説明

多周波アンテナ

【課題】小型無線装置への搭載に適した多周波アンテナを実現する。
【解決手段】アンテナ10は、地板11と、給電点14を介して上記地板11に接続された放射素子12とを備えるとともに、上記地板11にスロット11cが開口されている。これにより、重量を増加させたり、構造を立体化したり、サイズが大きくなるような変形を地板11や放射素子12に加えたりすることなく、多周波化を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンテナに関するものであり、特に、動作帯域が複数化された多周波アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
異なる帯域を使用する複数の無線通信規格が共存している。例えば、2.4GHz帯(2400MHz以上2483.5MHz以下)を使用する無線LAN(IEEE802.11b/g)及びBluetooth(登録商標)、並びに、5.0GHz帯(5150MHz以上5875MHz以下)を使用する高速無線LAN(IEEE802.11a)などはその一例である。
【0003】
また、近年、光アクセスネットワークやメタリックアクセスネットワークなどのネットワークが及ばない、いわゆるラストワンマイルの無線通信を担う無線通信規格として、WiMAX(Worldwide Interoperability for Microwave Access)への期待が高まっている。なお、WiMAXでは、2.5GHz帯(2500MHz以上2700MHz以下)、3.5GHz帯(3300MHz以上3800MHz以下)、及び、5.8GHz帯(5250MHz以上5850MHz以下)を使用する。
【0004】
このような状況に対応するために、無線装置に搭載されるアンテナには多周波化(動作帯域の複数化)が求められている。多周波化されたアンテナとしては、例えば、非特許文献1に記載の半円形スロットアンテナ、非特許文献2〜3に記載のPIFA(板状逆Fアンテナ)、非特許文献4に記載のダイポールアンテナ、特許文献1に記載のモノポールアンテナなどが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】台湾特許262625号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H.M. Hsiao, J-W. Wu, J-H. Lu, and Y-D. Wang, “A novel dual-broadband semi-circle slot antenna for wireless communication,” in Proc. IEEE Antennas Propag. Int. Symp., Hawai, USA, 2007, pp.385-388.
【非特許文献2】H.S. Yoon and S. O. Park, “A dual-band internal antenna of PIFA type for Bluetooth / WLAN in mobile handsets,” in Proc. IEEE Antennas Propag. Int. Symp., Hawai, USA, 2007, pp.665-668.
【非特許文献3】Y.S. Shin and S. O. Park, “A novel PIFA for 2.4 and 5 GHz WLAN application,” in Proc. IEEE Antennas Propag. Int. Symp., Hawai, USA, 2007, pp.645-648.
【非特許文献4】S.H. Yeh, W-C. Yang, and W-K. Su, “2.4 / 5.2 GHz WLAN unequal-arms dipole antenna woth a meandered strip for omni-directional radiation patterns,” in Proc. IEEE Antennas Propag. Int. Symp., Hawai, USA, 2007, pp.649-652.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の多周波アンテナには、パーソナルコンピュータやPDA(Personal Digital Assistant)などの小型無線装置への搭載に適さない問題があった。
【0008】
例えば、非特許文献1に記載の半円形スロットアンテナは、半円形状の放射素子を、誘電体層を有する基板上に構成する必要があるため、重量が大きく小型無線装置への搭載に適さない。また、非特許文献2〜3に記載のPIFAは、立体構造(3次元構造)を要するため、やはり小型無線装置への搭載に適さない。非特許文献4に記載のダイポールアンテナは、地板を要さないというメリットがあるものの、λ/2アンテナであるため2.4GHz帯や2.5GHz帯など低周波側の帯域を動作帯域とする場合に放射素子の全長が非常に長くなり、やはり小型無線装置への搭載には適さない。
【0009】
また、特許文献1に記載のモノポールアンテナは、地板と、地板の端辺に垂直な直線部と地板の端辺に平行な直線部とをT字状に組み合わせたT型の放射素子とを備えたアンテナであり、地板の端辺に垂直な直線部に地板の端辺に平行な枝を付加することによって3周波化を実現したモノポールアンテナである。このため、2.4GHz帯や2.5GHz帯など低周波側の帯域を動作帯域とする場合には、地板に平行な直線部の全長が長くなり、やはり小型無線装置への搭載には適さない。また、巨大な地板(ディスプレイを地板として利用)が必要であるという問題もあった。
【0010】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、小型無線装置への搭載に適した多周波アンテナを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係るアンテナは、地板と、給電点を介して上記地板に接続された放射素子とを備えたアンテナであって、上記地板に開口が設けられていることを特徴とする。
【0012】
上記の構成によれば、上記放射素子の共振周波数に加え、上記開口の共振周波数において上記アンテナを共振させることができる。このため、上記放射素子の共振周波数近傍の帯域に加え、上記開口の共振周波数近傍の帯域を動作帯域とする多周波アンテナを実現することができる。
【0013】
しかも、多周波化を実現するために、重量を増加させたり、構造を立体化したり、サイズが大きくなるような変形を上記放射素子に加えたりする必要がない。このため、小型無線装置への搭載に適した多周波アンテナを実現することができるという効果を奏する。
【0014】
本発明に係るアンテナにおいて、上記開口の形状は帯状である、ことが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、上記開口の第1共振周波数は、上記開口の長さ(開口の長手方向の寸法)に応じて決まる。このため、目的とする帯域内に第1共振周波数をもつ上記開口を容易に設計することができるという更なる効果を奏する。
【0016】
