説明

変速歯車装置

【課題】構成を単純化することにより、簡易に高い変速比を得られるとともに、伝達効率を向上し小型化することが可能な変速歯車装置を提供することを目的とする。
【解決手段】変速歯車装置1は、内径の異なる内歯歯車11,12が形成されたハウジング10と、複数の内歯歯車11,12とそれぞれ噛合し入力軸から出力軸への回転を変速する複数の変速ユニット31,32と、を備える。変速ユニット31,32は、入出力軸線Lo方向に突出するピン41,141および挿入孔62,162のうち一方を有する回転部材40,140と、入出力軸線Loに対して偏心した偏心軸線Laを中心とする偏心部材51,151と、偏心部材51,151が入出力軸線Loを中心に回転することにより揺動回転する揺動部材60,160と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速歯車装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
変速歯車装置は、モータなどにより入力される回転を変速する減速装置または増速装置として用いられている。このような変速歯車装置において、高い変速比を得るために、例えば、特許文献1,2に示すように、遊星歯車機構を利用した減速装置が知られている。特許文献1の減速装置は、入力軸の回転により1組の遊星歯車を同位相となるように揺動回転させ、各遊星歯車の外歯歯車とそれぞれ噛合する内歯歯車との回転数差を減速比として出力している。特許文献2の減速装置は、入力軸の回転により遊星歯車を揺動回転させ、遊星歯車の自転成分のみを伝達して出力している。このような構成により、特許文献1,2の減速装置は、一段で高い変速比を得ることができる。
【0003】
しかし、変速歯車装置は、変速比を高く設定するほど駆動力の伝達効率が低下することから、より高い変速比を得るために装置が大型化することがあった。また、特に高い伝達効率を要する増速装置の場合に、セルフロックが生じるおそれがあるため、一段で得られる増速比には限りがある。そこで、特許文献3の段落[0031]、図5などに示すように、同一の構成からなる減速装置を直列に配置する構成が知られている。特許文献3の減速装置は、複数段に亘り減速することにより、全体の変速比の増加を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−127150号公報
【特許文献2】特開2002−266955号公報
【特許文献3】特開2010−019286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献3に記載の構成では、連結された各減速装置において伝達する駆動力の大きさが異なるのに対して、各減速装置が同一の構成からなるため、装置全体として伝達可能な駆動力が制限されるおそれがある。さらに、各減速装置を連結する部材などを要し、入出力軸線方向に大型化する傾向にある。また、このような変速歯車装置は、変速比の増加、伝達効率の向上、および小型化などの要請がある。
【0006】
本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、構成を単純化することにより、簡易に高い変速比を得られるとともに、伝達効率を向上し小型化することが可能な変速歯車装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
共通の入出力軸線を中心として入力軸および出力軸を回転可能に支持し、内周面に内径の異なる複数の内歯歯車が形成されたハウジングと、
複数の前記内歯歯車が形成された前記ハウジングの前記入出力軸線方向位置にそれぞれ配置され、複数の前記内歯歯車とそれぞれ噛合し前記入力軸から前記出力軸への回転を変速する複数の変速ユニットと、
を備える変速歯車装置であって、
前記変速ユニットは、
前記ハウジングにより前記入出力軸線を中心として回転可能に支持され、前記入出力軸線方向に突出するピンおよび前記ピンが挿入される挿入孔のうち一方を有する回転部材と、
前記入出力軸線に対して偏心した偏心軸線を中心とする偏心部材と、
環状からなり、前記偏心部材の外周側に回転可能に支持され、外周面に形成され前記内歯歯車と噛合可能な外歯歯車と、前記ピンおよび前記挿入孔のうち他方と、を有し、前記偏心部材が前記入出力軸線を中心に回転することにより揺動回転する揺動部材と、
を有し、
複数の前記変速ユニットのうち隣り合う一側、他側変速ユニットにおいて、
前記一側変速ユニットの前記偏心部材は、前記入力軸および前記出力軸のうち一方に連結され、
前記一側変速ユニットの前記回転部材は、前記他側変速ユニットの前記偏心部材と連結され、
前記他側変速ユニットの前記回転部材は、前記入力軸および前記出力軸のうち他方に連結されることである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、
複数の前記変速ユニットのうち少なくとも一の前記変速ユニットは、
前記ピンを有する回転部材と、
前記入出力軸線方向に連設される複数の前記偏心部材と、
前記挿入孔を有し、複数の前記偏心部材にそれぞれ支持される複数の前記揺動部材と、
を有することである。
【0009】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、
前記変速ユニットにおける複数の前記偏心部材は、複数の当該偏心部材によりそれぞれ支持される各前記揺動部材が前記入出力軸線を中心とした回転の周方向に等間隔で配置されるように、前記入力軸および前記出力軸のうち一方に連結されることである。
【0010】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、
前記一側変速ユニットの前記回転部材は、当該回転部材の外周面において前記他側変速ユニットの前記揺動部材を回転可能に支持するように、前記一側変速ユニットの前記回転部材の径方向に偏心した位置に前記他側変速ユニットの前記偏心部材を一体的に連結されることである。
【0011】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、前記一側変速ユニットの前記回転部材は、当該回転部材の外周面を前記他側変速ユニットの前記回転部材の前記ピンにより支持されることである。
【0012】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項1〜5の何れか一項において、
複数の前記変速ユニットのうち少なくとも一の前記変速ユニットにおいて、当該変速ユニットの前記回転部材が前記ピンを有するとともに、当該変速ユニットの前記揺動部材が前記挿入孔を有し、
当該変速ユニットの前記偏心部材に対して前記ピンの突出方向に配置されるとともに、前記ハウジングにより前記入出力軸線を中心として回転可能に支持され、前記揺動部材の前記挿入孔を貫通した前記ピンを支持するピン支持部材をさらに備えることである。
【0013】
請求項7に係る発明の特徴は、請求項6において、前記ピン支持部材は、前記変速歯車装置の駆動状態において高回転側となる前記変速ユニットの前記回転部材の前記ピンを支持することである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明によると、変速歯車装置は、内周面に内径の異なる複数の内歯歯車が形成されたハウジングと、複数の内歯歯車が形成された入出力軸線方向位置にそれぞれ配置される複数の変速ユニットとを備える。そして、隣り合う一側、他側変速ユニットにおいて、一側変速ユニットの回転部材は、他側変速ユニットの偏心部材と連結される構成としている。
【0015】
ここで、「変速ユニット」とは、回転部材、偏心部材および揺動部材から構成されるユニットである。そして、例えば、偏心部材が入力軸側の場合に、偏心部材の回転による揺動部材の揺動回転から自転成分のみを出力軸側の回転部材に伝達するものである。一方で、回転部材が入力軸側の場合に、回転部材の回転を揺動部材の自転成分として伝達し、揺動部材の揺動回転により出力軸側の偏心部材を回転させるものである。これにより、変速ユニットは、ハウジングの内歯歯車と揺動部材の外歯歯車の歯数差に基づく変速比で入力軸側の部材と出力軸側の部材との間で変速している。
【0016】
本発明の変速歯車装置は、上述した変速ユニットを入出力軸線方向に複数配置している。そして、上記構成とすることにより、直列に連結された複数の変速ユニットによって高い変速比を得ることができる。さらに、各揺動部材の外歯歯車が噛合する内歯歯車は、ハウジングの内周面に形成された内径が異なる内歯歯車としている。
【0017】
ここで、変速歯車装置は、入力される駆動力や変速に伴う駆動力の増加などに対応するためには、その駆動力に応じた機械的な強度を必要とされる。そのため、高い駆動力を生じるように減速した場合には、例えば噛合する内歯歯車および外歯歯車のピッチ円直径を大きくし、歯面に加えられる圧力を抑制することが考えられる。しかし、従来のようにピッチ円直径の異なる複数の減速装置を直列に連結した場合には、変速歯車装置の部品点数が増加するとともに全体として大型化してしまうおそれがある。
【0018】
