説明

変異酵素

本発明は、強化された特性を有する変異酵素と、かかる酵素を用いて有機化合物基質を酸化するための方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化された特性を有する変異酵素に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、P450BM−3酵素等の生物学的酵素触媒は、ファインケミカル、中間体、医薬品及び薬物代謝産物の合成から、有機化学混入物質及び汚染物質の分解までにわたる、様々な工業的利用において多くの用途が見出されている。定向進化又は部位特異的突然変異誘発を用いたタンパク質工学を利用することにより、既知の酵素の変異体を単離することができ、これら変異体は、それらの触媒活性に対する新たな機会及び用途を生み出し得る。
【0003】
バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)由来のP450BM−3(1)は、チトクロームP450酵素のスーパーファミリーに属する。各種遺伝子配列データベース中に、P450酵素をコードする7,700を超える遺伝子が存在する。P450酵素の命名は、体系化されている。この酵素のスーパーファミリーは、CYPと称され、その後に酵素のファミリーに対する数字が続き(すなわち、CYPl、CYP51、CYP102等の名前がある)、これらはさらにアルファベットによって表されるサブファミリーへと分かれ(すなわち、CYPlA、CYPl0lB等の名前がある)、各サブファミリーのメンバーは数字によって表される(すなわち、CYPlAl、CYP3A4、CYP101D3等)。CYP酵素をコードする遺伝子はイタリック体によって表される、例えば、CYPl0lAl(イタリック体)遺伝子。P450BM−3は、CYP102A1と指定されており、すなわち、それは、CYP102ファミリーの初めてのメンバーである。以下、CYP102Alという系統名を、P450BM−3の代わりに使用する。
【0004】
CYP102A1(1)は、触媒として自己充足的であることから、生体内変換に適用するための注目度の高い酵素である。その他のP450酵素と異なり、この酵素においては、P450モノオキシゲナーゼと電子伝達共同因子タンパク質とは別の物質であり、CYP102Alは、単一のポリペプチド中にFAD及びFMN補欠分子族の両方を含む、ジフラビン電子伝達還元酵素ドメインと融合したヘムモノオキシゲナーゼドメインを有する。CYP102A1の天然の基質は、直鎖状又は分枝鎖状の中鎖脂肪酸であると考えられている(1,2)。1993年に、CYP102A1ヘムドメインの結晶構造が入手可能となり(3)、これによって、活性部位構造と、基質アクセスチャンネルの存在とが明らかとなった。結合基質と一緒になった結晶構造が、4年後に発表され、これは、基質結合時におけるF87の側鎖の構造の変化を示していた(4)。
【0005】
CYP102A1のタンパク質工学については概説されている(5−7)。初期の研究は、活性部位残基F87に焦点が置かれており、F87V、F87A、F87Y及びF87G変異は、活性及び脂肪酸酸化の選択性に対し、様々な影響を及ぼすことが示されている(8−11)。F87における変異は、様々な基質の酸化に対して有益であることが見出されている(7)。基質アクセスチャンネルへの入り口に位置するF42、R47、及びY51等の残基も研究対象とされた。47位の電荷を中和又は逆転させることにより、基質特異性が変化し(8,12)、疎水性置換Y51Aも同様であったが、F42A変異は、酵素活性を低下させた(10)。WO0031273は、R47L/Y51F変異対の使用が、多環芳香族及びテルペノイド炭化水素等の疎水性有機分子の進入、結合及び酸化を促進することを開示した。この変異対は、F87A、I263A、A264G及びM354A変異とも組み合わされて、増大した活性及び/又は基質酸化における生成物選択性をもたらした(13,14)。R47L/Y51Fの組み合わせ、並びに、R47L及びY51Fの変異は、単独で、CYP102A1工学において現在、一般的に使用されている(15−19)。
【0006】
変異部位の合理的選択に加えて、スクリーニング技術を利用して、活性及び選択性に所望の効果を及ぼすその他の変異及び変異部位を同定した。1997年には早くも、ランダム又は飽和突然変異誘発が、CYP102Alに対して適用された(20)。NO20020380は、新規活性を有するCYP102Al変異体を発見するためのスクリーニング法として、インドール酸化を介したインディゴ形成の使用を開示した。基質結合に影響を与える可能性の高い多数の残基に飽和突然変異誘発が適用され、変異A74G/F87V/L188Qは、野生型と比較して、増大した活性及び変化した選択性によって、広範な有機分子を酸化することが報告された(21−25)。AT342351Tは、一連のランダム突然変異誘発実験におけるスクリーニング手順として、ω−p−ニトロフェノキシ−カルボン酸の酸化を介した、分光学的に検出されるp−ニトロフェノールの形成を開示した。変異V26T、R47F、S72G、A74G、F87A&V、L188A、G、N、K、Q、R、S&W、M354Tが開示された(26,27)。
【0007】
p−ニトロフェノールスクリーニング法は、代替基質としてp−ニトロフェノキシオクタンを使用することにより拡大された。WO2002083868、EP1470219及びUS2005202419(その後、WO2005017116、EP1660646、及びUS2005037411と修正)は、変異L52I、I58V、F87A、Hl00R、S106R、F107L、A135S、M145A&V、Al84V、N239H、S274T、L324I、V340M、I366V、K434E、E442K、V446Iを開示した。
【0008】
WO2003008563及びUS2003100744は、ランダム突然変異誘発のさらなる実施、遺伝子シャッフリング及び同じ方法を用いたスクリーニングの結果を開示し、変異M30I、E64A、V78A、F87A、D、G、H、I、K、N、R、V&W、H138Y、F162S、H171Q、T175I、V178I、A184V、N186D、D217V、I220T、K224I、S226I、D232G、T235A、H236Q、E252G、R255S、I258T、I259V、T268Q、A290V、A295T、L353V、D370Q、E380G、G396M、T411A、M416Lを報告した。
【0009】
WO2005017105、US2005059128、及びEP1639091は、同じ方法の使用を開示し、変異R47C、L75I&W、V78A、F&T、A82L、F、G、I、S&T、F87I、L&V、T88C、K94I、P142S、T175I、A184V、F205C、S226R、H236Q、E252G、R255S、T260、L、N&S、A290V、A328V&M、L353Vを報告した。
【0010】
その後、WO2006105082が、変異R47C、V78F、A82S、K94I、P141S、T175I、A184V、F205C、S226R、H236Q、E252G、R255S、A290V、A291V、A328F、L353Vを開示した。
【0011】
ランダム突然変異誘発によって作製されるこれらの一連の変異は、エタンから中鎖アルカンまでのアルカン類の酸化に対して強化された活性を示す(28−30)。特に、部位特異的突然変異誘発法によって活性部位へ導入される変異に定向進化変異が組み合わされた場合に、例えば、この変異によって末端炭素に対する酸化の部位をシフトさせた場合のオクタン酸化(31)、末端アルケンの選択的エポキシ化(32)、及びシクロペンタンカルボン酸誘導体の酸化におけるエナンチオ選択性(33)において、選択性の変化も生じた。定向進化と合理的再設計を組み合わせることにより、より優れた結果を取得し得ることは注目すべきである。
【0012】
CYP102A3は、CYP102A1と同じサブファミリーのP450酵素である。CYP102A3のランダム突然変異誘発、続く、アルカン酸化、及び、アルコールに対して特異的なアルコールデヒドロゲナーゼの存在下でのNADH形成のモニタリングにより、オクタン酸化によって50%の1−オクタノールを形成する変異体を生じた。このことは、改変されたCYP102ファミリーP450酵素によって今日まで観察されている、直鎖状アルカンの最大の割合での末端C−H結合の酸化である(34)。
【0013】
酵素の触媒メカニズムに及ぼす構造変化の影響をさらに理解するため、それら酵素の触媒的代謝回転を向上するため、並びに、基質及び/又は生成物に対するそれら酵素の範囲を拡張するために、産業上有用な酵素、例えば、CYP102Al酵素のさらなる変異体を単離する継続的必要性が存在する。一般的に、CYP102Al等のP450酵素の改変は、酵素活性を増大させるために行われ、生成物選択性及び基質特異性の制御は、重要な二次的な目的である。選択性の制御と強化されたモノオキシゲナーゼ活性とを結び付け得る変異及び変異部位は明らかに欠けており、その結果、化合物に対する酵素的代謝回転が速いが十分に選択的ではないか、ある程度の選択性はあるが反応が遅いか、あるいは、所望の生成物が形成されない。強化された活性及び/又は所望の選択性を有する変異体を提供し得るスクリーニング法も必要とされている。
【発明の概要】
【0014】
本発明にしたがう、CYP102Alの特定の位置における置換変異は、モノオキシゲナーゼ活性を増大させるという所望の効果を有し、変化した選択性をも提供することが、現在、分かっている。これらの変異部位は、増大した活性及び増大/変化した選択性の両方の選択を提供する、画期的スクリーニング法の使用によって同定された。
【0015】
本発明は、増大したモノオキシゲナーゼ活性及び/又は変化した選択性を有し、CYP102A1の位置117、131、191、215、276、307、330、377、401、403、425のうちの一つ又はそれ以上に置換を含む、変異CYP102Al酵素を提供する。さらに、本発明の変異CYP102Al酵素を用いて有機化合物を酸化させる工程を含む、有機化合物である基質を酸化させる方法が提供される。
【0016】
主張されている置換は、同じ発明の概念を形成し、何故ならば、それらの置換は、CYP102Alのモノオキシゲナーゼ活性を増大させ、且つ/又は、選択性を変化させるという効果を共有するからである。位置330、401及び403の置換はまた、以下に概説するように、共通の構造的及び/又は機能的メカニズムを介して、それらの効果を及ぼす。
【0017】
配列リスト中の配列
配列番号1は、CYP102Alの配列である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、CYP102Al(P450BM−3)において関連する残基の場所を表す。Palmは、酵素の脂肪酸基質を示す。
【0019】
【図2】図2は、野生型CYP102A1とA330P変異体の基質アクセスチャンネル及び活性部位における主要残基の比較を表し、A330P変異から生じるP329及びA328における構造的な摂動状態をハイライトしている。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明は、CYP102Alの天然及び人工の相同体、例えば、CYP102Alに対して少なくとも40%のアミノ酸配列同一性を有する配列を含むもの、に対して適用することができる。かかる相同体は、通常、CYP102Alのヘムモノオキシゲナーゼドメイン(アミノ酸位置1〜480によって表される)に相当する(すなわち、これと相同する又は同一である)アミノ酸配列を含む。
【0021】
本発明の酵素は、配列番号1(CYP102A1の配列)と少なくとも40%の相同性を有する配列を含む(又は、からなる)。好ましい実施形態において、その配列は、相同体の少なくとも20個、好ましくは、少なくとも30個、例えば、少なくとも40、60、100、200、300、400個又はそれ以上の連続するアミノ酸、あるいは、全体配列に対して、少なくとも55%、65%、80%又は90%、より好ましくは少なくとも95%、97%又は99%相同であり得る。一実施形態において、本発明の酵素は、CYP102Alのアミノ酸残基1〜480と比較した場合に、任意の特定の割合の相同性を有する。この連続するアミノ酸は、活性部位を含み得る。あるいは、この相同性は、連続するアミノ酸に対してではなく、活性部位のアミノ酸のみに対して測定してもよい。すなわち、相同体は、通常、アミノ酸の同一性を基準として、CYP102Alに対して少なくとも40%相同である。本発明の酵素は、CYP102Al配列と一定の割合の同一性を有し得、それは、上記した任意の長さの配列に対する任意の特定の割合の相同性値と同じである(すなわち、それは、少なくとも40%、55%、80%又は90%、より好ましくは少なくとも95%、97%又は99%の同一性を有し得る)。
【0022】
相同配列は、CYP102A1配列の変異部分を表し得、且つ/又は、本発明の酵素の全長融合ポリペプチドの形態で表し得る。
【0023】
本明細書において記載される任意の相同タンパク質(すなわち、別のタンパク質と相同であると記載されるもの)は、通常、関連するタンパク質と少なくとも40%相同である。相同性は既知の方法を用いて測定することができる。例えば、UWGCGパッケージは、相同性を計算するために使用し得る(例えば、そのデフォルト設定で使用される)BESTFITプログラムを提供する(Devereuxら(1984)Nucleic Acids Research 12,387−395)。PILEUP及びBLASTアルゴリズムは、例えば、Altschul S.F.(1993)J MoI Evol 36:290−300;Altschul,S,Fら(1990)J MoI Biol 215:403−10に記載されるようにして、(通常は、それらのデフォルト設定において)相同性を計算するため又は配列を整列させるために使用することができる。
【0024】
BLAST分析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センターから公的に入手可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。このアルゴリズムは、データベース配列中の同じ長さのワードと整列させた場合に、ある正値閾値Tと適合する又は満たすクエリー配列中の長さWの短いワードを同定することにより、高スコア配列対(HSP)を最初に同定することを含む。Tは、近傍(neighbourhood)ワードスコア閾値と称される(Altschulら(上掲))。これらの初期近傍ワードヒットは、それらを含むHSPを見つけるための検索を開始するための出発点(seeds)として機能する。ヒットしたワードは、累積アラインメントスコアを増加可能な範囲まで、各配列に沿って両方向に延長される。ヒットしたワードの各方向における延長は、次の場合に停止される:累積アラインメントスコアが、その最大達成値から量X低下した場合;一つ又はそれ以上の負に評価された残基アラインメントの蓄積により、累積スコアが0若しくはそれより下った場合;又は、いずれかの配列の末端に到達した場合。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T及びXは、アラインメントの感度及び速度を決定する。BLASTプログラムは、デフォルトとして、ワード長(W)11、BLOSUM62スコアリングマトリックス(Henikoff and Henikoff(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10915−10919参照)アラインメント(B)50、期待値(E)10、M=5、N=4、及び両鎖の比較を用いる。
【0025】
BLASTアルゴリズムは、二つの配列間における類似性の統計的解析を行う。例えば、Karlin and Altschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5787を参照されたい。BLASTアルゴリズムによって提供された類似性の尺度の一つは最小合計確率(P(N))であり、これは二つのヌクレオチド配列間の適合又は二つのアミノ酸配列間の適合が偶然起こる確率の指標を提供する。例えば、第一配列の第二配列に対する比較において最小合計確率が約1より少なく、好ましくは約0.1より少なく、より好ましくは約0.01より少なく、最も好ましくは約0.001より少ない場合に、ある配列が別の配列に類似していると考えられる。
【0026】
通常、相同タンパク質は、関連するタンパク質と、上記したタンパク質の全て又は任意の長さの連続するアミノ酸と比較した場合に、少なくとも2、5、10、20、40、50又は60個又はそれ未満の変異(それぞれの変異は置換、挿入又は欠失であり得る)で異なる。
【0027】
本発明のCYP102Al酵素の酵素活性は、通常、本明細書において記載される基質又は条件のいずれかを用いて、インビトロで測定され、NADPH酸化率、生成物形成率及び結合効率として与えられる。この比率は代謝回転頻度であり、(nmol NADPH)(nmol CYPl02Al)−1(min)−1又は(nmol 生成物)(nmol CYPl02Al)−1(min)−1として与えられる。結合効率は、消費されるNADPHのパーセンテージであり、生成物形成に対して利用した、すなわち、理論的最大効率のパーセンテージである。本発明のCYP102Al酵素は(例えば、本発明の方法において使用される場合)、通常、少なくとも1%、例えば、少なくとも2%、4%、6%、10%、20%、40%、80%又はそれ以上の結合効率を有し得る。CYP102A1酵素(例えば、本発明の方法において使用される場合)、通常、少なくとも2min−1、例えば、少なくとも4、10、15、20、25、50、100、200、300、500、700、1000、2000min−1又はそれ以上の生成物形成率を有する。2つ以上の生成物が形成される場合(通常はそうである)、生成物形成率は、形成された全酸化生成物の合計量を表す。いくつかの実施形態において、特定の酸化生成物の生成物形成率が測定され、すなわち、全ての酸化生成物について測定しなくてもよい。
