説明

多分岐高分子の製造方法

【課題】ハイパーブランチポリマーの構造の対称性が良好で、分岐末端の修飾が容易で、分岐度が高く、しかも狭分散の多分岐高分子の製造方法の提供。
【解決手段】式(VI)


(式中、R〜R10は水素原子等、Xは3価以上の連結基、Yは活性ハロゲン原子を有することのできる官能基、a1は2以上の整数、R11は塩素原子等を表す。)で表される化合物を、金属触媒を用いたリビングラジカル重合法を用いて重合させる、式(I)で表される繰り返し単位を有する多分岐高分子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多分岐高分子およびハイパーブランチポリマーに関し、より詳細には、分岐末端の修飾が容易で、分岐度が高く、しかも分散度が低い(狭分散)新規な多分岐高分子およびハイパーブランチポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイパーブランチポリマーは、デンドリマーに構造が類似した高分子である。この高分子は、デンドリマーに類似の化学的特性および物理的特性を有するにもかかわらず、デンドリマーに比して簡便に合成することができることから、近年注目されている。
従来、ハイパーブランチポリマーとしては、ポリスチレン構造を有するハイパーブランチポリマーについていくつかの報告例があり、モノマーに反応開始点を持たせることで目的とする多分岐高分子を合成できることが知られている
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Macromolecules,,1079(1996)、J.Polym.Sci.,PartA:Polym.Chem.,,955(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの文献に記載されたハイパーブランチポリマーは、分子量や分散度を制御することが必ずしも容易ではなく、特に分岐度を高くした場合には、分散度の大きいポリマーしか得られていなかった。
したがって、分岐の割合、分子量、形状などを制御することにより、優れた物理的特性を有するハイパーブランチポリマーの開発が求められていた。
また、ATRP法(原子移動ラジカル重合法)を用いたハイパーブランチポリアクリレートの合成法の報告例があり、AB型アクリルモノマーのリビングラジカル重合が例示されている(Macromolecules,30,5192(1997)を参照)。AB*型アクリルモノマーを重合開始点としたハイパーブランチポリマーを提供しているが、得られたハイパーブランチポリマーの構造に対称性がなく、いわゆるスターポリマー特性を有するものではない。AB2型アクリルモノマーに関する知見は開示されていない。
本発明はかかる従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、ハイパーブランチポリマーの構造の対称性が良好で、分岐末端の修飾が容易で、分岐度が高く、しかも狭分散の多分岐高分子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、2以上の重合開始点と重合性不飽和結合とを有する化合物を、金属触媒を用いたリビングラジカル重合法を用いて重合することにより、分岐末端の修飾が容易で、分岐度が高く、かつ狭分散の多分岐高分子を容易に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)
式(VI)
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を表し、RとR10は、結合して環を形成してもよく、Xは3価以上の連結基を表す。Yは活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、a1は2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。R11は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)で表される化合物を、金属触媒を用いたリビングラジカル重合法を用いて重合させることを特徴とする、式(I)
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を表し、RとRは、結合して環を形成してもよく、Xは3価以上の連結基を表す。Yは活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、aは2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有する多分岐高分子の製造方法。
(2)
式(VI)中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとR10は、結合して環を形成してもよく、X
【0010】
【化3A】

【0011】
【化3B】

【0012】
【化3C】

【0013】
を表し、Yは活性ハロゲン原子を有することのできる下記の官能基を表し、
【0014】
【化4】

【0015】
ただしXが芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である場合には、
【0016】
【化5】

【0017】
を表し、a1は2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよく、R11は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表すものである請求項1に記載の多分岐高分子の製造方法。
(3)
前記式(VI)で表される化合物が、式(IX)
【0018】
【化6】

【0019】
(式中、R〜R10、Y、及びa1は前記と同じ意味を表し、V11は、
【0020】
【化7A】

【0021】
【化7B】

【0022】
【化7C】

【0023】
を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多分岐高分子の製造方法。
(4)
前記式(VI)で表される繰り返し単位が、式(IX‘)
【0024】
【化8】

【0025】
(式中、R〜R10、Y、及びa1は前記と同じ意味を表し、V11‘は、
【0026】
【化9】

【0027】
であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多分岐高分子の製造方法。
(5)
前記式(IX)又は(IX‘)中、Yが、式(X)
【0028】
【化10】

