説明

変形性関節症の治療のためのLXRアゴニストの使用

LXRアゴニストの使用を介して、変形性関節症を予防および治療する方法を本明細書に開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LXRアゴニストを用いて変形性関節症を治療または予防する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形性関節疾患としても知られる変形性関節症は、関節軟骨の変性ならびに軟骨下骨の増殖および再形成に特徴付けられる。通常の症状は、硬直、動作制限、および疼痛である。変形性関節症は、最も多く見られる関節炎であり、有病率は、年齢とともに顕著に増加する。
【0003】
既存の変形性関節症治療アプローチには、運動、薬、安静および関節ケア、手術、除痛技術、代替療法、ならびに体重管理が含まれる。変形性関節症を治療するために一般的に使用される薬は、例えば、アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンナトリウム、ケトプロフェン等の非ステロイド性抗炎症薬(Nonsteroidal Anti−inflammatory Drug:NSAID)、皮膚に直接塗布される局所用鎮痛クリーム、塗り薬、およびスプレー(例えば、カプサイシンクリーム)、痛みを一時的に軽減させるために、典型的に患部関節に注射される副腎皮質ステロイド、ならびにヒアルロン酸を含む。骨を再表面化し(滑らかにする)、骨を再配置し、関節を置換するために、手術が行われる場合がある。種々の薬物療法が、疾患を治療するために使用されているが、それらは、長期にわたる管理および予防には有効でない。
【0004】
本来オーファン受容体として肝臓から同定された肝臓X受容体(Liver X Receptors:LXR)は、核内ホルモン受容体スーパーファミリーの成員であるが、マクロファージ炎症性遺伝子発現の負の制御因子であることが分かった(公開米国特許出願第2004/0259948号;Joseph SBら、Nat.Med.9:213−19(2003)を参照)。LXRは、リガンド活性化の転写因子であり、レチノイドX受容体を持つヘテロ2量体としてDNAに結合する。LXRαが、肝臓、腎臓、脂肪、腸、およびマクロファージ等の特定の組織に限定されるのに対し、LXRβは、遍在的な組織分布パターンを示す。マクロファージ内のオキシステロール(内因性リガンド)によるLXRの活性化は、脂質代謝ならびにABCA1、ABCG1、およびアポリポタンパク質Eを含むコレステロール逆輸送に関与する、いくつかの遺伝子の発現をもたらす。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第2004/0259948号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Joseph SBら、Nat.Med.9:213−19(2003)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面は、変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、それを必要としている該哺乳動物に、LXR応答遺伝子発現を誘発する量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法である。
【0008】
別の側面は、変形性関節症軟骨を有する哺乳動物において、アポリポタンパク質Dの発現を誘発する方法であって、それを必要としている該哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法である。
【0009】
さらなる側面は、変形性関節症を予防する方法であって、(a)対象の正常軟骨におけるアポリポタンパク質D発現レベルのベースラインを決定するステップと、(b)LXRアゴニストを用いた治療を介して、該被験者の軟骨におけるアポリポタンパク質D発現レベルのベースラインを維持するステップと、を含む方法に関する。
【0010】
付加的な側面は、変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、それを必要としている該哺乳動物に、アグリカナーゼ活性を抑制する量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法である。
【0011】
さらなる側面は、変形性関節症軟骨を有する哺乳動物においてアグリカナーゼの活性を抑制する方法であって、それを必要としている該哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法である。
【0012】
別の側面は、変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、変形性関節症病変部における炎症促進性サイトカインの生成を抑制するために、それを必要としている該哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法に関する。
【0013】
付加的な側面は、対象における変形性関節症の表現型を検出する方法であって、(a)正常軟骨におけるアポリポタンパク質D発現レベルのベースラインを決定するステップと、(b)変形性関節症を有する疑いがある対象から軟骨試料を得るステップと、(c)該試料中のアポリポタンパク質Dの発現レベルを検出するステップと、を含み、アポリポタンパク質Dのベースラインと比べて、該試料中のより少量のアポリポタンパク質D発現は、変形性関節症を示す、方法に関する。
【0014】
さらなる側面は、軟骨における変形性関節症の影響を減少させることが可能なLXRリガンドを同定する方法であって、(a)LXRを含有する試料を提供するステップと、(b)該試料を試験化合物と接触させるステップと、(c)該試験化合物が、アポリポタンパク質D発現を誘発するかどうか、アグリカナーゼ活性を抑制するかどうか、炎症促進性サイトカインの生成を抑制するかどうか、またはそれらの組み合わせであるかを判定するステップと、を含む、方法である。
【0015】
本発明の他の側面および利点は、下記の発明を実施するための形態を参照することにより、当業者に明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1Aは、重度の変形性関節症(Osteoarthritis:OA)の軟骨における核内受容体(Nuclear Receptor:NR)発現の相対発現レベルを示す棒グラフである。図1Bは、重度OAの軟骨におけるレチノイド受容体発現の相対発現レベルを示す棒グラフである。
【図2】図2Aは、正常軟骨、ならびに軽度OAおよび重度OAの軟骨におけるApoD発現を示す棒グラフである。疾患重症度は、軟骨検体における病変部のサイズおよび深度を検査することによって、巨視的に評価した。図2Bは、正常軟骨、ならびに軽度OAおよび重度OAの軟骨におけるTNFα発現を示す棒グラフである。
【図3】ヒトOA軟骨外植片からのサイトカイン誘発のプロテオグリカン分解/遊離が、LXRアゴニストによって抑制され、これらの外植片中の、サイトカイン誘発による総プロテオグリカン含有量の減少が、LXRアゴニストによって予防されることを示す棒グラフである。
