変性二成分ゲル化系、使用方法及び製造方法
心筋梗塞後のための組成物、その製造方法及び処置方法を、本明細書において開示する。ある実施態様においては、上記組成物は、少なくとも2種の成分を含む。1つの実施態様においては、第1成分は、およそ6.5のpHの第1緩衝液中で混合した第1官能性ポリマーと少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質とを含む。第2成分は、約7.5〜9.0のpHの第2緩衝液を含む。第2官能性ポリマーを、第1または第2成分中に含ませ得る。ある実施態様においては、上記組成物は、少なくとも1種の細胞タイプ及び/または少なくとも1種の成長因子を含み得る。ある実施態様においては、本発明の組成物は、二重穿孔注入装置により、心筋梗塞後領域のような処置領域に伝達し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
心筋梗塞後の処置及び組成物。
【背景技術】
【0002】
虚血性心臓疾患は、心筋血流と心筋の代謝要求間の不均衡に典型的に由来する。増進性冠状動脈閉塞による進行性アテローム性動脈硬化症は、冠状動脈血流の低下をもたらし、虚血性心臓組織を形成する。“アテローム性動脈硬化症”は、平滑筋細胞及びマクロファージのような細胞、脂肪物質、コレステロール、細胞老廃物、カルシウム並びにフィブリンが身体血管の内壁内に蓄積する動脈硬化症の1つのタイプである。「動脈硬化」とは、動脈の肥厚及び硬化を称する。血流は、潅流低下、血管けいれんまたは血栓症に至る循環の変化のようなさらなる事象によってさらに減少する。
心筋梗塞(MI)は、酸素及び他の栄養素の供給の突発的欠乏に由来する心臓疾患の1つの形態である。血液供給の欠如は、心筋の特定部分に養分を与える冠状動脈(または心臓に養分供給する他の動脈のどれか)の閉塞の結果である。この事象の原因は、一般に、冠状血管の動脈硬化に帰する。
以前には、MIは、例えば、95%から100%まで、閉塞の遅い進行に基因するものと信じられていた。しかしながら、MIは、例えば、動脈内で血液凝固をもたらすコレステロールプラークの破壊が存在する微細な閉塞の結果でもあり得る。従って、血流は遮断され、下流の細胞損傷が生じる。この損傷は、残りの筋肉が十分量の血液を送り出すのに十分に強いにしても、致死的であり得る不規則なリズムを生じ得る。心臓組織に対するこの発作の結果として、瘢痕組織が自然に生じる傾向を有する。
【0003】
閉塞動脈を再開放するための、機械的及び治療薬適用手法のような種々の手法が知られている。機械的手法の例としては、ステント植込み術によるバルーン血管形成があり、一方、治療薬適用法の例としては、ウロキナーゼのような血栓溶解剤の投与がある。しかしながら、そのような手法は、心臓に対する実際の組織損傷を治療するものではない。ACEインヒビター及びベータブロッカーのような他の全身薬は、MI後の心臓負荷を低減するのに有効であり得るが、重度MIを発症する集団の有意の割合が、最終的には、心不全を発症する。
心不全に進行する重要な要素は、左心室内で不均質な応力と歪み分布をもたらす梗塞領域と健常組織間での不整合な機械力による心臓のリモデリングである。MIが一旦生じると、心臓のリモデリングが始まる。リモデリング事象の主たる要素としては、筋細胞死、浮腫及び炎症;その後の、線維芽細胞浸潤及びコラーゲン付着;最終的には、細胞外マトリックス(ECM)付着による瘢痕形成がある。瘢痕の主要因は、非収縮性であり且つ脈動毎に心臓に歪みを引起すコラーゲンである。非収縮性は、低駆出率(EF)及び運動不能症の又は運動障害の局所壁運動(akinetic or diskinetic local wall motion)において見られるように、貧弱な心臓性能を生じる。低EFは、心室内で高い残留血量をもたらし、さらなる壁ストレスの原因となり、瘢痕拡大及び薄層化による最終的な梗塞拡大並びに境界域細胞アポトーシスに至る。さらに、遠隔領域が収縮送出しを損なう高めのストレスの結果として肥厚化し、一方、梗塞領域は、成人の成熟筋細胞は再生されないので、有意の薄層化を示す。筋細胞損減は、最終的に心筋症の進行に至り得る壁薄層化及び室拡張の主要病因的因子である。他の領域においては、遠隔領域が、左心室の全体的拡張を生じる肥大化(肥厚)を示す。これは、リモデリングカスケードの最終結果である。また、これらの変化は、血圧上昇並びに収縮及び拡張性能の悪化をもたらす生理的変化と相関している。
【発明の概要】
【0004】
本明細書においては、心筋梗塞後用の組成物、その製造方法、及び処置方法を開示する。ある実施態様においては、当該組成物は、少なくとも2種の成分を含む。1つの実施態様においては、第1成分は、約6.5のpHの第1緩衝液中で組合せた第1の官能性ポリマーと少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質とを含む。第2成分は、約7.5〜9.0のpHの第2緩衝液である。第2官能性ポリマーを、上記第1または第2成分中に含ませ得る。ある実施態様においては、当該組成物は、少なくとも1種の細胞タイプ及び/または少なくとも1種の成長因子を含み得る。幾つかの実施態様においては、本発明の組成物は、二重穿孔注入装置(dual bore injection device)により、心筋梗塞後領域のような処置領域に伝達させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1A−1B】動脈内でのプラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。
【図2A−2G】官能性ポリエチレングリコールの化学構造の例を示す。
【図3】官能性ポリエチレングリコールの化学構造の一般式を示す。
【図4】二重穿孔伝達装置の1つの実施態様を示す。
【図5A−5B】二重穿孔伝達装置の別の実施態様を示す。
【図6A−6C】二重穿孔伝達装置の第2の別の実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1A〜1Bは、プラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。図1Aは、閉塞及び制限された血流が、例えば、血栓または塞栓により生じ得る部位10を示している。図1Bは、血液により心臓の内部領域左側に担持される酸素及び栄養素の欠乏に由来し得る左心室に対する結果としての損傷領域20を示している。損傷領域20は、おそらくは、リモデリング、最終的には瘢痕形成に達しており、機能していない領域を生じている。
2成分により形成され左心室に現場適用した生体スカッフォールド(bioscaffolding)は、心筋梗塞後組織損傷を処置するのに使用することができる。「生体スカッフォールド」及び「2成分ゲル化系」及び「ゲル化系」は、以下互換的に使用する。2成分ゲル化系の例としては、限定するものではないが、フィブリン糊及びフィブリン糊様系、自己集合性ペプチド、合成ポリマー系、並びにこれらの組合せがある。該2成分ゲル化系の各成分は、二重管腔伝達装置によって梗塞領域に同時注入し得る。二重管腔伝達装置の例としては、限定するものではないが、2本針左心室注入装置、2本針経血管壁注入装置等がある。
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、フィブリン糊を含む。フィブリン糊は、2つの主要成分、即ち、フィブリノーゲン及びトロンビンからなる。フィブリノーゲンは、その内生状態においては、約340キロダルトン(kDa)の血漿糖タンパク質である。フィブリノーゲンは、6本の対ポリペプチド鎖、即ち、アルファ、ベータ及びガンマ鎖からなる対称形ダイマーである。アルファ及びベータ鎖上には、小ペプチド配列、いわゆるフィブリノーゲンがそれ自体によってポリマーを自然形成するのを阻止するフィブリノペプチドが存在する。ある実施態様においては、フィブリノーゲンをタンパク質によって変性する。トロンビンは、凝固タンパク質である。等量で混合したとき、トロンビンは、フィブリノーゲンを、酵素作用により、トロンビン濃度によって決まる速度でフィブリンに転換させる。その結果は、梗塞領域で混合したときゲル化する生体適合性ゲルである。フィブリン糊は、約5〜約60秒でゲル化を受け得る。フィブリン糊様系の例としては、限定するものではないが、Tisseel(商標)(Baxter社)、Beriplast P(商標)(Aventis Behring社)、Biocol(商標)(LFB社、フランス)、Crosseal(商標)(Omrix Biopharmaceuticals社)、Hemaseel HMN(商標)(Haemacure社)、Bolheal(商標)(Kaketsuken Pharma、日本)及びCoStasis(商標)(Angiotech Pharmaceuticals社)がある。
【0007】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、自己集合性ペプチドを含む。自己集合性ペプチドは、一般に、交互の疎水性及び親水性アミノ酸鎖の繰返し配列を含む。親水性アミノ酸は、一般に電荷担持性であり、アニオン性、カチオン性または双方であり得る。カチオン性アミノ酸の例は、リシン及びアルギニンである。アニオン性アミノ酸の例は、アスパラギン酸及びグルタミン酸である。疎水性アミノ酸の例は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはフェニルアラニンである。自己集合性ペプチドは、長さで8〜40個のアミノ酸の範囲であり得、生理的pH及びオスモル濃度(osmolarity)の条件下においてナノ寸法繊維に集合し得る。十分な濃度及び時間経過においては、これらの繊維は、巨視的にはゲルとして見える相互連結した構造に集合し得る。自己集合性ペプチドは、典型的には、数分から数時間でゲル化に達する。自己集合性ペプチドの例としては、限定するものではないが、以下のものがある:AcN-RARADADARARADADA-CNH2 (RAD 16-II) (式中、Rはアルギニンであり、Aはアラニンであり、Dはアスパラギン酸であり、Acは、アセチル化を示す);VKVKVKVKV-PP-TKVKVKVKV-NH2 (MAX-1) (式中、Vはバリンであり、Kはリシンであり、Pはプロリンである);及びAcN-AEAEAKAKAEAEAKAK-CNH2 (式中、Aはアラニンであり、Kはリシンであり、Eはグルタミン酸である) (EAK16-II)。
【0008】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、アルギネート構築物系である。1つの成分は、アルギネートとタンパク質成分を含み得るアルギネート接合体(またはアルギネート単独)であり得る。第2成分は、塩であり得る。アルギネート接合体の例としては、限定するものではないが、アルギネート-コラーゲン、アルギネート-ラミニン、アルギネート-エラスチン、アルギネート-コラーゲン-ラミニン、及びアルギネート-ヒアルロン酸があり、これらにおいて、コラーゲン、ラミニン、エラスチン、コラーゲン-ラミニンまたはヒアルロン酸は、アルギネートに共有結合している(或いは結合していない)。アルギネート構築物をゲル化させるのに使用し得る塩の例としては、限定するものではないが、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化バリウム(BaCl2)または塩化ストロンチウム(SrCl2)がある。
