説明

多光軸光電センサ

【課題】投光器と受光器との間の通信ラインにおける信号の伝達時間に応じて、投光処複理と受光処理とのタイミングの関係を適切に調整する。
【解決手段】多光軸光電センサで検出処理を実行していない状態下において、受光器からコマンドPを送信し、これを受信した投光器から応答用のコマンドQを送信する。受光器では、コマンドPを送信し終えた時点aからコマンドQを認識した時点eまでに要した時間Tを計測し、この計測された時間Tを用いた演算により投光器と受光器との間での信号伝達時間Txを算出する。そしてこの信号伝達時間Txに基づき、投光器での投光処理と受光器での受光処理とのタイミングが合うように双方のタイミングの関係を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対向配備された投光器と受光器との間に複数の光軸が設定され、投光器と受光器との間の通信により、各光軸を順に選択して検出処理を実行する多光軸光電センサに関する。
【0002】
なお、以下では、多光軸光電センサを単に「センサ」という場合がある。また投光器および受光器を総称して「機器」と言う場合がある。
【背景技術】
【0003】
多光軸光電センサは、複数の発光素子を有する投光器と、発光素子と同数の受光素子を有する受光素子とを、各素子の光軸を合わせた状態にして対向配備させた構成のセンサである。このセンサでは、各光軸を順に有効にして、投光器側の有効な光軸の発光素子から光を投光すると共に、受光器において、有効な光軸の受光素子からの受光量信号を取り込んで、受光量を計測する処理(受光処理)を実行する。投光器と受光器とは通信回線を介して接続され、両機器間での通信により毎回の投光処理および受光処理のタイミングが調整される。また光軸毎の受光量はあらかじめ定められたしきい値と照合されて、入光か遮光かが判別される。
【0004】
投光処理と受光処理とのタイミングの制御に関して、たとえば特許文献1には、受光器から投光器にタイミング信号(特許文献1では同期信号と記載)を出力することによって、投光器側の制御用のクロックパルス信号や駆動パルス信号のタイミングを調整すると共に、受光器側でも同期信号の送信に応じて投光器と同期するタイミングでクロックパルス信号や駆動パルス信号を出力することが記載されている。各機器のクロックパルス信号によって各光軸が順に有効にされ、駆動パルス信号によって投光処理および受光処理のタイミングが制御される。
【0005】
さらに特許文献1には、受光素子から制御回路への信号ラインの長さによって制御回路への受光信号の入力に遅れが生じる問題に着目して、あらかじめこの入力遅れ時間を求めて受光器の制御回路に登録し、受光素子からの受光信号を検出するタイミングを登録されている時間分だけずらすことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−8835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された発明では、センサ内の信号線の長さに起因する信号の遅延の問題に着目しているが、これに限らず、受光器から投光器へのタイミング信号の伝達にも、通信ラインにおける抵抗や寄生容量に起因する遅れが生じる。この遅れの具体的な原因となるのは、主として通信ラインの長さであるが、通信ラインの長さはセンサの設置状態や配線状態によってまちまちである。
【0008】
また、多光軸光電センサは単独での使用に限らず、複数の投光器と受光器とを種毎にケーブルを介して連結して使用する場合もある。この場合には、各連結体の一端の投光器と受光器とを接続することによって、各機器間の通信ラインが一連に接続された状態となる。各センサの投光器と受光器は、この一体化された通信ラインを介して通信を行うが、両機器の間の通信ラインの長さはセンサ毎に異なるものになる。
【0009】
図9は、投光器側の投光処理の期間と、受光器側の受光処理の期間(受光素子からの受光量信号が制御回路に入力される期間)と、タイミング信号との関係を示す。
多光軸光電センサでは、一般に、受光器の制御回路が主導で動作のタイミングを決め、投光器の制御回路にタイミング信号を出力する。投光器の制御回路は、タイミング信号を受信したことに応じて光軸の選択を変更して、新たに選択された光軸の発光素子を点灯する。受光器の制御回路も、タイミング信号の送信に合わせて光軸の選択を変更し、新たに選択された光軸での受光処理を開始する。
【0010】
受光処理の期間は投光処理が行われている期間を含むように設定する必要があるため、受光器からのタイミング信号に対する投光処理の遅延時間に応じて受光期間の長さを調整する必要がある。たとえば図9の例で言えば、遅延時間がα1の場合には受光期間をT1とし、遅延時間がα2であれば受光期間をT2とする必要がある。
【0011】
