説明

変速機

【課題】ステータシャフトの筒状部に挿通したメインシャフトを介してトルクコンバータの回転がクラッチに伝達される構造の変速機において、ステータシャフト及びその周辺の構成を改良することで、部品点数の削減、外形寸法の小型化、軽量化を図る。
【解決手段】変速機1において、ステータシャフト30における筒状部31の端部31aに設けたクラッチ20側に突出する環状の突起からなる突出部33と、クラッチドラム21におけるステータシャフト30に面する側壁21cに設けた環状の突起からなるガイド部29とを備え、突出部33の外周面33aとガイド部29の内周面29aとを径方向で対向させて配置し、それらの隙間61をシールリング34で液密に封した。また、ステータシャフト30とクラッチドラム21とメインシャフト2によって形成された第1の油路62は、シールリング34で封されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータシャフトの筒状部に挿通されたメインシャフトを介してトルクコンバータの回転をクラッチに伝達する構造の変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1に示すように、ステータシャフトの筒状部に挿通されたメインシャフトを介してトルクコンバータの出力要素の回転を変速機構側のクラッチに伝達する構造の変速機がある。このような変速機の従来構造では、ステータシャフトの内周側に圧入した環状の部材(カラー)によって、ステータシャフトに対するメインシャフトの径方向の位置決め及び支持を行っていた。また、ステータシャフトとメインシャフトの間には、潤滑用の油路が設けられているが、当該環状の部材によって、ステータシャフトとメインシャフトの隙間の油路を区画していた。
【0003】
しかしながら、上記の構造では、ステータシャフトに環状の部材を圧入して組み付けるため、組立工程に手間がかかり、製品のコスト増につながる。また、圧入して取り付けた環状の部材で油路を区画すると、圧入面で油圧を面シールするため、圧入品質の管理が必要となり、この点においても組立工程に手間がかかっていた。また、ステータシャフトとメインシャフトの間に環状の部材を設けていることで、ステータシャフト及び変速機の径方向の寸法が大きくなるという問題もあった。
【0004】
また、特許文献1に示す従来構造では、ステータシャフトの端部から出ているメインシャフトに固定されたクラッチドラムに対して、ステータシャフトの端部の外周面をクラッチドラムの内周面に対向させている(特許文献1の図1参照)。この場合、クラッチドラムに対向するステータシャフトの外周面には、軸方向に沿って所定間隔で複数個(特許文献1の図1では二個)のシールリングを並べて設置している。また、ステータシャフトのクラッチ側の端面(先端面)には、油圧を塞ぐ為のプラグを設置している。
【0005】
しかしながら、この構造では、ステータシャフトとクラッチドラムの間に複数個のシールリングを設置していることで、ステータシャフトにおけるクラッチドラムに対向する部分の軸方向の寸法が長くなっている。これにより、変速機の軸方向の寸法が大きくなるという問題がある。また、複数個のシールリングとプラグを設置していることで、ステータシャフト周りの部品点数が多くなり、構造が複雑になる。また、変速機の重量増にもつながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−239910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステータシャフトの筒状部に挿通させたメインシャフトを介してトルクコンバータの回転がクラッチに伝達される構造の変速機において、ステータシャフト及びその周辺の構成を改良することで、部品点数の削減、外形寸法の小型化、軽量化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、トルクコンバータ(TC)からの駆動力が伝達されて回転するメインシャフト(2)と、メインシャフト(2)の外周側で同軸状に設置された中空の筒状部(31)と、該筒状部の端部(31a)から径方向の外側に伸びてトルクコンバータ(TC)を収容しているケース(11)に固定されるフランジ部(32)とを有するステータシャフト(30)と、ステータシャフト(30)における筒状部(31)の端部(31a)から出ているメインシャフト(2)に固定されたクラッチドラム(21)を有するクラッチ(20)と、を備えた変速機(1)であって、ステータシャフト(30)における筒状部(31)の端部(31a)に設けたクラッチ(20)側に突出する環状の突起からなる突出部(33)と、クラッチドラム(21)におけるステータシャフト(30)に面する側壁(21c)に設けた環状の突起からなるガイド部(29)と、を備え、突出部(33)とガイド部(29)を径方向で互いに対向させて配置し、これら突出部(33)とガイド部(29)の径方向の隙間(61)をシール部材(34)で液密に封していることを特徴とする。
