説明

変異検出のための方法及びキット

増幅したマイクロサテライト遺伝子座のサイズを予想サイズと比較することによって、DNAの変異を検出する方法及びキットが開示される。前記方法及びキットは、細胞又は生物の変異原への暴露の監視、物質の変異生成能の判定、推定的前癌若しくは癌細胞又は腫瘍細胞のマイクロサテライト不安定性の判定を含む種々の用途に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互引用:本出願は、米国仮特許出願60/621,277号(2004年10月22日出願)、米国仮特許出願60/661,646号(2005年3月14日出願)及び米国仮特許出願60/697,778号(2005年7月8日出願)(前記出願の各々はその全体が参照により本明細書に含まれる)に対して優先権を主張する。さらに、本出願は、その発明の名称が”Methods and Kits for Detecting Germ Cell Genomic Instability”(“生殖細胞ゲノム不安定性を検出するための方法及びキット”)である出願(前記出願は参照により本明細書に含まれる)と特許協力条約の下に2005年10月24に同時に出願されている。
連邦政府支援研究に関する記述:本発明は、NASAによって付与されたグラント により合衆国政府の支援を受けて達成された。
【背景技術】
【0002】
環境中の変異原への暴露は、重大な健康上の脅威を、特にある種の高リスク職業の従事者にもたらす。変異を測定する正確な方法は、放射線及び他の変異原への暴露につきものの潜在的な健康上のリスクの概算に極めて重要である。線量測定システムは、暴露の程度に関する情報、更なる暴露のリスクを減少させる手段の開始に有用な情報を提供する。生物学的な線量測定は、放射線を受けた個体に放射線がどのような影響を及ぼすかに関するさらに別の情報を提供する。全体的な染色体の変化は、蛍光in situハイブリダイゼーション(“FISH”)(生物線量測定方法)によって検出することができる。しかしながら、細胞遺伝学的手段による長期的な生物線量測定の正確さは、長期的にわたる染色体異常の維持の低下によって影響を受ける。
【0003】
ヒトゲノムのほぼ1/3がDNAリピートで構成される。反復DNA配列は変異原に対する変異に敏感であると確認されている。マイクロサテライト遺伝子座は、DNAリピートの一クラスに属し、前記の各々は、縦並びにくり返される1−9塩基対(bp)を含む。10から60bpのより大きなリピートユニットを有する遺伝子座は典型的にはミニサテライトと称される。マイクロサテライト及びミニサテライトは、本質的に不安定であり、非反復性DNA配列よりも数桁高い割合で変異する。この不安定性のために、マイクロサテライト及びミニサテライトは、変異原への暴露後の変異率増加の判定に用いられてきた。
【0004】
Ishizakiら(Aviat Space Environ Med 2001, 72(9):794-8)は、9日間のスペースシャトル飛行の機内に置いたミスマッチ修復欠損結腸癌細胞に対する放射線暴露(0.02Gy)の影響を6つのマイクロサテライト遺伝子座(モノヌクレオチドリピートマーカー、BAT-26を含む)を用いて調べた。コントロールと比べて、変異率の増加は観察されなかった。比較的低い放射線線量から考えて、この結果は驚くに当らない。同様に、低い放射線線量は、標準的な細胞遺伝学的染色体分析を用いたとき、宇宙飛行士で染色体異常の顕著な増加をもたらさなかった。
【0005】
Boydら(Int J Radiat Biol 2000, 76(2):2.169-176)は、ヒトの体細胞におけるミニサテライト及びマイクロサテライト遺伝子座の放射線誘導変異に対するドースレスポンス関係を報告した。種々のサイズのミニサテライト遺伝子座が解析された。解析されたマイクロサテライト遺伝子座はジヌクレオチド及びテトラヌクレオチドリピートであった。Boydは、マイクロサテライトはミニサテライトよりも鋭敏さが低いことを認めた(上掲書(Boyd)の172ページ図2を参照されたい)。
【0006】
マイクロサテライトマーカーは、白血病を罹患する原子爆弾の生存者で変化していることが報告された。Nakanishiら(Int J Radiat Biol 2001, 77(6):687-94)は、急性骨髄細胞性白血病で放射線被爆歴をもつ13の個体、及び急性骨髄細胞性白血病で既知の放射線被爆歴がない12の個体に由来する白血病細胞を、10のマイクロサテライトマーカー(モノヌクレオチドリピートマーカーBAT-40を含む)を用いて分析した。放射線被爆の概算範囲は0.05から4Gyを超える。マイクロサテライト不安定性(MSI)分析によって、非被爆個体(8%)と比較して被爆個体(85%)で多数のマイクロサテライトの高頻度変化が示された。1Gyを超えて被爆した患者は高頻度のMSI(MSI-H)を示し、30%を超えるマーカーで変異を有していた。しかしながら、13人の原子爆弾生存者のうち3人のみがBAT-40の変化を示し、12人の非被爆白血病患者の2人の事例に匹敵する。このことは、被爆患者又は非被爆患者でBAT-40の安定性に相違は存在しないことを示唆している。したがって、BAT-40は放射線誘導変異の検出を可能にするほど十分には鋭敏でないようであった。後者の発見は、2GyのX線被爆はBAT-26の変異を増加させなかったというOkudaら(J Radiat Res (Tokyo), 1998, 39(4):279-87)のより初期の報告と一致する。したがった、BAT-40及びBAT-26は放射線誘導変異の検出を可能にするほど鋭敏ではないようであった。
【0007】
したがって、当業者は、ミニサテライトは放射線誘導変異をより検出しやすいと考えるに至った。さらにまた、この発見は、変異の原因がどんな変異原であるかにかかわらずいずれの変異にも適用できると期待された。例えば、Dubrovaは、ヒトゲノムでもっとも不安定なミニサテライトを特定した(Swiss Med Wekly 2003, 133:474-478)。
Yamadaは、酸化性ストレスに暴露したヒト細胞株でG17及びA17モノヌクレオチドリピート及び(CA)17ジヌクレオチドリピートの変異頻度を調べた(Environmental and Molecular Mutagenesis 2003, 42:75-84)。どちらのモノヌクレオチド遺伝子座についても影響は観察されず、ジヌクレオチド遺伝子座については変異頻度の小さな増加が観察された。
【0008】
Y染色体では、当該染色体の全長にそって反復エレメントが存在し、かつ組換え修復の参画がY染色体では生じ得ないために、比較的高レベルの染色体の変化が生じる(Kuroda-Kawaguchi et al. Nature 2001, 29:279)。Y染色体は約6千万塩基対を有し、そのうちの95%が非組換え領域(NRY)であり、前記はY染色体の単相性のゆえに組換えを経ることがない(Tilford et al. Nature 2001, 409:943)。1.5Gy以上の放射線被爆は、持続的な無精子症又は精子形成低下(おそらくは精子形成に必要な遺伝子を含む欠失のため)をもたらす(Birioukov et al. Arch Androl 1993, 30(2):99-104;Greiner Strahlenschutz Forsch Prax 1985, 26:114-121)。Y染色体上の短いタンデムリピートの変異率は、常染色体で観察されたものと類似する(すなわち約1.6x10-3)(Bodowle et al. Forensic Science International 2005, 150(1):1-15, “Twelve short tandem repeat loci Ychromosome haplotypes:Genetic analysis on populations residing in North America.”)。
【0009】
ROS誘導DNA損傷に対する感受性は、部分的にDNA配列の機能、DNA分子間の固有の二次構造の相違によるものである。ある種のDNA配列における照射誘導DNA鎖断裂の確率が低いのは、イオン化照射によって生成されるヒドロキシルラジカルへの接近能力を制限するマイナーグルーブ幅の低下によって説明することができる。ある種のDNA二次構造はDNA修復酵素によって認識され得ることが示され、このことはまた、変異に対する特定のDNA配列、特に反復DNA配列のいくつかのタイプの相対的感受性に寄与するかもしれない。例えば、コア5'-TTCCA-3'の変異から誘導された5-bpのタンデムリピートサテライトは、照射誘導一本鎖及び二本鎖断裂のための “ホットスポット”であることが示された(F. Vazquez-Gundin et al. Radiation Research 2000, 157:711-720)。特定の配列のこの攻撃されやすさは、ヒドロキシルラジカルのDNAへの接近に影響し得るか、又はDNA近くから水分子を排除してより低速の放射線誘発ヒドロキシルラジカルをもたらし得るクロマチン又はDNA三次構造と関係があるかもしれない(M. Ljungman, Radiation Research 1991, 126:58-64)。したがって、異なるDNA配列の変異原性潜在能力は、個々のDNA配列の固有の感受性とDNA構造又はクロマチン機構又は局所の配列環境によって発揮される防御との間のバランスのためであるかもしれない。
当分野では、変異を引き起こす変異誘導条件、例えば放射線又は化学物質への暴露を判定する方法が引き続き希求されている。
【発明の開示】
【0010】
発明の要旨
ある特徴では、本発明は、生物集団又は細胞集団由来のDNAサンプルの少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを増幅させることによって、変異原への暴露について生物集団又は細胞集団をモニターする方法を提供する。前記マイクロサテライトセットは、少なくとも38のリピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座、1−6bpのY染色体短タンデムリピート、又はAAAAG、AAAAC及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短タンデムリピートに由来する少なくとも1つのマイクロサテライトを含む。前記増幅生成物のサイズが、前記増幅生成物の予想サイズと比較される。前記増幅生成物のサイズと増幅生成物の予想サイズとの間の相違は、前記生物集団又は細胞集団の変異原への暴露の指標である。
【0011】
また別の特徴では、本発明は、生物集団又は細胞集団をある物質に暴露し、続いて前記生物集団又は細胞集団由来のDNAサンプルの少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを増幅させることによって、前記物質の変異生成能を判定する方法を提供する。前記マイクロサテライトセットは、少なくとも38のリピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座、1−6bpのY染色体短タンデムリピート、又はAAAAG、AAAAC及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短タンデムリピートに由来する少なくとも1つのマイクロサテライトを含む。前記増幅生成物のサイズが、前記増幅生成物の予想サイズと比較される。前記増幅生成物のサイズと増幅生成物の予想サイズとの間の相違は変異生成能の指標である。
【0012】
