説明

多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法および製造装置

【課題】ガラス微粒子合成用バーナ等によって生成されたガラス微粒子を出発材表面に効率よく付着・堆積させることにより、高い生産効率を有する多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法、およびその製造方法に用いる製造装置を提供する。
【解決手段】反応容器内において、ガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチを用いて生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、前記出発材の表面に前記ガラス微粒子を付着させ、かつ堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成しながら多孔質ガラス微粒子堆積体を製造する方法において、前記反応容器の壁部の全領域から、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を選択して冷却することを特徴とする製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法およびその製造方法に用いる多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石英ガラス等を製造する方法の一つとして、気相反応により生成したシリカ(SiO)微粒子等のガラス微粒子を石英製等の出発材に向けて堆積させ、成長させて多孔質ガラス微粒子堆積体を形成し、それを加熱して透明ガラス化する方法が知られている。
【0003】
上記多孔質ガラス微粒子堆積体を製造する方法としては、反応容器内で、出発材に向けて、ガラス微粒子合成用バーナ10(以下、単に「バーナ」ということもある。)から、四塩化珪素(SiCl)等のガラス原料ガスや、水素ガス、酸素ガス、不活性ガス等を供給し、該原料ガスを酸水素炎11中で加水分解させ、生成したガラス微粒子13を出発材の表面(堆積面)12に付着・堆積させることで多孔質ガラス微粒子堆積体とする方法が一般的である(図5(a)参照)。
【0004】
このような多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法において、生産性を向上させるためには、気相反応における反応速度を上げるとともに、生成したガラス微粒子を効率的に出発材の堆積面に付着・堆積させていくことが重要となる。
【0005】
ここで、ガラス微粒子の出発材堆積面への付着・堆積は、主に熱泳動(サーモホレシス:Thermophoresis、微細な粒子が温度匂配のある流れ場の中で高温側から、低温側の方向に温度匂配に比例した力を受け移動する現象)によって、ガラス微粒子13が火炎11側から堆積面12側に拡散することで行われることが知られている。一方で、上記バーナ10による火炎11の流れは出発材の堆積面12付近で、実質的には出発材にほぼ平行する方向に向いているため、上記熱泳動によるガラス微粒子の拡散を妨げるように作用している(図5(b)参照)。
【0006】
したがって、生成したガラス微粒子のうち出発材の堆積面に付着・堆積されるのは、その一部であって、相当量は多孔質ガラス微粒子堆積体の製造に使用されることなくHClガス等の上記気相反応の副生成物とともに反応容器外に排出されていた。さらに、排出される際にガラス微粒子が排気口や排気管に付着し、これらの流路を狭めることが生産性の低下に繋がっていた。
【0007】
そこで、熱泳動による拡散効果をできる限り利用して、つまり、火炎と堆積面の温度差を大きくして、ガラス微粒子を効率よく堆積面に付着・堆積させることで多孔質ガラス微粒子堆積体の生産効率を上げる方法が提案されている。
【0008】
例えば、特許文献1では、出発材へのガラス微粒子の付着・堆積を実質的に円柱形状の出発材をその長手軸方向に回転させ、その表面に均一にガラス微粒子を吹き付けることによって行われる、いわゆるOVD(Outside Vapor Deposition)法において、熱泳動効果を上げる次の方法が提案されている。すなわち、回転する出発材の表面の冷却を火炎とは反対側でその空間を冷却することにより行い、これが回転により火炎側に達し堆積面となった際に出発材の堆積面と火炎との温度差を大きくする方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−231465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、上記空間の冷却を反応容器内に冷却用ガスを導入することにより行っているため、導入された冷却用ガスが、バーナの火炎に影響を与え、乱れのない安定した火炎を形成することができないおそれがある。このため、安定した火炎流を形成するのに好適なガスの流速分布を整えにくくなり、また、酸素ガスと水素ガスの拡散・混合が阻害され、ガラス原料の反応、粒成長、堆積に好適な火炎状態が達成できず、全体として生産性が向上しない可能性がある。