【0009】
本発明にかかる変速機によれば、ステータシャフトに設けたクラッチ側に突出する環状の突起からなる突出部と、クラッチドラムの側壁に設けた環状の突起からなるガイド部とを備え、突出部とガイド部を径方向で互いに対向させて配置し、これら突出部とガイド部の径方向の隙間をシール部材で液密に封しているので、ガイド部と突起部とによってステータシャフト周りの油路を区画することができる。したがって、従来、ステータシャフトとメインシャフトの間に設置していた環状の部材(カラー)を省略することが可能となる。これにより、ステータシャフトの周辺の部品点数を削減することができる。また、環状の部材を省略することによって、ステータシャフトの軸径の小型化が可能となる。したがって、変速機の構成の簡素化・軽量化を図ることができる。また、組立工程の簡素化によるコストダウンを図ることができる。
【0010】
また、上記の変速機では、ステータシャフト(30)の突出部(33)とクラッチドラム(21)の側壁(21c)とメインシャフト(2)の外周面(2a)とで画成された第1の油路(62)を備え、突出部(33)とガイド部(29)の隙間(61)に設けたシール部材(34)は、この第1の油路(62)を封しているとよい。これによれば、ステータシャフトとクラッチドラムの間のスペースに形成した油路を簡単な構成で密封することが可能となる。したがって、変速機内の既存の隙間を油路として有効に利用できるので、変速機の構成の簡素化、小型化、軽量化を図ることができる。
【0011】
また、この場合、クラッチドラム(21)の側壁(21c)におけるガイド部(29)よりも内周側の位置には、第1の油路(62)とクラッチ(20)内の油圧室(27)とを連通する第2の油路(66)が形成されているとよい。これによれば、ステータシャフトとクラッチの隙間に設けた第1の油路を利用して、クラッチ内の油圧室への作動油の供給が行えるようになる。したがって、クラッチへの作動油の供給経路の簡素化を図ることができる。
【0012】
また、上記の変速機では、シール部材(34)は、突出部(33)の外周面(33a)に形成したシール溝(33b)内に設置した一本のシールリング(34)であり、突出部(33)には、第1の油路(62)に連通する第3の油路(67)が形成されており、この第3の油路(67)は、ステータシャフト(30)における筒状部(31)の軸方向に沿って延びており、かつ、クラッチ(20)側からトルクコンバータ(TC)側に向かうにつれて径方向の内側から外側に傾斜しているとよい。
【0013】
このように、突出部とガイド部の径方向の隙間を封するシール部材を一本のシールリングにすれば、ステータシャフト周りの部品点数を削減することができる。また、突出部の軸方向の寸法を短く抑えることが可能となるので、変速機の小型化及び軽量化を図ることができる。また、突出部とガイド部との隙間を封するシール部材を一本のシールリングとすることで、上記のように、突出部に設けた第3の油路をクラッチ側からトルクコンバータ側に向かうにつれて径方向の内側から外側に傾斜させて配置することが可能となる。これにより、突出部の径寸法及びシールリングの径寸法を小さく抑えることができるので、変速機の外形寸法の小型化、軽量化を図ることができる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる変速機によれば、ステータシャフト及びその周辺の構成を改良することで、部品点数の削減、外形寸法の小型化、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態にかかる変速機の一部を示す主断面図である。
【図2】変速機におけるステータシャフト及びその周辺の構成を示す部分拡大断面図である。
