説明

外周切断刃及びその製造方法

【解決手段】外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材を用いてダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を保持させると共に、該砥粒と金属結合材とからなる切り刃部の厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚いことを特徴とする外周切断刃。
【効果】本発明で提供される外周刃を用いることで、切断精度が高く、切断加工代の少ない切断を実施することが可能となり、加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石を切断するための外周切断刃及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
希土類永久磁石を切断する外周刃としては、特許文献1〜3:特開平9−174441号公報、特開平10−175171号公報、特開平10−175172号公報等にあるように、超硬合金台板の外周部にフェノール樹脂等でダイヤモンド砥粒を固定する技術が開示されている。超硬合金台板にダイヤモンド砥粒を固着することによって、従来の合金工具鋼や高速度鋼に比べて台板の機械的強度が向上し、その結果加工切断の精度が向上する。また、超硬合金台板を使用して刃を薄くすることによって、歩留まりも向上させることができ、加工速度についても速くすることが可能となった。このように超硬合金台板を用いた切断刃は従来外周刃より優れた切断性能を示すが、市場からのコスト削減の要望は更に強まっており、従来の外周切断刃の性能を超える新たな高性能切断砥石の開発が望まれている。
【0003】
希土類永久磁石(焼結磁石)の切断加工には、内周切断やワイヤーソー切断など各種の手法が実施されているが、外周刃による切断加工は最も広く採用されている切断方法である。切断機の値段が安くて、超硬刃を用いると切り代もそれほど大きくはなく、精度もよく、加工速度も比較的速いなどの特徴があるため、量産性に優れた加工方法として、希土類焼結磁石の切断に広く利用されている。
【0004】
外周切断に用いられている切断刃の台板は、かつてはSKDなどの合金工具鋼や高速度鋼などの鉄鋼系の合金材料で作られていた。しかし、本発明者らを含む下記特許文献1〜3等の提案において、超硬合金製の台板を用いた切断砥石の技術が開示されている。WCをNiやCoなどで焼結したいわゆる超硬合金は、450GPa〜700GPaものヤング率を持つ高剛性の材料であり、200GPa程度の鉄鋼合金系材料よりはるかに強い材料である。
【0005】
ヤング率が大きいということは、切断刃にかかる切断抵抗に対しての刃の変形量が少なくなるということであって、同じ切断抵抗なら刃の曲がりは小さくなるし、刃の曲がりを同程度とすれば、刃の厚みを薄くしても同じ加工精度で切断できることになる。刃の単位面積にかかる切断抵抗はあまり変化しないけれども、刃が薄くなったぶん、切断刃全体にかかる切断抵抗は小さくなるので、何枚もの刃を重ねて同時に何枚もの磁石を一度に切断加工するマルチ切断加工において、切断機全体にかかるトータルの切断抵抗は少なくなる。これにより、同一出力のモーターでもマルチ切断刃の枚数を多くすることができ、同じ枚数であっても切断の抵抗が少なくなってモーター電力を節約することもできる。切断抵抗に対するモーターパワーの余裕があれば、砥石の進行を速めて切断時間を短くすることも可能となる。
【0006】
このように、高剛性の超硬合金台板の採用により、外周切断加工の生産性は大いに向上した。しかしながら、希土類焼結磁石に対する市場からの合理化要求は更に強まっており、コストダウン競争は熾烈である。希土類永久磁石の素材歩留まりから考えれば、切断の切り代は小さければ小さいほど望ましい。また、加工速度も速くなれば速くなるほど生産性は向上する。現状の超硬合金切断刃より更に刃厚が薄くても高剛性、高精度である外周切断刃の開発が望まれているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−174441号公報
【特許文献2】特開平10−175171号公報
【特許文献3】特開平10−175172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記要望に応えるためになされたもので、切断精度が高く、切断加工代の少ない切断を可能とし、加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を実現し得る外周切断刃及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、超硬合金製台板の外周切断砥石において、ダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はこれらの混合砥粒を砥石の外周部に取り付けるのに使用される結合材を高強度、高剛性とすることにより、切り刃部の機械的強度を向上させると同時に外周刃全体の機械的剛性も向上し、よって切断刃の薄刃化と切断速度の高速度化を実現させることに成功したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記外周切断刃及びその製造方法を提供する。
請求項1:
外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材を用いてダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を保持させると共に、該砥粒と金属結合材とからなる切り刃部の厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚いことを特徴とする外周切断刃。