しかしながら、上記したように、投光器と受光器との間に生じる信号の伝達時間は環境や使用状況に応じて変動するため、投光処理の遅延時間の予測は困難である。このため従来の多光軸センサでは、投光器と受光器との間の通信ラインについて動作を保証する最大の長さを設定し、この長さから最大の遅延時間を割り出し、タイミング信号の立ち上がりから遅延時間が最大になった場合の投光処理が終了までの範囲を受光期間とする。
【0012】
しかし、このような方法では光軸毎の処理時間が長くなるため、応答速度が遅くなるおそれがある。たとえば図9のα2が最大の遅延時間であるが、実際の遅延時間はα1であるものとすると、受光期間をT1とすればよいのにT2の長さの受光期間が設定されるため、各光軸で(T2−T1)の無駄時間が発生する。この無駄時間は光軸数に比例して増えるので、特に光軸数の多いセンサでは、応答速度が大幅に遅くなるおそれがある。
また受光期間が長くなると、外乱光の影響を受けやすくなり、誤動作が生じる確率が高まる。
【0013】
本発明は上記の問題に着目し、投光器と受光器との間の通信ラインにおける信号の伝達時間に応じて、投光処理と受光処理とのタイミングの関係を適切に調整できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、複数の発光素子を有する投光器と発光素子と同数の受光素子を有する受光器とが各素子の光軸を合わせた状態で対向配備されると共に、各機器が通信回線を介して接続され、両機器間での通信により発光素子による投光処理に応じて当該発光素子と同じ光軸にある受光素子による受光処理が開始されるように各処理のタイミングを調整して検出処理を実行する多光軸光電センサに適用される。本発明による投光器および受光器は、検出処理を実行していない状態下で両機器の間で信号をやりとりする。また投光器および受光器の少なくとも一方に、自装置が信号を送信し終えてから当該送信に対する相手方機器からの応答信号を認識するまでに要した時間を計測する計測手段と、計測された時間を用いた演算により通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する演算手段とが設けられる。さらにこの多光軸光電センサには、演算手段により算出された時間に基づき光軸毎の投光処理と受光処理とのタイミングの関係を調整する調整手段が設けられる。
【0015】
上記の構成において、検出処理が実行されていない状態下において、投光器または受光器から信号が送信されると、他方の機器は、その信号を受信したことに応じて応答信号を作成して送信する。このとき、最初に信号を送信した機器での当該信号の送信を終了してから相手方機器からの応答信号を認識するまでの時間は、相手方機器における処理時間と、自装置で応答信号の認識に要した時間と、各信号が通信ラインにより伝達されている時間(信号が往復する時間)とを加算したものにほぼ相当すると考えられる。各機器での処理の時間はほぼ一定であるので、これらの時間と計測手段により計測された時間との関係に基づく演算を実行することにより通信ラインにおける信号の伝送に要する時間を精度良く算出することができる。よって、算出された時間に基づいて各光軸における投光処理と受光処理とのタイミングを適切に調整することが可能になる。
【0016】
上記センサの第1の実施形態では、応答信号を送信する機器では、相手方機器からの信号を受信してから応答信号の送信を準備するまでに要した時間を示す情報を含む応答信号を相手方機器に返信する。また演算手段は、計測手段により計測された時間と、応答信号に含まれていた情報が示す時間と、自装置で応答信号を認識するのに要した時間とを用いた演算により、通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する。この実施形態によれば、先に信号を送信して計測および演算を行う機器において、相手方機器からの応答信号に含まれる情報から相手方機器における処理時間を取得し、この処理時間と自装置が応答信号を認識するのに要した時間とを用いて信号の伝達に要する時間を容易に算出することが可能になる。
【0017】
上記センサの第2の実施形態では、応答信号を送信する機器では、相手方機器からの信号に応答することを通知する第1の応答信号を相手方機器に送信した後に、相手方機器からの信号を受信してから第1の応答信号を送信するまでに要した時間を示す情報を含む第2の応答信号を相手方機器に送信する。また計測手段は、自装置が信号を送信し終えてから当該送信に対する相手方機器からの第1の応答信号を認識するまでに要した時間を計測し、演算手段は、計測手段により計測された時間と、第2の応答信号に含まれていた情報が示す時間と、自装置で第1の応答信号を認識するのに要した時間とを用いた演算により通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する。この実施形態によれば、計測および演算を行う機器では、自装置からの信号に対する相手方機器の処理時間を正確に求めることができ、信号の伝達に要する時間を精度良く算出することが可能になる。
