多孔体コーティング装置およびコーティング多孔体の製造方法
【課題】多孔体とこれを固定する治具との間の逆スパッタに起因する多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能な多孔体コーティング装置およびコーティング多孔体の製造方法を提供する。
【解決手段】低抵抗導電物質からなるターゲット3と、多孔体2を固定する治具4と、低抵抗導電物質からなり治具4と多孔体2との間に介装される介装体5と、治具4に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置6と、を具備するコーティング装置1を用いて、多孔体2の板面2aに低抵抗導電物質からなるコーティング膜8aを形成した後、多孔体2の板面2bに低抵抗導電物質からなるコーティング膜8bを形成する。
【解決手段】低抵抗導電物質からなるターゲット3と、多孔体2を固定する治具4と、低抵抗導電物質からなり治具4と多孔体2との間に介装される介装体5と、治具4に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置6と、を具備するコーティング装置1を用いて、多孔体2の板面2aに低抵抗導電物質からなるコーティング膜8aを形成した後、多孔体2の板面2bに低抵抗導電物質からなるコーティング膜8bを形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体の表面に導電物質をコーティングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池の電極の表面に燃料ガスを均一に拡散するために用いられる多孔体(内部に多数の孔や隙間を有するもの)として、電極との接触抵抗を低減して導電性を向上し、ひいてはエネルギー効率を向上するために、ステンレス等の鉄鋼材料、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の種々の金属材料からなる多孔体の表面に金、銀、銅、プラチナ等の低抵抗の導電物質からなる膜を形成(コーティング)したものは公知となっている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
【0003】
図11に示す如く、従来の多孔体コーティング装置の実施の一形態であるコーティング装置101は板状の多孔体102の板面102a・102bの両面に低抵抗導電物質をコーティングする装置であり、ターゲット103、治具104、電圧印加装置106、真空容器107等を具備する。
ターゲット103は多孔体102の表面にコーティングする低抵抗導電物質からなり、多孔体102の板面に対向する位置に配置される。治具104はターゲット103から所定距離離れた位置に多孔体102を固定するものである。電圧印加装置106は治具104にバイアス電圧を印加するものである。真空容器107は多孔体102、ターゲット103、治具104を内部に収容する容器であり、当該内部を所定の真空度に保持することが可能である。
【0004】
コーティング装置101による低抵抗導電物質のコーティングについて説明する。
コーティング装置101による低抵抗導電物質のコーティングは、(1)多孔体102の板面102aにコーティング膜108aを形成する工程、(2)多孔体102の板面102bにコーティング膜108bを形成する工程、の順に行われる。
(1)では、多孔体102の板面102bを治具104に接触させた状態で固定し、多孔体102の板面102aがターゲット103に対向した状態とする。次に、真空容器107の内部を所定の真空度となるまで真空引きし、アルゴンガスを導入して圧力を調整する。その後、ターゲット103を直流電源にて放電させ、治具104に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体102の板面102aにコーティング膜108aを形成(コーティング)する。所定時間経過後、真空容器107を開放して多孔体102を治具104から取り外す。
(2)では、多孔体102の板面102aを治具104に接触させた状態で固定し、多孔体102の板面102bがターゲット103に対向した状態とする。次に、真空容器107の内部を所定の真空度となるまで真空引きし、アルゴンガスを導入して圧力を調整する。その後、ターゲット103を直流電源にて放電させ、治具104に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体102の板面102bにコーティング膜108bを形成(コーティング)する。
このようにして、板状の多孔体102の板面102a・102bの両面にそれぞれ低抵抗導電物質からなるコーティング膜108a・108bが形成される。
【0005】
しかし、上記方法では、図12に示す如く、コーティング膜108aの表面側に汚染層109aが形成されるとともに、多孔体102の板面102bとコーティング膜108aとの間に汚染層109bが形成される。
汚染層109a・109bはそれぞれコーティング膜108a・108bにおいて治具104を構成する金属元素等を含む部分であり、治具104に所定のバイアス電圧を印加したときに容器内のアルゴンイオン(Ar+)等が多孔体102の内部の孔(空隙)を通過して治具104に衝突することにより、治具104を構成する金属元素等が飛び出して多孔体102側に付着した(逆スパッタされた)ものである。汚染層109bは上記手順(1)において形成され、汚染層109aは上記手順(2)において形成される。
治具104を構成する金属元素等は通常、鉄、ニッケル、クロム等であり、導電性はあるものの、貴金属等の低抵抗導電物質に比べて電気抵抗が大きいものである。また、汚染層109bは板面102bとコーティング膜108aとの間に形成されるために接触抵抗への影響は無いが、汚染層109aはコーティング膜108aの表面に形成されるため、コーティング膜108aの接触抵抗が上昇する原因となる。
【特許文献1】特開2005−32628号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑み、多孔体とこれを固定する治具との間の逆スパッタに起因する多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能な多孔体コーティング装置およびコーティング多孔体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
低抵抗導電物質からなり、前記治具と前記多孔体との間に介装される介装体と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具の表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成したものである。
【0010】
請求項3においては、
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具は低抵抗導電物質からなるものである。
【0011】
請求項4においては、
治具と多孔体との間に低抵抗導電物質からなる介装体を介装した状態で、前記治具に前記多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するものである。
【0012】
請求項5においては、
表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成した治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するものである。
