説明

多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体及びその製造方法

【課題】炭酸ガスと水及び微量有害気体を同時に吸着除去することが可能な吸着材の提供。
【解決手段】ケイ酸植物を不活性雰囲気中、400℃以上に加熱し、焼成して炭化物を作製する工程、次いで、得られた炭化物中のケイ素含量を調べ、Si:Al=1:0.1〜1.2(モル比)の範囲にあるアルミノケイ酸塩が生成するように、Al化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と水とを加えて混合物を作製する工程、及び、次いで、得られた混合物に水熱反応を施して、多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を得る工程を有することを特徴とする多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸ガスと水蒸気を同時に吸着する吸着材として利用可能な多孔性アルミノケイ酸塩-炭素複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙の閉鎖空間などで人間が活動する際、呼吸を行うと、人体から炭酸ガス、水が排出され、さらに一酸化炭素、アルデヒド類などの微量有害物質が排出され、それを除去する必要がある。従来、人体から排出される炭酸ガスや水などを吸着除去するための技術として、例えば、非特許文献1〜6に開示された技術が提案されている。
【0003】
非特許文献1には、ゼオライトを吸着材として用いる吸着装置が開示されている。人間が活動する際、多量に排出されるのは炭酸ガスと水である。これを除去するために、非特許文献1ではゼオライトを2段に配置している。この装置では、1段目のゼオライトでは水分を除去し、2段目のゼオライトでは乾燥気体中の炭酸ガスを吸着除去するようになっている。従って、水と炭酸ガスが共存すると、炭酸ガスは吸着されない。
【0004】
非特許文献2には、吸着材として水酸化リチウムを用い、吸着材の再生を行わないタイプの吸着装置が開示されている。また、他の方法として、4つのモレキュラーシーブ室を使用する方法も開示されている。この方法では、2つのモレキュラーシーブ室は並列に配置され、一方の列の上流側のモレキュラーシーブ室で空気中の水分を吸着除去し、その後下流側のモレキュラーシーブ室で炭酸ガスを吸着除去する。吸着した炭酸ガスは、温度を上げたり、室内を真空にすることにより回収され、サバティエ反応で炭酸ガスを水素化し、メタンと水に変換する方法が採用されている。
【0005】
非特許文献3には、ガス導入口からガス導出口にかけて、シリカゲル層、モレキュラーシーブ13X層、ゼオライト5A層の3つの層からなる吸着ベットを2つ並列に配置し、一方で炭酸ガスと水を吸着除去し、その吸着能が低下すると、流路を他方のベットに切り替え、炭酸ガス、水の吸着除去を継続する装置が開示されている。この装置では、流路を他方のベットに切り替えると同時に、吸着能が低下した一方のベットを真空にし、吸着した炭酸ガスと水を吸着材から除去して再生する。再生された吸着材は次の吸着サイクルに供される。この吸着ベットでは、最初のシリカゲル層で水を吸着除去し、モレキュラーシーブ13X層で十分取りきれなかった水を除去するか、あるいは、水がシリカゲル層で完全に除去された場合は、炭酸ガスを吸着する。
【0006】
非特許文献4には、固体アミンをアルミニウムフォーム中に担持した吸着材を用いた装置が開示されている。この装置において、吸着材の再生は宇宙空間で得られる真空が利用される。
【0007】
非特許文献5には、多孔炭素からなるハニカム触媒上に液体アミンなどの吸着材を担持した構造の装置が開示されている。この装置は、ハニカム構造のために気流の吸着材層を通過する際の圧損が少ない。多孔炭素ハニカムは塩化ポリビニリデンを熱分解することにより調製される。
【0008】
非特許文献6には、脱水をモレキュラーシーブ13Xで行い、その後の脱水されたガスをモレキュラーシーブ5A、その後に活性炭吸着材に通して微量有害ガスを吸着し、その後ガス中に含まれる一酸化炭素を活性炭上に担持した白金触媒で酸化して無害の二酸化炭素にする装置が開示されている。
【0009】
一般に、ガス中の炭酸ガスの吸着にはCa2+-A型ゼオライトが用いられる。しかし、非特許文献7に開示されているように、この種のゼオライトは水の吸着親和力が大きく、炭酸ガスよりも優先的にゼオライトに吸着する。
【0010】
