説明

変速機のセレクトリターン装置

【課題】 変速機のセレクトリターン装置の部品点数及び重量を減少させ製造コストを低下させる。
【解決手段】 セレクト方向に回動された作動シャフト11をニュートラル位置Nに戻すセレクトリターン装置20は、作動シャフトに固定されて半径方向に延びるシリンダ部21aを有するセレクトリターンハウジング21と、シリンダ部に摺動自在に支持されて先端部にカムフォロワ23が設けられたピストン部材22と、作動シャフトに回動自在に支持されて半径方向に延びシリンダ部などを収容する開口が形成されかつケーシング10に相対回動不能に係合されたカムプレート25と、ピストン部材22を外向きに付勢してカムフォロワを開口の一部に形成したカム面26aに弾性的に押圧するスプリング24よりなっている。カム面は作動シャフトから最も離れたニュートラル位置を境界として、その両側の傾斜角は互いに逆向きである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機のシフトアンドセレクトレバーが中立位置からセレクト方向に回動された際にこれを中立位置に戻すセレクトリターン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの手動変速機には、例えば特開2000−291790号公報(特許文献1)に開示されたように、シフトレバーをセレクト方向に揺動してシフトアンドセレクトレバーを設けたレバーハウジングを回動することにより複数のフォークシャフトから1つを選択し、シフトレバーをシフト方向に揺動してレバーハウジングを軸線方向に往復動させることにより選択したフォークシャフトを往復動させて変速歯車の切り換えを行うようにしたものがある。
【0003】
図5及び図6はこのような従来の手動変速機の1例を示すものである。この手動変速機では、トランスミッションケーシング1に回動及び往復動自在に支持されたシフトアンドセレクトシャフト2に固定したレバーハウジング3には、摺動体4を介してシフトレバー15の先端の小球部15aに連結されるソケット部3bと、複数のフォークシャフトのシフトピース(何れも図示省略)に選択的に係合されるシフトアンドセレクトレバー3aが一体的に設けられている。シフトレバー15は、その中間部に固着された半球状の支持部16が球面座17を介してケーシング1に固定されたシフトタワー1aに揺動自在に支持されており、互いに対向して支持部16に形成された1対の切欠き16a内にはシフトタワー1aに固定された1対の回転規制ピン17aが挿入されて、シフトレバー15の軸線回りの回転を防止している。シフトタワー1aの開口部内に固定したスプリング受け18aと支持部16の間には支持部16を球面座17に摺動可能に弾性的に押圧するスプリング18が介装され、シフトタワー1aの開口部の外周とシフトレバー15の間には防塵用のブーツ19が設けられている。
【0004】
この手動変速機では、シフトレバー15を図6の矢印に示すように支持部16を中心として揺動すれば、シフトアンドセレクトシャフト2を中心とするセレクト方向にレバーハウジング3が回動してシフトアンドセレクトレバー3aが複数のフォークシャフトのシフトピースから1つを選択し、その状態でシフトレバー15を図5の矢印に示すように支持部16を中心として揺動してレバーハウジング3を矢印に示すように軸線方向であるシフト方向にに往復動すれば、選択されたフォークシャフトが往復動して変速歯車の切り換えがなされる。
【0005】
図4(a) に示すように、前進5段・後退1段のシフトパターンの場合は、セレクト方向では3・4速の位置がニュートラル位置であり、このニュートラル位置から1・2速または5速・後退の位置にシフトレバー15を移動した状態で、シフトすることなくシフトレバー15から手を離せばシフトレバー15及びレバーハウジング3はニュートラル位置に戻るようになっており、このために図4(a) の矢印及び図4(b) に示すようなセレクトリターン力Fが必要である。図5及び図6に示す従来技術では、このセレクトリターン力Fは1対の押圧ピンアセンブリ6により与えられるようになっている。
【0006】