【図3】図2のA部分の部分拡大図であり、ステータシャフトの端部及びその周辺の詳細構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる変速機の一部を示す主断面図である。図1に示す変速機1は、トルクコンバータTCを介してエンジン(図示せず)のクランクシャフト3の駆動力が伝達されるメインシャフト2を備えており、メインシャフト2上には、該メインシャフト2に対してギヤ4を係脱させるフォワードクラッチ(以下、単に「クラッチ」という。)20が配置されている。
【0017】
また、図示は省略するが、この変速機1は、メインシャフト2の駆動力が伝達される変速機構として、駆動プーリ軸上に設けた駆動プーリと、従動プーリ軸上に設けた従動プーリとの間に無端状のVベルトを巻き掛けてなるベルト式無段変速機構(CVT:Continuously Variable Transmission)を備えている。このベルト式無段変速機構の駆動プーリ軸には、クラッチ20に繋がれたギヤ4が噛み合っており、車両の前進時には、クラッチ20の係合によりギヤ4から駆動プーリ軸に駆動力が伝達されるようになっている。なお、メインシャフト2の駆動力が伝達される変速機構としては、上記のベルト式無段変速機構には限らず、それ以外にも、遊星歯車機構などの有段式変速機構であってもよい。
【0018】
変速機1は、トルクコンバータTCを収容するトルクコンバータケース(以下、「TCケース」と記す。)11を備えている。また、TCケース11の端部には、クラッチ20やベルト式無段変速機構などの変速機構を収容するトランスミッションケース(以下、「Mケース」と記す。)12が取り付けられている。
【0019】
トルクコンバータTCは、クランクシャフト3で駆動されるポンプインペラ41と、ポンプインペラ41に対向した状態でメインシャフト2に連結されたタービンランナ42と、ポンプインペラ41とタービンランナ42との間に設けられたステータ43と、ステータ43とステータシャフト30との間に設けたワンウェイクラッチ44とを備えている。なお、タービンランナ42とエンジンドライブプレート45との間には、ダンパ付きのロックアップクラッチピストン46が配置されている。また、コンバータカバー47のクランクシャフト3と反対側の端部には、インペラシェル48が接続されており、インペラシェル48の内周側には、トルクコンバータスリーブ49が接続されている。トルクコンバータスリーブ49は、一端がクラッチ20側へ伸びている。トルクコンバータスリーブ49の外周には、オイルポンプ(図示せず)を駆動するためのスプロケット50が嵌合している。スプロケット50は、TCケース11の内周に対して軸受51で回転自在に支持されている。
【0020】
タービンランナ42の外側は、タービンシェル52で覆われている。タービンシェル52は、その内周部がハブ53を介してメインシャフト2に固定されている。ステータ43を支持するワンウェイクラッチ44は、ステータシャフト30にスプライン嵌合している。ステータシャフト30は、内部をメインシャフト2が貫通する中空筒状の筒状部31と、筒状部31のクラッチ20側の端部31aから半径方向の外側に向かって伸びる略平板状のフランジ部32とを有している。フランジ部32は、その外周側がTCケース11に固定されている。また、ステータシャフト30は、筒状部31の端部31aとフランジ部32の内周端との連結部に設けた突出部33を有している。突出部33は、筒状部31の軸方向に沿ってクラッチ20側に突出した環状の突起からなる。
【0021】
図2は、ステータシャフト30及びその周辺の構成を示す部分拡大断面図である。ステータシャフト30の筒状部31から出ているメインシャフト2は、クラッチ20に連結されている。クラッチ20は、クラッチドラム21とクラッチハブ23を備えている。クラッチドラム21は、外周壁21a及び内周壁21bと、これら外周壁21aと内周壁21bのトルクコンバータTC側の端部を繋ぐ側壁21cとを備えて構成されている。側壁21cは、軸方向と直交する平面内に配置されており、その外側面がステータシャフト30に面している。クラッチハブ23は、メインシャフト2上に相対回転可能に設置したギヤ4(図1参照)に連結されている。クラッチドラム21の外周壁21aの内面には、ドライブプレート24aがスプライン嵌合で固定されている。一方、クラッチハブ23の外面には、ドライブプレート24aからの動力が伝達されるドリブンプレート24bが固定されている。ドライブプレート24aとドリブンプレート24bからなるクラッチ板24は、軸方向に沿って複数枚が積層されている。
【0022】
