説明

多孔フィルム及びその製造方法

【課題】孔の配列ピッチが不揃いな多孔フィルムを、連続的に製造する。
【解決手段】有機溶媒と両親媒性化合物とを含む溶液を流延ベルト51の上にキャストしてキャスト膜22を形成する。キャスト膜22の周辺の露点TDからキャスト膜22の表面の温度TSを減じた値をΔTとするとき、第1エリア44で3℃≦ΔT≦30℃の条件下で結露させてキャスト膜22の上に微小水滴を形成する。この直後に、第2エリア45で0℃<ΔT≦10℃の条件下で微小水滴を成長させ、微小水滴を略最密充填状態にする。第3エリア46で、−3℃<ΔT≦3℃の条件下で微小水滴の一部を蒸発させる。この微小水滴の一部蒸発によるサイズ縮小化により、略最密充填状態を緩和させる。緩和により孔の配列ピッチが不揃いになる。第4エリア47で、溶媒をキャスト膜22から蒸発させる。第5エリア48で、TD<TSの条件下で微小水滴をキャスト膜22から蒸発させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔フィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光学分野や電子分野では、集積度の向上や情報量の高密度化、画像情報の高精細化といった要求がますます大きくなっている。そのため、それら分野に用いられるフィルムに対しては、より微細な構造(微細パターン構造)を形成すること(微細パターニング)が強く求められている。また、再生医療分野の研究においては、表面に微細な構造を有する膜が、細胞培養の場となる材料として有効である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フィルムの微細パターニングには、マスクを用いた蒸着法、光化学反応ならびに重合反応を用いた光リソグラフィ技術、レーザーアブレーション技術など種々の方法が実用化されている。
【0004】
また、所定のポリマーの希薄溶液を高湿度下でキャストすることで、ミクロンスケールのハニカム構造をもつフィルムが得られることが知られている(例えば、特許文献2参照)。このような方法で製造されるフィルムは、その微細パターンの形成挙動から自己組織化膜と言われている。自己組織化膜の製造方法としては、他に特許文献3〜6に提案される方法もある。また、このようなハニカム構造を有するフィルムに機能性微粒子を含有させたものは光学及び電子材料として用いられる。例えば、フィルム中に発光材料体を含有させることで、このフィルムは表示デバイスとして用いられる(例えば、特許文献5参照)。また、特許文献6に記載の方法は水滴形成条件及び水滴成長条件を規定することにより、孔の大きさや形状、孔の形成密度が均一である多孔フィルムを連続的または断続的に製造する。
【特許文献1】特開2001−157574号公報
【特許文献2】特開2002−335949号公報
【特許文献3】特開2003−151766号公報
【特許文献4】特開2002−347107号公報
【特許文献5】特開2003−128832号公報
【特許文献6】特開2007−291367号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のように、従来は、各孔のサイズやピッチが一定となり、各孔が最密充填構造となるハニカム構造を有する多孔フィルムの製造を目的とし、そのため、各孔のサイズやピッチが一定となるように製造条件の適正化を図っていた。
【0006】
ところで、多孔フィルムにおいて、孔のサイズやピッチが不揃いであり、孔の配列規則性が劣るものも、用途が異なる分野では有効であることの知見を得た。例えば、反射防止膜として使用する場合に、孔の配列規則性が良好なものはギラギラとした干渉色が観察されてしまうのに対し、孔の配列規則性が劣るものはこのギラギラ感が抑えられるという効果がある。また、細胞を培養する場合に、配列規則性が良好な多孔フィルムよりもランダム性を有する多孔フィルムの方が、培養効率が上がることがある。
【0007】
しかしながら、従来の製造方法では、上記のように、各孔が最密充填構造となるハニカム構造を目的としており、これらの製造方法をそのまま適用しても、孔の配列規則性が劣る多孔フィルムを製造することができないという問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、孔の配列規則性を緩和し、ランダム性を有する多孔フィルム及びこの多孔フィルムを安定的に製造可能とする製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフィルムの製造方法は、有機溶媒と親水基及び疎水基を有する両親媒性化合物と高分子化合物とを含む溶液を支持体上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、前記キャスト膜に加湿風を送り、前記キャスト膜の周辺の露点TD(単位;℃)から前記キャスト膜の表面温度TS(単位;℃)を減じた値をΔTとするとき、ΔT>0の条件下で前記キャスト膜上に結露させて水滴を形成し、前記水滴を成長させて該水滴を前記キャスト膜内に配置する水滴形成・成長工程と、前記水滴形成・成長工程を経た後に、前記キャスト膜に加湿風を送り、−3℃<ΔT<3℃の条件下で前記キャスト膜の前記水滴に配列不規則性を付与する配列不規則性付与工程と、前記配列不規則性付与工程の後に、前記露点TDと前記温度TSとがTD<TSの条件を満たして前記水滴を前記キャスト膜から蒸発させる水滴蒸発工程とを有することを特徴とする。
【0010】