【0028】
本発明の変異CYP102Al酵素は、対応する野生型CYP102Al酵素に対して、増大したモノオキシゲナーゼ活性及び/又は変化した選択性を示す。増大したモノオキシゲナーゼ活性は、酸化に対する一つ又はそれ以上の基質の増大した結合効率又は増大した生成物形成率という点で特徴づけられ得る。増大した結合効率又は増大した生成物形成率については、変異CYP102Al酵素によって利用される全ての基質について共有していてもよいし、共共有していなくてもよい。変異CYP102Al酵素は、通常、野生型酵素の結合効率よりも、少なくとも10%、20%、50%、100%、500%、1000%又は1500%大きい結合効率を示す。変異CYP102Al酵素はまた、野生型酵素の生成物形成率よりも、少なくとも50%、100%、150%、500%、1000%、2000%、5000%、10000%大きい生成物形成率を有し得る。
【0029】
本発明の変異CYP102Al酵素は、対応する野生型酵素及び文献に開示されている変異体に対して、その他の変化した特徴も示し得、結果として、その効果は、限定するものではないが、増大したモノオキシゲナーゼ活性を含み得ることを理解すべきである。例えば、変異酵素は、変化した基質特異性を示し、それにより、特異的な基質の選択的利用が可能となる場合もあり、又は、野生型酵素若しくは既知の変異体が、基質の有機化合物を酸化することができない場合に、モノオキシゲナーゼ活性を示す場合もある。
【0030】
本発明の変異酵素は、野生型では微量に形成される生成物が変異体では主要な生成物となる場合、又は、野生型では微量に形成される若しくは全く形成されない新しい生成物が主要な若しくは支配的な生成物となる場合に、変化した生成物選択性を示す場合もある。変異酵素及びこの変異酵素によって行われる酸化工程のさらなる変化した特徴を、以下に記載する。変異CYP102Al酵素は、CYPl02Alの位置117、131、191、215、276、307、330、377、401、403、及び425のうちの一つ又はそれ以上に置換を含む。通常、それらは、上記の位置のうちの2ヶ所又はそれ以上、3ヶ所又はそれ以上、4ヶ所又はそれ以上、5ヶ所又はそれ以上、6ヶ所又はそれ以上に置換を含んでもよい。一つの好ましい実施形態において、位置330に置換が存在する場合、5ヶ所未満、例えば、3ヶ所未満のその他の置換が存在し、又は、一実施形態においては、その他の位置のいずれも置換されていない。
【0031】
CYP102A1の特定の変異体について記載する場合、天然の形態のCYP102Al中に存在するアミノ酸残基の文字の次に位置が続き、次に、変異体中のアミノ酸が続く。これらの位置は、配列番号1に示される番号付けと関連させることができる。同じタンパク質中の複数の変異を示すために、各変異はスラッシュで分けて示される。また、特に好ましい変異体は、以下に概説される内部呼称を用いて記載され得る。
【0032】
変異はCYP102Al中の位置を参照することによって規定されるが、本発明は、配列番号1と少なくとも40%のアミノ酸同一性を共有するCYP102Alの相同体のポリペプチド鎖中の相同する又は対応する位置における同等の置換変異をも包含する。同等な位置は、配列番号1のアミノ酸配列を参照することにより決定される。相同する又は対応する位置は、配列間の相同性に基づき、相同体の配列とCYP102A1の配列(配列番号1)を整列させることにより、容易に推定することができる。PILEUP及びBLASTアルゴリズムを用いることにより、配列を整列させることができる。参照された相同する又は対応するアミノ酸残基が活性部位である場合、通常、以下に記載される特定のアミノ酸のいずれも、相同体の活性部位の同様の位置に存在し得るであろう。
【0033】
高度に保存された三次構造を有するにもかかわらず、P450スーパーファミリーの酵素は、相同性の低い一次構造を有するという点で、タンパク質及び酵素の中では珍しいということが当業者には良く知られている(35-37)。現在、ゲノムデータベース中には、6500を超えるCYP遺伝子が存在し、タンパク質データバンク中には、150を超える構造が存在する。今日までに決定されている全てのP450構造は、初めて報告されたP450酵素(CYPl0lAl)の結晶構造においてPoulos及び共同研究者によって記載されているように、主たるβ鎖ドメインに対して集められた、らせん構造が豊富なドメインを含む特徴的なトポグラフィーを示す(38)。らせん構造はA−Lと命名され、β鎖はβl−β5と命名され、全体のトポグラフィーは、現在、「P450折り畳み構造」として知られている(38−42)。二次構造要素のうち、ヘムの遠位側にあるB及びB’らせん、BCループ、F及びGらせん、並びにFGループは、基質結合ポケットを形成する。配列アラインメントによって、これらのらせん構造及びループ構造内の残基は容易に同定することができるが、アミノ酸配列及び構造的配列の両方の点で、この全般的フレームワーク内において高程度に可変的であり、このことが、P450触媒の多様な特異性、活性及び選択性パターンをもたらしている。
【0034】
異なるファミリーのP450酵素は、20%程度の低さの相同性(アミノ酸同一性)を有する(35−37)。CYP102A1と構造的に特徴付けられているP450酵素のアラインメントの例を、表Aに示す。最近まで継続された配列分析によって、P450酵素又はドメイン中の通常は400−460個のうちのわずか3残基が確実に保存されていることが示唆された:ヘムとの会合及び結合に関与し得る、ヘム鉄に近接するシステインリガンド、及びKらせん構造中のEXXRモチーフ(43)。しかしながら、2006年に発表されたCYP157ファミリーにおける結果は、EXXRモチーフさえ保存されておらず、全P450スーパーファミリーにわたり唯一保存されている残基として近接システインのみが残されていることを示した。P450スーパーファミリーの体系的分類においては(44)、したがって、わずか40%のアミノ酸同一性を有する酵素が同じファミリー内に置かれ、密接に関連するファミリーメンバー(55%を超える同一性を有するもの)はサブファミリーへと分類された(例えば、表B参照)。
【0035】
実際、詳細な分子構造、基質特異性及び生成物選択性は、配列同一性よりもむしろファミリー内で保存されており、配列同一性は低い場合が多い。最も特筆すべき例は、全ての生物界で見られるCYP51ファミリーのステロール14α−デメチラーゼである。これらは、スクアレンオキシドの酸化後に形成される中間体のC14メチル基の酸化的脱メチル化において極めて重要な役割を果たす。配列アラインメントによって、全生物界における既知のCYP51ファミリー遺伝子間の相同性は平均30%であり、哺乳類等の密接に関連する種においては95%まで高くなり、下等動物間では23%と低くなることが示された(45)。酵素を同じファミリーに割り当てるための40%というカットオフ値は、ある場合においては高すぎる場合があり、酵素活性と、活性部位残基において見られることの多い高い相同性とをこれからはより考慮すべきであるという認識が増えている。
【0036】
すなわち、アミノ酸同一性に基づきCYP102Alと通常少なくとも40%相同である相同体は、「P450折り畳み構造」に基づき容易に同定することもでき、対応する又は相同する位置に同等の変異を導入するための相同体の配列のアラインメントは、この酵素ファミリーを通じて共有されているP450折り畳み構造を含む、αヘリックス及びβ鎖の配列の保存されている特徴についての知識によって補助され得る。
【0037】
CYP102Alは、電子伝達還元酵素ドメインとヘムモノオキシゲナーゼドメインの融合体であることを理解すべきである。これらのドメインは、タンパク分解的に、又は全長遺伝子の切断により、切断することができる。活性部位(基質結合ポケット)は、ヘムドメイン中に位置する。CYP102ファミリーのいくつかのメンバーは、融合タンパク質ではないが、CYP102Alヘムドメインとの配列相同性は40%である。したがって、配列相同性は、これらの環境にあるヘムドメインに対してのみ測定してもよい。本発明において開示されるCYP102Al中の残基に対するこれらの酵素中の同等の残基は、当業者に公知の配列相同性及び構造分析によって同定することができる。
【0038】
活性部位におけるアミノ酸は、触媒作用時に基質が結合している部位を線引き若しくは規定するものであるか、又は、触媒部位に到達する前に基質が通過する必要がある部位を線引き若しくは規定するものである。したがって、かかるアミノ酸は、通常、触媒部位への進入時又は触媒作用時に、基質と相互作用する。かかる相互作用は、通常、静電相互作用(荷電又は極性基間)、疎水相互作用、水素結合又はファンデルワールス力によって生じる。活性部位のアミノ酸は、配列アラインメント、並びに、野生型CYP102Alのヘムドメインの既知の結晶構造、又は相同体の結晶構造に対する参照、によって同定することができる。
【0039】
変異残基が活性部位残基ではない場合、相同体とCYP102Alの配列のコンピューター化された又はマニュアルのアラインメントが、相同する又は対応する位置を推定するために行われ、これは、CYP102Alの変異した位置に隣接する残基の知識によって補助され得る。すなわち、例えば、CYP102Alの以下の位置に対してN末端側及びC末端側に隣接する10残基は、以下の通りである:
FSQQAMKGYH(A117)MMVDIAVQLV;
DIAVQLVQKW(E131)RLNADEHIEV;
LDEAMNKLQR(A191)NPDDPAYDEN;
FQEDIKVMND(L215)VDKIIADRKA;
HETTSGLLSF(A276)LYFLVKNPHV;
VLVDPAPSYK(Q307)VKQLKTVGMV;
EALRLWPTAP(A330)FSLYAKEDTV;
GDDVEEFRP(E377)RFENPSAIPQ;
KPFGNGQRAC(I401)GQQFALHEAT;
FGNGQRACIG(Q403)QFALHEATLV;
GMMLKHFDFE(D425)HTNYELDIKE。
【0040】
2個、3個又はそれ以上のN末端側及び/又はC末端側の隣接する残基の保存は、変異が導入される相同する又は対応する位置の推定を可能にし得る。
【0041】
CYP102Alの天然の相同体における相同する又は対応する部位を同定するために、明細書中で参照されるCYP102Al中の任意のその他の位置に対して同様の分析を行うことができる。
【0042】
CYP102Al酵素の機能的断片も本発明に包含される。すなわち、これらの断片は、酸化活性に必要とされるアミノ酸のみを含んでもよい。したがって、CYP102Alのポリペプチド配列に関して、還元酵素ドメイン、及び/又は、モノオキシゲナーゼドメインのN末端又はC末端部分の最大20残基は、活性部位の折り畳み又はモノオキシゲナーゼドメイン固有の基質酸化能には有意に影響を与えることなく削除することができた。CYP102Alの相同体の場合、同様の切断が可能であり、可能な切断の程度は、本明細書において記載される酸化活性をモニタリングするための方法によって決定され得る。切断された形態の酵素は、タンパク質の安定性、発現レベル、及び活性に関して、有利な特性を有し得る。
【0043】
本明細書中に記載されたCYPl02Alの位置(又は、上記の同等の位置)において置換されたアミノ酸の特性は、主として、増大したモノオキシゲナーゼ活性を示す変異体の要件によって決定される。したがって、導入されるアミノ酸は、通常、モノオキシゲナーゼ活性を増大し得る。CYP102A1における特定の置換変異のいずれかについて言及する場合、CYP102Al酵素の酸化活性に対する特定の置換変異の効果よりも余剰な又は類似する効果を示す、同じ位置の別のアミノ酸残基の任意の置換が、本発明に包含されることを理解すべきである。同様に、特定の置換変異が、CYP102A1酵素の別のパラメーター、例えば、基質特異性、又は、所定の基質の酸化で得られる酸化生成物の範囲若しくは割合、に対する効果も示す場合、余剰な又は類似の効果も誘導するその他のアミノ酸残基の置換も、本発明の使用に対して意図されることを理解すべきである。
【0044】
いくつかの実施形態において、置換は、保存的変化を導入し、アミノ酸を、類似した化学構造、類似した化学特性又は類似した側鎖体積の別のアミノ酸と交換する。保存的なアミノ酸の変化は、当技術分野において周知であり、表Cに規定される変化にしたがって選択され得る。アミノ酸が類似した極性を有する場合、これは、アミノ酸側鎖のハイドロパシースケールを参照することにより決定することもできる(表D)。
【0045】
保存的なアミノ酸の変化は、アミノ酸配列の保存のための採点マトリックスである、許容される点突然変異(PAM)又はブロック置換マトリックス(BLOSUM)ファミリーを参照することにより決定してもよい。したがって、保存的なアミノ酸の変化は、基準及び変異ポリペプチド鎖のアラインメントにおいて使用するために選択された、採点マトリックスの類似性表示において互いに正のスコアを有するアミノ酸の組である、同等のグループのメンバーであってもよい。
【0046】
表Cに示される物理的特性の定義は、本発明を限定するものであると考えるのではなく、非極性アミノ酸は、脂肪族側鎖を有するアミノ酸及び芳香族側鎖を有するアミノ酸を含む、ということを理解すべきである。アミノ酸プロリンは、非極性として分類されるが、剛性であるという特性も有し、二次構造の変化を引き起こし得る。例えば、プロリンは、らせん構造の端部に見られることが多い。また、所定のアミノ酸残基の側鎖の特定の状況にもよるが、例えば、アミノ酸チロシン(通常は、その芳香環のために非極性と分類される)は、スレオニン等の極性アミノ酸残基と、その水酸基を介することにより、類似した機能的効果を示し得る。したがって、チロシンは、本発明の目的に対しては、非極性及び極性アミノ酸の両方であると考えてもよい。さらに、極性又は親水性と記載されるアミノ酸は、電荷を有していなくても、有していてもよく、又、塩基性であっても、酸性であってもよい。アミノ酸ヒスチジンは、約7のpKa値を有することが良く知られており、したがって、タンパク質の環境に応じた中性のpHにおいては、その側鎖でプロトン化されていても、プロトン化されていなくてもよく、すなわち、電荷を有していても、有していなくてもよい。したがって、ヒスチジンは、本発明の目的に対しては、極性を有し電荷を有したアミノ酸及び極性を有し電荷を有していないアミノ酸の両方であると考えてもよい。
【0047】
CYP102A1の位置117、131、215、307、330、401、及び403(又は、それと同等の位置)における保存的アミノ酸変化の具体例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:
Al17V、Al17I、A117L、A117P、A117M、A117F、A117W、A117Y;
E131D;
L215I、L215V、L215P、L215F、L215W、L215Y;
Q307H、Q307N、Q307S、Q307T、Q307Y;
A330P、A330I、A330L、A330M、A330V、A330F、A330W、A330Y;
I401P、I401I、I401L、I401M、I401V、I401F、I401W、I401Y;
Q403N、Q403H、Q403A、Q403T、Q403Y。
【0048】
その他の好ましい実施形態において、アミノ酸置換によって、通常、既存の残基が非極性残基である野生型酵素の所定の位置に極性アミノ酸を導入することにより、極性を変化させる。CYP102A1の位置191及び276(又は、それと同等の位置)における極性アミノ酸置換の具体例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:
A191T、A191S、A191C、A191Y、A191H、A191K;A191R、A191N、A191Q;
A276T、A276S、A276C、A276Y、A276H、A276K、A276R、A276N、A276Q。
【0049】
対照的に、その他の好ましい実施形態において、アミノ酸置換によって、通常、既存の残基が極性残基である野生型酵素の所定の位置に非極性アミノ酸を導入する。例えば、非極性アミノ酸を、位置377若しくは403、又は、それと同等の位置に導入してもよい。具体例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:
E377A、E377V、E377L、E377I、E377P、E377F、E377Y、E377W;
Q403P、Q403W、Q403F、Q403Y。
【0050】
さらなる実施形態において、アミノ酸置換は、野生型酵素の所定の位置において、電荷を有する側鎖基の欠失を引き起こす。したがって、置換によって、電荷を有していないアミノ酸が関連する位置に導入される。このことは、この位置における極性の喪失を引き起こすかもしれないし、引き起こさないかもしれず、したがって、極性を有し電荷を有していない又は非極性の(芳香族又は脂肪族の)残基が導入される。例えば、非極性又は極性の電荷を有していない残基は、位置425又はそれと同等の位置に導入してもよい。具体例としては、限定するものではないが、以下のものを挙げることができる:
D425N、D425Q、D425H、D425S、D425T、D425A、D425L、D425V、D425I、D425P、D425W、D425Y、D425F。
【0051】
さらにさらなる実施形態において、大きな側鎖体積のアミノ酸が、本発明の位置に導入される。好ましい実施形態において、大きな側鎖体積のアミノ酸、通常、嵩高い非極性のアミノ酸が、位置330、401、403又はそれと同等の位置に導入される。位置330に関して特に好ましい置換は、A330P、A330V、A33OL、A330I、A330W、A330F、A330Yである。位置403に関して特に好ましい置換は、Q403P、Q403W、Q403Fである。その他の実施形態において、例えば、位置377においては、小さな側鎖体積を有するアミノ酸が導入されるのが好ましい場合もある(例えば、E377A又はE377G)。