【0029】
(式中、R610、及びR710は、それぞれ独立に、水素原子、活性ハロゲン原子を有することができるメチル基、エチル基、または、他の繰り返し単位との結合手を表す。但し、R610、R710が、同時に他の繰り返し単位の結合手となることはない。)で表される官能基であることを特徴とする請求項3または4に記載の多分岐高分子の製造方法。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、実施例1で得られた多分岐高分子1の2wt%テトラヒドロフラン溶液中の粒子径を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
1)多分岐高分子
(1)多分岐高分子
本発明の多分岐高分子は、前記式(I)で表される繰り返し単位を有することを特徴とする。
前記式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を表す。炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基などのアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基;等が挙げられる。炭化水素基の炭素数は特に制限されないが、1〜10であるのが好ましい。
また、RとRは、結合して環を形成してもよい。
Xは3価以上の連結基を表し、結合手を3以上有する官能基であれば、特に制限されない。具体的には以下に示す官能基が例示される。
【0032】
【化11A】

【0033】
【化11B】

【0034】
【化11C】

【0035】
(式中、・は、Rが結合する炭素原子に結合する末端を表す。その他特に記載のないものについての結合位置は、限定されるものではない。)
Yは、活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表す。aは2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。
ここで、「活性ハロゲン原子を有することのできる官能基」とは、構成する炭素原子にハロゲン原子が結合した場合に、そのハロゲン原子が活性ハロゲン原子となるような構造を有する官能基という意味である。具体的には、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、ニトリル基、ニトロ基等の電子吸引基等のα位にハロゲン原子を有することのできる官能基を例示することができる。
Yに結合するハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられ、塩素原子、臭素原子が好ましい。
Yの具体例としては、以下の官能基が挙げられる。
【0036】
【化12】

【0037】
また、Xが芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である場合には、Yとしては、下記に示す官能基が例示される。
【0038】
【化13】

【0039】
本発明において、前記式(I)で表される繰り返し単位は、前記式(II)で表される繰り返し単位であるのが好ましい。
式(II)中、R〜Rは前記と同じ意味を表し、Zは、単結合または2価以上の連結基を表す。
2価以上の連結基としては、結合手を2以上有する官能基であれば特に限定されないが、例えば、下記に示す連結基が例示される。
【0040】
【化14】

【0041】
前記式(II)において、Aは芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、アントラニル基などが挙げられる。また、芳香族複素環基としては、ピリジン、ピロール、フラン、チオフェン、オキサゾール、イソオキサゾール、イミダゾール、ピラゾール、チアゾール、イソチアゾール、インドール、ベンゾイミダゾールなどの芳香族複素環の基が挙げられる。
は、末端に活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表す。bは2以上の整数を表し、R同士は同一であっても相異なっていてもよい。
の具体例としては、Yで例示したものと同様のものが挙げられる。
はハロゲン原子または有機基を表し、dは0または1以上の整数を表す。dが2以上の場合、R同士は同一であっても相異なっていてもよく、また、R同士は相互に結合して環を形成してもよい。
の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基などの炭化水素基;メトキシ基、エトキシ基などのアルコキシ基;などが挙げられる。
本発明において、前記式(II)で表される繰り返し単位は、式(II)中、Zが単結合であり、Aが芳香族炭化水素基であり、Rが、前記式(III)で表される官能基である繰り返し単位であるのがより好ましい。
式(III)において、R、Rは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または他の繰り返し単位との結合手を表す。ただし、R、Rが、同時に他の繰り返し単位との結合手となることはない。
、Rのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが挙げられる。置換基を有していてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、ベンジル基、トリフルオロメチル基などが挙げられる。前記置換基を有していてもよいアルキル基の炭素数(アルキル基部分)は特に制限されないが、1〜6であるのが好ましい。
また、他の繰り返し単位の結合手となる場合とは、R、Rが結合している炭素を基点として、さらにポリマー鎖が伸長することをいい、例えば、−CHClなどのハライド化合物を用いて重合を行なった場合を示す。
また、本発明において、前記式(I)で表される繰り返し単位は、前記式(IV)で表される繰り返し単位であるのが好ましい。
前記式(IV)中、R〜Rは前記と同じ意味を表し、Vは、3価以上の連結基を表し、結合手を3以上有する官能基であれば、特に制限されない。具体的には前記Xと同じ官能基が例示され、特にアルキレンポリオキシ基を好ましく例示することができる。
アルキレンポリオキシ基として具体的には、下記に示す連結基が例示される。
【0042】
【化15】

