説明

外耳道再建用成形品及びその製造方法

【課題】 手術操作が容易で、骨形成及び周辺組織への生着性が良好な、外耳道再建用成形品を提供すること。
【解決手段】 コラーゲンと骨形成因子との組成物からなる外耳道再建用成形品10を用いることによって外耳道1を再建することができる。特に、コラーゲンと骨形成因子を含有する溶液から溶媒を除去することによって固形物を得てから、該固形物を圧縮して成形し、円筒又は円筒の一部分からなる形状に成形することが好ましい。一方の端部近傍に、円筒の内側に向けて立設された鼓膜裏面側補強部13を設けることで、鼓膜3の内陥を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手術において使用される外耳道再建用成形品、特にコラーゲンと骨形成因子との組成物からなる外耳道再建用成形品に関する。また、そのような外耳道再建用成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中耳の手術においては、視野や操作スペースを確保するために外耳道の一部を削除する場合があり、それにより欠損した外耳道を再建することが望まれている。また、先天性外耳道閉鎖症などに対しては外耳道を新たに形成することも望まれている。このような場合に、外耳道再建用の材料として様々なものが提案されている。例えば、軟骨板、側頭骨骨片、側頭骨骨パテなどの自家材料が使用されたり、ヒドロキシアパタイトやコラーゲンスポンジなどの人工材料が使用されたりしている。また、これらの材料が組み合わせられて使用されることもある。しかしながら、自家材料は採取が困難な場合があるし、材料の調製操作や充填操作が困難な場合もある。一方、人工材料の場合には、組織親和性に問題を有する場合が多い。そして従来のこれらの材料では、いずれも外耳道の形態維持が容易ではなく、異物反応の出現も認められた。したがって、より使いやすく確実に外耳道を再建できる材料が求められている。
【0003】
近年では、人工材料に対してサイトカインを配合した組成物を用いて、人体組織の修復を行う手法が提案されている。例えば、特許文献1には、哺乳動物の非関節性軟骨組織における欠損位置を修復するための方法であって、生体適合性で生体再吸収性のキャリア中の骨形成タンパク質を該欠損位置に提供し、それにより機能的置換軟骨組織の形成を誘導する工程を包含する方法が記載されている。そして、前記キャリアとしてコラーゲンを使用する場合や、修復すべき軟骨組織が耳の軟骨組織である場合も例示されている。しかしながら、特許文献1に記載された方法は、軟骨内骨化によって軟骨組織を修復するものであり、繊維性骨化によって骨組織を修復することに関する記載はなされていない。
【0004】
非特許文献1には、rhBMP−2(recombinant human Bone Morphogenetic Protein-2)とコラーゲンからなる組成物を用いて耳小骨を再生する方法が記載されている。当該文献には、rhBMP−2とコラーゲンを含有する水溶液を冷凍乾燥してから圧縮してペレット状に成形したものを中耳腔の中に導入することで、耳小骨が再生されることが記載されている。また、非特許文献2には、rhBMP−2とコラーゲンからなる組成物のペレットを乳突洞に充填することによって、乳突洞を閉塞できることが記載されている。しかしながら、外耳道の再建に際しては、皮膚、鼓膜、外耳道という異なる組織と生着せねばならず、しかも円筒状の形状を形成しなければならないという要請があり、非特許文献1あるいは2の記載に基づいて、容易に外耳道再建の手段に想到できるものではない。
【0005】
【特許文献1】特表2002−526167号公報
【非特許文献1】武田靖志、外9名、「rhBMP-2/コラーゲン組成物を用いたラット耳小骨の再生(Regeneration of rat auditory ossicles using recombinant human BMP-2/collagen composites)」、Journal of Biomedical Materials Research、Wiley Periodicals, Inc.、2005年3月、73A、p.133−141
