説明

変速機油用添加剤組成物

【課題】変速機油に使用したときに良好な粘着防止性を示す潤滑油添加剤組成物を提供する。
【解決手段】六方晶系窒化ホウ素の油分散液、およびポリメタクリレート、分散剤型ポリメタクリレート又は分散剤型オレフィン共重合体粘度指数向上剤を含む変速機油用添加剤組成物、並びにそれを含む潤滑油組成物を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機油用の添加剤組成物に関するものである。本発明は特に、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度指数向上剤(特に、ポリメタクリレート、分散剤型ポリメタクリレートまたは分散剤型オレフィン共重合体から選ばれる粘度指数向上剤)を含む添加剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の変速機及び差動装置、空気動力工具、ガス圧縮機、遠心分離機、高圧油圧装置、金属加工及び同様の装置に使用されるようなギヤセット、並びに多種類の軸受では、往々にして高負荷状態が生じる。潤滑剤組成物がそのような環境で用いられるときには、従来より、極圧(EP)剤が添加され、これに関しては、アルカリ金属ホウ酸塩がそのような組成物用極圧剤としてよく知られている(特許文献1〜11、13)。EP剤は、可動面の潤滑において破壊的な金属・金属接触を防ぐために潤滑剤に添加される。一方、「流体力学的」と言われる正常状態では、相対的な可動面間には潤滑剤の薄膜が維持されていて、潤滑剤のパラメータ、主として粘度に支配される。しかし、負荷が増すと両面間の間隙が減り、あるいは可動面の速度が油膜を維持できないような速度となると、「境界潤滑」の状態に達して、接触面のパラメータに大いに支配されるようになる。更にもっと苛酷な状態では、リッジングやピッチング(まだら摩耗)が測定されるような摩耗や金属疲労など様々な形で、著しい破壊的接触が出現する。このようなことが起こるのを回避することがEP添加剤の役目である。EP剤は大抵は油溶性であるか、あるいは安定な分散物として油に容易に分散し、そして主として化学反応した有機化合物であって、境界潤滑状態で金属表面と反応する硫黄、ハロゲン(主に塩素)、リン、カルボキシル又はカルボン酸塩基を含んでいる。水和アルカリ金属ホウ酸塩の安定な分散物も、EP剤として有効であることが分かっている。
【0003】
水和アルカリ金属ホウ酸塩は潤滑油媒体に不溶性であるために、ホウ酸塩を分散物として油に混ぜる必要があり、均質な分散液が特に望ましい。均質な分散液の形成の程度は、水和アルカリ金属ホウ酸塩添加後の油の濁りと相互に関係づけることができ、濁り度が高いほど均質性の低い分散液と相関している。このような均質な分散液の形成を容易にするために、当該組成物に分散剤を含有させることが従来より行なわれている。分散剤の例としては、アルケニルコハク酸イミドなどの親油性界面活性剤、または他の窒素含有分散剤、並びにアルケニルコハク酸エステルを挙げることができる(特許文献1〜4、12)。均質な分散液の形成を容易にするために、粒子径が1ミクロン以下のアルカリ金属ホウ酸塩を用いることも従来より行われている(特許文献11)。
【0004】
さらに、円滑な同期および良好な変速性をもたらすために、自動車のギヤボックスには、しばしば粘着(スティッキング)防止剤が用いられている。そのような粘着防止剤の例としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、チオリン酸エステル、カルバメート、モリブデンジチオカルバメートおよびジチオリン酸モリブデンを挙げることができる。
【0005】
窒化ホウ素が潤滑剤中で摩擦緩和性を示すことも知られている。例えば、特許文献14には、液体脂肪または油に微粉末状の芳香族又はポリアミド樹脂を分散させてなり、更に二硫化モリブデン、有機モリブデンまたは窒化ホウ素を含んでいてもよい、摩擦の低減に有効な潤滑剤が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献15には、固体潤滑剤粒子を安定剤および液体キャリヤと組み合わせてなるギヤ油用固体潤滑剤添加剤が開示され、そして固体潤滑剤粒子は、二硫化モリブデン、黒鉛、フッ化セリウム、酸化亜鉛、二硫化タングステン、雲母、硝酸ホウ素、窒化ホウ素、ホウ砂、硫酸銀、ヨウ化カドミウム、ヨウ化鉛、フッ化バリウム、硫化スズ、フッ素化炭素、PTFE、元素挿入黒鉛、亜リン酸亜鉛、リン酸亜鉛およびそれらの混合物からなる群より選ばれる。この特許文献には更に、そのような潤滑剤添加剤は水と一緒に混入されるとギヤ油に、ギヤ油の抗乳化性、安定性および混合性の特性改善をもたらすことが開示されている。
【0007】
ポリメタクリル酸エステル又はポリメタクリレートは、潤滑油産業では一般に粘度指数向上剤(VII)として使用されている長鎖エステルである。それらの分子質量は、主に20000から500000の間にある。種々のアルキルメタクリレートの単独及び共重合体の性状は、エステルを作るのに用いられるアルコールの鎖長および重合度によって異なってくる。オレフィン共重合体(OCP)は、エチレンとプロピレンからチーグラー触媒によって製造され、潤滑油産業では一般にVIIとして使用されている。分散剤型オレフィン共重合体(DOCP)は多機能VIIであり、重合体にN−ビニルイミダゾールのような環状イミドや同様の断片を含ませることで粘度向上効果が分散剤特性と結び付いている。
【0008】
本出願明細書では、以下の参考文献を番号を付して引用した。
【0009】
【特許文献1】米国特許第3313727号明細書、ピーラー、「アルカリ金属ホウ酸塩EP潤滑剤」、1967年4月11日発行
【特許文献2】米国特許第3912643号明細書、アダムス、「中和アルカリ金属ホウ酸塩を含む潤滑剤」、1975年10月14日発行
【特許文献3】米国特許第3819521号明細書、シムズ、「分散性ホウ酸塩とポリオールを含む潤滑剤」、1974年6月25日発行
【特許文献4】米国特許第3853772号明細書、アダムス、「分散剤の混合物と一緒に分散したアルカリ金属ホウ酸塩を含む潤滑剤」、1974年12月10日発行
【特許文献5】米国特許第3997454号明細書、アダムス、「ホウ酸カリウムを含む潤滑剤」、1976年12月14日発行
【特許文献6】米国特許第4089790号明細書、アダムス、「水和ホウ酸カリウム、耐摩耗性添加剤および有機硫化物酸化防止剤の相乗作用的組合せ」、1978年5月16日発行
【特許文献7】米国特許第4163729号明細書、アダムス、「水和ホウ酸カリウム、耐摩耗性添加剤および有機硫化物酸化防止剤の相乗作用的組合せ」、1979年8月7日発行
【特許文献8】米国特許第4263155号明細書、フロスト、「アルカリ金属ホウ酸塩と安定化油溶性酸を含む潤滑剤組成物」、1981年4月21日発行
【特許文献9】米国特許第4401580号明細書、フロスト、「アルカリ金属ホウ酸塩とエステル−ポリオール化合物を含む潤滑剤組成物」、1983年8月30日発行
【特許文献10】米国特許第4472288号明細書、フロスト、「アルカリ金属ホウ酸塩とリン化合物の油溶性アミン塩を含む潤滑剤組成物」、1984年9月18日発行
【特許文献11】米国特許第4534873号明細書、クラーク、「自動車用摩擦低減組成物」、1985年8月13日発行
【特許文献12】米国特許第3489619号明細書、ブリュースター、「熱媒焼入れ油」、1970年1月13日発行
【特許文献13】米国特許第4717490号明細書、サレンタイン、「アルカリ金属ホウ酸塩、硫黄化合物、亜リン酸塩および中和リン酸塩の相乗作用的組合せ」、1988年1月5日発行
【特許文献14】米国特許第4787993号明細書、ナガヒロ、1988年11月29日発行
【特許文献15】米国特許第4715972号明細書、パチョルケ、1987年12月29日発行
【0010】
上記の特許文献は全て、各個々の特許文献全体が具体的かつ個別に参照として記載するように指示されたかのような程度にまで、全体的に参照記載として本明細書の記載とする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、変速機油に使用したときに良好な粘着防止性を示す潤滑油添加剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の成分を含む新規な変速機油用添加剤組成物を提供する:
a)六方晶系窒化ホウ素の油分散液、および
b)下記の化合物からなる群より選ばれる粘度指数向上剤:
i)ポリメタクリレート、
ii)分散剤型ポリメタクリレート、および
iii)分散剤型オレフィン共重合体、
ただし、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度指数向上剤との質量比は約99:1乃至約1:99の範囲にある。
【0013】
一般に、六方晶系窒化ホウ素の油分散液の濃度は、添加剤組成物の全質量に基づき約1乃至約99質量%、好ましくは約5乃至約95質量%であり、そして粘度指数向上剤の濃度は、約1乃至約99質量%、好ましくは約5乃至約95質量%である。
【0014】
