説明

多孔性基質内での拡散によって物質を搬送するマイクロ流体デバイス

本発明は、多孔性基質2内での拡散によって物質Fを基質注入区域ZIから基質到着区域ZAへ搬送するためのマイクロ流体デバイス1であって、これらの区域は物質流路区域ZEによって相互連結されているマイクロ流体デバイスを提供する。本発明によって、その多孔性基質は、物質が自由表面4の非被覆部分8、9を通過して蒸発することを可能にするように基質内の物質流路区域ZEを画定するために、不浸透性でありかつ注入区域ZIから前記到着区域ZEへ延びるマスク5、6、7によって部分的に覆われている自由表面4を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性マトリックスを通過する拡散によって非常に少量の物質を移動させるためのいわゆる「マイクロ」又は「ナノ」流体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性基質を通過する拡散によって流体本体又は流体内に溶解している溶質(以下では物質と称する)を移動させることが、分離(膜、分子ふるい)、不均一系触媒(触媒担体)、分析(環境センサ、クロマトグラフィー、医療分析)のような様々な用途に含まれている。
【0003】
搬送される物質に対して不浸透性である材料の被覆によって外装されている、その一方の末端において物質を送り込むための円筒形マイクロダクト(microduct)の形状に、こうした多孔性マトリックスを形成することが知られている。このように被覆することが、その末端の一方から他方へのそのダクト内の物質の流れを制限し、及び、この流れは、自然力(毛管現象)によって、又は、外部の駆動(例えば、圧力差、電界)によって駆動されるだろう。
【0004】
特許文献1が、流路を画定する壁を有する第1の基質を有するマイクロ流体ダクトを開示しており、この流路は、多孔性基質で満たされておりかつ第2の基質によって覆われている。
【0005】
いずれにしても、これらの構成は欠点を有する。特に、流路を画定する外装マイクロダクト又は基質を製造することは極めて困難である。
【0006】
特許文献2が、不浸透性担体に対して押し付けられている第1の面と、搬送される物質が通過して蒸発することが可能な自由表面を形成する反対側の面とを有する、層の形状の多孔性基質を有するマイクロ流体デバイスを開示している。その担体内のオリフィスが、その基質内の物質注入区域と物質到着区域とを画定し、これらの区域は、担体と接触している面の中に開いている。
【0007】
特許文献3が、不浸透性担体を形成する底部と、多孔性基質内の物質注入区域と物資到着区域とを中に画定するために被覆されていない多孔性基質の対向する表面の一部分を残しながらその多孔性基質を被う蓋とを有する、箱の中に収容されている層の形状である多孔性基質を有するデバイスを説明している。
【0008】
このタイプのデバイスでは、注入区域内に注入される物質は多孔性基質の中に拡散するが、その物質が到着区域に到達する前に蒸発することは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願第2007/0092411号明細書
【特許文献2】仏国特許発明第2282469号明細書
【特許文献3】米国特許第5223220号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、上述のデバイスの欠点を改善することと、特にこうしたデバイスをより簡単に製造及び/又は使用することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、多孔性基質内での拡散によって物質を物質注入区域から物質到着区域へ搬送するためのマイクロ流体デバイスであって、これらの区域は物質流路区域によって相互連結されており、多孔性基質は、物質に対して不浸透性である担体に対して延びる1つの面と、注入区域がその中へ開く自由表面を形成する反対側の面とを有する層の形状であるマイクロ流体デバイスを提供し、このマイクロ流体デバイスは、マスクのどちらかの側面上の自由表面の非被覆部分を経由して物質が蒸発すると同時に、マスク下の基質内で注入区域から到着区域へと物質が拡散することを可能にすることによって、そのマスクによって覆われている基質の一部分内に物質流路区域を画定するために、物質に対して不浸透性でありかつ注入区域から到着区域へと延びるマスクによって自由表面が部分的に覆われていることを特徴とする。
【0012】