【0013】
請求項6においては、
低抵抗導電物質からなる治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果は、多孔体とこれを固定する治具との間の逆スパッタに起因する多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能であることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、図1および図2を用いて本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態であるコーティング装置1について説明する。
【0016】
図1および図2に示す如く、コーティング装置1は多孔体2の板面2a・2bの両面に低抵抗導電物質をコーティングする(コーティング膜8a・8bを形成する)装置であり、ターゲット3、治具4、介装体5、電圧印加装置6、真空容器7等を具備する。
【0017】
本実施例の多孔体2は燃料電池に用いられるものであり、その外形が板状に形成されたスポンジ状のチタンからなる。
【0018】
「多孔体」は内部に多数の孔または空隙を有するものを広く指し、その用途、材料および形状は実施例たる多孔体2に限定されるものではない。
多孔体を構成する材料の例としては、金属材料(例えば、鉄鋼材料、銅、ニッケル、アルミニウム、チタンあるいはこれらの合金)、セラミックス、樹脂その他の材料が挙げられ、その用途に応じて適宜選択することが可能である。例えば、多孔体を燃料電池に用いる場合には、当該多孔体を耐食性および耐酸化性に優れた材料で構成することが望ましい。
金属材料からなる多孔体の例としては、発泡したもの(金属発泡体)、金属材料からなる線を相互に絡ませ圧力をかけつつ所定の温度で焼結したもの(金属線焼結体)、パンチ孔を多数設けたもの(パンチングメタル)、所定の薬液を用いてエッチングを行うことにより多数の孔を設けたもの(エッチングメタル)等が挙げられる。
多孔体の形状は板状に限定されず、柱状、円盤状、球状その他の形状でも良く、その用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0019】
ターゲット3は低抵抗導電物質からなり、多孔体2の板面2a(または板面2b)に対向する位置に配置される。本実施例のターゲット3はカーボン(C)からなる。
【0020】
「低抵抗」は、後述する治具を構成する通常の材料(例えば、SUS材を構成する材料である鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等)よりも抵抗が低いことを指し、「低抵抗導電物質」は、導電物質(通電し得る物質)のうち、後述する治具を構成する通常の材料(例えば、SUS材を構成する材料である鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等)よりも抵抗が低い物質を指すものとする。
「低抵抗導電物質」には、上記カーボン(C)の他、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)等の貴金属あるいはこれらの合金、錫ドープ酸化インジウム(Tin−doped indium oxide;ITO)や酸化ジルコニア(ZnO)等の低抵抗の酸化物も含まれる。
なお、多孔体を燃料電池に用いる場合には、低抵抗導電物質も多孔体と同様に耐食性および耐酸化性に優れた材料で構成することが望ましい。従って、このような用途に用いる場合には、低抵抗導電物質のうち電気抵抗が大きい酸化物を形成し得るもの(例えば、銅)を用いないことが望ましい。
【0021】
治具4はターゲット3から所定距離となる位置に多孔体2を着脱可能に固定するものである。本実施例の治具4はSUS材からなる。
なお、治具を構成する材料は本実施例のSUS材に限定されず、導電性および強度を有するものであれば他の材料でも良い。
また、治具の形状は固定対象たる多孔体の形状に応じて適宜選択することが可能であり、特定の形状に限定されるものではない。
【0022】
介装体5は低抵抗導電物質からなり、治具4と多孔体2との間に介装されるものである。本実施例の介装体5は薄い板状の金(Au)からなる。
ここで、ターゲットを構成する低抵抗導電物質と介装体を構成する低抵抗導電物質とは同種でも異種でも良く、用途等に応じて適宜選択することが可能である。
【0023】
電圧印加装置6は治具4に接続され、治具4に所定のバイアス電圧を印加するものである。電圧印加装置6は専用品でも良く、市販の電源装置等によって達成しても良い。
なお、バイアス電圧の大きさは多孔体の表面に形成されるコーティング膜を構成する材料(低抵抗導電物質)の種類、多孔体の用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
真空容器7はターゲット3、治具4およびこれに固定された多孔体2を収容する容器であり、真空引きを行うことにより、その内部を所定の真空度となるまで減圧することが可能である。また、真空容器7にはアルゴンガス等を供給することが可能である。
【0025】
以下では、図1、図2および図3を用いて本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態について説明する。
本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態は、コーティング装置1を用いて多孔体2の板面2a・2bにそれぞれ低抵抗導電物質からなるコーティング膜8a・8bをコーティングしたものであるコーティング多孔体10(図2参照)を製造する方法である。
なお、「コーティング多孔体」には、多孔体の表面の全体に低抵抗導電物質がコーティングされたものだけでなく、本実施例の如く多孔体の表面の一部に低抵抗導電物質がコーティングされたものも含まれ、表面の全体にコーティングするか一部にコーティングするかは用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0026】
図3に示す如く、本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態は、第一固定工程S1100、第一コーティング工程S1200、第二固定工程S1300、第二コーティング工程S1400を具備する。
【0027】
第一固定工程S1100は治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2aをターゲット3に対向した状態で治具4に固定する工程である。
本実施例では、第一固定工程S1100において、治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2aをターゲット3に対向した状態で治具4に固定した後、真空容器7の内部を所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整する。
第一固定工程S1100が終了したら、第一コーティング工程S1200に移行する。
【0028】
第一コーティング工程S1200は治具4に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体2の板面2aにコーティング膜8aを形成する工程である。
