説明

変異型大腸菌易熱性エンテロトキシン

本発明は、アジュバントとして用いられうる、大腸菌易熱性エンテロトキシン(LT)の変異サブユニットAに関する。このサブユニットAの変異体は、野生型LTの61位に対応する位置にアミノ酸置換を有する。そして、この変異サブユニットAを含むLTの毒性は、野生型のそれと比較して低減されている。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願のクロスリファレンス
この出願は、2007年7月18日に出願された、米国特許出願第11/779,419号からの優先権を主張する。当該出願の内容は全体が参照により本明細書に引用される。
【0002】
背景
腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)株は、2種のエンテロトキシン(すなわち、易熱性トキシン(LT)および耐熱性トキシン(ST))を産生することにより、ヒトおよび家畜において下痢を引き起こす(Hofstra et al., 1984, J. Bio. Chem. 259:15182-15187)。LTは、機能的に、構造的に、そして免疫学的に、コレラトキシン(CT)と関連している(Clements et al., 1978, Infect. Immun. 21:1036-1039)。LTおよびCTは、5つの同一のサブユニットBと、酵素活性を有するサブユニットAとからなるホロ毒素分子(AB)として合成される(Spangler, 1992, Microbio. Rev. 56(4):622-647)。サブユニットBの5量体は、小腸上皮細胞またはGM1を含む他の細胞の膜内でガングリオシドGM1に結合する(van Heyningen, 1974, Science183:656-657)。細胞表面上でサブユニットBがGM1に結合すると、サブユニットAが細胞質中に挿入され、タンパク質分解によって切断され、単一のジスルフィド結合部位で還元されて、酵素活性を有するA1ペプチドと、より短いA2ペプチドが産生される(Fishman PH, 1982, J. Membr. Biol. 69:85-97; Mekalanos et al., 1979, J. Biol. Chem. 254:5855-5861; Moss et al., 1981, J. Biol. Chem. 256:12861-12865)。このA1ペプチドはNADに結合し、アデニル酸シクラーゼに関連したGTP結合制御タンパク質であるGsαのADP−リボシル化を触媒することができる(Spangler, 1992, Microbio. Rev. 56(4):622-647)。これによりcAMPが増加すると、最終的には感染した細胞から電解質および細胞液が放出される(Cheng et al., 2000, Vaccine18:38-49)。
【0003】
LTは、粘膜アジュバントとして機能し、粘膜に共投与された抗原に対する免疫応答を誘導することが示されている(Clements et al., 1988, Vaccine6:269-277; Elson CO. 1989, Immunol. Today 146:29-33; Spangler, 1992, Microbio. Rev. 56(4):622-647)。しかしながら、野生型のLTは毒性が高いため、臨床用途は限られていた。よって、免疫原性を保持しつつ毒性が低減された変異LTを作り出すことが望まれている。
【0004】
本明細書で用いられる「大腸菌易熱性エンテロトキシン」または「LT」との語は、任意の腸管毒素原性の大腸菌株により産生される易熱性エンテロトキシンを意味する。「大腸菌易熱性エンテロトキシンサブユニットA」または「LT」との語は、LTのサブユニットAを意味する。このLTには、シグナルペプチドを含む前駆体LT、およびシグナルペプチドが除去された成熟LTの双方が含まれる。
【発明の概要】
【0005】
概要
本発明は、変異LTを含むLTでは、免疫原性を保持しつつ野生型よりも毒性が低減されるという予期せぬ発見に基づいている。この変異LTは、野生型LTの61位に対応する位置にアミノ酸置換を有する。当該野生型LTのアミノ酸配列(配列番号5)については後述する。
【0006】
このように、本発明は、配列番号5の61位に対応する位置にS、T、およびF以外のアミノ酸残基を有する変異LTを含む単離ポリペプチドを特徴とする。置換するアミノ酸残基は、D、E、H、I、K、L、N、P、Q、R、Y,またはWでありうる。置換するアミノ酸残基は、天然のアミノ酸であってもよいし、天然でないアミノ酸(例えば、D−アミノ酸またはβ−アミノ酸)であってもよい。一例では、LTは配列番号2、4、8、または10のアミノ酸配列を有する。この変異LTを含むLTは、配列番号5を含む野生型のLTよりも低減された(すなわち、10−5倍未満の)毒性を示す。
【0007】
他の形態では、本発明は、抗原および上述した変異LTを含むワクチンを特徴とする。当該ワクチンはLTのサブユニットBをさらに含んでもよく、このサブユニットBは、変異LTとともに全長LTタンパク質を形成する。抗原は、細菌またはウイルスのいずれかを由来とするものでありうる。
【0008】
さらに他の形態では、本発明は、上述したLTの変異体をコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸を特徴とする。一例では、当該ヌクレオチド配列は配列番号1、3、7、または9である。上述した核酸を含むベクターや、当該ベクターを含む形質転換細胞もまた、本発明の範囲に包含される。