【0052】
本明細書において記載される変異は、通常、酵素の部位特異的突然変異誘発、PCR及び遺伝子シャッフリング法等の当技術分野において公知の方法を用いることにより、又は、部位特異的突然変異誘発のサイクルにおける複数の変異原性オリゴヌクレオチドを用いることにより、酵素中に導入される。したがって、変異は、特異的な又はランダムな様式で導入され得る。したがって、変異誘発法は、一つ又はそれ以上の異なる変異体をコードする一つ又はそれ以上のポリヌクレオチドを生成する。通常、変異体遺伝子のライブラリーが作製され、それを用いて、変異酵素のライブラリーを作製することができる。
【0053】
酵素は、上記した一つ又はそれ以上の変異の他に、1、2、3、4、5〜10、10〜20、20〜40個又はそれ以上のその他の変異、例えば、置換、挿入又は欠失、を含んでもよい。これらのさらなる変異は、変異CYP102A1酵素のモノオキシゲナーゼ活性を増大するかもしれないし、増大しないかもしれない。その他の変異は、活性部位内にあってもよいし、活性部位の外にあってもよい。例えば、変異は、第二の範囲、すなわち、活性部位のアミノ酸のうちの一つ又はそれ以上の位置又は方向に影響を与える又はそれらと接触する残基、にあってもよい。挿入は、通常、N末端及び/又はC末端的であり得る。したがって、酵素は、最大20個のアミノ酸からなる短いペプチドを含んでもよいし、例えば、アフィニティークロマトグラフィーによる又は固体マトリックス上での固定化によるタンパク質精製を助けるために、一端又は両端に融合させた全長タンパク質を含んでもよい。欠失は、通常、触媒作用に関与しないアミノ酸、例えば、活性部位の外にあるもの、の欠失を含む(したがって、酵素は、天然の酵素の変異断片である)。
【0054】
活性部位におけるその他の変異は、通常、活性部位に基質が結合した時に、基質の位置及び/又は立体構造を変化させる。変異は、ヘム基により接近し得る、酸化される基質上の部位を作り得る。したがって、変異は、より小さな若しくはより大きな、又は、より極性の大きい若しくはより極性の小さい側鎖を有するアミノ酸との置換であってもよい。
【0055】
さらなる変異には、酵素の安定性を増大し得るアミノ酸残基の変更を含むことができる。これらの変異は、通常、タンパク質のオリゴマー化を防ぎ、例えば、P450cam(CYPl0lAl)のダイマー化は、Cys344の、好ましくは、アラニンとの、置換により除去される。全長CYP102A1の結晶構造は未だ得られておらず、得られているのは、ヘムドメイン及びFAD/FMNドメイン別々のもののみである。同様の置換は、CYP102A1については必要とされない、何故ならば、CYPl0lAlのCys334は、CYP102A1のAsp370と一致するからである。しかしながら、全長CYP102A1及び/又は還元酵素ドメインの結晶構造は、タンパク質の安定性を向上させるためにアラニンとの置換によって除去され得る、システイン残基を明らかにし得る。その他の変異も、タンパク質表面の疎水パッチ間の接触により生じるオリゴマー化を阻害することができる。さらにさらなる変異は、酵素精製及び/又は固定化を助ける挿入/欠失と、タンパク質が可溶形態で調製されることを可能にする変異とを、例えば、欠失又はポリヒスチジンタグの導入により、又は、N末端の膜アンカー配列の変異により含む。
【0056】
好ましくは、さらなる変異は、CYP102Al中の以下の変異のうちの一つ又はそれ以上から、又は、それと同等の位置の同じ変異から選択される:R47L、Y51F、A74G、A264G、N239H、I259V、L353I、F87A、F87L、F87G、H171L、L188Q、N319Y、I263A、A328P。特定して示された効果に対して余剰な又は同様の効果を有するその他のアミノ酸変化を選択するのに関連して、位置117、131、191、215、276、307、330、377、401、403及び425について上記に概説したように、同じ考慮すべき事柄が当てはまることも理解すべきである。したがって、例えば、上記された特定のさらなる変異が、保存的変化であるかどうか、極性を変化させるかどうか、又は電荷を有していないアミノ酸を導入するかどうかに応じて、アミノ酸の類似範囲は、各付加的位置における導入に対して適合し得る。
【0057】
特に好ましい実施形態において、本発明の変異CYP102Al酵素は、以下のCYP102Al中の変異群から選択される一つ又はそれ以上の変異群を含むか:
i) A330P
ii) A191T/N239H/I259V/A276T/L353I;
iii) F87A/H171L/Q307H/N319Y;
iv) F87A/A330P/E377A/D425N;
v) F87A/A117V/E131D/L215I;
vi) I401P;
vii) R47L/Y51F/I401P;
viii)F87A/I401P;
ix) R47L/Y51F/F87A/I401P;
x) R47L/Y51F/A330P/I401P;
xi) Q403P;
xii) R47L/Y51F/Q403P;
xiii)R47L/Y51F/F87A/Q403P
、又は、これらと同等の変異群を含む。
【0058】
i)に規定されるA330P変異は、その効果が、協力して作用する変化した残基の混成状態に左右され得る、その他の定向進化変異とは異なり、その活性は、単一の点突然変異から生じることから、いくつかの点において通常の変異と異なる。CYP102Alにおいて、A330は、位置329の天然のプロリン残基の隣に位置するので、A330Pは、βシート領域中の一次基質接触ポイントにおける2つのプロリンと並列する(3)。この変異体の結晶構造(図2)は、これが、アクセスチャンネルを妨げ、活性部位をより接近しにくいものとしており、それによって、より接近した活性部位をもたらし、基質に対する結合配置が変化することを、示唆している。以下に見られるように、このことは、モノオキシゲナーゼ活性及び生成物選択性に対して特徴的効果を及ぼす。
【0059】
変異ii)及びiii)のグループは、野生型酵素によって示される特異的な形質を広く反映しながら、CYP102Alの活性を増大させる。グループiii)〜v)の残基87は例外として、任意の変異グループにおいて変異した位置のいずれもが、活性部位残基ではない。
【0060】
例えば、グループii)において、位置353は、基質アクセスチャンネルの残基354の隣に位置する一方、残基191、239、259、276及び353は、タンパク質表面に位置する。Al91は、結晶構造によれば、明らかにパルミチン酸塩結合部位上に移動されており(4)、アクセスチャンネルの外縁上に位置している。この残基を変異させることが、基質の誘引及び/又は捕捉に対して影響を及ぼし得ると推測されている。
【0061】
グループiii)において、位置171は、タンパク質表面上又は表面近くに位置する一方、残基307及び319は、電子伝達還元酵素ドメインに対するドッキング部位であると考えられている領域に近いので、電子伝達動態に及ぼす影響によるモノオキシゲナーゼ活性の増大に対するその影響を潜在的に介在し得る。
【0062】
変異iv)のグループは、基質接触ポイントにおけるA330P変異と、変異v)における位置117、131、及び215と同様に、タンパク質表面に近い酵素構造の周辺に配置されている位置377及び425の変異とを含む。
【0063】
さらに好ましい実施形態において、上記に規定された分類の本発明の変異CYP102Al酵素は:
i)CYP102A1中の以下の変異、又は、それと同等の変異のうちの一つ又はそれ以上をさらに含み:R47L、Y51F、A74G、A264G;
ii)CYP102A1中の以下の変異のうちの一つ又はそれ以上をさらに含み:R47L、Y51F、F87A、F87L;及び
iii)CYP102A1中の以下の変異のうちの一つ又はそれ以上をさらに含む:F87A、F87G、I259V、I263A。
【0064】
上記された特定の変異又は特定のさらなる変異に加えて、最大1、2、3、4、5〜10、10〜20個又はそれ以上のその他の変異も、本発明の変異CYP102Al酵素のこれらの好ましい実施形態に含まれ得ることを理解すべきである。
【0065】
酸化工程のための基質は、任意の有機化合物であり、より典型的には、モノオキシゲナーゼ酵素によって酸化され得る任意の有機化合物である。モノオキシゲナーゼ酵素による酸化に対する任意の有機化合物の適合性は、日常的に、本明細書において記載される方法によって調べられ得る。
【0066】
酸化工程は、一般的に、炭素−水素結合の酸化によるアルコールのように、化合物中にC−O結合の形成を引き起こすが、エポキシドは、C=C結合の酸化から形成され得る。したがって、酸化は、アルコール、アルデヒド、ケトン又はエポキシド基を導入し得る。あるいは、酸化は、例えば、アルコール基を、アルデヒド又はケトンへと変換させるように、酸素含有基のさらなる酸化を引き起こし得る。1、2個又はそれ以上の炭素原子が、同じ基質分子中で攻撃されてもよい。酸化は、基質分子のN−及びO−脱アルキル化も生じ得る。
【0067】
酸化は、通常、1、2又はそれ以上の酸化生成物を生じる。これらの異なる生成物は、攻撃される異なる炭素原子から、及び/又は、所定の炭素原子において生じる異なる程度の酸化から得られ得る。
【0068】
酸化は、環炭素原子又は置換基炭素原子のいずれか又はその両方で起こり得る。少なくとも初期酸化は、活性化され得る若しくは活性化され得ないC−H結合への攻撃、又は、炭素−炭素二重結合における攻撃(通常、エポキシドを生じる)を伴い得る。一般的に、活性化されるC−H結合は、炭素原子がベンジル又はアリルの位置にある。芳香環及びオレフィン性二重結合は、反応経路中で生成されるラジカル中間体又は任意の電荷の集合を安定化することにより、攻撃するC−H結合を活性化する。C−H結合の炭素原子は、一級、二級又は三級であってもよい。酸化は、酸素原子の挿入よりもむしろ、C=C二重結合の形成をもたらす脱水素化を生じるように起こり得る。このことは、アルキル置換基が分岐している場合、又は、脱水素化が、芳香環と共役するC=C結合を生じる場合、又は、脱水素化が、芳香族系の形成をもたらす場合に、最も起こり得る。
【0069】
基質は、野生型CYP102Al酵素の天然の基質、又は、通常は野生型酵素の基質ではないが、変異酵素中で基質として利用され得る基質、のいずれかであり得る。CYP102Al酵素のための天然の基質の例は、分岐鎖状又は直鎖状の脂肪酸であり、これらは、端部近くの位置(ω−1〜ω−3)で野生型CYP102A1によって水酸化される。好ましい例は、ラウリン酸、ウンデカン酸、デカン酸、ノナン酸及びオクタン酸である。
【0070】
好ましい実施形態において、基質は、短鎖アルカン又は中鎖アルカン又はアルキルベンゼンである。用語アルカンは、一般式C2n+2を有する非環状の分岐している又は分岐していない炭化水素のことをいう。
【0071】
短鎖アルカンは、通常、1〜約9個の炭素原子、より好ましくは、1〜8個、1〜6個、又は、1〜4個の炭素原子を有する。C−Cアルキル基又は部分は、直鎖状又は分岐鎖状であることができる。それがC−Cアルキル部分である場合、それは、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、sec−ブチル及びt−ブチルであることができる。
【0072】
アルキルベンゼンは、ベンジル芳香環上の位置で置換されている1個又はそれ以上のアルキル基又は部分を有する。アルキル基又は部分中の炭素原子の数は、通常、1〜約8個の炭素原子、より好ましくは、1〜8個、1〜6個、又は、1〜4個の炭素原子であり得る。
【0073】
いくつかの実施形態においては、短鎖又は中鎖アルカンの骨格上に、1、2、3個又はそれ以上の置換基が存在していてもよいし、又は、ベンジル環上で、若しくは、アルキルベンゼンのアルキル置換基上で、直接置換されていてもよい。以下の置換基の任意の組み合わせが存在し得る。置換基は、通常、ハロゲン原子、又は、一般的に1〜6個の炭素原子を有するアルキル又はアルケニル基であり、置換基は、1個又はそれ以上のハロゲンによって置換されていてもよい。置換基は、1、2個又はそれ以上の酸素、ハロゲン又は窒素原子を含んでもよく、例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン、エーテル、アミン又はエポキシド基であり得る。
【0074】
好ましい短鎖アルカン基質の例としては、限定するものではないが、ペンタン、3−メチルペンタン、2−メチルブタン、ブタン、プロパン、エタン及びメタン、オクタン及びノナンを挙げることができる。好ましいアルキルベンゼン基質の例としては、限定するものではないが、プロピルベンゼン、エチルベンゼン、ブチルベンゼン、クメン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−シメン及びエチルアニソールを挙げることができる。その他の好ましい芳香族化合物は、ナフタレン及びフルオレンである。
【0075】
ブタン、ナフタレン、特に、プロパン、t−ブチルベンゼン及びo−キシレン等の有機化合物は、野生型CYP102Al酵素に対する「非天然の」基質として広く分類されるが、本発明の変異CYP102Al酵素によって酸化され得ることに注目すべきである。非天然基質は、野生型CYP102Alと一緒にインキュベートした時に検出可能な結合率及び/又は生成物形成を有しない分子として規定することができる。非天然基質は、野生型CYP102Al酵素による天然の基質に対する割合の10%未満で酸化される分子を含んでもよく、したがって、それらは、真の基質とは見なされ得ない。
【0076】
本発明のその他の実施形態において、基質は、テルペン、例えば、モノテルペン又はセスキテルペンである。基質はシクロアルケンであることもできる。本発明において使用されるテルペンは、通常、nが2又はそれ以上、より具体的には2又は3である式(Cを有し得るが、用語「テルペン」は、断片、一般的にはメチル基、の喪失又は移動を含む「テルペノイド」と厳密に称される化合物にも及ぶことを理解すべきである。したがって、例えば、本発明において使用し得るセスキテルペン(この場合、nは3である)は、15個よりもむしろ、わずか、すなわち14個の炭素原子を含んでもよい。一般的に、テルペンは、イソプレン単位から組み立て得るものである。テルペンは、環状であっても、環状でなくてもよい。さらに、「テルペノイド」は、テルペンに関連する化合物にもその範囲は及び、例えば、アルコール又はケトン基の形態で、1個又はそれ以上の酸素を含んでもよい(例えば、ダマスコン及びイオノン、特にβ−イオノン)。
【0077】
モノテルペン(この場合、nは2である)は、一般的に10個の炭素原子を有し、通常1〜3個の二重結合、特に1又は2個の環二重結合、及び、通常0〜2個の環を含み得る。環の一つは、通常0又は1個の炭素原子を含む架橋部として形成され得る。すなわち、それは、現在ある環の2個の炭素原子同士の又は中間体のメチレン基との直接的結合によって形成され得る。テルペンが非環状である場合には、一般的に、少なくとも2個の二重結合、通常3個の二重結合を含み得る。
【0078】
セスキテルペンは、通常、14又は15個の炭素原子を含み得、通常0〜2個の二重結合、及び、通常1〜3個の環を含み、融合環及び/又は架橋環であってもよい。
【0079】
テルペンに存在し得る環は、通常、3〜9個の炭素原子、特に、5又は6個の炭素原子を有し得る。したがって、特に、テルペンは、シクロヘキサン又はシクロヘキサジエン環を含み得る。
【0080】
テルペンは、通常、合計3又は4個の環外メチル又はメチレン基、例えば、モノテルペンに対しては、2個のメチル基と1個のメチレン基又は3個のメチル基、セスキテルペンに対しては、3個のメチル基と1個のメチレン基又は4個のメチル基を含み得る。
【0081】
モノテルペンは、通常、R−リモネン等のリモネン、(+)−α−ピネン等のピネン、テルピネン、サビネン、ツジェン、ミルセン、オシメム、ネロール又はゲラニトールである。
【0082】
セスキテルペンは、3つのイソプレン単位の頭部−尾部配列化によって形成される。セスキテルペンは、通常、アロマデンドレン、カリオフィレン、ロンジフォレン、バレンセン、イソバザネン、シルフィネン、イシュワラン、イソパッチショール−3−エン、又はイソセスキカレンである。セスキテルペン基質がバレンセンであるのが特に好ましい。
【0083】
シクロアルケンは、通常、最大9個の環要素を含み、例えば、それは、5、6、7、8、9個又はそれ以上の要素の環である。シクロアルケンは、通常、シクロヘキセンである。
【0084】
上記した任意のテルペン又はシクロアルケンの置換誘導体を使用してもよい。通常、1、2、3個又はそれ以上の置換基が存在する。以下の置換基の任意の組み合わせで存在してもよい。置換基は、通常、ハロゲン原子若しくは酸素若しくは窒素含有基、又は、一般的に、1〜6個の炭素原子を有する、アルキル若しくはアルケニル基であり、この置換基は、1個又はそれ以上のハロゲンによって置換されていてもよい。
【0085】
置換基は、通常、式Cで示され、式中、Xはハロゲン、酸素又は窒素含有基であり、nは1、2、3又はそれ以上であり、mは1、2、3、4又はそれ以上であり、kは、置換基Cの価数が満たされるような適当な値の整数である。アルキル置換基の場合、k+m=2n+lである。通常、kは1、2、3、4又はそれ以上であり、0であってもよく、すなわち、置換基が、ペルハロアルキル基である。ハロゲンは、通常、フッ素、塩素又は臭素である。置換基は、1、2個又はそれ以上の酸素原子を含んでもよく、例えば、アルコール、アルデヒド、ケトン又はエポキシド基であってもよい。
【0086】