【0018】
上記センサの第3の実施形態では、計測手段および演算手段を具備する機器には、通信ラインにおける信号の伝送による遅延時間が殆どない場合に自装置が信号を送信し終えてから相手方機器からの応答信号を認識するまでに要する時間が登録される。演算手段は、計測手段により計測された時間と登録されている時間との差に基づき通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する。
通信ラインにおける信号の伝送による遅延時間が殆どない場合には、先に信号を送信した機器において信号の送信が終了してから相手方機器からの応答信号を認識するまでに要する時間は、相手方機器での処理時間と自装置が応答信号の認識に要した時間との合計値にほぼ相当するものと考えられる。したがってこの時間をあらかじめ求めて登録しておき、計測手段により計測された時間と登録された時間との差を求めることによって、各機器の間の送信ラインで信号が往復した時間を割り出すことができる。
【0019】
上記センサの第4の実施形態では、投光器および受光器は、起動の都度、検出処理の開始に先立ち前記信号のやりとりを行うと共に、計測手段および演算手段ならびに調整手段がそれぞれの処理を実行する。
この実施形態によれば、各機器に電源が投入されて起動処理が行われると、検出処理が開始される前に投光処理と受光処理とのタイミングの関係が調整されるので、起動の都度安定した状態で検出処理を開始することができる。また、各機器の電源を落として配線状態を変更した場合にも、電源を入れることにより、変更後の配線状態に基づき投光処理と受光処理とのタイミングの関係が調整されるので、配線の変更にも容易に対応することが可能になる。
【0020】
第5の実施形態にかかるセンサは、演算手段により算出された時間があらかじめ登録されたしきい値を上回るときに、所定の態様による警告を出力する警告手段を具備する。投光器と受光器との間での信号の伝達に要する時間が極端に長くなり、その長い時間に基づいて投光処理と受光処理とのタイミングが調整されると、光軸毎の処理時間が長くなって応答速度に支障が生じるおそれがある。この実施形態によれば、信号の伝達に要する時間が長くなった場合に警告が出力されるので、ユーザは、通信ラインの長さなどを見直す必要があることを、容易に認識することができる。
【0021】
第6の実施形態にかかるセンサは、演算手段により算出された時間を算出時刻に対応づけた情報を記憶する記憶手段を、さらに具備する。この実施形態によれば、投光器と受光器との間の信号の伝達に要する時間が長くなって、投光処理と受光処理とのタイミングの関係が適切でなくなったためにセンサの動作に不備が生じた場合には、記憶手段に蓄積された情報によりその不備の原因を確認することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、投光器と受光器との間の通信ラインにおける信号の伝送に要する時間に基づいて投光処理および受光処理のタイミングを精度良く調整することができる。これにより光軸毎の処理を効率良く巡回させて検出処理の時間を短縮すると共に、外乱光の影響を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】多光軸光電センサの外観を示す斜視図である。
【図2】多光軸光電センサの主要な回路構成を、2つのセンサを連結した場合のセンサの関係と共に示すブロック図である。
【図3】投光処理と受光処理との調整方法の例をタイミング信号との関係を示すタイミングチャートである。
【図4】投光器と受光器との間でのコマンドの送受信の関係、および各種処理時間の関係を示す説明図である。
【図5】センサで実施される主要な処理の手順を示すフローチャートである。
【図6】信号伝達時間の算出処理を、投光器側の処理と受光器側の処理とに分けて示したフローチャートである。
【図7】投光器と受光器との間でのコマンドの送受信の関係、および各種処理時間の関係を、コマンドに遅延が生じる場合と遅延が生じない場合とで対比させて示す説明図である。
【図8】信号伝達時間の算出処理の他の例を、投光器側の処理と受光器側の処理とに分けて示したフローチャートである。
【図9】タイミング信号の遅延時間が不明な場合の投光処理と受光処理との調整方法の例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明が適用される多光軸光電センサの外観を示す。