第一コーティング工程S1200において、電圧印加装置6により治具4に所定のバイアス電圧が印加されると、ターゲット3から低抵抗導電物質(本実施例の場合、カーボン原子(C)やイオン)が飛び出して多孔体2の板面2aに付着する。この付着した低抵抗導電物質により、板面2aにコーティング膜8aが形成される。
【0029】
このとき、真空容器7内部のアルゴンが電離して生じるアルゴンイオン(Ar+)はマイナスに帯電している治具4に引き寄せられ、その一部は多孔体2の内部の孔(または空隙)を通過するが、治具4に直接衝突せずに治具4と多孔体2との間に介装された介装体5に衝突するため、介装体5から飛び出した低抵抗導電物質(本実施例の場合、金(Au)原子)が多孔体2の板面2bに付着する。
所定時間経過後、治具4への所定のバイアス電圧の印加を停止し、真空容器7を開放して治具4から多孔体2を取り外す。
第一コーティング工程S1200が終了したら、第二固定工程S1300に移行する。
【0030】
第二固定工程S1300は治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2bをターゲット3に対向した状態で治具4に固定する工程である。
本実施例では、第一固定工程S1300において、治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2bをターゲット3に対向した状態で治具4に固定した後、真空容器7の内部を所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整する。
第二固定工程S1300が終了したら、第二コーティング工程S1400に移行する。
【0031】
第二コーティング工程S1400は治具4に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体2の板面2bにコーティング膜8bを形成する工程である。
第二コーティング工程S1400において、電圧印加装置6により治具4に所定のバイアス電圧が印加されると、ターゲット3から低抵抗導電物質(本実施例の場合、カーボン原子(C)やイオン)が飛び出して多孔体2の板面2bに付着する。この付着した低抵抗導電物質により、板面2bにコーティング膜8bが形成される。
【0032】
このとき、板面2bには予め介装体5に起因する低抵抗導電物質(Au)が付着しているが、これを覆い隠す形でコーティング膜8bが形成されるため、コーティング膜8bの表面の接触抵抗には影響しない。
また、真空容器7内部のアルゴンが電離して生じるアルゴンイオン(Ar+)はマイナスに帯電している治具4に引き寄せられ、その一部は多孔体2の内部の孔(または空隙)を通過するが、治具4に直接衝突せずに治具4と多孔体2との間に介装された介装体5に衝突するため、介装体5から飛び出した低抵抗導電物質(本実施例の場合、金(Au)原子)が多孔体2の板面2aに形成されたコーティング膜8aの表面に付着する。コーティング膜8aの表面に付着するのはコーティング膜8aと同様に低抵抗導電物質であるため、これに起因してコーティング膜8aの表面の接触抵抗が上昇することはない。
所定時間経過後、治具4への所定のバイアス電圧の印加を停止し、真空容器7を開放して治具4から多孔体2(コーティング多孔体10)を取り外す。
【0033】
以下では、図4、図5および図6を用いて介装体5の有無とコーティング多孔体10の接触抵抗との関係についての実験結果を示す。
【0034】
図4はコーティング装置1を用いて多孔体2の板面2a・2bにコーティング膜8a・8bを形成したときの治具4のバイアス電圧の大きさ(ワークバイアス電圧)と介装体5に起因する低抵抗導電物質(本実施例の場合、金(Au)原子)の多孔体2側への付着量との関係を示すものである。ここで、縦軸の低抵抗導電物質の多孔体2側への付着量(wt%)は、EPMA(Electron Probe Micro−Analyzer;X線マイクロアナライザ)により求めた値である。
図4に示す如く、他の成膜条件が同じである場合には、ワークバイアス電圧が上昇すると、介装体5に起因する低抵抗導電物質の多孔体2側への付着量も増加する傾向にある。
【0035】
図5は介装体5を介装しない場合(介装体無し)、および介装体5を介装した場合(介装体有り)においてワークバイアス電圧を変化させた場合における多孔体2の板面2a・2b側の接触抵抗の実験結果である。当該実験結果のうち、接触抵抗は相対値で表されており、図6に示す測定装置20により求められたものである。
【0036】
図6に示す如く、測定装置20はコーティング膜8a(8b)の接触抵抗を測定するものである。
測定装置20はコーティング多孔体10から所定形状に切り出した試片11を、電極12が多孔体2側に、電極13がカーボンペーパー14を介してコーティング膜8a(8b)側に接触するように挟持し、電極12・13間に所定の荷重を付与した状態で電源15により電極12・13間に所定の電流を流したときの電圧値に基づいて試片11の抵抗値を算出する。コーティング膜8a(8b)の接触抵抗は当該算出された抵抗値に基づいて算出される。
【0037】
図5に示す如く、介装体5を介装しない場合(介装体無し)には、ワークバイアス電圧が1000Vのとき、第1面(先にコーティング膜が形成される方の面であり、コーティング膜8aの表面に相当する)の接触抵抗は、第2面(後でコーティング膜が形成される方の面であり、コーティング膜8bの表面に相当する)の接触抵抗に比べて10倍以上大きい。
これに対して、介装体5を介装した場合(介装体有り)には、ワークバイアス電圧が1000V、750Vおよび500Vのいずれのときも、第1面の接触抵抗と第2面の接触抵抗とが略同じ大きさであり、ワークバイアス電圧が1000V、750Vおよび500Vと変化してもその接触抵抗の大きさはほとんど変化しない。
【0038】
図4および図5の結果から、介装体5を介装してコーティング膜8a・8bを形成することにより治具4に起因する元素が多孔体2側へ付着することによる接触抵抗の上昇が防止されること、および、ワークバイアス電圧の上昇により介装体5に起因する低抵抗導電物質の多孔体2側への付着量は上昇するがコーティング多孔体10のコーティング膜8a・8bの表面の接触抵抗(の上昇)に影響を与えないこと、が分かる。
【0039】
以上の如く、本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態であるコーティング装置1は、
低抵抗導電物質からなるターゲット3と、
多孔体2を固定する治具4と、
低抵抗導電物質からなり、治具4と多孔体2との間に介装される介装体5と、
治具4に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置6と、
を具備するものである。
このように構成することにより、多孔体2とこれを固定する治具4との間の逆スパッタに起因する多孔体2の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能である。
【0040】
なお、本実施例の介装体5は治具4と別体となっているが、本発明はこれに限定されず、介装体を省略し、代わりに治具の表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成する構成としても同様の効果を奏する。
また、介装体を省略し、治具自体が低抵抗導電物質からなる構成としても同様の効果を奏する。
【0041】
