変速装置
【課題】負荷トルクの変動が大きい作業時において、変速動作の頻繁な繰り返しを抑制して、作業効率の低下を抑制すると共に、構成部材の消耗を抑制した変速装置を提供する。
【解決手段】本発明の変速装置は、モータ1を駆動源とし、モータ1の回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部(減速機構部2)と、変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、変速比切替手段が、変速用アクチュエータ6と、変速比の切替時に変速用アクチュエータ6を制御する制御部60と、モータ1の駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部68とを有し、指標値が閾値に至る毎に変速比を切り替えるものであって、制御部60は、指標値が閾値を越えた時点から一定時間Δt1,Δt2の間、変速比を維持し、一定時間Δt1,Δt2経過後、指標値が閾値に至った場合に、変速用アクチュエータ6を起動させる。
【解決手段】本発明の変速装置は、モータ1を駆動源とし、モータ1の回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部(減速機構部2)と、変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、変速比切替手段が、変速用アクチュエータ6と、変速比の切替時に変速用アクチュエータ6を制御する制御部60と、モータ1の駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部68とを有し、指標値が閾値に至る毎に変速比を切り替えるものであって、制御部60は、指標値が閾値を越えた時点から一定時間Δt1,Δt2の間、変速比を維持し、一定時間Δt1,Δt2経過後、指標値が閾値に至った場合に、変速用アクチュエータ6を起動させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速比を切替自在とした変速装置、殊に電動工具に好適に用いられる変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具において、駆動源であるモータの回転動力を減速して伝達する減速機構部を備えたものがある。このような電動工具では、モータの負荷等の駆動状態が所定水準に達したときに、遊星減速機構を構成するリングギア等の切替部材をスライドさせて、自動的に減速機構部の減速比を切り替えるものがある。そして、電動工具においては、この減速比の切り替えに伴い、出力トルクが小さい高速状態と、高速状態に比べて出力トルクが大きい低速状態とに切り替わる。
【0003】
ところで、図7に示すホールソー作業S2のような負荷トルクの変動が大きい作業の場合、高速状態から低速状態への変速ポイント(図中黒丸印参照)と、低速状態から高速状態への変速ポイント(図中中抜き丸印参照)とが繰り返し発生することがある。そして、変速ポイントが繰り返し生じると、上述のような電動工具では、図12に示すように、変速ポイント毎に自動変速(自動的な減速比の切替動作)が行われる。
【0004】
また、特許文献1に記載される電動工具のように、モータからサンプリングした電流が予め決められた時間期間に渡ってしきい値を超えた状態が続いた場合、ソレノイドを用いて自動的に切替部材をスライドさせて、減速比を切り替えるものもある。そして、この電動工具では、上記時間期間に渡ってしきい値を超えた状態が続いた場合に、モータを停止した後、切替部材をスライドさせて、自動変速を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−56590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、変速ポイント毎に減速比を切り替える電動工具では、自動変速を頻繁に繰り返すため、出力が安定し難く、作業効率が低下し易くなると共に、切替部材等の構成部材の摩耗や疲労等の消耗を早めてしまうという問題がある。また、特許文献1に記載される電動工具では、負荷トルクの変動が大きい作業の場合、しきい値を超えた状態を前記時間期間維持することが難しくなる。そのため、自動変速が不規則なタイミングで行われてしまい、構成部材の負担が増して消耗し易くなると共に、工具出力が安定し難く、自動変速時のモータ停止も相まって、作業効率が低下し易いという問題がある。
【0007】
本発明では、負荷トルクの変動が大きい作業時において、変速動作の頻繁な繰り返しを抑制して、作業効率の低下を抑制すると共に、構成部材の消耗を抑制することのできる変速装置を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の変速装置は、モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から一定時間の間、この切り替えた前記一方の状態を維持し、前記一定時間経過後、前記指標値が前記閾値に至り前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替える条件を満たした場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させることを特徴とする。
【0009】
この変速装置として、前記制御部は、前記一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、前記一定時間の経過前に一定回数に達した場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させることが好ましい。
【0010】
また、本発明の変速装置は、モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、一定回数に達した場合に、前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させることを特徴とする。
【0011】
この変速装置として、前記変速機構部が、高速状態と、前記高速状態に比べて減速された低速状態とに切り替わり、前記変速機構部を前記高速状態から前記低速状態に切り替えた後この低速状態を維持する動作モードを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、負荷トルクの変動が大きい場合の変速動作の繰り返しを抑制して、作業効率の低下を抑制し易くすると共に、構成部材の消耗を抑制し易くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1の変速装置の説明図である。
【図2】同上の変速装置を備えた電動工具の要部の側断面図である。
【図3】同上の電動工具の要部の内部側面図である。
【図4】同上の電動工具の減速機構部の1速の状態を示し、(a)は側断面図、(b)は側面図である。
【図5】同上の減速機構部の1速と2速の切替途中の状態を示し、(a)は側断面図、(b)は側面図である。
【図6】同上の減速機構部の2速の状態を示し、(a)は側断面図、(b)は側面図である。
【図7】ホールソー作業における時間当たりの負荷トルクの変化の説明図である。
【図8】同上のホールソー作業の実施形態1における減速比の切り替わりの説明図である。
【図9】図7のホールソー作業の実施形態2における減速比の切り替わりの説明図である。
【図10】図7のホールソー作業の実施形態3における減速比の切り替わりの説明図である。
【図11】実施形態4における操作部の切替操作位置の説明図である。
【図12】図7のホールソー作業において変速ポイント毎に自動変速させた例の減速比の切り替わり説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0015】
<実施形態1>
図1には、本発明の変速装置の実施形態1を示しており、本実施形態の変速装置は、図2,図3に示すように、電動工具に減速用の変速装置(減速装置)として設けてある。この電動工具は、駆動源であるモータ1(メインモータ)と、変速機構部と、駆動伝達部3と、出力軸4とを備える。変速機構部は、モータ1の回転動力を減速したうえで伝達する減速機構部2となっており、駆動伝達部3は減速機構部2を介して伝達された回転動力を出力軸4に伝達する。そして、モータ1と、減速機構部2と駆動伝達部3は胴体ハウジング101内に収容されており、出力軸4は胴体ハウジング101から突出して設けられる。以下、モータ1の軸方向を、単に軸方向と記載し、方向の一基準とする。
【0016】
胴体ハウジング101からは把持部ハウジング102が延設され、電動工具の本体ハウジング100は、胴体ハウジング101と把持部ハウジング102とで主体が構成される。把持部ハウジング102にはトリガスイッチ103を引き込み自在に設けてある。さらに、把持部ハウジング102の延設先端部には、外部電源に接続される電源コードや把持部ハウジング102から着脱自在の電池パック等の電源部70(図1等参照)を備えている。
【0017】
また、胴体ハウジング101内には、モータ1や減速機構部2に対して軸方向が平行となるように、変速用アクチュエータ6を収容している。この変速用アクチュエータ6は、専用のモータ50(サブモータ)を駆動源とした回転式のアクチュエータであり、減速機構部2が有する切替部材7を、変速カムプレート8を介して軸方向にスライド移動させ、減速比の切替を行う。この点について詳しくは後述する。
【0018】