1つの実施態様においては、アルギネート構築物は、アルギネート-ゼラチンである。ゼラチンの分子量は、おおよそ5kDa〜100kDaの範囲内にあり得る。比較的低分子量のゼラチンが、低分子量の方が高めの分子量のヒドロゲルよりも可溶性であり且つ低粘度を有する点で、加工上の利点を提供する。ゼラチンのもう1つの利点は、ゼラチンが分子当り1〜4個のRGD(アルギネート-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列)部位を含有することである。RGDは、一般的な細胞接着リガンドであり、生体スカッフォールドを形成させる梗塞領域内での細胞の保持性を増強するであろう。RGD部位によって保持された細胞は、生体スカッフォールド成分と一緒に同時注入された或いは系の成分の全体に亘って分散させた細胞であり得る。
【0009】
ゼラチンは、ブタゼラチンまたは組換えヒトゼラチンであり得る。ブタゼラチンは、ブタの皮膚から抽出した加水分解タイプ1コラーゲンである。1つの実施態様においては、ブタゼラチンの分子量は、約20kDaである。ヒトゼラチンは、ヒト遺伝子物質を使用して細菌によって産生させる。ヒト組換えゼラチンは、ブタゼラチンと等価であるが、ヒト対象者の梗塞領域に注入したときの免疫応答の可能性を低減させ得る。
アルギネートは、海草に由来する線状多糖類であり、交互のブロック及び交互の個々の残基の双方内に存在するマンヌロン酸(M)及びグルロン酸(G)を含有する。アルギネートは細胞結合のためのRGD基を有していないので、アルギネートのカルボキシル基のいくつかを有用な細胞接着リガンド、例えば、コラーゲン、ラミニン、エラスチン及びECMマトリックスの他のペプチドフラグメントをグラフトさせる部位として使用して、アルギネート接合体を形成させることは可能である。
アルギネート-ゼラチン接合体は、約1%〜30%、とりわけ約10%〜20%のゼラチン(ブタまたはヒト組換えのいずれか)と約80%〜90%のアルギネートから調製し得る。比較的低割合のゼラチンを接合体中で使用して、アルギネート本来のゲル化能力を保持する;なぜならば、ゲル化を起すアルギネートのカルボキシル基をアルギネート-ゼラチン接合体内にしっかり結合させ得るからである。
【0010】
ある実施態様においては、上記2成分ゲル化系は、ポリエチレングリコールを含む。PEGは、繰返し構造(OCH2CH2)nを有する合成ポリマーである。第1成分は、少なくとも2個の求核基により官能化したポリエチレングリコール(PEG)ポリマーであり得る。求核基の例としては、限定するものではないが、チオール(-SH)、チオールアニオン(-S-)、及びアミン(-NH2)がある。“求核試薬”は、正電荷の中心に引き付けられる試薬である。求核試薬は、電子を求核試薬に供与して化学結合を形成することによって化学反応に関与する。第2成分は、少なくとも2個の求電子基によって官能化したPEGポリマーであり得る。求電子基の例としては、限定するものではないが、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(-NHS)、アクリレート、ビニルスルホン及びマレイミドがある。-NHSまたはスクシンイミジルは、化学式-N(COCH2)2によって示される5員環構造体である。“求電子試薬”は、電子対を受容して求核試薬に結合することによって化学反応に関与する電子に引付けられる試薬である。求核基及び求電子基の総数は、4個よりも多くあるべきである。
ある実施態様においては、少なくとも2個の求核基によって官能化したPEG及び少なくとも2個の求電子基によって官能化したPEGを含む2種の官能性PEGは、1:1比で混合し得る。上記各PEGは、約4.0よりも低いpHの0.01M 酸性溶液中で保存し得る。室温及び標準濃度においては、およそ6.5よりも高いpHで始まる上記2種の官能化PEG間の反応及び架橋が生じる。これらの条件下では、反応速度は遅い。pH約9.0の0.3M塩基性緩衝溶液を各PEGに添加した場合、ゲル化は1分未満で生じる。この系は、官能性PEG溶液の低pHお及び高オスモル濃度pH 9.0の緩衝液故に、貧弱な細胞適合性しか示さない。「細胞適合性」とは、細胞増殖を促す環境を提供する媒質の能力を称する。さらに、この系は、何らの細胞接着部位も含んでいない。
【0011】
変性ポリエチレングリコールゲル化系
ある実施態様においては、生体スカッフォールドは、官能性ポリマー(生体スカッフォールドプレカーサー)を細胞外マトリックス(ECM)タンパク質と生理的オスモル濃度で結合させることにより形成させる。得られる生体スカッフォールドは、約6.5〜約7.5のpH範囲にあり得る。ECMタンパク質の例としては、限定するものではないが、コラーゲン、ラミニン、エラスチン及びこれらのフラグメント、さらにまた、RGD基のような細胞接着リガンドを有するタンパク質、タンパク質フラグメント及びペプチドがある。ある実施態様においては、細胞を生体スカッフォールドプレカーサーに添加し得る。細胞タイプの例としては、限定するものではないが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞(骨芽細胞、軟骨細胞及び線維芽細胞)、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞または骨格筋芽細胞がある。ある実施態様においては、成長因子を上記系に添加し得る。成長因子の例としては、限定するものではないが、脈管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF、例えば、ベータ-FGF)、Del 1、低酸素誘導因子(HIF 1-アルファ)、単球走化性タンパク質(MCP-1)、ニコチン、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子1 (IGF-1)、形質転換成長因子(TGFアルファ)、肝細胞成長因子(HGF)、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子(TNF-アルファ)、インターロイキン8 (Il-8)、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び血小板由来内皮成長因子(PD-ECGF)の各イソ型がある。
上記ポリマーは、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアルキレンオキシドまたはポリエチレングリコール(PEG)のような合成ポリマーを含み得る。これら化合物の分子量は、所望の用途に応じて変動し得る。多くの場合、分子量(モル. 質量)は、約100〜約100,000モル. 質量、より好ましくは約1,000〜約20,000モル. 質量である。
【0012】
ある実施態様においては、ポリマーは、ポリエチレングリコールである。本明細書において使用するとき、用語「ポリエチレングリコール」は、変性及び/または誘導体化ポリエチレングリコールを包含する。ある実施態様によれば、第1の官能性PEGは、少なくとも2個の求電子基のような反応基によって官能化し得る。反応基の例としては、限定するものではないが、スクシンイミジル基(-NHS)、アクリレートのようなビニル基、ビニルスルホン、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルエステル、ビニルケトンまたはマレイミド、及びニトロフェノレートまたは同様な離脱基がある。ある実施態様によれば、第2の官能性PEGは、少なくとも2個の求核基のような反応基によって官能化し得る。反応基の例としては、限定するものではないが、チオール基、アミノ基、ヒドロキシル基、ホスフィン基(PH2)及び-CO-NH-NH2がある。求電子基を有する代表的な官能性PEGを、図2A〜2Gに示している。求核基を有する官能性PEGの一般的な代表式を図3に示している。ある実施態様においては、求電子基により官能化したPEGを、求核基により官能化したPEGと混合して生体スカッフォールドゲルを形成させる。求核基及び求電子基の総数は、4よりも多くあるべきである。
図2A〜2G及び3に示すPEGの枝分れ配座は、限定するものではない。ある実施態様においては、各PEGの合せた官能価は、4よりも高い。「官能価」とは、それぞれ、他の求核基または求電子基と反応してゲルを形成することのできるポリマーコア上の求電子基または求核基の数を称する。即ち、組合せる各PEGが少なくとも二官能性である、即ち、各PEGが少なくとも2個の求核基または求電子基を含有する限り、各官能性PEGを組合せて生体スカッフォールドゲルを形成させることができる。従って、求電子基と求核基の総数は、4よりも高くあるべきである。
【0013】
ある実施態様においては、生体スカッフォールドは、少なくとも1種の官能性PEGとECMタンパク質とを含む第1成分、及び緩衝液の第2成分を含み得る。「成分」とは、以下、2成分系の1成分を称し、多構成成分(例えば、混合物)を含み得る。1つの実施態様においては、第1成分は、-NHS PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)のような第1官能性PEG、-SH PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)のような第2官能性PEG及びECMタンパク質の混合物を含み得る。ある実施態様においては、第1成分は、-NHS PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)のような第1官能性ポリマーのみとECMタンパク質とを含み得る。
ある実施態様においては、第1官能性PEGは、第2官能性PEGと1:1の比で混合し得る。ある実施態様においては、例えば、各官能性PEGは、1:1よりも低い比で混合し得る。例えば、2つのPEGは、異なる数の官能基を有し得、結果として、PEG化学量論量を変えることができる。また、架橋密度を、ポリマー比を変えることによって変化させ得る。ある実施態様においては、各官能性PEGは、固相で混合し得る。処置部位へ伝達させるように調製する場合、混合物は、おおよそ生理的オスモル濃度、即ち、280〜300mOsm/kg H2Oを有するpH 6.5の緩衝液中に懸濁させ得る。緩衝液の例としては、限定するものではないが、希塩化水素及びクエン酸緩衝液がある。
【0014】
第2成分は、約140mM〜約150mMの濃度で約7.5〜9.5のpH範囲内の緩衝液を含み得る。緩衝液の例としては、リン酸ナトリウム及び炭酸ナトリウム緩衝液がある。緩衝液は、おおよそ生理的オスモル濃度、即ち、280〜300mOsm/kg H2Oであり得る。ある実施態様においては、第2成分は、-SH PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)及び緩衝液を含み得る。
ある実施態様においては、細胞タイプを第1成分に添加し得る。細胞タイプの例としては、限定するものではないが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞(骨芽細胞、軟骨細胞及び線維芽細胞)、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞または骨格筋芽細胞がある。例えば、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を第1成分に添加し得る。ある実施態様においては、成長因子を第1成分に添加し得る。ある種の用途においては、官能性PEGは、成長因子と反応させ得、それによって成長因子を安定化し、その半減期を延長し或いは成長因子の制御放出方式を提供し得る。成長因子は、注入hMSCまたは内生前駆細胞の梗塞部位での生存を助長するように作用し得る。さらに、成長因子は、内生前駆細胞が損傷部位に向うのを助ける。
