説明

変速装置

【課題】シフト待機状態においてアーム部のセレクト方向の位置を保持する。
【解決手段】径方向外方に突出したシフトフィンガ56,57を備えるとともに、アクチュエータにより軸方向に移動及び軸中心に回転してシフトフィンガ56,57をセレクト方向及びシフト方向に移動可能なスリーブ54とを備え、シフトフィンガ56,57によりシフトラグを選択的に押圧してシフト方向に移動させる変速装置において、スリーブ54に、外壁から複数突出して、その間にセレクト方向に延びるセレクト溝61とセレクト方向でシフトラグ位置と同一間隔でセレクト溝61からシフト方向に延びるシフト溝62とを形成する突起部59が設けられるとともに、セレクト溝61及びシフト溝62に係合し、スリーブ54のセレクト方向及びシフト方向の移動を限定するピン60を備え、変速のシフト待機状態において、ピン60がセレクト溝からはずれ、シフト溝62内に位置するようなシフト待機位置にシフトフィンガ56,57を位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機械式の自動変速装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の変速装置として、トルクコンバータを使用しない機械式の自動変速装置が知られている。この機械式の自動変速装置では、手動変速装置における変速機の操作(セレクト及びシフト)及びクラッチの断接をアクチュエータにより作動させることで、トルクコンバータを不要とした自動変速を可能としている。上記変速装置は、例えばセレクト方向及びシフト方向にスライドや回転により移動可能なシャフトと、セレクト方向に複数個配列されたシフトラグと、該シフトラグとシフトフォークとを夫々連結するシフトレールとを備えている。更に、シャフトには外方に突出してアーム部(シフトフィンガ)が設けられている。そして、減速機を介して電動モータ等のアクチュエータによりシャフトをセレクト方向及びシフト方向に移動させることで、アーム部によりシフトラグの先端を選択的に押しシフト方向に移動させて、シフトフォークを選択的にシフト作動させるように構成されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4285580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のような自動変速装置において、シャフトの軸を上下方向にして、あるいは水平方向から斜めにして車両に配置する場合がある。このような場合、シフト待機状態等のようなアクチュエータの非作動時に、自重や振動によってシャフトがセレクト方向に移動してシフトフィンガが位置ずれを起こしてしまう虞がある。このようなシフトフィンガの位置ずれを防止するために、例えばシフト待機状態においてはシャフトをセレクト方向に移動させるアクチュエータの電動モータを常に作動させてシフトフィンガのセレクト位置を保持させる方法が考えられるが、シフト待機状態でも電動モータを作動させることとなり、電力を大幅に消費してしまう。また、車両の振動によりシフトフィンガがセレクト方向に移動しようとして、アクチュエータの減速機部分に過大な力が入力してしまう虞もある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、その目的とするところは、シフト待機状態においてシャフトのセレクト方向の移動を規制し、アーム部のセレクト方向の位置をアクチュエータにかかる電力を消費することなく、メカニカルに保持することが可能な変速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、径方向外方に突出したアーム部を備えるとともに、アクチュエータにより軸方向に移動及び軸中心に回転してアーム部をセレクト方向及びシフト方向に移動可能なシャフトと、シャフトを軸方向に移動及び軸中心に回転可能に支持する支持部材と、セレクト方向に複数個配列されたシフトラグと、シフトレールを介してシフトラグと連結され変速段のシフト作動を行うシフトフォークと、を備え、アクチュエータを作動制御してアーム部をセレクト方向及びシフト方向に移動させ、所定のシフトラグを選択的に押圧してシフト方向に移動させて、シフトレールを介してシフトフォークをシフト作動し変速させる変速装置であって、シャフトに、当該シャフトの外壁から複数突出して、その間にセレクト方向に延びるセレクト溝と、セレクト方向でシフトラグ位置と同一間隔でセレクト溝からシフト方向に延びるシフト溝とを形成する突起部が設けられるとともに、支持部材に、セレクト溝及びシフト溝に係合し、シャフトの軸方向の移動及び軸中心の回転を限定して、シャフト及び突起部とともに一体となって移動するアーム部のセレクト方向及びシフト方向の移動を限定するピンが設けられ、アーム部が、変速におけるシフト待機位置に保持される際に、ピンがシフト溝内に位置することを特徴とする。