【図4】図4Aはアグリカナーゼ生成のアグリカンカタボライト上のN末端を認識するBC−3抗体を使用した、アグリカナーゼ生成のアグリカンネオエピトープを示すウエスタンブロットである。末期OAを有する2人のヒトドナー(人工関節置換術後)からの軟骨外植片を使用した。ドナー番号259は、57歳の男性患者であり、ドナー番号261は、55歳の女性患者である。レーン1、5:媒体。レーン2、6:TO901317(2μM)。レーン3、7:IL−1β+オンコスタチンM(OSM)(各10ng/ml)。レーン4、8:IL−1β+OSM+TO901317。図4Bは、アグリカナーゼにより生成される、アグリカンカタボライト上の異なるエピトープを認識するAGEG抗体を使用した、アグリカナーゼにより生成されたアグリカンネオエピトープを示すウエスタンブロットである。レーン1、5:媒体。レーン2、6:TO901317(2μM)。レーン3、7:IL−1β+OSM(各10ng/ml)。レーン4、8:IL−1β+OSM+TO901317。
【図5】図5Aは、サイトカイン処置を施したヒト軟骨外植片からの総プロスタグランジンE2(PGE2)産生の、LXRアゴニストによる抑制を示す棒グラフである。図5Bは、媒体対照またはLXRアゴニストGW3965(2μM)で21日間処置した外植片における、膜リン脂質PCおよびPEの形でのアラキドン酸の量を比較する。この研究では2人のヒトOAドナーからの軟骨試料を使用した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
出願人らは、全ての引用文献の全内容を本開示に明確に組み込む。さらに、量、濃度、または他の値もしくはパラメータが、範囲、好適な範囲、または最大の好適な値および最低の好適な値のリストのいずれかとして示される場合、範囲が別に開示されているかどうかにかかわらず、任意の範囲上限または好適な値および任意の範囲下限または好適な値の、任意の対から形成される全ての範囲を明確に開示するものと理解されたい。数値範囲が本明細書に記載されている場合、特に別段の記載がない限り、範囲は、その終点、ならびに範囲内の全ての整数および端数を含むものとする。本発明の範囲は、範囲を定義する時に挙げた特定の値に限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施は、特に別段の記載がない限り、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、遺伝子導入生物学、微生物学、組換DNA、および免疫学の従来の技術を採用し、これらは当技術分野の範囲内である。かかる技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual第2版、Sambrook、FritschおよびManiatis編(Cold Spring Harbor Laboratory Press:1989)、DNA CloningI巻およびII巻(D.N.Glover編、1985)、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait編、1984)、米国特許第4,683,195号、Nucleic Acid Hybridization(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編、1984)、Transcription and Translation(B.D.HamesおよびS.J.Higgins編、1984)、Culture of Animal Cells(R.I.Freshney,Alan R.Liss,Inc.,1987)、Immobilized Cells and Enzymes(IRL Press,1986)、B.Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984)、Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.H.MillerおよびM.P.Calos編、1987,Cold Spring Harbor Laboratory)、Methods in Enzymology、154および155巻(Wuら編)、Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology(MayerおよびWalker編、Academic Press,London,1987)、Handbook of Experimental Immunology、I−IV巻(D.M.WeirおよびC.C.Blackwell編、1986)、Manipulating the Mouse Embryo,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1986)を参照。
【0019】
本明細書において、出願人らは、LXRαおよびLXRβ(肝臓X受容体αおよびβ)が正常、軽度変形性関節症、および重度変形性関節症軟骨に発現されることを示す。また、出願人らは、正常軟骨において非常に高レベルで発現されるアポリポタンパク質(Apolipoprotein D:ApoD)の発現が、軽度および重度変形性関節症軟骨において劇的に減少するという理由で、変形性関節症における妥当であろうと考えられる脂質異常を初めて実証する。LXRリガンドは、アポリポタンパク質Dプロモータ領域内に存在するLXR応答配列を介して、ApoDの発現を誘発する。発現データに従って、プロアポリポタンパク質Dのタンパク質レベルもまた、正常軟骨と比較した場合、変形性関節症軟骨試料において減少する。ApoDは、脂質(アラキドン酸およびコレステロール)結合タンパク質であるため、変形性関節症軟骨におけるその減少は、変形性関節症軟骨で観察される脂質レベルが増加する原因となり得る。軟骨におけるアラキドン酸の増加は、病変組織における炎症脂質メディエータ(PGE2、ロイコトリエン等)レベルの増加をもたらすと予想される。また、変形性関節症軟骨は、軟骨分解酵素(アグリカナーゼおよびメタロプロテアーゼ)の活性増加も示す。
【0020】
また、出願人らは、LXRリガンドが、ヒト変形性関節症関節軟骨組織外植片において、アグリカナーゼの活性を抑制することも初めて示す。LXRリガンドは、また、TNFαおよび多くの他の炎症促進性サイトカインの発現も抑制する。したがって、LXRリガンドは、変形性関節症に治療上効果的であり、脂質異常を正常化させ、アグリカナーゼ/メタロプロテアーゼの発現および/または活性を抑制し、変形性関節症病変における炎症促進性サイトカインの生成を抑制することによって、現在および今後の変形性関節症治療よりもより効果的であることが予想される。さらに、LXRリガンドは、タンパク質のc−jun/c−fosファミリーを誘発し、その結果として、軟骨形成に必要とされるAP1活性を増強させる。したがって、LXRリガンドによって、初めて、変形性関節症治療は、軟骨分解を抑制し得るのみならず、軟骨再生も誘発し得る。
【0021】
I.定義
本開示に関連して、多くの用語が利用される。
【0022】
本明細書では、用語「約」または「およそ」は、所与の値または範囲の20%以内、好ましくは10%以内、より好ましくは5%以内を意味する。
【0023】
用語「アグリカナーゼ活性」は、アグリカンに結合するアグリカナーゼ酵素によって中断または開始される少なくとも1つの細胞過程を言う。概して、活性は、アグリカナーゼによるアグリカンのタンパク質切断を言う。他のアグリカナーゼ活性は、アグリカンとのアグリカナーゼの結合、およびアグリカナーゼによるアグリカンとの結合またはその切断に起因する生物学的応答を含むが、これらに限定されない。
【0024】
用語「サイトカイン生成」は、軟骨組織または軟骨細胞によるサイトカインの産生を言う。
【0025】
用語「有効量」、「治療上有効量」、「LXR応答遺伝子発現を誘発する量」、「アグリカナーゼ活性を抑制する量」、および「有効投与量」は、本明細書では、必要としている哺乳動物に投与される時に、変形性関節症に関連する状態を少なくとも部分的に回復させる、または少なくとも部分的に予防するのに有効であるエフェクタ分子の量を言う。
【0026】