本発明の添加剤組成物は任意に更に、水和アルカリ金属ホウ酸塩、分散剤、任意に清浄剤、および潤滑粘度の油を含む水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を含有していてもよい。
【0015】
本発明の添加剤組成物は、手動変速ギヤ油および自動変速機油の両方に好適に用いることができる。好ましくは、上記添加剤組成物は手動変速ギヤ油に用いられる。
【0016】
さらに、本発明は、主要量の潤滑粘度の変速機油および有効シンクロナイザ粘着低減量の上記添加剤組成物を含む潤滑油組成物も提供する。変速機油は手動変速ギヤ油であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
数ある要因のうちでも、本発明は一部では、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と、ポリメタクリレート、分散剤型ポリメタクリレートおよび分散剤型オレフィン共重合体から選ばれるある種の粘度指数向上剤との独特な組合せが、手動変速ギヤ油に添加剤組成物として使用されたときに、シンクロナイザ粘着の顕著な予測し得ない低減をもたらすという驚くべき発見に基づいている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述したように、本発明は、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と下記の化合物からなる群より選ばれる粘度指数向上剤とを含む、新規な変速機油用添加剤組成物に関する:
a)ポリメタクリレート、
b)分散剤型ポリメタクリレート、および
c)分散剤型オレフィン共重合体、
ただし、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度指数向上剤との質量比は約99:1乃至約1:99の範囲にある。
【0019】
以下に、本発明の添加剤組成物の成分の各々について更に詳細に述べる。特に断わらない限り、百分率は全て質量パーセント(質量%)である。
【0020】
[六方晶系窒化ホウ素の油分散液]
本発明の添加剤組成物は、六方晶系窒化ホウ素の油分散液を含有している。
【0021】
六方晶系窒化ホウ素又はh−BNは、六方晶系グラファイト類似型の窒化ホウ素であり、積層構造で交互にホウ素原子と窒素原子とからなる平面六員環を有する。シート構造から見るとホウ素原子が直接窒素原子の上に来る。六方晶系窒化ホウ素は、酸化ホウ素、ホウ酸またはホウ酸塩を、塩化アンモニウム、アルカリシアン化物またはカルシウムシアナミドと一緒に大気圧で加熱することにより製造することができる。また、六方晶系窒化ホウ素は、三塩化ホウ素または三フッ化ホウ素とアンモニアとの反応によっても製造することができる。六方晶系窒化ホウ素についての記述は、例えばカーク・オスマー(Kirk-Othmer)著、化学技術大辞典(Encyclopedia of Chemical Technology)、第4版、第4巻、p.427−429、ジョン・ウィリー・アンド・サンズ、ニューヨーク、1992年に見られる。
【0022】
一般に、六方晶系窒化ホウ素の油分散液は平均粒子径が1ミクロン以下である。好ましくは、六方晶系窒化ホウ素の油分散液は、粒子の90%かそれ以上が約0.5ミクロン(500ナノメートル、nm)以下であるような粒径分布を有し、好ましい平均粒子径は約0.3ミクロン(300nm)以下である。
【0023】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液は、六方晶系窒化ホウ素を一般に油分散液の全質量に基づき約1乃至約50質量%含み、好ましくは約1乃至約20質量%、より好ましくは約5乃至約15質量%含む。
【0024】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液は、油分散液用安定剤として界面活性剤を含むことが好ましい。安定剤として使用される代表的な界面活性剤としては、エチレン・プロピレン共重合体、またはエチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体として普通知られているエチレン、プロピレン及び非共役ジエンの三元共重合体、並びにN−ビニルピロリドンおよびN−ビニルピリジンからなる群より選ばれる窒素含有ビニル官能基をグラフトしたエチレン・プロピレン共重合体等を挙げることができる。エチレン・プロピレン共重合体の平均分子量は、一般に約22000乃至約200000の範囲にある。好ましい界面活性剤は、エチレン単量体とプロピレン単量体の比率が実質的に同じで、平均分子量が約22000乃至約40000であるエチレン・プロピレン共重合体である。界面活性剤が存在する場合に、六方晶系窒化ホウ素の油分散液におけるその濃度は、一般には六方晶系窒化ホウ素の油分散液の全質量に基づき約0.1乃至約25質量%の範囲にあり、好ましくは約2乃至約7質量%、より好ましくは約3.0乃至約5.0質量%の範囲にある。
【0025】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液を製造するのに使用される潤滑油は、水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を製造するのに使用される前述した天然又は合成潤滑油と同じ群から選ぶことができるが、ナタネ油などの植物油、脂肪族及び芳香族ナフサなどの液体炭化水素およびそれらの混合物、ポリアルファオレフィン、ポリグリコール、液体ジエステルなどの合成液体潤滑剤およびこれら液体の混合物を含む、その他のキャリヤ液も使用可能なことが分かっている。また、六方晶系窒化ホウ素の油分散液を生成させるのに使用される油は、水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を製造するのに用いられる潤滑油と同じであっても、異なっていてもよい。六方晶系窒化ホウ素の油分散液を製造するための代表的な油としては、I種及びII種基油、例えば150溶剤ニュートラル石油が挙げられる。
【0026】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液は、本発明の添加剤組成物中に、一般に添加剤組成物の全量に基づき約1乃至約99質量%の範囲で存在し、好ましくは約5乃至約95質量%、より好ましくは約10乃至約90質量%の範囲で存在する。
【0027】
[粘度指数向上剤(VI向上剤)]
本発明の添加剤組成物は、ポリメタクリレート、分散剤型ポリメタクリレートまたは分散剤型オレフィン共重合体のVI向上剤を含有している。
【0028】
A)ポリメタクリレート(PMA)又は分散剤型ポリメタクリレート
一般に、本発明に用いられるポリメタクリレートVI向上剤は、短鎖、中鎖及び長鎖の炭化水素側鎖を含む高分子量メタクリレートである。短鎖の炭化水素側鎖は一般に炭素原子数が約1〜約7である。例えば、メチル及びブチル(n−ブチル、イソブチルまたはその二つの混合物)メタクリレートの両方が使用されている。メチルメタクリレートが最も一般的である。中鎖の炭化水素側鎖は、一般に炭素原子約8〜約15個を含み、そして2−エチルヘキシルアルコール、イソデシルアルコール、および例えばC8〜C10、C12〜C14又はC12〜C15アルコール混合物であってもよいアルコール混合物を含むアルコール類から誘導することができる。長鎖の炭化水素側鎖は、一般に炭素原子約14個かそれ以上を含み、そして例えばC16〜C18又はC16〜C20アルコール混合物を原料とすることができる。
【0029】
本発明に用いることができるポリメタクリレートVI向上剤は、潤滑油用VI向上剤として使用される非分散剤型又は分散剤型ポリメタクリレート化合物のうちのいずれかのタイプである。
【0030】
非分散剤型ポリメタクリレートVI向上剤は、下記式で表される化合物の重合体であってもよい:

CH2=C(CH3)−CO2−R1
【0031】
(1)式において、R1は、直鎖又は分枝鎖アルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基およびオクタデシル基である。
【0032】
分散性は、適当な極性単量体を用いて、熟練者には知られている多数の方法、例えば共重合、グラフト重合または重合体への反応性物質の二次反応によりPMAに取り入れることができる。一般にそのような方法は、窒素または酸素から誘導された極性基の取り込みを含んでいる。窒素系の基は、アミン、例えばジエチレントリアミンおよびトリエチレンテトラアミンなどのポリアルキレンアミンから誘導される。酸素系の基は、ヒドロキシエチルメタクリレートまたはエーテル含有メタクリレートなどのようにアルコールから誘導される。本発明では窒素系PMAが例示されているが、酸素系PMAも本発明の範囲内で考慮される。酸素系PMAの例としては、グリコールなどの多価アルコール、グリセロールなどの三価アルコール、並びにエリトリトール、ペンタエリトリトールおよびマンニトール等のような高級アルコールから誘導されたものがある。さらに、エーテル含有PMAも当該分野ではよく知られている。酸素系PMAのこれ以上の詳細は、例えば米国特許第3249545号及び第3052648号明細書に見られ、その開示内容も如何なる目的であれ本明細書の記載とする。