一般に、細胞は、PEG表面またはPEGポリマーから形成させたゲルに結合しない。即ち、PEGポリマーは、細胞に対して細胞適合性環境を提供しない。コラーゲンまたはゼラチンまたは任意の他のECMタンパク質(フィブロネクチンのような)を添加して細胞適合性を改良することができる。しかしながら、コラーゲンの場合、例えば、PEGの混合物に添加したコラーゲンは、その混合物を極めて粘稠にし得、従って、カテーテル伝達系の助けとならない。第1成分のpH及び第2成分の濃度が、本発明の各実施態様において説明しているように、存在するECMタンパク質によってさえも細胞タイプの細胞適合性を増強していると予測している。
【0015】
ある実施態様においては、第1成分を第2成分と混合して梗塞部位において生体スカッフォールドを生成させることができる。混合したとき、得られる生体スカッフォールドゲルは、6.8〜7.4のpHであり得る。第2成分の低緩衝液濃度は反応を遅くするものの、得られるゲルは、細胞適合性の改良を可能にし得る。ECMタンパク質は、細胞接着部位を提供して、細胞の拡散と移行を可能にする。「細胞拡散」とは、ある種の細胞が、それら細胞を細胞適合性表面上で増殖せしめたときに獲得する自然発生の形態を称する。hMSCの場合、自然形態は、平坦化されたスピンドル形の形態である。ある実施態様においては、ECMのN-末端並びにリシン及びアルギニン側鎖基が-NHS PEGと反応し得る。これによって、ゲルのより良好な機械的安定性をもたらし且つゲルが膨潤する性向を低下させ得る。この反応は、ゲルを形成する反応である。
ある実施態様においては、-NHS PEGの-NHS基をビニル成分、例えば、アクリレート、ビニルスルホン、ビニルケトン、アリルエステル、アリルケトンまたはマレイミド基(1個以上)で置換し得る。-SH PEGと適切な条件下に混合したとき、これらの基は、-SH PEGのチオール基(1個以上)とマイケル(Michael)タイプの反応によって反応し得る。マイケルタイプの反応は、当業者にとって周知である。ある実施態様においては、該反応は、約6.0〜約9.0のpH範囲内の緩衝液により、触媒量の種々のアミンにより或いはこれらの組合せにより活性化させ得る。マイケルタイプの反応は、チオールと活性化エステルとの反応から形成された加水分解的に不安定なチオエステル結合と対比してチオエーテル結合が形成されるので、得られるゲルの長期安定性に寄与するものと予測している。ある実施態様においては、-NHS PEGの-NHS基は、ニトロフェノレートのような脱離基で置換し得る。
ある実施態様においては、-SH PEGの-SH基をアミノ基で置換して、-NHSまたは他の官能性PEGと混合したときにアミド結合を形成させることができる。
【0016】
処置方法
ゲルの各成分を伝達するのに使用し得る装置としては、限定するものではないが、2本針左心室注入装置、2本針経血管壁注入装置及びデュアルシリンジがある。最低に侵襲性(即ち、経皮または内視鏡による)の注入装置の使用を可能にする方法としては、大腿動脈または剣状突起下(sub-xiphoid)による利用法がある。「剣状突起」または「剣状突起部」は、胸骨(breastboneまたはsternum)の下端に結合した先の尖った軟骨、即ち、胸骨の最小で最低の区域である。両方法は、当業者にとって既知である。
図4は、本発明の組成物を伝達するのに使用することのできるデュアルシリンジ装置の1つの実施態様を例示している。デュアルシリンジ400は、互いに近接し且つ近接端部455、遠位端部460及び中央領域465においてそれぞれプレート440、445及び450によって連結させた第1バレル410と第2バレル420を含み得る。ある実施態様においては、バレル410と420は、3本よりも少ないプレートで連結し得る。各バレル410と420は、それぞれ、プランジャー415及びプランジャー425を含む。バレル410と420は、遠位端部において、それぞれ、物質を押出すためのニードル430及び435として終端している。ある実施態様においては、バレル410と420は、物質を押出すためのカニューレ突起として終端し得る。バレル410と420は、互いに十分に近接近していて、各々それぞれのバレル内の物質を互いに混合して処置領域、例えば、心筋梗塞後領域中に生体スカッフォールドを形成することがきるようでなければならない。デュアルシリンジ400は、本発明において説明する調合物と最低の反応性であるか或いは完全に非反応性である任意の金属またはプラスチックから構築し得る。ある実施態様においては、デュアルシリンジ400は、遠位端部465に接続させた予備混合用チャンバーを含む。
ある種の用途においては、第1バレル410は2成分ポリエチレングリコールゲル化系の第1成分を含み得、第2バレル420は前記で説明した実施態様のいずれかに従う系の第2成分を含み得る。得られるゲルの治療量は、約25μL〜約200μL、好ましくは約50μLである。デュアルシリンジ400は、例えば、開胸手術処置中に使用し得る。
【0017】
図5A〜5Bは、本発明の組成物を伝達するのに使用することのできる2本針注入装置の1つの実施態様を例示している。伝達アッセンブリ500は、ハウス伝達管腔、ガイドワイヤー管腔及び/または他の管腔であり得る管腔510を含む。管腔510は、この例においては、伝達アッセンブリ500の遠位部分505及び近接端部515間を延びている。
1つの実施態様においては、伝達アッセンブリ500は、伝達管腔530内に可動的に配置した第1ニードル520を含む。伝達管腔530は、例えば、適切な材料(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等)のポリマーチューブである。第1ニードル520は、例えば、伝達アッセンブリの長さを延ばしているステンレススチールハイポチューブである。第1ニードル520は、例えば、0.08インチ(0.20センチメートル)の内径を有する管腔である。伸縮自在のニードルカテーテルの1つの例においては、第1ニードル520は、遠位部分505から近接部分515までで約40インチ(約1.6メートル)程度のニードル長を有する。また、管腔510は、この例においては、カテーテル長(遠位部分505から近接部分515まで)に沿って共直線的に延びている補助管腔540も含む。補助管腔540は、例えば、適切な材料(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等)のポリマーチューブである。遠位部分505において、補助管腔540は、第2ニードル550の伝達端部で終端しており、ニードル520の伝達端部と共直線的に整列させている。補助管腔540は、第2ニードル550の伝達端部に、紫外線硬化性接着剤のような電磁線硬化性接着剤によって終端させ得る。第2ニードル550は、例えば、主ニードル520の端部に、例えば、ハンダ(接合部555として示している)により共直線的に接合させているステンレススチールハイポチューブである。第2ニードル550は、約0.08インチ(0.20センチメートル)程度の長さを有する。図5Bは、伝達アッセンブリ500の線A〜A'での断面正面図を示している。図5Bは、共直線整列(co-linear alignment)における主ニードル520と第2ニードル550を示している。
【0018】
図5Aに関しては、近接端部515において、補助管腔540は、補助サイドアーム460に終端している。補助サイドアーム560は、主ニードル520と共直線的に延びている部分を含む。補助サイドアーム560は、例えば、主ニードル520にハンダ付けし得る(接合部565として示している)ステンレススチールハイポチューブ材料である。補助サイドアーム560は、1つの例においては、約1.2インチ(3センチメートル)程度の共直線長さを有する。
主ニードル520の近接端部は、物質伝達装置(例えば、2成分生体内分解性ゲル物質の成分)を順応させるためのアダプター570を含む。アダプター570は、例えば、成形した雌ルアーハウジングである。同様に、補助サイドアーム560の近接端部は、物質伝達装置を順応させるためのアダプター580(例えば、雌ルアーハウジング)を含む。
図5A〜5Bに関連して上述した設計構造は、本発明の2成分ゲル組成物を導入するのに適している。例えば、ゲルは、第1成分と第2成分との組合せ(混合、接触等)によって形成させ得る。典型的には、第1成分を、1立方センチメートルシリンジにより、アダプター570において主ニードル520から導入する。同時に或いは前後まもなく、絹タンパク質及び任意成分としての少なくとも1種の細胞タイプを含む第2成分を、1立方センチメートルシリンジにより、アダプター580において導入し得る。第1及び第2成分が伝達アッセンブリ500の出口において(梗塞領域において)混ざったとき、各材料は、組合わさって(混合、接触して)、生体内分解性ゲルを形成する。
【0019】
図6A〜6Cは、本発明の2成分ゲル組成物を伝達するのに使用することのできる2本針注入装置の別の実施態様を例示している。一般に、カテーテルアッセンブリ600は、2成分ゲル組成物のような物質を血管(生理的管腔)または組織の所望領域にまたは所望領域を通して伝達して心筋梗塞領域を処置する装置を提供する。カテーテルアッセンブリ600は、「Directional Needle Injection Drug Delivery Device」と題した共同所有の米国特許出願第6,554,801号に記載されているカテーテルアッセンブリ600と同様である;該出願は、参考として本明細書に合体させる。
1つの実施態様においては、カテーテルアッセンブリ600は、近接部分620と遠位部分610を有する細長のカテーテル本体650によって形成されている。ガイドワイヤーカニューレ670がカテーテル本体内に(近接部分610から遠位部分620まで)形成されており、カテーテルアッセンブリ600に供給し且つガイドワイヤー680上で操作するのを可能にしている。バルーン630が、カテーテルアッセンブリ600の遠位部分610に組込まれており、カテーテルアッセンブリ600の膨張カニューレ660と流体連通している。
バルーン630は、折畳んだ形状から所望の制御された膨張形状に拡張するために選択的に膨張性であるバルーン壁または膜635から形成し得る。バルーン630は、流体を膨張ポート665(近接端部620に位置した)からの所定の圧力率で膨張カニューレ660に供給するによって選択的に拡張(膨張)させ得る。バルーン壁635を、膨張後、選択的に収縮させて折畳み形状または収縮形状に戻す。バルーン630は、液体を膨張カニューレ660に導入することによって拡張(膨張)させ得る。また、治療及び/または診断剤を含有する液体を使用してバルーン630を膨張させてもよい。1つの実施態様においては、バルーン630は、そのような治療及び/または診断液体に対して透過性である材料から製造し得る。バルーン630を膨張させるためには、流体を、膨張カニューレ660中に、所定の圧力、例えば、約101.3〜2,026.5kPa (約1〜20気圧)で供給し得る。特定の圧力は、バルーン壁635の厚さ、バルーン壁635を製造する材料、使用する物質のタイプ及び所望する流量のような種々の要因に依存する。
【0020】