非特許文献8と非特許文献9には、籾殻からZSM−5ゼオライトを製造する技術が開示されている。このZSM−5ゼオライトは、石油精製における脱硫触媒などの触媒として用いられ、非特許文献1等において吸着材として用いられるゼオライトとは異なるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】“International Space Station Carbon Dioxide Removal Assembly (ISS CDRA) Concept and Advantages”, Dina EI Sherif and James C. Knox, ICES 2005-01-2892
【非特許文献2】“Evolution of Life Support from Apollo, Shuttle, and ISS to the Vision for the Moon and Mars” Harry Jones, ICES 2006-01-2013
【非特許文献3】“Mathematical Simulation of the Sorbent-Based Atmosphere Revitalization System for the Crew Exploration Vehicle”, Steven P. Reynols, Armin D. Ebner and James A. Ritter, James C. Knox and M. Douglas LeVan, ICES 2006-01-2220
【非特許文献4】“Development Status of Amine-based, Combined Humidity, CO2 and Trace Contaminant Control System for CEV” Tim Nalette, William Papale, Fred Smith and Jay Perry, ICES 2006-01-2192
【非特許文献5】Marek A. Wojtowicz, Elizabeth Florczak, Erik Kroo, Eric P. Rubenstein, Michael A. Serio and Tom Filburn, ICES 2006-01-2193
【非特許文献6】Robert J. Kay and Allen K. MacKnight, ICES 2006-01-2196
【非特許文献7】富永博夫編「ゼオライトの科学と応用」,講談社サイエンティフィック,1996,p.166
【非特許文献8】R.K. Vempati et al., Micrororous and Mesoporous Materials, 93(2006), 134-140
【非特許文献9】H. Katsuki et al., Micrororous and Mesoporous Materials, 86(2005), 145-151
【非特許文献10】N.K. Sharma, Wendell S. Williams and A. Zangvil, “Formation and Structure of Silicon Carbide Wiskers from Rice Hulls”, J. Am. Ceram. Soc., 67, No11, 715-720(1984)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前述した従来技術には、次のような問題がある。
モレキュラーシーブ、ゼオライトを用いる場合は、被処理ガス中に水と炭酸ガスが共存すると、水が優先的に吸着点を占め、炭酸ガスは吸着されない。従って、まず水を除去し、その後炭酸ガスを水がない乾燥した状態で吸着する必要がある。吸着システムとしては2段の吸着層が必要となり、装置が複雑になり、容積、質量が大きくなってしまう。従って、宇宙空間でこの方式を採用すると、宇宙空間への装置の運搬、運転をする上で不利である。
また、アミンを用いる炭酸ガスの吸着除去では、吸着材の腐食やアミンからの有害物質の発生が懸念される。
【0013】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、炭酸ガスと水及び微量有害気体を同時に吸着除去することが可能な吸着材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明は、ケイ酸植物を不活性雰囲気中、400℃以上に加熱し、焼成して炭化物を作製する工程、次いで、得られた炭化物中のケイ素含量を調べ、Si:Al=1:0.1〜1.2(モル比)の範囲にあるアルミノケイ酸塩が生成するように、Al化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と水とを加えて混合物を作製する工程、及び、次いで、得られた混合物に水熱反応を施して、多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を得る工程を有することを特徴とする多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法を提供する。
