外因性ポリペプチドを発現するヒト皮膚等価物
本発明は、一般的には、創傷閉鎖のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性ポリペプチド(例えば抗菌性ポリペプチドおよびケラチノサイト成長因子2)を発現するように操作されたヒト皮膚等価物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物を作製するための組成物および方法を提供する。加えて、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物により創傷を治療するための方法をも提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的には、創傷閉鎖のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性ポリペプチド(例えば抗菌性ポリペプチドおよびケラチノサイト成長因子2)を発現するように操作されたヒト皮膚等価物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物を作製するための組成物および方法を提供する。これに加えて、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物による創傷の治療法を提供する。
【0002】
本出願は、それぞれ参照としてその全体が本明細書に組み入れられる、2003年8月1日出願の仮特許出願番号第60/491,869号および2003年8月8日出願の仮特許出願番号第60/493,664号に対する優先権を主張する。
【0003】
本出願は、一部に、STTR Fast-Track Grant Phase I #1 R41 AR 0530349-01およびPhase II #4 R42 AR 050349-02の支援を受けた。政府は、本発明に一定の権利を有することができる。
【背景技術】
【0004】
背景
米国内では毎年300万人の人々が慢性創傷に罹患している。慢性創傷は、一般的には、長期にわたる、または頻繁に再発する皮膚の任意の破損、または潰瘍形成に関する。このような創傷は、疼痛、機能損失の原因となり、運動性の潜在的欠如により個人生活を変化させ、回復のための時間を延長し、かつ回復のために患者が大きな忍耐に服することを要求する。
【0005】
慢性創傷は、組織を裂き、切り、刺しまたは壊すことによって、皮膚の完全性を破壊する。原因は、損傷のような構造的なものでも、または基礎疾患のような生理学的なものでもよい。最も頻繁に起こる皮膚創傷は、静脈性潰瘍、圧迫潰瘍および糖尿病性足部潰瘍である。
【0006】
慢性創傷は、実質的な病的状態を伴う重大な健康問題である。それらはまた、長期に及ぶ治療、治療の失敗、および長期にわたる患者のコンプライアンス(compliance)の必要性に挑まなければならず、医師および患者双方にとって挫折感の源でもある。創傷が治癒するまでに長期を要するために、再発が起こるか、または新たな潰瘍が出現した際にはコンプライアンスが低下し、悪化する。
【0007】
慢性創傷は、医学的状態が自身の傷害組織を修復する身体の能力を障害している種々の基礎疾患を有する個体に起こる。様々な医薬的および手術的治療が用いられているが、慢性創傷が治癒するまでには数ヶ月、または数年を要することもあり、かつ頻繁に再発する。これらの創傷は、しばしば大きく、かつ見苦しく、かつ患者によっては痛みを伴うこともある。
【0008】
慢性創傷には3つの主要なタイプがある:静脈うっ血潰瘍、糖尿病性潰瘍および圧迫潰瘍である。静脈潰瘍は、慢性血管疾患を有する患者のくるぶしまたは下肢に発生する潰瘍である。これらの患者では、下部四肢の血流が障害され、浮腫(腫脹)および中程度の発赤、および徐々に潰瘍へと進行する皮膚の鱗片化を生ずる。静脈潰瘍は、米国内で500,000〜700,000名の患者が、かつ世界の工業国で130万人の人々が罹患している疾病である。
【0009】
糖尿病性潰瘍は、糖尿病を有する患者に起こる慢性創傷である。これらの患者における潰瘍の実際的な原因は、皮膚肥厚、水疱、または小石もしくは破片といった異物が起こす傷害であるが、患者の潰瘍発生のリスクを高めているものは患者の基礎疾患である。重要なリスク因子としては、傷害された組織を修復する能力および感染を回避する能力を害する不適切な局所血液供給、および、重大な慢性創傷になるまで初期の傷害を認識できなくする四肢の感覚の低下が挙げられる。糖尿病性潰瘍は、米国内で500,000人弱の患者が、かつ世界の工業国で120万人の人々が罹患している疾病である。
【0010】
圧迫潰瘍は、身体の骨突起部の上に位置する組織に加わる恒常的な圧力によって引き起こされる任意の傷害と定義されている。圧迫潰瘍は、以前は褥瘡または臥床姿勢潰瘍と呼ばれていた。圧迫潰瘍は、内部にある骨およびベッドまたはイスのような外部にある固い面からの持続的な圧迫に組織がさらされている、不動の患者に発生する。動かないことに加え、圧迫潰瘍の発生リスクのある患者は、概して栄養状態も不良であり、水分補給も不十分であり、かつ創傷治癒能力を害する他の根元的な医学的状態を有している。米国で160万人以上の人々が、かつ世界の工業国では410万人の人々が圧迫潰瘍に罹患している。これらの疾病の有病率の推定値は非常に多様である。工業国市場では、すべてのタイプの慢性創傷について1200万人もの患者がいるという推定値が報告されている。
【0011】
慢性創傷の大きさおよび深さは様々である。一般には、創傷により損傷を受ける可能性がある組織には4層が存在し、上皮または最外層;真皮;皮下組織;および最深部層の筋肉、腱、および骨である。部分層潰瘍は、上皮に限定された皮膚の損失、かつ場合によっては真皮の一部の損失に関する。これらの創傷は、上皮形成(上皮細胞の増殖および移動)により治癒する。全層潰瘍は、上皮、真皮および皮下組織の損傷または壊死に関し、かつ真膚の下にある結合組織に及ぶこともある。これらの創傷は、肉芽化(結合組織により創傷が塞がれること)、収縮および上皮形成により治癒する。最も重症に分類される潰瘍は、上皮、真皮、皮下組織および筋肉、腱または骨の損傷に関する。この創傷の治癒プロセスは、創傷が閉鎖した後もまだ不完全である。創傷における正常な皮膚および組織の再建のプロセスには、最初の傷害から2年を要することもある。
【0012】
慢性創傷の治療は、創傷の重症度により多様である。部分層および全層創傷は、典型的には、ドレッシング(dressing)および壊死組織切除(壊死、すなわち死んだ組織を除去するための薬品または手術の使用)により治療される。感染が起きている場合には、抗生物質が用いられる。部分層創傷〜全層創傷は、慢性創傷患者の最も大きな分類を表し、最も医療ニーズに未対応な領域であり、かつレピフェルミン(Repifermin)のような成長因子処方薬療法による治療に最も感受性が高い分類である。筋肉、腱または骨に及ぶ全層創傷を有する患者は、敗血症の有意なリスクにさらされ、かつ典型的には手術によって治療される。
【0013】
数多くの保存的治療が実施可能であるが、慢性創傷は、治療計画が時間を費やす性質であること、および患者のコンプライアンスが得られないことが原因で、いまだ医療従事者にとって強い挫折感を引き起こす問題のままである。従事者による慢性創傷の治癒の成功を増大することができ、かつ/または慢性創傷が治癒する速度を加速できる療法が必要とされる。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、一般的には、創傷閉鎖のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性ポリペプチド(例えば抗菌性ポリペプチドおよびケラチノサイト成長因子2)を発現するように操作されたヒト皮膚等価物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物を作製するための組成物および方法を提供する。加えて、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物による創傷の治療のための方法も提供する。
【0015】
したがって、いくつかの態様では、本発明は、a) 初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される宿主細胞、ならびに制御配列と機能的に連結したKGF-2をコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;b) 発現ベクターを(例えば該発現ベクターが宿主細胞により内部へ取り込まれるような条件下で)宿主細胞に導入する段階;および c) 宿主細胞を、KFG-2が発現するような条件下で培養する段階を含む、異種KGF-2を発現する細胞を提供するための方法を提供する。本発明は、いかなる特定の初代または不死化ケラチノサイトの使用にも限定されない。いくつかの好ましい態様では、ケラチノサイトはNIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。他の態様では、ケラチノサイトは、扁平上皮へと階層化できる。さらに他の態様では、方法は宿主細胞を患者由来の細胞と共培養する段階を含む。本発明は、いかなる特定の発現ベクターの使用にも限定されない。いくつかの態様では、発現ベクターは選択可能なマーカーをさらに含む。本発明は、いかなる特定の制御配列の使用にも限定されない。いくつかの態様では、制御配列はプロモータ配列である。本発明は、いかなる特定のプロモータ配列にも限定されない。いくつかの態様では、プロモータ配列はK14プロモータ配列、好ましくは全長K14プロモータ配列である。他の態様では、プロモータはインボルクリンプロモータである。好ましい態様では、プロモータ配列は、ケラチノサイトにおける発現を可能とする。またさらなる態様では、本発明は、前記方法により作成された宿主細胞を提供する。
【0016】
いくつかの態様では、本発明は、異種KGF-2を発現する宿主細胞を含む組成物であって、宿主細胞が初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される組成物を提供する。いくつかの態様では、宿主細胞はNIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。さらなる態様では、KGF-2は全長KGF-2である。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、a) 異種KGF-2を発現する不死化ケラチノサイト、および創傷を有する対象を提供する段階;および b) 創傷に、異種KGF-2を発現する不死化細胞を接触させる段階を含む、創傷を治療する方法を提供する。本発明は、いかなる特定のタイプの接触にも限定されない。実際に、様々な接触方式が企図される。いくつかの態様では、接触は局所適用を含む。他の態様では、接触は植付(engraftment)を含む。さらに他の態様では、接触は創傷ドレッシングを含む。本発明は、いかなる特定のタイプの創傷の治療にも限定されない。実際、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、外部傷害を含む群から選択される創傷を含むが、それらに限定されない、様々な創傷の治療が企図される。いくつかの態様では、不死化ケラチノサイトはNIKS細胞である。さらなる態様では、不死化ケラチノサイトは、ヒト皮膚等価物内に組み入れられる。またさらなる態様では、ヒト皮膚等価物は、患者由来の細胞をさらに含む。他の態様では、方法は、接触段階の前に、異種KGF-2を発現するケラチノサイトを対象由来の細胞と混合する段階をさらに含む。
【0018】
さらに他の態様では、本発明は、KGF-2をコードするDNA配列に機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータを含むベクターを提供する。いくつかの態様では、ケラチノサイト特異的プロモータは、K14プロモータまたはインボルクリンプロモータである。本発明はまた、これらベクターを含む宿主細胞および皮膚等価物も提供する。
【0019】
他の態様では、本発明は、以下の段階を含む、外因性抗菌性ポリペプチドまたはペプチドを発現する組織(例えばヒト皮膚等価物)を提供する方法を提供する:ケラチノサイト、および制御配列と機能的に連結した抗菌性ポリペプチドもしくはそのペプチドをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;発現ベクターをケラチノサイトに導入する段階;ならびにケラチノサイトを組織(例えばヒト皮膚等価物)内へ組み入れる段階。いくつかの態様では、ケラチノサイトは扁平上皮へと階層化できる。いくつかの態様では、ケラチノサイトは、初代または不死化ケラチノサイト(例えば、好ましくはNIKS細胞)から選択される。ある態様では、発現ベクターは選択可能なマーカーをさらに含む。いくつかの好ましい態様では、制御配列はプロモータ配列(例えばインボルクリンプロモータまたはケラチン14プロモータ)である。ある好ましい態様では、プロモータ配列は、宿主細胞での抗菌性ポリペプチドの発現を可能とする。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジン(cathelicidin)を含むが、それらに限定されない様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は、突然変異アミノ酸配列(例えば、一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。いくつかの好ましい態様では、一つまたは複数の単一アミノ酸置換は、Cys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む。他の態様では、単一アミノ酸置換はGly38Alaである。特に好ましい態様では、変異したヒトβデフェニン3は、抗菌活性を有している。他の態様では、発現ベクターはシグナル分泌ペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。好ましい態様では、皮膚等価物は抗菌活性を示す。本発明は、さらに、本明細書に記載の方法により作成された皮膚等価物も提供する。
【0020】
さらに他の態様では、本発明は外因性抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイト(例えば初代または不死化ケラチノサイト)を含む組成物を提供する。好ましい態様では、ケラチノサイトはNIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジンを含むが、それらに限定されない様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は突然変異アミノ酸配列(例えば一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。いくつかの好ましい態様では、一つまたは複数の単一アミノ酸置換は、Cys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む。他の態様では、単一アミノ酸置換はGly38Alaである。いくつかの態様では、ケラチノサイトは階層化している。他の態様では、組成物は、真皮等価物をさらに含む。さらに他の態様では、本発明は、ケラチノサイトの器官型培養物を提供する。他の態様では、組成物は、患者由来の細胞をさらに含む。またさらなる態様では、組成物は外因性抗菌性ポリペプチドを発現しないケラチノサイトをさらに含む。さらに他の態様では、組成物は、少なくとも一つのさらなる外因性(例えば抗菌性)ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む。
【0021】
本発明は、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する初代または不死化ケラチノサイト(例えばNIKS細胞)、および創傷を有する対象を提供する段階;創傷を、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する不死化ケラチノサイトと接触させる段階を含む、創傷を治療する方法をさらに提供する。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジンを含むが、それらに限定されない、様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は、突然変異アミノ酸配列(例えば一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。いくつかの好ましい態様では、一つまたは複数の単一アミノ酸置換は、Cys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む。他の態様では、単一アミノ酸置換はGly38Alaである。いくつかの態様では、接触は、植付、局所適用、または創傷ドレッシングを含む。本発明は、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、および外部傷害を含むが、それらに限定されない、任意のタイプの創傷の治療を考慮する。いくつかの態様では、ヒト皮膚等価物は、患者由来の細胞をさらに含む。
【0022】
本発明は加えて、抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列と機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータ(例えばインボルクリンプロモータまたはケラチン14プロモータ)を含むベクターを提供する。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際に、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジンを含むが、それらに限定されない様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は、突然変異アミノ酸配列(例えば一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。本発明は、ベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。本発明はまた、宿主細胞を含むヒト組織(例えば皮膚等価物)も提供する。いくつかの態様では、ヒト組織(例えば皮膚等価物)は、患者由来の細胞をさらに含む。他の態様では、ヒト組織(例えば皮膚等価物)は、ベクターを含まないケラチノサイトをさらに含む。さらに他の態様では、ヒト皮膚等価物は、少なくとも一つのさらなる抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む。
【0023】
さらに他の態様では、本発明は、以下の段階を含む、外因性KGF-2および外因性抗菌性ポリペプチドを発現するヒト組織(例えば皮膚等価物)を提供する方法を提供する:ケラチノサイトと、制御配列に機能的に連結した抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む第一発現ベクターと、外因性KGF-2ポリペプチドをコードするDNAを含む第二発現ベクターとを提供する段階;ならびに発現ベクターをケラチノサイトに導入する段階;ならびにケラチノサイトをヒト組織(例えば皮膚等価物)内に組み入れる段階。
【0024】
さらに他の態様では、本発明は、細胞集団を提供する段階、細胞集団に関して上昇した多能性または多分化能を有するエレクトロポレーションされた細胞が選択されるような条件下で細胞をエレクトロポレーションする段階を含む、集団に関して上昇した多能性または多分化能を有する細胞を選択する方法を提供する。いくつかの態様では、エレクトロポレーションされた細胞は、幹細胞様の特性を示す。いくつかの態様では、細胞集団はケラチノサイトであり、かつエレクトロポレーションされたケラチノサイトは、ホロクローン(holoclone)またはメロクローン(meroclone)細胞形態を有する。他の態様では、エレクトロポレーションされた細胞は、拡張された増殖能力を示す。いくつかの態様では、細胞集団は、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸によりエレクトロポレーションされる。ある態様では、方法は、選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下で細胞を培養する段階をさらに含む。本発明は、加えて、この方法により産生された細胞または細胞集団をも提供する。
【0025】
ある態様では、本発明は、ケラチノサイト集団を提供する段階;およびホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するエレクトロポレーションされたケラチノサイトが選択されるような条件下でケラチノサイトをエレクトロポレーションする段階を含む、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトを選択する方法を提供する。いくつかの態様では、ホロクローン細胞形態は、固く詰め込まれた細胞、大きさが均一な細胞、平滑なコロニー外縁部を有するコロニー、および全体的に円形なコロニー形態からなる群より選択される、一つまたは複数の特性を含む。いくつかの態様では、ケラチノサイトの集団は、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸によりエレクトロポレーションされる。ある態様では、方法は、選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下でケラチノサイトを培養する段階をさらに含む。本発明はまた、この方法により産生されたケラチノサイト集団も提供する。
【0026】
異種KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する組織を提供する方法は、組織、ならびに制御配列と機能的に連結したKGF-2および/または抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;該発現ベクターが、該組織内に含まれる宿主細胞によって内部に取り込まれ、かつ該KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドが発現されるような条件下で、該発現ベクターを該組織に導入する段階を含む。いくつかの態様では、組織はヒト組織(例えばヒト皮膚等価物)である。いくつかの態様では、発現ベクターは、パーティクル銃、エレクトロポレーション、またはトランスフェクションによって、組織に導入される。
【0027】
定義
本明細書で使用する「成長因子」という用語は、細胞表面に結合して、増殖、分化またはその他細胞応答を導く細胞内シグナル伝達経路を誘発する細胞外分子を指す。成長因子の例としては、成長因子I、栄養因子、Ca2+、インスリン、ホルモン、合成分子、薬学的物質およびLDLが含まれるが、それらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用する「ケラチノサイト成長因子」または「KGF」という用語は、様々な程度の配列相同性を示し、遺伝子の関連ファミリーによりコードされることが示唆される、FGFとして公知の構造的に識別されるタンパク質群のメンバーを指す。FGFは、細胞表面に共通の受容体部位を共有している。例えば、KGFはFGFR-3に結合できる。
【0029】
本明細書で使用する「抗菌性ポリペプチド」という用語は、微生物(例えば細菌)の増殖を阻止するポリペプチドおよびそのペプチドを指す。抗菌性ポリペプチドの例としては、下表1に記載のポリペプチド(例えばデフェンシンまたはカテリシジン)を含むが、それらに限定されない。抗菌性ポリペプチドは、L-アミノ酸およびD-アミノ酸の双方から合成されたペプチドを含む。「抗菌性ポリペプチド」はまた、任意の方法により得られた(例えば合成された、または酵素的に得られた)抗菌性ポリペプチドのペプチド部分も含む。
【0030】
本明細書で使用する「デフェンシン」という用語は、相同的ペプチドがマクロファージ内に存在することに関連して、一般的には多形核白血球(PMN)のアズール親和性顆粒内に見出されるが、必ずしもその必要はない、高度に架橋結合し構造的に相同な抗菌性ペプチドのファミリーを指す。
【0031】
本明細書で使用する「ヒトβデフェンシン1」または「hBD1」という用語は、タンパク質または核酸に関連して用いられる場合には、SEQ ID NO:13と約50%より大きな同一性を共有し、かつ野生型hBD1の少なくとも一つの活性をも有するタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を指す。したがって、hBD1タンパク質という用語は、野生型hBD1タンパク質と同一なタンパク質、および野生型hBD1タンパク質由来のタンパク質(例えばhBD1タンパク質の変種、またはhBD1タンパク質コード領域の一部により構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0032】
本明細書で使用する「hBD1の活性」という用語は、野生型hBD1タンパク質の任意の活性(例えば抗菌活性)を指す。この用語は、単独または組み合わせて、hBD1タンパク質のすべての活性を包含することを意図する。
【0033】
特に「hBD1遺伝子」という用語は、全長のhBD1ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:9に含まれる)を指す。しかしながら、この用語は、hBD1配列の断片、および全長hBD1ヌクレオチド配列内の他のドメイン、およびhBD1の変種をも包含することも意図される。さらには、「hBD1遺伝子ヌクレオチド配列」または「hBD1遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNAおよびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0034】
本明細書で使用する「ヒトβデフェンシン2」または「hBD2」という用語は、タンパク質または核酸に関連して用いられる場合には、SEQ ID NO:14と約50%より大きな同一性を共有し、かつ野生型hBD2の少なくとも一つの活性をも有するタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を指す。したがって、hBD2タンパク質という用語は、野生型hBD2タンパク質と同一なタンパク質および野生型hBD2タンパク質由来のタンパク質(例えばhBD2タンパク質の変種、またはhBD2タンパク質コード領域の一部から構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0035】
本明細書で使用する「hBD2の活性」という用語は、野生型hBD2タンパク質の任意の活性(例えば抗菌活性)を指す。この用語は、単独または組み合わせて、hBD2タンパク質のすべての活性を包含することを意図する。
【0036】
特に、「hBD2遺伝子」という用語は、全長のhBD1ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:10に含まれる)を指す。しかしながら、この用語は、hBD1配列の断片、および全長hBD2ヌクレオチド配列内の他のドメイン、およびhBD1の変種をも包含することも意図される。さらには、「hBD2遺伝子ヌクレオチド配列」または「hBD1遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNAおよびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0037】
本明細書で使用する「ヒトβデフェンシン3」または「hBD3」という用語は、タンパク質または核酸に関連して用いられる場合には、SEQ ID NO:15と約50%より大きな同一性を共有し、かつ野生型hBD3の少なくとも一つの活性をも有するタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を指す。したがって、hBD3タンパク質という用語は、野生型hBD3タンパク質と同一なタンパク質および野生型hBD3タンパク質由来のタンパク質(例えばhBD3タンパク質の変種、またはhBD3タンパク質コード領域の一部により構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0038】
本明細書で使用する「hBD3の活性」という用語は、野生型hBD3タンパク質の任意の活性(例えば抗菌活性)を指す。この用語は、単独または組み合わせて、hBD1タンパク質のすべての活性を包含することを意図する。
【0039】
特に、「hBD3遺伝子」という用語は、全長hBD3ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:11に含まれる)を指す。しかしながら、この用語は、hBD3配列の断片、および全長hBD3ヌクレオチド配列内の他のドメイン、およびhBD3の変種をも包含することも意図される。さらには、「hBD3遺伝子ヌクレオチド配列」または「hBD3遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNAおよびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0040】
本明細書で使用する「NIKS細胞」という用語は、細胞株ATCC CRL-12191として寄託されている細胞の特性を有する細胞を指す。
【0041】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドまたは前駆体(例えばGKLF)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を表す。ポリペプチドは、全長コード配列によって、または、全長もしくは断片の所望の活性または機能特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が保持される限りは、コード配列の任意の部分によってコードされ得る。この用語は、構造遺伝子のコード領域、および、遺伝子が全長mRNAの長さに対応するようにコード領域の5'および3'末端の双方のいずれにも約1kbの距離に渡って隣接して位置する含有配列も包含する。コード領域の5'に位置し、かつmRNAに存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'または下流に位置し、かつmRNAに存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNA形態およびゲノム形態の双方を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード配列によって分断されたコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される、遺伝子のセグメントである;イントロンはエンハンサーのような制御エレメントを含んでよい。イントロンは核または一次転写物から除去または「スプライスアウト」される;したがって、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは翻訳の間機能して、新生ポリペプチド内におけるアミノ酸の配列または序列を指定する。
【0042】
本明細書で使用する「〜をコードする核酸分子」、「〜をコードするDNA配列」および「〜をコードするDNA」という用語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの序列または配列を指す。これらのデオキシリボヌクレオチドの序列は、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の序列を決定する。このようにして、DNA配列はアミノ酸配列をコードする。
【0043】
本明細書で使用する「組換えDNA分子」という用語は、分子生物学的技術を手段として、互いに接合されたDNAのセグメントからなるDNA分子を指す。
【0044】
「単離された」という用語は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」のように、核酸と関係して用いられる場合、その天然供給源中で通常付随する少なくとも一つの夾雑核酸からは識別かつ分離される核酸配列を指す。単離された核酸は、それが天然に見出される形態または設定とは異なる形態または設定で存在する。これに対し、単離されていない核酸とは、それらが天然に存在する状態で見出されるDNAおよびRNAのような核酸である。例えば、所定のDNA配列(例えば遺伝子)が宿主細胞の染色体上に、隣接遺伝子に近接して見出され、特定のタンパク質をコードする特異的mRNA配列のようなRNA配列は、細胞内では、多数のタンパク質をコードする他の多くのmRNAとの混合物として見出される。しかしながら、例えば、KGF-2をコードする単離された核酸は、通常KGF-2を発現する細胞内における核酸を包含するが、ここにおいて核酸は、天然の細胞とは異なる染色体の位置に存在するか、または他の場合には天然に見出されるものとは異なる核酸配列が隣接している。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の形態で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドがタンパク質を発現するために用いられる場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、少なくともセンスもしくはコード鎖を含むが(即ち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖でよい)、センスおよびアンチセンス鎖の双方(即ち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖でよい)を含んでもよい。
【0045】
本明細書でヌクレオチド配列に関連する場合(「所定のヌクレオチド配列の一部」のように)、「一部」という用語は、その配列の断片を指す。断片のサイズは、4ヌクレオチド〜全ヌクレオチド引く1ヌクレオチド(10、20、30、40、50、100、200ヌクレオチド等)の範囲であり得る。
【0046】
本明細書で使用する「コード領域」という用語は、構造遺伝子に関連して用いられる場合には、mRNA分子の翻訳の結果として新生ポリペプチドに見出されるアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を指す。コード領域は、真核生物では、5'側においては開始メチオニンをコードするヌクレオチドトリプレット「ATG」により、かつ3'側においては停止コドンを指定する3種類のトリプレット(即ちTAA、TAG、TGA)のうちの1つにより、境界を区切られる。
【0047】
本明細書で使用する「精製された」または「精製する」という用語は、試料からの汚染物質の除去を指す。
【0048】
本明細書で使用する「ベクター」という用語は、ある細胞から別の細胞にDNAセグメントを移行させる核酸分子に関連して用いられる。「媒体」という用語は、時に「ベクター」と互換的に用いられる。
【0049】
本明細書で使用する「発現ベクター」という用語は、所望のコード配列と、機能的に連結されたコード配列の特定の宿主生物における発現に必要な適切な核酸配列とを含む、組換えDNA分子を指す。原核生物での発現に必要な核酸配列は、通常は、プロモータ、オペレータ(任意で)、およびリボソーム結合部位を、しばしば他の配列と共に含む。真核細胞は、プロモータ、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用することが公知である。
【0050】
「制御配列」とは、ポリヌクレオチド配列が機能的に連結しているコード配列の発現の制御に必要な、ポリヌクレオチド配列を指す。このような制御配列の性質は、宿主生物によって異なる。原核生物では、このような制御配列は一般的に、例えばプロモータ、および/または転写終結配列を含む。真核生物では一般的に、このような制御配列は、例えばプロモータおよび/または転写終結配列を含む。「制御配列」という用語は、存在することが有利である、例えばそれに付与されたポリペプチドの分泌のための分泌リーダー配列のような追加的な構成要素をも含み得る。
【0051】
「機能的に連結した」とは、記載された構成要素が、それらが意図された様式で機能することを可能にする関係にある並置を指す。制御配列に適合した条件下でコード配列の発現が達成されるような方式で制御配列が結合している時、制御配列はコード配列に「機能的に連結」している。
【0052】
「PCR」とは、Saikiら、Nature 324:163(1986);およびScharfら、Science 233:1076-1078(1986);米国特許第4,683,195号;および米国特許第4,683,202号に記載のポリメーラーゼ連鎖反応の技術を指す。本明細書で使用するように、xが天然にはyと関係していないか、または、xがyと天然に見出されるものと同一の様式で関連していなければ、xはyに対し「異種(heterologous)」である。
【0053】
「薬学的に許容される担体」とは、当業者によりヒトへの投与のために用いられる、それ自体が抗体生成、発熱等のいかなる有害な副作用も誘起しない任意の担体を意味する。適切な担体は、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、または不活性ウイルス粒子であり得る、大型で代謝の遅い高分子である。このような担体は、当業者に周知である。好ましくは、担体はチログロブリンである。
【0054】
本明細書で使用する「宿主細胞」という用語は、インビトロまたはインビボに位置することを問わず、任意の真核細胞または原核細胞(例えば大腸菌のような細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を指す。例えば、宿主細胞は、トランスジェニック動物内に位置してもよい。
【0055】
「過剰発現」および「過剰発現する」および文法的に等価な用語は、対照または非トランスジェニック動物内の所定の組織において典型的に観察されるmRNAに比べて、約3倍高い発現のレベルを示すmRNAのレベルに関連して使用される。mRNAのレベルは、ノーザンブロット分析を含むが、それに限定されない、当業者に公知の多くの技術のいずれをも用いて測定される。ノーザンブロットでは適切な対照を含み、分析される各組織に由来し載せられるRNAの量の差を調整する(例えば、すべての組織において本質的に同一量が存在する豊富なRNA転写物である28SrRNAの量は、各試料に存在し、ノーザンブロットで観察されたKGF-2 mRNA特異的シグナルを正規化または標準化する手段として用いることができる)。正確にスプライスされたKGF-2トランスジーンRNAに対応するサイズのバンドに存在するmRNA量を定量化する;トランスジーンプローブにハイブリダイズする、他の重要でないRNA種は、トランスジーンmRNAの発現の定量化においては考慮されない。
【0056】
本明細書で使用する「トランスフェクション」という用語は、真核細胞への外来DNAの導入を指す。トランスフェクションは、リン酸カルシウム−DNA共沈法、DEAEデキストラン介在トランスフェクション、ポリブレン介在トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染およびバイオリスティクスを含む、当技術分野で公知の種々の手段により達成できる。
【0057】
「安定トランスフェクション」または「安定にトランスフェクションされた」という用語は、トランスフェクションされた細胞のゲノム内への外来DNAの導入および統合を指す。「安定トランスフェクタント」という用語は、ゲノムDNA内に外来DNAが安定して統合されている細胞を指す。
【0058】
「一過性トランスフェクション」または「一過的にトランスフェクションされた」という用語は、外来DNAが細胞内に導入されているが、トランスフェクションされた細胞のゲノム内には外来DNAが統合されていないことを指す。外来DNAは、数日間、トランスフェクションされた細胞の核内に留まる。この間、外来DNAは、染色体における内因性遺伝子の発現を支配する制御コントロールを受ける。「一過性トランスフェクタント」という用語は、外来DNAを取り込んだが、このDNAの統合には失敗した細胞を指す。
【0059】
「リン酸カルシウム共沈法」という用語は、細胞内に核酸を導入するための技術を指す。細胞による核酸の取り込みは、核酸がリン酸カルシウム-核酸共沈物の形として存在する場合に増強される。Grahamおよびvan der Ebの原型技術(Graham and van der Eb, Virol., 52:456 [1973])は、いくつかのグループによって修正され、特定のタイプの細胞のために条件が最適化されている。当業者は、これらの多くの修正点を周知している。
【0060】
「試験化合物」という用語は、疾患、疾病、体調不良、または体機能の障害を治療または予防するために用いることができるか、他の場合には試料の生理学的または細胞学的状態を改変することができる任意の化学実体(chemical entity)、医薬品、薬剤等を表す。試験化合物は、公知の化合物および潜在的な治療化合物の双方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング法を用いてスクリーニングすることによって、治療的であるかどうか判定できる。「公知の治療化合物」とは、そのような治療または予防に有効であることが(例えば、動物試験またはヒトへの投与に関するこれまでの経験から)示されている治療用化合物を指す。
【0061】
本明細書で使用する「試料」という用語は、その最も広い意味で使用されている。ヒト染色体またはヒト染色体に関連する配列を含むと思われる試料は、細胞、細胞から単離された染色体(例えば中期染色体の展開物)、ゲノムDNA(溶液中にあるか、またはサザンブロット分析を目的としたような固相支持体に結合したもの)、RNA(溶液中にあるか、またはノーザンブロット分析を目的としたような固相支持体に結合したもの)、cDNA(溶液中にあるか、または固相に結合したもの)等を含み得る。タンパク質を含むと思われる試料は、細胞、組織の一部、一つまたは複数のタンパク質等を含む抽出物を含み得る。
【0062】
本明細書で使用する「応答」という用語は、アッセイに関連して使用する場合は、検出可能なシグナル(例えばレポータータンパク質の蓄積、イオン濃度の上昇、検出可能な化学生成物の蓄積)の発生を指す。
【0063】
本明細書で使用する「レポーター遺伝子」という用語は、アッセイできるタンパク質をコードする遺伝子を指す。レポーター遺伝子の例としては、ルシフェラーゼ(例えば、deWet et al., Mol. Cell. Biol. 7:725 [1987] および米国特許第6,074,859号;第5,976,796号;第5,674,713号;および第5,618,682号を参照;これらはすべて、参照として本明細書に組み入れられる)、緑色蛍光タンパク質(例えばGenBankアクセッション番号U43284;多数のGFP変種がCLONTECH Laboratories, Palo Alto, CAより市販されている)、クルラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼが挙げられるが、それらに限定されない。
【0064】
詳細な説明
本発明は、外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を発現するヒト皮膚等価物(例えばNIKS細胞)、ならびにそのような細胞を作製するための組成物および方法を提供する。加えて、本発明は、このような細胞により創傷を治療するための方法も提供する。
【0065】
I. 宿主細胞を産生する方法
いくつかの態様では、本発明は外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を発現する皮膚等価物(例えばNIKS細胞由来)のようなヒト組織を産生する方法を提供する。
【0066】
A) 宿主細胞
一般的には、扁平上皮へと階層化できるいかなる細胞または細胞株の供給源も、本発明に有用である。したがって、本発明は、扁平上皮へと分化できる、いかなる特定の細胞の供給源の使用にも限定されない。実際、本発明は、初代および不死化ケラチノサイトのいずれをも含む、扁平上皮へと分化できる種々の細胞株および供給源の使用を企図する。細胞の供給源としては、ヒトおよび同意ドナーからの生検によるケラチノサイトおよび皮膚繊維芽細胞(Auger et al., In Vitro Cell. Dev. Biol.- Animal 36:96-103; 米国特許第5,968,546号および第5,693,332号、それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)、新生児包皮(Asbill et al., Pharm. Research 17(9):1092-97 (2000); Meana et al., Burns 24:621-30 (1998);米国特許第4,485,096号;第6,039,760号; および第5,536,656号、それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)、ならびにNM1細胞(Baden, In Vitro Cell. Dev. Biol. 23(3):205-213 (1987))、HaCaT細胞(Boucamp et al., J. cell. Biol. 106:761-771 (1988)); およびNIKS細胞(BC-1-Ep/SL細胞株; 米国特許第5,989,837号、参照として本明細書に組み入れられる;ATCC CRL-12191)のような不死化ケラチノサイト細胞株を含む。これら細胞株はそれぞれ、外因性ポリペプチドを発現できる細胞株を生成するために、以下のように培養するか、または遺伝的に改変することができる。
【0067】
特に好ましい態様では、NIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞が利用される。NIKS細胞(BC-1-Ep/SL細胞株; 米国特許第5,989,837号、第6514,711号、第6,495,135号、第6,485,724号および第6,214,567号;それぞれ参照として本明細書に組み入れられる;ATCC CRL-12191)。新規なヒトケラチノサイト細胞株(near-diploid immortalized keratinocytes、すなわちNIKS)の発見は、新たな治療法のためのヒトケラチノサイトを遺伝的に操作する機会を提供する。NIKS細胞に固有の利点は、それらが遺伝的に均一な、病原菌を有さないヒトケラチノサイトの一貫した供給源であることである。この理由から、それらは、ヒトの皮膚により類似した特性を有する皮膚等価培養物を提供する、遺伝子工学アプローチおよびゲノム遺伝子発現アプローチへの応用に有用である。このようなシステムは、化合物および製剤の試験用動物の使用に替わる重要な手段を提供する。ウイスコンシン大学で同定および特徴付けがなされたNIKSケラチノサイト細胞株は、非腫瘍性であり、安定した核型を示し、単層および器官型培養のいずれにも正常に分化する。NIKS細胞は、培養において完全に階層化した皮膚等価物を形成する。これらの培養物は、試験した限りすべての基準に関して、初代ヒトケラチノサイトから形成された器官型培養物と区別できない。しかしながら、初代細胞と異なり、不死化NIKS細胞は、単層培養において無限に増殖し続ける。このことは、細胞を遺伝的に操作し、かつ新たな有用特性を有する細胞の新規クローンを単離する機会を提供する(Allen-Hoffmann et al., J. Invest. Dermatol., 114(3):444-455 (2000))。
【0068】
NIKS細胞は、見かけ上正常な男性の乳幼児から単離したヒト新生児包皮ケラチノサイトのBC-1-Ep系統に由来する。初期の継代では、BC-1-Ep細胞は、培養した正常ヒトケラチノサイトに典型的でない形態または増殖特性を示さなかった。培養されたBC-1-Ep細胞は、階層化ならびにプログラム細胞死の特徴を示した。複製の寿命を決定するために、BC-1-Ep細胞を標準的なケラチノサイト増殖培地中で、100 mm皿当り3×105細胞の密度にて、老化するまで連続培養し、かつ一週間隔で継代した(約1:25で分配)。15代継代するまでには、大型で平坦な細胞を示す多数のコロニーが存在することで判断されるように、集団中のほとんどのケラチノサイトに老化が現れた。しかし、16代継代時、小さな細胞サイズを示すケラチノサイトが見られた。17代継代時までには、培養物中には小さなサイズのケラチノサイト細胞のみが存在するようになり、かつ大きな、老化したケラチノサイトは全く見られなかった。結果として得られた、この推定危機期間を生き延びた小型のケラチノサイトの集団は、形態学的に均一であり、細胞-細胞接着および明瞭な鱗屑生成を含む典型的なケラチノサイトの特徴を示すケラチノサイトのコロニーを生成した。老化期を生き延びたケラチノサイトを、100 mm皿当り3×105細胞の密度で連続培養した。典型的には、培養物は、7日以内に約8×106細胞の細胞密度に達した。この安定した細胞増殖速度は、少なくとも59代継代の間維持され、細胞が不死化を達成したことが実証される。元来は老化した集団から出現したこのケラチノサイトは、当初はBC-1-Ep/自然発生株(Spontaneous Line)と命名され、現在ではNIKSと呼ばれている。NIKS細胞株は、プロウイルスDNA配列の存在について、PCRまたはサザン分析のいずれかを用いて、HIV-1、HIV-2、EBV、CMV、HTLV-1、HTLV-2、HBV、HCV、B-19パルボウイルス、HPV-16およびHPV-31に関するスクリーニングに供された。これらウイルスはいずれも検出されなかった。
【0069】
3代継代時の親BC-1-Ep細胞ならびに31代および54代継代時のNIKS細胞について、染色体分析を実施した。親BC-1-Ep細胞は46本、XYの正常な染色体全数を有する。31代継代では、すべてのNIKS細胞が、第8染色体の長腕の同腕染色体の過剰を伴う、47本の染色体を含んだ。その他の著しい染色体異常またはマーカー染色体は検出されなかった。54代継代時には、すべての細胞が第8同腕染色体を含んだ。
【0070】
NIKS細胞株およびBC-1-EpケラチノサイトのDNAフィンガープリントは、分析した12座すべてについて同一であり、NIKS細胞が親BC-1-Ep集団から生じたことを実証する。NIKS細胞株が親BC-1-EpのDNAフィンガープリントを偶然に有する確率は4×10-16である。3種の異なるヒトケラチノサイトの供給源である、ED-1-Ep、SCC4およびSCC13y由来のDNAフィンガープリントは、BC-1-Epのパターンと異なる。このデータもまた、他のヒトから単離されたケラチノサイトである、ED-1-Ep、SCC4およびSCC13yが、BC-1-Epとは無関係であり、または相互にも無関係であることを示す。NIKSのDNAフィンガープリントのデータは、NIKS細胞株を同定する確実な手段を提供する。
【0071】
p53機能の損失は、培養細胞の増殖能力の増強および不死化の頻度の増加に関連する。NIKS細胞のp53の配列は、公開されているp53配列(GenBankアクセッション番号:M14695)と同一である。ヒトでは、p53は、コドン72位におけるアミノ酸によって区別される2種類の優性多型として存在している。NIKS細胞におけるp53の対立遺伝子は共に野生型で、かつコドン72位においてCGC配列を有し、これはアルギニンをコードする。p53の他の共通型は、この位置にプロリンを有する。NIKS細胞におけるp53の全配列は、BC-1-Ep先祖細胞と同一である。Rbもまた、NIKS細胞において野生型であることも見出されている。
【0072】
足場非依存性増殖は、インビボでの腫瘍性に強く関係している。この理由から、寒天またはメチルセルロース含有培地でのNIKS細部の足場非依存性増殖特性を調査した。4週間後、寒天またはメチルセルロース含有培地のいずれにおいても、NIKS細胞は単細胞のままであった。増殖の遅いNIKS細胞変種を検出するために、アッセイを合計8週間継続した。変種は観察されなかった。
【0073】
親BC-1-Epケラチノサイトおよび不死NIKSケラチノサイト細胞株の腫瘍性を判定するために、細胞を無胸腺ヌードマウスの側腹に注入した。これらの動物での腫瘍形成については、ヒト扁平上皮ガン細胞株SCC4を陽性対照として用いた。試料の注入は、動物が一方の側腹にSCC4細胞を、反対側の側腹には親BC-1-EpケラチノサイトまたはNIKS細胞のいずれかを受けるように設計された。この注入の戦略により、腫瘍形成に関する動物間変動が排除され、かつマウスが腫瘍形成性細胞の活発な増殖を維持することが確認された。親BC-1-Epケラチノサイト(6代継代)またはNIKSケラチノサイト(35代継代)のいずれも、無胸腺ヌードマウスに腫瘍を生成しなかった。
【0074】
表面培養および器官型培養の双方において、分化する能力について、NIKS細胞を分析した。表面培養の細胞については、扁平分化のマーカーである角質化エンベロープの形成をモニターした。培養ヒトケラチノサイトでは、角質化エンベロープのアセンブリの初期段階においては、インボルクリン、シスタチンαおよび他のタンパク質からなる未成熟な構造が形成される結果となるが、これらは成熟角質化エンベロープの最も内側の三番目にある。付着BC-1-Ep細胞またはNIKS細胞株由来のケラチノサイトのうち、2%未満が角質化エンベロープを生成する。この所見は、活発に増殖しているサブコンフルエント(subconfluent)状態のケラチノサイトの5%未満が角質化エンベロープを生成することを実証したこれまでの研究に一致している。分化を誘導した時にNIKS細胞株が角質化エンベロープを生成できるかどうか判定するために、細胞を表面培養から取り出し、かつメチルセルロースにより半固体に作製した培地中に24時間浮遊させた。ケラチンの差異的発現および角質化エンベロープの形成を含む、最終分化の多くの局面は、ケラチノサイトの細胞-細胞間および細胞−基質間の接着の損失によって、インビトロで誘発できる。NIKSケラチノサイトは、親ケラチノサイトと同数の、かつ通常、親ケラチノサイトよりも多い角質化エンベロープを生成した。これら所見は、NIKSケラチノサイトがこの細胞型特異的な分化構造の形成を開始する能力を欠損していないことを実証する。
【0075】
NIKSケラチノサイトが扁平分化することができることを確認するために、細胞を器官型培養で培養した。プラスチック基質上で増殖させ、培地中に沈めたケラチノサイト培養物は、複製するが限定的な分化を示す。具体的には、ヒトケラチノサイトはコンフルエントとなり、かつ限定的に階層化され、3枚またはそれより多いケラチノサイトの層からなるシートを生成する。光学顕微鏡および電子顕微鏡によって、組織培養において形成された多層化シートの構造と無傷のヒト皮膚の構造との間には、注目すべき差異が存在する。対照的に、器官型培養技術は、インビボ様条件下でケラチノサイトを増殖および分化させることを可能とする。具体的には、細胞は、繊維状コラーゲンの基底内に埋め込まれた皮膚繊維芽細胞からなる生理学的基質に接着する。器官型培養を空気培地接触面において保つ。このようにして、上部シートの細胞は空気に曝されるが、増殖中の基部側細胞はコラーゲンゲルを通じた拡散により提供される栄養勾配に最も近接したままになる。このような条件下で、正しい組織構造が形成される。正常分化している上皮のいくつかの特徴が明白である。親細胞およびNIKS細胞株の双方で、立方形の基底細胞の単層が上皮および真皮等価物の接合部に静止している。円形の形態および高い核対細胞質比は、活発に分裂しているケラチノサイト集団の指標である。正常ヒト上皮では、基底細胞が分裂するにつれ、それらが上方向に組織の分化層へと移行する娘細胞を生じる。娘細胞の大きさは増大し、さらに平坦かつ扁平になる。ついには、それらの細胞は脱核し、かつ角質化、ケラチン化した構造を形成する。この正常な分化過程は、親細胞およびNIKS細胞の双方の上部層において明白である。ケラチノサイトの上部層においては平坦な扁平細胞の出現が明白であり、かつ器官型培養において、階層化が起こっていることが実証される。器官型培養の最上部では、脱核した鱗屑が培養物上部から剥離する。これまでに、親ケラチノサイトと器官型培養で増殖したNIKSケラチノサイト細胞株との間に、光学顕微鏡レベルでは、分化に関する組織学的な差異は観察されていない。