【0033】
分散剤型ポリメタクリレートVI向上剤の具体例は、(1)式で表される化合物から選ばれた一種以上の単量体を、(2)及び(3)式で表される化合物から選ばれた一種以上の窒素含有単量体と共重合させることにより得られる共重合体である。

CH2=C(R2)CO2−R3−X1 (2)式
CH2=C(R4)−X2 (3)式
【0034】
(2)及び(3)式において、R2およびR4は各々独立に、水素またはメチルであり、R3は、炭素原子数約1〜約18の直鎖又は分枝鎖アルキレン基であり、例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基およびオクタデシレン基であり、X1およびX2は各々独立に、窒素原子数約1又は約2で酸素原子数0〜約2のアミノ又は複素環残基である。X1およびX2の具体例としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、アニリノ基、トルイジノ基、キシリジノ基、アセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、モルホリノ基、ピロリル基、ピリジル基、メチルピリジル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、キノニル基、ピロリドニル基、ピロリドノ基、イミダゾリノ基およびピラジノ基がある。
【0035】
(2)又は(3)式で表される窒素含有単量体の具体例としては、ジメチルアミノメチルメタクリレート、ジエチルアミノメチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、2−メチル−5−ビニルピリジン、モルホリノメチルメタクリレート、モルホリノエチルメタクリレート、N−ビニルピロリドン、およびそれらの混合物がある。
【0036】
本発明に用いられる特に有利なPMAは、炭素原子数が主として約1〜約20、好ましくは約8〜約14のエステル重合体である。PMAは、トルエンまたは鉱油系又は合成基油などの炭化水素溶媒中で、基本単量体および過酸化物またはアゾ系開始剤との重合反応により製造することができる。PMAの製造に使用される基本単量体は主に、メタクリレート、アクリレート、クロトネート、チグリケートおよびアンゲリケートなどのモノカルボン酸エステルである。PMAは、油中でオレフィン共重合体(例えば、エチレン・プロピレン共重合体)との反応によっても製造することができる。
【0037】
PMAの平均分子量は、約20000乃至約500000の範囲にある。好ましくは、分子量は約50000乃至約300000の範囲にあり、より好ましくは約80000乃至約150000の範囲にある。
【0038】
PMAVI向上剤および分散剤型PMAVI向上剤のこれ以上の記述は、例えばレスリー・R.ルドニック(Leslie R. Rudnick)編集、「潤滑剤添加剤の化学と用途(Lubricant Additives Chemistry and Applications)」、第5及び11章、マーセル・デッカー社、ニューヨーク、2003年、および米国特許第6642189号明細書に見られる。
【0039】
B)分散剤型オレフィン共重合体(OCP)
本発明に用いられる分散剤型OCPとしては、二種以上のオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン、イソプレンおよびブタジエン等の共重合体、並びにこれらオレフィンと他の単量体、例えばスチレン、シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンおよびエチリデン・ノルボルネン等との共重合体を挙げることができる。
【0040】
本発明の目的に適う模範的な分散剤型OCPは、エチレン共重合体に関係している。本発明に使用される油溶性エチレン共重合体の数平均分子量(Mn)は、一般に約5000より上から約500000まで、好ましくは約10000乃至約200000、そして最適には約20000乃至約100000である。エチレン共重合体は一般に、数平均分子量(Mn)に対する質量平均分子量(Mw)の比で求めると分子量の範囲が狭い。Mw/Mnが10以下、好ましくは7以下、より好ましくは4以下の重合体が最も望ましい。本明細書で使用するとき、(Mn)および(Mw)は、気相浸透圧法(VPO)、膜浸透圧法およびゲル透過クロマトグラフィーといった公知技術によって測定される。一般に、分子量範囲の狭い重合体は合成条件を選ぶことにより、例えば主触媒と助触媒の組合せの選択、合成中の水素の添加等により得ることができる。高温及び高せん断応力下で狭いオリフィスを通す押出し、高温での混練、熱分解、溶液からの分別沈殿等のような合成後処理も、所望の分子量を狭い範囲で得るのに、また高分子量重合体をVI使用のための種々の分子量等級に分解するのに使用することができる。
【0041】
これら重合体は、エチレンと、炭素約3〜約28個、例えば炭素約2〜約18個を含み、環式、脂環式および非環式であってもよいエチレン不飽和炭化水素とから製造される。これらエチレン共重合体は、エチレン約15乃至約90質量%、好ましくはエチレン約30乃至約80質量%、および一種以上のC3〜C28、好ましくはC3〜C18、より好ましくはC3〜C8アルファオレフィン約10乃至約85質量%、好ましくは約20乃至約70質量%を含むことができる。必須ではないが、そのような重合体の結晶度は、X線および示差走査熱量計で求めたときに25質量%以下であることが好ましい。エチレンとプロピレンの共重合体が最も好ましい。共重合体を生成させるのにプロピレンの代わりに適した他のアルファ−オレフィン、あるいはエチレンおよびプロピレンと組み合わせて三元共重合体、四元共重合体等を生成させるのに使用されるものとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等;また分枝鎖アルファ−オレフィン、例えば4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、および6−メチルヘプテン−1等、およびそれらの混合物を挙げることができる。
【0042】
共重合体は、本明細書で使用するとき、特に指示しない限りは、エチレン、該C3−C28アルファ−オレフィンおよび/または使用することができる非共役ジオレフィン又はそのようなジオレフィンの混合物の三元共重合体、四元共重合体等も包含している。非共役ジオレフィンの量は、一般に存在するエチレンとアルファ−オレフィンの全量に基づき約0.5乃至約20モル%の範囲にあり、好ましくは約1乃至約7モル%の範囲にある。
【0043】
三元共重合体で第三の単量体として使用することができる非共役ジエンの代表的な例としては、以下のものが挙げられる:
a)直鎖非環式ジエン、例:1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘプタジエン、1,6−オクタジエン。
b)分枝鎖非環式ジエン、例:5−メチル−1,4−ヘキサジエン、3,7−ジメチル−1,6−オクタジエン、3,7−ジメチル−1,7−オクタジエン、およびジヒドロ−ミルセンとジヒドロ−シメンの混合異性体。
c)脂環式単環ジエン、例:1,4−シクロヘキサジエン、1,5−シクロオクタジエン、1,5−シクロ−ドデカジエン、4−ビニルシクロヘキセン、1−アリル−4−イソプロピリデンシクロヘキサン、3−アリル−シクロペンテン、4−アリルシクロヘキセン、および1−イソプロペニル−4−(4−ブテニル)シクロヘキサン。
d)多−脂環式単環ジエン、例:4,4’−ジシクロペンテニルおよび4,4’−ジシクロヘキセニルジエン。
e)縮合及び有橋脂環式多環ジエン、例:テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ(2,2,1)−ヘプタ−2,5−ジエン;アルキル、アルケニル、アルキリデン、シクロアルケニル及びシクロアルキリデンノルボルネン、例:エチルノルボルネン、5−メチレン−6−メチル−2−ノルボルネン、5−メチレン−6,6−ジメチル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−(3−シクロペンテニル)−2−ノルボルネン、および5−シクロヘキシリデン−2−ノルボルネン、ノルボルナジエン等。
【0044】
少なくとも一個のエチレン結合と、酸化または加水分解により該カルボキシル基に変換できる少なくとも一個、好ましくは二個のカルボン酸基または無水物基または極性基とを含む化合物を、エチレン共重合体にグラフトしてもよい。好ましい酸物質は、(i)一不飽和C4〜C10ジカルボン酸、ただし(a)カルボキシル基はビシニルである、すなわち隣接炭素原子に位置している、そして(b)該隣接炭素原子のうちの少なくとも一方、好ましくは両方が該一不飽和の一部を成している;あるいは(ii)(i)の誘導体、例えば(i)の無水物またはC1〜C5アルコール誘導モノ又はジエステルである。エチレン・アルファ−オレフィン共重合体との反応で、ジカルボン酸、無水物またはエステルの一不飽和が飽和になる。よって、例えば無水マレイン酸は炭化水素置換コハク酸無水物になる。