そこで、上記構成とすることにより、同一のハウジングの内周面に形成された内径の異なる内歯歯車に対して、それぞれの内径に対応する変速ユニットを配置し、伝達する駆動力に応じた機械的な強度を得ることができる。これにより、高い変速比を得るために変速ユニットを連設した場合においても、各変速ユニットにおいて伝達する駆動力に対応することができる。さらに、従来において同構成の減速装置を直列に連結した場合と比較して、変速歯車装置として部品点数を低減し単純化することができる。よって、変速歯車装置が駆動力を伝達している駆動状態において、伝達による機械的損失を低減し伝達効率を向上できる。
【0019】
また、複数の変速ユニットを複数の内歯歯車が形成されたハウジングの入出力軸線方向位置にそれぞれ配置することで、複数の減速装置を連結する構成と比較して、簡易に高い変速比を得ることができる。そして、この場合に、各変速ユニット間を直接的に連結するため、変速歯車装置全体として小型化をできる。ここで、一般に高い変速比を得ようとすると伝達効率が低減することが知られている。そこで、複数の変速ユニットにより所定の変速比を得るように設定することにより、各変速ユニットにおいて高い伝達効率を維持できるため、従来と比較して同じ変速比であっても伝達効率を向上できる。
【0020】
請求項2に係る発明によると、複数の変速ユニットのうち少なくとも一の変速ユニットは、入出力軸線方向に連設される複数の偏心部材と、複数の偏心部材にそれぞれ支持される複数の揺動部材と、を有する構成としている。また、このような変速ユニットでは、回転部材がピンを有し、揺動部材が当該ピンを挿入される挿入孔を有する構成としている。これにより、変速ユニットにおける各揺動部材の外歯歯車の負荷を分散させることができる。従って、変速ユニットは、機械的に伝達可能な最大駆動力を向上させることができる。
【0021】
請求項3に係る発明によると、変速ユニットにおける複数の偏心部材は、複数の当該偏心部材によりそれぞれ支持される各揺動部材が入出力軸線を中心とした回転の周方向に等間隔で配置されるように、入力軸および出力軸のうち一方に連結される構成としている。つまり、変速ユニットが2つの揺動部材を有する場合には180(deg)間隔、3つの揺動部材を有する場合には120(deg)間隔で各揺動部材が配置されるように、同数の偏心部材が入出力軸線方向に連結されることになる。これにより、各偏心部材の回転により生じたアンバランス回転を互いに打ち消すことができる。よって、変速ユニットおよび変速歯車装置全体として振動を抑制することができる。
【0022】
請求項4に係る発明によると、隣り合う各変速ユニットにおいて、一側変速ユニットの回転部材は、当該回転部材の外周面において他側変速ユニットの揺動部材を回転可能に支持するように、一側変速ユニットの回転部材の径方向に偏心した位置に他側変速ユニットの偏心部材を一体的に連結される構成としている。このような構成により、一側変速ユニットの回転部材は、他側変速ユニットの偏心部材としての機能を有し、同一の部材として形成される。これにより、部品点数を低減できる。さらに、入出力軸線の方向に複数の変速ユニットを単に連結した場合と比較して、変速歯車装置における入出力軸線の軸方向長さを短縮することができるので、変速歯車装置全体として小型化できる。
【0023】
請求項5に係る発明によると、一側変速ユニットの回転部材は、当該回転部材の外周面を他側変速ユニットの回転部材のピンにより支持される構成としている。また、少なくとも他側変速ユニットでは、回転部材がピンを有する。即ち、他側変速ユニットの揺動部材が挿入孔を有することになる。このような構成により、一側変速ユニットの回転部材は、例えば、当該回転部材の外周側に配置される支持部材などを要することなく、他側変速ユニットを介して間接的にハウジングに支持されることになる。よって、上述したような支持部材が不要となり部品点数を低減することができる。
【0024】
また、このような構成において、一側変速ユニットの回転部材は、ピンによる支持ではなく、例えば、偏心部材を有するクランク軸などにより軸受けを介して支持されることがある。このような場合に、他側変速ユニットの回転部材のピンは、その両端部を一側変速ユニットの回転部材および他側変速ユニットの回転部材により両持ちで支持されることになる。ここで、回転部材のピンは、揺動部材の挿入孔に挿入され、揺動回転する揺動部材の自転成分を出力または入力する。そのため、回転部材は、変速歯車装置の駆動状態において、偏心部材の回転数が増大すると、これに伴い揺動部材の揺動回転に影響されて回転ブレが生じるおそれがある。そこで、上記構成により回転部材のピンを両持ちで支持することにより、回転部材などの回転ブレを防止し、高回転の駆動力の伝達に適用することができる。
【0025】
請求項6に係る発明によると、変速歯車装置は、揺動部材の挿入孔を貫通したピンを支持するピン支持部材をさらに備える構成としている。このピン支持部材は、変速ユニットの偏心部材に対してピンの突出方向に配置されている。よって、偏心部材は、回転部材とピン支持部材の間に介在することになる。また、ピン支持部材は、回転部材と同様に、ハウジングにより入出力軸線を中心として回転可能に支持されている。
【0026】
このような構成により、回転部材のピンは、その両端部を回転部材およびピン支持部材により両持ちで支持されることになる。回転部材のピンは、上述したように、変速歯車装置の駆動状態において、偏心部材の回転数が増大すると、これに伴い揺動部材の揺動回転に影響されて回転ブレが生じるおそれがある。そこで、ピン支持部材により回転部材のピンを両持ちで支持することにより、回転部材などの回転ブレを防止し、高回転の駆動力の伝達に適用することができる。
【0027】
請求項7に係る発明によると、ピン支持部材は、変速歯車装置の駆動状態において高速回転側となる変速ユニットの回転部材のピンを支持する構成としている。例えば、内歯歯車の歯数を外歯歯車の歯数よりも多くなるように設定したとする。この場合に、変速歯車装置において、変速ユニットの偏心部材側に連結されている一方の軸部材は、回転部材側に連結されている他側の軸部材よりも高回転となる。つまり、一方の軸部材を入力軸とした場合に変速歯車装置は減速装置に適用され、一方の軸部材を出力軸とした場合に変速歯車装置は増速装置に適用されていることになる。
【0028】
そして、このような変速歯車装置では、駆動状態において、複数の変速ユニットのうち上記一方の軸部材側に位置する変速ユニットが最も高回転となっている。ここで上述したように、回転部材は、偏心部材の回転数の増大に伴う揺動部材の揺動回転に影響を受けて回転ブレを生じるおそれがある。そこで、複数の変速ユニットのうち少なくとも最も高回転の回転部材のピンをピン支持部材により支持することにより、この回転部材などの回転ブレを防止し、より高回転の駆動力の伝達に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第一実施形態:減速装置1の構成を示した断面図である。
【図2】減速装置1の基本構成を示す概念図である。
【図3】第一変速ユニット31の一部を透視する図2におけるA方向矢視図である。
【図4】伝達比と伝達効率の関係を示すグラフである。
【図5】変速ユニットの数(n)に対する伝達比、減速効率および増速効率を示す表である。
【図6】第二実施形態:減速装置101の構成を示した断面図である。
【図7】減速装置101の基本構成を示す概念図である。
【図8】図7におけるB−B断面図である。
【図9】第二実施形態の変形態様:減速装置101の構成を示した断面図である。
【図10】第三実施形態:減速装置201の構成を示した断面図である。
【図11】減速装置201の基本構成を示す概念図である。
【図12】図11におけるC−C断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の変速機構を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0031】
<第一実施形態>
本実施形態において、本発明の変速機構を適用した減速装置1について、図1〜図5を参照して説明する。図1は、減速装置1の構成を示した断面図である。図2は、減速装置1の基本構成を示す概念図である。図3は、第一変速ユニット31の一部を透視する図2におけるA方向矢視図である。図4は、伝達比と伝達効率の関係を示すグラフである。図5は、変速ユニットの数(n)に対する伝達比、減速効率および増速効率を示す表である。なお、図1の断面図において、減速装置1は、便宜上、図1の下側に位置するピン41,141などの構成を一部省略している。
【0032】
(減速装置1の構成)
減速装置1は、主として、ハウジング10と、入力軸部材21と、出力軸部材22と、第一変速ユニット31と、第二変速ユニット32と、第一ピン支持部材81と、第二ピン支持部材82と、軸受け91〜93とから構成される。
【0033】
ハウジング10は、図1に示すように、共通の入出力軸線Loを中心として入力軸部材21および出力軸部材22を回転可能に支持し、複数の変速ユニットである第一、第二変速ユニット31,32を収容するケースである。また、ハウジング10は、内周面に入出力軸線Loの方向に延伸し、内径の異なる第一内歯歯車11と第二内歯歯車12が形成されている。第一内歯歯車11は、第二内歯歯車12に対して減速装置1の一方側(図1,2の左側)に位置し、その内径が第二内歯歯車12の内径よりも小さいくなるように設定されている。
【0034】