この1対の押圧ピンアセンブリ6は、主として図6に示すように、レバーハウジング3のソケット部3bの両側となるケーシング1に対向して設けられている。各押圧ピンアセンブリ6は、シリンダ6a、押圧ピン6b、スプリング6c及びリテーナ6dよりなるもので、シリンダ6aをソケット部3bに向けてケーシング1の一部にねじ込むことにより取り付けられる。押圧ピン6bは先端が閉じた筒状でシリンダ6a内に後端開口から摺動自在に嵌合され、シリンダ6aの後端開口にかしめ固定されるリテーナ6dとの間に介装したスプリング6cにより付勢されて、自由状態では後端の外向きフランジがシリンダ6aの内面の段部に当接して停止されている。シリンダ6aをケーシング1にねじ込んで取り付けた状態では、押圧ピン6bは前述した停止状態またはそれからわずかに後退した状態で球面状の先端がソケット部3bに当接されている。これによりレバーハウジング3は、自由状態では3・4速位置(セレクト方向におけるニュートラル位置)に付勢されており、1・2速位置または5速・後退位置に揺動されれば図4(b) に示すようなセレクトリターン力Fが生じる。
【0007】
また変速段数を増大して、図3(a) に示すような前進6段・後退1段のシフトパターンとした場合は、同一回転方向に1・2速及び後退の2つのセレクト位置を設け、後退のときにはレバーハウジング3を1・2速を越えた後退位置まで回動してからシフトするようになっているが、1・2速のセレクト位置を操縦者が明確に判断できるようにするために、図3(b) に示すように、1・2速の位置を境界としてセレクトリターン力Fの増大の割合を大きくする必要がある。このために従来は、1・2速及び後退側となる押圧ピンアセンブリと並列に1・2速の位置を越えてから作用してセレクトリターン力Fを増大させる第3の押圧ピンアセンブリを設け、あるいは1・2速及び後退側となる押圧ピンアセンブリは、押圧ピン6bとリテーナ6dの間に押圧ピストンを介在させ、スプリング6cは押圧ピン6bと押圧ピストンの間に介装し、押圧ピストンとリテーナ6dの間にはスプリング6cよりもばね定数の大きい第2スプリングを介装することにより、1・2速の位置を越えればばね定数が増大するようにしている。
【特許文献1】特開2000−291790号公報(段落〔0002〕〜〔0006〕、図4〜図6)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来技術では、レバーハウジング3が図5の矢印に示すようにシフトアンドセレクトシャフト2の軸線方向に往復動しても押圧ピンアセンブリ6がレバーハウジング3のソケット部3bから外れないようにするために、ソケット部3bの両側面には相当な長さの平坦面を設ける必要があるので、レバーハウジング3は大きく従って重量が増大するという問題がある。また変速段数を増大して同一回転方向に2つのセレクト位置を設けた場合には、第3の押圧ピンアセンブリを設けたものによれば前述した平坦面が大きくなるので重量が一層増大するとともに第3の押圧ピンアセンブリの分だけコスト高になるという問題が生じる。また、後退側となる押圧ピンアセンブリに押圧ピストンと第2スプリングを設けたものによれば、押圧ピンアセンブリ6は従来のままでよいが、後退側となる押圧ピンアセンブリは部品点数が増大して構造が複雑化するのでコスト高になるとともに重量も増大するという問題が生じる。本発明はこのような各問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このために、請求項1の発明による変速機のセレクトリターン装置は、シフトアンドセレクトレバーが一体的に設けられてケーシングに回動及び往復動自在に支持された作動シャフトと、この作動シャフトを回動及び往復動させる作動装置よりなり、シフトアンドセレクトレバーはシフトアンドセレクトシャフトの回動方向のセレクト運動により複数のフォークシャフトから1つを選択するとともに往復動方向のシフト運動により選択したフォークシャフトを往復動させて変速歯車の切り換えを行う変速機において、作動シャフトに一体的に設けられて半径方向に延びるシリンダ部を有するセレクトリターンハウジングと、シリンダ部に長手方向摺動自在に支持されて同シリンダ部から突出する先端部にカムフォロワが設けられたピストン部材と、作動シャフトに回動自在に支持されて半径方向に延び厚さ方向中心面がシリンダ部の中心線とほゞ一致するように配置されるとともにシリンダ部とピストン部材とカムフォロワを相対的に揺動自在に収容する開口が形成されかつケーシングに対し作動シャフト方向の移動のみを許容するように係合された板状のカムプレートと、シリンダ部に対しピストン部材を外向きに付勢してカムフォロワを開口の作動シャフトと反対側となる部分に形成したカム面に弾性的に押圧するスプリングよりなるセレクトリターン装置を備え、カム面はカムフォロワの移動範囲の間に位置するニュートラル位置において作動シャフトの中心からの距離を最大にするとともにニュートラル位置を境界としてその両側における傾斜角を互いに逆向きにしたことを特徴とするものである。
【0010】