請求項2:
金属結合材が、密度が2.5〜12g/cm3である請求項1記載の外周切断刃。
請求項3:
金属結合材が、Ni、Fe、Co、Cu、Snから選ばれる少なくとも1種の金属又はこれら金属のうち2種以上からなる合金もしくはこれら金属のうち少なくとも1種とPとの合金からなる請求項1又は2記載の外周切断刃。
請求項4:
金属結合材が、Ni、Fe、Coから選ばれる少なくとも1種の金属とPとの合金からなる請求項1又は2記載の外周切断刃。
請求項5:
金属結合材が電着法によってダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合して台板外周部に析出することにより切り刃部が形成された請求項1〜4のいずれか1項記載の外周切断刃。
請求項6:
金属結合材がロウ付け法によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合して台板外周部に固着することにより切り刃部が形成された請求項1〜4のいずれか1項記載の外周切断刃。
請求項7:
外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材を電着法によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合すると共に、その電着厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚くなるように析出させて、切り刃部を形成することを特徴とする外周切断刃の製造方法。
請求項8:
外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材をロウ付け法によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合すると共に、そのロウ付け厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚くなるように、切り刃部を形成することを特徴とする外周切断刃の製造方法。
請求項9:
金属結合材が、密度が2.5〜12g/cm3である請求項7又は8記載の外周切断刃の製造方法。
請求項10:
金属結合材が、Ni、Fe、Co、Cu、Snから選ばれる少なくとも1種の金属又はこれら金属のうち2種以上からなる合金もしくはこれら金属のうち少なくとも1種とPとの合金からなる請求項7〜9のいずれか1項記載の外周切断刃の製造方法。
請求項11:
金属結合材が、Ni、Fe、Coから選ばれる少なくとも1種の金属とPとの合金からなる請求項7〜9のいずれか1項記載の外周切断刃の製造方法。
【0011】
更に詳述すると、上述したように、従来から希土類焼結磁石の切断用外周刃には、ダイヤモンド砥粒をフェノール樹脂等で固めたいわゆるレジンボンドダイヤモンド砥石外周刃が使用されているが、希土類焼結磁石の加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を実現するために、外周切断刃の薄刃化及び切断速度の高速度化が求められている。
【0012】
かかる要望に応えるために、本発明においては、超硬台板外周部に砥粒を保持するのに使われる結合材に着目した。外周切断刃は、基盤となる超硬台板部と砥粒を保持している切り刃部からなる。切り刃部は、砥粒としてのダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒と、それらを台板と結合させるための結合材から構成されている。結合材は、砥粒を保持しながら台板との結合を保ち、切断時の回転力と研磨抵抗に耐えて、被削物の切断を成し遂げるのである。
【0013】
結合材の形態とその役割について説明すると、結合材における一つの重要点は、結合材によって形成された切り刃が台板の外周部において台板の外縁を挟むようにして存在することである。なお、切り刃部の構成において、台板の外縁を挟む部分は、被切断物の材質や切断目的によって、結合材と砥粒とが混合された砥粒層でもよいし、結合材単独でもよい。その結果、切り刃部の厚みは台板より厚くなるのである。このような形状であることの意味は二つあり、一つは結合材が台板を接触面積を広く、そして強力に把持することである。もし台板端面だけ接触しているような形状であると、結合材は台板に対して大きな接着力は望めず、容易に台板と分離してしまうであろう。台板を挟むように接することで接触面積が増え、台板と結合材は強い結合力を発揮することになる。
【0014】
もう一つの役割は、研削液と切断スラッジの抜け易さである。切り刃部が台板より厚いということは、切り刃部が通りすぎた部位において、台板と被削物である磁石との間に隙間が存在するということである。この隙間は、切断加工において極めて重要である。なぜなら、この隙間部に研削液が侵入し、台板と切り刃の間に発生する摩擦熱を取り去り、更に切り粉のスラッジを研削液に乗せて流し去る経路になるからである。もしこの隙間がなかったら、削られたスラッジは刃と磁石の間にはまって大きな摩擦を発生させるだろうし、研削液が刃先に到達しないので摩擦熱は奪えず、切断は継続できないであろう。
【0015】
結合材の硬さについても注意が必要である。ダイヤモンドやcBNの角が丸くなって切削抵抗が大きくなると、外力によってダイヤモンドやcBNの砥粒が落ちてしまう。これら砥粒がなくなった部位においては、その下部に埋まっている砥粒がまた下から出てくるように、結合材が被削物の希土類焼結磁石によって削られることが必要となる。砥粒が脱落したり、磨耗し切ってしまったりしたときは切り刃の表面は結合材だけになってしまうわけだが、この砥粒のない部分の結合材は削り取らなければならない。被削物によって結合材が削られれば、下からまた新しい砥粒が自生してくるのである。このサイクルが繰り返されれば、切れ味のいい切り刃の再生が自動的に行われることになる。