【0015】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法において、得られた多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体に、水蒸気賦活処理又は炭酸ガス賦活処理を施して表面積を大きくした複合体を得る工程をさらに有していてもよい。
【0016】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法において、ケイ酸植物が、イネの籾殻又は藁であることが好ましい。
【0017】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法において、得られる多孔性アルミノケイ酸塩が、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトのうちのいずれか1種又は2種以上の混合物であることが好ましい。
【0018】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法において、前記Al化合物が水酸化アルミニウムであり、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムのいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。
【0019】
また本発明は、前述した本発明に係る製造方法により得られた多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を提供する。
【0020】
また本発明は、前述した本発明に係る多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を含む吸着材を提供する。
この吸着材は、ペレット状又はハニカム構造に成形してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体は、被処理ガス中の炭酸ガス、水、微量有害ガスを一つの吸着材で吸着除去することができる。
これにより本発明の吸着材を使用して宇宙ステーション、スペースシャトル等の閉鎖空間内の呼気ガス処理に用いることによって、このような特殊環境下で人間の活動を安全に保つための吸着材として極めて有用である。
本発明の吸着材は、一つの吸着材で被処理ガス中の炭酸ガス、水、微量有害ガスを吸着除去できるので、複数の吸着材を組み合わせて構成された従来の除去装置より小型化が可能になり、宇宙空間への打ち上げコストの軽減化が図れる。
本発明の吸着材では、水や炭酸ガスが吸着により除去されるので、吸着材の再生が真空や温度制御により可能となり、また再生水の再利用が可能である。
本発明の吸着材は、宇宙空間のみならず、閉鎖空間である潜水艦内等の人間の活動の安全を維持するためにも有用である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】籾殻炭化物の比表面積と焼成温度、及び、各焼成温度で得られた籾殻炭化物を原料とする実施例1で作製した各吸着材の比表面積と原料の籾殻炭化物の焼成温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体(以下、吸着材と記す。)の製造方法は、ケイ酸植物を不活性雰囲気中、400℃以上に加熱し、焼成して炭化物を作製する工程、次いで、得られた炭化物中のケイ素含量を調べ、Si:Al=1:0.1〜1.2(モル比)の範囲にあるアルミノケイ酸塩が生成するように、Al化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と水とを加えて混合物を作製する工程、及び、次いで、得られた混合物に水熱反応を施して、多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を得る工程を有する。
【0024】
本発明の製造方法に原料として用いるケイ酸植物としては、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、ハトムギ、キビ、アワ、ヒエ、トウモロコシ、ススキなどのイネ科植物が挙げられ、その中でも、ケイ酸含有量が高いイネの籾殻や藁などが好ましく、さらに籾殻が特に好ましい。以下、本発明の製造方法の実施形態として、籾殻を原材料として吸着材を製造する場合について説明する。