この実施例の多光軸光電センサSは、投光器1と受光器2とを対にしたものである。投光器1および受光器2は長尺状の筐体101,102を本体とする。各筐体101,102の内部には、それぞれ複数の光学素子(投光器1では発光素子11、受光器2では受光素子21)や制御基板(図示せず。)が収容される。また、各筐体101,102の下端部からは、それぞれ接続用のコード101a,102aが引き出される。また図1には示していないが、各筐体101,102の上端部には、他のセンサからのコード101a,102aまたはこれらからの延長コードを連結するためのコネクタが設けられる。
【0025】
各筐体101,102の前面には、光を通過させるための窓部が形成されている。発光素子11および受光素子21は、投光面または受光面を窓部に対向させた状態で、筐体101,102の長手方向に沿って整列するように配置される。これらの発光素子11と受光素子21とが一対一の関係で対向するように投光器1と受光器2とを所定の間隔を隔てて対向配備することにより、両者の間に複数の光軸による検知エリアRが形成される。
【0026】
投光器1および受光器2の各コード101a,101bには通信ラインを含む複数の信号線が含まれている。これらの信号線は、各コード101a,101bに接続された延長コードにより分岐され、双方の通信ラインが接続用のコードやコネクタなどを介して連結される。その他の信号線には、図2に示す電源ラインや出力ラインのほか、図示しない設定入力用の信号線が含まれる。
【0027】
上記のセンサSは、単独で動かすこともできるが、コード101a,101bや延長コードを介して複数のセンサを連結して使用することもできる。図2は、2つのセンサS,Sを連結した例を、それぞれの投光器1,1および受光器2,2の回路構成と共に示す。なお、各センサS,Sは、それぞれ光軸数が異なる場合があるが、その他の構成は同様であるので、投光器1,1の間および受光器2,2の間に共通する構成をそれぞれ同じ符号により示す。また、以下の記載においても、各センサS,Sに共通する構成を述べる場合には、センサS,SをセンサS、投光器1,1を投光器1、受光器2,2を受光器2と総称する。
【0028】
投光器1には、発光素子11のほか、発光素子11毎の駆動回路12、光軸順次選択回路14、制御回路15、通信回路16、電源回路18などが設けられる。各発光素子11は、それぞれ駆動回路12および光軸順次選択回路14を介して制御回路15に接続される。
【0029】
受光器2には、受光素子21のほか、受光素子21毎の増幅回路22およびアナログスイッチ23、光軸順次選択回路24、制御回路25、通信回路26、出力回路27、電源回路28が設けられる。また各アナログスイッチ23から制御回路25への伝送ライン29には、増幅回路201やA/D変換回路202が設けられる。
【0030】
投光器1および受光器2の各電源回路18,28からは、外部にある共通の直流電源5から電力の供給を受けるために、2本の電源ライン18a,18bが引き出される。また各通信回路16,26からは、それぞれ2本の通信ライン16a,16bおよび26a,26bが引き出される。受光部2の出力回路27からは、検出信号を出力するために2本の出力ライン27a,27bが引き出される。
【0031】
センサSの投光器1と受光器2とは、単独で使用される場合と同様に、各通信回路16,26の通信ライン16a,16bと通信ライン26a,26bとが接続される。また投光器1および受光器2の電源回路18,28からの電源ライン18a,18b,28a,28bは外部電源5に接続される。受光器2の出力回路27からの出力ライン27a,27bは、危険領域内の機械の電源供給回路(図示せず。)に接続される。
【0032】
センサSの上方に連結されるセンサSの通信回路16,26からの通信ライン16a,16b,26a,26bは、それぞれセンサSの対応する通信ライン16a,16b,26a,26bに接続される。センサSの電源回路18,28からの電源ライン18a,18b,28a,28bも同様に、センサSの対応する電源ライン18a,18b,28a,28bに接続される。また受光器2の出力回路27からの出力ライン27a,27bは受光器2の出力回路27へと導かれて、受光器2側の出力ライン27a,27bと接続される。
その他の図示しない信号線も同様に、対応する信号線同士が接続された状態となる。
【0033】
上記のとおりセンサS,Sを構成する4つの機器1,2,1,2の間で、それぞれの機体内部の通信ラインおよび各機体を繋ぐコード内の通信ラインが一連に接続される。この一連になった通信ラインによって、センサSとセンサSとの間での通信が可能になるほか、直接接続されていないセンサSの投光器1と受光器2との間の通信も可能になる。
【0034】