入力軸部材21は、図示しないモータのロータに連結され、モータが駆動することで回転する入力軸である。この入力軸部材21は、後述する第一ピン支持部材81を介してハウジング10に回転可能に支持される。これにより、入力軸部材21は、入出力軸線Loの回りに回転可能となっている。また、入力軸部材21は、減速装置1の一方側に配置され、他方側(図1,2の右側)の端部が後述する第一変速ユニット31のクランク軸50に連結されている。
【0035】
出力軸部材22は、第一、第二変速ユニット31,32により減速された回転を出力する出力軸である。この出力軸部材22は、減速装置1の他方側に配置され、一方側の端部が後述する第二変速ユニット32の回転部材140に連結されている。つまり、出力軸部材22は、後述する第二変速ユニット32の回転部材140を介してハウジング10に回転可能に支持される。これにより、出力軸部材22は、入出力軸線Loの回りに回転可能となっている。
【0036】
第一変速ユニット31は、図1,2に示すように、回転部材40、クランク軸50、第一揺動部材60および第二揺動部材70からそれぞれ構成されるユニットである。第二変速ユニット32は、同様に、回転部材140、クランク軸150、第一揺動部材160および第二揺動部材170からそれぞれ構成されるユニットである。但し、本実施形態では、第一変速ユニット31の回転部材40と、第二変速ユニット32のクランク軸150が一体的に形成された同一部材としている。そこで、図1において、第二変速ユニット32のクランク軸150は、回転部材40として示している。また、図2の概念図においては、それぞれの部材を分離した状態で示している。
【0037】
第一、第二変速ユニット31,32は、上記の構成により、入力側のクランク軸50,150に入力される回転を変速(本実施形態においては減速)させて出力側の回転部材40,140から出力している。また、減速装置1において、入力側に配置された変速ユニットを第一変速ユニット31、出力側に配置された変速ユニットを第二変速ユニット32としている。つまり、第一変速ユニット31および第二変速ユニット32は、入出力軸線Loの方向に隣り合うように配置され、第一変速ユニット31が本発明の「一側変速ユニット」に相当し、第二変速ユニット32が本発明の「他側変速ユニット」に相当する。以下、第一変速ユニット31の構成について説明する。
【0038】
回転部材40は、上述したように、第二変速ユニット32のクランク軸150と一体的に形成された円盤状の部材である。そして、回転部材40は、図1に示すように、第二変速ユニット32の回転部材140を介してハウジング10により入出力軸線Loを中心として回転可能に支持される。第一変速ユニット31の回転部材40は、ピン41と、転がり軸受け42と、凹部43と、第一偏心部151と、第二偏心部152と、凸部153を有する。この第一偏心部151および第二偏心部152は、本発明の「偏心部材」に相当する。
【0039】
ピン41は、回転部材40の一方側の盤面から入出力軸線Loの方向に突出するように形成されている。そして、ピン41は、図3に示すように、6本のピン41が回転部材40の周方向に等間隔となるように上記盤面に固定されている。このピン41は、回転部材40に固定される円柱状の部材である。転がり軸受け42は、ピン41に回転可能な状態で外挿された円筒状の軸受け部材である。ピン41は、後述する第一、第二揺動部材60,70の挿入孔62,72に挿入され、ピン41に外挿される転がり軸受け42の一部分がこれら挿入孔62,72の内周面と当接する。
【0040】
凹部43は、回転部材40における減速装置1の一方側の盤面から他方側に向かって形成され、入出力軸線Loを中心とする円筒内面である。この凹部43は、後述する第一変速ユニット31のクランク軸50の出力側の端部に形成された凸部53を挿入され、クランク軸50を相対回転可能に支持している。
【0041】
回転部材40の第一偏心部151および第二偏心部152は、第二変速ユニット32の回転部材140に対してピン141の突出方向(図1の左方向)に位置している。そして、第一偏心部151の断面形状は、入出力軸線Loに対して回転部材40の径方向に偏心した第二変速ユニット32の第一偏心軸線La2を中心とした真円状に形成されている。第二偏心部152の断面形状は、第一偏心部151と同様に、入出力軸線Loに対して回転部材40の径方向に偏心した第二変速ユニット32の第二偏心軸線Lb2を中心とした真円状に形成されている。
【0042】
そして、この第一、第二偏心部151,152は、第二変速ユニット32の第一揺動部材160および第二揺動部材170を回転可能にそれぞれ支持している。このように第一変速ユニット31の回転部材40は、径方向に偏心した位置に第二変速ユニット32の第一、第二偏心部151,152を一体的に連結されている。
【0043】
凸部153は、回転部材40の他方側の盤面から出力側に突出し、入出力軸線Loを中心とする円筒状の部位である。この凸部153は、図1に示すように、後述する第二変速ユニット32の回転部材140の凹部143に挿入される。これにより、回転部材40は、第二変速ユニット32の回転部材140と相対回転可能に支持されることになる。このように、第一変速ユニット31の回転部材40は、一体的に形成された第二変速ユニット32のクランク軸150としても機能する部材である。
【0044】
クランク軸50は、第一偏心部51と、第二偏心部52と、凸部53を有する。第一偏心部51は、クランク軸50の軸心(入出力軸線Lo)に対して偏心した偏心形状をなしている。この第一偏心部51は、回転部材40に対してピン41の突出方向(図1の左方向)に配置され、クランク軸50に一体的に形成されている。また、第一偏心部51の断面形状は、入出力軸線Loに対してクランク軸50の径方向に偏心した第一偏心軸線La1を中心とした真円状に形成されている。そして、第一偏心部51は、入出力軸線Loを中心としたクランク軸50の回転に伴い、入出力軸線Loを中心として回転する。
【0045】
第二偏心部52は、第一偏心部51と同様に、クランク軸50の軸心(入出力軸線Lo)に対して偏心した偏心形状をなしている。この第二偏心部52は、回転部材40に対してピン41の突出方向(図1の左方向)に配置され、且つ第一偏心部51に対して出力側(図1において第一偏心部51の右側)に配置されている。そして、第二偏心部52は、第一偏心部51と連結されるとともに、クランク軸50に一体的に形成されている。また、第二偏心部52の断面形状は、入出力軸線Loに対してクランク軸50の径方向に偏心した第二偏心軸線Lb1を中心とした真円状に形成されている。そして、第二偏心部52は、入出力軸線Loを中心としたクランク軸50の回転に伴い、入出力軸線Loを中心として回転する。
【0046】
このように、第一変速ユニット31は、クランク軸50において入出力軸線Loの方向に連設される第一偏心部51および第二偏心部52を有している。また、第一偏心部51と第二偏心部52は、入出力軸線Loに対する偏心方向が互いに逆方向となるように連結されている。換言すると、本実施形態において、2つの偏心部材である第一偏心部51と第二偏心部52は、入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔となるように、180(deg)間隔で連結される。
【0047】
凸部53は、入出力軸線Loを中心とする円柱状からなり、クランク軸50の出力側の端部において第二偏心部52の端面から突出するように形成されている。この凸部53は、回転部材40の凹部43に挿入され、回転部材40により回転可能に支持される。これにより、クランク軸50は、回転部材40を介して、当該回転部材40を支持する第二変速ユニット32の回転部材140により支持される。
【0048】
また、第一変速ユニット31のクランク軸50は、その一方側(図1の左側)の端部が入力軸部材21と連結されている。これにより、クランク軸50は、入力軸部材21の回転に伴い入出力軸線Loを中心として回転する。また、このような構成により、一側変速ユニットである第一変速ユニット31の第一偏心部51および第二偏心部52は、クランク軸50を介して入力軸部材21に連結されている。
【0049】
第一揺動部材60は、環状からなり、図1,2に示すように、外歯歯車61と、挿入孔62を有し、第一偏心部51の外周側に回転可能に支持される遊星歯車である。外歯歯車61は、第一揺動部材60の外周面に形成されハウジング10の第一内歯歯車11と噛合可能な歯車である。挿入孔62は、回転部材40のピン41が挿入される孔である。この第一揺動部材60の挿入孔62の内径は、挿入されるピン41の直径と、第一揺動部材60の偏心量(入出力軸線Loと第一偏心軸線La1の離間距離)との和にほぼ等しい。ここで、本実施形態におけるピン41には転がり軸受け42が外挿されることから、上記の「ピン41の直径」とは、転がり軸受け42の直径に相当する。
【0050】
より詳細には、第一揺動部材60の挿入孔62の内周面は、減速装置1の駆動状態において、ピン41に外挿される転がり軸受け42の外周面と当接し駆動力を伝達する。このような構成により、第一揺動部材60は、入出力軸線Loを中心とする第一偏心部51の回転に伴い、第一偏心軸線La1の回りに自転しながら入出力軸線Loの回りを公転するように揺動回転することになる。そして、揺動回転する第一揺動部材60の自転成分がピン41に伝達され、第一揺動部材60の自転の回転数で回転部材40が回転する。
【0051】