【0016】
本発明は、このような外周刃の切り刃部の結合材に必要とされる諸特性を鑑み、これに工夫を加えて高性能の切断刃を案出したものである。
【0017】
即ち、切り刃部に使われる結合材の機械的性質を向上させることによって、外周刃全体の機械的強度を向上させて、高性能、高強度の切断刃とするものである。従来から最も一般的に行われているフェノール樹脂などのレジンボンドは、樹脂あるいはプラスチックなのでそれ自体の機械的強度はほとんど期待できない。樹脂やプラスチックではなくて、機械的強度に優れた単一金属あるいは金属合金を結合材として切り刃部を形成し、切り刃部の機械的性質を向上させ、同時に台板の強度を補強することにより機械的剛性の改良された高性能の外周切断刃を実現するものである。
【0018】
前述の特許文献1〜3において一部電着やメタルボンドに関する記述があるが、必要な機械的性質とその効果については言及されていない。本発明に示されたように、台板外周部における切り刃部の機械強度を上げることは、この切り刃部が被削物と直接接触するところであること、かつまた台板より厚くなることが必要な部分であって、台板に対する機械的補強を入れるには最も有効な部分である。台板の外周を包むように厚い金属材料で補強することは、台板全体の機械特性を向上させる上で、極めて有効な方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明で提供される外周刃を用いることで、切断精度が高く、切断加工代の少ない切断を実施することが可能となり、加工歩留まりの向上と加工の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による外周刃の構造を示した図である。(A)は平面図、(B)は線B−Bでの断面図、(C)、(D)、(E)は外周刃の外周端部拡大図である。
【図2】実施例1で製作した電着砥粒外周刃の切り刃部外観写真である。
【図3】実施例1の内部残留応力0.53×107Paの電着砥粒外周切断刃、実施例2〜3、実施例4の内部残留応力1.5×108Paの電着砥粒外周切断刃、実施例5のビッカース硬度Hv440の電着砥粒外周切断刃、実施例6及び比較例1について、切断精度と切断速度との関係を表すグラフである。
【図4】実施例1〜6と比較例1,2について、切断精度とヤング率(弾性率)の関係を表すグラフである。
【図5】実施例1〜6と比較例1,2について、切断精度とビッカース硬度との関係を表すグラフである。
【図6】実施例1〜6について、切断精度と内部応力との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明に係る外周切断刃は、例えば図1に示すように、超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板(円形リング状薄板)からなる台板10の外周部に、金属結合材によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒が結合された該砥粒と上記金属結合材とからなる切り刃部20が形成されてなるものである。
【0022】
ここで、上記台板(円形リング状薄板)10は、外径が80〜200mm、好ましくは100〜180mm、厚みが0.1〜1.0mm、好ましくは0.2〜0.8mmで、内穴12の直径が30〜80mm、好ましくは40〜70mmの寸法を有するものであることが好ましい。
【0023】
台板となる超硬合金としては、WC、TiC、MoC、NbC、TaC、Cr32などの周期表IVB、VB、VIB族に属する金属の炭化物粉末をFe、Co、Ni、Mo、Cu、Pb、Sn、又はそれらの合金を用いて焼結結合した合金が好ましく、これらの中でも特にWC−Co系、WC−Ti系、C−Co系、WC−TiC−TaC−Co系の代表的なものを用いることが特に好ましい。また、これらの超硬合金においては、メッキができる程度の電気伝導性を有するか、又は、パラジウム触媒などによって電気伝導性を付与できるものが好ましい。パラジウム触媒などによる電気伝導性の付与については、例えば、ABS樹脂にメッキする場合などに用いられる導電化処理剤など、公知のものを利用することができる。
【0024】
本発明において、切り刃部20を形成するための金属結合材としては、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、好ましくは0.8×1011〜3.6×1011Paのものを用いる。
【0025】
結合材のヤング率は0.7×1011Pa未満であると、高速切断の際に受ける切削抵抗によって切り刃部が反ることで切断面に反りやうねりが生じる。また、ヤング率が4.0×1011Paを超える場合は、台板同様に変形が少なくなるため高精度切断には好ましいが、同時に結合材の硬度も高くなってしまうため、砥粒が摩滅したり脱落したりした場合は、先述の理由から、刃の自生が行われず、切断性能が低下してしまう。
【0026】
なお、ヤング率は結合材のみを所定の寸法に成形したのち、測定用寸法に加工して試料としたものを恒温室にて共振法を用いて測定している。
【0027】