【0043】
前記式(IV)中、Yは前記と同じ意味を表し、Yは前記式(V)で表される繰り返し単位であるのが好ましい。
前記式(V)中、R61、及びR71は前記R、及びRと同じ意味を表し、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよいアルキル基、または、他の繰り返し単位との結合手を表す官能基であれば、特に制限されない。但し、R61、R71が、同時に他の繰り返し単位の結合手となることはない。具体的には前記と同じ官能基が例示される。
前記式(I)として、具体的には、下記式に示すものが挙げられる。
【0044】
【化16】

【0045】
【化17】

【0046】
本発明の多分岐高分子は、分岐度が高いにも係わらず、分散度が低く(狭分散)、しかも分岐末端に修飾が容易であることから、従来にない特性を有する。
本発明の多分岐高分子の数平均分子量(Mn)は特に限定されないが、200〜20,000,000の範囲が好ましい。
本発明の多分岐高分子の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に制限されないが、1.01〜9.99の範囲が好ましく、1.01〜5.50の範囲がより好ましく、1.01〜2.50の範囲が特に好ましい。
本発明の多分岐高分子はハイパーブランチポリマーであるのが好ましい。ハイパーブランチポリマーは、デンドリマーなどの樹状ポリマーと同様に、分岐の上に分岐を有し、線状および完全に分岐した繰り返し単位の混合物を含む高分子である。
本発明の多分岐高分子は、分子末端部に残存する活性ハロゲン原子を反応させることにより修飾することができる。例えば、酢酸塩と反応させることでアセチル化することができる。
【0047】
(2)多分岐高分子の製造
本発明の多分岐高分子の製造方法としては、前記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子が得られる方法であれば特に制約されないが、前記式(VI)で表される化合物をモノマーとして用いるリビングラジカル重合法を好ましく例示することができる。この方法によれば、構造が制御された本発明の多分岐高分子を、簡便かつ効率よく製造することができる。
式(VI)中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を表し、RとR10は、結合して環を形成してもよい。R〜R10の具体例としては、前記R〜Rの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
は3価以上の連結基を表し、その具体例としては、前記Xの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
は、末端に活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、その具体例としては、前記Yの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
a1は2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。
11は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
本発明においては、前記式(VI)で表される化合物として、前記式(VII)、(IX)で表される化合物の使用が好ましい。
【0048】
式(VII)中、Zは単結合または2価以上の連結基を表し、その具体例としては、前記Zの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
A1は芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表し、その具体例としては、前記Aの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
24は末端に活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、b1は2以上の整数を表し、R24同士は同一であっても相異なっていてもよい。R24の具体例としては、前記Rの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
25はハロゲン原子または有機基を表し、d1は0または1以上の整数を表し、d1が2以上の場合、R25同士は同一であっても相異なっていてもよい。R25の具体例としては、前記Rの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
26は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
本発明においては、前記式(VII)で表される化合物の中でも、Zが単結合であり、A1が芳香族炭化水素基であり、R24が前記式(VIII)で表される官能基である化合物を用いるのがより好ましい。
【0049】
式(VIII)中、R60、R70は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または置換基を有していてもよいC1〜C6アルキル基を表す。ただし、R60、R70が、同時にフッ素原子以外のハロゲン原子となることはない。R60、R70の具体例としては、前記R、Rの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
式(IX)中、V11は、前記Vと同じ3価以上の連結基を表し、その具体例としては、前記Xの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
〜R10は、それぞれ前記と同じ意味を表し、Yは活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、R〜R10の具体例としては、前記R〜Rの具体例として列記したものと同様のものが挙げられ、Yの具体例としては、前記Yの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
a1は2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。
11は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
式(X)中、R610、R710は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子または置換基を有していてもよいC1〜C6アルキル基を表す。ただし、R610、R710が、同時にフッ素原子以外のハロゲン原子となることはない。R610、R710の具体例としては、前記R、Rの具体例として列記したものと同様のものが挙げられる。
前記式(VI)で表される化合物の具体例としては、下記に示すものが挙げられる。下記式中、R261〜R264は、それぞれ独立して塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表す。
【0050】
【化18】