第二揺動部材70は、第一揺動部材60と同様に、環状からなり、図1,2に示すように、外歯歯車71と、挿入孔72を有し、第二偏心部52の外周側に回転可能に支持される遊星歯車である。外歯歯車71は、第二揺動部材70の外周面に形成されハウジング10の第一内歯歯車11と噛合可能な歯車である。挿入孔72は、回転部材40のピン41が挿入される孔である。この第二揺動部材70の挿入孔72の内径は、挿入されるピン41の直径と、第二揺動部材70の偏心量(入出力軸線Loと第二偏心軸線Lb1の離間距離)との和にほぼ等しい。この「ピン41の直径」は、上述したように、本実施形態においては、転がり軸受け42の直径に相当する。
【0052】
より詳細には、第二揺動部材70の挿入孔72の内周面は、減速装置1の駆動状態において、ピン41に外挿される転がり軸受け42の外周面と当接し駆動力を伝達する。このような構成により、第二揺動部材70は、入出力軸線Loを中心とする第二偏心部52の回転に伴い、第二偏心軸線Lb1の回りに自転しながら入出力軸線Loの回りを公転するように揺動回転することになる。そして、揺動回転する第二揺動部材70の自転成分がピン41に伝達され、第二揺動部材70の自転の回転数で回転部材40が回転する。
【0053】
また、クランク軸50の第一偏心部51と第二偏心部52は、入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔となるように連結されている。よって、第一、第二偏心部51,52の外周側にそれぞれ支持される第一、第二揺動部材60,70は、入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔に位置する関係となる。ここで、減速装置1の駆動状態において、クランク軸50の回転により第一、第二偏心部51,52が回転し、この回転に伴い第一、第二揺動部材60,70が揺動回転したとする。この場合に、第一、第二揺動部材60,70の各自転軸(第一偏心軸線La1および第二偏心軸線Lb1)は、上記の位置関係により、入出力軸線Loに対して対称の位置を維持しつつ入出力軸線Loの回りを回転する。
【0054】
上述したように、第一変速ユニット31は、回転部材40、クランク軸50、第一揺動部材60および第二揺動部材70から構成される。また、第二変速ユニット32は、減速装置1において、第一変速ユニット31に対して出力側に隣り合うように連設されている。この第二変速ユニット32は、第一変速ユニット31と異形状の回転部材140、クランク軸150(第一変速ユニット31の回転部材40)、第一揺動部材160および第二揺動部材170から構成される。
【0055】
第二変速ユニット32の回転部材140は、軸受け91を介してハウジング10により入出力軸線Loを中心として回転可能に支持される円盤状の部材である。第二変速ユニット32の回転部材140は、ピン141と、転がり軸受け142と、凹部143を有する。ピン141および転がり軸受け142は、第一変速ユニット31の回転部材40のピン41、および転がり軸受け42とそれぞれ対応するため、詳細な説明を省略する。
【0056】
凹部143は、回転部材140における減速装置1の一方側の盤面から他方側に向かって形成され、入出力軸線Loを中心とする円筒内面である。この凹部143は、第一変速ユニット31の回転部材40の凸部153が挿入され、第二変速ユニット32のクランク軸150が一体的に形成された第一変速ユニット31の回転部材40を相対回転可能に支持している。また、回転部材140の他方側の盤面は、出力軸部材22と連結されている。
【0057】
また、第二変速ユニット32のクランク軸150は、上述したように、第一変速ユニット31の回転部材40と一体的に形成されている。本実施形態では、クランク軸150をこのように構成することにより、第一変速ユニット31の回転部材40は、第二変速ユニット32の偏心部材に相当する第一偏心部151および第二偏心部152と連結している。これにより、第二変速ユニット32は、第一変速ユニット31を介して入力軸部材21に連結されていることになる。
【0058】
第一揺動部材160は、環状からなり、図1,2に示すように、外歯歯車161と、挿入孔162を有し、第一偏心部151の外周側に回転可能に支持される遊星歯車である。外歯歯車161は、第一揺動部材160の外周面に形成されハウジング10の第二内歯歯車12と噛合可能な歯車である。挿入孔162は、回転部材140のピン141が挿入される孔である。この第一揺動部材160の挿入孔162の内径は、挿入されるピン141の直径と、第一揺動部材160の偏心量(入出力軸線Loと第一偏心軸線La2の離間距離)との和にほぼ等しい。ここで、本実施形態におけるピン141には転がり軸受け142が外挿されることから、上記の「ピン141の直径」とは、転がり軸受け142の直径に相当する。
【0059】
より詳細には、第一揺動部材160の挿入孔162の内周面は、減速装置1の駆動状態において、ピン141に外挿された転がり軸受け142の外周面と当接し駆動力を伝達する。このような構成により、第一揺動部材160は、入出力軸線Loを中心とする第一偏心部151の回転に伴い、第一偏心軸線La2の回りに自転しながら入出力軸線Loの回りを公転するように揺動回転することになる。そして、揺動回転する第一揺動部材160の自転成分がピン141に伝達され、第一揺動部材160の自転の回転数で回転部材140が回転する。
【0060】
第二揺動部材170は、第一揺動部材160と同様に、環状からなり、図1,2に示すように、外歯歯車171と、挿入孔172を有し、第二偏心部152の外周側に回転可能に支持される遊星歯車である。外歯歯車171は、第二揺動部材170の外周面に形成されハウジング10の第二内歯歯車12と噛合可能な歯車である。挿入孔172は、回転部材140のピン141が挿入される孔である。この第二揺動部材170の挿入孔172の内径は、挿入されるピン141の直径と、第二揺動部材170の偏心量(入出力軸線Loと第二偏心軸線Lb2の離間距離)との和にほぼ等しい。この「ピン141の直径」は、上述したように、本実施形態においては、転がり軸受け42の直径に相当する。
【0061】
より詳細には、第二揺動部材170の挿入孔172の内周面は、減速装置1の駆動状態において、ピン141に外挿された転がり軸受け142の外周面と当接し駆動力を伝達する。このような構成により、第二揺動部材170は、入出力軸線Loを中心とする第二偏心部152の回転に伴い、第二偏心軸線Lb2の回りに自転しながら入出力軸線Loの回りを公転するように揺動回転することになる。そして、揺動回転する第二揺動部材170の自転成分がピン141に伝達され、第二揺動部材170の自転の回転数で回転部材140が回転する。
【0062】
また、第一変速ユニット31の回転部材40に一体的に形成されたクランク軸150の第一偏心部151と第二偏心部152は、入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔となるように連結されている。よって、第一、第二偏心部151,152の外周側にそれぞれ支持される第一、第二揺動部材160,170は、入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔に位置する関係となる。
【0063】
ここで、減速装置1の駆動状態において、クランク軸150の回転により第一、第二偏心部151,152が回転し、この回転に伴い第一、第二揺動部材160,170が揺動回転したとする。この場合に、第一、第二揺動部材160,170の各自転軸(第一偏心軸線La2および第二偏心軸線Lb2)は、上記の位置関係により、入出力軸線Loに対して対称の位置を維持しつつ入出力軸線Loの回りを回転する。
【0064】
このような構成により、ハウジング10の内部において、第一変速ユニット31および第二変速ユニット32は、入出力軸線Loの方向に隣り合うように位置している。そして、第一変速ユニット31は、第一揺動部材60の外歯歯車61および第二揺動部材70の外歯歯車71が第一内歯歯車11と噛合する。これに対して、第二変速ユニット32は、第一揺動部材160の外歯歯車161および第二揺動部材170の外歯歯車171が第二内歯歯車12と噛合する。
【0065】
このように、第一変速ユニット31および第二変速ユニット32は、各外歯歯車61,71および各外歯歯車161,171が内径の異なる第一内歯歯車11および第二内歯歯車12とそれぞれ噛合するように、入出力軸線Loの方向に第一、第二内歯歯車11,12が形成された位置に配置される。そして、第一、第二変速ユニット31,32は、内歯歯車11および第二内歯歯車12とそれぞれ噛合し入力軸部材21から出力軸部材22への回転を変速するものである。
【0066】
第一ピン支持部材81は、軸受け92を介してハウジング10により入出力軸線Loを中心として回転可能に支持される円板状の部材である。この第一ピン支持部材81は、第一変速ユニット31の第一、第二偏心部51,52に対して、回転部材40のピン41の突出方向に配置される。そして、第一ピン支持部材81は、複数のピン41と同数のピン孔が形成され、第一、第二揺動部材60,70の挿入孔62,72を貫通したピン41の端部と圧入または隙間嵌めにより連結される。これにより、第一ピン支持部材81は、回転部材40に固定された6本のピン41を支持するとともに、回転部材40の回転に伴い回転部材40と同じ回転数で回転する。また、第一ピン支持部材81は、円筒内面に配置された軸受けを介して入力軸部材21を回転可能に支持している。
【0067】