上記の通信を利用して、この実施例ではセンサS,Sの順に検出処理を実行する。それぞれのセンサSの検出処理では、受光器2の制御回路25から対応する投光器1の制御回路15に、一定の間隔でタイミング信号が送信される。投光器1の制御回路15は、このタイミング信号に応じて光軸順次選択回路14の光軸の選択を順に切り替えながら、点灯制御信号を出力する。また受光器2の制御回路25も、タイミング信号の出力に応じて光軸順次選択回路24の光軸の選択を順に切り替えながら選択中の光軸に対応するアナログスイッチ23を導通状態にする。これにより点灯した発光素子11に対応する受光素子21による受光量信号が伝送ライン29に導かれ、増幅回路201による増幅およびA/D変換回路202によるディジタル変換を経て生成された受光量データが制御回路25に入力される。このようにして光軸の選択を一巡させて投光処理および受光処理を実施することにより、1サイクル分の検出処理が実行される。
【0035】
検出処理において、受光器2の制御回路25は、入力された受光量データをあらかじめ定めた入光しきい値と比較することにより、選択中の光軸が遮光されているか否かを判定する。また、光軸の選択が一巡する都度、光軸毎の判定結果を統合して、検知エリアRが遮光されているか否かを判定し、遮光されていると判断した場合には出力回路27からの出力をオフ状態に設定する。各受光器2,2の出力ライン27a,27bは、受光器2の出力回路27内で直列に接続されており、受光器2,2のいずれか一方からの出力がオフ状態になると、危険領域内の機械への電源の供給が停止する。
【0036】
図3は、上記のセンサSの一光軸における投光処理と受光処理とタイミング信号との関係を示す。
受光器2から出力されたタイミング信号は、通信ラインを介して投光器1へと伝達されるため、その伝達に要した時間だけ遅れて投光器1に到着する。さらにこのタイミング信号の到着より少し遅れて投光処理が開始される。そこでこの実施例では、受光器2においても、タイミング信号を送信した後に、投光器1におけるタイミング信号の到着の遅れに応じた遅延時間αをおいて受光処理を開始し、投光処理の終了に応じて受光処理を終了するようにしている。このような制御によれば、受光期間が無駄に長くなるのを防止でき、検出処理のサイクルを短縮することができる。また外乱光による影響を受ける可能性を削減することもできる。なお、上記の遅延時間αは、タイミング信号の伝達にかかる時間に完全に一致させる必要はなく、両者の間に若干の時間差があってもよい。
【0037】
図2の構成によれば、センサSの投光器1と受光器2との間の通信ラインは、センサSの投光器1と受光器2との間の通信ラインより長くなる。したがって、センサSでのタイミング信号の伝達に要する時間は、センサSで必要な時間より長くなる。
【0038】
また、センサSAの投光器1と受光器2との間の通信ラインの長さは、両者を繋ぐ延長コードの長さによって変動する。センサSの投光器1と受光器2との間の通信ラインの長さは、センサSAの投光器1と受光器2との間のコードの長さのほか、センサSの光軸数によっても変動する。
このようにセンサSの配置や使用状況などによって投光器1と受光器2との間の通信ラインの長さが異なると、信号伝達時間もそれぞれ異なるものとなる。したがって図3の制御を実現するには、それぞれのセンサS,S毎に、投光器1と受光器2との間で実際に信号の伝達にかかる時間を割り出し、これに基づいてタイミング信号に対する受光処理の遅延時間αを調整する必要がある。
【0039】
上記の問題に鑑み、この実施例のセンサSでは、検出処理に先立ち、投光器1と受光器2との間でコマンド信号をやりとりしてその送受信に要した時間を計測し、計測された時間を用いた演算により、投光器1と受光器2との間の通信ラインにおける信号の伝達時間を導出するようにしている。
【0040】
図4は、投光器1と受光器2との間でやりとりされるコマンドの送信および受信のタイミングを模式的に示したものである。図中の左手の網点パターンを付した矩形は受光器2から送信されるコマンドPであり、右手の斜線パターンを付した矩形は投光器1がコマンドPに応じて送信した応答用のコマンドQである。ここで1つの矩形が1バイトの信号を示すものとすると、図示例の各コマンドP,Qは4バイト構成の信号となる。ただし、コマンドP,Qのデータ長はこれに限らず、任意の長さに設定することができる。
【0041】
図4において、aは受光器1がコマンドPを送信し終えた時点であり、bは投光器1がコマンドPを受信し終えた時点である。投光器1では、コマンドPを受信したことに応じて応答用のコマンドQを作成して送信するが、その送信までにある程度の時間が必要となる。図4では、この処理時間をTyとし、投光器2がコマンドQの送信を開始した時点をcとする。また受光器2がコマンドQの受信を開始した時点をdとし、受光器2の制御回路25がコマンドQの受信の開始を認識した時点をeとし、d点からe点までの時間をTaとする。
【0042】
a点とb点との間、およびc点とd点との間には、それぞれ通信ラインによる信号の伝達に起因したずれが生じる。検出処理においてタイミング信号を伝達する場合にも、送信の時点と受信の時点との間には同じ程度のずれが生じると考えられる。よってa−b間およびc−d間の時間をTxとすると、このTxに基づいて図3に示した遅延時間αを設定できると考えられる。