【0045】
無水マレイン酸又はその誘導体は、あまり単独重合するようには見えないのにエチレン共重合体にグラフトして二個のカルボン酸官能基を与えるので、好ましい。そのような好ましい物質は下記一般式を有する。
【0046】
【化1】

【0047】
式中、R5およびR6は、同じでも異なっていてもよく、水素またはハロゲンである。好適な例としては更に、クロロマレイン酸無水物、イタコン酸無水物、またはそれらに対応するジカルボン酸、例えばマレイン酸またはフマル酸、またはそれらのモノエステル等が挙げられる。
【0048】
米国特許第4160739号及び第4161452号明細書に教示されているように、両方とも参照として本明細書の記載とするが、種々の不飽和コモノマーを、無水マレイン酸などの不飽和酸成分と一緒にエチレン共重合体にグラフトしてもよい。そのようなグラフト単量体系は、不飽和酸成分とは異なり、共重合可能な二重結合を一つだけ含み、かつ該不飽和酸成分と共重合可能であるコモノマー一個又は混合物からなっていてよい。一般にそのようなコモノマーは、遊離カルボン酸基を含んでいなく、そして酸又はアルコール部にアルファ、ベータエチレン不飽和を含むエステル;アルファ、ベータエチレン不飽和を含む脂肪族及び芳香族両方の炭化水素、例えばC4〜C12アルファオレフィン、具体的にはイソブチレン、ヘキセン、ノネン、ドデセン等;スチレン類、具体的にはスチレン、アルファ−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−第二級ブチルスチレン等;およびビニル単量体、具体的には酢酸ビニル、塩化ビニル、メチル及びエチルビニルケトンなどのビニルケトン等である。架橋やゲル化、その他妨害反応を起こしうる官能基を含むコモノマーは避けるべきであるが、少量のそのようなコモノマー(最大で約10質量%のコモノマー系)は往々にして許容できる。
【0049】
特定の有用な共重合可能なコモノマーとしては、以下のものが挙げられる:
(A)飽和酸と不飽和アルコールのエステル、ただし、飽和酸は、炭素原子最大約40個を含む一塩基又は多塩基酸であってよく、例えば次のようなものがある:酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ステアリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘミメリット酸、トリメリット酸、およびトリメシン酸等、混合物も含む。不飽和アルコールは、モノヒドロキシ又はポリヒドロキシアルコールであってよく、炭素原子最大約40個を含んでいてよく、例えば次のようなものがある:アリルアルコール、メタリルアルコール、クロチルアルコール、1−クロロアリルアルコール、2−クロロアリルアルコール、シンナミルアルコール、ビニルアルコール、メチルビニルアルコール、1−フェナリルアルコール、ブテニルアルコール、プロパルギルアルコール、1−シクロヘキセン−3−オール、およびオレイルアルコール等、混合物も含む。
【0050】
(B)炭素原子最大約12個を含む不飽和モノカルボン酸、例えばアクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸と、炭素原子最大約50個を含み、飽和アルコールおよびアルコールエポキシドから選ばれるエステル化剤とのエステル。飽和アルコールは、炭素原子を最大で約40個含むことが好ましく、次のようなモノヒドロキシ化合物が挙げられる:メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、ドデカノール、シクロヘキサノール、シクロペンタノール、ネオペンチルアルコール、およびベンジルアルコール;並びにアルコールエーテル、例えばエチレン又はプロピレングリコールのモノメチル又はモノブチルエーテル等、混合物も含む。アルコールエポキシドとしては、脂肪アルコールエポキシド、グリシドール、およびアルキレンオキシドの各種誘導体、エピクロロヒドリン等を挙げることができ、混合物も含む。
【0051】
グラフト共重合可能な系の成分は、不飽和酸単量体成分とコモノマー成分の比が質量で約1:4乃至約4:1、好ましくは約1:2乃至約2:1で用いられる。
【0052】
例えば米国特許第5035821号明細書に記載されているように、ポリアミン又はポリオール、官能価が約1.2乃至約2の高官能性長鎖炭化水素ジカルボン酸物質、および短鎖炭化水素置換ジカルボン酸と反応させることにより、更に分散性官能基をOCPに取り込ませてもよい。その記載内容も如何なる目的であれ本明細書の記載とする。
【0053】
好ましい共重合体には、エチレン−プロピレン共重合体(エチレン:プロピレンの比は約3:1乃至約1:3であることが好ましい)、およびスチレン−イソプレン共重合体がある。オレフィン共重合体は、エチレンとプロピレンからジーグラー触媒によって製造される。オレフィン共重合体の分子量は広い範囲で変わりうるが、好ましい共重合体は分子量が約30000乃至約200000のものであり、より好ましくは約40000乃至約150000のものである。
【0054】
そのような好ましい共重合体としては、窒素原子含有重合体、例えばマレイン酸又はその無水物のような酸成分をオレフィン共重合体に共重合またはグラフトした後、ポリアミンと反応させてアミド又はイミド結合を生成させることによって得られたものが挙げられる。
【0055】
別のそのような好ましい共重合体としては、オレフィン共重合体を酸化したのち酸化重合体をポリアミンと反応させることにより得られたものがある。また別の共重合体としては、オレフィン共重合体を酸化したのちホルムアルデヒドとポリアミンでマンニッヒ縮合することにより得られたものがある。
【0056】
別の好ましい共重合体としては、オレフィンを窒素原子含有単量体と共重合体させることにより、あるいは窒素原子含有単量体をオレフィン共重合体にグラフトすることにより得られたものがあり、窒素原子含有単量体は、例えばN−ビニルピロリドン、N−ビニルチオピロリドン、またはジアルキルアミノエチルメタクリレート等である(窒素原子含有単量体の含量は約0.1乃至約10質量%であることが好ましい)。
【0057】
VI向上剤は、本発明の添加剤組成物中に、一般に添加剤組成物の全質量に基づき約1乃至約99質量%の範囲で存在し、好ましくは約5乃至約95質量%、より好ましくは約10乃至約90質量%の範囲で存在する。
【0058】
分散剤型OCPVI向上剤のこれ以上の記述は、例えばレスリー・R.ルドニック編集、「潤滑剤添加剤の化学と用途」、第5及び10章、マーセル・デッカー社、ニューヨーク、2003年に見られる。
【0059】
[水和アルカリ金属ホウ酸塩]
本発明の添加剤組成物は、以下に述べるように、任意に更に水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を含有していてもよい。
【0060】
水和アルカリ金属ホウ酸塩は当該分野ではよく知られている。好適なホウ酸塩および製造方法を開示する代表的な特許文献としては、次のものが挙げられる:米国特許第3313727号、第3819521号、第3853772号、第3912643号、第3997454号及び第4089790号明細書(特許文献1−6)。
【0061】
本発明に使用するのに適した水和アルカリ金属ホウ酸塩は、下記一般式で表すことができる:

2O・xB23・yH2
【0062】
式中、Mは、アルカリ金属、好ましくはナトリウムまたはカリウムであり、xは、約2.5〜約4.5の数であり(整数でも分数でも)、そしてyは、約1.0〜約4.8の数である。より好ましいのは水和ホウ酸カリウムであり、特には水和三ホウ酸カリウムである。水和ホウ酸塩粒子の平均粒子径は、一般に1ミクロン以下である。
【0063】
本発明に用いられるアルカリ金属ホウ酸塩において、ホウ素とアルカリ金属の比は、約2.5:1乃至約4.5:1の範囲にあることが好ましい。
【0064】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液は一般に、脱イオン水中でアルカリ金属水酸化物とホウ酸の溶液を、任意に少量の対応するアルカリ金属炭酸塩を存在させて形成することにより製造される。次に、その溶液を、潤滑粘度の油、分散剤、および含有すべき何等かの任意の添加剤(例えば、清浄剤または他の任意の添加剤)からなる潤滑剤組成物に加えて乳化液を形成し、次いで脱水する。
【0065】
ヒドロキシル基がホウ酸塩複合体に留まるために、これら複合体は「水和アルカリ金属ホウ酸塩」と呼ばれ、これら水和アルカリ金属ホウ酸塩の油/水乳化液を含む組成物は、「水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液」と呼ばれる。
【0066】
好ましいアルカリ金属ホウ酸塩の油分散液は、ホウ素とアルカリ金属の比が約2.5:1乃至約4.5:1である。別の好ましい態様では、水和ホウ酸塩粒子の平均粒子径は一般に1ミクロン以下である。これに関しては、本発明に用いられる水和アルカリ金属ホウ酸塩は、粒子の90%かそれ以上が約0.6ミクロン以下であるような粒子径を有することが好ましいのが分かっている。