本明細書では、用語「発現」は、DNAが、mRNAへと転写され、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳される過程を含む。
【0027】
アポリポタンパク質D(Apolipoprotein D:ApoD)発現を「誘発する」または、その「誘発」という用語は、アポリポタンパク質DのmRNAおよび/またはタンパク質発現の増加、誘発、あるいはその他の増大を言う。増加、誘発、または増大は、本明細書に提供されるアッセイのうちの1つによって測定することができる。アポリポタンパク質D発現の誘発は、アポリポタンパク質Dの最大の発現を必ずしも示すわけではない。ApoD発現の増加は、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上であり得る。一実施形態において、誘発は、正常軟骨からのApoDのmRNA発現レベルを、変形性関節症軟骨からのApoDのmRNA発現レベルと比較することによって測定される。
【0028】
アグリカナーゼまたはアグリカナーゼ活性を「抑制する」または、その「抑制」という用語は、アグリカナーゼの少なくとも1つの活性の減少、抑制、あるいはその他の減退を言う。結合の減少、抑制、または減退は、本明細書に提供したアッセイのうちの1つによって測定することができる。アグリカナーゼ活性の抑制は、アグリカナーゼ活性が完全に存在しないことを必ずしも示すわけではない。活性の減少は、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上であり得る。一実施形態において、抑制は、アグリカンの切断産物の検出量の減少によって測定される。
【0029】
炎症促進性サイトカインの生成を「抑制する」または、その「抑制」という用語は、例えば、iNOS、MCP−3、COX−2、MIP1β、MMP−9、IP−10、IL−1β、IL−1α、G−CSF、TNFα、MCP−1、IL−6等のサイトカインの活性の減少、抑制、あるいはその他減退を言う。サイトカイン生成の減少、抑制、または減退は、本明細書に提供したアッセイのうちの1つによって測定することができる。炎症促進性サイトカイン生成の抑制は、炎症促進性サイトカイン生成が完全に存在しないことを必ずしも示すわけではない。生成の減少は、例えば、少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれ以上であり得る。一実施形態において、抑制は、正常軟骨からのTNFαのmRNA発現レベルを、変形性関節症軟骨からのTNFαのmRNA発現レベルのものと比較することによって測定される。
【0030】
「肝臓X受容体」または「LXR」は、LXRαとLXRβの両方、ならびにそれらの変異形、アイソフォームおよび活性断片を言う。LXRβは、遍在的に発現され、一方、LXRα発現は、肝臓、腎臓、腸、脾臓、脂肪組織、マクロファージ、骨格筋、および本明細書で実証されるように軟骨に限定される。LXRα配列の代表的なGenBank(登録商標)受入番号としては、以下が挙げられる。ヒト(Homo sapiens、Q13133)、マウス(Mus musculus、Q9Z0Y9)、ラット(Rattus norvegicus、Q62685)、雌ウシ(Bos taurus、Q5E9B6)、ブタ(Sus scrofa、AAY43056)、ニワトリ(Gallus gallus、AAM90897)。LXRβの代表的なGenBank(登録商標)受入番号としては、以下が挙げられる。ヒト(Homo sapiens、P55055)、マウス(Mus musculus、Q60644)、ラット(Rattus norvegicus、Q62755)、雌ウシ(Bos taurus、Q5BIS6)。
【0031】
用語「哺乳動物」は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ウシ、ヒツジ、ブタ、マウス、または他の獣医学のもしくは実験哺乳動物を言う。当業者は、哺乳動物の一種において病理学の重症度を減少させる治療は、哺乳動物の別の種への治療効果の予測となることを認識する。
【0032】
用語「調節する」は、標的分子に応じて、活性または発現の減少または増加のいずれか一方を包含する。例えば、ApoDモジュレータは、そのようなApoDモジュレータの存在が、ApoD発現の増加または減少に繋がるならば、ApoDの発現を調節するとみなされる。
【0033】
II.LXRアゴニスト
本発明において有用なLXRアゴニストは、天然オキシステロール、合成オキシステロール、合成非オキシステロール、および天然非オキシステロールを含む。例示的な天然オキシステロールは、20(S)ヒドロキシコレステロール、22(R)ヒドロキシコレステロール、24(S)ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、24(S)、25エポキシコレステロール、および27−ヒドロキシコレステロールを含む。例示的な合成オキシステロールは、N,N−ジメチル−3β−ヒドロキシコレンアミド(DMHCA)を含む。例示的な合成非オキシステロールは、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−{4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]フェニル}ベンゼンスルホンアミド(TO901317;Tularik 0901317)、[3−(3−(2−クロロ−トリフルオロメチルベンジル−2,2−ジフェニルエチルアミノ)プロポキシ)フェニル酢酸](GW3965)、N−メチル−N−[4−(2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−トリフルオロメチル−1−エチル)−フェニル]−ベンゼンスルホンアミド(TO314407)、4,5−ジヒドロ−1−(3−(3−トリフルオロメチル−7−プロピル−ベンズイソキサゾール−6−イルオキシ)プロピル)−2,6−ピリミジンジオン、3−クロロ−4−(3−(7−プロピル−3−トリフルオロメチル−6−(4,5)−イソオキサゾリル)プロピルチオ)−フェニル酢酸(FMethylAA)、ならびにアセチル−ポドカルプ2量体を含む。例示的な天然非オキシステロールは、パキシリン、デスモステロール、およびスチグマステロールを含む。
【0034】
他の有用なLXRアゴニストは、例えば、公開米国特許出願第2006/0030612号、第2005/0131014号、第2005/0036992号、第2005/0080111号、第2003/0181420号、第2003/0086923号、第2003/0207898号、第2004/0110947号、第2004/0087632号、第2005/0009837号、第2004/0048920号、および第2005/0123580号、米国特許第6,316,503号、第6,828,446号、第6,822,120号、および第6,900,244号、WO第01/41704号、Menke JGら、Endocrinology 143:2548−58(2002)、Joseph SBら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:7604−09(2002)、Fu Xら、J.Biol.Chem.276:38378−87(2001)、Schultz JRら、Genes Dev.14:2831−38(2000)、Sparrow CPら、J.Biol.Chem.277:10021−27(2002)、Yang Cら、J.Biol.Chem.,Manuscript M603781200(2006年7月20日)、Bramlett KSら、J.Pharmacol.Exp.Ther.307:291−96(2003)、Ondeyka JGら、J.Antibiot(Tokyo)58:559−65(2005)に開示される。