第二ピン支持部材82は、軸受け93を介してハウジング10により入出力軸線Loを中心として回転可能に支持される円板状の部材である。この第二ピン支持部材82は、第二変速ユニット32の第一、第二偏心部151,152に対して、回転部材140のピン141の突出方向に配置される。そして、第二ピン支持部材82は、複数のピン141と同数のピン孔が形成され、第一、第二揺動部材160,170の挿入孔162,172を貫通したピン141の端部と圧入または隙間嵌めにより連結される。これにより、第二ピン支持部材82は、回転部材140に固定された6本のピン141を支持するとともに、回転部材140の回転に伴い回転部材140と同じ回転数で回転する。
【0068】
(減速装置1の動作)
続いて、本実施形態の減速装置1の動作について説明する。まず、図示しないモータを作動させると、モータのロータに連結された入力軸部材21が回転する。入力軸部材21が回転すると、入力軸部材21に連結された第一変速ユニット31のクランク軸50が入出力軸線Loを中心として回転する。これにより、クランク軸50を構成する第一偏心部51および第二偏心部52が回転することになる。
【0069】
そうすると、第一偏心部51の外周側に支持される第一揺動部材60は、第一偏心部51の回転に伴い揺動回転する。同様に、第二偏心部52の外周側に支持される第二揺動部材70は、第二偏心部52の回転に伴い揺動回転する。この時、第一揺動部材60および第二揺動部材70は、それぞれの外歯歯車61,71の円周上の一部のみがハウジング10の第一内歯歯車11と噛合し、第一内歯歯車11との歯数差に基づく回転数で入力軸部材21の回転方向とは反対方向(入力軸部材21が時計回りであれば反時計回り)に自転している。
【0070】
ここで、回転部材40のピン41は、第一、第二揺動部材60,70の各挿入孔62,72に挿入されている。そして、ピン41に外挿された転がり軸受け42の外周面は、円周上の一部のみが各挿入孔62,72の内周面と当接し駆動力を伝達する。これにより、第一、第二揺動部材60,70が揺動回転すると、自転成分がピン41に伝達される。そうすると、回転部材40は、第一、第二揺動部材60,70の自転の回転数で回転する。このようにして、第一変速ユニット31は、回転部材40がピン41および転がり軸受け42を介して第一、第二揺動部材60,70の揺動回転から自転成分を取り出し、クランク軸50に入力された回転を減速して回転部材40から出力している。
【0071】
次に、第一変速ユニット31の回転部材40(第二変速ユニット32のクランク軸150)が回転すると、第二変速ユニット32のクランク軸150を構成する第一偏心部151および第二偏心部152が回転することになる。そして、第二変速ユニット32は、第一変速ユニット31と同様に、クランク軸150に入力された回転数を減速して回転部材140から出力している。そうすると、第二変速ユニット32の回転部材140に連結された出力軸部材22が入出力軸線Loの回りに回転する。
【0072】
上述したように、本実施形態の減速装置1は、複数の変速ユニットである第一変速ユニット31および第二変速ユニット32により、入力軸部材21に入力される回転を二段階で減速し、出力軸部材22から出力するものである。また、このような減速装置1における各歯車の歯数の設定について説明する。
【0073】
ここで、ハウジング10の第一内歯歯車11の歯数をZ1、第一変速ユニット31の第一、第二揺動部材60,70の外歯歯車61,71の歯数をZ2とする。この時、第一変速ユニット31の減速比R1は、式(1)により算出される。同様に、ハウジング10の第二内歯歯車12の歯数をZ3、第二変速ユニット32の第一、第二揺動部材160,170の外歯歯車161,171の歯数をZ4とすると、第二変速ユニット32の減速比R2は、式(2)により算出される。そして、減速装置1の減速比Rは、式(3)により算出される。
【0074】
[数1]
R1 =(Z1−Z2)/Z2 ・・・ (1)
R2 =(Z3−Z4)/Z4 ・・・ (2)
R =R1×R2 ・・・ (3)
【0075】
ここで、変速歯車装置または変速ユニットの伝達比は、図4に示すように、その値が大きくなるほど伝達効率が低下することが知られている。この伝達比は、減速比の逆数として算出され、変速歯車装置の変速比を示すものである。また、伝達効率は、一定以下まで低下すると変速歯車装置がセルフロックするおそれがあり、なるべく高い値であることが好ましい。
【0076】
ここで、例えば、減速装置1として、169の伝達比(減速比では、1/169)を要するものとする。この場合に、一段階でこの伝達比を得られる歯数を設定すると、伝達効率は約50%となる。そこで、本実施形態では、第一内歯歯車11の歯数Z1を126、第一変速ユニット31の外歯歯車61,71の歯数Z2を117に設定している。そして、第二内歯歯車12の歯数Z3を224、第二変速ユニット32の外歯歯車161,171の歯数Z4を208に設定している。
【0077】
これにより、図5に示すように、第一、第二変速ユニット31,32(n=1)は、共に13の伝達比、約92%の伝達効率(減速効率)をそれぞれ得ることができる。そして、減速装置1(n=2)は、169の伝達比(減速比Rは、1/169)、約85%の伝達効率を得ることができる。図5のnは、変速ユニットの数を示している。このように、減速装置1は、複数段に亘る減速を勘案し、所定の伝達比Rを得られるように歯数を設定される。
【0078】
(減速装置1の効果)
本発明の変速歯車装置が適用された減速装置1によると、内周面に内径の異なる複数の内歯歯車である第一、第二内歯歯車11,12が形成されたハウジング10と、第一、第二変速ユニット31,32とを備える。そして、第一変速ユニット31の回転部材40と第二変速ユニット32のクランク軸150は、一体的に形成されている。よって、隣り合う一側変速ユニット(第一変速ユニット31)の回転部材40は、他側変速ユニット(第二変速ユニット32)の第一偏心部151および第二偏心部152と連結される構成としている。
【0079】
これにより、直列に連結された第一、第二変速ユニット31,32によって高い変速比を得ることができる。さらに、第一変速ユニット31の外歯歯車61,71および第二変速ユニット32の外歯歯車161,171がそれぞれ噛合する内歯歯車は、ハウジング10の内周面に形成された内径が異なる第一、第二内歯歯車11,12としている。
【0080】
ここで、変速歯車装置は、入力される駆動力や変速に伴う駆動力の増加などに対応するためには、その駆動力に応じた機械的な強度を必要とされる。そのため、高い駆動力を生じるように減速した場合には、例えば噛合する内歯歯車および外歯歯車のピッチ円直径を大きくし、歯面に加えられる圧力を抑制することが考えられる。しかし、従来のようにピッチ円直径の異なる複数の減速装置を直列に連結した場合には、減速装置の部品点数が増加するとともに全体として大型化してしまうおそれがある。
【0081】
そこで、上記構成とすることにより、同一のハウジング10の内周面に形成された内径の異なる第一、第二内歯歯車11,12に対して、それぞれの内径に対応する第一、第二変速ユニット31,32を配置し、伝達する駆動力に応じた機械的な強度を得ることができる。これにより、高い変速比を得るために第一、第二変速ユニット31,32を連設した場合においても、第一、第二変速ユニット31,32において伝達する駆動力に対応することができる。さらに、従来において同構成の減速装置を直列に連結した場合と比較して、減速装置1として部品点数を低減し単純化することができる。よって、減速装置1が駆動力を伝達している駆動状態において、伝達による機械的損失を低減し伝達効率を向上できる。
【0082】
また、第一、第二変速ユニット31,32は、ハウジング10の内側において、第一、第二内歯歯車11,12が形成された入出力軸線Lo方向の各位置にそれぞれ配置される。これにより、複数の減速装置を連結する構成と比較して、簡易に高い変速比を得ることができる。そして、この場合に、それぞれの第一、第二変速ユニット31,32間を直接的に連結するため、減速装置1全体として小型化できる。ここで、一般に高い変速比を得ようとすると伝達効率が低減することが知られている。そこで、第一、第二変速ユニット31,32により所定の変速比を得るように設定することにより、第一、第二変速ユニット31,32において高い伝達効率を維持できるため、従来と比較して同じ変速比であっても伝達効率を向上できる。
【0083】
また、第一変速ユニット31は、入出力軸線Lo方向に連設される複数の第一、第二偏心部51,52と、これらにそれぞれ支持される複数の第一、第二揺動部材60,70と、を有する構成としている。これにより、第一変速ユニット31における第一、第二揺動部材60,70の外歯歯車61,71の負荷を分散させることができる。従って、第一変速ユニット31は、機械的に伝達可能な最大駆動力を向上させることができる。また、複数の第一、第二偏心部151,152と、第一、第二揺動部材160,170を有する第二変速ユニット32においても同様の効果を奏する。
【0084】
さらに、第一変速ユニット31における複数の第一偏心部51および第二偏心部52は、これらにより支持される第一、第二揺動部材60,70が入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔で配置されるように、クランク軸50を介して入力軸部材21に連結される構成としている。つまり、第一偏心部51と第二偏心部52は、第一、第二揺動部材60,70が180(deg)間隔となるように、入出力軸線Lo方向に連結されることになる。これにより、第一偏心部51と第二偏心部52の回転により生じたアンバランス回転を互いに打ち消すことができる。