【0067】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液において、水和アルカリ金属ホウ酸塩は、一般には水和ホウ酸塩の油分散液の全質量の約10乃至約75質量%を占め、好ましくは約25乃至約50質量%、より好ましくは約30乃至約40質量%を占める。
【0068】
一般に、水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液は本発明の添加剤組成物中に、添加剤組成物の全質量に基づき約10乃至約90質量%の範囲で存在する。
【0069】
本発明の添加剤組成物および潤滑剤組成物は更に、後述するような当該分野の熟練者には知られている界面活性剤、清浄剤、他の分散剤および他の条件を用いることができる。任意に添加剤組成物は、アルキル芳香族又はポリイソブテニルスルホネートを含有していてもよい。
【0070】
本発明に用いられる水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液は、一般に分散剤、潤滑粘度の油、および任意に清浄剤を含むが、それらについて以下に更に詳しく述べる。
【0071】
本発明に任意に用いられる水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液に用いられる分散剤は、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸無水物およびアルケニルコハク酸エステル等の無灰分散剤、またはこのような分散剤の混合物であってよい。
【0072】
無灰分散剤は、大まかには幾つかの群に分類される。一つのそのような群は、アミン、アミド、イミン、イミドおよびヒドロキシルカルボキシル等を含む一以上の追加の極性機能を持つカルボン酸エステルを含む共重合体に関する。これらの生成物は、長鎖のアルキルアクリレート又はメタクリレートと上記機能を持つ単量体とを共重合させることにより製造することができる。そのような群としては、アルキルメタクリレート−ビニルピロリジノン共重合体、およびアルキルメタクリレート−ジアルキルアミノエチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。さらに、高分子量のアミド及びポリアミドまたはエステル及びポリエステル、例えばテトラエチレンペンタアミン、ポリビニルポリステアレート、および他のポリステアラミドも用いることができる。好ましい分散剤は、N置換長鎖アルケニルコハク酸イミドである。
【0073】
アルケニルコハク酸イミドは通常、アルケニルコハク酸又はその無水物とアルキレンポリアミンの反応から誘導される。これら化合物は一般に、下記式を有すると考えられる。
【0074】
【化2】

【0075】
式中、R7は、実質的に分子量が約400乃至約3000の炭化水素基、すなわちR7は、炭素原子約30〜約200個を含む炭化水素基、好ましくはアルケニル基であり;Alkは、炭素原子数約2〜約10、好ましくは約2〜約6のアルキレン基であり;R8、R9およびR10は、C1〜C4のアルキル又はアルコキシまたは水素から選ばれ、好ましくは水素であり;そしてzは、約0〜約10、好ましくは約0〜約3の整数である。アルキレンコハク酸又はその無水物とアルキレンポリアミンの実際の反応生成物は、スクシンアミド酸およびコハク酸イミドを含む化合物の混合物からなる。しかし、この反応生成物を上記式のコハク酸イミドとして表すことは慣例である、というのはこれが混合物の主成分だからである。例えば、米国特許第3202678号、第3024237号及び第3172892号明細書を参照されたい。
【0076】
これらN置換アルケニルコハク酸イミドは、無水マレイン酸をオレフィン炭化水素と反応させた後、得られたアルケニルコハク酸無水物をアルキレンポリアミンと反応させることにより製造することができる。上記式のR1基、すなわちアルケニル基は、炭素原子約2〜約5個を含むオレフィン単量体から合成した重合体から誘導することが好ましい。よって、アルケニル基は、炭素原子約2〜約5個を含むオレフィンを重合して、分子量が約400乃至約3000の範囲の炭化水素を生成させることにより得られる。そのようなオレフィン単量体の例示としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、およびそれらの混合物がある。
【0077】
コハク酸イミドを製造するのに使用される好ましいポリアルキレンアミンは、下記式を有する:
【0078】
【化3】

【0079】
式中、zは、約0〜約10の整数であり、そしてAlk、R8、R9およびR10は、前に定義した通りである。
【0080】
アルキレンアミンとしては主に、メチレンアミン、エチレンアミン、ブチレンアミン、プロピレンアミン、ペンチレンアミン、ヘキシレンアミン、ヘプチレンアミン、オクチレンアミン、他のポリメチレンアミン、およびそのようなアミンの環状物及び高次類似物、例えばピペラジン、およびアミノアルキル置換ピペラジンを挙げることができる。それらの例示としては特に、エチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、プロピレンジアミン、デカメチルジアミン、オクタメチレンジアミン、ジヘプタメチレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ジトリメチレントリアミン、2−ヘプチル−3−(2−アミノプロピル)−イミダゾリン、4−メチルイミダゾリン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ビス(2−アミノエチル)イミダゾリン、1−(2−アミノプロピル)−ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、および2−メチル−1−(2−アミノブチル)ピペラジンがある。このような高次類似物は、二以上の上記アルキレンアミンを縮合することにより得られ、同様に有用である。
【0081】
エチレンアミンは特に有用である。それらは、カーク・オスマー著、化学技術大辞典、第5巻、p.898−905の「エチレンアミン」の項目(インターサイエンス出版、ニューヨーク、1950年)にある程度詳しく記載されている。
【0082】
「エチレンアミン」は、包括的な意味で使用され、その大部分は下記構造に当てはまるポリアミンの部類を示す。ただし、aは、約1〜約10の整数である。

2N(CH2CH2NH)a
【0083】
よって、その例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびペンタエチレンヘキサアミン等を挙げることができる。
【0084】
「アルケニルコハク酸イミド」には、米国特許第4612132号(ウォレンベルグ、外)及び第4746446号(ウォレンベルグ、外)明細書等に開示のエチレンカーボネートを含む後処理法、並びに他の後処理法などで後処理したコハク酸イミドも含まれ、その各開示内容も全て参照として本明細書の記載とする。
【0085】
ポリアルキレンコハク酸イミド成分などの分散剤成分は、水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液の質量の約2乃至約40質量%を占めることが好ましく、より好ましくは約5乃至約20質量%、そして更に好ましくは約5乃至約15質量%を占める。
【0086】
ポリアルキレンコハク酸無水物、またはポリアルキレンコハク酸無水物の非窒素含有誘導体(例えば、コハク酸、コハク酸の一又は二I族及び/又はII族金属塩、およびポリアルキレンコハク酸無水物、酸塩化物又は他の誘導体とアルコールとの反応により生成したコハク酸エステル等)も、本発明の組成物に使用するのに適した分散剤である。
【0087】
ポリアルキレンコハク酸無水物としては、ポリイソブテニルコハク酸無水物が好ましい。好ましい一態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物は、数平均分子量が少なくとも500、より好ましくは少なくとも約900乃至約3000、更に好ましくは少なくとも約900乃至約2300のポリイソブテニルコハク酸無水物である。
【0088】
別の好ましい態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物の混合物が用いられる。この態様では、混合物は低分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分と、高分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分とからなることが好ましい。より好ましくは、低分子量成分の数平均分子量は約500から1000未満までであり、高分子量成分の数平均分子量は約1000から約3000までである。更に好ましくは、低分子量成分と高分子量成分は両方ともポリイソブテニルコハク酸無水物である。あるいは、様々な分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分を、分散剤として並びに前に明らかにしたような他の前記分散剤との混合物として組み合わせることもできる。