また、前記配列不規則性付与工程は、前記加湿風の風速Vが0(m/s)<V<1.0(m/s)の範囲で行われることを特徴とする。また、前記水滴形成・成長工程及び配列不規則付与工程は、前記キャスト膜の単位面積当たりの前記水滴による被覆率を60%以上95%以下の範囲内にすることを特徴とする。また、前記水滴形成・成長工程及び配列不規則付与工程は、前記水滴の直径を0.1μm以上100μm以下の範囲内にすることを特徴とする。前記水滴形成・成長工程は、前記加湿風の送風により、3℃≦ΔT≦30℃の条件下で前記キャスト膜上に結露させて水滴を形成する水滴形成工程と、前記水滴形成工程の直後に、前記加湿風の送風により、0℃<ΔT≦10℃の条件下で前記水滴を成長させ、かつ前記有機溶媒を前記キャスト膜から蒸発させる水滴成長工程とを有することを特徴とする。前記配列不規則性付与工程は、前記キャスト膜の粘度が1×10−3Pa・s以上1Pa・s以下の状態で行い、前記キャスト膜をおく時間を30秒以上20分以内とすることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の多孔フィルムは、微細孔の径D1が0.1μm以上100μm以下であり、前記微細孔の単位面積当たりの被覆率が60%以上95%以下の範囲内にあり、前記微細孔の隣接するものとの中心間距離(ピッチ)P1が微細孔の平均径D1に対し、k1・D1<P1<k2・D1(k1=1.05、k2=4)の範囲でばらついて、前記微細孔の配列性が不規則にされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフィルムの製造方法によれば、孔の配列規則性を緩和し、ランダム性を有する多孔フィルムを安定的に製造することができる。また、本発明の孔の配列規則性が緩和されたランダム性を有するフィルムによれば、反射防止フィルムなどの光学フィルムとしたときにフィルム表面にギラギラ感がなく、また、細胞培養フィルムとしたときに細胞によっては、培養効率を上げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に示すように、フィルム製造工程10は、キャスト工程12と、水滴形成・成長工程14と、配列不規則性付与工程15と、水滴蒸発工程16とを有し、これら各工程12〜16を経ることにより、多孔フィルム17が得られる。
【0014】
キャスト工程12では、後述の溶液を支持体21(図2参照)の上にキャスト(流延)し、キャスト膜22を形成する。キャストは、静置した支持体上に溶液を載せて塗り広げる方法と、走行する支持体上に溶液を流延ダイから流出する方法とがあり、本発明ではいずれの方法も用いることができる。前者は少ない生産量で多品種をつくる場合、すなわち少量多品種生産の場合に一般には適し、後者は大量生産に一般には適する。なお、後者の方法では、連続的に溶液を流出すると長尺の多孔フィルムをつくることができるし、断続的に溶液を流出、つまり所定の時間で流延ダイからの流出のオン・オフを繰り返すと、所定長さの多孔フィルムを複数枚連続して製造することができる。
【0015】
水滴形成・成長工程14では、先ず図2(A),(B)に示すように、加湿風をキャスト膜22に送風することによりキャスト膜22に結露させる。このとき生じた水滴25は、極めて小さく、肉眼で認めることができないような大きさである。次に、水滴25をゆっくり成長させる。この水滴成長では、結露により発生した極めて小さな水滴を複数合体させて水滴を大きくすることを目的とするが、キャスト膜22の温度やキャスト膜22の周辺の条件次第では、水滴形成時に発生した極めて小さな各水滴が核となってそれぞれ大きくなる現象が見られる場合もある。この水滴成長の間と後との少なくともいずれか一方では、キャスト膜22に含まれている溶媒26を蒸発させる。これにより、水滴25は図2(C)に示すようにキャスト膜22の中に入り込む。なお、水滴25に代えて、他の液滴としてもよい。
【0016】
そして、水滴25が略最密充填状態となったところで、配列不規則性付与工程15で、図2(D)に示すように、水滴25の一部を蒸発させ、これによる水滴サイズの縮小化により、略最密充填状態を緩和させ、各水滴間ピッチp1を不揃いにすることができる。
したがって、この状態で、後の水滴乾燥工程で、水滴を鋳型として乾燥することにより、図3に示すように、孔間ピッチP1が不揃いとなった多孔フィルム17が得られる。
【0017】
配列不規則性付与工程15では、キャスト膜の粘度が1×10−3Pa・s以上1Pa・s以下の状態で行い、第3エリアに前記キャスト膜をおく時間を30秒以上20分以内とする。キャスト膜の粘度が1Pa・sを越えると、流動性が低いため、水滴が固定化されてしまい、配列の不規則化が困難となり、好ましくない。また、第3エリアにキャスト膜をおく時間が30秒未満であると、不規則化が不十分となり、20分を越えると、鋳型となる水滴が消滅してしまう場合がある。
【0018】
水滴蒸発工程16では、図2(E)に示すようにキャスト膜22中の水滴25を水蒸気27として蒸発させる。キャスト膜22の中に溶媒26が残留していた場合には、できるだけ多くの溶媒26を蒸発させた後に水滴25を蒸発させるような条件とする。このようにして、支持体21の上に多孔フィルム17を形成することができる。支持体21が使用するときに不要なものであれば、多孔フィルム17を形成後または形成中に剥がすとよい。
【0019】
本発明の多孔フィルムの概略を示す図3において、支持体21(図2参照)から剥がした多孔フィルム17は、非常に多くの孔が密に形成されている。孔31は、(A)に示すように多孔フィルム17の内部に形成される。孔31は略円形であり、各孔のピッチP1は不揃いとなっている。孔31は、(B)に示すように、多孔フィルム17の両面を突き抜けるように形成される場合もあるし、図示は省略したが、片面側に窪みとして形成される場合もある。なお、孔31及び窪みは互いに連通していてもよく、または連通することなく単独で配置されていてもよい。
【0020】
本発明により製造される多孔フィルム17の厚みは特に限定されるものではないが、例えば、厚みL1が0.05μm以上100μm以下の多孔フィルム17を製造する場合や、孔31の径D1が0.05μm以上100μm以下、隣りあう孔31の中心間距離P1が0.1μm以上120μm以下であるような多孔フィルム17を製造する場合に特に効果がある。
【0021】
孔径D1は、0.1〜100μmの範囲でバラツキがあり、ピッチP1は0.1〜400μmの範囲でバラツキがある。このバラツキ量は孔径D1の平均値に対し、±25%以下が好ましく、より好ましくは±15%である。また、ピッチP1の数値範囲は、ピッチP1の平均値に対し±25%以下が好ましく、より好ましくは±15%である。