【0009】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細について以下に記載する。本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の説明および特許請求の範囲から明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
詳細な説明
解毒されたLT(例えば、変異LTを含むもの)は、免疫原性が高いため、望ましいワクチンアジュバントである。この目的を達成するために設計された本発明の変異LTは、配列番号5の61位に対応する位置で、LTにアミノ酸置換を導入することにより作製される。異なる腸管毒素原性大腸菌株から作製されたLT群は、相同性が高い。よって、当業者であれば、LTのアミノ酸配列を配列番号5と比較することにより、当該LTのどの位置が配列番号5の61位に対応するかを把握することができる。配列番号5のLTと同様に、ほとんどすべての野生型LTは、配列番号5の61位に対応する位置にセリンを有している。例えばサイズや極性などの点でセリンとは異なるアミノ酸が、置換するアミノ酸として用いられうる。かような置換アミノ酸の例としては、疎水性アミノ酸残基(例えば、IおよびL)、荷電アミノ酸残基(例えば、D、E、K、R、およびH)、または嵩高い側鎖を有するアミノ酸残基(例えば、N、Q、Y、およびW)が挙げられる。プロリンは、一般的にポリペプチドの局所構造を変化させることから、同様に置換アミノ酸として用いられうる。かような置換アミノ酸には、天然でないアミノ酸(例えば、D−アミノ酸またはβ−アミノ酸)も含まれる。
【0011】
本発明のLT変異体は、本技術分野において周知の方法により調製されうる。例えば、当該変異体は、以下のような組換え法により作製される。まず、腸管毒素原性大腸菌株から野生型LTをコードするcDNAを単離し、部位特異的突然変異誘発法に供して、所望のLT変異体をコードするcDNAを作製する。Ho et al., Gene, 77:51-59, 1989を参照のこと。次いで、この変異を有するcDNAを、細胞に形質転換するための発現ベクター中に挿入する。最後に、形質転換された細胞において産生されたLT変異体を精製し、LTサブユニットBと会合させて、全長LTタンパク質を形成させる。
【0012】
上述したLT変異体を含むLTの毒性は、Y−1副腎細胞アッセイ等のアッセイを用いて評価されうる。Cheng et al., Vaccine, 18:38-49, 2000を参照のこと。
【0013】
本発明のLTA変異体は、ワクチンにおけるアジュバントとして用いられうる。ワクチン(すなわち、ヒトワクチンまたは動物ワクチン)は、抗原および、LT変異体そのもの、またはLT変異体を含むLTを含有しうる。抗原は、細菌(例えば、化膿連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)、肺炎連鎖球菌(Streptococcus pneumoniae)、淋菌(Neiseria gonorrhoea)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、ジフテリア菌(Corynebacterium diphtheriae)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、破傷風菌(Clostridium tetani)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オザナエ(Klebsiella ozaenae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、コレラ菌(Vibrio cholerae)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、アエロモナス・ヒドロフィラ(Aeromonas hydrophila)、セレウス菌(Bacillus cereus)、腸炎エルシニア菌(Yersinia enterocolitica)、ペスト菌(Yersinia pestis)、サルモネラ(Salmonella typhimurium)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)、スピロヘータ(Borrelia vincentii)、ライム病ボレリア(Borrelia burgdorferi)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、ニューモシスチス・カリニ(Pneumocystis carinii)、マイコプラズマ(Mycoplasma spp.)、発疹チフスリケッチア(Rickettsia prowazeki)、クラミジア(Chlamydia spp.)、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori))由来のものでありうる。抗原はまた、ウイルス(例えば、インフルエンザ、単純ヘルペスウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、サイトメガロウイルス、C型肝炎ウイルス、デルタ肝炎ウイルス、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、エプスタイン−バーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、エンテロウイルス、または日本脳炎ウイルス)由来のものであってもよい。