図4〜図6には、減速機構部2等の構造をより詳細に示している。本実施形態の減速機構部2は、ギアケース9内に三段の遊星減速機構を収容してある。そして、減速機構部2は、一つの遊星減速機構の減速状態と非減速状態を切り替えることによって、減速機構部2全体の減速比を切り替える。以下においては、モータ1に近い側から順に1、2、3段目の遊星減速機構として説明を行う。
【0019】
1段目の遊星減速機構は、モータ1からの回転動力によって軸中心に回転駆動される太陽ギア10と、該太陽ギア10と噛み合う複数の遊星ギア11と、各遊星ギア11に噛み合うリングギア12とを備える。遊星ギア11は太陽ギア10を囲むように位置し、リングギア12はこれら複数の遊星ギア11を囲むように位置する。1段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア11と回動自在に連結されるキャリア14と、遊星ギア11とキャリア14を連結させるキャリアピン13とをさらに備える。
【0020】
2段目の遊星減速機構は、1段目のキャリア14に結合される2段目の太陽ギア20と、該太陽ギア20と噛み合う複数の遊星ギア21と、各遊星ギア21に噛み合うリングギア22とを備える。遊星ギア21は太陽ギア20を囲むように位置し、リングギア22はこれら複数の遊星ギア21を囲むように位置する。2段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア21と回動自在に連結されるキャリア24と、遊星ギア21とキャリア24を連結するキャリアピン23とをさらに備える。
【0021】
リングギア22はギアケース9に対して軸方向にスライド自在に且つ回転自在に配される。リングギア22は、モータ1側のスライド位置にあるときに、1段目のキャリア14の外周縁部14aに噛み合い、キャリア14と一体に回転自在となる。そして、リングギア22は、出力軸4側のスライド位置にあるときに、ギアケース9に形成された係合歯部40に噛み合い、ギアケース9に回転不能で保持される。更に、リングギア22はいずれのスライド位置にあっても、遊星ギア21に噛み合う。以下の本文中において、モータ1側を単に「入力側」といい、出力軸4側を単に「出力側」という。
【0022】
3段目の遊星減速機構は、2段目のキャリア24に結合される3段目の太陽ギア30と、該太陽ギア30と噛み合う複数の遊星ギア31と、これら複数の遊星ギア31と噛み合うリングギア32とを備える。遊星ギア31は太陽ギア30を囲むように位置し、リングギア32はこれら複数の遊星ギア31を囲むように位置する。3段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア31と回動自在に連結されるキャリア34と、遊星ギア31とキャリア34を連結させるキャリアピン33とをさらに備える。
【0023】
これら3段の遊星減速機構は、軸方向に連結される。つまり、1〜3段目の太陽ギア10,20,30が軸方向の一直線上に並設され、これらを囲むように位置する三つのリングギア12,22,32もまた軸方向の一直線上に並設される。
【0024】
リングギア22は独立して軸方向にスライド自在であり、そのスライド位置に対応して減速比を切り替え、出力軸4の回転出力を1速、2速に変更する。このように、本実施形態では、リングギア22が、軸方向にスライド自在な切替部材7をなす。
【0025】
図4には1速の状態、図5には1速と2速の切替途中の状態、図6には2速の状態を示している。図4の1速にある減速機構部2では、切替部材7をなすリングギア22が入力側の位置にあり、2段目の遊星減速機構が非減速状態となる。図6の2速にある減速機構部2では、切替部材7をなすリングギア22が出力側の位置にあり、2段目の遊星減速機構が減速状態となる。そのため、2速の場合は1速の場合よりも減速比が大きく、出力軸4の回転速度は小さくなる。そして、2速の場合は1速の場合に比べて出力トルクが小さい(低い)状態となる。すなわち、ここでの1速は高速低トルク状態となっており、2速は低速高トルク状態となっている。
【0026】
切替部材7をなすリングギア22のスライド位置は、変速カムプレート8の回転位置に応じて決定される。変速カムプレート8は、筒状をなすギアケース9の外周面に沿う断面円弧状のプレートであり、ギアケース9の中心軸まわりに回転自在となるように装着される。変速カムプレート8にはカム溝41が設けてあり、カム溝41は、リングギア22のスライド移動に対応した折れ線形状を有する貫通溝となっており、カム溝41には変速ピン45が挿通されている。変速ピン45は先端部が、ギアケース9に貫通形成したガイド溝(図示せず)を通じてギアケース9内に挿入され、リングギア22の外周面の凹溝(図示せず)に係合する。ガイド溝は、減速機構部2の軸方向と平行に形成してある。
【0027】
この変速カムプレート8は、その周方向端部にギア部47を有し、ギア部47は回転式の変速用アクチュエータ6と噛み合う。変速用アクチュエータ6は、専用のモータ50と、モータ50の回転動力を減速して伝達する伝達部51と、伝達部51を通じて伝達される回転動力により回転駆動される出力部52とを有する。つまり、変速用アクチュエータ6はモータ50が駆動することで、変速カムプレート8を介して切替部材7を軸方向にスライドさせる。
【0028】
このように、減速機構部2は、軸方向にスライド自在な切替部材7と、これら切替部材7の軸方向のスライド位置に応じて該切替部材7との係合状態と非係合状態が切り替わるギア部材5と、を用いて形成してある。そして、ギア部材5は、1段目のキャリア14と係合歯部40となっており、切替部材7とギア部材5の係合状態と非係合状態に応じて、減速機構部2全体の減速比が切り替わる。
【0029】
さらに、本実施形態の電動工具は、図1に概略的に示すように、制御部60と、第1駆動部65と、第2駆動部66と、駆動状態検知部68と、情報検知部67とを備える。そして、制御部60と第1駆動部65と第2駆動部66とには、電源部70から電力が供給されている。
【0030】
第1駆動部65は、モータ1を駆動させるとともにモータ1の回転動力を変更させる(調整させる)ものとなっており、モータ1の回転動力を調整するモータ1側の駆動調整部を兼ねている。第2駆動部66は、変速用アクチュエータ6(モータ50)を駆動させるとともに変速用アクチュエータ6の駆動を調整するものとなっており、変速用アクチュエータ6側の駆動調整部を兼ねている。
【0031】
駆動状態検知部68はモータ1の駆動状態(負荷)の指標値を検知し、その検知結果(指標値)を制御部60に入力する。そして、この指標値としては、例えば、モータ1にかかる負荷トルク、または現在の減速比とモータ1に流れる電流値や、現在の減速比とモータ1の回転数等の上記負荷トルクの指標となるものとなっている。情報検知部67は、第2駆動部66に印加された供給電圧の値(供給電力の電圧値)を検知することで、切替部材7の移動速度(つまりリングギア22のスライド速度)を検知し、その検知結果を制御部60に入力する。
【0032】
制御部60は、第1駆動部65を介してモータ1を制御するモータ制御部61の機能と、第2駆動部66を介して変速用アクチュエータ6を制御するアクチュエータ制御部62の機能とを兼ねている。そして、制御部60は、駆動状態検知部68により検知されるモータ1の駆動状態に応じて、第2駆動部66に変速用アクチュエータ6を起動させ、切替部材7をスライド移動させることにより減速機構部2の減速比を変更する。
【0033】
つまり、本実施形態の電動工具では、変速用アクチュエータ6と、第2駆動部66と、駆動状態検知部68と、情報検知部67と、制御部60とを用いて、減速比切替手段の主体が構成されている。そして、変速装置は、この減速比切替手段と、減速機構部2とで主体が構成されている。
【0034】
更に、制御部60は、所定条件を満たした場合に、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させて、自動変速させる制御を行う。
【0035】
具体的には、1速から2速への減速比の切り替えの場合、制御部60は、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させ、変速カムプレート8を回転移動させる。この回転移動に伴い、変速ピン45は、ギアケース9のガイド溝にガイドされながら、カム溝41内を入力側から出力側へとスライド駆動され、切替部材7であるリングギア22を出力側へとスライド移動させる。
【0036】
スライド移動したリングギア22は、まず1段目のキャリア14との係合が解除され、図5に示す切替途中の状態となる。このとき、リングギア22は、2段目の遊星ギア21に係合し、且つ、ギアケース9には回転固定されない状態にある。
【0037】
図5の切替途中状態にあるリングギア22は、1速にてキャリア14に係合していたときの回転慣性で回転を続けるが、これと同時に、モータ1により駆動される2段目の遊星ギア21からの反力によって、上記回転慣性とは反対方向の回転力を受ける。一方、リングギア22が次に係合するギア部材5である係合歯部40は、ギアケース9に対して固定されている。
【0038】
制御部60は、この回転慣性と反対方向の回転力を積極的に利用して、リングギア22と係合歯部40との相対回転速度を低減させ(好ましくはゼロとする)、係合歯部40と係合する際にはリングギア22の回転速度が極力ゼロに近づくように調整する。これにより、図6のようにリングギア22が係合歯部40と係合する際の衝撃を抑制し、スムーズ且つ安定的な自動変速を実現するとともに、衝突によるギアの磨耗や破損も抑制することができる。そして、前述の通りリングギア22が係合歯部40と係合することで、減速機構部2は1速の状態から2速の状態へ自動変速され、自動変速が完了となる。