【0007】
また、請求項2の発明は、請求項1において、アーム部は、シフト待機位置において、シフトラグに当接しないことを特徴とする。
また、請求項3の発明は、請求項1または2において、セレクト溝の幅はシフト溝の幅より大きいことを特徴とする。
また、請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれかにおいて、アーム部は、セレクト方向に離間してシャフトに複数設けられるとともに、突起部は、複数のアーム部の間に設けられたことを特徴とする。
【0008】
また、請求項5の発明は、請求項1〜4のいずれかにおいて、シフトラグはシャフトの軸心に向かって延びる一本の柱状に形成され、アーム部は、シフトラグの側面を押圧してシフト方向に移動させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の請求項1の変速装置によれば、アーム部をシフト待機位置に位置させることで、ピンがシフト方向に延びるシフト溝内に位置するので、シャフトの軸方向の移動が規制され、これに伴いアーム部のセレクト方向の移動が規制される。したがって、変速におけるシフト待機状態においてアーム部をシフト待機位置に位置させることで、アクチュエータを常に作動させることなく、アーム部のセレクト方向の位置が保持され、アクチュエータの作動エネルギーの抑制を図ることができる。また、振動によってシャフトに対してセレクト方向に過大な力が作用しても、ピンと突起部によって力が受けられ、アクチュエータへの過大な力の作用を抑え破損を防止することができる。
【0010】
尚、ピンがセレクト溝から完全に外れた状態でシフト方向に延びるシフト溝内に位置する必要はなく、ピンがセレクト溝から完全に外れていなくてもシフト溝内に引っ掛かる状態となればよい。
本発明の請求項2の変速装置によれば、シフト待機位置においてはアーム部がシフトラグに当接しないので、シフトラグを移動させることなくアーム部をシフト待機位置に位置させることができる。よって、デュアルクラッチ式変速装置に採用し、シフト待機状態において、シフトラグのシフト方向位置に関わらず、アーム部をシフト待機位置に位置させてセレクト方向への移動を規制させることができる。
【0011】
また、本発明の請求項3の変速装置によれば、セレクト溝の幅はシフト溝の幅より大きいので、ピンの先端がシフト溝に挿入された状態からセレクト溝へ容易に移動させることが可能となる。また、その逆方向の移動(セレクト溝からシフト溝への移動)も容易となる。よって、変速時におけるアーム部の移動がスムーズとなり、変速時間を短縮させることができる。
【0012】
また、本発明の請求項4の変速装置によれば、突起部がセレクト方向に離間した複数のアーム部の間に設けられるので、シャフトをセレクト方向に延長して突起部を設ける必要がなく、変速装置のセレクト方向の長さを抑えコンパクト化を図ることができる。
また、本発明の請求項5の変速装置によれば、シフトラグはシャフトの軸心に向かって延びる一本の柱状に形成されているので、シャフトを回転させアーム部によってシフトラグの側面を押圧することで、簡易な構造でシフトラグをシフト方向に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態としての前進7段後進1段のデュアルクラッチ式変速装置の模式図である。
【図2】本発明の変速装置の一実施形態に係るギヤシフト機構の構成を示す斜視図である。
【図3】同ギヤシフト機構の構成を示す正面図である。
【図4】同ギヤシフト機構の構成を示す下面図である。
【図5】シフト待機位置でのシフトフィンガの移動状態を示す下面図である。
【図6】シフト待機位置でのシフトフィンガの移動状態を示す斜視図である。
【図7】シフト待機位置でのシフトフィンガの移動状態を示す正面図である。
【図8】シフト完了状態のシフトフィンガの移動状態を示す斜視図である。
【図9】シフト待機位置からセレクト溝内に移動させるときの各溝内でのピンの移動経路を示す説明図であり、(A)は本実施形態、(B)はセレクト溝の幅がピンと略同一である場合を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づき説明する。
図1は、本発明の一実施形態としてのデュアルクラッチ式変速装置の模式図である。
図1に示すように、変速機部1は、2個のクラッチ2、3と、同軸上に配置された2個の主軸4、5と、3個の副軸6、7、8とを備えている。第1の主軸4は第1のクラッチ2を介して、エンジンの出力軸9から動力が伝達される一方、第2の主軸5は第2のクラッチ3を介して出力軸9から動力が伝達されるよう構成されている。