また、クラッチドラム21内には、クラッチ板24を押圧するクラッチピストン25が設置されている。また、クラッチピストン25とクラッチドラム21の側壁21cとの間には、油圧室27が画成されている。また、クラッチドラム21に固定されたハブ22とクラッチピストン25と間には、クラッチピストン25をクラッチドラム21側へ付勢するコイルスプリング28が設置されている。クラッチピストン25は、油圧室27の油圧によって軸方向に移動してクラッチ板24を押圧する。一方、クラッチ20の非係合時には、コイルスプリング28の付勢力で油圧室27の作動油が排出されて、油圧室27の油圧が低下するようになっている。
【0023】
図3は、図2のA部分の部分拡大図であり、ステータシャフト30の突出部33及びその周辺の詳細構成を示す図である。同図に示すように、本実施形態の変速機1では、ステータシャフト30における筒状部31の端部31aには、クラッチ20側に突出する環状の突起からなる突出部33が設けられている。また、クラッチドラム21におけるステータシャフト30に面する側壁21cには、環状の突起からなるガイド部29が設けられている。ガイド部29の径寸法は、突出部33の径寸法よりも若干大きな寸法に形成されている。そして、突出部33の外周面33aがガイド部29の内周面29aに対して微小な寸法の隙間61を介して径方向で対向している。
【0024】
突出部33の外周面33aには、環状のシール溝33bが形成されている。シール溝33bには、シールリング(シール部材)34が設置されており、当該シールリング34がガイド部29の内周面29aに密接している。これにより、突出部33の外周面33aとガイド部29の内周面29aとの隙間61を液密に保つようにしてある。この隙間61に設けたシールリング34は、本実施形態では、1本のみが設置されている。
【0025】
そして、クラッチドラム21とステータシャフト30の間には、ステータシャフト30の突出部33と、クラッチドラム21の側壁21cと、メインシャフト2の外周面2aとで囲まれた第1の油路62が形成されている。そして、突出部33の外周面33aとガイド部29の内周面29aとの隙間61に設けたシールリング34は、この第1の油路62におけるクラッチドラム21とステータシャフト30との間を密封している。一方、クラッチドラム21の側壁21cに設けたガイド部29の外周面29b上には、ステータシャフト30のフランジ部32とクラッチドラム21の側壁21cとの間に介在しているニードルベアリング63が配置されている。
【0026】
また、図2に示すように、クラッチドラム21の内周壁21bとメインシャフト2との隙間には、Oリング64が設置されている。Oリング64は、メインシャフト2の外周面2aに形成した環状の溝部2bに設置されている。このOリング64は、第1の油路62におけるクラッチドラム21の内周壁21bとメインシャフト2の外周面2aとの隙間を密封している。また、クラッチドラム21の内周壁21bとメインシャフト2の外周面2aとの間には、クラッチドラム21をメインシャフト2にスプライン嵌合させている嵌合部65が設けられている。嵌合部65は、軸方向でステータシャフト30のシールリング34とメインシャフト2のOリング64との間に設置されており、第1の油路62内に配置されている。
【0027】
また、クラッチドラム21の側壁21cには、油圧室27に作動油を供給するための第2の油路66が形成されている。この第2の油路66は、側壁21cにおけるガイド部29よりも内周側の位置に形成されており、第1の油路62とクラッチ20内の油圧室27とを連通している。
【0028】
また、ステータシャフト30の突出部33には、第3の油路67が形成されている。第3の油路67は、ステータシャフト30の筒状部31の軸方向に沿って延びており、かつ、クラッチ20側からトルクコンバータTC側で次第に径方向の外側に向かうように傾斜して形成されている。この第3の油路67は、第1の油路62とフランジ部32の内部に設けた他の油路69とを連通している。
【0029】
以上説明したように、本実施形態の変速機1では、ステータシャフト30に設けたクラッチ20側に突出する環状の突起からなる突出部33と、クラッチドラム21の側壁21cに設けた環状の突起からなるガイド部29とを備え、これら突出部33とガイド部29を径方向で互いに対向させて配置し、突出部33の外周面33aとガイド部29の内周面29aとの径方向の隙間61をシール部材34で液密に封している。このようなガイド部29と突出部33によって、ステータシャフト30周りの油路62を区画することができる。したがって、従来構成でステータシャフト30とメインシャフト2の間に設置していた環状の部材(カラー)を省略することが可能となり、ステータシャフト30の周辺の部品点数を削減することができる。また、環状の部材を省略することによって、ステータシャフト30の軸径の小型化が可能となる。したがって、変速機1の構成の簡素化・軽量化を図ることができる。また、組立工程の簡素化によるコストダウンを図ることができる。