【0039】
次に、2速から1速へ自動変速させる場合、制御部60は、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させ、変速カムプレート8を回転移動させる。この回転移動に伴い、変速ピン45は、ギアケース9のガイド溝にガイドされながら、カム溝41内を出力側から入力側へとスライド駆動され、切替部材7であるリングギア22を入力側へとスライド移動させる。
【0040】
スライド移動したリングギア22は、まず係合歯部40との係合が解除され、図5に示す切替途中の状態となる。そして、リングギア22は、切替途中の状態から更にスライド移動することで、図4に示すように、1段目のキャリア14と係合して、減速機構部2は2速の状態から1速の状態へ自動変速され、自動変速が完了となる。
【0041】
加えて、制御部60は、減速比の切替時(自動変速時)に、情報検知部67にて入出力情報から検知した切替部材7(リングギア22)の位置に対応するかたちで、変速用アクチュエータ6の駆動を調整するように制御する。
【0042】
具体的には、情報検知部67は、変速用アクチュエータ6が駆動されるときに、入出力情報として、電源部70から第2駆動部66に印加された供給電圧の値を随時検知し、検知結果を制御部60に出力する。制御部60は、入力された検知結果に応じて、切替部材7が所定の目標位置に至るまでの時間あたりのスライド量を一定にさせるように第2駆動部66を制御する。つまり、制御部60は、情報検知部67の検知結果に応じて第2駆動部66にモータ50の回転動力を随時変更させて、所定の時間経過時に切替部材7が所定の目標位置に至るように、変速用アクチュエータ6を駆動調整する。
【0043】
これにより、電池パック(電源部70)の消耗による供給電圧の低下等に伴う切替部材7のスライド量または速度の低下に対応して、切替部材7のスライドを調整することができる。そのため、切替部材7の移動速度のばらつきに伴うスライド量不足を抑制し、切替部材7を所定の時間に所定の目標位置に到達させることができ、スムーズかつ安定な自動変速を実現する。なお、上記所定の時間とは、自動変速に要する切替時間であり、変速用アクチュエータ6の駆動時間と略同じ時間となっている。
【0044】
また、変速用アクチュエータ6を起動させる所定条件は、駆動状態検知部68にてモータ1にかかる負荷トルク(指標値)が所定水準(閾値)を越えたと検知された時点から一定時間Δt1経過後、指標値が閾値に至った場合となっている。そして、制御部60においては、自動変速させる際に駆動状態検知部68の検知結果(指標値)が閾値を越えた時点からの時間経過をカウントするカウント部の機能を兼ねる。更に、この制御部60が自動変速させる制御は、負荷トルクの変動が大きい場合に好適に用いられる。
【0045】
以下、負荷トルクの変動が大きい場合として、図7に示すホールソー作業を例に取り、自動変速を具体的に説明する。
【0046】
上記ホールソー作業とは、図7に示すように、被加工部材に下穴(センターホール)を開けるためのドリル工程S1と、ドリル工程S1後にホールソーの刃を被加工部材に噛み込ませホールソー加工を行うホールソー工程S2とを有する。
【0047】
図7はホールソー作業における時間当たりの負荷トルクの変化を示しており、横軸が時間tとなっており、縦軸が負荷トルクTとなっており、折れ線L3が指標値となっている。そして、図8は自動変速時における時間当たりの減速比の状態を示しており、横軸が時間tで、縦軸が減速比となっている。そして、図8において、横軸上に位置した状態が図4に示す高速状態(1速)となり、横軸に平行の点線L1上に位置した状態が図6に示す低速状態(2速)となり、高速状態と低速状態の端部間を結ぶ縦線L2が図5に示す切替途中の状態となる。更に、図7、図8において、二点鎖線L4が閾値となっており、黒丸印が閾値に満たない値から閾値に到達した位置、中抜き丸印が閾値を超過した値から閾値に到達した位置となっている。以下、黒丸印及び中抜き丸印をまとめて変速ポイントと記載する。
【0048】
そして、ドリル工程S1では負荷トルクが閾値未満となっており、1速(高速状態)でモータ1が回転駆動され、上記下穴の形成後、ホールソー工程S2に移行する。ホールソー工程S2では、移行直後にホールソーの刃が被加工部材に噛み込むため、負荷トルクがドリル工程S1に比べて増加して、負荷トルク(指標値)が閾値を越える。そして、このホールソー工程S2では、負荷トルクが閾値に満たない値から閾値を超過した値の間で変動するため、指標値が閾値を至る変速ポイントが、頻繁に且つ繰り返し発生する。そのため、変速ポイント毎に自動変速させた場合では、図12に示すように、減速比の切替動作(変速動作)が繰り返し行われる。
【0049】
対して、本実施形態の電動工具では、図8に示すように、指標値が閾値に至る第1変速ポイントP1で2速へ自動変速され、指標値が閾値を越えたとき(図中時点t1参照)、制御部60は、この時点t1からの経過時間をカウントする。そして、この経過時間が第1の一定時間Δt1に到達した後、指標値が閾値を超過した値から閾値に至った場合(図中時点t2参照)、制御部60は、この時点t2で変速用アクチュエータ6を起動させて、1速へ自動変速させる。すなわち、この2速から1速への自動変速において、第1の一定時間Δt1経過後に、指標値が閾値を超過した値から閾値に至ることが、切替先である1速の状態へ切り替えるために満たすべき所定条件となっている。
【0050】
更に、この1速への自動変速後(時点t2後)、制御部60は、指標値が閾値を越えたとして、この時点t2からの経過時間をカウントする。そして、この経過時間が第2の一定時間Δt2に到達した後、指標値が閾値に満たない値から閾値に至った場合(図中時点t3参照)、この時点t3で変速用アクチュエータ6を起動させて、2速へ自動変速させる。すなわち、この1速から2速への自動変速において、第2の一定時間Δt2経過後に、指標値が閾値に満たない値から閾値に至ることが、切替先である1速の状態へ切り替えるために満たすべき所定条件となっている。また、第2の一定時間Δt2は、第1の一定時間Δt1に比べて短い時間となっている。
【0051】
以上のように、制御部60は、自動変速後、一定時間Δt1,Δt2の間変速ポイントを無視して、この期間(一定時間Δt1,Δt2)自動変速を行わない自動変速制御を行っている。そのため、本実施形態の変速装置は、負荷変動が大きく変速ポイントが頻発する場合等において、変速ポイント毎に自動変速させるものに比べて自動変速させる回数を低減し易くなり、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができる。そして、この変速装置を備えた電動工具では、負荷変動の大きい作業時等において、自動変速の繰り返しに伴う、切替部材7等の構成部材の摩耗や疲労等の消耗や、作業効率の低下を、抑制し易くすることができる。更に、第1の一定時間Δt1を第2の一定時間Δt2に比べて長くしたことで、低速状態(2速の状態)を高速状態(1速の状態)に比べて長い時間維持し易くなり、ホールソー工程S2を行い易くすることができる。
【0052】
なお、本実施形態において、一定時間Δt1,Δt2到達した後なる記載は、一定時間Δt1,Δt2到達と同時の場合を含む。また、変速装置は、第2の一定時間Δt2を有さず、高速状態で変速ポイント毎に自動変速させ低速状態で一定時間Δt1変速ポイントを無視する自動変速制御を行ってもよい。
【0053】
次に、変速装置の他の実施形態について順に述べる。なお、上述の実施形態1と同様の構成については詳しい説明を省略し、実施形態1とは相違する特徴的な構成について、主に詳述する。
【0054】
<実施形態2>
本実施形態の変速装置においても、所定条件を満たすまで変速ポイントを無視して自動変速させない自動変速制御を行っており、電動工具に好適に用いられる。しかし、本実施形態においては、制御部60のカウント部としての機能の点等が実施形態1の場合と相違する。
【0055】
具体的には、図9に示すように、2速への自動変速を行った時点(例えば、時点t1参照)で、制御部60は、この時点t1から指標値が閾値に至った回数をカウントすると共に、この時点t1からの経過時間をカウントする。そして、第1の一定時間Δt3が経過する前に、カウントした回数が第1の一定回数(本例ではn回)に達したとき(図中時点t4参照)、制御部60は、この時点t4で変速用アクチュエータ6を起動させて、1速へ自動変速させる。もちろん、第1の一定時間Δt3が経過するまでに、第1の一定回数に達しなかった場合、第1の一定時間Δt3経過後、実施形態1と同様に、指標値が閾値に至り切替先の状態(1速)へ切り替えるための所定条件を満たした時点で、自動変速させる。
【0056】
更に、上記時点t1で1速へ自動変速後、制御部60は、この時点t4から、指標値が閾値に至った回数を新たにカウントすると共に、この時点t4からの経過時間を新たにカウントする。そして、第2の一定時間Δt4が経過する前に、カウントした回数が第2の一定回数(本例ではN回)に達したとき(図中時点t5参照)、制御部60は、この時点t5で変速用アクチュエータ6を起動させて、2速へ自動変速させる。もちろん、第2の一定時間Δt4が経過するまでに、第2の一定回数に達しなかった場合、第2の一定時間Δt4経過後、実施形態1と同様に、指標値が閾値に至り切替先の状態(2速)へ切り替えるための所定条件を満たした時点で、自動変速させる。更に、この第2の一定回数は、第1の一定回数に比べて、少ない回数(N<n)となっている。