【0015】
第1の副軸6第2の副軸7及び第3の副軸8は、第1の主軸4及び第2の主軸5と軸線が平行になるように夫々離間して配置されているとともに、変速機部1の後段のデフ10に動力を伝達可能に構成されている。第1の主軸4には、1速用固定ギヤ11a、3速用固定ギヤ13a、5速用固定ギヤ15aが第1の主軸4と一体回転するように固定されている。第2の主軸5には、2速およびリバース用固定ギヤ12a、4速および6速用固定ギヤ14aが第2の主軸と一体回転するように固定されている。また、第1の副軸6には、1速用遊転ギヤ11b、2速用遊転ギヤ12b、4速用遊転速ギヤ14b、5速用遊転速ギヤ15bが第1の副軸6に対して相対回転可能に枢支されている。第2の副軸7には、3速用遊転ギヤ13b、6速用遊転ギヤ16b、リバース用中間遊転ギヤ18bが第2の副軸7に対して相対回転可能に枢支されている。第3の副軸8には、リバース用遊転ギヤ18cが第3の副軸8に対して相対回転可能に枢支されている。
【0016】
このようなギヤ配置により、1速用固定ギヤ11aと1速用遊転ギヤ11bとで1速ギヤ11を構成し、2速およびリバース用固定ギヤ12aと2速用遊転ギヤ12bとで2速ギヤ12を構成し、3速用固定ギヤ13aと3速用遊転ギヤ13bとで3速ギヤ13を構成し、4速および6速用固定ギヤ14aと4速用遊転ギヤ14bとで4速ギヤ14を構成し、5速用固定ギヤ15aと5速用遊転ギヤ15bとで5速ギヤ15を構成し、4速および6速用固定ギヤ14aと6速用遊転ギヤ16bとで6速ギヤ16を構成し、2速およびリバース用固定ギヤ12aとリバース用中間遊転ギヤ18bとリバース用遊転ギヤ18cとでリバースギヤ18を構成する。
【0017】
また、変速機部1には、シンクロスリーブ201、211、221、231、241とシフトフォーク20〜24が備えられており、シンクロスリーブ201、211、221、231、241は、シフトフォーク20〜24によってそれぞれの副軸の軸線に沿ってスライド移動させられる。このうち第1のシンクロスリーブ201及び第2のシンクロスリーブ211は、第1の副軸6の軸線に沿ってスライド移動可能に設置されて、シフトフォーク20及びシフトフォーク21によって、それぞれスライド移動させられる。第3のシンクロスリーブ221及び第4のシンクロスリーブ231は、第2の副軸7の軸線に沿ってスライド移動可能に設置されて、シフトフォーク22及びシフトフォーク23によって、それぞれスライド移動させられる。第5のシンクロスリーブ241は、第3の副軸8の軸線に沿ってスライド移動可能に設置されて、シフトフォーク24によってスライド移動させられる。
【0018】
これらのシンクロスリーブ201、211、221、231、241をスライド移動させることで、第1のシンクロスリーブ201により1速ギヤ11及び5速ギヤ15を、第2のシンクロスリーブ211により2速ギヤ12及び4速ギヤ14を、夫々選択的に副軸6に断接(シフト作動)可能となっているとともに、第3のシンクロスリーブ221により3速ギヤ13を、第4のシンクロスリーブ231により6速ギヤ16を、夫々選択的に副軸7に断接(シフト作動)可能となっている。更に、第5のシンクロスリーブ241によりリバースギヤ18を選択的に副軸8に断接(シフト作動)可能となっている。
【0019】
即ち、デュアルクラッチ式変速装置の変速機部1では、第1のクラッチ2を介して1速、3速及び5速に選択的に切り換え可能である一方、第2のクラッチ3を介して2速、4速、6速及びリバースに選択的に切り換え可能に構成されている。
次に、図2〜4を用いて、上記デュアルクラッチ式変速装置のシフトフォーク20〜24を駆動させるギヤシフト機構について説明する。
【0020】
図2は、本発明の変速装置の一実施形態に係るギヤシフト機構の構成を示す斜視図である。図3、4は、同ギヤシフト機構の構成を示す正面図、下面図である。
シフトフォーク20〜24は、シフト方向に移動可能に設けられたシフトレール30a〜30dに固定されている。図2〜4に示すように、シフトレレール30a〜30dは、セレクト方向に並ぶように配置されている。シフトレレール30a〜30dには、シフトラグ40a〜40dが設けられている。
【0021】
シフトラグ40a〜40dは、シフトレール30a〜30dから突出する柱状の部材であって、シフトレール30a〜30dに夫々1つずつ設けられている。
シフトラグ40a〜40dは、各変速段の非接続(ニュートラル)状態にて、シフト方向に垂直なセレクト方向に延びる同一線上に間隔を持って配置されている。詳しくは、本実施形態では、セレクト方向が車両の上下方向であって、下方から順番に、第1のシフトラグ40a、第2のシフトラグ40b、第3のシフトラグ40c、第4のシフトラグ40dが配置されている。
【0022】