【0035】
III.治療/予防の方法
一調節方法によれば、LXR活性は、細胞内で、細胞をLXRアゴニストと接触させることによって、刺激される。そのようなLXRアゴニストの例は、上記、項目IIにおいて説明する。LXR活性を刺激するために使用することができる他のLXRアゴニストは、本明細書(項目V)において詳細に説明する、そのような化合物を選択するスクリーニングアッセイを使用して同定することができる。
【0036】
調節方法は、生体外で(例えば、細胞をLXRアゴニストで培養することによって、または培養下で細胞内にLXRアゴニストを導入することによって)、またはその代わりに、生体内で(例えば、LXRアゴニストを対象に投与することによって、または対象の細胞内にLXRアゴニストを導入することによって)行うことができる。生体外の調節方法を実施するために、細胞は、標準的な方法で対象から得ることができ、細胞内のLXR活性を調節するために、LXRアゴニストとともに生体外でインキュベート(すなわち、培養)することができる。
【0037】
1.予防的方法
一側面において、本発明は、ApoD発現を誘発する、および/またはアグリカナーゼ活性を抑制する、および/または変形性関節症の病変における炎症促進性サイトカインの生成を抑制するLXRアゴニストを、対象に投与することによって、対象となる変形性関節症を予防するための方法を提供する。予防的LXRアゴニストの投与は、変形性関節症が予防されるように、またはその代わりに、その進行において遅延されるように、変形性関節症症状の徴候が生じる前に行うことができる。
【0038】
2.治療方法
本発明の別の側面は、変形性関節症の治療目的のために、LXR活性を調節する方法に関する。したがって、例示的な実施形態において、本発明の調節方法は、ApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性を調節する、および/または変形性関節症の病変における炎症促進性サイトカインの生成を抑制するLXRアゴニストと、細胞を接触させることを含む。これらの調節方法は、生体外で(例えば、LXRアゴニストで細胞を培養することによって)またはその代わりに、生体内で(例えば、対象にLXRアゴニストを投与することによって)行うことができる。したがって、本発明は、ApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/または変形性関節症の病変における炎症促進性サイトカイン同化の調節が有効であろう変形性関節症に苦しむ個人を治療する方法を提供する。
【0039】
IV.LXRアゴニストの投与
LXRアゴニストは、ApoD発現を増強する、および/またはアグリカナーゼ活性を抑制する、および/または炎症促進性サイトカインの生成を抑制するために、生体内の医薬投与に好適である生物学的に適合した形態で対象に投与される。「生体内の医薬投与に好適である生物学的に適合した形態」は、アゴニストの治療効果があらゆる毒性効果を上回る、投与されるLXRアゴニストの形態を意味する。用語「対象」は、免疫応答が引き出され得る生体、例えば、哺乳動物を含むことが意図される。本明細書に記述するLXRアゴニストの投与は、単独または薬学的に許容可能な担体との組み合わせでの治療上有効量のLXRアゴニストを含む、任意の薬理学的形態であり得る。
【0040】
LXRアゴニストの治療上有効量は、個人の病状、年齢、性別および体重、ならびに個人において所望の応答を引き出すLXRアゴニストの能力に応じて異なり得る。用法・用量は、最適な治療的応答を提供するために調整することができる。例えば、いくつかに分割した用量を毎日投与することができ、または用量は、治療状況の要件によって示唆される通りに比例的に減少させることができる。
【0041】
本発明の治療または医薬組成物は、例えば、経口、静脈内、皮下、筋肉内、経皮的、髄腔内、もしくは脳内または生体外の治療プロトコルにおける細胞への投与を含む当技術分野において既知の任意の好適な経路によって投与することができる。投与は、注射等により迅速、またはゆっくりとした注入あるいは徐放調剤の投与等による長時間にわたるものであり得る。変形性関節症を治療または予防するために、本発明の治療または医薬組成物の投与は、例えば、経口投与によって、または関節内注射によって行うことができる。
【0042】
さらに、LXRアゴニストは、溶解度、安定度、半減期の所望の特性、ならびに他の薬学的に有利な特性(例えば、Davisら、Enzyme Eng.4:169−73(1978)、Burnham NL,Am.J.Hosp.Pharm.51:210−18(1994)を参照)を得るために、ポリエチレングリコール等のポリマーに安定的に連結することができる。
【0043】
LXRアゴニストは、細胞のサイトゾルへの送達に役立つ組成物中に含めることができる。例えば、LXRアゴニストは、細胞のサイトゾル内にアゴニストを送達することが可能なリポソーム等の担体部分に抱合され得る。そのような方法は、当技術分野において既知である(例えば、Amselem Sら、Chem.Phys.Lipids 64:219−37(1993)を参照)。さらに、LXRアゴニストは、微量注入によって細胞内に直接送達することができる。
【0044】
LXRアゴニストは、医薬品の形態で用いることができる。そのような製剤は、医薬技術において既知の方法で作られる。好適な一製剤は、生理食塩水の媒体を利用するが、生理的濃度の無毒性塩、5パーセント含水グルコース溶液、滅菌水等の他の薬学的に許容可能な担体も使用され得ることが検討される。本明細書では、「薬学的に許容可能な担体」は、任意の、および全ての溶剤、分散媒、被覆、抗菌および抗真菌薬、等張および吸収遅延剤等を含む。薬学的に活性な物質のためのそのような媒介物または薬剤の使用は、当技術分野において既知である。従来の任意の媒介物または薬剤が、LXRアゴニストと不適合であるという限定された状態を除き、治療組成物におけるそれらの使用が検討される。補助的な活性化合物も組成物に取り込むことができる。好適な緩衝液が組成物中に存在することも望ましい場合がある。そのような溶液は、望ましい場合、凍結乾燥することができ、即時注射用の滅菌水の添加による再構成の準備のために、無菌アンプル内に保存することができる。一次溶剤は、水溶性、あるいは非水溶性であり得る。LXRアゴニストは、治療を必要とする組織に植え込むことができる、固体または半固体の生物学的に適合したマトリックスに取り込むこともできる。
【0045】
担体は、調剤のpH、モル浸透圧濃度、粘性、透明性、色、無菌性、安定度、溶解速度、または匂いを変更または維持するために、他の薬学的に許容可能な賦形剤を含有することもできる。
【0046】
用量投与は、投与量処方の薬物動態パラメータおよび使用する投与経路に応じて繰り返すことができる。
【0047】
また、経口投与されるLXRアゴニストを含有する特定の調剤も提供する。そのような調剤は、好ましくは被包され、固形の剤型において好適な担体で処方される。担体、賦形剤、および希釈液の一部の実施例は、ラクトース、ブドウ糖、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギン酸、ケイ酸カルシウム、結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、ゼラチン、シロップ、メチルセルロース、メチルおよびプロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウム、ステアリン酸、水、ミネラルオイル等を含む。調剤は、付加的に、平滑剤、湿潤剤、乳化および懸濁化剤、保存剤、甘味剤、または香料添加剤を含むことができる。組成物は、当技術分野において既知の手順を用いることにより患者に投与された後、活性成分の急速、持続、または遅延放出を提供できるように処方することができる。また、調剤は、例えば界面活性剤等の、タンパク質分解を減少させる物質および/または、吸収を促進する物質を含有することもできる。