したがって、注入区域の中に送り込まれる物資は、マスクの下の多孔性基質の中に拡散することと、非被覆の自由表面部分を経由して横方向に蒸発することとの間の競合を被る。拡散速度が蒸発速度よりも速いことを確実なものにすることによって、境界又は壁がこの物質流路区域を横方向に画定しない場合でさえ、マスク下で物質が搬送されることを引き起こし、こうしてマスクが基質中の物質流路区域を画定することが可能である。したがって、蒸発を防ぐ代わりに、本発明のデバイスは、マスク下で物質を搬送するためにこの現象を利用する。
【0013】
このことが、単にマスクの形状と長さを適合化させることだけによって、本発明のデバイスの物質流路区域における様々な形状と長さを与えることを容易にする。
【0014】
本発明の範囲内において、物質は、
純粋な形態で、又は、適切な溶媒中に希釈されている形で、本発明によって搬送されることが可能な液体の形状であるか、又は、
適切な溶媒中に溶解されている例えば粉末のような固体の形状
であるということが理解されることが可能である。
【0015】
さらに、この物資が複数の物質の混合物であるということも理解されることが可能である。
【0016】
本発明の様々な特定の非限定的な実施態様を示す、以下の説明と添付図面とを理解することによって、本発明の他の特徴と利点とがさらに明瞭になる。
【0017】
添付図面の各図に対して参照が行われる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明のマイクロ流動デバイスの斜視図である。
【図2】図2は、平面P2上の図1のデバイスの横断面図であり、図1aは平面P1上の図1のデバイスの縦断面図である。
【図3a】図3aは、本発明の様々な変形例における多孔質基質内の物質流路区域の一部分の縦断面図である。
【図3b】図3bは、本発明の様々な変形例における多孔質基質内の物質流路区域の一部分の縦断面図である。
【図3c】図3cは、本発明の様々な変形例における多孔質基質内の物質流路区域の一部分の縦断面図である。
【図3d】図3dは、本発明の様々な変形例における多孔質基質内の物質流路区域の一部分の縦断面図である。
【図3e】図3eは、本発明の様々な変形例における多孔質基質内の物質流路区域の一部分の縦断面図である。
【0019】
これらの図は、様々な構成要素をより理解しやすくするために、極めて概略的であり、示されている様々な構成要素の間で縮尺が異なっており、示されている要素の各々はすべての図において同一の照合番号を有する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
したがって、図1は、多孔性基質中において特定の物質Fを搬送するための、本発明のマイクロ流体デバイス1を示す。術語「マイクロ流体(microfluidic)」は、デバイスが非常に少量の物質を搬送するのに適しているということを意味するために使用される(この術語は、同様に、いわゆる「ナノ流体」デバイスを含む)。デバイス1は、当該物質に対して不浸透性である担体3の上に取り付けられている層2の形である多孔性基質を備える。この実施形態では、担体3は平面状であり、及び、層2は、担体3と接触しているその層の面とは反対側に位置する自由表面4を有し、この自由表面は同様に実質的に平面状である。層2は、その層の端縁の1つの付近の物質Fを注入するための注入区域ZIと、上述の端縁とは反対側に位置する端縁の付近の物質到着及び収集区域ZAとを有し、層2内において注入区域ZIと到着区域ZAの一方から他方への物質Fの流動方向が、直線の矢印で示されている。
【0021】
この例では、層2の多孔性基質は、平均で15ナノメートル(nm)の直径を有する開放孔を有する酸化ケイ素(SiO2)で作られている。その多孔度は約60%である。層2は約300nmの厚さを有する。この層は、薄膜溶着の分野で公知である技術によって担体3上に溶着されており、この例では、既知の前駆物質に基づいたゾルゲル法を使用して溶着される。
【0022】
層2はマスク5によって覆われており、この例では、マスク5は、層2の一部分を覆う不浸透性のポリジメチルシロキサン(PDMS)膜である。このマスクは、本発明のデバイスによって搬送される物質Fに対して不浸透性であるように選択されている。
【0023】
図示されているように、この例における基準物質FはSnCl4の水性溶液である。
【0024】