【0025】
籾殻は、約20質量%の無機質と約80質量%のセルロースなどの有機質とからなる。約20質量%を示す無機質成分のうち、85〜95質量%は活性なシリカ(SiO)である。シリカは、灌漑水中の水溶性ケイ酸イオンがイネの根を通り、茎の導管を通り、籾殻の表皮から蒸散によって水分が蒸発する際に、クチクラ部に沈積したものである。籾殻のシリカは、その細胞壁間に沈積するので、籾殻を窒素やアルゴンガスなどの不活性ガス中で加熱し、セルロースなどの有機質を炭化すると、シリカと炭素が非常に近接した状態の複合体である籾殻炭化物(籾殻燻炭などと呼ばれる)が得られる。
【0026】
この籾殻炭化物のシリカと炭素分は、非常に微細であり、単なるシリカ−炭素混合物に比べると、分子レベルで均質であり、互いの距離も小さい。また、籾殻をESCAで分析した結果、天然には存在しないと考えられていたSi−有機物中の炭素の結合が、Si−Cの結合エネルギーの測定値より、天然に存在する可能性も報告されている(非特許文献10参照)。
【0027】
籾殻は、必要に応じて風選や篩分けなどによって石や土などの異物を除去したものをそのまま用いても良いし、希塩酸でリーチングし、無機物中に微量含まれている、鉄、アルカリ金属化合物やアルカリ土類金属化合物を溶出除去したものを用いても良い。
【0028】
(籾殻の焼成)
籾殻は、アルゴンや窒素ガスなどの不活性ガス気流中、400℃以上の温度で数分〜数十時間、好ましくは数十分〜数時間程度焼成し、籾殻中の有機物を炭化し、籾殻炭化物とする。この焼成温度は400℃以上であり、好ましくは500〜1000℃の範囲である。焼成温度が400℃未満であると、籾殻の炭化が不十分となったり、炭化完了までに長時間を要するために好ましくない。
【0029】
(水熱反応)
前記焼成によって得られた籾殻炭化物は、原子吸光分析法などを用いて炭化物中のケイ素含量を調べる。前述した通り、籾殻中の無機物は殆どがシリカであることから、通常はケイ素含量のみを測定すれば済むが、厳重な成分調整が必要であれば、ケイ素含量の他、Al,Na,K,Caなどの含量を測定し、次の調製に役立ててもよい。
【0030】
そして、籾殻炭化物中に含まれるシリカ含量を基に、Si:Al=1:0.1〜1.2(モル比)の範囲にあるアルミノケイ酸塩が生成するように、Al化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と水とを加えて混合物を作製する。ここで用いるAl化合物としては、水酸化アルミニウムが好ましい。また、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムのいずれか1種又は2種以上であることが好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において、吸着材中に生成させる多孔性アルミノケイ酸塩は、ゼオライトであることが好ましく、その中でもA型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトであることが好ましく、さらに、得られる吸着材の水及び炭酸ガスの吸着能が高いことから、A型ゼオライトであることが特に好ましい。
A型ゼオライトを得るには、Si:Al:Na=1:0.8〜1.2:2.5〜4.0(モル比)の範囲で成分調整することが望ましい。
X型ゼオライトを得るには、Si:Al:Na=1:0.2〜0.3:3.5〜5.0(モル比)の範囲で成分調整することが望ましい。
Y型ゼオライトを得るには、Si:Al:Na=1:0.1〜0.3:0.8〜1.0(モル比)の範囲で成分調整することが望ましい。
【0032】
前述したように、籾殻炭化物とAl化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と水とを加え均一に混合して得られた混合物は、次に、オートクレーブ中に入れ、温度50〜200℃、好ましくは80〜120℃で数分〜数十時間、好ましくは数十分〜数時間加熱して水熱反応を行う。この水熱反応によって、籾殻炭化物中のシリカと添加したAl,Naが反応してゼオライトのようなアルミノケイ酸塩が生成され、反応せずに残存する炭素とともに多孔性アルミノケイ酸塩−活性炭素複合体が得られる。
【0033】
(吸着材)
この水熱反応後、オートクレーブから処理物を取り出し、水などにより洗浄し、十分に乾燥させて吸着材を得る。
この吸着材は、被処理ガス中の炭酸ガス、水、微量有害ガスを一つの吸着材で吸着除去することができる。
