説明

多光子蛍光顕微鏡

励起ビーム経路を有するとともに、サンプル(5)内における焦点(4)に励起放射線(1)を合焦する対物レンズ(2)と、焦点(4)を少なくとも一次元的にシフトさせる操作ユニットと、多光子励起によってサンプル内において活性化される発光放射線を取り込む検出ユニットと、を備える多光子発光顕微鏡(M)について記載する。検出ユニットは、サンプル(5)の対物レンズ(2)とは反対側に位置する二次元検出器(9)を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サンプル内にある焦点に励起放射線を合焦する対物レンズと、焦点を少なくとも一次元的にシフトする走査ユニットと、サンプルにおいて多光子励起によって活性化された蛍光放射線を取り込む検出ユニットとを備えるとともに、励起ビーム経路を有する多光子発光顕微鏡(multiphoton luminescence microscope) に関する。更に、本発明は、サンプル内に位置する焦点に励起放射線を合焦することにより発光放射線をサンプルにおいて多光子励起によって活性化し、サンプルを走査するために、焦点をシフトさせ、発光放射線を検出する、多光子発光顕微鏡の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の発光顕微鏡では、蛍光あるいは内部すなわち自己発光をサンプルにおいて励起する。この目的のために、一般にはレーザ放射線である、合焦励起放射線を最大発光に調整して用いている。励起は焦点範囲において行われ、発光も合焦光束の入射または反射光円錐においてそれぞれ活性化される。画像を生成するためには、励起放射線焦点の領域からのみの共焦点検出によって発光放射線を取り込む。サンプルを走査することによって、画像を生成する。
【0003】
多光子発光顕微鏡では、励起を生ずるために少なくとも2つの光子が必要となるように、励起放射線をスペクトル的に選択する。励起の可能性はこのために大きく低下するので、非常に高い光束密度でないと効率的な励起を行うことができず、正確に合焦励起放射線の焦点においてでないと得られない。励起放射線の焦点外に出射された発光放射線を遮断する必要がないので、従来の発光顕微鏡において必要な共焦点検出を省略することができる。多光子発光顕微鏡は、このように、検出の間、浮遊光の共焦点抑制を用いずに動作する。用いられる検出器は、直接検出器と呼ばれている。これに関して、米国BIO−RAD社の顕微鏡を参照する。インターネット上で入手可能な文献http://microscopy.biorad.com/faqs/multophotone/faqs2.thmによって示唆される直接検出器は、光電子増倍管ユニットであり、前記ユニットをクロマティック・ビーム・スプリッタによって励起ビーム内に結合し、励起放射線の入射とは反対方向に逆行する蛍光放射線を取り込む。前記ユニットにおいて用いられる光電子増倍管の前には、対応する収集レンズがあり、励起ビーム路内にある対物レンズと共に、高感度光電子増倍管の比較的小さなウィンドウ上にサンプル・フィールド(sample field)を完全に撮像する。これはサンプルの走査全体に対して行われなければならないので、特に、撮像に用いられる対物レンズは、多光子蛍光を励起するレーザ・ビームの合焦の一部でもあるので、ある程度の光学的費用は避けられない。「生物学的共焦点顕微鏡便覧(Handbook of Biological Confocal Microscopy)」(プレナム・プレス、ニューヨーク、1995)におけるダブリュー デンクその他(W.Denk et al. )の「レーザ走査顕微鏡における二光子分子励起(Two-photon molecular excitation in laser scanning microscopy)」は、透過光モードにおける光電子増倍管の使用を開示している。また、これは、1998年に出願されたDE198 01 139においても認識されており、BIO−RAD社が入射光モードにおいて用いているように、コンデンサを付加的に採用している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、前述した形式の多光子発光顕微鏡、および対応する多光子発光顕微鏡の使用法を改良し、放射線の検出の手間を減らすことを可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、前述の形式の顕微鏡によって達成される。該顕微鏡では、検出ユニットがサンプルの対物レンズとは反対側に位置する二次元検出器を備えている。この目的は、更に、前述の形式の方法によって達成され、該方法では、励起放射線の入射とは反対側の発光放射線を、平面に拡散するように検出する。
【0006】
従って、本発明によれば、いわゆる「直接」検出器を用いる。これは、ここでは、サンプルの対物レンズとは反対側に位置する二次元検出器として設けられている。二次元検出器とは、発光放射線が出現する、検出器とサンプルとの間の光路の長さよりも大きい検出器表面を有するあらゆる検出器と解釈することとする。このような2次元検出器を透過モードで配置することにより、一方では、光度を弱めるクロマティック・ビーム・スプリッタを省略することができる。他方では、二次元検出器をサンプルから非常に近い距離に配置することによって、サンプル内において発生する発光放射線に対して大きな空間角度をカバーすることができる。透過モードで用いる二次元検出器では、受光する発光放射線の光度が高くなり、このために信号/ノイズ比の向上を達成する。また、これは、特に、撮像光学部品または二色性ビーム・スプリッタのような、励起放射線の照射にも用いられる中間光学部品による損失がないためでもある。発光放射線の検出は、もはや励起ビーム経路の対物レンズを通じて行う必要がない。
