多孔膜を有するステント及びその製造方法
【課題】拡張時に多孔膜の孔の変形を抑えたステントを効率よく製造する。
【解決手段】貯留槽31にポリマー溶液30を貯留する。ポリマー溶液30内にステント本体部材20を浸漬した後に、引き上げてディップ塗布を行う。ポリマー溶液30が塗布されたステント本体部材20を処理槽61で加湿雰囲気下におき、ポリマー溶液30の表面に結露により微小水滴を形成する。微小水滴を成長させた後に、溶媒を乾燥させ、微小水滴を塗布膜内に配置する。次に塗布膜を乾燥させて、微小水滴を蒸発させ、微小水滴を型とする微小な孔を多数形成する。ステント本体部材20に直接に多孔膜を形成するため、ステント本体にフィルムを被覆する従来のものに比べて、製造が容易になる。ステントの拡張による多孔膜の各孔の変形も抑えられ、狭窄防止効果が低下することがない。
【解決手段】貯留槽31にポリマー溶液30を貯留する。ポリマー溶液30内にステント本体部材20を浸漬した後に、引き上げてディップ塗布を行う。ポリマー溶液30が塗布されたステント本体部材20を処理槽61で加湿雰囲気下におき、ポリマー溶液30の表面に結露により微小水滴を形成する。微小水滴を成長させた後に、溶媒を乾燥させ、微小水滴を塗布膜内に配置する。次に塗布膜を乾燥させて、微小水滴を蒸発させ、微小水滴を型とする微小な孔を多数形成する。ステント本体部材20に直接に多孔膜を形成するため、ステント本体にフィルムを被覆する従来のものに比べて、製造が容易になる。ステントの拡張による多孔膜の各孔の変形も抑えられ、狭窄防止効果が低下することがない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔、例えば血管に生じた狭窄部または閉塞部を血管内部から開いて、狭窄または閉塞を解消させた状態で血管内に留置されるステント及びその製造方法に関し、特に、表面に多孔膜を有するステント及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管に生じた狭窄部や閉塞部を改善するために、ステントと呼ばれる医療器具が用いられている。ステントは、狭窄部等を開通した状態で、例えば心臓の環状動脈などの血管内に留置されるもので、中空管上に形成されている。
【0003】
ステントを血管内に留置した後に、その部位で再狭窄を防止する目的で、カバーステントが開発されている。このカバーステントは、たとえば複数の微細孔が穿孔されたポリマーフィルムによって、金属製のステント本体(ベアメタルステント)を被覆して構成されている(特許文献1,2参照)。また、前記ポリマーフィルムに生理活性物質を徐々に放出させる機能を付与した薬剤溶出ステントなども開発されている。
【特許文献1】特開平11−299901号公報
【特許文献2】特開2005−152004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で示されるステントは、ベアメタルステントにポリマーフィルムを被覆した後、ポリマーフィルムにレーザーで微細孔を穿孔することにより構成されている。このため、微細孔をレーザーで穿孔処理するために生産性が低いという問題がある他に、数μオーダーのピッチの微細孔を形成することは困難であるという問題がある。
【0005】
特許文献2で示されるステントは、微細孔を有する多孔フィルムにより、ステント本体を被覆することにより構成されている。このステントでは、予め微細孔が形成されているため、レーザーによる穿孔によって作成する特許文献1のものに比べて生産性が向上すること、予め多孔フィルムを形成するため、数μオーダーのピッチの微細孔の形成も容易であることなどの利点があるものの、多孔フィルムをステント本体に被覆する構成をとっているため、使用時にステント本体を拡張して径を増大させると、ステント本体の周面を覆うように取り付けられた多孔フィルムも伸長し、この伸長により微細孔が拡大したり楕円形に変形したりして、本来必要な微細孔構造が変形・消失してしまうことがある。したがって、再狭窄防止効果が低下するという問題がある。
【0006】
また、特許文献1及び2で示されるステントはいずれもフィルムによりステント本体を被覆するという構成を取るため、ステント本体への被覆工程が必要になるという問題がある。しかも、ステント本体は使用する管腔部分によって、長さが2〜3mmで外径が0.5〜1mmから長さが40mm程度で外径が4mm程度といずれもサイズが小さいため、精密加工による被覆処理が必要になるという問題がある。このようにステント本体へフィルムを被覆するものでは、効率のよい生産が困難である。
【0007】
そこで、本発明は、多孔膜を有するステントを効率良く生産することができ、使用時のステント本体の拡張による微細孔の変形も抑えられるようにした多孔膜を有するステント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔膜を有するステントの製造方法は、ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を、ステント本体の表面に形成する水滴付着膜形成工程と、前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成する乾燥工程とを有することを特徴とする。また、前記液は治療薬を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記液を前記ステント本体に塗布して膜を形成する膜形成工程と、前記膜の表面温度よりも高い露点となる雰囲気下に前記膜をおき、前記膜の表面を結露させて水滴を形成する水滴形成工程と、前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とから、前記水滴付着膜形成工程を構成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記液の表面に水滴を形成する水滴形成工程と、前記水滴が形成された液面から前記ステント本体を引き出して、前記水滴が並んだ膜を前記ステント本体に形成する膜形成工程と、前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とから、前記水滴付着膜形成工程を構成することを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔膜を有するステントは、ステント本体と、前記ステント本体の表面に、ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を形成し、この膜を乾燥させて前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成した多孔膜とを備えることを特徴とする。また、前記液は治療薬を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔膜をステント本体に直接に形成するため、従来のフィルム被覆による多孔膜構造のものと異なり、ステント本体の径方向への拡張が円滑に行える。しかも、ステント本体の周面にフィルムを被覆する従来のものに比べて、ステント本体の例えば線状部材の全表面にわたって多孔膜が被覆されるため、使用時における拡張変形に対する追従性に優れ、微細孔が潰れたり変形したりすることが抑制される。これにより、再狭窄防止効果が低下することがない。また、液膜を形成した後にこれを乾燥させて、水滴を鋳型とする多孔膜を形成するため、従来のようなフィルムによるステント本体の精密加工による被膜処理が不要になり、多孔膜を有するステントを効率良く生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に示すように、本発明の多孔膜を表面に有するステント10は、線状部材11によって半径方向に拡張可能に形成した円管形状のかご型ステント本体12と、前記線状部材11の表面に形成される多孔膜13(図2参照)とを備えている。ステント本体12は、線状部材11により例えば略菱形やループ形に形成された拡張エレメント14を周方向に連結するとともに、この拡張エレメント14をステント本体12の中心線方向に連結して、かご型に形成されている。図1(A),(B)は縮装形態を示し、(C),(D)は拡張形態を示している。
【0014】
なお、ステント本体12は上記のかご形のものに限定されるものではなく、縮んた状態で血管などの管腔の病変部に配置可能にされる縮装形態と、閉塞部を外側に向けて拡張して病変部の狭窄や閉塞を改善させる拡張形態とに変形可能なものであればよく、その形状や材質は特に限定されない。構成素材は、線状のものに代えて、板状であってよく、材質も、金属材料や高分子材料、その他のものから構成したものであってよい。なお、ステント本体12の形状や材料などは、例えば特許文献2として挙げた特開2005−152004号公報などに詳しく説明されており、これらに開示されているものを用いることができる。
【0015】
図2及び図3に示すように、多孔膜13は、ほぼ一定の直径を有する略球形の孔15が、2次元に6方最密で配置された一段のハニカム構造を有する。なお、孔15の配置は一段に限定されるものではなく、ほぼ一定の直径を有する略球形の孔15が6方最密の3次元に配置された多段のハニカム構造であってもよい。また、孔15は完全な球形の必要はなく、図2に示すように、球形の一部であってもよい。また、各孔15は独立して形成される孔の他に、隣接する孔と連通したものであってもよい。
【0016】
図4に示すように、本発明の第1実施形態であるステント製造方法は、ステント本体部材20を形成するステント本体部材形成工程21と、ディップ塗布工程22、結露工程(水滴形成工程)23、及び水滴成長工程24からなる水滴付着膜形成工程25と、溶媒蒸発工程26及び水滴蒸発工程27からなる乾燥工程28と、加工工程29とを有する。これら各工程を経て、ステント10が製造される。
【0017】
ステント本体部材20は、ステント本体部材形成工程21により構成される。ステント本体部材20は、複数のステント本体12が得られる長さ、例えば2〜50個で形成されている。なお、ステント本体部材20の代わりにステント本体12に対し、その表面に多孔膜13を形成してもよい。ステント本体12及びステント本体部材20の形成方法は従来方法により作成したものでよく、その構造は特に限定されない。
【0018】
ディップ塗布工程22では、ステント本体部材20に対しポリマー溶液を塗布する。微小円筒体状のステント本体部材20に対して、ポリマー溶液を塗布することが可能であれば、その方法は特に限定されない。例えば、図5に示すように、ポリマー溶液30を貯留槽31に貯留し、このポリマー溶液30内にステント本体部材20を浸漬した後に引き上げることにより、ステント本体部材20に塗布膜32(図6参照)を形成するディップ塗布法が好ましく用いられる。このディップ塗布法では、図1に示すように、線状部材11を網状に組み込んだ複雑な形状となっているステント本体部材20に対し、塗布膜をほぼ均一に形成することができる。
【0019】
結露工程23では、図6に示すように、ステント本体部材20を構成する線状部材11の塗布膜32の表面に対し、結露させることにより微小水滴33を形成する。
【0020】
水滴成長工程24では、塗布膜32の表面に形成された微小水滴33を図7に示すように成長させることにより、水滴34を6方最密に配置させる。
【0021】