本発明はまた、ヒトの推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍細胞でマイクロサテライト不安定性を検出する方法を提供する。少なくとも41のリピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座及び1−6bpのY染色体短タンデムリピートの少なくとも1つを含む少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、前記推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍細胞のDNAから増幅される。前記第一の増幅生成物のサイズを決定し、前記増幅生成物の予想サイズと比較する。マイクロサテライトの不安定性は、前記第一の増幅生成物のサイズと増幅生成物の予想サイズとの間の相違によって示される。
【0013】
また別の特徴では、本発明は、マウスの推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍細胞でマイクロサテライト不安定性を検出する方法を提供する。少なくとも48のリピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座の少なくとも1つを含む少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、前記推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍細胞のDNAから増幅される。前記第一の増幅生成物のサイズを決定し、前記増幅生成物の予想サイズと比較する。マイクロサテライトの不安定性は、前記第一の増幅生成物のサイズと増幅生成物の予想サイズとの間の相違によって示される。
【0014】
本発明はさらに、ヒト細胞株又は個体由来のDNAサンプルから少なくとも41のリピートを有する少なくとも1つのモノヌクレオチドリピート遺伝子座を含む少なくとも1つのマイクロサテライトを増幅させて増幅生成物を形成することによって、マイクロサテライト遺伝子座の変異を検出する方法を提供する。前記増幅生成物のサイズを決定し、前記増幅生成物の予想サイズと比較する。前記増幅生成物とその予想サイズとの間のサイズの相違はマイクロサテライトリピート遺伝子座の変異の指標である。
【0015】
本発明はまた、マウス細胞株又は個体生物由来のDNAサンプルから少なくとも48のリピートを有する少なくとも1つのモノヌクレオチドリピート遺伝子座を含む少なくとも1つのマイクロサテライトを増幅させて増幅生成物を形成することによって、マイクロサテライト遺伝子座の変異を検出する方法を提供する。前記増幅生成物のサイズを決定し、前記増幅生成物の予想サイズと比較する。前記増幅生成物とその予想サイズとの間のサイズの相違はマイクロサテライトリピート遺伝子座の変異の指標である。
【0016】
さらにまた、変異又は人工産物を識別する方法が提供される。前記方法は、3つの別個のプライマーを用いてDNAサンプルからモノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、又はヘキサヌクレオチドリピート遺伝子座を増幅することを含む。第一のプライマーは第一の配列とハイブリダイズし、第二のプライマーは第二の配列とハイブリダイズし、前記第一及び第二の配列は標的DNA配列とフランキングするか又は部分的にオーバーラップする。第三のプライマーは、第一及び第二の配列の間の第三の配列とハイブリダイズする。第一及び第二のプライマーの間のDNAが増幅されて第一の増幅生成物を形成し、第一及び第三のプライマーの間のDNAが増幅されて第二の増幅生成物を形成する。増幅生成物のサイズを決定し、予想サイズと比較する。前記第一及び第二の増幅生成物のそれらの対応する予想サイズに対するサイズの相違が同等である場合は変異を示す。
【0017】
また別の特徴では、本発明は、少なくとも19のリピートを有するリピート配列に連結された検出可能なレポーターマーカーをコードするポリヌクレオチドを含む構築物を提供する。前記マーカーは、前記リピート配列の1つ以上の塩基対の欠失が前記マーカーの発現を変化させるようにリピート配列に連結されてある。
【0018】
発明の詳細な説明
本発明は、モノヌクレオチドリピート鎖又は変異原暴露に対して感受性を有する1−6塩基対の反復ユニットを含む他のある種のタンデムリピートにおける対立遺伝子の長さの変動を観察することによって、変異を検出する方法を提供する。
本明細書で用いられる、“変異原”はDNAの変化を引き起こす物質又は状態を指し、化学的若しくは生物学的物質、放射線及び正常な加齢プロセスが含まれるが、ただしこれらに限定されない。“暴露する”とは、細胞又は生物を変異原と接触させること、又は細胞又は生物を前記細胞又は生物の変異原との相互作用をもたらす条件下で処理することを意味する。細胞又は生物を変異原に“暴露する”ことは、必ずしも能動的な工程を必要としないことは理解されよう。むしろ、細胞又は生物の変異原への暴露は、前記変異原が存在する環境内に細胞又は生物が存在することにより生じ得る。
【0019】
本方法は、変異原に暴露された個体の遺伝的損傷の検出及び監視を可能にする。さらにまた、本方法は、培養細胞又は実験動物の変異原への暴露に対する突然変異生成を測定するために用いることができる。ある実施態様では、本方法は、細胞又は生物を変異原又は潜在的変異原に暴露することによって、個々の変異原の変異生成能を試験するために用いることができる。前記は、暴露細胞の増幅されたマイクロサテライト遺伝子座を非暴露細胞又は生物のそれと比較することによって達成される。別の実施態様では、変異原への暴露時におけるマイクロサテライトの欠失がレポーターマーカーの発現を変化させることができるように、少なくとも19リピートを有するマイクロサテライトリピート遺伝子座に連結された検出可能なレポーターマーカーをコードするポリヌクレオチドを保有する細胞若しくは生物細胞又は生物が提供される。
【0020】
実施例で示すように、ヒト又はマウスDNAの多数の伸長モノヌクレオチドリピート(すなわち38−200リピートを含むモノヌクレオチドリピート)が、利用可能な配列情報の検索で同定された(表1A−1D)。伸長モノヌクレオチドは、環境的傷害(すなわち変異原)に対する不安定性の増加の検出の使用に、又はミスマッチ修復欠損に関連する条件の特定に以前には用いられなかった。なぜならば、比較的長いリピートは一般的には高度に変異性で意味のある結果をもたらさないと考えられたからである。変異原への暴露の監視で使用される伸長モノヌクレオチドリピートのおおまかな適切性が、実施例に記載されているように選別モノヌクレオチドリピートを用いて判定された。前記の結果は、伸長モノヌクレオチドリピートの変異は、コントロール細胞よりも変異原に暴露された細胞でより高頻度で生じることを示した。伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、好ましくは少なくとも38ヌクレオチドリピートを含む。伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、適切には38から200ヌクレオチド、41から200ヌクレオチド、38から90ヌクレオチド、41から90ヌクレオチド、42から90ヌクレオチド、又は42から60ヌクレオチドのリピートを有する。
【0021】
同様に、伸長モノヌクレオチドリピートの変異は、機能的なミスマッチ修復系を有する細胞の場合よりもミスマッチ修復欠損細胞で極めて高頻度で生じることが判明した。41以上のリピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座は、ヒトの細胞でミスマッチ修復のマイクロサテライト不安定性の検出で有用であることが判明した。伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、適切には41から200ヌクレオチド、41から90ヌクレオチド、42から90ヌクレオチド、又は42から60ヌクレオチドのリピートを有する。
【0022】
伸長モノヌクレオチドリピート遺伝子座は、寄託したGenBank配列で報告されているように、種、前記モノヌクレオチドリピートに含まれる塩基、及び前記塩基がくり返される回数にしたがって命名される。しかしながら、個体及び対立遺伝子座間の変種のために、モノヌクレオチドリピートの塩基の数は、GenBankで表示された数に対し増減が存在し得る。例えばmBAT47は、GenBank配列の場合、47塩基のアデニンリピートを有するマウスの配列を指す。しかしながら、種々のマウス細胞株又は個々の生物は、該当遺伝子座に47より少ないアデニンリピートを有する1つ以上の対立遺伝子を含むことができる。
【0023】
本発明の方法での使用に適した他の遺伝子座には、1−6塩基の反復配列を含むY染色体マイクロサテライト遺伝子座(YSTR又はYSTR遺伝子座)が含まれる。下記実施例で示すように、YSTRは、ROS又は放射線への暴露の後、非暴露細胞と比べて変異率の増加を示し、さらにMMR非欠損腫瘍細胞のそれと比べてMMR欠損腫瘍細胞で変異率の増加を示す。変異原への暴露の判定で、又は推定的前癌細胞若しくは癌細胞又は腫瘍細胞のマイクロサテライト不安定性の判定で使用に適したYSTRには、DYS438、DYS389-II、DYS390、DYS439、DYS392、DYS385b、DYS19、DYS389-I、DYS385a、DYS393、DYS437、及びDYS391が含まれるが、ただしこれらに限定されない。Y染色体の他のYSTR遺伝子座も、ROSまたは放射線暴露の検出に、又は推定的前癌細胞若しくは癌細胞又は腫瘍細胞のマイクロサテライト不安定性の検出に適しているであろうことは、合理的に期待されよう。前記には表7に示したY染色体マイクロサテライト遺伝子座が含まれ(ただしこれらに限定されない)、それらは利用可能な配列情報の検索で同定された(すなわち、DYS453、DYS456、DYS446、DYS455、DYS463、DYS435、DYS458、DYS449、DYS454、DYS434、DYS437、DYS435、DYS439、DYS488、DYS447、DYS436、DYS390、DYS460、DYS461、DYS462、DYS448、DYS452、DYS464a、DYS464b、DYS464c、DYS464d、DYS459a、及びDYS459b)。特に他のいずれのY染色体非組換え領域(NRY)のモノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、又はペンタヌクレオチドリピートも本発明の方法で適切であろうと考えられる。
【0024】
マイクロサテライト遺伝子座の変異を特定する方法は、変異原(酸化性ストレスを引き起こすものを含む)への暴露の判定に用いることができる。マイクロサテライト遺伝子座の変異は概して非コード領域で見出され、細胞にとって有害ではない。したがって、非コード反復配列の変異は蓄積が可能で、過去の暴露に由来するDNA損傷の安定な分子記録を提供する。
【0025】
反応性酸素種(ROS)の蓄積(前記は加齢とともに又はある種の化学物質への暴露に対して生じる)は、ミトコンドリアDNA(mtDNA)欠失及びDNA損傷の不完全な修復をもたらす。高ROSによる酸化性DNA損傷は、超酸化陰イオン(O2-)、水素ラジカル(OH)及びそれらの共通の生成物過酸化水素(H2O2)の生成を特徴とする。ROSの蓄積は、巨大分子(脂質過酸化物を含む)への損傷、アミノ酸側鎖の酸化、DNA-タンパク質架橋の形成、タンパク質のフラグメント化をもたらすポリペプチド骨格の酸化、DNA損傷及びDNA鎖の断裂を引き起こす。ミトコンドリアDNAは16,569bpの閉環状二本鎖ゲノムであり、さらに年齢及びミトコンドリアの変性とともに増加することが報告された共通の4977bpの欠失を示す(Δ-mtDNA4977)。ミトコンドリアDNAはROSによる損傷に特に感受性を示す。過酸化水素による損傷は、核DNAよりもmtDNAで広範囲に生じ、mtDNAの変異率は核DNAの場合よりも10−1000倍高い。