シフトラグ40a〜40dの突出方向先には、ニュートラル位置においてシフトラグ40a〜40dが並ぶ直線と平行に、セレクト方向、即ち上下方向に延びるシフトシャフト50が設けられている。
シフトシャフト50は、ケーシング51(支持部材)に固定されたセレクト方向に延びる中心軸52と、円筒状のスリーブ54(シャフト)とにより構成されている。スリーブ54は、中心軸52が挿入されており、中心軸52に対して軸方向に移動可能かつ軸中心に回転可能に支持されている。
【0023】
スリーブ54には、セレクト方向に間隔をおいて、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57が固定されている。
第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57は、夫々、スリーブ54の外周壁から径方向外方に所定角αの挟み角を持って突出した2個のアーム部から構成されている。
【0024】
スリーブ54は、図示しないセレクト用モータにより減速機を介してセレクト方向に移動されるとともに、シフト用モータにより減速機を介して回転駆動される。そして、これらのアクチュエータを作動制御することで、スリーブ54とともにシフトフィンガ56、57をセレクト方向に移動させ、シフトフィンガ56、57を所望の変速段のシフトラグ40a〜40dとセレクト方向の位置を一致させた後、スリーブ54を回転させることによりシフトフィンガ56、57を揺動させ、そのアーム部の先端でシフトラグ40a〜40dを選択的にシフト方向に押圧して移動させることで、変速を行う構成となっている。
【0025】
なお、本実施形態では、上記のようにシフトフィンガ56、57が2個設けられており、第1のシフトフィンガ56が第1のシフトラグ40a及び第2のシフトラグ40bを、第2のシフトフィンガ57が第3のシフトラグ40c及び第4のシフトラグ40dを分担して押圧する構成となっている。
更に、本実施形態では、スリーブ54のセレクト方向の移動を規制して、シフトフィンガ56、57のセレクト方向の位置を保持する保持機構を備えている。
【0026】
保持機構は、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57の間のスリーブ54の外周壁に複数設けられた突起部59と、基端部がケーシング51に固定されかつ先端がスリーブ54に向けて延びたピン60とにより構成されている。
突起部59は、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57の突出側と反対側に、かつ挟み角αの中央線CLに対して左右対象に設けられ、シフトラグ40a〜40dの数に対応してセレクト方向に複数並べて配置されている。突起部59は、その間にピン60の先端が挿入されて係合するセレクト溝61及びシフト溝62を形成し、シフトフィンガ40a〜40dのセレクト方向及びシフト方向の移動を限定する機能を有する。
【0027】
詳しくは、突起部59によって、スリーブ54には、第1のシフトフィンガ56及び第2のシフトフィンガ57の突出側と反対側に挟み角の中央線CL上にセレクト方向に延びるセレクト溝61が形成されるとともに、シフトラグ40a〜40d毎にそのセレクト位置にシフトフィンガ56、57が位置する状態で、ピン60がシフト方向に移動可能となるようにシフト溝62が形成されている。
【0028】
セレクト溝61のセレクト方向の長さは、いずれかのシフトフィンガ56、57が全てのシフトラグ40a〜40dとセレクト方向の位置が一致するまで移動可能となるように設定されている。シフト溝62のシフト方向の長さは、シフトラグ40a〜40dを左右両側のシフト位置にシフトフィンガ56、57によって押圧させて移動可能となるように設定されている。
【0029】
シフト溝62の幅S1は、ピン60のピン径Dが通過できる範囲で極力小さく設定されている。セレクト溝61の幅S2は、シフトフィンガ56、57が如何なる位置のシフトラグ40a〜40dにも当接しない範囲内で、シフトフィンガ56、57のニュートラル位置から所定角度β回転傾斜したシフト待機位置において、シフトフィンガ56、57のセレクト方向の移動が規制されるように形成されている。なお、シフトフィンガ56、57のニュートラル位置とは、シフトフィンガ56、57のアーム部の挟み角の中央線CLとニュートラル位置のシフトラグ40a〜40dとがシフト方向で一致するような状態である。
【0030】
一方、セレクト溝61の幅S2は、シフト溝の幅S1よりも大きく設定している。そして、このようにセレクト溝61の幅S2を大きく設定するのに伴い、図5に示すように、シフトフィンガ56、57がシフト位置にあるシフトラグ40a〜40dに干渉しないように、シフトフィンガ56、57の挟み角α及びシフト待機位置となる所定角度βを設定する。