本発明に係るアンテナにおいて、上記地板は、上記給電点まで延設された突出部を有している、ことが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、上記突出部のサイズ及び形状の少なくとも何れかを変更することにより、上記地板と上記放射素子との間に生じる容量を変更することができる。これにより上記アンテナの入力インピーダンスを変更することができる。すなわち、上記突出部のサイズ及び形状の少なくとも何れかを変更することにより、地板を大型化することなく容易にインピーダンス整合を取ることができるという更なる効果を奏する。
【0018】
本発明に係るアンテナにおいて、上記開口は、上記突出部の基部に沿うように設けられている、ことが好ましい。
【0019】
上記地板において、上記突出部の基部(地板の本体との接続部分)の近傍には、他の領域と比べて強い電流が流れる。したがって、上記の構成によれば、上記開口の少なくとも一部を他の領域と比べて強い電流が流れる領域に配置することができ、上記開口の共振周波数における共振をより効果的に生じさせることができる、という更なる効果を奏する。
【0020】
本発明に係るアンテナにおいて、上記地板は、上記突出部に隣接する長方形部を有しており、上記開口は、上記突出部の基部を含む上記長方形部の第1の辺、並びに、上記第1の辺に隣接する第2の辺及び第3の辺に沿うように設けられている、ことが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、他の領域と比べて強い電流が流れる上記突出部の基部(地板の本体である長方形部との接続部分)に沿って上記開口の一部(第1の辺)が形成される。このため、上記開口の共振周波数における共振をより効果的に生じさせることができる。また、上記開口の形状が帯状である場合、上記開口の長さ(開口の長手方向の寸法)を、上記長方形部の上記第1の辺の長さよりも長くすることができる。このため、上記地板の大型化を招来することなく、動作帯域の低周波化を図ること、あるいは、動作帯域の高周波化を招来することなく、上記地板の小型化を図ることができる、という更なる効果を奏する。
【0022】
本発明に係るアンテナにおいて、上記地板は、上記突出部と接続する長方形部を有しており、上記開口は、上記突出部との境界を含む上記長方形部の第1の辺、上記第1の辺に隣接する第2の辺及び第3の辺、並びに、上記第1の辺に対向する第4の辺に沿うように設けられている、ことが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、他の領域と比べて強い電流が流れる上記突出部の基部(地板の本体である長方形部との接続部分)に沿って上記開口の一部(第1の辺)が形成される。このため、上記開口の共振周波数における共振をより効果的に生じさせることができる。また、上記開口の形状が帯状である場合、上記開口の長さ(開口の長手方向の寸法)を、上記長方形部の上記第1の辺の長さと、上記第2の辺の長さと、上記第3の辺の長さとの和よりも長くすることができる。このため、上記地板の大型化を招来することなく、動作帯域の低周波化を図ること、あるいは、動作帯域の高周波化を招来することなく、上記地板の小型化を図ることができる、という更なる効果を奏する。
【0024】
本発明に係るアンテナにおいて、上記放射素子は、折れ曲がっている、ことが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、上記放射素子の折り曲げ方を変更することにより、上記放射素子の第2共振周波数をシフトさせることができる。これにより、上記放射素子の第1共振周波数を含む動作帯域と上記放射素子の第2共振周波数を含む動作帯域との間隔を調整することができるという更なる効果を奏する。また、上記放射素子の配置に要するスペースを大型化することなく、動作帯域の低周波化を図ること、あるいは、動作帯域の高周波化を招来することなく、上記放射素子の配置に要するスペースを小型化することができる、という更なる効果を奏する。
【0026】
本発明に係るアンテナにおいて、上記放射素子は、上記給電点に接続し、第1の方向に伸びる第1の直線部と、上記第1の直線部に接続し、上記第1の方向と垂直な第2の方向に伸びる第2の直線部と、上記第2の直線部に接続し、上記第1の方向に伸びる第3の直線部と、上記第3の直線部に接続し、上記第2の方向と逆方向に伸びる第4の直線部とを有している、ことが好ましい。
【0027】
上記構成によれば、上記放射素子の第2共振周波数が、上記第1の直線部の長さと、上記第2の直線部の長さとの和に応じて決まる。このため、目的とする帯域内に第2共振周波数をもつ上記放射素子を容易に設計することができる、という更なる効果を奏する。
【0028】
本発明に係るアンテナにおいて、上記放射素子は、上記給電点に接続し、第1の方向に伸びる第1の直線部と、上記第1の直線部に接続し上記第1の方向と垂直な第2の方向に伸びる第2の直線部と、上記第2の直線部に接続し上記第1の方向に伸びる第3の直線部と、上記第3の直線部に接続し上記第2の方向と逆方向に伸びる、少なくとも一部がメアンダ化されたメアンダ部とを有している、ことが好ましい。
【0029】
上記構成によれば、上記放射素子の第2共振周波数が、上記第1の直線部の長さと、上記第2の直線部の長さとの和に応じて決まる。このため、目的とする帯域内に第2共振周波数をもつ上記放射素子を容易に設計することができる、という更なる効果を奏する。また、上記放射素子の一部をメアンダ化したことに伴い、上記放射素子の配置に要するスペースを大型化することなく、動作帯域の低周波化を図ること、あるいは、動作帯域の高周波化を招来することなく、上記放射素子の配置に要するスペースを小型化することができる、という更なる効果を奏する。
【0030】
本発明に係るアンテナは、上記地板と上記放射素子とを短絡する短絡部を更に備えている、ことが好ましい。
【0031】
上記構成によれば、短絡部の形状を変更することにより、容易にインピーダンス整合を取ることができる、という更なる効果を奏する。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るアンテナにおいては、重量を増加させたり、構造を立体化したり、サイズが大きくなるような変形を放射素子に加えたりすることなく、地板に開口を設けることによって多周波化を図っているので、小型無線装置への搭載に適した多周波アンテナを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施形態を示すものであり、アンテナの構成を示す平面図である。
【図2】図1に示したアンテナの第1の具体的な構成例を示す平面図である。
【図3】図2に示したアンテナのVSWR(電圧定在波比)特性を示すグラフである。
【図4】図2に示したアンテナの2442MHz(2.4GHz帯)における放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図5】図2に示したアンテナの2600MHz(2.5GHz帯)における放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図6】図2に示したアンテナの5470MHz(5.0GHz帯)における放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図7】図2に示したアンテナのxy平面における平均利得の周波数特性を示すグラフであり、(a)は低周波側の動作帯域に関する周波数依存性、(b)は高周波側の動作帯域に関する周波数依存性を示す。