【0051】
前記式式(IX)で表される化合物の具体例としては、下記に示すものが挙げられる。下記式中、R265〜R268は、それぞれ独立して塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子を表す。
【0052】
【化19】

【0053】
リビングラジカル重合法に用いられる触媒として公知の金属錯体を例示することができる。中でも一価の銅錯体、二価の鉄錯体、二価のルテニウム錯体、テルル錯体が好ましく、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、酢酸第一銅、過塩素酸第一銅などの一価の銅錯体;(1−エトキシカルボニル−1−メチルエチル)メチルテルル、(1−シアノ−1−メチルエチル)メチルテルル、α−メチルベンジルメチルテルル、ベンジルメチルテルル、メチルベンゾイルテルルなどのテルル錯体をより好ましく例示することができる。
銅化合物を用いる場合には、触媒活性を高める配位子として、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、アルキルアミン(トリブチルアミンなど)、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルエチレンジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミンなど)などを添加することができる。
用いる触媒の量は、求める多分岐高分子の分子量により適宜選択することができるが、使用するモノマーに対して1〜50モル%の範囲が好ましく、5〜45モル%、さらに20〜40モル%の範囲が好ましい。
リビングラジカル重合法においては、さらに、遷移金属錯体に作用することにより、ラジカル重合を促進させる活性化剤として、公知のルイス酸および/またはアミン類を使用することができる。
【0054】
重合方法は特に制限されず、慣用の方法、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、または乳化重合などが採用できるが、溶液重合が特に好ましい。
溶液重合を行う場合、溶媒としては特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素類;n−ヘキサン、n−オクタンなどの脂肪族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;メタノール、エタノールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなど多価アルコール誘導体類;などが使用できる。
このような溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を混合して使用できる。
前記式(VI)で表される化合物をリビングラジカル重合法にて重合することにより、本発明の多分岐高分子を製造することができる。前記式(VI)で表される化合物をリビングラジカル重合する方法としては、具体的には、下記の(a)〜(d)の方法が挙げられる。
【0055】
(a)式(VI)で表される化合物の単独重合体からなる多分岐高分子を製造する方法、
(b)式(VI)で表される化合物と別の重合性不飽和単量体を反応系に同時に添加してランダム共重合体からなる多分岐高分子を製造する方法、
(c)式(VI)で表される化合物と別の重合性不飽和単量体を反応系に逐次的に添加してランダ厶共重合体からなる多分岐高分子を製造する方法、
(d)式(VI)で表される化合物と別の重合性不飽和単量体を反応系に逐次的に添加してグラジェント共重合体からなる多分岐高分子を製造する方法。
重合は、通常、真空または窒素、アルゴンなどの不活性ガスの雰囲気下、温度0〜200℃、好ましくは40〜150℃、さらに好ましくは80〜120℃、常圧または加圧下において行うことができる。
重合反応過程の追跡および反応終了の確認は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、膜浸透圧法、NMRなどにより容易に行うことができる。
共重合反応終了後は、カラム精製、または、例えば水や貧溶媒中に投入して析出したポリマー分を濾過、乾燥させるなど、通常の分離精製方法を適用することにより共重合体を得ることができる。
【0056】
本発明の多分岐高分子の分子量は特に制限されないが、数平均分子量(Mn)が、200〜20,000,000の範囲が好ましく、さらに1,000〜20,000,000の範囲、5,000〜150,000の範囲を好ましく例示することができる。
重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、特に制限されないが、1.01〜9.99の範囲が好ましく、1.01〜5.50の範囲、さらに1.01〜2.50の範囲を好ましく例示することができる。