本発明のさらなる実施形態において、基質はハロ芳香族化合物である。ハロ芳香族化合物は、通常、ベンゼン又はビフェニル化合物である。ベンゼン環は融合していてもよく、置換していてもよい。ハロゲンは、通常、塩素である。多くの場合、分子中に1個より多い、通常、2〜5個又は6個、例えば、3個のハロゲン原子が存在する。一般的に、2個のハロゲン原子は、互いにオルト又はパラであり得る。化合物は、水酸基、アリールオキシ基又はカルボキシ基等の酸素原子を含んでいても、含んでいなくてもよい。化合物は、クロロフェノール又はクロロフェノキシ酢酸化合物であっても、なくてもよい。
【0087】
本発明の方法によって酸化され得る具体的な化合物としては、1,2−;1,3−及び1,4−ジクロロベンゼン、1,2,4−;1,2,3−及び1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−及び1,2,3,5−テトラクロロベンゼン、ペンタンパク質クロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、及び、3,3’−ジクロロビフェニル等を挙げることができる。
【0088】
本発明の方法によって酸化され得るその他の化合物としては、取り扱い難いハロ芳香族化合物、特にダイオキシン及びハロゲン化ジベンゾフラン、並びに、1個又は両方の酸素原子が硫黄と置換されている対応する化合物、特に、少なくとも1個のハロ置換基を有するダイオキシン類化合物、例えば、ダイオキシン自体、2,3,7,8−テトラクロロジベンゾダイオキシン等を挙げることができる。
【0089】
ハロ芳香族化合物の酸化は、通常、1、2又はそれ以上の酸化生成物を生じる。酸化される原子は環炭素であってもよい。これらの酸化生成物は、一般的に、1個又はそれ以上の水酸基を含み得る。したがって一般的に、酸化生成物はフェノールであり、これらは、各種シュードモナス及びその他の細菌によって容易に分解され得るのに対して、非酸化ハロ芳香族化合物は酸化に対して耐性を有する。以下に記載されるように、このことが、本発明の酵素を、ハロ芳香族化合物で汚染された場所の汚染除去に適合させる。
【0090】
本発明の方法における使用が意図される、さらにさらなる基質としては、限定するものではないが、クロロオキサゾン、アニリン、p−ニトロフェノール、ニフェジピン、ツジョンジアステレオマー、アルケン(プロペン、1−ヘキセン及びスチレンを含む)、インドール、多環式芳香族炭化水素、プロパノールオール、アルコキシレゾルフィン(7−エトキシレゾルフィン、7−メトキシレゾルフィン、7−ペントキシレゾルフィン、7−ベンジルオキシレゾルフィンを含む)、ブスピロン、テストステロン、アモジアキン、デキストロメトルファン、アセトアミノフェン、3,4−メチレンジオキシメチルアンフェタミン(MDMA)等を挙げることができる。
【0091】
本発明の変異CYP102A1酵素を用いて行われる酸化工程は、上記したような向上した結合率又は生成物形成率の点で、別の野生型又は変異CYP102Al酵素によって行われる工程とは区別され得る。本発明の方法は、酸化される基質からの特定の生成物、通常、野生型CYP102A1酵素若しくは別の変異CYP102A1酵素によっては形成されないもの、又は、無視し得る量、すなわち、生成物の全体量の10%未満、8%、5%、2%、1%又はそれ未満、で形成されるもの、の形成によっても特徴付けられ得る。例えば、プロピルベンゼンの酸化は、高い選択性で、2−プロピルフェノール、又は、1−フェニル−2−プロパノールを生成し得、エチルベンゼンの酸化は、2−フェニルエタノール及びスチレンを生成し得る。
【0092】
本発明の変異CYP102Al酵素を用いて行われる工程は、野生型CYP102Al酵素又はその他の変異CYP102Al酵素によって行われる酸化工程と比較して、変化した割合又は数の酸化生成物も示し得る。変化した割合の生成物が存在する場合、特定の酸化生成物に関する生成物形成率は、野生型CYP102Al酵素又はその他の変異CYP102Al酵素によって行われる対応工程に対して、通常、増加する。特定の酸化生成物の普及の増加は、野生型CYP102Al酵素又はその他の変異CYP102Al酵素によって形成される場合の生成物混合物中の当該酸化生成物の量と比較して、少なくとも10%、20%、50%、より好ましくは100%、200%、300%、500%又はそれ以上であり得る。
【0093】
本発明の工程において増大した普及を示し得る酸化生成物の具体例は:i)l−フェニル−2−プロパノール、この場合、酸化される基質はプロピルベンゼンである;ii)2−エチルフェノール、この場合、酸化される基質はエチルベンゼンである;iii)1−フェニル−2−ブタノール又は4−フェニル−2−ブタノール、この場合、酸化される基質はブチルベンゼンである;iv)ベンジルアルコール、この場合、酸化される基質はトルエンである;v)2−メチル−2−フェニルプロパン−l−オール、この場合、酸化される基質はt−ブチルベンゼンである;vi)2−メチルベンジルアルコール、この場合、酸化される基質はo−キシレンである;vii)カルバクロール又はチモール又は4−イソプロピルベンジルアルコール、この場合、酸化される基質はp−シメンである;viii)ヌートカトン、この場合、酸化される基質はバレンセンである;ix)2−ノナノール、この場合、酸化される基質はノナンである;x)2−ブタノン又は2−ブタノール、この場合、酸化される基質はブタンである;xi)3−メチル−3−ペンタノール、この場合、酸化される基質は3−メチルペンタンである;xii)2−プロパノール、この場合、酸化される基質はプロパンである;xiii)トランス−イソピペリテノール、この場合、酸化される基質はR−リモネンである;xiv)2,3−ピネンエポキシド、シス−ベルベノール、トランス−ベルベノール、この場合、酸化される基質はα−ピネンである;xv)9−フルオレノール、この場合、酸化される基質はフルオレンである;xvi)8−ヒドロキシドデカン酸及び7−ヒドロキシドデカン酸、この場合、酸化される基質はラウリン酸である。
【0094】
この工程は、通常、CYP102Al酵素、基質及び酵素の天然の補因子(NADPH及び酸素である)の存在下で行われる。一実施形態において、本発明の工程は、デヒドロゲナーゼ等の酵素、及び、デヒドロゲナーゼ酵素の補基質の酸化に付随するNADPからNADPHを再生するための補基質を用いて行われる。別の実施形態において、本発明の工程は、当技術分野において公知の電気化学的方法によってNADPH補因子を再生することにより行われる。
【0095】
増大した活性及び変化した選択性は、CYP102Al酵素のヘムドメイン中の置換によって生じることが理解される。したがって、本発明は、基質酸化が、酵素のヘムドメイン(a)、基質、電子伝達還元酵素(b)、電子伝達レドキシン(c)、酵素に対する補因子及び酸素供与体の存在下で行われる系も提供する。この系において電子の流れは、一般的に:補因子→(b)→(c)→(a)である。
【0096】
(b)は、一般的に、補因子から(c)への電子伝達を仲介し得る電子伝達還元酵素であり、例えば、天然の還元酵素、又は、天然の還元酵素と相同性を有する(通常、少なくとも70%の相同性を有する)タンパク質であるか;あるいは、還元酵素又は相同体の断片である。(b)は、通常、天然のP450酵素系に見られる任意の電子伝達連鎖における還元酵素であり、通常、フラビン依存性の還元酵素、例えば、プチダレドキシン還元酵素である。
【0097】
(c)は、一般的に、補因子から(b)を経由した(a)への電子伝達を仲介し得る電子伝達レドキシンである。(c)は、天然の電子伝達レドキシン、又は、天然の電子伝達レドキシンと相同性を有する(通常、少なくとも70%の相同性を有する)タンパク質であるか;あるいは、レドキシン又は相同体の断片である。(c)は、通常、天然のP450酵素系に見られる任意の電子伝達連鎖におけるレドキシンである。(c)は、通常、2Fe−2Sレドキシン、例えば、プチダレドキシン、又はフラボドキシンである。
【0098】
通常、(a)、(b)及び(c)は、別々のタンパク質として存在するが、それらは、同じ融合タンパク質中に存在してもよい。通常、それらのうちの2つのみが、好ましくは、(b)及び(c)が、融合タンパク質中に存在する。通常、これらの成分は融合タンパク質中で連続的であるので、リンカーペプチドは存在しない。
【0099】
あるいは、リンカーがこれら成分間に存在してもよい。リンカーは、一般的に、嵩張る側鎖は有しないので、タンパク質サブユニットの折り畳みを妨げない。好ましくは、リンカー中のアミノ酸は電荷を有していない。リンカー中の好ましいアミノ酸は、グリシン、セリン、アラニン又はスレオニンである。一実施形態において、リンカーは、配列N−Thr−Asp−Gly−Gly−Ser−Ser−Ser−Cを含む。リンカーは、通常、少なくとも5アミノ酸長からであり、例えば、少なくとも10、30又は50又はそれ以上のアミノ酸長である。
【0100】
本発明の工程において、酵素、(b)又は(c)の濃度は、通常、10−8〜10−2M、好ましくは、10−7〜10−4Mである。一般的に、本発明の工程は、酵素が機能的である温度及び/又はpHにおいて、例えば、酵素が、ピーク活性の少なくとも20%、50%、80%又はそれ以上を有する場合の温度及び/又はpHにおいて行われる。通常、pHは、3〜11、例えば、5〜9又は6〜8、好ましくは、7〜7.8又は7.4である。通常、温度は、is 10℃〜90℃、例えば、25℃〜75℃又は30℃〜60℃である。
【0101】
本発明の工程において、2つ以上の異なる本発明の変異CYP102A1酵素が存在してもよい。通常、各変異体は、異なる基質を酸化し得るし、あるいは、所定の基質を、別の酵素よりも良好に酸化し得るので、変異CYP102Al酵素の混合物を用いることにより、広範にわたる基質を酸化することができる。本発明の工程は、野生型CYP102A1酵素、その他のP450酵素又はそれらの相同体、任意のモノオキシゲナーゼ酵素、及び、所望の合成又は酸化反応において有用な任意のその他の酵素も含んでもよい。
【0102】
一実施形態において、本発明の工程は、過酸化水素副生成物を除去し得る物質(例えば、カタラーゼ)の存在下で行われる。別の実施形態において、本発明の工程は、全長酵素又は酵素のヘムドメイン、基質及び酸素原子供与体(例えば、過酸化水素又はt−ブチルヒドロペルオキシド)の存在下で、例えば、ペルオキシドシャントを使用することにより、行われる。
【0103】
さらなる実施形態において、本発明の工程は、全長酵素又は酵素のヘムドメインのみ、基質及び電気化学セル中の酸素の存在下で行われ、したがって、酸素の活性化及び活性中間体の生成に必要とされる2つの電子は、電極からの直接的電子伝達により又は小分子メディエーターを介して間接的に、電極によって供給される。
【0104】
本発明の工程は、細胞内又は細胞外で行ってもよい。細胞は、通常、培養状態で、ある場所に、インビボ又はインプランタ(in planta)で存在する(これらの態様については以下に記載する)。本発明の工程は、通常、土壌中(例えば、土中)又は水中(例えば、淡水又は海水)等の場所において行われる。本発明の工程が培養中で行われる場合、培養は、通常、異なるタイプの本発明の細胞を、例えば、本発明の異なる変異CYP102Al酵素を発現する細胞を含む。一般的に、そのような細胞は、同化可能な炭素及び窒素源の存在下で培養される。
【0105】
通常、本発明の工程が行われる細胞は、本発明の変異CYP102A1、又は、野生型CYP102A1が天然には存在しないものである。別の実施形態において、変異CYP102Al酵素は、野生型CYP102Alが天然には存在しない細胞中で、しかし、天然のレベルよりも高いレベルで発現される。この細胞は、1、2、3、4又はそれ以上の異なる本発明の変異CYP102A1酵素を生成し得る。これらの変異CYP102Al酵素は、異なる有機化合物基質、異なる短鎖アルカン又は異なるアルキルベンゼンを酸化し得る。
【0106】
この細胞は、原核細胞であっても、真核細胞であってもよく、一般的には、本明細書において記載される任意の細胞又は任意の生物の細胞である。好ましい細胞は、大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス種(Pseudomonas sp.)、フラボバクテリア又は真菌細胞(例えば、アスペルギルス(Aspergillus)及び酵母、特に、ピチア種(Pichia sp.))である。また、本発明にしたがい使用することが意図されるのは、ロドコッカス種(Rhodococcus sp.)及びバチルス種(Bacillus sp.)である。細胞は、その天然の形態で、任意の基質を酸化し得る又は本明細書において記載される任意の酸化生成物を生成し得るものであっても、そうでなくてもよい。通常、細胞は、実質的に単離された形態及び/又は実質的に精製された形態であり、この場合、細胞は、一般的に、少なくとも90%、例えば、少なくとも95%、98%又は99%の細胞又は乾燥重量の調製物を含み得る。
【0107】
本発明の細胞は、通常、本発明の変異CYP102Al酵素をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを細胞に導入することにより(すなわち、細胞を形質転換することにより)作製される。ヌクレオチドコードの縮重のため、2つ以上のポリヌクレオチドが各本発明の変異CYP102Al酵素をコードし得ることを理解すべきである。ヌクレオチド配列を特定の細胞又は生物に適合するコドン傾向を示すように改変し得ることも理解すべきである。ベクターは、細胞のゲノム中に組み入れても、染色体外に留まらせていてもよい。細胞は以下に記載される動物又は植物へと成長し得る。通常、ポリヌクレオチドのコード配列は、宿主細胞によってコード配列の発現がもたらされ得る調節配列と、機能的に連結されている。調節配列は、一般的に(通常、モノオキシゲナーゼが発現される細胞の)プロモーターである。
【0108】
用語「機能的に連結された」とは、記載された要素が、それらの意図された様式で機能し得る関係にあるように並列させることをいう。コード配列に「機能的に連結された」調節配列は、調節配列と適合し得る条件下でコード配列の発現が達成されるように連結されている。
【0109】
ベクターは、通常、トランスポゾン、プラスミド、ウィルス又はファージベクターである。ベクターは、通常、複製開始点を含む。ベクターは、通常、1つ又はそれ以上の選択可能なマーカー遺伝子、例えば、細菌プラスミドの場合のアンピシリン耐性遺伝子、を含む。ベクターは、通常、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE−デキストラン、又はエレクトロポレーション等の従来技術を用いて宿主細胞中に導入される。
【0110】
本発明はさらに、その細胞が本発明の細胞のいずれかであるトランスジェニック動物又は植物を提供する。この動物又は植物は、1つ又はそれ以上の変異CYP102A1遺伝子に関してトランスジェニックである。それらは、かかる遺伝子に関してホモ接合性であっても、ヘテロ接合性であってもよく、それらは、通常、細胞中に一過的に導入されるか、又は、(例えば、ゲノム中に)安定的に組み入れられる。動物は、通常、虫(例えば、ミミズ)又は線虫である。植物又は動物は、適当な細胞(例えば、胚性幹細胞、カルス又は生殖細胞)を形質転換し、必要であれば、細胞の発達を促し、次に、細胞を動物又は植物へと成長させ、必要であれば、その動物又は植物に餌を与えることによって得ることができる。動物又は植物は、有性生殖又は無性生殖(例えば、クローニング)、本発明の動物若しくは植物又はFl生物(あるいは、Flから除かれた任意の世代、又は、形質転換された細胞から発達させたキメラ)の繁殖によって得ることができる。
【0111】
上記したように、本発明の工程は、ある場所において行われ得る。したがって、本発明は、本発明の基質、例えば、短鎖アルカン、アルキルベンゼン又はハロ芳香族化合物、で汚染された場所を処理する方法も提供する。この方法は、本発明の変異CYP102Al酵素、細胞、動物又は植物を、この場所と接触させることを含む。次に、通常、これらの生物を用いて、ハロ芳香族化合物を酸化させる。一実施形態において、この場所を処理するために使用される生物は、この場所に対して天然である。したがって、それらは、(例えば、汚染されている)場所から取得し、変異CYP102Al(及び、任意には、適当な電子伝達還元酵素及び/又はレドキシン)を発現するように(上記の通り)形質転換/トランスフェクトさせてもよい。
【0112】
一実施形態において、この場所は、本発明の2つ以上のタイプの生物、例えば、異なる有機化合物基質、例えば、異なる短鎖アルカン、アルキルベンゼン又はハロ芳香族化合物、を酸化する、異なるモノオキシゲナーゼを発現する2つ、3つ、4つ又はそれ以上のタイプの生物を用いて処理される。一実施形態において、かかる生物の一群は、それら同士で、特定のグループの基質、すなわち、汚染領域に存在する短鎖アルカンの全てを酸化することができる。
【0113】
(例えば、一群の形態の)生物は、バイオリアクター中で本発明の工程を行い得る(例えば、この場合、生物は固定された形態で存在する)。したがって、処理すべき水又は土壌を、かかるバイオリアクターに通してもよい。土壌は、界面活性剤又はエタノールを添加した水で洗浄してから、バイオリアクター中に導入してもよい。
【0114】
スクリーニング法の設計/本発明の変異体の単離
ランダム突然変異誘発及び遺伝子シャッフリングによって作製されたCYP102Al変異体ライブラリーをスクリーニングするための、今日までに開示されている方法は、インドール(インディゴ形成)及びp−ニトロフェノール誘導体(放出されるp−ニトロフェノールの検出)等の代替基質を使用する傾向がある。代替基質に対して増大した酸化活性を示す選択された変異体のうちのいくつかは、異なる構造を示す化合物に対しては増大した活性を有するが、生成物選択性の変化はあまり一般的ではないことが分かっている。
【0115】