(物質の流動方向に対して)上流側の領域6内では、示されているマスクは、注入区域ZIを多孔性基質の中に画定する円形オリフィスを有するリングを形成し、搬送のための物質がピペット又は注射器によってその円形オリフィスの上に置かれる。下流側の区域内では、マスクは、層2の自由表面4の自由な2つの部分8、9をストリップ7の両側に残すストリップ7の形状である。
【0025】
図1aと図2は、図1との組み合わせにおいて、マスク5のストリップ7が、物質Fを注入区域ZIから到着区域ZAに搬送するための物質流路区域ZEを画定するようにどのように働くかを理解することをより容易にする。注入区域ZIの中に注入される物質Fは、マスクの存在によって蒸発が阻止されるので、マスク5の上流側領域6下を流れる。物質Fがマスク5の上流側領域6を超えると直ぐに、物質Fは、小さな湾曲した矢印の形で図2に示されているように、図2の自由なままにされている区域8と区域9とを通過して蒸発することが可能であり、一方、マスク5の下流側部分7によって覆われている層2の区域内では、物質は到着区域ZAに向かって層2内で拡散する。
【0026】
したがって、マスク5の下流側領域を通るデバイスの横断面図である図2に示されているように、マスク5のストリップ7の端縁が、実質的にマスクの下を延びる物質流路区域ZEを層2内に画定する。
【0027】
層2の厚さ内では、物質流路区域ZEは、マスク5のストリップ7に接触している層2の表面からその担体3に接触している層2の表面に向かってフレア状に広がる断面Pを有する。この断面は概略的に示されている。物質のタイプと多孔性基質の特徴とに応じて、この断面は様々であってよく、特に、様々な度合いでフレア状に広がるだろう。極めて概略的な図2は、この断面Pの場合に直線状でかつ非常に尖っている輪郭を示す。実際には、断面は、むしろ、湾曲した輪郭及びさらには尖っていない輪郭によって画定されており、区域ZE内の液体形態の物質と上記区域の外側の気体形態に変化する物質との間の境界、それ自体は拡散する。
【0028】
したがって、層2上のマスク5の配置が、予め決められている横方向の境界を有する物質流路区域ZE内に物質Fを閉じ込める。
【0029】
第2の例では、層2を構成する多孔性基質は、200nmの平均直径と約30%の多孔度とを有する開放孔を有する酸化ケイ素SiO2で作られている。層2は、約500nmの厚さを有し、上述の例のようにゾルゲル法によって溶着させられている。このデバイスの他の構成要素と、このデバイスの動作モードは、例1に比較して不変のままである。
【0030】
図3aから図3eは、多孔性基質が担体3上に取り付けられている層2の形状のままであるが、その層の物質流路区域ZE内で変化する物理化学的特徴を有する、実施形態の変形例を示す。この変化は、勾配のように、規則的であることもあり、また、この変化は、さらに、例えば階段状にように、不規則的であることもあり、又は、物質流路区域の一部分にだけ影響を与えることもある。図においては、好ましくは、この変化が、物質流路区域の縦方向において、すなわち、物質の流動方向において、物質流路区域に影響を与える。
【0031】
図3aから図3eのすべては、物質の流動方向を示す矢印とともに、区域ZEの一部分の縦方向断面を示す。したがって、図3aは、層の厚さが勾配の形で規則的に減少する区域ZEの縦断面を示し、及び、図3bは、これとは対照的に、層の厚さが規則的に増大する同様の断面を示す。当然であるが、物質流路区域の幅内における厚さの変化を実現することも可能である。
【0032】
図3cは、区域ZEに沿って多孔度が増大する別の変形例を示し、一方、図3dでは、多孔度が区域ZEに沿って減少する(非常に象徴的に示されている)。
【0033】
図3eは、その区域に沿って材料の化学的組成が変化するさらに別の変形例を示し、この変形例は、(同様に非常に象徴的に示されているように)注入区域ZIに近くの1つの物質aだけから構成されており、及び、その次に、到着区域ZAに最も近いその部分内においてはその層が第2の物質bだけから構成されているように、ますます多くの第2の物質bを段階的に含む層を備える。当然であるが、その相対的割合だけが物質流路区域に沿って変化する物質aと物質bの共通混合物を使用して多孔性基質全体が構成されることを想定することも可能だろう。その層の厚さにおいて又はその横断面においてその層の化学的組成を変化させることを想定することも可能であるということに留意されたい。
【0034】
本発明の別の変形例では、この変化は、さらに、流動方向に対して横断方向に、又は、実際には、流れ流路区域内での層の厚さにおいて物質流路区域に影響を与えるだろう。
【0035】