なお数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)は、多角度光散乱検出法(以下MALS法と略す)を用いて測定した値を採用した。
また、さまざまな形状、または性状を有する多分岐高分子のうち本発明の方法を用いることで、従来分子量制御が困難であると考えられていたハイパーブランチポリマーを分子量制御して製造することができるようになった。すなわち、従来にない性状のハイパーブランチポリマーを製造することが可能になった。
さらに本発明の多分岐高分子は、その末端に他の官能基へ変換可能な官能基を有することができることを特徴とするこの末端の官能基を利用して、さらにポリマー鎖を伸長することも可能である。
【0057】
2)スターポリマー
本発明のスターポリマーは、本発明の多分岐高分子をコアとすることを特徴とする。
本発明の多分岐高分子を用いたスターポリマーは、分岐度の異なるポリマーを自由に選択してコアに用いられ、必要に応じてアーム数を変えられることを特徴とする。
本発明のスターポリマーの製造方法として、具体的には、
(1)本発明の多分岐高分子の末端官能基を利用し、リビングラジカル重合法を用いてアームとしてポリマー鎖を伸長する方法
(2)本発明の多分岐高分子の末端の官能基を利用し、あらかじめ調整した多分岐高分子の末端官能基と反応しうる末端を有するポリマー鎖を反応させる方法等を例示することができ、特に(1)に示す方法を用いた場合には、多分岐高分子の末端よりポリマー鎖が徐々に伸長するため、末端官能基を有効に利用することができ、さらに、アームポリマー鎖の分子量を揃えることができので好ましい。
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
(合成例)
(1)3,5−ビス(クロロメチル)スチレン(BCMS)の合成
200mlの反応容器に、3,5−ビス(メトキシメチル)ブロムベンゼン13.4g(54.7mmol)、マグネシウム3.25g(134mmol)およびテトラヒドロフラン(以下「THF」と略す)60mlからグリニャール溶液を調製した。次いで、この溶液にジメチルホルムアミド(DMF)30ml(387mmol)を0℃で滴下し、滴下終了後、室温で3時間さらに攪拌した。得られた反応液から溶媒を減圧除去し、2N−塩酸を加えた。得られた反応混合物をジエチルエーテル50mlで3回抽出し、有機層を集め、水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去して得られる残留物をシリカゲルのカラムクロマトグラフィにより精製して、目的とする3,5−ビス(メトキシメチル)ベンズアルデヒド8.36g(43.0mmol)を粘凋液体として得た。収率79%
【0059】
次に、3,5−ビス(メトキシメチル)ベンズアルデヒド8.36g(43.0mmol)のTHF30ml溶液を、メチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイド18.5g(51.7mmol)とカリウムターシャリーブトキサイド7.24g(64.5mmol)のTHF40ml溶液に0℃で滴下した。反応液を0℃、3時間攪拌後、水30mlを加えて、残存するカリウムターシャリーブトキサイドを失活させた。有機層を分取し、水層をエーテル50mlで3回抽出した、有機層を集め、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒を除去して得られる残留物にn−ヘキサン80mlを加えて、過剰のメチルトリフェニルフォスフォニウムブロマイドとトリフェニルフォスフィンオキサイドを沈澱させた。不溶物を濾別した後、濾液の濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィにて精製して、目的とする3,5−ビス(メトキシメチル)スチレン5.52g(28.7mmol)を無色の油状として得た。収率67%
【0060】
引き続き、200mlの反応容器に、四塩化炭素30mlに3,5−ビス(メトキシメチル)スチレン2.76g(14.4mmol)を溶解し、三塩化ホウ素1.0Mの塩化メチレン溶液40mlを0℃で滴下し、0℃で12時間さらに攪拌した。反応液にメタノールを加えて過剰の三塩化ホウ素を処理した後、このものを5%NaOH溶液150ml(100gの氷を加えた)に注いだ。有機層を分取し、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。溶媒を除去して得られる残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製して、目的とする3,5−ビス(クロロメチル)スチレン1.57g(7.81mmol)を透明液体として得た。収率54%
【0061】
(2)2,3−ビス(2−ブロモ−2−メチル−プロパノイルオキシ−プロピル−2−メチル−プロペネート)の合成
【0062】
【化20】