【0011】
本発明は、上記の事情に対処してなされたものであり、ガラス微粒子合成用バーナ等によって生成されたガラス微粒子を出発材表面に効率よく付着・堆積させることにより、高い生産効率を有する多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法、およびその製造方法に用いる製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法は、反応容器内において、該容器の壁部に取り付けられたガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチを用いて生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、前記出発材の表面に前記ガラス微粒子を付着させ、かつ堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成しながら多孔質ガラス微粒子堆積体を製造する方法において、前記反応容器の壁部の全領域から、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を選択して冷却することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置は、反応容器と、反応容器内において出発材を把持し回転させるための駆動手段と、前記出発材の表面にガラス微粒子を吹き付けるとともに堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成させるためのガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチと、前記反応容器の壁部の全領域のうちの、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を冷却する冷却手段と、を有する。
【0014】
ここで、本明細書において、反応容器の壁部とは、反応容器を構成する容器壁の全体をいい、例えば、容器壁が底部、側部、上部等で構成される場合については、これらの全てを含む用語として「壁部」を用いる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ガラス微粒子合成用バーナ等によって生成されたガラス微粒子を出発材表面に効率よく付着・堆積させることにより、高い生産効率を有する多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法、およびその製造方法に用いる製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の製造装置(VAD法による)の実施の形態の一例を示す構成図である。
【図2】本発明の製造装置(OVD法による)の実施の形態の一例を示す構成図である。
【図3】実施例で用いた本発明の製造方法を評価する試験用の製造装置の構成図である。
【図4】実施例で用いたガラス微粒子合成用バーナの断面図である。
【図5】気相法によりバーナで生成したガラス微粒子が出発材に付着・堆積する機構を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、図を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
[製造方法]
本発明の製造方法は、反応容器内において、該容器の壁部に取り付けられたガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチを用いて生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、前記出発材の表面に前記ガラス微粒子を付着させ、かつ堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成しながら多孔質ガラス微粒子堆積体を製造する方法に適用される。
【0018】
上記本発明が適用される多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法は、一般的に用いられる多孔質ガラス微粒子堆積体の製造方法であって、例えば、以下の(1)OVD法、(2)VAD(Vapor−phase Axial Deposition)法、(3)一部のプラズマ法(例えばPOVD法)等の方法が挙げられる。