【0022】
以下、本発明の多孔フィルム17の製造方法について説明する。多孔フィルム17は高分子化合物と両親媒性化合物とを含む。両親媒性化合物は親水性をもつと共に親油性をもち、具体的には、親水基と疎水基をもつ化合物である。高分子化合物が両親媒性をもつものであるときには、高分子化合物と他の両親媒性化合物とを併用しなくてもよい。また、両親媒性をもつとはいえないような高分子化合物を用いる場合には、高分子化合物と両親媒性化合物とを併用することが好ましい。
【0023】
多孔フィルム17の主たる成分としての高分子化合物は、用途等に応じて決定することができるが、その数平均分子量(Mn)が10,000〜10,000,000であるものが好ましく、50,000〜1,000,000であるものがより好ましい。
【0024】
前記疎水性ポリマーとしては、特に制限はなく、公知のものの中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ビニル重合ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロペン、ポリビニルエーテル、ポリビニルカルバゾール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルカルバゾール、ポリテトラフルオロエチレンなど)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリ乳酸など)、ポリラクトン(例えばポリカプロラクトンなど)、ポリアミド又はポリイミド(例えば、ナイロンやポリアミド酸など)、ポリウレタン、ポリウレア、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアロマティックス、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリシロキサン誘導体、セルロースアシレート(トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート)などが挙げられる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、膜強度、弾性等の観点から、必要に応じてホモポリマーとしてもよいし、コポリマーやポリマーブレンドの形態をとってもよい。なお、これらのポリマーは必要に応じて2種以上のポリマーの混合物として用いてもよい。光学用途に使う場合には、例えば、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンなどが好ましい。
【0025】
また、両親媒性をもつ高分子化合物の例としてはポリアクリルアミドがある。その他の両親媒性高分子化合物としては、ポリアクリルアミドを主鎖骨格とし、親油性側鎖としてドデシル基、親水性側鎖としてカルボキシル基を併せ持つもの、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコールブロックコポリマーなどが挙げられる。親油性側鎖は、アルキレン基、フェニレン基等の非極性直鎖状基であり、エステル基、アミド基等の連結基を除いて、末端まで極性基やイオン性解離基などの親水性基を分岐しない構造であることが好ましい。親油性側鎖は、例えば、アルキレン基を用いる場合には5つ以上のメチレンユニットからなることが好ましい。親水性側鎖は、アルキレン基等の連結部分を介して末端に極性基やイオン性解離基、又はオキシエチレン基などの親水性部分を有する構造であることが好ましい。
【0026】
高分子化合物と混合して用いられる両親媒性化合物としては、市販される多くの界面活性剤のような単量体の他に、二量体や三量体等のオリゴマー、高分子化合物を用いることができる。両親媒性化合物を高分子化合物と混合することにより、キャスト膜の露出面に水滴を形成しやすくなる。また、高分子化合物に対する分散状態を制御することにより、水滴が形成される位置をより容易に制御することができる。高分子化合物と両親媒性化合物とを混合して用いる場合には、高分子化合物の重量に対する両親媒性化合物の重量の割合は0.1%以上20%以下の範囲とすると、形成される水滴の大きさが均一となりやすいので、孔が均一であるフィルムを得やすくなる。高分子化合物の重量に対する両親媒性化合物の重量の割合が0.1%未満であると、両親媒性化合物の添加効果がほとんどなく、形成される水滴が不安定で大きさが不均一となる場合がある。一方、高分子化合物の重量に対して低分子である両親媒性化合物の重量の割合を20%よりも大きくすると、多孔フィルムの強度が下がることがある。
【0027】
高分子化合物と混合される両親媒性化合物については、(親水基の数):(疎水基の数)が0.1:9.9〜4.5:5.5であることが好ましい。これにより、より細かな水滴をより密に、キャスト膜22の上に形成することができる。(親水基の数):(疎水基の数)が上記範囲に含まれない場合には、孔の大きさが大きくばらつき、具体的には、{(孔の径の標準偏差)/(孔の平均値)}×100で示される孔径変動係数(単位;%)が10%以上になる場合がある。また、(親水基の数):(疎水基の数)が上記範囲に含まれない場合には、孔の配列の規則性が乱れる場合がある。
【0028】
互いに異なる2種以上の両親媒性化合物を用いると水滴の形成位置、水滴の大きさを制御することができるので好ましい。また、高分子化合物についても、互いに異なる2種以上の化合物を用いることにより同様の効果を得ることができる。
【0029】
溶液の溶媒となる溶剤は、疎水性かつ高分子化合物を溶解させるものであれば、特に限定されない。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼン、四塩化炭素、1−ブロモプロパンなど)、シクロヘキサン、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。これらのうち複数の化合物が溶媒として併用されてもよい。また、これらの化合物の単体又は混合物に、アルコールやケトン類等の親水性溶剤を20%以下程度の少量添加されたものを用いてもよい。