【0076】
親(5代継代)およびNIKS(38代継代)器官型培養物の特徴をより詳細に観察し、かつ組織学的観察を確認するために、電子顕微鏡を用いて試料を分析した。親細胞、および不死化ヒトケラチノサイト細胞株であるNIKSは、器官型培養15日後に採取し、かつ階層化の程度を示すために基底層に対して垂直に切片化した。親細胞およびNIKS細胞株の双方とも、器官型培養では拡張された階層化を受け、かつ正常なヒト表皮に特徴的な構造を形成する。親細胞およびNIKS細胞株の器官型培養においてデスモゾームが豊富に形成される。親細胞および細胞株の双方の基底ケラチノサイト層において、基底層および付随するヘミデスモゾームの形成もまた注目された。
【0077】
ヘミデスモゾームは、ケラチノサイトの基底層への接着を増加する特殊化された構造であり、かつ組織の統合性および強度の維持を助ける。これらの構造の存在は、親細胞またはNIKS細胞が多孔性支持物に直接接着している領域において特に明白であった。これらの所見は、繊維芽細胞含有多孔性支持物上で培養したヒト包皮ケラチノサイトを用いた、以前の超構造学的所見に一致する。光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方の分析により、器官型培養におけるNIKS細胞株が、階層化し、分化し、かつデスモゾーム、基底層、およびヘミデスモゾームのような、正常なヒト表皮に見出される構造を形成することができることが実証される。
【0078】
B) KGF-2
いくつかの態様では、本発明は、外因性KGF-2タンパク質を発現するヒト皮膚等価物(例えばケラチノサイト)を提供する。KGF-2は、正常ケラチノサイトおよび上皮細胞に作用して増殖させ、かつ創傷部位に移動させる、208アミノ酸のタンパク質である。KGF-2のタンパク質および核酸配列は、米国特許第6,077,692号において提供されており、これは参照として本明細書に組み入れられる。
【0079】
KGF-2は、上皮細胞に対し正の増殖効果を有すること、およびケラチノサイトの移動を仲介することによって、ケラチノサイトおよび繊維芽細胞を含む組織の創傷の治癒を促進する。加えて、KGF-2は、肉芽組織およびコラーゲンの沈着、およびコラーゲンの成熟を増加させることで、創傷の治癒を促進する(Soler et al., Wound Repair Regen. 7(3):172-178 (1999))。
【0080】
C) 抗菌性ポリペプチド
いくつかの態様では、本発明は、外因性抗菌性ポリペプチドを発現するヒト皮膚等価物(例えばケラチノサイト)を提供する。無傷のヒト皮膚では、角質層が微生物に対する防御の第一線の役割を果たす。角質層は最上部にある、生存していない、乾燥した表皮層であり、完全に分化したケラチノサイトにより構成される。皮膚の障壁の最外層が破られた場合には、先天免疫反応が微生物の侵入を予防する。この反応は、マクロファージおよび好中球による食細胞活動、ならびに微生物因子を殺傷する活性酸素中間体の生成を含む。この防御線に関連するのは、天然に発現し、かつ表皮の上部層に局在する抗菌ペプチドである。最もよく研究されているヒト抗菌ペプチドは、αデフェンシンおよびβデフェンシンの2つのサブファミリーに属し、これらはジスルフィド結合対、ゲノム構成および組織分布により互いに異なる(Ganz, T. and J. Weiss, Semin Hematol, 1997. 34(4):p. 343-54)。βデフェンシンは上皮組織内に特徴的に見出され、かつヒトケラチノサイトで発現する。このデフェンシンのサブファミリーは、細菌、真菌およびウイルスを含む広範囲の病原因子に対し強力な抗菌活性を示す。
【0081】
微生物がデフェンシンペプチドに対する耐性を獲得することは難しく、これらのペプチドを抗生物質として治療に使用することを魅力あるものにしている(Schroder, J.M., Biochem Pharmacol, 1999. 57(2): p.121-34)。臨床試験において、皮膚へのデフェンシンペプチドの適用は安全であることが見出されている(Hancock, R.E., Lancet, 1997.349 (9049): p.418-22)。局所適用されたデフェンシンの安全性は、ヒト表皮ケラチノサイトがインビボでデフェンシンペプチドを発現するという所見に一致する。
【0082】
ヒトゲノムでは、公知のデフェンシン遺伝子はすべて染色体8p22-p23の<1Mbの範囲にクラスター化している。これらの所見は、この遺伝子ファミリーが進化的に保存されていることを示唆する。Harder, J., et al., Mapping of the gene encoding human beta-defensin-2 (DEFB2) to chromosome region 8p22-p23.1. Genomics, 1997.46(3): p.472-5。一般的には、進化的に保存された遺伝子は、遺伝子機能においてある程度の重複を維持することが受け入れられている。デフェンシン遺伝子ファミリーも、この理論の例外ではない。デフェンシン遺伝子は、両親媒性構造により特徴付けられる小型(3〜5kDa)のカチオン分子をコードし、かつ3個の分子内ジスルフィド結合を形成する6個のシステイン残基を有する(図11参照)。これらのカチオン領域は、多くの細菌のアニオン性表面を誘引すると考えられる。ヒトデフェンシン遺伝子ファミリーは、2つのサブファミリー:ジスルフィド結合対、ゲノム構成および組織分布により互いに異なるαデフェンシンおよびβデフェンシンに分けられる。αおよびβデフェンシンは、三次構造において類似性を共有しており、かつ共に三本鎖逆平行βシートを含む(Pardi, A., et al., Biochemistry, 1992.31(46): p.11357-64; Zimmermann, G.R., et al., Biochemistry, 1995. 34(41): p.13663-71)。しかしながら、それらの抗菌作用の機構は互いに異なっている。
【0083】
歴史的には、αデフェンシンが、好中球および小腸のパネート細胞のような特殊化された細胞種の貯蔵顆粒内に見出されているのに対し、βデフェンシンは、上皮組織に発現する。αデフェンシンはさらに、アミノ末端配列内に阻害的プロ領域を有しており、この領域は顆粒から放出された後に切断される。プロ領域は、顆粒標的化モチーフを含む可能性を有するが、プロテアーゼインヒビターとしても独立に機能し得る。広範囲の抗菌活性は、部分的には生物膜の透過化により左右される。侵入する微生物に対して極めて強い殺傷力を有するが、αデフェンシンはまた、真核細胞種にとって有毒であることも示されている(Lichtenstein A., et al., Blood, 1986. 68(6): p.1407-10; Okrent et al., Am Rev Respir Dis, 1990. 141(1): p.179-85)。αデフェンシンが誘導する多面発現性の細胞殺傷活性により、このデフェンシンサブファミリーは、生存しているヒト皮膚代替物内で発現させる遺伝子の候補としての魅力をなくしている。
【0084】
皮膚および他の上皮のケラチノサイトは、内因的に発現したβデフェンシンのメンバーを保有する。これまでに6種類の異なる遺伝子が同定されている。これらヒトβデフェンシン遺伝子のうちの3つ、hBD-1、hBD-2およびhBD-3は、皮膚の表皮ケラチノサイトにおいて発現している。第一エキソンは、シグナル配列およびプロペプチドをコードし、かつ第二エキソンは成熟ペプチドをコードする。ヒトβデフェンシン1〜3において保存された残基を強調したアミノ酸配列アラインメントおよび特徴的な6個のシステイン残基を図10に示す。活性ペプチドの二次構造に必要なジスルフィド共有結合は、図11に明示する。
【0085】
微生物に対するβデフェンシンの抗菌作用には、複数の因子が寄与すると考えられる。第一に、カチオン性および両親媒性の特徴を有することから、抗菌ペプチドは細胞質膜に結合し、かつ膜内に進入し、そこにおいて多量体の孔へと集合し、かつ膜の伝導性を変化させ、かつ細胞内機能を改変することにより標的微生物を破壊する(White, S.H., W.C. Wimley, and M.E. Selsted, Curr Opin Struct Biol, 1995. 5(4): p.521-7; Boman, H.G., Annu Rev Immunol, 1995. 13: p.61-92)。大部分の抗菌ペプチドは、細胞膜に孔を形成することによって微生物を殺傷する。これらのペプチド抗生物質の、哺乳動物細胞膜の主成分であるコレステロールおよびリン脂質に対する感受性のため、これらのペプチドは哺乳動物細胞に対しては有毒ではない。微生物がペプチドの殺菌作用の機構に対する耐性を獲得することは困難であることから、このβデフェンシンは、抗生物質として治療に使用するための魅力的な候補である(Schroder, J. M., Biochem Pharmacol, 1999. 57(2): p.121-34。
【0086】
発現時、βデフェンシンペプチドは、当初は未分化または分化度の低いケラチノサイトの細胞質に局在すると考えられる。これらの細胞が分化し、かつ表皮表面のより近くに移動すると、細胞はこれらの抗菌ペプチドをケラチノサイトの膜上、または細胞内空間内に分泌する。シグナルペプチド配列は、この活性ペプチドの特殊化された局在化に寄与すると考えられる。最後に、ヒトβデフェンシンペプチドは表皮表面の脱水した細胞内に蓄積する。研究により、3種類のβデフェンシン遺伝子は極めて類似しているが、それらの発現は完全に異なる制御機構によって決定されることが実証されている(Frye, M., J. Bargon, and R. Gropp, J Mol Med, 2001. 79(5-6): p.275-82)。
【0087】
火傷は、細菌の増殖にとって理想的な環境であり、微生物の侵入経路を提供する。Lutermanおよび共同研究者は、「火傷した皮膚は、世界中の火傷病棟での第一の死因である火傷敗血症を引き起こす細菌侵入の巣であり、入口である」と結論している(Luterman, A., C.C. Dacso, and P.W. Curreri, Am J Med, 1986. 81(1A): p.45-52)。皮膚の損失および火傷後免疫抑制によって、感染がさらに促進される。予想されるとおり、全層性の火傷では、おそらく上皮の破壊のために、ヒトデフェンシン遺伝子の発現が低下する。例えば、火傷時では、ヒトβデフェンシン遺伝子(hBD-2)の発現は事実上検出できず、皮膚の熱破壊のためにデフェンシンが損失することが示唆される(Milner, S.M. and M.R. Ortega, Burns, 1999. 25(5): p.411-3)。日常的に使用されている壊死組織切除法も、創傷床における上皮の有意な除去に寄与し得る。壊死組織切除は、死組織を除去することによって、潰瘍、火傷および他の創傷の治癒を加速し、残っている生組織を適切に治癒できるようにする。非生存(壊死)組織を含む創傷は、壊死組織片が創傷内の細菌の栄養源となることから、治癒までにより長い時間がかかる。壊死組織切除法は、表面の細菌を体内深部に導入し、感染を引き起こし得るという潜在リスクをもたらす。
【0088】
火傷で典型的に遭遇する細菌としては、大腸菌(E.coli)、緑膿菌(P.aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)およびC.アルビカンス(C.albicans)が挙げられる(Heggers, J.P., Treatment of infection in burns, H. DN, Editor. 1996, WB Saunders: London. p.98-135)。これらの細菌はすべて、一つまたは複数のβデフェンシン抗菌ペプチドによって殺傷される。
【0089】
いくつかのβデフェンシンファミリーのメンバーは、炎症刺激または細菌の侵入に応答して上方制御される。他のメンバーは、非反応性であるか、炎症刺激または細菌暴露に応答して、下方制御されるか、または抑制される。創傷のない、無傷の皮膚では、算出されたβデフェンシンペプチドの表皮濃度は、抗菌作用に求められる濃度範囲内によく収まる。βデフェンシンは、未成熟樹状細胞および記憶T細胞に対し、走化活性を有している。これらの走化性応答に必要な濃度は、抗菌活性に必要な濃度よりもかなり低い(Yang, D., et al., Science, 1999. 286(5439):p.525-8)。このクロストークの結果、βデフェンシンは、先天免疫と適応免疫との間の、重要な連結を仲介すると考えられる。したがってβデフェンシンは、適応免疫反応および炎症の双方を促進する一方で、抗菌活性を通じて創傷の治癒を助長することによって、多機能的な役割を果たしていると考えられる。適応免疫は、健康なヒト皮膚では内因性の抗菌ペプチドを通じて促進され、かつ微生物感染に対する効果的なシールドを提供する可能性を有する。しかしながら、不健康な、または慢性的な皮膚創傷を有する患者では、局所的な抗菌ペプチドレベルを高めることもまた有益であろう。
【0090】
hBD-1遺伝子は、元来は末期腎臓疾患を有するヒト患者からの血液透析物中に同定された3.9kDaの塩基性ペプチドをコードする(Bensch, K.W., et al., FEBS Lett, 1995. 368(2):p.331-5)。hBD-1の殺菌活性は、主に大腸菌や緑膿菌といったグラム陰性細菌に対するものである。構成的hBD-1発現は、身体の種々の部位の皮膚で観察されている。不死化したヒトの皮膚細胞(HaCat)でのhBD-1の過剰発現は、ケラチノサイト細胞分化に関連する。過剰発現は、増殖中の細胞に影響しないことが確認された。本発明は、特定の機構に限定されない。実際、本発明の実施に、機構の理解は必要ではない。しかしながら、βデフェンシン遺伝子発現は、ケラチノサイトの分化の誘導因子あるよりは、むしろ分化の結果であると企図される(Frye, M., J. Bargon, and R. Gropp, J Mol Med, 2001. 79(5-6): p.275-82)。分化したケラチノサイト細胞でのhBD-1の発現は、細菌への暴露によって阻害される。本発明は、特定の機構に限定されない。実際、機構の理解は本発明の実施に必要ではない。しかしながら、この結果は、この因子が、再生中の上皮での治癒過程における重要なメディエーターであることを示すものであると企図される。これらの研究から、hBD-1発現の上方制御が、炎症応答とは関連しない要因の結果であることが確認される。この抗菌ペプチドは、炎症サイトカインによって誘導されず、このことは、hBD-1の5'制御配列内に、サイトカイン反応性転写因子制御要素が存在しないことに一致する。
【0091】
hBD-2ペプチドは、元来は落屑した乾癬皮膚の鱗屑中に同定されたものであり、かつその後、hBD-2遺伝子発現は、正常なヒトケラチノサイトでも同定されている(Harder, J., et al., Genomics, 1997. 46(3): p.472-5)。この遺伝子は、4kDaの塩基性ペプチドをコードする。身体の種々の部位の皮膚で比較した場合、多様な内因性発現レベルが観察されており、最も顕著な発現は、顔の皮膚および包皮において観察されている。発現は、無傷な皮膚の上基底層および角質層に局在している。低レベルのhBD-2タンパク質が、皮膚組織の基底層内のケラチノサイトの細胞質において検出されている。これらのタンパク質は、細胞が組織の上基底部位に達すると細胞膜または細胞内空間に分泌され、かつ、ついには角質層の脱水細胞内に濃縮される。hBD-2ペプチドは、緑膿菌および大腸菌のようなグラム陰性細菌の臨床分離株と効果的に戦うが、一方、黄色ブドウ球菌のようなグラム陽性細菌に対しては、高濃度で静菌効果を有するにすぎない(Liu, A.Y., et al., J Invest Dermatol, 2002. 118(2): p.275-81)。研究から、内因性の発現は、炎症性サイトカインおよび細菌への暴露によって誘発されることが示される。最後に、hBD-2は、抗菌活性を有するのみならず、種々の皮膚状態における炎症応答も調節する(Garcia, J.R., et al., Cell Tissue Res, 2001. 306(2): p.257-64)。
【0092】
hBD-3遺伝子は、抗菌活性および単球を活性化する能力について、ゲノム配列をスクリーニングすることによって同定された5kDaの塩基性ペプチドをコードする。遺伝子は、分化した呼吸器上皮細胞からクローニングされた。皮膚および扁桃において最も強い発現を示している。内因性の発現は炎症によって誘発され、したがってhBD-3は構成的ではなく、むしろ直ちに誘導可能な抗菌ペプチドでもある。このペプチドはまた、単球および好中球に対する強力な化学誘因物質でもあり、先天免疫反応に強く関与する(Garcia, J.R., et al., Cell Tissue Res, 2001. 306(2): p.257-64)。hBD-3は、低マイクロモル濃度で、緑膿菌、S. ピオゲネス、多剤耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性E.フェシウムおよびC.アルビカンスを含む多くの潜在的病原微生物に対し、広域スペクトル抗菌ペプチド活性を有する。hBD-3遺伝子発現は、熱不活性化細菌により刺激された場合、HaCatおよび培養した皮膚由来のケラチノサイトにおいても誘導される(Harder, J., et al., Nature, 1997. 387(6636): p.861)。特定の臓器での原因不明の再発性感染のような先天免疫欠損による障害のいくつかは、デフェンシンまたは他の抗菌ペプチドをコードする、一つまたは複数の遺伝子発現が低下する異常が原因であり得る。合成hBD-3タンパク質は、グラム陰性およびグラム陽性の細菌ならびに真菌に対し、強い抗菌活性を示す。
【0093】
本発明は、ヒト皮膚等価物での外因性抗菌性ポリペプチドの過剰発現は、創傷の治癒を加速し、かつ創傷の感染を予防すると企図している。いくつかの好ましい態様では、ヒトの皮膚等価物内で過剰発現される抗菌性ポリペプチドは、ヒトβデフェンシン1、2または3、またはそれらの組合せである。
【0094】
本発明は、ヒト皮膚等価物内でのいかなる特定の外因性抗菌性ポリペプチドの発現にも限定されない。実際、以下を含むが、それらに限定されない、種々の抗菌性ポリペプチドの発現が企図される:マガイニン(例えばマガイニンI、マガイニンII、ゼノプシン(xenopsin)、ゼノプシン前駆体断片、セルレイン前駆体断片)、マガイニンIおよびII類似体(PGLa、マガイニンA、マガイニンG、ペキシガニン(pexiganin)、Z-12、ペキシガイニンアセテート(pexigainin acetate)、D35、MSI-78A、MG0[K10E、K11E、F12W-マガイニン2]、MG2+[K10E、F12W-マガイニン2]、MG4+[F12W-マガイニン2]、MG6+[f12W、E19Q-マガイニン2アミド]、MSI-238、逆マガイニンII類似体[例えば、53D、87-ISMおよびA87-ISM]、Ala-マガイニンIIアミド、マガイニンIIアミド)、セクロピンP1、セクロピンA、セクロピンB、インドリシジン(indolicidin)、ナイシン(nisin)、ラナレキシン(ranalexin)、ラクトフェリシン(lactoferricin) B、ポリ-L-リジン、セクロピンA(1-8)-マガイニンII(1-12)、セクロピンA(1-8)-メリチン(1-12)、CA(1-13)-MA(1-13)、CA(1-13)-ME(1-13)、グラミシジン、グラミシジンA、グラミシジンD、グラミシジンS、アラメチシン(alamethicin)、プロテグリン(protegrin)、ヒスタチン(histatin)、デルマセプチン(dermaseptin)、レンチウイルス両親媒性ペプチドもしくは類似体、パラシン(parasin)I、リコトキシン(licotoxin)IまたはII、グロボマイシン(globomycin)、グラミシジンS、サーファクチン(surfactin)、ラリノマイシン(ralinomycin)、バリノマイシン、ポリミキシンB、PM2[(+/-)1-(4-アミノブチル)-6-ベンジルインダン]、PM2c[(+/-)-6-ベンジル-1-(3-カルボキシプロピル)インダン]、PM3[(+/-)1-ベンジル-6-(4-アミノブチル)インダン]、タキプレシン(tachyplesin)、ブフォリン(buforin)IまたはII、ミスグリン(misgurin)、メリチン、PR-39、PR-26、9-フェニルノニルアミン、(KLAKKLA)n、(KLAKLAK)n、ここでn=1、2または3である、(KALKALK)3、KLGKKLG)n、およびKAAKKAA)n、ここでn=1、2または3である、パラダキシン、Bac 5、Bac 7、セラトキシン(ceratoxin)、ムデリン(mdelin)1および5、ボンビン(bombin)様ペプチド、PGQ、カテリシジン(cathelicidin)、HD-5、Oabac5α、ChBac5、SMAP-29、Bac7.5、ラクトフェリン、グラニュリシン、チオニン、ヘベイン(hevein)およびノッチン(knottin)様ペプチド、MPG1、1bAMP、スナキン(snakin)、脂質輸送タンパク質、ならびに植物デフェンシン。上記化合物の例示的配列を表1に示す。いくつかの態様では、抗菌ペプチドは、L-アミノ酸から合成されるが、一方、他の態様では、ペプチドはD-アミノ酸から合成されるか、またはそれを含む。
【0095】
本発明のいくつかの好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドはデフェンシンである。特定の態様では、デフェンシンは、以下のコンセンサス配列を含む:(SEQ ID NO:107-X1CN1CRN2CN3ERN4CN5GN6CCX2、ここで、NおよびXは保存的または非保存的な置換アミノ酸を表し、かつN1=1、N2=3または4、N3=3または4、N4=1、2または3、N6=5〜9、X1およびX2は存在しても、存在しなくともよいか、または1〜2に等しい。
【0096】
ある態様では、突然変異デフェンシンを、本発明の方法および組成物において利用する。例えば、いくつかの態様では、βデフェンシン3内のジスルフィド結合形成が、一つまたは複数のシステイン残基の突然変異によって破壊される。好ましい態様では、6個のシステイン残基中の5個(例えばCys40、Cys45、Cys55、Cys62およびCys63)を、アラニン、またはジスルフィド結合を形成できない他の非荷電アミノ酸に突然変異させる。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、本発明の実施に機構の理解は必要ではない。しかしながら、βデフェンシン3内のジスルフィド結合形成の破壊は、タンパク質の抗菌活性を増加すると企図される(例えばHoover et al., Antimicrobial agent and chemotherapy 47:2804 (2003) and Wu et al., PNAS 100:8880 (2003)を参照)。本発明のhBD-3突然変異体は、野生型hBD-3と比べ改変された(例えば高い、または低い)抗菌活性を有してもよく、または同等の抗菌活性を有してもよい。ジスルフィド結合の破壊が走化性応答を誘発するhBD-3の能力を低下させるか、または排除することもさらに企図される。走化性応答の排除は、宿主(例えばヒト宿主)に移植された皮膚等価物に対する免疫応答の回避のために望ましい可能性がある。
【0097】
他の態様では、hBD-3においてグリシンからアラニンへの置換が生じる(例えばGly38Ala)。いくつかの態様では、同一のhBD-3ポリペプチドにおいて、Gly-AlaおよびCys-Ala置換の双方が産生される。
【0098】
いくつかの態様では、抗菌性ポリペプチドは抗菌ペプチドのN末端に分泌シグナルペプチドを含むように変更され、キメラ(ハイブリッド)タンパク質を創出する。このようなシグナル配列は、抗菌ペプチドの細胞表面との結合を容易にするというよりは、むしろ抗菌ペプチドの自由な分泌を可能にすると企図される。抗菌ペプチドは、未成熟ペプチドをゴルジ体に方向づけ、最終的に細胞内空間に分泌させる、内因性のシグナル分泌ペプチドを有する。これらのペプチドは、細胞表面と強固に結合していると考えられ、「自由」には分泌されない。いくつかの態様では、IL-2シグナル分泌ペプチドが用いられる。
【0099】
他の態様では、抗菌性ポリペプチドは、ヒトカテリシジン(hCAP18)ポリペプチド(SEQ ID NO:47)である。
【0100】
本発明は、いかなる特定の抗菌ペプチドにも限定されない。実際、種々の抗菌性ポリペプチドを含む媒体が企図される。代表的な抗菌性ポリペプチドを、下表1に提供する。
【0101】
(表1)抗菌ペプチド
【0102】
したがって、いくつかの態様では、本発明は抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚等価物の生成、ならびに、外因性抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトを作製するための組成物および方法を企図する。好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドは、デフェンシンまたはカテリシジンである。さらにより好ましい態様では、デフェンシンはヒトβデフェンシンである。さらにより好ましい態様では、ヒトβデフェンシンは、ヒトβデフェンシン1、2または3である。いくつかの態様では、ケラチノサイトは、ヒトβデフェンシン1、2または3からなる群より選択される1種より多いデフェンシンによりトランスフェクションされる。好ましい態様では、ケラチノサイトは、抗菌性ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターによりトランスフェクションすることを通じて、抗菌性ポリペプチドを発現するように誘導される。抗菌性ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターは、生じるベクターが所望の宿主内で機能的となるように、抗菌性ポリペプチドをコードする配列を一つまたは複数の制御配列に機能的に連結することによって生成することができる。
【0103】
好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドは、DNA供給源から単離され、クローン化され、配列決定され、かつ選択ベクター内に組み入れられる。ある態様では、抗菌性ポリペプチドDNAの単離は、抗菌性ポリペプチド配列を増幅するように設計されたプライマー配列を用いて、PCRを介して行われる。所望の抗菌性ポリペプチドに特異的なプライマー配列は、Genbankから得ることができる。このようなプライマー配列により、標準的なPCR法を通じてDNA供給源を増幅する結果、抗菌性ポリペプチドcDNAが単離される。好ましい態様では、cDNAの供給源はヒトcDNAである。
【0104】
D) 外因性ポリペプチドを発現する宿主細胞を産生する方法
いくつかの態様では、本発明は、一つまたは複数の外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および/または抗菌性ポリペプチド)を発現する宿主細胞(例えばケラチノサイト)および皮膚等価物を産生する方法を提供する。本発明は、そのような細胞および皮膚等価物の産生について、特定の方法に限定されない。以下に例示的な方法を記載する。さらなる方法は、当業者に公知である。
【0105】
ある態様では、抗菌性ポリペプチドcDNAは、クローニングベクター内にクローン化される。発現ベクターの中で、抗菌性ポリペプチドDNA配列に連結できる制御配列は、抗菌性ポリペプチドを発現させる宿主細胞において機能的なプロモータである。本発明においては、一つまたは複数のエンハンサー配列、機能的なスプライス供与および受容部位を有するイントロン、デフェンシンの分泌を方向付けるためのシグナル配列、ポリアデニル化配列、他の転写ターミネータ配列ならびに宿主細胞ゲノムと相同な配列といった、他の制御配列を任意で用いることができる。複製起点のような他の配列をもベクターに付加し、所望のデフェンシンの発現を最適化することもできる。さらに、形質転換した宿主細胞でのベクターの存在を選択するために、発現ベクター内に選択可能なマーカーを存在させることができる。
【0106】
好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドは、ポリペプチドの発現を駆動する制御配列(例えばプロモータ)に融合している。好ましい態様では、制御配列は、イボルクリンプロモータ(SEQ ID NO:12)またはケラチン14プロモータである。しかしながら、本発明では、所望の宿主において抗菌性ポリペプチドの発現を可能とするいかなるプロモータも用いることができる。本明細書において用いることのできる哺乳動物プロモータ配列は、強く発現し、かつ広範な宿主域を有する哺乳動物ウイルス由来のプロモータである。例としては、SV40初期プロモータ、サイトメガロウイルス(「CMV」)前初期プロモータ、マウス乳癌ウイルスロングターミナルリピート(「LTR」)プロモータ、アデノウイルス主要後期プロモータ(AdMLP)、および単純ヘルペスウイルス(「HSV」)プロモータが挙げられる。加えて、ネズミメタロチオネイン遺伝子のような非ウイルス性遺伝子に由来するプロモータ配列、ユビキチンおよび伸長因子α(EF-1α)もまた、本明細書においては有用である。これらのプロモータは、さらに、構成的なプロモータ、またはホルモン応答性細胞においてグルココルチコイドにより誘導できるような制御的なプロモータのいずれでもよい。
【0107】
いくつかの好ましい態様では、KGF-2または抗菌性ポリペプチドを発現する宿主細胞は(例えばケラチノサイト細胞)は、以下により詳しく論述するように、従来の遺伝子発現技術によって生成することができる。本発明の実施は、特に他に示さない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来の技術を採用し、それらは当技術分野の範囲内である。このような技術は、以下を含む文献に十分に説明されている。
【0108】
本発明は、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚等価物、ならびにそのような細胞を作製するための組成物および方法を企図する。いくつかの態様では、宿主細胞は、外因性ポリペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターによるトランスフェクションを通じて、外因性ポリペプチドを発現するように誘導される。KGF-2 DNAを含む発現ベクターは、生じるベクターが所望の宿主で機能的となるように、KGF-2を一つまたは複数の制御配列と機能的に連結することによって生成することができる。本明細書中での使用に適切な細胞形質転換の手法は当技術分野において公知であり、かつ、例えば哺乳動物細胞システムの場合には、デキストラン介在トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈法、ポリブレン介在トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソームへの外因性ポリヌクレオチドの封入、および核内へのDNAの直接マイクロインジェクションが挙げられる。好ましい態様では、細胞は、プロモータ(例えばK14またはインボルクリン)DNAに機能的に連結する外因性DNA(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を含むpUB-Bsd発現ベクターによりトランスフェクションされる。
【0109】
本明細書中では、形質転換宿主細胞が所望の外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を発現しているかどうか判定するために、当技術分野で公知である免疫アッセイおよび活性アッセイを利用できる。いくつかの態様では、形質転換宿主細胞によるKGF-2または抗菌性ポリペプチドの細胞内生成の検出は、免疫蛍光アッセイにより遂行される。好ましい態様では、形質転換宿主細胞による外因性ポリペプチドの細胞内生成は、RT-PCRスクリーニングにより検出される。さらなる態様では、形質転換宿主細胞により分泌された、または細胞外で生成されたKGF-2または抗菌性ポリペプチドの検出は、直接ELISAスクリーニングを通じて遂行される。いくつかの態様では、KGF-2または抗菌性ポリペプチドは、ウエスタンブロットにより検出される。
【0110】
他の態様では、外因性ポリペプチドを含む発現ベクターは、組織(例えばヒト皮膚等価物)内に直接導入される。発現ベクターは、エレクトロポレーション、粒子衝撃(例えば、第6,685,669号、第6,592,545号および第6,004,286号;それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)およびトランスフェクションを含むが、それに限定されない適切な技術を用いて組織内に導入され得る。
【0111】
II. エレクトロポレーションによる細胞の選択
本発明の開発経過の間に行った実験(例えば、実施例26を参照)から、集団内の細胞を選択するための新規の技術が導入される結果となった。実験は、外因性核酸の存在下、または非存在下においてエレクトロポレーションされ、かつ選択された細胞が、多能性の特性を示すことを実証した。したがって、いくつかの態様では、本発明は、集団において所望の成長および増殖特性を有する細胞を選択する方法を提供する。
【0112】
いくつかの態様では、エレクトロポレーションは、増強された多分化能または多能性を有する細胞の選択に用いられる。他の態様では、エレクトロポレーションは、増強された多分化能または多能性を有する細胞の選択に用いられる。本明細書で使用する「多分化能」という用語は、3つの主要な胚葉:内胚葉、外胚葉、および中胚葉に分化できる細胞の能力を意味する。いくつかの態様では、増強された多分化能または多能性を有する細胞は、幹細胞様の特性を示す。
【0113】
例えば、いくつかの態様では、エレクトロポレーションは幹細胞様特性を有する細胞の選択に用いられる。幹細胞は、成熟し機能的な細胞への遷移を生ずることができる未分化細胞である。幹細胞は、胚に由来するか(例えば、米国特許第5,843,780号および第6,200,806号参照;それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)、または成体細胞に由来し得る。成体幹細胞の例としては、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉幹細胞および骨髄幹細胞が挙げられる。これらの幹細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、骨髄間質細胞および胸腺間質細胞(間葉幹細胞);肝細胞、血管細胞および筋肉細胞(造血幹細胞);筋細胞、肝細胞およびグリア細胞(骨髄間質細胞)および3胚葉すべてに由来する細胞(成体神経幹細胞)を含む、種々の細胞種に分化する能力を示している。
【0114】
他の態様では、エレクトロポレーションは、拡張された増殖能力を有する細胞の選択に用いられる。例えば、本発明の開発経過の間に行った実験は、エレクトロポレーションされた細胞が、典型的により大型の生存コロニーであることを実証した。
【0115】
さらに他の態様では、エレクトロポレーションは、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態(例えば、固く詰め込まれたコロニー形態、均一な細胞、平滑なコロニー外縁部、全体的に円形な形態)を有するケラチノサイトの選択に用いられる。
【0116】
III. 外因性ポリペプチドによりトランスフェクションされたケラチノサイト細胞による創傷の治療
慢性皮膚創傷(例えば、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍)を首尾良く治療することは、重大な問題である。このような創傷の治癒は、しばしば一年をかなり超える治療を要することもある。現在の治療の選択肢としては、ドレッシングおよび壊死組織切除(壊死組織を除去するための薬品または手術の使用)、および/または、感染の場合には、抗生物質が含まれる。このような治療の選択肢は、延長された期間、および多くの患者コンプライアンスを要する。このように、従事者による慢性創傷治癒の成功を増大し、かつ創傷が治癒する速度を加速できる療法は、本分野で未達成のニーズに応えるものであろう。
【0117】
いくつかの態様では、本発明は、外因性抗菌性ポリペプチドおよび/またはKGF-2ポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚等価物による皮膚創傷の治療を企図する。
【0118】
KGF-2は、皮膚創傷の治癒に関連する。皮膚では、KGF-2は真皮コンパートメント内で天然に発現する。KGF-2を皮膚創傷に局所適用すると、真皮の細胞増殖が増大する。加えてKGF-2は、真皮細胞において強い有糸分裂活性を明示し、かつ全層切除創傷での肉芽組織の形成を刺激する。KGF-2により加速される創傷閉鎖は一過性であり、かつ、創傷が完全に治癒した後に瘢痕形成を生ずることはない(Yu-Ping et al.1999)。しかしながら、創傷液内にある酵素およびプロテアーゼのために、局所的なタンパク質投与は有効でないことが示されている(Jeschke et al. 2002)。KGF-2は、正常上皮細胞の増殖、分化および移動を選択的に誘導する一方、KGFR(+)ヒト上皮様腫瘍に対するインビトロまたはインビボの増殖効果を有さない(Alderson et al. 2002)。このように、KGF-2は、創傷治癒を増強するための治療的使用の魅力的な候補である。
【0119】
本発明は、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトまたは皮膚等価物による皮膚創傷の治療を企図する。いくつかの態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、創傷部位に局所的に適用される。いくつかの態様では、ケラチノサイトはスプレーを介して適用される一方、他の態様では、ケラチノサイトはゲルを介して適用される。他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、部分層創傷への植付に用いられる。他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、全層創傷への植付に用いられる。他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、胃腸管の内側を覆う粘膜の内部創傷、潰瘍性大腸炎、および癌治療に起因し得る粘膜の炎症を含むが、それらに限定されない、多くのタイプの内部創傷の治療に用いられる。さらに他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、一時的または永久的な創傷ドレッシングとして用いられる。
【0120】
KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、創傷閉鎖および火傷治療への適用に使用できる。火傷および創傷閉鎖の治療のための自己移植および同種移植の使用は、Myersら、A. J. Surg. 170(1):75-83 (1995)および米国特許第5,693,332号;第5,658,331号;および第6,039,760号に記載されており、これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる。いくつかの態様では、皮膚等価物は、DERMAGRAFTのような代替真皮と共役させて用いることができる。他の態様では、皮膚等価物は、標準的なケラチノサイト供給源(例えばNIKS細胞)および移植物を受容する患者由来のケラチノサイトの双方を用いて生成される。したがって、皮膚等価物は、二つの異なる供給源由来のケラチノサイトを含む。またさらなる他の態様では、皮膚等価物は、ヒト組織単離物由来のケラチノサイトを含む。したがって、本発明は、火傷に起因する創傷を含む創傷を閉鎖するための方法を提供し、その方法は、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞と、創傷を患う患者とを提供する段階、および、その患者を創傷が閉鎖するような条件下で細胞により治療する段階を含む。
【0121】
本発明の、皮膚等価物を生成するための詳細な方法は、以下の実験の項に開示されている。しかしながら、本発明は、その方法による皮膚等価物の生成に限定されない。実際、共に参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第5,536,656号および第4,485,096号に記載の方法を含む種々の器官型培養技術を用いて、皮膚等価物を生成できる。いくつかの態様では、異なるケラチノサイト集団を用いて、皮膚等価物を構築する。したがって、いくつかの態様では、本発明の皮膚等価物は、不死化細胞株(例えばNIKS細胞)由来のケラチノサイト、および患者由来の細胞から形成される。他の態様では、本発明の皮膚等価物は、少なくとも、外因性抗菌性ポリペプチドおよび/またはKGF-2を発現する不死化細胞株由来のケラチノサイトの第一集団、および外因性抗菌性ポリペプチドを発現しない不死化細胞株由来のケラチノサイトの第二集団から形成される。二つの集団の比を変動させることにより、送達する抗菌性ポリペプチドおよび/またはKGF-2の用量を変動させることができると企図される。さらに他の態様では、皮膚等価物は、第一の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-1)を発現する、少なくとも第一のケラチノサイト集団、および第二の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-2またはhBD-3)を発現する、少なくとも第二のケラチノサイト集団から形成される。この場合も、用量を変動させるために細胞集団の比を変動させることができる。さらに他の態様では、皮膚等価物は、第一の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-1)を発現する、少なくとも第一のケラチノサイト集団、第二の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-2またはhBD-3)を発現する、少なくとも第二のケラチノサイト集団、および患者由来のケラチノサイトから形成される。
【0122】
さらなる態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチド、またはそれらの複合物を、薬学的に許容される担体と混合して、治療目的、例えば創傷の治癒、乾癬および基底細胞癌腫のような皮膚および腫瘍の増殖性疾患の治療のために投与できる治療組成物を生成することができる。
【0123】
またさらなる態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞を操作し、対象に対する治療剤を提供する。本発明は、いかなる特定の治療剤の送達にも限定されない。実際、酵素、ペプチド、ペプチドホルモン、他のタンパク質、リボゾームRNA、リボザイム、およびアンチセンスRNAを含むが、それらに限定されない、種々の治療剤を対象に送達できると企図される。これらの治療剤は、遺伝的欠損を矯正する目的を含むが、これに限定されない、種々の目的のために送達できる。いくつかの特に好ましい態様では、治療剤は、遺伝性の先天性代謝欠陥(例えばアミノ酸病)を有する患者を解毒することを目的に送達されるが、ここにおいて、移植体は野生型組織として機能する。治療剤の送達が欠損を矯正すると企図される。いくつかの態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、治療剤(例えばインスリン、凝固因子IX、エリスロポエチン等)をコードするDNA構築物によりトランスフェクションされ、かつその細胞が対象に移植される。その後、治療剤は、移植物から患者の血流または他の組織に送達される。好ましい態様では、治療剤をコードする核酸は、適切なプロモータと機能的に連結している。本発明は、いかなる特定のプロモータの使用にも限定されない。実際、誘導的、構造的、組織特異的、およびケラチノサイト特異的プロモータを含むが、それらに限定されない種々のプロモータの使用が企図される。いくつかの態様では、治療剤をコードする核酸は、ケラチノサイト内に直接導入される(即ち、リン酸カルシウム共沈法またはリポソームトランスフェクションを介して)。他の好ましい態様では、治療剤をコードする核酸は、ベクターとして提供され、かつベクターが当技術分野において公知の方法によってケラチノサイト内に導入される。いくつかの態様では、ベクターは、プラスミドのようなエピソームベクターである。他の態様では、ベクターはケラチノサイトのゲノム内に組み込まれる。組み込み型ベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターおよびトランスポゾンベクターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0124】
IV. 試験方法
本発明の宿主細胞および培養皮膚組織は、種々のインビトロ試験に用いることができる。具体的には、宿主細胞および培養皮膚組織は、スキンケア製品、薬剤代謝、試験化合物への細胞の応答、創傷治癒、光毒性、皮膚刺激、皮膚炎症、皮膚腐食性、および細胞損傷の評価に使用される。宿主細胞および培養皮膚組織は、6ウエル、24ウエルおよび96ウエルプレートを含む、試験のための様々なフォーマットで提供される。加えて、培養皮膚組織は、標準的切除技術により分割し、かつ試験することができる。本発明の培養皮膚組織は、分化した角質層を伴う表皮層および真皮繊維芽細胞を含む真皮層の双方を有し得る。上記の様に、好ましい態様では、表皮層は不死化したNIKS細胞に由来する。他の好ましい細胞株は、NIKS細胞を含め、i) 不死化していること;ii) 非腫瘍形成性であること;iii) 分化誘導時に角質化したエンベロープを形成すること;iv) 器官型培養において正常な扁平細胞に分化すること;および v) 細胞種特異的な増殖要件を維持することにより特徴づけられ、該細胞種特異的増殖要件としては、1) マイトマイシンC処理した3T3フィーダー細胞の存在下、標準のケラチノサイト増殖培地で培養した場合に正常ヒトケラチノサイトの形態学的特徴を示すこと;2) 増殖について上皮成長因子に依存すること;および3) 形質転換成長因子β1により増殖が阻害されることが挙げられる。
【0125】
本発明は、種々のスクリーニングアッセイ法を包含する。いくつかの態様では、スクリーニングの方法は、本発明の宿主細胞または培養皮膚組織、および少なくとも一つの試験化合物または製品(例えば保湿剤、化粧品、染料または香水のようなスキンケア製品;製品は、クリーム、ローション、リキッドおよびスプレーを含むが、それらに限定されない、いずれの形態でもよい)を提供する段階、製品または試験化合物を宿主細胞または培養皮膚組織に適用する段階、ならびに製品または試験化合物の宿主細胞または培養皮膚組織への効果をアッセイする段階を含む。培養皮膚組織に対する製品または試験化合物の効果の判定には、種々のアッセイが用いられる。これらのアッセイとしては、炎症モジュレータ(例えばプロスタグランジンE2、プロスタサイクリン、およびインターロイキン-1-α)および化学誘引物質の放出をアッセイするMTT細胞毒性アッセイ(Gay, The Living Skin Equivalent as an In Vitro Model for Ranking the Toxic Potential of Dermal Irritants, Toxic. In Vitro (1992))およびELISAが含まれるが、それらに限定されない。アッセイはさらに、化合物または製品の毒性、有効性、または効力にもさらに方向づけられる。加えて、化合物または製品の、増殖、バリアー機能、または組織強度に及ぼす効果も試験できる。
【0126】
特に、本発明は、コンビナトリアルライブラリー(例えば104種を超える化合物を含むライブラリー)からの、化合物のハイスループットスクリーニングのための宿主細胞または培養皮膚組織の使用を企図する。いくつかの態様では、細胞は、細胞表面受容体の活性化に続くシグナル伝達をモニターする第二メッセンジャーアッセイに用いられる。他の態様では、細胞は、転写/翻訳レベルでの細胞応答をモニターするレポーター遺伝子アッセイに用いることができる。またさらなる態様では、細胞は、外部刺激に対する細胞の全体増殖/無増殖応答をモニターする細胞増殖アッセイに用いることができる。
【0127】
第二メッセンジャーアッセイでは、宿主細胞または培養皮膚組織は、1つの化合物または複数の化合物(例えばコンビナトリアルライブラリー由来の)により処理され、かつ第二メッセンジャー応答の有無についてのアッセイを受ける。いくつかの好ましい態様では、培養皮膚組織の創出に用いた細胞(例えばNIKS細胞)を、組換え細胞表面受容体、イオンチャンネル、電位開口型チャンネル、またはシグナル伝達カスケードに関与する関心対象の他のタンパク質をコードする発現ベクターによりトランスフェクションする。コンビナトリアルライブラリーの少なくともいくつかの化合物は、ベクターがコードする単数または複数のタンパク質のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーター、またはインヒビターとして機能できることが企図される。また、コンビナトリアルライブラリーの少なくともいくつかの化合物は、シグナル伝達経路内において、ベクターがコードするタンパク質の上流または下流に作用するタンパク質のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーターまたはインヒビターベクターとして機能できることも企図される。
【0128】
いくつかの態様では、第二メッセンジャーアッセイは、膜受容体およびイオンチャンネル(例えばリガンド開口型イオンチャンネル;Denyer et al., Drug Discov. Today 3:323-32 [1998];およびGonzales et al., Drug. Discov. Today 4:431-39 [1999]参照)の刺激による細胞内の変化(例えばCa2+濃度、膜電位、pH、IP3、cAMP、アラキドン酸放出)に対し応答する、レポーター分子からの蛍光シグナルを測定する。レポーター分子の例としては、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)システム(例えばCuo脂質およびオキソノール、EDAN/DABCYL)、カルシウム感受性インジケータ(例えばFluo-3、FURA 2、INDO 1およびFLUO3/AM、BAPTA AM)、塩素感受性インジケータ(例えばSPQ、SPA)、カリウム感受性インジケータ(例えばPBFI)、ナトリウム感受性インジケータ(例えばSBFI)およびpH感受性インジケータ(例えばBCECF)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0129】
一般的には、化合物に暴露する前に、培養皮膚組織を含む細胞にインジケータを付加する。化合物による処理に対する宿主細胞の応答は、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡(例えばFCSシステム)、フローサイトメトリー、マイクロ流体装置、FLIPRシステム(例えばSchroeder and Neagle, J. Biomol. Screening 1:75-80[1996]を参照)、およびプレート読取システムを含むが、それらに限定されない、当技術分野で公知の方法によって検出できる。いくつかの好ましい態様では、活性が未知の化合物によって引き起こされる応答(例えば蛍光強度の増加)を、公知アゴニストが産生する応答と比較し、公知アゴニストの最大応答のパーセンテージとして表現する。公知アゴニストによって起こされる最大応答は、100%応答と定義される。同様に、公知アンタゴニストまたは試験アンタゴニストを含む試料にアゴニストを加えた後に記録される最大応答は、100%応答よりも低く検出される。
【0130】
本発明の宿主細胞および培養皮膚組織はまた、レポーター遺伝子アッセイにも有用である。レポーター遺伝子アッセイは、レポーター遺伝子に対するコード配列に接合された標的遺伝子(即ち、標的の疾患または炎症応答の生物学的発現および機能を制御する遺伝子)の転写制御要素を含む核酸をコードするベクターでトランスフェクションされた宿主細胞の使用に関する。したがって、標的遺伝子が活性化されると、レポーター遺伝子産物が活性化される結果となる。これは、炎症応答のような応答のインジケータとして機能する。したがって、いくつかの態様では、レポーター遺伝子構築物は、レポーター遺伝子に機能的に連結している、皮膚炎症または刺激によって誘導されるタンパク質、または、炎症または刺激に応答して生成される化合物の合成に関与しているタンパク質の5'制御領域(例えばプロモータおよび/またはエンハンサー)を含む。本発明での使用されるレポーター遺伝子の例としては、クロラムフェニコールトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ホタルおよび細菌のルシフェラーゼ、βガクトシダーゼ、βラクタマーゼ、および緑色蛍光タンパク質が挙げられるが、それらに限定されない。これらタンパク質の生成は、緑色蛍光タンパク質を除いて、特異的基質の化学発光、比色、または生物発光生成物(例えばX-galおよびルシフェリン)の使用を通じて検出される。活性公知の化合物と活性未知の化合物との比較は、上記のように実施できる。
【0131】
他の好ましい態様では、宿主細胞または培養皮膚組織には、皮膚を通して導入される薬剤の効力、または皮膚に方向付けられる薬剤の影響をスクリーニングするための使用が見出される。これらの態様では、培養皮膚組織または宿主細胞は、薬剤送達システムまたは薬剤により処理され、かつ皮膚等価物内への薬剤の透過、浸透または滞留がアッセイされる。薬剤の透過をアッセイする方法は、Asbill et al., Pharm Res. 17 (9):1092-97 (2000)に提供されている。いくつかの態様では、培養皮膚組織は、改変Franz拡散細胞の上部に載せられる。培養皮膚組織を1時間水和させ、その後プロピレングリコールを用いて1時間、前処理する。その後、モデル薬剤のプロピレングリコールにおける飽和懸濁液を培養皮膚組織に加える。その後、培養皮膚組織は既定の間隔でサンプリングできる。その後、培養皮膚組織をHPLCで分析し、試料中の薬剤の濃度を決定する。薬剤の対数P値は、ACDプログラム(Advanced Chemistry Inc., Ontario, Canada)を用いて決定できる。これらの方法は、経皮パッチまたは他の送達様式を介した薬剤送達の研究に適合させることができる。
【0132】
本発明の培養皮膚組織は、皮膚の中で天然に発生する腫瘍の培養および研究、ならびに皮膚に影響を与える病原体の培養および研究にも有用であると企図される。したがって、いくつかの態様では、本発明の培養皮膚組織は、悪性細胞により接種されることが企図される。非限定的例を挙げると、培養皮膚組織は、参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,989,837号に記載の悪性SCC13y細胞により接種でき、ヒト扁平細胞ガンのモデルを提供する。その後、自然環境内にある腫瘍に対する効力について、化合物または他の治療戦略(例えば放射線またはトモセラピー)をスクリーニングするために、これらの接種された培養皮膚組織を用いることができる。したがって、本発明のいくつかの態様は、悪性細胞または腫瘍を含む培養皮膚組織、および少なくとも一つの試験化合物を提供する段階、化合物により培養皮膚組織を治療する段階、ならびに悪性細胞または腫瘍に対する治療の効果をアッセイする段階を含む方法を提供する。本発明の他の態様では、悪性細胞または腫瘍を含む培養皮膚細胞および少なくとも一つの試験療法(例えば放射線または光療法)を提供する段階、療法により培養皮膚組織を治療する段階、ならびに悪性細胞または腫瘍に対する療法の効果をアッセイする段階を含む方法が提供される。