溶媒蒸発工程26では、図7に示すように塗布膜32から溶媒35を蒸発させることにより、塗布膜32を乾燥させつつ、図8に示すように、塗布膜32内に水滴34を入らせる。
【0022】
水滴蒸発工程27では、図8に示すように、塗布膜32から水滴34を蒸発させ、水滴34を鋳型とする孔を形成する。この孔を有する塗布膜32によって、図2及び図3に示すように、線状部材11の表面に多孔膜13が形成される。
【0023】
加工工程29では、ステント本体部材20がステント本体12の必要なサイズに加工される。この加工により、図1に示すように多孔膜13を有するステント10が構成される。加工としては、切断、縮装、その他の各種処理方法が適用可能である。
【0024】
本発明の多孔膜13に用いる材料は、伸縮性を有し容易に伸長することができ、ステント本体12の拡張を妨げることのない材料から選択される熱可塑性、弾性、及び/又は生体吸収性のポリマーである。好適な非生分解性ポリマーの例としては、メタロセン触媒ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブチレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン及びそれらのコポリマーの如きポリオレフィン、ポリスチレンの如きビニル芳香族ポリマー、スチレン−イソブチレン−スチレン(好ましくは、Boston Scientificにより製造されたTRANSLUTE(登録商標))、及びブタジエン−スチレンコポリマー又は他のブロックポリマーを含むスチレン−イソブチレンコポリマーの如きビニル芳香族コポリマー、ポリエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリビニルクロライド(PVC)、フッ素系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシリコーン、ポリカーボネート;及び前述の内のいずれかの混合及びコポリマーを含む。
【0025】
好適な生分解性ポリマーの例としては、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)の如き、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びそれらのコポリマー及び組み合わせ;ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−コ−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−コトリメチレンカルボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)(PGA/PCL);ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタマート−コ−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタマート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン コ−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、及びポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ホスフェイトエステル)、ポリ(アミノ酸)、及びポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリデプシペプチド、無水マレイン酸コポリマー、ポリホスファゼン、ポリイミノカルボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカルボネート)−コ−(2.5%トリメチレンカルボネ−ト)]、シアノアクリレート、ポリエチレンオキシド、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロースの如き多糖類、及び前述の内のいずれかの混合及びコポリマーを含む。上記ポリマーの重量平均分子量は、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000がより好ましい。
【0026】
本発明に用いる両親媒性ポリマーとしては、生体に対して毒性が無いものであれば特に限定されないが、具体的には、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体;アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシ基を併せ持つ両親媒性ポリマー;ヘパリン、デキストラン硫酸、DNAやRNAの核酸等のアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス;ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等が好ましい。特に、鋳型となる水滴を安定化させる能力に優れるという点で、ドデシルアクリルアミド−ω−カルボキシヘキシルアクリルアミドを含有する両親媒性ポリマーが好ましい。
【0027】
使用する有機溶媒としては、疎水性かつ高分子化合物を溶解させるものであれば、特に限定されない。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼン、四塩化炭素、1−ブロモプロパンなど)、シクロヘキサン、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。これらのうち複数の化合物が溶媒として併用されてもよい。また、これらの化合物の単体又は混合物に、アルコールやケトン類等の親水性溶剤を20%以下程度の少量添加されたものを用いてもよい。また、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、1−ブロモプロパン等の臭素系炭化水素等が好ましく用いられる。これらは、互いに混合して用いられてもよい。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合有機溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶剤として互いに異なる2種以上の化合物を用い、その割合を適宜変更することにより、後述の水滴の形成速度、及び後述の塗布膜への水滴の入り込みの深さ等を制御することができる。
【0028】
塗布液については、有機溶剤100重量部に対しポリマーが0.02重量部以上30重量部以下とすることが好ましい。これにより、生産性良く高品質の多孔膜13を形成することができる。有機溶剤100重量部に対しポリマーが0.02重量部未満であると、溶液における溶媒割合が大きすぎて蒸発に要する時間が長くなるので、多孔膜13の生産性が悪くなり、一方、30重量%を超えると、結露で発生した水滴が塗布液を変形させることができず、そのため不均一な凹凸が形成された多孔膜13になってしまうことがある。
【0029】
分子化合物と両親媒性化合物とを混合して用いる場合には、高分子化合物の重量に対する両親媒性化合物の重量の割合は0.1%以上20%以下の範囲とすると、形成される水滴の大きさが均一となりやすいので、孔が均一である多孔膜13が得やすくなる。高分子化合物の重量に対する両親媒性化合物の重量の割合が0.1%未満であると、両親媒性化合物の添加効果がほとんどなく、形成される水滴が不安定で大きさが不均一となる場合がある。一方、高分子化合物の重量に対して低分子である両親媒性化合物の重量の割合を20%よりも大きくすると、多孔膜13の強度が下がることがある。
【0030】
本発明の多孔膜に生物学的生理活性物質(治療薬)を担持させる場合には、多孔膜を形成する前に、ポリマー溶液中に、生理活性物質を溶解させておく。これにより、多孔膜が形成されたときには、多孔膜内に生理活性物質が担持される。なお、このように、ポリマー溶液中に生理活性物質を溶解させて多孔膜中に生理活性物性を担持させる他に、多孔膜が形成された後に、生理活性物質を多孔膜の表面に塗布してもよい。
【0031】
生理活性物質としては、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、及びNO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つの化合物が挙げられる。
【0032】
上記多孔膜の孔の球形の直径は0.1〜100μmであることが好ましく、さらに好ましい孔の球形の直径は0.1〜50μm、最も好ましい孔の球形の直径は0.1〜25μmである。上記孔の球形の直径は、孔が球形の一部である場合は、孔の厚さに直角な方向の最大径である。この範囲の大きさであれば、ハニカム構造を有する多孔膜をステント本体に形成したステントを病変部に留置した際に、内面側と外面側との物質交換を十分に行うことができる。したがって、血管内面の内皮化が促進され、再狭窄が防止されるので、好ましい。
【0033】
本発明の多孔膜は、内皮細胞の増殖を促進させる表面を有することが好ましい。具体的には、例えば、多孔膜中に両親媒性ポリマーがあれば、該両親媒性ポリマーの親水性基と血管内皮細胞前駆物質とが化学結合し易く、内皮細胞の増殖を促進させることができる。また、上記多孔膜の表面にポリエチレングリコールを導入したものでも、内皮細胞の増殖を促進させることができるので好ましい。
【0034】
図5に示すように、本発明を実施した多孔膜を有するステント製造装置40は、ステント本体部材20のハンドリング部41と、ステント本体部材20の供給部42と、水滴付着膜形成・乾燥部45と、排出部46とを備えている。ハンドリング部41は、ステント本体部材20を保持する保持プレート47と、前記供給部42、水滴付着膜形成・乾燥部45及び排出部46に順に送る搬送ユニット48とを有する。
【0035】
図9に示すように、保持プレート47は、プレート本体51、クランプ部52、温度調節部53、及びイジェクト部54を有する。クランプ部52はステント本体部材20の一端をくわえて保持する。温度調節部53は、クランプ部52で保持されたステント本体部材20の温度を調節し、後に説明するように、塗布膜32の表面温度を所定の一定温度範囲内に保持する。イジェクト部54は、ステント本体部材20の表面に、多孔膜13が形成された後に、クランプ部52による保持を解除して、ステント本体部材20を保持プレート47から排出する。
【0036】
図5に示すように、搬送ユニット48は、保持プレート47を供給部42、水滴付着膜形成・乾燥部45、排出部46に送ることができるものであればよく、レールやガイド機構を有するものの他に、ロボットアームなどの汎用の搬送ユニットを用いることができる。
【0037】
本実施形態では、多孔膜13を効率よく形成するために、ステント本体12に切り離す前のステント本体集合体であるステント本体部材20を用いている。このステント本体部材20は、例えば2〜50個、好ましくは5〜20個程度のステント本体12が得られる長さで形成されており、多孔膜13を形成した後に、加工工程29(図4参照)にて各ステント本体12に切り離される。
【0038】