【0019】
(1)OVD法
OVD法では、ガラスロッド等の実質的に円柱形状の出発材を用いる。出発材は反応容器内に設置され、多孔質ガラス微粒子堆積体の製造に際して、軸周りに回転する。ガラス微粒子合成用バーナは、火炎が出発材の長手軸方向と直交する方向に吹き付けられる位置となる反応容器の壁部に、必要に応じて出発材の長手軸方向の全体に亘って設けられるか、出発材の長手軸方向に平行移動できるように1本または複数本設けられる。バーナの替わりに出発材がその長手軸方向に平行移動できる構成となっていてもよい。OVD法では、バーナにより生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、円柱形状の出発材が外径を次第に大きくし、最終的に所定の大きさの多孔質ガラス微粒子堆積体を得る。
【0020】
(2)VAD法
出発材としては、反応容器内に鉛直に垂下した円柱形状の出発材を用いる。ガラス微粒子合成用バーナは、少なくとも火炎がこの出発材の下端部に向けて吹き付けられる位置となる反応容器の壁部に1本設置される。必要に応じて出発材の長手方向と直交する方向に吹き付けられる位置となる反応容器の壁部に1本または複数本のバーナが設置されることもある。バーナによって生成されたガラス微粒子は上記出発材の下端部に付着・堆積する。出発材は軸周りに回転しながら付着・堆積に応じて漸次軸方向に引き上げられる。このようにして出発材は長さ方向に次第に成長し、最終的に所定の大きさの多孔質ガラス微粒子堆積体を得る。
【0021】
(3)POVD法
ガラス微粒子合成用バーナがプラズマトーチである以外はOVD法とほぼ同様の方法である。プラズマトーチは冷却手段を施されたコイルに高周波交流電流を流すことでコイル内を通過するガスに熱プラズマを発生させ、原料ガスを供給し化学反応を起こすことでガラス微粒子を生成させるものである。OVD法と同じくガラスロッド等の実質的に円柱形状の出発材を用い、プラズマトーチにより生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、円柱形状の出発材が外径を次第に大きくし、最終的に所定の大きさの多孔質ガラス微粒子堆積体を得る。
【0022】
ここで、本発明の製造方法が対象とするガラスとしては、上記本発明が適用される製造方法によって多孔質ガラス微粒子堆積体を形成しうるガラスであれば特に制限されない。このようなガラスとして、二酸化珪素を主成分とするガラスが挙げられる。具体的には、二酸化珪素のみで構成される石英ガラス、二酸化珪素とこれに対して0.01〜30質量%程度の二酸化チタン、二酸化ゲルマニウム、酸化ホウ素、酸化リン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ガリウム、フッ素等のドーパントを含有するガラス等が挙げられる。
【0023】
また、ガラス微粒子合成用バーナとしては、上記本発明が適用される製造方法に従来用いられる公知のバーナを特に制限なく使用することができる。このようなバーナとして、一般的には、多層同心円状(例えば、図4に示す実施例に用いたバーナ)、またはマルチノズル構造の吹き出し口を有し、上記製造する多孔質ガラス微粒子堆積体のガラス原料ガス、例えば、石英ガラスであれば、四塩化珪素、アルコキシシラン等のガラス原料ガス、水素および酸素からなる燃焼ガス、並びに、窒素、アルゴン等の不活性ガスをその吹き出し口から噴射して混合し、水素を燃焼させてガラス原料ガスの火炎加水分解を起こさせることによりガラス微粒子を生成するためのバーナが例示できる。
【0024】
ガラス微粒子合成用のプラズマトーチとしては、上記本発明が適用されるPOVD法に従来用いられる公知のプラズマトーチ、例えば上記(3)に説明したプラズマトーチを特に制限なく使用することができる。
以下、本発明の製造方法を、ガラス微粒子合成用バーナを用いた実施形態として説明するが、ガラス微粒子合成用バーナの替わりにガラス微粒子合成用プラズマトーチを用いた場合も同様である。
【0025】
なお、ガラス原料ガスは、製造するガラスに応じて適宜選択される。上記二酸化珪素の他に二酸化チタン、二酸化ゲルマニウム、酸化ホウ素、酸化リン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ガリウム、フッ素等のドーパントを含有するガラスの場合には、上記ガラス原料ガスにドーパント原料が使用される。たとえば、ドーパントが酸化ホウ素や酸化リン、および二酸化チタン等の金属酸化物である場合は、ハロゲン化物や有機化合物が、ドーパントがフッ素である場合は、単体または四フッ化ケイ素が原料として使用される。