【0014】
ワクチンは、リン酸緩衝生理食塩水または炭酸水素塩溶液などの製薬上許容されうる担体をさらに含んでもよい。当該担体は、投与の形態および経路のほか、標準的な薬学上の実務に基づいて選択される。適当な医薬担体や希釈剤、並びにこれらの使用のための薬学的に必須の成分については、Remington's Pharmaceutical Sciencesに記載されている。
【0015】
ワクチンを調製する方法は、米国特許第4,601,903号、米国特許第4,599,231号、米国特許第4,599,230号、および米国特許第4,596,792号に例示されるように、本技術分野において一般的に周知である。ワクチンは、溶液やエマルションのような注射可能な形態で調製されうる。抗原および、LT変異体またはこれを含むLTは、生理学的に許容されうる賦形剤と混合されうる。当該賦形剤としては、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノール、およびこれらの組み合わせが挙げられる。ワクチンは、湿潤化剤もしくは乳化剤、またはワクチンの有効性を向上させるためのpH緩衝剤といった追加成分を少量含有しうる。ワクチンは、皮下または筋肉内への注射によって、非経口的に投与されうる。あるいは、坐薬製剤、経口製剤、または局所製剤などの他の投与形態が好ましいこともある。坐薬用の結合剤および担体としては、例えば、ポリアルキレングリコール類またはトリグリセリド類が挙げられる。経口製剤は、例えば医薬グレードの多糖、セルロース、炭酸マグネシウムなどの通常用いられている賦形剤を含みうる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性製剤または散剤の形態をとる。
【0016】
ワクチンは、投与剤形と適合するように、治療上有効で、保護的であり、免疫原性を示す量で投与される。投与量は、処置される対象(例えば、個体の免疫系の抗体合成能や、必要な場合には細胞媒介性免疫応答の能力など)に依存する。投与が必要な有効成分の正確な量は、医師の判断に委ねられている。しかしながら、当業者であれば適当な用量範囲を容易に決定することができ、これは本発明のポリペプチドのmgオーダーでありうる。初回投与および追加投与のための適切な処方計画もまた、変動するものであるが、初回投与とそれに続く追加投与を含みうる。また、ワクチンの用量は、投与経路にも依存し、宿主のサイズによっても変動する。
【0017】
後述する具体的な実施例は、単に例示のためのものであって、本明細書の開示以外の形態をいかようにも限定するものではないと解釈されるべきである。さらなる努力を必要とすることなく、当業者であれば、本明細書の開示に基づき、本発明を完全に実施することができるものと考えられる。本明細書において引用されている文献についてはすべて、その全体が参照により本明細書に引用されている。
【実施例】
【0018】
実施例1:野生型LTおよび、変異型LTを含むLTをコードする遺伝子の構築
LT遺伝子の1.8kbDNA断片(サブユニットAおよびサブユニットBを含む)を、ヒト腸管毒素原性大腸菌H10407株から単離し、pBluescriptII KS(−)ベクター中にクローニングした(pBluescript−LThWT)。このLT遺伝子(サブユニットA、Bの双方をコードする)のヌクレオチド配列(配列番号6)、およびこのLT遺伝子のサブユニットAのアミノ酸配列(配列番号5)を以下に示す:
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
部位特異的突然変異誘発法を用いて、種々のLT変異体が構築された(Ho et al., 1989, Gene77, 51-59)。より具体的には、配列番号5の61位のセリンをK、R、H、Y、およびFでそれぞれ置換することにより、LT(S61K)、LT(S61R)、LT(S61H)、LT(S61Y)、およびLT(S61F)などのLT変異体が構築された。これらの変異体の構築には、以下のオリゴヌクレオチドプライマーが用いられている:LT(S61K)[5’ TCT CAA ACT AAG AGA AGT TTT AAC ATA TCC GTC ATC ATA 3’](配列番号11),LT(S61R)[5’ ACT TCT CAA ACT AAG AGA AGT TCT AAC ATA TCC GTC ATC 3’](配列番号12),LT(S61F)[5’ ACT TCT CAA ACT AAG AGA AGT GAA AAC ATA TCC GTC ATC 3’](配列番号13),LT(S61Y)[5’ ACT TCT CAA ACT AAG AGA AGT ATA AAC ATA TCC GTC ATC 3’](配列番号14),LT(S61H)[5’ ACT TCT CAA ACT AAG AGA AGT ATG AAC ATA TCC GTC ATC 3’](配列番号15)。これらのLTのヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を以下に示す:
【0022】
【表3】