【0048】
投与を容易にし、投与量を均一にするため、投与量単位形態において組成物を処方するのが特に有利である。本明細書では、投与量単位形態は、治療される哺乳類対象のための単位投与量として適した物理的に不連続な単位を言い、各単位は、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果を生成するように計算された、所定量の活性化合物を含有する。本発明の投与量単位形態に関する仕様は、(a)LXRアゴニストの特有の性質および達成されるべき特定の治療効果、ならびに(b)個人における感度の治療のために、そのような活性化合物を構成する技術に内在する制限によって決定され、それらに直接依存する。特定の用量は、例えば、患者のおおよその体重もしくは体表面積または占有される体の空間の体積に従って、当業者が容易に計算することができる。また、用量は、選択した特定の投与形態に応じても計算される。治療に適切な投与量を決定するのに必要な計算のさらなる改良は、当業者によって定期的になされる。そのような計算は、標的細胞のアッセイ製剤における本明細書に開示したLXRアゴニスト活性の観点から、当業者による過度の実験を行うことなく求めることができる。正確な投与量は、標準的な用量応答研究と関連付けて決定される。実際に投与される組成物の量は、治療される(一つもしくは複数の)状態、投与される組成物の選択、個々の患者の年齢、体重、および反応、患者の症状の重症度、ならびに投与の選択経路を含む関連する状況を踏まえて、施術者により決定されることを理解されたい。
【0049】
そのようなLXRアゴニストの毒性および治療効果は、例えば、LD50(集団の50%に対して致死の用量)およびED50(集団の50%に治療的に有効な用量)を決定するための、細胞培養または実験動物における標準的な医薬手順によって決定することができる。毒性および治療効果間の用量比は治療指数であり、LD50/ED50の比率として表すことができる。治療指数が大きいLXRアゴニストが好ましい。毒性副作用を示すLXRアゴニストが使用され得るが、非感染細胞への潜在的な損傷を最小化し、それによって副作用を減少させるために、患部組織の部位に対してそのようなアゴニストを標的にする送達システムを設計するには注意を要する。
【0050】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得たデータは、ヒトにおいて使用されるさまざまな投与量を処方するために使用することができる。そのようなLXRアゴニストの投与量は、好ましくは、毒性がほとんど無いまたは全く示さず、ED50を含むさまざまな循環濃度の範囲内にある。投与量は、用いられる剤型および利用される投与経路に応じて、この範囲内で異なり得る。本発明の方法に使用される任意のLXRアゴニストに対する治療的に有効な用量は、細胞培養アッセイにより初期に推定することができる。用量は、細胞培養において判定される、IC50(すなわち、症状の最大半分の抑制を達成するLXRアゴニストの濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するために、動物モデルにおいて処方することができる。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために使用することができる。血漿のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィによって測定することができる。
【0051】
ApoDの発現および/またはアグリカナーゼの活性および/または炎症促進性サイトカインの生成へのLXRアゴニストの影響を監視することは、基本的な薬物スクリーニングのみならず、臨床治験にも適用することができる。例えば、LXRアゴニストの有効性は、軟骨細胞内のApoD遺伝子発現の減少および/またはアグリカナーゼ活性の増加および/または変形性関節症の病変内の炎症促進性サイトカイン生成の増加を示す被験者の臨床治験において監視することができる。そのような臨床治験において、ApoDの発現および/またはアグリカナーゼの活性および/または炎症促進性サイトカインの生成は、異なる変形性関節症段階の表現型の「読み取り」またはマーカーとして使用することができる。
【0052】
したがって、例えば、臨床治験において、変形性関節症へのLXRアゴニストの効果を研究するために、細胞は単離し、RNAは調製して、変形性関節症(例えば、TNFα)に結び付けられるApoDまたは他の遺伝子の発現レベルを分析することができる。遺伝子発現のレベル(すなわち、遺伝子発現パターン)は、全て当業者に既知の方法により、生成されるタンパク質の量を測定することによって、またはApoDもしくは他の遺伝子のレベルを測定することによって、ノーザンブロット分析またはRT−PCRで数量化することができる。このようにして、遺伝子発現パターンは、LXRアゴニストに対する細胞の生理学的応答を示すマーカーとして機能することができる。したがって、この応答状態は、LXRアゴニストを用いた個人の治療の前およびその間の種々の時点で判定され得る。
【0053】
また、本発明は、LXRアゴニストを用いた対象の治療の有効性を監視するための方法も提供し、該方法は、(i)LXRアゴニストの投与前に、対象から投与前試料を得るステップと、(ii)投与前試料中の、ApoDの発現のレベルおよび/またはアグリカナーゼ活性のレベルおよび/または炎症促進性サイトカインの生成のレベルを検出するステップと、(iii)対象から1つ以上の投与後試料を得るステップと、(iv)投与後試料中の、ApoDの発現もしくは活性のレベルおよび/またはアグリカナーゼ活性のレベルおよび/または炎症促進性サイトカインの生成のレベルを検出するステップと、(v)投与前試料中の、アポリポタンパク質の発現のレベルおよび/またはアグリカナーゼ活性のレベルおよび/または炎症促進性サイトカインの生成のレベルを、投与後試料中の、ApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/または炎症促進性サイトカインの生成のレベルと比較するステップと、(vi)それに応じて、対象へのLXRアゴニストの投与を変更するステップと、を含む。例えば、LXRアゴニストの投与の増加は、検出されたレベルよりも高いレベルまでApoD発現を増加させるために、および/または検出されたレベルよりも低いレベルまでアグリカナーゼ活性を減少させるために、および/または検出されたレベルよりも低いレベルまで炎症促進性サイトカインの生成を減少させるために、つまり、LXRアゴニストの有効性を増加させるために望ましい場合がある。あるいは、LXRアゴニストの投与の減少は、検出されたレベルよりも低いレベルまでApoD発現を減少させるために、および/または検出されたレベルよりも高いレベルまでアグリカナーゼ活性を増加させるために、および/または検出されたレベルよりも高いレベルまで炎症促進性サイトカインの生成を増加させるために、つまり、LXRアゴニストの有効性を減少させるために望ましい場合がある。そのような実施形態によれば、ApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/または炎症促進性サイトカイン生成は、観察可能な表現型応答の非存在下でさえも、LXRアゴニストの有効性の指標として使用することができる。
【0054】