結合材のビッカース硬度は100〜550であって、更にその結合材の密度が2.5〜12g/cm3であることが好ましい。これは、希土類焼結磁石のビッカース硬度は600〜800程度であって、被削物の希土類焼結磁石より硬度を小さくした結合材を用いて切り刃部を形成することで、必要に応じ希土類焼結磁石によって結合材が削り取られ、砥粒の自生が行われるからである。結合材の密度については、ビッカース硬度とも相関があるが、2.5g/cm3未満であると、砥粒のダイヤモンドやcBNの密度よりも小さくなりすぎるためか、砥粒の保持強度が低下して砥粒の脱落が生じ、12g/cm3より大きくなると、台板である超硬合金の密度と同等又は大きくなるためか、切り刃部の保持強度が低下して切り刃部の欠損や脱落が生じる。
【0028】
ビッカース硬度の測定は、試料の厚みが薄いことから、厚みの影響をできるだけ除くため市販のマイクロビッカース硬度計を用いて行った。
【0029】
上記金属結合材としては、Ni、Fe、Co、Cu、Snから選ばれる少なくとも1種の金属、又はこれらの金属の2種以上の合金もしくはこれらの金属とPとの合金を用いることができる。
【0030】
また、固定する砥粒としては、ダイヤモンド(天然ダイヤモンド、工業用合成ダイヤモンド)砥粒、cBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を用いる。
【0031】
砥粒の大きさは、接合する台板の厚みにもよるが、平均粒径で10〜500μmであることが好ましい。平均粒径が10μm未満であると、砥粒と砥粒の隙間が少なくなるため、切断中の目詰まりが生じ易くなり切断能力が低下するし、平均粒径500μmを超えると磁石の切断面が粗くなるなどの不具合が生じてしまうおそれがある。
【0032】
切り刃部20中の砥粒体積率は、10〜80体積%、特に15〜75体積%の範囲が好ましい。10体積%未満では、切断に寄与する砥粒の割合が少なく、80体積%を超えると切断中の目詰まりが増えるため、どちらの場合でも切断時の抵抗が増え、切断速度を遅くせざるを得なくなるので、目的に応じて砥粒以外のものを混合し体積率を調整する。
【0033】
なお、図1(C)に示したように、切り刃部20は、台板10の先端部を挟持し、かつ台板10の先端部より先方に突出して形成されており、切り刃部20の厚みが台板10の厚みより厚くなるように形成されている。
【0034】
この場合、切り刃部20の台板10先端部を挟持する一対の挟持部22a,22bの長さは、それぞれ0.1〜10mm、特に0.5〜5mmであることが好ましい。また、これら一対の挟持部22a,22bの厚さT3は、それぞれ5μm(0.005mm)以上、より好ましくは5〜2,000μm、更に好ましくは10〜1,000μmであり、従ってこれら一対の挟持部22a,22bの合計厚さ(即ち、切り刃部20が台板10より厚い部分の厚み)が0.01mm以上、より好ましくは0.01〜4mm、更に好ましくは0.02〜2mmであることが好ましい。挟持部22a,22bの長さH1が0.1mm未満であると台板端部の欠けや割れを防ぐ効果はあるが、超硬合金台板の補強効果が少なく、切断時の抵抗による超硬合金台板の変形を防げない場合がある。また、H1が10mmを超える場合は超硬合金台板を補強することに対するコストパフォーマンスが低下するおそれがある。一方、T3が5μm未満であると台板の機械的強度を高めることができないし、切断スラッジを効果的に排出することができなくなるおそれがある。台板外周部には、作業中のカケやワレを防止したり、電着強度を高める目的で、面取りや切り込みを各々単独又は合わせて施してもよい。面取りはC面取りやR面取りなど状況に応じ適宜設定すればよい。また、切り込みも三角形状や矩形状の凸凹など台板厚みや砥粒層高さなどの状況に応じて適宜設定することができる。
【0035】
なお、図1(C),(D),(E)に示したように、挟持部22a,22bは、金属結合材24と砥粒26とから形成されていてもよく[図1(C)]、あるいは金属結合材24のみによって形成されていてもよく[図1(D)]、金属結合材24のみによって台板10を覆い、更にこれを被覆して金属結合材24と砥粒26との層を形成するようにしてもよい[図1(E)]。
【0036】
一方、切り刃部20の台板10より先方に突出している突出部28の突出長さ(図1のH2)は、固定する砥粒の大きさによるが、0.1〜10mm、特に0.3〜8mmであることが好ましい。突出長さが0.1mm未満であると、切断時の衝撃や摩耗によって切り刃部がなくなるまでの時間が短く、結果として刃の寿命が短くなってしまうし、10mmを超えると刃厚(図1のT2)にもよるが、切り刃部が変形し易くなり、切断面がうねったりして切断した磁石の寸法精度が悪くなるおそれがある。なお、突出部28は、金属結合材24と砥粒26とから形成されている。
【0037】
上記結合材を台板外周部に形成する方法としては、電着法(電気メッキ法)又はロウ付け法を用いることができる。Ni、Fe、Co、Cu、Snから選ばれる少なくとも一つ以上の金属又はそれらの合金もしくはこれらの金属とPとの合金等を、電着法又はロウ付けによって超硬合金台板上に砥粒と結合させる。
【0038】
結合材をメッキで形成する方法には、大きく分けて電着法(電気メッキ法)と無電解メッキ法の2種類があるが、本発明では、以下に述べる事由を鑑み、現時点では結合材に残留する内部応力の制御が容易で生産コストの安い電着法を採用する。
【0039】
ここで、電気メッキ法は、上記単一金属又は合金を析出させる従来公知の電気メッキ液を用いてその電気メッキ液における通常のメッキ条件を採用して公知の方法で行うことができる。
【0040】
また、このような電気メッキによって金属結合材を析出させる場合、この金属結合材により上記砥粒を結合し台板に保持させる方法としては、電気メッキ中に砥粒を分散させた複合メッキ液を用いて金属析出と同時に砥粒を共析させる複合メッキ法を採用し得るほか、以下の方法を採用し得る。
i.台板先端部の所用個所に導電性接着剤を塗布し砥粒を固定した後、メッキを行う。