さらに、治具およびターゲットを収容する容器の内周面(本実施例の場合、真空容器7の内周面)、および容器内に配置される部材の表面に、予め低抵抗導電物質からなる膜を形成することにより、容器やその他の部材に起因する元素による多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能である。
【0042】
また、本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態は、
治具4と多孔体2との間に低抵抗導電物質からなる介装体5を介装した状態で、多孔体2を治具4に固定する固定工程(本実施例では、第一固定工程S1100および第二固定工程S1300がこれに相当する)と、
低抵抗導電物質からなるターゲット3を直流電源にて放電させ、治具4にバイアス電圧を印加することにより、多孔体2の表面(板面2a・2b)に低抵抗導電物質からなるコーティング膜(8a・8b)を形成するコーティング工程(本実施例では、第一コーティング工程S1200および第二コーティング工程S1400がこれに相当する)と、
からなるものである。
このように構成することにより、多孔体2とこれを固定する治具4との間の逆スパッタに起因する多孔体2の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能である。
【0043】
本発明に係る多孔体コーティング装置は本実施例のコーティング装置1に限定されず、例えば図7および図8に示すコーティング装置31や図9および図10に示すコーティング装置41の如き構成とすることも可能である。
【0044】
図7および図8に示すコーティング装置31は、低抵抗導電物質からなるターゲット33と、多孔体32を固定する治具34と、低抵抗導電物質からなり治具34と多孔体32との間に介装される介装体35と、治具34に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置36と、を具備するものであり、治具34が回転可能となっており、治具34の周面に複数の多孔体32・32・32・32を固定するものである。
このように構成することにより、図1に示すコーティング装置1と比較して、治具34に固定されたときの多孔体32・32・32・32の板面の向きを変えるために真空容器37を開放する回数を削減することが可能であり、生産性が向上する。
【0045】
図9および図10に示すコーティング装置41は、真空容器47の一方の側面に入口扉47a、他方の側面に出口扉47bが設けられるとともに、真空容器47の内部を入口扉47a側と出口扉47b側とに区画する中間扉47cが設けられる。多孔体42は図示せぬ搬送装置に固定され、入口扉47aから真空容器47の内部に搬入され、中間扉47cを経て出口扉47bから搬出される。
真空容器47において入口扉47aと中間扉47cとで区画された空間49aには多孔体42の進行方向に向かって右側にターゲット43が配置され、多孔体42の進行方向に向かって左側に、ターゲット43に対向する面に介装体45が設けられたシールド板44が配置される。
真空容器47において中間扉47cと出口扉47bとで区画された空間49bには多孔体42の進行方向に向かって左側にターゲット43が配置され、多孔体42の進行方向に向かって右側に、ターゲット43に対向する面に介装体45が設けられたシールド板44が配置される。
【0046】
入口扉47aから空間49aに搬入された多孔体42は、ターゲット43とシールド板44の間となる位置に静止し、空間49aを所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整した後、多孔体42に所定のバイアス電圧が印加される。その結果、多孔体42の板面42aには低抵抗導電物質からなるコーティング膜48aが形成される。
同様に、中間扉47cから空間49bに搬入された多孔体42は、ターゲット43とシールド板44の間となる位置に静止し、空間49bを所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整した後、多孔体42に所定のバイアス電圧が印加される。その結果、多孔体42の板面42bには低抵抗導電物質からなるコーティング膜48bが形成される。
このように構成することにより、図1に示すコーティング装置1と比較して、ターゲットに対向する多孔体の面を変えるために治具から多孔体を取り外す必要が無く、生産性が向上する。
なお、本実施例ではシールド板44においてターゲット43に対向する面に低抵抗導電物質からなる介装体45を設ける構成としたが、シールド板44自体を低抵抗導電物質で構成し、介装体45を省略する構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態を示す図。
【図2】本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態により製造されたコーティング多孔体の断面図。
【図3】本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図4】本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態におけるワークバイアス電圧と介装体に起因する元素の多孔体への付着量との関係を示す図。
【図5】介装体の有無およびワークバイアス電圧とコーティング多孔体の接触抵抗との関係を示す図。
【図6】接触抵抗の測定装置を示す図。
【図7】本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示す平面図。
【図8】本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示す側面図。
【図9】同じく本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示す平面図。
【図10】同じく本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示すX−X側面断面図。
【図11】従来の多孔体コーティング装置を示す図。
【図12】従来の多孔体コーティング装置により製造されたコーティング多孔体の断面図。
【符号の説明】
【0048】
1 コーティング装置(多孔体コーティング装置)
2 多孔体
3 ターゲット
4 治具
5 介装体
6 電圧印加装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔体の表面に導電物質をコーティングする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料電池の電極の表面に燃料ガスを均一に拡散するために用いられる多孔体(内部に多数の孔や隙間を有するもの)として、電極との接触抵抗を低減して導電性を向上し、ひいてはエネルギー効率を向上するために、ステンレス等の鉄鋼材料、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン等の種々の金属材料からなる多孔体の表面に金、銀、銅、プラチナ等の低抵抗の導電物質からなる膜を形成(コーティング)したものは公知となっている。例えば、特許文献1および特許文献2に記載の如くである。
【0003】
図11に示す如く、従来の多孔体コーティング装置の実施の一形態であるコーティング装置101は板状の多孔体102の板面102a・102bの両面に低抵抗導電物質をコーティングする装置であり、ターゲット103、治具104、電圧印加装置106、真空容器107等を具備する。