【図8】図1に示したアンテナの第2の具体的な構成例を示す平面図である。
【図9】図8に示したアンテナのVSWR(電圧定在波比)特性を示すグラフである。
【図10】図8に示したアンテナの2442MHz(2.4GHz帯)における放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図11】図8に示したアンテナの2600MHz(2.5GHz帯)における放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図12】図8に示したアンテナの5470MHz(5.0GHz帯)における放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図13】図8に示したアンテナのxy平面における平均利得の周波数特性を示すグラフであり、(a)は低周波側の動作帯域に関する周波数依存性、(b)は高周波側の動作帯域に関する周波数依存性を示す。
【図14】本発明の第2の実施形態を示すものであり、アンテナの構成を示す平面図である。
【図15】図14に示したアンテナの具体的な構成例を示す平面図である。
【図16】図15に示したアンテナのVSWR(電圧定在波比)特性を示すグラフである。
【図17】図15に示したアンテナの824MHzにおける放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図18】図15に示したアンテナの960MHzにおける放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図19】図15に示したアンテナの1710MHzにおける放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図20】図15に示したアンテナの2170MHzにおける放射指向性を示すグラフであり、(a)(b)(c)はそれぞれ、xy平面における放射指向性、yz平面における放射指向性、zx平面における放射指向性を示す。
【図21】図15に示したアンテナのxy平面における平均利得の周波数特性を示すグラフであり、(a)は低周波側の動作帯域に関する周波数依存性、(b)は高周波側の動作帯域に関する周波数依存性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
〔実施形態1〕
本発明の第1の実施形態について、図1〜図13に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0035】
(アンテナの構成)
まず、本実施形態に係るアンテナ10の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態に係るアンテナ10の構成を示す平面図である。
【0036】
図1に示すように、アンテナ10は、地板11と、給電点14を介して地板11に接続された放射素子12と、地板11と放射素子12とを短絡する短絡部13とを備えたアンテナである。地板11と放射素子12とは、給電点14近傍において分断されており、給電線(例えば同軸ケーブル)を構成する2本の導線のうち、一方の導線が地板11の給電点14近傍に接続され、他方の導線が放射素子12の給電点14近傍に接続されている。
【0037】
アンテナ10の主たる特徴は、地板11に開口11cが設けられている点である。これにより、放射素子12の共振周波数{fe1,fe2,…}(放射素子12の形状に応じて決まる共振周波数)に加えて、開口11cの共振周波数{fs1,fs2,…}(開口11cのサイズ及び形状に応じて決まる共振周波数)においてアンテナ10を共振させることができる。これにより、アンテナ10は、これらの共振周波数{fe1,fe2,…}∪{fs1,fs2,…}を含む帯域のうち、所定の動作条件を満たす帯域を動作帯域とする多周波アンテナとして機能する。
【0038】
例えば、放射素子12の第1共振周波数fe1を含む帯域と、開口11cの第1共振周波数fs1を含む帯域とにおいて所定の動作条件が満たされている場合、これら2つの帯域を動作帯域とする2周波アンテナとして機能する。更に、放射素子12の第2共振周波数fe2を含む帯域において所定の動作条件が満たされている場合、これら3つの帯域を動作帯域とする3周波アンテナとして機能する。
【0039】
なお、本実施形態においては、図1に示すように、地板11に設ける開口11cとして、スロットと称する帯状の開口を採用している。地板11に設ける開口11cの形状を帯状とした場合、折れ曲がっているか否かに関わらず、その全長Lsに応じて第1共振周波数fs1≒c/(4Ls)(cは光速)が決まる。このため、目的とする帯域内に第1共振周波数fs1をもつ開口部11cを容易に設計することができる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、目的とする帯域内に共振周波数をもつものであれば、開口11cの形状は帯状であることを要さない。
【0040】
また、本実施形態においては、放射素子12として帯状の導体を採用している。放射素子12として帯状又は棒状の導体(導体フィルム又は導体ワイヤ)を採用した場合、折れ曲がっているか否かに関わらず、その全長Leに応じて第1共振周波数fe1≒c/(4Le)が決まる。このため、目的とする帯域内に第1共振周波数fe1をもつ放射素子12を容易に設計することができる。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。すなわち、目的とする帯域内に共振周波数をもつものであれば、放射素子12は帯状又は棒状であることを要さない。
【0041】
次に、地板11、放射素子12、及び、短絡部13の構成例について、引き続き図1を参照して説明する。なお、地板11、放射素子12、及び、短絡部13を別個の部材として説明するが、本実施形態に係るアンテナ10において、これの部材は単一の導体により一体的に形成されており、これらの部材間の境界(図1における点線)は説明の便宜上定めたものに過ぎない。
【0042】
まず、地板11の構成例について説明する。
【0043】
図1に示すように、地板11は、z軸と平行な長辺を有する長方形部11aと、y軸に平行な長辺を有する長方形状の突出部11bとを有する板状の導体である。突出部11bは、長方形部11aのz軸正方向側の短辺11a1のy軸正方向側の端に配置され、同短辺11a1を介して長方形部11aに接続している。そして、給電線を構成する2本の導線のうち、一方の導線は、給電点14近傍においてこの突出部11bに接続される。
【0044】
このように給電点14まで延設された突出部11bに給電線を接続することによって、長方形部11aに給電線を直接接続する場合と比較して、容易にインピーダンス整合を取ることができる。これは、突出部11bのサイズ及び形状を変更することにより、長方形部11aのサイズ及び形状を変更することなく、地板11と放射素子12との間に生じる容量を変更すること、すなわち、アンテナ10の入力インピーダンスを変更することができるためである。
【0045】