【0030】
溶剤として互いに異なる2種以上の化合物を用い、その割合を適宜変えて用いることにより、水滴の形成速度、及び水滴のキャスト膜22への入り込み深さ等を制御することができる。
【0031】
溶液については、有機溶媒100重量部に対し高分子化合物が0.02重量部以上20重量部以下とすることが好ましい。これにより、生産性良く高品質の多孔フィルムを製造することができる。有機溶媒100重量部に対し高分子化合物が0.02重量部未満であると、溶液における溶媒割合が大きすぎて蒸発に要する時間が長くなるので、フィルムの生産性が悪くなり、一方、20重量%を超えると、結露で発生した水滴がキャスト膜中の溶液を変形できず、そのため不均一な凹凸が形成された多孔フィルムになってしまうことがある。
【0032】
溶液については、その粘度を高くするほど結露で発生した水滴の移動性が悪くなり、低くするほど水滴同士が結合して合体してしまい、孔径が不均一になってしまう傾向がある。そして、この粘度を0.1mPa・s以上50mPa・s以下の範囲にすると、より均一な孔をもつ多孔フィルムを製造することができる。したがって、所望の孔径や配列をある一定範囲内にした水滴の略最密充填状態とするためには、上記粘度範囲にすることが好ましい。溶液の粘度が0.1mPa・s未満であると、任意の水滴が連結してしまい、孔径や配列を所望の範囲内に制御することが困難になる。また、50mPa・sよりも大きいと、水滴が膜中に潜り込めずに、多孔フィルムを形成することができなくなる。また、水滴の配列が乱れてしまい、同じく水滴を形成することができなくなる。
【0033】
多孔フィルムの製造設備41の概略を示す図4において、溶液42は、フィルム製造設備41に送られる前に、予めろ過されており、これにより多孔フィルム17への異物混入を防止することができる。ろ過は複数回実施することが好ましい。例えばろ過を2回実施するときには、上流側のろ過装置(図示せず)には、多孔フィルム17の孔の径よりも大きな絶対ろ過精度(絶対ろ過孔径)をもつフィルタが備えられ、下流側のろ過装置(図示せず)には、多孔フィルム17の空隙よりも小さな絶対ろ過精度をもつフィルタが備えられることが好ましい。
【0034】
キャスト工程12、水滴形成・成長工程14、配列不規則性付与工程15、水滴蒸発工程16は、いずれも流延室43で実施される。流延室43で気体となった溶媒は、回収装置(図示せず)で回収された後に、流延室43の外に備えられる再生装置(図示せず)で再生されて再利用に供される。
【0035】
本実施形態では、流延室43に隔壁43aを設けることで、第1〜第5エリア44〜48の5つの部屋に分けており、第1エリア44には流延ダイ56と水滴形成用の送風吸引ユニット61が、第2エリアには水滴成長用の送風吸引ユニット63,64が、第3エリアには配列不規則性付与用の送風吸引ユニット65が、第5エリア48には溶媒蒸発及び水滴蒸発用の送風吸引ユニット71〜74がそれぞれ配置されている。第4エリア47には送風吸引ユニットが設けていないが、この第4エリア47にも、溶媒蒸発用の送風吸引ユニットを配置してもよい。なお、エリアの分割数は図示例のものに限定されるのではなく、複数であればよい。
【0036】
支持体として用いる流延ベルト51はローラ52,53に掛け渡され、流延ダイ56は流延ベルト51の上方に備えられる。ローラ52,53のうち、少なくとも一方は図示しない駆動装置により回転し、これにより流延ベルト51は連続走行する。また、ローラ52,53は、温調機54により温度を調整され、ローラ52,53に接触する流延ベルト51が温度制御される。
【0037】
流延ベルト51は、熱伝導率kと厚みLとが、100W/(m・K)≦k/L≦100000W/(m・K)の条件を満たすものであることが好ましい。厚みLは0.05mm以上10mm以下であることが好ましい。これにより、より速く、より精緻な温度制御が可能になる。特に、キャスト膜22の周辺空気の条件制御を瞬時に変化させられない場合にはこのような流延ベルト51が有効である。
【0038】
なお、流延ベルト51の上に、さらに第二の支持体としての平板部材もしくは可撓性のあるシート(フレキシブルシート)を配し、この第2の支持体の上にキャスト膜を形成してもよい。一方、流延ベルト51に代えて、平板部材やフレキシブルシートとし、これらがそれぞれペルチェモジュールを備えるものが好ましい。これらの平板部材やフレキシブルシートを、温度制御可能であって水平面をもつ部材上に配することにより、平板部材毎あるいはフレキシブルシート毎に高精度に温度を制御することができる。
【0039】
第1エリア44では、流延ダイ56から溶液42が流出されると、流延ベルト51の上にキャスト膜22が形成される。また、キャスト膜22の走行路の上方には送風吸引ユニット61が設けられている。送風吸引ユニット61は、加湿空気をキャスト膜22の近傍で流し出す送風口61aと、キャスト膜22の周辺気体を吸排気する吸気口61bとを有するとともに、送風系における風の温度、露点、湿度、風速、吸気系における吸引力を独立して制御する送風コントローラ(図示せず)を備える。送風口61aには、塵埃度、つまり加湿空気の清浄度を保つためのフィルタが備えられる。送風吸引ユニット61は流延ベルト51の走行方向に複数並べて設けられてもよい。
【0040】
ここで、送風口61aからの風の露点(第1露点)をTD1とするとき、TD1−TSで求められる値を第1温度差ΔT1とする。第1温度差ΔT1が下記の式(1)を満たすように、表面温度TSと第1露点TD1との少なくともいずれか一方を制御する。なお、キャスト膜22の表面温度TSは、例えば、市販される赤外式温度計等の非接触式温度測定手段をキャスト膜22の近傍に設けて測定することができる。第1温度差ΔT1が3℃未満であると、水滴が発生しにくく、一方、第1温度差ΔT1が30℃よりも大きいと水滴が急激に発生してしまい、水滴の大きさが不均一になったり、水滴が2次元、つまり平面に並ばずに3次元に重なってできてしまうことがある。なお、第1エリア44においては、第1温度差ΔT1は大きな値から小さい値に変化させることが好ましい。これにより、水滴の発生速度や発生する水滴の大きさをコントロールすることができ、2次元、つまりキャスト膜22の面方向に径が均一な水滴を形成することができる。