【0030】
また、上記の変速機1では、ステータシャフト30の突出部33とクラッチドラム21の側壁21cとメインシャフト2の外周面2aとで画成された第1の油路62を備え、突出部33とガイド部29との隙間61に設置したシールリング34で当該第1の油路62を密封している。このように構成したことで、ステータシャフト30とクラッチ20の間のスペースに形成した油路62を簡単な構成で密封することが可能となる。したがって、変速機1内の既存の隙間を油路として有効に活用できるので、変速機1の構成の簡素化、外形寸法の小型化、軽量化を図ることができる。
【0031】
また、本実施形態では、クラッチドラム21の側壁21cにおけるガイド部29よりも内周側の位置に、第1の油路62とクラッチドラム21内の油圧室27とを連通する第2の油路66が形成されている。これにより、ステータシャフト30とクラッチ20の隙間に形成した第1の油路62を用いて、クラッチ20内の油圧室27への作動油の供給が行えるようになる。したがって、クラッチ20への作動油の供給経路の簡素化を図ることができる。
【0032】
また、本実施形態では、突出部33とガイド部29との隙間61に設けたシール部材は、突出部33の外周面33aにおけるシール溝33b内に設置した一本のシールリング34のみである。このように、突出部33とガイド部29との隙間61を密封するためのシール部材を一本のシールリング34としたことで、ステータシャフト30周りの部品点数を削減することができる。また、突出部33には、第1の油路62に連通する第3の油路67が形成されており、この第3の油路67は、ステータシャフト30の軸方向に沿って延びており、かつ、クラッチ20側からトルクコンバータTC側に向かうにつれて径方向の内側から外側に傾斜している。すなわち、本実施形態では、突出部33のシールリング34を一本のシールリング34のみとしたことで、突出部33に設けた第3の油路67を上記のように傾斜させて配置することが可能となる。これにより、突出部33の径寸法及びシールリング34の径寸法を小さく抑えることができるので、変速機1の外形寸法の小型化、軽量化を図ることができる。
【0033】
また、本実施形態では、クラッチドラム21の側壁21cに突起状のガイド部29を設けたことにより、このガイド部29の内周面29aを、ステータシャフト30との隙間をシールするシールリング34の摺動面として用いている。一方、ガイド部29の外周面29bを、クラッチドラム21とステータシャフト30の間に設けたニードルベアリング63の位置決め部(径方向の位置決め部)として用いている。したがって、簡単な構成でありながら、ステータシャフト30とクラッチドラム21の隙間に形成した第1の油路62の密封と、ニードルベアリング63の位置決めとの両方を可能としている。
【0034】
また、本実施形態では、ステータシャフト30の突出部33とクラッチドラム21のガイド部29との隙間61に設けたシールリング34を1本のみとし、この1本のシールリング34とOリング64とで第1の油路62を密封している。これにより、従来、ステータシャフト30周りの油路を塞ぐために設けていたプラグなどの部品を省略することが可能となる。したがって、変速機1の軸方向寸法の小型化を図ることができる。また、変速機1の部品点数の削減及び軽量化を図ることができる。
【0035】
また、本実施形態では、クラッチドラム21がメインシャフト2に対してスプライン嵌合している嵌合部65は、ステータシャフト30のシールリング34とメインシャフト2のOリング64との間、すなわち第1油路62内に配置されている。これにより、シールリング34とOリング64で密封された第1の油路62に導入されている潤滑油で嵌合部65の潤滑を行うことができる。したがって、嵌合部65を潤滑するための潤滑回路を別途に設ける必要がないので、変速機1の構成の簡素化を図ることができる。
【0036】