【0063】
500mlの反応容器に、メタクリル酸グリシジル7.8g(55mmol)、2−ブロモイソ酪酸18.3g(110mmol)を仕込み、トリエチルアミン16.3g(161.4mmol)を滴下した。70℃で5時間攪拌した。溶液を冷却してクロロホルムに溶解後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した。この抽出溶液を濃縮して、H−NMRで化合物の生成を確認した。
次に、この抽出溶液にピリジン5.94g(75mmol)を加え、0℃に冷却下に2−ブロモイソ酪酸ブロマイド13.8g(60mmol)を加え、室温で終夜攪拌した。反応液を水洗、クロロホルム抽出し、硫酸マグネシウ厶で乾燥後、濃縮した溶液をシリカゲルカラム(ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で生成した。無色透明粘性化合物22.4g(収率89%:メタクリル酸グリシジル仕込み換算)を得た。
【0064】
[実施例1]
(3)多分岐高分子1の合成
100mlの反応容器に、上記(1)で得た3,5−ビス(クロロメチル)スチレン2.28g(11.3mmol)、塩化銅(I)0.336g(3.40mmol)、ビピリジル1.06g(6.80mmol)およびクロロベンゼン12mlを加えて、均一に混合した後、水流アスピレーターを用いて内部を脱気した。反応系を窒素置換後、反応容器を密閉し、予め115℃に設定したオイルバス中で90分攪拌した。反応混合物にTHFを約20ml加え、空気中で室温で約30分攪拌した。得られた混合物をアルミナカラムで精製して、メタノールで再沈殿することにより、多分岐高分子1を黄色粘性物として1.04g得た。このものの重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー法(以下「GPC法」と略す)にてポリスチレン換算で測定した結果、Mw=3958(Mw/Mn=1.74)、多角度光散乱検出法(以下MALS法と略す)では、Mw=14510(Mw/Mn=1.71)であった。
【0065】
(4)多分岐高分子1溶液の粒径分布
<粒径分布の測定法>
実施例1で得られた多分岐高分子1のテトラヒドロフラン(THF)に溶解して、0.03、0.2、2、5wt%の溶液を調整した。
HPPS(MALVERN Inst.社製粒径測定装置)を用いて粒子径を測定した。
<粒径、粒径分布の測定結果>
平均粒子径は、それぞれ6.2nm(5wt%溶液)、7.2nm(2wt%溶液)、8.0nm(0.2wt%溶液)、6.4nm(0.03wt%溶液)であった。また、その2wt%溶液の粒径分布を図1に示した。
同様に、テトラヒドロフラン溶媒に代えてトルエン、ヘキサン、アセトン、ジメチルホルムイミド、クロロホルムで調整した2wt%溶液の平均粒子径は、いずれも7nmであり、溶媒による影響は認められなかった。
また、図1より、多分岐高分子1の溶液は、透明な単分散の粒径分布を有するナノ粒子をであることがわかった。
【0066】
[実施例2]
(5)多分岐高分子2の合成
100mlの反応容器に、上記(2)で得たモノマー2.10g(4.58mmol)、臭化銅(I)0.197g(1.37mmol)、ビピリジル0.43g(2.75mmol)およびクロロベンゼン7.9gを加えて、均一に混合した後、水流アスピレーターを用いて内部を脱気した。反応系を窒素置換後、反応容器を密閉し、予め110℃に設定したオイルバス中で90分攪拌した。得られた混合物をテトラヒドロフラン(THF)溶媒を用いシリカゲルカラムで精製、濃縮した溶液をヘキサンで2回再沈殿を行なった。多分岐高分子2を無色透明粘性化合物として0.68g(収率32%)得た。このものの重量平均分子量は、「GPC法」にてポリスチレン換算で測定した結果、Mw=9640(Mw/Mn=1.18)、「MALS法」では、Mw=5144(Mw/Mn=1.16)であった。
【0067】
[実施例3]
(6)ポリマーアームによる多分岐高分子の修飾(多分岐高分子3の合成)
窒素置換した200ml反応容器に、トルエン53gおよびTHF5.4gを加えて、−40℃に冷却した。そこへ、n−ブチルリチウム/ヘキサン溶液(1.61mol/l)3.2gをゆっくりと滴下し、さらに、p−tert−ブトキシスチレン10.0g(56.7mmol)を加え、リビングアニオン重合を行なった。
ガスクロマトグラフィー(GC)によりモノマーの消費を確認後、サンプリングして、GPC法にてMn=3903(Mw/Mn=1.16)のポリマーが得られたことを確認した。
反応液に、実施例1で得た多分岐高分子(多分岐高分子1)0.5gのトルエン5ml溶液を加え、−40℃で30分間反応させた。反応液にメタノール(MeOH)を添加して反応を停止させ、再沈殿させることにより、8.70gの淡黄色固体(多分岐高分子2)を8.70g得た。得られた多分岐高分子2の重量平均分子量は、Mw=112,000、Mw/Mn=1.19であった。
【0068】
[実施例4]
(7)多分岐高分子の官能基変換(多分岐高分子4の合成)
100mlの反応容器に、実施例2で合成した多分岐高分子(多分岐高分子2)0.5g、酢酸カリウム1.96g(20.0mmol)、テトラブチルアンモニウムブロマイド0.20g(0.6mmol)、酢酸0.1ml、水6.0ml、およびクロロベンゼン10mlを加え、全容を80℃で5日間攪拌した。
反応混合物を分液し、有機層を分取した。有機層を再沈澱することにより、0.7gの薄茶色粘性物(多分岐高分子3)を得た。得られた多分岐高分子3の重量平均分子量は、Mw=16,510であった。また、H−NMR測定により、アセチル基との反応は、80%転化率であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上述べたように、本発明の多分岐高分子は、分岐度が高いにも係わらず、分散度が小さく、しかも分岐末端に修飾が容易であることから、従来にない特性を有する。
また、本発明の多分岐高分子は、ポリマーアームによる修飾、分岐鎖末端の官能基変換など目的に応じての多様な展開が容易である。
本発明の多分岐高分子は、レジスト、インキ、塗料、電気・電子材料、シーリング剤、フィルム原料などの硬化性樹脂や各種添加剤など、ナノスケールの構造制御を要する分子デバイスへの幅広い応用が可能であり、産業上の利用価値は高いといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(VI)
【化1】