【0057】
以上のように、制御部60は、一定時間経過後に指標値が閾値に至って切替先の状態への自動変速の条件を満たした場合と、指標値が閾値に至った回数が一定回数に達した場合とのいずれかを先に満足した時点で、自動変速させる制御を行っている。すなわち、制御部60は、上記回数が一定回数に達するまでの間、或いは一定時間経過するまでの間、変速ポイントを無視して、一定回数に達する、或いは一定時間経過するまで、自動変速を行わない。そのため、負荷変動が大きく変速ポイントが頻発する場合等に、自動変速させる回数を低減し易くなり、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができる。そのため、自動変速の繰り返しに伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗等を抑制し易くすることができる。そして、第2の一定回数を第1の一定回数に比べて少ない回数としたことで、検知結果が閾値に至る間隔が一定の場合、低速状態での動作を高速状態での動作に比べて長く維持し易くなる。
【0058】
<実施形態3>
本実施形態の変速装置においても、所定条件を満たすまで変速ポイントを無視して自動変速させない自動変速制御を行っており、電動工具に好適に用いられる。しかし、本実施形態においては、制御部60のカウント部としての機能の点等が実施形態1、2の場合と相違する。
【0059】
具体的には、図10に示すように、制御部60は、2速への自動変速を行った時点(例えば、時点t1参照)で、この時点t1から指標値が閾値に至った回数をカウントする。そして、カウントした回数が第1の一定回数(本例ではn回)に達したとき(図中時点t4参照)、制御部60は、この時点t4で変速用アクチュエータ6を起動させて、1速へ自動変速させる。
【0060】
更に、上記時点t4で1速へ自動変速後、制御部60は、この時点t4から、指標値が閾値に至った回数を新たにカウントする。そして、カウントした回数が第2の一定回数(本例ではN回)に達したとき(図中時点t5参照)、制御部60は、この時点t5で変速用アクチュエータ6を起動させて、2速へ自動変速させる。更に、この第2の一定回数は、第1の一定回数に比べて、少ない回数(N<n)となっている。
【0061】
以上のように、制御部60は、指標値が閾値に至った回数が、一定回数に達した場合に、変速用アクチュエータ6を起動させて、自動変速させる制御を行う。そのため、制御部60は、上記回数が一定回数に達するまでの間、変速ポイントを無視して、一定回数に達するまで自動変速を行わない。すなわち、制御部60は、駆動状態が所定水準に達した時点から、指標値が閾値に至った回数をカウントするかたちで、一定時間をカウントしている。
【0062】
そして、一定回数に達するまで変速ポイントを無視したことで、負荷変動が大きく変速ポイントが頻発する場合等に、自動変速させる回数を低減し易くなり、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができる。そのため、自動変速の繰り返しに伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗等を抑制し易くすることができる。更に、第2の一定回数を第1の一定回数に比べて少ない回数としたことで、指標値が閾値に至る間隔が略一定の場合、低速状態での動作を高速状態での動作に比べて長く維持し易くなる。
【0063】
なお、実施形態1乃至3において、カウント部は制御部60がその機能を兼ねたものに限らない。
【0064】
<実施形態4>
本実施形態の変速装置においても、所定条件を満たすまで変速ポイントを無視して自動変速させない自動変速制御を行っており、電動工具に好適に用いられる。しかし、本実施形態においては、上記自動変速制御に加えて、1速から2速への自動変速後2速への自動変速を行わない第2の自動変速モード(第2の自動変速制御)を更に有する点が前述の他の実施形態の場合と相違する。
【0065】
具体的には、本実施形態の電動工具が、減速比切替用の操作部80を胴体ハウジング101に露出して備え、操作部80は、図11に示すように、第1位置E1、第2位置E2、第3位置E3、第4位置E4の四つの位置から選択自在となっている。変速装置は、操作部80で選択された位置に対応して、減速機構部2の減速比の切り替えや自動変速制御を行う。
【0066】
具体的には、第1位置E1が2速のまま自動変速を行わない第1の非自動変速モード(低速モード)となっており、第2位置E2が1速のまま自動変速を行わない第2の非自動変速モード(高速モード)となっている。第3位置E3が実施形態1又は実施形態2の自動変速制御を行う第1の自動変速モード(自動変速モード)となっている。第4位置E4が1速から2速への自動変速後2速への自動変速を行わない第2の自動変速制御を行う第2の自動変速モードとなっている。この第2の自動変速モードはホールソー作業S2用の動作モード(ホールソーモード)となっており、制御部60は、一度低速状態へ自動変速させると、以後モータ1が停止するまで低速状態を維持する。
【0067】
以下、第2の自動変速モードの自動変速(切替動作)を、図7に示すホールソー作業を例に取り、具体的に説明する。
【0068】
操作部80で第4位置E4を選択した状態で、第1変速ポイントP1で指標値が閾値未満から閾値に至ったとき、制御部60は、この時点で1速(高速状態)から2速(低速状態)へ自動変速させる。そして、制御部60は、この2速への自動変速後、経過時間のカウントや指標値が閾値に至る回数のカウントを行わないと共に、変速ポイントに至っても変速用アクチュエータ6を起動させず、作業終了まで2速を維持する。
【0069】
すなわち、第2の自動変速モードは、減速機構部2を低速状態へ一度自動変速させると、この低速状態を作業終了まで維持して、高速状態へ自動変速させない制御となっており、作業終了までの時間を一定時間としたかたちとなっている。そのため、ホールソー工程S2等の変速ポイントが頻発する場合等において、第2の自動変速モードを用いることで、自動変速させる回数が2速→1速の一回、或いは1速→2速→1速の二回となる。そのため、上記変速ポイントが頻発する場合に、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができ、自動変速の繰り返しに伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗等を抑制し易くすることができる。そして、低速状態への自動変速後、低速状態に維持するため、変速ポイントが頻発する場合に、略低速状態のみで電動工具等を回転駆動させることができ、ホールソー作業等を安定して行い易くすることができる。
【0070】
なお、本発明は各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、各実施形態において適宜の設計変更を行うことや、各実施形態の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。例えば、変速装置は、減速機構部2を具備したものに限らず、モータの回転動力を増速したうえで伝達する増速機構部と増速機構部の増速比を切り替える増速比切替手段とを具備したものであってもよい。もちろん、変速装置は、電動工具用に限らない。
【符号の説明】
【0071】
1 モータ
2 減速機構部(変速機構部)
6 変速用アクチュエータ
60 制御部
68 駆動状態検知部
Δt1,Δt2 一定時間
n,N 一定回数
L3 指標値
L4 閾値
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速比を切替自在とした変速装置、殊に電動工具に好適に用いられる変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動工具において、駆動源であるモータの回転動力を減速して伝達する減速機構部を備えたものがある。このような電動工具では、モータの負荷等の駆動状態が所定水準に達したときに、遊星減速機構を構成するリングギア等の切替部材をスライドさせて、自動的に減速機構部の減速比を切り替えるものがある。そして、電動工具においては、この減速比の切り替えに伴い、出力トルクが小さい高速状態と、高速状態に比べて出力トルクが大きい低速状態とに切り替わる。
【0003】
ところで、図7に示すホールソー作業S2のような負荷トルクの変動が大きい作業の場合、高速状態から低速状態への変速ポイント(図中黒丸印参照)と、低速状態から高速状態への変速ポイント(図中中抜き丸印参照)とが繰り返し発生することがある。そして、変速ポイントが繰り返し生じると、上述のような電動工具では、図12に示すように、変速ポイント毎に自動変速(自動的な減速比の切替動作)が行われる。
【0004】