【0026】
本発明の製造方法に用いる出発材としては、その表面に、上記ガラス微粒子合成用バーナで合成されたガラス微粒子を堆積できる材料で構成されていればよく、上記本発明が適用される製造方法に従来用いられる公知の出発材を、形状・材料を問わず特に制限なく使用することができる。出発材の材料として、具体的には、石英ガラス、カーボン、および金属等が用いられる。
【0027】
また、反応容器としては、上記本発明が適用される製造方法に従来用いられる公知の反応容器が特に制限なく使用できる。反応容器の構成材料としては、バーナに供給される各種ガスや気相反応で生成するHCl等に対する耐食性や耐熱性、万一多孔質ガラス微粒子堆積体が落下した際に十分な機械的強度等を有する材料、具体的には、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、ニッケル等が挙げられる。反応容器の形状としては、特に制限されないが、多孔質ガラス微粒子堆積体の形状やバーナの火炎が乱れないような形状が好ましい。
【0028】
本発明は、反応容器内において、該容器の壁部に取り付けられたガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチを用いて生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、前記出発材の表面に前記ガラス微粒子を付着させ、かつ堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成しながら多孔質ガラス微粒子堆積体を製造する方法において、前記反応容器の壁部の全領域から、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を選択して冷却することを特徴とするものである。
なお、形態係数の最大値は1.0であることから、上記反応容器の壁部の冷却される領域におけるガラス微粒子の堆積面に対する形態係数の上限は1.0である。
【0029】
なお、上記ガラス微粒子の堆積面とは次の通りである。すなわち、ガラス微粒子合成用のバーナ等を用いて連続して出発材の表面にガラス微粒子を付着、堆積すると、出発材には逐次ガラス微粒子の新しい堆積面が形成されることになる。ここで、出発材の表面に順次形成されるガラス微粒子の堆積面の形状は多孔質ガラス微粒子堆積体が製造される過程で異なると考えられる。具体的には多孔質ガラス微粒子堆積体の製造初期にはガラス微粒子の堆積面の形状は安定しないが、暫くすると形状は安定する。本明細書において「ガラス微粒子の堆積面」とは、このように多孔質ガラス微粒子堆積体の製造においてガラス微粒子が安定的に堆積しているときの上記ガラス微粒子の堆積面をいうものである。
【0030】
本発明の製造方法においては、反応容器の壁部における上記冷却される領域、すなわち、ガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域が、ガラス微粒子合成用バーナの取り付け部の壁部近傍を含む領域であることが特に好ましい。ガラス微粒子堆積面は、出発材あるいは形成されつつある多孔質ガラス微粒子堆積体にバーナの火炎が吹き付けられる部分に相当する。反応容器のバーナ取り付け部近傍を含む領域を冷却すると、ガラス微粒子堆積面とともに火炎も冷却されることになる。しかしながら、ガラス微粒子堆積面に比べて火炎は放射率が小さく、さらに連続的に供給・排気されているために上記冷却による温度降下は小さい。一方、ガラス微粒子堆積面は火炎に比べて放射率が大きく冷却されやすいことから、温度降下も火炎に比べて大きくなる。
【0031】
よって、本発明の製造方法にしたがい、ガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域であって、反応容器のバーナ取り付け部の壁部近傍を含む領域を冷却すれば、火炎とガラス微粒子堆積面の温度はともに上記反応容器の壁部を冷却しない場合より降下するものの、両者の間の温度差は上記壁部を冷却しない場合と比較して大きくなり、ガラス微粒子に作用する熱泳動力が増大して、ガラス微粒子堆積面へのガラス微粒子の付着効率を上げることができる。
【0032】
ここで、上記ガラス微粒子堆積面を効率よく冷却してガラス微粒子に作用する熱泳動力を効果的に増大させるために、好適な反応容器の冷却領域としては、反応容器の形状およびガラス微粒子堆積面の形状による影響を考慮すれば、反応容器を構成する、例えば、上部、底部および側部等からなる壁部の全領域のうちで、ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が最大値の1.0となるような領域(以下、「形態係数最大領域」ということもある)を含む領域が挙げられる。通常の反応容器の構成においては、この形態係数最大領域は、上記ガラス微粒子堆積面と相対する反応容器の領域とほぼ一致して存在する。