【0043】
また、図4によれば、受光器2がコマンドPの送信を終了した時点(a点)から受光器2がコマンドQの受信を認識した時点(e点)までの時間Tは、
T=Ty+Ta+2*Tx となる。
【0044】
上記の考察に基づき、この実施例では、受光器2の制御回路25において、コマンドPの送信が終了した時点(a点)からコマンドQの受信を認識した時点(e点)までの所用時間Tを計測し、計測された時間Tと、時間Ty,Taとを用いて、信号伝達時間Txを算出するようにしている。この演算を実施するには、時間TyとTaが判明している必要があるが、Taは受光器2の通信回路26から制御回路25までの信号線の長さや制御回路25の応答速度などに基づく固定時間であり、あらかじめ求めて制御回路25のメモリに登録しておくことができる。
【0045】
また投光器1側の処理時間Tyに関しては、投光器1で計測することができる。そこでこの実施例では、投光器1に、コマンドPの受信が完了してからコマンドQを送信できる状態になるまでの時間を計測させ、この時間をTyとして、コマンドQに含めて送信させるようにしている。受光器2は受信したコマンドQから時間Tyを取得して上記の演算を実施し、信号伝達時間Txを算出する。
【0046】
図5は、センサSで実施される一連の処理手順の中で上記の信号伝達時間の算出処理がいつ実施されるかを示す。センサSでは、電源の投入に応じて動作モードなどを設定する初期設定処理(ステップST1)を実施した後に、動作クロックを立ち上げ直したり、作業メモリをクリアするなどの起動処理(ステップST2)を実施する。
【0047】
ステップST1,ST2が終了すると、ステップST3において、図4に示した原理に基づき信号の伝達時間を算出する処理が実施される。この処理が終了すると、検出処理(ステップST4)に移行する。検出処理では、ステップST3で求めた信号伝達時間Txを用いて光軸毎に図3に示した制御を実施して、各光軸の投光処理および受光処理を順に実行する。なお、図2の構成では、一方のセンサSにおける1サイクル分の検出処理が終了すると、他方のセンサSに連絡し、このセンサSでの1サイクル分の検出処理が終了するまで待機してから再び自装置での検出処理を実行する。センサS,Sは、それぞれ、図3に示した制御により検出処理のサイクルを短縮しているので、応答速度も速められ、検出性能を向上することができる。
【0048】
図6は、ステップST3の詳細な処理を、受光器2での処理と投光器1での処理とに分けて示す。以下、各ステップの符号を参照しながら、各機器1,2における詳細な処理を説明する。なお、この説明では省略するが、各処理を実行する主体はそれぞれの制御回路25,15である。
【0049】
まず受光器2および投光器1は、自装置のタイマをリセットする(ST21,ST11)。つぎに受光器2では、あらかじめ登録されたフォーマットに従い、コマンドPを作成し(ST22)、このコマンドPを投光器1に送信する(ST23)。コマンドPの送信が終了すると、受光器2は、その送信終了時刻をメモリに保存する(ST24)。その後は、投光器1からのコマンドQが返送されるまで待機する(ST25)。
【0050】
一方、投光器1はコマンドPを受信すると、その内容を解読しながら受信の終了を待ち(受信終了によりST12が「YES」となる。)、終了時刻をメモリに保存する(ST13)。ついで、投光器1は、応答用のコマンドQを作成する(ST14)。この処理が終了すると、投光器1はその時点の時刻とステップST13でメモリに保存した受信終了時刻とを用いて処理時間Tyを算出し、このTyを含めたコマンドQを送信する(ST14)。
【0051】
受光器1では、コマンドQの受信が開始されたことを認識すると(ST25が「YES」)、そのときの時刻とステップST24で保存した送信終了時刻とを用いて、コマンドPの送信が終了した時点(図4のa点)からコマンドQの受信開始を認識した時点(図4のe点)までの経過時間Tを算出する(ST26)。さらに、受信したコマンドQから時間Tyを抽出し(ST27)、自装置でのコマンドの認識に要する時間Taをメモリから読み出す(ST28)。
この後、各時間T,Ty,Taを用いて演算式:Tx=(T−Ty−Ta)/2を実行することにより、信号伝達時間Txを算出する(ST29)。
【0052】
なお、上記の処理では、投光器1からコマンドQを送信する際に当該コマンドQに処理時間Tyを含めて送信したが、これに代えて、まずコマンドPに対する応答であることのみを示す第1のコマンドを送信し、次にコマンドPの受信を終えてから第1のコマンドを送信するまでにかかった時間を処理時間Tyとして、このTyを含む第2のコマンドを送信してもよい。このようにすれば、処理時間Tyの精度がより一層高められ、信号伝達時間Txの値の精度も向上する。
