説明

多並列磁気相殺型変圧器及び電力変換回路

【課題】小型化することができ、さらに、電力変換効率の低下を抑制することができる多並列磁気相殺型変圧器及び電力変換回路を提供する。
【解決手段】多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1)は、通電時に磁束を生じる複数の巻線Mが巻かれているものあって、複数の巻線Mと、この巻線が巻き回しされる複数の磁脚部G及びこの磁脚部Gを固定する基部Bを有するコアCOと、を備え、複数の巻線Mにて生じる磁束の磁束方向が互いに逆向きになるように磁脚部Gに巻かれており、磁脚部Gと基部Bとにより磁束による複数の閉磁路が形成され、これら閉磁路の磁気抵抗がすべて等しいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を変換する多並列磁気相殺型変圧器及びこの多並列磁気相殺型変圧器を採用した電力変換回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電圧を高電圧又は低電圧に昇降圧することで、電力変換する電力変換回路、いわゆるDC/DCコンバータが知られている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載されている従来のDC/DCコンバータは、1次巻線と2次巻線が逆巻き結線で接続された変圧器を用い、電圧を印可する入出力端子と変圧器との間に、昇降圧率可変用インダクタを設けている。そして、この従来のDC/DCコンバータは、連続的な昇降圧を可能としつつ、当該インダクタを小型化することができ、DC/DCコンバータ本体の小型化も実現している。
【特許文献1】特開2006−149054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のDC/DCコンバータでは、昇降圧率を2倍以上にすると、変圧器の各巻線に接続される複数のスイッチ素子を同時にオンするので、昇降圧率可変用インダクタに流れる直流電流に重畳される脈動成分であるリプル電流が増大してしまう。このため、従来のDC/DCコンバータでは、キャパシタやインダクタの体格(サイズ)を大きくしなければ、当該リプル電流の脈動(変化)を吸収することができない。すなわち、キャパシタやインダクタといった受動素子を小型化し、ひいてはDC/DCコンバータ自体を小型化することができないという問題がある。
【0004】
また、従来のDC/DCコンバータでは、昇降圧率を2倍以上にすると、このリプル電流が増大して電力変換効率が低下してしまうという問題がある。
【0005】
そこで、本発明では、前記した問題を解決し、小型化することができ、さらに、電力変換効率の低下を抑制することができる多並列磁気相殺型変圧器及び電力変換回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、通電時に磁束を生じる複数の巻線が巻かれている多並列磁気相殺型変圧器であって、前記複数の巻線と、この巻線が巻き回しされる複数の磁脚部及びこの磁脚部を固定する基部を有するコアと、を備え、前記複数の巻線にて生じる磁束の磁束方向がいずれの組合せをとっても互いに打ち消し合う向きになるように前記磁脚部に巻かれており、前記磁脚部と前記基部とにより前記磁束による複数の閉磁路が形成され、これら複数の閉磁路のうちで少なくとも最も小さな閉磁路の磁気抵抗がすべて等しいことを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、閉磁路間で磁束相殺量が等しいので、電力変換する際に各巻線から発生する直流磁束を打ち消すことができる。これにより並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止することができ、トランスの小型化及び鉄損を低減することができる。
【0008】
請求項2に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、請求項1に記載の多並列磁気相殺型変圧器において、前記閉磁路を形成する巻線それぞれが並列接続されていることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、巻線それぞれが並列接続されているので、巻線に通電している電流を小さくすることができ、巻線を細くすることができるので、巻線形状に自由度を出すことができ、ひいてはスペース効率を向上することができる。
【0010】
請求項3に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、請求項1又は2に記載の多並列磁気相殺型変圧器において、前記閉磁路の磁路長が等しいことを特徴とする。
【0011】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、磁気抵抗が同じになるように、磁路長を等しく構成されているので、磁束密度分布の偏りをなくし、ひいては磁気飽和を防止することができる。この際、磁気抵抗RmがRm=1/μ・L/A(“μ”が透磁率、“L”が磁路長、“A”が磁路断面積)で求められるので、磁路長が等しいことにより、他の透磁率と磁路断面積との積が一定であればよい。
【0012】
請求項4に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器において、前記コアにおける前記基部が平面円に形成され、前記平面円の中心と前記平面円の周とを結び、当該周の間隔が等間隔になるように前記磁脚部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、平面円の周の間隔が等間隔になるように磁脚部が形成されることで、各閉磁路の磁路長が等しく、且つ、磁気抵抗が等しくなり、磁束密度分布の偏りをなくすことができ、ひいては磁気飽和を防止することができる。
【0014】