生成物選択性のためのスクリーニングに関しては、WO2006105082が、生成物であるアルコールを、分光的に検出され得る化合物と共役させる方法を開示した。同様に、CYP102A3によるオクタン酸化における1−オクタノールについての増大した選択性は、デヒドロゲナーゼスクリーニング法においてこの生成物を標的とすることにより得られた(34)。これらの方法は、調査を選択性へと偏らせ、活性に関してはわずかに増えただけであった。また、特定の標的化合物の形成を促進する変異のみが見つけられ、一方で、広範な化合物に対して異なる、潜在的には所望の様式で生成物選択性に影響を及ぼす部位での変異は明らかにされなかった。
【0116】
対照的に、本発明の変異体を単離するために使用されるスクリーニング法は、インドール酸化を介したインディゴ形成に関した変異体のランダムライブラリーのスクリーニング、続く、化学対象の生成物に対しての増大した活性及び選択性の検索、の組み合わせを利用する。したがって、インドール酸化スクリーニングからの最も活性な変異体を、ナフタレン、プロピルベンゼン及びオクタンのインビボ酸化を介してさらにスクリーニングした。生成物をガス−液体クロマトグラフィーによって分析した(実施例の項を参照)。ナフタレンは、インドールよりも疎水性であり、P450の触媒作用において標的とされることが多い炭化水素基質とより密接に似ている。プロピルベンゼンは、ナフタレンよりも小さいが、芳香環の酸化、ベンジルの酸化、及び、2つの活性化されていない脂肪族炭素中心での攻撃の間での競合のため、生成物選択性の変化に関する試験をもたらす。オクタンは、柔軟且つ密集度の低い様々な攻撃を可能にし、酸化のために利用可能な4つの異なるセットのC−H結合を有し、末端及び内部の位置に対する選択性に偏らせる変異を招く。増大した生成物形成率及び/又は変化した生成物プロファイルを有する変異体を、インビトロにおける活性研究に対して選択した。
【0117】
この多段階式手法中、初期のインディゴ形成(活性)段階において、約l,500コロニーをスクリーニングし、この数は、11の第1世代の変異体の遺伝子シャッフリング後に約800コロニーに減少させた。これら800のうちの130コロニーを、インビボ基質酸化スクリーニング段階へと供した。これら130のうち、5つの変異体をインビトロでのさらなる研究のために選択し、これらの全てが、ナフタレンからペンタンまでの広範な有機化合物に対して増大した活性及び/又は変化した生成物選択性を示した。したがって、本発明の変異体を単離するために使用されるスクリーニング法は、増大した活性及び/又は生成物選択性を有する変異体の効率的な、ストリンジェントな選択を可能にする。変異の探索のためにスクリーニングされた小サイズの初期ライブラリーは、CYP102Alの変異体の探索のために本発明者等によって用いられた方法が、未だそのポテンシャルを使い果たしていないことをも示唆している。
【0118】
これまでに開示されている定向進化技法とのさらなる違いは、インディゴ形成を用いるCYP102Alに対するスクリーニングは、CYP102Alヘムドメインにおける特定の部位での突然変異誘発(例えば、部位飽和)を含んだのに対して、本発明のスクリーニングは、全長ヘムドメイン遺伝子のランダム突然変異誘発を含むことである。したがって、本発明のスクリーニングは、多くの数の変異体を単離する能力を有している。さらに、部位飽和突然変異誘発を、さらなる有用な変異体を単離するために、本発明にしたがって単離された特定の変異体に対して適用し得ることは明らかである。
【実施例】
【0119】
材料及び方法
分析用グレード又はより高い品質の一般的試薬及び化学基質は、Alfa−Aesar、Fisher Scientific及びSigma−Aldrich、又はそれらの子会社から取得した。HPLC品質の溶媒は、Rathburn Chemicals(UK)並びにSigma−Aldrich及びMerckの子会社から取得した。バッファー成分は、Anachem,UKから取得した。NADPH(四ナトリウム塩)は、Apollo Scientific及びMelford Laboratoriesから取得した。イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)は、Melford Laboratoriesから取得した。制限酵素、T4 DNAリガーゼ、及び関連するバッファーは、New England Biolabsから取得した。Taq及びKODポリメラーゼは、Merck Biosciencesから取得した。コンピテント及びスーパーコンピテント大腸菌は、Stratageneから取得した。部位特異的突然変異誘発法は、Stratagene社のQuik−Change突然変異誘発キットに記載されるPCR方法を用いて行った。変異原性のオリゴヌクレオチド中の変化したコドンに隣接する適当な長さのオリゴヌクレオチドは、製造業者の説明書にしたがって設計した。オリゴヌクレオチドは、MWG Biotechから取得した。一般的な分子生物学的手法は、文献に記載される方法にしたがって行った(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,and Maniatis,T.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York)。全ての変異体の遺伝子は、オックスフォード大学、生化学科の施設のABI 377XL Prism DNA自動配列決定装置で完全に配列決定された。UV/可視スペクトルアッセイ及び酵素活性アッセイは、Varian Cary 50 分光光度計で30℃にて行った。H NMRスペクトルは、Varian UnityPlus 500MHzスペクトロメーターで取得した。ガスクロマトグラフィー(GC)は、DB−1を融合させたシリカキャピラリーカラム及びキャリアーガスとしてのヘリウムを用いる炎イオン化検出装置(FID)を装備した、Thermo Finnigan Trace and 8000 Top装置で行った。注入装置は200℃又は250℃に維持し、FEDは250℃に維持した。
【0120】
突然変異誘発、設計、定向進化及びスクリーニング手法
SpeI制限部位を、以下のオリゴヌクレオチド:
5’GCTCATAATACGCCGCTACTAGTGCTATACGGTTCAAATATG-3’(Spel制限配列に下線を付した)及びその逆相補配列を用いて、CYP102Al遺伝子のpGLWl1ヘムドメインコード領域(13)の下流に導入し、それにより、残基482及び483においてサイレント変異を生じた。
【0121】
変異性PCRを、以下の正方向及び逆方向プライマーを用いて、この部位とヘムドメインコード領域の上流のEcoRI部位との間で行った:
5’TCTCGAGAATTCATAATCATCGGAGACGCC-3’(EcoRI制限配列に下線を付した);及び、5’-TGGATCCACTAGTAGCGGCGTATTATGAGC-3’(SpeI制限配列に下線を付した)。
【0122】
使用したStratagene GeneMorphプロトコールにしたがい、1,000bpあたり1〜3個の変異を導入するように設計された条件の下、野生型CYP102Al(WT)及び変異体F87Aテンプレートからライブラリーを構築した。1サイクルあたり、鎖分離を94℃にて60秒間、アニーリングを45℃にて90秒間、伸長を68℃にて110秒間+2秒間を30サイクル行うことにより、遺伝子を増幅させた。EcoRI及びSpeIで切断した後、T4 DNAリガーゼを用いて小断片をpGLWl1に再び導入して(SpeI WT変異体)、大腸菌DH5αコンピテント細胞中に形質転換し、Luria−Bertani(LB)寒天プレート上で36時間培養した。
【0123】
約1500のコロニーをスクリーニングした。インディゴ形成を示したもの(Gillam,Ε.M.J. et al(1999)Biochem.Biophys.Res Commun.265,469−472;Li,Q.S.,et al(2000)Chem.Eur.J.6,1531−1536)を単離し、新しいプレートに移して、配列決定前に疑陽性を最小限にするためにさらに36時間培養した。次に、対象となり得る16の新しい変異を表す11の変異体を、ランダムプライム組み換えによってシャッフルした(Shao,Z.,et al(1998)Nucleic Acids Res.26,681−683)。
【0124】
VolkovとArnold(Volkov,A.A.,and Arnold,F.H.(2000)Methods Enzymol 328,447−456)に示されるプロトコールを、段階9にて改変した。この時、Pfuポリメラーゼではなく、Taq及びKODポリメラーゼを、2μLのMgSOと一緒に使用した。PCRは、KODポリメラーゼを用いたが、上記のようにして、アセンブリ鎖で行った。サンプルは、上記の通り、切断して、連結し、プレートに播いた。
【0125】
約800のコロニーのうち、約130はインディゴ形成を示した。これらを、5〜10mLの規模で培養し、ガスクロマトグラフィーを用いて、ナフタレン及びプロピルベンゼンに対するインビボ酸化活性をスクリーニングした。WTと比較して、生成物ピーク面積の最大の増加又は変化した生成物プロファイルを示した12の変異体について配列決定し、より大規模で培養し、同じ2つの基質に対してスクリーニングした。これらのうち、5つをインビトロ研究のために選択した。
【0126】
我々はまた、様々な単一部位変異体と、ランダム突然変異誘発スクリーニング法による5つの変異体とそれらの組み合わせとを調製し、インディゴ形成について、及び、ガスクロマトグラフィーを用いて、ナフタレン、プロピルベンゼン及びオクタンに対する酸化活性について、これらをインビボで調べた。単一部位変異は、R47L、Y51F、E267V、I263A、A74G、L188Q、M177V/K、A399P、I401P、G402P、Q403P、V302I、A264G、A99T、S270I、R179H、及びF87L/A/Gであった。これらのうちの大部分は、これまでに公知の変異(R47、Y51、I263、A74、L188、M177、A264、F87におけるもの)、又は、ランダム突然変異誘発/スクリーニング手法の初期の実施回において我々が見出した変異(E267、V302、A99、S270、R179におけるもの)である(その変異は、基質の結合に何らかの影響を及ぼし得る構造の位置を基準として、別の実施回に選択した)。A399、I401、G402及びQ403におけるプロリン変異は、上記のスクリーニング方法によって選択された5つの変異体のうちの1つであるA330P変異体の結晶構造(図2)で観察される構造変化に基づいて選択された。次に、これらの変異体を、増大した活性の証拠のために、インビボスクリーニング方法によってスクリーニングした。
【0127】
R47L及びY51F変異は、それら自体で又はその他の変異と組み合わせて、R47L/Y51F対と同程度の効果は有しなかった。その他の単一部位変異は、インディゴ形成スクリーニングにおいて、異なる効果を示したが、I401P及びQ403P単一部位変異体は、インビボ酸化スクリーニングにおいて、野生型と比較して、増大した生成物形成率をし、これらの変異体を調製して、インビトロでそれらの活性について試験した。変異R47L/Y51F(RLYF)及びF87Aを、記載されるようにして調製した(13)。標準的クローニング手法(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.,and Maniatis,T.(1989)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York)で、NcoI及びAflII制限部位を用いて、RLYF対を、変異体KT2及びA330P中に導入した。部位特異的突然変異誘発法によって、F87A変異を、KT2、I401P、RYLF/I401P、及びRYLF/Q403P変異体に導入した。部位特異的突然変異誘発法によって、I401P及びQ403P変異を、RLYF及びRLYF/A330P変異体に導入した。
【0128】
タンパク質の発現及び精製
対象の変異体を、NcoI及びBamHI制限部位を用いて、pET28ベクター中に移し、その結果、pGLWl1ベクター中のtacプロモーターと比較して、発現レベルが、T7プロモーターによって、より厳密に調節され得る。このプラスミドを担持する大腸菌JM109(DE3)の30ml.L−1の一晩培養物を、0.4%(v/v)グリセロール及び30mg.L−1のカナマイシンを含むLB培地中に接種し、180rpmで振盪させながら、OD600が1より大きくなるまで37℃にて培養した。タンパク質の発現は、イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(PTG)を0.4mMになるまで添加することによって誘導した。温度は30℃まで下げて、さらに30℃にて12時間培養した後、細胞を遠心分離によって回収した。各1Lの培養物からの赤褐色のペレットを、ジチオスレイトール中でpH7.4、1mMに緩衝化させた25mL 40mMのリン酸カリウム(リン酸バッファー)中で再び懸濁させた。細胞を超音波処理によって溶解し、細胞残屑を、37,500g、30分間、4℃での遠心分離によって除去した。上清を、リン酸バッファーを用いて予め平衡化したAmersham−Pharmacia DEAE高速流セファロースカラム(200x50mm)に充填し、そこからタンパク質を、リン酸バッファー中硫酸アンモニウムの80−400mMの直線勾配を用いて溶出させた。赤色のP450画分を回収して、限外濾過により濃縮し、リン酸バッファーを用いて予め平衡化したSephadex G−25カラムを用いて脱塩してから、限外濾過によって再び濃縮した。この溶液を、9,250g、5分間、4℃にて遠心分離し、濾過滅菌した。FPLC陰イオン交換精製を、15xリン酸バッファーの0−30%の直線勾配を用いて、Amersham−Pharmacia Source−Qカラム(120x26mm)上で行った。A418/A280>0.35である画分を回収して、限外濾過によって濃縮し、50%(v/v)グリセロール中で−20℃にて保存する前に、濾過滅菌した。グリセロール及び塩を、50mM、pH7.4のTrisバッファーで予め平衡化したAmersham Pharmacia 5ml PD−10カラムを用いて、実験直前にタンパク質から除去した。
【0129】
NADPH代謝回転率の測定
NADPH代謝回転(ブタン及びプロパンを除く)を、30℃にて酸化され、DMSO中、100mMのストックとして添加される0.1又は0.25μMの酵素、125μgのウシ肝臓カタラーゼ及び1mMの基質を含む、1250μLの50mM Tris(pH7.4)中で行った。タンパク質濃度は、(13)に記載されるようにして、又は、CO−示差スペクトルを介して測定した(Omura,T and Sato,R(1964)J.Biol.Chem.239,2379−85)。最終濃度約160μM又は約320μM(1又は2AUと等量)となるように、20mg.ml−1ストックとしてNADPHを添加する前に、アッセイを30℃にて1分間行った。ブタン及びプロパンについての代謝回転の場合、基質を、最低30分間、氷上で、3000μLのTris中にバブリングさせながら、氷上で、1000μLのTris中に酸素をバブリングさせた。CYP102Al(0.25μM)及びカタラーゼ(上記と同じ濃度)を、酸化画分、続いて、基質を飽和させたTrisに、ゆっくりと添加した。一杯になったキュベットを迅速に密閉し、数回逆さまにして、1AUのNADPHの添加前に、30℃にて2分間維持した。
【0130】
全ての代謝回転において、340nmでの吸光度の減少をモニタリングし、NADPH消費率を、ε340=6.22mM−1.cm−1を用いて導いた。正確な結合率の測定を確実に行うために、最大2.5μMの酵素濃度を使用して、WT及びF87Aの代謝回転を、必要な場合には完了するまで、より遅くさせた。少なくとも3つの実験から得られたデータを平均して、±5%以内(芳香族)又は±10%以内(アルカン並びに200min−1以下のNADPHとの全ての代謝回転率)とした。
【0131】
生成物分析
ラウリン酸以外の基質に関しては、3μLの内部標準(DMSO中、100mM)を、 400μLの酢酸エチル又はクロロホルム中への抽出前に、1000μLの各代謝回転完了物に添加した。遠心分離を、1500μLの微小遠心管中で、21,000g、3分半行った。真正相当物について観察されるGC溶出時間と照合することにより、生成物を同定した。異性体による一酸化生成物は比較可能な反応を生じ得るという仮定に基づき、FID反応を、以下の表で詳述される各生成物群に対する代表的相当物を用いて較正した。一定範囲の既知濃度の選択された生成物を含有し、DMSO中、1mMであるサンプルを、Tris中で調製し、上記のようにして抽出した。導かれた積分ピーク面積は、内部標準のピーク面積の割合として表され、生成物濃度に対してプロットされた。2−メチル−2−フェニル−プロパン−l−オール(これは、商業的に供給され得なかった)を、インビボで生成し、単離して、MSによって同定した:M149.00;及び、H NMR:d1.38(6H,s,gem ジメチル),3.59(2H,s,CH),7.24(1H,m,p−フェニル),7.34(2H,m,m−フェニル),7.37(2H,m,o−フェニル)。CYP102Al及びその変異体によるラウリン酸の酸化に関しては、990μLのインキュベーション混合物を、10μLの内部標準溶液(エタノール中、25mMのデカン酸)及び2μLの濃HClと一緒に混合した。得られた混合物は、400μLの酢酸エチルを用いて3回抽出し、有機抽出物を合わせて、MgSO上で乾燥させた。
【0132】
溶媒を窒素流の下で蒸発させ、サンプルを200μLのアセトニトリル中に溶解させた。過剰な(25μLの)N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド及びトリメチルクロロシラン(BSTFA+TMCS,99:1)を添加し、この混合物を少なくとも120分間放置することにより、形成される場合には、カルボン酸グループのトリメチルシリルエステルと、アルコールのトリメチルシリルエーテルとを生成した。反応混合物は、GC分析のために直接使用した。
【0133】
【表1】