【非特許文献2】西崎和則、外7名、「BMP-2/コラーゲン組成物による乳突洞充填:組織再生工学を用いた実験的研究(Mastoid obliteration by BMP-2/collagen composites:An experimental study using tissue engineering)」、American Journal of Otolaryngology、Elsevier Science、2003年、24、p.14−18
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、手術操作が容易で、骨形成性及び周辺組織への生着性が良好な外耳道再建用成形品を提供することを目的とするものである。また、そのような成形品の好適な製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、コラーゲンと骨形成因子との組成物からなる外耳道再建用成形品を提供することによって解決される。このとき、前記コラーゲンがアテロコラーゲンであること、前記骨形成因子がBMP−2であることが、いずれも好ましい。また、前記コラーゲン100重量部に対する前記骨形成因子の配合量が0.0001〜1重量部であることも好ましい。
【0008】
前記外耳道再建用成形品が、円筒又は円筒の一部分からなる形状に成形されてなることが好ましい。このとき、前記成形品において、内径が5〜20mm、円筒の回転軸方向の長さが10〜35mm、厚みが0.5〜5mmであることが好適である。前記円筒又は円筒の一部分の、一方の端部が斜めに切断されており、その切断面が円筒の回転軸となす角度θが10〜75度であることも好適である。
【0009】
また、前記外耳道再建用成形品において、前記一方の端部に、円筒の内側に向けて立設された鼓膜裏面側補強部を有することが好適である。また、前記一方の端部から少し離れた位置に、円筒の内側に向けて立設された鼓膜裏面側補強部を有することも好適である。これらの場合、前記鼓膜裏面側補強部が、鼓膜の上側に接触する位置に設けられていることがより好適である。
【0010】
上記課題は、コラーゲンと骨形成因子を含有する溶液から溶媒を除去することによって固形物を得てから、該固形物を圧縮して成形することを特徴とする前記外耳道再建用成形品の製造方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の外耳道再建用成形品は、手術操作が容易で、骨形成性及び周辺組織への生着性が良好である。したがって、様々な症例に対して、手術により容易かつ確実に外耳道を再建することができる。例えば、中耳の手術で削除した外耳道の再建や、先天性外耳道閉鎖症に対する外耳道の形成などに対して、好適に適用することができる。また、本発明の外耳道再建用成形品の製造方法によれば、上記成形品を容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の外耳道再建用成形品は、コラーゲンと骨形成因子との組成物からなるものである。ここで使用されるコラーゲンの種類は特に限定されるものではなく、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、V型コラーゲンなどの繊維性コラーゲンを使用することもできるし、IV型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、VIII型コラーゲンなどの非繊維性コラーゲンを使用することもできるが、得られる成形品の強度などの面から繊維性コラーゲンを使用することが好ましく、特にI型コラーゲンを使用することが好ましい。また、アテロコラーゲンを使用することが好ましい。アテロコラーゲンは、コラーゲン分子の両端に存在するテロペプチドを酵素処理などによって取り外したものである。テロペプチドはコラーゲンの主たる抗原部位であって、これが取り除かれることでコラーゲンの抗原性を大きく低減することができるとともにコラーゲンの純度も高くすることができる。このように抗原性が低減された高純度のアテロコラーゲンを使用することによって、得られる外耳道再建用成形品の安全性が向上するとともに生着性も向上する。また、アテロコラーゲンは比較的水溶性が良好で、骨形成因子と水溶液中で混合するのにも便利である。本発明ではI型のアテロコラーゲンが、特に好適に使用される。
【0013】