特に、放射素子12が折れ曲がっている場合、そうでない場合と比べて放射抵抗が減少し、アンテナ10の入力インピーダンスにおけるリアクタンス成分が増加する。しかし、これらをキャンセルするように突出部11bのサイズ及び形状を変更すれば、放射素子12が折れ曲がっている場合であっても、長方形部11aのサイズ及び形状を変更することなくインピーダンス整合を取ることができる。後述するように放射素子12が突出部11bに沿うように折り曲げられている場合には、地板11と放射素子12との間に生じる容量をより大きくすることができるので、更に効果的にインピーダンス整合を取ることができる。
【0046】
地板11の長方形部11aには、上述したように、開口11cが設けられている。図1に示すように、開口11cは、長方形部11aのz軸正方向側の短辺11a1(第1の辺)に沿う直線部11c1と、長方形部11aのy軸負方向側の長辺11a2(第2の辺)に沿う直線部11c2と、長方形部11aのy軸正方向側の長辺11a3(第3の辺)に沿う直線部11c3とを有する、折れ曲がった帯状の開口である。直線部11c1〜11c3の各々は長方形状の開口であり、これらが一体となって一続きの折れ曲がった帯状の開口11cを構成している。以下では、この開口11cを「スロット11c」、直線部11c1〜11c3の幅(短辺方向の寸法)を「スロット11cの幅」、直線部11c1〜11c3の長さ(長辺方向の寸法)の和を「スロット11cの全長Ls」と呼称する。
【0047】
このようにスロット11cの形状を折れ曲がった形状とすることによって、スロット11cの全長Lsを保ったまま、スロット11cの配置に要するスペースを縮小することができる。すなわち、スロット11cの第1共振周波数fs1≒c/(4Ls)を高周波側にシフトさせることなく、スロット11cの配置に要するスペースを縮小することができる。このため、動作帯域の高周波化を招来することなく、地板11の小型化を図ることができる。あるいは、スロット11cの配置に要するスペースを拡大することなく、スロット11cの全長Lsを長くすることもできる。この場合には、地板11の大型化を招来することなく、動作帯域の低周波化を図ることができる。
【0048】
なお、スロット11cは、突出部11bの基部を含む、長方形部11aの短辺11a1に沿うように配置されていることが好ましい。何故なら、突出部11bの基部には他の領域よりも強い電流が流れているため、スロット11cの共振周波数{fs1,fs2,…}において、より効果的にアンテナ10を共振させることができるからである。ただし、スロット11cの少なくとも一部分(具体的には直線部11c1)が長方形部11aの短辺11a1に沿っていれば十分であり、スロット11cの他の部分(具体的には直線部11c2及び直線部11c3)については長方形部11aの短辺11a1に沿っていることを要さない。
【0049】
次に、放射素子12の構成例について説明する。
【0050】
放射素子12は、図1に示すように、給電点14に接続し、z軸正方向(第1の方向)に伸びる直線部12a(第1の直線部)と、直線部12aのz軸正方向側の端部を介して直線部12aに接続し、y軸正方向(第2の方向)に伸びる直線部12b(第2の直線部)と、直線部12bのy軸正方向側の端部を介して直線部12bに接続し、z軸正方向(第1の方向)に伸びる直線部12c(第3の直線部)と、直線部12cのz軸正方向側の端部を介して直線部12cに接続し、y軸負方向(第2の方向と逆方向)に伸びる直線部12d(第4の直線部)とを有する、折れ曲がった帯状の導体である。また、直線部12aのz軸負方向側の端部は、後述する短絡部13に接続されている。給電線を構成する2本の導線のうち、一方の導線は、直線部12aのz軸負方向側(短絡部13側)の端部に接続される(図示せず)。
【0051】
なお、直線部12a〜12dの各々は長方形状の導体であり、これらが一体となって折れ曲がった帯状の放射素子12を構成している。したがって、直線部12aのz軸正方向側の端部とは、直線部12aと直線部12bとを分断したときに現れる直線部12aの端部のことを指す。直線部12b〜12cの端部についても同様である。以下では、各直線部12a〜12dの幅(短辺方向の寸法)を「放射素子12の幅」、各直線部12a〜12dの長さ(長辺方向の寸法)の和を「放射素子12の全長Le」と呼称する。
【0052】
このように放射素子12を折り曲げることによって、放射素子12の全長Leを保ったまま、放射素子12の配置に要するスペースを縮小することができる。すなわち、放射素子12の第1共振周波数fe1≒c/(4Le)を高周波側にシフトさせることなく、放射素子12の配置に要するスペースを縮小することができる。このため、動作帯域の高周波化を招来することなく、放射素子12の配置に要するスペースを縮小することができる。あるいは、放射素子12の配置に要するスペースを拡大することなく、放射素子12の全長Leを長くし、動作帯域の低周波化を図ることができる。
【0053】
また、このように放射素子12を折り曲げることによって、第2共振周波数fe2を低周波側にシフトさせることができる。より具体的に言うと、直線部12aの長さLaと直線部12bの長さLbとの和が波長の4分の1に対応する周波数c/{4(La+Lb)}に第2共振周波数fe2をシフトさせることができる。このため、目的とする帯域内に第2共振周波数fe2をもつ放射素子12を容易に設計することができる。
【0054】
次に、短絡部13の構成例について説明する。
【0055】
短絡部13は、z軸正方向に伸びる直線部13aと、直線部13aのz軸正方向側の端部を介して直線部13aに接続し、y軸正方向に伸びる直線部13bとを有する、折れ曲がった帯状の導体である。直線部13aのz軸負方向側の端部は、地板11の外縁、より具体的には、長方形部11aのz軸正方向側の短辺11a1に接続されており、直線部13bのy軸正方向側の端部は、放射素子12に含まれる直線部12aのz軸負方向側の端部に接続されている。直線部13a〜13bの各々は長方形状の導体であり、これらが一体となって折れ曲がった帯状の短絡部13を構成している。
【0056】
このような短絡部13を設けることによって、容易にインピーダンス整合を取ることができる。これは、直線部13aの長さを変更することにより、地板11や放射素子12のサイズ及び形状を変更することなく、アンテナ10の入力インピーダンスを変更することができるためである。
【0057】
(アンテナの特性)
次に、本実施形態に係るアンテナ10のアンテナ特性について、図2〜図13を参照して説明する。
【0058】
<具体例1>
図2は、アンテナ10の第1の具体例を示した平面図である。本具体例に係るアンテナ10は、フレキシブルプリント基板内に実装されたものであり、厚さ12μmの銅箔により構成された地板11、放射素子12、及び、短絡部13を、表裏からポリイミド膜で挟み込むことにより得られたものである。なお、本具体例では、給電線には、直径1.13mm、長さ500mmの同軸ケーブルを用いた。
【0059】
本具体例に係るアンテナ10の各部のサイズは、無線LAN(IEEE802.11b/g)にて使用される2.4GHz帯(2400MHz以上2483.5MHz以下)、WiMAXにて使用される2.5GHz帯(2500MHz以上2700MHz以下)、及び、高速無線LAN(IEEE802.11a)にて使用される5.0GHz帯(5150MHz以上5875MHz以下)を動作帯域とすることを目的として、図2に示したように定められている。なお、放射素子12の幅は0.75mm(一律)であり、スロット11cの幅は1mm(一律)である。