【0033】
なお、本明細書において、上記ガラス微粒子堆積面と相対する領域とは、例えば、後述の図1のKで示される領域、すなわち、ガラス微粒子堆積面の外周の各点を通る接線と反応容器壁部が交差する点のうちバーナからの距離が大きい点を結んだ線で反応容器を区切った場合に、バーナ取り付け部が存在する側となる壁部の領域全体をいう。
【0034】
本発明の製造方法より、反応容器の壁部において冷却される領域としては、この形態係数最大領域に包含され、ガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域である。なお、反応容器壁部における冷却領域としては、上記形態係数最大領域に包含される領域であって、上記形態係数が0.2以上となるような領域であればいずれの領域を選択してもよく、また、冷却領域を複数個所に分散させてもよいが、好ましくは、上記反応容器のバーナ取り付け部の壁部近傍を含む連続した一つの領域であることが好ましい。このような領域を選択して反応容器の壁部を冷却することによりガラス微粒子合成用バーナによって生成されたガラス微粒子をガラス微粒子堆積面に効率よく付着・堆積させることが可能となる。さらに、本発明においては、上記反応容器の壁部において冷却される領域としては、ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.3以上となるような領域が好ましい。
【0035】
なお、上記反応容器の壁部における冷却される領域としては、上記本発明における上記形態係数の条件、0.2以上が満足できることを前提として、上記反応容器をガラス微粒子堆積面の先端部を通る接線を含む水平面で2分割した際に、多孔質ガラス微粒子堆積体が内在する側となる反応容器の壁部の領域を含まないことが好ましい。さらには、上記反応容器を、ガラス微粒子合成用バーナの反応容器内の端部を含む水平面で2分割した際に、多孔質ガラス微粒子堆積体が内在する側となる反応容器の壁部の領域を含まないことがより好ましい。このような冷却領域として含まない方が好ましいとされる領域を冷却した場合には、ガラス微粒子堆積体の嵩密度分布が大きくなり、安定合成がしにくくなるおそれがある。
【0036】
上記反応容器壁部の冷却領域における冷却の程度については、具体的には、上記反応容器の壁部における冷却領域を冷却した状態でガラス微粒子堆積面の温度が800〜1300℃となるような条件であることが好ましく、1000〜1200℃となるような条件であることがより好ましい。
【0037】
ここで、ガラス微粒子堆積面の温度は、温度分布、例えば、中心部が最高温度であり中心部から外縁に向かって低くなるような温度分布を有する。本明細書においてガラス微粒子堆積面の温度とは、ガラス微粒子堆積面内の最高温度を意味する。以下、一定面積の領域や火炎の温度をいう場合、特に断りのない限り、その領域内、火炎内の最高温度をいう。
【0038】
さらに、ガラス微粒子堆積面の上に示す好ましい温度降下の範囲のなかで、上記VAD法やOVD法等の各種製造方法、製造するガラス微粒子の種類、ガラス微粒子合成用バーナの種類、多孔質ガラス微粒子堆積体のサイズや形状等の各種製造条件毎に異なる火炎の温度およびガラス微粒子堆積面の温度に応じて、より好ましい冷却の温度条件が適宜調整される。
【0039】
例えば、石英ガラスをVAD法で製造する際に、上記反応容器壁部の冷却領域を選択的に冷却することのない従来の製造方法における温度条件として、用いるバーナの火炎温度が1900〜1950℃、ガラス微粒子堆積面の温度が1300〜1350℃であるような製造装置において、本発明の製造方法にしたがって、反応容器の壁部におけるガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような冷却領域を冷却する場合には、ガラス微粒子堆積面の温度が1100℃〜1200℃になるように冷却することが好ましい。このように反応容器の上記所定の壁部に冷却処理を施すことにより、上記の通りバーナの火炎温度も降下して1890〜1940℃程度となるが、ガラス微粒子堆積面の温度は1100〜1150℃まで冷却される。よってガラス微粒子堆積面と火炎の温度差は、反応容器壁部の上記本発明による所定の冷却領域を冷却しない場合の600℃に比べて大きい790℃となり、ガラス微粒子に作用する熱泳動力は高まると考えられる。
【0040】