上述の実施形態では、物質は毛管現象によって層内を流れるということと、公知の仕方で、その伝播モードと、特にその速度とが、電界の印加又は圧力差のような外的要因に影響を与えることによって変更されるだろうということに留意されたい。
【0036】
当然のことながら、マスクによって覆われていない多孔性基質の自由表面の一部分内での物質の伝播を防止するために、かつ、物質が注入区域ZIから到着区域ZAに適正に搬送されることを確実なものにするために、想定される多孔性基質中における想定される物質の拡散の速度がその物質の蒸発速度よりも速いままであることを確実なものにするように、物質のタイプと多孔性基質のタイプとを適切に選択するための配慮が行われる。
【0037】
同様に、多孔性基質によって覆われていない自由表面部分を経由した物質の蒸発を抑制するように、そのデバイスの周囲の蒸気圧を調整することが有利である。
【0038】
本発明は上述の例に限定されず、特許請求項の範囲内にとどまるあらゆる変形例を範囲内に含む。
【0039】
特に、上述の例に説明されている多孔性基質とは別の多孔性基質が使用されることがある。1nmから1000nmの範囲内にある孔径を有し、特に10nmから210nmの範囲内にある孔径を有する、相互連結孔を有する材料が選択されることが好ましい。
【0040】
それが層の形状である時には、その厚さが少なくとも10nmであることが好ましく、例えば、10nmから50,000nmの範囲内にあるだろう。例えば、それは、50nm以下又は500nm以下である。それは、例えば、液体(ゾルゲル溶着物を含む)、固体、又は、気体である前駆物質の熱分解によって、又は、実際には、おそらくは磁界によって補助される採用随意に反応性である陰極スパッタリングタイプの真空蒸着方法によって、直接的に担体上で薄い層を製造するための任意のタイプの方法によって、層の形状に担体上に溶着させられるだろう。特に、それが多孔性ポリマーの形である時には、それは、さらに、担体上に後で固定される薄膜の形で製造されることもある。
【0041】
さらに、本発明の範囲内において、特定の厚さの全体にわたって多孔性でありかつその厚さの残り部分全体にわたって物質に対して不浸透性である基質を考案することが可能であり、及び、この基質は、担体が中に組み込まれている多孔性基質を提供する。
【0042】
例1と例2に見てとれるように、多孔性基質は酸化ケイ素タイプであるだろう。さらに一般的は、多孔性基質は、ケイ素Si又は金属(特に、Al、Ti、Zr、又は、Ce)から選択されることが好ましい少なくとも1つの元素Mの少なくとも1つの酸化物、窒化物、又は、炭化物を含むだろうし、又は、さらに、これらの物質の少なくとも2つを混合することによって作られるだろう。例えば、ケイ素及び/又はオキシ炭化金属及び/又はオキシ窒化金属の混合物を使用することが可能である。無機タイプのこうした多孔性材料に加えて、多孔性材料が、様々な度合いに重合させられている特定の量の有機物質を含むことが可能である。この場合に、ハイブリッド又はナノコンポジット材料を言及することが可能である。
【0043】
さらに、単独の、又は、混合物の形の、特にブロックコポリマーの形の、又は、実際には、Si−O−Si結合を含む物質の骨格を含むポリマーとしての、ポリマー、例えばポリメチルメタクリラート(PMMA)又はポリスチレン(PS)、又は、実際にはポリエチレン(PE)で作られている多孔性材料を選択することも可能である。
【0044】
さらに、少なくとも1つの炭素原子と、リン酸塩又はカルボン酸のような錯化タイプのカップリング剤、又は、シラン又はシロキサンタイプのカップリング剤の少なくとも1つを含む有機基によって、多孔性基質が、その化学的組成に係わらず、その表面上において官能性をもたせられることが想定されている。
【0045】
本発明の変形例では、さらに、特に単一の物質から到着する異なる物質の流れを区別することを可能にする構成のような、異なる物理化学的特徴を有する多孔性層のスタックを、多孔性基質が含むことが想定されることも可能であり、この構成では、各々の物資がそのスタックの特定の層に関する特定の親和性を示し、これによって、上述したように、事実上は、多孔性基質の厚さ内の組成又は多孔度において変化があることを可能にする。
【0046】
上述の例におけるマスクは、無孔であると説明されている。この代案として、マスクが孔を有することがあるが、こうした孔は、多孔性基質の孔よりも小さいサイズであるように選択される。
【0047】