請求項5に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器において、前記コアにおける前記基部が正多角形に形成され、前記磁脚部が前記正多角形の中心と前記正多角形の辺とを結び、当該辺の間隔が等間隔になるように前記磁脚部が形成されていることを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、正多角形の辺の間隔が等間隔になるように磁脚部が形成されることで、各閉磁路の磁路長が等しく、且つ、磁気抵抗が等しくなり、磁束密度分布の偏りをなくすことができ、ひいては磁気飽和を防止することができる。
【0016】
請求項6に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器において、前記コアにおける前記基部が2つの平行な平面それぞれに、円又は正三角形に形成され、複数の前記磁脚部が前記平面を垂直に結ぶ柱として形成されると共に、前記柱間の距離が等距離に配置されていることを特徴とする。
【0017】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、基部が2つの平行な平面に形成され、磁脚部がこれらの平面を結ぶ柱として形成されていることで、各閉磁路の磁路長が等しく、且つ、磁気抵抗が等しくなり、磁束密度分布の偏りをなくすことができ、ひいては磁気飽和を防止することができる。
【0018】
請求項7に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器において、前記コアにおける前記基部が2つの平行な平面それぞれに形成され、複数の前記磁脚部が前記平面を垂直に結ぶ柱として形成されると共に、前記柱間の距離が等距離に配置されており、一方の前記平面において、前記基部が前記柱の一方の端同士を接続する部分のみからなり、他方の前記平面において、前記基部が前記柱の他方の端同士を接続する部分のみからなることを特徴とする。
【0019】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、基部が2つの平行な平面に形成され、磁脚部がこれらの平面を結ぶ柱として形成されていることで、各閉磁路の磁路長が等しく、且つ、磁気抵抗が等しくなり、磁束密度分布の偏りをなくすことができ、ひいては磁気飽和を防止することができる。さらに、多並列磁気相殺型変圧器は、コアの基部が磁脚部の一旦又は他端を接続する部分のみからなるので、当該基部を平面に一様に備えた場合に比べて、コアの重量を軽くすることができる。
【0020】
請求項8に記載の多並列磁気相殺型変圧器は、通電時に磁束を生じる複数の巻線が巻かれている多並列磁気相殺型変圧器であって、前記複数の巻線と、この巻線が巻き回しされる3つの磁脚部及びこの磁脚部を固定する基部を有するコアと、を備え、前記3つの磁脚部は一方向に等間隔に並び、前記3つの磁脚部に巻き回しされる巻線にて生じる3つの磁束の磁束方向がいずれの組合せをとっても互いに打ち消し合う向きとなるように当該磁脚部に巻かれており、前記3つの磁脚部のうち中央の磁脚部にギャップが設けられており、前記磁脚部と前記基部とにより前記磁束による複数の閉磁路が形成され、これら複数の閉磁路のうちで少なくとも最も小さな磁脚部の磁気抵抗がすべて等しいことを特徴とする。
【0021】
かかる構成によれば、多並列磁気相殺型変圧器は、3つの磁脚部に巻き回しされている巻線にて生じる磁束の磁束方向がいずれの組合せをとっても互いに打ち消し合う向きとなるように当該時脚部に巻かれており、中央の磁脚部と、他の2つの磁脚部及び磁脚部を固定する基部とを合わせた磁気抵抗が等しくなるようにギャップ(隙間)を設けたので、磁束相殺量が等しくなり、電力変換する際に各巻線から発生する直流磁束を打ち消すことができ、磁束密度分布の偏りをなくすことができ、ひいては磁気飽和を防止することができる。
【0022】
請求項9に記載の電力変換回路は、第一入出力接続端子及び第二入出力接続端子を有し、入力された電圧を変圧することで、電力変換する電力変換回路であって、請求項1から8のいずれか一項に記載された多並列磁気相殺型変圧器と、前記第一入出力接続端子の正極端子に一端が接続され、前記多並列磁気相殺型変圧器の複数の巻線に接続される共通端に他端が接続されるインダクタと、前記複数の巻線の他端に接続される端子に一端が各々接続され、他端が前記第一入出力接続端子及び前記第一入出力接続端子の負極端子に接続される複数の第一の通電制御要素と、前記複数の巻線の他端に接続される端子に一端が各々接続され、他端が前記第二入出力接続端子の正極端子に接続される複数の第二の通電制御要素と、を備えることを特徴とする。
【0023】
かかる構成によれば、電力変換回路は、第一の通電制御要素及び第二の通電制御要素によって、電流をインダクタや多並列磁気相殺型変圧器に通電させるタイミング及び当該回路内の電流の流れを制御することで、多並列磁気相殺型変圧器にて電圧を変圧(昇圧又は降圧)し、電力を変換することができる。
【0024】
請求項10に記載の電力変換回路は、第一入出力接続端子及び第二入出力接続端子を有し、入力された電圧を変圧することで、電力変換する電力変換回路であって、請求項8に記載された多並列磁気相殺型変圧器と、前記複数の巻線の他端に一端が各々接続され、他端が前記第一入出力接続端子及び前記第一入出力接続端子の負極端子に接続される複数の第一の通電制御要素と前記複数の巻線の他端に一端が各々接続され、他端が前記第二入出力接続端子の正極端子に接続される複数の第二の通電制御要素と、を備えることを特徴とする。
【0025】
かかる構成によれば、電力変換回路は、第一の通電制御要素及び第二の通電制御要素によって、電流を多並列磁気相殺型変圧器に通電させるタイミング及び当該回路内の電流の流れを制御することで、多並列磁気相殺型変圧器にて電圧を変圧(昇圧又は降圧)し、電力を変換することができる。
【0026】
請求項11に記載の電力変換回路は、請求項10に記載の電力変換回路において、前記第一入出力接続端子の正極端子に一端が接続され、前記多並列磁気相殺型変圧器の複数の巻線に接続される共通端に他端が接続されるインダクタを備えることを特徴とする。
【0027】
かかる構成によれば、電力変換回路は、インダクタを備えることで、当該回路へ通電させる入力電流のリプル成分を小さくできるため、入出力コンデンサの小型化及び素子に生じるスイッチング損失の低減による電力変換効率の向上が可能となる。さらに、電力変換回路では、多並列磁気相殺型変圧器が温度影響等で磁気飽和した際に、巻線に流れる電流の急激な偏りを防止することができる。