また、カテーテルアッセンブリ600は、物質を心筋梗塞領域に注入するための少なくとも2つの物質伝達アッセンブリ605a及び605b(図示していない;図6B〜6C参照)も含む。1つの実施態様においては、物質伝達アッセンブリ605aは、中空伝達管腔(hollow delivery lumen)625a内に可動的に配置したニードル615aを含む。伝達アッセンブリ605bは、中空伝達管腔625b内に可動的に配置したニードル615bを含む(図示していない;図6B〜6C参照)。伝達管腔625a及び伝達管腔625bは、各々、遠位部分610と近接部分620間を延びている。伝達管腔625a及び伝達管腔625bは、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等のポリマー及びコポリマーのような任意の適当な材料から製造し得る。伝達管腔625aまたは伝達管腔625bの近接端部へのニードル615aまたは615bの挿入方法は、それぞれ、ハブ635(近接端部620に位置した)によって提供される。伝達管腔625a及び伝達管腔625bを使用して、2成分ゲル組成物の第1及び第2成分を心筋梗塞後領域に伝達することができる。
図6Bは、図6Aの線A〜A'(遠位部分610)でのカテーテルアッセンブリ600の断面を示す。図6Cは、図6Aの線B〜B'でのカテーテルアッセンブリ600の断面を示す。ある実施態様においては、伝達アッセンブリ605a及び605bは、高いに近接している。伝達アッセンブリ605a及び605bの近接は、心筋梗塞後領域のような処置部位へ伝達したときに、2成分ゲル化系の各成分を早急にゲル化させるのを可能にする。
【0021】
上記の詳細な説明から、当業者の範囲に属する多くの本発明の変更、改作及び修正が存在することは明白である。本発明の範囲は、本明細書において開示する種々の種及び実施態様からの要素のあらゆる組合せ、並びに本発明の下位アッセンブリ、アッセンブリ及び方法を包含する。しかしながら、本発明の精神を逸脱しないそのような変形は、全て本発明の範囲内とみなすものとする。
【技術分野】
【0001】
心筋梗塞後の処置及び組成物。
【背景技術】
【0002】
虚血性心臓疾患は、心筋血流と心筋の代謝要求間の不均衡に典型的に由来する。増進性冠状動脈閉塞による進行性アテローム性動脈硬化症は、冠状動脈血流の低下をもたらし、虚血性心臓組織を形成する。“アテローム性動脈硬化症”は、平滑筋細胞及びマクロファージのような細胞、脂肪物質、コレステロール、細胞老廃物、カルシウム並びにフィブリンが身体血管の内壁内に蓄積する動脈硬化症の1つのタイプである。「動脈硬化」とは、動脈の肥厚及び硬化を称する。血流は、潅流低下、血管けいれんまたは血栓症に至る循環の変化のようなさらなる事象によってさらに減少する。
心筋梗塞(MI)は、酸素及び他の栄養素の供給の突発的欠乏に由来する心臓疾患の1つの形態である。血液供給の欠如は、心筋の特定部分に養分を与える冠状動脈(または心臓に養分供給する他の動脈のどれか)の閉塞の結果である。この事象の原因は、一般に、冠状血管の動脈硬化に帰する。
以前には、MIは、例えば、95%から100%まで、閉塞の遅い進行に基因するものと信じられていた。しかしながら、MIは、例えば、動脈内で血液凝固をもたらすコレステロールプラークの破壊が存在する微細な閉塞の結果でもあり得る。従って、血流は遮断され、下流の細胞損傷が生じる。この損傷は、残りの筋肉が十分量の血液を送り出すのに十分に強いにしても、致死的であり得る不規則なリズムを生じ得る。心臓組織に対するこの発作の結果として、瘢痕組織が自然に生じる傾向を有する。
【0003】
閉塞動脈を再開放するための、機械的及び治療薬適用手法のような種々の手法が知られている。機械的手法の例としては、ステント植込み術によるバルーン血管形成があり、一方、治療薬適用法の例としては、ウロキナーゼのような血栓溶解剤の投与がある。しかしながら、そのような手法は、心臓に対する実際の組織損傷を治療するものではない。ACEインヒビター及びベータブロッカーのような他の全身薬は、MI後の心臓負荷を低減するのに有効であり得るが、重度MIを発症する集団の有意の割合が、最終的には、心不全を発症する。
心不全に進行する重要な要素は、左心室内で不均質な応力と歪み分布をもたらす梗塞領域と健常組織間での不整合な機械力による心臓のリモデリングである。MIが一旦生じると、心臓のリモデリングが始まる。リモデリング事象の主たる要素としては、筋細胞死、浮腫及び炎症;その後の、線維芽細胞浸潤及びコラーゲン付着;最終的には、細胞外マトリックス(ECM)付着による瘢痕形成がある。瘢痕の主要因は、非収縮性であり且つ脈動毎に心臓に歪みを引起すコラーゲンである。非収縮性は、低駆出率(EF)及び運動不能症の又は運動障害の局所壁運動(akinetic or diskinetic local wall motion)において見られるように、貧弱な心臓性能を生じる。低EFは、心室内で高い残留血量をもたらし、さらなる壁ストレスの原因となり、瘢痕拡大及び薄層化による最終的な梗塞拡大並びに境界域細胞アポトーシスに至る。さらに、遠隔領域が収縮送出しを損なう高めのストレスの結果として肥厚化し、一方、梗塞領域は、成人の成熟筋細胞は再生されないので、有意の薄層化を示す。筋細胞損減は、最終的に心筋症の進行に至り得る壁薄層化及び室拡張の主要病因的因子である。他の領域においては、遠隔領域が、左心室の全体的拡張を生じる肥大化(肥厚)を示す。これは、リモデリングカスケードの最終結果である。また、これらの変化は、血圧上昇並びに収縮及び拡張性能の悪化をもたらす生理的変化と相関している。
【発明の概要】
【0004】
本明細書においては、心筋梗塞後用の組成物、その製造方法、及び処置方法を開示する。ある実施態様においては、当該組成物は、少なくとも2種の成分を含む。1つの実施態様においては、第1成分は、約6.5のpHの第1緩衝液中で組合せた第1の官能性ポリマーと少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質とを含む。第2成分は、約7.5〜9.0のpHの第2緩衝液である。第2官能性ポリマーを、上記第1または第2成分中に含ませ得る。ある実施態様においては、当該組成物は、少なくとも1種の細胞タイプ及び/または少なくとも1種の成長因子を含み得る。幾つかの実施態様においては、本発明の組成物は、二重穿孔注入装置(dual bore injection device)により、心筋梗塞後領域のような処置領域に伝達させ得る。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1A−1B】動脈内でのプラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。
【図2A−2G】官能性ポリエチレングリコールの化学構造の例を示す。
【図3】官能性ポリエチレングリコールの化学構造の一般式を示す。
【図4】二重穿孔伝達装置の1つの実施態様を示す。
【図5A−5B】二重穿孔伝達装置の別の実施態様を示す。
【図6A−6C】二重穿孔伝達装置の第2の別の実施態様を示す。
【発明を実施するための形態】
【0006】
図1A〜1Bは、プラークの蓄積が一旦梗塞発症を誘発させたときの心臓損傷の進行を例示している。図1Aは、閉塞及び制限された血流が、例えば、血栓または塞栓により生じ得る部位10を示している。図1Bは、血液により心臓の内部領域左側に担持される酸素及び栄養素の欠乏に由来し得る左心室に対する結果としての損傷領域20を示している。損傷領域20は、おそらくは、リモデリング、最終的には瘢痕形成に達しており、機能していない領域を生じている。
2成分により形成され左心室に現場適用した生体スカッフォールド(bioscaffolding)は、心筋梗塞後組織損傷を処置するのに使用することができる。「生体スカッフォールド」及び「2成分ゲル化系」及び「ゲル化系」は、以下互換的に使用する。2成分ゲル化系の例としては、限定するものではないが、フィブリン糊及びフィブリン糊様系、自己集合性ペプチド、合成ポリマー系、並びにこれらの組合せがある。該2成分ゲル化系の各成分は、二重管腔伝達装置によって梗塞領域に同時注入し得る。二重管腔伝達装置の例としては、限定するものではないが、2本針左心室注入装置、2本針経血管壁注入装置等がある。
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、フィブリン糊を含む。フィブリン糊は、2つの主要成分、即ち、フィブリノーゲン及びトロンビンからなる。フィブリノーゲンは、その内生状態においては、約340キロダルトン(kDa)の血漿糖タンパク質である。フィブリノーゲンは、6本の対ポリペプチド鎖、即ち、アルファ、ベータ及びガンマ鎖からなる対称形ダイマーである。アルファ及びベータ鎖上には、小ペプチド配列、いわゆるフィブリノーゲンがそれ自体によってポリマーを自然形成するのを阻止するフィブリノペプチドが存在する。ある実施態様においては、フィブリノーゲンをタンパク質によって変性する。トロンビンは、凝固タンパク質である。等量で混合したとき、トロンビンは、フィブリノーゲンを、酵素作用により、トロンビン濃度によって決まる速度でフィブリンに転換させる。その結果は、梗塞領域で混合したときゲル化する生体適合性ゲルである。フィブリン糊は、約5〜約60秒でゲル化を受け得る。フィブリン糊様系の例としては、限定するものではないが、Tisseel(商標)(Baxter社)、Beriplast P(商標)(Aventis Behring社)、Biocol(商標)(LFB社、フランス)、Crosseal(商標)(Omrix Biopharmaceuticals社)、Hemaseel HMN(商標)(Haemacure社)、Bolheal(商標)(Kaketsuken Pharma、日本)及びCoStasis(商標)(Angiotech Pharmaceuticals社)がある。
【0007】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、自己集合性ペプチドを含む。自己集合性ペプチドは、一般に、交互の疎水性及び親水性アミノ酸鎖の繰返し配列を含む。親水性アミノ酸は、一般に電荷担持性であり、アニオン性、カチオン性または双方であり得る。カチオン性アミノ酸の例は、リシン及びアルギニンである。アニオン性アミノ酸の例は、アスパラギン酸及びグルタミン酸である。疎水性アミノ酸の例は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシンまたはフェニルアラニンである。自己集合性ペプチドは、長さで8〜40個のアミノ酸の範囲であり得、生理的pH及びオスモル濃度(osmolarity)の条件下においてナノ寸法繊維に集合し得る。十分な濃度及び時間経過においては、これらの繊維は、巨視的にはゲルとして見える相互連結した構造に集合し得る。自己集合性ペプチドは、典型的には、数分から数時間でゲル化に達する。自己集合性ペプチドの例としては、限定するものではないが、以下のものがある:AcN-RARADADARARADADA-CNH2 (RAD 16-II) (式中、Rはアルギニンであり、Aはアラニンであり、Dはアスパラギン酸であり、Acは、アセチル化を示す);VKVKVKVKV-PP-TKVKVKVKV-NH2 (MAX-1) (式中、Vはバリンであり、Kはリシンであり、Pはプロリンである);及びAcN-AEAEAKAKAEAEAKAK-CNH2 (式中、Aはアラニンであり、Kはリシンであり、Eはグルタミン酸である) (EAK16-II)。
【0008】