また、この場合には、上記反応容器の冷却領域の温度を、少なくともガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2となるような領域で100〜300℃程度となるように冷却することで、ガラス微粒子堆積面の温度を、上記冷却を行わない場合に比べて100〜400℃低くすることができる。このように、本発明の製造方法においては、ガラス微粒子の堆積面の温度が冷却を行わない場合に比べて、100℃以上低くなるよう上記反応容器壁部を冷却することが好ましく、さらに、150℃以上低くなるように冷却することがより好ましい。なお、石英ガラスをVAD法で製造する際に、上記従来の製造条件を採用した場合に、反応容器の壁部のいずれの領域に対しても上記冷却処理が施されなければ、上記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2となるような領域に相当する領域ではその壁部温度は300〜700℃である。
【0041】
上記反応容器の壁部の所定の冷却領域を冷却する方法は特に制限されないが、通常は反応容器の外側から壁部の該所定領域を冷却する方法がとられる。冷却方法として、具体的には、気体または液体を冷却用の媒体として用いて冷却する方法が挙げられる。本発明においては、無害で高い冷却能力を必要とする観点から水を冷却用媒体として用いることが好ましい。また、水に、防錆剤、凍結防止剤等の成分が添加されたものが好ましく用いられる。さらに、冷却の方式としては、温度制御された冷却用の媒体が循環する方式が好ましく用いられる。
【0042】
本発明においては、上記反応容器壁部の所定領域の冷却によってガラス微粒子堆積面の効果的な冷却が行われ、それによりガラス微粒子堆積面と火炎との温度差が大きくなり、ガラス微粒子の熱泳動による拡散が促進され、結果として、ガラス微粒子堆積面へのガラス微粒子の付着・堆積の効率を上げることが可能となる。
【0043】
本発明の他の効果としては、例えば同一の製造装置を使ってより高速な製造を試みた場合、増加させたガラス原料ガスを十分に反応させるためにバーナの火力を上げる必要がある。しかしそれに伴ってガラス微粒子堆積面温度も上昇するために熱泳動によるガラス微粒子の付着効率が低下する。本発明の製造方法によれば、ガラス微粒子堆積面温度をガス供給量の調整以外に反応容器壁部の所定領域の温度を調整することによっても制御できるため、より高速な製造条件においてもバーナの火力を上げつつガラス微粒子堆積面温度を低下させることにより収率を維持し安定して多孔質ガラス微粒子堆積体を製造することができる。
【0044】
多孔質ガラス微粒子堆積体をさらに脱水、焼結することによって透明ガラスが製造できる。本発明に係る多孔質ガラス微粒子堆積体から製造された透明ガラスは、例えば光ファイバやレンズ、プリズム、その他各種光学材料等を製造するための材料として用いることができるが、これらの原材料として用いられるものに限定されるものではない。
【0045】
[製造装置]
本発明の製造装置は、上記本発明の製造方法によって多孔質ガラス微粒子堆積体を製造するための装置であって、反応容器と、反応容器内において出発材を把持し回転させるための駆動手段と、前記出発材の表面にガラス微粒子を吹き付けるとともに堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成させるためのガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチと、前記反応容器の壁部の全領域のうちの、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を冷却する冷却手段とを有する。
【0046】
以下、本発明の多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置を、VAD法に用いて多孔質石英ガラス微粒子堆積体を製造する場合を一例として、図1に基づいて説明する。
(VAD法による製造装置)
図1は、実施形態に係る多孔質石英ガラス微粒子堆積体のVAD法による製造装置1(以下、単に製造装置1という)の構成図である。製造装置1は、ガラス微粒子合成用バーナ10(以下、単にバーナ10という)と、反応容器20と、駆動手段30と、冷却手段40と、洗浄塔50を備える。製造装置1は、従来公知のVAD法による製造装置に冷却手段40を付け加えた構成である。
【0047】
バーナ10は、反応容器20の底部を構成する壁部に、ガラス原料ガス等を供給する吹き出し口21が反応容器内の所定の位置に配されるように取り付けられており、該バーナ10を介して四塩化珪素等の珪素化合物からなるガラス原料ガス、水素ガス、酸素ガス、不活性ガス等の多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bの合成に必要な各種ガスが反応容器20内に供給される。また、多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bにドーパントをドープする場合には、バーナ10からドーパントの原料ガス、例えば、ドーパントが二酸化チタンの場合には四塩化チタン等も合わせて供給される。