前項に記載の変速機のセレクトリターン装置において、カム面は、ニュートラル位置を原点とするシリンダ部とカムプレートの相対回動角に対するピストン部材の移動量が、ニュートラル位置とは異なる中間位置を境界として増大するように、中間位置付近を境界として傾斜角を変化させることが好ましい。
【0011】
前2項に記載の変速機のセレクトリターン装置において、カムフォロワはピストン部材の先端部に作動シャフトと平行な枢支ピンにより回転自在に支持されたローラとすることが好ましい。
【0012】
前3項に記載の変速機のセレクトリターン装置において、カムプレートには作動シャフトから離れた位置に同作動シャフトと反対側が開口された切欠き形状または同作動シャフトに対し半径方向に長い長穴状の掛止め部を形成し、作動シャフトと平行にケーシングに固定した回り止めピンを掛止め部に係合して、カムプレートをケーシングに作動シャフト方向の移動のみを許容するように係止することが好ましい。
【0013】
前4項に記載の変速機のセレクトリターン装置において、カムプレートの開口にはセレクトリターンハウジングのシリンダ部の側面と対向する位置にストッパ面を形成し、シリンダ部の側面にはストッパ面と当接する当接面を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明によれば、作動シャフトに一体的に設けられて半径方向に延びるシリンダ部を有するセレクトリターンハウジングと、シリンダ部に長手方向摺動自在に支持されて同シリンダ部から突出する先端部にカムフォロワが設けられたピストン部材と、作動シャフトに回動自在に支持されて半径方向に延び厚さ方向中心面がシリンダ部の中心線とほゞ一致するように配置されるとともにシリンダ部とピストン部材とカムフォロワを相対的に揺動自在に収容する開口が形成されかつケーシングに対し作動シャフト方向の移動のみを許容するように係合された板状のカムプレートと、シリンダ部に対しピストン部材を外向きに付勢してカムフォロワを開口の作動シャフトと反対側となる部分に形成したカム面に弾性的に押圧するスプリングよりなるセレクトリターン装置を備え、カム面はカムフォロワの移動範囲の間に位置するニュートラル位置において作動シャフトの中心からの距離を最大にするとともにニュートラル位置を境界としてその両側における傾斜角を互いに逆向きにしたので、セレクトリターンハウジングをニュートラル位置から何れの向きに回動した場合でも、カム面に沿って移動したカムフォロワがピストン部材を介してスプリングを圧縮して、シフトアンドセレクトレバーを中立位置に戻そうとするセレクトリターン力を1組のピストン部材及びスプリングだけで発生させることができる。またシフトの際にシフトアンドセレクトレバー、セレクトリターンハウジング、ピストン部材、スプリング及びカムプレートは一体的に軸線方向に移動するので全体をコンパクト化することができる。さらにカムプレートはシフトストロークとは無関係の比較的薄い1枚の板状とすることができプレス成形が可能であるので製造コストを低下させることができる。
【0015】
カム面は、ニュートラル位置を原点とするシリンダ部とカムプレートの相対回動角に対するピストン部材の移動量が、ニュートラル位置とは異なる中間位置を境界として増大するように、中間位置付近を境界として傾斜角を変化させた請求項2の発明によれば、変速段数を増大するために同一回転方向に2つのセレクト位置を設けた場合でも、部品点数を増加させたり構造を複雑化させることなく、カムプレートのカム面の形状を変更するだけで、中間となるセレクト位置の明確化に対応することができる。
【0016】
カムフォロワはピストン部材の先端部に作動シャフトと平行な枢支ピンにより回転自在に支持されたローラとした請求項3の発明によれば、カム面とカムフォロワの間の抵抗が減少するので軽く作動するセレクトリターン装置を得ることができる。
【0017】
カムプレートには作動シャフトから離れた位置に同作動シャフトと反対側が開口された切欠き形状または同作動シャフトに対し半径方向に長い長穴状の掛止め部を形成し、作動シャフトと平行にケーシングに固定した回り止めピンを掛止め部に係合して、カムプレートをケーシングに作動シャフト方向の移動のみを許容するように係止した請求項4の発明によれば、カムプレートをケーシングに対し作動シャフト方向の移動のみを許容するように係止する掛け止め構造を簡略化することができる。
【0018】