本発明で使用される骨形成因子は、骨形成に働くサイトカインである。その種類は特に限定されず、BMP−2、BMP−3、BMP−4、BMP−5、BMP−6、BMP−9、BMP−10、BMP−11、BMP−12、BMP−13、BMP−14、BMP−15、BMP−3b、OP−2、OP−3、DPP、Vg−1、Vgr−1、60Aプロテイン、GDF−1、GDF−2、GDF−3、GDF−5、GDF−6、GDF−7、GDF−8、GDF−9、GDF−10、GDF−11、FGF、M−CSF、IL−10、IL−12、IL−17、IL−21などを用いることができる。なかでもBMPを用いることが好ましく、BMP−2が特に好適に用いられる。
【0014】
これらの原料を配合するに際しては、コラーゲン100重量部に対する骨形成因子の配合量が0.0001〜1重量部であることが好ましい。骨形成因子の配合量が0.0001重量部未満の場合には、骨形成を促進する効果が不十分になるおそれがあり、より好適には0.001重量部以上、さらに好適には0.01重量部以上である。一方、骨形成因子の配合量が1重量部を超える量になっても、それ以上の骨形成の促進効果は望めないし、高価な骨形成因子の使用量が多くなってコストも増大する。したがって、骨形成因子の配合量は、より好適には0.5重量部以下であり、さらに好適には0.2重量部以下である。
【0015】
コラーゲンと骨形成因子とを配合する方法は特に限定されず、固体同士を機械的に混合するだけでも構わないが、生着性のことを考えれば、できるだけ均質に配合することが好ましい。そのためには、コラーゲンと骨形成因子を含有する溶液を調製してから、その溶媒を除去することが好ましい。こうすることによって、両者が均質に配合された固体を得ることが可能である。溶液としては、エタノールなどの有機溶媒を用いることもできるが、水を主たる溶媒とする水溶液であることが好ましい。溶媒を除去する方法は特に限定されず、加熱乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、通気乾燥など、様々な乾燥方法が採用可能であるが、骨形成因子やコラーゲンの変質を防止する観点からは、加熱を施さない乾燥方法が好ましく、なかでも減圧乾燥が好ましい。乾燥して得られる個体が細かい繊維状になり、しかも低温での乾燥が可能であることから、減圧凍結乾燥が、特に好ましく採用される。
【0016】
コラーゲンと骨形成因子とからなる組成物を成形する方法は特に限定されないが、前述のように両者を混合して得られた個体からなる組成物を用いて、圧縮成形することが好ましい。高温にさらされることなく、所望の形状にすることが容易だからである。特に、減圧凍結乾燥して得られたもののように細かい繊維状の固体を用いる場合には、繊維同士が相互に適度に絡み合うので、軽く圧縮するだけで所望の立体形状を保つことができる。圧縮の度合いは、手術中に形態を維持できる程度であれば十分であり、あまり強く圧縮する必要はない。所望の形状に成形するには、その形状の型の中に混合組成物を充填して圧縮してから型を外せばよい。
【0017】
図1に外耳道1周辺の構造を示す。外耳道1は耳介2から鼓膜3に至る円筒状の中空部のことをいう。外耳道1の耳介2側では外耳道皮膚4を介して軟骨部5が存在し、鼓膜3側では外耳道皮膚4を介して骨部6が存在する。本発明の外耳道再建用成形品10は、骨部6を再建するためのものであり、残存する骨部6と外耳道皮膚4の間に留置される。図1の例では、外耳道1の上側のみに留置し、鼓膜3の裏面側に回りこんだ鼓膜裏面側補強部13を有している。症例によっては、外耳道1の下側も含めた全周に留置してもよい。外耳道再建用成形品10を留置するに際しては、図1に示すように残存する骨部6との間に空隙7を設けてもよいし、残存する骨部6と密接するように留置してもよい。また、空隙7を、軟骨板、側頭骨骨片、側頭骨骨パテ、ヒドロキシアパタイトなどの他の材料で充填してもよい。さらにまた、外耳道再建用成形品10と、外耳道皮膚4や鼓膜3との間に結合組織もしくは筋膜等の再建材料を留置することも可能である。留置後には、剥がしていた外耳道皮膚4を再度被せることになるが、本発明の外耳道再建用成形品10は、皮膚組織との生着性も良好である。
【0018】