【0048】
反応容器20は、バーナ10から供給されるガラス原料ガスを酸水素炎(火炎)11中で加水分解し、生成されるスート(煤)状のシリカ微粒子を石英ガラスで形成した出発材Sに付着させて堆積させ、多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bを製造するための容器である。反応容器20には、多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bを製造する際に発生する塩化水素ガスとともにガラス微粒子堆積面に付着・堆積しなかったガラス微粒子を排出する開口部20aが設けられている。この開口部20aから排出された塩化水素ガス、ガラス微粒子は、洗浄塔(除害装置)50で処理される。
【0049】
駆動手段30は、出発材Sを反応容器20内に鉛直に懸下するとともに、この多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bの成長に応じて、出発材Sを回転させながら引き上げる。出発材Sを回転しつつ多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bを軸方向に引き上げることでバーナ10と出発材Sとの距離が一定に保たれる。
【0050】
冷却手段40は、反応容器20の壁部において、多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bの下端部、すなわちガラス微粒子堆積面12に対する形態係数が0.3となる領域(図1においてk’で示される。:ここでは、反応容器20の底部を構成する壁部のうちバーナ10の取り付け部を除くバーナ10の取り付け部近傍を含むほぼ全面および底部から両方の側部に続く壁部の湾曲した部分)に、冷却部41が接するように配設されている。なお、図1において領域k’は、後述のKで示される領域やkで示される領域と区別するために、反応容器20の壁部から内側に離れて一点鎖線で示されているが、実質的には冷却部41が接する反応容器20の壁部が、ガラス微粒子堆積面12に対する形態係数が0.3となる領域k’である。
冷却手段40は、冷却部41と、配管42と、温度制御機構を備えた冷却液貯留槽43を有する。冷却手段40においては、冷却液貯留槽43で温度管理された冷却液が、配管42を通じて冷却部41と冷却液貯留槽43の間を循環する。冷却手段40としては、上記本発明の製造方法における好ましい冷却条件を達成できる冷却能力を有するものが好ましい。
【0051】
また、図1に示す製造装置1において、反応容器を構成する、例えば、上部、底部および側部等からなる壁部の全領域のうちで、ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が1.0となる領域(形態係数最大領域)を、K(太線)で示す。また、ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2となる領域の一例をk(破線)で示す。上記領域k’同様、領域kは上記Kで示される領域等と区別するために、反応容器20の壁部から内側に離れて破線で示されるが、実質的にはこれに対応する反応容器の壁部の領域を示すものである。なお、製造装置1においては、上記の通り反応容器の壁部における冷却領域は上記形態係数が0.3となる領域k’であるが、本発明の製造装置はこれに限定されるものではない。
上記製造装置1と同様の製造装置を用いた場合でも、上記形態係数最大領域Kの範囲内で、例えば、上記kで示されるガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2となる壁部の領域を最小限の領域とし、これを含むこれより広い範囲の領域の壁部を冷却領域として、上記製造装置1と同様の冷却手段によってこれを冷却するように製造装置を設計することにより、本発明の効果、すなわちガラス微粒子を堆積面に効率よく付着・堆積する効果を上げることが可能となる。
【0052】
ただし、その場合上記反応容器の壁部における冷却される領域としては、上記反応容器をガラス微粒子堆積面の先端部を通る接線を含む水平面で2分割した際に、多孔質ガラス微粒子堆積体が内在する側となる反応容器の壁部の領域を含まないことが好ましい。さらには、上記反応容器を、ガラス微粒子合成用バーナの反応容器内の端部を含む水平面で2分割した際に、多孔質ガラス微粒子堆積体が内在する側となる反応容器の壁部の領域を含まないことがより好ましい。