また、特許文献1に記載される電動工具のように、モータからサンプリングした電流が予め決められた時間期間に渡ってしきい値を超えた状態が続いた場合、ソレノイドを用いて自動的に切替部材をスライドさせて、減速比を切り替えるものもある。そして、この電動工具では、上記時間期間に渡ってしきい値を超えた状態が続いた場合に、モータを停止した後、切替部材をスライドさせて、自動変速を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−56590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、変速ポイント毎に減速比を切り替える電動工具では、自動変速を頻繁に繰り返すため、出力が安定し難く、作業効率が低下し易くなると共に、切替部材等の構成部材の摩耗や疲労等の消耗を早めてしまうという問題がある。また、特許文献1に記載される電動工具では、負荷トルクの変動が大きい作業の場合、しきい値を超えた状態を前記時間期間維持することが難しくなる。そのため、自動変速が不規則なタイミングで行われてしまい、構成部材の負担が増して消耗し易くなると共に、工具出力が安定し難く、自動変速時のモータ停止も相まって、作業効率が低下し易いという問題がある。
【0007】
本発明では、負荷トルクの変動が大きい作業時において、変速動作の頻繁な繰り返しを抑制して、作業効率の低下を抑制すると共に、構成部材の消耗を抑制することのできる変速装置を提供することを、課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために本発明の変速装置は、モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から一定時間の間、この切り替えた前記一方の状態を維持し、前記一定時間経過後、前記指標値が前記閾値に至り前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替える条件を満たした場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させることを特徴とする。
【0009】
この変速装置として、前記制御部は、前記一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、前記一定時間の経過前に一定回数に達した場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させることが好ましい。
【0010】
また、本発明の変速装置は、モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、一定回数に達した場合に、前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させることを特徴とする。
【0011】
この変速装置として、前記変速機構部が、高速状態と、前記高速状態に比べて減速された低速状態とに切り替わり、前記変速機構部を前記高速状態から前記低速状態に切り替えた後この低速状態を維持する動作モードを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、負荷トルクの変動が大きい場合の変速動作の繰り返しを抑制して、作業効率の低下を抑制し易くすると共に、構成部材の消耗を抑制し易くすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1の変速装置の説明図である。
【図2】同上の変速装置を備えた電動工具の要部の側断面図である。
【図3】同上の電動工具の要部の内部側面図である。
【図4】同上の電動工具の減速機構部の1速の状態を示し、(a)は側断面図、(b)は側面図である。
【図5】同上の減速機構部の1速と2速の切替途中の状態を示し、(a)は側断面図、(b)は側面図である。
【図6】同上の減速機構部の2速の状態を示し、(a)は側断面図、(b)は側面図である。
【図7】ホールソー作業における時間当たりの負荷トルクの変化の説明図である。
【図8】同上のホールソー作業の実施形態1における減速比の切り替わりの説明図である。
【図9】図7のホールソー作業の実施形態2における減速比の切り替わりの説明図である。
【図10】図7のホールソー作業の実施形態3における減速比の切り替わりの説明図である。
【図11】実施形態4における操作部の切替操作位置の説明図である。
【図12】図7のホールソー作業において変速ポイント毎に自動変速させた例の減速比の切り替わり説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を、添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。
【0015】
<実施形態1>
図1には、本発明の変速装置の実施形態1を示しており、本実施形態の変速装置は、図2,図3に示すように、電動工具に減速用の変速装置(減速装置)として設けてある。この電動工具は、駆動源であるモータ1(メインモータ)と、変速機構部と、駆動伝達部3と、出力軸4とを備える。変速機構部は、モータ1の回転動力を減速したうえで伝達する減速機構部2となっており、駆動伝達部3は減速機構部2を介して伝達された回転動力を出力軸4に伝達する。そして、モータ1と、減速機構部2と駆動伝達部3は胴体ハウジング101内に収容されており、出力軸4は胴体ハウジング101から突出して設けられる。以下、モータ1の軸方向を、単に軸方向と記載し、方向の一基準とする。
【0016】
胴体ハウジング101からは把持部ハウジング102が延設され、電動工具の本体ハウジング100は、胴体ハウジング101と把持部ハウジング102とで主体が構成される。把持部ハウジング102にはトリガスイッチ103を引き込み自在に設けてある。さらに、把持部ハウジング102の延設先端部には、外部電源に接続される電源コードや把持部ハウジング102から着脱自在の電池パック等の電源部70(図1等参照)を備えている。
【0017】
また、胴体ハウジング101内には、モータ1や減速機構部2に対して軸方向が平行となるように、変速用アクチュエータ6を収容している。この変速用アクチュエータ6は、専用のモータ50(サブモータ)を駆動源とした回転式のアクチュエータであり、減速機構部2が有する切替部材7を、変速カムプレート8を介して軸方向にスライド移動させ、減速比の切替を行う。この点について詳しくは後述する。
【0018】
図4〜図6には、減速機構部2等の構造をより詳細に示している。本実施形態の減速機構部2は、ギアケース9内に三段の遊星減速機構を収容してある。そして、減速機構部2は、一つの遊星減速機構の減速状態と非減速状態を切り替えることによって、減速機構部2全体の減速比を切り替える。以下においては、モータ1に近い側から順に1、2、3段目の遊星減速機構として説明を行う。
【0019】
1段目の遊星減速機構は、モータ1からの回転動力によって軸中心に回転駆動される太陽ギア10と、該太陽ギア10と噛み合う複数の遊星ギア11と、各遊星ギア11に噛み合うリングギア12とを備える。遊星ギア11は太陽ギア10を囲むように位置し、リングギア12はこれら複数の遊星ギア11を囲むように位置する。1段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア11と回動自在に連結されるキャリア14と、遊星ギア11とキャリア14を連結させるキャリアピン13とをさらに備える。
【0020】
2段目の遊星減速機構は、1段目のキャリア14に結合される2段目の太陽ギア20と、該太陽ギア20と噛み合う複数の遊星ギア21と、各遊星ギア21に噛み合うリングギア22とを備える。遊星ギア21は太陽ギア20を囲むように位置し、リングギア22はこれら複数の遊星ギア21を囲むように位置する。2段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア21と回動自在に連結されるキャリア24と、遊星ギア21とキャリア24を連結するキャリアピン23とをさらに備える。
【0021】
リングギア22はギアケース9に対して軸方向にスライド自在に且つ回転自在に配される。リングギア22は、モータ1側のスライド位置にあるときに、1段目のキャリア14の外周縁部14aに噛み合い、キャリア14と一体に回転自在となる。そして、リングギア22は、出力軸4側のスライド位置にあるときに、ギアケース9に形成された係合歯部40に噛み合い、ギアケース9に回転不能で保持される。更に、リングギア22はいずれのスライド位置にあっても、遊星ギア21に噛み合う。以下の本文中において、モータ1側を単に「入力側」といい、出力軸4側を単に「出力側」という。
【0022】
3段目の遊星減速機構は、2段目のキャリア24に結合される3段目の太陽ギア30と、該太陽ギア30と噛み合う複数の遊星ギア31と、これら複数の遊星ギア31と噛み合うリングギア32とを備える。遊星ギア31は太陽ギア30を囲むように位置し、リングギア32はこれら複数の遊星ギア31を囲むように位置する。3段目の遊星減速機構は、これら複数の遊星ギア31と回動自在に連結されるキャリア34と、遊星ギア31とキャリア34を連結させるキャリアピン33とをさらに備える。
【0023】
これら3段の遊星減速機構は、軸方向に連結される。つまり、1〜3段目の太陽ギア10,20,30が軸方向の一直線上に並設され、これらを囲むように位置する三つのリングギア12,22,32もまた軸方向の一直線上に並設される。
【0024】
リングギア22は独立して軸方向にスライド自在であり、そのスライド位置に対応して減速比を切り替え、出力軸4の回転出力を1速、2速に変更する。このように、本実施形態では、リングギア22が、軸方向にスライド自在な切替部材7をなす。
【0025】
図4には1速の状態、図5には1速と2速の切替途中の状態、図6には2速の状態を示している。図4の1速にある減速機構部2では、切替部材7をなすリングギア22が入力側の位置にあり、2段目の遊星減速機構が非減速状態となる。図6の2速にある減速機構部2では、切替部材7をなすリングギア22が出力側の位置にあり、2段目の遊星減速機構が減速状態となる。そのため、2速の場合は1速の場合よりも減速比が大きく、出力軸4の回転速度は小さくなる。そして、2速の場合は1速の場合に比べて出力トルクが小さい(低い)状態となる。すなわち、ここでの1速は高速低トルク状態となっており、2速は低速高トルク状態となっている。