【0028】
請求項12に記載の電力変換回路は、請求項9から11のいずれか一項に記載の電力変換回路において、前記第一の通電制御要素は、スイッチ手段であり、前記第二の通電制御要素は、整流手段であることを特徴とする。
かかる構成によれば、電力変換回路は、印可された電圧を昇圧することができる。
【0029】
請求項13に記載の電力変換回路は、請求項9から11のいずれか一項に記載の電力変換回路において、前記第一の通電制御要素は、整流手段であり、前記第二の通電制御要素は、スイッチ手段であることを特徴とする。
かかる構成によれば、電力変換回路は、印可された電圧を降圧することができる。
【0030】
請求項14に記載の電力変換回路は、請求項9から11のいずれか一項に記載の電力変換回路において、前記第一の通電制御要素及び前記第二の通電制御要素は、スイッチ手段であることを特徴とする。
かかる構成によれば、電力変換回路は、印可された電圧を昇降圧することができる。
【0031】
請求項15に記載の電力変換回路は、請求項12から14のいずれか一項に記載の電力変換回路において、前記スイッチ手段がIGBTで構成したことを特徴とする。
かかる構成によれば、電力変換回路は、スイッチ手段をIGBTで構成することで、高耐圧を確保することができ、自動車用電動機制御等の大電流用途に活用することができる。
【0032】
請求項16に記載の電力変換回路は、請求項12から14のいずれか一項に記載の電力変換回路において、前記スイッチ手段がMOSFETで構成したことを特徴とする。
かかる構成によれば、電力変換回路は、スイッチ手段をMOSFETで構成することで、スイッチング損失を低減することができるため、高周波用途であっても高い変換効率を実現できる。
【0033】
請求項17に記載の電力変換回路は、請求項12から14のいずれか一項に記載の電力変換回路において、前記スイッチ手段がフライホイールダイオード付きスイッチであることを特徴とする。
かかる構成によれば、電力変換回路は、スイッチ手段をフライホイールダイオード付きスイッチで構成することで、当該電力変換回路を昇降圧回路として用いる場合に、逆方向の電流をスルーさせることができ、双方向の電流のやりとりが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
このように、本願発明は、並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止し、変圧器を小型化することができ、さらに、鉄損を低減することができたので、電力変換回路自体も小型化及び高い変換効率を実現することができる。
また、本願発明は、各巻線に通電している電流を小さくすることができ、コアに発生する鉄損を小さくすることができ、電力変換効率の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
次に、本発明の実施形態について、適宜、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は電力変換回路の回路図である。この図1は、本願の実施形態である3並列及び4並列の磁気相殺型変圧器を備えた電力変換回路(昇降圧回路)(図3(a)、(b))と、従来の2並列の磁気相殺型変圧器を備えた電力変換回路(昇降圧回路)(図3(c))とを示しており、以下の説明では、これらを対比しながら行うこととする。そして、図3(c)の説明については、概略のみとする。
【0036】
図1(a)に示すように、電力変換回路1は、入力端子(第一入出力接続端子)に印加された電圧を昇圧して出力端子(第二入出力接続端子)へ、又は、入力端子(第二入出力接続端子)に印可された電圧を降圧して、出力端子(第一入出力接続端子)へ、双方向に電力を変換するもので、リアクトル(インダクタ)L1と、キャパシタC1、キャパシタC2と、トランス(多並列磁気相殺型変圧器)Tr1と、第1のアームA1(複数の第一の通電制御要素、すなわち、スイッチングを行う複数のスイッチ手段、この実施形態では昇圧時に使用)と、第2のアームA2(第二の通電制御要素、すなわち、スイッチングを行う複数のスイッチ手段、この実施形態では降圧時に使用)と、を備えている。なお、昇圧又は降圧の単方向回路の場合には、通電制御要素を、整流作用をもつダイオードで構成することもできる。
【0037】
入力端子は、電池や発電機などの電源(図示せず)に接続され、この電源から電源電圧が印可されるものである。この入力端子に印可された電圧が入力電圧である。
出力端子は、入力電圧を昇圧又は降圧した電圧を出力するものである。この出力端子から出力される電圧が出力電圧である。
【0038】
リアクトルL1は、昇圧動作時や降圧動作時に磁気エネルギを蓄積したり放出したりするものである。このリアクトルL1は、入力端子の正極側とトランスTr1との間に設けられている。
【0039】
キャパシタC1及びキャパシタC2は、第1のアームA1及び第2のアームA2のスイッチングにより、電流の充電放電を繰り返すものである。このキャパシタC1及びキャパシタC2は、この実施形態では、例えば、セラミックコンデンサ、フィルムコンデンサ等で構成されている。
【0040】
トランスTr1は、コア(鉄芯)に複数の巻線が巻き回しされており、リアクトルL1に接続される変圧器であり、この実施形態では3並列の磁気相殺型の変圧器である。磁気相殺型とは、並列に巻き回された巻線にて生じる磁束の磁束方向がいずれの組合せをとっても互いに逆向きになっており、磁束を相殺する(打ち消し合う)型式を指している。なお、このトランスTr1のコアにおいて、巻線が巻き回しされている箇所を磁脚部、巻線が巻き回しされていない箇所を基部と呼称する。ここで、トランスTr1の詳細を、図2〜図4を参照して説明する。
【0041】
トランスTr1は、図2に示すように、3つの磁脚部(α、β、γ)を備え、これらに巻線(a、b、c)が巻き回しされている。そして、巻線(a、b、c)に電流(i1、i2、i3)が通電すると、磁束(Φ、Φ、Φ)が生じる。そして、トランスTr1では、これらの磁束(Φ、Φ、Φ)の磁束方向がいずれの組合せをとっても互いに逆向きになるように構成されている。すなわち、磁束Φと磁束Φとが互いに逆向きに、また、磁束Φと磁束Φとが互いに逆向きに、さらに、磁束Φと磁束Φとが互いに逆向きになっている。