水滴付着膜形成・乾燥部45では、ディップ塗布用の貯留槽31と、水滴形成・成長・乾燥用の処理槽61とを有する。貯留槽31にはポリマー溶液30が貯留されており、所定の温度に維持されている。搬送ユニット48は、貯留槽31の上方で、保持プレート47を昇降させて、ステント本体部材20を貯留槽31内のポリマー溶液に浸漬した後に、これを引き上げることで、ステント本体部材20に対して、ポリマー溶液30をディップ塗布する。塗布工程における塗布膜32のウェット厚みは、1mm以下であり、好ましくは10μm以上400μm以下であり、より好ましくは20μm以上300μm以下である。また、塗布液の粘度は、1×10−4Pa・s以上1×10−1Pa・s以下であり、好ましくは5×10−4Pa・s以上5×10−2Pa・s以下である。
【0039】
塗布後は、搬送ユニット48により保持プレート47は処理槽61に搬送される。処理槽61では、図4に示す水滴付着膜形成工程25中の結露工程(水滴形成工程)23と、水滴成長工程24と、乾燥工程28とを行う。
【0040】
処理槽61には、送風ユニット65が設けられている。送風ユニット65は、送風口65a及び吸気口65bを有するダクト65cと送風部65dとを備える。送風部65dは、送風口65aから送り出す加湿空気の温度、露点、湿度を制御し、吸気口65bから塗布膜の周辺の気体を吸排気する。これにより、処理槽61内のステント本体部材20の周囲の雰囲気が循環されて、常に一定の状態に保持される。また、送風部65dには塵埃を除去するフィルタが設けられている。送風ユニット65は1個でも複数個でもよく、保持プレート47のステント本体部材20に対して、ほぼ均一に水滴を形成することができるものであればよい。
【0041】
図5に示すように、送風ユニット65の送風部65dによる送風及び吸気により、塗布膜32の表面に加湿空気が供給され、図6に示すように、塗布膜32の表面に結露が生じる。この結露現象により微小水滴33を形成するための雰囲気を第1雰囲気とし、この第1雰囲気により図4における結露工程(水滴形成工程)23が行われる。第1雰囲気における雰囲気露点をTd1、塗布膜32の表面温度をTsとしたときに、Td1−Tsで求められる値ΔT1を0より大きい値とする。好ましくは、ΔT1は0.5℃以上30℃以下である。このような範囲にΔT1を設定することにより、塗布膜32の表面に結露によって、微小水滴33が多数個形成される。風速としては、0.05m/s以上10m/s以下であることが好ましい。
【0042】
その後、送風ユニット65の加湿空気の露点温度などを変更し、第2雰囲気とすることにより、微小水滴33を成長させることができる(水滴成長工程24)。第2雰囲気における雰囲気露点をTd2、塗布膜32の表面温度をTsとしたときに、Td2−Tsで求められる値ΔT2を0より大きい値とする。好ましくは、ΔT2は0.5℃以上20℃以下である。このような範囲にΔT2を設定することにより、塗布膜32の表面の微小水滴33を成長させることができる。また、一般にΔT1>ΔT2であることが均一化の点では好ましい。風速としては、0.05m/s以上10m/s以下であることが好ましい。なお、塗布膜32の表面温度Tsは、クランプ部52に設けた温度調節部53によりステント本体部材20の温度を調節することによっても調節可能であるが、これに代えて又は加えて、プレート本体51に設けた温度調節部53によって、塗布膜32の表面温度Tsを制御してもよい。また、露点Tdは、送風ユニット65から出される加湿空気の条件を変えることにより、制御される。
【0043】
図7に示すように、微小水滴34が所望のサイズとなったときに、ダクト65cからの風の温度、湿度、露点を変更して、ステント本体部材20の塗布膜32の周囲を第3雰囲気とすることにより、溶媒を蒸発させる溶媒蒸発工程26(図4参照)が行われる。第3雰囲気では、塗布膜中の溶媒を蒸発させて微小水滴34による鋳型を形成する。第3雰囲気では、塗布膜中の溶媒を蒸発させて微小水滴34による鋳型を形成することができる温度条件とする。例えば、第3雰囲気は、送風ユニット65により、送風温度が5℃以上50℃以下とされ、風速が0.05m/s以上10m/s以下とされる。
【0044】
次に、加湿空気の露点温度などを変更し、第4雰囲気とすることにより、微小水滴34を蒸発させる水滴蒸発工程27が行われる。この蒸発により塗布膜32内に微小な孔が多数形成されて、多孔膜13が形成される。例えば、第4雰囲気は、送風ユニット65により、送風温度が5℃以上100℃以下とされ、風速が0.01m/s以上20m/s以下とされる。
【0045】
排出部46には、乾燥後のステント本体部材20が搬送ユニット48により送られる。排出部46内には、保持プレート47からステント本体部材20が排出される。排出部46内のステント本体部材20は、加工工程に送られて、図示しない切断装置により、所定長さのステント本体に切り離される。これにより、多孔膜を有するステント本体をフィルム被覆工程などを経ることなく製造することができる。
【0046】
以上のように処理槽61内の雰囲気を第1雰囲気から第4雰囲気に変更することにより、結露工程23及び水滴成長工程24からなる水滴付着膜形成工程25と、溶媒蒸発工程26及び水滴蒸発工程27からなる乾燥工程28を行うことができる。なお、図6〜図8において、微小水滴33,34を図示する必要から、水滴33,34、塗布膜32などは誇大に表示してある。
【0047】
貯留槽31が配置された塗布室及び処理槽61には、図示しない溶媒回収装置が設けられており、各室内の溶媒を回収する。回収した溶媒は、図示しない再生装置で再生されて再利用される。
【0048】
なお、生産効率は低下するもののステント本体そのものを保持プレート47に保持させて塗布を行ってもよい。この場合には、ハンドリングを容易とするために、ステント本体を構成する例えば線状部材を一端部から延ばしておき、この延ばした延設部分を保持部として、これをクランプやフックなどで保持する。そして、多孔膜を形成した後は、保持部をステント本体から切り離すことで、ステントが得られる。このように保持部を形成し、これを後にステント本体から切り離すことで、多孔膜をステント本体の全表面に形成することができる。同様にして、ステント本体部材20に対しても保持部を形成し、この保持部を介して保持プレートに着脱自在に保持させてもよい。
【0049】
乾燥される前の塗布膜32の厚み(ウェット膜厚)は、0.01mm以上1mm以下の範囲の所定厚みとされる。なお、塗布膜の厚みが0.01mm以上1mm以下の範囲であっても、厚みが変動していると、均一な水滴を形成することができない場合がある。また、塗布膜厚が0.01mm未満であると、塗布膜自体を均一に形成することができず、線状部材11の上でポリマー溶液30が部分的にはじかれて線状部材11を塗布膜32で覆うことができなくなることがある。一方、塗布膜32が1mmを越えると、乾燥に要する時間が長くなり生産効率が低下する場合がある。また、ステントとして使用する場合に膜厚が大きくなり過ぎて好ましくない。
【0050】
結露工程23では、送風ユニット65の送風口65aから塗布膜に向けて、加湿空気が送られて、第1雰囲気となるようにされる。また、吸気口65bから塗布膜32の周辺気体が吸われて排気される。ここで、送風口65aからの加湿風の露点をTd1、塗布膜の表面温度をTs、Td1−Tsで求められる値をΔT1とするときに、ΔT1が0.5℃以上30℃以下となるように、表面温度Tsと露点Td1との少なくとも一方が制御される。
【0051】
水滴成長工程24における第2雰囲気においても、同様に加湿空気が送られる。第2雰囲気のΔT2は、例えば0.5℃以上20℃以下とされる。このような範囲にΔT2を設定することにより、塗布膜32の表面の微小水滴33を成長させることができる。また、均一化の観点からは、ΔT2はΔT1よりも小さな値に設定される。なお、塗布膜の表面温度Tsは、例えば、市販される赤外式温度計等の非接触式温度測定手段をプレート本体51に設けて測定することができる。
【0052】
溶媒蒸発工程26における第3雰囲気では、成長した微小水滴34を鋳型とすべく溶媒乾燥が行われる。その後の第4雰囲気では、微小水滴34を蒸発させることにより、孔径が0.1μm以上50μm以下の微小な孔からなるハニカム構造の多孔膜13が得られる。
【0053】
第2雰囲気では、塗布膜の表面温度Tsは、温度調節部53の温度を調節することによっても調節可能であるが、これに代えて又は加えて、プレート本体の表面でクランプ部に近接して配された温度制御板(図示なし)を用いて塗布膜の表面温度Tsを制御してもよい。また、露点Tdは、送風ユニット65から出される加湿空気の条件を変えることにより、制御される。
【0054】
第3雰囲気では、送風ユニット65により、例えば送風温度を30℃とし、風速を0.3m/sとして、塗布膜中の微小水滴を維持した状態で塗布膜内の溶媒を蒸発させて、塗布膜の乾燥が促進される。
【0055】
第4雰囲気では、送風ユニット65により、表面温度Tsまたは露点Tdのいずれか一方を制御し、表面温度Tsが露点Tdよりも高くなるようにする。表面温度Tsの制御は、温度制御部によりなされる。また、露点Tdの制御は送風口からの乾燥空気の条件制御によりなされる。表面温度Tsは前記温度測定手段により測定する。表面温度Tsを露点Tdよりも高く設定することにより、水滴の成長を止めて蒸発させ、多孔フィルムを製造することができる。なお、Ts≦Td1とすると、水滴の上にさらに結露して、形成された多孔構造を破壊してしまうことがあり、好ましくない。第4雰囲気では、水滴の蒸発を主たる目的としているが、蒸発しきれなかった溶媒も蒸発させる。この第4雰囲気では、送風ユニット65により、例えば、送風温度を30℃とし、風速を2m/sとする。
【0056】
第4雰囲気における水滴の蒸発工程では、送風ユニット65に代えて減圧乾燥装置や、いわゆる2Dノズルを用いてもよい。減圧乾燥を行うことで、溶媒と水滴との蒸発速度をそれぞれ調整することが容易になる。これにより、有機溶媒の蒸発と水滴の蒸発とをより良好にし、水滴を良好に塗布膜の内部に形成することができるので、前記水滴が存在する位置に、大きさ、形状が制御された孔を形成することができる。2Dノズルとは、風を出す送風ノズル部材と、塗布膜近傍の空気を吸い込んで排気する排気口がステント本体部材の配列方向に複数交互に配置したものである。また、処理槽とは別個に乾燥室を設け、この乾燥室で水滴蒸発工程を行ってもよい。
【0057】
なお、上記実施形態では、ステント本体部材20またはステント本体12にポリマー溶液30を塗布した後に、結露工程23により微小水滴33を形成し成長させるようにした水滴付着膜形成工程25を行ったが、これに代えて、図10及び図11に示す第2実施形態のように、ポリマー溶液30の液面30a上で結露により微小水滴70を形成し(図10の結露工程80)、この後に微小水滴70を成長させて、これら水滴70を液面30a上で6方最密に並べ(微小水滴成長工程81)、次に、微小水滴70を液面30aに密に配置させた状態でポリマー溶液30と一緒に引き上げて(ディップ塗布工程82)、表面に微小水滴70を有する塗布膜71を形成した水滴付着膜形成工程83を行ってもよい。なお、第1実施形態と同一工程及び同一構成部材などには同一符号を付して重複した説明を省略している。また、図11において、微小水滴70を図示する関係からそのサイズなどは誇張して示してあり、液面30aに形成された6方最密状態の水滴形成範囲は紙面の関係から狭い範囲となっているが、実際には図示のものよりも広範囲であり、ステント本体部材20が引き上げられても、これらステント本体部材20の線状部材11の表面に6方最密状態の水滴70が供給されるに十分な水滴の数量を有する。また、ステント本体部材20の引き上げや、ポリマー溶液30の蒸発によって、ポリマー溶液30の表面には溶液流れが発生し、この溶液流れによって水滴70に移流集積の効果が発生して、水滴70は引き上げ位置に集まるように集積される。