【0023】
【表4】

【0024】
【表5】

【0025】
【表6】

【0026】
【表7】

【0027】
【表8】

【0028】
【表9】

【0029】
【表10】

【0030】
比較のために、サブユニットAの63位のアミノ酸であるセリンをリシンで置換することにより、EWD299(Dallas et al., 1979, J. Bacteriol. 139, 850-859)由来の別のLT変異体であるLTp(S63K)も構築した。
【0031】
実施例2:野生型LT、および変異型LTを含むLTの調製
天然のLT遺伝子または変異型LT遺伝子(サブユニットAおよびサブユニットBの双方の遺伝子を含む)を含むpBluescriptII KS(−)ベクターを、大腸菌HB101株に形質転換した。100μg/mLのアンピシリンを添加したL培地を含有する3Lフラスコ中で一晩培養した培地から、天然および変異型のLTを精製した。遠心分離により細胞を回収し、TEANバッファ(0.2M NaCl、50mM Tris、1mM EDTA、および3mM NaN、pH7.4)に再懸濁させ、マイクロフルイダイザー(microfluidizer)(Microfluidics Corporation, USA)を用いて溶解させた。遠心分離によって溶解物を清澄化した後、固体状硫酸アンモニウムを65%飽和まで添加することにより、LTを分画した。次いでこれをTEANバッファに懸濁させ、同一のバッファに対して十分に透析し、粗LTとして用いた。この粗LTを、4℃にてTEANバッファで平衡化した固定化D−ガラクトース(ピアース、ロックフォード、イリノイ州)カラムによるクロマトグラフィに供した(Uesaka et al., 1994, Microbial Pathogenesis 16:71-76)。0.3MガラクトースのTEAN溶液を用いて、天然および変異型のLTを溶出させた。精製された各毒素をPBSバッファに対して透析し、生物学的アッセイおよび免疫学的アッセイに用いた。
【0032】
精製された野生型および変異型LTを、SDS−PAGEにより分離した。この際、LTサブユニットAの分子量は約28〜29kDaであり、LTサブユニットBの分子量は約12〜13kDaであった。LT(S61K)を含む全長LT(すなわち、LTh(S61K))およびLT(S61R)を含む全長LT(すなわち、LTh(S61R))の収率は、配列番号5のLTを含むLTと同等であった。
【0033】
pH3〜10の等電点分画ゲル(isoelectric focusing gel)(インビトロジェン)により、LTのABヘテロヘキサマーおよびBペンタマーを分離した。UVIBandソフトウェア(UVItec Limited)によりABタンパク質およびBタンパク質のバンドの強度を分析し、ABヘテロヘキサマーおよびBペンタマーの百分率を算出した(ABの等電点(pI)の値は8.0〜7.8であり、BのpIの値は8.3〜8.1であった)。これらの結果を表1に示す。
【0034】
【表11】