【0042】
なお、この図2において、磁束(Φ、Φ、Φ)により発生している閉磁路(ループ)を破線で示している。磁脚部αと磁脚部γとによる閉磁路が大きな閉磁路であり、磁脚部αと磁脚部βとによる閉磁路及び磁脚部βと磁脚部γとによる閉磁路が小さな閉磁路である。
【0043】
このトランスTr1には、磁脚部βにギャップ(隙間)gが設けられている。このギャップgにより、磁束Φと磁束Φとが互いに打ち消しあう磁束量と、磁束Φと磁束Φとが互いに打ち消し合う磁束量と、磁束Φと磁束Φとが互いに打ち消し合う磁束量との均衡が図れる。なお、このギャップgは、数ミクロンから数ミリ程度の隙間であってもよいし、絶縁シート等を介在してもよい。なお、コアの様々な形状については後記する。図1に戻る。
【0044】
第1のアームA1は、入力電圧を昇圧する際にスイッチングを行うもので、3つのスイッチ素子(スイッチSW1、SW2、SW3)から構成されている。これらのスイッチ素子を、この実施形態では、当該スイッチ素子と並列に接続されたフライホイールダイオードを有するスイッチで構成している。なお、スイッチ素子は、半導体素子であるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor-Field-Effect Transistor)等で構成してもよい。MOSFETで構成する場合には、MOSFETの寄生ダイオードをフライホイールダイオードとして用いてもよいし、さらに、フライホイールダイオードをMOSFETと並列に接続してもよい。そして、電力変換回路1では、昇圧動作を行う場合、スイッチ動作を行わない第2のアームA2をダイオードのみで構成することもできる。
【0045】
第2のアームA2は、入力電圧を降圧する際にスイッチングを行うもので、3つのスイッチ素子(スイッチSW5、SW6、SW7)から構成されている。これらのスイッチ素子を、この実施形態では、当該スイッチ素子と並列に接続されたフライホイールダイオードを有するスイッチで構成している。なお、スイッチ素子は、IGBT又はMOSFETで構成してもよい。そして、スイッチ素子をMOSFETで構成する場合には、MOSFETの寄生ダイオードをフライホイールダイオードとして用いてもよいし、フライホイールダイオードをMOSFETと並列に接続してもよい。そして、電力変換回路1では、降圧動作を行う場合、スイッチ動作を行わない第1のアームA1をダイオードのみで構成することもできる。
【0046】
また、図1(b)に示した電力変換回路1Aは、図1(a)に示した電力変換回路1の3並列の磁気相殺型変圧器であるトランスTr1を4並列の磁気相殺型変圧器であるトランスTr2に置き換えると共に、スイッチ素子が3個からなる第1のアームA1及び第2のアームA2をスイッチ素子が4個からなる第1のアームA3及び第2のアームA4に置き換えたものである。すなわち、各アームがトランス巻線の並列数に応じた数のスイッチを有するよう構成されている。
【0047】
さらに、図1(c)に示した従来の2並列の磁気相殺型変圧器を備えた電力変換回路101は、入力端子に印加された電圧を、昇圧又は降圧して、出力端子から出力するもので、リアクトルL1と、キャパシタC1、キャパシタC2と、トランス(2並列の磁気相殺型変圧器)TrJと、第1のアームa1と、第2のアームa2とを備えている。なお、図1(a)に示した構成と同様の構成は、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0048】
トランス(2並列の磁気相殺型変圧器)TrJは、2つの巻線を有し、これらの巻線によって生じる磁束の磁束方向が逆向きになるように構成されたものである。
【0049】
第1のアームa1は、入力電圧を昇圧する際にスイッチングを行うもので、2つのスイッチ素子(スイッチSW1、SW2)から構成されている。これらのスイッチ素子を、この実施形態では、当該スイッチ素子と並列に接続されたフライホイールダイオードを有するスイッチで構成している。なお、スイッチ素子は、半導体素子であるIGBT又はMOSFET等で構成してもよい。そして、電力変換回路101では、昇圧動作を行う場合、スイッチ動作を行わない第2のアームa2をダイオードのみで構成することもできる。
【0050】
第2のアームa2は、入力電圧を降圧する際にスイッチングを行うもので、2つのスイッチ素子(スイッチSW5、SW6)から構成されている。これらのスイッチ素子を、この実施形態では、当該スイッチ素子と並列に接続されたフライホイールダイオードを有するスイッチで構成している。なお、スイッチ素子は、半導体素子であるIGBT又はMOSFET等で構成してもよい。そして、電力変換回路101では、降圧動作を行う場合、スイッチ動作を行わない第1のアームa1をダイオードのみで構成することもできる。
【0051】
ここで、第1のアームA1と第2のアームA2とのスイッチングについて、図4、図5を参照して説明する。なお、第1のアームA1と第2のアームA2とのスイッチングは、いわゆるデューティ制御である。これら図4、図5では、図1(c)に示した従来の磁気相殺型変圧器を備えた電力変換回路101における第1のアームa1と第2のアームa2とのスイッチングと対比させながら説明する。なお、図1(b)の第1のアームA3と第2のアームA4とのスイッチングについては、図4、図5に示したものとほぼ同様であるので、その説明を省略する。
【0052】
まず、図4を参照して、第1のアームA1による昇圧動作におけるスイッチングについて説明する。この図4において、図1(a)第1のアームA1のON、OFF信号、図1(a)リアクトルの電流波形(実線)及び図1(a)キャパシタC2の電流波形(実線)が、第1のアームA1による昇圧動作におけるスイッチングによるものを示しており、図1(c)第1のアームa1のON、OFF信号、図1(c)リアクトルの電流波形(点線)及び図1(c)キャパシタC2の電流波形(点線)が、第1のアームa1による昇圧動作におけるスイッチングによるものを示している。
【0053】