【0133】
他の態様では、培養皮膚組織は、皮膚病原体の培養および研究に用いられる。非限定例を挙げると、培養皮膚組織にHPV18のようなヒトパピローマウイルス(HPV)を感染させる。HPVに感染した培養皮膚組織を調製する方法は、米国特許第5,994,115号に記載されており、これは参照として本明細書に組み入れられる。したがって、本発明のいくつかの態様は、関心対象の病原体に感染した培養皮膚組織、および少なくとも一つの試験化合物もしくは治療法を提供する段階、ならびに培養皮膚組織を試験化合物または治療法で治療する段階を含む方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、方法は、試験化合物または治療法が病原体に及ぼす効果をアッセイする段階をさらに含む。このようなアッセイは、治療後に、培養皮膚組織内の病原体の有無、または量をアッセイすることで実施できる。例えば、ELISAを行い病原体を検出または定量できる。いくつかの特に好ましい態様では、病原体はHPVのようなウイルス病原体である。
【0134】
実験
以下の実施例は、本発明のある好ましい態様および局面を明示し、かつさらに例証するために提供されるが、これらは本発明の範囲を制限するとみなされるものではない。
【0135】
以下の実験の開示では、以下の略語を適用する;eq(当量);M(モル濃度);μM(マイクロモル濃度);N(規定);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);U(単位)、mU(ミリ単位);min.(分);sec.(秒);%(パーセント);kb(キロベース、キロ塩基);bp(ベースペア、塩基対);PCR(ポリメラーゼ連鎖反応);BSA(ウシ血清アルブミン);Pfu(超好熱古細菌(Pyrococcus furiosus))。
【0136】
実施例1
ケラチン14プロモータのクローニングおよび特徴付け
本実施例は、K14プロモータDNAの単離、クローニングおよび特徴付けに用いる方法を記載する。プライマー配列は、Genbankで入手できる公開されたK14プロモータ配列(Genbankアクセッション番号U11076)に基づいて設計した。2.35 kbの全長K14プロモータ配列を増幅するために、以下のPCRプライマーを用いた:
【0137】
ヒトゲノムDNA(Promega)を、これらのプライマーにより、Amplitaq DNAポリメラーゼ(Promega)を用いて増幅した。95℃、4分間の変性の後、試料を30サイクルの以下の反応に供した:95℃、1分間の変性、58℃、1分間のアニーリング条件、72℃、3分間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、続いて4℃に保持した。予想された2.35 kbのPCR産物が観察された。このPCR産物をゲル精製し、続いてTAクローニングベクターへのクローン化に用いた。pCR 2.1-TOPO TAクローニングキット(Invitrogen/Life Technologies)を、標準的なプロトコール条件に従って使用した。
【0138】
このプロモータの完全な配列決定には問題があったが(プロモータ領域の配列決定時に典型的に遭遇する高いGC含有量によるものと思われる)、クローン化されたプロモータ配列は、公開されたK14プロモータ配列(Genbankアクセッション番号U11076)とは異なっている。クローン化されたケラチン14プロモータ断片のコンセンサス配列(SEQ ID NO:3)を図1aに提供する。
【0139】
K14プロモータ配列が機能することを確認するために、ルシフェラーゼレポータ遺伝子発現システムを用いた。K14プロモータ断片を、pGL3ホタルルシフェラーゼベクターのマルチクローニング部位のHindIII部位に移入させた。この全長のK14プロモータHindIII断片をサブクローニングした後、300 bpの5'プロモータ断片を放出するようなマルチクローニング部位上流の単一のSmaI制限酵素部位を用いることにより、プロモータ断片を約300 bp切断する機会が容易に達成された。刊行された実験は、同様のK14プロモータの5'切断により、プロモータの活性が約30%低下することを実証する(Leask et al., Genes Dev. 4(11):1985-1998 (1990))。全長プロモータ断片(2.3 kb)のホタルルシフェラーゼ活性と、5'切断プロモータ断片(約2.0 kb)の活性とを比較した。K14プロモータルシフェラーゼベクター構築物を図2に記載する。
【0140】
ルシフェラーゼレポータ遺伝子発現の結果は、以下の通りである。ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼの共発現を用いて、潜在的なトランスフェクション効率の差、または起こりうる細胞数の差により導入される可能性のある、いかなる変動をも補正した。標準化後、ホタルルシフェラーゼレポータ遺伝子による結果は、全長(2.3 kb)K14プロモータ断片については、強力なプロモータ活性を明示し、切断されたプロモータ断片においては、ホタルルシフェラーゼの活性の約30%の低下を明示する。この結果は、Leaskらによる報告に一致する。
【0141】
次に、完全長K14プロモータをブラストシジン選択ベクター内に移入させた。
【0142】
実施例2
KGF-2のクローニングおよび特徴付け
本実施例は、KGF-2の単離、クローニングおよび特徴付けについて記載する。プライマー配列は、Genbankから入手できる公開されたKGF-2配列に基づいて設計した。627bpの全長KGF-2配列を増幅するために、以下のPCRプライマー配列(BamHI-EcoRV)を用いた:
【0143】
PCRにより誘導されるエラーのリスクを最小化するために、Pfu Turbo DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。Human Universal QUICK-Clone cDNA(CLONTECH)を、全長KGF-2 cDNAのPCR増幅の鋳型として用いた。94℃、4分間の変性の後、試料を30サイクルの以下の反応に供した:94℃、30秒間の変性、51℃、30秒間のアニーリング条件、72℃、1分間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、続いて4℃に保持した。予想された627bpのPCR産物が観察された。TAクローニングの効率化を可能とするために、増幅後、3' AオーバーハングをPfu PCR産物に付加する必要があった。PCR産物は、Matrix Gel Extraction System(Marligen BioScience Inc.)を用いてゲル精製した。ゲル精製したPCR増幅産物を、市販のTAクローニングキットにクローン化した。pCR 2.1-TOPO TAクローニングキット(Invitrogen/Life technologies)を、標準的なプロトコール条件に従って使用した。
【0144】
配列決定反応は、クローニングサイトの両側に渡る2種類の配列決定プライマー(M13正方向および逆方向プライマー)をそれぞれ用いて行った。加えて、cDNAのPCR増幅に用いたKGF-2特異的プライマー(プライマーST127およびST128)を用いて、重複する配列をも得た。cDNA配列は、Genbankアクセッション番号U67918と同一であった。
【0145】
次に、TAクローン化したKGF-2 cDNAをpIRESベクター内に移入させた。正しいKGF-2 cDNA配列を含むTAクローンを、BamHI(5')およびEcoRV(3')で消化し、627bpのKGF-2 cDNAを放出させた。この産物を、哺乳動物発現pIRESpuroクローン選択ベクターのBamHIおよびEcoRV部位に直接クローニングした。
【0146】
pUB-Bsdクローン選択ベクター内への定方向クローニングに望ましい制限酵素部位を得るために、再増幅およびTAクローニングの段階が必要であった。NotIおよびSalI制限酵素部位を含むKGF-2 cDNAの増幅に用いたプライマー配列は以下の通りである。
【0147】
PCR条件は上に列挙した条件と同一であった。Pfuポリメラーゼ(Stratagene)を用いたが、今回の追加的な増幅ラウンドでは、出発鋳型として前回のKGF-2遺伝子を含むTAクローンを用いたことから、必要なPCRサイクル数は、より少なかった。
【0148】
PCR産物は、戦略的に配置されたNotIおよびSalI制限酵素部位を含んだ。このPCR産物を、標準的なプロトコール条件に従ってpCR 2.1-TOPO TAクローニングキット(Invitrogen/Lifetechnologies)によりクローン化した。
【0149】
新たにクローン化されたKGF-2 cDNAを配列決定し、配列がKGF-2 cDNA配列(Genbankアクセッション番号:U67918)と同一であることを確認した。
【0150】
KGF-2 cDNAクローンを、5'NotIおよび3'SalI(XhoI制限酵素開裂部位に結合する)制限酵素で消化し、TAクローニングベクターから移出させた。この断片を、NotIおよびXhoI制限酵素部位を利用して、pUB-Bsdベクター内のK14プロモータとグロブリンポリA配列との間に定方向的にクローニングした。
【0151】
実施例3
哺乳動物発現ベクターの設計
本実施例は、本発明で利用される哺乳動物発現ベクターを表す。ベクターは、図3に記載されており、以下の要素を含む:K14プロモータ(2.35 kb)/KGF-2 cDNA(627 bp)/グロブリンイントロンおよびポリ(A)(1.165 kb)/pUB-Bsd(4.245 kb)。
【0152】
実施例4
KGF-2 mRNA発現診断スクリーン(RT-PCR)
本実施例は、本発明に利用されるKGF-2 mRNA発現診断スクリーンについて記載する。NIKS細胞を、Trans-Itケラチノサイトトランスフェクション試薬(Mirus Corp.)を用いてトランスフェクションし、かつEpiLife培地(Cascade Biologics)またはNIKS STRATALIFE培地(Stratatech Corporation)のいずれかにおいて増殖させた。上清を3日間回収し、直接KGF-2 ELISAアッセイの開発に用いた。3日後、細胞をRNA単離のためにTrizol試薬(Invitrogen)で溶解した。第一鎖cDNA合成は、これらの一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞から単離した全RNAを用いて行った。以下のプライマー配列を利用した:
【0153】
次に、逆転写酵素反応を、以下の条件で実施した:RNAプライミング反応−2.5 ug 全RNA(鋳型)、0.5 mM dNTPミックス、オリゴdT(0.5 ug)−インキュベーション65度で5分間、氷上で3分間。第一鎖cDNA合成反応物(RNAプライミング反応物に追加)−1×RTバッファー(Promega Corp.)、Rnase Out (40U)(Invitrogen)、M-MLV RT (200U)(Promega)、42度で50分間、70度で15分間加熱する。引き続くPCR反応のために、RT反応鋳型1マイクロリットル(1 ul)を用いた。
【0154】
次に、PCRを実施した。95℃、5分間の変性した後、試料を35サイクルの以下の反応に供した:94℃、30秒間の変性。60℃、30秒間のアニーリング条件。72℃、1分間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、続いて4℃に保持した。RT-PCR戦略を図4に図示する。
【0155】
1.1 kbのDNAベクター特異的産物が観察されると同時に、第一鎖cDNA合成に付随する約600bpの特異的産物(KGF-2 RNA特異的産物)も観察された。偽(KGF-2 cDNAインサートを有さないベクター)対照プラスミドトランスフェクション、または逆転写酵素マイナス対照反応物のいずれにおいても、KGF-2 RNA特異的産物は観察されなかった。
【0156】
実施例5
KGF-2タンパク質発現診断スクリーン(直接ELISA)
本実施例は、本発明で用いられるKGF-2タンパク質発現診断スクリーンについて記載する。
【0157】
NIKS細胞を、Trans-Itケラチノサイトトランスフェクション試薬(Mirus Corp.)を用いてトランスフェクションし、かつEpiLife培地(Cascade Biologics)またはNIKS培地(Stratatech Corporation)のいずれかにおいて増殖させた。上清を3日間回収し、直接KGF-2 ELISAアッセイの開発に用いた。100 ulの上清をプレート(Nuncイムノアッセイプレート)内で一晩インキュベーションした。最小限の試料をプレートに2連とった。翌日、試料をウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。プレートを室温で30分間、ウエル当り300 ulの(1xPBS/1% BSA/5% ショ糖)でブロックした。ウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。ウサギ抗huKGF-2抗体(ウエル当り0.2 ug)と共に室温で2時間インキュベーションした。ウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。使用時に1:1000希釈したヤギ抗ウサギHRP(0.8 mg/ml)抗体と共に室温で30分間インキュベーションした。ウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。前もって室温に温めたウエル当り100 ulのTMB、室温で30分間インキュベーション。2N H2SO4を50 ul加えた。O.D.450 nmおよび620 nmを読み取った。プレートの不完全性について補正した(450 nm-620 nm)。
【0158】
この実験は、一過的にトランスフェクションされたNIKS細胞の上清において、偽トランスフェクション(空ベクター)または培地単独の対照と比較して、KGF-2タンパク質のレベルの上昇が検出されることを明示した。
【0159】
実施例6
外因的に導入された全長ヒトKGF-2タンパク質を発現するNIKS細胞の単離
本実施例は、KGF-2を発現するNIKS細胞の単離について記載する。
【0160】
A. クローン単離の戦略
ベクター構築物−ケラチン14プロモータ/KGF-2 cDNA/pUB-Bsdプラスミド:
KGF-2をコードするDNA断片をPCRにより単離し、かつ配列決定してPCR産物の同一性および完全性を検証した。DNA断片は、これまでに報告されているKGF-2の配列と同一であった。KGF-2をコードするDNA断片を、ブラストシジン耐性カセットを含む哺乳動物発現ベクター内にクローン化した。ブラストシジンは、引き続いて正常に分化できる、安定にトランスフェクションされたケラチノサイトの選択に用いられている。
【0161】
基底上皮層のケラチノサイトにおけるKGF-2の構成的な発現を提供するために、ヒトケラチン14(K14)プロモータの制御下においてKGF-2が発現する構築物を産生した。K14プロモータを含む2.3 kbのゲノムDNA断片を増幅し、NIKS細胞におけるpGL3レポータープラスミド(Promega)からのルシフェラーゼの発現を促進する能力により、その活性を確認した。その後、2.3 kbのK14プロモータを、pUb-bsdベクター(Invitrogen)にクローン化した。引き続いて、KGF-2コード領域を、K14プロモータの下流にクローン化し、かつウサギβグロビンイントロンおよびポリ(A)シグナルを含むDNA断片をKGF-2コード領域の下流に挿入して、この哺乳動物発現ベクター構築物を完成させた。
【0162】
最終ベクターの構造は、制限酵素マッピングおよびDNA配列決定によって確認した。オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、かつこれを使用し、半定量的RT-PCR分析を用いて、NIKSケラチノサイト細胞におけるこの構築物の発現を試験した。プライマーは、スプライスされたRNA鋳型から産生されたPCR産物が、ゲノムDNAから増幅された対応する断片と比べ約500 bp小さくなるように、ウサギβグロビン断片におけるイントロンの両側に渡って設計された。
【0163】
トランスフェクション:
Transitケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション試薬を用いて、KGF-2ベクターDNAを単層NIKS細胞培養物に導入した。トランスフェクションの24〜48時間後、ブラストシジンフィーダー細胞層の上にNIKS細胞をプレーティングし、ブラストシジン選択培地を用いて培養した。
【0164】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS(商標)培地の存在下で、増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつ、さらなる特徴付けのために拡張した。
【0165】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含む個々の組織培養プレート(p35およびp100)に再プレーティングしたブラストシジン耐性コロニーを単離した。これら培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p35培養物を発現分析のために回収し、かつp100培養物を引き続く拡張段階に用いた。
【0166】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちK14-KGF-2発現構築物を含むと推定される。KGF-2トランスジーンの存在を確認するために、各クローンからゲノムDNAを単離し、かつベクター特異的プライマーにより増幅した。このPCRスクリーンは、トランスジーンDNA由来の産物と、潜在的な内因性KGF-2 DNA産物とを区別するように設計された。この構築物および関連する選択スキームを用いて、複数のクローンを得た。
【0167】
拡張:
p35培養物から得られた発現分析の結果は、さらなる特徴付けのためにどのクローンが拡張されるのかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物に由来するp100プレートを、約50〜80%コンフルエンスまで増殖し、かつその後、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むいくつかのプレートに拡張した。
【0168】
B. 結果
薬剤選択を生き延びた29個のNIKSクローン単離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された29クローンのうち4クローンは、拡張段階を生き延びなかった。残った25クローンは成功裡に拡張され、かつ、RT-PCRを用いて判定され、転写レベルでKGF-2を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションより単離された全RNAを陽性RT-PCR対照として用いた。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムにおけるKGF-2トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて、予想される約1 Kbの大きさのPCR産物が得られた。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0169】
実施例7
単層培養でのKGF-2 RNAおよびタンパク質の発現
本実施例は、単層細胞培養でのKGF-2の発現を分析した実験を記載する。RT-PCRで陽性が確認された各クローンを、タンパク質発現についてアッセイした。この作業の結果、上清中にKGF-2タンパク質が過剰発現していることが検出された。市販のKGF-2特異的抗体を用いて、上清に検出された、分泌されたKGF-2タンパク質のタンパク質レベルを調査した。クローンの細胞培養上清について、ウエスタンブロットおよびELISA分析を行い、かつ元来のNIKS細胞の上清と比較した。細胞増殖アッセイは、培養されたNIKS KGF-2クローンの馴化培地が有し得る生物学的効果を内因性のNIKS細胞上清と比較するために開発されている。
【0170】
A. RT-PCR
トランスジーン特異的PCR産物は、GAPDH特異的産物との関係で、半定量的に報告された。トランスジーン特異的PCRプライマーのセットは、トランスジーンに限定されたウサギβグロビンイントロン配列領域を利用する産物を生成するように設計された。その結果、この産物は内因性KGF-2産物と容易に識別される。
【0171】
トランスフェクションから約24時間後に、トランスフェクションされた培養物のmRNA発現レベルをアッセイした。市販のRNA単離キットを用いて、全細胞RNAを単離した(Invitrogen、Carlsbad、CA)。全RNAは、引き続く第一鎖cDNA合成(逆転写)反応、それに続くポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の適切な鋳型を提供した。増幅産物は、エチジウムブロミド染色したアガロースゲル上で解析された。予想される、トランスジーンDNAおよびmRNA産物に特異的なPCR産物は、それぞれ1.0Kbおよび550 bpである。
【0172】
KGF-2遺伝子のmRNA産物を特異的に増幅する、追加のRT-PCRプライマーセットを設計したが、このプライマーセットは、内因性のメッセージとトランスジーンのメッセージとを区別しない。トランスジーンmRNAと内因性mRNAとを区別することはできないが、内因性対照試料(空ベクターをトランスフェクションしていない試料、およびトランスフェクションした試料)を参照点として用いて、強度を半定量的に比較した。
【0173】
K14-KGF-2構築物より発現したKGF-2 RNAのレベルを、内因性遺伝子由来のKGF-2 RNAのレベルと比較するために、その起源を問わずにKGF-2 RNAを増幅するプライマーを用いて、RT-PCR分析を行った。これらの条件下では、これらのRT-PCR条件を用いても内因性KGF-2は同定されず、したがってNIKSケラチノサイトではKGF-2は発現していないと考えられる。これまでのところ、トランスフェクションされていないNIKS細胞の全RNA対照から、KGF-2 RT-PCR産物は同定されていない。予想された550 bp断片は、KGF-2トランスジーンをトランスフェクションしたNIKS細胞では、慣例的に観察される。K14-KGF-2構築物より発現したKGF-2は、550 bpのRT-PCR産物を生じた。2つのK14-KGF-2クローンのRT-PCR分析から、内因性のKGR-2のレベルは検出されないことに対し、550 bpのKGF-2 RNA産物が過剰発現することが示される。逆転写酵素を省略した対照反応ではPCR産物は認められず、これらの産物がRNAに由来するものであり、PCR反応の鋳型汚染によるものでないことが実証された。これらの結果は、K14-KGF-2発現構築物により安定にトランスフェクションされたNIKSクローンが、KGF-2トランスジーンを特異的に過剰発現することを実証する。
【0174】
B. ウエスタンブロット
ウエスタンブロット分析は、文献に報告された翻訳後改変型KGF-2に対応する予想通りのゲル位置に、特異的産物があることを実証する。顕著なKGF-2特異的タンパク質バンドは、19〜30kDaの間に観察される。ウエスタンブロット分析で観察された特異的KGF-2バンド産物は、半定量的RT-PCRの発現の結果を確証させる。改変されていないNIKS対照培養物においては、内因性KGF-2は検出されない。これらの所見は、半定量的mRNA発現分析で得た結果に一致する。慣例的に19 kDaのKGF-2タンパク質バンドに対応する陽性対照(組換えヒトKGF-2)タンパク質は、1レーン当り0.3〜0.5 ngの範囲の濃度で使用した。
【0175】
安定にトランスフェクションされたK14-KGF-2クローンでのKGF-2タンパク質の発現を定量化するために、KGF-2サンドイッチELISA(ポリクローナル抗体は、R&D Systems and Santa Cruzより得た)を開発し、種々のK14-KGF-2クローンとトランスフェクションしていないNIKS細胞との間でKGF-2レベルを比較した。いくつかのK14-KGF-2クローン由来の上清は、未改変NIKS細胞対照試料と比較して、上昇したレベルのKGF-2を含む。このKGF-2タンパク質発現の増加は、RT-PCR分析により認められる増加に一致する。これらの結果は、上昇したレベルのKGF-2タンパク質を安定に発現し、かつ分泌するようにNIKS細胞を操作できることを実証する。
【0176】
C. ELISA
サンドイッチアッセイを開発して分泌されたKGF-2のレベルを比較した。アッセイの結果は、細胞上清1ミリリットル当たりの、検出されたタンパク質量で報告される。上清中に検出されるKGF-2タンパク質のレベルは、未改変NIKS細胞の上清(陰性対照)試料に検出されるレベルより、はるかに高い。個々のクローンについてELISAの値が得られ、相対発現レベルを割り当てるために用いられた。
【0177】
総合すると、これらアッセイのそれぞれから集められた発現分析を用いて、互いに比較した場合の相対的発現レベルにクローンをグループ分けした。
【0178】
実施例8
器官型培養でのKGF-2 RNAおよびタンパク質の発現
本実施例は、器官型培養でのKGF-2の発現を分析する実験について記載する。
【0179】
A. RT-PCR:生検試料の比較(クローン対NIKS)
安定化クローンより産生した皮膚組織でのRT-PCRによって、KGF-2 mRNAの発現を検査した。全RNAを皮膚組織から抽出し、KGF-2トランスジーンから発現するmRNAは検出するが、内因性KGF-2遺伝子からのmRNAは検出しないプライマーを用いたRT-PCRに供した。KGF-2 mRNAは、K14-KGF-2クローンから調製した皮膚組織では検出されたが、トランスフェクションしていないNIKS細胞から調製した皮膚組織からのRNAでは検出されなかった。これらの結果は、K14-KGF-2構築物が、脈絡上は階層化された表皮において発現することを実証する。
【0180】
B. ウエスタンブロット
結果は、単層細胞培養について得られた結果と同様であった。
【0181】
C. ELISA
結果は、単層細胞培養について得られた結果と同様であった。
【0182】
D. 組織学:クローンの生検対NIKS
K14-KGF-2発現構築物を含む、安定にトランスフェクションされたクローンが、正常に表皮分化することを検証するために、これらクローンを含む培養皮膚組織を調製した。2週間の器官型培養の後、K14-KGF-2クローンは正常な表皮の形態を有する培養皮膚組織を形成した。これらの所見は、KGF-2の上昇した発現が、NIKS細胞が正常な表皮に分化する能力を妨害しないことを示す。
【0183】
実施例9
外因性KGF-2を発現する皮膚等価物を用いた創傷の閉鎖
本実施例は、マウス創傷モデルの創傷を閉鎖するために、外因性KGF-2を発現している皮膚等価物を用いた場合に得られた予備実験の結果を記載する。この実験では、器官型培養した皮膚(即ち皮膚等価物)を、無胸腺ヌードマウスの削剥した背に移植した。元来のNIKS細胞を含む皮膚等価物と、KGF-2を発現する遺伝的に改変された皮膚等価物とを比較した。すべての組織は、マウスに移植する直前にメッシュ化(2:1比)した。マウスにおいて、間質創傷空間の閉鎖を評価した。各観察時点には、ミクロメータによる創傷面積の測定を記録する段階が含まれ、これらの測定値にはデジタル写真が添付された。手術の3日後(POD 3)、遺伝的に改変されたNIKS器官型皮膚組織(KGF-2)を有するマウスでは、間質腔の創傷の完全な閉鎖が観察されたが、NIKS培養組織対照を移植したマウスでは、閉鎖は観察されなかった。
【0184】
実施例10
哺乳動物発現ベクターの設計
本実施例は、本発明のいくつかの態様で利用した哺乳動物発現ベクターについて記載する。ベクターは、図5に記載されており、以下の要素を含む:インボルクリンプロモータ(3.7 kb)/KGF-2 cDNA(627 bp)/グロビンイントロンおよびポリ(A)(1.165 kb)/pUB-Bsd(4.245 kb)。
【0185】
発現ベクターの構築
ヒトインボルクリンプロモータ配列を含むゲノムDNA断片を、公開された配列(Crish et al., J. Biol Chem, 1998. 273(46): p.30460-5)に基づくPCRプライマーを用いて単離した。クローン化されたインボルクリンプロモータPCR産物の完全性は、制限酵素分析およびインボルクリン特異的プライマーを用いたDNA配列決定によって確認した。インボルクリンプロモータは、未分化のケラチノサイトでは発現しないが、分化したケラチノサイトで特異的に活性化されている。正常なケラチノサイト分化の妨害を避けるためには、分化したケラチノサイトにKGF-2を過剰発現させるよう方向付けることが好ましい。
【0186】
KGF-2遺伝子のコード領域を、pUB-Bsd発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)にクローン化する。マルチクローニング部位の上流にインボルクリンプロモータを挿入して、このベクターを改変する。このベクターは、ブラストシジン遺伝子発現を駆動するユビキチンプロモータ配列を利用したブラストシジン薬剤選択カセットを含む。簡単に述べると、KGF-2に対する遺伝子特異的プライマーを、末端制限酵素部位(5'-EcoRVおよび3'-SpeI)を含むように設計した。これらのプライマーを、TAクローン化cDNA鋳型を含むPCR反応に用いた。改変されたKGF-2 PCR産物(末端制限酵素部位を含む)をTAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化した後、配列を決定した。KGF-2 cDNA遺伝子産物を、TAクローニングベクターから哺乳動物発現ベクターに移行させた。完全な哺乳動物発現ベクターの構築には、図5に示す二段階のベクター組立アプローチが必要であった。
【0187】
KGF-2 mRNA発現診断スクリーン(RT-PCR)
mRNA発現スクリーンを、実施例4に記載されるように行った。
【0188】
インボルクリンプロモータ/KGF-2発現構築物
1) エレクトロポレーショントランスフェクション法の結果
(表2)クローン選択およびmRNA発現の結果の概要
【0189】
2) Trans-ITケラチノサイトトランスフェクション法の結果
(表3)クローン選択およびmRNA発現の結果の概要
【0190】
外因的に導入された全長ヒトKGF-2タンパク質を発現するNIKS細胞の単離
A. クローン単離の戦略
ベクター構築物:
このクローン単離戦略は、インボルクリン/KGF-2 cDNA/グロブリンポリ(A)断片/pUb-BsdプラスミドのDNA maxiprep(Qiagen)の使用を含む。
【0191】
Trans-IT-ケラチノサイトトランスフェクション法:
Transit-ケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション試薬を用いて、KGF-2ベクターDNAを単層NIKS細胞培養物に導入した。トランスフェクションの24〜48時間後に、ブラストシジンフィーダー細胞層の上にNIKS細胞をプレーティングし、ブラストシジン選択培地により培養した。
【0192】
エレクトロポレーショントランスフェクション法:
初期継代NIKS細胞を約50〜70%コンフルエンスにおいて回収した。細胞を沈殿させ、かつ沈殿物をF-12/DME(5:1)に再懸濁した(2×106細胞/800 ul)。
【0193】
800 ulのNIKS細胞懸濁液を0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに配置し、DNAを添加して(10〜30 ug、直鎖状またはスーパーコイル状)、GenePulserのキュベットホルダーに配置して開始した。すべての段階は室温で行った;この手順の間、細胞を氷上に配置することは常になかった。実際の電圧および静電容量を記録した。
【0194】
エレクトロポレーションしたNIKS細胞をキュベットから取り出し、25〜50 mlの新鮮なNIKS培地中で希釈し、ピペット操作で良く混合し、ブラストシジン耐性フィーダーを含む(トランスフェクション1反応当り5枚または10枚いずれかのp150を使用)p150にプレーティング(5〜10 ml)した。
【0195】
翌日、培地をブラストシジン含有(2.5 ug/mlブラストシジン)培地を有するp150に移した。
【0196】
BioRad GenePulser エレクトロポレーションの設定:
指数関数的パルスプログラム
270ボルト
950uF
オーム
0.4 cm キュベット
【0197】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、かつ2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS培地の存在下で、増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつさらなる特徴付けのために拡張した。
【0198】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含む個々の組織培養プレート(p35およびp100)に再プレーティングしたブラストシジン耐性コロニーを単離した。これら培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p35培養物を発現分析のために回収し、p100培養物を引き続く拡張段階に用いた。
【0199】
安定トランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちインボルクリン-KGF-2発現構築物を含むと推定される。KGF-2トランスジーンの発現を確認するために、各クローンから全RNAを単離し、RT-PCR分析のための鋳型を提供した。この構築物および、関連する選択スキームを用いて、複数のクローンを得た。
【0200】
拡張:
p35培養物から得た発現分析の結果は、さらなる特徴付けのためにどのクローンが拡張されるのかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物に由来するp100プレートを、約50〜80%コンフルエンスまで増殖し、かつその後、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むいくつかのプレートに拡張する。
【0201】
B. 結果:
クローン選択のためのTrans-IT−ケラチノサイトトランスフェクション法:
薬剤選択を生き延びた16個のNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された16クローンのうち、拡張期を生き延びたものは2クローンのみであった。これら2つのクローンは成功裡に拡張され、RT-PCRを用いて判定され、転写レベルでKGF-2を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションより単離された全RNAを陽性RT-PCR対照として供した。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムに存在するKGF-2トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて予想される約1 Kbの大きさのPCR産物を得た。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0202】
クローン選択のためのエレクトロポレーショントランスフェクション法:
第一の選択実験では、薬剤選択を生き延びた4つのNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された4つのクローンは、すべて拡張段階を生き延びた。第二の実験では、薬剤選択を生き延びた2つのNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された双方のクローンとも拡張段階を生き延びた。第三の実験では、薬剤選択を生き延びた5つのNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された5つのクローンは、すべて拡張段階を生き延びた。
【0203】
この一連の選択実験で産生されたすべてのクローンが成功裡に拡張され、RT-PCRを用いて判定され、転写のレベルでKGF-2を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションより単離された全RNAを、陽性RT-PCR対照として供した。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムに存在するKGF-2トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて予想される約1 Kbの大きさのPCR産物を得た。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0204】
実施例11
NIKS細胞での内因性ヒトβデフェンシンの発現
本実施例は、NIKS細胞での内因性ヒトβデフェンシン(hBD)の発現の分析を提供する。NIKS細胞がhBDを発現するかどうかは不明であったことから、RT-PCR分析を行い、NIKSケラチノサイトの単層培養物および器官型培養物の双方においてhBD-1、hBD-2およびhBD-3の検出可能なレベルを検証した。具体的には、研究対象のそれぞれのヒトβデフェンシン遺伝子について、単層および器官型のNIKS細胞培養物の双方において逆転写酵素反応を行った。逆転写酵素反応は、NIKS細胞の単層培養物および器官型培養物の双方から単離した全RNAを用い、オリゴヌクレオチドd(T)プライマーを用いて行った。1マイクロリットルのRT反応鋳型を、遺伝子特異的プライマーを含む20 ulのPCR反応液において使用した。PCR反応は以下のように実施した。95℃、5分間の変性の後、試料を35サイクルの以下の反応に供した:94℃、30秒間の変性、58℃、30秒間のアニーリング条件、72℃、30秒間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、その後4℃に保持した。20マイクロリットルのPCR反応液のうち15マイクロリットルを、エチジウムブロミドを含む1%アガロースゲルで解析した。ゲルを、それぞれhBD-1、hBD-2およびhBD-3に対応する275 bp、205 bpおよび290 bpの予想PCR産物の大きさについて分析した。
【0205】
無傷のヒトの皮膚は、ヒトhBDの3種類全てを発現しており、かつそれらの発現レベルは、傷害および炎症に応答して増加することが報告されている。これまでのところ、単層の初代ヒトケラチノサイトでのhBDの発現は報告されておらず、非治療用製品のMatekのEpiDermでのhBD-2タンパク質の発現に関する1つの報告があるのみである。NIKSケラチノサイトの単層培養物および器官型培養物の双方において、3種類すべてのhBDのRNA発現レベルについて徹底的に分析を実施した。NIKSケラチノサイトの器官型培養物においては、すべてのhBDのレベルが単層培養条件と比較して増強される結果となったが、誘導の規模はhBD間で多様であった。NIKS細胞の単層では、hBD-2およびhBD-3の定常状態のmRNA発現レベルは、検出限界以下であった。広域スペクトル抗菌ペプチドであるhBD-3は、器官型培養でも発現は低く、NIKSケラチノサイトでのhBD-3の過剰発現が、特に器官型培養技術により生物工学的に操作されたヒト皮膚組織において、抗菌特性を増強する結果となることを支持した。
【0206】
実施例12
ヒトβデフェンシンのクローニング
本実施例は、NIKS細胞からのhBD-1、h-BD2およびhBD3のクローニングについて記載する。実施例1に記載した逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応産物を、TAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化し、かつ配列決定して、それらの遺伝的同一性を確認した。それぞれのクローン化cDNA産物の配列決定の結果の概要は、以下の通りである。ヒトβデフェンシン1 cDNA配列は、hBD-1に対するGenbankアクセッション番号U73945と同一であることが確認された。ヒトβデフェンシン2 cDNA配列は、hBD-2に対するGenbankアクセッション番号AF040153と比較した場合、アミノ酸位置48位に点突然変異(Lys→Arg)を示した。Pfuプルーフリーディングポリメラーゼを用いて配列を増幅し、クローン化した。配列は、GenBank配列と同一であることが確認された。
【0207】
ヒトβデフェンシン3 cDNAクローンの配列は、アミノ酸位置57位(Thr→Met)および62位(Cys→Tyr)の2箇所の点突然変異を含むことが元来見出されていた。Pfuポリメラーゼ(プルーフリーディング酵素)を用いて、hBD-3 cDNAを再増幅することに成功し、これをTAクローニングベクターにクローン化し、かつ配列決定した。この新たなクローンの配列は、hBD-3に対してGenBankアクセッション番号AF295370に報告されている配列と同一であった。
【0208】
実施例13
発現ベクターの構築
本実施例は、hBD発現ベクターの構築について記載する。ヒトインボルクリンプロモータ配列を含むゲノムDNA断片を、公開された配列に基づくPCRプライマーを用いて単離した。Crish, J.F., T.M. Zaim, and R.L. Eckert, The distal regulatory region of the human involucrin promoter is required for expression in epidermis. J. Biol Chem, 1998. 273(46): p.30460-5。クローン化されたインボルクリンプロモータPCR産物の完全性は、制限酵素分析およびインボルクリン特異的プライマーを用いたDNA配列決定によって確認した。インボルクリンプロモータは、未分化のケラチノサイトでは発現しないが、分化したケラチノサイトで特異的に活性化される。発明者らは、以前の研究において、このインボルクリンプロモータ断片の使用が、NIKSケラチノサイト単層培養での発現を支持することを実証した。正常なケラチノサイト分化の妨害を避けるために、分化したケラチノサイトがβデフェンシンを過剰発現するよう方向付けることが好ましい。
【0209】
それぞれのβデフェンシン遺伝子のコード領域を、pUB-Bsd発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)にクローン化する。マルチクローニング部位の上流にインボルクリンプロモータを挿入することにより、このベクターを改変する。このベクターは、ブラストシジン遺伝子発現を駆動するユビキチンプロモータ配列を利用するブラストシジン薬剤選択カセットを含む。hBD1ベクターの制限酵素地図を図12に提供する。簡単に述べると、hBD-1に対する遺伝子特異的プライマーを、末端制限酵素部位(5'-XamIおよび3'-XbaI)を含むように設計した。これらのプライマーを、NIKS細胞から単離した全細胞RNAを含むRT-PCR反応において用いた。hBD-1 PCR産物をTAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化した後、配列決定した。デフェンシンcDNA遺伝子産物を、TAクローニングベクターから哺乳動物発現ベクターに移行させた。完全な哺乳動物発現ベクターの構築には、図13に示す2つの段階のベクター組立アプローチが必要であった。同様のクローニング戦略を用いて、hBD-2およびhBD-3の哺乳動物発現構築物を産生した。
【0210】
実施例14
NIKS細胞での外因性hBDの発現
それぞれのインボルクリン-βデフェンシン-UB-Bsdベクター由来の精製DNAをNIKS細胞内に導入した。具体的には、NIKS細胞を効果的にトランスフェクションするのに用いられるTransIt-ケラチノサイト試薬(Mirus Corporation)を用いて、NIKS細胞をトランスフェクションした。陰性対照試料は、偽(DNAなし)トランスフェクションの、または空ベクター(βデフェンシンなし)をトランスフェクションしたNIKS細胞集団を含む。
【0211】
mRNA分析:
トランスフェクションした培養物を、トランスフェクション約24時間後に、mRNA発現レベルについてアッセイした。市販のRNA単離キットを用いて、全細胞RNAを単離した(Invitrogen、Carlsbad, CA)。全RNAは、引き続く第一鎖cDNA合成(逆転写)反応、それに続くポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に適切な鋳型を提供した。増幅産物は、エチジウムブロミド染色したアガロースゲル上で解析された。予想される、トランスジーンDNAおよびmRNA産物に特異的なPCR産物は、以下の通りである。それぞれ、hBD-1について720 bpおよび220 bp、hBD-2について700 bpおよび200 bp、かつhBD-3について710 bpおよび210 bpである。
【0212】
この実験の結果は、3種類のデフェンシンのそれぞれについて、予想されたRT-PCR産物の大きさを確認する。さらに、逆転写酵素の非存在下での対照反応において予想されるように、トランスジーンDNAの増幅に対応する単一の強いシグナルが検出された。偽トランスフェクションの対照反応では、特異的なPCR産物は観察されなかった。
【0213】
タンパク質分析:
3種類それぞれのβデフェンシントランスジーンの候補を一過的にトランスフェクションした細胞の培養培地を、βデフェンシンペプチドの生成について、抗βデフェンシン抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を用いる酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびウエスタンブロットアッセイを用いてアッセイした。トランスフェクションしていないNIKS細胞の内因性レベルとの比較を行った。これらのアッセイにおいては、陽性対照である合成ペプチドが含まれている。βデフェンシンタンパク質は、培地中に遊離して分泌されるより、むしろ細胞の外膜と結合したままである可能性があるため、分析には細胞溶解物が必要である可能性がある。
【0214】
実施例15
導入された外因性全長hBD-1タンパク質を発現するNIKS細胞の単離
本実施例は、hBD-1を発現するNIKS細胞の単離について記載する。
【0215】
A. クローン単離の戦略
ベクター構築物:インボルクリンプロモータ/hBD-1 cDNA/pUB-Bsdプラスミド
hBD-1をコードするDNA断片をPCRにより単離し、配列決定してPCR産物の同一性および完全性を検証した。DNA断片は、これまでに報告されているhBD-1の配列と同一であった。hBD-1をコードするDNA断片を、ブラストシジン耐性カセットを含む哺乳動物発現ベクター内にクローン化した。ブラストシジンは、引き続いて正常に分化できる、安定にトランスフェクションされたケラチノサイトの選択に用いられている。
【0216】
階層化された表皮層のケラチノサイトにおける、hBD-1の構成的な発現を提供するために、ヒトインボルクリンプロモータに制御下においてhBD-1を発現する構築物を産生した。インボルクリンプロモータを含む3.7 kbのゲノムDNA断片を増幅し、その後pUb-bsdベクター(Invitrogen)にクローン化した。hBD-1コード領域を、インボルクリンプロモータの下流にクローン化し、かつウサギβグロビンイントロンおよびポリ(A)シグナルを含むDNA断片をhBD-1コード領域の下流に挿入して、この哺乳動物発現ベクター構築物を完成させた。
【0217】
最終ベクターの構造は、制限酵素マッピングおよびDNA配列決定によって確認した。オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、これを用いて、この構築物のNIKSケラチノサイト細胞における発現を、半定量的RT-PCR分析を用いて試験した。プライマーは、スプライスされたRNA鋳型から産生されるPCR産物が、ゲノムDNAから増幅される対応する断片よりも約500 bp小さくなるように、ウサギβグロビン断片におけるイントロンの両側に渡って設計された。
【0218】
トランスフェクション:
Transit-ケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション試薬を用いて、hBD-1ベクターDNAを単層NIKS細胞培養物に導入した。トランスフェクションの24〜48時間後、ブラストシジンフィーダー細胞層の上にNIKS細胞をプレーティングし、ブラストシジン選択培地により培養した。
【0219】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、かつ2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS培地の存在下で増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつさらなる特徴付けのために拡張した。
【0220】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含む個々の組織培養プレート(p35およびp100)に再プレーティングしたブラストシジン耐性コロニーを単離した。これらの培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p35培養物を発現分析のために回収し、かつp100培養物を引き続く拡張段階に用いた。
【0221】
安定トランスフェクションNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちインボルクリンhBD-1発現構築物を含むと推定される。hBD-1トランスジーンの存在を確認するために、各クローンから全RNAを単離し、トランスジーン特異的プライマーを用いてRT-PCRにより増幅した。このPCRスクリーンは、トランスジーン全RNA由来の産物を、潜在的な内因性hBD-1の発現産物と区別するように設計された。この構築物、および関連する選択スキームを用いて、複数のクローンを得た。
【0222】
拡張:
p35培養物から得た発現分析の結果は、どのクローンをさらなる特徴付けのために拡張するかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物由来のp100プレートを、約50〜80%コンフルエンスまで増殖させ、その後、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むいくつかのプレートに拡張した。
【0223】
B. 結果
薬剤選択を生き延びた30個のNIKSクローン分離株を単離し、特徴付けした。当初同定された30クローンのうち10クローンは拡張段階を生き延びなかった。残った20クローンは成功裡に拡張され、かつRT-PCRを用いて判定され、転写のレベルでhBD-1を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションにより単離された全RNAを陽性RT-PCR対照として用いた。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムにおいて検出されるhBD-1トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて予想される約720 bpの大きさのPCR産物を得た。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0224】
導入された外因性の全長hBD-3タンパク質のNIKS細胞発現も、上記と同じ形で単離した。
【0225】
実施例16
NIKS細胞におけるhBD活性
本実施例は、hBD活性のアッセイについて記載する。NIKS単層培養物でのβデフェンシンの一過性発現が殺菌作用を増強するかどうかを判定するために、改変されたインビトロ阻止域アッセイを利用する。Hultmark D., et al., Insect immunity. Attacins, a family of antibacterial proteins from Hyalophora cecropia. Embo J, 1983. 2(4): p.571-6。簡単に説明すると、薄い(1 mm)アガロースプレートに選択された細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、S.ピオゲネス、またはC.アルビカンス)を接種する。溶かしたアガロース(1%)は、補充の塩を含むか、または含まないLuria-Bertaniブロスを含む。Vogel, H.J., Acetylornithinase of Escherichia coli: partial purification and some properties. J Biol Chem, 1956. 218: p.97-106。プレートに注ぎ込む直前に試験菌(約5×104対数増殖期細胞/ml)を添加する。アッセイプレートに小型のウエル(直径3 mm)を開け、かつトランスフェクションしていないNIKS、空の発現構築物を一過的にトランスフェクションしたNIKS、または各βデフェンシンを一過的に発現するNIKSにより、少なくとも24時間馴化し回収した培地のうち3 ulを付加する。あるいは、上記のように回収された馴化培地のうち3 ulをディスクに付加し、かつ接種された細菌叢を含むプレート上に配置する。陽性対照試料の合成hBD-3ペプチド(2〜30 ug/ml)またはストレプトマイシン(100 ug/ml)のような抗生物質を馴化培地に添加し、陰性対照(馴化していない培地試料)と共にアッセイする。一晩、30℃でインキュベーションした後、定規、かつ必要ならば拡大鏡を用いて阻止域を記録する。活性単位は、合成βデフェンシンペプチド(即ちhBD-3合成ペプチド)の希釈系列から得た域による標準曲線から読み取る。Garcia, J.R., et al., Identification of a novel, multifunctional beta-defensin (human beta-defensin 3) with specific antimicrobial activity. Its interaction with plasma membranes of Xenopus oocytes and the induction of macrophage chemoattaction. Cell Tissue Res, 2001. 306(2): p.257-64。抗菌力を測定し、公開されている標準(hBD-3合成ペプチドまたはストレプトマイシン)と比較する。理想的には、阻止域の直径の二乗は、抗菌要素の濃度の対数に比例する。Frohm, M., et al., Biochemical and antibacterial analysis of human wound and blister fluid. Eur J Biochem, 1996. 237(1): p.86-92。このコストが効率的なアッセイは、抗菌活性の測定法として標準的に用いられるが、しかしながら、抗菌活性の半定量的な結果のみを提供する。
【0226】