【0035】
実施例3:野生型LTおよび変異型LTを含むLTの細胞内cAMPレベルに与える影響の評価
24ウェルプレートに、20%FBSを添加したMEM−α培地中でCaco−2細胞(ATCC HTB−37)を5×10細胞/ウェルの濃度で維持し、コンフルエント近くまで培養し、1%FBSおよび1mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(IBMX)を含有するMEM−α中、5%CO下にて30分間インキュベートし、その後に毒素を添加した(Grant et al., 1994, Infection and Iimmunity 62: 4270-4278)。天然のLTまたは変異型のLTを各ウェルに添加し、4時間インキュベートした。次いで、冷PBSで細胞を2回洗浄した。200μLの0.1N HClを各ウェルに添加することにより細胞内cAMPを抽出し、室温にて15分間インキュベートした。0.1N NaOHを各ウェルに添加した後に、細胞溶解物の上清を回収した(Cheng et al., 2000, Vaccine18: 38-49; Park et al., 1999, Experimental and Molecular Medicine 31: 101-107)。cAMP酵素イムノアッセイキット(アッセイデザイン;Correlate−EIA)を用いて、cAMPを定量した。本実施例から得られた結果によれば、LTh(S61K)は細胞内cAMP濃度を増加させなかったことがわかる。
【0036】
実施例4:Y1副腎腫瘍細胞アッセイを用いた、変異型LTを含むLTの毒性の評価
この試験では、LTサンプル(野生型LT、LTの活性部位変異体(h61K)、およびサブユニットB複合体(B))について、腸管毒性作用を評価した。15%ウマ血清、2.5%胎児ウシ血清、2mM L−グルタミン、および1.5g/L炭酸水素ナトリウムを添加したHam’s F12培地中で維持したマウスY−1副腎腫瘍細胞(ATCC CCL−79)を、96ウェル平底プレート中、2×10細胞/ウェル(200μL/ウェル)の濃度で、5%CO下、37℃にて48時間播種した。96ウェル平底プレート中の細胞を1×PBS(pH7.4)で2回洗浄し、次いで、5%CO下、37℃にて一晩、順次希釈LTサンプル(10μg/200μL〜10−10μg/200μL)で処置した。毒素処理の24時間後、典型的な細胞の円形化を、光学顕微鏡により観察した。活性は、細胞の円形化を開始させるのに要した毒素の最小濃度(ECi)または50%の細胞の円形化に要した毒素の濃度(EC50)として定義される。David et al., 1975, Infection and Immunity, 11:334-336; Cheng et al., 1999, Vaccine 18:38-49を参照のこと。野生型LTと比較して、LTh(S61K)、LTh(S61R)、LTh(S61H)の毒性は有意に低い(すなわち、10−6対1)。以下の表2を参照のこと。LTh(S61F)の毒性も低い(すなわち、10−5)が、その低下は他の変異体ほど有意なものではない。
【0037】
【表12】