【0026】
実施例に記載するように、加齢又はパラクォットへの暴露によるROS蓄積の影響が、mtDNA欠失(Δ-mtDNA4977)及びモノヌクレオチドリピート遺伝子座の変異によって測定されるゲノム安定性を調べることによりC57BL/6マウスで判定された。パラクォットは除草剤であり、in vivoで分子酸素と反応してROSを生成する。変異は、mBat-24、mBat-26、mBat-30、mBat37、mBat-59、mBat-64、又はmBat-67を含むDNAサンプルを増幅することによって検出した。前記の結果は、伸長モノヌクレオチドリピートは、より短いモノヌクレオチドリピートよりもROS誘発欠失により感受性であり、伸長モノヌクレオチドリピートの増幅は、ROS損傷に対するより鋭敏な検査を提供することを示した。
【0027】
長期にわたるモノヌクレオチドリピート配列における変化を解析することにより、変異負荷の概要を知ることは、個体の蓄積された変異記録をモニターするための非侵襲的で普遍的なアプローチである。このアプローチは、変異原に暴露された個体の健康上のリスクを予測又は最小限にする上で有用である。本発明の方法を用いて、薬剤又は化学物質への暴露によって引き起こされる細胞培養又は完全な動物への遺伝的損傷を測定することができる。
【0028】
さらにまた、伸長モノヌクレオチドリピートにおける変異の検出は、腫瘍又はミスマッチ修復欠損に伴う他の症状の検出を促進する。遺伝性の非ポリープ症性結直腸癌(HNPCC)の個体は、DNAミスマッチ修復遺伝子(MLH1及びMSH2を含む)に生殖細胞系列変異を保有する。これらの変異をもつ個体は、結腸の癌を、他の組織(特に女性では子宮内膜)の癌同様に発症しやすい。マイクロサテライト遺伝子座の変異は、結直腸の腫瘍及び他のミスマッチ修復(MMR)欠損癌細胞でより頻繁に生じ、これは、おそらく前記細胞ではMMRが不完全であるためである。腫瘍細胞におけるマイクロサテライト不安定性の増加の検出は、治療及び予後に関する重要な診断情報を提供する。実施例に示すように、41以上のリピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座及びYSTRの増幅は、ミスマッチ修復欠損腫瘍におけるマイクロサテライト不安定性の判定に感度が高く特異的な手段を提供する。さらにまた、伸長モノヌクレオチドリピート増幅生成物の査定は、放射線誘発急性骨髄性白血病に付随する変異の検出に有用である。
【0029】
例えば細胞が培養で顕微鏡的に異形であるように見えるか、又は異形細胞がポリープ若しくは異常塊に含まれる場合は、推定的前癌細胞又は癌細胞であると考えることができる。マイクロサテライト安定性は、これらの細胞由来の増幅生成物を対応する正常細胞由来の増幅生成物と比較することによって判定することができる。正常細胞は、マイクロサテライトが安定であり、前癌性の特徴を全く示さない細胞であり、例えば正常な血液リンパ球又は正常な腸細胞が含まれる。
【0030】
簡単に記せば、変異原への暴露をモニターするか、又は物質の変異生成能を判定する方法は、DNAサンプルのマイクロサテライト遺伝子座を、標的配列とフランキングするか又は部分的にオーバーラップするプライマーを用いて、増幅反応(適切にはポリメラーゼ連鎖反応(PCR))で増幅することを必要とする。適切には、前記マイクロサテライト遺伝子座には、モノヌクレオチドリピート(好ましくは少なくとも38リピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座)、YSTR、及びAに富むペンタヌクレオチドリピート遺伝子座(すなわち、AAAAG、AAAAT、又はAAAAC)が含まれる。増幅されるべき標的DNAのサイズの上限は増幅方法の効率に左右されるであろう。標的DNAのサイズは、標的DNAの不完全な複製による長さの変動を減少させるように選択することができる。好ましくは、標的DNAは長さがせいぜい1000塩基対である。
【0031】
実施例では、変異原への暴露、物質の変異生成能、又は推定的前癌細胞若しくは癌細胞又は腫瘍細胞のマイクロサテライト不安定性の状態は、増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較することによって判定される。増幅生成物の予想サイズは、例えば適切なコントロール細胞を用いて確立することができる。例えば、変異生成能実験のためのコントロール細胞は、物質に暴露する前に得られる細胞、又は暴露されていない暴露細胞と実質的に同一の細胞であり得る。マイクロサテライト不安定性を判定するための適切なコントロール細胞は、同じ個体に由来する、正常で非癌性であり、マイクロサテライトが安定な細胞であり得る。マイクロサテライト遺伝子座が集団の中で優勢な対立遺伝子を有する場合(すなわち、単一形態性又は準単一形態性対立遺伝子)、前記増幅生成物の予想サイズは前記集団で優勢な対立遺伝子のサイズであろう。また別には、前記増幅生成物の予想サイズは家系分析によって確立することができる。
【0032】
実施例では、増幅生成物のサイズはキャピラリー電気泳動によって判定された。しかしながら、増幅生成物のサイズは、任意の適切な手段、例えば対立遺伝子の配列決定、又は実施例に記載されているように、DNAリピートに融合されたレポーター遺伝子を含むDNA構築物(DNAリピートの長さの変化がフレームシフト及びレポーター遺伝子発現の低下又は増加をもたらすように、レポーター遺伝子はDNAリピートに融合されてある)を含む細胞でレポータータンパク質の発現の増減を観察することによって査定することができる。
【0033】
本発明の方法を実施するとき、マイクロサテライト遺伝子座を個々に増幅及び分析してもよいが、又は他の遺伝子座と一緒にパネルの部分として増幅及び分析してもよい。パネルに多数の遺伝子座を加えることによって、パネルの感度が高くなる。推定的前癌細胞若しくは癌細胞又は腫瘍細胞のマイクロサテライト不安定性を査定するときは、適切には、少なくとも4つの異なる遺伝子座がパネルで用いられる。好ましくは、少なくとも5つの遺伝子座がマイクロサテライト不安定性について判定される。多数の遺伝子座を別々に増幅してもよいが、または便利には、多重反応で他の遺伝子座と一緒に増幅してもよい。
本発明の方法にしたがってリピート遺伝子座を増幅する際には、例えば下記に記載するもの又は市場で入手できるもの(例えばパワープレックス(PowerPlex(商標))システム(Promega Corporation, Madison, WI))を含む適切な任意のプライマー対を用いることができる。また別には、増幅されるべき遺伝子座の各末端に隣接するか、または前記に部分的にオーバーラップする適切なプライマー対を、利用可能な配列情報及びオリゴヌクレオチドプライマー設計用のソフトウェア(例えばオリゴプライマーアナリシスソフトウェア、ヴァージョン6.86(National Biosciences, Plymouth, MN)を用いて設計してもよい。
【0034】
短いタンデムリピート(STR)遺伝子座(すなわちモノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、又はヘキサヌクレオチド配列のタンデムリピート)を含むDNAの増幅は、前記遺伝子座中の変異のためというよりはむしろ増幅時のずれのために長さが変動するPCR生成物の高い発生を伴う。この現象(スタッターアーティファクトとして知られている)は、増幅生成物のサイズの変動がスタッターによるものか変異によるものかの決定を困難にするであろう。本発明はまた、人工的スタッター生成物と対立遺伝子変種との識別を可能にすることによって結果の解釈を容易にする、STR増幅方法を提供する。前記方法は、異なるサイズを有する2つの部分的にオーバーラップするPCR生成物を生成するために、3つのプライマー(その各々はSTRを含む)をPCRで利用する。STR内で変異(すなわち欠失又は付加)が生じているならば、両PCR生成物は同程度のサイズの移動を示すであろう。対照的に同一のスタッターが両増幅生成物で生じることはありそうではない。この方法は、単一細胞又は少数の細胞、又はそれらのDNA等価物(例えば小プールPCR)での変異分析で特に有用である。前記方法は、出生前又は着床前診断検査で用いることができる。
【0035】
変異原への暴露による変異に敏感なマイクロサテライト遺伝子座を含むレポーター系が構築される。前記構築物は、検出可能なレポーターマーカーをコードするポリヌクレオチドに連結された、モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、又はヘキサヌクレオチドリピートの少なくとも19のリピートを含むリピート配列を含む発現ベクターを含む。前記構築物では、前記反復された配列の1つ以上の塩基対の欠失が前記レポーターマーカーの宿主細胞内での発現を変化させるようにリピート配列は前記ポリヌクレオチドに連結されてある。前記系を用いてある物質の変異生成能を査定することができる。前記は、宿主細胞を前記物質と接触させ、レポーターの発現における変化を検出することによって実施される。
【0036】
二重レポーター系は下記の実施例で予想例として記載されている。下記で述べる二重レポーター系は、ウミシイタケ(Renilla)のルシフェラーゼをコードする3'配列と、少なくとも19リピートを有するリピート配列を介してウミシイタケのルシフェラーゼコード配列がアウト-オブ-フレームとなるように連結されたショウジョウバエのルシフェラーゼをコードする5'配列を含む。ウミシイタケルシフェラーゼコード配列の上流の変異(前記は読み枠を回復させる)がなければ、機能的なウミシイタケルシフェラーゼは発現されないであろう。ウミシイタケコード配列の下流に前記とイン-フレームにあるネオマイシン耐性マーカーをコードする配列が存在し、上流の変異によりネオマイシン耐性の発現が回復した宿主細胞の選別を可能にする。バックグラウンドを減少させるために、リピート配列は、5' のアウト-オブ-フレーム終止コドン及び3'のイン-フレーム終止コドンによってフランキングされる。
【0037】
下記実施例は二重検出マーカーを有し、さらに選別可能マーカーを含む構築物を記載しているが、本発明の構築物は、リピート配列内の変異がレポーターの発現を変化(増加又は低下)させることができるようにリピート配列に連結された任意のレポーターをコードする配列を適切に含むことができる。例えば、前記構築物はただ1つのレポーター及びリピート配列を開始配列の3'に含むことができよう。その結果前記リピート配列内の変異はレポーターの発現を変化させることができる。
レポーターは測定可能な表現型を有する任意のポリペプチドを含むことができる。適切なレポーターには、ルミネセンスタンパク質(例えばルシフェラーゼ)、蛍光タンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質)、検出可能な作用を生じる反応を触媒する酵素(例えばβ-ガラクトシダーゼ又はβ-ラクタマーゼ)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。2つのレポーターを用いる系の場合、好ましくは、両レポーターは単一サンプルで容易に定量できる。
【0038】
2つの異なるタイプのレポーターもまた組み合わせることができる。例えば、β-ガラクトシダーゼ及びショウジョウバエのルシフェラーゼを組み合わせることが可能で、両者を単一サンプルで検出することができる(デュアル-ライト(Dual-Light(商標)結合レポータージーンアッセイ系(Applied Biosystems))。ルミネセンス系及び非ルミネセンス系レポーターの測定はUS20050164321A1(前記文献は参照により本明細書に含まれる)に記載されている。
【0039】