(式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を表し、RとR10は、結合して環を形成してもよく、Xは3価以上の連結基を表す。Yは活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、a1は2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。R11は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。)で表される化合物を、金属触媒を用いたリビングラジカル重合法を用いて重合させることを特徴とする、式(I)
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ独立して水素原子または炭化水素基を表し、RとRは、結合して環を形成してもよく、Xは3価以上の連結基を表す。Yは活性ハロゲン原子を有することのできる官能基を表し、aは2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよい。)で表される繰り返し単位を有する多分岐高分子の製造方法。
【請求項2】
式(VI)中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、RとR10は、結合して環を形成してもよく、X
【化3A】

【化3B】

【化3C】

を表し、Yは活性ハロゲン原子を有することのできる下記の官能基を表し、
【化4】

ただしXが芳香族炭化水素基または芳香族複素環基である場合には、
【化5】

を表し、a1は2以上の整数を表し、Y同士は同一であっても相異なっていてもよく、R11は、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表すものである請求項1に記載の多分岐高分子の製造方法。
【請求項3】
前記式(VI)で表される化合物が、式(IX)
【化6】

(式中、R〜R10、Y、及びa1は前記と同じ意味を表し、V11は、
【化7A】

【化7B】

【化7C】

を表す。)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多分岐高分子の製造方法。
【請求項4】
前記式(VI)で表される繰り返し単位が、式(IX‘)
【化8】

(式中、R〜R10、Y、及びa1は前記と同じ意味を表し、V11‘は、
【化9】

であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多分岐高分子の製造方法。
【請求項5】
前記式(IX)又は(IX‘)中、Yが、式(X)
【化10】

(式中、R610、及びR710は、それぞれ独立に、水素原子、活性ハロゲン原子を有することができるメチル基、エチル基、または、他の繰り返し単位との結合手を表す。但し、R610、R710が、同時に他の繰り返し単位の結合手となることはない。)で表される官能基であることを特徴とする請求項3または4に記載の多分岐高分子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−209340(P2010−209340A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96506(P2010−96506)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【分割の表示】特願2005−515842(P2005−515842)の分割
【原出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】