【0038】
実施例5:ラビット回腸ループアッセイによる、変異型LTを含むLTの毒性の評価
本アッセイは、従来の開示に従って行った(Giannelli et al., 1997, Infection and Immunity 65: 331-334; Giuliani et al., 1998, J. Exp. Med. 187:1123-1132)。本アッセイでは、成体ニュージーランドラビット(それぞれ〜2.5kg)を用いた。ラビットの小腸の末端から開始し、胃へと向かって長さがそれぞれ5cmのループを作製した。種々の量のLTまたはLT変異体を含む0.5mLサンプルを各ループに注入し、次いで腹部を閉鎖した。18時間後、各ループに蓄積した液体を回収し、定量した。この実験を3回行ない、結果をcmあたりのmLで示した。本実験からの結果によれば、500μgのLTh(S61K)では1mLの液体がラビット回腸ループに蓄積したのみであり、蓄積した液体の体積は天然のコントロールと同等であった。0.1μgの野生型LTを用いたときには、野生型LTの蓄積した液体の体積はLTh(S61K)よりもかなり多かった。また、別のLTp(S63K)での液体の蓄積もまた、LTh(S61K)よりもかなり多かった。
【0039】
実施例6:鼻腔内免疫における変異型LTを含むLTのアジュバント効果の評価
本実施例では、不活化インフルエンザウイルスであるA/Puerto Rico/8/34(H1N1)(PR8)(ATCC VR−95)を用いた。従来開示されているように、ウイルス粒子を調製した(Aitken et al., 1980, Eur. J. Biochem. 107:51-56; Gallagher et al., 1984, J. Clin. Microbiol. 20:89-93; Johansson et al., 1989, J. Virol. 63:1239-1246)。簡単に言えば、10日齢の孵化鶏卵の尿膜腔中で、35℃にて2日間、ウイルスを増殖させた。PR8で感染させた卵由来の尿膜腔液を、まず低速で遠心分離し、次いで96,000×gにて1時間遠心分離してウイルス粒子を沈殿させて、これをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させた。これらの粒子を30〜60%ショ糖密度勾配上にロードし、96,000×gにて5時間遠心分離した。ウイルスを含む画分を回収し、PBSで希釈した。さらに96,000×gにて1時間、ウイルスをペレット化し、PBS中に再懸濁させた。精製したウイルスを、4℃にて1週間、0.025%ホルマリンで処理した。光学密度(Bio−Rad Protein Assay)に基づいてタンパク質濃度を測定して標準化し、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってヘマグルチニン(HA)量を定量した(Oxford et al., 1981, J. Biol. Stand. 9:483-491)。
【0040】
台湾国家実験動物センター(Taiwan National Laboratory Animal Center)から、6〜8週齢のメスBALB/cマウスを入手した。5匹のマウスからなる群をそれぞれ、麻酔下で、20μgの不活化インフルエンザウイルス(flu.Ag)を単独でまたは8μgの天然もしくは変異型のLTとともに含有する25μLのPBSで鼻腔内に免疫した。これらのマウスを3週間後に再度免疫した。コントロールマウスには、同一条件下でPBSを投与した。最後の免疫の2週間後に、各群のマウスを屠殺して血清を採取して、血球凝集抑制(HI)アッセイを行なった。不活化ウイルスワクチンを単独で用いて鼻腔内に免疫したマウスと比べて、不活化ウイルスワクチンをLTh(S61K)またはLTp(S63K)と併用して鼻腔内に免疫したマウスで、HI力価の有意な向上が検出された。不活化ウイルスと併用したLTh(S61K)のHI力価は、大幅に上昇した。ウイルスと併用したLTh(S61K)のHI力価は813であり、これはウイルスと併用したLTh(S63K)の値と同等であるが、ウイルス単独の値よりも大きい。
【0041】
実施例7:筋肉内免疫における、変異型LTを含むLTのアジュバント効果の評価
筋肉内投与によって免疫を行なったこと以外は、実施例6で行なった手法を繰り返した。筋肉内ワクチンについては、10μgの不活化ワクチンを単独でまたは4μgの天然もしくは変異型のLTとともに含有する50μLのPBSとして調製し、大腿後部の筋肉に注入した。上述したように、免疫処理およびサンプリングのプログラムを行なった。不活化ワクチンと併用したLTh(S61K)のHI力価は、大幅に上昇した。
【0042】
ウイルスと併用したLTh(S61K)のHI力価は512であり、これはウイルスと併用した野生型LTの値、またはウイルス単独の値よりも有意に大きい。
【0043】
他の実施形態
本明細書に開示された全ての特徴は、任意の組み合わせで組み合されうる。本明細書に開示されたそれぞれの特徴は、同一の、等価な、または類似の目的に資する他の特徴により置換されうる。よって、そうでないと明記しない限り、開示されたそれぞれの特徴は、等価な、または類似の上位概念の一連の特徴の例示にすぎない。