また、この図4において、SW1がONになってから次にONするまでの期間を1周期としている。そして、第1のアームa1のスイッチSW1がONしてからスイッチSW2がOFFするまでの期間(すなわち、第1のアームa1のスイッチSW1とSW2が同時にONとなる期間)を(7)、第1のアームA1のスイッチSW1がONしてから第1のアームA1のSW3がOFFするまでの期間を(1)、そこから第1のアームA1のスイッチSW2がONするまでの期間を(2)とする。
【0054】
また、第1のアームA1のスイッチSW2がONしてから第1のアームA1のスイッチSW1がOFFするまでの期間を(3)、そこから第1のアームA1及び第1のアームa1のスイッチSW1がOFFするまでの期間(すなわち、第1のアームa1のスイッチSW1とSW2が同時にONとなる期間)を(8)、そこから第1のアームA1のスイッチSW3がONするまでの期間を(4)とする。
【0055】
さらに、第1のアームA1のスイッチSW3がONしてから第1のアームA1のスイッチSW2がOFFするまでの期間を(5)、そこから第1のアームA1及び第1のアームa1のスイッチSW1がONするまでの期間を(6)とする。
【0056】
この図4に示したように、第1のアームA1による昇圧動作におけるスイッチングは、1周期を期間(1)から期間(6)までに分けることができる。そして、従来の第1のアームa1によるスイッチングと比べ、第1のアームA1によるスイッチングの方が、リアクトルL1、キャパシタC2の電流波形ともリプル(Peak−to Peak)を小さくすることができる。これは、並列数を増加させることで、リアクトルL1(又はキャパシタC2)に流れる電流の周波数を高くし、リアクトルL1に流れる電流の傾きを小さくすることができるためである。この実施形態の場合、従来に比べて、1.5倍の周波数となる。
【0057】
次に、図5を参照して、第2のアームA2による降圧動作におけるスイッチングについて説明する。この図5において、図1(a)第2のアームA2のON、OFF信号、図1(a)リアクトルの電流波形(実線)及び図1(a)キャパシタC2の電流波形(実線)が、第2のアームA2による降圧動作におけるスイッチングによるものを示しており、図1(c)第2のアームa2のON、OFF信号、図1(c)リアクトルの電流波形(点線)及び図1(c)キャパシタC2の電流波形(点線)が、第2のアームa2による降圧動作におけるスイッチングによるものを示している。
【0058】
また、この図5において、SW5がONになってから次にONするまでの期間を1周期としている。そして、第2のアームa2のスイッチSW6がOFFするまでの期間(すなわち、第2のアームa2のスイッチSW5とSW6が同時にONとなる期間)を(7)、第2のアームA2のスイッチSW5がONしてから第2のアームA2のスイッチSW7がOFFするまでの期間を(1)、そこから第2のアームA2のスイッチSW6がONするまでの期間を(2)とする。
【0059】
また、第2のアームA2のスイッチSW6がONしてから第2のアームA2のスイッチSW5がOFFするまでの期間を(3)、そこから第2のアームA2及び第2のアームa2のスイッチSW5がOFFするまでの期間(すなわち、第2のアームa2のスイッチSW5とSW6が同時ONとなる期間)を(8)、そこから第2のアームA2のスイッチSW7がONするまでの期間を(4)とする。
【0060】
さらに、第2のアームA2のスイッチSW7がONしてから第2のアームA2のスイッチSW6がOFFするまでの期間を(5)、そこから第2のアームA2及び第2のアームa2のスイッチSW5がONするまでの期間を(6)とする。
【0061】
この図5に示したように、第2のアームA2による降圧動作におけるスイッチングは、1周期を期間(1)から期間(6)までに分けることができる。そして、従来の第2のアームa2によるスイッチングと比べ、第2のアームA2によるスイッチングの方が、リアクトルL1、キャパシタC2の電流波形ともリプル(Peak−to Peak)を小さくすることができる。これは、並列数を増加させることで、リアクトルL1(又はキャパシタC2)に流れる電流の周波数を高くすることができるためである。この実施形態の場合、従来に比べて、1.5倍の周波数となる。
【0062】
なお、期間(7)、(8)は、第1のアームa2のスイッチSW1、SW2(降圧の場合は、第2のアームa2のスイッチSW5、SW6)が同時にONとなる期間を表しており、2並列の場合であっても2倍超の昇圧(降圧の場合は、降圧率0.5〜1倍)が可能となる。しかし、電力変換回路1のインピーダンスが低下するためインダクタに大電流が流れて傾きが急峻となり、リプルが大きくなってしまう。また、3並列の場合でも4倍超の昇圧を可能とするために、3つの全てのスイッチを同時にONとする期間を設けることはできるが、2並列の場合に2倍超の昇圧を実現した場合と同様の問題が生じる。このため、電力変換回路1では、所望の昇圧率に応じた並列数を採用することが好ましい。
【0063】
さらに、図6〜図10を参照して、従来の2並列の磁気相殺型変圧器(トランスTrJ、以下の説明では単に2並列ともいう)と3並列の磁気相殺型変圧器(トランスTr1、以下の説明では単に3並列ともいう)との比較と、トランスTr1の動作波形と、電力変換回路101と電力変換回路1との比較とを説明する。
【0064】
図6は、昇圧率に対して増減するリアクトルL1のリプル電流特性及び電力変換効率を比較した図である。図7は、昇圧率に対して増加する磁気部品(リアクトルとトランス)の損失(W)を比較した図である。図8はトランスTr1の実際の動作波形を示した図である。図9は3並列回路及び4並列回路のトランスの実施例を示した図である。図10は2並列回路のトランスの構成例を示した図である。
【0065】
図6に示したように、2並列では、昇圧率が2倍の場合に、リプル電流が0になり、それ以上の昇圧率では、リプル電流実測値が急速に増加してしまう。また、2並列の電力変換効率である2並列実測効率も昇圧率が2倍を超えると低下率が高くなってしまう。これに対し、3並列では、昇圧率が1.5倍及び3倍の場合に、リプル電流実測値が0になり、さらに、それ以上の昇圧率でもリプル電流実測値が急速に増加することがない。また、3並列の電力変換効率である3並列実測効率も昇圧率が2倍を超え、さらに3倍を超えても低下率が高くなることがない。