3℃≦ΔT1≦30℃・・・(1)
【0041】
第1エリア44においては、キャスト膜22の表面温度TSは、流延ベルト51と、この流延ベルト51に対向して配された温度制御板60とにより制御されるが、いずれか一方により制御されてもよい。また、第1露点TD1については、送風吸引ユニット61から出される加湿空気の条件を制御することにより制御される。
【0042】
第2エリア45には、2つの送風吸引ユニット63,64がキャスト膜22の走行路に沿って順に配される。上流側の送風吸引ユニット63は、第1エリア44の送風吸引ユニット61のすぐ下流側とされる。これは第1エリア44で形成された水滴を、一様に成長させるためである。第1エリア44と第2エリア45とが互いに離れるほど、つまり水滴を形成してから第2エリア45に入るまでの時間が長くなるほど、成長し終えたときの水滴の大きさが不均一になってしまう。送風吸引ユニット63,64の数は、本実施形態の数、つまり2に限定されず、1または3以上であってもよい。送風吸引ユニット63,64は、送風吸引ユニット61と同じものとしているがこれに限定されない。
【0043】
第2エリア45では、第2温度差ΔT2(=TD2−TS)が下記の式(2)を満たすように、表面温度TSと第2露点TD2との少なくともいずれか一方を制御する。表面温度TSの制御は、主に温度制御板60によりなされる。この温度制御板60は、第1エリア44の温度制御板60と基本的には同一の構造であり、流延ベルト51の走行方向に沿って温度を変化させることができる。また、第2露点TD2の制御は送風口63aからの加湿空気の条件制御によりなされる。なお、この第2エリア45においては、キャスト膜22の表面温度TSは、上記と同様な温度測定手段をキャスト膜22の近傍に設けて測定することができる。
【0044】
第2エリア45の条件をこのように設定することにより、水滴をゆっくり成長させて毛管力により水滴の配列を促し、略均一な水滴を密に形成することができる。第2温度差ΔT2が0℃以下の場合には、水滴の成長が不十分で密な状態に形成せず、孔の形状や大きさ及び多孔フィルムにおける孔の配列が不均一となることがある。また、第2温度差ΔT2が10℃よりも大きいと、水滴が局所的に多層化、つまり三次元的に形成され、孔の形状や大きさ及び多孔フィルムにおける孔の配列が不均一となることがある。
0℃<ΔT2≦10℃・・・(2)
【0045】
水滴を成長させている間に、できるだけ多くの溶媒をキャスト膜22から蒸発させることが好ましい。第2エリア45における表面温度TSと第2露点TD2とを上記範囲にすることにより、溶媒を十分に蒸発させるとともに、急激な蒸発を抑制することができる。また、水滴を蒸発させずに溶媒だけを選択的に蒸発させることが好ましい。したがって、溶媒としては、同温同圧下において水滴よりも蒸発速度が速いものが好ましい。これにより、溶媒の蒸発に伴い水滴がキャスト膜22の内部に入り込むことがより容易になる。
【0046】
なお、本実施形態では、第1エリア44と第2エリア45との二つのエリアを用い、異なる温度条件で、各温度差ΔT1,ΔT2となるように設定して、水滴形成・成長工程を構成しているが、これに限らず、水滴形成・成長工程を、一つの温度差ΔT1で温度制御してもよい。
【0047】
第3エリア46では、1つの送風吸引ユニット65がキャスト膜22の走行路に沿って配される。送風吸引ユニット65は、第2エリア45の送風吸引ユニット64のすぐ下流側とされる。これは第2エリア45で形成された略最密充填された水滴からその一部を蒸発させて、水滴を縮小させるためである。なお、送風吸引ユニット65の数は、1またはそれ以上であってもよい。また、送風吸引ユニット65は、送風吸引ユニット61と同じものとしているがこれに限定されない。
【0048】
第3エリア46では、第3温度差ΔT3(=TD3−TS)が下記の式(3)を満たすように、第2エリア45と同様にして、表面温度TSと第3露点TD3との少なくともいずれか一方を制御する。表面温度TSの制御は、主に温度制御板60によりなされる。また、第3露点TD3の制御は送風口65aからの加湿空気の条件制御によりなされる。
−3℃<ΔT3<3℃・・・(3)
【0049】
なお、ΔT3が−3℃以下であると、水滴が消失してしまい多孔フィルムが得られなくなり、逆にΔT3が+3℃以上であると、配列規則性の緩和が不十分となる。第3エリア46においては、表面温度TSは第3露点TD3と略同等であることが望ましい。加湿風の風速Vは、0(m/s)<V<1.0(m/s)の範囲内とする。好ましくは、0.01(m/s)<V<0.5(m/s)であり、より好ましくは、0.02(m/s)<V<0.3(m/s)である。なお、風速Vが0となると、水滴が消失してしまい多孔フィルムが得られなくなる。また、風速Vが1.0(m/s)以上となると溶液表面に形成された水滴が乱されスジ状のムラが形成されることがあり、好ましくない。
【0050】
ここで、水滴の略最密充填状態とは、最密充填状態の一歩前の状態を云う。最密充填状態では、水滴はサイズが同じになり、且つ各水滴間距離も一定となり、平面から見て6方最密充填状態(ハニカム構造)となる(図5(A)参照)。また、略最密充填状態では、各水滴サイズがほぼ一定であるが、孔のピッチが不揃いとなり、最密充填構造がくずれている。この略最密充填状態は、単位面積当たりの水滴充填個数が最密充填状態に対して60〜95%になっている状態を云う(図5(B)参照)。この各水滴の一部を蒸発させることで、各水滴が小さくなる。また、水滴の一部が蒸発して小さくなる際に、各水滴間に隙間ができ、この隙間が不揃いとなることから、水滴の形状が球から、この球が歪んだ状態となり、しかも水滴がこの隙間の変動により移動するため、各水滴間距離であるピッチも不揃いになる。