これにより本発明の吸着材を使用して宇宙ステーション、スペースシャトル等の閉鎖空間内の呼気ガス処理に用いることによって、このような特殊環境下で人間の活動を安全に保つための吸着材として極めて有用である。
本発明の吸着材は、一つの吸着材で被処理ガス中の炭酸ガス、水、微量有害ガスを吸着除去できるので、複数の吸着材を組み合わせて構成された従来の除去装置より小型化が可能になり、宇宙空間への打ち上げコストの軽減化が図れる。
本発明の吸着材では、水や炭酸ガスが吸着により除去されるので、吸着材の再生が真空や温度制御により可能となり、また再生水の再利用が可能である。
本発明の吸着材は、宇宙空間のみならず、閉鎖空間である潜水艦内等の人間の活動の安全を維持するためにも有用である。
【0034】
このように製造された吸着材は、原料の籾殻の形状に基づいた粒状や片状であり、そのままの状態で通気性容器などに充填して使用可能である。また、この粒状や片状吸着材、或いはこれを適当な粒径に砕いた顆粒や粉末に、有機系接着剤、無機系接着剤などの適当なバインダーを添加して型に入れ、バインダーを硬化させることによって、ポーラスな円柱状、ブロック状、筒状、或いはハニカム状、板状などの種々な所望形状に成形された吸着材を製造することもできる。
【0035】
この吸着材において、アルミノケイ酸塩と炭素の表面積への寄与は、炭素の方が大きい。この吸着材を水蒸気あるいは炭酸ガス賦活を行うことにより、表面積を大きくすることが可能である。この賦活によって、多孔性アルミノケイ酸塩−活性炭素複合体の性能を向上させることが可能である。
【実施例1】
【0036】
(a)焼成
籾殻約20gを窒素気流(100mL/min)中、昇温速度5K/min、一定温度(500〜1000℃)で1時間加熱し、その後自然放冷することによって焼成を行った。保持温度は100℃刻みでとり、6種類の籾殻炭化物(以下、籾殻炭化物はPRHと記す。)を作製した。
【0037】
(b)水熱合成
次に、PRH中のSiOとHO含量を測定し、水熱合成後にA型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトが生成するように、NaOH,Al(OH)、HOを秤量し、PRHと混合した。以下、A型ゼオライト生成を意図したものをAtype,X型ゼオライト生成を意図したものをFAU(X),Y型ゼオライト生成を意図したものをFAU(Y)と称する。
Atype、FAU(X)及びFAU(Y)の各調製物は、オートクレーブ中に入れ、水熱処理を行った。生成物をオートクレーブから取り出し、固形物を濾過し、濾液がpH9以下になるまで蒸留水で洗浄し、乾燥させ、Atype、FAU(X)及びFAU(Y)の各吸着材を得た。
表1に、本実施例においてAtype、FAU(X)及びFAU(Y)の調製に用いた各成分のモル比と、水熱反応条件とを示す。
【0038】
【表1】

【0039】
(c)分析装置及び評価装置
示差熱重量分析装置として、TG−DTA(リガク社製、TG8120)を使用した。PRH中の微量成分分析は、ICP−AES(日立製作所社製、P−4010)を使用した。PRH及び各吸着材の結晶構造及び微構造解析には、走査型電子顕微鏡(日本電子社製、JSM−5400)を使用した。比表面積および細孔分布の測定には高速比表面積・細孔分布測定装置(Quantachrome社製、NOVA1200)を使用した。吸着質には窒素を用い、比表面積はBET多点法、細孔分布はDFT法を用いた。水分及び二酸化炭素の吸着量は、人間の呼気を想定したガス雰囲気下で、TGAを用いて重量変化を測定した。
【0040】
<結果及び考察>
(i)示差熱重量分析
本発明では、籾殻中のシリカだけでなく、有機物の利用も目的であるため、吸着材を作成する原材料として窒素気流中で焼成したPRHを用いた。TG−DTAの結果より、窒素中での有機物の分解は、500℃で十分完了しているとみられるため、PRHは500℃以降100℃刻みで焼成し、6種類作製した。
【0041】
(ii)PRHの成分分析
PRHの成分分析の結果を表2に示す。なお、表2において、試料の「PRH」に続く数字は焼成温度を示す(すなわち「PRH500」は500℃焼成PRHを意味する)。
表2に示すように、PRHのおおむね半分が残留炭素、残りの半分が無機物であった。また、PRHの無機物のうち約95質量%はSiOであった。
【0042】
【表2】

【0043】
(iii)比表面積測定
前記PRH、Atype、FAU(X)及びFAU(Y)の各試料の比表面積を測定した結果を図1に示す。