また、上記構成では、ステータシャフト30のフランジ部32とクラッチドラム21の側壁21cとの間に設置したニードルベアリング63は、クラッチドラム21側からの軸方向荷重であるギヤ反力(ギヤ4からの反力)を受ける。したがって、ニードルベアリング63は、このギヤ反力に耐えられるように設計する必要があるところ、本実施形態では、突出部33とガイド部29との隙間61に設置するシールリング34を1本のみとしたことで、突出部33に設けた第3の油路67を傾斜状に形成しているので、ステータシャフト30側からニードルベアリング63に対して軸方向荷重である油圧反力(油路67内の油圧による反力)がかかる。したがって、この油圧反力を上記のギヤ反力に対向させることにより、ニードルベアリング63にかかる軸方向荷重を軽減できる。これにより、ニードルベアリング63にかかる負荷を低減することができる。したがって、ニードルベアリング63の小型化・軽量化を図ることができる。また、ニードルベアリング63の動作フリクションを低減することができる。
【0037】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、本発明を適用する変速機は、ステータシャフトの筒状部に挿通されたメインシャフトを介してトルクコンバータの回転をクラッチに伝達する構造の変速機であれば、その具体的な構成は、上記実施形態に示すベルト式無段変速機構などを備えた変速機には限らず、他の構成の変速機にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0038】
1 変速機
2 メインシャフト
2a 外周面
11 TCケース
20 フォワードクラッチ(クラッチ)
21 クラッチドラム
21a 外周壁
21b 内周壁
21c 側壁(ステータシャフトに面する側壁)
27 油圧室
29 ガイド部
29a 内周面
29b 外周面
30 ステータシャフト
31 筒状部
31a 端部
32 フランジ部
33 突出部
33a 外周面
33b シール溝
34 シールリング(シール部材)
61 隙間(径方向の隙間)
62 第1の油路
63 ニードルベアリング
64 Oリング
65 嵌合部
66 第2の油路
67 第3の油路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータからの駆動力が伝達されて回転するメインシャフトと、
前記メインシャフトの外周側で同軸状に設置された中空の筒状部と、該筒状部の端部から径方向の外側に伸びて前記トルクコンバータを収容しているケースに固定されるフランジ部とを有するステータシャフトと、
前記ステータシャフトにおける前記筒状部の端部から出ている前記メインシャフトに固定されたクラッチドラムを有するクラッチと、を備えた変速機であって、
前記ステータシャフトにおける前記筒状部の端部に設けた前記クラッチ側に突出する環状の突起からなる突出部と、
前記クラッチドラムにおける前記ステータシャフトに面する側壁に設けた環状の突起からなるガイド部と、を備え、
前記突出部と前記ガイド部を径方向で互いに対向させて配置し、これら突出部とガイド部の径方向の隙間をシール部材で液密に封している
ことを特徴とする変速機。
【請求項2】
前記ステータシャフトの前記突出部と前記クラッチドラムの前記側壁と前記メインシャフトの外周面とで画成された第1の油路を備え、
前記突出部と前記ガイド部との隙間に設けた前記シール部材は、前記第1の油路を封している
ことを特徴とする請求項1に記載の変速機。
【請求項3】
前記クラッチドラムの前記側壁における前記ガイド部よりも内周側の位置には、前記第1の油路と前記クラッチ内の油圧室とを連通する第2の油路が形成されている
ことを特徴とする請求項2に記載の変速機。
【請求項4】
前記シール部材は、前記突出部の外周面に形成したシール溝内に設置した一本のシールリングであり、
前記突出部には、前記第1の油路に連通する第3の油路が形成されており、
前記第3の油路は、前記ステータシャフトにおける前記筒状部の軸方向に沿って延びており、かつ、前記クラッチ側から前記トルクコンバータ側に向かうにつれて径方向の内側から外側に傾斜している
ことを特徴とする請求項3に記載の変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−106520(P2011−106520A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260471(P2009−260471)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】