【0058】
結露工程80では、第1湿潤空気供給機からポリマー溶液の液面に対し第1湿潤空気を供給し、結露により微小水滴を液面上に形成する。微小水滴の形成方法は第1実施形態と同様である。また、微小水滴成長工程では、第2湿潤空気供給機からポリマー溶液の液面に対して第2湿潤空気を供給し、結露により微小水滴を成長させる。微小水滴の成長方法は第2実施形態と同様である。
【0059】
この第2実施形態の場合には、水滴付着膜形成工程83の後は第1実施形態と同じように、微小水滴を保持した状態で溶媒を蒸発させ(溶媒蒸発工程26)、次に、水滴を蒸発させる(水滴蒸発工程27)。このようにして、乾燥工程28を行うことで、微小水滴を型として多数の孔を塗布膜内に形成することができる。なお、ポリマー溶液30から引き上げた後にステント本体部材20に対し、上記第1実施形態と同じように、水滴成長工程24を付加し、より大きな水滴を形成し、孔径サイズがより大きい多孔膜を形成してもよい。
【0060】
図11は第2実施形態における水滴付着膜形成工程の概略を示すもので、ポリマー溶液30の表面30aに対し、結露工程及び水滴成長工程を行い、微小水滴70を形成し、この微小水滴を形成したポリマー溶液からステント本体部材20を引き上げることにより、表面に微小水滴70を有する塗布膜71が得られる。
【0061】
また、第1及び第2実施形態では結露により微小水滴をポリマー溶液の表面に形成したが、結露による微小液滴の形成に代えて、インクジェット方式で塗布膜上やポリマー溶液の表面上に微小液滴を吐出させてもよい。
【0062】
上記実施形態では、処理槽を一つ設け、この処理槽の加湿条件、温度条件などを変更して微小水滴の形成・成長・溶媒蒸発・水滴蒸発の各工程を行うようにしたが、微小液滴形成工程、微小液滴成長工程、溶媒蒸発工程、水滴蒸発工程の工程毎に処理槽や乾燥室をそれぞれ設けてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では保持プレート単位で各処理室に各ステント本体部材をセットするようにしたバッチ方式としたが、これに代えて、図9に示すような保持プレート47を例えばベルトコンベアやチェーンコンベヤなどの無端搬送部材に取り付けた連続製造方式としてもよい。
【0064】
図12は連続製造方式のステント製造装置を示すもので、このステント製造装置100は搬送ユニットとして無端ベルト101を備えている。無端ベルト101には、適宜ピッチで保持プレートが取り付けられている。保持プレートは、図9に示すものと同じ構造であり、ステント本体部材を保持するクランプ部や、イジェクト部、温度調節部などを備えている。なお、図9に示す保持プレート47は、クランプ部で1個ずつステント本体部材を保持する構成としているが、予め保持ブロックに複数個のステント本体部材を取り付けておき、この保持ブロックをクランプ部で保持するような構成としてもよい。
【0065】
無端ベルト101はガイドローラ98及び駆動ローラ99によって移動経路が構成されている。この移動経路に沿って、ステント本体部材供給部102、ディップ塗布のためのポリマー溶液貯留槽103、第1〜第3の処理室104〜106、及びステント本体部材排出部107がベルト移動方向に順に並べられている。なお、連続的にステント本体部材20を移動させる点が第1実施形態とは異なるだけであり、ポリマー溶液の塗布工程、微小水滴形成工程、微小水滴成長工程、溶媒蒸発工程、及び水滴蒸発工程は上記実施形態と同じである。
【0066】
ステント本体部材供給部102では、保持プレート47(図9参照)に対してステント本体部材20を供給し、保持プレート47に複数のステント本体部材20をクランプさせる。クランプされたステント本体部材20は無端ベルト101の移動により、ポリマー溶液貯留槽103、第1〜第3処理室104〜106、ステント本体部材排出部107に順に送られる。
【0067】
塗布工程では、ポリマー溶液貯留槽103のポリマー溶液30中をステント本体部材20が移動し、溶液30から引き上げられることにより、ステント本体部材20にポリマー溶液30が塗布される。塗布後のステント本体部材20は第1処理室104に送られ、ここで結露工程及び水滴成長工程が行われる。第1処理室104は、第1〜第3送風ユニット111〜113を備えている。各送風ユニット111〜113は基本的には第1実施形態の送風ユニット65と同じ構成となっている。
【0068】
第1送風ユニット111では、前記第1雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜の表面に結露により微小水滴を形成する。第2及び第3送風ユニット112,113では、前記第2雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜の表面の微小水滴を成長させる。
【0069】
第2処理室105は3個の第4送風ユニット114を備えており、これら第4送風ユニット114も第1実施形態の送風ユニット65と同じ構成になっている。第4送風ユニット114では、前記第3雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜から溶媒を蒸発させる。
【0070】
第3処理室106は、4個の第5送風ユニット115を備えており、これら第5送風ユニット115も第1実施形態の送風ユニット65と同じ構成になっている。第5送風ユニット115では、前記第4雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜から水滴を蒸発させる。
【0071】
ステント本体部材排出部107では、多孔膜が形成されたステント本体部材20をイジェクト部により保持プレート47から排出する。排出されたステント本体部材20は図示しない切断装置で各ステント本体に切り離され、多孔膜を有するステント10が得られる。
【実施例】
【0072】
次に本発明の実施例について説明する。実施例1では、図5に示すようなステント製造装置40において、ディップ塗布と水滴付着膜形成工程とを行い、この後に乾燥工程により溶媒及び水滴を蒸発させて多孔膜13を形成した。ステント本体部材20としては、外径が2mmで長さが30mmのものを用い、塗布液としてポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーのジクロロメタン溶液2.5mg/mlを用いた。
【0073】
本実施例によれば、孔径が3.0μmであり各孔間のピッチが4.0μmで膜厚が1.5μmの多孔膜をステント本体の表面にほぼ均一に形成することができた。このように、ステント本体の表面に、直接に多孔膜を形成するため、従来のように、多孔フィルムをステント本体の外周面に被覆するものと異なり、ステント本体の拡張時に剥離や孔の変形が少なくなることが確認された。
【0074】
また、ステント本体に直接に多孔膜を形成することができるため、従来の多孔フィルムの被覆タイプと異なり、別途多孔フィルムの形成工程や被覆工程が不要になり、製造が容易であることが確認された。しかも、1〜50μm程度の薄膜であり、しかも孔が多数形成されたものを、0.5〜4mm程度の外径を有し長さが40mm程度の微小な円筒体に被覆するという精密被覆処理を行う必要もなく、製造が容易になる。
【0075】
また、フィルム形態とした後にこれを被覆するという工程を経ることがないため、微小水滴形成条件やその成長条件を適宜制御することにより、多孔膜の孔径や孔ピッチの変更も容易に対応可能になる。さらには、多孔フィルムをステントに被覆するという従来タイプでは、ステントと多孔フィルムの密着性に限界があるため、多孔膜の厚さは、1〜10μm程度の薄膜が好ましいとされるが、本発明の多孔膜を直接に形成するタイプではステント本体表面と多孔膜の接着性が優れるため、厚みの制限が緩和される。また、密着性に優れるため、従来タイプに比べて厚みをより薄くすることも可能になる。したがって、多孔膜が剥がれにくく、多孔膜を有するステントの病変部への搬送性も優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るステントを拡大して示すもので、(A)は縮装時のステントの正面図、(B)は(A)におけるB−B線断面図、(C)は拡張時の同正面図、(D)は(C)におけるD−D線断面図である。
【図2】ステント本体の線状部材と多孔膜とを拡大して示す図1におけるE部の模式的な断面図である。
【図3】ステント本体の多孔膜を拡大して示す平面図である。
【図4】本発明のステント製造方法の各工程を示す概略の工程図である。
【図5】本発明のステント製造装置を示す概略図である。
【図6】結露工程を示す概略の断面図である。
【図7】水滴成長工程を示す概略の断面図である。
【図8】乾燥工程を示す概略の断面図である。
【図9】保持プレートを示す概略図である。
【図10】本発明の第2実施形態における各工程を示す工程図である。
【図11】第2実施形態におけるディップ塗布工程を模式的に示す概略図である。
【図12】連続的にステントを製造するステント製造装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0077】
10 ステント
11 線状部材
12 ステント本体
13 多孔膜
14 拡張エレメント
15 孔
20 ステント本体部材
30 ポリマー溶液
31 貯留槽
32 塗布膜
33,34 水滴
35 溶媒
40 ステント製造装置
47 保持プレート
61 処理槽
65 送風ユニット
103 貯留槽
104〜106 処理室
111〜115 送風ユニット
【技術分野】
【0001】
本発明は、管腔、例えば血管に生じた狭窄部または閉塞部を血管内部から開いて、狭窄または閉塞を解消させた状態で血管内に留置されるステント及びその製造方法に関し、特に、表面に多孔膜を有するステント及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血管に生じた狭窄部や閉塞部を改善するために、ステントと呼ばれる医療器具が用いられている。ステントは、狭窄部等を開通した状態で、例えば心臓の環状動脈などの血管内に留置されるもので、中空管上に形成されている。
【0003】
ステントを血管内に留置した後に、その部位で再狭窄を防止する目的で、カバーステントが開発されている。このカバーステントは、たとえば複数の微細孔が穿孔されたポリマーフィルムによって、金属製のステント本体(ベアメタルステント)を被覆して構成されている(特許文献1,2参照)。また、前記ポリマーフィルムに生理活性物質を徐々に放出させる機能を付与した薬剤溶出ステントなども開発されている。
【特許文献1】特開平11−299901号公報
【特許文献2】特開2005−152004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1で示されるステントは、ベアメタルステントにポリマーフィルムを被覆した後、ポリマーフィルムにレーザーで微細孔を穿孔することにより構成されている。このため、微細孔をレーザーで穿孔処理するために生産性が低いという問題がある他に、数μオーダーのピッチの微細孔を形成することは困難であるという問題がある。