【0051】
図5は配列不規則性付与工程における水滴状態を説明するためのものであり、乾燥後の多孔フィルムを電子顕微鏡で見たときの写真である。(A)は、最密充填状態を経た後に本発明の配列不規則性付与工程を行うことなく水滴を乾燥させたものであり、六方最密充填構造を有する多孔フィルムを示している。また、(B)は、略最密充填状態で本発明の配列不規則性付与工程を行い、各水滴のサイズ及びピッチを不揃いにした本発明の多孔フィルムを示している。この写真からも明らかなように、本発明では、ピッチが不揃いとなっており、この不揃いの状態は水滴を乾燥させる前も略同じパターンになっているものと推察される。
【0052】
第5エリア48には、4つの送風吸引ユニット71〜74がキャスト膜22の走行路に沿って順に配される。送風吸引ユニットの数は、本実施形態の数、つまり4に限定されず、1以上であればよい。送風吸引ユニット71〜74は、送風吸引ユニット61と同じものとしているがこれに限定されない。この第5エリア48では、水滴の蒸発を抑えた状態で溶媒の乾燥を促進させ、水滴による鋳型が保持されてキャスト膜の溶媒を蒸発させ、その後に、水滴を蒸発させて多孔フィルム17とする。
【0053】
第5エリア48において、第4露点TD4から表面温度TSを減じた温度差ΔT4(=TD4−TS)が下記の式(4)を満たすように、表面温度TSと第4露点TD4との少なくともいずれか一方を制御する。表面温度TSの制御は、主に温度制御板76によりなされる。また、露点制御は送風口63aからの乾燥空気の条件制御によりなされる。なお、この第5エリア48においては、キャスト膜22の表面温度TSは、上記と同様な温度測定手段をキャスト膜22の近傍に設けて測定することができる。第5エリア48の条件をこのように設定することにより、水滴の成長を止めて蒸発させ、不規則性が付与された多孔フィルム17を製造することができる。TS≦TD4とすると、水滴の上にさらに結露して、形成された多孔構造を破壊してしまうことがある。
0>ΔT4・・・(4)
【0054】
第5エリア48では、水滴の蒸発を主たる目的としているが、第4エリア47に至るまでに蒸発しきれなかった溶媒も蒸発させる。
【0055】
第5エリア48における水滴の蒸発工程では、送風吸引ユニット71〜74に代えて減圧乾燥装置や、いわゆる2Dノズルを用いてもよい。減圧乾燥を行うことで、溶媒と水滴との蒸発速度をそれぞれ調整することがより容易になる。これにより、有機溶媒の蒸発と水滴の蒸発とをより良好にし、水滴をより良好にキャスト膜22の内部に形成することができるので、前記水滴が存在する位置に、大きさ、形状が制御された孔31を形成することができる。なお、前記2Dノズルとは、風を出す給気ノズル部材と、キャスト膜22近傍の空気を吸い込む排気用ノズル部材とをもつものである。この2Dノズルとしては、キャスト面全幅に渡り、均一に給気と排気とを行えるものが好ましい。なお、流延ベルト51の温度は、第1エリア44から第5エリア48まで徐々に上昇させることが好ましい。これにより、蒸発速度を制御して多孔構造を壊すことなく効率的に溶媒を蒸発させることができる。この温度上昇は、0.005℃/秒以上3℃/秒以下の範囲で実施することが好ましい。
【0056】
フィルム製造設備41は、さらに、キャスト膜22を流延ベルト51から剥ぎ取る際に、流延ベルト51から剥離した多孔フィルム17を支持する剥取ローラ57を備え、多孔フィルムは次工程に送られる。次工程とは、例えば、多孔フィルム17に種々の機能を施すための機能付与工程や、多孔フィルム17をロール状に巻き取る巻取工程等である。
【0057】
本発明において、送風吸引ユニット61,63,64からの加湿空気の送風速度は、キャスト膜22の移動速度、つまり流延ベルト51の走行速度との相対速度が0.05m/秒以上2m/秒以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.1m/秒以上1.5m/秒以下の範囲であり、最も好ましくは0.1m/秒以上1.0m/秒以下の範囲である。前記相対速度が0.05m/秒未満であると、水滴に不均一性が付与されないうちに、キャスト膜22が第5エリア48(図4参照)に導入されてしまうことがある。一方、前記相対速度が2m/秒を超えると、キャスト膜22の露出面が乱れたり、結露が充分に進行しなかったりするおそれがある。
【0058】
なお、支持体として各種機能材料からなるフィルムを用いて、多孔フィルムと機能材料からなるフィルムとを積層した多孔質複層フィルムを製造することができる。
【0059】
また、水滴形成工程と水滴成長工程とを連続させて行うことにより、水滴形成・成長工程を構成したが、これらは、個別の工程として、二つの工程に分けて行ってもよい。水滴形成工程では、加湿風の送風により、3℃≦ΔT≦30℃の条件下でキャスト膜上に結露させて水滴を形成する。そして、この水滴形成工程の直後に、水滴成長工程で、前記加湿風の送風により、0℃<ΔT≦10℃の条件下で水滴を成長させ、かつ有機溶媒を前記キャスト膜から蒸発させる。
【0060】
本実施形態では、連続的に溶液42を流延することにより、長尺の多孔フィルム17を製造する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、溶液42を断続的に流延して、シート状の多孔フィルムを次々に製造する場合も含まれる。図6は、他の実施形態であるフィルム製造設備の要部概略図である。なお、図4と同じ作用の装置、部材については図4と同じ符号を付す。
【0061】
シート状の多孔フィルムを製造するフィルム製造設備81は、溶液42を支持体85に流延して結露させる第1エリア86と、水滴を成長させて溶媒を蒸発させる第2エリア87と、水滴の一部を蒸発させて各水滴のサイズやピッチを不揃いにする第3エリア88と、水滴を蒸発させる第4エリア89とを有する。
【0062】