500℃で焼成したPRHの比表面積が小さくなっていた理由として、焼成温度が低いため、油状のタールが細孔をコーティングしていることが考えられる。900℃で焼成したPRH及び1000℃で焼成したPRHの比表面積が小さくなっていた理由として、籾殻中のカリウム分とシリカが反応し、融点の低いポリケイ酸カリウムが生成し、ミクロ細孔を塞いでしまったことが考えられる。
【0044】
(iv)結晶構造及び微構造解析
各焼成温度のPRH、Atype、FAU(X)及びFAU(Y)の各試料のX線回折結果を表3に示す。なお、表3中、Amorphous、LTA及びFAUは試料中のゼオライトの結晶構造を示し、Amorphousはゼオライト結晶構造が観測されなかった(非晶質の)場合、LTAはA型ゼオライトの結晶構造が観測された場合、FAUはX型ゼオライト又はY型ゼオライトの結晶構造が観測された場合である。
【0045】
【表3】

【0046】
PRHでは、全ての焼成温度でゼオライト結晶構造が観測されなかった。
Atypeでは、全ての試料でA型ゼオライトの結晶構造が観測された。
1000℃で焼成したFAU(X)で結晶のピークが観測されなかった理由は、焼成温度が高いPRHではシリカの活性が低くなって、水熱合成によってゼオライトが生成しにくくなっているものと考えられる。
FAU(Y)では、ゼオライトを作製する際の溶液が少なく、試料に溶液が完全に浸されず、残留炭素分が多い500℃焼成及び600℃焼成FAU(Y)ではシリカが溶解せず、ゼオライトが十分に生成しなかったものと考えられる。また、900℃焼成FAU(Y)では、ポリケイ酸カリウムが生成し始め、ゼオライトの生成を阻害しているものと考えられる。一方、1000℃焼成FAU(Y)では、カリウム分の揮散により、この阻害は起きにくかったものと考えられる。
【0047】
SEM像では、外表皮にゼオライトが多く、内表皮にはゼオライトが少ないという特徴ある構造が観察できた。これは外表皮と内表皮におけるシリカ量(重量比2.4:1)の相違によるものと考えられる。
【実施例2】
【0048】
籾殻約20gを窒素気流(100mL/min)中、昇温速度5K/minで700℃まで昇温し、700℃の一定温度で1時間保持し、その後自然放冷することによって焼成を行い、PRHを作製した。
【0049】
次に、このPRH中のSiOとHO含量を測定し、NaO:Al:SiO:HO=3.17:1:1.93:128(モル比)となるように、NaOH,Al(OH)、HOを秤量し、PRHと混合した。
【0050】
次に、この混合物をオートクレーブ中に入れ、100℃で4時間水熱処理を行った。
水熱処理後、生成物をオートクレーブから取り出し、固形物を濾過し、濾液がpH9以下になるまで蒸留水で洗浄し、乾燥させた。
【0051】
得られた固形物のX線回折結果から、A型ゼオライトであることが判明した。ゼオライトと同重量存在する炭素のX線回折ピークは観察されなかった。
【0052】
得られた籾殻ゼオライト-活性炭複合体試料(以下、NaA700と記す)を約20mg秤量し、試料パン中に設置し、乾燥窒素気流(70mL/min)中で昇温速度30℃/minで500℃まで昇温し、30分保持した。その後、−30℃/minで30℃まで降温した。
次に、窒素70mL/minを50℃に保温した水中に供給してバブリングし、24℃での湿度82%の水蒸気−窒素混合ガスを作り、これをNaA700中に通した。質量が一定になるまで30℃で保持し、NaA700に吸着する水の量を測定した。
次に、乾燥窒素気流に切り替え、30℃/minで500℃まで昇温し、質量変化が無くなるまで30分保持した。
その後、−30℃/minで30℃まで降温した。
次に、流通ガスを0.7体積%のCOを含むN+COガスに切り替え、水の吸着実験と同様に水を含んだ混合ガス試料を接触させ、HOとCOの吸着量を測定した。
吸着量が一定になった後、500℃まで30℃/minで昇温し、HO+CO脱着を行った。
比較のために、モレキュラーシーブ4A(以下、MS−4Aと記す)についても、前記NaA700と同様に、HO+CO吸着・脱着試験を行った。その結果を表4にまとめて記す。
【0053】
【表4】

【0054】
表4の結果から、MS−4Aと比較して、NaA700の方が、水を含んだ炭酸ガスの吸着において、水の吸着量は少ないものの、炭酸ガス吸着量が多かった。
【0055】
[実施例3]
500℃で焼成したPRHを用いて、実施例2と同様にA型ゼオライトを調製した。
得られた籾殻ゼオライト-活性炭複合体試料(以下、NaA500と記す)について、実施例2と同様に水蒸気、水蒸気+炭酸ガスの吸着実験を行った。また、乾燥炭酸ガス-窒素混合ガスの吸着実験も行った。