【0005】
特許文献2で示されるステントは、微細孔を有する多孔フィルムにより、ステント本体を被覆することにより構成されている。このステントでは、予め微細孔が形成されているため、レーザーによる穿孔によって作成する特許文献1のものに比べて生産性が向上すること、予め多孔フィルムを形成するため、数μオーダーのピッチの微細孔の形成も容易であることなどの利点があるものの、多孔フィルムをステント本体に被覆する構成をとっているため、使用時にステント本体を拡張して径を増大させると、ステント本体の周面を覆うように取り付けられた多孔フィルムも伸長し、この伸長により微細孔が拡大したり楕円形に変形したりして、本来必要な微細孔構造が変形・消失してしまうことがある。したがって、再狭窄防止効果が低下するという問題がある。
【0006】
また、特許文献1及び2で示されるステントはいずれもフィルムによりステント本体を被覆するという構成を取るため、ステント本体への被覆工程が必要になるという問題がある。しかも、ステント本体は使用する管腔部分によって、長さが2〜3mmで外径が0.5〜1mmから長さが40mm程度で外径が4mm程度といずれもサイズが小さいため、精密加工による被覆処理が必要になるという問題がある。このようにステント本体へフィルムを被覆するものでは、効率のよい生産が困難である。
【0007】
そこで、本発明は、多孔膜を有するステントを効率良く生産することができ、使用時のステント本体の拡張による微細孔の変形も抑えられるようにした多孔膜を有するステント及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多孔膜を有するステントの製造方法は、ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を、ステント本体の表面に形成する水滴付着膜形成工程と、前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成する乾燥工程とを有することを特徴とする。また、前記液は治療薬を含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記液を前記ステント本体に塗布して膜を形成する膜形成工程と、前記膜の表面温度よりも高い露点となる雰囲気下に前記膜をおき、前記膜の表面を結露させて水滴を形成する水滴形成工程と、前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とから、前記水滴付着膜形成工程を構成することを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、前記液の表面に水滴を形成する水滴形成工程と、前記水滴が形成された液面から前記ステント本体を引き出して、前記水滴が並んだ膜を前記ステント本体に形成する膜形成工程と、前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とから、前記水滴付着膜形成工程を構成することを特徴とする。
【0011】
本発明の多孔膜を有するステントは、ステント本体と、前記ステント本体の表面に、ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を形成し、この膜を乾燥させて前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成した多孔膜とを備えることを特徴とする。また、前記液は治療薬を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、多孔膜をステント本体に直接に形成するため、従来のフィルム被覆による多孔膜構造のものと異なり、ステント本体の径方向への拡張が円滑に行える。しかも、ステント本体の周面にフィルムを被覆する従来のものに比べて、ステント本体の例えば線状部材の全表面にわたって多孔膜が被覆されるため、使用時における拡張変形に対する追従性に優れ、微細孔が潰れたり変形したりすることが抑制される。これにより、再狭窄防止効果が低下することがない。また、液膜を形成した後にこれを乾燥させて、水滴を鋳型とする多孔膜を形成するため、従来のようなフィルムによるステント本体の精密加工による被膜処理が不要になり、多孔膜を有するステントを効率良く生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1に示すように、本発明の多孔膜を表面に有するステント10は、線状部材11によって半径方向に拡張可能に形成した円管形状のかご型ステント本体12と、前記線状部材11の表面に形成される多孔膜13(図2参照)とを備えている。ステント本体12は、線状部材11により例えば略菱形やループ形に形成された拡張エレメント14を周方向に連結するとともに、この拡張エレメント14をステント本体12の中心線方向に連結して、かご型に形成されている。図1(A),(B)は縮装形態を示し、(C),(D)は拡張形態を示している。
【0014】
なお、ステント本体12は上記のかご形のものに限定されるものではなく、縮んた状態で血管などの管腔の病変部に配置可能にされる縮装形態と、閉塞部を外側に向けて拡張して病変部の狭窄や閉塞を改善させる拡張形態とに変形可能なものであればよく、その形状や材質は特に限定されない。構成素材は、線状のものに代えて、板状であってよく、材質も、金属材料や高分子材料、その他のものから構成したものであってよい。なお、ステント本体12の形状や材料などは、例えば特許文献2として挙げた特開2005−152004号公報などに詳しく説明されており、これらに開示されているものを用いることができる。
【0015】
図2及び図3に示すように、多孔膜13は、ほぼ一定の直径を有する略球形の孔15が、2次元に6方最密で配置された一段のハニカム構造を有する。なお、孔15の配置は一段に限定されるものではなく、ほぼ一定の直径を有する略球形の孔15が6方最密の3次元に配置された多段のハニカム構造であってもよい。また、孔15は完全な球形の必要はなく、図2に示すように、球形の一部であってもよい。また、各孔15は独立して形成される孔の他に、隣接する孔と連通したものであってもよい。
【0016】
図4に示すように、本発明の第1実施形態であるステント製造方法は、ステント本体部材20を形成するステント本体部材形成工程21と、ディップ塗布工程22、結露工程(水滴形成工程)23、及び水滴成長工程24からなる水滴付着膜形成工程25と、溶媒蒸発工程26及び水滴蒸発工程27からなる乾燥工程28と、加工工程29とを有する。これら各工程を経て、ステント10が製造される。
【0017】
ステント本体部材20は、ステント本体部材形成工程21により構成される。ステント本体部材20は、複数のステント本体12が得られる長さ、例えば2〜50個で形成されている。なお、ステント本体部材20の代わりにステント本体12に対し、その表面に多孔膜13を形成してもよい。ステント本体12及びステント本体部材20の形成方法は従来方法により作成したものでよく、その構造は特に限定されない。
【0018】
ディップ塗布工程22では、ステント本体部材20に対しポリマー溶液を塗布する。微小円筒体状のステント本体部材20に対して、ポリマー溶液を塗布することが可能であれば、その方法は特に限定されない。例えば、図5に示すように、ポリマー溶液30を貯留槽31に貯留し、このポリマー溶液30内にステント本体部材20を浸漬した後に引き上げることにより、ステント本体部材20に塗布膜32(図6参照)を形成するディップ塗布法が好ましく用いられる。このディップ塗布法では、図1に示すように、線状部材11を網状に組み込んだ複雑な形状となっているステント本体部材20に対し、塗布膜をほぼ均一に形成することができる。
【0019】
結露工程23では、図6に示すように、ステント本体部材20を構成する線状部材11の塗布膜32の表面に対し、結露させることにより微小水滴33を形成する。
【0020】
水滴成長工程24では、塗布膜32の表面に形成された微小水滴33を図7に示すように成長させることにより、水滴34を6方最密に配置させる。
【0021】
溶媒蒸発工程26では、図7に示すように塗布膜32から溶媒35を蒸発させることにより、塗布膜32を乾燥させつつ、図8に示すように、塗布膜32内に水滴34を入らせる。
【0022】
水滴蒸発工程27では、図8に示すように、塗布膜32から水滴34を蒸発させ、水滴34を鋳型とする孔を形成する。この孔を有する塗布膜32によって、図2及び図3に示すように、線状部材11の表面に多孔膜13が形成される。
【0023】
加工工程29では、ステント本体部材20がステント本体12の必要なサイズに加工される。この加工により、図1に示すように多孔膜13を有するステント10が構成される。加工としては、切断、縮装、その他の各種処理方法が適用可能である。
【0024】
本発明の多孔膜13に用いる材料は、伸縮性を有し容易に伸長することができ、ステント本体12の拡張を妨げることのない材料から選択される熱可塑性、弾性、及び/又は生体吸収性のポリマーである。好適な非生分解性ポリマーの例としては、メタロセン触媒ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリブチレン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン及びそれらのコポリマーの如きポリオレフィン、ポリスチレンの如きビニル芳香族ポリマー、スチレン−イソブチレン−スチレン(好ましくは、Boston Scientificにより製造されたTRANSLUTE(登録商標))、及びブタジエン−スチレンコポリマー又は他のブロックポリマーを含むスチレン−イソブチレンコポリマーの如きビニル芳香族コポリマー、ポリエチレンビニルアセテート(EVA)、ポリビニルクロライド(PVC)、フッ素系ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリシリコーン、ポリカーボネート;及び前述の内のいずれかの混合及びコポリマーを含む。
【0025】
好適な生分解性ポリマーの例としては、ポリ(L−ラクチド)(PLLA)、ポリ(D,L−ラクチド)(PLA)の如き、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、及びそれらのコポリマー及び組み合わせ;ポリグリコール酸[ポリグリコリド(PGA)]、ポリ(L−ラクチド−コ−D,L−ラクチド)(PLLA/PLA)、ポリ(L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLLA/PGA)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−グリコリド)(PLA/PGA)、ポリ(グリコリド−コトリメチレンカルボネート)(PGA/PTMC)、ポリ(D,L−ラクチド−コ−カプロラクトン)(PLA/PCL)、ポリ(グリコリド−コ−カプロラクトン)(PGA/PCL);ポリエチレンオキシド(PEO)、ポリジオキサノン(PDS)、ポリプロピレンフマレート、ポリ(エチルグルタマート−コ−グルタミン酸)、ポリ(tert−ブチルオキシ−カルボニルメチルグルタマート)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン コ−ブチルアクリレート、ポリヒドロキシブチレート(PHBT)、及びポリヒドロキシブチレート、ポリ(ホスファゼン)、ポリ(ホスフェイトエステル)、ポリ(アミノ酸)、及びポリ(ヒドロキシブチレート)、ポリデプシペプチド、無水マレイン酸コポリマー、ポリホスファゼン、ポリイミノカルボネート、ポリ[(97.5%ジメチル−トリメチレンカルボネート)−コ−(2.5%トリメチレンカルボネ−ト)]、シアノアクリレート、ポリエチレンオキシド、メチルセルロース、エチルセルロース、アセチルセルロースの如き多糖類、及び前述の内のいずれかの混合及びコポリマーを含む。上記ポリマーの重量平均分子量は、5,000〜1,000,000が好ましく、10,000〜500,000がより好ましい。