ターゲット103は多孔体102の表面にコーティングする低抵抗導電物質からなり、多孔体102の板面に対向する位置に配置される。治具104はターゲット103から所定距離離れた位置に多孔体102を固定するものである。電圧印加装置106は治具104にバイアス電圧を印加するものである。真空容器107は多孔体102、ターゲット103、治具104を内部に収容する容器であり、当該内部を所定の真空度に保持することが可能である。
【0004】
コーティング装置101による低抵抗導電物質のコーティングについて説明する。
コーティング装置101による低抵抗導電物質のコーティングは、(1)多孔体102の板面102aにコーティング膜108aを形成する工程、(2)多孔体102の板面102bにコーティング膜108bを形成する工程、の順に行われる。
(1)では、多孔体102の板面102bを治具104に接触させた状態で固定し、多孔体102の板面102aがターゲット103に対向した状態とする。次に、真空容器107の内部を所定の真空度となるまで真空引きし、アルゴンガスを導入して圧力を調整する。その後、ターゲット103を直流電源にて放電させ、治具104に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体102の板面102aにコーティング膜108aを形成(コーティング)する。所定時間経過後、真空容器107を開放して多孔体102を治具104から取り外す。
(2)では、多孔体102の板面102aを治具104に接触させた状態で固定し、多孔体102の板面102bがターゲット103に対向した状態とする。次に、真空容器107の内部を所定の真空度となるまで真空引きし、アルゴンガスを導入して圧力を調整する。その後、ターゲット103を直流電源にて放電させ、治具104に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体102の板面102bにコーティング膜108bを形成(コーティング)する。
このようにして、板状の多孔体102の板面102a・102bの両面にそれぞれ低抵抗導電物質からなるコーティング膜108a・108bが形成される。
【0005】
しかし、上記方法では、図12に示す如く、コーティング膜108aの表面側に汚染層109aが形成されるとともに、多孔体102の板面102bとコーティング膜108aとの間に汚染層109bが形成される。
汚染層109a・109bはそれぞれコーティング膜108a・108bにおいて治具104を構成する金属元素等を含む部分であり、治具104に所定のバイアス電圧を印加したときに容器内のアルゴンイオン(Ar+)等が多孔体102の内部の孔(空隙)を通過して治具104に衝突することにより、治具104を構成する金属元素等が飛び出して多孔体102側に付着した(逆スパッタされた)ものである。汚染層109bは上記手順(1)において形成され、汚染層109aは上記手順(2)において形成される。
治具104を構成する金属元素等は通常、鉄、ニッケル、クロム等であり、導電性はあるものの、貴金属等の低抵抗導電物質に比べて電気抵抗が大きいものである。また、汚染層109bは板面102bとコーティング膜108aとの間に形成されるために接触抵抗への影響は無いが、汚染層109aはコーティング膜108aの表面に形成されるため、コーティング膜108aの接触抵抗が上昇する原因となる。
【特許文献1】特開2005−32628号公報
【特許文献2】特開平8−170126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は以上の如き状況に鑑み、多孔体とこれを固定する治具との間の逆スパッタに起因する多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能な多孔体コーティング装置およびコーティング多孔体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
低抵抗導電物質からなり、前記治具と前記多孔体との間に介装される介装体と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備するものである。
【0009】
請求項2においては、
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具の表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成したものである。
【0010】
請求項3においては、
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具は低抵抗導電物質からなるものである。
【0011】
請求項4においては、
治具と多孔体との間に低抵抗導電物質からなる介装体を介装した状態で、前記治具に前記多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するものである。
【0012】
請求項5においては、
表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成した治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するものである。
【0013】
請求項6においては、
低抵抗導電物質からなる治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果は、多孔体とこれを固定する治具との間の逆スパッタに起因する多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能であることである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下では、図1および図2を用いて本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態であるコーティング装置1について説明する。
【0016】
図1および図2に示す如く、コーティング装置1は多孔体2の板面2a・2bの両面に低抵抗導電物質をコーティングする(コーティング膜8a・8bを形成する)装置であり、ターゲット3、治具4、介装体5、電圧印加装置6、真空容器7等を具備する。
【0017】
本実施例の多孔体2は燃料電池に用いられるものであり、その外形が板状に形成されたスポンジ状のチタンからなる。
【0018】
「多孔体」は内部に多数の孔または空隙を有するものを広く指し、その用途、材料および形状は実施例たる多孔体2に限定されるものではない。
多孔体を構成する材料の例としては、金属材料(例えば、鉄鋼材料、銅、ニッケル、アルミニウム、チタンあるいはこれらの合金)、セラミックス、樹脂その他の材料が挙げられ、その用途に応じて適宜選択することが可能である。例えば、多孔体を燃料電池に用いる場合には、当該多孔体を耐食性および耐酸化性に優れた材料で構成することが望ましい。
金属材料からなる多孔体の例としては、発泡したもの(金属発泡体)、金属材料からなる線を相互に絡ませ圧力をかけつつ所定の温度で焼結したもの(金属線焼結体)、パンチ孔を多数設けたもの(パンチングメタル)、所定の薬液を用いてエッチングを行うことにより多数の孔を設けたもの(エッチングメタル)等が挙げられる。
多孔体の形状は板状に限定されず、柱状、円盤状、球状その他の形状でも良く、その用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0019】