【0060】
本具体例における設計のポイントは以下のとおりである。
【0061】
設定(1):2.4GHzの電磁波の波長λ2.4GHzは125mmであり、λ2.4GHz/4は31.25mmである。そこで、本具体例においては、放射素子12の全長Leを31.25mmに設定することによって、放射素子12の第1共振周波数fe1を用いて2.4GHz帯をカバーする。なお、本具体例においては、アンテナ10全体の幅を広げることなく、放射素子12の全長Leを31.25mmとするために、放射素子12の先端2.25mm(直線部12e)を折り曲げている。
【0062】
設定(2):2.5GHzの電磁波の波長λ2.5GHzは120mmであり、λ2.5GHz/4は30.00mmである。そこで、本具体例においては、スロット11cの全長Lsを29.00mmに設定することによって、スロット11cの第1共振周波数fs1を用いて2.5GHz帯をカバーする。
【0063】
設定(3):5.0GHzの電磁波の波長λ5.0GHzは60mmであり、λ5.0GHz/4は15.00mmである。本具体例においては、直線部12aの長さLaと直線部12bとの長さLbとの和La+Lbを12.00mmに設定することによって、放射素子12の第2共振周波数fe2を用いて5.0GHz帯をカバーする。
【0064】
このようにして設計されたアンテナ10において、目的とする帯域(2.4GHz帯、2.5GHz帯、及び、5.0GHz帯)を動作帯域とし得ることを図3〜図7に示す。
【0065】
図3は、図2に示したアンテナ10のVSWR(電圧定在波比)特性を示すグラフである。図3を参照すると、2.4GHz帯及び2.5GHz帯と、5.0GHz帯とにおいてVSWR値の低下が認められ、本具体例に係るアンテナ10が目的とする帯域を動作帯域とする多周波アンテナとして動作していることが分かる。VSWRが2.0以下であることが動作条件として課されているものとすると、低周波側の動作帯域の帯域幅は320MHzとなり、高周波側の動作帯域の帯域幅は845MHzとなる。なお、本具体例においては、放射素子12の第1共振周波数fe1とスロット11cの第1共振周波数fs1との差が小さいため、これらを別々に含む不連続な2つの動作帯域が形成されるのではなく、これらを一緒に含む連続した1つの動作帯域が形成され、低周波側の動作帯域が拡幅された2周波アンテナが実現されている。
【0066】
図4(a)〜図4(c)は、図2に示したアンテナ10の2442MHz(2.4GHz帯)における放射指向性を示すグラフである。図4(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図4(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図4(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、1.1dBi、−9.3dBi、及び、−3.4dBiであった。
【0067】
図5(a)〜図5(c)は、図2に示したアンテナ10の2600MHz(2.5GHz帯)における放射指向性を示すグラフである。図5(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図5(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図5(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、0dBi、−13.4dBi、及び、−3.7dBiであった。
【0068】
図6(a)〜図6(c)は、図2に示したアンテナ10の5470MHz(5.0GHz帯)における放射指向性を示すグラフである。図6(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図6(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図6(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、2.5dBi、−21.2dBi、及び、−3.9dBiであった。
【0069】
このように、図4(a)〜図6(c)によれば、本具体例に係るアンテナ10は、モノポールアンテナのものに近い放射指向性をもつことが認められる。
【0070】
図7(a)〜図7(b)は、図2に示したアンテナ10のxy平面における平均利得の周波数特性を示したグラフである。図7(a)は低周波側の動作帯域に関するxy平面における平均利得の周波数依存性を示したグラフであり、図7(b)は高周波側の動作帯域に関するxy平面における平均利得の周波数依存性を示したグラフである。いずれの図面においても、黒三角により各周波数に関するxy平面における平均利得の測定値を示す。
また、移動体端末に搭載した時に必要な平均利得及び最低利得の一例を併せて示す。
【0071】
図7(a)を参照すると、低周波側の動作帯域において、−4.0dBi以上の平均利得を確保できていることが分かる。また、図7(b)を参照すると、高周波側の動作帯域において、−6.0dBi以上の平均利得を確保できていることが分かる。
【0072】
<具体例2>
図8は、アンテナ10の第2の具体例を示した平面図である。本具体例に係るアンテナ10も、フレキシブルプリント基板内に実装されたものであり、厚さ12μmの銅箔により構成された地板11、放射素子12、及び、短絡部13を、表裏からポリイミド膜で挟み込むことにより得られたものである。なお、本具体例でも、給電線には、直径1.13mm、長さ500mmの同軸ケーブルを用いた。
【0073】
本具体例に係るアンテナ10の各部のサイズも、第1の具体例と同様、無線LAN(IEEE802.11b/g)にて使用される2.4GHz帯(2400MHz以上2483.5MHz以下)、WiMAXにて使用される2.5GHz帯(2500MHz以上2700MHz以下)、及び、高速無線LAN(IEEE802.11a)にて使用される5.0GHz帯(5150MHz以上5875MHz以下)を動作帯域とすることを目的として、図8に示したように定められている。なお、スロット11cの幅は1mm(一律)である。
【0074】
本具体例における設計のポイントは以下のとおりである。
【0075】
設定(1):2.4GHzの電磁波の波長λ2.4GHzは125mmであり、λ2.4GHz/4は31.25mmである。そこで、本具体例においては、放射素子12の全長Leを33.00mm(直線部12cの長さは無視)に設定することによって、放射素子12の第1共振周波数fe1を用いて2.4GHz帯をカバーする。なお、本具体例においては、アンテナ10全体の幅を広げることなく、放射素子12の全長を長くするために、放射素子12の先端2.5mm(直線部12e)を折り曲げている。
【0076】
設定(2):2.5GHzの電磁波の波長λ2.5GHzは120mmであり、λ2.5GHz/4は30.00mmである。そこで、本具体例においては、スロット11cの全長Lsを29.00mmに設定することによって、スロット11cの第1共振周波数fs1を用いて2.5GHz帯をカバーする。
【0077】