さらに、変形性関節症の治療において、LXRアゴニストを含有する組成物は、外因的に投与することができ、血清、任意の所望の組織区画、および/または患部組織におけるLXRアゴニストの特定の標的レベルを達成するために望ましい場合が有り得るだろう。したがって、患者における、または患者から得た組織生検試料を含む生体試料におけるLXRアゴニスのレベルを監視できること、また、一部の例においては、ApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/または炎症促進性サイトカイン生成のレベルを監視することが有利であろう。したがって、本発明は、患者からの試料におけるLXRアゴニストの存在を検出するための方法もまた提供する。
【0055】
V.スクリーニングアッセイ
一実施形態において、LXR応答遺伝子の発現レベルまたはそこからのタンパク質の活性レベルは、LXRベースの機構を通じて変形性関節症を治療する化合物の設計および/または同定を促進するために使用することができる。したがって、本発明は、モジュレータを、すなわち、例えばApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/またはサイトカイン生成への促進もしくは抑制効果を有するLXRアゴニストを同定するための方法(本明細書において「スクリーニングアッセイ」とも称する)を提供する。そのようにして同定された化合物は、本明細書の他の部分に記述する変形性関節症の治療に使用することができる。
【0056】
試験化合物は、例えば、空間的にアドレス可能な平行固相または溶液相ライブラリ、逆重畳積分を必要とする合成ライブラリ方法、「1ビーズ1化合物」ライブラリ方法、およびアフィニティークロマトグラフィ選択を使用する合成ライブラリ方法を含む、当技術分野において既知のコンビナトリアルライブラリ方法における多数のアプローチのいずれかを使用して得ることができる。
【0057】
分子ライブラリを合成するための方法の実施例は、例えば、DeWitt SH ら、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.90:6909−13(1993)、Erb Eら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11422−26(1994)、Zuckermann RNら、J.Med.Chem.37:2678−85(1994)、Cho CYら、Science 261:1303−05(1993)、Carrellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2059(1994)、Carrellら、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.33:2061(1994)、Gallop MAら、J.Med.Chem.37:1233−51(1994)に見出すことができる。
【0058】
化合物のライブラリは、溶液中(例えば、Houghten RAら、Biotechniques 13:412−21(1992))、またはビーズ上(Houghten RAら、Nature 354:82−84(1991))、チップ上(Fodor SAら、Nature 364:555−56(1993))、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,223,409号)、プラスミド上(Cull MGら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:1865−69(1992))あるいはファージ上(Scott JKおよびSmith GP,Science 249:386−90(1990)、Devlin JJら、Science 249:404−06(1990)、Cwirla SEら、Proc.Natl.Acad.Sci.87:6378−82(1990)、Felici Fら、J.Mol.Biol.222:301−10(1991)、米国特許第5,223,409号)に存在し得る。
【0059】
例示的なスクリーニングアッセイは、LXRを発現する細胞が試験化合物と接触する細胞ベースのアッセイ、ならびに、LXRベースの機構を通じてApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/またはサイトカイン生成を調節する試験化合物の能力である。ApoD発現および/またはアグリカナーゼ活性および/またはサイトカイン生成を調節する試験化合物の能力の判定は、全て当業者には既知の方法により、例えば、DNA、mRNA、もしくはタンパク質レベルを監視することによって、またはApoD、アグリカナーゼ、および/またはTNFαの活性のレベルを測定することによって、達成することができる。例えば、細胞は、例えばヒト等の哺乳類起源であり得る。
【0060】
上記のスクリーニングアッセイによって同定された新規モジュレータは、本明細書に記述する治療のために使用することができる。
【0061】
実施例
本発明は、以下の実施例でさらに定義される。これらの実施例は、本発明の好適な実施形態を記載するが、説明のためのみに提供されることを理解すべきである。上記の記述およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の好適な特徴を確認することができ、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明を種々の使用および条件に適合させるよう本発明の種々の変更および修正を行うことができる。
【0062】
実施例1
関節炎のまたは正常の関節軟骨のいずれか一方において発現した転写物を同定するため、末期の膝置換術を受けた関節炎患者および関節炎を有さない切断患者から組織試料を得た。関節炎の存在の有無は、組織学により確認した。
【0063】
発現プロファイリングのために、Human Genome U95Av2(HG−U95Av2)GeneChip(登録商標) Array(Affymetrix、カリフォルニア州、Santa Clara)を使用した。HG−U95Av2チップは、ヒトゲノムに由来するほぼ12,000の主に全長配列(ほぼ16プローブ対/配列)を表す25塩基長オリゴヌクレオチドプローブを含有する。標的配列と完全に相補的であるように設計されたプローブごとに、その中心での単一塩基ミスマッチを除いて同一であるパートナープローブを産生する。これらのプローブ対は、シグナル定量化および非特異的ノイズの減算を可能にする。
【0064】
RNAを、個々の関節軟骨組織から抽出し、ビオチン化cRNAに変換し、Affymetrixプロトコルに従って断片化した。断片化したcRNAは、100μg/mlニシン精子DNAおよび500μg/mlアセチル化BSAを含有する1×MES緩衝液中に希釈し、5分間99℃で、その直後に5分間45℃で変性させた。不溶性物質は、短時間の遠心分離によってハイブリダイゼーション混合物から除去し、ハイブリダイゼーション混合物を各アレイに添加し、60rpmでの持続回転を用いて16時間45℃でインキュベートした。インキュベーション後、ハイブリダイゼーション混合物を除去し、チップを6×SSPETで広範に洗浄し、Affymetrixプロトコルに記載されるSAPE溶液で染色した。
【0065】
各転写物の蛍光強度素値を、Hewlett−Packard Gene Array Scannerを用いて6mmの解像度で測定した。遺伝子が「存在する」または「存在しない」かどうか、ならびにアレイ上の各遺伝子の特異的なハイブリダイゼーション強度値または「平均差」を判定するアルゴリズムを使用するGeneChip(登録商標)ソフトウェア3.2(Affymetrix)を、蛍光データを評価するために使用した。遺伝子ごとの平均差は、Hill AAら、Science 290:809−12(2000)の手順に従って、各ハイブリダイゼーション混合物にスパイクされた既知の存在量の11の対照転写物の平均差を参照することによって、頻度値に正規化した。各遺伝子の頻度が計算され、10合計転写物ごとの個々の遺伝子転写物の総数に等しい値を示す。