【0053】
また、投光器1から処理時間Tyを通知しなくとも、信号伝達時間Txを求めることができる方法もある。以下、この方法が適用された実施例を説明する。
【0054】
図7は、上記のコマンドP,Qの伝達に遅延が生じた場合(図4に示したものと同じ)と、各コマンドP,Qが殆ど遅延なく伝達された場合とを対比させて示している。
図7の下段に示すように、コマンドが遅延なく伝達された場合には、受光器2がコマンドPの送信を終了した時点(a点)から投光器1からのコマンドQの受信を確認する時点(e点)までの所用時間は、コマンドQの確認に要した時間Taと投光器1での処理時間Tyとを加算した時間になると考えられる。
よって、Ta+Ty=Ttypとすると、TとTtypとの関係は、
T−Ttyp=2*Txとなる。
【0055】
この実施例では、信号の伝達の遅延を殆ど考慮する必要のない長さの通信ラインを介して接続された投光器1と受光器2との間でコマンドP,Qの送受信を行い、受光器2に、コマンドPの送信を終了してからコマンドQの受信を確認するまでの時間を計測させることにより、上記の時間Ttypを取得する。そして、この時間Ttypを基準時間として受光器2のメモリに登録し、図8に示す手順で信号伝達時間を算出する。
【0056】
以下、図8を参照して、この実施例による信号伝達時間の算出処理を具体的に説明する。
この実施例では、受光器2のみがタイマをリセットする(ST201)。タイマをリセットした受光器2は、コマンドPを作成して送信し(ST202,203)、その送信終了時刻をメモリに保存する(ST204)。ここまでの処理は、先の図6のST21〜ST24の処理と同様である。
【0057】
投光器1では、コマンドPを受信したことに応じて応答用のコマンドQを作成し(ST101,102)、このコマンドQを送信する(ST103)。この実施例では、受信の終了時刻を保存する処理を行う必要はなく、コマンドQにもコマンドPへの応答であることを示すデータのみが含まれる。
【0058】
受光器2は、コマンドQの受信が開始されたことを認識すると(ST205が「YES」)、その時点の時刻とステップST204でメモリに保存した送信終了時刻とを用いて時間Tを算出する(ST206)。つぎに、メモリから基準時間Ttypを読み出し(ST207)、時間T,Ttypを用いて、演算式:Tx=(T−Ttyp)/2を実行することにより信号伝達時間Txを算出する(ST208)。
【0059】
上記図6や図8に示した実施例では、受光器2から投光器1にコマンドPを送信する処理と、投光器1から受光器2に応答用のコマンドQを送信する処理とを実施した後に、受光器2において、コマンドPの送信を終了した時点からコマンドQの受信を確認するまでの時間を計測し、計測された時間を用いた演算処理により信号伝達時間Txを算出する。このようにすれば、投光器1と受光器2との間の通信ラインの長さが不明であっても、信号伝達時間を精度良く求めることができる。また図2に示したように複数のセンサSが連結されて使用される場合にも、センサS毎にそのセンサSにおける信号伝達時間を求めることができる。よって、いずれのセンサSでも、算出された信号伝達時間に基づき、受光期間を適切な範囲に定めて検出処理を実施することが可能になる。
【0060】
なお、信号伝達時間を算出する処理は、図5に示したようにセンサSの起動に応じて実施するのが望ましいが、さらに、検出処理において、検出エリアRが入光状態であるという判定結果または遮光されているという判定結果が、あらかじめ定められた時間を超えて継続した場合にも、信号伝達時間を算出して、算出された時間に基づき受光処理のタイミング(遅延時間α)を補正してもよい。このようにすれば、コード線の発熱などの影響で通信ラインの抵抗が変動して信号伝達時間に変化が生じた場合にも、その変化に対応して受光期間を調整することが可能になる。
【0061】
また、検知エリアRが遮光されて出力がオフ状態になった後に入光状態に復帰した場合や、動作の異常が検出されて出力がオフ状態になった後に異常が取り除かれた場合にも、通常の検出処理に復帰する前に信号伝達時間を算出し、その結果に基づき受光処理のタイミングを再調整してもよい。
【0062】
また多光軸光電センサSでは、一般に、1サイクル分の検出処理が終了する都度、各光軸の検出結果に基づき出力のオン/オフを決定するので、応答速度を確保するには、光軸毎の処理時間がある程度の範囲内に収まるようにするのが望ましい。この問題に対する対応策としては、たとえば、あらかじめ通信ラインの許容できる最大の長さから求めた信号伝達時間を上限値として登録しておき、図6や図8の処理において、上限値を上回る信号伝達時間が算出された場合に警告を出力する方法が考えられる。または上限値を上回る信号伝達時間が算出された場合には、出力回路27からの出力がオフ状態で維持されるようにしてもよい。また、誤動作が生じたときの原因を容易に確認できるように、信号伝達時間が算出される都度、算出された時間を算出時刻に対応づけてメモリに蓄積してもよい。