ある種の用途においては、上記2成分ゲル化系は、アルギネート構築物系である。1つの成分は、アルギネートとタンパク質成分を含み得るアルギネート接合体(またはアルギネート単独)であり得る。第2成分は、塩であり得る。アルギネート接合体の例としては、限定するものではないが、アルギネート-コラーゲン、アルギネート-ラミニン、アルギネート-エラスチン、アルギネート-コラーゲン-ラミニン、及びアルギネート-ヒアルロン酸があり、これらにおいて、コラーゲン、ラミニン、エラスチン、コラーゲン-ラミニンまたはヒアルロン酸は、アルギネートに共有結合している(或いは結合していない)。アルギネート構築物をゲル化させるのに使用し得る塩の例としては、限定するものではないが、塩化カルシウム(CaCl2)、塩化バリウム(BaCl2)または塩化ストロンチウム(SrCl2)がある。
1つの実施態様においては、アルギネート構築物は、アルギネート-ゼラチンである。ゼラチンの分子量は、おおよそ5kDa〜100kDaの範囲内にあり得る。比較的低分子量のゼラチンが、低分子量の方が高めの分子量のヒドロゲルよりも可溶性であり且つ低粘度を有する点で、加工上の利点を提供する。ゼラチンのもう1つの利点は、ゼラチンが分子当り1〜4個のRGD(アルギネート-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列)部位を含有することである。RGDは、一般的な細胞接着リガンドであり、生体スカッフォールドを形成させる梗塞領域内での細胞の保持性を増強するであろう。RGD部位によって保持された細胞は、生体スカッフォールド成分と一緒に同時注入された或いは系の成分の全体に亘って分散させた細胞であり得る。
【0009】
ゼラチンは、ブタゼラチンまたは組換えヒトゼラチンであり得る。ブタゼラチンは、ブタの皮膚から抽出した加水分解タイプ1コラーゲンである。1つの実施態様においては、ブタゼラチンの分子量は、約20kDaである。ヒトゼラチンは、ヒト遺伝子物質を使用して細菌によって産生させる。ヒト組換えゼラチンは、ブタゼラチンと等価であるが、ヒト対象者の梗塞領域に注入したときの免疫応答の可能性を低減させ得る。
アルギネートは、海草に由来する線状多糖類であり、交互のブロック及び交互の個々の残基の双方内に存在するマンヌロン酸(M)及びグルロン酸(G)を含有する。アルギネートは細胞結合のためのRGD基を有していないので、アルギネートのカルボキシル基のいくつかを有用な細胞接着リガンド、例えば、コラーゲン、ラミニン、エラスチン及びECMマトリックスの他のペプチドフラグメントをグラフトさせる部位として使用して、アルギネート接合体を形成させることは可能である。
アルギネート-ゼラチン接合体は、約1%〜30%、とりわけ約10%〜20%のゼラチン(ブタまたはヒト組換えのいずれか)と約80%〜90%のアルギネートから調製し得る。比較的低割合のゼラチンを接合体中で使用して、アルギネート本来のゲル化能力を保持する;なぜならば、ゲル化を起すアルギネートのカルボキシル基をアルギネート-ゼラチン接合体内にしっかり結合させ得るからである。
【0010】
ある実施態様においては、上記2成分ゲル化系は、ポリエチレングリコールを含む。PEGは、繰返し構造(OCH2CH2)nを有する合成ポリマーである。第1成分は、少なくとも2個の求核基により官能化したポリエチレングリコール(PEG)ポリマーであり得る。求核基の例としては、限定するものではないが、チオール(-SH)、チオールアニオン(-S-)、及びアミン(-NH2)がある。“求核試薬”は、正電荷の中心に引き付けられる試薬である。求核試薬は、電子を求核試薬に供与して化学結合を形成することによって化学反応に関与する。第2成分は、少なくとも2個の求電子基によって官能化したPEGポリマーであり得る。求電子基の例としては、限定するものではないが、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(-NHS)、アクリレート、ビニルスルホン及びマレイミドがある。-NHSまたはスクシンイミジルは、化学式-N(COCH2)2によって示される5員環構造体である。“求電子試薬”は、電子対を受容して求核試薬に結合することによって化学反応に関与する電子に引付けられる試薬である。求核基及び求電子基の総数は、4個よりも多くあるべきである。
ある実施態様においては、少なくとも2個の求核基によって官能化したPEG及び少なくとも2個の求電子基によって官能化したPEGを含む2種の官能性PEGは、1:1比で混合し得る。上記各PEGは、約4.0よりも低いpHの0.01M 酸性溶液中で保存し得る。室温及び標準濃度においては、およそ6.5よりも高いpHで始まる上記2種の官能化PEG間の反応及び架橋が生じる。これらの条件下では、反応速度は遅い。pH約9.0の0.3M塩基性緩衝溶液を各PEGに添加した場合、ゲル化は1分未満で生じる。この系は、官能性PEG溶液の低pHお及び高オスモル濃度pH 9.0の緩衝液故に、貧弱な細胞適合性しか示さない。「細胞適合性」とは、細胞増殖を促す環境を提供する媒質の能力を称する。さらに、この系は、何らの細胞接着部位も含んでいない。
【0011】
変性ポリエチレングリコールゲル化系
ある実施態様においては、生体スカッフォールドは、官能性ポリマー(生体スカッフォールドプレカーサー)を細胞外マトリックス(ECM)タンパク質と生理的オスモル濃度で結合させることにより形成させる。得られる生体スカッフォールドは、約6.5〜約7.5のpH範囲にあり得る。ECMタンパク質の例としては、限定するものではないが、コラーゲン、ラミニン、エラスチン及びこれらのフラグメント、さらにまた、RGD基のような細胞接着リガンドを有するタンパク質、タンパク質フラグメント及びペプチドがある。ある実施態様においては、細胞を生体スカッフォールドプレカーサーに添加し得る。細胞タイプの例としては、限定するものではないが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞(骨芽細胞、軟骨細胞及び線維芽細胞)、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞または骨格筋芽細胞がある。ある実施態様においては、成長因子を上記系に添加し得る。成長因子の例としては、限定するものではないが、脈管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF、例えば、ベータ-FGF)、Del 1、低酸素誘導因子(HIF 1-アルファ)、単球走化性タンパク質(MCP-1)、ニコチン、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子1 (IGF-1)、形質転換成長因子(TGFアルファ)、肝細胞成長因子(HGF)、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子(TNF-アルファ)、インターロイキン8 (Il-8)、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)及び血小板由来内皮成長因子(PD-ECGF)の各イソ型がある。
上記ポリマーは、ポリアミノ酸、多糖類、ポリアルキレンオキシドまたはポリエチレングリコール(PEG)のような合成ポリマーを含み得る。これら化合物の分子量は、所望の用途に応じて変動し得る。多くの場合、分子量(モル. 質量)は、約100〜約100,000モル. 質量、より好ましくは約1,000〜約20,000モル. 質量である。
【0012】
ある実施態様においては、ポリマーは、ポリエチレングリコールである。本明細書において使用するとき、用語「ポリエチレングリコール」は、変性及び/または誘導体化ポリエチレングリコールを包含する。ある実施態様によれば、第1の官能性PEGは、少なくとも2個の求電子基のような反応基によって官能化し得る。反応基の例としては、限定するものではないが、スクシンイミジル基(-NHS)、アクリレートのようなビニル基、ビニルスルホン、ビニルエーテル、アリルエーテル、ビニルエステル、ビニルケトンまたはマレイミド、及びニトロフェノレートまたは同様な離脱基がある。ある実施態様によれば、第2の官能性PEGは、少なくとも2個の求核基のような反応基によって官能化し得る。反応基の例としては、限定するものではないが、チオール基、アミノ基、ヒドロキシル基、ホスフィン基(PH2)及び-CO-NH-NH2がある。求電子基を有する代表的な官能性PEGを、図2A〜2Gに示している。求核基を有する官能性PEGの一般的な代表式を図3に示している。ある実施態様においては、求電子基により官能化したPEGを、求核基により官能化したPEGと混合して生体スカッフォールドゲルを形成させる。求核基及び求電子基の総数は、4よりも多くあるべきである。
図2A〜2G及び3に示すPEGの枝分れ配座は、限定するものではない。ある実施態様においては、各PEGの合せた官能価は、4よりも高い。「官能価」とは、それぞれ、他の求核基または求電子基と反応してゲルを形成することのできるポリマーコア上の求電子基または求核基の数を称する。即ち、組合せる各PEGが少なくとも二官能性である、即ち、各PEGが少なくとも2個の求核基または求電子基を含有する限り、各官能性PEGを組合せて生体スカッフォールドゲルを形成させることができる。従って、求電子基と求核基の総数は、4よりも高くあるべきである。
【0013】
ある実施態様においては、生体スカッフォールドは、少なくとも1種の官能性PEGとECMタンパク質とを含む第1成分、及び緩衝液の第2成分を含み得る。「成分」とは、以下、2成分系の1成分を称し、多構成成分(例えば、混合物)を含み得る。1つの実施態様においては、第1成分は、-NHS PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)のような第1官能性PEG、-SH PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)のような第2官能性PEG及びECMタンパク質の混合物を含み得る。ある実施態様においては、第1成分は、-NHS PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)のような第1官能性ポリマーのみとECMタンパク質とを含み得る。
ある実施態様においては、第1官能性PEGは、第2官能性PEGと1:1の比で混合し得る。ある実施態様においては、例えば、各官能性PEGは、1:1よりも低い比で混合し得る。例えば、2つのPEGは、異なる数の官能基を有し得、結果として、PEG化学量論量を変えることができる。また、架橋密度を、ポリマー比を変えることによって変化させ得る。ある実施態様においては、各官能性PEGは、固相で混合し得る。処置部位へ伝達させるように調製する場合、混合物は、おおよそ生理的オスモル濃度、即ち、280〜300mOsm/kg H2Oを有するpH 6.5の緩衝液中に懸濁させ得る。緩衝液の例としては、限定するものではないが、希塩化水素及びクエン酸緩衝液がある。
【0014】
第2成分は、約140mM〜約150mMの濃度で約7.5〜9.5のpH範囲内の緩衝液を含み得る。緩衝液の例としては、リン酸ナトリウム及び炭酸ナトリウム緩衝液がある。緩衝液は、おおよそ生理的オスモル濃度、即ち、280〜300mOsm/kg H2Oであり得る。ある実施態様においては、第2成分は、-SH PEG(または少なくとも2個の反応基を有する他の官能性PEG)及び緩衝液を含み得る。
ある実施態様においては、細胞タイプを第1成分に添加し得る。細胞タイプの例としては、限定するものではないが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞(骨芽細胞、軟骨細胞及び線維芽細胞)、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞または骨格筋芽細胞がある。例えば、ヒト間葉系幹細胞(hMSC)を第1成分に添加し得る。ある実施態様においては、成長因子を第1成分に添加し得る。ある種の用途においては、官能性PEGは、成長因子と反応させ得、それによって成長因子を安定化し、その半減期を延長し或いは成長因子の制御放出方式を提供し得る。成長因子は、注入hMSCまたは内生前駆細胞の梗塞部位での生存を助長するように作用し得る。さらに、成長因子は、内生前駆細胞が損傷部位に向うのを助ける。