レポーターは、第二のレポーターが第一のレポーターの活性を活性化させるか又は変化させるように選択される(例えば蛍光共鳴エネルギー移転(FRET)又はバイオルミネセンス共鳴エネルギー移転(BRET))。
偽陽性を減少させるために、構築物は、2つのレポータータンパク質をコードする配列がウイルスペプチド挿入物又はリンカーによって分離されるように設計することができる。フレームシフト変異が生じたとき、翻訳作用又はリボソーム機構による“スキップ”のために、第二のレポーターは、第一のレポーターと融合されていないかのように発現される。
【0040】
レポーター構築物の作成又はクローニングを容易にするために、選別マーカー(例えば抗生物質耐性マーカー、フローサイトメトリー仕分けで使用するために蛍光レポーター、又は栄養要求系(Li et al. 2003, Plant 736-747)を用いることができる。
二重レポーター系(例えば実施例で述べたようなもの)では、第二のレポーター(例えばウミシイタケルシフェラーゼ)と毒性物質(例えばバルナーゼ)をコードする配列との融合が含まれ、それがなければ偽陽性を生じ得るフレームシフトを既に含んでいる一切のものからの選別を可能にする。
以下の非制限的な例は純粋に例示を目的としている。
【実施例】
【0041】
A.培養マウス細胞又はSupFG1マウスでの放射線誘発変異の検出
細胞培養及び放射線照射:C57BL/6マウスに由来する、不朽化した野生型マウスMC5胎児線維芽細胞を標準的な細胞培養条件で増殖させた。T-25組織培養フラスコで培養した指数関数的増殖細胞を、ブルックヘブン国立研究所(Brookhaven National Laboratory)の交替勾配シンクロトロン(AGS)で0.5Gy/分の速度で加速した1又は3 GeV/nucleonの56Feイオンをシングルドース1 Gyで室温で照射した。照射後3日間増殖させて細胞を回復させ、トリプシン処理し、遠心により濃縮し-80℃で凍結した。
SupFG1マウス(Leach et al. 1996, Mutagenesis 11(1):49-56)をブルックヘブン国立研究所の交替勾配シンクロトロン(AGS)を用いて0.5Gy/分の速度で1又は3 Gyの56Fe高-LETイオン化放射線を照射した。前記マウスを10週間標準的な条件下で維持し、給餌し、続いて殺した。DNAを標準的な方法で血液から単離した。
マイクロサテライトリピートのPCR増幅:照射又はコントロール細胞からゲノムDNAを標準的なフェノール/クロロホルム抽出法によって抽出し、UV分光分析によって、さらに製造元のプロトコルにしたがいピコグリーン(PicoGreen)dsDNA定量キット(Molecular Probes, Eugene, Oregon)によって定量した。伸長ポリ-A鎖をもつモノヌクレオチドリピートをGenBankデータベースのBLAST検索から同定した。PCR増幅のためのプライマーは、オリゴプライマーアナリシスソフトウェア、ヴァージョン6.86(Molecular Biology Insights, Inc., Cascade, CO)を用いて設計した。
伸長モノヌクレオチドリピートmBat-24、mBat-26、mBat-30、mBat-37、mBat-59、mBat-64、mBat-66、及びmBat-67を含む遺伝子座の小プールPCR(SP-PCR)増幅は、各遺伝子座について蛍光標識プライマー対を用いて実施した(表2)。PCR反応は、10μLの反応混合物中で6−15pgの全ゲノムDNAを用いて実施した。前記反応混合物は以下を含んでいた:1μLのゴールドST*Rの10X緩衝液(Promega, Madison, WI)、0.05μLのAmpliTaqゴールドDNAポリメラーゼ(5ユニット/μL;Perkin Elmer, Wellesley, MA)及び0.1−10μMの各プライマー。PCRはPE 9600サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, CA)で以下のサイクリング条件を用いて実施した:95℃で11分の最初の変性、続いて96℃で1分の1サイクル、94℃で30秒、58℃へ68秒の下降、30秒維持、70℃へ50秒の上昇、60秒維持の10サイクル、90℃で30秒、62℃へ60秒の下降、30秒維持、70℃へ50秒の上昇、60秒維持の25サイクル、60℃で30分の最後の伸長及び4℃で維持。SP-PCR生成物を分離し、アプライドバイオシステム(Applied Biosystems)3100ジネティックアナライザーを用いてキャピラリー電気泳動で検出し、データはABジーンスキャン(AB GeneScan)及びジェノタイパー(Genotyper)ソフトウェアアナリシスパッケージを用いて解析し、マイクロサテライト変異の存在を特定した。
変異の解析:変異は、コントロール細胞又は1Gyの鉄イオン照射細胞から単離したDNAのmBat-24、26、30又は37マーカーでは検出されなかった。対照的に、伸長モノヌクレオチドリピートマーカーmBat-59について、変異対立遺伝子は、1Gyの鉄を照射した細胞の対立遺伝子の1%(4/408)で見出された。コントロール細胞では、変異mBat-59対立遺伝子は検出されなかった(0/320)。ポリA鎖の実際の長さは、GenBank配列データを基準にしてMC5細胞では51bpであると概算された。1塩基対の挿入/欠失変異が、高い放射線線量においてより短いポリA鎖をもつマーカーで観察されたが、これらは放射線に暴露されなかったコントロール細胞でも生じた。したがって、より短いポリA鎖をもつマーカーについては、真の変異とリピートのズレ又はTaqポリメラーゼによる鋳型無しのA付加からPCRプロセス中に生じた人工産物とを区別することはできなかった。
イオン化放射線に暴露したSupFG1マウスのmBat-37、67、59、64及び66についての変異頻度を、リピートの長さの関数としてプロットした(図2)。非暴露SupFG1マウスのDNAのmBat-37、67、59、64及び66についての主要なリピートの長さは、それぞれ32、47、52、58及び59塩基である。図2に示されているように、放射線暴露マウスの変異頻度はリピートの長さの関数として増加する。実際、マウスの照射実験で示されるように、リピートの長さと変異頻度との間には指数関数関係が存在するようである。
【0042】
B.培養ヒト細胞における放射線誘発変異の検出
細胞培養及び放射線照射:コリール細胞集積所(Coriell Cell Repository)から得たヒト男性線維芽細胞株#AG01522をDMEM培養液(2mMのL-グルタミン、10%ウシ胎児血清、0.5ユニット/mLのペニシリン、0.5μg/mLのストレプトマイシン及び0.1mMの必須及び非必須アミノ酸並びにビタミン(Invitrogen Corporation)を含む)。細胞培養は、無菌的条件下で5%CO2、37℃で増殖させた。25cm2の組織培養フラスコで指数関数的に増殖している細胞に、ブルックヘブン国立研究所の交替勾配シンクロトロン(AGS)で0.5Gy/分の速度で加速した1GeV/nucleonの56Feイオンをシングルドース0.5、1又は3Gyで室温で照射した。照射後に、培養液を交換し、細胞を3日間増殖させてから採集し、DNA抽出まで-70℃で凍結した。
【0043】
マイクロサテライトリピートの小プールPCR増幅:以下のマイクロサテライト遺伝子座を増幅するためにプライマー対(表7)を用いて、上記の実施例Aに記載したように小プールPCRアッセイを実施した:(1)モノヌクレオチドリピートマーカー(NR-21、NR-24、BAT-25、BAT-26及びMONO-27);(2)伸長モノヌクレオチドリピートマーカー(hBAT-51d、hBAT-52a、hBAT-53c、hBAT59a、hBAT-60a);(3)常染色体上のテトラヌクレオチドリピートマーカー(D7S3070、D7S3046、D7S1808、D10S1426及びD3S2432);(4)Y染色体上のトリ-、テトラ-及びペンタ-ヌクレオチドリピート(DYS391、DYS389 I、DYS389 II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390及びDYS385);及び(5)ペンタヌクレオチドリピート(ペンタC及びD)(J. Bacher & J. Schumm, J. Profiles in DNA, 1998, 2(2):3-6;Bacher et al. Disease Markers, 2004, 20:237-250)。
【0044】
変異の解析:変異は、0.5又は3Gyの鉄イオンを照射した細胞から単離したDNAのマイクロサテライトリピートで検出した。36bpまでのポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピートは、コントロールに対して変異率の増加をほとんど、又は全く示さなかった。同様に、MSIに対して感受性を示す常染色体のテトラヌクレオチドリピートも、放射線誘発変異の証拠を全く示さなかった。対照的に、38bp以上のポリA鎖をもつ伸長モノヌクレオチド(図3)は、Aに富むペンタヌクレオチドリピート(図4)及びY染色体上のリピート(図5)のように、照射サンプルで統計的に有意な変異の増加を示した。
【0045】
線量-応答曲線:直線状の線量応答曲線がY染色体上の被検マイクロサテライトマーカー及び伸長モノヌクレオチドリピートマーカーで観察された。正常なヒト線維芽細胞AG01522に0、0.5、1又は3Gyの鉄イオンを照射し、Y染色体上の13のマイクロサテライトマーカーのひとまとめの変異頻度をSP-PCRで決定し、図表に表した(図6A)。直線状回帰線(R2=0.9835)に対する良好な一致が存在し、これらのマーカーは生物線量測定のために有用であり得ることを示した。直線状の線量応答はまた、伸長モノヌクレオチドリピートマーカーhBAT-51d、52a、53c、59a、60a及び62でも観察された(図6B)。観察されたポリAリピートの長さは、GeneBankの配列データを基準にして42、36、42、46、39及び36bpであると概算した。変異は、実際のポリA鎖が38bp以上のマーカーで主として観察された。
【0046】
C.酸化性ストレスに暴露されたマウスの変異の検出
マイクロサテライト遺伝子座及びプライマーの同定:以前には性状が決定されなかったマウス及びヒトのモノヌクレオチドリピートを、国立バイオテクノロジー情報センター(National Center of Biotechnology Information)の公開DNA配列データベースで見出された配列を反復配列についてBLASTN検索を用いて分析することによって同定した(表1A−1D)。マイクロサテライトマーカーのプライマーは、オリゴプライマーアナリシスソフトウェア(National Biosciences, Plymouth, MN)を用いて設計した。
【0047】
パラクォット実験で用いられるマウスの処理:C57BL/6マウスを飼育し、ウィスコンシン大学で同系交配した。平均寿命はほぼ30ヶ月であった。1群3匹のマウスを含む以下の4群が実験に含まれた:5ヶ月齢のマウス(若年コントロール又はYC);パラクォットで処理した5ヶ月齢のマウス;24ヶ月齢のマウス(老齢マウス);及びパラクォットで処理した24ヶ月齢のマウス。パラクォット処理マウスは、最後の給餌の24時間後にPBSに溶解した50mg/kg体重の腹腔内注射を1回受けた。各マウスを頸部の脱臼により殺した。
【0048】
組織の調製、DNA抽出及び定量:各マウスの全肝臓を切り出し、PBSで洗浄し、1.5mLのエッペンドルフ管に入れ、液体窒素で瞬間凍結して-80℃で保存した。DNAはマウスの肝組織からDNA-IQティッシュアンドヘア・抽出キット(Promega Corporation, Madison, WI)を用いて抽出し、ピコグリーン(PicoGreen)dsDNA定量キット(Molecular Probes, Eugene, Oregon)を用い製造元のプロトコルにしたがって定量した。