【0026】
本発明に用いる両親媒性ポリマーとしては、生体に対して毒性が無いものであれば特に限定されないが、具体的には、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体;アクリルアミドポリマーを主鎖骨格とし、疎水性側鎖としてドデシル基と親水性側鎖としてラクトース基またはカルボキシ基を併せ持つ両親媒性ポリマー;ヘパリン、デキストラン硫酸、DNAやRNAの核酸等のアニオン性高分子と長鎖アルキルアンモニウム塩とのイオンコンプレックス;ゼラチン、コラーゲン、アルブミン等の水溶性タンパク質を親水性基とした両親媒性ポリマー等が好ましい。特に、鋳型となる水滴を安定化させる能力に優れるという点で、ドデシルアクリルアミド−ω−カルボキシヘキシルアクリルアミドを含有する両親媒性ポリマーが好ましい。
【0027】
使用する有機溶媒としては、疎水性かつ高分子化合物を溶解させるものであれば、特に限定されない。例としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼン、四塩化炭素、1−ブロモプロパンなど)、シクロヘキサン、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。これらのうち複数の化合物が溶媒として併用されてもよい。また、これらの化合物の単体又は混合物に、アルコールやケトン類等の親水性溶剤を20%以下程度の少量添加されたものを用いてもよい。また、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、1−ブロモプロパン等の臭素系炭化水素等が好ましく用いられる。これらは、互いに混合して用いられてもよい。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合有機溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−,−CO−,−COO−及び−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶剤として互いに異なる2種以上の化合物を用い、その割合を適宜変更することにより、後述の水滴の形成速度、及び後述の塗布膜への水滴の入り込みの深さ等を制御することができる。
【0028】
塗布液については、有機溶剤100重量部に対しポリマーが0.02重量部以上30重量部以下とすることが好ましい。これにより、生産性良く高品質の多孔膜13を形成することができる。有機溶剤100重量部に対しポリマーが0.02重量部未満であると、溶液における溶媒割合が大きすぎて蒸発に要する時間が長くなるので、多孔膜13の生産性が悪くなり、一方、30重量%を超えると、結露で発生した水滴が塗布液を変形させることができず、そのため不均一な凹凸が形成された多孔膜13になってしまうことがある。
【0029】
分子化合物と両親媒性化合物とを混合して用いる場合には、高分子化合物の重量に対する両親媒性化合物の重量の割合は0.1%以上20%以下の範囲とすると、形成される水滴の大きさが均一となりやすいので、孔が均一である多孔膜13が得やすくなる。高分子化合物の重量に対する両親媒性化合物の重量の割合が0.1%未満であると、両親媒性化合物の添加効果がほとんどなく、形成される水滴が不安定で大きさが不均一となる場合がある。一方、高分子化合物の重量に対して低分子である両親媒性化合物の重量の割合を20%よりも大きくすると、多孔膜13の強度が下がることがある。
【0030】
本発明の多孔膜に生物学的生理活性物質(治療薬)を担持させる場合には、多孔膜を形成する前に、ポリマー溶液中に、生理活性物質を溶解させておく。これにより、多孔膜が形成されたときには、多孔膜内に生理活性物質が担持される。なお、このように、ポリマー溶液中に生理活性物質を溶解させて多孔膜中に生理活性物性を担持させる他に、多孔膜が形成された後に、生理活性物質を多孔膜の表面に塗布してもよい。
【0031】
生理活性物質としては、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ剤、抗血栓薬、HMG−CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIbIIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、及びNO産生促進物質からなる群から選択される少なくとも1つの化合物が挙げられる。
【0032】
上記多孔膜の孔の球形の直径は0.1〜100μmであることが好ましく、さらに好ましい孔の球形の直径は0.1〜50μm、最も好ましい孔の球形の直径は0.1〜25μmである。上記孔の球形の直径は、孔が球形の一部である場合は、孔の厚さに直角な方向の最大径である。この範囲の大きさであれば、ハニカム構造を有する多孔膜をステント本体に形成したステントを病変部に留置した際に、内面側と外面側との物質交換を十分に行うことができる。したがって、血管内面の内皮化が促進され、再狭窄が防止されるので、好ましい。
【0033】
本発明の多孔膜は、内皮細胞の増殖を促進させる表面を有することが好ましい。具体的には、例えば、多孔膜中に両親媒性ポリマーがあれば、該両親媒性ポリマーの親水性基と血管内皮細胞前駆物質とが化学結合し易く、内皮細胞の増殖を促進させることができる。また、上記多孔膜の表面にポリエチレングリコールを導入したものでも、内皮細胞の増殖を促進させることができるので好ましい。
【0034】
図5に示すように、本発明を実施した多孔膜を有するステント製造装置40は、ステント本体部材20のハンドリング部41と、ステント本体部材20の供給部42と、水滴付着膜形成・乾燥部45と、排出部46とを備えている。ハンドリング部41は、ステント本体部材20を保持する保持プレート47と、前記供給部42、水滴付着膜形成・乾燥部45及び排出部46に順に送る搬送ユニット48とを有する。
【0035】
図9に示すように、保持プレート47は、プレート本体51、クランプ部52、温度調節部53、及びイジェクト部54を有する。クランプ部52はステント本体部材20の一端をくわえて保持する。温度調節部53は、クランプ部52で保持されたステント本体部材20の温度を調節し、後に説明するように、塗布膜32の表面温度を所定の一定温度範囲内に保持する。イジェクト部54は、ステント本体部材20の表面に、多孔膜13が形成された後に、クランプ部52による保持を解除して、ステント本体部材20を保持プレート47から排出する。
【0036】
図5に示すように、搬送ユニット48は、保持プレート47を供給部42、水滴付着膜形成・乾燥部45、排出部46に送ることができるものであればよく、レールやガイド機構を有するものの他に、ロボットアームなどの汎用の搬送ユニットを用いることができる。
【0037】
本実施形態では、多孔膜13を効率よく形成するために、ステント本体12に切り離す前のステント本体集合体であるステント本体部材20を用いている。このステント本体部材20は、例えば2〜50個、好ましくは5〜20個程度のステント本体12が得られる長さで形成されており、多孔膜13を形成した後に、加工工程29(図4参照)にて各ステント本体12に切り離される。
【0038】
水滴付着膜形成・乾燥部45では、ディップ塗布用の貯留槽31と、水滴形成・成長・乾燥用の処理槽61とを有する。貯留槽31にはポリマー溶液30が貯留されており、所定の温度に維持されている。搬送ユニット48は、貯留槽31の上方で、保持プレート47を昇降させて、ステント本体部材20を貯留槽31内のポリマー溶液に浸漬した後に、これを引き上げることで、ステント本体部材20に対して、ポリマー溶液30をディップ塗布する。塗布工程における塗布膜32のウェット厚みは、1mm以下であり、好ましくは10μm以上400μm以下であり、より好ましくは20μm以上300μm以下である。また、塗布液の粘度は、1×10−4Pa・s以上1×10−1Pa・s以下であり、好ましくは5×10−4Pa・s以上5×10−2Pa・s以下である。
【0039】
塗布後は、搬送ユニット48により保持プレート47は処理槽61に搬送される。処理槽61では、図4に示す水滴付着膜形成工程25中の結露工程(水滴形成工程)23と、水滴成長工程24と、乾燥工程28とを行う。
【0040】
処理槽61には、送風ユニット65が設けられている。送風ユニット65は、送風口65a及び吸気口65bを有するダクト65cと送風部65dとを備える。送風部65dは、送風口65aから送り出す加湿空気の温度、露点、湿度を制御し、吸気口65bから塗布膜の周辺の気体を吸排気する。これにより、処理槽61内のステント本体部材20の周囲の雰囲気が循環されて、常に一定の状態に保持される。また、送風部65dには塵埃を除去するフィルタが設けられている。送風ユニット65は1個でも複数個でもよく、保持プレート47のステント本体部材20に対して、ほぼ均一に水滴を形成することができるものであればよい。
【0041】
図5に示すように、送風ユニット65の送風部65dによる送風及び吸気により、塗布膜32の表面に加湿空気が供給され、図6に示すように、塗布膜32の表面に結露が生じる。この結露現象により微小水滴33を形成するための雰囲気を第1雰囲気とし、この第1雰囲気により図4における結露工程(水滴形成工程)23が行われる。第1雰囲気における雰囲気露点をTd1、塗布膜32の表面温度をTsとしたときに、Td1−Tsで求められる値ΔT1を0より大きい値とする。好ましくは、ΔT1は0.5℃以上30℃以下である。このような範囲にΔT1を設定することにより、塗布膜32の表面に結露によって、微小水滴33が多数個形成される。風速としては、0.05m/s以上10m/s以下であることが好ましい。
【0042】
その後、送風ユニット65の加湿空気の露点温度などを変更し、第2雰囲気とすることにより、微小水滴33を成長させることができる(水滴成長工程24)。第2雰囲気における雰囲気露点をTd2、塗布膜32の表面温度をTsとしたときに、Td2−Tsで求められる値ΔT2を0より大きい値とする。好ましくは、ΔT2は0.5℃以上20℃以下である。このような範囲にΔT2を設定することにより、塗布膜32の表面の微小水滴33を成長させることができる。また、一般にΔT1>ΔT2であることが均一化の点では好ましい。風速としては、0.05m/s以上10m/s以下であることが好ましい。なお、塗布膜32の表面温度Tsは、クランプ部52に設けた温度調節部53によりステント本体部材20の温度を調節することによっても調節可能であるが、これに代えて又は加えて、プレート本体51に設けた温度調節部53によって、塗布膜32の表面温度Tsを制御してもよい。また、露点Tdは、送風ユニット65から出される加湿空気の条件を変えることにより、制御される。