【0085】
また、第二変速ユニット32の第一偏心部151および第二偏心部152においても同様に配置されるように、クランク軸150および第一変速ユニット31を介して入力軸部材21に連結される構成となっていることから同様の効果を奏する。従って、上記の構成により、第一、第二変速ユニット31,32および減速装置1として振動を抑制することができる。
【0086】
第一変速ユニット31の回転部材40は、第二変速ユニット32のクランク軸150と一体的に形成されている。つまり、この回転部材40は、その径方向に偏心した位置に第二変速ユニット32の第一、第二偏心部151,152を一体的に連結される構成としている。これにより、第一変速ユニット31の回転部材40の外周面において第二変速ユニット32の第一、第二揺動部材160,170を回転可能に支持することになる。このような構成により、第一変速ユニット31の回転部材40は、第二変速ユニット32の第一、第二偏心部151,152としての機能を有し、同一の部材として形成される。これにより、部品点数を低減できる。さらに、入出力軸線Loの方向に第一、第二変速ユニット31,32を単に連結した場合と比較して、減速装置1における入出力軸線Loの軸方向長さを短縮することができるので、減速装置1全体として小型化できる。
【0087】
減速装置1は、第一変速ユニット31の第一、第二揺動部材60,70の挿入孔62,72を貫通したピン41を支持する第一ピン支持部材81を備える構成としている。同様に、減速装置1は、第二変速ユニット32の第一、第二揺動部材160,170の挿入孔162,172を貫通したピン141を支持する第二ピン支持部材82を備える構成としている。このような構成により、第一、第二変速ユニット31,32の回転部材40,140のピン41,141は、その両端部を回転部材40,140および第一、第二ピン支持部材81,82により両持ちで支持されることになる。
【0088】
ここで、回転部材40,140のピン41,141は、揺動回転する第一、第二揺動部材160,170の自転成分を出力する。そのため、回転部材140は、減速装置1の駆動状態において、第一、第二偏心部51,52,151,152の回転数が増大すると、これに伴い第一、第二揺動部材160,170の揺動回転に影響されて回転ブレが生じるおそれがある。そこで、第一、第二ピン支持部材81,82により回転部材40,140のピン41,141を両持ちで支持することにより、回転部材40,140などの回転ブレを防止し、高回転の駆動力の伝達に適用することができる。
【0089】
本実施形態では、第一、第二ピン支持部材81,82を備える構成とした。このような第一ピン支持部材81などにより、減速装置1の駆動状態において特に高回転となる第一変速ユニット31のピン41を両持ちで支持することは有用である。ここで、第一内歯歯車11の歯数Z1は、外歯歯車61,71の歯数Z2よりも多くなるように設定されている。これにより、第一変速ユニット31の第一、第二偏心部51,52側に連結されている入力軸部材21は、回転部材40側に第二変速ユニット32を介して連結されている出力軸部材22よりも高回転となる。
【0090】
そして、このような本発明の変速歯車装置を適用した減速装置1では、駆動状態において、複数の第一、第二変速ユニット31,32のうち入力軸部材21側に位置する第一変速ユニット31が高回転側となっている。ここで上述したように、回転部材40は、第一、第二偏心部51,52の回転数の増大に伴う第一、第二揺動部材60,70の揺動回転に影響を受けて回転ブレを生じるおそれがある。そこで、複数の第一、第二変速ユニット31,32のうち少なくとも高回転側の回転部材40のピン41を第一ピン支持部材81により支持することにより、この回転部材40などの回転ブレを防止し、より高回転の駆動力の伝達に適用することができる。
【0091】
また、第一ピン支持部材81は、回転部材40によりピン41を両持ち支持するとともに、複数のピン41を互いの間隔が保持されるように支持している。同様に、第二ピン支持部材82は、回転部材140によりピン141を両持ち支持するとともに、複数のピン141を互いの間隔が保持されるように支持している。これにより、複数のピン41,141は、減速装置1の駆動状態において伝達する駆動力が加えられても互いの間隔を保持され、複数のピン41,141に加えられる駆動力が所定のピン41,141に偏ることを防止することができる。よって、減速装置1の駆動状態を安定化させることができる。
【0092】
<第二実施形態>
第二実施形態の構成について、図6〜図8を参照して説明する。図6は、減速装置101の構成を示した断面図である。図7は、減速装置101の基本構成を示す概念図である。図8は、図7におけるB−B断面図である。ここで、第二実施形態の構成は、主に、第一実施形態の第一、第二変速ユニット31,32の構成が相違する。なお、図6の断面図において、減速装置101は、便宜上、図6の下側に位置するピン41,341などの構成を一部省略している。また、その他の構成については、第一実施形態と同一であるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。
【0093】
(減速装置101の構成)
減速装置101は、主として、ハウジング10と、入力軸部材21と、出力軸部材22と、第一変速ユニット131と、第二変速ユニット132と、第一ピン支持部材81と、ピン留め部材83と、軸受け91,92,193とから構成される。第一変速ユニット131は、図6,7に示すように、回転部材240、クランク軸250、第一揺動部材60、および第二揺動部材70から構成されるユニットである。第二変速ユニット132は、同様に、回転部材340、クランク軸350、第一揺動部材160、および第二揺動部材170から構成されるユニットである。
【0094】
第一実施形態において、第一変速ユニット31の回転部材40と第二変速ユニット32のクランク軸150が一体的に形成されていた。これに対して、本実施形態における第一、第二変速ユニット131,132は、それぞれの部材(回転部材240とクランク軸350)を入出力軸線Loの方向に配置し、互いに連結している。よって、第一変速ユニット131の回転部材240は、第二変速ユニット132を介して出力軸部材22と連結されている点が相違する。
【0095】
また、第一実施形態において、第一変速ユニット31の回転部材40は、当該回転部材40の凸部153が第二変速ユニット32の回転部材140の凹部143に挿入されることにより、回転可能に支持されるものとした。これに対して、本実施形態における第一変速ユニット131の回転部材240は、当該回転部材240の外周面を第二変速ユニット132の回転部材340のピン341により支持される点が相違する。
【0096】
さらに、第一実施形態において、第二変速ユニット32のピン141は、回転部材140および第二ピン支持部材82により両持ち支持されるものとした。これに対して、本実施形態における第二変速ユニット131のピン341は、入力側の端部をピン留め部材83により留められている点が相違する。
【0097】
第一変速ユニット131の回転部材240は、ピン41と転がり軸受け42を有し、図8に示すように、その外周面に軸受け193が嵌挿されている。軸受け193は、その外周面において第二変速ユニット132の回転部材340のピン341と当接する。これにより、回転部材240は、軸受け193を介してピン341により回転可能に支持される。第一変速ユニット131のクランク軸250は、第一偏心部51および第二偏心部52を有する。クランク軸250は、入力側の端部を入力軸部材21と連結されている。
【0098】
第二変速ユニット132の回転部材340は、ピン341と、転がり軸受け342を有している。ピン341は、回転部材340の一方側の盤面から入出力軸線Loの方向に突出するように形成されている。そして、ピン341は、図8に示すように、6本のピン341が入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔となるように上記盤面に固定されている。
【0099】
このピン341は、回転部材340に固定される円柱状の部材である。転がり軸受け342は、ピン341に回転可能な状態で外挿された円筒状の部材である。ピン341は、第一、第二揺動部材160,170の挿入孔162,172に挿入され、ピン341に外挿された転がり軸受け342の一部分がこれら挿入孔162,172の内周面と当接する。また、ピン341は、挿入孔162,172を貫通し、軸受け193の外周面に当接することにより、この軸受け193を介して第一変速ユニット131の回転部材240を回転可能に支持している。
【0100】
第二変速ユニット132のクランク軸350は、第一偏心部151および第二偏心部152を有する。クランク軸350は、入力側の端部を第一変速ユニット131の回転部材240と連結されている。よって、第二変速ユニット132のクランク軸350は、第一変速ユニット131を介して入力軸部材21と連結されている。また、クランク軸350は、第一実施形態と同様に、出力側の端部に凸部153を設け回転部材340により支承される構成としてもよい。