一般に、細胞は、PEG表面またはPEGポリマーから形成させたゲルに結合しない。即ち、PEGポリマーは、細胞に対して細胞適合性環境を提供しない。コラーゲンまたはゼラチンまたは任意の他のECMタンパク質(フィブロネクチンのような)を添加して細胞適合性を改良することができる。しかしながら、コラーゲンの場合、例えば、PEGの混合物に添加したコラーゲンは、その混合物を極めて粘稠にし得、従って、カテーテル伝達系の助けとならない。第1成分のpH及び第2成分の濃度が、本発明の各実施態様において説明しているように、存在するECMタンパク質によってさえも細胞タイプの細胞適合性を増強していると予測している。
【0015】
ある実施態様においては、第1成分を第2成分と混合して梗塞部位において生体スカッフォールドを生成させることができる。混合したとき、得られる生体スカッフォールドゲルは、6.8〜7.4のpHであり得る。第2成分の低緩衝液濃度は反応を遅くするものの、得られるゲルは、細胞適合性の改良を可能にし得る。ECMタンパク質は、細胞接着部位を提供して、細胞の拡散と移行を可能にする。「細胞拡散」とは、ある種の細胞が、それら細胞を細胞適合性表面上で増殖せしめたときに獲得する自然発生の形態を称する。hMSCの場合、自然形態は、平坦化されたスピンドル形の形態である。ある実施態様においては、ECMのN-末端並びにリシン及びアルギニン側鎖基が-NHS PEGと反応し得る。これによって、ゲルのより良好な機械的安定性をもたらし且つゲルが膨潤する性向を低下させ得る。この反応は、ゲルを形成する反応である。
ある実施態様においては、-NHS PEGの-NHS基をビニル成分、例えば、アクリレート、ビニルスルホン、ビニルケトン、アリルエステル、アリルケトンまたはマレイミド基(1個以上)で置換し得る。-SH PEGと適切な条件下に混合したとき、これらの基は、-SH PEGのチオール基(1個以上)とマイケル(Michael)タイプの反応によって反応し得る。マイケルタイプの反応は、当業者にとって周知である。ある実施態様においては、該反応は、約6.0〜約9.0のpH範囲内の緩衝液により、触媒量の種々のアミンにより或いはこれらの組合せにより活性化させ得る。マイケルタイプの反応は、チオールと活性化エステルとの反応から形成された加水分解的に不安定なチオエステル結合と対比してチオエーテル結合が形成されるので、得られるゲルの長期安定性に寄与するものと予測している。ある実施態様においては、-NHS PEGの-NHS基は、ニトロフェノレートのような脱離基で置換し得る。
ある実施態様においては、-SH PEGの-SH基をアミノ基で置換して、-NHSまたは他の官能性PEGと混合したときにアミド結合を形成させることができる。
【0016】
処置方法
ゲルの各成分を伝達するのに使用し得る装置としては、限定するものではないが、2本針左心室注入装置、2本針経血管壁注入装置及びデュアルシリンジがある。最低に侵襲性(即ち、経皮または内視鏡による)の注入装置の使用を可能にする方法としては、大腿動脈または剣状突起下(sub-xiphoid)による利用法がある。「剣状突起」または「剣状突起部」は、胸骨(breastboneまたはsternum)の下端に結合した先の尖った軟骨、即ち、胸骨の最小で最低の区域である。両方法は、当業者にとって既知である。
図4は、本発明の組成物を伝達するのに使用することのできるデュアルシリンジ装置の1つの実施態様を例示している。デュアルシリンジ400は、互いに近接し且つ近接端部455、遠位端部460及び中央領域465においてそれぞれプレート440、445及び450によって連結させた第1バレル410と第2バレル420を含み得る。ある実施態様においては、バレル410と420は、3本よりも少ないプレートで連結し得る。各バレル410と420は、それぞれ、プランジャー415及びプランジャー425を含む。バレル410と420は、遠位端部において、それぞれ、物質を押出すためのニードル430及び435として終端している。ある実施態様においては、バレル410と420は、物質を押出すためのカニューレ突起として終端し得る。バレル410と420は、互いに十分に近接近していて、各々それぞれのバレル内の物質を互いに混合して処置領域、例えば、心筋梗塞後領域中に生体スカッフォールドを形成することがきるようでなければならない。デュアルシリンジ400は、本発明において説明する調合物と最低の反応性であるか或いは完全に非反応性である任意の金属またはプラスチックから構築し得る。ある実施態様においては、デュアルシリンジ400は、遠位端部465に接続させた予備混合用チャンバーを含む。
ある種の用途においては、第1バレル410は2成分ポリエチレングリコールゲル化系の第1成分を含み得、第2バレル420は前記で説明した実施態様のいずれかに従う系の第2成分を含み得る。得られるゲルの治療量は、約25μL〜約200μL、好ましくは約50μLである。デュアルシリンジ400は、例えば、開胸手術処置中に使用し得る。
【0017】
図5A〜5Bは、本発明の組成物を伝達するのに使用することのできる2本針注入装置の1つの実施態様を例示している。伝達アッセンブリ500は、ハウス伝達管腔、ガイドワイヤー管腔及び/または他の管腔であり得る管腔510を含む。管腔510は、この例においては、伝達アッセンブリ500の遠位部分505及び近接端部515間を延びている。
1つの実施態様においては、伝達アッセンブリ500は、伝達管腔530内に可動的に配置した第1ニードル520を含む。伝達管腔530は、例えば、適切な材料(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等)のポリマーチューブである。第1ニードル520は、例えば、伝達アッセンブリの長さを延ばしているステンレススチールハイポチューブである。第1ニードル520は、例えば、0.08インチ(0.20センチメートル)の内径を有する管腔である。伸縮自在のニードルカテーテルの1つの例においては、第1ニードル520は、遠位部分505から近接部分515までで約40インチ(約1.6メートル)程度のニードル長を有する。また、管腔510は、この例においては、カテーテル長(遠位部分505から近接部分515まで)に沿って共直線的に延びている補助管腔540も含む。補助管腔540は、例えば、適切な材料(例えば、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等)のポリマーチューブである。遠位部分505において、補助管腔540は、第2ニードル550の伝達端部で終端しており、ニードル520の伝達端部と共直線的に整列させている。補助管腔540は、第2ニードル550の伝達端部に、紫外線硬化性接着剤のような電磁線硬化性接着剤によって終端させ得る。第2ニードル550は、例えば、主ニードル520の端部に、例えば、ハンダ(接合部555として示している)により共直線的に接合させているステンレススチールハイポチューブである。第2ニードル550は、約0.08インチ(0.20センチメートル)程度の長さを有する。図5Bは、伝達アッセンブリ500の線A〜A'での断面正面図を示している。図5Bは、共直線整列(co-linear alignment)における主ニードル520と第2ニードル550を示している。
【0018】
図5Aに関しては、近接端部515において、補助管腔540は、補助サイドアーム460に終端している。補助サイドアーム560は、主ニードル520と共直線的に延びている部分を含む。補助サイドアーム560は、例えば、主ニードル520にハンダ付けし得る(接合部565として示している)ステンレススチールハイポチューブ材料である。補助サイドアーム560は、1つの例においては、約1.2インチ(3センチメートル)程度の共直線長さを有する。
主ニードル520の近接端部は、物質伝達装置(例えば、2成分生体内分解性ゲル物質の成分)を順応させるためのアダプター570を含む。アダプター570は、例えば、成形した雌ルアーハウジングである。同様に、補助サイドアーム560の近接端部は、物質伝達装置を順応させるためのアダプター580(例えば、雌ルアーハウジング)を含む。
図5A〜5Bに関連して上述した設計構造は、本発明の2成分ゲル組成物を導入するのに適している。例えば、ゲルは、第1成分と第2成分との組合せ(混合、接触等)によって形成させ得る。典型的には、第1成分を、1立方センチメートルシリンジにより、アダプター570において主ニードル520から導入する。同時に或いは前後まもなく、絹タンパク質及び任意成分としての少なくとも1種の細胞タイプを含む第2成分を、1立方センチメートルシリンジにより、アダプター580において導入し得る。第1及び第2成分が伝達アッセンブリ500の出口において(梗塞領域において)混ざったとき、各材料は、組合わさって(混合、接触して)、生体内分解性ゲルを形成する。
【0019】
図6A〜6Cは、本発明の2成分ゲル組成物を伝達するのに使用することのできる2本針注入装置の別の実施態様を例示している。一般に、カテーテルアッセンブリ600は、2成分ゲル組成物のような物質を血管(生理的管腔)または組織の所望領域にまたは所望領域を通して伝達して心筋梗塞領域を処置する装置を提供する。カテーテルアッセンブリ600は、「Directional Needle Injection Drug Delivery Device」と題した共同所有の米国特許出願第6,554,801号に記載されているカテーテルアッセンブリ600と同様である;該出願は、参考として本明細書に合体させる。
1つの実施態様においては、カテーテルアッセンブリ600は、近接部分620と遠位部分610を有する細長のカテーテル本体650によって形成されている。ガイドワイヤーカニューレ670がカテーテル本体内に(近接部分610から遠位部分620まで)形成されており、カテーテルアッセンブリ600に供給し且つガイドワイヤー680上で操作するのを可能にしている。バルーン630が、カテーテルアッセンブリ600の遠位部分610に組込まれており、カテーテルアッセンブリ600の膨張カニューレ660と流体連通している。
バルーン630は、折畳んだ形状から所望の制御された膨張形状に拡張するために選択的に膨張性であるバルーン壁または膜635から形成し得る。バルーン630は、流体を膨張ポート665(近接端部620に位置した)からの所定の圧力率で膨張カニューレ660に供給するによって選択的に拡張(膨張)させ得る。バルーン壁635を、膨張後、選択的に収縮させて折畳み形状または収縮形状に戻す。バルーン630は、液体を膨張カニューレ660に導入することによって拡張(膨張)させ得る。また、治療及び/または診断剤を含有する液体を使用してバルーン630を膨張させてもよい。1つの実施態様においては、バルーン630は、そのような治療及び/または診断液体に対して透過性である材料から製造し得る。バルーン630を膨張させるためには、流体を、膨張カニューレ660中に、所定の圧力、例えば、約101.3〜2,026.5kPa (約1〜20気圧)で供給し得る。特定の圧力は、バルーン壁635の厚さ、バルーン壁635を製造する材料、使用する物質のタイプ及び所望する流量のような種々の要因に依存する。
【0020】