【0026】
切替部材7をなすリングギア22のスライド位置は、変速カムプレート8の回転位置に応じて決定される。変速カムプレート8は、筒状をなすギアケース9の外周面に沿う断面円弧状のプレートであり、ギアケース9の中心軸まわりに回転自在となるように装着される。変速カムプレート8にはカム溝41が設けてあり、カム溝41は、リングギア22のスライド移動に対応した折れ線形状を有する貫通溝となっており、カム溝41には変速ピン45が挿通されている。変速ピン45は先端部が、ギアケース9に貫通形成したガイド溝(図示せず)を通じてギアケース9内に挿入され、リングギア22の外周面の凹溝(図示せず)に係合する。ガイド溝は、減速機構部2の軸方向と平行に形成してある。
【0027】
この変速カムプレート8は、その周方向端部にギア部47を有し、ギア部47は回転式の変速用アクチュエータ6と噛み合う。変速用アクチュエータ6は、専用のモータ50と、モータ50の回転動力を減速して伝達する伝達部51と、伝達部51を通じて伝達される回転動力により回転駆動される出力部52とを有する。つまり、変速用アクチュエータ6はモータ50が駆動することで、変速カムプレート8を介して切替部材7を軸方向にスライドさせる。
【0028】
このように、減速機構部2は、軸方向にスライド自在な切替部材7と、これら切替部材7の軸方向のスライド位置に応じて該切替部材7との係合状態と非係合状態が切り替わるギア部材5と、を用いて形成してある。そして、ギア部材5は、1段目のキャリア14と係合歯部40となっており、切替部材7とギア部材5の係合状態と非係合状態に応じて、減速機構部2全体の減速比が切り替わる。
【0029】
さらに、本実施形態の電動工具は、図1に概略的に示すように、制御部60と、第1駆動部65と、第2駆動部66と、駆動状態検知部68と、情報検知部67とを備える。そして、制御部60と第1駆動部65と第2駆動部66とには、電源部70から電力が供給されている。
【0030】
第1駆動部65は、モータ1を駆動させるとともにモータ1の回転動力を変更させる(調整させる)ものとなっており、モータ1の回転動力を調整するモータ1側の駆動調整部を兼ねている。第2駆動部66は、変速用アクチュエータ6(モータ50)を駆動させるとともに変速用アクチュエータ6の駆動を調整するものとなっており、変速用アクチュエータ6側の駆動調整部を兼ねている。
【0031】
駆動状態検知部68はモータ1の駆動状態(負荷)の指標値を検知し、その検知結果(指標値)を制御部60に入力する。そして、この指標値としては、例えば、モータ1にかかる負荷トルク、または現在の減速比とモータ1に流れる電流値や、現在の減速比とモータ1の回転数等の上記負荷トルクの指標となるものとなっている。情報検知部67は、第2駆動部66に印加された供給電圧の値(供給電力の電圧値)を検知することで、切替部材7の移動速度(つまりリングギア22のスライド速度)を検知し、その検知結果を制御部60に入力する。
【0032】
制御部60は、第1駆動部65を介してモータ1を制御するモータ制御部61の機能と、第2駆動部66を介して変速用アクチュエータ6を制御するアクチュエータ制御部62の機能とを兼ねている。そして、制御部60は、駆動状態検知部68により検知されるモータ1の駆動状態に応じて、第2駆動部66に変速用アクチュエータ6を起動させ、切替部材7をスライド移動させることにより減速機構部2の減速比を変更する。
【0033】
つまり、本実施形態の電動工具では、変速用アクチュエータ6と、第2駆動部66と、駆動状態検知部68と、情報検知部67と、制御部60とを用いて、減速比切替手段の主体が構成されている。そして、変速装置は、この減速比切替手段と、減速機構部2とで主体が構成されている。
【0034】
更に、制御部60は、所定条件を満たした場合に、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させて、自動変速させる制御を行う。
【0035】
具体的には、1速から2速への減速比の切り替えの場合、制御部60は、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させ、変速カムプレート8を回転移動させる。この回転移動に伴い、変速ピン45は、ギアケース9のガイド溝にガイドされながら、カム溝41内を入力側から出力側へとスライド駆動され、切替部材7であるリングギア22を出力側へとスライド移動させる。
【0036】
スライド移動したリングギア22は、まず1段目のキャリア14との係合が解除され、図5に示す切替途中の状態となる。このとき、リングギア22は、2段目の遊星ギア21に係合し、且つ、ギアケース9には回転固定されない状態にある。
【0037】
図5の切替途中状態にあるリングギア22は、1速にてキャリア14に係合していたときの回転慣性で回転を続けるが、これと同時に、モータ1により駆動される2段目の遊星ギア21からの反力によって、上記回転慣性とは反対方向の回転力を受ける。一方、リングギア22が次に係合するギア部材5である係合歯部40は、ギアケース9に対して固定されている。
【0038】
制御部60は、この回転慣性と反対方向の回転力を積極的に利用して、リングギア22と係合歯部40との相対回転速度を低減させ(好ましくはゼロとする)、係合歯部40と係合する際にはリングギア22の回転速度が極力ゼロに近づくように調整する。これにより、図6のようにリングギア22が係合歯部40と係合する際の衝撃を抑制し、スムーズ且つ安定的な自動変速を実現するとともに、衝突によるギアの磨耗や破損も抑制することができる。そして、前述の通りリングギア22が係合歯部40と係合することで、減速機構部2は1速の状態から2速の状態へ自動変速され、自動変速が完了となる。
【0039】
次に、2速から1速へ自動変速させる場合、制御部60は、変速用アクチュエータ6のモータ50を起動させ、変速カムプレート8を回転移動させる。この回転移動に伴い、変速ピン45は、ギアケース9のガイド溝にガイドされながら、カム溝41内を出力側から入力側へとスライド駆動され、切替部材7であるリングギア22を入力側へとスライド移動させる。
【0040】
スライド移動したリングギア22は、まず係合歯部40との係合が解除され、図5に示す切替途中の状態となる。そして、リングギア22は、切替途中の状態から更にスライド移動することで、図4に示すように、1段目のキャリア14と係合して、減速機構部2は2速の状態から1速の状態へ自動変速され、自動変速が完了となる。
【0041】
加えて、制御部60は、減速比の切替時(自動変速時)に、情報検知部67にて入出力情報から検知した切替部材7(リングギア22)の位置に対応するかたちで、変速用アクチュエータ6の駆動を調整するように制御する。
【0042】
具体的には、情報検知部67は、変速用アクチュエータ6が駆動されるときに、入出力情報として、電源部70から第2駆動部66に印加された供給電圧の値を随時検知し、検知結果を制御部60に出力する。制御部60は、入力された検知結果に応じて、切替部材7が所定の目標位置に至るまでの時間あたりのスライド量を一定にさせるように第2駆動部66を制御する。つまり、制御部60は、情報検知部67の検知結果に応じて第2駆動部66にモータ50の回転動力を随時変更させて、所定の時間経過時に切替部材7が所定の目標位置に至るように、変速用アクチュエータ6を駆動調整する。
【0043】
これにより、電池パック(電源部70)の消耗による供給電圧の低下等に伴う切替部材7のスライド量または速度の低下に対応して、切替部材7のスライドを調整することができる。そのため、切替部材7の移動速度のばらつきに伴うスライド量不足を抑制し、切替部材7を所定の時間に所定の目標位置に到達させることができ、スムーズかつ安定な自動変速を実現する。なお、上記所定の時間とは、自動変速に要する切替時間であり、変速用アクチュエータ6の駆動時間と略同じ時間となっている。
【0044】
また、変速用アクチュエータ6を起動させる所定条件は、駆動状態検知部68にてモータ1にかかる負荷トルク(指標値)が所定水準(閾値)を越えたと検知された時点から一定時間Δt1経過後、指標値が閾値に至った場合となっている。そして、制御部60においては、自動変速させる際に駆動状態検知部68の検知結果(指標値)が閾値を越えた時点からの時間経過をカウントするカウント部の機能を兼ねる。更に、この制御部60が自動変速させる制御は、負荷トルクの変動が大きい場合に好適に用いられる。
【0045】
以下、負荷トルクの変動が大きい場合として、図7に示すホールソー作業を例に取り、自動変速を具体的に説明する。
【0046】
上記ホールソー作業とは、図7に示すように、被加工部材に下穴(センターホール)を開けるためのドリル工程S1と、ドリル工程S1後にホールソーの刃を被加工部材に噛み込ませホールソー加工を行うホールソー工程S2とを有する。
【0047】
図7はホールソー作業における時間当たりの負荷トルクの変化を示しており、横軸が時間tとなっており、縦軸が負荷トルクTとなっており、折れ線L3が指標値となっている。そして、図8は自動変速時における時間当たりの減速比の状態を示しており、横軸が時間tで、縦軸が減速比となっている。そして、図8において、横軸上に位置した状態が図4に示す高速状態(1速)となり、横軸に平行の点線L1上に位置した状態が図6に示す低速状態(2速)となり、高速状態と低速状態の端部間を結ぶ縦線L2が図5に示す切替途中の状態となる。更に、図7、図8において、二点鎖線L4が閾値となっており、黒丸印が閾値に満たない値から閾値に到達した位置、中抜き丸印が閾値を超過した値から閾値に到達した位置となっている。以下、黒丸印及び中抜き丸印をまとめて変速ポイントと記載する。