ターゲット3は低抵抗導電物質からなり、多孔体2の板面2a(または板面2b)に対向する位置に配置される。本実施例のターゲット3はカーボン(C)からなる。
【0020】
「低抵抗」は、後述する治具を構成する通常の材料(例えば、SUS材を構成する材料である鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等)よりも抵抗が低いことを指し、「低抵抗導電物質」は、導電物質(通電し得る物質)のうち、後述する治具を構成する通常の材料(例えば、SUS材を構成する材料である鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)等)よりも抵抗が低い物質を指すものとする。
「低抵抗導電物質」には、上記カーボン(C)の他、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、プラチナ(Pt)等の貴金属あるいはこれらの合金、錫ドープ酸化インジウム(Tin−doped indium oxide;ITO)や酸化ジルコニア(ZnO)等の低抵抗の酸化物も含まれる。
なお、多孔体を燃料電池に用いる場合には、低抵抗導電物質も多孔体と同様に耐食性および耐酸化性に優れた材料で構成することが望ましい。従って、このような用途に用いる場合には、低抵抗導電物質のうち電気抵抗が大きい酸化物を形成し得るもの(例えば、銅)を用いないことが望ましい。
【0021】
治具4はターゲット3から所定距離となる位置に多孔体2を着脱可能に固定するものである。本実施例の治具4はSUS材からなる。
なお、治具を構成する材料は本実施例のSUS材に限定されず、導電性および強度を有するものであれば他の材料でも良い。
また、治具の形状は固定対象たる多孔体の形状に応じて適宜選択することが可能であり、特定の形状に限定されるものではない。
【0022】
介装体5は低抵抗導電物質からなり、治具4と多孔体2との間に介装されるものである。本実施例の介装体5は薄い板状の金(Au)からなる。
ここで、ターゲットを構成する低抵抗導電物質と介装体を構成する低抵抗導電物質とは同種でも異種でも良く、用途等に応じて適宜選択することが可能である。
【0023】
電圧印加装置6は治具4に接続され、治具4に所定のバイアス電圧を印加するものである。電圧印加装置6は専用品でも良く、市販の電源装置等によって達成しても良い。
なお、バイアス電圧の大きさは多孔体の表面に形成されるコーティング膜を構成する材料(低抵抗導電物質)の種類、多孔体の用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0024】
真空容器7はターゲット3、治具4およびこれに固定された多孔体2を収容する容器であり、真空引きを行うことにより、その内部を所定の真空度となるまで減圧することが可能である。また、真空容器7にはアルゴンガス等を供給することが可能である。
【0025】
以下では、図1、図2および図3を用いて本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態について説明する。
本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態は、コーティング装置1を用いて多孔体2の板面2a・2bにそれぞれ低抵抗導電物質からなるコーティング膜8a・8bをコーティングしたものであるコーティング多孔体10(図2参照)を製造する方法である。
なお、「コーティング多孔体」には、多孔体の表面の全体に低抵抗導電物質がコーティングされたものだけでなく、本実施例の如く多孔体の表面の一部に低抵抗導電物質がコーティングされたものも含まれ、表面の全体にコーティングするか一部にコーティングするかは用途に応じて適宜選択することが可能である。
【0026】
図3に示す如く、本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態は、第一固定工程S1100、第一コーティング工程S1200、第二固定工程S1300、第二コーティング工程S1400を具備する。
【0027】
第一固定工程S1100は治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2aをターゲット3に対向した状態で治具4に固定する工程である。
本実施例では、第一固定工程S1100において、治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2aをターゲット3に対向した状態で治具4に固定した後、真空容器7の内部を所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整する。
第一固定工程S1100が終了したら、第一コーティング工程S1200に移行する。
【0028】
第一コーティング工程S1200は治具4に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体2の板面2aにコーティング膜8aを形成する工程である。
第一コーティング工程S1200において、電圧印加装置6により治具4に所定のバイアス電圧が印加されると、ターゲット3から低抵抗導電物質(本実施例の場合、カーボン原子(C)やイオン)が飛び出して多孔体2の板面2aに付着する。この付着した低抵抗導電物質により、板面2aにコーティング膜8aが形成される。
【0029】
このとき、真空容器7内部のアルゴンが電離して生じるアルゴンイオン(Ar+)はマイナスに帯電している治具4に引き寄せられ、その一部は多孔体2の内部の孔(または空隙)を通過するが、治具4に直接衝突せずに治具4と多孔体2との間に介装された介装体5に衝突するため、介装体5から飛び出した低抵抗導電物質(本実施例の場合、金(Au)原子)が多孔体2の板面2bに付着する。
所定時間経過後、治具4への所定のバイアス電圧の印加を停止し、真空容器7を開放して治具4から多孔体2を取り外す。
第一コーティング工程S1200が終了したら、第二固定工程S1300に移行する。
【0030】
第二固定工程S1300は治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2bをターゲット3に対向した状態で治具4に固定する工程である。
本実施例では、第一固定工程S1300において、治具4と多孔体2との間に介装体5を介装し、多孔体2の板面2bをターゲット3に対向した状態で治具4に固定した後、真空容器7の内部を所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整する。
第二固定工程S1300が終了したら、第二コーティング工程S1400に移行する。
【0031】
第二コーティング工程S1400は治具4に所定のバイアス電圧を印加することにより、多孔体2の板面2bにコーティング膜8bを形成する工程である。
第二コーティング工程S1400において、電圧印加装置6により治具4に所定のバイアス電圧が印加されると、ターゲット3から低抵抗導電物質(本実施例の場合、カーボン原子(C)やイオン)が飛び出して多孔体2の板面2bに付着する。この付着した低抵抗導電物質により、板面2bにコーティング膜8bが形成される。
【0032】
このとき、板面2bには予め介装体5に起因する低抵抗導電物質(Au)が付着しているが、これを覆い隠す形でコーティング膜8bが形成されるため、コーティング膜8bの表面の接触抵抗には影響しない。
