で0.5〜2ユニット/kg体重であり、他の実施形態において、0.1〜1ユニット/ kg体重である。一般に、投与量は、一つの注射部位あたり50ユニットを超えるべきでなく、筋肉あたり100ユニットを超えるべきでない。
【0120】
本発明の一実施形態において、投与するボツリヌス毒素の有効量は、成人で本発明のポリペプチドの500ユニットを超え、子供で15ユニット/ kg体重を超える。
【0121】
投与頻度についてであるが、再注射の間隔は、改変された神経毒の持続性に大きく依存する。そのため、本発明によると、投与すべき薬剤が再投与される間隔は、3カ月と6カ月との間である。一実施形態においては、薬剤が、2週間と3カ月未満との間の間隔で投与される、しかし、神経毒の改変に応じて、他の実施形態においては、6カ月を超えて12カ月までの処置、または、2週間より短い期間での処置が想定される。
【0122】
ボツリヌス毒素をベースとする薬剤の組成及び投薬に関して、また、ボツリヌス毒素の神経毒成分をベースとする薬剤の組成、投与法及び投与頻度に関して、米国特許出願US 60/817 756が引用されえ本願明細書に組み込まれる。
【0123】
上述の値は、本発明の範囲内で使用される薬剤を投与するための一般的な指針として理解されるべきである。最終的には、治療を担当する医師が、投与する毒素の量、及び投与頻度の両方を決定する。
【0124】
ボツリヌス毒素をベースとする薬剤を、発症した筋肉に直接注射投与することができる。適切な注射部位を見つけるために、この目的で医師を補助するいくつかの手段が存在する。本発明の枠内において、最も良い注射部位を見つける全ての方法が適用化能である。例えば、筋電図によりガイドされる注射、触診によりガイドされる注射、CT/MRIによりガイドされる注射、超音波検査によりガイドされる注射などである。これらの方法のうち、子供を治療する場合には、一実施形態において、超音波検査が選択される。超音波検査によりガイドされる注射について、Berweck("Sonography-guided injection of botulinum toxin A in children with cerebral palsy", Neuropediatric 2002 (33), 221-223.)を参照することとする。
【0125】
「注射」の語は、当業者が人の皮膚を貫通して標的部位に活性剤を投与することが可能な任意のプロセスとして定義される。不充分な数の「注射」の例は、皮下注射、筋肉内注射、、莢膜内注射、動脈内注射などである。
【0126】
本明細書で用いる用語法は、特定の実施形態を説明する目的のためのみに使用されており、限定を行う目的でないと理解されるべきである。なお、明細書中及び添付の特許請求の範囲において、単数で表現された場合も、文脈から明らかに述べられている場合を除き、複数である場合を含む。
【0127】
以下に述べる非限定の実施例により、本発明について、さらなる例示が行われる。
【実施例】
【0128】
実施例1−発現プラスミドの作成:
ボツリヌス毒素Aの重鎖(HC)のDNA配列が、PCR法により、ボツリヌス菌A型(データベースナンバーAAA23262)の染色体DNAから増幅される。「5'」末端には、トロンビンを識別するコーディングのためのシーケンスが追加される。「3'」末端には、後での精製(例えばHis-タグまたはStrep-タグ)に適した親和性タグペプチドをコーディングためのDNAシーケンスが追加される。DNAは、発現プラスミドに挿入される。第1および第2の軽鎖(LC)のDNA配列もまた、血清型Aのものであり、同様に、PCR法により、ボツリヌス菌A型(データベースナンバーAAA23262)の染色体DNAから増幅される。次いで、軽鎖(LC)のDNAシーケンスが、発現プラスミドに2回続けて、トロンビン識別シーケンス(TE)の上流に挿入される。これら全体により、配列は次のコーディングの構造を示す:LC-LC-TE-HC-Tag。
【0129】
実施例2-大腸菌で融合タンパク質の産生:
融合タンパク質が大腸菌TG1に移入される。誘導は210℃4時間で行われる。この後、融合タンパク質は、StrepTactin -セファロース(IBA GmbH, Goettingen)カラムクロマトグラフィーにより、そのメーカーのプロトコルに従って精製する。融合蛋白質は、その重鎖(HC)と2つの軽鎖(LC)の間のペプチド結合を切断する固定化トロンビン(トロンビン-セファロース)によって活性化される。タンパク質のサブユニットは、ジスルフィド結合を介して接続されたままである。
【0130】
実施例3−持続性のテスト(小指の伸筋、EDB):
テスト担当者には、4ユニットのXeomin(登録商標:メルツファーマシューティカルズ社)が、右の小指の伸筋に、0.1mLの生理食塩水に可溶化されて、投与され、また、左の小指の伸筋に、改変されたボツリヌス毒素(ボツリヌス毒素A型に、ボツリヌス毒素Aの、追加の軽鎖(LC)を接合した融合タンパク質)が投与される。30日ごとに「複合筋活動電位」(CMap)が電気生理学的に測定される。90日後、右の小指の伸筋(EDB)のCMapの振幅は、スタート時の活動に比べ、約40%に減少するが、左の小指の伸筋(EDB)のCMapの振幅は、約70%に減少する。左側のCMapの振幅は、150日後に、40%になる。