【0048】
そして、ドリル工程S1では負荷トルクが閾値未満となっており、1速(高速状態)でモータ1が回転駆動され、上記下穴の形成後、ホールソー工程S2に移行する。ホールソー工程S2では、移行直後にホールソーの刃が被加工部材に噛み込むため、負荷トルクがドリル工程S1に比べて増加して、負荷トルク(指標値)が閾値を越える。そして、このホールソー工程S2では、負荷トルクが閾値に満たない値から閾値を超過した値の間で変動するため、指標値が閾値を至る変速ポイントが、頻繁に且つ繰り返し発生する。そのため、変速ポイント毎に自動変速させた場合では、図12に示すように、減速比の切替動作(変速動作)が繰り返し行われる。
【0049】
対して、本実施形態の電動工具では、図8に示すように、指標値が閾値に至る第1変速ポイントP1で2速へ自動変速され、指標値が閾値を越えたとき(図中時点t1参照)、制御部60は、この時点t1からの経過時間をカウントする。そして、この経過時間が第1の一定時間Δt1に到達した後、指標値が閾値を超過した値から閾値に至った場合(図中時点t2参照)、制御部60は、この時点t2で変速用アクチュエータ6を起動させて、1速へ自動変速させる。すなわち、この2速から1速への自動変速において、第1の一定時間Δt1経過後に、指標値が閾値を超過した値から閾値に至ることが、切替先である1速の状態へ切り替えるために満たすべき所定条件となっている。
【0050】
更に、この1速への自動変速後(時点t2後)、制御部60は、指標値が閾値を越えたとして、この時点t2からの経過時間をカウントする。そして、この経過時間が第2の一定時間Δt2に到達した後、指標値が閾値に満たない値から閾値に至った場合(図中時点t3参照)、この時点t3で変速用アクチュエータ6を起動させて、2速へ自動変速させる。すなわち、この1速から2速への自動変速において、第2の一定時間Δt2経過後に、指標値が閾値に満たない値から閾値に至ることが、切替先である1速の状態へ切り替えるために満たすべき所定条件となっている。また、第2の一定時間Δt2は、第1の一定時間Δt1に比べて短い時間となっている。
【0051】
以上のように、制御部60は、自動変速後、一定時間Δt1,Δt2の間変速ポイントを無視して、この期間(一定時間Δt1,Δt2)自動変速を行わない自動変速制御を行っている。そのため、本実施形態の変速装置は、負荷変動が大きく変速ポイントが頻発する場合等において、変速ポイント毎に自動変速させるものに比べて自動変速させる回数を低減し易くなり、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができる。そして、この変速装置を備えた電動工具では、負荷変動の大きい作業時等において、自動変速の繰り返しに伴う、切替部材7等の構成部材の摩耗や疲労等の消耗や、作業効率の低下を、抑制し易くすることができる。更に、第1の一定時間Δt1を第2の一定時間Δt2に比べて長くしたことで、低速状態(2速の状態)を高速状態(1速の状態)に比べて長い時間維持し易くなり、ホールソー工程S2を行い易くすることができる。
【0052】
なお、本実施形態において、一定時間Δt1,Δt2到達した後なる記載は、一定時間Δt1,Δt2到達と同時の場合を含む。また、変速装置は、第2の一定時間Δt2を有さず、高速状態で変速ポイント毎に自動変速させ低速状態で一定時間Δt1変速ポイントを無視する自動変速制御を行ってもよい。
【0053】
次に、変速装置の他の実施形態について順に述べる。なお、上述の実施形態1と同様の構成については詳しい説明を省略し、実施形態1とは相違する特徴的な構成について、主に詳述する。
【0054】
<実施形態2>
本実施形態の変速装置においても、所定条件を満たすまで変速ポイントを無視して自動変速させない自動変速制御を行っており、電動工具に好適に用いられる。しかし、本実施形態においては、制御部60のカウント部としての機能の点等が実施形態1の場合と相違する。
【0055】
具体的には、図9に示すように、2速への自動変速を行った時点(例えば、時点t1参照)で、制御部60は、この時点t1から指標値が閾値に至った回数をカウントすると共に、この時点t1からの経過時間をカウントする。そして、第1の一定時間Δt3が経過する前に、カウントした回数が第1の一定回数(本例ではn回)に達したとき(図中時点t4参照)、制御部60は、この時点t4で変速用アクチュエータ6を起動させて、1速へ自動変速させる。もちろん、第1の一定時間Δt3が経過するまでに、第1の一定回数に達しなかった場合、第1の一定時間Δt3経過後、実施形態1と同様に、指標値が閾値に至り切替先の状態(1速)へ切り替えるための所定条件を満たした時点で、自動変速させる。
【0056】
更に、上記時点t1で1速へ自動変速後、制御部60は、この時点t4から、指標値が閾値に至った回数を新たにカウントすると共に、この時点t4からの経過時間を新たにカウントする。そして、第2の一定時間Δt4が経過する前に、カウントした回数が第2の一定回数(本例ではN回)に達したとき(図中時点t5参照)、制御部60は、この時点t5で変速用アクチュエータ6を起動させて、2速へ自動変速させる。もちろん、第2の一定時間Δt4が経過するまでに、第2の一定回数に達しなかった場合、第2の一定時間Δt4経過後、実施形態1と同様に、指標値が閾値に至り切替先の状態(2速)へ切り替えるための所定条件を満たした時点で、自動変速させる。更に、この第2の一定回数は、第1の一定回数に比べて、少ない回数(N<n)となっている。
【0057】
以上のように、制御部60は、一定時間経過後に指標値が閾値に至って切替先の状態への自動変速の条件を満たした場合と、指標値が閾値に至った回数が一定回数に達した場合とのいずれかを先に満足した時点で、自動変速させる制御を行っている。すなわち、制御部60は、上記回数が一定回数に達するまでの間、或いは一定時間経過するまでの間、変速ポイントを無視して、一定回数に達する、或いは一定時間経過するまで、自動変速を行わない。そのため、負荷変動が大きく変速ポイントが頻発する場合等に、自動変速させる回数を低減し易くなり、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができる。そのため、自動変速の繰り返しに伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗等を抑制し易くすることができる。そして、第2の一定回数を第1の一定回数に比べて少ない回数としたことで、検知結果が閾値に至る間隔が一定の場合、低速状態での動作を高速状態での動作に比べて長く維持し易くなる。
【0058】
<実施形態3>
本実施形態の変速装置においても、所定条件を満たすまで変速ポイントを無視して自動変速させない自動変速制御を行っており、電動工具に好適に用いられる。しかし、本実施形態においては、制御部60のカウント部としての機能の点等が実施形態1、2の場合と相違する。
【0059】
具体的には、図10に示すように、制御部60は、2速への自動変速を行った時点(例えば、時点t1参照)で、この時点t1から指標値が閾値に至った回数をカウントする。そして、カウントした回数が第1の一定回数(本例ではn回)に達したとき(図中時点t4参照)、制御部60は、この時点t4で変速用アクチュエータ6を起動させて、1速へ自動変速させる。
【0060】
更に、上記時点t4で1速へ自動変速後、制御部60は、この時点t4から、指標値が閾値に至った回数を新たにカウントする。そして、カウントした回数が第2の一定回数(本例ではN回)に達したとき(図中時点t5参照)、制御部60は、この時点t5で変速用アクチュエータ6を起動させて、2速へ自動変速させる。更に、この第2の一定回数は、第1の一定回数に比べて、少ない回数(N<n)となっている。
【0061】
以上のように、制御部60は、指標値が閾値に至った回数が、一定回数に達した場合に、変速用アクチュエータ6を起動させて、自動変速させる制御を行う。そのため、制御部60は、上記回数が一定回数に達するまでの間、変速ポイントを無視して、一定回数に達するまで自動変速を行わない。すなわち、制御部60は、駆動状態が所定水準に達した時点から、指標値が閾値に至った回数をカウントするかたちで、一定時間をカウントしている。
【0062】
そして、一定回数に達するまで変速ポイントを無視したことで、負荷変動が大きく変速ポイントが頻発する場合等に、自動変速させる回数を低減し易くなり、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができる。そのため、自動変速の繰り返しに伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗等を抑制し易くすることができる。更に、第2の一定回数を第1の一定回数に比べて少ない回数としたことで、指標値が閾値に至る間隔が略一定の場合、低速状態での動作を高速状態での動作に比べて長く維持し易くなる。
【0063】
なお、実施形態1乃至3において、カウント部は制御部60がその機能を兼ねたものに限らない。
【0064】
<実施形態4>