また、カムプレートの開口にはセレクトリターンハウジングのシリンダ部の側面と対向する位置にストッパ面を形成し、シリンダ部の側面にはストッパ面と当接する当接面を形成した請求項5の発明によれば、簡単な構造でシフトアンドセレクトレバーを所定の位置で確実に停止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図1〜図3により、本発明による変速機のセレクトリターン装置を実施するための最良の形態の説明をする。この実施形態は本発明を図6に示すような前進6段・後退1段の手動変速機に適用したものである。この実施形態の手動変速機は、ケーシング10と、シフトアンドセレクトシャフト(作動シャフト)11と、ハウジング12と、シフトレバー15と、セレクトリターン装置20を備えている。
【0020】
主として図1に示すように、トランスミッションケーシング10に回動及び往復動自在に支持されたシフトアンドセレクトシャフト11の一端部にはハウジング12がピン14により一体的に固定され、他端部にはセレクトリターン装置20が設けられている。ハウジング12の一側に半径方向に突出して中心軸線がシフトアンドセレクトシャフト11と直交するように一体形成された円筒状のソケット部12aには、摺動体13を介して手動のシフトレバー15の先端の小球部15aが回動自在に連結されている。このシフトレバー15は不作動状態ではシフトアンドセレクトシャフト11とほゞ直交方向にケーシング10の外側に延び、その中間部に固着された半球状の支持面を有する支持部16は、シフトタワー1aの開口部内に固定したスプリング受け18aとの間に介装したスプリング18により、ケーシング10に設けられた球面座17に摺動可能に弾性的に押圧され、これによりシフトレバー15はシフトタワー10aに揺動自在に支持される。支持部16の互いに対向する両側部に形成された1対の切欠き16a内にはシフトタワー10aに固定された1対の回転規制ピン17aが挿入されて、シフトレバー15の軸線回りの回転を防止している。シフトタワー1aの開口部の外周とシフトレバー15の間には防塵用のブーツ19が設けられている。
【0021】
シフトレバー15を支持部16を中心として、図1の紙面内で矢印で示すように、手動により揺動させれば、シフトアンドセレクトシャフト11はハウジング12を介して軸線方向に矢印で示すように往復動され、またシフトレバー15を図1の紙面と直交する方向に揺動させれば、シフトアンドセレクトシャフト11はハウジング12を介して軸線回りに回動される。このシフトアンドセレクトシャフト11の一端部に固定されて半径方向一側にソケット部12aが形成されたハウジング12と、先端部がソケット部12aに回動自在に連結されて中間部がケーシング10に揺動自在に支持されたシフトレバー15とが、シフトアンドセレクトシャフト11を回動及び往復動させる作動装置を構成している。
【0022】
セレクトリターン装置20は、図1及び図2に示すように、主としてセレクトリターンハウジング21とこれに設けられたピストン部材22、ローラ(カムフォロワ)23及びスプリング24並びにカムプレート25により構成されている。
【0023】
セレクトリターンハウジング21は、ハウジング12と反対側となるシフトアンドセレクトシャフト11の他端部にボルト28を介して一体的に固定され、シフトアンドセレクトシャフト11と直交する半径方向に延びるシリンダ部21aと、これと異なる半径方向に延びるシフトアンドセレクトレバー21dが一体的に形成されている。シフトアンドセレクトシャフト11に固定されるセレクトリターンハウジング21のボス部とシリンダ部21aは、シフトアンドセレクトシャフト11の軸線方向において多少オフセットされている。シリンダ部21aの内面には、ピストン部材22が長手方向軸線回りの回動が拘束されて長手方向摺動自在に支持されて、シリンダ部21aの内底面との間に介装したスプリング24により半径方向外向きに付勢されている。シリンダ部21aから半径方向外向きに突出するピストン部材22の先端部に形成された二叉部22aには、シフトアンドセレクトシャフト11と平行な枢支ピン23aにより回転自在にローラ23が支持されている。
【0024】
カムプレート25は打ち抜きによりプレス成形された一定厚さの板状で、シフトアンドセレクトシャフト11に回動自在に支持される一端部がセレクトリターンハウジング21のボス部の端面に当接されて、止め輪27により抜け止め保持されている。カムプレート25はシフトアンドセレクトシャフト11に支持される一端部から半径方向に延び、厚さ方向中心面がシリンダ部21aの中心線とほゞ一致するように配置されるとともに、シリンダ部21aとピストン部材22とローラ23を相対的に揺動自在に収容する開口26が形成されている。カムプレート25にはシフトアンドセレクトシャフト11と反対側に形成した突出部に、シフトアンドセレクトシャフト11と反対側が開口されたU字状の掛止め部25aが形成され、シフトアンドセレクトシャフト11と平行にケーシング10に固定した回り止めピン29が掛止め部25aに係合されて、カムプレート25はシフトアンドセレクトシャフト11回りの回動が拘束され、シフトアンドセレクトシャフト11方向の移動のみを許容するようにケーシング10に係止されている。回り止めピン29は、例えば変速歯車列のアイドラギヤを支持する固定軸を延長したものである。また掛止め部25aは、U字状などの切欠き形状の代わりに、シフトアンドセレクトシャフト11に対し半径方向に長い長穴状としてもよい。