最小阻止濃度(MIC)アッセイもまた行われる。試験生物の増殖を阻止するのに必要な、各βデフェンシン遺伝子を一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞に由来する馴化培地の最小量を決定する。このアッセイでは、種々の濃度のNIKS馴化培地を伴う細菌増殖培地を含む一連の培養チューブ(またはマルチウエルプレートのウエル)に試験生物を接種する。インキュベーション期間の後、濁度を測定し、かつMICを決定する。合成抗菌βデフェンシンペプチドを陽性対照として用いる。MICの結果は、他の研究者から以前に公開されている結果と比較する(即ち、組織1グラム当り刺激濃度域15〜70 ug、または3.5〜16uM。Harder, J., et al., Mucoid Pseudomonas aeruginosa, TNF-alpha, and IL-1beta, but not IL-6, induce human beta-defensin-2 in respiratory epithelia. Am J Respir Cell Mol Biol, 2000. 22(6): p.714-21。これらの相対域は、合理的な参照点を達成する作業に指針を提供することのみを意図している。
【0227】
実施例17
器官型培養
本実施例は、器官型的に培養したNIKS細胞でのhBD発現のアッセイについて記載する。NIKS単層培養において、内因性のβデフェンシン遺伝子発現と比べ2倍より高い発現レベル、および増強された抗菌活性を示す、安定に遺伝的に改変されたNIKSクローンが、さらなる特徴付け作業の候補となる。これらの作業には、インビトロの皮膚組織における正常な組織形態を評価するために、器官型培養物を調製する段階も含まれる。高すぎる発現レベルは正常な組織形態を得る能力を妨げる可能性があるために、βデフェンシン発現レベルの範囲を試験する。
【0228】
いくつかの異なる増加したβデフェンシン発現レベルを示すNIKS細胞クローンを用い、器官培養技術を用いて代替ヒト皮膚組織を調製する。例えば、そのすべてが参照として本明細書に組み入れられる、米国特許出願第10/087,388号;第10/087,346号;第10/087,641号およびPCT出願第US02/06088号を参照されたい。器官培養物は、真皮および表皮コンパートメントからなる。真皮コンパートメントは、正常なヒト乳児繊維芽細胞とI型コラーゲンとを、10%ウシ胎児血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを含むHamのF-12培地中で混合し、収縮させることにより形成される。表皮コンパートメントは、0.2% FCS、0.4μg/mlのヒドロコルチゾン、8.4 ng/mlのコレラトキシン、5μg/mlのインスリン、24μg/mlのアデニン、および100単位/mlのP/Sを補充したHamのF-12:DME(3:1、カルシウム終濃度1.88mM)の混合液25μlにおいて、収縮したコラーゲンゲルの上にNIKS細胞を接種することにより生成させる。細胞は、培地を有する培養チャンバーに流入させる前(0日)に、37℃、5% CO2で2時間接着させる。2日目に、細胞に新しい培地を与える。4日目に、培地で飽和させた綿パッドの表面上にある空気/培地界面まで細胞を持ち上げ、下部から培養物に培地を供給できるようにする。器官型培養物は、37℃、5% CO2、湿度75%でインキュベーションし、かつ2日ごとに新鮮な培地を与える。10日目までに、NIKS細胞は、基底の、棘状の、顆粒状のおよび角質化された表皮層を形成して階層化する。
【0229】
遺伝的に改変されたNIKS細胞から形成された代替皮膚組織の組織切片を、未改変のNIKS細胞から調製した培養物と比較する。組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、階層化した表皮層を視覚化する。培養物を組織形態について試験する。正常な組織構成および組織像を示すβデフェンシン発現クローンのみを用いる。
【0230】
初期の発現研究では、器官型培養物は、個別のβデフェンシントランスジーンを発現する細胞を用いて調製した。しかしながら、より広範囲の抗菌活性を達成するために、異なるβデフェンシンを過剰発現するNIKS細胞を混合することによ
りキメラ器官型培養物を調製することが可能である。βデフェンシントランスジーンを発現する細胞は、効力を調整できるように、患者由来の細胞と共に(例えば、米国特許出願第2002/0192196号を参照)、またはトランスフェクションしていないNIKS細胞と共に使用することができる。この戦略は、皮膚組織でのタンパク質発現のプロフィールにさらなる柔軟性を提供する。
【0231】
実施例18
器官型培養物における安定hBD mRNA発現の分析
本実施例は、hBD mRNAのアッセイについて記載する。全細胞RNAを、全組織試料から単離する。この全RNAを鋳型として使用し、引き続く第一鎖cDNA合成(逆転写酵素)反応、それに続くポリメラーゼ連鎖反応を行う(RT-PCR)。増幅産物は、エチジウムブロミド染色したアガロースゲルで解析される。予想される、トランスジーンDNAおよびmRNA産物に特異的なPCR産物は、それぞれ1.5 Kbおよび720 bpである。
【0232】
実施例19
器官型培養物におけるhBDタンパク質発現の分析
培養代替皮膚組織でのβデフェンシン発現の変化をモニタリングするために、培養の基礎をなす培地を種々の時点において回収する。器官型培養物が10日目となった時点で、それらを48時間新鮮な培地でインキュベーションする。48時間後から、4日間にわたり12時間毎に培地を回収し、ELISAおよび/またはウエスタンブロット分析により、培地中のβデフェンシンタンパク質のレベルを決定する。トランスフェクションしていないNIKS細胞により作製された培養代替皮膚組織の内因性遺伝子発現レベルと比較を行う。いくつかの実験では、βデフェンシンタンパク質を検出するために、組織溶解物を産生する。
【0233】
実施例20
器官型培養物における安定βデフェンシンクローンの抗菌分析
抗菌活性の阻止域アッセイ:
βデフェンシン−を発現するNIKS細胞から産生されたヒト代替皮膚組織が、増強された抗菌活性を有する結果となるかどうか判定するために、改変されたインビトロ阻止域アッセイを利用する。14、21および28日目の代替皮膚組織から得た馴化培地と生検パンチの双方を、抗菌活性について分析した。簡単に述べると、薄い(1 mm)アガロースプレートに、選択された細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、S.ピオゲネス、またはC.アルビカンス)を接種する。溶かしたアガロース(1%)は、補充の塩を含むか、または含まないLuria-Bertaniブロスを含む。プレートに注ぎ込む直前に試験菌(約5×104対数期細胞/ml)を添加する。代替皮膚組織の馴化培地のβデフェンシン活性をアッセイするために、アッセイプレートに小型のウエル(直径3 mm)を開け、かつ、トランスフェクションしていないNIKS、または各βデフェンシンを安定に発現するNIKSクローンにより産生された代替ヒト皮膚を用いて、少なくとも24時間馴化し回収した培地のうち3ulを付加する。あるいは、上記のように回収された馴化培地のうち3 ulをディスクに付加し、接種された細菌叢を含むプレート上に配置してもよい。陽性対照試料の合成hBD-3ペプチド(2〜30 ug/ml)またはストレプトマイシン(100 ug/ml)のような抗生物質を馴化培地に添加し、かつ陰性対照(馴化していない培地試料)と共にアッセイする。代替ヒト皮膚を直接アッセイするには、44 cm2の円形代替皮膚組織のそれぞれより、8 mmのパンチを4枚収集する。上記のように、各生検パンチをホモジナイズ(PowerGen Homogenizer)し、かつ接種した菌叢を含むプレート上に配置する。30℃で一晩インキュベーションした後、定規、かつ必要ならば拡大鏡を用いて阻止域を記録する。活性単位は、合成βデフェンシンペプチド(即ちhBD-3合成ペプチド)の希釈系列から得た域による標準曲線から読み取る。抗菌力を測定し、公開されている標準(hBD-3合成ペプチドまたはストレプトマイシン)と比較する。理想的には、阻止域の直径の二乗は、抗菌要素の濃度の対数に比例する。Frohm, M., et al., Biochemical and antibacterial analysis of human wound and blister fluid. Eur J Biochem, 1996.237(1): p.86-92。このコストが効率的なアッセイは、抗菌活性の測定法として標準的に用いられるが、しかしながら抗菌活性の半定量的な結果のみを提供する。
【0234】
マイクロブロス希釈アッセイ:
最小阻止濃度(MIC)アッセイを実施する。試験生物の増殖を阻止するのに必要な、各βデフェンシン遺伝子を安定にトランスフェクションしたNIKS細胞に由来する14、21および28日目の代替皮膚の馴化培地、および生検パンチの最小量を決定する。このアッセイでは、種々の濃度の代替皮膚組織由来の馴化培地を伴う細菌増殖培地を含む一連の培養チューブ(またはマルチウエルプレートのウエル)に試験生物を接種する。ヒト代替皮膚を直接アッセイする場合は、44 cm2の円形代替皮膚組織のそれぞれより、8 mmのパンチを4枚収集する。上記のように、各生検パンチをホモジナイズ(PowerGen Homogenizer)し、かつ種々の濃度として、試験生物と共にインキュベーションする。インキュベーション期間後、濁度を測定してMICを決定する。合成抗菌βデフェンシンペプチドを陽性対照として用いる。MICの結果は、他の研究者により以前に公開されている結果と比較する(即ち、組織1グラム当り刺激濃度域15〜70 ug、または3.5〜16 uM)。これらの相対域は、合理的な参照点を達成する作業に指針を提供することのみを意図する。
【0235】
細菌増殖アッセイ:
細菌に対するβデフェンシンの抗菌効果を評価するために、安定NIKSクローン(単層培養物または器官型培養物のいずれも)の細胞培養上清を、細菌増殖阻止能力について評価する。細胞培養上清を、約4×106c.f.uの細菌に、三連で接種し、37度で1〜4時間インキュベーションする。元来のNIKS細胞培養物(即ち遺伝的に変更されていない)から収集した細胞培養の培地上清を実験対照として供する。精製βデフェンシンペプチド滴定を伴ったNIKS細胞培養上清を、抗菌活性の陽性対照として用いる。1〜4時間のインキュベーション期間の直後に、培養条件の連続希釈物をLB/寒天プレートにプレーティングして、37度で18〜20時間インキュベーションする。各連続希釈物に対するそれぞれ3枚のプレートを、コロニー形成単位について評価する。
【0236】
実施例21
NIKS細胞におけるデフェンシンの発現
本実施例は、一過性にトランスフェクションしたNIKS細胞単層培養物での、上昇したβデフェンシン発現レベルについて記載する。各インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsdベクター(図14)から精製したDNAを、TransIt-ケラチノサイト試薬(Mirus Corporation, Madison, WI)を用いてNIKS細胞に導入した。偽トランスフェクション(DNAなし)のNIKS細胞集団、または空ベクター(βデフェンシンなし)をトランスフェクションしたNIKS細胞集団についても、内因性の発現レベルを分析した。
【0237】
単層NIKS細胞培養物での一過性βデフェンシントランスジーン発現の特徴付け
インボルクリン発現構築物からのβデフェンシンmRNAの発現が、RT-PCRにより、一過的にトランスフェクションしたNIKS単層細胞培養物において検出された(図15)。プライマーは、インボルクリン発現ベクターからのβデフェンシントランスジーン転写物のみを増幅し、内因性のβデフェンシン発現mRNAは検出しないように設計した。さらに、DNA鋳型からの増幅を最小化するために、第一鎖cDNA合成(逆転写酵素)反応に先立ち、それぞれの全mRNA試料にDNase処理を行った。βデフェンシン特異的発現mRNA産物(矢印)は、ウサギβグロビンイントロンを欠き、したがってDNAから増幅した産物よりも600 bp小さいことから、発現ベクターのDNAから増幅したPCR産物と区別することができる(図14参照)。
【0238】
各βデフェンシントランスジーンを発現を達成する能力を、一過性トランスフェクションを用いて試験した。TransIT-ケラチノサイト試薬(Mirus Corporation, Madison, WI)を用いて、NIKSケラチノサイト単層細胞(1×106/ウエル)に、インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsdプラスミド(10μg)を一晩トランスフェクションした。プラスミドDNAを添加しないNIKS細胞を含む、対照の偽トランスフェクションをも含めた。トランスフェクションの1日後に細胞を収集した。全RNAを、Trizol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて単離し、RT-PCRにより分析して各インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsd構築物からのβデフェンシン遺伝子発現をモニターした。
【0239】
βデフェンシン遺伝子発現のRT-PCR分析の結果を図15に示す。PCRプライマーは、トランスジーン構築物から発現されたβデフェンシンmRNAを増幅するが、内因性のhBD mRNAは増幅しないように設計した。これらのプライマーは、インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsdプラスミド由来のDNAも増幅するが、その産物はウサギβグロビンイントロンを含み、そのためスプライスされた産物より600 bp大きいことから、スプライスされたmRNA産物と区別できる(図14参照)。スプライスされたβデフェンシンmRNA産物に対応する顕著なPCR産物(矢印)が、hBD-1、hBD-2およびhBD-3について検出される(図15、それぞれレーン1、5および9)。この産物は、逆転写酵素を欠く対照反応(図15、レーン3、7および11)においては見られず、それがmRNA由来であることが実証される。これらの結果はまた、各hBD発現構築物が、NIKSケラチノサイト細胞培養物で発現することも示す。
【0240】
NIKS細胞における外因性βデフェンシンタンパク質の発現
3種類のβデフェンシン構築物のそれぞれを一過的にトランスフェクションした細胞の培地を、hBD-1、hBD-2(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)およびhBD-3(SAGE BioVentures, Carlsbad, CA)に特異的な抗βデフェンシン抗体を用いたイムノブロット分析を用い、タンパク質の過剰発現についてアッセイした。
【0241】
一過性トランスフェクションしたNIKSケラチノサイト単層培養物からの馴化培地および細胞溶解物を、変性、還元条件下でSDS-PAGEにより別々に分析し、イムノブロット分析によりhBD-3タンパク質のレベルを評価した。NIKS単層培養物に一過的にトランスフェクションを行い、かつトランスフェクションの1日後に、前述のmRNA発現分析の場合のように単層培養物の上清および細胞溶解物を収集した。BCAタンパク質アッセイキット(Pierce, Rockford, IL)を用い、16% Tricine Novexプレキャストゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)の各ウエルに付加するタンパク質の量を前もって決定し、その後PVDF(孔径0.2μm)フィルター上にエレクトロブロットした。リン酸緩衝生理食塩水中の4%スキムミルクで1時間ブロッキングした後、フィルターを、ヒトβデフェンシン3タンパク質のアミノ酸残基23位〜33位に対して精製されたウサギポリクローナル抗体(1:500)と共に一晩インキュベーションした。その後、フィルターをヤギ抗ウサギIgG 西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:5000)と共に1時間インキュベーションした。ブロットを増強化学発光(ECL)イムノブロッティング検出システム(Amersham Pharmacia Biotech, Sunnyvale, CA)と共にインキュベーションし、かつフィルムに感光させることにより、生成物を検出した。
【0242】
hBD-3タンパク質の予想される生成物の大きさは5kDaである。しかしながら、最近の研究は、hBD-3タンパク質が約14kDaの分子量を示し、それは二量体の形成と一致すると報告している(Schibli, D.J., et al., J Biol Chem, 2002. 277(10): p.8279-89)。この分子量の差は、タンパク質の翻訳後修飾(即ち糖付加)により一部説明できるか、または還元されていないジスルフィド結合の結果としてhBD-3が二量体として存在することによるものである可能性がある。合成の対照hBD-3(90 ng)は、イムノブロット分析によって検出された(図16、レーン1)。トランスフェクションしたNIKSまたは偽(トランスフェクションしていない)NIKSから回収した馴化培地においては、予想される分子量のhBD-3タンパク質(5kDaまたは14kDa)は検出されなかった(図16、レーン4および5を参照)。レーン4および5において観察される高分子量のバンドの存在は、馴化培地中の血清の存在に依存するものと思われる。トランスフェクションした、または偽(トランスフェクションしていない)NIKSケラチノサイトから回収した無血清の馴化培地では、高分子量のバンドは非常に微弱にしか観察されなかった。
【0243】
抗hBD-3抗体により認識される14kDaタンパク質は、一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞の溶解物および偽トランスフェクションのNIKS細胞の溶解物の双方で検出された(図16、レーン6および7)。hBD-3トランスジーンを一過的にトランスフェクションしたNIKSでは、hBD-3タンパク質レベルの増強がもたらされた。これらの細胞溶解物の結果は、一過的にトランスフェクションされたNIKS細胞では、hBD-3タンパク質は過剰発現するが、それは細胞または細胞外マトリックスに結合したままであり、かつ培地中に分泌される可能性が低いことを示す。隔離されたβデフェンシンペプチドを含む顆粒に対する分泌シグナルは、扁平細胞分化の後期と密接に関連していると思われる(Oren, A., et al., Exp Mol Pathol, 2003. 74(2): p. 180-2)。
【0244】
実施例22
一過的にトランスフェクションされたNIKS細胞単層培養物でのβデフェンシンの抗菌活性
本実施例は、細胞培養物におけるデフェンシンの抗菌活性について記載する。
【0245】
βデフェンシンの生物活性を検出するのに用いる抗菌アッセイの開発
抗菌活性のアッセイは、大腸菌およびS.カルノーサス(Staphylococcus carnosus)を採用し、かつPorterおよび共同研究者が記載したプロトコールを改変したものである(Porter, E.M., et al., Infect Immun, 1997. 65(6):p.2396-401)。簡単に述べると、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌を一晩増殖させる。翌日、試験生物を2.5時間、二次培養し、かつ10 mMのリン酸ナトリウム(pH7.4)- 1%TSB中において、大腸菌の場合は104細菌/ml、S.カルノーサスの場合は105細菌/mlの作業希釈液を作製する。すべての反応で、50μlの実験試薬(溶解物、上清または精製タンパク質)と50μlの菌懸濁液とを混合する。その後、これらの反応液を37℃で1.5時間インキュベーションする。反応液を10mMリン酸ナトリウム(pH7.4)- 1% TSBで100倍に希釈し、かつスパイラルプレータ(Spiral Biotech, Norwood, MA)を用いてTSBプレートにプレーティングする。その後、プレートを37℃で12時間から16時間インキュベーションする。これらのプレート上のコロニーを計数し、かつ生菌数を決定し、かつ1ミリリットル当りのコロニー形成単位(CFU/ml)として表す。
【0246】
合成hBD-1、hBD-2およびhBD-3ペプチドの抗菌活性に関する標準曲線
hBD-1、hBD-2およびhBD-3の抗菌活性に関する標準曲線を図17に示す。hBDタンパク質の中では、hBD-3が最も高い抗菌活性を示し、50%の大腸菌を殺菌するのに必要な濃度(LC50)は2.4μg/mlであった(図17a)。hBD-2およびhBD-1は双方とも、大腸菌に対してはhBD-3よりも効力が低かった(図17bおよびc)。hBD-2の大腸菌に対するLC50は12.2μg/mlであり、hBD-1のLC50は102μg/mlであった。グラム陽性菌のS.カルノーサスは、hBD-3に対してより感受性が高いと考えられ、LD50は0.19μg/mlであった(図17d)。
【0247】
hBDトランスジーン、または対照を一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞の単層培養物由来の馴化培地または細胞溶解物のいずれも、抗菌アッセイでは抗菌活性を示さなかった。hBD-2およびhBD-3の内因性の発現は、NIKSケラチノサイトの器官型培養物においてのみ観察され、単層培養物においては観察されない。したがって、単層培養条件は、hBD-2およびhBD-3タンパク質の抗菌活性についてアッセイするために一過性発現の実験を用いることの可能性を低くしている。hBD-1は、NIKSケラチノサイトの単層および器官型培養で発現するものの、試験生物においては、hBD-1は最も低い抗菌活性を示す。加えて、NIKS細胞の一過性トランスフェクションの効率は、一般的には20〜30%であるが、抗菌活性を示すのに必要なhBD1のレベルを支持するのには十分でない可能性もある。これらの所見から、安定にhBDトランスジーンを発現するNIKSケラチノサイトのクローンを産生し、かつこれらのNIKSクローンの器官型培養物を用いて抗菌活性のアッセイを実施することとなった。
【0248】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの単離
一過的にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトにおいて観察される抗菌活性の欠損に基づいて、安定にトランスフェクションされた、hBDトランスジーンを発現するNIKSクローンを単離した。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、本発明の実施に、機構の理解は必要ではない。しかしながら、hBDトランスジーンが安定にトランスフェクションされたクローンでは、より高いレベルのhBD発現が達成されると企図される。加えて、内因性のhBD mRNAレベルおよびタンパク質レベルの双方とも、NIKSケラチノサイトの器官型培養により増強されることすること、かつ、hBDのプロセッシングまたは分泌には、バリアー機能の発達に関連した階層化および/または後期段階の分化事象が必要である可能性があることが観察された。一過的にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトは、完全な階層化およびバリアー機能には少なくとも11日間の発生が必要で、かつ一過的に発現したhBDが枯渇することから、器官型培養の後でアッセイすることはできない。
【0249】
hBD-3を発現するNIKSケラチノサイトの安定クローンをまず産生した。2種類の試験生物に対し最も高い効力を示したこと、およびグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の双方に対し抗菌活性を示すことから、hBD-3を選択した。NIKS細胞をトランスフェクションし、かつブラストシジン(2.5μg/ml)を含む増殖培地を用いて安定にトランスフェクションされたNIKS細胞を選択することによって、hBD-3トランスジーンを発現する、複数の独立したクローンを得た。各NIKSクローン細胞株から単離した全RNAのRT-PCR分析を用いて、上昇したβデフェンシンmRNAの発現を検証し、異なるクローン間の相対発現レベルの初期スクリーンとして供した。
【0250】
hBD-3トランスジーンを安定的に発現するNIKSクローンを単離し、スクリーニングした。安定トランスフェクションNIKSインボルクリン-デフェンシン3-Ub-Bsdクローンでの相対的なβデフェンシン発現レベルを定量化するために、ブラストシジン耐性クローンから全細胞RNAを単離した。インボルクリン-デフェンシン3-Ub-Bsd発現構築物をトランスフェクションした全てのブラストシジン耐性NIKSクローンについて、RT-PCR分析を行った。
【0251】
hBD-3トランスジーンを安定に発現するNIKS(商標)クローンの器官型培養物由来の馴化培地は増強された抗菌活性を示す
最も高いレベルのhBD-3 mRNAを発現する、安定トランスフェクションNIKSケラチノサイトクローンの器官型培養物から回収した馴化培地の抗菌活性を、上記の方法を用いてアッセイした。図18は、hBD-3トランスジーンを安定に発現するNIKSケラチノサイトの器官型培養物由来の馴化培地に暴露した後、トランスフェクションしていないNIKSケラチノサイトから産生された器官培養物より回収した馴化培地と比較して、大腸菌の70%、および最大52%のS.カルノーサス細菌が死滅したことを示す。対照のNIKS器官型培養物由来の馴化培地は、検出可能であるが低レベルの抗菌活性を示し、扁平上皮細胞分化と内因性hBD-3発現との関連に一致した(Abiko, Y., et al., J Dermatol Sci, 2003.31(3):p.225-8)。
【0252】
実施例23
デフェンシン突然変異体
本実施例は、hBD3の部位特異的突然変異誘発について記載する。6個のCysのうち5個をAlaへと突然変異させた(即ち、Cys40、Cys45、Cys55、Cys62、Cys63)。別の突然変異体では、Gly38をAla38へと突然変異させた。
【0253】
部位特異的突然変異誘発
市販のキットである、QUIKCHANGE Multi Site-Directed Mutagenesisキット(Stratagene, LaJolla, CA)を用いて、元来のhBD-3ポリペプチド内にアミノ酸置換を作製した。製造業者の使用説明書を用いて、hBD-3 cDNA TopoTA DNAベクターを部位特異的突然変異誘発反応の親DNA鋳型として用いた。簡単に説明すると、温度サイクリング反応は、二本鎖のDNA鋳型、所望の突然変異を含む2つまたはそれより多い合成リン酸化オリゴヌクレオチドプライマー、PfuTurbo DNAポリメラーゼを含む酵素混和物を含んだ。まず、突然変異誘発プライマーを変性したDNA鋳型にアニーリングさせる。PfuTurbo DNAポリメラーゼを用いて突然変異誘発プライマーを伸長して、一方の鎖に所望の突然変異を有する二本鎖DNA分子を産生した。第2段階で、温度サイクル反応産物をDpnI制限エンドヌクレアーゼで処理した。DpnIエンドヌクレアーゼは、メチル化およびヘミメチル化されたDNAに特異的であり、かつ親DNA鋳型を消化するために用いられる。殆どすべての大腸菌系統から単離したDNAは、damメチル化されており、したがってこの消化を受け得る。第3段階で、突然変異した単鎖DNAが濃縮された反応混合物は、ウルトラコンピテント細胞(dam+)に形質転換され、ここにおいて突然変異した閉鎖環型ss-DNAはインビボで二重鎖型に変換される。形質転換体から二本鎖プラスミドDNAを調製し、かつ所望の突然変異を含むクローンを同定する。
【0254】
合成リン酸化オリゴヌクレオチドプライマー:
突然変異したコドン配列を下線で示す。
【0255】
最終的な突然変異アミノ酸配列:
部位特異的置換をハイライトで示す。
【0256】
エレクトロポレーショントランスフェクション法:
初期継代NIKS細胞を約50〜70%コンフルエンスにおいて回収した。細胞を沈殿させ、沈殿物をF-12/DME(5:1)中において再懸濁した(1×106〜3×106細胞/800 ul)。
【0257】
800 ulのNIKS細胞懸濁液を0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに配置し、DNAを添加して(10〜30 ug、直鎖状またはスーパーコイル状)、GenePulserのキュベットホルダーに配置し開始した。すべての段階は室温で行った。この手順の間、いかなる時も細胞を氷上に配置することはなかった。実際の電圧および電気容量の値を記録した。
【0258】
エレクトロポレーションしたNIKS細胞をキュベットから取り出し、25〜50 mlの新鮮なNIKS培地中に希釈し、ピペット操作でよく混合し、かつブラストシジン耐性フィーダー(トランスフェクション1反応当り、5枚または10枚いずれかのp150を使用)を含むp150にプレーティング(5〜10 ml)した。
【0259】
次の24〜48時間以内に、培地をブラストシジン含有培地(2.5 ug/mlブラストシジン)を有するp150に移した。
【0260】
エレクトロポレーションの設定:
BioRad GenePulser 指数関数的パルスプログラム
270ボルト
950 uF
オーム
0.4 cm キュベット
【0261】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、かつ2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS培地の存在下で、増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつさらなる特徴付けのために拡張した。
【0262】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、ブラストシジン耐性コロニーを単離する。まずクローンを個別のプレート(p60)のフィーダー層の上に採取し、80〜90%の間のコンフルエントに達するまで増殖させる。その後、クローンを継代し、かつ2枚の個別の組織培養プレート(p60およびp100)に再プレーティングする。p100はマウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むが、p60は含まない。これらの培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p60培養物を回収して発現分析に供し、かつp100培養物を引き続く拡張段階のために用いる。
【0263】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちインボルクリンhBD-3発現構築物を含むと推定される。hBD-3トランスジーンの存在を確認するために、各クローンからRNAを単離し、逆転写(RT)を用いてcDNA産物を産生した。その後、RT産物は、引き続くPCR反応において鋳型として用いた。このPCRスクリーンは、トランスジーンcDNA由来の産物を、潜在的な内因性hBD-3 DNA産物に由来する産物から区別するように設計した。hBD-3構築物(Gly38 Ala置換および5個のCys Ala置換)、およびそれと関連する選択スキームから複数のクローンを得た。
【0264】
拡張:
p60培養物から得た発現分析の結果は、どのクローンをさらなる特徴付けのために拡張するのかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物由来のp100プレートを、約90%コンフルエンスまで増殖させ、その後回収し、10%グリセロールを含む培地の中で、-80℃で凍結した。
【0265】
結果を以下に示す。
*突然変異構築物(Gly→Ala)-hBD-3 アミノ酸置換
**突然変異構築物(Gly→Ala)-hBD-3 6個のシステインのうちの5個をアラニンへとアミノ酸置換
【0266】
実施例24
hCAP18発現ベクターの設計および構築
本実施例は、ヒトカテリシジン(hCAP18)哺乳動物発現ベクターの設計および構築について記載する。
【0267】
ヒトカテリシジン(hCAP18)cDNAを、市販のヒトcDNAライブラリーからクローン化した。PCR産物を増幅し、配列決定して遺伝的な同一性を確認した。このhCAP18 cDNA配列は、Genbankに寄託されているhCAP18の配列と同一であることが確認された。
【0268】
2つのhCAP18哺乳動物発現ベクターを産生した。第一ベクターは、組織特異的なケラチン14プロモータを含み、かつ第二ベクターは、別のプロモータ戦略として、インボルクリンプロモータを利用する。hCAP18哺乳動物発現ベクターの直線地図および消化分析図を図19に示す。分析的制限酵素消化は、適切な大きさの、正しいバンドのパターンを実証する。これらの結果を総合すると、哺乳動物発現構築物の全体的な完全性が説明される。最終的に組み立てられた双方の構築物(K14hCAP18およびインボルクリンhCAP18)上の全てのクローニング接続部すべてにまたがる配列決定も行い、各発現ベクターの配列の完全性を検証した。
【0269】
発現構築物からのhCAP18の発現
RT-PCR分析を実施し、双方の発現構築物からのhCAP18の過剰発現レベルを検証した(図20)。それぞれのヒトカテリシジン発現ベクターを一過的にトランスフェクションするか、または偽トランスフェクションの、単層NIKS細胞培養物について逆転写酵素反応を行った。hCAP18に対応する0.6 kbの大きさの、予想されるPCR産物は、トランスフェクションした細胞で示され、かつ予想通り、このhCAP18産物は偽トランスフェクションの単層NIKS細胞培養物由来のRNAにおいては見られない。RT反応について、内因性のハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に特異的な、さらなるセットのPCRプライマーを用い、RNAの完全性および第一鎖cDNA合成反応の対照とした。
【0270】
実施例25
hCAP18/LL-37の抗菌活性
本実施例は、LL-37の抗菌活性を検出するアッセイの開発について記載する。このアッセイの開発においては、市販のLL-37ペプチド(Phoenix Pharmaceuticals, Belmont. CA)を用いて標準死滅曲線を作製した。アッセイは、上記の他の抗菌ペプチドの生物活性を評価するために開発した抗菌アッセイを改変したものである。LL-37の抗菌活性の標準曲線は、この合成ペプチドを用いて、グラム陽性細菌 S. カルノーサスについて決定した。結果は、LL-37が有力な抗菌活性を示し、S. カルノーサスの50%を死滅させるのに必要な濃度(LC50)が0.9 ug/mlであることを示した。
【0271】
実施例26
細胞のエレクトロポレーション
本実施例は、ケラチノサイト内へ核酸を導入するためのエレクトロポレーションの使用について記載する。本実施例は、集団において多能性および多分化能を有する細胞を選択するためのエレクトロポレーションの使用についても、さらに記載する。
【0272】
プロトコール
初期継代NIKS細胞を約50〜70%コンフルエンスで収集した。細胞を沈殿させ、NIKS細胞沈殿物(2×106細胞/800 ul)をF-12/DME(5:1)に再懸濁する。これと同一のプロトコールで800 ulにおいて1×106NIKS細胞をエレクトロポレーションしても、同様に成功する。
【0273】
800 ulのNIKS細胞懸濁液を0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに配置し、DNAを添加して(10〜30 ug、直鎖状またはスーパーコイル状)、GenePulserのキュベットホルダーに配置し、ボタンを押す。すべての段階は室温で行う;この手順の間、いかなる時も細胞を氷上に配置することはない。実際の電圧および電気容量の値を記録する(これらの値は、再現性のあるエレクトロポレーション実験条件の指標であり、今後の参考として有用であろう)。
【0274】
エレクトロポレーションしたNIKS細胞をキュベットから取り出し、かつ25〜50 mlの新鮮なNIKS培地中において希釈し、ピペット操作でよく混合し、ブラストシジン耐性フィーダー(トランスフェクション1反応当り、5枚または10枚いずれかのp150を使用)を含むp150にプレーティング(5〜10 ml)する。
【0275】
翌日、培地をブラストシジン含有培地(2.5 ug/mlブラストシジン)を伴うp150に移す。NIKSケラチノサイトのクローンの選択は、典型的には、ブラストシジン培地中で18〜20日間実行される(一日おきに新しい培地に交換する)。
【0276】
製造業者(BioRad)により提供される、哺乳動物細胞のための伝統的なエレクトロポレーション条件を以下に記載する。これらの条件は最適化する必要がある。条件は装置特異的および細胞型に特異的である。
【0277】
エレクトロポレーション培地は、最少培地または0.5〜0.8 mlのTEが推奨される。
【0278】
細胞密度(単一細胞懸濁液)6〜8×106
細胞の容積 0.4〜0.8 ml
DNA 20〜200 ug
【0279】
指数関数プロトコールを用いる際に、Gene Pulser(BioRad)テクニカルサービスが推奨する範囲
Gene Pulserの設定
電圧(V) 200〜350
キャパシタンス(μF) 500〜1000
抵抗( )
キュベット(mm) 0.4
【0280】
実施した実験から、エレクトロポレーションについて以下の最適化されたプロトコールを得た:
細胞密度(単一細胞懸濁液) 1〜2×106
細胞の容積* 0.8 ml
DNA** 10〜20 ug
* F-12/DME最少培地(50 ml:10 ml)
** 直鎖状またはスーパーコイル状DNA(Qiagen Maxiprep DNA精製)
全段階は、室温で行う。
【0281】
Gene Pulserの設定
電圧(V) 270
キャパシタンス(μF) 950
抵抗( )
キュベット(mm) 0.4
【0282】
上記プロトコールを用いて、幹細胞様ケラチノサイト集団を有する細胞集団において細胞を選択した。いくつかの態様では、薬剤選択カセットをエレクトロポレーションした。他の態様では、いかなる外因性核酸もない状態で細胞にエレクトロポレーションする。結果を以下に記載する。
【0283】
I. クローン選択された細胞集団の観察(薬剤選択カセットを有するDNAをエレクトロポレーションし、かつ18日を超える薬剤選択を受けた細胞集団):
1) ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトが選択された:固く詰め込まれたコロニー形態、均一な細胞、平滑なコロニー外縁部、全体的に円形のコロニー形態。
2) 幹細胞様特性を有する細胞が選択された。
3) 拡張された増殖能力を示す細胞が選択された:安定な細胞株の作製において、これらコロニーは、典型的には薬剤選択圧の下で18日を超えて生存しているコロニーのみである。
4) 増強された多能性または多分化能を有する細胞が選択された。
5) ホロクローンまたはメロクローン形態を有さないコロニーは、より小さいままであり、増殖を停止する傾向がある。これらのコロニーは、それぞれの大型のコロニー内の、小型で固く詰まった均一な細胞と同一の特徴を共有してはいない。これらのコロニーは、選択段階の間に死滅して、殆どがプレートから離れる。
【0284】
II. エレクトロポレーション集団の観察(DNA無しでエレクトロポレーション条件に曝し、かつ選択下に置かない):
1) ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトが選択された:固く詰め込まれたコロニー形態、均一な細胞、平滑なコロニー外縁部、全体的に円形のコロニー形態。
2) 幹細胞様特性を有する細胞が選択された。
3) 拡張された増殖能力を示す細胞が選択された:これらコロニーは、典型的には、より大きな生存しているコロニーである。
4) 増強された多能性または多分化能を有する細胞が選択された。
5) ホロクローンまたはメロクローン形態を有さないコロニーは、より小さいままであり、増殖を停止する傾向がある。これらコロニーは、それぞれ大型のコロニー内の、小型で固く詰まった均一な細胞と同一の特徴を共有してはいない。
【0285】
本実験の結果は、外因性核酸が存在する、または存在しない形で細胞集団にエレクトロポレーションすることができ、かつ上記の特性を有する細胞が選択されることを実証する。加えて、半定量的RT-PCR分析によって実証されたように、エレクトロポレーションによる選択法を用いて得られたNIKS安定クローンからのトランスジーン発現は、Trans-IT ケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション法を用いて得られたクローンと比較した場合、より高い発現レベルを有する。
【0286】
上記明細書中に記載したすべての刊行物および特許は、参照として本明細書に組み入れられる。発明の範囲および精神から逸脱することなしに、記載された発明の方法およびシステムの種々の改変および変形は、当業者にとって明白なものであろう。発明は、特定の好ましい態様と結びつけて記載されているが、請求される発明は、このような特定の態様に不当に限定されるべきでないことが理解されるはずである。実際、分子生物学、生物化学、または関連分野の当業者にとって明らかである、発明の実施に関する記載の様式の種々の改変は、以下の特許請求の範囲内にあると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0287】
【図1】K14プロモータのコンセンサス配列を提供する。
【図2】K14-ルシフェラーゼベクター構築の略図を提供する。
【図3】K14-KGF-2ベクターの略図を提供する。
【図4】RT-PCR戦略の略図を提供する。
【図5】インボルクリンプロモータによるKGF-2の発現のためのベクターの略図を提供する。
【図6】ヒトβデフェンシン1のDNA配列(SEQ ID NO:9)を提供する。
【図7】ヒトβデフェンシン2のDNA配列(SEQ ID NO:10)を提供する。
【図8】ヒトβデフェンシン3のDNA配列(SEQ ID NO:11)を提供する。
【図9】インボルクリンプロモータのDNA配列(SEQ ID NO:12)を提供する。
【図10】ヒトβデフェンシン1〜3のアミノ酸配列アラインメントを提供する。
【図11】βデフェンシンの特徴的なシステインジスルフィド共有結合の形成を表す概略図である。
【図12】ヒトβデフェンシン1哺乳動物発現ベクターの制限酵素地図である。
【図13】ヒトβデフェンシンベクターのクローニング戦略を提供する。
【図14】ヒトβデフェンシンの発現のための発現ベクターを記載する。
【図15】ヒトβデフェンシンmRNAの発現に関するRT-PCRアッセイの結果を提供する。
【図16】ヒトβデフェンシンタンパク質のイムノブロット検出の結果を提供する。
【図17】ヒトβデフェンシン1、2および3の抗菌活性を示す。
【図18】器官型培養におけるヒトβデフェンシン3の抗菌活性を示す。
【図19】hCAP18ベクターの直線地図および制限酵素消化分析を示す。
【図20】hCAP18の発現に関するRT-PCRアッセイの結果を示す。
【図1a】
【図1b】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、一般的には、創傷閉鎖のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性ポリペプチド(例えば抗菌性ポリペプチドおよびケラチノサイト成長因子2)を発現するように操作されたヒト皮膚等価物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物を作製するための組成物および方法を提供する。これに加えて、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物による創傷の治療法を提供する。
【0002】
本出願は、それぞれ参照としてその全体が本明細書に組み入れられる、2003年8月1日出願の仮特許出願番号第60/491,869号および2003年8月8日出願の仮特許出願番号第60/493,664号に対する優先権を主張する。
【0003】
本出願は、一部に、STTR Fast-Track Grant Phase I #1 R41 AR 0530349-01およびPhase II #4 R42 AR 050349-02の支援を受けた。政府は、本発明に一定の権利を有することができる。
【背景技術】
【0004】
背景
米国内では毎年300万人の人々が慢性創傷に罹患している。慢性創傷は、一般的には、長期にわたる、または頻繁に再発する皮膚の任意の破損、または潰瘍形成に関する。このような創傷は、疼痛、機能損失の原因となり、運動性の潜在的欠如により個人生活を変化させ、回復のための時間を延長し、かつ回復のために患者が大きな忍耐に服することを要求する。
【0005】
慢性創傷は、組織を裂き、切り、刺しまたは壊すことによって、皮膚の完全性を破壊する。原因は、損傷のような構造的なものでも、または基礎疾患のような生理学的なものでもよい。最も頻繁に起こる皮膚創傷は、静脈性潰瘍、圧迫潰瘍および糖尿病性足部潰瘍である。
【0006】
慢性創傷は、実質的な病的状態を伴う重大な健康問題である。それらはまた、長期に及ぶ治療、治療の失敗、および長期にわたる患者のコンプライアンス(compliance)の必要性に挑まなければならず、医師および患者双方にとって挫折感の源でもある。創傷が治癒するまでに長期を要するために、再発が起こるか、または新たな潰瘍が出現した際にはコンプライアンスが低下し、悪化する。
【0007】
慢性創傷は、医学的状態が自身の傷害組織を修復する身体の能力を障害している種々の基礎疾患を有する個体に起こる。様々な医薬的および手術的治療が用いられているが、慢性創傷が治癒するまでには数ヶ月、または数年を要することもあり、かつ頻繁に再発する。これらの創傷は、しばしば大きく、かつ見苦しく、かつ患者によっては痛みを伴うこともある。
【0008】
慢性創傷には3つの主要なタイプがある:静脈うっ血潰瘍、糖尿病性潰瘍および圧迫潰瘍である。静脈潰瘍は、慢性血管疾患を有する患者のくるぶしまたは下肢に発生する潰瘍である。これらの患者では、下部四肢の血流が障害され、浮腫(腫脹)および中程度の発赤、および徐々に潰瘍へと進行する皮膚の鱗片化を生ずる。静脈潰瘍は、米国内で500,000〜700,000名の患者が、かつ世界の工業国で130万人の人々が罹患している疾病である。
【0009】
糖尿病性潰瘍は、糖尿病を有する患者に起こる慢性創傷である。これらの患者における潰瘍の実際的な原因は、皮膚肥厚、水疱、または小石もしくは破片といった異物が起こす傷害であるが、患者の潰瘍発生のリスクを高めているものは患者の基礎疾患である。重要なリスク因子としては、傷害された組織を修復する能力および感染を回避する能力を害する不適切な局所血液供給、および、重大な慢性創傷になるまで初期の傷害を認識できなくする四肢の感覚の低下が挙げられる。糖尿病性潰瘍は、米国内で500,000人弱の患者が、かつ世界の工業国で120万人の人々が罹患している疾病である。
【0010】
圧迫潰瘍は、身体の骨突起部の上に位置する組織に加わる恒常的な圧力によって引き起こされる任意の傷害と定義されている。圧迫潰瘍は、以前は褥瘡または臥床姿勢潰瘍と呼ばれていた。圧迫潰瘍は、内部にある骨およびベッドまたはイスのような外部にある固い面からの持続的な圧迫に組織がさらされている、不動の患者に発生する。動かないことに加え、圧迫潰瘍の発生リスクのある患者は、概して栄養状態も不良であり、水分補給も不十分であり、かつ創傷治癒能力を害する他の根元的な医学的状態を有している。米国で160万人以上の人々が、かつ世界の工業国では410万人の人々が圧迫潰瘍に罹患している。これらの疾病の有病率の推定値は非常に多様である。工業国市場では、すべてのタイプの慢性創傷について1200万人もの患者がいるという推定値が報告されている。
【0011】
慢性創傷の大きさおよび深さは様々である。一般には、創傷により損傷を受ける可能性がある組織には4層が存在し、上皮または最外層;真皮;皮下組織;および最深部層の筋肉、腱、および骨である。部分層潰瘍は、上皮に限定された皮膚の損失、かつ場合によっては真皮の一部の損失に関する。これらの創傷は、上皮形成(上皮細胞の増殖および移動)により治癒する。全層潰瘍は、上皮、真皮および皮下組織の損傷または壊死に関し、かつ真膚の下にある結合組織に及ぶこともある。これらの創傷は、肉芽化(結合組織により創傷が塞がれること)、収縮および上皮形成により治癒する。最も重症に分類される潰瘍は、上皮、真皮、皮下組織および筋肉、腱または骨の損傷に関する。この創傷の治癒プロセスは、創傷が閉鎖した後もまだ不完全である。創傷における正常な皮膚および組織の再建のプロセスには、最初の傷害から2年を要することもある。
【0012】
慢性創傷の治療は、創傷の重症度により多様である。部分層および全層創傷は、典型的には、ドレッシング(dressing)および壊死組織切除(壊死、すなわち死んだ組織を除去するための薬品または手術の使用)により治療される。感染が起きている場合には、抗生物質が用いられる。部分層創傷〜全層創傷は、慢性創傷患者の最も大きな分類を表し、最も医療ニーズに未対応な領域であり、かつレピフェルミン(Repifermin)のような成長因子処方薬療法による治療に最も感受性が高い分類である。筋肉、腱または骨に及ぶ全層創傷を有する患者は、敗血症の有意なリスクにさらされ、かつ典型的には手術によって治療される。
【0013】
数多くの保存的治療が実施可能であるが、慢性創傷は、治療計画が時間を費やす性質であること、および患者のコンプライアンスが得られないことが原因で、いまだ医療従事者にとって強い挫折感を引き起こす問題のままである。従事者による慢性創傷の治癒の成功を増大することができ、かつ/または慢性創傷が治癒する速度を加速できる療法が必要とされる。
【発明の開示】
【0014】
発明の概要
本発明は、一般的には、創傷閉鎖のための組成物に関する。より具体的には、本発明は、外因性ポリペプチド(例えば抗菌性ポリペプチドおよびケラチノサイト成長因子2)を発現するように操作されたヒト皮膚等価物、ならびに外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物を作製するための組成物および方法を提供する。加えて、本発明は、外因性ポリペプチドを発現するように操作されたヒト皮膚等価物による創傷の治療のための方法も提供する。
【0015】
したがって、いくつかの態様では、本発明は、a) 初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される宿主細胞、ならびに制御配列と機能的に連結したKGF-2をコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;b) 発現ベクターを(例えば該発現ベクターが宿主細胞により内部へ取り込まれるような条件下で)宿主細胞に導入する段階;および c) 宿主細胞を、KFG-2が発現するような条件下で培養する段階を含む、異種KGF-2を発現する細胞を提供するための方法を提供する。本発明は、いかなる特定の初代または不死化ケラチノサイトの使用にも限定されない。いくつかの好ましい態様では、ケラチノサイトはNIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。他の態様では、ケラチノサイトは、扁平上皮へと階層化できる。さらに他の態様では、方法は宿主細胞を患者由来の細胞と共培養する段階を含む。本発明は、いかなる特定の発現ベクターの使用にも限定されない。いくつかの態様では、発現ベクターは選択可能なマーカーをさらに含む。本発明は、いかなる特定の制御配列の使用にも限定されない。いくつかの態様では、制御配列はプロモータ配列である。本発明は、いかなる特定のプロモータ配列にも限定されない。いくつかの態様では、プロモータ配列はK14プロモータ配列、好ましくは全長K14プロモータ配列である。他の態様では、プロモータはインボルクリンプロモータである。好ましい態様では、プロモータ配列は、ケラチノサイトにおける発現を可能とする。またさらなる態様では、本発明は、前記方法により作成された宿主細胞を提供する。
【0016】
いくつかの態様では、本発明は、異種KGF-2を発現する宿主細胞を含む組成物であって、宿主細胞が初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される組成物を提供する。いくつかの態様では、宿主細胞はNIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。さらなる態様では、KGF-2は全長KGF-2である。
【0017】
さらなる態様では、本発明は、a) 異種KGF-2を発現する不死化ケラチノサイト、および創傷を有する対象を提供する段階;および b) 創傷に、異種KGF-2を発現する不死化細胞を接触させる段階を含む、創傷を治療する方法を提供する。本発明は、いかなる特定のタイプの接触にも限定されない。実際に、様々な接触方式が企図される。いくつかの態様では、接触は局所適用を含む。他の態様では、接触は植付(engraftment)を含む。さらに他の態様では、接触は創傷ドレッシングを含む。本発明は、いかなる特定のタイプの創傷の治療にも限定されない。実際、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、外部傷害を含む群から選択される創傷を含むが、それらに限定されない、様々な創傷の治療が企図される。いくつかの態様では、不死化ケラチノサイトはNIKS細胞である。さらなる態様では、不死化ケラチノサイトは、ヒト皮膚等価物内に組み入れられる。またさらなる態様では、ヒト皮膚等価物は、患者由来の細胞をさらに含む。他の態様では、方法は、接触段階の前に、異種KGF-2を発現するケラチノサイトを対象由来の細胞と混合する段階をさらに含む。
【0018】
さらに他の態様では、本発明は、KGF-2をコードするDNA配列に機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータを含むベクターを提供する。いくつかの態様では、ケラチノサイト特異的プロモータは、K14プロモータまたはインボルクリンプロモータである。本発明はまた、これらベクターを含む宿主細胞および皮膚等価物も提供する。
【0019】
他の態様では、本発明は、以下の段階を含む、外因性抗菌性ポリペプチドまたはペプチドを発現する組織(例えばヒト皮膚等価物)を提供する方法を提供する:ケラチノサイト、および制御配列と機能的に連結した抗菌性ポリペプチドもしくはそのペプチドをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;発現ベクターをケラチノサイトに導入する段階;ならびにケラチノサイトを組織(例えばヒト皮膚等価物)内へ組み入れる段階。いくつかの態様では、ケラチノサイトは扁平上皮へと階層化できる。いくつかの態様では、ケラチノサイトは、初代または不死化ケラチノサイト(例えば、好ましくはNIKS細胞)から選択される。ある態様では、発現ベクターは選択可能なマーカーをさらに含む。いくつかの好ましい態様では、制御配列はプロモータ配列(例えばインボルクリンプロモータまたはケラチン14プロモータ)である。ある好ましい態様では、プロモータ配列は、宿主細胞での抗菌性ポリペプチドの発現を可能とする。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジン(cathelicidin)を含むが、それらに限定されない様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は、突然変異アミノ酸配列(例えば、一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。いくつかの好ましい態様では、一つまたは複数の単一アミノ酸置換は、Cys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む。他の態様では、単一アミノ酸置換はGly38Alaである。特に好ましい態様では、変異したヒトβデフェニン3は、抗菌活性を有している。他の態様では、発現ベクターはシグナル分泌ペプチドをコードする核酸配列をさらに含む。好ましい態様では、皮膚等価物は抗菌活性を示す。本発明は、さらに、本明細書に記載の方法により作成された皮膚等価物も提供する。
【0020】