第1エリア86では、支持体85が搬送されながら流延ダイ56から溶液42が流延され、キャスト膜91が形成される。そして、キャスト膜91が形成された支持体85は搬送ベルト92により下流側に搬送されて、結露により水滴が形成される。その後、水滴が形成されたキャスト膜91は、支持体85とともに搬送ベルト92により第2エリア87に搬送される。第2エリア87では、水滴が成長する。その後、水滴が内部に入り込んだキャスト膜91は、第3エリア88に搬送されて、各水滴の一部が蒸発され、各水滴間のピッチが不揃いになる。その後、各水滴に不均一性が付与されたキャスト膜91は、第4エリア89に搬送されて、水滴の蒸発が行われる。このように、各エリア86〜89での各処理を支持体単位で実施し、間欠的に支持体85を搬送することにより、シート状の多孔フィルムを製造することができる。なお、第1〜第4エリア86〜89による温度条件や送風条件などは第1実施形態と同様にして行われる。
【0063】
また、流延ダイ56よりも流延幅を狭くした流延ダイを、支持体の幅方向に複数ならべて、幅が小さなキャスト膜を形成することもできる。さらに、流延工程における支持体の搬送を、より短い時間間隔で間欠的にすることにより、より小さなキャスト膜を支持体上に複数形成することもできる。また、流延ダイの溶液の流出口を幅方向で複数に仕切り、溶液42を断続的に流延することにより、短冊状の多孔フィルムを次々と製造することもできる。
【0064】
なお、上記実施形態では、孔の配列不規則性を上げるようにしたが、これに加えて、孔のサイズも不均一になるようにしてもよい。この場合には、例えば、最密充填状態の直前で、水滴25からの水分蒸発を優先させる。このとき各水滴25は直径d1が略均一となる前の状態であり、水滴のサイズがばらついた状態になっている。この状態で水滴25の水分の蒸発を優先して、水滴25のサイズ縮小化を図ることで、水滴25のサイズのばらつきが促進される。また、水滴25のサイズのばらつきが促進されて、各水滴間ピッチp1にもばらつきが生じると、このばらつきに応じてキャスト膜22内で各水滴25が移動したり変形したりする。これにより、各水滴25間のピッチp1のばらつきが促進される。これら水滴25の直径d1及び水滴間ピッチp1のばらつきが促進される結果、水滴25の形状、直径d1、ピッチp1が不揃いになり、配列規則性が低下する。この状態で、後の水滴乾燥工程で、水滴を鋳型として乾燥することにより、図7に示すように、孔31のサイズ(直径)D1及び孔間ピッチP1が不揃いとなった多孔フィルム17が得られる。
【0065】
以下、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例1について詳細に説明し、他の実施例2〜4、比較例1,2については、実施例1と条件が異なる部分のみを説明し、実施例1と同じ条件については説明を略す。
【実施例】
【0066】
[実施例1]
フィルムの面方向と厚み方向とに孔が貫通して面方向に配列したハニカム構造をもつフィルムを製造した。高分子化合物としてのポリカーボネート(三菱エンジニアプラスチックス(株)製 ユーピロンH−3000)と、両親媒性化合物であり高分子化合物としてのポリアルキルアクリルアミドと溶媒としてのジクロロメタンとを用意した。ポリアルキルアクリルアミドは、親水基数/疎水基数が2.5/7.5であるものを使用した。ポリカーボネート2.0mg/ミリリットル、ポリアルキルアクリルアミド0.2mg/ミリリットルを溶媒に分散混合し、溶液をつくった。この溶液を流延ベルト51の上にキャストした。なお、キャストに供した溶液の粘度は、1mPa・sである。
【0067】
支持体21を走行させることによりキャスト膜22は第1〜第5エリア44〜48を順次通過させた。各エリア44〜46,48における各ΔTの条件を表1に示すように設定した。実施例1では、水滴形成・成長ゾーン(結露ゾーン)の温度差ΔT1を8℃、配列不規則性付与工程の温度差ΔT2を1℃、風速を0.3m/s、ゾーン滞留時間を3分、乾燥ゾーンの温度差ΔT3を−10℃とした。得られた多孔フィルムの平均孔径は8.3μmであり、その変動係数は7.2%であった。また、配列規則性評価では「X」となった。
【0068】
配列規則性は、レーザー散乱による回折実験により評価した。レーザー(波長672nm、InGaAlP、スポット径約400μm、(株)シグマ光機製)をフィルム面に対し垂直に入射し、回折スポットをスクリーン上に投影した。配列規則性が高い場合、高次の回折スポットが確認される。一方、孔径は均一であるが、配列性が低い場合は、投影されるレーザー光は、多重リングとして確認される。したがって、このレーザー散乱による回析実験結果により、多重リングが観察される場合(孔径は揃っているが、配列規則性が低く、ギラギラ感が少ない)に「X」と評価し、多重リングに代えて回析スポットが観察される場合(配列規則性が高く、ぎらぎら感が多い)に「Y」と評価し、それ以外の場合を「Z」と評価した。
【0069】
[実施例2]
結露ゾーンの温度差ΔT2を5℃、配列不規則性付与工程の温度差ΔT1を3℃、その風速を0.05m/s、このゾーンにおける滞留時間を5分とした以外は実施例1と同じ条件とした。得られた多孔フィルムの平均孔径は5.3μmであり、その変動係数は8.1%であった。また、配列規制性評価では「X」となった。
【0070】
[実施例3]
結露ゾーンの温度差ΔT2を10℃、配列不規則性付与工程の温度差ΔT1を0℃、その風速を1.0m/s、このゾーンにおける滞留時間を20分とした以外は実施例1と同じ条件とした。得られた多孔フィルムの平均孔径は6.7μmであり、その変動係数は7.3%であった。また、配列規則性評価では「X」となった。
【0071】
[実施例4]
結露ゾーンの温度差ΔT2を15℃、配列不規則性付与工程の温度差ΔT1を−3℃、その風速を0.5m/s、このゾーンにおける滞留時間を30秒とした以外は実施例1と同じ条件とした。得られた多孔フィルムの平均孔径は7.0μmであり、その変動係数は8.1%であった。また、配列規制性評価では「X」となった。
【0072】
[比較例1]