【0043】
図7に示すように、微小水滴34が所望のサイズとなったときに、ダクト65cからの風の温度、湿度、露点を変更して、ステント本体部材20の塗布膜32の周囲を第3雰囲気とすることにより、溶媒を蒸発させる溶媒蒸発工程26(図4参照)が行われる。第3雰囲気では、塗布膜中の溶媒を蒸発させて微小水滴34による鋳型を形成する。第3雰囲気では、塗布膜中の溶媒を蒸発させて微小水滴34による鋳型を形成することができる温度条件とする。例えば、第3雰囲気は、送風ユニット65により、送風温度が5℃以上50℃以下とされ、風速が0.05m/s以上10m/s以下とされる。
【0044】
次に、加湿空気の露点温度などを変更し、第4雰囲気とすることにより、微小水滴34を蒸発させる水滴蒸発工程27が行われる。この蒸発により塗布膜32内に微小な孔が多数形成されて、多孔膜13が形成される。例えば、第4雰囲気は、送風ユニット65により、送風温度が5℃以上100℃以下とされ、風速が0.01m/s以上20m/s以下とされる。
【0045】
排出部46には、乾燥後のステント本体部材20が搬送ユニット48により送られる。排出部46内には、保持プレート47からステント本体部材20が排出される。排出部46内のステント本体部材20は、加工工程に送られて、図示しない切断装置により、所定長さのステント本体に切り離される。これにより、多孔膜を有するステント本体をフィルム被覆工程などを経ることなく製造することができる。
【0046】
以上のように処理槽61内の雰囲気を第1雰囲気から第4雰囲気に変更することにより、結露工程23及び水滴成長工程24からなる水滴付着膜形成工程25と、溶媒蒸発工程26及び水滴蒸発工程27からなる乾燥工程28を行うことができる。なお、図6〜図8において、微小水滴33,34を図示する必要から、水滴33,34、塗布膜32などは誇大に表示してある。
【0047】
貯留槽31が配置された塗布室及び処理槽61には、図示しない溶媒回収装置が設けられており、各室内の溶媒を回収する。回収した溶媒は、図示しない再生装置で再生されて再利用される。
【0048】
なお、生産効率は低下するもののステント本体そのものを保持プレート47に保持させて塗布を行ってもよい。この場合には、ハンドリングを容易とするために、ステント本体を構成する例えば線状部材を一端部から延ばしておき、この延ばした延設部分を保持部として、これをクランプやフックなどで保持する。そして、多孔膜を形成した後は、保持部をステント本体から切り離すことで、ステントが得られる。このように保持部を形成し、これを後にステント本体から切り離すことで、多孔膜をステント本体の全表面に形成することができる。同様にして、ステント本体部材20に対しても保持部を形成し、この保持部を介して保持プレートに着脱自在に保持させてもよい。
【0049】
乾燥される前の塗布膜32の厚み(ウェット膜厚)は、0.01mm以上1mm以下の範囲の所定厚みとされる。なお、塗布膜の厚みが0.01mm以上1mm以下の範囲であっても、厚みが変動していると、均一な水滴を形成することができない場合がある。また、塗布膜厚が0.01mm未満であると、塗布膜自体を均一に形成することができず、線状部材11の上でポリマー溶液30が部分的にはじかれて線状部材11を塗布膜32で覆うことができなくなることがある。一方、塗布膜32が1mmを越えると、乾燥に要する時間が長くなり生産効率が低下する場合がある。また、ステントとして使用する場合に膜厚が大きくなり過ぎて好ましくない。
【0050】
結露工程23では、送風ユニット65の送風口65aから塗布膜に向けて、加湿空気が送られて、第1雰囲気となるようにされる。また、吸気口65bから塗布膜32の周辺気体が吸われて排気される。ここで、送風口65aからの加湿風の露点をTd1、塗布膜の表面温度をTs、Td1−Tsで求められる値をΔT1とするときに、ΔT1が0.5℃以上30℃以下となるように、表面温度Tsと露点Td1との少なくとも一方が制御される。
【0051】
水滴成長工程24における第2雰囲気においても、同様に加湿空気が送られる。第2雰囲気のΔT2は、例えば0.5℃以上20℃以下とされる。このような範囲にΔT2を設定することにより、塗布膜32の表面の微小水滴33を成長させることができる。また、均一化の観点からは、ΔT2はΔT1よりも小さな値に設定される。なお、塗布膜の表面温度Tsは、例えば、市販される赤外式温度計等の非接触式温度測定手段をプレート本体51に設けて測定することができる。
【0052】
溶媒蒸発工程26における第3雰囲気では、成長した微小水滴34を鋳型とすべく溶媒乾燥が行われる。その後の第4雰囲気では、微小水滴34を蒸発させることにより、孔径が0.1μm以上50μm以下の微小な孔からなるハニカム構造の多孔膜13が得られる。
【0053】
第2雰囲気では、塗布膜の表面温度Tsは、温度調節部53の温度を調節することによっても調節可能であるが、これに代えて又は加えて、プレート本体の表面でクランプ部に近接して配された温度制御板(図示なし)を用いて塗布膜の表面温度Tsを制御してもよい。また、露点Tdは、送風ユニット65から出される加湿空気の条件を変えることにより、制御される。
【0054】
第3雰囲気では、送風ユニット65により、例えば送風温度を30℃とし、風速を0.3m/sとして、塗布膜中の微小水滴を維持した状態で塗布膜内の溶媒を蒸発させて、塗布膜の乾燥が促進される。
【0055】
第4雰囲気では、送風ユニット65により、表面温度Tsまたは露点Tdのいずれか一方を制御し、表面温度Tsが露点Tdよりも高くなるようにする。表面温度Tsの制御は、温度制御部によりなされる。また、露点Tdの制御は送風口からの乾燥空気の条件制御によりなされる。表面温度Tsは前記温度測定手段により測定する。表面温度Tsを露点Tdよりも高く設定することにより、水滴の成長を止めて蒸発させ、多孔フィルムを製造することができる。なお、Ts≦Td1とすると、水滴の上にさらに結露して、形成された多孔構造を破壊してしまうことがあり、好ましくない。第4雰囲気では、水滴の蒸発を主たる目的としているが、蒸発しきれなかった溶媒も蒸発させる。この第4雰囲気では、送風ユニット65により、例えば、送風温度を30℃とし、風速を2m/sとする。
【0056】
第4雰囲気における水滴の蒸発工程では、送風ユニット65に代えて減圧乾燥装置や、いわゆる2Dノズルを用いてもよい。減圧乾燥を行うことで、溶媒と水滴との蒸発速度をそれぞれ調整することが容易になる。これにより、有機溶媒の蒸発と水滴の蒸発とをより良好にし、水滴を良好に塗布膜の内部に形成することができるので、前記水滴が存在する位置に、大きさ、形状が制御された孔を形成することができる。2Dノズルとは、風を出す送風ノズル部材と、塗布膜近傍の空気を吸い込んで排気する排気口がステント本体部材の配列方向に複数交互に配置したものである。また、処理槽とは別個に乾燥室を設け、この乾燥室で水滴蒸発工程を行ってもよい。
【0057】
なお、上記実施形態では、ステント本体部材20またはステント本体12にポリマー溶液30を塗布した後に、結露工程23により微小水滴33を形成し成長させるようにした水滴付着膜形成工程25を行ったが、これに代えて、図10及び図11に示す第2実施形態のように、ポリマー溶液30の液面30a上で結露により微小水滴70を形成し(図10の結露工程80)、この後に微小水滴70を成長させて、これら水滴70を液面30a上で6方最密に並べ(微小水滴成長工程81)、次に、微小水滴70を液面30aに密に配置させた状態でポリマー溶液30と一緒に引き上げて(ディップ塗布工程82)、表面に微小水滴70を有する塗布膜71を形成した水滴付着膜形成工程83を行ってもよい。なお、第1実施形態と同一工程及び同一構成部材などには同一符号を付して重複した説明を省略している。また、図11において、微小水滴70を図示する関係からそのサイズなどは誇張して示してあり、液面30aに形成された6方最密状態の水滴形成範囲は紙面の関係から狭い範囲となっているが、実際には図示のものよりも広範囲であり、ステント本体部材20が引き上げられても、これらステント本体部材20の線状部材11の表面に6方最密状態の水滴70が供給されるに十分な水滴の数量を有する。また、ステント本体部材20の引き上げや、ポリマー溶液30の蒸発によって、ポリマー溶液30の表面には溶液流れが発生し、この溶液流れによって水滴70に移流集積の効果が発生して、水滴70は引き上げ位置に集まるように集積される。
【0058】
結露工程80では、第1湿潤空気供給機からポリマー溶液の液面に対し第1湿潤空気を供給し、結露により微小水滴を液面上に形成する。微小水滴の形成方法は第1実施形態と同様である。また、微小水滴成長工程では、第2湿潤空気供給機からポリマー溶液の液面に対して第2湿潤空気を供給し、結露により微小水滴を成長させる。微小水滴の成長方法は第2実施形態と同様である。
【0059】
この第2実施形態の場合には、水滴付着膜形成工程83の後は第1実施形態と同じように、微小水滴を保持した状態で溶媒を蒸発させ(溶媒蒸発工程26)、次に、水滴を蒸発させる(水滴蒸発工程27)。このようにして、乾燥工程28を行うことで、微小水滴を型として多数の孔を塗布膜内に形成することができる。なお、ポリマー溶液30から引き上げた後にステント本体部材20に対し、上記第1実施形態と同じように、水滴成長工程24を付加し、より大きな水滴を形成し、孔径サイズがより大きい多孔膜を形成してもよい。
【0060】
図11は第2実施形態における水滴付着膜形成工程の概略を示すもので、ポリマー溶液30の表面30aに対し、結露工程及び水滴成長工程を行い、微小水滴70を形成し、この微小水滴を形成したポリマー溶液からステント本体部材20を引き上げることにより、表面に微小水滴70を有する塗布膜71が得られる。
【0061】
また、第1及び第2実施形態では結露により微小水滴をポリマー溶液の表面に形成したが、結露による微小液滴の形成に代えて、インクジェット方式で塗布膜上やポリマー溶液の表面上に微小液滴を吐出させてもよい。
【0062】
上記実施形態では、処理槽を一つ設け、この処理槽の加湿条件、温度条件などを変更して微小水滴の形成・成長・溶媒蒸発・水滴蒸発の各工程を行うようにしたが、微小液滴形成工程、微小液滴成長工程、溶媒蒸発工程、水滴蒸発工程の工程毎に処理槽や乾燥室をそれぞれ設けてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では保持プレート単位で各処理室に各ステント本体部材をセットするようにしたバッチ方式としたが、これに代えて、図9に示すような保持プレート47を例えばベルトコンベアやチェーンコンベヤなどの無端搬送部材に取り付けた連続製造方式としてもよい。
【0064】
図12は連続製造方式のステント製造装置を示すもので、このステント製造装置100は搬送ユニットとして無端ベルト101を備えている。無端ベルト101には、適宜ピッチで保持プレートが取り付けられている。保持プレートは、図9に示すものと同じ構造であり、ステント本体部材を保持するクランプ部や、イジェクト部、温度調節部などを備えている。なお、図9に示す保持プレート47は、クランプ部で1個ずつステント本体部材を保持する構成としているが、予め保持ブロックに複数個のステント本体部材を取り付けておき、この保持ブロックをクランプ部で保持するような構成としてもよい。
【0065】