【0089】
上述したように、ポリアルキレンコハク酸無水物は、ポリアルキレン(好ましくはポリイソブテン)と無水マレイン酸との反応生成物である。このようなポリアルキレンコハク酸無水物の製造には、従来のポリイソブテン、または高メチルビニリデンポリイソブテンを用いることができる。この製造には、熱的方法、塩素化法、遊離基法、酸触媒法、あるいはその他任意の方法を使用することができる。好適なポリアルキレンコハク酸無水物の例としては、米国特許第3361673号明細書に記載の熱的PIBSA(ポリイソブテニルコハク酸無水物)、米国特許第3172892号明細書に記載の塩素化PIBSA、米国特許第3912764号明細書に記載の熱的及び塩素化PIBSAの混合物、米国特許第4234435号明細書に記載の高コハク酸比PIBSA、米国特許第5112507号及び第5175225号明細書に記載のポリPIBSA、米国特許第5565528号及び第5616668号明細書に記載の高コハク酸比ポリPIBSA、米国特許第5286799号、第5319030号及び第5625004号明細書に記載の遊離基PIBSA、米国特許第4152499号、第5137978号及び第5137980号明細書に記載の高メチルビニリデンポリブテンから合成したPIBSA、欧州特許出願公開第EP355895号明細書に記載の高メチルビニリデンポリブテンから合成した高コハク酸比PIBSA、米国特許第5792729号明細書に記載の三元共重合体PIBSA、米国特許第5777025号及び欧州特許出願公開第EP542380号明細書に記載のスルホン酸PIBSA、および米国特許第5523417号及び欧州特許出願公開第EP602863号明細書に記載の精製PIBSAがある。これら各文書の開示内容も全て参照として本明細書の記載とする。
【0090】
ポリアルキレンコハク酸無水物または他の分散剤成分は、水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液の質量の約2乃至約40質量%を占めることが好ましく、より好ましくは約5乃至約20質量%、更に好ましくは約5乃至約15質量%を占める。
【0091】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液において、水和アルカリ金属ホウ酸塩は、一般にポリアルキレンコハク酸無水物または他の分散剤に対して少なくとも2:1の比であるが、好ましくは2:1乃至約10:1の範囲にある。より好ましい態様では、その比は少なくとも5:1である。別の好ましい態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物の前に規定した混合物が用いられる。
【0092】
本発明の添加剤組成物に任意に用いられる水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液は、任意に清浄剤を含有していてもよい。本発明の目的に適した清浄剤には多数の物質がある。これらの物質としては、フェネート(高過塩基性または低過塩基性)、高過塩基性フェネートステアレート、フェノラート、サリチレート、ホスホネート、チオホスホネートおよびスルホネート、およびそれらの混合物を挙げることができる。好ましくは、高過塩基性スルホネート、低過塩基性スルホネートまたはフェノキシスルホネートなどのスルホネートが使用される。さらに、スルホン酸自体も用いることができる。
【0093】
スルホネート清浄剤は、炭素数約15〜約200の炭化水素スルホン酸のアルカリ又はアルカリ土類金属塩であることが好ましい。「スルホネート」は、石油製品から誘導されたスルホン酸の塩を包含することが好ましい。そのような酸も当該分野ではよく知られている。石油製品を硫酸または三酸化硫黄で処理することにより得ることができる。こうして得られた酸は石油スルホン酸として、またその塩は石油スルホネートとして知られる。スルホン化される石油製品の大部分は油溶化炭化水素基を含んでいる。「スルホネート」の意味にはまた、合成アルキルアリール化合物のスルホン酸の塩も含まれる。これらの酸もまた、アルキルアリール化合物を硫酸または三酸化硫黄で処理することにより製造される。アリール環の少なくとも1個のアルキル置換基は上記のように油溶化基である。こうして得られた酸はアルキルアリールスルホン酸として、またその塩はアルキルアリールスルホネートとして知られる。アルキルが直鎖であるスルホネートは、公知の線状アルキルアリールスルホネートである。
【0094】
スルホン化により得られた酸を、塩基性で反応性のアルカリ又はアルカリ土類金属化合物で中和することにより金属塩に変換して、I族又はII族金属スルホネートを生成させる。一般に、酸はアルカリ金属塩基で中和する。アルカリ土類金属塩はアルカリ金属塩から複分解により得られる。あるいは、スルホン酸をアルカリ土類金属塩基で直接中和することもできる。次いでスルホネートを過塩基化することもできるが、本発明の目的には過塩基化は必要なものではない。過塩基性物質およびそのような物質の製造方法は、当該分野の熟練者にはよく知られている。例えば、米国特許第3496105号(ルスール)明細書、1970年2月17日発行、特に第3及び4欄を参照されたい。
【0095】
スルホネートは、油分散液にアルカリ及び/又はアルカリ土類金属塩またはそれらの混合物の形で存在する。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウムおよびカリウムが挙げられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウムおよびバリウムが挙げられ、そのうちでも後者の二つが好ましい。
【0096】
しかしながら、特に好ましいのは、その広い入手可能性ゆえに、石油スルホン酸の塩であり、特には、潤滑油留分など種々の炭化水素留分、および炭化水素油を選択溶剤で抽出して得られた芳香族に富んだ抽出物をスルホン化して得られた石油スルホン酸の塩であるが、その抽出物は所望により、スルホン化の前にアルキル化触媒を用いてオレフィンまたは塩化アルキルと反応させてアルキル化してもよい。また、ベンゼンジスルホン酸など有機ポリスルホン酸の塩等であり、これもアルキル化してもしなくてもよい。
【0097】
本発明に使用するのに好ましい塩は、アルキル基(類)が炭素原子を少なくとも約8個、例えば炭素原子約8〜約22個を含むアルキル化芳香族スルホン酸の塩である。スルホネートの出発物質として別の好ましいグループは、脂肪族置換基(類)が全部で炭素原子を少なくとも12個含む脂肪族置換環状スルホン酸であり、例えば、脂肪族基(類)が全部で炭素原子を少なくとも12個含むアルキルアリールスルホン酸、アルキル脂環式スルホン酸、アルキル複素環式スルホン酸および脂肪族スルホン酸である。これら油溶性スルホン酸の具体例としては、石油スルホン酸、モノ及びポリワックス置換ナフタレンスルホン酸、置換スルホン酸、例えばセチルベンゼンスルホン酸、およびセチルフェニルスルホン酸等、脂肪族スルホン酸、例えばパラフィンワックススルホン酸、ヒドロキシ置換パラフィンワックススルホン酸等、脂環式スルホン酸、石油ナフタレンスルホン酸、セチルシクロペンチルスルホン酸、およびモノ及びポリワックス置換シクロヘキシルスルホン酸等を挙げることができる。「石油スルホン酸」は、石油製品から直接誘導される全てのスルホン酸を包含することを意味する。
【0098】
本発明に使用するのに適した代表的なII族金属スルホネートとしては、次に例示する金属スルホネートが挙げられる:カルシウムホワイト油ベンゼンスルホネート、バリウムホワイト油ベンゼンスルホネート、マグネシウムホワイト油ベンゼンスルホネート、カルシウムジポリプロペンベンゼンスルホネート、バリウムジポリプロペンベンゼンスルホネート、マグネシウムジポリプロペンベンゼンスルホネート、カルシウムマホガニー石油スルホネート、バリウムマホガニー石油スルホネート、マグネシウムマホガニー石油スルホネート、カルシウムトリアコンチルスルホネート、マグネシウムトリアコンチルスルホネート、カルシウムラウリルスルホネート、バリウムラウリルスルホネート、マグネシウムラウリルスルホネート等。使用できる金属スルホネートの濃度は、アルカリ金属ホウ酸塩粒子の濃度に応じて広範囲に渡って変えることができる。しかし、清浄剤が存在するとすればその濃度は、一般に水和ホウ酸塩の油分散液の全質量に基づき約0.2乃至約10質量%の範囲にあり、好ましくは約3乃至約7質量%の範囲にある。さらに、本発明の組成物は、前述したように金属スルホネートと無灰分散剤両方の混合物を含んでいてもよいが、その比が水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液の適正な安定を達成する要因である。