結露ゾーンの温度差ΔT2を8℃、配列不規則性付与工程の温度差ΔT1を5℃、その風速を0.2m/s、このゾーンにおける滞留時間を3分とした以外は実施例1と同じ条件とした。得られた多孔フィルムの平均孔径は8.7μmであり、その変動係数は4.9%であった。また、配列規制性評価では「Y」となった。
【0073】
[比較例2]
結露ゾーンの温度差ΔT2を8℃、配列不規則性付与工程の温度差ΔT1を−5℃、その風速を0.5m/s、このゾーンにおける滞留時間を30分とした以外は実施例1と同じ条件とした。得られた多孔フィルムの平均孔径は7.6μmであり、その変動係数は14.0%であった。また、配列規制性評価では「Z」となった。
【0074】
【表1】

【0075】
以上のように、本発明の配列不規則性付与工程を行うことにより、多孔フィルムの孔の配列に不規則性を与えることができる。このようにして得られた多孔フィルム(図5(B)参照)は、反射防止膜として使用する場合に、孔の配列規則性が良好なものに比べてギラギラ感を抑えることができる。また、細胞を培養する場合に、配列規則性が良好な多孔フィルムよりも培養効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るフィルムの製造方法を説明する工程図である。
【図2】本発明に係るフィルムが形成される状態の説明図である。
【図3】(A)は本発明に係るフィルムの平面図、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図である。
【図4】フィルム製造設備の概略図である。
【図5】多孔フィルムの電子顕微鏡写真であり、(A)は本発明の配列不規則性付与工程を行うことなく、第2エリアで水滴を最密充填状態とし、この後に第4エリアで水滴を蒸発させて得られたハニカム構造の多孔フィルムを示しており、(B)は本発明の製造方法により各孔のサイズ・形状、ピッチが不揃いにされた多孔フィルムを示している。
【図6】別の実施形態としてのフィルム製造装置の概略図である。
【図7】(A)は本発明に係る別の実施形態におけるフィルムの平面図、(B)は(A)のb−b線に沿う断面図である。
【符号の説明】
【0077】
10 フィルム製造工程
12 キャスト工程
14 水滴形成・成長工程
15 水滴蒸発工程
17 多孔フィルム
21 支持体
22 キャスト膜
25 水滴
26 溶媒
27 水蒸気
41 フィルム製造設備
42 溶液
46〜48 第1〜第3エリア
51 流延ベルト
61,63,64,71〜74 送風吸引ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒と親水基及び疎水基を有する両親媒性化合物と高分子化合物とを含む溶液を支持体上にキャストしてキャスト膜を形成するキャスト工程と、
前記キャスト膜に加湿風を送り、前記キャスト膜の周辺の露点TD(単位;℃)から前記キャスト膜の表面温度TS(単位;℃)を減じた値をΔTとするとき、ΔT>0の条件下で前記キャスト膜上に結露させて水滴を形成し、前記水滴を成長させて該水滴を前記キャスト膜内に配置する水滴形成・成長工程と、
前記水滴形成・成長工程を経た後に、前記キャスト膜に加湿風を送り、−3℃<ΔT<3℃の条件下で前記キャスト膜の前記水滴に配列不規則性を付与する配列不規則性付与工程と、
前記配列不規則性付与工程の後に、前記露点TDと前記温度TSとがTD<TSの条件を満たして前記水滴を前記キャスト膜から蒸発させる水滴蒸発工程と
を有することを特徴とする多孔フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記配列不規則性付与工程は、前記加湿風の風速Vが0(m/s)<V<1.0(m/s)の範囲で行われることを特徴とする請求項1記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記水滴形成・成長工程及び配列不規則付与工程は、前記キャスト膜の単位面積当たりの前記水滴による被覆率を60%以上95%以下の範囲内にすることを特徴とする請求項1または2記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記水滴形成・成長工程及び配列不規則付与工程は、前記水滴の直径を0.1μm以上100μm以下の範囲内にすることを特徴とする請求項3記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記水滴形成・成長工程は、
前記加湿風の送風により、3℃≦ΔT≦30℃の条件下で前記キャスト膜上に結露させて水滴を形成する水滴形成工程と、
前記水滴形成工程の直後に、前記加湿風の送風により、0℃<ΔT≦10℃の条件下で前記水滴を成長させ、かつ前記有機溶媒を前記キャスト膜から蒸発させる水滴成長工程とを有することを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記配列不規則性付与工程は、前記キャスト膜の粘度が1×10−3Pa・s以上1Pa・s以下の状態で行い、前記キャスト膜をおく時間を30秒以上20分以内とすることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の多孔フィルムの製造方法。
【請求項7】
微細孔の径D1が0.1μm以上100μm以下であり、前記微細孔の単位面積当たりの被覆率が60%以上95%以下の範囲内にあり、前記微細孔の隣接するものとの中心間距離(ピッチ)P1が微細孔の平均径D1に対し、k1・D1<P1<k2・D1(k1=1.05、k2=4)の範囲でばらついて、前記微細孔の配列性が不規則にされていることを特徴とする多孔フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−70700(P2010−70700A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242005(P2008−242005)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】