【0049】
mtDNA欠失検出:マウスのmtDNA配列を基にして、4つの蛍光標識プライマーを設計し、野生型配列及びmtDNA欠失の両方を検出した。前記プライマー配列、蛍光標識及び位置は表3に示されている。
【0050】
小プールPCRによるマイクロサテライトの変異の検出:変異は、蛍光標識プライマー対(表2)を用い、小プールPCR(SP-PCR)の多数の複製物で種々の長さのモノヌクレオチドリピートを含む遺伝子座を増幅することによって検出した。4つの短いモノヌクレオチドリピート(mBAT-24、mBAT-64、mBat-30、mBAT-37)及び3つの伸長モノヌクレオチドリピート(mBAT-59、mBAT-64及びmBAT-67)の安定性を判定した。
【0051】
PCRの条件:mtDNAの欠失の検出については、PCR増幅は、10μLの反応混合物中で1ngの全ゲノムDNAを用いて実施した。前記反応混合物は以下を含んでいた:1μLのゴールドST*Rの10X緩衝液(Promega, Madison, WI)、0.05μLのAmpliTaqゴールドDNAポリメラーゼ(5ユニット/μL;Perkin Elmer, Wellesley, MA)及び0.5μMの混合プライマー。PCRはPE 9600サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, CA)で以下のサイクリング条件を用いて実施した:95℃で11分の最初の変性、続いて96℃で1分の1サイクル、94℃で30秒、62℃へ68秒の下降、30秒維持、70℃へ50秒の上昇、60秒維持の10サイクル、90℃で30秒、62℃へ60秒の下降、30秒維持、70℃へ50秒の上昇、60秒維持の25サイクル、60℃で30分の最後の伸長及び4℃で維持。
SP-PCRは、ゲノムDNAの1−2コピー(12pg)を用いて変異分析のために実施した。PCRサイクル及び条件は、アニーリングの温度が58℃であったことを除いて上記に記載したものと同じである。
【0052】
PCR生成物の同定:増幅フラグメントの分離及び検出は、製造元(Applied Biosystems, Foster City, CA)のプロトコルにしたがってABI PRISM(商標) 3100ジネティックアナライザーで実施した。データはジーンスキャン及びジェノタイパー(Genotyper)コンピュータソフトウェアパッケージ(Applied Biosystems)を用いて解析した。
【0053】
統計解析:統計解析は、統計パッケージシグマStatヴァージョン3を用いて実施した。ここでP値は、各固有群につき一方向ANOVAを用いて決定し、各群間の比較はHolm-Sidak法を用いた。
【0054】
老齢又はパラクォット処理マウスで検出されたΔ-mtDNA4977:野生型mtDNAはプライマー1、3及び4を用いて増幅することにより検出し、それぞれ465bp、130bp及び98bpのフラグメントが得られた。プライマー2は、欠失mtDNAフラグメントを増幅するために設計され、620bpのPCR生成物を生じた。若年コントロール群(5ヶ月齢マウス)の3匹のマウスのいずれにおいても欠失は検出されず、一方、老齢のパラクォット非処理群(25ヶ月齢)の3匹のマウスの1匹はΔ-mtDNA4977を提示した。老齢パラクォット処理群の3匹のマウスは全てΔ-mtDNA4977を提示した(表4)。
【0055】
PCRによる変異の検出:遺伝子座mBAT-24、mBAT-26、mBat-30又はmBAT-37のPCR増幅によって得られた増幅生成物の分析では、老齢パラクォット処理群の1608対立遺伝子から変異は検出されなかった(表5)。対照的に、遺伝子座mBAT-59、mBAT-64、mBAT-66又はmBAT-67のSP-PCR増幅によって得られた増幅生成物の分析は、パラクォット処理老齢群ではアッセイしたモノヌクレオチドリピート対立遺伝子の1.8%を超える(25/1649)もので変異をもつことを示した(表5、図7、8、9及び10)。若年コントロール群のマウスでは、伸長モノヌクレオチドリピートマーカーの全てにおいて、2170の対立遺伝子のうちただ1つの変異対立遺伝子が見出されただけであった。老齢コントロール群では、SP-PCR複製物から得られた増幅生成物の分析によって、2342の対立遺伝子のうち3つの変異が特定された。コントロール群とパラクォット処理群との間の変異頻度平均値の相違は統計的に有意であった(P<0.05)。
【0056】
多数のSP-PCR複製物の使用は、野生型対立遺伝子よりも低い頻度で生じる変異対立遺伝子の検出を可能にする。これらの結果は、伸長モノヌクレオチドリピートは、短いモノヌクレオチドリピートよりも酸化性ストレスに対する変異に対しより感受性が高いことを示している。酸化性ストレスに暴露されたマウスは、38bp以上のポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピートでのみ変異を示した(図11)。38bp以上の伸長リピートを含む遺伝子座の増幅は、ROS誘発変異の検出により感度の高い手段を提供する。
【0057】
D.酸化性ストレスに暴露されたヒト培養細胞での変異の検出
細胞培養:コリール細胞集積所から得たヒト男性線維芽細胞株#AG01522をMEMイーグル-アールBSS、2x濃度の2mMのL-グルタミンを含む必須及び非必須アミノ酸並びにビタミン、10%ウシ胎児血清、0.5ユニット/mLのペニシリン、0.5μg/mLのストレプトマイシン中で培養した。細胞培養は37℃及び5%CO2で無菌的条件下で増殖させ、細胞がコンフルエントのときに、トリプシン-EDTA処理で細胞を遊離させることによって1:5の割合で分割した。PBSで希釈した 0.0uM(PBS)、0.1mM、0.4mM、0.8mM又は1.2mMの過酸化水素で細胞を1時間、上記に記載した条件と同じ培養条件下で処理した。処理後、過酸化水素を含む培養液を新しい培養液と交換し、3日間回復させた。細胞をペレットにしてDNAを抽出した。
【0058】
変異の検出:変異対立遺伝子は、以下を含むマイクロサテライトマーカーに特異的なプライマー対を用いて(表2及び7)、上記の実施例Bに記載したように小プールPCRによって同定した:(1)モノヌクレオチドリピートマーカー(NR-21、NR-24、BAT-25、BAT-26及びMONO-27);(2)伸長モノヌクレオチドリピートマーカー(hBAT-51d、hBAT-52a、hBAT-53c、hBAT59a、hBAT-60a及びhBAT-62);(3)常染色体上のテトラヌクレオチドリピートマーカー(D7S3070、D7S3046、D7S1808、D10S1426及びD3S2432);(4)Y染色体上のトリ-、テトラ-及びペンタ-ヌクレオチドリピート(DYS391、DYS389 I、DYS389 II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390及びDYS385);及び(5)ペンタヌクレオチドリピート(ペンタB、C、D及びE)(Bacher et al. 1999, Proceedings from the Ninth International Symposium on Human Identification 1998;Bacher et al. Proceedings from the 18th International Congress on Forensic Haemogenetics. 1999)。
【0059】
酸化性ストレス後のヒト培養細胞の変異解析:変異は、0.1から1.2mMの過酸化水素に暴露された細胞から単離したDNAの伸長モノヌクレオチドリピート、Y-STR及びAに富むペンタヌクレオチドリピートで検出された(図12)。過酸化水素に暴露された細胞の短いモノヌクレオチドリピートマーカーNR-21、NR-24、BAT-25、BAT-26又はMONO-27については、変異は観察されなかった(0/1,526対立遺伝子)。
【0060】
E.マウス腫瘍におけるマイクロサテライト不安定性の検出
腫瘍及び対応する正常組織サンプルからDNAの単離:C57BL/6のMlh1-欠損マウス及びB6 Msh2-欠損マウスをCO2による窒息によって殺した。全腸管を取り出し、1xのPBSで洗浄した。腫瘍及び隣接する正常組織を取り出し、液体窒素で瞬間凍結した。DNA IQケミストリー(Promega Corp., Madison, WI)を用い各サンプルからDNAを調製した。さらにまた、全身の放射線照射によって急性骨髄性白血病(AML)を誘発したC3Hマウスの白血病細胞株からDNAを抽出した(Pazzaglia et al. 2000, Molecular Carcinogenesis 27(3):219-228)。
【0061】
マイクロサテライト不安定性の検出:伸長モノヌクレオチドリピートmBat-24、mBat-26、mBat-30、mBat-37、mBat-64、mBat-59、又はmBat-67を含む遺伝子座のPCR増幅は、各遺伝子座のためのプライマー対を用いて実施した(表2)。モノヌクレオチドリピートの増幅は蛍光標識プライマーを用い、10μLのPCR反応物中で実施した。前記反応物は以下を含んでいた:1μLのゴールドST*Rの10X緩衝液(Promega, Madison, WI)、0.1−1μMの各プライマー、各遺伝子座当たり0.05μLのAmpliTaqゴールドDNAポリメラーゼ(5ユニット/μL;Perkin Elmer, Wellesley, MA)及び1−2ngのDNA。
PCRはPE 9600サーマルサイクラー(Applied Biosystems, Foster City, CA)で以下のサイクリングプロフィルを用いて実施した:95℃で11分の1サイクル;96℃で1分の1サイクル;94℃で30秒、58℃へ68秒の下降、30秒維持、70℃へ50秒の上昇、60秒維持の10サイクル;90℃で30秒、58℃へ60秒の下降、30秒維持、70℃へ50秒の上昇、60秒維持の20サイクル;60℃で30分の最後の伸長;4℃で維持。単一鋳型PCRについては、製造元のプロトコルにしたがいピコグリーン(PicoGreen)dsDNA定量キット(Molecular Probes, Eugene, Oregon)による定量を基にしてDNAを6−12pg(1−2ゲノム等価物)に希釈し、さらにPCR不成功率が30−50%に達するまでDNAの段階希釈によって確認した。PCR増幅は、サイクル数が合計35サイクルに増加したことを除いて上記に概略したものと同じであった。
【0062】
増幅フラグメントの分離及び検出は、ABI PRISM(商標) 3100ジネティックアナライザーで製造元(Applied Biosystems, Foster City, CA)のプロトコルにしたがって実施した。データはジーンスキャン及びジェノタイパー(Genotyper)ソフトウェアパッケージ(Applied Biosystems)を用いて解析し、各遺伝子座について優勢な対立遺伝子サイズを特定した。正常と腫瘍のペアの対立遺伝子パターン又は遺伝子型を比較し、腫瘍DNAサンプルが、同じマウスの正常サンプルでは見いだされない1つ以上の対立遺伝子を含む場合に、MSI-陽性として記録した。
【0063】
マイクロサテライト不安定性は、米国立癌研究所(National Cancer Institute)ワークショップにより提唱されたガイドラインによった(Boland et al. (1998) Cancer Research 58:5248-5257;Umar et al. (2004) J Natl Cancer Inst 96:261-268、前記文献の各々は参照により本明細書に含まれる)。5つのマイクロサテライトリピートのベセスダパネルを用いたとき、40%のMSIを有する腫瘍サンプルを高MSI(MSI-H)、40%未満を低MSI(MSI-L)と分類し、変化のないものをマイクロサテライト安定(MSS)と分類した。5つより多いマーカーを用いる場合は、MSI-H群は被検マーカーの30%以上でMSIを示す腫瘍と定義し、一方、MSI-L腫瘍はマーカーの1−29%でMSIを示す。