本実施形態の変速装置においても、所定条件を満たすまで変速ポイントを無視して自動変速させない自動変速制御を行っており、電動工具に好適に用いられる。しかし、本実施形態においては、上記自動変速制御に加えて、1速から2速への自動変速後2速への自動変速を行わない第2の自動変速モード(第2の自動変速制御)を更に有する点が前述の他の実施形態の場合と相違する。
【0065】
具体的には、本実施形態の電動工具が、減速比切替用の操作部80を胴体ハウジング101に露出して備え、操作部80は、図11に示すように、第1位置E1、第2位置E2、第3位置E3、第4位置E4の四つの位置から選択自在となっている。変速装置は、操作部80で選択された位置に対応して、減速機構部2の減速比の切り替えや自動変速制御を行う。
【0066】
具体的には、第1位置E1が2速のまま自動変速を行わない第1の非自動変速モード(低速モード)となっており、第2位置E2が1速のまま自動変速を行わない第2の非自動変速モード(高速モード)となっている。第3位置E3が実施形態1又は実施形態2の自動変速制御を行う第1の自動変速モード(自動変速モード)となっている。第4位置E4が1速から2速への自動変速後2速への自動変速を行わない第2の自動変速制御を行う第2の自動変速モードとなっている。この第2の自動変速モードはホールソー作業S2用の動作モード(ホールソーモード)となっており、制御部60は、一度低速状態へ自動変速させると、以後モータ1が停止するまで低速状態を維持する。
【0067】
以下、第2の自動変速モードの自動変速(切替動作)を、図7に示すホールソー作業を例に取り、具体的に説明する。
【0068】
操作部80で第4位置E4を選択した状態で、第1変速ポイントP1で指標値が閾値未満から閾値に至ったとき、制御部60は、この時点で1速(高速状態)から2速(低速状態)へ自動変速させる。そして、制御部60は、この2速への自動変速後、経過時間のカウントや指標値が閾値に至る回数のカウントを行わないと共に、変速ポイントに至っても変速用アクチュエータ6を起動させず、作業終了まで2速を維持する。
【0069】
すなわち、第2の自動変速モードは、減速機構部2を低速状態へ一度自動変速させると、この低速状態を作業終了まで維持して、高速状態へ自動変速させない制御となっており、作業終了までの時間を一定時間としたかたちとなっている。そのため、ホールソー工程S2等の変速ポイントが頻発する場合等において、第2の自動変速モードを用いることで、自動変速させる回数が2速→1速の一回、或いは1速→2速→1速の二回となる。そのため、上記変速ポイントが頻発する場合に、自動変速の頻繁な繰り返しを抑制し易くすることができ、自動変速の繰り返しに伴う、作業効率の低下や構成部材の消耗等を抑制し易くすることができる。そして、低速状態への自動変速後、低速状態に維持するため、変速ポイントが頻発する場合に、略低速状態のみで電動工具等を回転駆動させることができ、ホールソー作業等を安定して行い易くすることができる。
【0070】
なお、本発明は各実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の意図する範囲内であれば、各実施形態において適宜の設計変更を行うことや、各実施形態の構成を適宜組み合わせて適用することが可能である。例えば、変速装置は、減速機構部2を具備したものに限らず、モータの回転動力を増速したうえで伝達する増速機構部と増速機構部の増速比を切り替える増速比切替手段とを具備したものであってもよい。もちろん、変速装置は、電動工具用に限らない。
【符号の説明】
【0071】
1 モータ
2 減速機構部(変速機構部)
6 変速用アクチュエータ
60 制御部
68 駆動状態検知部
Δt1,Δt2 一定時間
n,N 一定回数
L3 指標値
L4 閾値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、
前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、
前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、
前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、
前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から一定時間の間、この切り替えた前記一方の状態を維持し、
前記一定時間経過後、前記指標値が前記閾値に至り前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替える条件を満たした場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させる
ことを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、前記一定時間の経過前に一定回数に達した場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、
前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、
前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、
前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、
前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、一定回数に達した場合に、前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させる
ことを特徴とする変速装置。
【請求項4】
前記変速機構部が、高速状態と、前記高速状態に比べて減速された低速状態とに切り替わり、
前記変速機構部を前記高速状態から前記低速状態に切り替えた後この低速状態を維持する動作モードを有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の変速装置。
【請求項1】
モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、
前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、
前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、
前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、
前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から一定時間の間、この切り替えた前記一方の状態を維持し、
前記一定時間経過後、前記指標値が前記閾値に至り前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替える条件を満たした場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させる
ことを特徴とする変速装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、前記一定時間の経過前に一定回数に達した場合に、前記他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させる
ことを特徴とする請求項1に記載の変速装置。
【請求項3】
モータを駆動源とし、前記モータの回転動力を変速したうえで伝達する変速機構部と、前記変速機構部の変速比を切り替える変速比切替手段と、を具備し、
前記変速機構部が前記変速比切替手段によって前記変速比の異なる二つの状態に切り替わり、
前記変速比切替手段が、前記状態を切り替えるための変速用アクチュエータと、前記変速比の切替時に前記変速用アクチュエータを制御する制御部と、前記モータの駆動状態の指標値を検知する駆動状態検知部とを有し、
前記指標値が前記閾値に至る毎に前記二つの状態を交互に切り替える変速装置において、
前記制御部は、前記二つの状態のうちの一方の状態に前記変速比を切り替えた時点から前記指標値が前記閾値に至った回数が、一定回数に達した場合に、前記二つの状態のうちの他方の状態に切り替えるために前記変速用アクチュエータを起動させる
ことを特徴とする変速装置。
【請求項4】
前記変速機構部が、高速状態と、前記高速状態に比べて減速された低速状態とに切り替わり、
前記変速機構部を前記高速状態から前記低速状態に切り替えた後この低速状態を維持する動作モードを有する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の変速装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−43227(P2013−43227A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180722(P2011−180722)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(509119153)パナソニックESパワーツール株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(509119153)パナソニックESパワーツール株式会社 (107)
【Fターム(参考)】
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