また、真空容器7内部のアルゴンが電離して生じるアルゴンイオン(Ar+)はマイナスに帯電している治具4に引き寄せられ、その一部は多孔体2の内部の孔(または空隙)を通過するが、治具4に直接衝突せずに治具4と多孔体2との間に介装された介装体5に衝突するため、介装体5から飛び出した低抵抗導電物質(本実施例の場合、金(Au)原子)が多孔体2の板面2aに形成されたコーティング膜8aの表面に付着する。コーティング膜8aの表面に付着するのはコーティング膜8aと同様に低抵抗導電物質であるため、これに起因してコーティング膜8aの表面の接触抵抗が上昇することはない。
所定時間経過後、治具4への所定のバイアス電圧の印加を停止し、真空容器7を開放して治具4から多孔体2(コーティング多孔体10)を取り外す。
【0033】
以下では、図4、図5および図6を用いて介装体5の有無とコーティング多孔体10の接触抵抗との関係についての実験結果を示す。
【0034】
図4はコーティング装置1を用いて多孔体2の板面2a・2bにコーティング膜8a・8bを形成したときの治具4のバイアス電圧の大きさ(ワークバイアス電圧)と介装体5に起因する低抵抗導電物質(本実施例の場合、金(Au)原子)の多孔体2側への付着量との関係を示すものである。ここで、縦軸の低抵抗導電物質の多孔体2側への付着量(wt%)は、EPMA(Electron Probe Micro−Analyzer;X線マイクロアナライザ)により求めた値である。
図4に示す如く、他の成膜条件が同じである場合には、ワークバイアス電圧が上昇すると、介装体5に起因する低抵抗導電物質の多孔体2側への付着量も増加する傾向にある。
【0035】
図5は介装体5を介装しない場合(介装体無し)、および介装体5を介装した場合(介装体有り)においてワークバイアス電圧を変化させた場合における多孔体2の板面2a・2b側の接触抵抗の実験結果である。当該実験結果のうち、接触抵抗は相対値で表されており、図6に示す測定装置20により求められたものである。
【0036】
図6に示す如く、測定装置20はコーティング膜8a(8b)の接触抵抗を測定するものである。
測定装置20はコーティング多孔体10から所定形状に切り出した試片11を、電極12が多孔体2側に、電極13がカーボンペーパー14を介してコーティング膜8a(8b)側に接触するように挟持し、電極12・13間に所定の荷重を付与した状態で電源15により電極12・13間に所定の電流を流したときの電圧値に基づいて試片11の抵抗値を算出する。コーティング膜8a(8b)の接触抵抗は当該算出された抵抗値に基づいて算出される。
【0037】
図5に示す如く、介装体5を介装しない場合(介装体無し)には、ワークバイアス電圧が1000Vのとき、第1面(先にコーティング膜が形成される方の面であり、コーティング膜8aの表面に相当する)の接触抵抗は、第2面(後でコーティング膜が形成される方の面であり、コーティング膜8bの表面に相当する)の接触抵抗に比べて10倍以上大きい。
これに対して、介装体5を介装した場合(介装体有り)には、ワークバイアス電圧が1000V、750Vおよび500Vのいずれのときも、第1面の接触抵抗と第2面の接触抵抗とが略同じ大きさであり、ワークバイアス電圧が1000V、750Vおよび500Vと変化してもその接触抵抗の大きさはほとんど変化しない。
【0038】
図4および図5の結果から、介装体5を介装してコーティング膜8a・8bを形成することにより治具4に起因する元素が多孔体2側へ付着することによる接触抵抗の上昇が防止されること、および、ワークバイアス電圧の上昇により介装体5に起因する低抵抗導電物質の多孔体2側への付着量は上昇するがコーティング多孔体10のコーティング膜8a・8bの表面の接触抵抗(の上昇)に影響を与えないこと、が分かる。
【0039】
以上の如く、本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態であるコーティング装置1は、
低抵抗導電物質からなるターゲット3と、
多孔体2を固定する治具4と、
低抵抗導電物質からなり、治具4と多孔体2との間に介装される介装体5と、
治具4に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置6と、
を具備するものである。
このように構成することにより、多孔体2とこれを固定する治具4との間の逆スパッタに起因する多孔体2の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能である。
【0040】
なお、本実施例の介装体5は治具4と別体となっているが、本発明はこれに限定されず、介装体を省略し、代わりに治具の表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成する構成としても同様の効果を奏する。
また、介装体を省略し、治具自体が低抵抗導電物質からなる構成としても同様の効果を奏する。
【0041】
さらに、治具およびターゲットを収容する容器の内周面(本実施例の場合、真空容器7の内周面)、および容器内に配置される部材の表面に、予め低抵抗導電物質からなる膜を形成することにより、容器やその他の部材に起因する元素による多孔体の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能である。
【0042】
また、本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態は、
治具4と多孔体2との間に低抵抗導電物質からなる介装体5を介装した状態で、多孔体2を治具4に固定する固定工程(本実施例では、第一固定工程S1100および第二固定工程S1300がこれに相当する)と、
低抵抗導電物質からなるターゲット3を直流電源にて放電させ、治具4にバイアス電圧を印加することにより、多孔体2の表面(板面2a・2b)に低抵抗導電物質からなるコーティング膜(8a・8b)を形成するコーティング工程(本実施例では、第一コーティング工程S1200および第二コーティング工程S1400がこれに相当する)と、
からなるものである。
このように構成することにより、多孔体2とこれを固定する治具4との間の逆スパッタに起因する多孔体2の表面の接触抵抗の上昇を防止することが可能である。
【0043】
本発明に係る多孔体コーティング装置は本実施例のコーティング装置1に限定されず、例えば図7および図8に示すコーティング装置31や図9および図10に示すコーティング装置41の如き構成とすることも可能である。
【0044】
図7および図8に示すコーティング装置31は、低抵抗導電物質からなるターゲット33と、多孔体32を固定する治具34と、低抵抗導電物質からなり治具34と多孔体32との間に介装される介装体35と、治具34に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置36と、を具備するものであり、治具34が回転可能となっており、治具34の周面に複数の多孔体32・32・32・32を固定するものである。
このように構成することにより、図1に示すコーティング装置1と比較して、治具34に固定されたときの多孔体32・32・32・32の板面の向きを変えるために真空容器37を開放する回数を削減することが可能であり、生産性が向上する。
【0045】
図9および図10に示すコーティング装置41は、真空容器47の一方の側面に入口扉47a、他方の側面に出口扉47bが設けられるとともに、真空容器47の内部を入口扉47a側と出口扉47b側とに区画する中間扉47cが設けられる。多孔体42は図示せぬ搬送装置に固定され、入口扉47aから真空容器47の内部に搬入され、中間扉47cを経て出口扉47bから搬出される。