本発明の外耳道再建用成形品の形状は、再建したい外耳道の形態に沿うものであれば特に限定されないが、外耳道の形状に上手く沿わせるためには、円筒又は円筒の一部分からなる形状に成形されたものが好ましい。例えば、先天性外耳道閉鎖症に対して外耳道を新たに形成するような場合には、外耳道の全周を形成できるように、繋がった円筒であることが好ましい。一方、中耳の手術などにおいて外耳道の一部のみを削除したような場合にその部分を再建するのであれば、円筒の一部分のみで十分である。円筒の一部分であれば、手術に際して平坦なシートを適宜切断して曲げることによっても準備することが可能であるが、予め立体的に成形したものの方が、形態安定性が良好であるし、同じ厚みであれば強度に優れたものとなりやすい。
【0019】
前記円筒の寸法については、症状や術式などに対応して適宜調製される。子供から大人までの外耳道の内径を考慮すれば、円筒の内径が5〜20mmであることが好ましく、8〜15mmであることがより好ましい。外耳道の長さ及び手術時の削除範囲を考慮すれば、円筒の回転軸方向の長さが10〜35mmであることが好ましく、15〜25mmであることがより好ましい。また、手術する際の変形防止や留置のしやすさを考慮すれば、成形品の厚みが0.5〜5mmであることが好ましく、1〜3mmであることがより好ましい。ここで、成形品が円筒の一部である場合には、上記寸法の円筒の一部を切り出した形であると考えればよい。本発明において、円筒形状であるとは、概ね円筒形状であればよいという意味である。したがって、その断面形状が真円である必要はなく、それから少しひずんだ楕円形状などであっても構わない。また、円筒の中心軸が直線である必要はなく、僅かに湾曲したものであっても構わない。実際の外耳道の形状に沿わせるために、円筒形状を基本とし、それに微調整を加えたような形状の成形品を用いることも好ましい。
【0020】
図1に示されるように、鼓膜3は外耳道1の上側では耳介2側に近く下側では耳介2側から遠くなるように傾いている。したがって、この形に沿うような形で外耳道1が再建されることが好ましい。すなわち、本発明の外耳道再建用成形品10の、円筒又は円筒の一部分の、鼓膜3側に配置される一方の端部が、斜めに切断されていることが好ましい。図2は、そのような例の斜視図であり、図3は図2の縦断面図である。具体的には切断面11が円筒の回転軸12となす角度θが10〜75度であることが好ましい。鼓膜3の外耳道1の長手方向からの傾きは新生児で約20度、成人で40〜50度であるが、個人差もあり、これに対応できることが好ましい。手術に際して円筒の先端を、手作業で斜めに切断することも可能であるが、ある程度の角度で予め切断されているものを微調整するだけの方が便利であることが多い。
【0021】
また、外耳道再建用成形品10の一方の端部近傍に、円筒の内側に向けて立設された鼓膜裏面側補強部13を有することが好ましい。図4は、鼓膜3側に配置される一方の端部に内向きフランジ状に鼓膜裏面側補強部13が形成されている外耳道再建用成形品10の一例の斜視図である。また、図5は図4の縦断面図である。鼓膜裏面側補強部13は、鼓膜3の裏側の中耳腔内に配置され、鼓膜3と生着することによって鼓膜3を支持することができる。本発明の外耳道再建用成形品10は、鼓膜3に対する生着性が良好なので、このような鼓膜裏面側補強部13を設けることによって、効果的に鼓膜3を固定することができる。これによって、外耳道1から鼓膜3にかけて骨再生が連続し、鼓膜3が裏側から補強されることになる。慢性穿孔性中耳炎、癒着性中耳炎、慢性化膿性中耳炎、真珠性中耳炎(先天性、後天性)の例などにおいて、鼓膜形成術を行う場合に、外耳道皮膚4の下から鼓膜3の裏側に鼓膜裏面側補強部13を留置することで、鼓膜3の内陥を防ぐことができる。上記鼓膜裏面側補強部13は、外耳道1の最深部を再建する場合に好適に採用されるが、鼓膜3に接しない外耳道1を再建する場合には不要であり、単純な円筒形又はその一部分を使用すればよい。ここで、鼓膜裏面側補強部13の高さは、一番高いところで0.5〜5mm程度であることが好適であり、1〜3mmであることがより好適である。また、鼓膜裏面側補強部13の厚さは、0.3〜3mm程度であることが好適であり、0.5〜2mmであることがより好適である。
【0022】