比較のため、PRHからKOH賦活で調製した比表面積3000m/gの籾殻活性炭を用意し、前記NaA500と同じゼオライト含量を持ち、表面積が同じになるように市販のMS−4Aとこの籾殻活性炭、及び表面積が小さく吸着能がほとんど無いα−Alを混合し、重量がNaA500と同じになるように調製した試料(以下、Mixtureと記す)を用意した。吸着実験結果を以下の表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
NaA500は500℃で調製した籾殻ゼオライト-活性炭複合体である。Mixtureは市販MS−4A-籾殻活性炭-α−アルミナ混合物の結果である。Mixtureでは乾燥炭酸ガスの吸着量は7.1mg/gであるが、水蒸気−炭酸ガス混合気体では水蒸気単独の場合よりも吸着量は少なくなっており、水蒸気が共存するために炭酸ガス吸着が阻害されていることがわかる。NaA500では、水蒸気の吸着量も多く、水蒸気が共存しても炭酸ガスの吸着も示している。乾燥炭酸ガスでは吸着量は非常に大きくなっている。このように、NaA500はゼオライトと活性炭との単なる混合物ではなく、ゼオライトと活性炭が原子レベルで近接しており、何らかの相互作用があることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体は、炭酸ガスと水及び微量有害気体の同時吸着が可能であり、軽量化及び省スペース化が特に要求される宇宙の閉鎖空間、或いは潜水艦内などの特殊環境下における炭酸ガス、水蒸気、微量有害成分の除去装置用の吸着材として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸植物を不活性雰囲気中、400℃以上に加熱し、焼成して炭化物を作製する工程、
次いで、得られた炭化物中のケイ素含量を調べ、Si:Al=1:0.1〜1.2(モル比)の範囲にあるアルミノケイ酸塩が生成するように、Al化合物とアルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物と水とを加えて混合物を作製する工程、及び
次いで、得られた混合物に水熱反応を施して、多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を得る工程を有することを特徴とする多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法。
【請求項2】
得られた多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体に、水蒸気賦活処理又は炭酸ガス賦活処理を施して表面積を大きくした複合体を得る工程をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法。
【請求項3】
ケイ酸植物が、イネの籾殻又は藁であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法。
【請求項4】
得られる多孔性アルミノケイ酸塩が、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトのうちのいずれか1種又は2種以上の混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法。
【請求項5】
前記Al化合物が水酸化アルミニウムであり、アルカリ金属化合物又はアルカリ土類金属化合物が水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムのいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により得られた多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体。
【請求項7】
請求項6に記載の多孔性アルミノケイ酸塩−炭素複合体を含み、被処理ガス中の少なくとも炭酸ガスと水分とを吸着除去する吸着材。
【請求項8】
ペレット状又はハニカム構造に成形された請求項7に記載の吸着材。

【図1】
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【公開番号】特開2010−208872(P2010−208872A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54205(P2009−54205)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月10日 日本材料科学会主催の「第15回材料科学若手研究者討論会」において文書をもって発表
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】