設定(3):5.0GHzの電磁波の波長λ5.0GHzは60mmであり、λ5.0GHz/4は15.00mmである。本具体例においては、直線部12aの長さLaと直線部12bとの長さLbとの和La+Lbを13.75mmに設定することによって、放射素子12の第2共振周波数fe2を用いて5.0GHz帯をカバーする。
【0078】
このようにして設計されたアンテナ10において、目的とする帯域(2.4GHz帯、2.5GHz帯、及び、5.0GHz帯)を動作帯域とすることができ、更に、第1の具体例よりも優れた特性が得られることを図9〜図13に示す。
【0079】
図9は、図8に示したアンテナ10のVSWR(電圧定在波比)特性を示すグラフである。図9を参照すると、2.4GHz帯及び2.5GHz帯と、5.0GHz帯とにおいてVSWR値の低下が認められ、本具体例に係るアンテナ10が目的とする帯域を動作帯域とする多周波アンテナとして動作していることが分かる。VSWRが2.0以下であることが動作条件として課されているものとすると、低周波側の動作帯域の帯域幅は415MHzとなり、高周波側の動作帯域の帯域幅は840MHzとなる。すなわち、低周波側の動作帯域の帯域幅が、第1の具体例と比べて拡大されている。
【0080】
図10(a)〜図10(c)は、図8に示したアンテナ10の2442MHz(2.4GHz帯)における放射指向性を示すグラフである。図10(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図10(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図10(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、3.4dBi、−10.5dBi、及び、−4.1dBiであった。
【0081】
図11(a)〜図11(c)は、図8に示したアンテナ10の2600MHz(2.5GHz帯)における放射指向性を示すグラフである。図11(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図11(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図11(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、3.4dBi、−12.3dBi、及び、−1.8dBiであった。
【0082】
図12(a)〜図12(c)は、図8に示したアンテナ10の5470MHz(5.0GHz帯)における放射指向性を示すグラフである。図12(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図12(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図12(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、2.0dBi、−14.6dBi、及び、−3.5dBiであった。
【0083】
このように、図10(a)〜図12(c)によれば、本具体例に係るアンテナ10は、モノポールアンテナのものに近い放射指向性をもつことが認められる。
【0084】
図13(a)〜図13(b)は、図8に示したアンテナ10のxy平面における平均利得の周波数特性を示したグラフである。図13(a)は低周波側の動作帯域に関するxy平面における平均利得の周波数依存性を示したグラフであり、図13(b)は高周波側の動作帯域に関するxy平面における平均利得の周波数依存性を示したグラフである。いずれの図面においても、黒三角により各周波数に関するxy平面における平均利得の測定値を示す。また、移動体端末に搭載した時に必要な平均利得及び最低利得の一例を併せて示す。
【0085】
図13(a)を参照すると、低周波側の動作帯域において、−3.0dBi以上の平均利得を確保できていることが分かる。また、図13(b)を参照すると、高周波側の動作帯域において、−5.0dBi以上の平均利得を確保できていることが分かる。すなわち、低周波側の動作帯域においても、高周波側の動作帯域においても、第1の具体例よりも高い平均利得を確保できていることが分かる。
【0086】
〔実施形態2〕
本発明の第2の実施形態について、図14〜図21に基づいて説明すれば以下のとおりである。
【0087】
(アンテナの構成)
まず、本実施形態に係るアンテナ20の構成について、図14を参照して説明する。図14は、本実施形態に係るアンテナ20の構成を示す平面図である。
【0088】
図14に示すように、アンテナ20は、地板21と、給電点24を介して地板21に対向する放射素子22と、地板21と放射素子22とを短絡する短絡部23とを備えたアンテナである。地板21と放射素子22とは、給電点24近傍において分断されており、給電線(例えば同軸ケーブル)を構成する2本の導線のうち、一方の導線が地板21の給電点24近傍に接続され、他方の導線が放射素子22の給電点24近傍に接続されている。
【0089】
アンテナ20の主たる特徴は、第1の実施形態に係るアンテナ10(図1)と同様、地板21に開口21cが設けられている点である。これにより、放射素子22の共振周波数{fe1,fe2,…}(放射素子22のサイズ及び形状に応じて決まる共振周波数)に加えて、開口21cの共振周波数{fs1,fs2,…}(開口21cのサイズ及び形状に応じて決まる共振周波数)においてアンテナ20を共振させることができ、これらの共振周波数{fe1,fe2,…}∪{fs1,fs2,…}を含む帯域のうち、所定の動作条件を満たすものを動作帯域とすることができる。
【0090】
次に、地板21、放射素子22、及び、短絡部23の構成例について、引き続き図14を参照して説明する。
【0091】
まず、地板21の構成例について説明する。
【0092】
図14に示すように、地板21は、z軸と平行な短辺を有する長方形部21aと、y軸に平行な長辺を有する長方形状の突出部21bとを有する板状の導体である。突出部21bは、長方形部21aのz軸正方向側の長辺21a1の略中央に配置され、同長辺21a1を介して長方形部21aに接続している。そして、給電線を構成する2本の導線のうち、一方の導線は、給電点24近傍においてこの突出部21bに接続される。
【0093】
このように給電点24まで延設された突出部21bに給電線を接続することによっても、第1の実施形態と同様の理由により、長方形部21aに給電線を直接接続する場合と比較して、容易にインピーダンス整合を取ることができる。
【0094】
地板21の長方形部21aには、開口21cが設けられている。図14に示すように、開口21cは、長方形部21aのz軸正方向側の長辺21a1(第1の辺)に沿う直線部21c1と、長方形部21aのy軸負方向側の短辺21a2(第2の辺)に沿う直線部21c2と、長方形部21aのy軸正方向側の短辺21a3(第3の辺)に沿う直線部21c3と、長方形部21aのz軸負方向側の長辺21a4(第4の辺)に沿ってy軸負方向側に位置する直線部21c4と、長方形部21aのz軸負方向側の長辺21a4に沿ってy軸正方向側に位置する直線部21c5とを有する、折れ曲がった帯状の開口である。直線部21c1〜21c5は長方形状の開口であり、これらが一体となって一続きの折れ曲がった帯状の開口21cを構成している。本実施形態においても、開口21cを「スロット21c」、直線部21c1〜21c5の幅(短辺方向の寸法)を「スロット21cの幅」、直線部21c1〜21c5の長さ(長辺方向の寸法)の和を「スロット21cの全長Ls」と呼称する。