一般に、鼓膜3はその上側8において周辺組織との結合が弱く、この部分を十分に結合させることが重要である。したがって、図4及び図5の例では、鼓膜3の上側8に接触する位置に鼓膜裏面側補強部13が部分的に設けられている。鼓膜裏面側補強部13が全周に亘って設けられるよりも、部分的に設けられるほうが手術の操作が容易であり、脆弱部分のみを効果的に補強することができる。鼓膜3の角度に沿わせるためには、鼓膜裏面側補強部13の内側14と、最も耳介側に遠い端部15とを結ぶ線16が、円筒の回転軸12となす角度φが、前述の角度θ同様に10〜75度であることが好ましい。
【0023】
また、図6は、鼓膜3側に配置される一方の端部から少し離れた位置に内向きフランジ状に鼓膜裏面側補強部13が形成されている外耳道再建用成形品10の一例の斜視図である。また、図7は図6の縦断面図である。図6及び図7に示される例では、鼓膜3側に配置される一方の端部から少し耳介2側に離れた位置に内向きフランジ状に鼓膜裏面側補強部13が形成されている。こうすることによって、鼓膜裏面側補強部13よりも外側の部分17が支えになって、再建された外耳道1が内部に陥没するのを効果的に防止することができる。このときの鼓膜裏面側補強部13の高さや厚さは、図4及び図5の例で説明したのと同様である。また、角度φについても図4及び図5の例で説明したのと同様である。鼓膜裏面側補強部13よりも外側の部分17の長さ(すなわち端部から鼓膜裏面側補強部13までの距離)は0.5〜5mm程度であることが好適であり、1〜3mmであることがより好適である。
【0024】
図4〜7に記載された外耳道再建用成形品10のように、円筒又は円筒の一部分からなる形状に対して鼓膜裏面側補強部13を形成するのであれば、平坦なシートから手術前に手作業で成形することは困難であり、予め立体的に成形したものを使用することが好ましい。図4〜7に記載されたような円筒形状を有する外耳道再建用成形品10から、手術に際して、適宜切り出して必要な部分のみを使用することもできるし、予め円筒の一部のみを立体的に成形したものを準備しても良い。
【0025】
本発明の外耳道再建用成形品10の適用される症例数が一番多いと考えられるのは、慢性化膿性中耳炎や真珠腫性中耳炎などの中耳炎の手術時に削除した外耳道1の再建である。この場合には、手術時に削除した部分だけ外耳道1を再建することが多いので、円筒を縦方向に分割した、円筒の一部からなる外耳道再建用成形品10が好適に使用される。中耳炎の手術時には鼓膜3の上側8付近の外耳道1が削除される場合が多いので、鼓膜裏面側補強部13が形成されていることが好ましい。図8は、そのような例であり、図6の上半分だけを分割したような形状の外耳道再建用成形品10を内側から見た斜視図である。このような場合、手術の際に円筒状成形品から切り出すのに比べて経済的であるし、不要な部分を適当に切断して除去するのが容易である。
【0026】
以上説明したように、本発明の外耳道再建用成形品は、骨形成が良好であり、骨、皮膚及び鼓膜への生着性が良好なので、様々な症例に対して適用が可能である。しかも、予め立体的に成形された成形品を用いることで、手術の際に、容易かつ確実に外耳道を再建することができる。具体的には、慢性穿孔性中耳炎、癒着性中耳炎、慢性化膿性中耳炎、真珠性中耳炎(先天性、後天性)、外耳道真珠種、外耳道閉鎖症(先天性、後天性)、外耳道真珠種、外耳道骨腫、外耳道腫瘍、外耳道炎、外骨腫等の疾患で、外耳道の全てもしくは一部の欠損部位の再生、再建、乳突腔充填術を行う例に対して好適に適用される。また、鼓膜形成術にも用いることができる。
【実施例】
【0027】
実施例1
コラーゲンとして、株式会社高研製I型アテロコラーゲンの水溶液を準備し、骨形成因子として、山之内製薬株式会社製rhBMP−2(recombinant human Bone Morphogenetic Protein-2)の水溶液を準備した。両者を混合して、固形分として、50mgのI型アテロコラーゲンと、50μgのrhBMP−2とが溶解した水溶液を調製し、これを減圧凍結乾燥して、細かい繊維状の固形物を得た。得られた固形物を、38℃に加熱し、滅菌環境下で手作業によって圧縮して、外耳道再建用成形品を作成した。作成された成形品は、外径約6mm、内径約4mm、長さ約10mm、厚さ約1mmの円筒を、回転軸に平行な向きに分割して3等分した形状(円周の1/3部分)であって、鼓室側の端部に内側に向けて高さ約1mmの折り返し形状を有するものである。
【0028】