【0066】
図1Aは、19の異なるメンバーの核内ホルモン受容体スーパーファミリー(LXRα、LXRβ、Rev−erbα、Rev−erbβ、GR、EAR2、COUP TF−I、COUP TF−II、CAR、PXR、MR、SF−1、TR−2、TR−4、NOR−1、Nurr1、Nur77、SHP、FXR)に対する重度変形性関節症軟骨(100万分の1(ppm)で表す)におけるmRNAレベルを図示する。これらの遺伝子チップ研究に対する検出の定量下限は、およそ5ppmと決定した。図1に示すデータは、LXRβ、Rev−erbα、およびGRが、遺伝子チップの感受性のレベルで、関節軟骨によって発現されるように思われることの証拠を提供する。図1Bにおいて、6つのレチノイド受容体ファミリーメンバー(レチノイン酸受容体(Retinoic Acid Receptors:RAR)およびレチノイドX受容体(Retinoid X Receptor:RXR))の発現レベルを示す。これらのデータは、RXRαが、容易に検出可能なレベルで、関節軟骨組織内で発現されることを示す。RXRαは、LXRのヘテロ2量体パートナーであり、LXRリガンド作用の生物学的に活性な単位は、LXR−RXRヘテロ2量体である。これらのデータは、関節軟骨におけるLXR発現の機能的効果を考察するための推進力を提供した。
【0067】
実施例2
図2Aは、正常軟骨ならびに軽度および重度変形性関節症の患者から得た軟骨におけるApoDのmRNAレベルの比較を示す(100万分の1(ppm)で表す)。これらの遺伝子チップ研究に対する検出の定量下限は、およそ5ppmと決定した。図2Aに示すデータは、ApoDメッセージの発現が、正常軟骨と比較した時に軽度および重度変形性関節症軟骨において劇的に減少することの証拠を提供する。図2Bは、正常軟骨ならびに軽度および重度変形性関節症の患者から得た軟骨におけるTNFαのmRNAレベルの比較を示す(100万分の1(ppm)で表す)。これらの遺伝子チップ研究に対する検出の定量下限は、およそ5ppmと決定した。図2Bに示すデータは、TNFαの発現が、正常軟骨と比較した時に軽度および重度変形性関節症軟骨において著しく誘発されることの証拠を提供する。
【0068】
実施例3
ヒトOAドナー(番号154、National Disease Research Interchangeが提供)からの新鮮な軟骨外植片(〜20片、合計〜200mg/ウェル)を、1% Nutridoma(登録商標)(Roche Applied Science、インディアナ州、Indianapolis)を含有する1mlのDMEM/F12中で10日間培養した。10日間の間、外植片は、LXRアゴニスト(既報告LXRアゴニストである2μM GW3965、または下記式Iの2μMのLXRアゴニスト)の存在下、あるいは非存在下で、サイトカイン(1ng/mlIL1βプラス5ng/mlオンコスタチンM)に曝露した。
【0069】
【化1】


【0070】
培地は、2日ごとに新鮮なサイトカインおよびLXRアゴニストと交換した。DMMB(ジメチルメチレンブルー)アッセイを使用した後、プロテオグリカンの蓄積的放出をこれらの培地中で測定した。10日間の処置の最後に外植片をプロテイナーゼKで消化させ、プロテオグリカン総含有量に対してアッセイした。LXRアゴニストは、培地中へのサイトカイン誘発のプロテオグリカンの放出を有意に減少させ、その結果として、LXRアゴニストを用いたOA軟骨外植片の10日間の処置は、外植片中のプロテオグリカン総含有量を有意に増加させた(図3)。IL1βおよびオンコスタチンMの両方が、OAのある関節に存在し、OA疾患進行に影響を与えると考えられるため、データは、LXRアゴニストが、OA軟骨において構造を修正する効果を有し得ることを示唆する。
【0071】
実施例4
ヒトOAドナーからの新鮮な軟骨を小片(〜10mg/片、〜2×2×2mm)に切り分けた。軟骨外植片を24ウェルプレート(〜250mg湿重量/ウェル)に無作為に分けた。外植片の3つのウェルを、処置群ごとに含めた。外植片は、10%FBSとともに3日間1mlのDMEM/F−12中で培養し、次いで、完全培地を、無血清培地と交換した。12時間後、培地を除去し、新鮮な無血清培地(1ml)を添加し、続いて、LXRアゴニストT0901317処置(2μM)を行った。8時間後にIL1β/オンコスタチンM(各10ng/ml)を添加した。次いで、外植片を、LXRアゴニストT0901317およびIL1β/オンコスタチンMの存在または非存在下でさらに20時間培養した。処置群からの180μlのプール培地を、50mM EDTAの存在下で、3時間37℃でコンドロイチナーゼABC、ケラタナーゼ、ケラタナーゼIIで脱グリコシルした。次いで、試料を濃縮し、4〜12%SDS−PAGEゲル中で分離した。ウエスタン分析は、1次抗体としてマウスBC3ネオエピトープ抗体(1:1500)、またはウサギ抗AGEG抗体(1:1000)のいずれか一方、ならびに2次抗体としてアルカリペルオキシダーゼ(1:5000)に抱合される抗マウスまたは抗ウサギIgG抗体を使用して行った。図4Aは、BC3抗体を使用した結果を示し、図4Bは、AGEG抗体を使用した結果を示す。ドナー番号259からの軟骨を使用した実験において、サイトカイン処置は、BC3およびAGEG含有のアグリカン断片の両方の培地への放出を誘発した。T0901317での処置は、サイトカインによるBC3およびAEEG放出の誘発を遮断した。ドナー番号261を使用した実験において、BC3およびAEGE含有のアグリカン断片を、未処置軟骨外植片から培地中に放出した。T0901317処置は、培地中のこれらの断片の量を減少させた。また、外植片からのAGEG含有の断片の放出は、サイトカイン処置によって誘発され、T0901317処置によって遮断された。
【0072】
実施例5
ヒトOAドナー(National Disease Research Interchangeが提供)からの新鮮な軟骨外植片(〜20片、合計〜200mg/ウェル)を、1%Nutridoma(登録商標)(Roche Applied Science,Indianapolis,IN)を含有する1mlのDMEM/F12中で21日間培養した。21日間の間、外植片を、LXRアゴニスト(2μM GW3965または式I)の存在下、あるいは非存在下で、サイトカイン(10ng/mlIL1βプラス10ng/mlオンコスタチンM)に曝露した。2〜3日おきに、培地を新鮮なサイトカインおよびLXRアゴニストと交換した。7、14、21日目に収集した培地試料中のプロスタグランジンE2(PGE2)の総量を、EIAアッセイ(Cayman)を使用して測定した。
【0073】
図5は、両方のLXRアゴニストが、3つの全ての時点でサイトカイン(IL1β/オンコスタチンM)誘発のPGE2合成を強力に抑制することを示す。脂質プロファイリング分析(Lipomics Inc.)結果は、アラキドン酸(AA)のほとんどがそこから来る2つの形の膜リン脂質の量が、LXR活性によって減少することを示し、総PGE2の減少は、OA軟骨中の総AA含有量の減少によって少なくとも部分的に媒介されることが示唆される。また、PGE2合成に関与する酵素の発現も、LXR活性によって抑制され得る。
【0074】