【0095】
このようにスロット21cの形状を折れ曲がった形状とすることによって、スロット21cの全長Lsを保ったまま、スロット21cの配置に要するスペースを第1の実施形態よりも直線部21c4及び直線部21c5の分だけ更に縮小することができる。すなわち、スロット21cの第1共振周波数fs1≒c/(4Ls)を高周波側にシフトさせることなく、スロット21cの配置に要するスペースを第1の実施形態よりも更に縮小することができる。このため、動作帯域の高周波化を招来することなく、地板21の更なる小型化を図ることができる。あるいは、スロット21の配置に要するスペースを拡大することなく、スロット21cの全長Lsを第1の実施形態よりも直線部21c4及び直線部21c5の分だけ更に長くすることができる。このため、地板21の大型化を招来することなく、動作帯域の更なる低周波化を図ることができる。
【0096】
次に、放射素子22の構成例について説明する。
【0097】
放射素子22は、図14に示すように、給電点24に接続し、z軸正方向(第1の方向)に伸びる直線部22a(第1の直線部)と、直線部22aのz軸正方向側の端部を介して直線部22aに接続し、y軸正方向(第2の方向)に伸びる直線部22b(第2の直線部)と、直線部22bのy軸正方向側の端部を介して直線部22bに接続し、z軸正方向(第1の方向)に伸びる直線部22c(第3の直線部)と、直線部22cのz軸正方向側の端部を介して直線部22cに接続し、y軸負方向(第1の方向と逆方向)に伸びる少なくとも一部がメアンダ化されたメアンダ部22dとを有する、折れ曲がった帯状の導体である。また、直線部22aのz軸負方向側の端部は、後述する短絡部23に接続されている。給電線を構成する2本の導線のうち、一方の導線は、直線部22aのz軸負方向側(短絡部23側)の端部に接続される(図示せず)。
【0098】
なお、直線部22a〜22cの各々は長方形状の導体であり、メアンダ部22dは長方形状の導体の少なくとも一部がメアンダ化されたものであり、これらが一体となって折れ曲がった帯状の放射素子22を構成している。以下では、直線部22a〜22cの幅(短辺方向の寸法)、及び、メアンダ部22dを構成する各直線部の幅(短辺方向の寸法)を「放射素子12の幅」、直線部22a〜22cの長さ(長辺方向の寸法)、及び、メアンダ部22dを構成する各直線部の長さ(長辺方向の寸法)の和を「放射素子12の全長Le」と呼称する。
【0099】
また、「メアンダ部22dが伸びる方向」は、以下のように定義することができる。すなわち、給電点24に近い方からメアンダ部22dを辿っていけば、{y軸負方向、z軸正方向、y軸負方向、z軸負方向、・・・}のような進行方向列を構成することができる。この進行方向列には、向きが反転する進行方向(この場合z軸正方向/z軸負方向)と向きが反転しない進行方向(この場合y軸負方向)とが交互に現れる。この進行方向列に現れる進行方向のうち、向きが反転しない方の進行方向のことを「メアンダ部22dが伸びる方向」とすればよい。
【0100】
このように放射素子22を折り曲げることによって、放射素子22の全長Leを保ったまま、放射素子22の配置に要するスペースを縮小することができる。すなわち、放射素子22の第1共振周波数fe1≒c/(4Le)を高周波側にシフトさせることなく、放射素子22の配置に要するスペースを縮小することができる。このため、動作帯域の高周波化を招来することなく、放射素子22の配置に要するスペースの小型化を図ることができる。あるいは、放射素子22の配置に要するスペースを拡大することなく、放射素子22の全長Leを長くし、動作帯域の低周波化を図ることができる。本実施形態においては、放射素子22の一部がメアンダ化されているので、より一層大きな効果が得られる。
【0101】
また、このように放射素子22を折り曲げることによって、第2共振周波数fe2を低周波側にシフトさせることができる。より具体的に言うと、直線部22aの長さLaと直線部22bの長さLbとの和が波長の4分の1に対応する周波数c/{4(La+Lb)}に第2共振周波数fe2をシフトさせることができる。
【0102】
次に、短絡部23の構成例について説明する。
【0103】
短絡部23は、z軸正方向に伸びる直線部23aと、直線部23aのz軸正方向側の端部を介して直線部23aに接続し、y軸正方向に伸びる直線部23bとを有する、折れ曲がった帯状の導体である。直線部23aのz軸負方向側の端部は、地板21の外縁、より具体的には、長方形部21aのz軸正方向側の長辺21a1に接続されており、直線部23bのy軸正方向側の端部は、放射素子22に含まれる直線部22aのz軸負方向側の端部に接続されている。
【0104】
このような短絡部23を設けることによって、第1の実施形態と同様、容易にインピーダンス整合を取ることができる。
【0105】
(アンテナの特性)
次に、本実施形態に係るアンテナ20の特性について、図15〜図21を参照して説明する。
【0106】
図15は、アンテナ20の具体例を示した平面図である。本具体例に係るアンテナ20は、フレキシブルプリント基板内に実装されたものであり、厚さ12μmの銅箔により構成された地板21、放射素子22、及び、短絡部23を、表裏からポリイミド膜で挟み込むことにより得られたものである。なお、本実施例では、給電線には、直径1.13mm、長さ500mmの同軸ケーブルを用いた。
【0107】
本具体例に係るアンテナ20の各部のサイズは、ワイヤレスWAN(Wide Area Network)にて使用される824MHz以上960MHz以下の帯域、及び、1710MHz以上2170MHz以下の帯域を動作帯域とすることを目的として、図15に示したように定められている。なお、スロット21cの幅は1mm(一律)、メアンダ部22dのメアンダの深さは深い方が3.5mm、浅い方が2mmである。
【0108】
このようにして設計されたアンテナ20において、ワイヤレスWAN(Wide Area Network)にて使用される帯域を動作帯域とし得ることを図16〜図21に示す。
【0109】
図16は、図15に示したアンテナ20のVSWR(電圧定在波比)特性を示すグラフである。図16を参照すると、ワイヤレスWANにて使用される低周波側の帯域及び高周波側の帯域の双方においてVSWR値の低下が認められ、本具体例に係るアンテナ20が目的とする帯域を動作帯域とする多周波アンテナとして動作していることが分かる。VSWRが3.0以下であることが動作条件として課されているものとすると、低周波側の動作帯域の帯域幅は415MHzとなり、高周波側の動作帯域の帯域幅は445MHzとなる。なお、本具体例においても、放射素子22の第1共振周波数fe1とスロット21cの第1共振周波数fs1との差が小さいため、これらを別々に含む不連続な2つの動作帯域が形成されるのではなく、これらを一緒に含む連続した1つの動作帯域が形成され、低周波側の動作帯域が拡幅された2周波アンテナが実現されている。
【0110】