【0025】
カムプレート25の開口26は、主として図2に示すように、シフトアンドセレクトシャフト11と反対側となる部分にカム面26aが形成され、スプリング24により付勢されるピストン部材22の先端部に設けたローラ23は、このカム面26aに弾性的に押圧されている。この実施形態は、図3(a) にシフトパターンを示すような前進6段・後退1段の手動変速機に本発明を適用したものであるので、ローラ23は図2に示すように、カム面26a上を両末端位置S1,S2(5.6速位置S1及び後退位置S2)の間で移動され、その移動範囲の間にニュートラル位置(3.4速位置)N及び中間位置(1.2速位置)S3が位置している。そしてカム面26aは、ニュートラル位置Nにおいてシフトアンドセレクトシャフト11の中心からの距離を最大にするとともにニュートラル位置Nを境界としてその両側における傾斜角を互いに逆向きで同一とし、またニュートラル位置Nを原点とするシリンダ部21aとカムプレート25の相対回動角に対するピストン部材22の移動量が、中間位置(1.2速位置)S3を境界として急激に増大するように、中間位置S3付近を境界としてそれより後退位置S2側となるカム面26aの傾斜角を増大させている。これによりニュートラル位置Nを原点とするシリンダ部21aとカムプレート25の間の相対回動角に対するセレクトリターン力Fの増大に割合は、図3(b) に示すような、3.4速位置Nと5.6速位置S1の間及び3.4速位置Nと1.2速位置S3の間では同一で、1.2速位置S3と後退位置S2の間では1.2速位置S3と5.6速位置S1の間よりも大きくなる特性が得られる。
【0026】
また図2に示すように、カムプレート25の開口26にはセレクトリターンハウジング21のシリンダ部21aの両側面と対向する各位置にストッパ面26b,26cを形成し、シリンダ部21aの両側面にはストッパ面26b,26cと当接する当接面21b,21cを形成している。これによりセレクトリターンハウジング21は、5.6速位置S1においては当接面21bがストッパ面26bに当接してそれ以上の回動が阻止され、後退位置S2においては当接面21cがストッパ面26cに当接してそれ以上の回動が阻止される。
【0027】
上述した実施形態では、手動によりシフトレバー15を図1の紙面と直交する方向に揺動させれば、シフトアンドセレクトシャフト11はシフトレバー15とハウジング12よりなる作動装置を介して軸線回りのセレクト運動がなされ、これによりセレクトリターンハウジング21に一体形成されたシフトアンドセレクトレバー21dが回動されてその先端が複数のフォークシャフトのシフトピース(何れも図示省略)の1つに係合してそのフォークシャフトを選択する。そしてその状態でシフトレバー15を図1の紙面内で矢印で示すように、手動により揺動させれば、シフトアンドセレクトシャフト11は作動装置を介して矢印で示すように軸線方向のシフト運動がなされ、これにより選択されたフォークシャフトが往復動して変速歯車の切り換えがなされる。このシフト運動の際には、セレクトリターンハウジング21とピストン部材22とローラ23とスプリング24とカムプレート25は一体的にシフトアンドセレクトシャフト11とともに移動され、カムプレート25の掛止め部25aと回り止めピン29の間で摺動がなされる。
【0028】
上述した実施形態によれば、セレクト運動によりセレクトリターンハウジング21をカムプレート25に対しニュートラル位置である3.4速位置Nから何れかの向きに回動した場合でも、カム面26aに沿って移動したローラ23が、ピストン部材22を介してスプリング24を圧縮するので、シフトアンドセレクトレバー21dを3.4速位置Nに戻そうとするセレクトリターン力Fを1組のピストン部材22及びスプリング24により発生させることができる。また3.4速位置Nと後退位置S2の間となる1.2速位置S3を境界として、ニュートラル位置Nを原点とするシリンダ部21aとカムプレート25の相対回動角に対するピストン部材22の移動量が急激に増大するように、1.2速位置S3付近を境界としてカム面26aの傾斜角を増大させており、これにより部品点数を増加させたり構造を複雑化させることなくカムプレート25のカム面26aの形状を変更するだけで、シフトレバー15によるセレクトの際に1.2速位置S3を明確に判断することができるセレクトリターン装置が得られる。