さらに他の態様では、本発明は外因性抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイト(例えば初代または不死化ケラチノサイト)を含む組成物を提供する。好ましい態様では、ケラチノサイトはNIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞である。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジンを含むが、それらに限定されない様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は突然変異アミノ酸配列(例えば一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。いくつかの好ましい態様では、一つまたは複数の単一アミノ酸置換は、Cys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む。他の態様では、単一アミノ酸置換はGly38Alaである。いくつかの態様では、ケラチノサイトは階層化している。他の態様では、組成物は、真皮等価物をさらに含む。さらに他の態様では、本発明は、ケラチノサイトの器官型培養物を提供する。他の態様では、組成物は、患者由来の細胞をさらに含む。またさらなる態様では、組成物は外因性抗菌性ポリペプチドを発現しないケラチノサイトをさらに含む。さらに他の態様では、組成物は、少なくとも一つのさらなる外因性(例えば抗菌性)ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む。
【0021】
本発明は、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する初代または不死化ケラチノサイト(例えばNIKS細胞)、および創傷を有する対象を提供する段階;創傷を、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する不死化ケラチノサイトと接触させる段階を含む、創傷を治療する方法をさらに提供する。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジンを含むが、それらに限定されない、様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は、突然変異アミノ酸配列(例えば一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。いくつかの好ましい態様では、一つまたは複数の単一アミノ酸置換は、Cys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む。他の態様では、単一アミノ酸置換はGly38Alaである。いくつかの態様では、接触は、植付、局所適用、または創傷ドレッシングを含む。本発明は、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、および外部傷害を含むが、それらに限定されない、任意のタイプの創傷の治療を考慮する。いくつかの態様では、ヒト皮膚等価物は、患者由来の細胞をさらに含む。
【0022】
本発明は加えて、抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列と機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータ(例えばインボルクリンプロモータまたはケラチン14プロモータ)を含むベクターを提供する。本発明は、特定の抗菌性ポリペプチドに限定されない。実際に、ヒトβデフェンシン1、2および3、ならびにヒトカテリシジンを含むが、それらに限定されない様々な抗菌性ポリペプチドが企図される。いくつかの態様では、ヒトβデフェンシン3は、突然変異アミノ酸配列(例えば一つまたは複数の単一アミノ酸置換)を有する。本発明は、ベクターを含む宿主細胞をさらに提供する。本発明はまた、宿主細胞を含むヒト組織(例えば皮膚等価物)も提供する。いくつかの態様では、ヒト組織(例えば皮膚等価物)は、患者由来の細胞をさらに含む。他の態様では、ヒト組織(例えば皮膚等価物)は、ベクターを含まないケラチノサイトをさらに含む。さらに他の態様では、ヒト皮膚等価物は、少なくとも一つのさらなる抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む。
【0023】
さらに他の態様では、本発明は、以下の段階を含む、外因性KGF-2および外因性抗菌性ポリペプチドを発現するヒト組織(例えば皮膚等価物)を提供する方法を提供する:ケラチノサイトと、制御配列に機能的に連結した抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む第一発現ベクターと、外因性KGF-2ポリペプチドをコードするDNAを含む第二発現ベクターとを提供する段階;ならびに発現ベクターをケラチノサイトに導入する段階;ならびにケラチノサイトをヒト組織(例えば皮膚等価物)内に組み入れる段階。
【0024】
さらに他の態様では、本発明は、細胞集団を提供する段階、細胞集団に関して上昇した多能性または多分化能を有するエレクトロポレーションされた細胞が選択されるような条件下で細胞をエレクトロポレーションする段階を含む、集団に関して上昇した多能性または多分化能を有する細胞を選択する方法を提供する。いくつかの態様では、エレクトロポレーションされた細胞は、幹細胞様の特性を示す。いくつかの態様では、細胞集団はケラチノサイトであり、かつエレクトロポレーションされたケラチノサイトは、ホロクローン(holoclone)またはメロクローン(meroclone)細胞形態を有する。他の態様では、エレクトロポレーションされた細胞は、拡張された増殖能力を示す。いくつかの態様では、細胞集団は、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸によりエレクトロポレーションされる。ある態様では、方法は、選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下で細胞を培養する段階をさらに含む。本発明は、加えて、この方法により産生された細胞または細胞集団をも提供する。
【0025】
ある態様では、本発明は、ケラチノサイト集団を提供する段階;およびホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するエレクトロポレーションされたケラチノサイトが選択されるような条件下でケラチノサイトをエレクトロポレーションする段階を含む、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトを選択する方法を提供する。いくつかの態様では、ホロクローン細胞形態は、固く詰め込まれた細胞、大きさが均一な細胞、平滑なコロニー外縁部を有するコロニー、および全体的に円形なコロニー形態からなる群より選択される、一つまたは複数の特性を含む。いくつかの態様では、ケラチノサイトの集団は、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸によりエレクトロポレーションされる。ある態様では、方法は、選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下でケラチノサイトを培養する段階をさらに含む。本発明はまた、この方法により産生されたケラチノサイト集団も提供する。
【0026】
異種KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する組織を提供する方法は、組織、ならびに制御配列と機能的に連結したKGF-2および/または抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;該発現ベクターが、該組織内に含まれる宿主細胞によって内部に取り込まれ、かつ該KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドが発現されるような条件下で、該発現ベクターを該組織に導入する段階を含む。いくつかの態様では、組織はヒト組織(例えばヒト皮膚等価物)である。いくつかの態様では、発現ベクターは、パーティクル銃、エレクトロポレーション、またはトランスフェクションによって、組織に導入される。
【0027】
定義
本明細書で使用する「成長因子」という用語は、細胞表面に結合して、増殖、分化またはその他細胞応答を導く細胞内シグナル伝達経路を誘発する細胞外分子を指す。成長因子の例としては、成長因子I、栄養因子、Ca2+、インスリン、ホルモン、合成分子、薬学的物質およびLDLが含まれるが、それらに限定されない。
【0028】
本明細書で使用する「ケラチノサイト成長因子」または「KGF」という用語は、様々な程度の配列相同性を示し、遺伝子の関連ファミリーによりコードされることが示唆される、FGFとして公知の構造的に識別されるタンパク質群のメンバーを指す。FGFは、細胞表面に共通の受容体部位を共有している。例えば、KGFはFGFR-3に結合できる。
【0029】
本明細書で使用する「抗菌性ポリペプチド」という用語は、微生物(例えば細菌)の増殖を阻止するポリペプチドおよびそのペプチドを指す。抗菌性ポリペプチドの例としては、下表1に記載のポリペプチド(例えばデフェンシンまたはカテリシジン)を含むが、それらに限定されない。抗菌性ポリペプチドは、L-アミノ酸およびD-アミノ酸の双方から合成されたペプチドを含む。「抗菌性ポリペプチド」はまた、任意の方法により得られた(例えば合成された、または酵素的に得られた)抗菌性ポリペプチドのペプチド部分も含む。
【0030】
本明細書で使用する「デフェンシン」という用語は、相同的ペプチドがマクロファージ内に存在することに関連して、一般的には多形核白血球(PMN)のアズール親和性顆粒内に見出されるが、必ずしもその必要はない、高度に架橋結合し構造的に相同な抗菌性ペプチドのファミリーを指す。
【0031】
本明細書で使用する「ヒトβデフェンシン1」または「hBD1」という用語は、タンパク質または核酸に関連して用いられる場合には、SEQ ID NO:13と約50%より大きな同一性を共有し、かつ野生型hBD1の少なくとも一つの活性をも有するタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を指す。したがって、hBD1タンパク質という用語は、野生型hBD1タンパク質と同一なタンパク質、および野生型hBD1タンパク質由来のタンパク質(例えばhBD1タンパク質の変種、またはhBD1タンパク質コード領域の一部により構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0032】
本明細書で使用する「hBD1の活性」という用語は、野生型hBD1タンパク質の任意の活性(例えば抗菌活性)を指す。この用語は、単独または組み合わせて、hBD1タンパク質のすべての活性を包含することを意図する。
【0033】
特に「hBD1遺伝子」という用語は、全長のhBD1ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:9に含まれる)を指す。しかしながら、この用語は、hBD1配列の断片、および全長hBD1ヌクレオチド配列内の他のドメイン、およびhBD1の変種をも包含することも意図される。さらには、「hBD1遺伝子ヌクレオチド配列」または「hBD1遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNAおよびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0034】
本明細書で使用する「ヒトβデフェンシン2」または「hBD2」という用語は、タンパク質または核酸に関連して用いられる場合には、SEQ ID NO:14と約50%より大きな同一性を共有し、かつ野生型hBD2の少なくとも一つの活性をも有するタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を指す。したがって、hBD2タンパク質という用語は、野生型hBD2タンパク質と同一なタンパク質および野生型hBD2タンパク質由来のタンパク質(例えばhBD2タンパク質の変種、またはhBD2タンパク質コード領域の一部から構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0035】
本明細書で使用する「hBD2の活性」という用語は、野生型hBD2タンパク質の任意の活性(例えば抗菌活性)を指す。この用語は、単独または組み合わせて、hBD2タンパク質のすべての活性を包含することを意図する。
【0036】
特に、「hBD2遺伝子」という用語は、全長のhBD1ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:10に含まれる)を指す。しかしながら、この用語は、hBD1配列の断片、および全長hBD2ヌクレオチド配列内の他のドメイン、およびhBD1の変種をも包含することも意図される。さらには、「hBD2遺伝子ヌクレオチド配列」または「hBD1遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNAおよびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0037】
本明細書で使用する「ヒトβデフェンシン3」または「hBD3」という用語は、タンパク質または核酸に関連して用いられる場合には、SEQ ID NO:15と約50%より大きな同一性を共有し、かつ野生型hBD3の少なくとも一つの活性をも有するタンパク質またはタンパク質をコードする核酸を指す。したがって、hBD3タンパク質という用語は、野生型hBD3タンパク質と同一なタンパク質および野生型hBD3タンパク質由来のタンパク質(例えばhBD3タンパク質の変種、またはhBD3タンパク質コード領域の一部により構築されたキメラ遺伝子)の双方を包含する。
【0038】
本明細書で使用する「hBD3の活性」という用語は、野生型hBD3タンパク質の任意の活性(例えば抗菌活性)を指す。この用語は、単独または組み合わせて、hBD1タンパク質のすべての活性を包含することを意図する。
【0039】
特に、「hBD3遺伝子」という用語は、全長hBD3ヌクレオチド配列(例えばSEQ ID NO:11に含まれる)を指す。しかしながら、この用語は、hBD3配列の断片、および全長hBD3ヌクレオチド配列内の他のドメイン、およびhBD3の変種をも包含することも意図される。さらには、「hBD3遺伝子ヌクレオチド配列」または「hBD3遺伝子ポリヌクレオチド配列」という用語は、DNA、cDNAおよびRNA(例えばmRNA)配列を包含する。
【0040】
本明細書で使用する「NIKS細胞」という用語は、細胞株ATCC CRL-12191として寄託されている細胞の特性を有する細胞を指す。
【0041】
「遺伝子」という用語は、ポリペプチドまたは前駆体(例えばGKLF)の生成に必要なコード配列を含む核酸(例えばDNA)配列を表す。ポリペプチドは、全長コード配列によって、または、全長もしくは断片の所望の活性または機能特性(例えば酵素活性、リガンド結合、シグナル伝達等)が保持される限りは、コード配列の任意の部分によってコードされ得る。この用語は、構造遺伝子のコード領域、および、遺伝子が全長mRNAの長さに対応するようにコード領域の5'および3'末端の双方のいずれにも約1kbの距離に渡って隣接して位置する含有配列も包含する。コード領域の5'に位置し、かつmRNAに存在する配列は、5'非翻訳配列と呼ばれる。コード領域の3'または下流に位置し、かつmRNAに存在する配列は、3'非翻訳配列と呼ばれる。「遺伝子」という用語は、遺伝子のcDNA形態およびゲノム形態の双方を包含する。遺伝子のゲノム形態またはクローンは、「イントロン」または「介在領域」または「介在配列」と呼ばれる非コード配列によって分断されたコード領域を含む。イントロンは、核RNA(hnRNA)に転写される、遺伝子のセグメントである;イントロンはエンハンサーのような制御エレメントを含んでよい。イントロンは核または一次転写物から除去または「スプライスアウト」される;したがって、イントロンはメッセンジャーRNA(mRNA)転写物には存在しない。mRNAは翻訳の間機能して、新生ポリペプチド内におけるアミノ酸の配列または序列を指定する。
【0042】
本明細書で使用する「〜をコードする核酸分子」、「〜をコードするDNA配列」および「〜をコードするDNA」という用語は、デオキシリボ核酸の鎖に沿ったデオキシリボヌクレオチドの序列または配列を指す。これらのデオキシリボヌクレオチドの序列は、ポリペプチド(タンパク質)鎖に沿ったアミノ酸の序列を決定する。このようにして、DNA配列はアミノ酸配列をコードする。
【0043】
本明細書で使用する「組換えDNA分子」という用語は、分子生物学的技術を手段として、互いに接合されたDNAのセグメントからなるDNA分子を指す。
【0044】
「単離された」という用語は、「単離されたオリゴヌクレオチド」または「単離されたポリヌクレオチド」のように、核酸と関係して用いられる場合、その天然供給源中で通常付随する少なくとも一つの夾雑核酸からは識別かつ分離される核酸配列を指す。単離された核酸は、それが天然に見出される形態または設定とは異なる形態または設定で存在する。これに対し、単離されていない核酸とは、それらが天然に存在する状態で見出されるDNAおよびRNAのような核酸である。例えば、所定のDNA配列(例えば遺伝子)が宿主細胞の染色体上に、隣接遺伝子に近接して見出され、特定のタンパク質をコードする特異的mRNA配列のようなRNA配列は、細胞内では、多数のタンパク質をコードする他の多くのmRNAとの混合物として見出される。しかしながら、例えば、KGF-2をコードする単離された核酸は、通常KGF-2を発現する細胞内における核酸を包含するが、ここにおいて核酸は、天然の細胞とは異なる染色体の位置に存在するか、または他の場合には天然に見出されるものとは異なる核酸配列が隣接している。単離された核酸、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖の形態で存在し得る。単離された核酸、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドがタンパク質を発現するために用いられる場合、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは、少なくともセンスもしくはコード鎖を含むが(即ち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは一本鎖でよい)、センスおよびアンチセンス鎖の双方(即ち、オリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドは二本鎖でよい)を含んでもよい。
【0045】
本明細書でヌクレオチド配列に関連する場合(「所定のヌクレオチド配列の一部」のように)、「一部」という用語は、その配列の断片を指す。断片のサイズは、4ヌクレオチド〜全ヌクレオチド引く1ヌクレオチド(10、20、30、40、50、100、200ヌクレオチド等)の範囲であり得る。
【0046】
本明細書で使用する「コード領域」という用語は、構造遺伝子に関連して用いられる場合には、mRNA分子の翻訳の結果として新生ポリペプチドに見出されるアミノ酸をコードするヌクレオチド配列を指す。コード領域は、真核生物では、5'側においては開始メチオニンをコードするヌクレオチドトリプレット「ATG」により、かつ3'側においては停止コドンを指定する3種類のトリプレット(即ちTAA、TAG、TGA)のうちの1つにより、境界を区切られる。
【0047】
本明細書で使用する「精製された」または「精製する」という用語は、試料からの汚染物質の除去を指す。
【0048】
本明細書で使用する「ベクター」という用語は、ある細胞から別の細胞にDNAセグメントを移行させる核酸分子に関連して用いられる。「媒体」という用語は、時に「ベクター」と互換的に用いられる。
【0049】
本明細書で使用する「発現ベクター」という用語は、所望のコード配列と、機能的に連結されたコード配列の特定の宿主生物における発現に必要な適切な核酸配列とを含む、組換えDNA分子を指す。原核生物での発現に必要な核酸配列は、通常は、プロモータ、オペレータ(任意で)、およびリボソーム結合部位を、しばしば他の配列と共に含む。真核細胞は、プロモータ、エンハンサー、ならびに終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルを利用することが公知である。
【0050】
「制御配列」とは、ポリヌクレオチド配列が機能的に連結しているコード配列の発現の制御に必要な、ポリヌクレオチド配列を指す。このような制御配列の性質は、宿主生物によって異なる。原核生物では、このような制御配列は一般的に、例えばプロモータ、および/または転写終結配列を含む。真核生物では一般的に、このような制御配列は、例えばプロモータおよび/または転写終結配列を含む。「制御配列」という用語は、存在することが有利である、例えばそれに付与されたポリペプチドの分泌のための分泌リーダー配列のような追加的な構成要素をも含み得る。
【0051】
「機能的に連結した」とは、記載された構成要素が、それらが意図された様式で機能することを可能にする関係にある並置を指す。制御配列に適合した条件下でコード配列の発現が達成されるような方式で制御配列が結合している時、制御配列はコード配列に「機能的に連結」している。
【0052】
「PCR」とは、Saikiら、Nature 324:163(1986);およびScharfら、Science 233:1076-1078(1986);米国特許第4,683,195号;および米国特許第4,683,202号に記載のポリメーラーゼ連鎖反応の技術を指す。本明細書で使用するように、xが天然にはyと関係していないか、または、xがyと天然に見出されるものと同一の様式で関連していなければ、xはyに対し「異種(heterologous)」である。
【0053】
「薬学的に許容される担体」とは、当業者によりヒトへの投与のために用いられる、それ自体が抗体生成、発熱等のいかなる有害な副作用も誘起しない任意の担体を意味する。適切な担体は、典型的には、タンパク質、多糖類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アミノ酸ポリマー、アミノ酸コポリマー、または不活性ウイルス粒子であり得る、大型で代謝の遅い高分子である。このような担体は、当業者に周知である。好ましくは、担体はチログロブリンである。
【0054】
本明細書で使用する「宿主細胞」という用語は、インビトロまたはインビボに位置することを問わず、任意の真核細胞または原核細胞(例えば大腸菌のような細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、鳥類細胞、両生類細胞、植物細胞、魚類細胞、および昆虫細胞)を指す。例えば、宿主細胞は、トランスジェニック動物内に位置してもよい。
【0055】
「過剰発現」および「過剰発現する」および文法的に等価な用語は、対照または非トランスジェニック動物内の所定の組織において典型的に観察されるmRNAに比べて、約3倍高い発現のレベルを示すmRNAのレベルに関連して使用される。mRNAのレベルは、ノーザンブロット分析を含むが、それに限定されない、当業者に公知の多くの技術のいずれをも用いて測定される。ノーザンブロットでは適切な対照を含み、分析される各組織に由来し載せられるRNAの量の差を調整する(例えば、すべての組織において本質的に同一量が存在する豊富なRNA転写物である28SrRNAの量は、各試料に存在し、ノーザンブロットで観察されたKGF-2 mRNA特異的シグナルを正規化または標準化する手段として用いることができる)。正確にスプライスされたKGF-2トランスジーンRNAに対応するサイズのバンドに存在するmRNA量を定量化する;トランスジーンプローブにハイブリダイズする、他の重要でないRNA種は、トランスジーンmRNAの発現の定量化においては考慮されない。
【0056】
本明細書で使用する「トランスフェクション」という用語は、真核細胞への外来DNAの導入を指す。トランスフェクションは、リン酸カルシウム−DNA共沈法、DEAEデキストラン介在トランスフェクション、ポリブレン介在トランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポソーム融合、リポフェクション、プロトプラスト融合、レトロウイルス感染およびバイオリスティクスを含む、当技術分野で公知の種々の手段により達成できる。
【0057】
「安定トランスフェクション」または「安定にトランスフェクションされた」という用語は、トランスフェクションされた細胞のゲノム内への外来DNAの導入および統合を指す。「安定トランスフェクタント」という用語は、ゲノムDNA内に外来DNAが安定して統合されている細胞を指す。
【0058】
「一過性トランスフェクション」または「一過的にトランスフェクションされた」という用語は、外来DNAが細胞内に導入されているが、トランスフェクションされた細胞のゲノム内には外来DNAが統合されていないことを指す。外来DNAは、数日間、トランスフェクションされた細胞の核内に留まる。この間、外来DNAは、染色体における内因性遺伝子の発現を支配する制御コントロールを受ける。「一過性トランスフェクタント」という用語は、外来DNAを取り込んだが、このDNAの統合には失敗した細胞を指す。
【0059】
「リン酸カルシウム共沈法」という用語は、細胞内に核酸を導入するための技術を指す。細胞による核酸の取り込みは、核酸がリン酸カルシウム-核酸共沈物の形として存在する場合に増強される。Grahamおよびvan der Ebの原型技術(Graham and van der Eb, Virol., 52:456 [1973])は、いくつかのグループによって修正され、特定のタイプの細胞のために条件が最適化されている。当業者は、これらの多くの修正点を周知している。
【0060】
「試験化合物」という用語は、疾患、疾病、体調不良、または体機能の障害を治療または予防するために用いることができるか、他の場合には試料の生理学的または細胞学的状態を改変することができる任意の化学実体(chemical entity)、医薬品、薬剤等を表す。試験化合物は、公知の化合物および潜在的な治療化合物の双方を含む。試験化合物は、本発明のスクリーニング法を用いてスクリーニングすることによって、治療的であるかどうか判定できる。「公知の治療化合物」とは、そのような治療または予防に有効であることが(例えば、動物試験またはヒトへの投与に関するこれまでの経験から)示されている治療用化合物を指す。
【0061】
本明細書で使用する「試料」という用語は、その最も広い意味で使用されている。ヒト染色体またはヒト染色体に関連する配列を含むと思われる試料は、細胞、細胞から単離された染色体(例えば中期染色体の展開物)、ゲノムDNA(溶液中にあるか、またはサザンブロット分析を目的としたような固相支持体に結合したもの)、RNA(溶液中にあるか、またはノーザンブロット分析を目的としたような固相支持体に結合したもの)、cDNA(溶液中にあるか、または固相に結合したもの)等を含み得る。タンパク質を含むと思われる試料は、細胞、組織の一部、一つまたは複数のタンパク質等を含む抽出物を含み得る。
【0062】
本明細書で使用する「応答」という用語は、アッセイに関連して使用する場合は、検出可能なシグナル(例えばレポータータンパク質の蓄積、イオン濃度の上昇、検出可能な化学生成物の蓄積)の発生を指す。
【0063】
本明細書で使用する「レポーター遺伝子」という用語は、アッセイできるタンパク質をコードする遺伝子を指す。レポーター遺伝子の例としては、ルシフェラーゼ(例えば、deWet et al., Mol. Cell. Biol. 7:725 [1987] および米国特許第6,074,859号;第5,976,796号;第5,674,713号;および第5,618,682号を参照;これらはすべて、参照として本明細書に組み入れられる)、緑色蛍光タンパク質(例えばGenBankアクセッション番号U43284;多数のGFP変種がCLONTECH Laboratories, Palo Alto, CAより市販されている)、クルラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼおよび西洋ワサビペルオキシダーゼが挙げられるが、それらに限定されない。
【0064】
詳細な説明
本発明は、外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を発現するヒト皮膚等価物(例えばNIKS細胞)、ならびにそのような細胞を作製するための組成物および方法を提供する。加えて、本発明は、このような細胞により創傷を治療するための方法も提供する。
【0065】
I. 宿主細胞を産生する方法
いくつかの態様では、本発明は外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を発現する皮膚等価物(例えばNIKS細胞由来)のようなヒト組織を産生する方法を提供する。
【0066】
A) 宿主細胞
一般的には、扁平上皮へと階層化できるいかなる細胞または細胞株の供給源も、本発明に有用である。したがって、本発明は、扁平上皮へと分化できる、いかなる特定の細胞の供給源の使用にも限定されない。実際、本発明は、初代および不死化ケラチノサイトのいずれをも含む、扁平上皮へと分化できる種々の細胞株および供給源の使用を企図する。細胞の供給源としては、ヒトおよび同意ドナーからの生検によるケラチノサイトおよび皮膚繊維芽細胞(Auger et al., In Vitro Cell. Dev. Biol.- Animal 36:96-103; 米国特許第5,968,546号および第5,693,332号、それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)、新生児包皮(Asbill et al., Pharm. Research 17(9):1092-97 (2000); Meana et al., Burns 24:621-30 (1998);米国特許第4,485,096号;第6,039,760号; および第5,536,656号、それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)、ならびにNM1細胞(Baden, In Vitro Cell. Dev. Biol. 23(3):205-213 (1987))、HaCaT細胞(Boucamp et al., J. cell. Biol. 106:761-771 (1988)); およびNIKS細胞(BC-1-Ep/SL細胞株; 米国特許第5,989,837号、参照として本明細書に組み入れられる;ATCC CRL-12191)のような不死化ケラチノサイト細胞株を含む。これら細胞株はそれぞれ、外因性ポリペプチドを発現できる細胞株を生成するために、以下のように培養するか、または遺伝的に改変することができる。
【0067】
特に好ましい態様では、NIKS細胞またはNIKS細胞由来の細胞が利用される。NIKS細胞(BC-1-Ep/SL細胞株; 米国特許第5,989,837号、第6514,711号、第6,495,135号、第6,485,724号および第6,214,567号;それぞれ参照として本明細書に組み入れられる;ATCC CRL-12191)。新規なヒトケラチノサイト細胞株(near-diploid immortalized keratinocytes、すなわちNIKS)の発見は、新たな治療法のためのヒトケラチノサイトを遺伝的に操作する機会を提供する。NIKS細胞に固有の利点は、それらが遺伝的に均一な、病原菌を有さないヒトケラチノサイトの一貫した供給源であることである。この理由から、それらは、ヒトの皮膚により類似した特性を有する皮膚等価培養物を提供する、遺伝子工学アプローチおよびゲノム遺伝子発現アプローチへの応用に有用である。このようなシステムは、化合物および製剤の試験用動物の使用に替わる重要な手段を提供する。ウイスコンシン大学で同定および特徴付けがなされたNIKSケラチノサイト細胞株は、非腫瘍性であり、安定した核型を示し、単層および器官型培養のいずれにも正常に分化する。NIKS細胞は、培養において完全に階層化した皮膚等価物を形成する。これらの培養物は、試験した限りすべての基準に関して、初代ヒトケラチノサイトから形成された器官型培養物と区別できない。しかしながら、初代細胞と異なり、不死化NIKS細胞は、単層培養において無限に増殖し続ける。このことは、細胞を遺伝的に操作し、かつ新たな有用特性を有する細胞の新規クローンを単離する機会を提供する(Allen-Hoffmann et al., J. Invest. Dermatol., 114(3):444-455 (2000))。
【0068】
NIKS細胞は、見かけ上正常な男性の乳幼児から単離したヒト新生児包皮ケラチノサイトのBC-1-Ep系統に由来する。初期の継代では、BC-1-Ep細胞は、培養した正常ヒトケラチノサイトに典型的でない形態または増殖特性を示さなかった。培養されたBC-1-Ep細胞は、階層化ならびにプログラム細胞死の特徴を示した。複製の寿命を決定するために、BC-1-Ep細胞を標準的なケラチノサイト増殖培地中で、100 mm皿当り3×105細胞の密度にて、老化するまで連続培養し、かつ一週間隔で継代した(約1:25で分配)。15代継代するまでには、大型で平坦な細胞を示す多数のコロニーが存在することで判断されるように、集団中のほとんどのケラチノサイトに老化が現れた。しかし、16代継代時、小さな細胞サイズを示すケラチノサイトが見られた。17代継代時までには、培養物中には小さなサイズのケラチノサイト細胞のみが存在するようになり、かつ大きな、老化したケラチノサイトは全く見られなかった。結果として得られた、この推定危機期間を生き延びた小型のケラチノサイトの集団は、形態学的に均一であり、細胞-細胞接着および明瞭な鱗屑生成を含む典型的なケラチノサイトの特徴を示すケラチノサイトのコロニーを生成した。老化期を生き延びたケラチノサイトを、100 mm皿当り3×105細胞の密度で連続培養した。典型的には、培養物は、7日以内に約8×106細胞の細胞密度に達した。この安定した細胞増殖速度は、少なくとも59代継代の間維持され、細胞が不死化を達成したことが実証される。元来は老化した集団から出現したこのケラチノサイトは、当初はBC-1-Ep/自然発生株(Spontaneous Line)と命名され、現在ではNIKSと呼ばれている。NIKS細胞株は、プロウイルスDNA配列の存在について、PCRまたはサザン分析のいずれかを用いて、HIV-1、HIV-2、EBV、CMV、HTLV-1、HTLV-2、HBV、HCV、B-19パルボウイルス、HPV-16およびHPV-31に関するスクリーニングに供された。これらウイルスはいずれも検出されなかった。
【0069】
3代継代時の親BC-1-Ep細胞ならびに31代および54代継代時のNIKS細胞について、染色体分析を実施した。親BC-1-Ep細胞は46本、XYの正常な染色体全数を有する。31代継代では、すべてのNIKS細胞が、第8染色体の長腕の同腕染色体の過剰を伴う、47本の染色体を含んだ。その他の著しい染色体異常またはマーカー染色体は検出されなかった。54代継代時には、すべての細胞が第8同腕染色体を含んだ。
【0070】
NIKS細胞株およびBC-1-EpケラチノサイトのDNAフィンガープリントは、分析した12座すべてについて同一であり、NIKS細胞が親BC-1-Ep集団から生じたことを実証する。NIKS細胞株が親BC-1-EpのDNAフィンガープリントを偶然に有する確率は4×10-16である。3種の異なるヒトケラチノサイトの供給源である、ED-1-Ep、SCC4およびSCC13y由来のDNAフィンガープリントは、BC-1-Epのパターンと異なる。このデータもまた、他のヒトから単離されたケラチノサイトである、ED-1-Ep、SCC4およびSCC13yが、BC-1-Epとは無関係であり、または相互にも無関係であることを示す。NIKSのDNAフィンガープリントのデータは、NIKS細胞株を同定する確実な手段を提供する。
【0071】
p53機能の損失は、培養細胞の増殖能力の増強および不死化の頻度の増加に関連する。NIKS細胞のp53の配列は、公開されているp53配列(GenBankアクセッション番号:M14695)と同一である。ヒトでは、p53は、コドン72位におけるアミノ酸によって区別される2種類の優性多型として存在している。NIKS細胞におけるp53の対立遺伝子は共に野生型で、かつコドン72位においてCGC配列を有し、これはアルギニンをコードする。p53の他の共通型は、この位置にプロリンを有する。NIKS細胞におけるp53の全配列は、BC-1-Ep先祖細胞と同一である。Rbもまた、NIKS細胞において野生型であることも見出されている。
【0072】
足場非依存性増殖は、インビボでの腫瘍性に強く関係している。この理由から、寒天またはメチルセルロース含有培地でのNIKS細部の足場非依存性増殖特性を調査した。4週間後、寒天またはメチルセルロース含有培地のいずれにおいても、NIKS細胞は単細胞のままであった。増殖の遅いNIKS細胞変種を検出するために、アッセイを合計8週間継続した。変種は観察されなかった。
【0073】
親BC-1-Epケラチノサイトおよび不死NIKSケラチノサイト細胞株の腫瘍性を判定するために、細胞を無胸腺ヌードマウスの側腹に注入した。これらの動物での腫瘍形成については、ヒト扁平上皮ガン細胞株SCC4を陽性対照として用いた。試料の注入は、動物が一方の側腹にSCC4細胞を、反対側の側腹には親BC-1-EpケラチノサイトまたはNIKS細胞のいずれかを受けるように設計された。この注入の戦略により、腫瘍形成に関する動物間変動が排除され、かつマウスが腫瘍形成性細胞の活発な増殖を維持することが確認された。親BC-1-Epケラチノサイト(6代継代)またはNIKSケラチノサイト(35代継代)のいずれも、無胸腺ヌードマウスに腫瘍を生成しなかった。
【0074】
表面培養および器官型培養の双方において、分化する能力について、NIKS細胞を分析した。表面培養の細胞については、扁平分化のマーカーである角質化エンベロープの形成をモニターした。培養ヒトケラチノサイトでは、角質化エンベロープのアセンブリの初期段階においては、インボルクリン、シスタチンαおよび他のタンパク質からなる未成熟な構造が形成される結果となるが、これらは成熟角質化エンベロープの最も内側の三番目にある。付着BC-1-Ep細胞またはNIKS細胞株由来のケラチノサイトのうち、2%未満が角質化エンベロープを生成する。この所見は、活発に増殖しているサブコンフルエント(subconfluent)状態のケラチノサイトの5%未満が角質化エンベロープを生成することを実証したこれまでの研究に一致している。分化を誘導した時にNIKS細胞株が角質化エンベロープを生成できるかどうか判定するために、細胞を表面培養から取り出し、かつメチルセルロースにより半固体に作製した培地中に24時間浮遊させた。ケラチンの差異的発現および角質化エンベロープの形成を含む、最終分化の多くの局面は、ケラチノサイトの細胞-細胞間および細胞−基質間の接着の損失によって、インビトロで誘発できる。NIKSケラチノサイトは、親ケラチノサイトと同数の、かつ通常、親ケラチノサイトよりも多い角質化エンベロープを生成した。これら所見は、NIKSケラチノサイトがこの細胞型特異的な分化構造の形成を開始する能力を欠損していないことを実証する。
【0075】
NIKSケラチノサイトが扁平分化することができることを確認するために、細胞を器官型培養で培養した。プラスチック基質上で増殖させ、培地中に沈めたケラチノサイト培養物は、複製するが限定的な分化を示す。具体的には、ヒトケラチノサイトはコンフルエントとなり、かつ限定的に階層化され、3枚またはそれより多いケラチノサイトの層からなるシートを生成する。光学顕微鏡および電子顕微鏡によって、組織培養において形成された多層化シートの構造と無傷のヒト皮膚の構造との間には、注目すべき差異が存在する。対照的に、器官型培養技術は、インビボ様条件下でケラチノサイトを増殖および分化させることを可能とする。具体的には、細胞は、繊維状コラーゲンの基底内に埋め込まれた皮膚繊維芽細胞からなる生理学的基質に接着する。器官型培養を空気培地接触面において保つ。このようにして、上部シートの細胞は空気に曝されるが、増殖中の基部側細胞はコラーゲンゲルを通じた拡散により提供される栄養勾配に最も近接したままになる。このような条件下で、正しい組織構造が形成される。正常分化している上皮のいくつかの特徴が明白である。親細胞およびNIKS細胞株の双方で、立方形の基底細胞の単層が上皮および真皮等価物の接合部に静止している。円形の形態および高い核対細胞質比は、活発に分裂しているケラチノサイト集団の指標である。正常ヒト上皮では、基底細胞が分裂するにつれ、それらが上方向に組織の分化層へと移行する娘細胞を生じる。娘細胞の大きさは増大し、さらに平坦かつ扁平になる。ついには、それらの細胞は脱核し、かつ角質化、ケラチン化した構造を形成する。この正常な分化過程は、親細胞およびNIKS細胞の双方の上部層において明白である。ケラチノサイトの上部層においては平坦な扁平細胞の出現が明白であり、かつ器官型培養において、階層化が起こっていることが実証される。器官型培養の最上部では、脱核した鱗屑が培養物上部から剥離する。これまでに、親ケラチノサイトと器官型培養で増殖したNIKSケラチノサイト細胞株との間に、光学顕微鏡レベルでは、分化に関する組織学的な差異は観察されていない。
【0076】
親(5代継代)およびNIKS(38代継代)器官型培養物の特徴をより詳細に観察し、かつ組織学的観察を確認するために、電子顕微鏡を用いて試料を分析した。親細胞、および不死化ヒトケラチノサイト細胞株であるNIKSは、器官型培養15日後に採取し、かつ階層化の程度を示すために基底層に対して垂直に切片化した。親細胞およびNIKS細胞株の双方とも、器官型培養では拡張された階層化を受け、かつ正常なヒト表皮に特徴的な構造を形成する。親細胞およびNIKS細胞株の器官型培養においてデスモゾームが豊富に形成される。親細胞および細胞株の双方の基底ケラチノサイト層において、基底層および付随するヘミデスモゾームの形成もまた注目された。
【0077】
ヘミデスモゾームは、ケラチノサイトの基底層への接着を増加する特殊化された構造であり、かつ組織の統合性および強度の維持を助ける。これらの構造の存在は、親細胞またはNIKS細胞が多孔性支持物に直接接着している領域において特に明白であった。これらの所見は、繊維芽細胞含有多孔性支持物上で培養したヒト包皮ケラチノサイトを用いた、以前の超構造学的所見に一致する。光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方の分析により、器官型培養におけるNIKS細胞株が、階層化し、分化し、かつデスモゾーム、基底層、およびヘミデスモゾームのような、正常なヒト表皮に見出される構造を形成することができることが実証される。
【0078】
B) KGF-2
いくつかの態様では、本発明は、外因性KGF-2タンパク質を発現するヒト皮膚等価物(例えばケラチノサイト)を提供する。KGF-2は、正常ケラチノサイトおよび上皮細胞に作用して増殖させ、かつ創傷部位に移動させる、208アミノ酸のタンパク質である。KGF-2のタンパク質および核酸配列は、米国特許第6,077,692号において提供されており、これは参照として本明細書に組み入れられる。
【0079】
KGF-2は、上皮細胞に対し正の増殖効果を有すること、およびケラチノサイトの移動を仲介することによって、ケラチノサイトおよび繊維芽細胞を含む組織の創傷の治癒を促進する。加えて、KGF-2は、肉芽組織およびコラーゲンの沈着、およびコラーゲンの成熟を増加させることで、創傷の治癒を促進する(Soler et al., Wound Repair Regen. 7(3):172-178 (1999))。
【0080】
C) 抗菌性ポリペプチド
いくつかの態様では、本発明は、外因性抗菌性ポリペプチドを発現するヒト皮膚等価物(例えばケラチノサイト)を提供する。無傷のヒト皮膚では、角質層が微生物に対する防御の第一線の役割を果たす。角質層は最上部にある、生存していない、乾燥した表皮層であり、完全に分化したケラチノサイトにより構成される。皮膚の障壁の最外層が破られた場合には、先天免疫反応が微生物の侵入を予防する。この反応は、マクロファージおよび好中球による食細胞活動、ならびに微生物因子を殺傷する活性酸素中間体の生成を含む。この防御線に関連するのは、天然に発現し、かつ表皮の上部層に局在する抗菌ペプチドである。最もよく研究されているヒト抗菌ペプチドは、αデフェンシンおよびβデフェンシンの2つのサブファミリーに属し、これらはジスルフィド結合対、ゲノム構成および組織分布により互いに異なる(Ganz, T. and J. Weiss, Semin Hematol, 1997. 34(4):p. 343-54)。βデフェンシンは上皮組織内に特徴的に見出され、かつヒトケラチノサイトで発現する。このデフェンシンのサブファミリーは、細菌、真菌およびウイルスを含む広範囲の病原因子に対し強力な抗菌活性を示す。
【0081】
微生物がデフェンシンペプチドに対する耐性を獲得することは難しく、これらのペプチドを抗生物質として治療に使用することを魅力あるものにしている(Schroder, J.M., Biochem Pharmacol, 1999. 57(2): p.121-34)。臨床試験において、皮膚へのデフェンシンペプチドの適用は安全であることが見出されている(Hancock, R.E., Lancet, 1997.349 (9049): p.418-22)。局所適用されたデフェンシンの安全性は、ヒト表皮ケラチノサイトがインビボでデフェンシンペプチドを発現するという所見に一致する。
【0082】
ヒトゲノムでは、公知のデフェンシン遺伝子はすべて染色体8p22-p23の<1Mbの範囲にクラスター化している。これらの所見は、この遺伝子ファミリーが進化的に保存されていることを示唆する。Harder, J., et al., Mapping of the gene encoding human beta-defensin-2 (DEFB2) to chromosome region 8p22-p23.1. Genomics, 1997.46(3): p.472-5。一般的には、進化的に保存された遺伝子は、遺伝子機能においてある程度の重複を維持することが受け入れられている。デフェンシン遺伝子ファミリーも、この理論の例外ではない。デフェンシン遺伝子は、両親媒性構造により特徴付けられる小型(3〜5kDa)のカチオン分子をコードし、かつ3個の分子内ジスルフィド結合を形成する6個のシステイン残基を有する(図11参照)。これらのカチオン領域は、多くの細菌のアニオン性表面を誘引すると考えられる。ヒトデフェンシン遺伝子ファミリーは、2つのサブファミリー:ジスルフィド結合対、ゲノム構成および組織分布により互いに異なるαデフェンシンおよびβデフェンシンに分けられる。αおよびβデフェンシンは、三次構造において類似性を共有しており、かつ共に三本鎖逆平行βシートを含む(Pardi, A., et al., Biochemistry, 1992.31(46): p.11357-64; Zimmermann, G.R., et al., Biochemistry, 1995. 34(41): p.13663-71)。しかしながら、それらの抗菌作用の機構は互いに異なっている。
【0083】
歴史的には、αデフェンシンが、好中球および小腸のパネート細胞のような特殊化された細胞種の貯蔵顆粒内に見出されているのに対し、βデフェンシンは、上皮組織に発現する。αデフェンシンはさらに、アミノ末端配列内に阻害的プロ領域を有しており、この領域は顆粒から放出された後に切断される。プロ領域は、顆粒標的化モチーフを含む可能性を有するが、プロテアーゼインヒビターとしても独立に機能し得る。広範囲の抗菌活性は、部分的には生物膜の透過化により左右される。侵入する微生物に対して極めて強い殺傷力を有するが、αデフェンシンはまた、真核細胞種にとって有毒であることも示されている(Lichtenstein A., et al., Blood, 1986. 68(6): p.1407-10; Okrent et al., Am Rev Respir Dis, 1990. 141(1): p.179-85)。αデフェンシンが誘導する多面発現性の細胞殺傷活性により、このデフェンシンサブファミリーは、生存しているヒト皮膚代替物内で発現させる遺伝子の候補としての魅力をなくしている。
【0084】
皮膚および他の上皮のケラチノサイトは、内因的に発現したβデフェンシンのメンバーを保有する。これまでに6種類の異なる遺伝子が同定されている。これらヒトβデフェンシン遺伝子のうちの3つ、hBD-1、hBD-2およびhBD-3は、皮膚の表皮ケラチノサイトにおいて発現している。第一エキソンは、シグナル配列およびプロペプチドをコードし、かつ第二エキソンは成熟ペプチドをコードする。ヒトβデフェンシン1〜3において保存された残基を強調したアミノ酸配列アラインメントおよび特徴的な6個のシステイン残基を図10に示す。活性ペプチドの二次構造に必要なジスルフィド共有結合は、図11に明示する。
【0085】
微生物に対するβデフェンシンの抗菌作用には、複数の因子が寄与すると考えられる。第一に、カチオン性および両親媒性の特徴を有することから、抗菌ペプチドは細胞質膜に結合し、かつ膜内に進入し、そこにおいて多量体の孔へと集合し、かつ膜の伝導性を変化させ、かつ細胞内機能を改変することにより標的微生物を破壊する(White, S.H., W.C. Wimley, and M.E. Selsted, Curr Opin Struct Biol, 1995. 5(4): p.521-7; Boman, H.G., Annu Rev Immunol, 1995. 13: p.61-92)。大部分の抗菌ペプチドは、細胞膜に孔を形成することによって微生物を殺傷する。これらのペプチド抗生物質の、哺乳動物細胞膜の主成分であるコレステロールおよびリン脂質に対する感受性のため、これらのペプチドは哺乳動物細胞に対しては有毒ではない。微生物がペプチドの殺菌作用の機構に対する耐性を獲得することは困難であることから、このβデフェンシンは、抗生物質として治療に使用するための魅力的な候補である(Schroder, J. M., Biochem Pharmacol, 1999. 57(2): p.121-34。
【0086】
発現時、βデフェンシンペプチドは、当初は未分化または分化度の低いケラチノサイトの細胞質に局在すると考えられる。これらの細胞が分化し、かつ表皮表面のより近くに移動すると、細胞はこれらの抗菌ペプチドをケラチノサイトの膜上、または細胞内空間内に分泌する。シグナルペプチド配列は、この活性ペプチドの特殊化された局在化に寄与すると考えられる。最後に、ヒトβデフェンシンペプチドは表皮表面の脱水した細胞内に蓄積する。研究により、3種類のβデフェンシン遺伝子は極めて類似しているが、それらの発現は完全に異なる制御機構によって決定されることが実証されている(Frye, M., J. Bargon, and R. Gropp, J Mol Med, 2001. 79(5-6): p.275-82)。
【0087】
火傷は、細菌の増殖にとって理想的な環境であり、微生物の侵入経路を提供する。Lutermanおよび共同研究者は、「火傷した皮膚は、世界中の火傷病棟での第一の死因である火傷敗血症を引き起こす細菌侵入の巣であり、入口である」と結論している(Luterman, A., C.C. Dacso, and P.W. Curreri, Am J Med, 1986. 81(1A): p.45-52)。皮膚の損失および火傷後免疫抑制によって、感染がさらに促進される。予想されるとおり、全層性の火傷では、おそらく上皮の破壊のために、ヒトデフェンシン遺伝子の発現が低下する。例えば、火傷時では、ヒトβデフェンシン遺伝子(hBD-2)の発現は事実上検出できず、皮膚の熱破壊のためにデフェンシンが損失することが示唆される(Milner, S.M. and M.R. Ortega, Burns, 1999. 25(5): p.411-3)。日常的に使用されている壊死組織切除法も、創傷床における上皮の有意な除去に寄与し得る。壊死組織切除は、死組織を除去することによって、潰瘍、火傷および他の創傷の治癒を加速し、残っている生組織を適切に治癒できるようにする。非生存(壊死)組織を含む創傷は、壊死組織片が創傷内の細菌の栄養源となることから、治癒までにより長い時間がかかる。壊死組織切除法は、表面の細菌を体内深部に導入し、感染を引き起こし得るという潜在リスクをもたらす。
【0088】
火傷で典型的に遭遇する細菌としては、大腸菌(E.coli)、緑膿菌(P.aeruginosa)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)およびC.アルビカンス(C.albicans)が挙げられる(Heggers, J.P., Treatment of infection in burns, H. DN, Editor. 1996, WB Saunders: London. p.98-135)。これらの細菌はすべて、一つまたは複数のβデフェンシン抗菌ペプチドによって殺傷される。
【0089】
いくつかのβデフェンシンファミリーのメンバーは、炎症刺激または細菌の侵入に応答して上方制御される。他のメンバーは、非反応性であるか、炎症刺激または細菌暴露に応答して、下方制御されるか、または抑制される。創傷のない、無傷の皮膚では、算出されたβデフェンシンペプチドの表皮濃度は、抗菌作用に求められる濃度範囲内によく収まる。βデフェンシンは、未成熟樹状細胞および記憶T細胞に対し、走化活性を有している。これらの走化性応答に必要な濃度は、抗菌活性に必要な濃度よりもかなり低い(Yang, D., et al., Science, 1999. 286(5439):p.525-8)。このクロストークの結果、βデフェンシンは、先天免疫と適応免疫との間の、重要な連結を仲介すると考えられる。したがってβデフェンシンは、適応免疫反応および炎症の双方を促進する一方で、抗菌活性を通じて創傷の治癒を助長することによって、多機能的な役割を果たしていると考えられる。適応免疫は、健康なヒト皮膚では内因性の抗菌ペプチドを通じて促進され、かつ微生物感染に対する効果的なシールドを提供する可能性を有する。しかしながら、不健康な、または慢性的な皮膚創傷を有する患者では、局所的な抗菌ペプチドレベルを高めることもまた有益であろう。
【0090】
hBD-1遺伝子は、元来は末期腎臓疾患を有するヒト患者からの血液透析物中に同定された3.9kDaの塩基性ペプチドをコードする(Bensch, K.W., et al., FEBS Lett, 1995. 368(2):p.331-5)。hBD-1の殺菌活性は、主に大腸菌や緑膿菌といったグラム陰性細菌に対するものである。構成的hBD-1発現は、身体の種々の部位の皮膚で観察されている。不死化したヒトの皮膚細胞(HaCat)でのhBD-1の過剰発現は、ケラチノサイト細胞分化に関連する。過剰発現は、増殖中の細胞に影響しないことが確認された。本発明は、特定の機構に限定されない。実際、本発明の実施に、機構の理解は必要ではない。しかしながら、βデフェンシン遺伝子発現は、ケラチノサイトの分化の誘導因子あるよりは、むしろ分化の結果であると企図される(Frye, M., J. Bargon, and R. Gropp, J Mol Med, 2001. 79(5-6): p.275-82)。分化したケラチノサイト細胞でのhBD-1の発現は、細菌への暴露によって阻害される。本発明は、特定の機構に限定されない。実際、機構の理解は本発明の実施に必要ではない。しかしながら、この結果は、この因子が、再生中の上皮での治癒過程における重要なメディエーターであることを示すものであると企図される。これらの研究から、hBD-1発現の上方制御が、炎症応答とは関連しない要因の結果であることが確認される。この抗菌ペプチドは、炎症サイトカインによって誘導されず、このことは、hBD-1の5'制御配列内に、サイトカイン反応性転写因子制御要素が存在しないことに一致する。
【0091】