【0066】
図7に示したように、2並列では、3並列に比べ昇圧率に拘わらず、常時磁気部品の損失(W)が高い。これは、2並列の方が3並列に比べ、リプル電流の振幅が大きいからである。
【0067】
図8に示したように、トランスTr1(3並列)では、各巻線の電流に若干のバラつきが生じる場合には、デューティ制御によって各巻線電流の直流成分の差を低減させ、安定した昇圧動作を実現することができる。なお、このトランスTr1では、定常的な各巻線電流の直流成分の差を低減することで、コアにおける磁気相殺を行っている。すなわち、各巻線電流の直流成分の差を低減することで、各巻線の発生する磁束の相殺量が等しくなり、コアの磁気飽和を抑制することができる。
【0068】
具体的に、トランスTr1では、巻線比(好ましくは各巻線の巻数比が1対1)、磁路長、磁路断面積のバランスをとることで、直流磁束の相殺を効果的に行っており、定常的な電流のバラつき(各巻線電流の直流成分の差)を低減している。これにより、コアにおける磁気飽和を防止して、トランス自体を小型化することができる。
【0069】
さらに、図9、図10を参照して、磁気相殺型変圧器の様々な形状(コアの形状)について説明する。
図9(a)〜(d)が3並列の磁気相殺型変圧器(トランスTr1(トランスTr1、トランスTr1、トランスTr1、トランスTr1))を、(e)及び(f)が4並列の磁気相殺型変圧器(トランスTr2(トランスTr2、トランスTr2))を示している。また、図10は、従来の2並列の磁気相殺型変圧器(トランスTrJ(トランスTrJ))を示している。
【0070】
図9(a)〜(c)に示したように、3並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1)は、通電時に磁束を生じる複数の巻線Mが巻かれているものであって、複数の巻線Mと、この巻線Mが巻き回しされる3つの磁脚部G(G1、G2、G3)及びこの磁脚部Gを固定する基部Bを有するコアCOとを備えている。
【0071】
そして、この3並列の多並列磁気相殺型変圧器では、複数の巻線Mにて生じる磁束の磁束方向が互いに逆向きになるように磁脚部Gに巻かれており、磁脚部Gと基部Bとにより磁束による複数の閉磁路が形成され、これら複数の閉磁路のうちで少なくとも最も小さな閉磁路(ループ)の磁気抵抗がすべて等しく構成されている。そして、この3並列の多並列磁気相殺型変圧器では、通電時に磁束を生じる複数の巻線Mそれぞれが並列接続されており、この閉磁路の磁路長が等しくなっている。
【0072】
なお、3並列の多並列磁気相殺型変圧器(4並列の多並列磁気相殺型変圧器も同様)は、磁気抵抗が同じになるように、磁路長を等しく構成されているので、磁束密度分布の偏りをなくし、ひいては磁気飽和を防止することができる。この際、磁気抵抗RmがRm=1/μ・L/A(“μ”が透磁率、“L”が磁路長、“A”が磁路断面積)で求められるので、磁路長が等しいことにより、他の透磁率と磁路断面積との積が一定であればよい。
【0073】
そして、図9(a)に示した3並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1)では、コアCOにおける基部Bが平面円に形成され、平面円の中心と平面円の周とを結び、当該周の間隔が等間隔になるように磁脚部Gが形成されている。
【0074】
また、図9(b)に示した3並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1)では、コアCOにおける基部Bが正多角形(この実施形態では、正三角形)に形成され、磁脚部Gが正多角形の中心と正多角形の辺(頂点を含む)とを結び、当該辺の間隔が等間隔になるように磁脚部Gが形成されている。
【0075】
また、図9(c)に示した3並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1)では、3つの磁脚部Gにおける、中央に位置する磁脚部G2に、ギャップgを設けている。
【0076】
そして、図9(d)に示したように、3並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1)は、コアCOにおける基部B(B1、B2)が2つの平行な平面それぞれに、円(又は正三角形)に形成され、3つの磁脚部G(G1、G2、G3)が平面を垂直に結ぶ柱として形成されると共に、柱間の距離が等距離に配置されている。
【0077】
また、図9(e)に示したように、4並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr2)は、通電時に磁束を生じる複数の巻線Mが巻かれているものであって、複数の巻線Mと、この巻線Mが巻き回しされる4つの磁脚部G(G1、G2、G3、G4)及びこの磁脚部Gを固定する基部Bを有するコアCOとを備えている。さらに、コアCOにおける基部Bが正多角形(この実施形態では、正方形)に形成され、磁脚部Gが正多角形の中心と正多角形の辺(頂点含む)とを結び、当該辺の間隔が等間隔になるように磁脚部Gが形成されている。
【0078】
さらに、図9(f)に示したように、4並列の多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr2)は、コアCOにおける基部B(B3、B4)が2つの平行な平面それぞれに形成され、4つの磁脚部G(G1、G2、G3、G4)が平面を垂直に結ぶ柱として形成されると共に、柱間の距離が等距離に配置されており、一方の平面において、基部Bが柱の一方の端同士を接続する部分のみからなり、他方の前記平面において、基部が柱の他方の端同士を接続する部分のみから構成されている。
【0079】
また、図10に示したように、従来の多並列磁気相殺型変圧器(TrJ)は、通電時に磁束を生じる2つの巻線Mが巻かれているものであって、2つの巻線Mと、この巻線Mが巻き回しされる1つの磁脚部G及びこの磁脚部Gを固定する基部Bを有するコアCOと、を備え、1つの磁脚部Gに巻き回しされる巻線Mにて生じる2つの磁束の磁束方向が互いに逆向きになるように当該磁脚部Gに巻かれている。そして、従来の多並列磁気相殺型変圧器(TrJ)は、磁脚部Gと基部Bとにより磁束による複数の閉磁路が形成され、これら閉磁路の磁気抵抗がすべて等しく構成されている。