上述の例では、多孔性基質は、同様に平面状の担体の上に付着させられている実質的に平面状の層の形であると説明されている。当然のことながら、平面状ではない担体、例えば、それ自体が湾曲しているか、凸状であるか、凹状であるか、波形等である層が上に付着させられている表面を有し、これによって、その層が同一の断面に適合化する担体を使用することが可能である。こうした状況でさえ、そのデバイスは、従来技術の流路又は固体マイクロダクトに比べて製造がより容易なままである。
【0048】
多孔性基質が、少なくとも10%の多孔度を有することが好ましく、及び、約30%から約60%の範囲内にある多孔度を有することが好ましい。
【0049】
マスクが、2つの材料の間の実質的に連続した直接的接触を伴って、その層の自由表面に対して押し付けられていることが好ましい。しかし、本発明の技術的方法に大きな悪影響を及ぼさずに、すなわち、特に物質の蒸気の気泡がその層とマスクとの間の境界面に閉じ込められる場合に、マスクの下に位置する区域内を物質が流れることを阻止することに悪影響を及ぼさずに、接触が完全には連続していないことを想定することも可能である。
【0050】
この場合に、マスクは取り外し可能な形に設計されてもよく、このことは非常に有利である。層の完全性又はマスクの完全性に大きな悪影響を及ぼすことなしにマスクを多孔性基質上に配置することと、さらには、マスクを取り外すことが可能であるならば、搬送される物質の機能に応じて、又は、物質が流される経路に応じて、後で要件に応じて対の形に関連付けられることが可能な多孔性層の組とマスクの組とを設計することが可能である。層又はマスクに傷がある場合には、ユニット全体を交換する必要なしに層又はマスクが交換されることが可能である。
【0051】
最後に、本発明のデバイスは、個別の分析デバイスに物質を搬送するための手段として使用されるだろう。しかし、このデバイスは、物質が多孔性基質内を搬送されている間に、その物質が修飾又は処理(異なる多孔性基質を有する層のスタックを使用する変形例に関して上述した、その成分物質の分離のような)を受けるように設計されることもある。特に、当初の物質中に含まれている異なる物質の間の分離、又は、物質の不均一系触媒反応、又は、その中に含まれている1つの物質の不均一系触媒反応があるだろう。したがって、こうした状況では、本発明のデバイスが適切な分析手段又は処理手段を含むことが想定されているだろう。
【0052】
本発明のデバイスは、さらに、多孔性基質が中に配置されている管理された雰囲気を有するエンクロージャも含むことがある。
【0053】
本発明は、さらに、2つの別の変形例においてデバイスを使用する方法を提供する。
【0054】
第1の変形例では、搬送するための物質が、その物質が乾燥している状態で、多孔性基質の中に注入される。詳細に上述したように、この物質は、毛管現象によってマスク下の多孔性基質内で液体の形態で搬送され、被覆されていない多孔性基質の自由表面部分内で蒸発する。
【0055】
第2の変形の使用では、多孔性基質内で搬送するために物質を注入する前に、多孔性基質に溶媒を含浸させ、この物質は当該溶媒中で可溶性及び/又は混和性である。本出願の序論で説明したように、この物質は、搬送される純粋な物質だけによって構成されることがあり、又は、溶媒(基質を含浸するために使用される溶媒と同じ溶媒、又は、基質に対して適合性があるか又は混和可能な何らかの他の溶媒)中の溶液の中に入れられている固体又は液体によって構成されているだろう。多孔性基質の事前の含浸は、毛管凝縮によって、溶媒に富んだ雰囲気の中に物質を入れてから蒸発を可能にするように層を飽和させた後に溶媒の相対圧力を低下させることによって、行われるだろう。この場合には、注入区域内と流路区域内と到着区域内だけに溶媒が残留するままにするために、蒸発を待機することが必要である。物質が多孔性基質内に注入されると、その物質は、純粋であろうと、液体中に溶解されていようと、浸透によって、又は、固体/液体界面における拡散によって、マスク下の多孔性基質を通過して搬送され、及び、溶媒は、最初にこの物質流路区域内において物質を含浸し、物質のための一種の拡散媒質として、又は、それ自体は移動しない溶液として働く。