【0007】
可能な限り大きな空間角度をカバーするためには、二次元検出器が焦点から離間する距離を、二次元検出器の範囲よりも遥かに短く、例えば、僅かにその1/10にすると有利である。
【0008】
平面検出区域を備えている多くの検出器では、可能であれば、放射線が前記平面検出区域に対して垂直に入射すると有利である。何故なら、その場合、検出感度が最大となるからである。信号の均質化に対しては、したがって、光学素子を二次元検出器とサンプルとの間に配置することが好ましく、前記光学素子は、サンプル内で発生した発光放射線を二次元検出器上に誘導する。特に、その光学素子は、励起放射線を誘導するように機能することはない。特に簡単な実施形態では、光学素子は、格子として、好ましくはホログラフィック格子として設けられる。
【0009】
特に実現が容易な構成では、このような光学素子を、発光顕微鏡において用いられるサンプル台の底面に直接取り付ける。
発光顕微鏡検査では、生物サンプルを、それらの内部すなわち自己発光のスペクトルによって特定することが可能である。また、この手順は、空間分解二次元検出器を用い、二次元検出器とサンプルとの間にスペクトル分析器を介在させ、前記分析器が、サンプルによって出射された放射線をスペクトル的に分散させれば、本発明による発光顕微鏡においても可能である。非常に簡単な構成では、サンプルと二次元検出器との間に、既に述べた格子をスペクトル分散のために配置する。この目的のために、格子または二次元検出器を、適切な機構と結合し、(試験する標本の平面構成に対して)一次元または二次元横断方向変位を行う。格子または二次元検出器の変位によって、干渉パターンの変位が生ずる。この変位は、自己すなわち内部発光スペクトルに応じて異なり、したがって、サンプルの特定が可能となる。代替または追加として、既知のスペクトル分布を検索すれば、信号対ノイズ比を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、一例として、図面を参照しながら、本発明について更に詳細に説明する。
図1は、多光子蛍光顕微鏡検査または発光顕微鏡検査を可能とする顕微鏡Mを模式的に示す。図1は、サンプルを配置する顕微鏡の部分のみを示す。
【0011】
顕微鏡Mは、放射線源(図示せず)を備えており、約700mnの波長のレーザ・ビーム1を出射する。レーザ・ビーム1は、対物レンズ2に入射してこれを通過し、合焦ビーム3が得られる。焦点4は、サンプル台7上のカバー・グラス6の後方で、対物レンズ2の下に配置されているサンプル5内に位置する。
【0012】
このようにサンプル5内で合焦するレーザ・ビーム1により、図2に示すように、サンプル5において多光子励起が生ずる。このようにする際、サンプル5の生物物質の内部すなわち自己蛍光、あるいはサンプル5内で特定的に得られる蛍光体の蛍光を励起することができる。レーザ・ビーム1は、図2では模式的に示すに過ぎないが、対物レンズによって合焦されビーム・ウェストTとなり、焦点4の領域のみにおいて多光子蛍光を励起するには十分なビーム密度を達成する。ビーム・ウェストTの外部では、有意な確率で多光子蛍光が励起されることはない。したがって、蛍光放射線は、焦点4の領域のみで発生する。合焦ビーム3における他の場所では、蛍光は発生しない。
【0013】
このように、顕微鏡Mでは、蛍光放射線は焦点4のみから来ると想定することができる。したがって、蛍光放射線を空間的に分解して検出する必要はない。焦点4から均質に出射される蛍光放射線を、可能な限り大きく取り込むことができるようにするために、サンプル台7の下に格子8を配置する。この格子は、光線円錐K内に出射された放射線を偏向してCCDセンサ9上に向かわせ、センサ9上で放射線が可能な限り遠くまで垂直に入射するようにしている。
【0014】
光学格子は、焦点4の下から非常に短い距離のところに位置し、図1では断面のみで示す、比較的範囲が広いセンサ9との組み合わせにより、焦点4に対して非常に大きな空間角度をカバーする。
【0015】
図1におけるサンプル台7および格子8の、サンプル5の厚さに対する図示は、特に、距離dに対して、同一の縮尺ではなく、かなり拡大しているので、二次元検出器(area detector) を形成し、格子8およびセンサ9から成るユニットは、半空間内に出射された蛍光放射線の殆ど全てを収集する。これによって、信号対ノイズ比は著しく向上する。
【0016】
CCDセンサ9は、本例では後方照明CCDセンサとして設けられており、対応する画像情報を制御デバイス10に供給する。このデバイスは信号評価を行う。
励起放射線1も検出ユニット上に向けて導出されるが、これを遮断するには異なる手法を用いることもできる。例えば、励起放射線に対して感応しないセンサ9を採用してもよい。あるいは、パルス状励起放射線を用いる場合は、センサ9の読み取りを、励起放射線1を出射しない期間に限定してもよい。また、励起放射線が入射する二次元検出器の比較的小さな部分を遮断するか、あるいはぼかしてもよい。この目的は、関係する二次元部分では読み取りを行わない空間分解検出器(spatially resolving detector)を用いることによってか、あるいは適切な(恐らくは、調節可能な)制止手段をセンサ9の前方に配置することによって、達成することができる。更に別の可能性は、適切なフィルタまたは二色性反射板を用い、励起放射線を検出器から遠ざけることである。勿論、時間的または空間的遮断によって励起放射線を抑制するこれらの可能性は、各々単独でも、あるいは任意の組み合わせでも採用することができる。