また、カテーテルアッセンブリ600は、物質を心筋梗塞領域に注入するための少なくとも2つの物質伝達アッセンブリ605a及び605b(図示していない;図6B〜6C参照)も含む。1つの実施態様においては、物質伝達アッセンブリ605aは、中空伝達管腔(hollow delivery lumen)625a内に可動的に配置したニードル615aを含む。伝達アッセンブリ605bは、中空伝達管腔625b内に可動的に配置したニードル615bを含む(図示していない;図6B〜6C参照)。伝達管腔625a及び伝達管腔625bは、各々、遠位部分610と近接部分620間を延びている。伝達管腔625a及び伝達管腔625bは、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタン等のポリマー及びコポリマーのような任意の適当な材料から製造し得る。伝達管腔625aまたは伝達管腔625bの近接端部へのニードル615aまたは615bの挿入方法は、それぞれ、ハブ635(近接端部620に位置した)によって提供される。伝達管腔625a及び伝達管腔625bを使用して、2成分ゲル組成物の第1及び第2成分を心筋梗塞後領域に伝達することができる。
図6Bは、図6Aの線A〜A'(遠位部分610)でのカテーテルアッセンブリ600の断面を示す。図6Cは、図6Aの線B〜B'でのカテーテルアッセンブリ600の断面を示す。ある実施態様においては、伝達アッセンブリ605a及び605bは、高いに近接している。伝達アッセンブリ605a及び605bの近接は、心筋梗塞後領域のような処置部位へ伝達したときに、2成分ゲル化系の各成分を早急にゲル化させるのを可能にする。
【0021】
上記の詳細な説明から、当業者の範囲に属する多くの本発明の変更、改作及び修正が存在することは明白である。本発明の範囲は、本明細書において開示する種々の種及び実施態様からの要素のあらゆる組合せ、並びに本発明の下位アッセンブリ、アッセンブリ及び方法を包含する。しかしながら、本発明の精神を逸脱しないそのような変形は、全て本発明の範囲内とみなすものとする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1官能性ポリマーをおよそ生理的オスモル濃度の第1緩衝液中に含む第1混合物;
およそ生理的オスモル濃度の第2緩衝液;
前記第1混合物または前記第2緩衝液と組合せた第2官能性ポリマー;及び、
前記第1混合物と組合せた、少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質;
を含み、前記第1混合物と前記第2緩衝液が、混合したとき、pH 7.2でゲルを含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記第1官能性ポリマーが、活性化エステル末端ポリエチレングリコールまたはビニル末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記第2官能性ポリマーが、チオール末端ポリエチレングリコールまたはアミノ末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記第1混合物が、6.5よりも低いpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記第2緩衝液が、7.5〜9.0の範囲のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記生理的オスモル濃度が、280mOsm/kg H2O〜300mOsm/kg H2Oの範囲内にある、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記第2緩衝液が、140mM〜150mMの範囲の濃度を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記物質が、ゼラチン、ラミニン、エラスチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列、及びこれらのペプチドフラグメントからなる群から選ばれたタンパク質である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記第1混合物が、細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せのいずれかをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せを前記第1混合物と組合せる、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記成長因子が、脈管内皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子及び血小板由来内皮成長因子のイソ型からなる群から選ばれる、請求項9記載の組成物。
【請求項12】
前記細胞タイプが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞及び骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項9記載の組成物。
【請求項13】
前記第1官能性ポリマーと前記第2官能性ポリマーが、4よりも高い官能価を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
キットであって、以下:
生理的オスモル濃度の第1緩衝液中の第1官能性ポリマー及び少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質を含む第1シリンジ、及び
生理的オスモル濃度の第2緩衝液を含む第2シリンジ、
を含むことを特徴とするキット。
【請求項15】
第2官能性ポリマーをさらに含み、該第2官能性ポリマーを前記第1シリンジまたは前記第2シリンジのいずれかに配置している、請求項14記載のキット。
【請求項16】
前記第1官能性ポリマーが、活性化エステル末端ポリエチレングリコールまたはビニル末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項14記載のキット。
【請求項17】
前記第2官能性ポリマーが、チオール末端ポリエチレングリコールまたはアミノ末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項15記載のキット。
【請求項18】
前記第1混合物が、6.5よりも低いpHを有する、請求項15記載のキット。
【請求項19】
前記第2緩衝液が、7.5〜9.0の範囲のpHを有する、請求項14記載のキット。
【請求項20】
前記生理的オスモル濃度が、280mOsm/kg H2O〜300mOsm/kg H2Oの範囲内にある、請求項14記載のキット。
【請求項21】
前記第2緩衝液が、140mM〜150mMの範囲の濃度を有する、請求項14記載のキット。
【請求項22】
前記物質が、ゼラチン、ラミニン、エラスチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列、及びこれらのペプチドフラグメントからなる群から選ばれたタンパク質である、請求項14記載のキット。
【請求項23】
前記第1混合物が、細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せのいずれかをさらに含む、請求項14記載のキット。
【請求項24】
前記細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せを前記第1混合物と組合せる、請求項23記載のキット。
【請求項25】
前記成長因子が、脈管内皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子及び血小板由来内皮成長因子のイソ型からなる群から選ばれる、請求項23記載のキット。
【請求項26】
前記細胞タイプが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞及び骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項23記載のキット。
【請求項27】
前記第1官能性ポリマーと前記第2官能性ポリマーが、4よりも高い官能価を有する、請求項15記載のキット。
【請求項28】
前記第1シリンジの内容物と前記第2シリンジの内容物が、混合したとき、pH 7.2でゲルを含む、請求項15記載のキット。
【請求項29】
二重穿孔伝達装置から、(a) 第1官能性ポリマー及び少なくとも1個の細胞接着部位有する物質を生理的オスモル濃度の第1緩衝液中に含む第1混合物及び(b) 生理的オスモル濃度の第2の緩衝液を心筋梗塞後領域に同時に注入することを特徴とする処置方法。
【請求項30】
第2官能性ポリマーをさらに含み、該第2官能性ポリマーを前記第1混合物または前記第2緩衝液のいずれかと組合せている、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記第1官能性ポリマーが、活性化エステル末端ポリエチレングリコールまたはビニル末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記第2官能性ポリマーが、チオール末端ポリエチレングリコールまたはアミノ末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記第1混合物が、6.5よりも低いpHを有する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記第2緩衝液が、7.5〜9.0の範囲のpHを有する、請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記生理的オスモル濃度が、280mOsm/kg H2O〜300mOsm/kg H2Oの範囲内にある、請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記第2緩衝液が、140mM〜150mMの範囲の濃度を有する、請求項29記載の方法。
【請求項37】
前記物質が、ゼラチン、ラミニン、エラスチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列、及びこれらのペプチドフラグメントからなる群から選ばれたタンパク質である、請求項29記載の方法。
【請求項38】
前記第1混合物が、細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せをさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項39】
前記細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せを前記第1混合物と組合せる、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記成長因子が、脈管内皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子及び血小板由来内皮成長因子のイソ型からなる群から選ばれる、請求項38記載の方法。
【請求項41】
前記細胞タイプが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞及び骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項38記載の方法。
【請求項42】