hBD-2ペプチドは、元来は落屑した乾癬皮膚の鱗屑中に同定されたものであり、かつその後、hBD-2遺伝子発現は、正常なヒトケラチノサイトでも同定されている(Harder, J., et al., Genomics, 1997. 46(3): p.472-5)。この遺伝子は、4kDaの塩基性ペプチドをコードする。身体の種々の部位の皮膚で比較した場合、多様な内因性発現レベルが観察されており、最も顕著な発現は、顔の皮膚および包皮において観察されている。発現は、無傷な皮膚の上基底層および角質層に局在している。低レベルのhBD-2タンパク質が、皮膚組織の基底層内のケラチノサイトの細胞質において検出されている。これらのタンパク質は、細胞が組織の上基底部位に達すると細胞膜または細胞内空間に分泌され、かつ、ついには角質層の脱水細胞内に濃縮される。hBD-2ペプチドは、緑膿菌および大腸菌のようなグラム陰性細菌の臨床分離株と効果的に戦うが、一方、黄色ブドウ球菌のようなグラム陽性細菌に対しては、高濃度で静菌効果を有するにすぎない(Liu, A.Y., et al., J Invest Dermatol, 2002. 118(2): p.275-81)。研究から、内因性の発現は、炎症性サイトカインおよび細菌への暴露によって誘発されることが示される。最後に、hBD-2は、抗菌活性を有するのみならず、種々の皮膚状態における炎症応答も調節する(Garcia, J.R., et al., Cell Tissue Res, 2001. 306(2): p.257-64)。
【0092】
hBD-3遺伝子は、抗菌活性および単球を活性化する能力について、ゲノム配列をスクリーニングすることによって同定された5kDaの塩基性ペプチドをコードする。遺伝子は、分化した呼吸器上皮細胞からクローニングされた。皮膚および扁桃において最も強い発現を示している。内因性の発現は炎症によって誘発され、したがってhBD-3は構成的ではなく、むしろ直ちに誘導可能な抗菌ペプチドでもある。このペプチドはまた、単球および好中球に対する強力な化学誘因物質でもあり、先天免疫反応に強く関与する(Garcia, J.R., et al., Cell Tissue Res, 2001. 306(2): p.257-64)。hBD-3は、低マイクロモル濃度で、緑膿菌、S. ピオゲネス、多剤耐性黄色ブドウ球菌、バンコマイシン耐性E.フェシウムおよびC.アルビカンスを含む多くの潜在的病原微生物に対し、広域スペクトル抗菌ペプチド活性を有する。hBD-3遺伝子発現は、熱不活性化細菌により刺激された場合、HaCatおよび培養した皮膚由来のケラチノサイトにおいても誘導される(Harder, J., et al., Nature, 1997. 387(6636): p.861)。特定の臓器での原因不明の再発性感染のような先天免疫欠損による障害のいくつかは、デフェンシンまたは他の抗菌ペプチドをコードする、一つまたは複数の遺伝子発現が低下する異常が原因であり得る。合成hBD-3タンパク質は、グラム陰性およびグラム陽性の細菌ならびに真菌に対し、強い抗菌活性を示す。
【0093】
本発明は、ヒト皮膚等価物での外因性抗菌性ポリペプチドの過剰発現は、創傷の治癒を加速し、かつ創傷の感染を予防すると企図している。いくつかの好ましい態様では、ヒトの皮膚等価物内で過剰発現される抗菌性ポリペプチドは、ヒトβデフェンシン1、2または3、またはそれらの組合せである。
【0094】
本発明は、ヒト皮膚等価物内でのいかなる特定の外因性抗菌性ポリペプチドの発現にも限定されない。実際、以下を含むが、それらに限定されない、種々の抗菌性ポリペプチドの発現が企図される:マガイニン(例えばマガイニンI、マガイニンII、ゼノプシン(xenopsin)、ゼノプシン前駆体断片、セルレイン前駆体断片)、マガイニンIおよびII類似体(PGLa、マガイニンA、マガイニンG、ペキシガニン(pexiganin)、Z-12、ペキシガイニンアセテート(pexigainin acetate)、D35、MSI-78A、MG0[K10E、K11E、F12W-マガイニン2]、MG2+[K10E、F12W-マガイニン2]、MG4+[F12W-マガイニン2]、MG6+[f12W、E19Q-マガイニン2アミド]、MSI-238、逆マガイニンII類似体[例えば、53D、87-ISMおよびA87-ISM]、Ala-マガイニンIIアミド、マガイニンIIアミド)、セクロピンP1、セクロピンA、セクロピンB、インドリシジン(indolicidin)、ナイシン(nisin)、ラナレキシン(ranalexin)、ラクトフェリシン(lactoferricin) B、ポリ-L-リジン、セクロピンA(1-8)-マガイニンII(1-12)、セクロピンA(1-8)-メリチン(1-12)、CA(1-13)-MA(1-13)、CA(1-13)-ME(1-13)、グラミシジン、グラミシジンA、グラミシジンD、グラミシジンS、アラメチシン(alamethicin)、プロテグリン(protegrin)、ヒスタチン(histatin)、デルマセプチン(dermaseptin)、レンチウイルス両親媒性ペプチドもしくは類似体、パラシン(parasin)I、リコトキシン(licotoxin)IまたはII、グロボマイシン(globomycin)、グラミシジンS、サーファクチン(surfactin)、ラリノマイシン(ralinomycin)、バリノマイシン、ポリミキシンB、PM2[(+/-)1-(4-アミノブチル)-6-ベンジルインダン]、PM2c[(+/-)-6-ベンジル-1-(3-カルボキシプロピル)インダン]、PM3[(+/-)1-ベンジル-6-(4-アミノブチル)インダン]、タキプレシン(tachyplesin)、ブフォリン(buforin)IまたはII、ミスグリン(misgurin)、メリチン、PR-39、PR-26、9-フェニルノニルアミン、(KLAKKLA)n、(KLAKLAK)n、ここでn=1、2または3である、(KALKALK)3、KLGKKLG)n、およびKAAKKAA)n、ここでn=1、2または3である、パラダキシン、Bac 5、Bac 7、セラトキシン(ceratoxin)、ムデリン(mdelin)1および5、ボンビン(bombin)様ペプチド、PGQ、カテリシジン(cathelicidin)、HD-5、Oabac5α、ChBac5、SMAP-29、Bac7.5、ラクトフェリン、グラニュリシン、チオニン、ヘベイン(hevein)およびノッチン(knottin)様ペプチド、MPG1、1bAMP、スナキン(snakin)、脂質輸送タンパク質、ならびに植物デフェンシン。上記化合物の例示的配列を表1に示す。いくつかの態様では、抗菌ペプチドは、L-アミノ酸から合成されるが、一方、他の態様では、ペプチドはD-アミノ酸から合成されるか、またはそれを含む。
【0095】
本発明のいくつかの好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドはデフェンシンである。特定の態様では、デフェンシンは、以下のコンセンサス配列を含む:(SEQ ID NO:107-X1CN1CRN2CN3ERN4CN5GN6CCX2、ここで、NおよびXは保存的または非保存的な置換アミノ酸を表し、かつN1=1、N2=3または4、N3=3または4、N4=1、2または3、N6=5〜9、X1およびX2は存在しても、存在しなくともよいか、または1〜2に等しい。
【0096】
ある態様では、突然変異デフェンシンを、本発明の方法および組成物において利用する。例えば、いくつかの態様では、βデフェンシン3内のジスルフィド結合形成が、一つまたは複数のシステイン残基の突然変異によって破壊される。好ましい態様では、6個のシステイン残基中の5個(例えばCys40、Cys45、Cys55、Cys62およびCys63)を、アラニン、またはジスルフィド結合を形成できない他の非荷電アミノ酸に突然変異させる。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、本発明の実施に機構の理解は必要ではない。しかしながら、βデフェンシン3内のジスルフィド結合形成の破壊は、タンパク質の抗菌活性を増加すると企図される(例えばHoover et al., Antimicrobial agent and chemotherapy 47:2804 (2003) and Wu et al., PNAS 100:8880 (2003)を参照)。本発明のhBD-3突然変異体は、野生型hBD-3と比べ改変された(例えば高い、または低い)抗菌活性を有してもよく、または同等の抗菌活性を有してもよい。ジスルフィド結合の破壊が走化性応答を誘発するhBD-3の能力を低下させるか、または排除することもさらに企図される。走化性応答の排除は、宿主(例えばヒト宿主)に移植された皮膚等価物に対する免疫応答の回避のために望ましい可能性がある。
【0097】
他の態様では、hBD-3においてグリシンからアラニンへの置換が生じる(例えばGly38Ala)。いくつかの態様では、同一のhBD-3ポリペプチドにおいて、Gly-AlaおよびCys-Ala置換の双方が産生される。
【0098】
いくつかの態様では、抗菌性ポリペプチドは抗菌ペプチドのN末端に分泌シグナルペプチドを含むように変更され、キメラ(ハイブリッド)タンパク質を創出する。このようなシグナル配列は、抗菌ペプチドの細胞表面との結合を容易にするというよりは、むしろ抗菌ペプチドの自由な分泌を可能にすると企図される。抗菌ペプチドは、未成熟ペプチドをゴルジ体に方向づけ、最終的に細胞内空間に分泌させる、内因性のシグナル分泌ペプチドを有する。これらのペプチドは、細胞表面と強固に結合していると考えられ、「自由」には分泌されない。いくつかの態様では、IL-2シグナル分泌ペプチドが用いられる。
【0099】
他の態様では、抗菌性ポリペプチドは、ヒトカテリシジン(hCAP18)ポリペプチド(SEQ ID NO:47)である。
【0100】
本発明は、いかなる特定の抗菌ペプチドにも限定されない。実際、種々の抗菌性ポリペプチドを含む媒体が企図される。代表的な抗菌性ポリペプチドを、下表1に提供する。
【0101】
(表1)抗菌ペプチド
【0102】
したがって、いくつかの態様では、本発明は抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚等価物の生成、ならびに、外因性抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトを作製するための組成物および方法を企図する。好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドは、デフェンシンまたはカテリシジンである。さらにより好ましい態様では、デフェンシンはヒトβデフェンシンである。さらにより好ましい態様では、ヒトβデフェンシンは、ヒトβデフェンシン1、2または3である。いくつかの態様では、ケラチノサイトは、ヒトβデフェンシン1、2または3からなる群より選択される1種より多いデフェンシンによりトランスフェクションされる。好ましい態様では、ケラチノサイトは、抗菌性ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターによりトランスフェクションすることを通じて、抗菌性ポリペプチドを発現するように誘導される。抗菌性ポリペプチドをコードする遺伝子を含む発現ベクターは、生じるベクターが所望の宿主内で機能的となるように、抗菌性ポリペプチドをコードする配列を一つまたは複数の制御配列に機能的に連結することによって生成することができる。
【0103】
好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドは、DNA供給源から単離され、クローン化され、配列決定され、かつ選択ベクター内に組み入れられる。ある態様では、抗菌性ポリペプチドDNAの単離は、抗菌性ポリペプチド配列を増幅するように設計されたプライマー配列を用いて、PCRを介して行われる。所望の抗菌性ポリペプチドに特異的なプライマー配列は、Genbankから得ることができる。このようなプライマー配列により、標準的なPCR法を通じてDNA供給源を増幅する結果、抗菌性ポリペプチドcDNAが単離される。好ましい態様では、cDNAの供給源はヒトcDNAである。
【0104】
D) 外因性ポリペプチドを発現する宿主細胞を産生する方法
いくつかの態様では、本発明は、一つまたは複数の外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および/または抗菌性ポリペプチド)を発現する宿主細胞(例えばケラチノサイト)および皮膚等価物を産生する方法を提供する。本発明は、そのような細胞および皮膚等価物の産生について、特定の方法に限定されない。以下に例示的な方法を記載する。さらなる方法は、当業者に公知である。
【0105】
ある態様では、抗菌性ポリペプチドcDNAは、クローニングベクター内にクローン化される。発現ベクターの中で、抗菌性ポリペプチドDNA配列に連結できる制御配列は、抗菌性ポリペプチドを発現させる宿主細胞において機能的なプロモータである。本発明においては、一つまたは複数のエンハンサー配列、機能的なスプライス供与および受容部位を有するイントロン、デフェンシンの分泌を方向付けるためのシグナル配列、ポリアデニル化配列、他の転写ターミネータ配列ならびに宿主細胞ゲノムと相同な配列といった、他の制御配列を任意で用いることができる。複製起点のような他の配列をもベクターに付加し、所望のデフェンシンの発現を最適化することもできる。さらに、形質転換した宿主細胞でのベクターの存在を選択するために、発現ベクター内に選択可能なマーカーを存在させることができる。
【0106】
好ましい態様では、抗菌性ポリペプチドは、ポリペプチドの発現を駆動する制御配列(例えばプロモータ)に融合している。好ましい態様では、制御配列は、イボルクリンプロモータ(SEQ ID NO:12)またはケラチン14プロモータである。しかしながら、本発明では、所望の宿主において抗菌性ポリペプチドの発現を可能とするいかなるプロモータも用いることができる。本明細書において用いることのできる哺乳動物プロモータ配列は、強く発現し、かつ広範な宿主域を有する哺乳動物ウイルス由来のプロモータである。例としては、SV40初期プロモータ、サイトメガロウイルス(「CMV」)前初期プロモータ、マウス乳癌ウイルスロングターミナルリピート(「LTR」)プロモータ、アデノウイルス主要後期プロモータ(AdMLP)、および単純ヘルペスウイルス(「HSV」)プロモータが挙げられる。加えて、ネズミメタロチオネイン遺伝子のような非ウイルス性遺伝子に由来するプロモータ配列、ユビキチンおよび伸長因子α(EF-1α)もまた、本明細書においては有用である。これらのプロモータは、さらに、構成的なプロモータ、またはホルモン応答性細胞においてグルココルチコイドにより誘導できるような制御的なプロモータのいずれでもよい。
【0107】
いくつかの好ましい態様では、KGF-2または抗菌性ポリペプチドを発現する宿主細胞は(例えばケラチノサイト細胞)は、以下により詳しく論述するように、従来の遺伝子発現技術によって生成することができる。本発明の実施は、特に他に示さない限り、分子生物学、微生物学、組換えDNAおよび免疫学の従来の技術を採用し、それらは当技術分野の範囲内である。このような技術は、以下を含む文献に十分に説明されている。
【0108】
本発明は、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚等価物、ならびにそのような細胞を作製するための組成物および方法を企図する。いくつかの態様では、宿主細胞は、外因性ポリペプチドをコードするDNAを含む発現ベクターによるトランスフェクションを通じて、外因性ポリペプチドを発現するように誘導される。KGF-2 DNAを含む発現ベクターは、生じるベクターが所望の宿主で機能的となるように、KGF-2を一つまたは複数の制御配列と機能的に連結することによって生成することができる。本明細書中での使用に適切な細胞形質転換の手法は当技術分野において公知であり、かつ、例えば哺乳動物細胞システムの場合には、デキストラン介在トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈法、ポリブレン介在トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、リポソームへの外因性ポリヌクレオチドの封入、および核内へのDNAの直接マイクロインジェクションが挙げられる。好ましい態様では、細胞は、プロモータ(例えばK14またはインボルクリン)DNAに機能的に連結する外因性DNA(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を含むpUB-Bsd発現ベクターによりトランスフェクションされる。
【0109】
本明細書中では、形質転換宿主細胞が所望の外因性ポリペプチド(例えばKGF-2および抗菌性ポリペプチド)を発現しているかどうか判定するために、当技術分野で公知である免疫アッセイおよび活性アッセイを利用できる。いくつかの態様では、形質転換宿主細胞によるKGF-2または抗菌性ポリペプチドの細胞内生成の検出は、免疫蛍光アッセイにより遂行される。好ましい態様では、形質転換宿主細胞による外因性ポリペプチドの細胞内生成は、RT-PCRスクリーニングにより検出される。さらなる態様では、形質転換宿主細胞により分泌された、または細胞外で生成されたKGF-2または抗菌性ポリペプチドの検出は、直接ELISAスクリーニングを通じて遂行される。いくつかの態様では、KGF-2または抗菌性ポリペプチドは、ウエスタンブロットにより検出される。
【0110】
他の態様では、外因性ポリペプチドを含む発現ベクターは、組織(例えばヒト皮膚等価物)内に直接導入される。発現ベクターは、エレクトロポレーション、粒子衝撃(例えば、第6,685,669号、第6,592,545号および第6,004,286号;それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)およびトランスフェクションを含むが、それに限定されない適切な技術を用いて組織内に導入され得る。
【0111】
II. エレクトロポレーションによる細胞の選択
本発明の開発経過の間に行った実験(例えば、実施例26を参照)から、集団内の細胞を選択するための新規の技術が導入される結果となった。実験は、外因性核酸の存在下、または非存在下においてエレクトロポレーションされ、かつ選択された細胞が、多能性の特性を示すことを実証した。したがって、いくつかの態様では、本発明は、集団において所望の成長および増殖特性を有する細胞を選択する方法を提供する。
【0112】
いくつかの態様では、エレクトロポレーションは、増強された多分化能または多能性を有する細胞の選択に用いられる。他の態様では、エレクトロポレーションは、増強された多分化能または多能性を有する細胞の選択に用いられる。本明細書で使用する「多分化能」という用語は、3つの主要な胚葉:内胚葉、外胚葉、および中胚葉に分化できる細胞の能力を意味する。いくつかの態様では、増強された多分化能または多能性を有する細胞は、幹細胞様の特性を示す。
【0113】
例えば、いくつかの態様では、エレクトロポレーションは幹細胞様特性を有する細胞の選択に用いられる。幹細胞は、成熟し機能的な細胞への遷移を生ずることができる未分化細胞である。幹細胞は、胚に由来するか(例えば、米国特許第5,843,780号および第6,200,806号参照;それぞれ参照として本明細書に組み入れられる)、または成体細胞に由来し得る。成体幹細胞の例としては、造血幹細胞、神経幹細胞、間葉幹細胞および骨髄幹細胞が挙げられる。これらの幹細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、骨細胞、筋細胞、骨髄間質細胞および胸腺間質細胞(間葉幹細胞);肝細胞、血管細胞および筋肉細胞(造血幹細胞);筋細胞、肝細胞およびグリア細胞(骨髄間質細胞)および3胚葉すべてに由来する細胞(成体神経幹細胞)を含む、種々の細胞種に分化する能力を示している。
【0114】
他の態様では、エレクトロポレーションは、拡張された増殖能力を有する細胞の選択に用いられる。例えば、本発明の開発経過の間に行った実験は、エレクトロポレーションされた細胞が、典型的により大型の生存コロニーであることを実証した。
【0115】
さらに他の態様では、エレクトロポレーションは、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態(例えば、固く詰め込まれたコロニー形態、均一な細胞、平滑なコロニー外縁部、全体的に円形な形態)を有するケラチノサイトの選択に用いられる。
【0116】
III. 外因性ポリペプチドによりトランスフェクションされたケラチノサイト細胞による創傷の治療
慢性皮膚創傷(例えば、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍)を首尾良く治療することは、重大な問題である。このような創傷の治癒は、しばしば一年をかなり超える治療を要することもある。現在の治療の選択肢としては、ドレッシングおよび壊死組織切除(壊死組織を除去するための薬品または手術の使用)、および/または、感染の場合には、抗生物質が含まれる。このような治療の選択肢は、延長された期間、および多くの患者コンプライアンスを要する。このように、従事者による慢性創傷治癒の成功を増大し、かつ創傷が治癒する速度を加速できる療法は、本分野で未達成のニーズに応えるものであろう。
【0117】
いくつかの態様では、本発明は、外因性抗菌性ポリペプチドおよび/またはKGF-2ポリペプチドを発現するケラチノサイトおよび皮膚等価物による皮膚創傷の治療を企図する。
【0118】
KGF-2は、皮膚創傷の治癒に関連する。皮膚では、KGF-2は真皮コンパートメント内で天然に発現する。KGF-2を皮膚創傷に局所適用すると、真皮の細胞増殖が増大する。加えてKGF-2は、真皮細胞において強い有糸分裂活性を明示し、かつ全層切除創傷での肉芽組織の形成を刺激する。KGF-2により加速される創傷閉鎖は一過性であり、かつ、創傷が完全に治癒した後に瘢痕形成を生ずることはない(Yu-Ping et al.1999)。しかしながら、創傷液内にある酵素およびプロテアーゼのために、局所的なタンパク質投与は有効でないことが示されている(Jeschke et al. 2002)。KGF-2は、正常上皮細胞の増殖、分化および移動を選択的に誘導する一方、KGFR(+)ヒト上皮様腫瘍に対するインビトロまたはインビボの増殖効果を有さない(Alderson et al. 2002)。このように、KGF-2は、創傷治癒を増強するための治療的使用の魅力的な候補である。
【0119】
本発明は、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトまたは皮膚等価物による皮膚創傷の治療を企図する。いくつかの態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、創傷部位に局所的に適用される。いくつかの態様では、ケラチノサイトはスプレーを介して適用される一方、他の態様では、ケラチノサイトはゲルを介して適用される。他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、部分層創傷への植付に用いられる。他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、全層創傷への植付に用いられる。他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、胃腸管の内側を覆う粘膜の内部創傷、潰瘍性大腸炎、および癌治療に起因し得る粘膜の炎症を含むが、それらに限定されない、多くのタイプの内部創傷の治療に用いられる。さらに他の態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、一時的または永久的な創傷ドレッシングとして用いられる。
【0120】
KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、創傷閉鎖および火傷治療への適用に使用できる。火傷および創傷閉鎖の治療のための自己移植および同種移植の使用は、Myersら、A. J. Surg. 170(1):75-83 (1995)および米国特許第5,693,332号;第5,658,331号;および第6,039,760号に記載されており、これらはそれぞれ参照として本明細書に組み入れられる。いくつかの態様では、皮膚等価物は、DERMAGRAFTのような代替真皮と共役させて用いることができる。他の態様では、皮膚等価物は、標準的なケラチノサイト供給源(例えばNIKS細胞)および移植物を受容する患者由来のケラチノサイトの双方を用いて生成される。したがって、皮膚等価物は、二つの異なる供給源由来のケラチノサイトを含む。またさらなる他の態様では、皮膚等価物は、ヒト組織単離物由来のケラチノサイトを含む。したがって、本発明は、火傷に起因する創傷を含む創傷を閉鎖するための方法を提供し、その方法は、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞と、創傷を患う患者とを提供する段階、および、その患者を創傷が閉鎖するような条件下で細胞により治療する段階を含む。
【0121】
本発明の、皮膚等価物を生成するための詳細な方法は、以下の実験の項に開示されている。しかしながら、本発明は、その方法による皮膚等価物の生成に限定されない。実際、共に参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第5,536,656号および第4,485,096号に記載の方法を含む種々の器官型培養技術を用いて、皮膚等価物を生成できる。いくつかの態様では、異なるケラチノサイト集団を用いて、皮膚等価物を構築する。したがって、いくつかの態様では、本発明の皮膚等価物は、不死化細胞株(例えばNIKS細胞)由来のケラチノサイト、および患者由来の細胞から形成される。他の態様では、本発明の皮膚等価物は、少なくとも、外因性抗菌性ポリペプチドおよび/またはKGF-2を発現する不死化細胞株由来のケラチノサイトの第一集団、および外因性抗菌性ポリペプチドを発現しない不死化細胞株由来のケラチノサイトの第二集団から形成される。二つの集団の比を変動させることにより、送達する抗菌性ポリペプチドおよび/またはKGF-2の用量を変動させることができると企図される。さらに他の態様では、皮膚等価物は、第一の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-1)を発現する、少なくとも第一のケラチノサイト集団、および第二の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-2またはhBD-3)を発現する、少なくとも第二のケラチノサイト集団から形成される。この場合も、用量を変動させるために細胞集団の比を変動させることができる。さらに他の態様では、皮膚等価物は、第一の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-1)を発現する、少なくとも第一のケラチノサイト集団、第二の外因性抗菌性ポリペプチド(例えばhBD-2またはhBD-3)を発現する、少なくとも第二のケラチノサイト集団、および患者由来のケラチノサイトから形成される。
【0122】
さらなる態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチド、またはそれらの複合物を、薬学的に許容される担体と混合して、治療目的、例えば創傷の治癒、乾癬および基底細胞癌腫のような皮膚および腫瘍の増殖性疾患の治療のために投与できる治療組成物を生成することができる。
【0123】
またさらなる態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞を操作し、対象に対する治療剤を提供する。本発明は、いかなる特定の治療剤の送達にも限定されない。実際、酵素、ペプチド、ペプチドホルモン、他のタンパク質、リボゾームRNA、リボザイム、およびアンチセンスRNAを含むが、それらに限定されない、種々の治療剤を対象に送達できると企図される。これらの治療剤は、遺伝的欠損を矯正する目的を含むが、これに限定されない、種々の目的のために送達できる。いくつかの特に好ましい態様では、治療剤は、遺伝性の先天性代謝欠陥(例えばアミノ酸病)を有する患者を解毒することを目的に送達されるが、ここにおいて、移植体は野生型組織として機能する。治療剤の送達が欠損を矯正すると企図される。いくつかの態様では、KGF-2および/または抗菌性ポリペプチドを発現する細胞は、治療剤(例えばインスリン、凝固因子IX、エリスロポエチン等)をコードするDNA構築物によりトランスフェクションされ、かつその細胞が対象に移植される。その後、治療剤は、移植物から患者の血流または他の組織に送達される。好ましい態様では、治療剤をコードする核酸は、適切なプロモータと機能的に連結している。本発明は、いかなる特定のプロモータの使用にも限定されない。実際、誘導的、構造的、組織特異的、およびケラチノサイト特異的プロモータを含むが、それらに限定されない種々のプロモータの使用が企図される。いくつかの態様では、治療剤をコードする核酸は、ケラチノサイト内に直接導入される(即ち、リン酸カルシウム共沈法またはリポソームトランスフェクションを介して)。他の好ましい態様では、治療剤をコードする核酸は、ベクターとして提供され、かつベクターが当技術分野において公知の方法によってケラチノサイト内に導入される。いくつかの態様では、ベクターは、プラスミドのようなエピソームベクターである。他の態様では、ベクターはケラチノサイトのゲノム内に組み込まれる。組み込み型ベクターの例としては、レトロウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクターおよびトランスポゾンベクターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0124】
IV. 試験方法
本発明の宿主細胞および培養皮膚組織は、種々のインビトロ試験に用いることができる。具体的には、宿主細胞および培養皮膚組織は、スキンケア製品、薬剤代謝、試験化合物への細胞の応答、創傷治癒、光毒性、皮膚刺激、皮膚炎症、皮膚腐食性、および細胞損傷の評価に使用される。宿主細胞および培養皮膚組織は、6ウエル、24ウエルおよび96ウエルプレートを含む、試験のための様々なフォーマットで提供される。加えて、培養皮膚組織は、標準的切除技術により分割し、かつ試験することができる。本発明の培養皮膚組織は、分化した角質層を伴う表皮層および真皮繊維芽細胞を含む真皮層の双方を有し得る。上記の様に、好ましい態様では、表皮層は不死化したNIKS細胞に由来する。他の好ましい細胞株は、NIKS細胞を含め、i) 不死化していること;ii) 非腫瘍形成性であること;iii) 分化誘導時に角質化したエンベロープを形成すること;iv) 器官型培養において正常な扁平細胞に分化すること;および v) 細胞種特異的な増殖要件を維持することにより特徴づけられ、該細胞種特異的増殖要件としては、1) マイトマイシンC処理した3T3フィーダー細胞の存在下、標準のケラチノサイト増殖培地で培養した場合に正常ヒトケラチノサイトの形態学的特徴を示すこと;2) 増殖について上皮成長因子に依存すること;および3) 形質転換成長因子β1により増殖が阻害されることが挙げられる。
【0125】
本発明は、種々のスクリーニングアッセイ法を包含する。いくつかの態様では、スクリーニングの方法は、本発明の宿主細胞または培養皮膚組織、および少なくとも一つの試験化合物または製品(例えば保湿剤、化粧品、染料または香水のようなスキンケア製品;製品は、クリーム、ローション、リキッドおよびスプレーを含むが、それらに限定されない、いずれの形態でもよい)を提供する段階、製品または試験化合物を宿主細胞または培養皮膚組織に適用する段階、ならびに製品または試験化合物の宿主細胞または培養皮膚組織への効果をアッセイする段階を含む。培養皮膚組織に対する製品または試験化合物の効果の判定には、種々のアッセイが用いられる。これらのアッセイとしては、炎症モジュレータ(例えばプロスタグランジンE2、プロスタサイクリン、およびインターロイキン-1-α)および化学誘引物質の放出をアッセイするMTT細胞毒性アッセイ(Gay, The Living Skin Equivalent as an In Vitro Model for Ranking the Toxic Potential of Dermal Irritants, Toxic. In Vitro (1992))およびELISAが含まれるが、それらに限定されない。アッセイはさらに、化合物または製品の毒性、有効性、または効力にもさらに方向づけられる。加えて、化合物または製品の、増殖、バリアー機能、または組織強度に及ぼす効果も試験できる。
【0126】
特に、本発明は、コンビナトリアルライブラリー(例えば104種を超える化合物を含むライブラリー)からの、化合物のハイスループットスクリーニングのための宿主細胞または培養皮膚組織の使用を企図する。いくつかの態様では、細胞は、細胞表面受容体の活性化に続くシグナル伝達をモニターする第二メッセンジャーアッセイに用いられる。他の態様では、細胞は、転写/翻訳レベルでの細胞応答をモニターするレポーター遺伝子アッセイに用いることができる。またさらなる態様では、細胞は、外部刺激に対する細胞の全体増殖/無増殖応答をモニターする細胞増殖アッセイに用いることができる。
【0127】
第二メッセンジャーアッセイでは、宿主細胞または培養皮膚組織は、1つの化合物または複数の化合物(例えばコンビナトリアルライブラリー由来の)により処理され、かつ第二メッセンジャー応答の有無についてのアッセイを受ける。いくつかの好ましい態様では、培養皮膚組織の創出に用いた細胞(例えばNIKS細胞)を、組換え細胞表面受容体、イオンチャンネル、電位開口型チャンネル、またはシグナル伝達カスケードに関与する関心対象の他のタンパク質をコードする発現ベクターによりトランスフェクションする。コンビナトリアルライブラリーの少なくともいくつかの化合物は、ベクターがコードする単数または複数のタンパク質のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーター、またはインヒビターとして機能できることが企図される。また、コンビナトリアルライブラリーの少なくともいくつかの化合物は、シグナル伝達経路内において、ベクターがコードするタンパク質の上流または下流に作用するタンパク質のアゴニスト、アンタゴニスト、アクチベーターまたはインヒビターベクターとして機能できることも企図される。
【0128】
いくつかの態様では、第二メッセンジャーアッセイは、膜受容体およびイオンチャンネル(例えばリガンド開口型イオンチャンネル;Denyer et al., Drug Discov. Today 3:323-32 [1998];およびGonzales et al., Drug. Discov. Today 4:431-39 [1999]参照)の刺激による細胞内の変化(例えばCa2+濃度、膜電位、pH、IP3、cAMP、アラキドン酸放出)に対し応答する、レポーター分子からの蛍光シグナルを測定する。レポーター分子の例としては、FRET(蛍光共鳴エネルギー転移)システム(例えばCuo脂質およびオキソノール、EDAN/DABCYL)、カルシウム感受性インジケータ(例えばFluo-3、FURA 2、INDO 1およびFLUO3/AM、BAPTA AM)、塩素感受性インジケータ(例えばSPQ、SPA)、カリウム感受性インジケータ(例えばPBFI)、ナトリウム感受性インジケータ(例えばSBFI)およびpH感受性インジケータ(例えばBCECF)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0129】
一般的には、化合物に暴露する前に、培養皮膚組織を含む細胞にインジケータを付加する。化合物による処理に対する宿主細胞の応答は、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡(例えばFCSシステム)、フローサイトメトリー、マイクロ流体装置、FLIPRシステム(例えばSchroeder and Neagle, J. Biomol. Screening 1:75-80[1996]を参照)、およびプレート読取システムを含むが、それらに限定されない、当技術分野で公知の方法によって検出できる。いくつかの好ましい態様では、活性が未知の化合物によって引き起こされる応答(例えば蛍光強度の増加)を、公知アゴニストが産生する応答と比較し、公知アゴニストの最大応答のパーセンテージとして表現する。公知アゴニストによって起こされる最大応答は、100%応答と定義される。同様に、公知アンタゴニストまたは試験アンタゴニストを含む試料にアゴニストを加えた後に記録される最大応答は、100%応答よりも低く検出される。
【0130】
本発明の宿主細胞および培養皮膚組織はまた、レポーター遺伝子アッセイにも有用である。レポーター遺伝子アッセイは、レポーター遺伝子に対するコード配列に接合された標的遺伝子(即ち、標的の疾患または炎症応答の生物学的発現および機能を制御する遺伝子)の転写制御要素を含む核酸をコードするベクターでトランスフェクションされた宿主細胞の使用に関する。したがって、標的遺伝子が活性化されると、レポーター遺伝子産物が活性化される結果となる。これは、炎症応答のような応答のインジケータとして機能する。したがって、いくつかの態様では、レポーター遺伝子構築物は、レポーター遺伝子に機能的に連結している、皮膚炎症または刺激によって誘導されるタンパク質、または、炎症または刺激に応答して生成される化合物の合成に関与しているタンパク質の5'制御領域(例えばプロモータおよび/またはエンハンサー)を含む。本発明での使用されるレポーター遺伝子の例としては、クロラムフェニコールトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、ホタルおよび細菌のルシフェラーゼ、βガクトシダーゼ、βラクタマーゼ、および緑色蛍光タンパク質が挙げられるが、それらに限定されない。これらタンパク質の生成は、緑色蛍光タンパク質を除いて、特異的基質の化学発光、比色、または生物発光生成物(例えばX-galおよびルシフェリン)の使用を通じて検出される。活性公知の化合物と活性未知の化合物との比較は、上記のように実施できる。
【0131】
他の好ましい態様では、宿主細胞または培養皮膚組織には、皮膚を通して導入される薬剤の効力、または皮膚に方向付けられる薬剤の影響をスクリーニングするための使用が見出される。これらの態様では、培養皮膚組織または宿主細胞は、薬剤送達システムまたは薬剤により処理され、かつ皮膚等価物内への薬剤の透過、浸透または滞留がアッセイされる。薬剤の透過をアッセイする方法は、Asbill et al., Pharm Res. 17 (9):1092-97 (2000)に提供されている。いくつかの態様では、培養皮膚組織は、改変Franz拡散細胞の上部に載せられる。培養皮膚組織を1時間水和させ、その後プロピレングリコールを用いて1時間、前処理する。その後、モデル薬剤のプロピレングリコールにおける飽和懸濁液を培養皮膚組織に加える。その後、培養皮膚組織は既定の間隔でサンプリングできる。その後、培養皮膚組織をHPLCで分析し、試料中の薬剤の濃度を決定する。薬剤の対数P値は、ACDプログラム(Advanced Chemistry Inc., Ontario, Canada)を用いて決定できる。これらの方法は、経皮パッチまたは他の送達様式を介した薬剤送達の研究に適合させることができる。
【0132】
本発明の培養皮膚組織は、皮膚の中で天然に発生する腫瘍の培養および研究、ならびに皮膚に影響を与える病原体の培養および研究にも有用であると企図される。したがって、いくつかの態様では、本発明の培養皮膚組織は、悪性細胞により接種されることが企図される。非限定的例を挙げると、培養皮膚組織は、参照として本明細書に組み入れられる米国特許第5,989,837号に記載の悪性SCC13y細胞により接種でき、ヒト扁平細胞ガンのモデルを提供する。その後、自然環境内にある腫瘍に対する効力について、化合物または他の治療戦略(例えば放射線またはトモセラピー)をスクリーニングするために、これらの接種された培養皮膚組織を用いることができる。したがって、本発明のいくつかの態様は、悪性細胞または腫瘍を含む培養皮膚組織、および少なくとも一つの試験化合物を提供する段階、化合物により培養皮膚組織を治療する段階、ならびに悪性細胞または腫瘍に対する治療の効果をアッセイする段階を含む方法を提供する。本発明の他の態様では、悪性細胞または腫瘍を含む培養皮膚細胞および少なくとも一つの試験療法(例えば放射線または光療法)を提供する段階、療法により培養皮膚組織を治療する段階、ならびに悪性細胞または腫瘍に対する療法の効果をアッセイする段階を含む方法が提供される。
【0133】
他の態様では、培養皮膚組織は、皮膚病原体の培養および研究に用いられる。非限定例を挙げると、培養皮膚組織にHPV18のようなヒトパピローマウイルス(HPV)を感染させる。HPVに感染した培養皮膚組織を調製する方法は、米国特許第5,994,115号に記載されており、これは参照として本明細書に組み入れられる。したがって、本発明のいくつかの態様は、関心対象の病原体に感染した培養皮膚組織、および少なくとも一つの試験化合物もしくは治療法を提供する段階、ならびに培養皮膚組織を試験化合物または治療法で治療する段階を含む方法を提供する。いくつかの好ましい態様では、方法は、試験化合物または治療法が病原体に及ぼす効果をアッセイする段階をさらに含む。このようなアッセイは、治療後に、培養皮膚組織内の病原体の有無、または量をアッセイすることで実施できる。例えば、ELISAを行い病原体を検出または定量できる。いくつかの特に好ましい態様では、病原体はHPVのようなウイルス病原体である。
【0134】
実験
以下の実施例は、本発明のある好ましい態様および局面を明示し、かつさらに例証するために提供されるが、これらは本発明の範囲を制限するとみなされるものではない。
【0135】
以下の実験の開示では、以下の略語を適用する;eq(当量);M(モル濃度);μM(マイクロモル濃度);N(規定);mol(モル);mmol(ミリモル);μmol(マイクロモル);nmol(ナノモル);g(グラム);mg(ミリグラム);μg(マイクログラム);ng(ナノグラム);lまたはL(リットル);ml(ミリリットル);μl(マイクロリットル);cm(センチメートル);mm(ミリメートル);μm(マイクロメートル);nm(ナノメートル);℃(摂氏温度);U(単位)、mU(ミリ単位);min.(分);sec.(秒);%(パーセント);kb(キロベース、キロ塩基);bp(ベースペア、塩基対);PCR(ポリメラーゼ連鎖反応);BSA(ウシ血清アルブミン);Pfu(超好熱古細菌(Pyrococcus furiosus))。
【0136】
実施例1
ケラチン14プロモータのクローニングおよび特徴付け
本実施例は、K14プロモータDNAの単離、クローニングおよび特徴付けに用いる方法を記載する。プライマー配列は、Genbankで入手できる公開されたK14プロモータ配列(Genbankアクセッション番号U11076)に基づいて設計した。2.35 kbの全長K14プロモータ配列を増幅するために、以下のPCRプライマーを用いた:
【0137】
ヒトゲノムDNA(Promega)を、これらのプライマーにより、Amplitaq DNAポリメラーゼ(Promega)を用いて増幅した。95℃、4分間の変性の後、試料を30サイクルの以下の反応に供した:95℃、1分間の変性、58℃、1分間のアニーリング条件、72℃、3分間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、続いて4℃に保持した。予想された2.35 kbのPCR産物が観察された。このPCR産物をゲル精製し、続いてTAクローニングベクターへのクローン化に用いた。pCR 2.1-TOPO TAクローニングキット(Invitrogen/Life Technologies)を、標準的なプロトコール条件に従って使用した。
【0138】
このプロモータの完全な配列決定には問題があったが(プロモータ領域の配列決定時に典型的に遭遇する高いGC含有量によるものと思われる)、クローン化されたプロモータ配列は、公開されたK14プロモータ配列(Genbankアクセッション番号U11076)とは異なっている。クローン化されたケラチン14プロモータ断片のコンセンサス配列(SEQ ID NO:3)を図1aに提供する。
【0139】
K14プロモータ配列が機能することを確認するために、ルシフェラーゼレポータ遺伝子発現システムを用いた。K14プロモータ断片を、pGL3ホタルルシフェラーゼベクターのマルチクローニング部位のHindIII部位に移入させた。この全長のK14プロモータHindIII断片をサブクローニングした後、300 bpの5'プロモータ断片を放出するようなマルチクローニング部位上流の単一のSmaI制限酵素部位を用いることにより、プロモータ断片を約300 bp切断する機会が容易に達成された。刊行された実験は、同様のK14プロモータの5'切断により、プロモータの活性が約30%低下することを実証する(Leask et al., Genes Dev. 4(11):1985-1998 (1990))。全長プロモータ断片(2.3 kb)のホタルルシフェラーゼ活性と、5'切断プロモータ断片(約2.0 kb)の活性とを比較した。K14プロモータルシフェラーゼベクター構築物を図2に記載する。
【0140】
ルシフェラーゼレポータ遺伝子発現の結果は、以下の通りである。ウミシイタケ(Renilla)ルシフェラーゼの共発現を用いて、潜在的なトランスフェクション効率の差、または起こりうる細胞数の差により導入される可能性のある、いかなる変動をも補正した。標準化後、ホタルルシフェラーゼレポータ遺伝子による結果は、全長(2.3 kb)K14プロモータ断片については、強力なプロモータ活性を明示し、切断されたプロモータ断片においては、ホタルルシフェラーゼの活性の約30%の低下を明示する。この結果は、Leaskらによる報告に一致する。
【0141】
次に、完全長K14プロモータをブラストシジン選択ベクター内に移入させた。
【0142】
実施例2
KGF-2のクローニングおよび特徴付け
本実施例は、KGF-2の単離、クローニングおよび特徴付けについて記載する。プライマー配列は、Genbankから入手できる公開されたKGF-2配列に基づいて設計した。627bpの全長KGF-2配列を増幅するために、以下のPCRプライマー配列(BamHI-EcoRV)を用いた:
【0143】
PCRにより誘導されるエラーのリスクを最小化するために、Pfu Turbo DNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いた。Human Universal QUICK-Clone cDNA(CLONTECH)を、全長KGF-2 cDNAのPCR増幅の鋳型として用いた。94℃、4分間の変性の後、試料を30サイクルの以下の反応に供した:94℃、30秒間の変性、51℃、30秒間のアニーリング条件、72℃、1分間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、続いて4℃に保持した。予想された627bpのPCR産物が観察された。TAクローニングの効率化を可能とするために、増幅後、3' AオーバーハングをPfu PCR産物に付加する必要があった。PCR産物は、Matrix Gel Extraction System(Marligen BioScience Inc.)を用いてゲル精製した。ゲル精製したPCR増幅産物を、市販のTAクローニングキットにクローン化した。pCR 2.1-TOPO TAクローニングキット(Invitrogen/Life technologies)を、標準的なプロトコール条件に従って使用した。
【0144】
配列決定反応は、クローニングサイトの両側に渡る2種類の配列決定プライマー(M13正方向および逆方向プライマー)をそれぞれ用いて行った。加えて、cDNAのPCR増幅に用いたKGF-2特異的プライマー(プライマーST127およびST128)を用いて、重複する配列をも得た。cDNA配列は、Genbankアクセッション番号U67918と同一であった。
【0145】
次に、TAクローン化したKGF-2 cDNAをpIRESベクター内に移入させた。正しいKGF-2 cDNA配列を含むTAクローンを、BamHI(5')およびEcoRV(3')で消化し、627bpのKGF-2 cDNAを放出させた。この産物を、哺乳動物発現pIRESpuroクローン選択ベクターのBamHIおよびEcoRV部位に直接クローニングした。
【0146】
pUB-Bsdクローン選択ベクター内への定方向クローニングに望ましい制限酵素部位を得るために、再増幅およびTAクローニングの段階が必要であった。NotIおよびSalI制限酵素部位を含むKGF-2 cDNAの増幅に用いたプライマー配列は以下の通りである。
【0147】
PCR条件は上に列挙した条件と同一であった。Pfuポリメラーゼ(Stratagene)を用いたが、今回の追加的な増幅ラウンドでは、出発鋳型として前回のKGF-2遺伝子を含むTAクローンを用いたことから、必要なPCRサイクル数は、より少なかった。
【0148】
PCR産物は、戦略的に配置されたNotIおよびSalI制限酵素部位を含んだ。このPCR産物を、標準的なプロトコール条件に従ってpCR 2.1-TOPO TAクローニングキット(Invitrogen/Lifetechnologies)によりクローン化した。
【0149】
新たにクローン化されたKGF-2 cDNAを配列決定し、配列がKGF-2 cDNA配列(Genbankアクセッション番号:U67918)と同一であることを確認した。
【0150】
KGF-2 cDNAクローンを、5'NotIおよび3'SalI(XhoI制限酵素開裂部位に結合する)制限酵素で消化し、TAクローニングベクターから移出させた。この断片を、NotIおよびXhoI制限酵素部位を利用して、pUB-Bsdベクター内のK14プロモータとグロブリンポリA配列との間に定方向的にクローニングした。
【0151】
実施例3
哺乳動物発現ベクターの設計
本実施例は、本発明で利用される哺乳動物発現ベクターを表す。ベクターは、図3に記載されており、以下の要素を含む:K14プロモータ(2.35 kb)/KGF-2 cDNA(627 bp)/グロブリンイントロンおよびポリ(A)(1.165 kb)/pUB-Bsd(4.245 kb)。
【0152】
実施例4
KGF-2 mRNA発現診断スクリーン(RT-PCR)
本実施例は、本発明に利用されるKGF-2 mRNA発現診断スクリーンについて記載する。NIKS細胞を、Trans-Itケラチノサイトトランスフェクション試薬(Mirus Corp.)を用いてトランスフェクションし、かつEpiLife培地(Cascade Biologics)またはNIKS STRATALIFE培地(Stratatech Corporation)のいずれかにおいて増殖させた。上清を3日間回収し、直接KGF-2 ELISAアッセイの開発に用いた。3日後、細胞をRNA単離のためにTrizol試薬(Invitrogen)で溶解した。第一鎖cDNA合成は、これらの一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞から単離した全RNAを用いて行った。以下のプライマー配列を利用した:
【0153】
次に、逆転写酵素反応を、以下の条件で実施した:RNAプライミング反応−2.5 ug 全RNA(鋳型)、0.5 mM dNTPミックス、オリゴdT(0.5 ug)−インキュベーション65度で5分間、氷上で3分間。第一鎖cDNA合成反応物(RNAプライミング反応物に追加)−1×RTバッファー(Promega Corp.)、Rnase Out (40U)(Invitrogen)、M-MLV RT (200U)(Promega)、42度で50分間、70度で15分間加熱する。引き続くPCR反応のために、RT反応鋳型1マイクロリットル(1 ul)を用いた。
【0154】
次に、PCRを実施した。95℃、5分間の変性した後、試料を35サイクルの以下の反応に供した:94℃、30秒間の変性。60℃、30秒間のアニーリング条件。72℃、1分間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、続いて4℃に保持した。RT-PCR戦略を図4に図示する。
【0155】
1.1 kbのDNAベクター特異的産物が観察されると同時に、第一鎖cDNA合成に付随する約600bpの特異的産物(KGF-2 RNA特異的産物)も観察された。偽(KGF-2 cDNAインサートを有さないベクター)対照プラスミドトランスフェクション、または逆転写酵素マイナス対照反応物のいずれにおいても、KGF-2 RNA特異的産物は観察されなかった。
【0156】
実施例5
KGF-2タンパク質発現診断スクリーン(直接ELISA)
本実施例は、本発明で用いられるKGF-2タンパク質発現診断スクリーンについて記載する。
【0157】
NIKS細胞を、Trans-Itケラチノサイトトランスフェクション試薬(Mirus Corp.)を用いてトランスフェクションし、かつEpiLife培地(Cascade Biologics)またはNIKS培地(Stratatech Corporation)のいずれかにおいて増殖させた。上清を3日間回収し、直接KGF-2 ELISAアッセイの開発に用いた。100 ulの上清をプレート(Nuncイムノアッセイプレート)内で一晩インキュベーションした。最小限の試料をプレートに2連とった。翌日、試料をウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。プレートを室温で30分間、ウエル当り300 ulの(1xPBS/1% BSA/5% ショ糖)でブロックした。ウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。ウサギ抗huKGF-2抗体(ウエル当り0.2 ug)と共に室温で2時間インキュベーションした。ウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。使用時に1:1000希釈したヤギ抗ウサギHRP(0.8 mg/ml)抗体と共に室温で30分間インキュベーションした。ウエル当り300 ulの(1xPBS/0.05% Tween-20)で3回洗浄した。前もって室温に温めたウエル当り100 ulのTMB、室温で30分間インキュベーション。2N H2SO4を50 ul加えた。O.D.450 nmおよび620 nmを読み取った。プレートの不完全性について補正した(450 nm-620 nm)。
【0158】
この実験は、一過的にトランスフェクションされたNIKS細胞の上清において、偽トランスフェクション(空ベクター)または培地単独の対照と比較して、KGF-2タンパク質のレベルの上昇が検出されることを明示した。
【0159】
実施例6
外因的に導入された全長ヒトKGF-2タンパク質を発現するNIKS細胞の単離
本実施例は、KGF-2を発現するNIKS細胞の単離について記載する。
【0160】
A. クローン単離の戦略
ベクター構築物−ケラチン14プロモータ/KGF-2 cDNA/pUB-Bsdプラスミド:
KGF-2をコードするDNA断片をPCRにより単離し、かつ配列決定してPCR産物の同一性および完全性を検証した。DNA断片は、これまでに報告されているKGF-2の配列と同一であった。KGF-2をコードするDNA断片を、ブラストシジン耐性カセットを含む哺乳動物発現ベクター内にクローン化した。ブラストシジンは、引き続いて正常に分化できる、安定にトランスフェクションされたケラチノサイトの選択に用いられている。
【0161】
基底上皮層のケラチノサイトにおけるKGF-2の構成的な発現を提供するために、ヒトケラチン14(K14)プロモータの制御下においてKGF-2が発現する構築物を産生した。K14プロモータを含む2.3 kbのゲノムDNA断片を増幅し、NIKS細胞におけるpGL3レポータープラスミド(Promega)からのルシフェラーゼの発現を促進する能力により、その活性を確認した。その後、2.3 kbのK14プロモータを、pUb-bsdベクター(Invitrogen)にクローン化した。引き続いて、KGF-2コード領域を、K14プロモータの下流にクローン化し、かつウサギβグロビンイントロンおよびポリ(A)シグナルを含むDNA断片をKGF-2コード領域の下流に挿入して、この哺乳動物発現ベクター構築物を完成させた。
【0162】
最終ベクターの構造は、制限酵素マッピングおよびDNA配列決定によって確認した。オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、かつこれを使用し、半定量的RT-PCR分析を用いて、NIKSケラチノサイト細胞におけるこの構築物の発現を試験した。プライマーは、スプライスされたRNA鋳型から産生されたPCR産物が、ゲノムDNAから増幅された対応する断片と比べ約500 bp小さくなるように、ウサギβグロビン断片におけるイントロンの両側に渡って設計された。
【0163】
トランスフェクション:
Transitケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション試薬を用いて、KGF-2ベクターDNAを単層NIKS細胞培養物に導入した。トランスフェクションの24〜48時間後、ブラストシジンフィーダー細胞層の上にNIKS細胞をプレーティングし、ブラストシジン選択培地を用いて培養した。
【0164】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS(商標)培地の存在下で、増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつ、さらなる特徴付けのために拡張した。
【0165】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含む個々の組織培養プレート(p35およびp100)に再プレーティングしたブラストシジン耐性コロニーを単離した。これら培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p35培養物を発現分析のために回収し、かつp100培養物を引き続く拡張段階に用いた。
【0166】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちK14-KGF-2発現構築物を含むと推定される。KGF-2トランスジーンの存在を確認するために、各クローンからゲノムDNAを単離し、かつベクター特異的プライマーにより増幅した。このPCRスクリーンは、トランスジーンDNA由来の産物と、潜在的な内因性KGF-2 DNA産物とを区別するように設計された。この構築物および関連する選択スキームを用いて、複数のクローンを得た。
【0167】
拡張:
p35培養物から得られた発現分析の結果は、さらなる特徴付けのためにどのクローンが拡張されるのかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物に由来するp100プレートを、約50〜80%コンフルエンスまで増殖し、かつその後、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むいくつかのプレートに拡張した。
【0168】
B. 結果
薬剤選択を生き延びた29個のNIKSクローン単離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された29クローンのうち4クローンは、拡張段階を生き延びなかった。残った25クローンは成功裡に拡張され、かつ、RT-PCRを用いて判定され、転写レベルでKGF-2を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションより単離された全RNAを陽性RT-PCR対照として用いた。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムにおけるKGF-2トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて、予想される約1 Kbの大きさのPCR産物が得られた。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0169】
実施例7
単層培養でのKGF-2 RNAおよびタンパク質の発現
本実施例は、単層細胞培養でのKGF-2の発現を分析した実験を記載する。RT-PCRで陽性が確認された各クローンを、タンパク質発現についてアッセイした。この作業の結果、上清中にKGF-2タンパク質が過剰発現していることが検出された。市販のKGF-2特異的抗体を用いて、上清に検出された、分泌されたKGF-2タンパク質のタンパク質レベルを調査した。クローンの細胞培養上清について、ウエスタンブロットおよびELISA分析を行い、かつ元来のNIKS細胞の上清と比較した。細胞増殖アッセイは、培養されたNIKS KGF-2クローンの馴化培地が有し得る生物学的効果を内因性のNIKS細胞上清と比較するために開発されている。
【0170】
A. RT-PCR
トランスジーン特異的PCR産物は、GAPDH特異的産物との関係で、半定量的に報告された。トランスジーン特異的PCRプライマーのセットは、トランスジーンに限定されたウサギβグロビンイントロン配列領域を利用する産物を生成するように設計された。その結果、この産物は内因性KGF-2産物と容易に識別される。
【0171】
トランスフェクションから約24時間後に、トランスフェクションされた培養物のmRNA発現レベルをアッセイした。市販のRNA単離キットを用いて、全細胞RNAを単離した(Invitrogen、Carlsbad、CA)。全RNAは、引き続く第一鎖cDNA合成(逆転写)反応、それに続くポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)の適切な鋳型を提供した。増幅産物は、エチジウムブロミド染色したアガロースゲル上で解析された。予想される、トランスジーンDNAおよびmRNA産物に特異的なPCR産物は、それぞれ1.0Kbおよび550 bpである。
【0172】
KGF-2遺伝子のmRNA産物を特異的に増幅する、追加のRT-PCRプライマーセットを設計したが、このプライマーセットは、内因性のメッセージとトランスジーンのメッセージとを区別しない。トランスジーンmRNAと内因性mRNAとを区別することはできないが、内因性対照試料(空ベクターをトランスフェクションしていない試料、およびトランスフェクションした試料)を参照点として用いて、強度を半定量的に比較した。
【0173】
K14-KGF-2構築物より発現したKGF-2 RNAのレベルを、内因性遺伝子由来のKGF-2 RNAのレベルと比較するために、その起源を問わずにKGF-2 RNAを増幅するプライマーを用いて、RT-PCR分析を行った。これらの条件下では、これらのRT-PCR条件を用いても内因性KGF-2は同定されず、したがってNIKSケラチノサイトではKGF-2は発現していないと考えられる。これまでのところ、トランスフェクションされていないNIKS細胞の全RNA対照から、KGF-2 RT-PCR産物は同定されていない。予想された550 bp断片は、KGF-2トランスジーンをトランスフェクションしたNIKS細胞では、慣例的に観察される。K14-KGF-2構築物より発現したKGF-2は、550 bpのRT-PCR産物を生じた。2つのK14-KGF-2クローンのRT-PCR分析から、内因性のKGR-2のレベルは検出されないことに対し、550 bpのKGF-2 RNA産物が過剰発現することが示される。逆転写酵素を省略した対照反応ではPCR産物は認められず、これらの産物がRNAに由来するものであり、PCR反応の鋳型汚染によるものでないことが実証された。これらの結果は、K14-KGF-2発現構築物により安定にトランスフェクションされたNIKSクローンが、KGF-2トランスジーンを特異的に過剰発現することを実証する。
【0174】
B. ウエスタンブロット
ウエスタンブロット分析は、文献に報告された翻訳後改変型KGF-2に対応する予想通りのゲル位置に、特異的産物があることを実証する。顕著なKGF-2特異的タンパク質バンドは、19〜30kDaの間に観察される。ウエスタンブロット分析で観察された特異的KGF-2バンド産物は、半定量的RT-PCRの発現の結果を確証させる。改変されていないNIKS対照培養物においては、内因性KGF-2は検出されない。これらの所見は、半定量的mRNA発現分析で得た結果に一致する。慣例的に19 kDaのKGF-2タンパク質バンドに対応する陽性対照(組換えヒトKGF-2)タンパク質は、1レーン当り0.3〜0.5 ngの範囲の濃度で使用した。
【0175】
安定にトランスフェクションされたK14-KGF-2クローンでのKGF-2タンパク質の発現を定量化するために、KGF-2サンドイッチELISA(ポリクローナル抗体は、R&D Systems and Santa Cruzより得た)を開発し、種々のK14-KGF-2クローンとトランスフェクションしていないNIKS細胞との間でKGF-2レベルを比較した。いくつかのK14-KGF-2クローン由来の上清は、未改変NIKS細胞対照試料と比較して、上昇したレベルのKGF-2を含む。このKGF-2タンパク質発現の増加は、RT-PCR分析により認められる増加に一致する。これらの結果は、上昇したレベルのKGF-2タンパク質を安定に発現し、かつ分泌するようにNIKS細胞を操作できることを実証する。
【0176】
C. ELISA
サンドイッチアッセイを開発して分泌されたKGF-2のレベルを比較した。アッセイの結果は、細胞上清1ミリリットル当たりの、検出されたタンパク質量で報告される。上清中に検出されるKGF-2タンパク質のレベルは、未改変NIKS細胞の上清(陰性対照)試料に検出されるレベルより、はるかに高い。個々のクローンについてELISAの値が得られ、相対発現レベルを割り当てるために用いられた。
【0177】
総合すると、これらアッセイのそれぞれから集められた発現分析を用いて、互いに比較した場合の相対的発現レベルにクローンをグループ分けした。
【0178】
実施例8
器官型培養でのKGF-2 RNAおよびタンパク質の発現
本実施例は、器官型培養でのKGF-2の発現を分析する実験について記載する。
【0179】
A. RT-PCR:生検試料の比較(クローン対NIKS)
安定化クローンより産生した皮膚組織でのRT-PCRによって、KGF-2 mRNAの発現を検査した。全RNAを皮膚組織から抽出し、KGF-2トランスジーンから発現するmRNAは検出するが、内因性KGF-2遺伝子からのmRNAは検出しないプライマーを用いたRT-PCRに供した。KGF-2 mRNAは、K14-KGF-2クローンから調製した皮膚組織では検出されたが、トランスフェクションしていないNIKS細胞から調製した皮膚組織からのRNAでは検出されなかった。これらの結果は、K14-KGF-2構築物が、脈絡上は階層化された表皮において発現することを実証する。
【0180】
B. ウエスタンブロット
結果は、単層細胞培養について得られた結果と同様であった。
【0181】
C. ELISA
結果は、単層細胞培養について得られた結果と同様であった。
【0182】
D. 組織学:クローンの生検対NIKS
K14-KGF-2発現構築物を含む、安定にトランスフェクションされたクローンが、正常に表皮分化することを検証するために、これらクローンを含む培養皮膚組織を調製した。2週間の器官型培養の後、K14-KGF-2クローンは正常な表皮の形態を有する培養皮膚組織を形成した。これらの所見は、KGF-2の上昇した発現が、NIKS細胞が正常な表皮に分化する能力を妨害しないことを示す。
【0183】
実施例9
外因性KGF-2を発現する皮膚等価物を用いた創傷の閉鎖
本実施例は、マウス創傷モデルの創傷を閉鎖するために、外因性KGF-2を発現している皮膚等価物を用いた場合に得られた予備実験の結果を記載する。この実験では、器官型培養した皮膚(即ち皮膚等価物)を、無胸腺ヌードマウスの削剥した背に移植した。元来のNIKS細胞を含む皮膚等価物と、KGF-2を発現する遺伝的に改変された皮膚等価物とを比較した。すべての組織は、マウスに移植する直前にメッシュ化(2:1比)した。マウスにおいて、間質創傷空間の閉鎖を評価した。各観察時点には、ミクロメータによる創傷面積の測定を記録する段階が含まれ、これらの測定値にはデジタル写真が添付された。手術の3日後(POD 3)、遺伝的に改変されたNIKS器官型皮膚組織(KGF-2)を有するマウスでは、間質腔の創傷の完全な閉鎖が観察されたが、NIKS培養組織対照を移植したマウスでは、閉鎖は観察されなかった。
【0184】
実施例10
哺乳動物発現ベクターの設計
本実施例は、本発明のいくつかの態様で利用した哺乳動物発現ベクターについて記載する。ベクターは、図5に記載されており、以下の要素を含む:インボルクリンプロモータ(3.7 kb)/KGF-2 cDNA(627 bp)/グロビンイントロンおよびポリ(A)(1.165 kb)/pUB-Bsd(4.245 kb)。
【0185】
発現ベクターの構築
ヒトインボルクリンプロモータ配列を含むゲノムDNA断片を、公開された配列(Crish et al., J. Biol Chem, 1998. 273(46): p.30460-5)に基づくPCRプライマーを用いて単離した。クローン化されたインボルクリンプロモータPCR産物の完全性は、制限酵素分析およびインボルクリン特異的プライマーを用いたDNA配列決定によって確認した。インボルクリンプロモータは、未分化のケラチノサイトでは発現しないが、分化したケラチノサイトで特異的に活性化されている。正常なケラチノサイト分化の妨害を避けるためには、分化したケラチノサイトにKGF-2を過剰発現させるよう方向付けることが好ましい。
【0186】
KGF-2遺伝子のコード領域を、pUB-Bsd発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)にクローン化する。マルチクローニング部位の上流にインボルクリンプロモータを挿入して、このベクターを改変する。このベクターは、ブラストシジン遺伝子発現を駆動するユビキチンプロモータ配列を利用したブラストシジン薬剤選択カセットを含む。簡単に述べると、KGF-2に対する遺伝子特異的プライマーを、末端制限酵素部位(5'-EcoRVおよび3'-SpeI)を含むように設計した。これらのプライマーを、TAクローン化cDNA鋳型を含むPCR反応に用いた。改変されたKGF-2 PCR産物(末端制限酵素部位を含む)をTAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化した後、配列を決定した。KGF-2 cDNA遺伝子産物を、TAクローニングベクターから哺乳動物発現ベクターに移行させた。完全な哺乳動物発現ベクターの構築には、図5に示す二段階のベクター組立アプローチが必要であった。
【0187】
KGF-2 mRNA発現診断スクリーン(RT-PCR)
mRNA発現スクリーンを、実施例4に記載されるように行った。
【0188】
インボルクリンプロモータ/KGF-2発現構築物
1) エレクトロポレーショントランスフェクション法の結果
(表2)クローン選択およびmRNA発現の結果の概要
【0189】
2) Trans-ITケラチノサイトトランスフェクション法の結果
(表3)クローン選択およびmRNA発現の結果の概要
【0190】
外因的に導入された全長ヒトKGF-2タンパク質を発現するNIKS細胞の単離
A. クローン単離の戦略
ベクター構築物:
このクローン単離戦略は、インボルクリン/KGF-2 cDNA/グロブリンポリ(A)断片/pUb-BsdプラスミドのDNA maxiprep(Qiagen)の使用を含む。
【0191】
Trans-IT-ケラチノサイトトランスフェクション法:
Transit-ケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション試薬を用いて、KGF-2ベクターDNAを単層NIKS細胞培養物に導入した。トランスフェクションの24〜48時間後に、ブラストシジンフィーダー細胞層の上にNIKS細胞をプレーティングし、ブラストシジン選択培地により培養した。
【0192】
エレクトロポレーショントランスフェクション法:
初期継代NIKS細胞を約50〜70%コンフルエンスにおいて回収した。細胞を沈殿させ、かつ沈殿物をF-12/DME(5:1)に再懸濁した(2×106細胞/800 ul)。
【0193】
800 ulのNIKS細胞懸濁液を0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに配置し、DNAを添加して(10〜30 ug、直鎖状またはスーパーコイル状)、GenePulserのキュベットホルダーに配置して開始した。すべての段階は室温で行った;この手順の間、細胞を氷上に配置することは常になかった。実際の電圧および静電容量を記録した。
【0194】
エレクトロポレーションしたNIKS細胞をキュベットから取り出し、25〜50 mlの新鮮なNIKS培地中で希釈し、ピペット操作で良く混合し、ブラストシジン耐性フィーダーを含む(トランスフェクション1反応当り5枚または10枚いずれかのp150を使用)p150にプレーティング(5〜10 ml)した。
【0195】
翌日、培地をブラストシジン含有(2.5 ug/mlブラストシジン)培地を有するp150に移した。
【0196】
BioRad GenePulser エレクトロポレーションの設定:
指数関数的パルスプログラム
270ボルト
950uF
オーム
0.4 cm キュベット
【0197】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、かつ2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS培地の存在下で、増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつさらなる特徴付けのために拡張した。
【0198】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含む個々の組織培養プレート(p35およびp100)に再プレーティングしたブラストシジン耐性コロニーを単離した。これら培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p35培養物を発現分析のために回収し、p100培養物を引き続く拡張段階に用いた。
【0199】
安定トランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちインボルクリン-KGF-2発現構築物を含むと推定される。KGF-2トランスジーンの発現を確認するために、各クローンから全RNAを単離し、RT-PCR分析のための鋳型を提供した。この構築物および、関連する選択スキームを用いて、複数のクローンを得た。
【0200】
拡張:
p35培養物から得た発現分析の結果は、さらなる特徴付けのためにどのクローンが拡張されるのかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物に由来するp100プレートを、約50〜80%コンフルエンスまで増殖し、かつその後、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むいくつかのプレートに拡張する。
【0201】
B. 結果:
クローン選択のためのTrans-IT−ケラチノサイトトランスフェクション法:
薬剤選択を生き延びた16個のNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された16クローンのうち、拡張期を生き延びたものは2クローンのみであった。これら2つのクローンは成功裡に拡張され、RT-PCRを用いて判定され、転写レベルでKGF-2を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションより単離された全RNAを陽性RT-PCR対照として供した。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムに存在するKGF-2トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて予想される約1 Kbの大きさのPCR産物を得た。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0202】
クローン選択のためのエレクトロポレーショントランスフェクション法:
第一の選択実験では、薬剤選択を生き延びた4つのNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された4つのクローンは、すべて拡張段階を生き延びた。第二の実験では、薬剤選択を生き延びた2つのNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された双方のクローンとも拡張段階を生き延びた。第三の実験では、薬剤選択を生き延びた5つのNIKSクローン分離株を単離し、かつ特徴付けした。当初同定された5つのクローンは、すべて拡張段階を生き延びた。
【0203】
この一連の選択実験で産生されたすべてのクローンが成功裡に拡張され、RT-PCRを用いて判定され、転写のレベルでKGF-2を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションより単離された全RNAを、陽性RT-PCR対照として供した。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムに存在するKGF-2トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて予想される約1 Kbの大きさのPCR産物を得た。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0204】
実施例11
NIKS細胞での内因性ヒトβデフェンシンの発現
本実施例は、NIKS細胞での内因性ヒトβデフェンシン(hBD)の発現の分析を提供する。NIKS細胞がhBDを発現するかどうかは不明であったことから、RT-PCR分析を行い、NIKSケラチノサイトの単層培養物および器官型培養物の双方においてhBD-1、hBD-2およびhBD-3の検出可能なレベルを検証した。具体的には、研究対象のそれぞれのヒトβデフェンシン遺伝子について、単層および器官型のNIKS細胞培養物の双方において逆転写酵素反応を行った。逆転写酵素反応は、NIKS細胞の単層培養物および器官型培養物の双方から単離した全RNAを用い、オリゴヌクレオチドd(T)プライマーを用いて行った。1マイクロリットルのRT反応鋳型を、遺伝子特異的プライマーを含む20 ulのPCR反応液において使用した。PCR反応は以下のように実施した。95℃、5分間の変性の後、試料を35サイクルの以下の反応に供した:94℃、30秒間の変性、58℃、30秒間のアニーリング条件、72℃、30秒間の伸長。最後に72℃、7分間の伸長を行い、その後4℃に保持した。20マイクロリットルのPCR反応液のうち15マイクロリットルを、エチジウムブロミドを含む1%アガロースゲルで解析した。ゲルを、それぞれhBD-1、hBD-2およびhBD-3に対応する275 bp、205 bpおよび290 bpの予想PCR産物の大きさについて分析した。
【0205】
無傷のヒトの皮膚は、ヒトhBDの3種類全てを発現しており、かつそれらの発現レベルは、傷害および炎症に応答して増加することが報告されている。これまでのところ、単層の初代ヒトケラチノサイトでのhBDの発現は報告されておらず、非治療用製品のMatekのEpiDermでのhBD-2タンパク質の発現に関する1つの報告があるのみである。NIKSケラチノサイトの単層培養物および器官型培養物の双方において、3種類すべてのhBDのRNA発現レベルについて徹底的に分析を実施した。NIKSケラチノサイトの器官型培養物においては、すべてのhBDのレベルが単層培養条件と比較して増強される結果となったが、誘導の規模はhBD間で多様であった。NIKS細胞の単層では、hBD-2およびhBD-3の定常状態のmRNA発現レベルは、検出限界以下であった。広域スペクトル抗菌ペプチドであるhBD-3は、器官型培養でも発現は低く、NIKSケラチノサイトでのhBD-3の過剰発現が、特に器官型培養技術により生物工学的に操作されたヒト皮膚組織において、抗菌特性を増強する結果となることを支持した。
【0206】
実施例12
ヒトβデフェンシンのクローニング
本実施例は、NIKS細胞からのhBD-1、h-BD2およびhBD3のクローニングについて記載する。実施例1に記載した逆転写酵素-ポリメラーゼ連鎖反応産物を、TAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化し、かつ配列決定して、それらの遺伝的同一性を確認した。それぞれのクローン化cDNA産物の配列決定の結果の概要は、以下の通りである。ヒトβデフェンシン1 cDNA配列は、hBD-1に対するGenbankアクセッション番号U73945と同一であることが確認された。ヒトβデフェンシン2 cDNA配列は、hBD-2に対するGenbankアクセッション番号AF040153と比較した場合、アミノ酸位置48位に点突然変異(Lys→Arg)を示した。Pfuプルーフリーディングポリメラーゼを用いて配列を増幅し、クローン化した。配列は、GenBank配列と同一であることが確認された。
【0207】
ヒトβデフェンシン3 cDNAクローンの配列は、アミノ酸位置57位(Thr→Met)および62位(Cys→Tyr)の2箇所の点突然変異を含むことが元来見出されていた。Pfuポリメラーゼ(プルーフリーディング酵素)を用いて、hBD-3 cDNAを再増幅することに成功し、これをTAクローニングベクターにクローン化し、かつ配列決定した。この新たなクローンの配列は、hBD-3に対してGenBankアクセッション番号AF295370に報告されている配列と同一であった。
【0208】
実施例13
発現ベクターの構築
本実施例は、hBD発現ベクターの構築について記載する。ヒトインボルクリンプロモータ配列を含むゲノムDNA断片を、公開された配列に基づくPCRプライマーを用いて単離した。Crish, J.F., T.M. Zaim, and R.L. Eckert, The distal regulatory region of the human involucrin promoter is required for expression in epidermis. J. Biol Chem, 1998. 273(46): p.30460-5。クローン化されたインボルクリンプロモータPCR産物の完全性は、制限酵素分析およびインボルクリン特異的プライマーを用いたDNA配列決定によって確認した。インボルクリンプロモータは、未分化のケラチノサイトでは発現しないが、分化したケラチノサイトで特異的に活性化される。発明者らは、以前の研究において、このインボルクリンプロモータ断片の使用が、NIKSケラチノサイト単層培養での発現を支持することを実証した。正常なケラチノサイト分化の妨害を避けるために、分化したケラチノサイトがβデフェンシンを過剰発現するよう方向付けることが好ましい。
【0209】
それぞれのβデフェンシン遺伝子のコード領域を、pUB-Bsd発現ベクター(Invitrogen, Carlsbad, CA)にクローン化する。マルチクローニング部位の上流にインボルクリンプロモータを挿入することにより、このベクターを改変する。このベクターは、ブラストシジン遺伝子発現を駆動するユビキチンプロモータ配列を利用するブラストシジン薬剤選択カセットを含む。hBD1ベクターの制限酵素地図を図12に提供する。簡単に述べると、hBD-1に対する遺伝子特異的プライマーを、末端制限酵素部位(5'-XamIおよび3'-XbaI)を含むように設計した。これらのプライマーを、NIKS細胞から単離した全細胞RNAを含むRT-PCR反応において用いた。hBD-1 PCR産物をTAクローニングベクター(Invitrogen)にクローン化した後、配列決定した。デフェンシンcDNA遺伝子産物を、TAクローニングベクターから哺乳動物発現ベクターに移行させた。完全な哺乳動物発現ベクターの構築には、図13に示す2つの段階のベクター組立アプローチが必要であった。同様のクローニング戦略を用いて、hBD-2およびhBD-3の哺乳動物発現構築物を産生した。
【0210】
実施例14
NIKS細胞での外因性hBDの発現
それぞれのインボルクリン-βデフェンシン-UB-Bsdベクター由来の精製DNAをNIKS細胞内に導入した。具体的には、NIKS細胞を効果的にトランスフェクションするのに用いられるTransIt-ケラチノサイト試薬(Mirus Corporation)を用いて、NIKS細胞をトランスフェクションした。陰性対照試料は、偽(DNAなし)トランスフェクションの、または空ベクター(βデフェンシンなし)をトランスフェクションしたNIKS細胞集団を含む。
【0211】
mRNA分析:
トランスフェクションした培養物を、トランスフェクション約24時間後に、mRNA発現レベルについてアッセイした。市販のRNA単離キットを用いて、全細胞RNAを単離した(Invitrogen、Carlsbad, CA)。全RNAは、引き続く第一鎖cDNA合成(逆転写)反応、それに続くポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)に適切な鋳型を提供した。増幅産物は、エチジウムブロミド染色したアガロースゲル上で解析された。予想される、トランスジーンDNAおよびmRNA産物に特異的なPCR産物は、以下の通りである。それぞれ、hBD-1について720 bpおよび220 bp、hBD-2について700 bpおよび200 bp、かつhBD-3について710 bpおよび210 bpである。
【0212】
この実験の結果は、3種類のデフェンシンのそれぞれについて、予想されたRT-PCR産物の大きさを確認する。さらに、逆転写酵素の非存在下での対照反応において予想されるように、トランスジーンDNAの増幅に対応する単一の強いシグナルが検出された。偽トランスフェクションの対照反応では、特異的なPCR産物は観察されなかった。
【0213】
タンパク質分析:
3種類それぞれのβデフェンシントランスジーンの候補を一過的にトランスフェクションした細胞の培養培地を、βデフェンシンペプチドの生成について、抗βデフェンシン抗体(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)を用いる酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびウエスタンブロットアッセイを用いてアッセイした。トランスフェクションしていないNIKS細胞の内因性レベルとの比較を行った。これらのアッセイにおいては、陽性対照である合成ペプチドが含まれている。βデフェンシンタンパク質は、培地中に遊離して分泌されるより、むしろ細胞の外膜と結合したままである可能性があるため、分析には細胞溶解物が必要である可能性がある。
【0214】
実施例15
導入された外因性全長hBD-1タンパク質を発現するNIKS細胞の単離
本実施例は、hBD-1を発現するNIKS細胞の単離について記載する。
【0215】
A. クローン単離の戦略
ベクター構築物:インボルクリンプロモータ/hBD-1 cDNA/pUB-Bsdプラスミド
hBD-1をコードするDNA断片をPCRにより単離し、配列決定してPCR産物の同一性および完全性を検証した。DNA断片は、これまでに報告されているhBD-1の配列と同一であった。hBD-1をコードするDNA断片を、ブラストシジン耐性カセットを含む哺乳動物発現ベクター内にクローン化した。ブラストシジンは、引き続いて正常に分化できる、安定にトランスフェクションされたケラチノサイトの選択に用いられている。
【0216】
階層化された表皮層のケラチノサイトにおける、hBD-1の構成的な発現を提供するために、ヒトインボルクリンプロモータに制御下においてhBD-1を発現する構築物を産生した。インボルクリンプロモータを含む3.7 kbのゲノムDNA断片を増幅し、その後pUb-bsdベクター(Invitrogen)にクローン化した。hBD-1コード領域を、インボルクリンプロモータの下流にクローン化し、かつウサギβグロビンイントロンおよびポリ(A)シグナルを含むDNA断片をhBD-1コード領域の下流に挿入して、この哺乳動物発現ベクター構築物を完成させた。
【0217】
最終ベクターの構造は、制限酵素マッピングおよびDNA配列決定によって確認した。オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、これを用いて、この構築物のNIKSケラチノサイト細胞における発現を、半定量的RT-PCR分析を用いて試験した。プライマーは、スプライスされたRNA鋳型から産生されるPCR産物が、ゲノムDNAから増幅される対応する断片よりも約500 bp小さくなるように、ウサギβグロビン断片におけるイントロンの両側に渡って設計された。
【0218】
トランスフェクション:
Transit-ケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション試薬を用いて、hBD-1ベクターDNAを単層NIKS細胞培養物に導入した。トランスフェクションの24〜48時間後、ブラストシジンフィーダー細胞層の上にNIKS細胞をプレーティングし、ブラストシジン選択培地により培養した。
【0219】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、かつ2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS培地の存在下で増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつさらなる特徴付けのために拡張した。
【0220】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含む個々の組織培養プレート(p35およびp100)に再プレーティングしたブラストシジン耐性コロニーを単離した。これらの培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p35培養物を発現分析のために回収し、かつp100培養物を引き続く拡張段階に用いた。
【0221】
安定トランスフェクションNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちインボルクリンhBD-1発現構築物を含むと推定される。hBD-1トランスジーンの存在を確認するために、各クローンから全RNAを単離し、トランスジーン特異的プライマーを用いてRT-PCRにより増幅した。このPCRスクリーンは、トランスジーン全RNA由来の産物を、潜在的な内因性hBD-1の発現産物と区別するように設計された。この構築物、および関連する選択スキームを用いて、複数のクローンを得た。
【0222】
拡張:
p35培養物から得た発現分析の結果は、どのクローンをさらなる特徴付けのために拡張するかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物由来のp100プレートを、約50〜80%コンフルエンスまで増殖させ、その後、マウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むいくつかのプレートに拡張した。
【0223】
B. 結果
薬剤選択を生き延びた30個のNIKSクローン分離株を単離し、特徴付けした。当初同定された30クローンのうち10クローンは拡張段階を生き延びなかった。残った20クローンは成功裡に拡張され、かつRT-PCRを用いて判定され、転写のレベルでhBD-1を発現することが確認された。以前の一過性トランスフェクションにより単離された全RNAを陽性RT-PCR対照として用いた。陰性対照は、逆転写酵素の非存在下で行った同一反応であった。任意のクローンのゲノムにおいて検出されるhBD-1トランスジーンの存在により、トランスジーン特異的プライマーセットを用いて予想される約720 bpの大きさのPCR産物を得た。クローンは、半定量的発現分析によって、低、中または高レベルの発現を表すカテゴリーに分類された。
【0224】
導入された外因性の全長hBD-3タンパク質のNIKS細胞発現も、上記と同じ形で単離した。
【0225】
実施例16
NIKS細胞におけるhBD活性
本実施例は、hBD活性のアッセイについて記載する。NIKS単層培養物でのβデフェンシンの一過性発現が殺菌作用を増強するかどうかを判定するために、改変されたインビトロ阻止域アッセイを利用する。Hultmark D., et al., Insect immunity. Attacins, a family of antibacterial proteins from Hyalophora cecropia. Embo J, 1983. 2(4): p.571-6。簡単に説明すると、薄い(1 mm)アガロースプレートに選択された細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、S.ピオゲネス、またはC.アルビカンス)を接種する。溶かしたアガロース(1%)は、補充の塩を含むか、または含まないLuria-Bertaniブロスを含む。Vogel, H.J., Acetylornithinase of Escherichia coli: partial purification and some properties. J Biol Chem, 1956. 218: p.97-106。プレートに注ぎ込む直前に試験菌(約5×104対数増殖期細胞/ml)を添加する。アッセイプレートに小型のウエル(直径3 mm)を開け、かつトランスフェクションしていないNIKS、空の発現構築物を一過的にトランスフェクションしたNIKS、または各βデフェンシンを一過的に発現するNIKSにより、少なくとも24時間馴化し回収した培地のうち3 ulを付加する。あるいは、上記のように回収された馴化培地のうち3 ulをディスクに付加し、かつ接種された細菌叢を含むプレート上に配置する。陽性対照試料の合成hBD-3ペプチド(2〜30 ug/ml)またはストレプトマイシン(100 ug/ml)のような抗生物質を馴化培地に添加し、陰性対照(馴化していない培地試料)と共にアッセイする。一晩、30℃でインキュベーションした後、定規、かつ必要ならば拡大鏡を用いて阻止域を記録する。活性単位は、合成βデフェンシンペプチド(即ちhBD-3合成ペプチド)の希釈系列から得た域による標準曲線から読み取る。Garcia, J.R., et al., Identification of a novel, multifunctional beta-defensin (human beta-defensin 3) with specific antimicrobial activity. Its interaction with plasma membranes of Xenopus oocytes and the induction of macrophage chemoattaction. Cell Tissue Res, 2001. 306(2): p.257-64。抗菌力を測定し、公開されている標準(hBD-3合成ペプチドまたはストレプトマイシン)と比較する。理想的には、阻止域の直径の二乗は、抗菌要素の濃度の対数に比例する。Frohm, M., et al., Biochemical and antibacterial analysis of human wound and blister fluid. Eur J Biochem, 1996. 237(1): p.86-92。このコストが効率的なアッセイは、抗菌活性の測定法として標準的に用いられるが、しかしながら、抗菌活性の半定量的な結果のみを提供する。
【0226】
最小阻止濃度(MIC)アッセイもまた行われる。試験生物の増殖を阻止するのに必要な、各βデフェンシン遺伝子を一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞に由来する馴化培地の最小量を決定する。このアッセイでは、種々の濃度のNIKS馴化培地を伴う細菌増殖培地を含む一連の培養チューブ(またはマルチウエルプレートのウエル)に試験生物を接種する。インキュベーション期間の後、濁度を測定し、かつMICを決定する。合成抗菌βデフェンシンペプチドを陽性対照として用いる。MICの結果は、他の研究者から以前に公開されている結果と比較する(即ち、組織1グラム当り刺激濃度域15〜70 ug、または3.5〜16uM。Harder, J., et al., Mucoid Pseudomonas aeruginosa, TNF-alpha, and IL-1beta, but not IL-6, induce human beta-defensin-2 in respiratory epithelia. Am J Respir Cell Mol Biol, 2000. 22(6): p.714-21。これらの相対域は、合理的な参照点を達成する作業に指針を提供することのみを意図している。
【0227】
実施例17
器官型培養
本実施例は、器官型的に培養したNIKS細胞でのhBD発現のアッセイについて記載する。NIKS単層培養において、内因性のβデフェンシン遺伝子発現と比べ2倍より高い発現レベル、および増強された抗菌活性を示す、安定に遺伝的に改変されたNIKSクローンが、さらなる特徴付け作業の候補となる。これらの作業には、インビトロの皮膚組織における正常な組織形態を評価するために、器官型培養物を調製する段階も含まれる。高すぎる発現レベルは正常な組織形態を得る能力を妨げる可能性があるために、βデフェンシン発現レベルの範囲を試験する。
【0228】
いくつかの異なる増加したβデフェンシン発現レベルを示すNIKS細胞クローンを用い、器官培養技術を用いて代替ヒト皮膚組織を調製する。例えば、そのすべてが参照として本明細書に組み入れられる、米国特許出願第10/087,388号;第10/087,346号;第10/087,641号およびPCT出願第US02/06088号を参照されたい。器官培養物は、真皮および表皮コンパートメントからなる。真皮コンパートメントは、正常なヒト乳児繊維芽細胞とI型コラーゲンとを、10%ウシ胎児血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを含むHamのF-12培地中で混合し、収縮させることにより形成される。表皮コンパートメントは、0.2% FCS、0.4μg/mlのヒドロコルチゾン、8.4 ng/mlのコレラトキシン、5μg/mlのインスリン、24μg/mlのアデニン、および100単位/mlのP/Sを補充したHamのF-12:DME(3:1、カルシウム終濃度1.88mM)の混合液25μlにおいて、収縮したコラーゲンゲルの上にNIKS細胞を接種することにより生成させる。細胞は、培地を有する培養チャンバーに流入させる前(0日)に、37℃、5% CO2で2時間接着させる。2日目に、細胞に新しい培地を与える。4日目に、培地で飽和させた綿パッドの表面上にある空気/培地界面まで細胞を持ち上げ、下部から培養物に培地を供給できるようにする。器官型培養物は、37℃、5% CO2、湿度75%でインキュベーションし、かつ2日ごとに新鮮な培地を与える。10日目までに、NIKS細胞は、基底の、棘状の、顆粒状のおよび角質化された表皮層を形成して階層化する。
【0229】
遺伝的に改変されたNIKS細胞から形成された代替皮膚組織の組織切片を、未改変のNIKS細胞から調製した培養物と比較する。組織切片をヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、階層化した表皮層を視覚化する。培養物を組織形態について試験する。正常な組織構成および組織像を示すβデフェンシン発現クローンのみを用いる。
【0230】
初期の発現研究では、器官型培養物は、個別のβデフェンシントランスジーンを発現する細胞を用いて調製した。しかしながら、より広範囲の抗菌活性を達成するために、異なるβデフェンシンを過剰発現するNIKS細胞を混合することによ
りキメラ器官型培養物を調製することが可能である。βデフェンシントランスジーンを発現する細胞は、効力を調整できるように、患者由来の細胞と共に(例えば、米国特許出願第2002/0192196号を参照)、またはトランスフェクションしていないNIKS細胞と共に使用することができる。この戦略は、皮膚組織でのタンパク質発現のプロフィールにさらなる柔軟性を提供する。
【0231】
実施例18
器官型培養物における安定hBD mRNA発現の分析
本実施例は、hBD mRNAのアッセイについて記載する。全細胞RNAを、全組織試料から単離する。この全RNAを鋳型として使用し、引き続く第一鎖cDNA合成(逆転写酵素)反応、それに続くポリメラーゼ連鎖反応を行う(RT-PCR)。増幅産物は、エチジウムブロミド染色したアガロースゲルで解析される。予想される、トランスジーンDNAおよびmRNA産物に特異的なPCR産物は、それぞれ1.5 Kbおよび720 bpである。
【0232】
実施例19
器官型培養物におけるhBDタンパク質発現の分析
培養代替皮膚組織でのβデフェンシン発現の変化をモニタリングするために、培養の基礎をなす培地を種々の時点において回収する。器官型培養物が10日目となった時点で、それらを48時間新鮮な培地でインキュベーションする。48時間後から、4日間にわたり12時間毎に培地を回収し、ELISAおよび/またはウエスタンブロット分析により、培地中のβデフェンシンタンパク質のレベルを決定する。トランスフェクションしていないNIKS細胞により作製された培養代替皮膚組織の内因性遺伝子発現レベルと比較を行う。いくつかの実験では、βデフェンシンタンパク質を検出するために、組織溶解物を産生する。
【0233】
実施例20
器官型培養物における安定βデフェンシンクローンの抗菌分析
抗菌活性の阻止域アッセイ:
βデフェンシン−を発現するNIKS細胞から産生されたヒト代替皮膚組織が、増強された抗菌活性を有する結果となるかどうか判定するために、改変されたインビトロ阻止域アッセイを利用する。14、21および28日目の代替皮膚組織から得た馴化培地と生検パンチの双方を、抗菌活性について分析した。簡単に述べると、薄い(1 mm)アガロースプレートに、選択された細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、S.ピオゲネス、またはC.アルビカンス)を接種する。溶かしたアガロース(1%)は、補充の塩を含むか、または含まないLuria-Bertaniブロスを含む。プレートに注ぎ込む直前に試験菌(約5×104対数期細胞/ml)を添加する。代替皮膚組織の馴化培地のβデフェンシン活性をアッセイするために、アッセイプレートに小型のウエル(直径3 mm)を開け、かつ、トランスフェクションしていないNIKS、または各βデフェンシンを安定に発現するNIKSクローンにより産生された代替ヒト皮膚を用いて、少なくとも24時間馴化し回収した培地のうち3ulを付加する。あるいは、上記のように回収された馴化培地のうち3 ulをディスクに付加し、接種された細菌叢を含むプレート上に配置してもよい。陽性対照試料の合成hBD-3ペプチド(2〜30 ug/ml)またはストレプトマイシン(100 ug/ml)のような抗生物質を馴化培地に添加し、かつ陰性対照(馴化していない培地試料)と共にアッセイする。代替ヒト皮膚を直接アッセイするには、44 cm2の円形代替皮膚組織のそれぞれより、8 mmのパンチを4枚収集する。上記のように、各生検パンチをホモジナイズ(PowerGen Homogenizer)し、かつ接種した菌叢を含むプレート上に配置する。30℃で一晩インキュベーションした後、定規、かつ必要ならば拡大鏡を用いて阻止域を記録する。活性単位は、合成βデフェンシンペプチド(即ちhBD-3合成ペプチド)の希釈系列から得た域による標準曲線から読み取る。抗菌力を測定し、公開されている標準(hBD-3合成ペプチドまたはストレプトマイシン)と比較する。理想的には、阻止域の直径の二乗は、抗菌要素の濃度の対数に比例する。Frohm, M., et al., Biochemical and antibacterial analysis of human wound and blister fluid. Eur J Biochem, 1996.237(1): p.86-92。このコストが効率的なアッセイは、抗菌活性の測定法として標準的に用いられるが、しかしながら抗菌活性の半定量的な結果のみを提供する。
【0234】
マイクロブロス希釈アッセイ:
最小阻止濃度(MIC)アッセイを実施する。試験生物の増殖を阻止するのに必要な、各βデフェンシン遺伝子を安定にトランスフェクションしたNIKS細胞に由来する14、21および28日目の代替皮膚の馴化培地、および生検パンチの最小量を決定する。このアッセイでは、種々の濃度の代替皮膚組織由来の馴化培地を伴う細菌増殖培地を含む一連の培養チューブ(またはマルチウエルプレートのウエル)に試験生物を接種する。ヒト代替皮膚を直接アッセイする場合は、44 cm2の円形代替皮膚組織のそれぞれより、8 mmのパンチを4枚収集する。上記のように、各生検パンチをホモジナイズ(PowerGen Homogenizer)し、かつ種々の濃度として、試験生物と共にインキュベーションする。インキュベーション期間後、濁度を測定してMICを決定する。合成抗菌βデフェンシンペプチドを陽性対照として用いる。MICの結果は、他の研究者により以前に公開されている結果と比較する(即ち、組織1グラム当り刺激濃度域15〜70 ug、または3.5〜16 uM)。これらの相対域は、合理的な参照点を達成する作業に指針を提供することのみを意図する。
【0235】
細菌増殖アッセイ:
細菌に対するβデフェンシンの抗菌効果を評価するために、安定NIKSクローン(単層培養物または器官型培養物のいずれも)の細胞培養上清を、細菌増殖阻止能力について評価する。細胞培養上清を、約4×106c.f.uの細菌に、三連で接種し、37度で1〜4時間インキュベーションする。元来のNIKS細胞培養物(即ち遺伝的に変更されていない)から収集した細胞培養の培地上清を実験対照として供する。精製βデフェンシンペプチド滴定を伴ったNIKS細胞培養上清を、抗菌活性の陽性対照として用いる。1〜4時間のインキュベーション期間の直後に、培養条件の連続希釈物をLB/寒天プレートにプレーティングして、37度で18〜20時間インキュベーションする。各連続希釈物に対するそれぞれ3枚のプレートを、コロニー形成単位について評価する。
【0236】
実施例21
NIKS細胞におけるデフェンシンの発現
本実施例は、一過性にトランスフェクションしたNIKS細胞単層培養物での、上昇したβデフェンシン発現レベルについて記載する。各インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsdベクター(図14)から精製したDNAを、TransIt-ケラチノサイト試薬(Mirus Corporation, Madison, WI)を用いてNIKS細胞に導入した。偽トランスフェクション(DNAなし)のNIKS細胞集団、または空ベクター(βデフェンシンなし)をトランスフェクションしたNIKS細胞集団についても、内因性の発現レベルを分析した。
【0237】
単層NIKS細胞培養物での一過性βデフェンシントランスジーン発現の特徴付け
インボルクリン発現構築物からのβデフェンシンmRNAの発現が、RT-PCRにより、一過的にトランスフェクションしたNIKS単層細胞培養物において検出された(図15)。プライマーは、インボルクリン発現ベクターからのβデフェンシントランスジーン転写物のみを増幅し、内因性のβデフェンシン発現mRNAは検出しないように設計した。さらに、DNA鋳型からの増幅を最小化するために、第一鎖cDNA合成(逆転写酵素)反応に先立ち、それぞれの全mRNA試料にDNase処理を行った。βデフェンシン特異的発現mRNA産物(矢印)は、ウサギβグロビンイントロンを欠き、したがってDNAから増幅した産物よりも600 bp小さいことから、発現ベクターのDNAから増幅したPCR産物と区別することができる(図14参照)。
【0238】
各βデフェンシントランスジーンを発現を達成する能力を、一過性トランスフェクションを用いて試験した。TransIT-ケラチノサイト試薬(Mirus Corporation, Madison, WI)を用いて、NIKSケラチノサイト単層細胞(1×106/ウエル)に、インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsdプラスミド(10μg)を一晩トランスフェクションした。プラスミドDNAを添加しないNIKS細胞を含む、対照の偽トランスフェクションをも含めた。トランスフェクションの1日後に細胞を収集した。全RNAを、Trizol試薬(Invitrogen, Carlsbad, CA)を用いて単離し、RT-PCRにより分析して各インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsd構築物からのβデフェンシン遺伝子発現をモニターした。
【0239】
βデフェンシン遺伝子発現のRT-PCR分析の結果を図15に示す。PCRプライマーは、トランスジーン構築物から発現されたβデフェンシンmRNAを増幅するが、内因性のhBD mRNAは増幅しないように設計した。これらのプライマーは、インボルクリン-βデフェンシン-Ub-Bsdプラスミド由来のDNAも増幅するが、その産物はウサギβグロビンイントロンを含み、そのためスプライスされた産物より600 bp大きいことから、スプライスされたmRNA産物と区別できる(図14参照)。スプライスされたβデフェンシンmRNA産物に対応する顕著なPCR産物(矢印)が、hBD-1、hBD-2およびhBD-3について検出される(図15、それぞれレーン1、5および9)。この産物は、逆転写酵素を欠く対照反応(図15、レーン3、7および11)においては見られず、それがmRNA由来であることが実証される。これらの結果はまた、各hBD発現構築物が、NIKSケラチノサイト細胞培養物で発現することも示す。
【0240】
NIKS細胞における外因性βデフェンシンタンパク質の発現
3種類のβデフェンシン構築物のそれぞれを一過的にトランスフェクションした細胞の培地を、hBD-1、hBD-2(Santa Cruz Biotechnology, Santa Cruz, CA)およびhBD-3(SAGE BioVentures, Carlsbad, CA)に特異的な抗βデフェンシン抗体を用いたイムノブロット分析を用い、タンパク質の過剰発現についてアッセイした。
【0241】
一過性トランスフェクションしたNIKSケラチノサイト単層培養物からの馴化培地および細胞溶解物を、変性、還元条件下でSDS-PAGEにより別々に分析し、イムノブロット分析によりhBD-3タンパク質のレベルを評価した。NIKS単層培養物に一過的にトランスフェクションを行い、かつトランスフェクションの1日後に、前述のmRNA発現分析の場合のように単層培養物の上清および細胞溶解物を収集した。BCAタンパク質アッセイキット(Pierce, Rockford, IL)を用い、16% Tricine Novexプレキャストゲル(Invitrogen, Carlsbad, CA)の各ウエルに付加するタンパク質の量を前もって決定し、その後PVDF(孔径0.2μm)フィルター上にエレクトロブロットした。リン酸緩衝生理食塩水中の4%スキムミルクで1時間ブロッキングした後、フィルターを、ヒトβデフェンシン3タンパク質のアミノ酸残基23位〜33位に対して精製されたウサギポリクローナル抗体(1:500)と共に一晩インキュベーションした。その後、フィルターをヤギ抗ウサギIgG 西洋ワサビペルオキシダーゼ標識二次抗体(1:5000)と共に1時間インキュベーションした。ブロットを増強化学発光(ECL)イムノブロッティング検出システム(Amersham Pharmacia Biotech, Sunnyvale, CA)と共にインキュベーションし、かつフィルムに感光させることにより、生成物を検出した。
【0242】
hBD-3タンパク質の予想される生成物の大きさは5kDaである。しかしながら、最近の研究は、hBD-3タンパク質が約14kDaの分子量を示し、それは二量体の形成と一致すると報告している(Schibli, D.J., et al., J Biol Chem, 2002. 277(10): p.8279-89)。この分子量の差は、タンパク質の翻訳後修飾(即ち糖付加)により一部説明できるか、または還元されていないジスルフィド結合の結果としてhBD-3が二量体として存在することによるものである可能性がある。合成の対照hBD-3(90 ng)は、イムノブロット分析によって検出された(図16、レーン1)。トランスフェクションしたNIKSまたは偽(トランスフェクションしていない)NIKSから回収した馴化培地においては、予想される分子量のhBD-3タンパク質(5kDaまたは14kDa)は検出されなかった(図16、レーン4および5を参照)。レーン4および5において観察される高分子量のバンドの存在は、馴化培地中の血清の存在に依存するものと思われる。トランスフェクションした、または偽(トランスフェクションしていない)NIKSケラチノサイトから回収した無血清の馴化培地では、高分子量のバンドは非常に微弱にしか観察されなかった。
【0243】