【0017】
本実施形態例では、励起放射線用フィルタを、サンプル台7および/または格子8の底面に取り付ける。このフィルタは、700nmを遮断する赤外線遮断フィルタである。
格子8によって、光線円錐Kに入る蛍光放射線のスペクトル分散を生じさせれば、更に信号対ノイズ比を高めること、または追加の情報を得ることが可能となる。この目的のために、制御デバイス10はしかるべくセンサ9を読み取り(空間分解法によって検出する)、その蛍光スペクトルによってサンプル5を特定する。格子8のスペクトル動作により、励起放射線1をスペクトル的に遮断する付加的な可能性が開かれる。何故なら、この放射線は蛍光放射線とはスペクトル的に明らかに異なるからである。
【0018】
原則的には、格子8によりセンサ9上に干渉パターンが発生する。一実施形態におけるスペクトル分析のために、制御デバイス10は、(恐らくは励起放射線1と共に)光線円錐Kに入る蛍光放射線のスペクトル組成を示す干渉パターンが変化するように、格子8およびセンサ9を相対的に変位させる。次いで、この変化により、制御デバイス10は、当業者には周知のアルゴリズムによって、焦点4からの蛍光放射線のスペクトル組成を示す。
【0019】
可能な限り大きな空間角度を達成するためには、距離dは、勿論、可能な限り小さい方がよい。したがって、更に別の実施形態(図1には示されていない)では、サンプル台7の底面に直接格子8を取り付ける。格子8がなければ、センサをサンプル台7に可能な限り近づけて配置することにより、距離d(この場合、焦点4とセンサ9との間)を最小にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】多光子蛍光顕微鏡検査用顕微鏡の詳細を示す模式図。
【図2】多光子蛍光を励起するレーザ・ビームを示す模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起ビーム経路を有する多光子発光顕微鏡(M)であって、励起放射線(1)をサンプル(5)内における焦点(4)に合焦する対物レンズ(2)と、前記焦点(4)を少なくとも一次元的にシフトする走査ユニットと、前記サンプルにおいて多光子励起によって活性化される発光放射線を取り込む検出ユニットと、を備える多光子発光顕微鏡(M)において、前記検出ユニットが、前記サンプル(5)の前記対物レンズ(2)とは反対側に位置する二次元検出器(9)を備えていることを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡において、可能な限り大きな空間角度(K)をカバーするために、前記二次元検出器(9)の範囲(b)に比較して小さい距離(d)だけ、前記二次元検出器(9)を前記焦点(4)から離間することを特徴とする顕微鏡。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の顕微鏡において、前記二次元検出器(9)とサンプル(5)との間に、好ましくはホログラフィック格子(8)を配置することを特徴とする顕微鏡。
【請求項4】
請求項3に記載の顕微鏡において、前記格子(8)をサンプル台(7)の底面に取り付けることを特徴とする顕微鏡。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の顕微鏡において、空間分解二次元検出器(9)を特徴とする顕微鏡。
【請求項6】
請求項5に記載の顕微鏡において、好ましくは、後方照明CCDセンサのような、CCD二次元検出器(9)を特徴とする顕微鏡。
【請求項7】
多光子発光顕微鏡検査方法であって、励起放射線(1)を、サンプル(5)内に位置する焦点(4)に合焦することにより、前記サンプル(5)内における多光子励起によって発光放射線を活性化し、前記サンプル(5)を走査するために、前記焦点(4)をシフトさせ、発光放射線を検出する多光子発光顕微鏡検査方法において、前記励起放射線の照射とは反対に位置する側において、前記発光放射線を、平面に広げて検出することを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、検出の前に、前記発光放射線のスペクトル分散を行うことを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2007−506123(P2007−506123A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526575(P2006−526575)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010269
【国際公開番号】WO2005/029148
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(597141922)カール ツァイス イェナ ゲーエムベーハー (12)
【Fターム(参考)】