【0064】
図13は、MMR欠損マウスの正常な腸上皮(上段パネル)及び腫瘍(下段パネル)由来のmBAT-24(A)、mBAT-26(B)、mBat-30(C)、mBAT-59(D)、mBAT-64(E)及びmBAT-67(F)の各々について優勢な対立遺伝子のサイズの比較である。1−2bpの短い欠失は、24から37の範囲のポリA鎖を有するモノヌクレオチドリピートで生じた(図13A−C)。より長い欠失(13bpまで)は、伸長ポリA鎖をもつモノヌクレオチドリピートで観察され、より大きなリピートは、識別がはるかに容易なより大きな欠失を有することを示している(図13D−E)。モノヌクレオチドリピートの変異は、ミスマッチ修復活性を欠く13の被検査腸腫瘍の全てで観察され、より長いリピートはより大きな欠失を示した(表6)。該当遺伝子座で変異を提示しているMMR欠損腫瘍のパーセンテージによって測定したとき、最高の感度を示す遺伝子座は、mBat-26(85%)、mBat-37(85%)、mBat-59(82%)、mBat-64(82%)であった。7つのモノヌクレオチドリピートのパネルを用い、MSIについて検査した20匹のミスマッチ修復非欠損マウスのいずれの腫瘍でも、対立遺伝子サイズに変化は観察されなかった。総合すれば、このデータは、伸長モノヌクレオチドリピートは、ミスマッチ修復欠損腫瘍でMSIに対して高度に鋭敏でありかつ特異的であることを示している。この発見は、より長いモノヌクレオチドリピート配列は偶発的な変異に特に鋭敏で、高すぎる偶発的変異頻度を有し、したがってMSI解析のために必須の特異性を欠くであろうという容認された仮説を否定する。実際のところ、BAT-40は、MSI-欠損腫瘍の検出に特異性を欠くことが見出された(Bacher et al. (2004) Disease Markers 20:237-250)。
【0065】
図14は、MMR欠損マウスのマーカーmBat-24、26、30、37、59、64及び67の変異のサイズ(bp)をポリA鎖の長さ(bp)の関数として表した図表を示す。マウス腫瘍のMSI検出のために伸長モノヌクレオチドリピートマーカーを使用することによって、伝統的なマイクロサテライトマーカー(典型的には対立遺伝子の長さで小さな変化しか示さず、信頼性のある検出が困難である)の使用で遭遇する問題が解決される。マウス腫瘍で生じるマイクロサテライト対立遺伝子の長さの極めて小さな変化はおそらくマウスの短い寿命を反映している(より長い寿命をもつ他の種の腫瘍でしばしば観察される欠失の累積的拡大は短い寿命では制限される)。放射線誘発急性骨髄性白血病を有するC3Hマウス由来の細胞株におけるMSIの判定は、種々の長さを有するモノヌクレオチドマーカーを用いて実施された。前記細胞株は、短いモノヌクレオチドリピート鎖(例えばmBat-30及びmBat-37)で稀に変異を示し、わずかに1−2bpの欠失を示した。対照的に、同じ細胞株を伸長モノヌクレオチドリピートmBat-66で分析したとき、ミスマッチ修復欠損腫瘍のMSIに類似する、高頻度の変種対立遺伝子を示した(図15)。mBat-66は放射線に暴露されていないC3Hマウス由来の細胞株では安定であった(図16)。
【0066】
F.ヒト腫瘍でマイクロサテライト不安定性を検出する方法
多数の結腸腫瘍サンプル及び同一個体の正常組織から標準的な方法でDNAを単離した。前記DNAを伸長モノヌクレオチドリピートマーカー(表1C)に特異的なプライマーを用いて、上記に記載したようにPCR増幅で増幅させた。結腸腫瘍細胞に対する増幅生成物のサイズを決定し、同一個体の正常組織のそれと比較した。同一個体の正常サンプルには存在しないが腫瘍サンプルで見出される新規な対立遺伝子は、マイクロサテライト不安定性を示した。調べた2つの伸長モノヌクレオチドマーカー(hBAT-54及びhBAT-60)は図17及び18に提示されている。これらの結果は、伸長モノヌクレオチドリピートはヒト腫瘍での変異の検出に有用であることを示している。
【0067】
G.スタッターアーティファクトから変異を識別する方法
スタッターアーティファクトから変異を識別する能力は、単一細胞若しくは細胞の小プール、又はそれらのDNA等価物でマイクロサテライトマーカー(1−6bpタンデムリピート)を用いる遺伝子型及び/又は変異分析で特に重要である。本方法は、極めて少量の鋳型DNAを用いるマイクロサテライト分析に付随する主要な問題を解決する。マイクロサテライト遺伝子座の増幅中に、スタッター分子(PCR中に形成されるリピートのズレの産物)が生成される。最初のPCRの数サイクルの間に形成されると、スタッター分子は本来の鋳型分子を数で圧倒し得る。スタッター分子の生成は、スタッター生成物と真の対立遺伝子とを識別する能力を妨害し、したがってデータの解釈を混同させる。
【0068】
本方法は、図19及び20に模式的に示したように、3つのプライマーを用いてオーバーラップするアンプリコンの同時増幅を必要とする。本方法は、2つのオーバーラップするアンプリコンの増幅中にスタッターが正確に同じ態様で発生する確率は低いことを根拠にする。例えば、スタッターが0.05の頻度で発生する場合、2つのアンプリコンでスタッターが発生する確率は0.05x0.05、又は1000に2.5である。この方法は、したがって、背景の非標的分子の中でわずかな分子を増幅し続いて同定しようとする、単一細胞又は少数の細胞でマイクロサテライト遺伝子座を用いるいずれかのタイプの遺伝子型及び/又は変異分析で特に有用である。そのような例には、着床前遺伝診断(PGD)、非常に少量のDNAによる法医学分析、単一細胞又は小プールPCRによるMSI又はLOH分析、及び変異についての細胞培養の監視が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0069】
単一細胞から又は小プールPCRを用いて、マイクロサテライト遺伝子座を含む増幅標的DNAの解析を促進するために、第三のプライマーがプライマー対のメンバーの間の領域とハイブリダイズし、それによって2つの部分的にオーバーラップする生成物が形成されるようにプライマーを設計し、プライマーの各々はリピート遺伝子座を含む(図19)。図20は、予想される結果を図解した模擬電気泳動図を示す。図20A は、野生型の対立遺伝子の増幅生成物のサイズを示す。図20Bは、変異対立遺伝子の増幅生成物のサイズを示し、それは、両方の増幅生成物における同一のサイズシフトによって立証される。
【0070】
DNAは、0Gy又は0.5Gyの鉄イオンに暴露したマウス胎児の線維芽細胞から入手し、図19に大雑把に示したように、以下の3つのプライマーを用いmBat-26マイクロサテライトマーカーの変異について分析した:JOEで標識したTCACCATCCATTGCACAGTT(配列番号:153);OHattCTGCGAGAAGGTACTCACCC(配列番号:168);及びOHattACTAGAATCGTACATTGTCCAAAA(配列番号:168)。両方のPCR生成物がシフトしたとき、サンプルは推定的変異を有すると決定された(図21)。より一般的には、ただ1つのPCR生成物がシフトし、それは、おそらく増幅の初期ラウンドで生成物のただ1つに発生したスタッターによるものである。したがって、この方法は、PCRの人工生成物から変異体を識別することを可能にする。
【0071】
H.変異生成能を査定するレポーター系の開発
変異原に応答して生じる変異を検出するためのレポーター系を提供するために、二重レポーター構築物が開発される。前記構築物は、2つの異なるルシフェラーゼをコードするポリヌクレオチド配列を含むであろう。特に、前記構築物は、第二のルシフェラーゼに介在配列によって連結された第一のルシフェラーゼを含むであろう。前記介在配列は、少なくとも19回くり返される1−6塩基のリピートを有するマイクロサテライトリピート遺伝子座を含む。好ましくは、前記介在配列の全長は約19から約101塩基である。第二のルシフェラーゼは、介在配列に変異が存在する場合にのみ発現されるであろう(前記変異によって第二のルシフェラーゼの配列は適切な読み枠内に置かれる)。ある実施態様では、前記構築物は以下のように模式的に表示される:
【0072】
ルシフェラーゼ(1)−リピート配列(フレームシフト)−ルシフェラーゼ(2)
ルシフェラーゼ(1)は構成的に発現され、ルシフェラーゼ(2)はリピート配列内にフレームシフトが発生した場合にのみ発現されるであろう。ルシフェラーゼ(1)対発現されるルシフェラーゼ(2)の割合は、遺伝子発現及び細胞の生存活性における変型の他の供給源を最小限にするであろう。
前記構築物は理想的には、選別マーカー、例えば抗生物質(例えばネオマイシン)耐性マーカーをコードする配列を用いて設計され、前記耐性マーカーコード配列はルシフェラーゼ(2)にイン-フレームで融合されている。例えば、ショウジョウバエのルシフェラーゼ(Ffluc)のコード配列は、以下に示すように、ウミシイタケのルシフェラーゼ(Rluc)をコードする配列に連結され、さらにネオマイシン耐性マーカーはRlucコード配列の下流に存在する:
5'−FFluc−リピート配列(フレームシフト)−Rluc/neo−3'
リピート配列に対して5'側の配列の他の領域でのフレームシフトによって引き起こされるバックグラウンドを減少させるために、以下のように、適切な翻訳終止がリピート配列の各側面に配置されるであろう:
FFluc−(アウトオブフレーム終止)リピート配列(インフレーム終止)−(フレームシフト)−Rlu/neo
【0073】
構築物は、適切なベクター、好ましくは高コピー数を有するエピソームベクターに連結されるであろう。高コピー数ベクターは、エピソームベクターの複製により一切の変異を増幅させることによって、したがって前記変異を蓄積させる速度を増加させることによって検出の感度を強化するであろう。エピソームベクターは細菌(例えば大腸菌)及び哺乳動物細胞株の両方で複製することができる。エピソームベクターは単純化したクローンの精製を可能にする。哺乳動物細胞のためのエピソームベクター系は以前に記載された(Craenenbroeck et al. (2000) Eur J Biochem 267:5665-5678;及びConese et al. (2004) Gene Therapy 11:1735-1741、前記文献の各々は参照により本明細書に含まれる)。
【0074】
このようにして生成された構築物は細胞株又は生物に導入され、化学的又は生物学的物質の変異生成能を決定するために、エイムス(Ames)検査(Ames et al. 1972, Science 176:47-49)又はストラタジーン(Stratagene)のビッグブルーマウス(Big Blue Mouse)(Short et al. Fed Proc 1988 8515a;Kohler et al. Proc Natl Acad Sci USA 1991 88:7958-7962;及びJakubczak et al. Proc Natl Acad Sci USA 1996 93:9073-9078)に類似する態様で細胞アッセイ又はin vivoアッセイとして用いられるであろう。
【0075】
このレポーターベクターを含む細胞は変異原に暴露され、リピート領域に欠失又は挿入及び読み枠の回復を生じるであろう。続いてルシフェラーゼコード配列の発現は、ルミネセンスアッセイで光のシグナルを増加させるであろう。さらに非暴露コントロールと比較して、変異誘発率が決定されるであろう。
本明細書に引用した刊行物又は特許出願の各々はその全体が参照により本明細書に含まれる。