さらにセレクトリターン装置20を構成する各部材21〜25は、セレクト運動の際に一体的にシフトアンドセレクトシャフト11とともに移動してそれらの間で相対運動することがなく、カムプレート25の掛止め部25aと回り止めピン29の間で摺動がなされるので、セレクトリターン装置20を全体としてコンパクト化することができる。さらにカムプレート25はシフトストロークとは無関係の比較的薄い1枚の板状とすることができプレス成形が可能であるので製造コストを低下させることができる。
【0029】
上述した実施形態では、ピストン部材22の先端部に作動シャフト11と平行な枢支ピン23aにより回転自在に支持されたローラ23をカムプレート25のカム面26aと当接するカムフォロワとしており、このようにすればカム面26aとカムフォロワの間の抵抗を減少させて軽く作動するセレクトリターン装置を得ることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、カムフォロワはピストン部材22の先端部に一体的に形成した突起部により形成することも可能である。
【0030】
また上述した実施形態では、カムプレート25には作動シャフト11から離れた位置に作動シャフト11と反対側が開口された切欠き形状または同作動シャフトに対し半径方向に長い長穴状の掛止め部25aを形成し、作動シャフト11と平行にケーシング10に固定した回り止めピン29を掛止め部25aに係合して、カムプレート25をケーシング10に作動シャフト11方向の移動のみを許容するように係止しており、このようにすれば、カムプレート25をケーシング10に対し作動シャフト11方向の移動のみを許容するように係止する掛け止め構造を簡略化することができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、カムプレート25には作動シャフト11から離れた位置に作動シャフト11と平行に延びるロッドを固定し、このロッドをケーシング10に形成した孔に摺動自在に係合してカムプレート25をケーシング10に作動シャフト11方向の移動のみを許容するように係止してもよい。
【0031】
さらに上述した実施形態では、カムプレート25の開口26にはセレクトリターンハウジング21のシリンダ部21aの側面と対向する位置にストッパ面26b,26cを形成し、シリンダ部21aの側面にはストッパ面26b,26cと当接する当接面21b,21cを形成しており、このようにすれば特別な部材を使用することなく、セレクトリターンハウジング21を、シリンダ部21aが5.6速位置S1または後退位置S2となった状態で確実に停止することができる。
【0032】
上述した実施形態では、本発明を図3に示すような前進6段・後退1段のシフトパターンの手動変速機に適用した場合につき説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、図4に示すような前進5段・後退1段あるいはその他のシフトパターンに適用することも可能である。本発明を前進5段・後退1段のシフトパターンに適用した場合には、1.2速位置S3は3.4速位置Nと後退位置S2の中間に存在しないので、上述した各作用効果のうち、そのような中間に位置する変速位置を明確に判断できるという作用効果を除く全ての作用効果を得ることができる。
【0033】
また上述した実施形態では、本発明を手動変速機に適用した場合につき説明したが、本発明は、作動装置により回動及び往復動される作動シャフトを備え、作動シャフトの回動方向のセレクト運動により複数のフォークシャフトから1つを選択するとともに往復動方向のシフト運動により選択したフォークシャフトを往復動させて変速歯車の切り換えを行う変速機であれば、作動装置が手動の場合に限らず、アクセル開度や車速やエンジン回転数などの車両の作動状態に基づいて作動装置を自動的に制御するようにした自動変速機にも適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明による変速機のセレクトリターン装置の要部を示す断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】変速機のセレクトリターン装置が適用される変速シフトパターンの一例を示す図である。
【図4】変速機のセレクトリターン装置が適用される変速シフトパターンの他の例を示す図である。