残余の溶媒は、注入区域内に注入された物質が溶媒流路内での拡散によって中を移動することが可能な液体流路を画定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性基質(2)内での拡散によって物質を物質注入区域(ZI)から物質到着区域(ZA)へ搬送するためのマイクロ流体デバイス(1)であって、前記区域は物質流路区域(ZE)によって相互連結されており、前記多孔性基質は、前記物質(F)に対して不浸透性である担体に対して延びる1つの面と、前記注入区域がその中へ開く自由表面を形成する反対側の面とを有する層の形状であるマイクロ流体デバイスにおいて、マスク(5、6、7)のどちらかの側面上の前記自由表面(4)の非被覆部分(8、9)を経由して前記物質が蒸発すると同時に、前記マスク下の前記基質内で前記注入区域(ZI)から前記到着区域(ZA)へ前記物質が拡散することを可能にすることによって、前記マスクによって覆われている前記基質の一部分内に物質流路区域(ZE)を画定するために、前記物質に対して不浸透性でありかつ前記注入区域(ZI)から前記到着区域(ZA)へ延びる前記マスク(5、6、7)によって前記自由表面(4)が部分的に覆われていることを特徴とするマイクロ流体デバイス。
【請求項2】
前記多孔性基質(2)は、1ナノメートルから1000ナノメートルの範囲内にある孔径を有することが好ましい、相互連結された孔を有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記多孔性基質(2)は、少なくとも10ナノメートルの、好ましくは10ナノメートルから1000ナノメートルの範囲内の厚さを有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記多孔性基質(2)は、ケイ素Si及び金属、特に、Al、Ti、Zr、又は、Ceから選択される少なくとも1つの元素Mの少なくとも1つの酸化物、窒化物、又は、炭化物を含むか、又は、前記物質の少なくとも2つを混合することの生成物であるか、又は、1つ又は複数の多孔性ポリマー(コポリマー)の生成物である請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記多孔性基質(2)は、少なくとも10%の多孔度、好ましくは約30%から約60%の範囲内の多孔度を有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記多孔性基質は、担体(3)に付着されられている層(2)であり、及び、前記物質流路区域(ZE)内において、好ましくは前記物質(F)の流動方向において、変化する少なくとも1つの物理化学的特徴を有し、例えば、厚さの変化、及び/又は、多孔度の変化、及び/又は、化学的組成の変化を有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項7】
前記多孔性基質(2)は、異なる物理化学的特徴を有する多孔性層のスタックを備える請求項1に記載のデバイス。
【請求項8】
前記マスク(5、6、7)は孔を持たないか、又は、前記多孔性基質(2)の孔よりも小さいサイズの孔を有する請求項1に記載のデバイス。
【請求項9】
前記マスク(5、6、7)は少なくとも1つのポリシロキサンを含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項10】
前記マスク(5、6、7)は取り外し可能である請求項1に記載のデバイス。
【請求項11】
前記物質を処理するための手段を含む請求項1に記載のデバイス。
【請求項12】
前記搬送のための物質は、前記多孔性基質が乾燥している間に前記多孔性基質の中に注入される請求項1に記載のデバイスを使用する方法。
【請求項13】
前記多孔性基質は、前記搬送のための物質を中で注入する前に溶媒によって含浸され、及び、前記物質は前記溶媒と混和可能である請求項1に記載のデバイスを使用する方法。

【図1】
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【図1a】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【公表番号】特表2012−529636(P2012−529636A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514454(P2012−514454)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058037
【国際公開番号】WO2010/142700
【国際公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(504317743)ユニベルシテ ピエール エ マリー キュリー(パリ シズエム) (18)
【Fターム(参考)】