図17(a)〜図17(c)は、図15に示したアンテナ20の824MHzにおける放射指向性を示すグラフである。図17(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図17(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図17(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、−1.8dBi、−16.3dBi、及び、−5.1dBiであった。
【0111】
図18(a)〜図18(c)は、図15に示したアンテナ20の960MHzにおける放射指向性を示すグラフである。図18(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図18(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図18(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、0.7dBi、−10.6dBi、及び、−4.3dBiであった。
【0112】
図19(a)〜図19(c)は、図15に示したアンテナ20の1710MHzにおける放射指向性を示すグラフである。図19(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図19(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図19(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、−0.1dBi、−13.5dBi、及び、−4.7dBiであった。
【0113】
図20(a)〜図20(c)は、図15に示したアンテナ20の2170MHzにおける放射指向性を示すグラフである。図20(a)は、xy平面における放射指向性を示すグラフであり、図20(b)は、yz平面における放射指向性を示すグラフであり、図20(c)は、zx平面における放射指向性を示すグラフである。xy平面での最大利得、最低利得、及び、平均利得は、それぞれ、−1.3dBi、−12.6dBi、及び、−5.9dBiであった。
【0114】
図21(a)〜図21(b)は、図15に示したアンテナ20のxy平面における平均利得の周波数特性を示したグラフである。図21(a)は低周波側の動作帯域に関するxy平面における平均利得の周波数依存性を示したグラフであり、図21(b)は高周波側の動作帯域に関するxy平面における平均利得の周波数依存性を示したグラフである。いずれの図面においても、黒三角により各周波数に関するxy平面における平均利得の測定値を示す。また、移動体端末に搭載した時に必要な平均利得及び最低利得の一例を併せて示す。
【0115】
図21(a)を参照すると、低周波側の動作帯域において、−5.1dBi以上の平均利得を確保できていることが分かる。また、図21(b)を参照すると、高周波側の動作帯域において、−6.2dBi以上の平均利得を確保できていることが分かる。
【0116】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、小型無線装置に搭載するための多周波アンテナに好適に利用することができる。一例として、2.4GHz帯、2.5GHz帯、及び、5.0GHz帯を動作帯域とする多周波アンテナに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0118】
10 アンテナ
11 地板
11a 長方形部
11a1 短辺(第1の辺、突出部11bの基部)
11a2 長辺(第2の辺)
11a3 長辺(第3の辺)
11b 突出部
11c スロット(開口)
12 放射素子
12a 直線部(第1の直線部)
12b 直線部(第2の直線部)
12c 直線部(第3の直線部)
12d 直線部(第4の直線部)
13 短絡部
14 給電点
20 アンテナ
21 地板
21a 長方形部
21a1 長辺(第1の辺、突出部21bの基部)
21a2 短辺(第2の辺)
21a3 短辺(第3の辺)
21a4 長辺(第4の辺)
21b 突出部
21c スロット(開口)
22 放射素子
22a 直線部(第1の直線部)
22b 直線部(第2の直線部)
22c 直線部(第3の直線部)
22d メアンダ部
23 短絡部
24 給電点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地板と、給電点を介して上記地板に接続された放射素子とを備えたアンテナであって、
上記地板に開口が設けられていることを特徴とするアンテナ。
【請求項2】
上記開口の形状は、帯状である、
ことを特徴とする請求項1に記載のアンテナ。
【請求項3】
上記地板は、上記給電点まで延設された突出部を有している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のアンテナ。
【請求項4】
上記開口は、上記突出部の基部に沿うように設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載のアンテナ。
【請求項5】
上記地板は、上記突出部に隣接する長方形部を有しており、
上記開口は、上記突出部の基部を含む上記長方形部の第1の辺、並びに、上記第1の辺に隣接する第2の辺及び第3の辺に沿うように設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載のアンテナ。
【請求項6】
上記地板は、上記突出部と接続する長方形部を有しており、
上記開口は、上記突出部との境界を含む上記長方形部の第1の辺、上記第1の辺に隣接する第2の辺及び第3の辺、並びに、上記第1の辺に対向する第4の辺に沿うように設けられている、
ことを特徴とする請求項4に記載のアンテナ。
【請求項7】
上記放射素子は、折れ曲がっている、
ことを特徴とする請求項1から6までの何れか1項に記載のアンテナ。
【請求項8】
上記放射素子は、上記給電点に接続し、第1の方向に伸びる第1の直線部と、上記第1の直線部に接続し、上記第1の方向と垂直な第2の方向に伸びる第2の直線部と、上記第2の直線部に接続し、上記第1の方向に伸びる第3の直線部と、上記第3の直線部に接続し、上記第2の方向と逆方向に伸びる第4の直線部とを有している、
ことを特徴とする請求項7に記載のアンテナ。
【請求項9】
上記放射素子は、上記給電点に接続し、第1の方向に伸びる第1の直線部と、上記第1の直線部に接続し上記第1の方向と垂直な第2の方向に伸びる第2の直線部と、上記第2の直線部に接続し上記第1の方向に伸びる第3の直線部と、上記第3の直線部に接続し上記第2の方向と逆方向に伸びる、少なくとも一部がメアンダ化されたメアンダ部とを有している、
ことを特徴とする請求項7に記載のアンテナ。
【請求項10】
上記地板と上記放射素子とを短絡する短絡部を更に備えている、
ことを特徴とする請求項1から9までの何れか1項に記載のアンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−35676(P2011−35676A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180100(P2009−180100)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】