ii.導電性接着剤と混合した砥粒を台板先端部の所用個所に塗布した後、メッキを行う。
iii.砥粒層部分に相当する僅かな空間を設けた治具で台板を挟んだ後、その空間に砥粒を充填し、砥粒と治具と台板の間に発生する摩擦力によって砥粒を保持してメッキを行う。
iv.Niなどの磁性体をメッキやスパッタリングなどでコーティングした砥粒を、磁力で台板先端部に吸着させてメッキを行う。台板に磁力を誘導する方法は公知の方法(特開平7−207254号公報)や、台板を挟む治具に永久磁石を内蔵させ台板を磁化する方法により実現できる。
v.NiやCuなど延性のある金属でコーティングした砥粒を単独もしくは金属粉と混合した後、台板先端部に配置して金型に入れ、加圧して固定する。
【0041】
なお、砥粒は、メッキで固定する際の接合強度を高めるため、予め無電解Cuメッキや無電解Niメッキなどで被覆されているものを用いてもよい。
【0042】
本発明において、上記電着法により金属結合材を析出させる場合、析出したメッキ金属応力としては、−2×108Pa(圧縮応力)〜+2×108Pa(引っ張り応力)、特に−1.8×108Pa〜+1.8×108Paであることが好ましい。この場合、電着による超硬台板に与える応力については、直接測定することが難しい。そこで、超硬台板外周部に析出させるメッキ条件と同じ条件、例えば、市販ストリップ電着応力計で用いられるテストストリップや、スパイラル応力計で用いられている内部応力測定用のテストピースにメッキのみを析出させてメッキ皮膜の応力を測定した。この結果と実施例のように切断試験に用いた結果とを対比させ、好適なメッキ皮膜の応力範囲を求めたところ、マイナス表示がメッキ皮膜の圧縮応力、プラス表示がメッキ皮膜の引っ張り応力とすると、−2×108Pa〜+2×108Paであった。メッキ皮膜の応力がこの範囲を外れる場合は、応力により切り刃部や超硬台板が変形したり、切断時の抵抗による変形が生じ易くなる。なお、本発明で説明するメッキ皮膜の応力とは、メッキ皮膜が膨張又は収縮しようとしている場合に、メッキする対象物によりメッキ皮膜の膨張又は収縮が抑えられることから生じる内部応力のことである。
【0043】
メッキ皮膜の応力は、CuメッキやNiメッキなど単一金属、例えばスルファミン酸Niメッキでは、主成分となるスルファミン酸ニッケルの濃度、メッキ時の電流密度、メッキ液の温度を好適な範囲に収め、かつ、オルソベンゼンスルフォンイミドやパラトルエンスルフォンアミドなどの有機添加物の添加や、ZnやSなどの元素を加えて応力を調節することができる。その他、Ni−Fe合金、Ni−Mn合金、Ni−P合金、Ni−Co合金、Ni−Sn合金などの合金メッキの場合は、合金中のFe、Mn、P、Co、Snの含有量、メッキ液の温度などを好適な範囲に収めることでも調節することができる。もちろんこれらの合金メッキの場合でも応力を調節できる有機添加物の併用は効果的である。
【0044】
なお、好適なメッキ液を例示すると以下の通りである。
スルファミン酸ニッケルメッキ液
スルファミン酸Ni 100〜600g/L
硫酸Ni 50〜250g/L
塩化Ni 5〜70g/L
ホウ酸 30〜40g/L
オルソベンゼンスルフォンイミド 適量
スルファミン酸ニッケル・コバルト合金メッキ液
スルファミン酸Ni 250〜600g/L
塩化Co 2〜10g/L
ホウ酸 30〜40g/L
オルソベンゼンスルフォンイミド 適量
ワットタイプニッケル・鉄合金メッキ液
硫酸Ni 50〜200g/L
塩化Ni 20〜100g/L
硫酸Fe 5〜20g/L
ホウ酸 30〜40g/L
アスコルビン酸Na 適量
オルソベンゼンスルフォンイミド 適量
ワットタイプニッケル・リン合金メッキ液
硫酸Ni 50〜200g/L
塩化Ni 20〜100g/L
オルトリン酸 10〜80g/L
亜リン酸 1〜30g/L
オルソベンゼンスルフォンイミド 適量
ピロリン酸銅メッキ液
ピロリン酸Cu 30〜150g/L
ピロリン酸カリウム 100〜450g/L
アンモニア水 1〜20ml/L
硝酸カリウム 5〜20g/L
【0045】
また、ロウ付けによって結合材を形成する場合は、予めロウ材と砥粒とを混合したのち、台板の先端部分に塗布したり、台板と共に金型に入れ、加圧することで台板先端部分に固定させたりなどの方法を採ればよい。更に、砥粒層と台板との結合強度を高めたり、またロウ付け時に生じる歪みで台板が反ったり波打ったりすることを少なくするために、台板外周部にロウ付け下地として金属結合材を電着法によって析出させてもよい。
【0046】
ロウ材は、超硬合金に対して濡れ性がよいことが必要で、また、ロウ材の融点が1,300℃以下、好ましくは1,100℃以下であると、台板の変形や強度低下などを抑えることができる。
【0047】
以上のような方法により、ダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を超硬合金台板の外周部に形成することと、薄板化した台板の機械的強度を向上させることを同時に実現する。台板の寸法は、精度のよい台板の製作が可能なことと、希土類焼結磁石を寸法精度よく長期にわたって安定して切断できることから、厚み0.1〜1mmの範囲で外径φ200mm以下が好ましい。厚み0.1mm未満であると、外径によらず大きな反りが発生し易いため精度よい台板の製作が難しく、また1mmを超えると切断加工代が大きくなり、本発明の主旨から外れる。外径をφ200mm以下としたのは、現行の超硬合金の製造技術及び加工技術での製作可能な寸法による。内穴の直径については、加工機の切断刃取り付け軸の太さに合わせ、φ30〜φ80mmとする。
【0048】
本発明の外周切断刃を適用して切断を行う場合、その被切断物としては、R−Co系希土類焼結磁石とR−Fe−B系希土類焼結磁石(RはYを含む希土類元素の内少なくとも1種)が有効で、これら磁石は次のようにして製造される。