無端ベルト101はガイドローラ98及び駆動ローラ99によって移動経路が構成されている。この移動経路に沿って、ステント本体部材供給部102、ディップ塗布のためのポリマー溶液貯留槽103、第1〜第3の処理室104〜106、及びステント本体部材排出部107がベルト移動方向に順に並べられている。なお、連続的にステント本体部材20を移動させる点が第1実施形態とは異なるだけであり、ポリマー溶液の塗布工程、微小水滴形成工程、微小水滴成長工程、溶媒蒸発工程、及び水滴蒸発工程は上記実施形態と同じである。
【0066】
ステント本体部材供給部102では、保持プレート47(図9参照)に対してステント本体部材20を供給し、保持プレート47に複数のステント本体部材20をクランプさせる。クランプされたステント本体部材20は無端ベルト101の移動により、ポリマー溶液貯留槽103、第1〜第3処理室104〜106、ステント本体部材排出部107に順に送られる。
【0067】
塗布工程では、ポリマー溶液貯留槽103のポリマー溶液30中をステント本体部材20が移動し、溶液30から引き上げられることにより、ステント本体部材20にポリマー溶液30が塗布される。塗布後のステント本体部材20は第1処理室104に送られ、ここで結露工程及び水滴成長工程が行われる。第1処理室104は、第1〜第3送風ユニット111〜113を備えている。各送風ユニット111〜113は基本的には第1実施形態の送風ユニット65と同じ構成となっている。
【0068】
第1送風ユニット111では、前記第1雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜の表面に結露により微小水滴を形成する。第2及び第3送風ユニット112,113では、前記第2雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜の表面の微小水滴を成長させる。
【0069】
第2処理室105は3個の第4送風ユニット114を備えており、これら第4送風ユニット114も第1実施形態の送風ユニット65と同じ構成になっている。第4送風ユニット114では、前記第3雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜から溶媒を蒸発させる。
【0070】
第3処理室106は、4個の第5送風ユニット115を備えており、これら第5送風ユニット115も第1実施形態の送風ユニット65と同じ構成になっている。第5送風ユニット115では、前記第4雰囲気となるように送風を行い、ステント本体部材20の塗布膜から水滴を蒸発させる。
【0071】
ステント本体部材排出部107では、多孔膜が形成されたステント本体部材20をイジェクト部により保持プレート47から排出する。排出されたステント本体部材20は図示しない切断装置で各ステント本体に切り離され、多孔膜を有するステント10が得られる。
【実施例】
【0072】
次に本発明の実施例について説明する。実施例1では、図5に示すようなステント製造装置40において、ディップ塗布と水滴付着膜形成工程とを行い、この後に乾燥工程により溶媒及び水滴を蒸発させて多孔膜13を形成した。ステント本体部材20としては、外径が2mmで長さが30mmのものを用い、塗布液としてポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレンブロックコポリマーのジクロロメタン溶液2.5mg/mlを用いた。
【0073】
本実施例によれば、孔径が3.0μmであり各孔間のピッチが4.0μmで膜厚が1.5μmの多孔膜をステント本体の表面にほぼ均一に形成することができた。このように、ステント本体の表面に、直接に多孔膜を形成するため、従来のように、多孔フィルムをステント本体の外周面に被覆するものと異なり、ステント本体の拡張時に剥離や孔の変形が少なくなることが確認された。
【0074】
また、ステント本体に直接に多孔膜を形成することができるため、従来の多孔フィルムの被覆タイプと異なり、別途多孔フィルムの形成工程や被覆工程が不要になり、製造が容易であることが確認された。しかも、1〜50μm程度の薄膜であり、しかも孔が多数形成されたものを、0.5〜4mm程度の外径を有し長さが40mm程度の微小な円筒体に被覆するという精密被覆処理を行う必要もなく、製造が容易になる。
【0075】
また、フィルム形態とした後にこれを被覆するという工程を経ることがないため、微小水滴形成条件やその成長条件を適宜制御することにより、多孔膜の孔径や孔ピッチの変更も容易に対応可能になる。さらには、多孔フィルムをステントに被覆するという従来タイプでは、ステントと多孔フィルムの密着性に限界があるため、多孔膜の厚さは、1〜10μm程度の薄膜が好ましいとされるが、本発明の多孔膜を直接に形成するタイプではステント本体表面と多孔膜の接着性が優れるため、厚みの制限が緩和される。また、密着性に優れるため、従来タイプに比べて厚みをより薄くすることも可能になる。したがって、多孔膜が剥がれにくく、多孔膜を有するステントの病変部への搬送性も優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に係るステントを拡大して示すもので、(A)は縮装時のステントの正面図、(B)は(A)におけるB−B線断面図、(C)は拡張時の同正面図、(D)は(C)におけるD−D線断面図である。
【図2】ステント本体の線状部材と多孔膜とを拡大して示す図1におけるE部の模式的な断面図である。
【図3】ステント本体の多孔膜を拡大して示す平面図である。
【図4】本発明のステント製造方法の各工程を示す概略の工程図である。
【図5】本発明のステント製造装置を示す概略図である。
【図6】結露工程を示す概略の断面図である。
【図7】水滴成長工程を示す概略の断面図である。
【図8】乾燥工程を示す概略の断面図である。
【図9】保持プレートを示す概略図である。
【図10】本発明の第2実施形態における各工程を示す工程図である。
【図11】第2実施形態におけるディップ塗布工程を模式的に示す概略図である。
【図12】連続的にステントを製造するステント製造装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0077】
10 ステント
11 線状部材
12 ステント本体
13 多孔膜
14 拡張エレメント
15 孔
20 ステント本体部材
30 ポリマー溶液
31 貯留槽
32 塗布膜
33,34 水滴
35 溶媒
40 ステント製造装置
47 保持プレート
61 処理槽
65 送風ユニット
103 貯留槽
104〜106 処理室
111〜115 送風ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を、ステント本体の表面に形成する水滴付着膜形成工程と、
前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成する乾燥工程と
を有することを特徴とする多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項2】
前記液は治療薬を含むことを特徴とする請求項1記載の多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項3】
前記水滴付着膜形成工程は、
前記液を前記ステント本体に塗布して膜を形成する膜形成工程と、
前記膜の表面温度よりも高い露点となる雰囲気下に前記膜をおき、前記膜の表面を結露させて水滴を形成する水滴形成工程と、
前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とからなることを特徴とする請求項1または2記載の多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項4】
前記水滴付着膜形成工程は、
前記液の表面に水滴を形成する水滴形成工程と、
前記水滴が形成された液面から前記ステント本体を引き出して、前記水滴が並んだ膜を前記ステント本体に形成する膜形成工程と、
前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とからなることを特徴とする請求項1または2記載の多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項5】
ステント本体と、
前記ステント本体の表面に、ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を形成し、この膜を乾燥させて前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成した多孔膜とを備えることを特徴とする多孔膜を有するステント。
【請求項6】
前記液は治療薬を含むことを特徴とする請求項5記載の多孔膜を有するステント。
【請求項1】
ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を、ステント本体の表面に形成する水滴付着膜形成工程と、
前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成する乾燥工程と
を有することを特徴とする多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項2】
前記液は治療薬を含むことを特徴とする請求項1記載の多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項3】
前記水滴付着膜形成工程は、
前記液を前記ステント本体に塗布して膜を形成する膜形成工程と、
前記膜の表面温度よりも高い露点となる雰囲気下に前記膜をおき、前記膜の表面を結露させて水滴を形成する水滴形成工程と、
前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とからなることを特徴とする請求項1または2記載の多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項4】
前記水滴付着膜形成工程は、
前記液の表面に水滴を形成する水滴形成工程と、
前記水滴が形成された液面から前記ステント本体を引き出して、前記水滴が並んだ膜を前記ステント本体に形成する膜形成工程と、
前記水滴を成長させて該水滴を前記膜内に配置する水滴成長工程とからなることを特徴とする請求項1または2記載の多孔膜を有するステントの製造方法。
【請求項5】
ステント本体と、
前記ステント本体の表面に、ポリマー及び疎水性溶媒を含む液からなり表面に水滴を有する膜を形成し、この膜を乾燥させて前記水滴を鋳型とする複数の孔を前記膜内に形成した多孔膜とを備えることを特徴とする多孔膜を有するステント。
【請求項6】
前記液は治療薬を含むことを特徴とする請求項5記載の多孔膜を有するステント。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−63768(P2010−63768A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−234917(P2008−234917)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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