正常ラットに、ペントバルビタールを腹腔内投与し、エーテルを吸入し麻酔した。耳後部の皮膚を切開し、外耳道皮膚と鼓膜を一塊として骨部外耳道から剥離し、外耳道及び鼓膜弁を露出させた。その後、骨部外耳道の後壁を3分の1周に亘り摘出し、骨部外耳道に骨欠損部を作成した。同骨欠損部に前記成形品を留置し、外耳道鼓膜弁にて成形品を覆った。操作後1週から16週の各時期において、ラットに過量のエーテルを吸引させて死亡させた後、側頭骨を摘出、固定し、脱灰の後パラフィン包埋し、連続切片を作成しヘマトキシリンエオジン染色にて観察した。
【0029】
骨化程度は、標本内の骨化の面積比にて検討した。その結果、操作後12週目に前記成形品内の骨形成は完成した。成形品は、皮膚と生着し、乳突洞粘膜に覆われ、「折り返し」部は鼓膜に生着し、鼓膜は内側もしくは外側への偏位を生じなかった。外耳道入口部から「折り返し」部により保持されている鼓膜内側に至るまで、観察期間中に成形品は形態を維持しつつ、成形品内のコラーゲンは吸収され、骨の形成と骨髄腔の形成が認められた。成形品の周囲の異物反応はなく、外耳道と鼓室外への成形品の排出はなく、外耳道の形態保持が認められた。観察期間において標本内では軟骨形成を認めず、線維性骨化を示した。このことから、本発明の成形品は、外耳道を再建するのに適した材料であることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】外耳道1周辺の構造を示した概略図である。
【図2】一方の端部が斜めに切断された円筒形状の外耳道再建用成形品の斜視図である。
【図3】図2の外耳道再建用成形品の縦断面図である。
【図4】端部に鼓膜裏面側補強部を有する外耳道再建用成形品の斜視図である。
【図5】図4の外耳道再建用成形品の縦断面図である。
【図6】端部から少し離れた位置に鼓膜裏面側補強部を有する外耳道再建用成形品の斜視図である。
【図7】図6の外耳道再建用成形品の縦断面図である。
【図8】図6の上半分だけを分割したような形状の外耳道再建用成形品を内側から見た斜視図である。
【符号の説明】
【0031】
1 外耳道
2 耳介
3 鼓膜
4 外耳道皮膚
5 軟骨部
6 骨部
10 外耳道再建用成形品
13 鼓膜裏面側補強部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンと骨形成因子との組成物からなる外耳道再建用成形品。
【請求項2】
前記コラーゲンがアテロコラーゲンである請求項1記載の外耳道再建用成形品。
【請求項3】
前記骨形成因子がBMP−2である請求項1又は2記載の外耳道再建用成形品。
【請求項4】
前記コラーゲン100重量部に対する前記骨形成因子の配合量が0.0001〜1重量部である請求項1〜3のいずれか記載の外耳道再建用成形品。
【請求項5】
円筒又は円筒の一部分からなる形状に成形されてなる請求項1〜4のいずれか記載の外耳道再建用成形品。
【請求項6】
前記成形品において、内径が5〜20mm、円筒の回転軸方向の長さが10〜35mm、厚みが0.5〜5mmである請求項5記載の外耳道再建用成形品。
【請求項7】
前記円筒又は円筒の一部分の、一方の端部が斜めに切断されており、その切断面が円筒の回転軸となす角度θが10〜75度である請求項5又は6記載の外耳道再建用成形品。
【請求項8】
前記一方の端部に、円筒の内側に向けて立設された鼓膜裏面側補強部を有する請求項5〜7のいずれか記載の外耳道再建用成形品。
【請求項9】
前記一方の端部から少し離れた位置に、円筒の内側に向けて立設された鼓膜裏面側補強部を有する請求項5〜7のいずれか記載の外耳道再建用成形品。
【請求項10】
前記鼓膜裏面側補強部が、鼓膜の上側に接触する位置に設けられている請求項8又は9記載の外耳道再建用成形品。
【請求項11】
コラーゲンと骨形成因子を含有する溶液から溶媒を除去することによって固形物を得てから、該固形物を圧縮して成形することを特徴とする請求項1〜10のいずれか記載の外耳道再建用成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−125252(P2007−125252A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−321520(P2005−321520)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】