【0049】
R−Co系希土類焼結磁石は、RCo5系、R2Co17系などがある。このうち、例えば、R2Co17系では、質量百分率で20〜28%のR、5〜30%のFe、3〜10%のCu、1〜5%のZr、残部Coからなる。このような成分比で原料を秤量して溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R2Co17系磁石粉末を得る。その後磁場中成形し、更に1,100〜1,250℃で0.5〜5時間焼結し、次いで焼結温度より0〜50℃低い温度で0.5〜5時間溶体化し、最後に700〜950℃で一定時間保持したあと冷却する時効処理を施す。
【0050】
R−Fe−B系希土類焼結磁石は、質量百分率で5〜40%のR、50〜90%のFe、0.2〜8%のBからなり、磁気特性や耐食性を改善するために、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Hf、Ta、Wなどの添加元素を加える。これら添加元素の添加量は、Coの場合、質量百分率で30%以下、その他の元素の場合には質量百分率で8%以下である。このような成分比で原料を秤量して溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R−Fe−B系磁石粉末を得る。その後磁場中成形し、1,000〜1,200℃で0.5〜5時間焼結し、400〜1,000℃で一定時間保持したあと冷却する時効処理を施す。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、下記例で、結合材のヤング率、ビッカース硬度、メッキ応力は、具体的に以下の方法で行った。
(ヤング率)
超硬台板上に結合材を厚み2mm程度析出させてから結合材を剥がし、該結合材の寸法を機械加工して10×40×t1mm程度に揃えた。これらの試料片をJIS R1605曲げ共振法に準拠して測定した。
(ビッカース硬度)
ヤング率測定で用いた試料片をJIS R1610ビッカース硬さ試験法に準拠し、マイクロビッカース硬度計を用いて測定した。
(メッキ応力)
ストリップ電着応力測定用のテストストリップに結合材を厚み50μm程度析出させ、メッキ応力を測定した。
【0052】
[実施例1]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃,10分浸漬したのち、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解する。超硬合金台板を純水中で超音波洗浄したあと、メッキするための治具で超硬合金台板を挟み、予めNiメッキした平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を上記ivの方法で超硬合金台板外周部に接触するように配置し、50℃のスルファミン酸ニッケルメッキ液中で5〜20A/dm2の範囲で異なる電流量で通電して電気メッキしたあと、水洗、治具から取り外し、ラップ盤にて刃厚0.4mmに加工し、内部残留応力の異なる3種類の希土類焼結磁石用電着砥粒外周切断刃を得た。図2に図1(D)で示した態様の切り刃部の外観写真を示す。なお、10が超硬合金台板、24が結合材からなる層、24,26が結合材と砥粒とからなる層である。結合材のヤング率は2.0×1011Pa、ビッカース硬度はHv318、密度は8.8g/cm3、内部残留応力は−1.4×108Pa、0.53×108Pa、2.0×108Paであった。
【0053】
[実施例2]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃,10分浸漬したのち、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解する。超硬合金台板を純水中で超音波洗浄したあと、メッキするための治具で超硬合金台板を挟み、予めNiメッキした平均粒径130μmのcBN砥粒を上記ivの方法で超硬合金台板外周部に接触するように配置し、50℃のスルファミン酸ニッケルメッキ液中で5〜20A/dm2で通電して電気メッキしたあと、水洗、治具から取り外し、ラップ盤にて刃厚0.4mmに加工し、希土類焼結磁石用電着砥粒外周切断刃を得た。結合材のヤング率は2.0×1011Pa、ビッカース硬度はHv318、密度は8.8g/cm3、内部残留応力は0.5×108Paであった。
【0054】
[実施例3]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃,10分浸漬したのち、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解する。超硬合金台板を純水中で超音波洗浄したあと、メッキするための治具で超硬合金台板を挟み、実施例1と同様に予めNiメッキした平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を超硬合金台板外周部に接触するように配置し、50℃のスルファミン酸ニッケル・コバルト合金メッキ液中で5〜20A/dm2で通電して電気メッキしたあと、水洗、治具から取り外し、ラップ盤にて刃厚0.4mmに加工し、希土類焼結磁石用電着砥粒外周切断刃を得た。結合材のヤング率は2.4×1011Pa、ビッカース硬度はHv480、密度は8.8g/cm3、内部残留応力は4.6×107Paであった。
【0055】