【0031】
図6は、シフトフィンガ56、57がシフト待機位置、シフトラグ40a〜40dがニュートラル位置である場合のシフトフィンガ56、57及びスリーブ54の移動状態を示す斜視図である。
図7は、シフトフィンガ56、57がシフト待機位置、シフトラグ40a〜40dがニュートラル位置である場合のスリーブ54の移動状態を示す正面図である。
【0032】
図8は、シフトフィンガ56、57がシフト完了状態、シフトラグ40aがシフト位置であり、その他のシフトラグ40b〜40dがニュートラル位置である場合のシフトフィンガ56、57及びスリーブ54の移動状態を示す斜視図である。
図2〜4に示すように、シフトフィンガ56、57がニュートラル位置である場合には、ピン60は、セレクト溝61内に位置している。また、このときシフトフィンガ56、57はシフトラグ40a〜40dが如何なる位置にあっても干渉しないので、シャフト54をセレクト方向に移動可能である。
【0033】
そして、図8に示すように、シフトフィンガ56または57を所望のシフトラグ40a〜40dとセレクト方向を一致させ、スリーブ54を回転させることで、シフトフィンガ56、57を揺動させる。これにより、シフトラグ40a〜40dがシフトフィンガ56、57に押圧されシフトラグ40a〜40dがシフト位置に移動する。なお、図8では、第1のシフトラグ40aをシフト移動させた状態を示している。
【0034】
本実施形態では、シフト作動が行われていないシフト待機状態において、図6、7に示すように、シフトフィンガ56、57のニュートラル位置から所定角度β傾けたシフト待機位置にシフトフィンガ56、57を移動させる。このシフト待機位置への移動は、例えばシフト完了後毎に行えばよい。また、エンジン停止時においてもシフト待機位置に移動した後に電源OFFするよう制御してもよい。
【0035】
このように、シフト作動が行われていないとき、シフトフィンガ56、57をシフト待機位置に移動させておくことで、ピン60が突起部59に干渉してスリーブ54のセレクト方向の移動が規制されるので、セレクト用モータを作動させることなくシフトフィンガ56、57のセレクト方向の位置が保持される。よって、自重または走行中の振動により、シフトフィンガ56、57及びスリーブ54にセレクト方向に力が入力されても、セレクト用モータによる電力消費を続けることなくシフトフィンガ56、57の位置ずれを防止することができるとともに、アクチュエータの減速機部分への過大な力の入力を防止することができる。
【0036】
また、上記のように、シフト待機位置では、シフトフィンガ56、57のアーム部は如何なる位置のシフトラグ40a〜40dに当接しないので、1つのシフトラグをシフトさせたままま、シフトフィンガ56、57のアーム部をシフト待機位置に移動させることができるので、上記のようにデュアルクラッチ式変速装置に採用することができる。
更に、シフト溝62は、その幅S1がピン60の直径Dに対して略隙間なく形成されているので、シフト待機位置においてスリーブ54がセレクト方向に殆ど移動せずに、シフトフィンガ56、57のセレクト方向の位置を正確に保持することができる。
【0037】
また、シフト溝62によってシフトフィンガ56、57をシフト作動させる際のセレクト方向の位置が限定されるので、シフトフィンガ56、57のシフトラグ40a〜40dの2重押しを確実に防止することができる。よって、シフトラグ40a〜40dをセレクト方向に近接して配置することができ、ギヤシフト機構のセレクト方向の寸法を抑え、変速装置の小型化を図ることができる。
【0038】
図9は、シフト待機位置からセレクト溝61内に移動させるときの各溝61、62内でのピン60の移動経路を示す説明図であり、(A)は本実施形態、(B)はセレクト溝61の幅S2がピン60と略同一である場合を示す。
本実施形態では、図9(A)に示すように、セレクト溝61の幅S2がピン60よりも比較的大きく設定されているので、シフト待機位置からセレクト溝61内に移動させる際に、シフト方向に移動させながらセレクト方向に移動させることができ、変速を迅速に行うことが可能となる。また、逆にシフト溝62内に移動させる際に、セレクト方向に移動させながらシフト方向に移動させることができ、変速を迅速に行うことが可能となる。
【0039】
これに対し、図9(B)に示すように、セレクト溝61の幅S2がピン60の径と略同一に設定されている場合には、シフト待機位置からセレクト溝61内に移動させる際に、シフト方向に移動させながらセレクト方向に移動させることが困難となり、ピン60のシフト方向の位置を正確にセレクト溝61の中央まで移動し、シフト方向の移動を停止した後でないと、セレクト方向に移動不能であるので、変速を迅速に行うことが困難となる。