真空容器47において入口扉47aと中間扉47cとで区画された空間49aには多孔体42の進行方向に向かって右側にターゲット43が配置され、多孔体42の進行方向に向かって左側に、ターゲット43に対向する面に介装体45が設けられたシールド板44が配置される。
真空容器47において中間扉47cと出口扉47bとで区画された空間49bには多孔体42の進行方向に向かって左側にターゲット43が配置され、多孔体42の進行方向に向かって右側に、ターゲット43に対向する面に介装体45が設けられたシールド板44が配置される。
【0046】
入口扉47aから空間49aに搬入された多孔体42は、ターゲット43とシールド板44の間となる位置に静止し、空間49aを所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整した後、多孔体42に所定のバイアス電圧が印加される。その結果、多孔体42の板面42aには低抵抗導電物質からなるコーティング膜48aが形成される。
同様に、中間扉47cから空間49bに搬入された多孔体42は、ターゲット43とシールド板44の間となる位置に静止し、空間49bを所定の真空度となるまで減圧し、アルゴンガスを導入することで圧力を調整した後、多孔体42に所定のバイアス電圧が印加される。その結果、多孔体42の板面42bには低抵抗導電物質からなるコーティング膜48bが形成される。
このように構成することにより、図1に示すコーティング装置1と比較して、ターゲットに対向する多孔体の面を変えるために治具から多孔体を取り外す必要が無く、生産性が向上する。
なお、本実施例ではシールド板44においてターゲット43に対向する面に低抵抗導電物質からなる介装体45を設ける構成としたが、シールド板44自体を低抵抗導電物質で構成し、介装体45を省略する構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態を示す図。
【図2】本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態により製造されたコーティング多孔体の断面図。
【図3】本発明に係るコーティング多孔体の製造方法の実施の一形態を示すフロー図。
【図4】本発明に係る多孔体コーティング装置の実施の一形態におけるワークバイアス電圧と介装体に起因する元素の多孔体への付着量との関係を示す図。
【図5】介装体の有無およびワークバイアス電圧とコーティング多孔体の接触抵抗との関係を示す図。
【図6】接触抵抗の測定装置を示す図。
【図7】本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示す平面図。
【図8】本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示す側面図。
【図9】同じく本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示す平面図。
【図10】同じく本発明に係る多孔体コーティング装置の別の実施形態を示すX−X側面断面図。
【図11】従来の多孔体コーティング装置を示す図。
【図12】従来の多孔体コーティング装置により製造されたコーティング多孔体の断面図。
【符号の説明】
【0048】
1 コーティング装置(多孔体コーティング装置)
2 多孔体
3 ターゲット
4 治具
5 介装体
6 電圧印加装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
低抵抗導電物質からなり、前記治具と前記多孔体との間に介装される介装体と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備する多孔体コーティング装置。
【請求項2】
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具の表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成した多孔体コーティング装置。
【請求項3】
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具は低抵抗導電物質からなる多孔体コーティング装置。
【請求項4】
治具と多孔体との間に低抵抗導電物質からなる介装体を介装した状態で、前記治具に前記多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するコーティング多孔体の製造方法。
【請求項5】
表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成した治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するコーティング多孔体の製造方法。
【請求項6】
低抵抗導電物質からなる治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するコーティング多孔体の製造方法。
【請求項1】
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
低抵抗導電物質からなり、前記治具と前記多孔体との間に介装される介装体と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備する多孔体コーティング装置。
【請求項2】
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具の表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成した多孔体コーティング装置。
【請求項3】
低抵抗導電物質からなるターゲットと、
多孔体を固定する治具と、
前記治具に所定のバイアス電圧を印加する電圧印加装置と、
を具備し、
前記治具は低抵抗導電物質からなる多孔体コーティング装置。
【請求項4】
治具と多孔体との間に低抵抗導電物質からなる介装体を介装した状態で、前記治具に前記多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するコーティング多孔体の製造方法。
【請求項5】
表面に低抵抗導電物質からなる膜を形成した治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するコーティング多孔体の製造方法。
【請求項6】
低抵抗導電物質からなる治具に多孔体を固定する固定工程と、
低抵抗導電物質からなるターゲットを直流電源にて放電させ、前記治具にバイアス電圧を印加することにより、前記多孔体の表面に前記低抵抗導電物質からなるコーティング膜を形成するコーティング工程と、
を具備するコーティング多孔体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2008−115438(P2008−115438A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−300838(P2006−300838)
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年11月6日(2006.11.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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