【0101】
ピン留め部材83は、プレート83aと、留め輪83bを有する。このピン留め部材83は、第二変速ユニット132の第一、第二偏心部151,152に対して、回転部材340のピン341の突出方向に配置される。
【0102】
プレート83aは、ハウジング10の第二内歯歯車12の歯先円筒よりも小径からなる環状部材である。このプレート83aは、偏心回転する偏心部材(第一偏心部151)と接触しないように、入出力軸線Loを中心とした円筒内面が形成されている。そして、プレート83aは、複数のピン341と同数のピン孔が形成され、第一、第二揺動部材160,170の挿入孔162,172を貫通したピン341の端部と隙間嵌めにより連結される。これにより、プレート83aは、回転部材340に固定された6本のピン341を互いの間隔が保持されるように留めている。このプレート83aは、回転部材340の回転に伴い回転部材340と同じ回転数で回転する。
【0103】
留め輪83bは、ハウジング10の内周面に形成された円筒状の留め輪溝とほぼ同径または大径からなる環状部材である。この留め輪83bは、ハウジング10の内部に縮径された状態で挿入され、上記の留め輪溝が形成された入出力軸線Lo方向の所定位置で拡径されることにより留め輪溝に嵌合する。これにより、留め輪83bは、ハウジング10の内周面に対して固定され、減速装置101の駆動状態において回転するプレート83aと滑り接触し、ピン341を留めるプレート83aを入出力軸線Lo方向の所定位置に位置決めしている。
【0104】
このような構成により、回転部材340の複数のピン341は、減速装置101の駆動状態において伝達する駆動力が加えられてもプレート83aによって互いの間隔を保持される。これにより、複数のピン341に加えられる駆動力が所定のピン341に偏ることを防止し、駆動状態を安定化させることができる。
減速装置101におけるその他の構成については、それぞれに対応する第一実施形態の減速装置1の各構成と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。
【0105】
(減速装置101の効果)
このような構成の減速装置101によれば、第一実施形態の減速装置1と同様の効果を奏する。また、第一変速ユニット131の回転部材240は、当該回転部材240の外周面を第二変速ユニット132の回転部材340のピン341により支持される構成としている。このような構成により、第一変速ユニット131の回転部材240は、例えば、当該回転部材240の外周側に配置される支持部材などを要することなく、第二変速ユニット132を介して間接的にハウジング10に支持されることになる。よって、上述したような支持部材が不要となり部品点数を低減することができる。
【0106】
<第二実施形態の変形態様>
第二実施形態の変形態様について、図9を参照して説明する。図9は、減速装置101の構成を示した断面図である。なお、図9の断面図において、減速装置101は、便宜上、図9の下側に位置するピン41,341などの構成を一部省略している。
【0107】
本実施形態において、回転部材240は、第二変速ユニット132の回転部材340のピン341により軸受け193を介して支持されるものとした。これに対して、回転部材240がクランク軸250により支持され、第二変速ユニット132のピン341を両持ち支持する構成としてもよい。
【0108】
本変形態様において第一実施形態と同様に、回転部材240は、図9に示すように、円筒内面の凹部43を有している。そして、クランク軸250は、出力側の端部に、回転部材240に形成された凹部43に挿入される凸部53が形成されている。つまり、クランク軸250は、回転部材240が入出力軸線Loを中心に回転可能となるように軸受けを介して支持している。これにより、この回転部材240は、軸受け193を介して第二変速ユニット132の回転部材340のピン341を支持する構成となる。
【0109】
つまり、第二変速ユニット132のピン341は、その両端部を第一変速ユニット131の回転部材240および第二変速ユニット132の回転部材340により両持ちで支持される。ここで、第二変速ユニット132の回転部材340のピン341は、第一、第二揺動部材160,170の挿入孔162,172に挿入され、揺動回転する第一、第二揺動部材160,170の自転成分を出力する。そのため、回転部材340は、減速装置101の駆動状態において、第一、第二偏心部151,152の回転数が増大すると、これに伴い第一、第二揺動部材160,170の揺動回転に影響されて回転ブレが生じるおそれがある。そこで、上記構成により回転部材340のピン341を両持ちで支持することにより、回転部材340などの回転ブレを防止し、高回転の駆動力の伝達に適用することができる。
【0110】
<第三実施形態>
第三実施形態の構成について、図10〜図12を参照して説明する。図10は、減速装置201の構成を示した断面図である。図11は、減速装置201の基本構成を示す概念図である。図12は、図11におけるC−C断面図である。ここで、第三実施形態の構成は、主に、第二実施形態の第一、第二変速ユニット131,132の構成が相違する。なお、図10の断面図において、減速装置201は、便宜上、図10の下側に位置するピン41,541などの構成を一部省略している。また、その他の構成については、第二実施形態と同一であるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。
【0111】
(減速装置201の構成)
減速装置201は、主として、ハウジング10と、入力軸部材21と、出力軸部材22と、第一変速ユニット231と、第二変速ユニット232と、第一ピン支持部材81と、ピン留め部材83と、軸受け91,92,293とから構成される。第一変速ユニット231は、図10,11に示すように、回転部材440、クランク軸250、第一揺動部材60、および第二揺動部材70から構成されるユニットである。第二変速ユニット132は、同様に、回転部材540、クランク軸350、第一揺動部材160、および第二揺動部材170から構成されるユニットである。
【0112】
第二実施形態において、第一変速ユニット131の回転部材240は、当該回転部材240の外周面を第二変速ユニット132の回転部材340のピン341により支持されるものとした。これに対して、本実施形態における第一変速ユニット231の回転部材440は、軸受け293を介してハウジング10により支持される点が相違する。
【0113】
第一変速ユニット131の回転部材440は、ピン41と転がり軸受け42を有し、図12に示すように、その外周面を軸受け293により支持されている。軸受け293は、ハウジング10の内周面に形成された円筒面に固定されている。そして、軸受け293は、その内周面において回転部材440を支持している。これにより、回転部材440は、軸受け293を介してハウジング10により回転可能に支持される。
【0114】
第二変速ユニット132の回転部材540は、ピン541と、転がり軸受け542を有している。ピン541は、回転部材540の一方側の盤面から入出力軸線Loの方向に突出するように形成されている。そして、ピン541は、図12に示すように、6本のピン541が入出力軸線Loを中心とした回転の周方向に等間隔となるように上記盤面に固定されている。
【0115】
このピン541は、回転部材540に固定される円柱状の部材である。転がり軸受け542は、ピン541に回転可能な状態で外挿された円筒状の部材である。ピン541は、第一、第二揺動部材160,170の挿入孔162,172に挿入され、ピン541に外挿された転がり軸受け542の一部分がこれら挿入孔162,172の内周面と当接する。また、ピン541は、挿入孔162,172を貫通し、ハウジング10に固定された軸受け293に接触しないように長さを設定されている。
減速装置201におけるその他の構成については、それぞれに対応する第二実施形態の減速装置101の各構成と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。
【0116】
(減速装置201の効果)
このような構成の減速装置201によれば、第二実施形態の減速装置101と同様の効果を奏する。また、第一変速ユニット231の回転部材440は、当該回転部材440の外周面を軸受け293により支持される構成としている。このような構成により、第一変速ユニット231の回転部材440は、軸受け293を介してより確実にハウジング10に支持することができる。従って、減速装置201の駆動状態において第一変速ユニット231の回転部材440が高回転となるなど、回転部材440の回転ブレが懸念される場合には特に有用である。
【0117】
<第一〜第三実施形態の変形態様>
第一〜第三実施形態において、減速装置1,101,201は、2つの変速ユニットである第一変速ユニット31,131,231および第二変速ユニット32,132,232を備えるものとした。これに対して、減速装置1,101,201は、三以上の変速ユニットを備える構成としてもよい。このような場合には、ハウジング10の内周面に第一、第二内歯歯車11,12に加えて、増設する変速ユニットに対応した内歯歯車を形成する。
【0118】