【0080】
このようにトランスTr1及びトランスTr2によれば、閉磁路間で磁束相殺量が等しいので、電力変換する際に各巻線Mから発生する直流磁束を打ち消すことができ、これにより並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止することができ、トランスの小型化及び鉄損を低減することができる。さらに、トランスTr1及びトランスTr2によれば、巻線Mそれぞれが並列接続されているので、巻線Mを細くすることができ、巻線形状の自由度を出すことができ、ひいてはスペース効率を向上することができる。
【0081】
また、トランスTr1によれば、平面円の周の間隔が等間隔になるように磁脚部Gが形成されることで、各閉磁路の磁路長が等しくなり、磁気抵抗が同じになるので、電力変換する際に各巻線Mから発生する直流磁束を打ち消すことができ、これにより並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止することができトランスの鉄損を低減することができる。また、トランスTr1によれば、正多角形の辺の間隔が等間隔になるように磁脚部Gが形成されることで、各閉磁路の磁路長が等しくなり、磁気抵抗が同じになるので、電力変換する際に各巻線Mから発生する直流磁束を打ち消すことができ、これにより並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止することができトランスの鉄損を低減することができる。
【0082】
さらに、トランスTr1によれば、3つの磁脚部Gに巻き回しされている巻線Mにて生じる磁束の磁束方向が、いずれの組合せをとっても互いに打ち消し合う向きとなるように当該磁脚部Gに巻かれており、中央に位置する磁脚部G2に、ギャップg(隙間)を設けることにより磁気抵抗を調整しているので、磁束相殺量が等しくなり、電力変換する際に各巻線Mから発生する直流磁束を打ち消すことができ、並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止することができ、トランスの小型化及び鉄損を低減することができる。
【0083】
さらにまた、トランスTr1によれば、基部Bが2つの平行な平面に形成され、磁脚部Gがこれらの平面を結ぶ柱として形成されていることで、各閉磁路の磁路長が等しくなり、磁気抵抗が同じになるので、電力変換する際に各巻線Mから発生する直流磁束を打ち消すことができ、これにより並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止することができ、トランスの小型化及び鉄損を低減することができる。
【0084】
そしてまた、トランスTr2によれば、コアCOの基部Bが磁脚部Gの一端又は他端を接続する部分のみからなるので、当該基部Bを平面に一様に備えた場合に比べて、コアの重量を軽くすることができる。
【0085】
さらに、このようなトランスTr1又はTr2を備えた電力変換回路1によれば、下アームA1(A3)及び上アームA2(A4)によって、電流をインダクタL1や多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1(トランスTr2))に通電させるタイミング及び当該回路内の電流の流れを制御することで、多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1(トランスTr2))にて電圧を変圧(昇圧又は降圧)し、電力を変換することができる。そして、多並列磁気相殺型変圧器(トランスTr1(トランスTr2))は、並列数が増えてもコアにおける磁気飽和を防止し、トランスを小型化でき、さらに、鉄損を低減することができたので、この電力変換回路1自体も小型化及び高い変換効率を実現することができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態には限定されない。例えば、本実施形態では、多並列磁気相殺型変圧器Tr1を正三角形の場合のみを示したが、他の正多角形(正方形、正五角形・・・)に構成してもよい。なお、本実施形態では、電力変換回路1の入出力接続端子の正極端子にインダクタを接続する構成としたが、その接続箇所は限定されるものではなく、負極側に設ける構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の実施形態に係る電力変換回路の回路図である。
【図2】変圧器における並列接続と直列接続との例を示した図である。
【図3】変圧器における並列接続の等価回路と直列接続の等価回路との例を示した図である。
【図4】図1(a)、(c)に示した電力変換回路の昇圧時の電流波形を示した図である。
【図5】図1(a)、(c)に示した電力変換回路の降圧時の電流波形を示した図である。
【図6】2並列の多並列磁気相殺型変圧器と3並列の多並列磁気相殺型変圧器とについて、昇圧時のリプル電流の特性を比較した図である。
【図7】2並列の多並列磁気相殺型変圧器と3並列の多並列磁気相殺型変圧器とについて、昇圧時の損失を比較した図である。
【図8】3並列の多並列磁気相殺型変圧器における実際の動作波形を示した図である。
【図9】3並列又は4並列の多並列磁気相殺型変圧器の概略を示した図である。
【図10】2並列の多並列磁気相殺型変圧器の概略を示した図である。
【符号の説明】
【0088】
1 電力変換回路
A1、A3 第1のアーム(第一の通電制御要素)
A2、A4 第2のアーム(第二通の電制御要素)
L1 リアクトル
C1、C2 キャパシタ
Tr1、Tr2 トランス(多並列磁気相殺型変圧器)
CO コア
G 磁脚部
B 基部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電時に磁束を生じる複数の巻線が巻かれている多並列磁気相殺型変圧器であって、
前記複数の巻線と、
この巻線が巻き回しされる複数の磁脚部及びこの磁脚部を固定する基部を有するコアと、を備え、
前記複数の巻線にて生じる磁束の磁束方向がいずれの組合せをとっても互い打ち消し合う向きとなるように前記磁脚部に巻かれており、