【0063】
また、図6,図8に示した例では、いずれも受光器2が主導で信号伝達時間を算出したが、さらに受光器側の処理と投光器側の処理とを入れ替えて実行することにより、投光器1でも信号伝達時間を算出し、受光器2の算出結果と整合することを確認してから検出処理に移行するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0064】
S(S,S) 多光軸光電センサ
1(1,1) 投光器
2(2,2) 受光器
15,25 制御回路
16,26 通信回路
16a,16b,26a,26b 通信ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の発光素子を有する投光器と発光素子と同数の受光素子を有する受光器とが各素子の光軸を合わせた状態で対向配備されると共に、各機器が通信回線を介して接続され、両機器間での通信により発光素子による投光処理に応じて当該発光素子と同じ光軸にある受光素子による受光処理が開始されるように各処理のタイミングを調整して検出処理を実行する多光軸光電センサにおいて、
前記投光器および受光器は、前記検出処理を実行していない状態下で両機器の間で信号をやりとりすると共に、少なくとも一方の機器に、自装置が前記信号を送信し終えてから当該送信に対する相手方機器からの応答信号を認識するまでに要した時間を計測する計測手段と、計測された時間を用いた演算により前記通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する演算手段とが設けられ、
前記演算手段により算出された時間に基づき光軸毎の投光処理と受光処理とのタイミングの関係を調整する調整手段を、さらに具備する、多光軸光電センサ。
【請求項2】
前記応答信号を送信する機器では、相手方機器からの信号を受信してから応答信号の送信を準備するまでに要した時間を示す情報を含む応答信号を相手方機器に送信し、
前記演算手段は、計測手段により計測された時間と、前記応答信号に含まれていた情報が示す時間と、前記自装置で応答信号を認識するのに要した時間とを用いた演算により、前記通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する、
請求項1に記載された多光軸光電センサ。
【請求項3】
前記応答信号を送信する機器では、相手方機器からの信号に応答することを通知する第1の応答信号を相手方機器に送信した後に、相手方機器からの信号を受信してから前記第1の応答信号を送信するまでに要した時間を示す情報を含む第2の応答信号を相手方機器に送信し、
前記計測手段は、自装置が前記信号を送信し終えてから当該送信に対する相手方機器からの第1の応答信号を認識するまでに要した時間を計測し、
前記演算手段は、計測手段により計測された時間と、前記第2の応答信号に含まれていた情報が示す時間と、前記自装置で第1の応答信号を認識するのに要した時間とを用いた演算により、前記通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する、
請求項1に記載された多光軸光電センサ。
【請求項4】
前記計測手段および演算手段を具備する機器には、相手方機器との間での信号の伝送による遅れが殆どない場合に自装置が前記信号を送信し終えてから相手方機器からの応答信号を認識するまでに要する時間が登録されており、前記演算手段は、計測手段により計測された時間と前記登録されている時間との差に基づき前記通信ラインにおける信号の伝達に要する時間を算出する、請求項1に記載された多光軸光電センサ。
【請求項5】
前記投光器および受光器は、起動の都度、検出処理の開始に先立ち前記信号のやりとりを行うと共に、前記計測手段および演算手段ならびに調整手段がそれぞれの処理を実行する、請求項1に記載された多光軸光電センサ。
【請求項6】
前記演算手段により算出された時間があらかじめ登録されたしきい値を上回るときに、所定の態様による警告を出力する警告手段を、さらに具備する請求項1に記載された多光軸光電センサ。
【請求項7】
前記演算手段により算出された時間を算出時刻に対応づけた情報を蓄積する記憶手段をさらに具備する請求項1に記載された多光軸光電センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−191581(P2012−191581A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55625(P2011−55625)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】