PGE2は、関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis:RA)またはOAのある関節に見られる主要な炎症促進性プロスタノイドである。また、軟骨におけるPGE2の増加は、関節炎疾患を特徴付ける炎症媒介の構造損傷にも影響を及ぼし得る。さらに重要なことには、PGE2は、炎症の重要な特徴の1つである痛覚過敏に寄与する。したがって、LXRアゴニストは、OA関節中のPGE2産生を遮断することによって痛みを軽減させ、軟骨マトリックス分解を遮断することによって、疾患進行を予防するOA治療法となる大いなる可能性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、それを必要としている前記哺乳動物に、LXR応答遺伝子発現を調節する量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法。
【請求項2】
前記LXRアゴニストが、天然オキシステロール、合成オキシステロール、合成非オキシステロール、または天然非オキシステロールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記LXRアゴニストが、20(S)ヒドロキシコレステロール、22(R)ヒドロキシコレステロール、24(S)ヒドロキシコレステロール、25−ヒドロキシコレステロール、24(S)、25エポキシコレステロール、27−ヒドロキシコレステロール、N,N−ジメチル−3β−ヒドロキシコレンアミド、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−{4−[2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−(トリフルオロメチル)エチル]フェニル}ベンゼンスルホンアミド、[3−(3−(2−クロロ−トリフルオロメチルベンジル−2,2−ジフェニルエチルアミノ)プロポキシ)フェニル酢酸]、N−メチル−N−[4−(2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−トリフルオロメチル−1−エチル)−フェニル]−ベンゼンスルホンアミド、4,5−ジヒドロ−1−(3−(3−トリフルオロメチル−7−プロピル−ベンズイソキサゾール−6−イルオキシ)プロピル)−2,6−ピリミジンジオン、3−クロロ−4−(3−(7−プロピル−3−トリフルオロメチル−6−(4,5)−イソオキサゾリル)プロピルチオ)−フェニル酢酸、アセチル−ポドカルプ2量体、パキシリン、デスモステロール、またはスチグマステロールである、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記LXRアゴニストが、N−(2,2,2−トリフルオロエチル)−N−[4−(2,2,2−トリフルオロ−1−ヒドロキシ−1−トリフルオロメチル−1−エチル)−フェニル]−ベンゼンスルホンアミドである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記LXRアゴニストでの治療が、軟骨分解を抑制し、軟骨再生を誘発する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記LXRアゴニストが、アグリカナーゼ活性を抑制する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記LXRアゴニストが、変形性関節症関節における炎症促進性サイトカインおよび/または炎症性メディエータの生成を抑制する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記炎症性メディエータが、プロスタグランジンE2である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記LXRアゴニストでの治療が、変形性関節症関節において除痛を提供する、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
記LXR応答遺伝子は、アポリポタンパク質Dである、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
変形性関節症軟骨を有する哺乳動物においてアポリポタンパク質Dの発現を誘発する方法であって、それを必要としている前記哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法。
【請求項12】
変形性関節症を予防する方法であって、
(a)対象の正常軟骨におけるアポリポタンパク質D発現レベルのベースラインを決定するステップと、
(b)LXRアゴニストでの治療を介して、前記対象の軟骨におけるアポリポタンパク質D発現レベルのベースラインを維持するステップと、
を含む、方法。
【請求項13】
変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、それを必要としている前記哺乳動物に、アグリカナーゼ活性を抑制する量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法。
【請求項14】
変形性関節症軟骨を有する哺乳動物においてアグリカナーゼの活性を抑制する方法であって、それを必要としている前記哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法。
【請求項15】
変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、変形性関節症関節における炎症促進性サイトカインおよび脂質の生成を抑制するために、それを必要としている前記哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法。
【請求項16】
変形性関節症を罹患する哺乳動物を治療するための方法であって、変形性関節症関節の痛みを軽減するために、それを必要としている前記哺乳動物に、有効量のLXRアゴニストを投与するステップを含む、方法。
【請求項17】
前記LXRアゴニストが、TNFα発現を抑制する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
対象における変形性関節症の表現型を検出する方法であって、
(a)正常軟骨におけるアポリポタンパク質D発現レベルのベースラインを決定するステップと、
(b)変形性関節症を有する疑いがある対象から軟骨試料を得るステップと、
(c)前記試料中のアポリポタンパク質Dの発現レベルを検出するステップと、
を含み、アポリポタンパク質D発現のベースラインと比べて、前記試料中のより少量のアポリポタンパク質D発現は、変形性関節症を示す、方法。
【請求項19】
軟骨における変形性関節症の影響を減少させることが可能なLXRリガンドを同定する方法であって、
(a)LXRを含有する試料を提供するステップと、
(b)前記試料を試験化合物と接触させるステップと、
(c)前記試験化合物が、アポリポタンパク質D発現を誘発するかどうか、アグリカナーゼ活性を抑制するかどうか、炎症促進性サイトカインの生成を抑制するかどうか、またはそれらの組み合わせであるかを判定するステップと、
を含む、方法。
【請求項20】
変形性関節症の治療または予防のための薬物の製造における、LXRアゴニストの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−503730(P2010−503730A)
【公表日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529205(P2009−529205)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/020150
【国際公開番号】WO2008/036239
【国際公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】