【0044】
上述の記載から、当業者は、本発明の本質的な特徴を容易に把握することができ、その思想および範囲から逸脱することなく、本発明を種々の用途および条件に適合させる目的で種々の変更および修飾を加えることが可能である。よって、他の実施形態もまた、後述する特許請求の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大腸菌易熱性エンテロトキシンの変異サブユニットAを含む単離ポリペプチドであって、
当該変異の位置が、配列番号5の61位に対応し、S、T、およびF以外のアミノ酸残基であり、
前記変異サブユニットAを含む大腸菌易熱性エンテロトキシンが、配列番号5を含む野生型大腸菌易熱性エンテロトキシンと比較して低い毒性を有する、単離ポリペプチド。
【請求項2】
前記変異サブユニットAを含む大腸菌易熱性エンテロトキシンの毒性が、前記野生型大腸菌易熱性エンテロトキシンの毒性の10−6倍未満である、請求項1に記載の単離ポリペプチド。
【請求項3】
前記アミノ酸残基が、K、R、H、およびYからなる群から選択される、請求項1に記載の単離ポリペプチド。
【請求項4】
前記変異サブユニットAが、配列番号2、4、8、および10からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の単離ポリペプチド。
【請求項5】
抗原とアジュバントとを含むワクチンであって、
前記アジュバントが、大腸菌易熱性エンテロトキシンの変異サブユニットAであり、
当該変異の位置が、配列番号5の61位に対応し、S、T、およびF以外のアミノ酸残基であり、
前記変異サブユニットAを含む大腸菌易熱性エンテロトキシンが、配列番号5を含む野生型大腸菌易熱性エンテロトキシンと比較して低い毒性を有する、ワクチン。
【請求項6】
前記抗原が、細菌またはウイルス由来である、請求項5に記載のワクチン。
【請求項7】
前記細菌が、肺炎連鎖球菌、大腸菌、ヘリコバクター・ピロリ、髄膜炎菌、およびインフルエンザ菌b型からなる群から選択される、請求項6に記載のワクチン。
【請求項8】
前記ウイルスが、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ヒト・パピローマウイルス、エンテロウイルス、およびロタウイルスからなる群から選択される、請求項6に記載のワクチン。
【請求項9】
前記変異サブユニットAを含む大腸菌易熱性エンテロトキシンの毒性が、前記野生型大腸菌易熱性エンテロトキシンの毒性の10−6倍未満である、請求項5に記載のワクチン。
【請求項10】
前記変異サブユニットAが、配列番号5の61位に対応する位置にK、R、Y、またはHを含む、請求項5に記載のワクチン。
【請求項11】
前記変異サブユニットAが、配列番号5の61位に対応する位置にKを含む、請求項5に記載のワクチン。
【請求項12】
前記変異サブユニットAが、配列番号5の61位に対応する位置にRを含む、請求項5に記載のワクチン。
【請求項13】
前記変異サブユニットAが、配列番号2、4、8、および10からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する、請求項5に記載のワクチン。
【請求項14】
LTのサブユニットBをさらに含み、前記変異サブユニットAと前記サブユニットBとが全長の大腸菌易熱性エンテロトキシンを形成する、請求項5に記載のワクチン。
【請求項15】
大腸菌易熱性エンテロトキシンの変異サブユニットAをコードするヌクレオチド配列を有する単離核酸であって、
当該変異の位置が、配列番号5の61位に対応し、S、T、およびF以外のアミノ酸残基であり、
前記変異サブユニットAを含む大腸菌易熱性エンテロトキシンが、配列番号5を含む野生型大腸菌易熱性エンテロトキシンと比較して低い毒性を有する、単離核酸。
【請求項16】
前記変異サブユニットAを含む大腸菌易熱性エンテロトキシンの毒性が、前記野生型大腸菌易熱性エンテロトキシンの毒性の10−6倍未満である、請求項15に記載の核酸。
【請求項17】
前記アミノ酸残基が、K、R、Y、およびHからなる群から選択される、請求項15に記載の核酸。
【請求項18】
前記ヌクレオチド配列が、配列番号1、3、7、および9からなる群から選択される、請求項15に記載の核酸。
【請求項19】
請求項15に記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項20】
請求項19に記載のベクターを含む、形質転換細胞。

【公表番号】特表2010−533489(P2010−533489A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516967(P2010−516967)
【出願日】平成19年8月13日(2007.8.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/075801
【国際公開番号】WO2009/011707
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(509285861)ディベロップメント センター フォー バイオテクノロジー (1)
【Fターム(参考)】