【0134】
【表2】

【0135】
結果
強化された活性及び変化したインビボでの生成物選択性の両方に関してスクリーニングされたランダム突然変異誘発によって作製された変異体において、5つの特定の変異体がインビトロの試験のために選択された。これらは、以下であった:
(i) A330P
(ii) A191T/N239H/I259V/A276T/L353I (変異体KT2)
(iii) F87A/H171L/Q307H/N319Y (変異体 KSK19)
(iv) F87A/A330P/E377A/D425N (変異体 KT5)
(v) F87A/A117V/E131D/L215I (変異体 LO25)
【0136】
全ての5つの変異体は容易に発現され、標準的な手法によって精製された(13)。50% v/vのグリセロール中、−20℃での保存において、少なくとも15ヶ月の間、不活性な“P420”が生成した証拠は何ら示されなかった。変異体LO25は、その他の4つの変異体と比べてあまり研究されていないが、これら5つの初期変異体において最も高い活性およびダマスコン/イオノンクラスの分子に関する選択性を有しており、例えば、86%のヒドロキシダマスコン生成物を形成する。A33OP、KT2、KSK19、およびKT5の活性を、広範な基質を用いてアッセイした。これらのうちのいくつかに関するデータを、表1〜20中に示す。そこにおいて、NADPHの酸化および生成物の形成速度(PFR)がnmol(nmol P450)−1min−1の単位で示され、以下、文中ではmin−1と略される。結合効率は、消費されたNADPHに基づく生成物の収率であり、パーセンテージで示され、る。いくつかの場合においては、NO20020380中に開示されたA74G/F87V/L188Q(GVQ)変異体と、触媒パラメーターを比較している。
【0137】
本発明の4つの変異体(A330P、KT2、KT5、KSK19)は、ナフタレン(3.1min−1)によるWTのPFRを少なくとも大幅に増大させ、A330Pは最も効果的であり、155min−1であったが、GVQ変異体(表1)により記録される487min−1とはいずれも合致しなかった。全ての場合において、1−ナフトールが、唯一のGCで検出可能な生成物であった(23)。
【0138】
WTは、606min−1において、プロピルベンゼンに対して顕著に活性であり70%の結合であった。本発明における4つの変異体のうちの3つは、GVQ変異体(943min−1)と同様のPFRを有し、一方、4つめのKT2は、顕著に大きい2205min−1を有していた(表2)。WT及びKT2は99%以上の1−フェニル−1−プロパノール収率を得たが、その他の新たな変異体は、活性化ベンジル位から離れた酸化を導いた。変異体A330Pは、CYP102A1の代謝回転において先に報告されている生成物のタイプではない30%のオルト−フェノールを与え、一方、変異F87AおよびA330Pの組み合わせを有する変異体KT5は、80%の1−フェニル−2−プロパノールを与えた。変異F87Aは、1−フェニル−2−プロパノールの生成を促進することが知られているが、単独で作用する場合には、わずか54%の収率であった(46)。
【0139】
生成物形成速度をさらに上昇させるために、いくつかの基質(13,14,17)に対するCYP102A1活性を増大させることが示されているR47L/Y51F(RLYF)対を、変異体A330PおよびKT2へと取り込ませた。得られた2つの非常に活性な第二世代の変異体は、RLYF/KT2およびRLYF/A330Pであった。単独部位変異も、ヘム表面ならびに活性部位の周辺の各種の残基へと導入され、これらはまた、第一ラウンドで同定された前記5つの変異体と組み合わされた。これら第二世代の変異体の活性を、インディゴ形成およびインビボ酸化スクリーニング手法によりスクリーニングした。I401PおよびQ403P変異体を、インビボ酸化手法から得られる新たな変異体として見込みがあるものとして同定し、それらを調製した。組み合わせ変異体R47L/Y51F/I401P、F87A/I401PおよびR47L/Y51F/A330P/I401Pも調製した。
【0140】
RLYF/KT2は、496min−1でナフタレン代謝回転におけるGVQ変異体のPFRに匹敵し、RLYF/A330Pは、666min−1で、35%程度上回り、一方、I401Pは1183min−1で、依然としてさらに活性であった。Q403Pは121min−1のPFRおよび25%の結合を示し、それらは変異体KT2の値と同様であった。プロピルベンゼンにおけるRLYF/KT2のPFRは2688min−1で、KT2に対し22%向上した。この速度は、天然基質(47)におけるWTに関し報告されていた値に接近するもので、一方、I401Pは3578min−1で、天然基質に対する値を上回った。生成物のプロファイルは、第一世代の変異体に対してほとんど変化がなかったが、RLYF/A330Pは、いくらかのp−プロピルフェノールを与えた(表2)。また、F87A指向生成物プロファイルを高い割合で得るために、KT2を変異F87Aと組み合わせた。変異体F87Aを伴う系列において、変異体F87A/KT2は、プロピルベンゼンを酸化して、ほぼ等量の1−フェニル−1−プロパノールおよび1−フェニル−2−プロパノールとしたが、F87Aに関する241min−1に対し、566min−1のPFRであった。その他のアルキルベンゼンも、WT CYP102A1および新たな変異体に対する基質として試験した。トルエンに関し、特にRLYF/KT2、RLYF/A330PおよびI401Pにおいて、劇的な活性強化が観察された(表3)。Q403P変異体の効果は、変異体KT2のそれと再び同様であった。生成物形成速度が最も早い変異体より、低い速度で行われる変異体に関してではあるが、大きな選択性のシフトも明白であった。WT CYP102A1は、トルエンを主にo−クレゾールへと酸化した(98%)。この環の酸化は予期せぬことであった、なぜなら、ベンジル性のC−H結合は高度に活性であるからである。例えば、Pseudomonas putida由来のWT CYP101A1は、ベンジル位を攻撃して95%を上回るベンジルアルコールを形成した。変異体RLYF/A330Pは、60〜189min−1の係数でPEFを増加させ、結合効率は9%から52%へと上昇、一方で側鎖の酸化は最小限に保たれていた。I401P変異の付加は、活性において別の増加を与え、NADPHおよび基質の酸化速度は3732min−1および1824min−1にそれぞれ増加した。とりわけ、49%という結合効率は、RLYF/A330Pのそれ(52%)およびA330P変異体(45%)のそれから大きく変化せず、I401P変異の主たる効果がNADPH代謝回転速度の増大であることを示唆した。その他の示された変異体は共に、代謝回転活性および選択性を増大させ、例えば、変異体F87A/KT2は48%のベンジルアルコールを与え、一方、変異体KT5は収率95%のベンジルアルコールおよびちょうど5%のo−クレゾールを与えた(表3)。
【0141】
NADPHの速度および結合は、通常、プロピルベンゼンよりもブチルベンゼンにおいて低く、WTおよび最も速度が速い変異体であるRLYF/KT2に関し、229min−1および1670min−1のPFRが記録されている(表4)。ヒドロキシル化は、WT−RLYF/KT2のサブグループ内であってさえ、ベンジルのみに起こるのでは何らなく、〜10%程度は側鎖の隣の2つの位置で起こる。ほとんどのその他の特異性変化は、プロピルベンゼンについて観察されるものと酷似していた。F87A変異体は非ベンジル位置における酸化を増加(KT5では80%程度)させ、一方、変異体F87L/KT2はo−ブチルフェノールの十分量(32%)を形成した。しかしながら、A330Pは、特にRLYFとの組み合わせた場合に、p−ブチルフェノールの形成を指向し(26%)、一方でベンジル位の酸化レベルは10〜13%程度に低減された。
【0142】
ほとんどの変異体に関し、t−ブチルベンゼンによるNADPH代謝回転速度は、ブチルベンゼンに対するそれらと調和していたが、結合のレベルは、F87A変異体の場合を除き、大幅に減少していた(表5)。GVQ変異体である、F87A/KT2およびKSKl9は、全てWTに対し2桁強度でPFRが向上し、最も高い速度は、新たな変異体であるF87A7KT2において与えられ、WTの2.4min−1に対し、234−1であった。F87AおよびF87V変異体は、側鎖における非活性のC−H結合において専ら酸化を行い、従来の方法では合成しにくい2−メチル−2−フェニル−1−プロパノールを得た。WTおよびその他の変異体により形成される生成物の主たるものはフェノール性で、オルト−ヒドロキシル化よりもパラ−ヒドロキシル化を伴うが、A330P変異は芳香性の酸化の傾向を増大させ、生成物をさらにパラ−フェノールへとシフトさせた。
【0143】
エチルベンゼン(表6)により、本発明の変異体は、通常、WT(60min−1)を超える強化された活性を示した。最も速度が速い変異体であるRLYF/KT2は、1098min−1のPFRを示した。RLYF/A330Pはまた、高いPFR(1062min−1)を与え、これは、部分的には、A330P変異体がWTよりもエチルベンゼンに良好に結合する(28%に対し55〜62%)ためである。変異体の結合速度は、対照的に、WTのそれよりも低値(22〜30%)に留まる。WTは再び、プロピルベンゼンの代謝回転よりもベンジル位に対する低い特異性を示し、10%のo−エチルフェノールを形成する。A330Pを含有する変異体は、この生成物をより高いパーセンテージ(21〜27%)で形成し、一方、KSK19およびGVQ等のF87AおよびF87V変異体は、生成物混合物からそれを無くさせ、100%の1−フェニルエタノールを得た。KT5の代謝回転は、少量の2つのその他の生成物:2−フェニルエタノールおよびスチレンを産生した。前者は、活性化されていないエチル置換基のC−H一次結合における酸化から生じる。一方、後者は、CYP102A1により触媒される単純炭化水素の脱水素に関する発明者らの知識に対しては初めての観察結果である。
【0144】
活性化ベンジル性炭素の隣のメチル基における周辺攻撃は、達成されにくい、なぜなら、もしこれらの2つのタイプの結合が同じ距離に存在し、同程度にP450フェリ中間体へと接近可能であったとすると、より多くの活性化C−H結合が、より迅速に攻撃を受けるからである。すなわち、KT5は、ベンジル性C−H結合よりもメチルC−H結合の方を、よりフェリの近くへと配置させる方向で、エチルベンゼンと結合し得る。脱水素反応において、フェリ中間体は、水素原子を取り去ってFeIV中間体を形成し、次いで、基質ラジカルは、FeIV部分に由来するヒドロキシラジカルと組み合わさることによって崩壊するかわりに、基質から第二の水素を取り去って、アルケンおよび水を形成する。哺乳類のP450酵素による3−メチルインドールの脱水素は1996年に初めて報告され、以来、これがインドール、カプサイシン、および薬物のヒトP450酵素による脱水素(48−52)へと拡張してきた。CYP102A1による脱水素を経由した、ニフェジピンの芳香族化が報告されている(53)。しかしながら、この反応は、2つの非局在化芳香族系の形成によって引き起こされる。
【0145】
天然の炭化水素であるp−シメン(4−イソプロピルトルエン)は、それが4つのフレーバー化合物の前駆体であるため、興味深い基質である。WTは、82%のp−α,α−トリメチルベンジルアルコールを与え、それはイソプロピル側鎖のメチンC−H結合が酸化されて生じる。少量の2つの可能性がある芳香族ヒドロキシル化生成物である、チモール(3%)およびカルバクロール(7%)、および、わずか2%の4−イソプロピルベンジルアルコールが見出されている。対照的に、変異体A330Pは19%のチモール、17%のカルバクロール、22%の4−イソプロピルベンジルアルコール、およびわずか37%の7−α,α−トリメチルベンジルアルコール(表7)を形成した。F87L/KT2は、74%の4−イソプロピルベンジルアルコールおよび21%のカルバクロールを、通常的な主要生成物であるp−α,α−トリメチルベンジルアルコールをわずか5%の生成物混合物として伴って与えた。変異体KSK19において活性の促進が観察され、WTの168min−1に対して1442min−1のPFRが得られた。イソプロピル環の置換基における脱水素を介して、p−α−ジメチルスチレンが形成された。さらに、いったん形成されると、この化合物はこの酵素の基質でもあり、少量(総生成物の1〜3%)の相当するスチレンオキシドが観察される。F87A−およびF87V−含有変異体は、フェノールの形成を最小化するか、または完全になくしたが、顕著な量(>20%)のp−α−ジメチルスチレンを与えた。
【0146】
本発明の変異体は、クメン酸化活性の増加を示した。単独部位変異体のA330PおよびQ403P、およびKSK19変異体は、野生型を超える、同様の強化された活性を示し、それは主として、増加KT5変異体に関するものよりも高いNADPHの代謝回転速度の増加に起因する。WTは、ほとんどはベンジル性酸化生成物を生じたが、KT5は、脱水素から27%の1−メチルスチレンを生じ、また、さらなる酸化から、1%のスチレンオキシド生成物を生じた(表8a)。結果は、アルキル置換基における2位の一次C−H結合を伴う芳香族化合物は、脱水素を引き起こすことを示す。この反応経路は、例えば、エチルアニソールからのビニルアニソールの調製等のポリマーへの前駆体である置換されたスチレンの合成方法の基礎を形成し得る。
【0147】
KT2およびA330Pは、特にRLYFと組み合わせた場合に、野生型に比べ、短鎖アルカンに対する非常に強化された活性を示した(表9〜13)。I401P変異体も、高度に活性であることがわかった。RLYF/KT2およびRLYF/A330Pは、ペンタンに対し同様の生成物形成を示し(それぞれ、1206min−1および1183min−1、結合効率60%および67%に基づく)、それらはWTのものの75倍であった。これらの変異体における結合効率の向上は重要であり、なぜなら、それらは、活性部位のトポロジーおよび基質の間のマッチングを大いに向上させることを示すからである。
【0148】
これらの変異体における高い活性は、3−メチルペンタン(全て、WTに関する20min−1に対して1000min−1を上回る、表10)、2−メチルブタン(WTに関する51min−1に対して、RLYF/KT2およびRLYF/A330Pの両方で1000min−1を上回る、I401Pではより低い活性で721min−1、表11)、およびブタンを通じて維持されていた。I401P変異は、それ自体で主としてNADPHの代謝回転速度を増加させ、およびRLYF対と良好に組み合わされて、3−メチルペンタンの酸化に関するPFRを2980min−1へと上昇させた。一方、三重変異体のRLYF/A330Pは、プロパンに対し、RLYF/KT2と比べて顕著に良好な結合を示し、2−プロパノールを5.8min−1に対し46min−1で形成した。I401P変異の追加は、NADPHの代謝回転速度を増加させ、結合における中程度の増加を伴い、RLYF/A330P/I401P変異体に関するプロパン酸化について、430min−1のPFRをもたらした。これらの速度は、先に報告されたCYP102A1変異体9−10A、1−12Gおよび53−5H、それに次ぐ世代の13−15変異を個々に含むアルカンヒドロキシラーゼ(30,31)に関する23min−1、160min−1および370min−1に匹敵する。比較として使用したGVQ変異体は、プロパンに関しRLYF/A330Pよりも高いNADPH代謝回転速度(180min−1に対し400min−1)を与えた。我々が気づいている限りで、この基質によるその向上は報告されていない。しかしながら、結合は、RLYF/A330Pの21%に対し、わずか0.7%であった。このことは、研究された基質の範囲にわたり、どのようにA330PおよびKT2がGVQと比較されかに関する、大きな特徴的な例である。これら2つの変異体におけるNADPHの速度はしばしば、より低いことが多く、全体的な生成物の形成は、一般的に、より効率的な結合を行うために、より高い。この特性が主として代謝回転速度を増加させるI401P変異と組み合わされた場合、R47L/Y51F/A330P/I401P等の得られた変異体は、一定範囲の非天然基質に関し、野生型を超える通常では考えられない活性の増加を達成することができる。