前記磁脚部と前記基部とにより前記磁束による複数の閉磁路が形成され、これら複数の閉磁路のうちで少なくとも最も小さな閉磁路の磁気抵抗がすべて等しいことを特徴とする多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項2】
前記閉磁路を形成する巻線それぞれが並列接続されていることを特徴とする請求項1に記載の多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項3】
前記閉磁路の磁路長が等しいことを特徴とする請求項1又は2に記載の多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項4】
前記コアは、前記基部が平面円に形成され、前記平面円の中心と前記平面円の周とを結び、当該周の間隔が等間隔になるように前記磁脚部が形成されていることを特徴とする請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項5】
前記コアは、前記基部が正多角形に形成され、前記磁脚部が前記正多角形の中心と前記正多角形の辺とを結び、当該辺の間隔が等間隔になるように前記磁脚部が形成されていることを特徴とする請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項6】
前記コアは、前記基部が2つの平行な平面それぞれに、円又は正三角形に形成され、複数の前記磁脚部が前記平面を垂直に結ぶ柱として形成されると共に、前記柱間の距離が等距離に配置されていることを特徴とする請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項7】
前記コアは、前記基部が2つの平行な平面それぞれに形成され、複数の前記磁脚部が前記平面を垂直に結ぶ柱として形成されると共に、前記柱間の距離が等距離に配置されており、
一方の前記平面において、前記基部が前記柱の一方の端同士を接続する部分のみからなり、他方の前記平面において、前記基部が前記柱の他方の端同士を接続する部分のみからなることを特徴とする請求項1から3に記載の多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項8】
通電時に磁束を生じる複数の巻線が巻かれている多並列磁気相殺型変圧器であって、
前記複数の巻線と、
この巻線が巻き回しされる3つの磁脚部及びこの磁脚部を固定する基部を有するコアと、を備え、
前記3つの磁脚部は一方向に等間隔に並び、前記3つの磁脚部に巻き回しされる巻線にて生じる3つの磁束の磁束方向がいずれの組合せをとっても互いに打ち消し合う向きとなるように当該磁脚部に巻かれており、
前記3つの磁脚部のうち中央の磁脚部にギャップが設けられており、
前記磁脚部と前記基部とにより前記磁束による複数の閉磁路が形成され、これら複数の閉磁路のうちで少なくとも最も小さな閉磁路の磁気抵抗がすべて等しいことを特徴とする多並列磁気相殺型変圧器。
【請求項9】
第一入出力接続端子及び第二入出力接続端子を有し、入力された電圧を変圧することで、電力変換する電力変換回路であって、
請求項1から8のいずれか一項に記載された多並列磁気相殺型変圧器と、
前記第一入出力接続端子の正極端子に一端が接続され、前記多並列磁気相殺型変圧器の複数の巻線に接続される共通端に他端が接続されるインダクタと、
前記複数の巻線の他端に一端が各々接続され、他端が前記第一入出力接続端子及び前記第一入出力接続端子の負極端子に接続される複数の第一の通電制御要素と
前記複数の巻線の他端に一端が各々接続され、他端が前記第二入出力接続端子の正極端子に接続される複数の第二の通電制御要素と、
を備えることを特徴とする電力変換回路。
【請求項10】
第一入出力接続端子及び第二入出力接続端子を有し、入力された電圧を変圧することで、電力変換する電力変換回路であって、
請求項8に記載された多並列磁気相殺型変圧器と、
前記複数の巻線の他端に一端が各々接続され、他端が前記第一入出力接続端子及び前記第一入出力接続端子の負極端子に接続される複数の第一の通電制御要素と
前記複数の巻線の他端に一端が各々接続され、他端が前記第二入出力接続端子の正極端子に接続される複数の第二の通電制御要素と、
を備えることを特徴とする電力変換回路。
【請求項11】
前記第一入出力接続端子の正極端子に一端が接続され、前記多並列磁気相殺型変圧器の複数の巻線に接続される共通端に他端が接続されるインダクタを備えることを特徴とする請求項10に記載の電力変換回路。
【請求項12】
前記第一の通電制御要素は、スイッチ手段であり、
前記第二の通電制御要素は、整流手段であることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の電力変換回路。
【請求項13】
前記第一の通電制御要素は、整流手段であり、
前記第二の通電制御要素は、スイッチ手段であることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の電力変換回路。
【請求項14】
前記第一の通電制御要素及び前記第二の通電制御要素は、スイッチ手段であることを特徴とする請求項9から11のいずれか一項に記載の電力変換回路。
【請求項15】
前記スイッチ手段がIGBTで構成したことを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の電力変換回路。
【請求項16】
前記スイッチ手段がMOSFETで構成したことを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の電力変換回路。
【請求項17】
前記スイッチ手段がフライホイールダイオード付きスイッチであることを特徴とする請求項12から14のいずれか一項に記載の電力変換回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−170620(P2009−170620A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−6438(P2008−6438)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】