前記第1官能性ポリマーと前記第2官能性ポリマーが、4よりも高い官能価を有する、請求項30記載の方法。
【請求項43】
前記第1混合物と前記第2緩衝液が、混合したとき、pH 7.2でゲルを含む、請求項30記載の方法。
【請求項1】
第1官能性ポリマーをおよそ生理的オスモル濃度の第1緩衝液中に含む第1混合物;
およそ生理的オスモル濃度の第2緩衝液;
前記第1混合物または前記第2緩衝液と組合せた第2官能性ポリマー;及び、
前記第1混合物と組合せた、少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質;
を含み、前記第1混合物と前記第2緩衝液が、混合したとき、pH 7.2でゲルを含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記第1官能性ポリマーが、活性化エステル末端ポリエチレングリコールまたはビニル末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記第2官能性ポリマーが、チオール末端ポリエチレングリコールまたはアミノ末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記第1混合物が、6.5よりも低いpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
前記第2緩衝液が、7.5〜9.0の範囲のpHを有する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記生理的オスモル濃度が、280mOsm/kg H2O〜300mOsm/kg H2Oの範囲内にある、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
前記第2緩衝液が、140mM〜150mMの範囲の濃度を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
前記物質が、ゼラチン、ラミニン、エラスチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列、及びこれらのペプチドフラグメントからなる群から選ばれたタンパク質である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記第1混合物が、細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せのいずれかをさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
前記細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せを前記第1混合物と組合せる、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
前記成長因子が、脈管内皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子及び血小板由来内皮成長因子のイソ型からなる群から選ばれる、請求項9記載の組成物。
【請求項12】
前記細胞タイプが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞及び骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項9記載の組成物。
【請求項13】
前記第1官能性ポリマーと前記第2官能性ポリマーが、4よりも高い官能価を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項14】
キットであって、以下:
生理的オスモル濃度の第1緩衝液中の第1官能性ポリマー及び少なくとも1個の細胞接着部位を有する物質を含む第1シリンジ、及び
生理的オスモル濃度の第2緩衝液を含む第2シリンジ、
を含むことを特徴とするキット。
【請求項15】
第2官能性ポリマーをさらに含み、該第2官能性ポリマーを前記第1シリンジまたは前記第2シリンジのいずれかに配置している、請求項14記載のキット。
【請求項16】
前記第1官能性ポリマーが、活性化エステル末端ポリエチレングリコールまたはビニル末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項14記載のキット。
【請求項17】
前記第2官能性ポリマーが、チオール末端ポリエチレングリコールまたはアミノ末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項15記載のキット。
【請求項18】
前記第1混合物が、6.5よりも低いpHを有する、請求項15記載のキット。
【請求項19】
前記第2緩衝液が、7.5〜9.0の範囲のpHを有する、請求項14記載のキット。
【請求項20】
前記生理的オスモル濃度が、280mOsm/kg H2O〜300mOsm/kg H2Oの範囲内にある、請求項14記載のキット。
【請求項21】
前記第2緩衝液が、140mM〜150mMの範囲の濃度を有する、請求項14記載のキット。
【請求項22】
前記物質が、ゼラチン、ラミニン、エラスチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列、及びこれらのペプチドフラグメントからなる群から選ばれたタンパク質である、請求項14記載のキット。
【請求項23】
前記第1混合物が、細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せのいずれかをさらに含む、請求項14記載のキット。
【請求項24】
前記細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せを前記第1混合物と組合せる、請求項23記載のキット。
【請求項25】
前記成長因子が、脈管内皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子及び血小板由来内皮成長因子のイソ型からなる群から選ばれる、請求項23記載のキット。
【請求項26】
前記細胞タイプが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞及び骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項23記載のキット。
【請求項27】
前記第1官能性ポリマーと前記第2官能性ポリマーが、4よりも高い官能価を有する、請求項15記載のキット。
【請求項28】
前記第1シリンジの内容物と前記第2シリンジの内容物が、混合したとき、pH 7.2でゲルを含む、請求項15記載のキット。
【請求項29】
二重穿孔伝達装置から、(a) 第1官能性ポリマー及び少なくとも1個の細胞接着部位有する物質を生理的オスモル濃度の第1緩衝液中に含む第1混合物及び(b) 生理的オスモル濃度の第2の緩衝液を心筋梗塞後領域に同時に注入することを特徴とする処置方法。
【請求項30】
第2官能性ポリマーをさらに含み、該第2官能性ポリマーを前記第1混合物または前記第2緩衝液のいずれかと組合せている、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記第1官能性ポリマーが、活性化エステル末端ポリエチレングリコールまたはビニル末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項29記載の方法。
【請求項32】
前記第2官能性ポリマーが、チオール末端ポリエチレングリコールまたはアミノ末端ポリエチレングリコールの1種である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記第1混合物が、6.5よりも低いpHを有する、請求項30記載の方法。
【請求項34】
前記第2緩衝液が、7.5〜9.0の範囲のpHを有する、請求項29記載の方法。
【請求項35】
前記生理的オスモル濃度が、280mOsm/kg H2O〜300mOsm/kg H2Oの範囲内にある、請求項29記載の方法。
【請求項36】
前記第2緩衝液が、140mM〜150mMの範囲の濃度を有する、請求項29記載の方法。
【請求項37】
前記物質が、ゼラチン、ラミニン、エラスチン、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチド配列、及びこれらのペプチドフラグメントからなる群から選ばれたタンパク質である、請求項29記載の方法。
【請求項38】
前記第1混合物が、細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せをさらに含む、請求項29記載の方法。
【請求項39】
前記細胞タイプ、成長因子またはこれらの組合せを前記第1混合物と組合せる、請求項38記載の方法。
【請求項40】
前記成長因子が、脈管内皮成長因子、線維芽細胞増殖因子、Del 1、低酸素誘導因子、単球走化性タンパク質、ニコチン、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子1、形質転換成長因子、肝細胞成長因子、エストロゲン類、ホリスタチン、プロリフェリン、プロスタグランジン E1及びE2、腫瘍壊死因子、インターロイキン8、造血成長因子、エリスロポイエチン、顆粒球コロニー刺激因子及び血小板由来内皮成長因子のイソ型からなる群から選ばれる、請求項38記載の方法。
【請求項41】
前記細胞タイプが、局在化心臓前駆細胞、間葉系幹細胞、骨髄由来単核細胞、脂肪組織由来幹細胞、胚幹細胞、臍帯血由来幹細胞、平滑筋細胞及び骨格筋芽細胞からなる群から選ばれる、請求項38記載の方法。
【請求項42】
前記第1官能性ポリマーと前記第2官能性ポリマーが、4よりも高い官能価を有する、請求項30記載の方法。
【請求項43】
前記第1混合物と前記第2緩衝液が、混合したとき、pH 7.2でゲルを含む、請求項30記載の方法。
【図1A−1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【公表番号】特表2009−545372(P2009−545372A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522776(P2009−522776)
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/016433
【国際公開番号】WO2008/016490
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(591040889)アボット、カーディオバスキュラー、システムズ、インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT CARDIOVASCULAR SYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/016433
【国際公開番号】WO2008/016490
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(591040889)アボット、カーディオバスキュラー、システムズ、インコーポレーテッド (42)
【氏名又は名称原語表記】ABBOTT CARDIOVASCULAR SYSTEMS INC.
【Fターム(参考)】
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