【0099】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を生成させるのに使用される潤滑粘度の油は、如何なる炭化水素系潤滑油であってもよいし、あるいは合成基油原料であってもよい。また、これらの潤滑油を前述したように、追加の量で油分散液およびそれを含む添加剤組成物に添加して、完成潤滑油組成物を生成させることができる。炭化水素系潤滑油は、合成の原料からでも天然の原料からでも誘導してよく、そしてパラフィン基、ナフテン基または芳香族基、あるいはそれらの混合物であってもよい。希釈油は天然であっても合成であってもよく、また種々の粘度グレードであってよい。
【0100】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液において、潤滑油は、一般に水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液の全質量に基づき約30乃至約70質量%を占め、より好ましくは約45乃至約55質量%を占める。
【0101】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液は、用いられるとすれば、本発明の添加剤組成物中に添加剤組成物の全質量に基づき約1乃至約99質量%の範囲で存在し、好ましくは約5乃至約95質量%の範囲で存在する。
【0102】
[配合物]
六方晶系窒化ホウ素の油分散液、VI向上剤、および任意に水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を含む本発明の添加剤組成物に、更に追加の添加剤をブレンドして、本発明の添加剤組成物を含む添加剤パッケージを製造することができる。これらの添加剤パッケージは一般に、約10乃至約80質量%の本発明の添加剤組成物と、約90乃至約20質量%の一種以上の従来の添加剤とからなり、従来添加剤は、無灰分散剤(0〜10質量%)、清浄剤(0〜5質量%)、硫化炭化水素(0〜40質量%)、リン酸水素ジアルキル(0〜15質量%)、ジチオリン酸亜鉛(0〜20質量%)、リン酸及び/又はチオジチオリン酸アルキルアンモニウム(0〜20質量%)、亜リン酸エステル(0〜10質量%)、ポリアルコールの脂肪酸エステル(0〜10質量%)、2,5−ジメルカプトチアジアゾール(0〜5質量%)、ベンゾトリアゾール(0〜5質量%)、二硫化モリブデンの分散物(0〜5質量%)、消泡剤(0〜2質量%)、およびイミダゾリン(0〜10質量%)等からなる群より選ばれる、ただし、各質量%は添加剤組成物の全質量に基づく。
【0103】
本発明の完全配合完成油組成物は、これら添加剤パッケージから、更に潤滑粘度の油をブレンドすることで配合することができる。好ましくは、上記添加剤パッケージを潤滑粘度の基油に約1乃至約40質量%、好ましくは約2乃至約20質量%の量で添加して完成油組成物とする、ただし、添加剤パッケージの質量%は潤滑油組成物の全質量に基づく。
【0104】
本発明の潤滑油には、その他各種の添加剤が存在していてもよい。これら添加剤としては、酸化防止剤、さび止め添加剤、腐食防止剤、極圧剤、消泡剤、他の耐摩耗性添加剤、およびその他当該分野で公知の各種の添加剤を挙げることができる。
【実施例】
【0105】
本発明について以下の実施例により更に説明するが、これら実施例は特に有利な態様を示すものである。実施例は、本発明を説明するために記されるのであって、本発明を限定しようとするものではない。
【0106】
[実施例1]
本発明の添加剤組成物について、SAE 第2号ベンチを使用する試験に従って潤滑油中でその粘着(スティッキング)防止性の評価を行った。試験は、同期中の変速機液を評価するものである。このベンチに使用した摩擦対は、真鍮シンクロナイザリングと鋼鉄ギヤコーンから構成された。
【0107】
試験の各サイクル中、コーンを一定速度で回転させ、次いでコーンにブレーキをかけるためにコーンが妨害されるまでリングをコーンの軸に沿って動かす。各サイクルの最後にリングを抜く。
【0108】
粘着が起こったなら、コーンの回転を再び開始したときの粘着トルクを測定する。試験中、潤滑油と金属部分を約60℃から約90℃の間の温度に加熱する。接触圧は約20MPaであり、初期滑り速度は1.6m/秒である。
【0109】
この試験の粘着防止係数を、次のようにして算出した:

粘着防止係数 = 1 − (粘着したサイクル数)
(試験の総サイクル数)
【0110】
従って、粘着防止係数0は、試験のどのサイクルでもリングにコーンの粘着があったことを示す。逆に、粘着防止係数1は、試験の全期間に渡って粘着が全く観察されなかったことを示す。よって、粘着防止係数が高いほど、最大1までであるが、潤滑油の粘着防止性能が良い。
【0111】
試験の潤滑油組成物を下記のように配合したが、配合した油は全て同じ粘度(約9cSt)を有する:
【0112】
(潤滑剤組成物1)
下記の成分を含む潤滑剤組成物1を製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)12質量%の長鎖ポリメタクリレートVI向上剤、商品名ビスコプレックス(Viscoplex)0−113(ローマックス・アディティブスGmbH(RohMax Additives GmbH)社製、ドイツ国、ダルムシュタット)、および
c)78質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0113】
(潤滑剤組成物2)
下記の成分を含む潤滑剤組成物2を製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)12質量%の分散剤型長鎖ポリメタクリレートVI向上剤、商品名ビスコプレックス0−110(ローマックス・アディティブスGmbH社製、ドイツ国、ダルムシュタット)、および
c)78質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0114】
(潤滑剤組成物3)
下記の成分を含む潤滑剤組成物3を製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)12質量%の短鎖ポリメタクリレートVI向上剤、商品名ビスコプレックス0−030(ローマックス・アディティブスGmbH社製、ドイツ国、ダルムシュタット)、および
c)78質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0115】
(潤滑剤組成物4)
下記の成分を含む潤滑剤組成物4を製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)12質量%の質量平均分子量約39000の分散剤型エチレン−プロピレンオレフィン共重合体VI向上剤(商品名パラトーン(Paratone)8500、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC(Chevron Oronite Company, LLC)製、カリフォルニア州サンラモン)、および
c)78質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0116】
(潤滑剤組成物5)
下記の成分を含む潤滑剤組成物5を製造した:
a)7質量%の水和三ホウ酸カリウムの油分散液、ただし、油分散液は150Nニュートラル油に分散した約30質量%の水和三ホウ酸カリウムを含有した、
b)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
c)12質量%の長鎖ポリメタクリレートVI向上剤、商品名ビスコプレックス0−113(ローマックス・アディティブスGmbH社製、ドイツ国、ダルムシュタット)、および
d)71質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0117】
(潤滑剤組成物A(比較))
下記の成分を含む比較用の潤滑剤組成物Aを製造した:
a)7質量%の水和三ホウ酸カリウムの油分散液、ただし、油分散液は150Nニュートラル油に分散した約30質量%の水和三ホウ酸カリウムを含有した、および
b)93質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0118】
(潤滑剤組成物B(比較))
下記の成分を含む比較用の潤滑剤組成物Bを製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は、安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有する、および
b)90質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0119】
(潤滑剤組成物C(比較))
下記の成分を含む比較用の潤滑剤組成物Cを製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は、安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)12質量%の質量平均分子量約90000の非分散剤型エチレン−プロピレンオレフィン共重合体VI向上剤(商品名パラトーン8002、シェブロン・オロナイト・カンパニーLLC製、カリフォルニア州サンラモン)、および