このような構成により、各変速ユニットにおいて、伝達する駆動力に応じた機械的な強度を得ることができる。よって、高い変速比を得るために第一、第二変速ユニット31,32を連設した場合においても、従来において同構成の減速装置を直列に連結した場合と比較して、減速装置1として部品点数を低減し単純化することができる。従って、減速装置1が駆動力を伝達している駆動状態において、伝達による機械的損失を低減し伝達効率を向上できる。
【0119】
また、第一〜第三実施形態において、減速装置1,101,201の第一変速ユニット31,131,231および第二変速ユニット32,132,232は、複数の第一、第二揺動部材60,70,160,170をそれぞれ有するものとした。これに対して、揺動部材を単数とする構成としてもよい。このような場合には、クランク軸50,150,250,350には、一つの偏心部が形成される。このような構成により、各変速ユニットは、入出力軸線Loの方向の長さを短縮することができる。これにより、減速装置1,101,201は、複数の変速ユニットにより高い変速比を得られるとともに、装置全体として小型化することができる。
【0120】
また、変速ユニットの揺動部材を単数または複数とする構成は、変速歯車装置の駆動状態において、その変速ユニットが伝達する駆動力、変速比、または回転数などにより選択的に設定される。例えば、伝達する駆動力が大きい場合には、各外歯歯車の負荷を軽減するという観点から複数の揺動部材を有する構成が好ましい。そして、変速歯車装置が備える複数の変速ユニットのうち、駆動状態における低回転側(高トルク側)の変速ユニットのみが複数の揺動部材を有する構成としてもよい。その他、偏心部材および揺動部材の回転によるアンバランスを打ち消すという観点から、複数の変速ユニットのうち、駆動状態における高回転側(低トルク側)の変速ユニットのみが複数揺動部材を有する構成としてもよい。
【0121】
ここで、例えば、第一実施形態の減速装置1において、回転部材40がピン41を有するとともに、第一、第二揺動部材60,70がピン41を挿入される挿入孔62,72を有するものとした。これに対して、上述したように、変速ユニットの有する揺動部材が単数の場合には、ピンと挿入孔を配置する部材を入れ替えてもよい。つまり、第一揺動部材60がピンを有するとともに、回転部材40が当該ピンを挿入される挿入孔を有するものとする。
【0122】
このような構成においても、揺動回転する第一揺動部材60の自転成分のみを回転部材40との間で入力または出力することができる。但し、上記構成の場合には、第一揺動部材60と共に揺動回転するピンの揺動幅を許容するように挿入孔が形成されるため、挿入孔が形成される回転部材40が大径化する傾向にある。よって、変速歯車装置として小型化を図る場合や伝達可能な最大駆動力を向上させるために複数の揺動部材を有する構成とする場合には、第一〜第三実施形態において例示した構成が好適である。
【0123】
<その他>
以上、本発明の変速歯車装置について、減速装置1,101,201として説明した。その他に、入力軸部材21および出力軸部材22の入出力の関係を逆方向とすることにより、本発明の変速歯車装置を適用した増速装置とすることもできる。特に増速装置においては、図4に示すように、伝達比の値が大きくなるほど伝達効率が低下することが知られている。増速装置における伝達比は、増速比と等しく、変速歯車装置の変速比を示すものである。そして、増速装置における伝達効率は、減速装置と比較してさらに伝達比が大きくなるほど低下することから、高い変速比を得る場合に、高い伝達効率を維持することが必要とされる。
【0124】
そこで、本発明の変速歯車装置を増速装置に適用することにより、従来と比較して所定の増速比に対して高い増速効率を得ることができる。具体的には、例えば、各変速ユニットの伝達比を13となるように内歯歯車11および外歯歯車61,71,161,172の歯数を設定したとする。この時、増速装置が2つの変速ユニット(n=2)を備える場合に、図5に示すように、169の伝達比(増速比は、169)、約83%の伝達効率を得ることができる。変速ユニットの数を3,4とした場合においても同様に、図5に示すように、伝達比に対して高い増速効率を得ることができる。
【符号の説明】
【0125】
1,101,201:減速装置(変速歯車装置)
10:ハウジング、 11:第一内歯歯車、 12:第二内歯歯車
21:入力軸部材、 22:出力軸部材
31,131,231:第一変速ユニット
32,132,232:第二変速ユニット
40,140,240,340,440,540:回転部材
41,141,341,541:ピン
42,142,342,542:転がり軸受け
43,143:凹部
50,150,250,350:クランク軸
51,151:第一偏心部(偏心部材)、 52,152:第二偏心部(偏心部材)
53,153:凸部
60,160:第一揺動部材、 61,161:外歯歯車、 62,162:挿入孔
70,170:第二揺動部材、 71,171:外歯歯車、 72,172:挿入孔
81:第一ピン支持部材、 82:第二ピン支持部材
83:ピン留め部材、 83a:プレート、 83b:留め輪
91〜93,193,293:軸受け
Lo:入出力軸線
La1,La2:第一偏心軸線、 Lb1,Lb2:第二偏心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通の入出力軸線を中心として入力軸および出力軸を回転可能に支持し、内周面に内径の異なる複数の内歯歯車が形成されたハウジングと、
複数の前記内歯歯車が形成された前記ハウジングの前記入出力軸線方向位置にそれぞれ配置され、複数の前記内歯歯車とそれぞれ噛合し前記入力軸から前記出力軸への回転を変速する複数の変速ユニットと、
を備える変速歯車装置であって、
前記変速ユニットは、
前記ハウジングにより前記入出力軸線を中心として回転可能に支持され、前記入出力軸線方向に突出するピンおよび前記ピンが挿入される挿入孔のうち一方を有する回転部材と、
前記入出力軸線に対して偏心した偏心軸線を中心とする偏心部材と、
環状からなり、前記偏心部材の外周側に回転可能に支持され、外周面に形成され前記内歯歯車と噛合可能な外歯歯車と、前記ピンおよび前記挿入孔のうち他方と、を有し、前記偏心部材が前記入出力軸線を中心に回転することにより揺動回転する揺動部材と、
を有し、
複数の前記変速ユニットのうち隣り合う一側、他側変速ユニットにおいて、
前記一側変速ユニットの前記偏心部材は、前記入力軸および前記出力軸のうち一方に連結され、
前記一側変速ユニットの前記回転部材は、前記他側変速ユニットの前記偏心部材と連結され、
前記他側変速ユニットの前記回転部材は、前記入力軸および前記出力軸のうち他方に連結されることを特徴とする変速歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
複数の前記変速ユニットのうち少なくとも一の前記変速ユニットは、
前記ピンを有する回転部材と、
前記入出力軸線方向に連設される複数の前記偏心部材と、
前記挿入孔を有し、複数の前記偏心部材にそれぞれ支持される複数の前記揺動部材と、
を有することを特徴とする変速歯車装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記変速ユニットにおける複数の前記偏心部材は、複数の当該偏心部材によりそれぞれ支持される各前記揺動部材が前記入出力軸線を中心とした回転の周方向に等間隔で配置されるように、前記入力軸および前記出力軸のうち一方に連結されることを特徴とする変速歯車装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記一側変速ユニットの前記回転部材は、当該回転部材の外周面において前記他側変速ユニットの前記揺動部材を回転可能に支持するように、前記一側変速ユニットの前記回転部材の径方向に偏心した位置に前記他側変速ユニットの前記偏心部材を一体的に連結されることを特徴とする変速歯車装置。
【請求項5】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記一側変速ユニットの前記回転部材は、当該回転部材の外周面を前記他側変速ユニットの前記回転部材の前記ピンにより支持されることを特徴とする変速歯車装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
複数の前記変速ユニットのうち少なくとも一の前記変速ユニットにおいて、当該変速ユニットの前記回転部材が前記ピンを有するとともに、当該変速ユニットの前記揺動部材が前記挿入孔を有し、
当該変速ユニットの前記偏心部材に対して前記ピンの突出方向に配置されるとともに、前記ハウジングにより前記入出力軸線を中心として回転可能に支持され、前記揺動部材の前記挿入孔を貫通した前記ピンを支持するピン支持部材をさらに備えることを特徴とする変速歯車装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記ピン支持部材は、前記変速歯車装置の駆動状態において高回転側となる前記変速ユニットの前記回転部材の前記ピンを支持することを特徴とする変速歯車装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−231802(P2011−231802A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100175(P2010−100175)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】