【図5】従来技術による変速機のセレクトリターン装置の一例の要部を示す断面図である。
【図6】図5の6−6断面図である。
【符号の説明】
【0035】
10…ケーシング、11…作動シャフト(シフトアンドセレクトシャフト)、20…セレクトリターン装置、21…セレクトリターンハウジング、21a…シリンダ部、21b,21c…当接面、21d…シフトアンドセレクトレバー、22…ピストン部材、23…カムフォロワ(ローラ)、23a…枢支ピン、24…スプリング、25…カムプレート、25a掛止め部、26…開口、26a…カム面、26b,26c…ストッパ面、29…回り止めピン、N…ニュートラル位置(3.4速位置)、S3…中間位置(1.2速位置)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シフトアンドセレクトレバーが一体的に設けられてケーシングに回動及び往復動自在に支持された作動シャフトと、この作動シャフトを回動及び往復動させる作動装置よりなり、前記シフトアンドセレクトレバーは前記シフトアンドセレクトシャフトの回動方向のセレクト運動により複数のフォークシャフトから1つを選択するとともに往復動方向のシフト運動により前記選択したフォークシャフトを往復動させて変速歯車の切り換えを行う変速機において、前記作動シャフトに一体的に設けられて半径方向に延びるシリンダ部を有するセレクトリターンハウジングと、前記シリンダ部に長手方向摺動自在に支持されて同シリンダ部から突出する先端部にカムフォロワが設けられたピストン部材と、前記作動シャフトに回動自在に支持されて半径方向に延び厚さ方向中心面が前記シリンダ部の中心線とほゞ一致するように配置されるとともに前記シリンダ部とピストン部材とカムフォロワを相対的に揺動自在に収容する開口が形成されかつ前記ケーシングに対し前記作動シャフト方向の移動のみを許容するように係合された板状のカムプレートと、シリンダ部に対し前記ピストン部材を外向きに付勢して前記カムフォロワを前記開口の前記作動シャフトと反対側となる部分に形成したカム面に弾性的に押圧するスプリングよりなるセレクトリターン装置を備え、前記カム面は前記カムフォロワの移動範囲の間に位置するニュートラル位置において前記作動シャフトの中心からの距離を最大にするとともに前記ニュートラル位置を境界としてその両側における傾斜角を互いに逆向きにしたことを特徴とする変速機のセレクトリターン装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速機のセレクトリターン装置において、前記カム面は、前記ニュートラル位置を原点とする前記シリンダ部とカムプレートの相対回動角に対する前記ピストン部材の移動量が、前記ニュートラル位置とは異なる中間位置を境界として増大するように、前記中間位置付近を境界として傾斜角を変化させたことを特徴とする変速機のセレクトリターン装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の変速機のセレクトリターン装置において、前記カムフォロワは前記ピストン部材の先端部に前記作動シャフトと平行な枢支ピンにより回転自在に支持されたローラとしたことを特徴とする変速機のセレクトリターン装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の変速機のセレクトリターン装置において、前記カムプレートには前記作動シャフトから離れた位置に同作動シャフトと反対側が開口された切欠き形状または同作動シャフトに対し半径方向に長い長穴状の掛止め部を形成し、前記作動シャフトと平行に前記ケーシングに固定した回り止めピンを前記掛止め部に係合して、前記カムプレートを前記ケーシングに前記作動シャフト方向の移動のみを許容するように係止したことを特徴とする変速機のセレクトリターン装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の変速機のセレクトリターン装置において、前記カムプレートの開口には前記セレクトリターンハウジングのシリンダ部の側面と対向する位置にストッパ面を形成し、前記シリンダ部の側面には前記ストッパ面と当接する当接面を形成したことを特徴とする変速機のセレクトリターン装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−29513(P2006−29513A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−211970(P2004−211970)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】