【0149】
アルカンの鎖長が長くなるほど、ほとんどの変異体について基質はより乏しくなり、RLYF/KT2およびRLYF/A330Pは、オクタンについて、WTの53min−1に対し、それぞれ246min−1および230min−1のPFRを与えた(表13)。Q403Pは、野生型を2倍超える中程度活性の増加を示し、104min−1のPFRを与え、一方、I401Pはより活性が高く、709min−1であった。RLYF/KT2およびI401Pは野生型と同様の生成物選択性を示したが、変異体A330Pは、−および4−オクタノール(31,54)を費やした場合の2−オクタノール形成が顕著に増大した(WTに関する15%に比較して53%、表13)。末端位置におけるアルカンの指向性酸化の効果は、直接的なアルカンの酸化を介して末端アルコールを合成するための全体的な研究においてその他の変異を組み合わせる際の資産として有用である。
【0150】
本発明の変異体はまた、1,4−ジクロロベンゼン(1,4−DCB)により例示されるような塩素化した芳香族化合物の酸化に関する活性の増加を示した。この増加は主としてより高いNADPH代謝回転活性に起因し、一方で、結合はWTよりもさほど高まらない。最も高い結合はA330P変異体における15%であった(表14)。ガスクロマトグラフィーにおいては、1つの生成物のみが検出されたが、用いた条件下ではこれが2,4−または2,5−ジクロロフェノールのいずれであるかは決定できなかった。塩素化されたベンゼン および芳香性酸化に関する本発明の変異体の効率が結果として示された。
【0151】
我々は、WTのCYP102A1およびF87A等の変異体によるセスキテルペンのバレンセンの酸化を先に報告している(14)。その酵素は、ヌートカトール、ヌートカトンおよびエポキシ化生成物を含む多数の生成物を形成した。F87A変異は、生成物選択性をわずかにヌートカトンへとシフトさせることが示された(約20%)。比較として、変異体KSKl19は、バレンセンの酸化速度をWTに対し30倍に高めた(表15)。より重大には、それはグレープフルーツフレーバーであるヌートカトンの産生を変異体F87Aに対し2倍にした。変異体F87A/KT2およびKT5は、ヌートカトンの産生を〜30%増加させ、F87Aそれ自体を超えてPFRを増大させた。
【0152】
WO0031273は、CYP102A1によるモノテルペンの酸化を開示した。この新たな変異体は、WTおよび先に報告された変異体よりも高い活性を示した。この新たな変異体の触媒活性を、R−およびS−リモネンの酸化に関し、WTのそれらと比較した(表16;16a)。形成される2つのエナンチオマーは、両酵素により異なる生成物を生成したが、代謝回転活性および結合は非常に近いことは特筆すべきであり、CYP102A1基質ポケットの非対称構造が立証された。リモネンの酸化活性は全ての変異体で増加しており、Q403P、I401PおよびR47L/Y51F/I401P三重変異体は、野生型CYP102A1による脂肪酸天然基質(ラウリル酸)の酸化に関し、同程度または、より高い活性を示した(1439min−1、表20参照)。再度、これらの変異体は、野生型と同様の生成物選択性を示し、主としてカルベオールを形成し、一方、A330P−およびF87A−含有変異は、主たる生成物であるイソピペリテノールに関する選択性の変化を有していた。KT2およびI401Pの両方が一般的な加速因子変異として機能することも明白である。(+)−α−ピネンについて、WTは活性をほとんど有さなかったが、 F87A/KT2変異体は206min−1のPFRを有し、およびベルベノールに対する生成物選択性が変化した(表17)。F87G変異を導入することの効果は、興味深い。主たる生成物としてベルベノールを維持した場合に、I401PおよびF87A/I401P変異体はより活性であった。I401PとR47L/Y51F対との組み合わせは、PFRを1146min−1まで上昇させたが、その生成物は56.5%までcis−l,2−オキシドに変化し、A330P変異によって選択性の傾向はさらに強化された。
【0153】
フルオレンは、ナフタレンよりも、より立体的に厳しい基質であり、インビボスクリーニング手法において用いた。R47L/Y51Fの組み合わせは、活性をわずかに上昇させ、A330P変異の追加はNADPHの代謝回転速度を510min−1に増加させたが、結合効率は低かった(表18)。Q403PおよびI401P変異はより顕著な効果を有し、R47L/Y51F/I401Pの組み合わせは特に活性で、野生型の0.1min−1に対し582min−1のPFRを示した。イオノンクラスの化合物は、フレーバー化合物の前駆体である。表19に野生型およびいくつかの新たな変異体のβ−イオノン酸化活性を示し、R47L/Y51F/I401P等の組み合わせ変異体における有望な活性の増加が強調される。
【0154】
ラウリル酸(ドデカノイル酸)は、CYP102A1が認識する天然基質で、2777min−1のNADPHの代謝回転速度および1439min−1のPFRを伴う。A330P変異により誘導される構造的な摂動は、事実上CYP102A1によるラウリル酸の酸化を廃止させ、一方、I401P変異はNADPHの代謝回転速度を増大させ、結合効率は維持して、天然基質の酸化に関し、野生型より40%以上、変異体の活性を高めることに導いた。明らかに最初の電子伝達の速度は増加し、このことは、この変異体におけるプロセスに関する、酸化還元電位、ヘムのスピン状態、および再組織化エネルギーの変化を示唆する。R47L/Y51F/I401P変異体は、より高いNADPHの代謝回転速度を示しさえしたが、結合は低下し、これは多分、R47およびY51側鎖が炭化水素アンカーのためには適用可能ではなく、結合およびそれによる結合が変化したためであろうと思われる。F87A変異はラウリル酸を酸化してサブターミナルな炭素へと変化させることが知られており、I401P変異は、F87A変異の選択性変更効果を維持しながら、活性を増加させた。
【0155】
これらの知見は、先行技術の顕著な集合にもかかわらず、CYP102A1系が依然として、定向進化および部位特異的突然変異誘発法の応用に関して、向上した活性および生成物選択性を有する変異体が特徴付けられ得る余地(fertile ground)を残していることを示す。本発明の全ての変異体は、発明者らの知見が先に開示していない数多くの変異を含む。
【0156】
A330P変異は、広範な化合物に対する活性増大という需要の多い効果を有し、一方、それ自体で、ならびに別の選択性変更変異(F87A)と組み合わせたときに、生成物プロファイルを変化させる。一方、I401Pは、選択性における影響はほとんどない一般的な速度加速因子として機能する。I401は、ヘムに近接したβバルジ上に存在し、電子伝達に影響を及ぼし得る。A330Pは、定向進化生成物ではありそうになく、知られているような残基を変化させて協調させて集めたものというよりも、単独点変異に由来する孤立性の置換におけるその有効性に頼っていると思われる。プロリンは、β鎖の末端における基質接触残基である329位に存在するプロリンの横に、直接的に導入される。結果として生じるバックボーンの柔軟性減少が結晶構造から予測され(図2)、活性部位ポケットがくびれさせられて基質結合がよりタイトになり、活性が強化されることが予測される。この説明は、観察される通常的でない、かつ可能性として有用な選択性効果と合致し、WTよりも活性部位ポケットがより広く開いているF87Aによってもたらされる効果においては、通常逆となる。CYP102A1において、または、実際にその他の酵素系の設計変更において、隣接するプロリン残基の配列が各所に配置されているかどうかを調べることは興味深いであろう。
【0157】
A330P変異体の結晶構造が得られ、これを図2に示す。この変異体のCalphaの位置は野生型のそれと広く重ね合わせることができたが、位置328、329および330における顕著な再配置が存在した。図2に示すように、導入されたA330P変異は、基質結合ポケットに対するPro329の環における劇的なシフトを誘導し、活性部位の体積を減らし、かつ、重要な領域における基質アクセスチャンネルを制限した。これらの構造変化が、Pro329環が基質ポケットの方向へと突出することに起因する、非天然基質の結合増大や、生成物選択性の変化等の、A330P変異で観察される通常的でない効果のほとんどをもたらすと考えられる。しかしながら、それらはヘリックス等の二次構造要素の終結停止をもたらすことはない。
【0158】
これらの予期せぬ知見に基づいて、プロリン等のかさの大きい残基を取り込むことを介したループ領域の再編成に関する可能性をさらに調べた。具体的には、近位のヘムリガンドのCys400を提供するAla399−Gln403ループ中でプロリン置換を実行した。Arg398は静電的相互作用および水素結合相互作用に関与し、タンパク質の折り畳みを安定化するのに重要であると考えられ、一方、Gln403を越えたところにある残基は、多分、何らかの影響を及ぼすには、ヘムからあまりに離れていると考えられる。探索された変異は、したがって、A399P、I401P、G402PおよびQ403Pであった。実施例の項に示すように、I401PおよびQ403Pの両方は、酵素活性に対し顕著な強化をもたらした。
【0159】
例えばFe−Sの距離を変化させてFe−S結合相互作用の強度を変化させるように、残基401および403をプロリンへと変異させることは、近位のループにおける構造的変化を誘導し得る。このことは、ヘム鉄がより容易に還元されるように導き得、電子伝達への再組織化エネルギーを低め、触媒サイクル中で、ヘム鉄が容易にポルフィリン環における平面へと移動できるようになる。
【0160】
プロリン等のかさの大きい残基を取り込むことを介したCYP102A1におけるループ領域の再編成は、顕著であり特異的な構造メカニズムであり、本発明のA330P、I401PおよびQ403P置換変異体に対し共通である。
【0161】
その中にA330PおよびF87Aが共に生じている変異体KT5は、A330PよりもF87Aにおける選択性変化特徴を促す。しかしながら、関与されるその変化は、その他のF87A含有変異体によりもたらされるものよりも顕著であり得(例えば、トルエンから、F87A/KT2での48%、F87Aでの23%、および、WTでの2%に対し、95%のベンジルアルコールを生じる)、かつ、しばしば生成物形成速度は増大し、一定範囲の補完的可能性を創出する。そのことは、A330Pを、A264G、A82LおよびA328V等のその他の公知の選択性指向変異とどのように組み合わせるかを考えるために興味深い。
【0162】
変異体KT2(A191T/N239H/I259V/A276T/L353I)およびF87A/KT2は、WTおよび変異体F87Aのそれとそれぞれ似通った生成物プロファイルを与えた。同様に、I401Pは野生型の場合と同一の生成物を生じる一定範囲の基質に関する速度を加速させた。したがって、KT2およびI401Pは、加速因子として機能する。KT2における部分変異N239Hおよび1259Vは先に報告されている(55)。しかしながら、変異体KSK19は、初期のF87Aを含み、F87A/KT2と同様の選択性パターンを有し、わずか3個のその他の変異を含んでいるにもかかわらず、一定範囲の基質にわたり、やや高まった活性を有する。このことは、F87Aを含まないKSK19の誘導体は、それが調製されたときに、加速因子としてKT2よりも可能性があると示され得ることを示唆する。
【0163】
KT2およびKSK19において速度を加速させる因子として作用すると思われる変異(H171L、A191T、N239H、I259V、A276T、Q307H、N319YおよびL353I)のうち、Gln307およびAsn319(図1)は、レダクターゼドメインに対するドッキング部位であり、そこからヘムドメインが電子を受け取ると考えられる領域に対し接近して存在し(56)、電子伝達動力学に影響を与え得ると考えられる。Leu353は基質アクセルチャネル残基であるMet354,のとなりに位置し、一方、アクセルチャネルの外縁上に配置されるAla191はパルミチンが結合した場合に顕著に動かされ(57)、かつ、基質の誘致および/または捕捉に役割を果たし得る。残る4つの変異(His171、Asn239、Ile259、Ala276)は、タンパク質表面上に、または接近して存在し、それらが機能する詳細なメカニズムは依然として解明されていない。少なくとも、変異のうちのいくつかは、CYP102A1の構造におけるそれらの状況に関して合理性を有し得ると推測される。P450酵素の代謝回転活性は、触媒サイクルを開始する最初の電子伝達ステップにより速度制限されている。電子伝達反応の速度は一般にマーカス理論で議論され、この理論は、電子伝達に対する活性化エネルギーは熱力学的駆動力(反応の自由エネルギー変化)および再組織化エネルギー(反応物の状態を変化させて生成物の状態へと近づけるために必要とされるエネルギー入力)に依存するということを述べている。基質の結合は、ヘムの電子的特性を変化させることにより、主要な役割を担い、ほとんどの場合、ヘム鉄に対する6番目のリガンドが外れ、従って、反応熱力学がより好都合になり(より高い駆動力)、電子伝達に関する再組織化エネルギー障壁がより低くなる(より少ない反応物の状態を変形させる必要がより少なくなる)(58)。例えば、活性部位の置換などにより、活性部位の構造が変化すれば、非天然基質の結合は促進され、より迅速な基質の酸化が見られるようになる。
【0164】
基質結合(および、すなわちヘムの電子特性)を変化させるための別のメカニズムは、基質ポケット周辺の二次構造要素における変化の導入であり得る。P450酵素において、基質ポケットは、通常、BおよびB’ヘリックス、BCループ、F/Gループ、GヘリックスおよびIヘリックスに由来する残基によって規定される。これらの二次構造要素の位置に変異を導入することによって、基質ポケットから遠く離れた残基におけるアミノ酸の置換が、基質結合を変化させ得る。His171はFヘリックスの始まりに位置し、L215においてGヘリックスと接触する。N239はHヘリックス中に存在し、このヘリックスはIヘリックスのN末端終結部に接触する。H171およびN239における置換は、GおよびIヘリックスの配置にそれぞれ影響を及ぼすであろうもので、基質結合を変化させ得る。Ile259およびAla276は共にIヘリックス中に存在する。これらの残基は基質には接触しないが、アミノ酸の置換が、例えば、活性部位中に配置され、間にあるI263の構造変化を引き起こすなどの活性部位の構造に影響を及ぼし得、CYP102A1の活性を変化させることが、発明者等の先の研究により示されている(13)。
【0165】
変異体LO25がL215I変異を含み、それがH171/L215の密接な接近においてFおよびGへリックスの間の接触に影響を及ぼし得るということは特に興味深い。全体的に見れば、いずれの変異も、活性部位には存在していない一方で、それらの全ては、二次構造要素の間のパッキング/相互作用において何らかの役割を果たす残基において存在している。A330Pにより導入されるタンデムなプロリンの配置は独特であり、全く予期しなかったが高度に有益な効果を示す。
【0166】
本発明において開示された変異は、プロセスの開発のために、現存する変異体(例えば、L188Q、R47L、Y51F変異を含むもの)に導入してもよいが、さらなる進化のための出発点として導入してもよい。
【0167】
【表3】