【0076】
【表1A】



【0077】
【表1A−2】

【0078】
【表1B】




【0079】
【表1C】



【0080】
【表1C−2】

【0081】
【表1D】


【0082】
【表2】




















【0083】
【表3】

【0084】
【表4】






【0085】
【表5】











【0086】
【表6】



















【0087】
【表7】




【0088】
【表7−2】



【0089】
【表7−3】



【0090】
【表7−4】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】非暴露(上段パネル)及び照射(下段パネル)C57BL/6細胞由来のmBAT-59の増幅生成物のサイズを示す。
【図2】ポリA鎖の長さの関数として、種々のマウス伸長モノヌクレオチドリピートマーカーの変異頻度を示す。
【図3】放射線暴露ヒト線維芽細胞由来のヒト伸長モノヌクレオチドリピートマーカーの増幅生成物のサイズを示す。
【図4】放射線暴露ヒト線維芽細胞由来のAに富むペンタヌクレオチドリピートマーカーの増幅生成物のサイズを示す。
【図5】放射線暴露ヒト線維芽細胞由来のY-STRマーカーの増幅生成物のサイズを示す。
【図6】Y-STR(上段パネル)及び伸長モノヌクレオチドリピートマーカー(下段パネル)について、線量の関数として放射線暴露ヒト線維芽細胞の変異頻度を示す。
【図7】パラクォット処理老齢マウス組織由来DNAのmBAT-59マーカーの増幅生成物のサイズを示す。前記はmBAT-59マーカーにおけるROS誘導変異を示している。
【図8】パラクォット処理老齢マウス組織由来DNAのmBAT-64マーカーの増幅生成物のサイズを示す。前記はmBAT-64マーカーにおけるROS誘導変異を示している。
【図9】パラクォット処理老齢マウス組織由来DNAのmBAT-67マーカーの増幅生成物のサイズを示す。前記はmBAT-67マーカーにおけるROS誘導変異を示している。
【図10】パラクォット処理若齢及び老齢マウスにおける、短いモノヌクレオチドマーカー(灰色)及び長いモノヌクレオチドマーカー(黒色)の変異頻度を示す。
【図11】酸化性ストレスに暴露されたマウスのマーカーの変異頻度を、ポリAの長さの関数として示す。
【図12】ROS暴露ヒト線維芽細胞のDYS349、Penta C及びhBAT-59aマーカーの増幅生成物のサイズを示す。
【図13】MMR欠損マウスの正常な精巣上皮由来(上段パネル)及び腫瘍由来(下段パネル)mBAT-24(A)、mBat-26(B)、mBat-30(C)、mBat-59(D)、mBat-64(E)、及びmBat-67(F)の各々の優性対立遺伝子のサイズの比較を示す。
【図14】ミスマッチ修復(MMR)欠損腫瘍で観察されたmBat-24、26、30、37、59、64及び67マーカーの変異サイズ(bp)をポリA鎖の長さ(bp)の関数として示す。
【図15】放射線誘導急性骨髄性白血病のC3Hマウスに由来する細胞株のDNAの小プールPCRから得たmBat-66マーカーのサイズを示す。
【図16】コントロールC3Hマウス由来DNAの小プールPCRから得たmBat-66マーカーのサイズを示す。
【図17】同一個体の正常サンプル及びMMR腫瘍サンプル由来のDNAを用いた、mBat-54マーカーの増幅生成物のサイズの比較を示す。
【図18】同一個体の正常サンプル及びMMR腫瘍サンプル由来のDNAを用いた、mBat-60Aマーカーの増幅生成物のサイズの比較を示す。
【図19】3つのプライマーを用いて2つの生成物を生成する、マーカーの増幅を示す模式図である。
【図20】真の変異が存在するときに観察される、1つのマーカーの3つのプライマー増幅による増幅生成物を示す模擬図である。
【図21】3つのプライマー増幅を用いた、0Gy(A)又は0.5Gy(B−E)暴露マウス胎児線維芽細胞から得たDNAのmBat-26マーカーの増幅生成物を示す。パネルBの結果は、mBat-26における真の変異を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、変異原への暴露について生物集団又は細胞集団をモニターする方法:
(a)前記生物集団又は細胞集団から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、少なくとも38リピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座;1−6bpのY染色体短タンデムリピート;及びAAAAG、AAAAC及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短タンデムリピートから成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記マイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅生成物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は前記マイクロサテライト遺伝子座とフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅生成物のサイズと前記増幅生成物の予想サイズとの間の相違は変異原への暴露の指標である。
【請求項2】
工程(d)の増幅生成物の予想サイズが以下の工程によって決定される、請求項1記載の方法:
(e)工程(a)の第一のDNAサンプルを得る前に、前記生物集団又は細胞集団からコントロールDNAサンプルを得る工程、ここで前記コントロールDNAサンプルは、工程(a)の少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含み;
(f)前記コントロールDNAサンプルを、工程(b)の第一及び第二のプライマーと、工程(e)のマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第二の増幅生成物を形成する工程;
(g)前記第二の増幅生成物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅生成物のサイズは工程(d)の増幅生成物の予想サイズである。
【請求項3】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表1A−Dに記載の遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表7に記載の1−6bpのY染色体短タンデムリピートの少なくとも1つを含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、DYS391、DYS389 I、DYS389 II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390、及びDYS385から成る遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、mbat-59、mbat-61a、mbat-64、mbat-66、mbat-67、hBAT-60a、hBAT-51d、hBAT-53c、hBAT59a、及びhBAT-62から成る群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、Penta C及びPenta Dの少なくとも1つを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記変異原が、放射線、遊離ラジカル若しくは反応性酸素種、遊離ラジカル若しくは反応性酸素種を形成させる物質、又は遊離ラジカル若しくは反応性酸素種を形成させる環境条件である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
以下の工程を含む、ある物質の変異生成能を判定する方法:
(a)生物又は細胞培養を前記物質に暴露する工程;
(b)工程(a)の生物又は細胞培養から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、少なくとも38リピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座;1−6bpのY染色体短タンデムリピート;及び、AAAAG、AAAAG及びAAAATから成る群から選択される反復ユニットを有するAに富む短タンデムリピートから成る遺伝子座群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含み;
(c)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅生成物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は前記マイクロサテライト遺伝子座とフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(d)前記第一の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(e)前記第一の増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅生成物のサイズと前記増幅生成物の予想サイズとの間の相違は変異生成能の指標である。
【請求項10】
工程(e)の増幅生成物の予想サイズが以下の工程によって決定される、請求項9記載の方法:
(f)以下から成る群から選択されるコントロールDNAサンプルを得る工程:工程(b)の第一のサンプルを得る前に前記生物又は細胞培養から得られるDNAサンプル;及び前記物質に暴露されていない第二の生物又は細胞培養から得られるDNAサンプル、ここで前記コントロールDNAサンプルは工程(b)の少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含み;
(g)前記コントロールDNAサンプルを、工程(b)の第一及び第二のプライマーと、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第二の増幅生成物を形成する工程;
(h)前記第二の増幅生成物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅生成物のサイズは工程(e)の増幅生成物の予想サイズである。
【請求項11】
前記コントロールDNAサンプルが前記物質への暴露前に前記生物又は細胞培養から得られる、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表1A−Dに記載の遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表7に記載の1−6bpのY染色体短タンデムリピートの群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項9記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、DYS391、DYS389 I、DYS389 II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390、及びDYS385から成る遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項9記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、mbat-59、mbat-61a、mbat-64、mbat-66、mbat-67、hBAT-60a、hBAT-51d、hBAT-53c、hBAT59a、及びhBAT-62から成る群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項9記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、Penta C及びPenta Dの少なくとも1つを含む、請求項9記載の方法。
【請求項17】
以下の工程を含む、ヒトの推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍でマイクロサテライト不安定性を検出する方法:
(a)前記推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、少なくとも41リピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座及び1−6bpのY染色体短タンデムリピートから成る群から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記マイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅生成物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は前記マイクロサテライト遺伝子座とフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅生成物のサイズと前記増幅生成物の予想サイズとの間の相違はマイクロサテライト不安定性の指標である。
【請求項18】
工程(d)の増幅生成物の予想サイズが以下の工程によって決定される、請求項17記載の方法:
(e)工程(a)の少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含む正常細胞からコントロールDNAサンプルを得る工程;
(f)前記コントロールDNAサンプルを、工程(g)の第一及び第二のプライマーと、少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットの増幅を可能にする条件下で接触させて第二の増幅生成物を形成する工程;
(h)前記第二の増幅生成物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅生成物のサイズは工程(d)の増幅生成物の予想サイズである。
【請求項19】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表1C−Dに記載の遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表7に記載の1−6bpのY染色体短タンデムリピートの群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、DYS391、DYS389 I、DYS389 II、DYS438、DYS437、DYS19、DYS392、DYS393、DYS390、及びDYS385から成る遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、hBAT-60a、hBAT-51d、hBAT-53c、hBAT59a、及びhBAT-62から成る群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
以下の工程を含む、マウスの推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍でマイクロサテライト不安定性を検出する方法:
(a)前記推定的癌細胞若しくは前癌細胞又は腫瘍から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、少なくとも48リピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座のセットを含み;
(b)前記第一のDNAサンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記モノヌクレオチドリピートの増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅生成物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は前記モノヌクレオチドリピートとフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅生成物のサイズと前記増幅生成物の予想サイズとの間の相違はマイクロサテライト不安定性の指標である。
【請求項24】
工程(d)の増幅生成物の予想サイズが以下の工程によって決定される、請求項23記載の方法:
(e)工程(a)の少なくとも1つのモノヌクレオチドリピート遺伝子座のセットを含む正常細胞からコントロールDNAサンプルを得る工程;
(f)前記コントロールDNAサンプルを、工程(b)の第一及び第二のプライマーと、少なくとも1つのモノヌクレオチドリピート遺伝子座のセットの増幅を可能にする条件下で接触させて第二の増幅生成物を形成する工程;
(h)前記第二の増幅生成物のサイズを決定する工程、ここで前記第二の増幅生成物のサイズは工程(d)の増幅生成物の予想サイズである。
【請求項25】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表1A−Bに記載の遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、mbat-59、mbat-61a、mbat-64、mbat-66及びmbat-67から成る群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、mbat-59、mbat-64及びmbat-67を含み、さらにmBat-26及びmBat-37を含む、請求項26記載の方法。
【請求項28】
以下の工程を含む、マイクロサテライト遺伝子座で変異を検出する方法:
(a)ヒトの細胞株又は個体から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、少なくとも41リピートを有するモノヌクレオチドリピート遺伝子座から選択される少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを含み;
(b)前記サンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅生成物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は前記マイクロサテライト遺伝子座とフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅生成物のサイズと前記増幅生成物の予想サイズとの間の相違はマイクロサテライトリピート遺伝子座の変異の指標である。
【請求項29】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表1C−Dに記載の遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、hBAT-60a、hBAT-51d、hBAT-53c、hBAT59a、及びhBAT-62から成る群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項28記載の方法。
【請求項31】
以下の工程を含む、マイクロサテライト遺伝子座で変異を検出する方法:
(a)マウス又はマウスの細胞株から第一のDNAサンプルを得る工程、ここで前記第一のDNAサンプルは、少なくとも48リピートを有する少なくとも1つのモノヌクレオチドリピート遺伝子座のセットを含み;
(b)前記サンプルを、第一のDNA配列及び第二のDNA配列とそれぞれハイブリダイズする第一のプライマー及び第二のプライマーと、前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座の増幅を可能にする条件下で接触させて第一の増幅生成物を形成する工程、ここで前記第一及び第二のDNA配列は前記マイクロサテライト遺伝子座とフランキングするか又は部分的にオーバーラップし;
(c)前記第一の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(d)前記第一の増幅生成物のサイズを前記増幅生成物の予想サイズと比較する工程、ここで前記第一の増幅生成物のサイズと前記増幅生成物の予想サイズとの間の相違はマイクロサテライトリピート遺伝子座の変異の指標である。
【請求項32】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、表1A−Bに記載の遺伝子座群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットが、mbat-59、mbat-61a、mbat-64、mbat-66及びmbat-67から成る群から選択される少なくとも1つの遺伝子座を含む、請求項31記載の方法。
【請求項34】
以下の工程を含む、変異と人工産物とを識別する方法:
(a)モノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、ペンタ-、又はヘキサヌクレオチドリピート遺伝子座を含む標的DNA配列を含むサンプルを、第一のプライマー、第二のプライマー及び第三のプライマーと、前記第一のプライマーと第二のプライマーとの間の標的DNAを増幅させて第一の増幅生成物を形成し、さらに第一のプライマーと第三のプライマーとの間の標的DNAを増幅させて第二の増幅生成物を形成する条件下で接触させる工程、ここで前記第一のプライマーは第一の配列とハイブリダイズし、前記第二のプライマーは第二の配列とハイブリダイズし、前記第一及び第二の配列は前記標的DNA配列とフランキングするか又は部分的にオーバーラップし、さらに第三のプライマーは前記第一と第二の配列との間の第三の配列とハイブリダイズし;
(b)前記第一及び第二の増幅生成物のサイズを決定する工程;及び
(c)前記第一の増幅生成物の測定サイズと予想サイズとの間のサイズの相違を、前記第二の増幅生成物の測定サイズと予想サイズとの間のサイズの相違と比較する工程、ここで前記第一及び第二の増幅生成物のそれらの対応する予想サイズに対するサイズの相違が同等である場合は変異を示す。
【請求項35】
少なくとも1つのマイクロサテライト遺伝子座のセットを増幅させるプライマーを含む、請求項1、9、17、23、28、31又は34に記載の方法にしたがって変異を検出するためのキット。
【請求項36】
請求項1、9、17、23、28、31又は34に記載の方法を実施するための指示をさらに含む、請求項34記載のキット。
【請求項37】
少なくとも19リピートを有するリピート配列に連結された検出可能なレポーターマーカーをコードするポリヌクレオチドを含む構築物であって、前記リピート配列の1つ以上の塩基対の欠失が前記レポーターマーカーの発現を変化させるように前記レポーターマーカーが前記リピート配列に連結されてある、前記構築物。
【請求項38】
前記レポーターマーカーが抗生物質耐性マーカーである、請求項37記載の構築物。
【請求項39】
前記レポーターマーカーが蛍光マーカーである、請求項37記載の構築物。
【請求項40】
前記レポーターマーカーが緑色蛍光タンパク質である、請求項37記載の構築物。
【請求項41】
前記レポーターマーカーがルミネセンスマーカーである、請求項36記載の構築物。
【請求項42】
前記レポーターマーカーがルシフェラーゼである、請求項36記載の構築物。
【請求項43】
前記レポーターマーカーが、検出可能な結果を生じる反応を触媒する酵素である、請求項36記載の構築物。
【請求項44】
前記レポーターマーカーがβ-ガラクトシダーゼである、請求項36記載の構築物。
【請求項45】
請求項36記載の構築物を含むベクター。
【請求項46】
請求項36記載の構築物を含む細胞。
【請求項47】
前記細胞が原核細胞である、請求項36記載の細胞。
【請求項48】
前記細胞が真核細胞である、請求項36記載の細胞。
【請求項49】
請求項36記載の構築物を含む生物。
【請求項50】
以下の工程を含むある物質の変異生成能を判定する方法:
(a)請求項36記載の構築物を含む細胞又は生物をある物質に暴露する工程;及び
(b)レポーターマーカーの発現の変化を検出する工程、ここで前記レポーターマーカーの発現の変化は前記物質の変異生成能の指標である。
【請求項51】
請求項36記載の構築物を含む変異を検出するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2008−517606(P2008−517606A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538173(P2007−538173)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/038433
【国際公開番号】WO2006/047536
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(593089149)プロメガ コーポレイション (57)
【氏名又は名称原語表記】Promega Corporation
【Fターム(参考)】