【0131】
実施例4 - 持続性の延長:
斜頚けいれんを患う患者に、ボトックス(登録商標:アラガン社)(240ユニット)を投与した。患者は、ボツリヌス毒素活性の低下により、すべての10〜12週間ごとに神経科に来院して、治療を受ける必要がある。次いで、240ユニットの改変されたボツリヌス毒素(ボツリヌス毒素A型に、ボツリヌス毒素Aの追加の軽鎖(LC)を融合したもの)の注射投与を受ける。患者は、最初の治療後18週間まで、さらなる注射をする必要がない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(c)からなるポリペプチド。
(a)クロストリジウム毒素の神経毒成分における重鎖(HC)ドメインまたはその断片、
(b)クロストリジウム毒素の神経毒成分における第1の軽鎖(LC)ドメインまたはその断片、及び、
(c)クロストリジウム毒素の神経毒成分における少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)ドメイン。ここで、前記第1の軽鎖(LC)ドメイン及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)は、同一または互いに異なっても良く、前記第1の軽鎖(LC)ドメインの断片、及び前記少なくとも一つのさらなる軽鎖(LC)の断片は、依然としてタンパク質分解活性を示す。
【請求項2】
前記ドメインが、結合、ペプチドリンカ、化学リンカ、又はこれらの2以上の組み合わせを介して接続されている請求項1のポリペプチド。
【請求項3】
前記軽鎖(LC)ドメインおよび/または前記重鎖(HC)ドメインのアミノ酸配列が、血清型A、B、C、D、E、FまたはGのボツリヌス毒素神経毒成分のアミノ酸配列と、少なくとも50%同一である請求項1または2のポリペプチド。
【請求項4】
前記の第1および/または第2の軽鎖(LC)ドメインおよび/または前記重鎖(HC)ドメインが、少なくとも一つの改変を含む請求項1〜3のいずれかのポリペプチド。
【請求項5】
前記改変が、変異、欠失、挿入、付加、または、アミノ酸交換である請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
神経毒におけるガングリオシド結合ドメインおよび/あるいはタンパク質受容体結合ドメインについて、重鎖(HC)ドメインを得るのに用いた野生型の神経毒よりも結合能力を向上させた請求項1〜5のいずれかのポリペプチド。
【請求項7】
ポリペプチドが、以下のものよりなる群から選ばれる1種である請求項1〜6のいずれかのポリペプチド。
LCBoNT/A-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/C-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/B-LCBoNT/A-HCBoNT/A, LCBoNT/A-LCBoNT/C-HCBoNT/C, LCBoNT/C-LCBoNT/C-HCBoNT/C, LCBoNT/B-LCBoNT/C-HCBoNT/C 及び LCTeNT-LCBoNT/A-HCBoNT/A。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかのポリペプチドに特異的な抗体。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかのポリペプチドコーディングする核酸。
【請求項10】
請求項9の核酸、またはその断片からなるベクター。
【請求項11】
請求項9に記載の核酸または請求項10に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項12】
請求項11の宿主細胞を培養するステップと、前記核酸またはベクターによりエンコードされた前記ポリペプチドを産生し精製するステップとを含み、また、前記ポリペプチドから医薬組成物を処方するステップを追加可能な選択肢とするポリペプチドの生産方法。
【請求項13】
請求項1〜6のいずれかのポリペプチド、または、請求項12の方法により取得可能なポリペプチドを含む組成物。
【請求項14】
治療用である請求項13に記載の組成物。≡
【請求項15】
請求項1〜7のいずれかのポリペプチド、または、請求項13に記載の組成物についての美容トリートメントのための使用。

【公表番号】特表2012−500638(P2012−500638A)
【公表日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−524268(P2011−524268)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【国際出願番号】PCT/EP2009/006272
【国際公開番号】WO2010/022979
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(509295413)メルツ・ファルマ・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲーアーアー (14)
【Fターム(参考)】