【0040】
また、本実施形態では、突起部59が第1のシフトフィンガ56と第2のシフトフィンガ57との間に設けられているので、スリーブ54のセレクト方向の長さを抑えることができる。よって、ギヤシフト機構のセレクト方向の長さをコンパクトにすることができる。
なお、本実施形態では、ピン60がケーシング51に固定されているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えばケーシング51に固定されている中心軸52にピン60を設けてもよい。この場合、中心軸52の外周壁から径方向外方にピン60を突出させるように構成し、ピン60をセレクト溝61及びシフト溝62に係合するように配置すれば、シフトフィンガ56、57の移動が限定される。
【0041】
また、本実施形態では、突起部59が第1のシフトフィンガ56と第2のシフトフィンガ57との間に設けられているが、いずれかのシフトフィンガ56、57の外側にスリーブ54を延長し、この延長部に突起部59を設けてもよい。
また、本実施形態では、シフトフィンガ56、57が2個ある場合の変速装置に本発明を適用しているが、いずれの個数のシフトフィンガを備えた変速装置でも適用可能である。また、本発明は、いずれの変速段の変速装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0042】
1 変速機部
20、21、22、23、24 シフトフォーク
40a、40b、40c、40d シフトラグ
51 ケーシング
54 スリーブ
56、57 シフトフィンガ
59 突起部
60 ピン
61 セレクト溝
62 シフト溝
201、211、221、231、241 シンクロスリーブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向外方に突出したアーム部を備えるとともに、アクチュエータにより軸方向に移動及び軸中心に回転して前記アーム部をセレクト方向及びシフト方向に移動可能なシャフトと、
前記シャフトを軸方向に移動及び軸中心に回転可能に支持する支持部材と、
前記セレクト方向に複数個配列されたシフトラグと、
シフトレールを介して前記シフトラグと連結され変速段のシフト作動を行うシフトフォークと、を備え、
前記アクチュエータを作動制御して前記アーム部を前記セレクト方向及びシフト方向に移動させ、所定のシフトラグを選択的に押圧し前記シフト方向に移動させて、前記シフトレールを介して前記シフトフォークをシフト作動し変速させる変速装置であって、
前記シャフトに、当該シャフトの外壁から複数突出して、その間に前記セレクト方向に延びるセレクト溝と、セレクト方向でシフトラグ位置と同一間隔で前記セレクト溝から前記シフト方向に延びるシフト溝とを形成する突起部が設けられるとともに、
前記支持部材に、前記セレクト溝及び前記シフト溝に係合し、前記シャフトの軸方向の移動及び軸中心の回転を限定して、前記シャフト及び前記突起部とともに一体となって移動する前記アーム部の前記セレクト方向及び前記シフト方向の移動を限定するピンが設けられ、
前記アーム部が、前記変速におけるシフト待機位置に保持される際に、前記ピンが前記シフト溝内に位置することを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記アーム部は、前記シフト待機位置において、前記シフトラグに当接しないことを特徴とする請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
前記セレクト溝の幅は前記シフト溝の幅より大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の変速装置。
【請求項4】
前記アーム部は、前記セレクト方向に離間して前記シャフトに複数設けられているとともに、
前記突起部は、前記複数のアーム部の間に設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の変速装置。
【請求項5】
前記シフトラグは前記シャフトの軸心に向かって延びる一本の柱状に形成され、
前記アーム部は、前記シフトラグの側面を押圧して前記シフト方向に移動させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の変速装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−179608(P2011−179608A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45117(P2010−45117)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】