【0168】
【表4】

【0169】
【表5】

【0170】
表A.CYPl02Alヘムドメイン(アミノ酸残基1〜470)と各種の構造的に特徴付けられたチトクロームP450酵素との間の配列相同性
【0171】
【表6】




【0172】
*CYP505(P450foxy)は、構造的に特徴付けられておらず、アラインメントは、ヘムドメインのみを使用した。
【0173】
表B.CYP102Alの全体配列と各種チトクロームP450酵素との間の配列相同性(アラインメントはSwissprotタンパク質データバンク中のタンパク質に対して行われた)。同じサブファミリーであるにもかかわらず、CYP102A2及びCYP102A3は、CYPl02Alとわずか59%及び58%の相同性であることに留意されたい。
【0174】
【表7】

【0175】
表C.アミノ酸の物理的特性
【0176】
【表8】



【0177】
表D.ハイドロパシースケール
【0178】
【表9】

【0179】
表1:CYPl02Al変異体のナフタレンとのインビトロ酸化活性、結合効率、選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。唯一検出可能な生成物は、1−ナフトール(l−オール)であった。
【0180】
【表10】

【0181】
表2:CYPl02Al変異体のプロピルベンゼンとのインビトロ酸化活性、選択性及びスピンシフト。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、1−フェニル−1−プロパノール(l−オール)、l−フェニル−2−プロパノール(2−オール)、2−プロピルフェノール(オルト)及び4−プロピルフェノール(パラ)であった。少量の1−フェニル−1−プロパノン(1%以下)及び3−フェニル−l−プロパノール(0.5%未満、KT5のみ)も形成された。「−」は、検出されなかったことを示す。(*)パーセンテージは、これらの及びその他の微量生成物のため、100になるようには合計しなかった。
【0182】
【表11】

【0183】
表3:CYPl02Al変異体のトルエンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、ベンジルアルコール(l−オール)、o−クレゾール(オルト)及びp−クレゾール(パラ)であった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0184】
【表12】

【0185】
表4:CYPl02Al変異体のブチルベンゼンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、1−フェニル−l−ブタノール(l−オール)、l−フェニル−2−ブタノール(2−オール)、4−フェニル−2−ブタノール(3−オール)、2−ブチルフェノール(オルト)及び4−ブチルフェノール(パラ)であった。(*)は、1−3%の1−フェニル−1−ブタノンを含む。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0186】
【表13】

【0187】
表5a:CYPl02Al変異体のt−ブチルベンゼンとのインビトロ酸化活性、選択性及びスピンシフト。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2−t−ブチルフェノール(オルト)、4−t−ブチルフェノール(パラ)及び2−メチル−2−フェニル−プロパン−l−オール(l−オール)であった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0188】
【表14】

【0189】
表5b:CYPl02Al変異体のエチルベンゼンとのインビトロ酸化活性/選択性及びスピンシフト。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、1−フェニルエタノール(l−オール)、2−フェニルエタノール(2−オール)、2−エチルフェノール(オルト)及びスチレンであった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0190】
【表15】

【0191】
NB/結果が、検出装置の反応による再較正後に、F87A、F87A/KT2、KSKl9及びGVQについても得られた。NADPH代謝回転率は同一であった。結合効率は、23(F87A)、21(F87A/KT2)、25(KSK19)、26(GVQ)であった。生成物形成率は、32(F87A)、120(F87A/KT2)、178(KSK19)、572(GVQ)であった。l−オールは、99%(F87A)、96%(F87A/KT2)、95%(KSKl9)、99%(GVQ)であった。スチレンは、今回、これらの変異体との反応において、2%(F87A)、4%(F87A/KT2)、5%(KSK19)、1%(GVQ)検出された。
【0192】
表6a:CYPl02変異体のo−キシレンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2−メチルベンジルアルコール(l−オール)、2,3−ジメチルフェノール(2,3−フェノール)、3,4−ジメチルフェノール(3,4−フェノール)、2,3−ジメチル−p−ベンゾキノン(ヒドロキノン)及びピロカテコール(カテコール)であった。(*)パーセンテージは、微量生成物のため、100になるようには合計しなかった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0193】
【表16】

【0194】
表6b:CYPl02A1変異体のm−キシレンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、3−メチルベンジルアルコール(l−オール)、2,4−ジメチルフェノール(2,4−フェノール)及び2,6−ジメチルフェノール(2,6−フェノール)であった。(*)パーセンテージは、微量生成物のため、100になるようには合計しなかった。
【0195】
【表17】

【0196】
表7:CYPl02A1変異体のp−シメンとのインビトロ酸化活性/選択性及びスピンシフト。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、p−α−ジメチルスチレン(p−α−DMS)、p−α−α−トリメチルベンジルアルコール(i−Pr−オール)、4−イソプロピルベンジルアルコール(Me−オール)、チモール、カルバクロール及び非同定生成物であった。(*)は、最大3%のp−α−ジメチルスチレンオキシドを含む。(**)パーセンテージは、その他の微量生成物のため、100になるようには合計しなかった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0197】
【表18】

【0198】
表8:いくつかのCYPl02A1変異体のクメンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、α−メチルスチレン(スチレン)、α−メチルスチレンオキシド(スチレンオキシド)、2−フェニル−l−プロパノール(l−オール)、2−フェニル−2−プロパノール(2−オール)、2−イソプロピルフェノール(オルト)及び4−イソプロピルフェノール(パラ)であった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0199】
【表19】

【0200】
表8a:GC分析後における、いくつかのCYPl02A1変異体のクメンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、α−メチルスチレン(スチレン)、α−メチルスチレンオキシド(スチレンオキシド)、2−フェニル−l−プロパノール(l−オール)、2−フェニル−2−プロパノール(2−オール)、2−イソプロピルフェノール(オルト)及び4−イソプロピルフェノール(パラ)であった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0201】
【表20】

【0202】
表9:CYPl02Al変異体のペンタンとのインビトロ酸化活性、選択性及びスピンシフト。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2−ペンタノール(2−オール)、3−ペンタノール(3−オール)、2−ペンタノン(2−オン)及び3−ペンタノン(3−オン)であった。
【0203】
【表21】

【0204】
表10:CYPl02Al変異体の3−メチルペンタンとのインビトロ酸化活性/選択性及びスピンシフト。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、3−メチル−2−ペンタノール(2−オール)−2つのジアステレオマーは、(A)及び(B)と指名された、及び3−メチル−3−ペンタノール(3−オール)であった。
【0205】
【表22】

【0206】
表11:CYPl02Al変異体の2−メチルブタンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2−メチル−l−ブタノール(l−オール)、2−メチル−2−ブタノール(2−オール)、3−メチル−2−ブタノール(3−オール)、3−メチル−1−ブタノール(4−オール)及び3−メチル−2−ブタノン(3−オン)であった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0207】
【表23】

【0208】
表12:いくつかのCYPl02Al変異体のブタン及びプロパンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、ブタンに対しては、1−ブタノール(l−オール)、2−ブタノール(2−オール)及び2−ブタノン(2−オンone)であって、プロパンに対しては、2−プロパノールのみであった。
【0209】
【表24】

【0210】
表13:CYPl02Al変異体のオクタンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2−オクタノール(2−オール)、3−オクタノール(3−オール)、4−オクタノール(4−オール)、3−オクタノン(3−オン)及び4−オクタノン(4−オン)であった。「−」は、検出されなかったことを示す。
【0211】
【表24】

【0212】
表14:いくつかのCYPl02Al変異体の1,4−ジクロロベンゼンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2,4−ジクロロフェノール及び/又は2,5−ジクロロフェノールであり、これらは、同一のGC溶出時間を有する。GCで検出不可能なセミキノンに対するさらなる酸化は、結合の数値を信用し得ないものとし得る。
【0213】
【表25】

【0214】
表15:CYPl02Al変異体のバレンセンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、シス−及びトランス−ヌートカトール(ヌートカトール)、ヌートカトン、シス−及びトランス−バレンセンエポキシド(Val.epox.)並びにシス−及びトランス−ヌートカトンエポキシド(Noot.epox.)であった。
【0215】
【表26】

【0216】
表16:いくつかのCYPl02Al変異体のR−及びS−リモネンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、1,2−リモネンエポキシド(エポキシド)、シス−及びトランス−イソピペリテノール(イソピペリ)、並びに、シス−及びトランス−カルベロール(カルベロール)であった。
【0217】
【表27】

【0218】
表16a:CYPl02Al変異体のR−リモネンとのインビトロ酸化活性及び選択性。N=NADPH代謝回転率。C=結合効率。PFR=生成物形成率。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、シス−1,2−リモネンエポキシド(シス−1,2)、トランス−1,2−リモネンエポキシド(トランス−1,2)、非同定生成物(U)、シス−イソピペリテノール(シス−3−オール)、トランス−イソピペリテノール(トランス−3−オール)、カルベロール(2つの異性体)(6−オール(A)及び(B))、カルボン(6−オン)及びペリリルアルコール(10−オール)であった。
【0219】
【表28】

【0220】
表17:いくつかのCYPl02Al変異体の(+)−α−ピネンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、2,3−ピネンエポキシド(エポキシド)、シス−及びトランス−ベルベノール(ベルベノール)、ベルベノン、並びに、ミルテノールであった。基質中の不純物質のため、データは、結合効率を誇張して示している。
【0221】
【表29】

【0222】
表17a:いくつかのCYPl02Al変異体の(+)−α−ピネンとのインビトロ酸化活性及び選択性。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。N=NADPH代謝回転率。C=結合効率。PFR=生成物形成率。割合は、nmol・min−1・(nmol P450)−1の単位で示される。生成物は、(−)−2,3−ピネンエポキシド((−)−2,3)、(+)−2,3−ピネンエポキシド((+)−2,3)、シス−ベルベノール(シス−4−オール)、トランス−ベルベノール(トランス−4−オール)、ベルベノン(4−オン)並びにミルテノール(10−オール)であった。
【0223】
【表30】

【0224】
表18:CYPl02Al変異体のフルオレンとのインビトロ酸化活性及び選択性。N=NADPH代謝回転率。C=結合効率。PFR=生成物形成率。全ての割合は、単位nmol・min−1・(nmol P450)−1で示される。生成物は、9−フルオレノール(9−オール)及び2−フルオレノン(9−オン)であった。
【0225】
【表31】

【0226】
表19:CYPl02Al変異体のβ−イオノンとのインビトロ酸化活性及び選択性。N=NADPH代謝回転率。C=結合効率。PFR=生成物形成率。割合は、単位nmol・min−1・(nmol P450)−1で示される。生成物は、4−ヒドロキシ−β−イオノン(4−オール)であった。
【0227】
【表32】

【0228】
表20:CYPl02Al変異体のラウリン(ドデカン)酸とのインビトロ酸化活性及び選択性。N=NADPH代謝回転率。C=結合効率。PFR=生成物形成率。割合は、単位nmol・min−1・(nmol P450)−1で示される。生成物は、11−ヒドロキシドデカン酸(ω−1)、10−ヒドロキシドデカン酸(ω−2)、9−ヒドロキシドデカン酸(ω−3)、8−ヒドロキシドデカン酸(ω−4)及び7−ヒドロキシドデカン酸(ω−5)であった。
【0229】
【表33】

【0230】
【表34】

【0231】
【表35】

【0232】
【表36】

【0233】
【表37】

【0234】
【表38】

【0235】
【表39】

【0236】
【表40】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
増大したモノオキシゲナーゼ活性及び/又は変化した生成物選択性を有し、アミノ酸残基位置330、191、401、403、307、377、425、276、117、131、又は215のうちの一ヶ所又はそれ以上に置換を含む、変異CYP102Al酵素。
【請求項2】
CYP102Alのアミノ酸残基1〜480と少なくとも40%の相同性を有し、任意にはその変異断片である、請求項1に記載の酵素。
【請求項3】
CYP102Alの非変異断片を表す、1、2、3、4、5個又はそれ以上の幅の少なくとも15個又は少なくとも20個の連続するアミノ酸を含む、請求項1又は2に記載の酵素。
【請求項4】
以下:
i)位置117、131、215、330、401のうちの一ヶ所又はそれ以上における保存的変異;及び/又は
ii)位置191及び276のうちの一ヶ所又はそれ以上における極性アミノ酸;及び/又は
iii)位置377及び403のうちの一ヶ所又はそれ以上における非極性アミノ酸;及び/又は
iv)位置425における非荷電性残基、
を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酵素であって、任意には、位置117、131、191、215、276、307、330、377、401、403又は425のうちの一ヶ所又はそれ以上に隣接する位置に変異が存在しない、前記酵素。
【請求項5】
以下の位置:47、51、74、82、87、171、188、239、259、263、264、267、319、328、又は353のうちの一ヶ所又はそれ以上に置換をさらに含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の酵素。
【請求項6】
以下:R47L、Y5IF、A74G、A82L、F87A、F87G、F87L、H171L、L188Q、N239H、I259V、I263A、A264G、E267V、N319Y、A328V、又はL353I、から選択される変異を含む、請求項5に記載の酵素。
【請求項7】
前記変異体が、以下の変異又は変異群のうちの一つ又はそれ以上を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の変異CYP102Al酵素:
i)A330P;
ii)A191T/N239H/I259V/A276T/L353I;
iii)F87A/H171L/Q307H/N319Y;
iv)F87A/A330P/E377A/D425N;
v)F87A/A117V/E131D/L215I;
vi)I401P;
vii)R47L/Y5IF/140IP;
viii)F87A/I401P;
ix)R47L/Y51F/F87A/I401P;
x)R47L/Y51F/A330P/I401P;
xi)Q403P;
xii)R47L/Y51F/Q403P;
xiii)R47L/Y51F/F87A/Q403P。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酵素を用いて、前記有機化合物基質を酸化する工程を含む、有機化合物である基質を酸化する方法。
【請求項9】
前記基質が、短鎖アルカン、若しくは、その置換誘導体であるか、又は、芳香族化合物、若しくはアルキルベンゼン、若しくはそれらの置換誘導体である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記基質が、ハロ芳香族化合物又は非環状又は環状のテルペン又はテルペノイド又はセスキテルペン、又はシクロアルケン又は飽和脂肪酸;又はそれらいずれかの置換誘導体である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記短鎖アルカンが、ペンタン、3−メチルペンタン、2−メチルブタン、ブタン、プロパン、エタン及びメタンであるか;又は、前記アルキルベンゼンが、プロピルベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、ブチルベンゼン、t−ブチルベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、クメン、p−シメン、及びエチルアニソールであるか;又は、前記芳香族化合物が、ナフタレン又はフルオレンであるか;又は、前記モノテルペンが、リモネン又はピネンであるか;又は、前記セスキテルペンが、バレンセンであるか;又は、前記テルペノイドが、β−イオノン又はダマスコン等のイオノンであるか;又は、前記飽和脂肪酸が、ラウリン酸又はデカン酸である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酵素と選択的に結合し、CYP102Alと結合しない、抗体。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酵素をコードする配列を、任意に、ベクターの形態で含む、ポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の酵素を発現する細胞。
【請求項15】
原核細胞又は真核細胞である、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
大腸菌、シュードモナス種、酵母、ピチア種、ロドコッカス種、バチルス種の株である、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
その細胞が請求項14〜16のいずれか一項に記載されている、トランスジェニック動物又は植物。
【請求項18】
前記有機化合物基質が、請求項14〜16のいずれか一項に記載の細胞中において酸化される、請求項8〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
請求項8〜11のいずれか一項に記載の基質で汚染された場所を処理する方法であって、請求項1〜7のいずれか一項に記載の酵素又はその一つ若しくはそれ以上の酵素の混合物、又は、請求項14〜16のいずれか一項に記載の細胞、又は、請求項17に記載のトランスジェニック動物若しくは植物と、該場所とを接触させる工程を含む、方法。
【請求項20】
CYPl02Alを用いて行われた場合の方法と比較して異なる数の生成物が形成される、請求項8〜11又は18のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−539967(P2010−539967A)
【公表日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−527539(P2010−527539)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【国際出願番号】PCT/GB2008/003407
【国際公開番号】WO2009/047498
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(510092199)アイシス イノベーション リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】ISIS INNOVATION LIMITED
【Fターム(参考)】