[実施例4]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃,10分浸漬したのち、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解する。超硬合金台板を純水中で超音波洗浄したあと、メッキするための治具で超硬合金台板を挟み、実施例1と同様に予めNiメッキした平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を超硬合金台板外周部に接触するように配置し、60℃のワットタイプのニッケル・鉄合金メッキ液中で5〜20A/dm2の範囲で異なる電流量で通電して電気メッキしたのち、水洗、治具から取り外し、ラップ盤にて刃厚0.4mmに加工し、内部残留応力の異なる2種類の希土類焼結磁石用電着砥粒外周切断刃を得た。結合材のヤング率は1.4×1011Pa、ビッカース硬度はHv422、密度は8.7g/cm3、内部残留応力は−0.5×108Pa、1.5×108Paであった。
【0056】
[実施例5]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃,10分浸漬したのち、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解する。超硬合金台板を純水中で超音波洗浄したあと、メッキするための治具で超硬合金台板を挟み、実施例1と同様に予めNiメッキした平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を超硬合金台板外周部に接触するように配置し、60℃の異なる液組成のワットタイプのニッケル・リン合金メッキ液中で5〜20A/dm2で通電して電気メッキしたあと、水洗、治具から取り外し、ラップ盤にて刃厚0.4mmに加工し、ビッカース硬度の異なる2種類の希土類焼結磁石用電着砥粒外周切断刃を得た。結合材のヤング率は2.1×1011Pa、ビッカース硬度はHv440、Hv528、密度は8.8g/cm3、内部残留応力は0.9×107Paであった。
【0057】
[実施例6]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃,10分浸漬したのち、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解する。超硬合金台板を純水中で超音波洗浄したあと、メッキするための治具で超硬合金台板を挟み、実施例1と同様に予めNiメッキした平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を超硬合金台板外周部に接触するように配置し、50℃のピロリン酸銅メッキ液中で5〜20A/dm2で通電して電気メッキしたのち、水洗、治具から取り外し、ラップ盤にて刃厚0.4mmに加工し、希土類焼結磁石用電着砥粒外周切断刃を得た。結合材のヤング率は1.1×1011Pa、ビッカース硬度はHv150、密度は8.8g/cm3、内部残留応力は0.5×107Paであった。
【0058】
[比較例1]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を金型に納め、結合材としてフェノール樹脂粉末と平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を体積率で25%(砥粒25%、レジン75%)になるように混合したものを外周部に充填したのち加圧して成形し、金型に入れたまま180℃で2時間加熱硬化させる。冷却後に金型から取り出し、ラップ盤にて刃厚を0.4mmに仕上加工して、レジンボンド超硬合金外周刃を得た。結合材のヤング率は3.0×109Pa、ビッカース硬度はHv50、密度は4.3g/cm3であった。
【0059】
[比較例2]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×台板厚0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板を金型に納め、結合材としてWC粉末及びCo粉末と平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒を体積率で25%(砥粒25%、結合材75%)になるように混合したものを外周部に充填、加圧成形して金型から取り出し、厚みを調整する。次いで、アルゴン雰囲気下で熱処理した後、ラップ盤にて刃厚を0.4mmに仕上加工して、焼結超硬合金外周刃を得た。結合材のヤング率は5.1×1011Pa、ビッカース硬度はHv687、密度は13.1g/cm3であった。
【0060】
以上、実施例1〜6及び比較例1,2で製作した外周刃の各々を、同じ製法によって作られた2枚の外周刃からなり、それらの間隔を1.5mmとしたマルチ外周刃とし、このマルチ外周刃を砥石を用いてドレスし、砥粒が出た状態にしてから回転数5000rpmでW40mm×L100mm×H20mmのNd−Fe−B系希土類焼結磁石を被切断物として切断試験を行った。
【0061】
図3には、使用を始めてから、10mm/minの切断速度で50枚を切断した後に、切断速度を10mm/min〜35mm/minまで変化させた場合での磁石各5枚について、1枚ごとに中央部1点と隅部4点の合計5点の厚みをマイクロメーターで測定した。それら1枚毎の5点のうちの最大値と最小値の差を切断精度(μm)とし、得られた5枚分の切断精度について平均を算出し、図に記載した。
【0062】
図4、図5、図6には、速度30mm/minで切断したときの磁石各5枚について、中央部1点と隅部4点の合計5点の厚みをマイクロメーターで測定した。それら1枚毎の5点のうちの最大値と最小値の差を切断精度(μm)とし、得られた5枚分の切断精度について平均を算出し、図に記載した。
【0063】