c)78質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0120】
(潤滑剤組成物D(比較))
下記の成分を含む比較用の潤滑剤組成物Dを製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は、安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)0.5質量%のポリイソブテニルモノ−コハク酸イミド、および
c)89.5質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0121】
(潤滑剤組成物E(比較))
下記の成分を含む比較用の潤滑剤組成物Eを製造した:
a)10質量%の六方晶系窒化ホウ素の油分散液、ただし、油分散液は、安定剤を含む150Nニュートラル油に分散した約10質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含有した、
b)0.5質量%のポリイソブテニルビス−コハク酸イミド、および
c)89.5質量%のニュートラル油(150Nと600N)と合成ポリアルファオレフィン油の50/50混合物。
【0122】
第 1 表
────────────────────────────────────
試料 リングにコーンが 総サイクル数 粘着防止係数
粘着したサイクル数
────────────────────────────────────
基油 5000 5000 0
比較組成物A 8100 8100 0
比較組成物B 6600 6600 0
比較組成物C 5700 5700 0
比較組成物D 6400 6400 0
比較組成物E 8100 8100 0
────────────────────────────────────
組成物1 500 7100 0.93
1050 5600 0.81
組成物2 100 6800 0.99
組成物3 1200 6850 0.82
組成物4 200 20000 0.99
組成物5 650 20000 0.97
────────────────────────────────────
【0123】
上記のデータは、本発明の添加剤組成物が、顕著な粘着防止性能をもたらして比較組成物よりも著しい改善を示すことを明らかにしている。
【0124】
以上の記述から、上述した本発明の種々の変更および取替えを当該分野の熟練者は考えつくであろう。添付した特許請求の範囲内に入るそのような変更は全て、本発明に包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含む変速機油用添加剤組成物:
a)六方晶系窒化ホウ素の油分散液、および
b)下記の化合物からなる群より選ばれる粘度指数向上剤:
i)ポリメタクリレート、
ii)分散剤型ポリメタクリレート、および
iii)分散剤型オレフィン共重合体、
ただし、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度指数向上剤との質量比は約99:1乃至約1:99の範囲にある。
【請求項2】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度指数向上剤共重合体との質量比が、約5:95乃至約95:5の範囲にある請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項3】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液が、粒子の90%以上が約0.5ミクロン以下である粒径分布を有する請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項4】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液が、潤滑粘度の油、および油分散液の全質量に基づき約1乃至約50質量%の六方晶系窒化ホウ素固形物を含む請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項5】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液が更に、安定剤として界面活性剤を含む請求項4に記載の添加剤組成物。
【請求項6】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液が、添加剤組成物中に添加剤組成物の全質量に基づき約10乃至約90質量%の範囲で存在する請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項7】
ポリメタクリレートが、短鎖、中鎖又は長鎖の炭化水素側鎖を含む請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項8】
分散剤型ポリメタクリレートが、短鎖、中鎖又は長鎖の分散剤型炭化水素側鎖を含む請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項9】
分散剤型オレフィン共重合体が、分散剤型エチレン・プロピレンオレフィン共重合体である請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項10】
さらに、水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液を含む請求項1に記載の添加剤組成物。
【請求項11】
水和アルカリ金属ホウ酸塩のアルカリ金属がナトリウムまたはカリウムである請求項10に記載の添加剤組成物。
【請求項12】
アルカリ金属がカリウムである請求項11に記載の添加剤組成物。
【請求項13】
水和アルカリ金属ホウ酸塩が水和三ホウ酸カリウムである請求項10に記載の添加剤組成物。
【請求項14】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液が、水和アルカリ金属ホウ酸塩、分散剤および潤滑粘度の油を含む請求項10に記載の添加剤組成物。
【請求項15】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液が、油分散液の全質量に基づき約10乃至約75質量%の水和アルカリ金属ホウ酸塩を含む請求項14に記載の添加剤組成物。
【請求項16】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液が、油分散液の全質量に基づき約2乃至約40質量%の分散剤を含む請求項15に記載の添加剤組成物。
【請求項17】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液が更に、清浄剤を含む請求項16に記載の添加剤組成物。
【請求項18】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液が、油分散液の全質量に基づき約0.2乃至約10質量%の清浄剤を含む請求項17に記載の添加剤組成物。
【請求項19】
水和アルカリ金属ホウ酸塩の油分散液が、添加剤組成物中に添加剤組成物の全質量に基づき約10乃至約90質量%の範囲で存在する請求項10に記載の添加剤組成物。
【請求項20】
主要量の潤滑粘度の変速機油、および有効シンクロナイザ粘着低減量の下記成分からなる添加剤組成物を含む潤滑油組成物:
a)六方晶系窒化ホウ素の油分散液、および
b)下記の化合物からなる群より選ばれる粘度指数向上剤:
i)ポリメタクリレート、
ii)分散剤型ポリメタクリレート、および
iii)分散剤型オレフィン共重合体、
ただし、六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度指数向上剤との質量比は約99:1乃至約1:99の範囲にある。
【請求項21】
六方晶系窒化ホウ素の油分散液と粘度増大共重合体との質量比が、約5:95乃至約95:5の範囲にある請求項20に記載の潤滑油組成物。
【請求項22】
潤滑油組成物が、潤滑油組成物の全質量に基づき約1乃至約20質量%の添加剤組成物を含む請求項20に記載の潤滑油組成物。
【請求項23】
変速機油が手動変速ギヤ油である請求項20に記載の潤滑油組成物。

【公表番号】特表2007−514048(P2007−514048A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−544601(P2006−544601)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【国際出願番号】PCT/IB2004/004368
【国際公開番号】WO2005/059068
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(598066514)シェブロン・オロナイト・エス.アー. (20)
【出願人】(505036674)トータル・フランス (39)
【氏名又は名称原語表記】TOTAL FRANCE
【Fターム(参考)】