抗hBD-3抗体により認識される14kDaタンパク質は、一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞の溶解物および偽トランスフェクションのNIKS細胞の溶解物の双方で検出された(図16、レーン6および7)。hBD-3トランスジーンを一過的にトランスフェクションしたNIKSでは、hBD-3タンパク質レベルの増強がもたらされた。これらの細胞溶解物の結果は、一過的にトランスフェクションされたNIKS細胞では、hBD-3タンパク質は過剰発現するが、それは細胞または細胞外マトリックスに結合したままであり、かつ培地中に分泌される可能性が低いことを示す。隔離されたβデフェンシンペプチドを含む顆粒に対する分泌シグナルは、扁平細胞分化の後期と密接に関連していると思われる(Oren, A., et al., Exp Mol Pathol, 2003. 74(2): p. 180-2)。
【0244】
実施例22
一過的にトランスフェクションされたNIKS細胞単層培養物でのβデフェンシンの抗菌活性
本実施例は、細胞培養物におけるデフェンシンの抗菌活性について記載する。
【0245】
βデフェンシンの生物活性を検出するのに用いる抗菌アッセイの開発
抗菌活性のアッセイは、大腸菌およびS.カルノーサス(Staphylococcus carnosus)を採用し、かつPorterおよび共同研究者が記載したプロトコールを改変したものである(Porter, E.M., et al., Infect Immun, 1997. 65(6):p.2396-401)。簡単に述べると、グラム陽性細菌またはグラム陰性細菌を一晩増殖させる。翌日、試験生物を2.5時間、二次培養し、かつ10 mMのリン酸ナトリウム(pH7.4)- 1%TSB中において、大腸菌の場合は104細菌/ml、S.カルノーサスの場合は105細菌/mlの作業希釈液を作製する。すべての反応で、50μlの実験試薬(溶解物、上清または精製タンパク質)と50μlの菌懸濁液とを混合する。その後、これらの反応液を37℃で1.5時間インキュベーションする。反応液を10mMリン酸ナトリウム(pH7.4)- 1% TSBで100倍に希釈し、かつスパイラルプレータ(Spiral Biotech, Norwood, MA)を用いてTSBプレートにプレーティングする。その後、プレートを37℃で12時間から16時間インキュベーションする。これらのプレート上のコロニーを計数し、かつ生菌数を決定し、かつ1ミリリットル当りのコロニー形成単位(CFU/ml)として表す。
【0246】
合成hBD-1、hBD-2およびhBD-3ペプチドの抗菌活性に関する標準曲線
hBD-1、hBD-2およびhBD-3の抗菌活性に関する標準曲線を図17に示す。hBDタンパク質の中では、hBD-3が最も高い抗菌活性を示し、50%の大腸菌を殺菌するのに必要な濃度(LC50)は2.4μg/mlであった(図17a)。hBD-2およびhBD-1は双方とも、大腸菌に対してはhBD-3よりも効力が低かった(図17bおよびc)。hBD-2の大腸菌に対するLC50は12.2μg/mlであり、hBD-1のLC50は102μg/mlであった。グラム陽性菌のS.カルノーサスは、hBD-3に対してより感受性が高いと考えられ、LD50は0.19μg/mlであった(図17d)。
【0247】
hBDトランスジーン、または対照を一過的にトランスフェクションしたNIKS細胞の単層培養物由来の馴化培地または細胞溶解物のいずれも、抗菌アッセイでは抗菌活性を示さなかった。hBD-2およびhBD-3の内因性の発現は、NIKSケラチノサイトの器官型培養物においてのみ観察され、単層培養物においては観察されない。したがって、単層培養条件は、hBD-2およびhBD-3タンパク質の抗菌活性についてアッセイするために一過性発現の実験を用いることの可能性を低くしている。hBD-1は、NIKSケラチノサイトの単層および器官型培養で発現するものの、試験生物においては、hBD-1は最も低い抗菌活性を示す。加えて、NIKS細胞の一過性トランスフェクションの効率は、一般的には20〜30%であるが、抗菌活性を示すのに必要なhBD1のレベルを支持するのには十分でない可能性もある。これらの所見から、安定にhBDトランスジーンを発現するNIKSケラチノサイトのクローンを産生し、かつこれらのNIKSクローンの器官型培養物を用いて抗菌活性のアッセイを実施することとなった。
【0248】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの単離
一過的にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトにおいて観察される抗菌活性の欠損に基づいて、安定にトランスフェクションされた、hBDトランスジーンを発現するNIKSクローンを単離した。本発明は、特定の機構に限定されるものではない。実際、本発明の実施に、機構の理解は必要ではない。しかしながら、hBDトランスジーンが安定にトランスフェクションされたクローンでは、より高いレベルのhBD発現が達成されると企図される。加えて、内因性のhBD mRNAレベルおよびタンパク質レベルの双方とも、NIKSケラチノサイトの器官型培養により増強されることすること、かつ、hBDのプロセッシングまたは分泌には、バリアー機能の発達に関連した階層化および/または後期段階の分化事象が必要である可能性があることが観察された。一過的にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトは、完全な階層化およびバリアー機能には少なくとも11日間の発生が必要で、かつ一過的に発現したhBDが枯渇することから、器官型培養の後でアッセイすることはできない。
【0249】
hBD-3を発現するNIKSケラチノサイトの安定クローンをまず産生した。2種類の試験生物に対し最も高い効力を示したこと、およびグラム陽性細菌およびグラム陰性細菌の双方に対し抗菌活性を示すことから、hBD-3を選択した。NIKS細胞をトランスフェクションし、かつブラストシジン(2.5μg/ml)を含む増殖培地を用いて安定にトランスフェクションされたNIKS細胞を選択することによって、hBD-3トランスジーンを発現する、複数の独立したクローンを得た。各NIKSクローン細胞株から単離した全RNAのRT-PCR分析を用いて、上昇したβデフェンシンmRNAの発現を検証し、異なるクローン間の相対発現レベルの初期スクリーンとして供した。
【0250】
hBD-3トランスジーンを安定的に発現するNIKSクローンを単離し、スクリーニングした。安定トランスフェクションNIKSインボルクリン-デフェンシン3-Ub-Bsdクローンでの相対的なβデフェンシン発現レベルを定量化するために、ブラストシジン耐性クローンから全細胞RNAを単離した。インボルクリン-デフェンシン3-Ub-Bsd発現構築物をトランスフェクションした全てのブラストシジン耐性NIKSクローンについて、RT-PCR分析を行った。
【0251】
hBD-3トランスジーンを安定に発現するNIKS(商標)クローンの器官型培養物由来の馴化培地は増強された抗菌活性を示す
最も高いレベルのhBD-3 mRNAを発現する、安定トランスフェクションNIKSケラチノサイトクローンの器官型培養物から回収した馴化培地の抗菌活性を、上記の方法を用いてアッセイした。図18は、hBD-3トランスジーンを安定に発現するNIKSケラチノサイトの器官型培養物由来の馴化培地に暴露した後、トランスフェクションしていないNIKSケラチノサイトから産生された器官培養物より回収した馴化培地と比較して、大腸菌の70%、および最大52%のS.カルノーサス細菌が死滅したことを示す。対照のNIKS器官型培養物由来の馴化培地は、検出可能であるが低レベルの抗菌活性を示し、扁平上皮細胞分化と内因性hBD-3発現との関連に一致した(Abiko, Y., et al., J Dermatol Sci, 2003.31(3):p.225-8)。
【0252】
実施例23
デフェンシン突然変異体
本実施例は、hBD3の部位特異的突然変異誘発について記載する。6個のCysのうち5個をAlaへと突然変異させた(即ち、Cys40、Cys45、Cys55、Cys62、Cys63)。別の突然変異体では、Gly38をAla38へと突然変異させた。
【0253】
部位特異的突然変異誘発
市販のキットである、QUIKCHANGE Multi Site-Directed Mutagenesisキット(Stratagene, LaJolla, CA)を用いて、元来のhBD-3ポリペプチド内にアミノ酸置換を作製した。製造業者の使用説明書を用いて、hBD-3 cDNA TopoTA DNAベクターを部位特異的突然変異誘発反応の親DNA鋳型として用いた。簡単に説明すると、温度サイクリング反応は、二本鎖のDNA鋳型、所望の突然変異を含む2つまたはそれより多い合成リン酸化オリゴヌクレオチドプライマー、PfuTurbo DNAポリメラーゼを含む酵素混和物を含んだ。まず、突然変異誘発プライマーを変性したDNA鋳型にアニーリングさせる。PfuTurbo DNAポリメラーゼを用いて突然変異誘発プライマーを伸長して、一方の鎖に所望の突然変異を有する二本鎖DNA分子を産生した。第2段階で、温度サイクル反応産物をDpnI制限エンドヌクレアーゼで処理した。DpnIエンドヌクレアーゼは、メチル化およびヘミメチル化されたDNAに特異的であり、かつ親DNA鋳型を消化するために用いられる。殆どすべての大腸菌系統から単離したDNAは、damメチル化されており、したがってこの消化を受け得る。第3段階で、突然変異した単鎖DNAが濃縮された反応混合物は、ウルトラコンピテント細胞(dam+)に形質転換され、ここにおいて突然変異した閉鎖環型ss-DNAはインビボで二重鎖型に変換される。形質転換体から二本鎖プラスミドDNAを調製し、かつ所望の突然変異を含むクローンを同定する。
【0254】
合成リン酸化オリゴヌクレオチドプライマー:
突然変異したコドン配列を下線で示す。
【0255】
最終的な突然変異アミノ酸配列:
部位特異的置換をハイライトで示す。
【0256】
エレクトロポレーショントランスフェクション法:
初期継代NIKS細胞を約50〜70%コンフルエンスにおいて回収した。細胞を沈殿させ、沈殿物をF-12/DME(5:1)中において再懸濁した(1×106〜3×106細胞/800 ul)。
【0257】
800 ulのNIKS細胞懸濁液を0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに配置し、DNAを添加して(10〜30 ug、直鎖状またはスーパーコイル状)、GenePulserのキュベットホルダーに配置し開始した。すべての段階は室温で行った。この手順の間、いかなる時も細胞を氷上に配置することはなかった。実際の電圧および電気容量の値を記録した。
【0258】
エレクトロポレーションしたNIKS細胞をキュベットから取り出し、25〜50 mlの新鮮なNIKS培地中に希釈し、ピペット操作でよく混合し、かつブラストシジン耐性フィーダー(トランスフェクション1反応当り、5枚または10枚いずれかのp150を使用)を含むp150にプレーティング(5〜10 ml)した。
【0259】
次の24〜48時間以内に、培地をブラストシジン含有培地(2.5 ug/mlブラストシジン)を有するp150に移した。
【0260】
エレクトロポレーションの設定:
BioRad GenePulser 指数関数的パルスプログラム
270ボルト
950 uF
オーム
0.4 cm キュベット
【0261】
選択:
NIKSケラチノサイトクローンを、ブラストシジン耐性フィーダー細胞の存在下で共培養し、かつ2.5 ug/mlのブラストシジンを含むNIKS培地の存在下で、増殖について選択した。選択期間中(最低18日間)、ブラストシジン選択の存在下で増殖し続けたコロニーのみを単離し、かつさらなる特徴付けのために拡張した。
【0262】
クローン単離:
伝統的な「リングクローニング」法を用いて、ブラストシジン耐性コロニーを単離する。まずクローンを個別のプレート(p60)のフィーダー層の上に採取し、80〜90%の間のコンフルエントに達するまで増殖させる。その後、クローンを継代し、かつ2枚の個別の組織培養プレート(p60およびp100)に再プレーティングする。p100はマウス繊維芽細胞フィーダー細胞を含むが、p60は含まない。これらの培養物が80〜90%コンフルエンスに達した時点で、p60培養物を回収して発現分析に供し、かつp100培養物を引き続く拡張段階のために用いる。
【0263】
安定にトランスフェクションされたNIKSケラチノサイトの特徴付け:
選択スキームを生き延びた安定NIKSケラチノサイトコロニーは、すなわちインボルクリンhBD-3発現構築物を含むと推定される。hBD-3トランスジーンの存在を確認するために、各クローンからRNAを単離し、逆転写(RT)を用いてcDNA産物を産生した。その後、RT産物は、引き続くPCR反応において鋳型として用いた。このPCRスクリーンは、トランスジーンcDNA由来の産物を、潜在的な内因性hBD-3 DNA産物に由来する産物から区別するように設計した。hBD-3構築物(Gly38 Ala置換および5個のCys Ala置換)、およびそれと関連する選択スキームから複数のクローンを得た。
【0264】
拡張:
p60培養物から得た発現分析の結果は、どのクローンをさらなる特徴付けのために拡張するのかを規定する。正の発現を有するものとして同定された培養物由来のp100プレートを、約90%コンフルエンスまで増殖させ、その後回収し、10%グリセロールを含む培地の中で、-80℃で凍結した。
【0265】
結果を以下に示す。
*突然変異構築物(Gly→Ala)-hBD-3 アミノ酸置換
**突然変異構築物(Gly→Ala)-hBD-3 6個のシステインのうちの5個をアラニンへとアミノ酸置換
【0266】
実施例24
hCAP18発現ベクターの設計および構築
本実施例は、ヒトカテリシジン(hCAP18)哺乳動物発現ベクターの設計および構築について記載する。
【0267】
ヒトカテリシジン(hCAP18)cDNAを、市販のヒトcDNAライブラリーからクローン化した。PCR産物を増幅し、配列決定して遺伝的な同一性を確認した。このhCAP18 cDNA配列は、Genbankに寄託されているhCAP18の配列と同一であることが確認された。
【0268】
2つのhCAP18哺乳動物発現ベクターを産生した。第一ベクターは、組織特異的なケラチン14プロモータを含み、かつ第二ベクターは、別のプロモータ戦略として、インボルクリンプロモータを利用する。hCAP18哺乳動物発現ベクターの直線地図および消化分析図を図19に示す。分析的制限酵素消化は、適切な大きさの、正しいバンドのパターンを実証する。これらの結果を総合すると、哺乳動物発現構築物の全体的な完全性が説明される。最終的に組み立てられた双方の構築物(K14hCAP18およびインボルクリンhCAP18)上の全てのクローニング接続部すべてにまたがる配列決定も行い、各発現ベクターの配列の完全性を検証した。
【0269】
発現構築物からのhCAP18の発現
RT-PCR分析を実施し、双方の発現構築物からのhCAP18の過剰発現レベルを検証した(図20)。それぞれのヒトカテリシジン発現ベクターを一過的にトランスフェクションするか、または偽トランスフェクションの、単層NIKS細胞培養物について逆転写酵素反応を行った。hCAP18に対応する0.6 kbの大きさの、予想されるPCR産物は、トランスフェクションした細胞で示され、かつ予想通り、このhCAP18産物は偽トランスフェクションの単層NIKS細胞培養物由来のRNAにおいては見られない。RT反応について、内因性のハウスキーピング遺伝子(GAPDH)に特異的な、さらなるセットのPCRプライマーを用い、RNAの完全性および第一鎖cDNA合成反応の対照とした。
【0270】
実施例25
hCAP18/LL-37の抗菌活性
本実施例は、LL-37の抗菌活性を検出するアッセイの開発について記載する。このアッセイの開発においては、市販のLL-37ペプチド(Phoenix Pharmaceuticals, Belmont. CA)を用いて標準死滅曲線を作製した。アッセイは、上記の他の抗菌ペプチドの生物活性を評価するために開発した抗菌アッセイを改変したものである。LL-37の抗菌活性の標準曲線は、この合成ペプチドを用いて、グラム陽性細菌 S. カルノーサスについて決定した。結果は、LL-37が有力な抗菌活性を示し、S. カルノーサスの50%を死滅させるのに必要な濃度(LC50)が0.9 ug/mlであることを示した。
【0271】
実施例26
細胞のエレクトロポレーション
本実施例は、ケラチノサイト内へ核酸を導入するためのエレクトロポレーションの使用について記載する。本実施例は、集団において多能性および多分化能を有する細胞を選択するためのエレクトロポレーションの使用についても、さらに記載する。
【0272】
プロトコール
初期継代NIKS細胞を約50〜70%コンフルエンスで収集した。細胞を沈殿させ、NIKS細胞沈殿物(2×106細胞/800 ul)をF-12/DME(5:1)に再懸濁する。これと同一のプロトコールで800 ulにおいて1×106NIKS細胞をエレクトロポレーションしても、同様に成功する。
【0273】
800 ulのNIKS細胞懸濁液を0.4 cmのエレクトロポレーションキュベットに配置し、DNAを添加して(10〜30 ug、直鎖状またはスーパーコイル状)、GenePulserのキュベットホルダーに配置し、ボタンを押す。すべての段階は室温で行う;この手順の間、いかなる時も細胞を氷上に配置することはない。実際の電圧および電気容量の値を記録する(これらの値は、再現性のあるエレクトロポレーション実験条件の指標であり、今後の参考として有用であろう)。
【0274】
エレクトロポレーションしたNIKS細胞をキュベットから取り出し、かつ25〜50 mlの新鮮なNIKS培地中において希釈し、ピペット操作でよく混合し、ブラストシジン耐性フィーダー(トランスフェクション1反応当り、5枚または10枚いずれかのp150を使用)を含むp150にプレーティング(5〜10 ml)する。
【0275】
翌日、培地をブラストシジン含有培地(2.5 ug/mlブラストシジン)を伴うp150に移す。NIKSケラチノサイトのクローンの選択は、典型的には、ブラストシジン培地中で18〜20日間実行される(一日おきに新しい培地に交換する)。
【0276】
製造業者(BioRad)により提供される、哺乳動物細胞のための伝統的なエレクトロポレーション条件を以下に記載する。これらの条件は最適化する必要がある。条件は装置特異的および細胞型に特異的である。
【0277】
エレクトロポレーション培地は、最少培地または0.5〜0.8 mlのTEが推奨される。
【0278】
細胞密度(単一細胞懸濁液)6〜8×106
細胞の容積 0.4〜0.8 ml
DNA 20〜200 ug
【0279】
指数関数プロトコールを用いる際に、Gene Pulser(BioRad)テクニカルサービスが推奨する範囲
Gene Pulserの設定
電圧(V) 200〜350
キャパシタンス(μF) 500〜1000
抵抗( )
キュベット(mm) 0.4
【0280】
実施した実験から、エレクトロポレーションについて以下の最適化されたプロトコールを得た:
細胞密度(単一細胞懸濁液) 1〜2×106
細胞の容積* 0.8 ml
DNA** 10〜20 ug
* F-12/DME最少培地(50 ml:10 ml)
** 直鎖状またはスーパーコイル状DNA(Qiagen Maxiprep DNA精製)
全段階は、室温で行う。
【0281】
Gene Pulserの設定
電圧(V) 270
キャパシタンス(μF) 950
抵抗( )
キュベット(mm) 0.4
【0282】
上記プロトコールを用いて、幹細胞様ケラチノサイト集団を有する細胞集団において細胞を選択した。いくつかの態様では、薬剤選択カセットをエレクトロポレーションした。他の態様では、いかなる外因性核酸もない状態で細胞にエレクトロポレーションする。結果を以下に記載する。
【0283】
I. クローン選択された細胞集団の観察(薬剤選択カセットを有するDNAをエレクトロポレーションし、かつ18日を超える薬剤選択を受けた細胞集団):
1) ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトが選択された:固く詰め込まれたコロニー形態、均一な細胞、平滑なコロニー外縁部、全体的に円形のコロニー形態。
2) 幹細胞様特性を有する細胞が選択された。
3) 拡張された増殖能力を示す細胞が選択された:安定な細胞株の作製において、これらコロニーは、典型的には薬剤選択圧の下で18日を超えて生存しているコロニーのみである。
4) 増強された多能性または多分化能を有する細胞が選択された。
5) ホロクローンまたはメロクローン形態を有さないコロニーは、より小さいままであり、増殖を停止する傾向がある。これらのコロニーは、それぞれの大型のコロニー内の、小型で固く詰まった均一な細胞と同一の特徴を共有してはいない。これらのコロニーは、選択段階の間に死滅して、殆どがプレートから離れる。
【0284】
II. エレクトロポレーション集団の観察(DNA無しでエレクトロポレーション条件に曝し、かつ選択下に置かない):
1) ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトが選択された:固く詰め込まれたコロニー形態、均一な細胞、平滑なコロニー外縁部、全体的に円形のコロニー形態。
2) 幹細胞様特性を有する細胞が選択された。
3) 拡張された増殖能力を示す細胞が選択された:これらコロニーは、典型的には、より大きな生存しているコロニーである。
4) 増強された多能性または多分化能を有する細胞が選択された。
5) ホロクローンまたはメロクローン形態を有さないコロニーは、より小さいままであり、増殖を停止する傾向がある。これらコロニーは、それぞれ大型のコロニー内の、小型で固く詰まった均一な細胞と同一の特徴を共有してはいない。
【0285】
本実験の結果は、外因性核酸が存在する、または存在しない形で細胞集団にエレクトロポレーションすることができ、かつ上記の特性を有する細胞が選択されることを実証する。加えて、半定量的RT-PCR分析によって実証されたように、エレクトロポレーションによる選択法を用いて得られたNIKS安定クローンからのトランスジーン発現は、Trans-IT ケラチノサイト(Mirus)トランスフェクション法を用いて得られたクローンと比較した場合、より高い発現レベルを有する。
【0286】
上記明細書中に記載したすべての刊行物および特許は、参照として本明細書に組み入れられる。発明の範囲および精神から逸脱することなしに、記載された発明の方法およびシステムの種々の改変および変形は、当業者にとって明白なものであろう。発明は、特定の好ましい態様と結びつけて記載されているが、請求される発明は、このような特定の態様に不当に限定されるべきでないことが理解されるはずである。実際、分子生物学、生物化学、または関連分野の当業者にとって明らかである、発明の実施に関する記載の様式の種々の改変は、以下の特許請求の範囲内にあると意図される。
【図面の簡単な説明】
【0287】
【図1】K14プロモータのコンセンサス配列を提供する。
【図2】K14-ルシフェラーゼベクター構築の略図を提供する。
【図3】K14-KGF-2ベクターの略図を提供する。
【図4】RT-PCR戦略の略図を提供する。
【図5】インボルクリンプロモータによるKGF-2の発現のためのベクターの略図を提供する。
【図6】ヒトβデフェンシン1のDNA配列(SEQ ID NO:9)を提供する。
【図7】ヒトβデフェンシン2のDNA配列(SEQ ID NO:10)を提供する。
【図8】ヒトβデフェンシン3のDNA配列(SEQ ID NO:11)を提供する。
【図9】インボルクリンプロモータのDNA配列(SEQ ID NO:12)を提供する。
【図10】ヒトβデフェンシン1〜3のアミノ酸配列アラインメントを提供する。
【図11】βデフェンシンの特徴的なシステインジスルフィド共有結合の形成を表す概略図である。
【図12】ヒトβデフェンシン1哺乳動物発現ベクターの制限酵素地図である。
【図13】ヒトβデフェンシンベクターのクローニング戦略を提供する。
【図14】ヒトβデフェンシンの発現のための発現ベクターを記載する。
【図15】ヒトβデフェンシンmRNAの発現に関するRT-PCRアッセイの結果を提供する。
【図16】ヒトβデフェンシンタンパク質のイムノブロット検出の結果を提供する。
【図17】ヒトβデフェンシン1、2および3の抗菌活性を示す。
【図18】器官型培養におけるヒトβデフェンシン3の抗菌活性を示す。
【図19】hCAP18ベクターの直線地図および制限酵素消化分析を示す。
【図20】hCAP18の発現に関するRT-PCRアッセイの結果を示す。
【図1a】
【図1b】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、異種KGF-2を発現する細胞を提供するための方法:
a) 初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択された宿主細胞、ならびに制御配列と機能的に連結した、KGF-2をコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;
b) 該発現ベクターを該宿主細胞に導入する段階;
c) 該宿主細胞をKGF-2が発現する条件下で培養する段階。
【請求項2】
宿主細胞が扁平上皮へと階層化できる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞を患者由来の細胞と共培養する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
不死化ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
発現ベクターが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
制御配列がプロモータ配列である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
プロモータ配列が宿主細胞におけるKGF-2の発現を可能とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
プロモータ配列がK14プロモータである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
K14プロモータが完全長K14プロモータである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
プロモータがインボルクリンプロモータである、請求項6記載の方法。
【請求項11】
KGF-2が全長KGF-2である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
請求項1の方法により生成された宿主細胞。
【請求項13】
宿主細胞が初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、異種KGF-2を発現する宿主細胞を含む組成物。
【請求項14】
宿主細胞が、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
KGF-2が全長KGF-2である、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
a) 異種KGF-2を発現する不死化ケラチノサイト、および創傷を有する対象を提供する段階;
b) 該創傷に異種KGF-2を発現する該不死化細胞を接触させる段階
を含む、創傷を治療する方法。
【請求項17】
接触が、局所適用、植付、および創傷ドレッシングからなる群より選択される技術を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
創傷が、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、外部傷害を含む群から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
不死化ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
不死化ケラチノサイトがヒト組織内に組み入れられる、請求項16記載の方法。
【請求項21】
ヒト組織がヒト皮膚等価物である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ヒト皮膚等価物が患者由来の細胞をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
異種KGF-2を発現するケラチノサイトと対象由来の細胞とを、接触する段階の前に混合する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項24】
KGF-2をコードするDNA配列と機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータを含むベクター。
【請求項25】
ケラチノサイト特異的プロモータがK14プロモータである、請求項24記載のベクター。
【請求項26】
ケラチノサイト特異的プロモータがインボルクリンプロモータである、請求項24記載のベクター。
【請求項27】
請求項24記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項28】
請求項27記載の宿主細胞を含むヒト組織。
【請求項29】
皮膚等価物である、請求項28記載のヒト組織。
【請求項30】
患者由来の細胞をさらに含む、請求項29記載のヒト皮膚等価物。
【請求項31】
以下の段階を含む、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する皮膚等価物を提供するための方法:
a) ケラチノサイト、および制御配列と機能的に連結した抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;
b) 該発現ベクターを該ケラチノサイト内に導入する段階;および
c) 該ケラチノサイトを組織内に組み入れる段階。
【請求項32】
ケラチノサイトが扁平上皮へと階層化できる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
ケラチノサイトが、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項34】
ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項35】
発現ベクターが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項36】
制御配列がプロモータ配列である、請求項31記載の方法。
【請求項37】
プロモータ配列が、宿主細胞内での抗菌性ポリペプチドの発現を可能とする、請求項36記載の方法。
【請求項38】
プロモータ配列が、インボルクリンプロモータおよびケラチン14プロモータからなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項40】
ヒトβデフェンシン3が突然変異アミノ酸配列を有する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
突然変異アミノ酸配列が一つまたは複数の単一アミノ酸置換を含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
一つまたは複数の単一アミノ酸置換がCys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
一つまたは複数の単一アミノ酸置換がGly38Alaを含む、請求項41記載の方法。
【請求項44】
突然変異ヒトβデフェンシン3が抗菌活性を有する、請求項40記載の方法。
【請求項45】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項31記載の方法。
【請求項46】
発現ベクターが、シグナル分泌ペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項47】
ヒト組織が抗菌活性を示す、請求項31記載の方法。
【請求項48】
請求項31記載の方法により生成されたヒト組織。
【請求項49】
皮膚等価物である、請求項48記載のヒト組織。
【請求項50】
外因性抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトを含む組成物。
【請求項51】
ケラチノサイトが、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、請求項50記載の組成物。
【請求項52】
ケラチノサイトがNIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項51記載の組成物。
【請求項53】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項51記載の組成物。
【請求項54】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項51記載の組成物。
【請求項55】
ケラチノサイトが階層化されている、請求項51記載の組成物。
【請求項56】
真皮等価物をさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項57】
ケラチノサイトの器官型培養物を含む、請求項51記載の組成物。
【請求項58】
患者由来の細胞をさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項59】
外因性抗菌性ポリペプチドを発現しないケラチノサイトをさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項60】
少なくとも一つのさらなる抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項61】
以下の段階を含む、創傷を治療する方法:
a) 外因性抗菌性ポリペプチドを発現する不死化ケラチノサイト、および創傷を有する対象を提供する段階;
b) 該創傷に、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する該不死化ケラチノサイトを接触させる段階。
【請求項62】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項61記載の方法。
【請求項63】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項61記載の方法。
【請求項64】
接触が、局所適用、植付、および創傷ドレッシングからなる群より選択される技術を含む、請求項61記載の方法。
【請求項65】
創傷が、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、外部傷害を含む群から選択される、請求項61記載の方法。
【請求項66】
ケラチノサイトが、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、請求項61記載の方法。
【請求項67】
ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項61記載の方法。
【請求項68】
ヒト皮膚等価物が患者由来の細胞をさらに含む、請求項61記載の方法。
【請求項69】
抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列に機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータを含むベクター。
【請求項70】
ケラチノサイト特異的プロモータが、インボルクリンプロモータおよびケラチン14プロモータからなる群より選択される、請求項69記載のベクター。
【請求項71】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項69記載のベクター。
【請求項72】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項69記載のベクター。
【請求項73】
請求項69記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項74】
請求項73記載の宿主細胞を含むヒト組織。
【請求項75】
ヒト皮膚等価物である、請求項74記載のヒト組織。
【請求項76】
患者由来の細胞をさらに含む、請求項75記載のヒト皮膚等価物。
【請求項77】
ベクターを含まないケラチノサイトをさらに含む、請求項75記載のヒト皮膚等価物。
【請求項78】
少なくとも一つのさらなる外因性ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む、請求項75記載のヒト皮膚等価物。
【請求項79】
外因性ポリペプチドが抗菌性ポリペプチドである、請求項78記載のヒト皮膚等価物。
【請求項80】
以下の段階を含む、外因性KGF-2および外因性抗菌性ポリペプチドを発現するヒト組織を提供するための方法:
a) ケラチノサイト;制御配列に機能的に連結した、抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む第一発現ベクター;および外因性KGF-2ポリペプチドをコードするDNAを含む第二発現ベクターを提供する段階;ならびに
b) 該発現ベクターを該ケラチノサイトに導入する段階;ならびに
c) 該ケラチノサイトを皮膚等価物に組み入れる段階。
【請求項81】
以下の段階を含む、集団に関して上昇した多能性または多分化能を有する細胞を選択する方法:
a) 細胞集団を提供する段階;
b) 細胞集団に関して上昇した多能性または多分化能を有するエレクトロポレーションされた細胞が選択されるような条件下で、該細胞をエレクトロポレーションする段階。
【請求項82】
エレクトロポレーションされた細胞が幹細胞様の特性を示す、請求項81記載の方法。
【請求項83】
細胞集団がケラチノサイトである、請求項81記載の方法。
【請求項84】
エレクトロポレーションされた細胞が、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有する、請求項83記載の方法。
【請求項85】
エレクトロポレーションされた細胞が拡張された増殖能力を示す、請求項81記載の方法。
【請求項86】
細胞集団を、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸と共にエレクトロポレーションする、請求項81記載の方法。
【請求項87】
選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下で細胞を培養する段階をさらに含む、請求項86記載の方法。
【請求項88】
請求項81記載の方法により産生された細胞集団。
【請求項89】
以下の段階を含む、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトを選択する方法:
a) ケラチノサイト集団を提供する段階;
b) ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するエレクトロポレーションされたケラチノサイトが選択されるような条件下で、該ケラチノサイトをエレクトロポレーションする段階。
【請求項90】
ホロクローンまたはメロクローン細胞形態が、固く詰め込まれた細胞、大きさが均一な細胞、平滑な外縁部を有するコロニー、および全体的に円形なコロニー形態からなる群より選択される一つまたは複数の特性を含む、請求項89記載の方法。
【請求項91】
ケラチノサイト集団を、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸と共にエレクトロポレーションする、請求項89記載の方法。
【請求項92】
選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下でケラチノサイトを培養する段階をさらに含む、請求項91記載の方法。
【請求項93】
請求項89記載の方法により産生されたケラチノサイト集団。
【請求項1】
以下の段階を含む、異種KGF-2を発現する細胞を提供するための方法:
a) 初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択された宿主細胞、ならびに制御配列と機能的に連結した、KGF-2をコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;
b) 該発現ベクターを該宿主細胞に導入する段階;
c) 該宿主細胞をKGF-2が発現する条件下で培養する段階。
【請求項2】
宿主細胞が扁平上皮へと階層化できる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
宿主細胞を患者由来の細胞と共培養する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
不死化ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
発現ベクターが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
制御配列がプロモータ配列である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
プロモータ配列が宿主細胞におけるKGF-2の発現を可能とする、請求項6記載の方法。
【請求項8】
プロモータ配列がK14プロモータである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
K14プロモータが完全長K14プロモータである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
プロモータがインボルクリンプロモータである、請求項6記載の方法。
【請求項11】
KGF-2が全長KGF-2である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
請求項1の方法により生成された宿主細胞。
【請求項13】
宿主細胞が初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、異種KGF-2を発現する宿主細胞を含む組成物。
【請求項14】
宿主細胞が、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項13記載の組成物。
【請求項15】
KGF-2が全長KGF-2である、請求項13記載の組成物。
【請求項16】
a) 異種KGF-2を発現する不死化ケラチノサイト、および創傷を有する対象を提供する段階;
b) 該創傷に異種KGF-2を発現する該不死化細胞を接触させる段階
を含む、創傷を治療する方法。
【請求項17】
接触が、局所適用、植付、および創傷ドレッシングからなる群より選択される技術を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
創傷が、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、外部傷害を含む群から選択される、請求項16記載の方法。
【請求項19】
不死化ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項16記載の方法。
【請求項20】
不死化ケラチノサイトがヒト組織内に組み入れられる、請求項16記載の方法。
【請求項21】
ヒト組織がヒト皮膚等価物である、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ヒト皮膚等価物が患者由来の細胞をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
異種KGF-2を発現するケラチノサイトと対象由来の細胞とを、接触する段階の前に混合する段階をさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項24】
KGF-2をコードするDNA配列と機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータを含むベクター。
【請求項25】
ケラチノサイト特異的プロモータがK14プロモータである、請求項24記載のベクター。
【請求項26】
ケラチノサイト特異的プロモータがインボルクリンプロモータである、請求項24記載のベクター。
【請求項27】
請求項24記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項28】
請求項27記載の宿主細胞を含むヒト組織。
【請求項29】
皮膚等価物である、請求項28記載のヒト組織。
【請求項30】
患者由来の細胞をさらに含む、請求項29記載のヒト皮膚等価物。
【請求項31】
以下の段階を含む、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する皮膚等価物を提供するための方法:
a) ケラチノサイト、および制御配列と機能的に連結した抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む発現ベクターを提供する段階;
b) 該発現ベクターを該ケラチノサイト内に導入する段階;および
c) 該ケラチノサイトを組織内に組み入れる段階。
【請求項32】
ケラチノサイトが扁平上皮へと階層化できる、請求項31記載の方法。
【請求項33】
ケラチノサイトが、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項34】
ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項35】
発現ベクターが選択可能なマーカーをさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項36】
制御配列がプロモータ配列である、請求項31記載の方法。
【請求項37】
プロモータ配列が、宿主細胞内での抗菌性ポリペプチドの発現を可能とする、請求項36記載の方法。
【請求項38】
プロモータ配列が、インボルクリンプロモータおよびケラチン14プロモータからなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項31記載の方法。
【請求項40】
ヒトβデフェンシン3が突然変異アミノ酸配列を有する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
突然変異アミノ酸配列が一つまたは複数の単一アミノ酸置換を含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
一つまたは複数の単一アミノ酸置換がCys40Ala、Cys45Ala、Cys55Ala、Cys62AlaおよびCys63Alaを含む、請求項41記載の方法。
【請求項43】
一つまたは複数の単一アミノ酸置換がGly38Alaを含む、請求項41記載の方法。
【請求項44】
突然変異ヒトβデフェンシン3が抗菌活性を有する、請求項40記載の方法。
【請求項45】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項31記載の方法。
【請求項46】
発現ベクターが、シグナル分泌ペプチドをコードする核酸配列をさらに含む、請求項31記載の方法。
【請求項47】
ヒト組織が抗菌活性を示す、請求項31記載の方法。
【請求項48】
請求項31記載の方法により生成されたヒト組織。
【請求項49】
皮膚等価物である、請求項48記載のヒト組織。
【請求項50】
外因性抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトを含む組成物。
【請求項51】
ケラチノサイトが、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、請求項50記載の組成物。
【請求項52】
ケラチノサイトがNIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項51記載の組成物。
【請求項53】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項51記載の組成物。
【請求項54】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項51記載の組成物。
【請求項55】
ケラチノサイトが階層化されている、請求項51記載の組成物。
【請求項56】
真皮等価物をさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項57】
ケラチノサイトの器官型培養物を含む、請求項51記載の組成物。
【請求項58】
患者由来の細胞をさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項59】
外因性抗菌性ポリペプチドを発現しないケラチノサイトをさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項60】
少なくとも一つのさらなる抗菌性ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む、請求項51記載の組成物。
【請求項61】
以下の段階を含む、創傷を治療する方法:
a) 外因性抗菌性ポリペプチドを発現する不死化ケラチノサイト、および創傷を有する対象を提供する段階;
b) 該創傷に、外因性抗菌性ポリペプチドを発現する該不死化ケラチノサイトを接触させる段階。
【請求項62】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項61記載の方法。
【請求項63】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項61記載の方法。
【請求項64】
接触が、局所適用、植付、および創傷ドレッシングからなる群より選択される技術を含む、請求項61記載の方法。
【請求項65】
創傷が、静脈潰瘍、糖尿病性潰瘍、圧迫潰瘍、火傷、潰瘍性大腸炎、粘膜傷害、内部傷害、外部傷害を含む群から選択される、請求項61記載の方法。
【請求項66】
ケラチノサイトが、初代ケラチノサイトおよび不死化ケラチノサイトからなる群より選択される、請求項61記載の方法。
【請求項67】
ケラチノサイトが、NIKS細胞およびNIKS細胞由来の細胞からなる群より選択される、請求項61記載の方法。
【請求項68】
ヒト皮膚等価物が患者由来の細胞をさらに含む、請求項61記載の方法。
【請求項69】
抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列に機能的に連結したケラチノサイト特異的プロモータを含むベクター。
【請求項70】
ケラチノサイト特異的プロモータが、インボルクリンプロモータおよびケラチン14プロモータからなる群より選択される、請求項69記載のベクター。
【請求項71】
抗菌性ポリペプチドが、ヒトβデフェンシン1、2および3からなる群より選択される、請求項69記載のベクター。
【請求項72】
抗菌性ポリペプチドがヒトカテリシジンである、請求項69記載のベクター。
【請求項73】
請求項69記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項74】
請求項73記載の宿主細胞を含むヒト組織。
【請求項75】
ヒト皮膚等価物である、請求項74記載のヒト組織。
【請求項76】
患者由来の細胞をさらに含む、請求項75記載のヒト皮膚等価物。
【請求項77】
ベクターを含まないケラチノサイトをさらに含む、請求項75記載のヒト皮膚等価物。
【請求項78】
少なくとも一つのさらなる外因性ポリペプチドを発現するケラチノサイトをさらに含む、請求項75記載のヒト皮膚等価物。
【請求項79】
外因性ポリペプチドが抗菌性ポリペプチドである、請求項78記載のヒト皮膚等価物。
【請求項80】
以下の段階を含む、外因性KGF-2および外因性抗菌性ポリペプチドを発現するヒト組織を提供するための方法:
a) ケラチノサイト;制御配列に機能的に連結した、抗菌性ポリペプチドをコードするDNA配列を含む第一発現ベクター;および外因性KGF-2ポリペプチドをコードするDNAを含む第二発現ベクターを提供する段階;ならびに
b) 該発現ベクターを該ケラチノサイトに導入する段階;ならびに
c) 該ケラチノサイトを皮膚等価物に組み入れる段階。
【請求項81】
以下の段階を含む、集団に関して上昇した多能性または多分化能を有する細胞を選択する方法:
a) 細胞集団を提供する段階;
b) 細胞集団に関して上昇した多能性または多分化能を有するエレクトロポレーションされた細胞が選択されるような条件下で、該細胞をエレクトロポレーションする段階。
【請求項82】
エレクトロポレーションされた細胞が幹細胞様の特性を示す、請求項81記載の方法。
【請求項83】
細胞集団がケラチノサイトである、請求項81記載の方法。
【請求項84】
エレクトロポレーションされた細胞が、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有する、請求項83記載の方法。
【請求項85】
エレクトロポレーションされた細胞が拡張された増殖能力を示す、請求項81記載の方法。
【請求項86】
細胞集団を、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸と共にエレクトロポレーションする、請求項81記載の方法。
【請求項87】
選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下で細胞を培養する段階をさらに含む、請求項86記載の方法。
【請求項88】
請求項81記載の方法により産生された細胞集団。
【請求項89】
以下の段階を含む、ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するケラチノサイトを選択する方法:
a) ケラチノサイト集団を提供する段階;
b) ホロクローンまたはメロクローン細胞形態を有するエレクトロポレーションされたケラチノサイトが選択されるような条件下で、該ケラチノサイトをエレクトロポレーションする段階。
【請求項90】
ホロクローンまたはメロクローン細胞形態が、固く詰め込まれた細胞、大きさが均一な細胞、平滑な外縁部を有するコロニー、および全体的に円形なコロニー形態からなる群より選択される一つまたは複数の特性を含む、請求項89記載の方法。
【請求項91】
ケラチノサイト集団を、選択可能なマーカーを発現する外因性核酸と共にエレクトロポレーションする、請求項89記載の方法。
【請求項92】
選択可能なマーカーを発現する細胞のみが選択されるような条件下でケラチノサイトを培養する段階をさらに含む、請求項91記載の方法。
【請求項93】
請求項89記載の方法により産生されたケラチノサイト集団。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公表番号】特表2007−520206(P2007−520206A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522631(P2006−522631)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/024627
【国際公開番号】WO2005/012492
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(503318460)ストラタテック コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/024627
【国際公開番号】WO2005/012492
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(503318460)ストラタテック コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】
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