図3は、切断速度と切断精度について、実施例1〜6と比較例1を対比したものである。比較例は切断速度を上げるに従い切断精度の値が著しく大きくなっているが、実施例では多少の差はあるが、いずれも切断精度が60μm以下であり、高速切断でも寸法バラツキが抑えられていることが分かる。
【0064】
図4は、結合材のヤング率(弾性率)と切断精度について、実施例1〜6と比較例1,2の結果をまとめてプロットしたものである。比較例1では切断精度150μm以上、比較例2では250μmに近くなっており、許容できる切断精度100μmを上回っているが、実施例1〜6はいずれも切断精度100μm以下で、良好な値を示している。なお、図中の点線はこれらの点から算出した回帰線でこの回帰線から、切断精度が良好なヤング率の範囲は0.7×1011Pa〜4.0×1011Paであることが推測される。
【0065】
図5は、結合材のビッカース硬度と切断精度について、実施例1〜6と比較例1,2の結果をまとめてプロットしたものである。比較例1が切断精度150μm以上であるのに対し、実施例ではいずれも切断精度100μm以下であり、寸法バラツキが良好であることを示している。図中の回帰線から、切断精度100μm以下となるビッカース硬度の範囲は、おおよそ、Hv100〜Hv550であることが推測される。
【0066】
図6は、結合材の内部応力と切断精度について、実施例1〜6の結果をプロットしたものである。図中の回帰線から、上記と同様に切断精度100μm以下となる範囲は−2.0×108Pa〜2.0×108Paであると推測される。
【0067】
以上のことから、本発明により切り刃部の機械強度を向上させると同時に外周刃全体の機械的剛性も向上させることができ、結果として、薄刃化しても高速切断の切断精度低下が僅かになることが確認された。
【符号の説明】
【0068】
10 台板
20 切り刃部
22a,22b 挟持部
24 金属結合材
26 砥粒
28 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材を用いてダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を保持させると共に、該砥粒と金属結合材とからなる切り刃部の厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚いことを特徴とする外周切断刃。
【請求項2】
金属結合材が、密度が2.5〜12g/cm3である請求項1記載の外周切断刃。
【請求項3】
金属結合材が、Ni、Fe、Co、Cu、Snから選ばれる少なくとも1種の金属又はこれら金属のうち2種以上からなる合金もしくはこれら金属のうち少なくとも1種とPとの合金からなる請求項1又は2記載の外周切断刃。
【請求項4】
金属結合材が、Ni、Fe、Coから選ばれる少なくとも1種の金属とPとの合金からなる請求項1又は2記載の外周切断刃。
【請求項5】
金属結合材が電着法によってダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合して台板外周部に析出することにより切り刃部が形成された請求項1〜4のいずれか1項記載の外周切断刃。
【請求項6】
金属結合材がロウ付け法によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合して台板外周部に固着することにより切り刃部が形成された請求項1〜4のいずれか1項記載の外周切断刃。
【請求項7】
外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材を電着法によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合すると共に、その電着厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚くなるように析出させて、切り刃部を形成することを特徴とする外周切断刃の製造方法。
【請求項8】
外径が80〜200mm、厚みが0.1〜1.0mmで、内穴の直径が30〜80mmの寸法を有する超硬合金製のドーナツ状穴あき円形薄板からなる台板の外周部に、ヤング率が0.7×1011〜4.0×1011Pa、かつビッカース硬度が100〜528の金属結合材をロウ付け法によりダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を結合すると共に、そのロウ付け厚みが上記台板厚みより0.01mm以上厚くなるように、切り刃部を形成することを特徴とする外周切断刃の製造方法。
【請求項9】
金属結合材が、密度が2.5〜12g/cm3である請求項7又は8記載の外周切断刃の製造方法。
【請求項10】
金属結合材が、Ni、Fe、Co、Cu、Snから選ばれる少なくとも1種の金属又はこれら金属のうち2種以上からなる合金もしくはこれら金属のうち少なくとも1種とPとの合金からなる請求項7〜9のいずれか1項記載の外周切断刃の製造方法。
【請求項11】
金属結合材が、Ni、Fe、Coから選ばれる少なくとも1種の金属とPとの合金からなる請求項7〜9のいずれか1項記載の外周切断刃の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−82072(P2013−82072A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−25065(P2013−25065)
【出願日】平成25年2月13日(2013.2.13)
【分割の表示】特願2008−321712(P2008−321712)の分割
【原出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】