【0053】
さらに、本発明の多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置を、OVD法に用いて多孔質石英ガラス微粒子堆積体を製造する場合を一例として、図2に基づいて説明する。
(OVD法による製造装置)
図2は、実施形態に係る多孔質石英ガラス微粒子堆積体のOVD法による製造装置1の構成図である。製造装置1は、バーナ10と、反応容器20と、駆動手段30と、冷却手段40と、洗浄塔50を備える。
【0054】
図2に示すOVD法による製造装置1は、2本のバーナ10を有するが各バーナ10は上記VAD法による製造装置のバーナ10の構成と同様とできる。反応容器20と洗浄塔50についても上記VAD法による製造装置のものと同様とできる。
【0055】
OVD法では、長さが最終的に得られる多孔質ガラス微粒子堆積体より長い円筒状の出発材Sの外周方向に、バーナ10により生成されるシリカ微粒子を付着させて堆積させ、多孔質石英ガラス微粒子堆積体Bを製造する。そのため、2本のバーナ10は出発材Sの長さ方向に平行する同一直線状に反応容器壁部に配設される。
【0056】
駆動手段30は、出発材Sを軸周りに回転させる点では、上記VAD法と同様であるが、上記出発材Sを引き上げるのではなく、出発材Sを長さ方向に往復動作させる、あるいはバーナ10を長さ方向に往復動作させる機構を有する。バーナ10を往復動作させる場合、バーナが動作する範囲の全面あるいは一部において、反応容器壁部のガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2以上となる領域に冷却手段を備えるか、反応容器壁部のガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2以上となる領域が冷却されるように、動作するバーナ10の背面に冷却する面と冷却手段を備える。軸周りの回転と長さ方向の往復の動作により所定の長さで出発材Sの外周方向にシリカ微粒子の付着・堆積が実行できる。
【0057】
このようなOVD法の製造装置1においては、出発材Sまたは形成されつつある多孔質ガラス微粒子堆積体またはバーナ10は反応容器内を左右または上下に移動するが、ガラス微粒子堆積面は常に2本のバーナ10の火炎11が吹き付けられる位置にあるため、冷却手段40は2本のバーナ10の取り付け部の壁部近傍に冷却部41が位置するように配設される。冷却部41による反応容器壁部の冷却領域は、バーナ10の火炎11がガラス微粒子を出発材Sまたは形成されつつある多孔質ガラス微粒子堆積体の表面に付着できる範囲をガラス微粒子堆積面として、反応容器壁部の該堆積面に対する形態係数が0.2以上となる領域である。また、冷却手段40は上記位置に冷却部41を配設する以外は、上記VAD法による製造装置のものと同様とできる。
【0058】
なお、OVD法の製造装置における反応容器壁部の冷却領域の好ましい範囲についてもVAD法による製造装置の場合と同様であり、製造装置の設計に応じて適宜、冷却手段を設ける範囲が選択される。また、図示しないが、POVD法による多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置については、上記OVD法の製造装置においてガラス微粒子合成用バーナをガラス微粒子合成用プラズマトーチに換える以外は同様に製造装置を設計することができる。
【0059】
以上、本発明の多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置の実施形態を、図1および図2に示される一例を挙げて説明したが、本発明の製造装置はこれらに限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更できる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を説明する。
図3に示す試験用の多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置1を用いて、本発明の製造方法による多孔質ガラス微粒子堆積体の生産効率の向上効果を評価した。
【0061】
(試験用製造装置1)
以下の実施例で用いた試験用製造装置1は、生産規模の製造装置と同様に、ガラス微粒子合成用バーナ10と、反応容器20と、駆動手段30と、冷却手段40と、洗浄塔50を備える。ただし、生産規模の製造装置と比べて規模が小さいためにバーナ温度等の温度の仕様が低く設計されている。
【0062】
反応容器として石英ガラス製の内径600mm、壁厚5mmの円筒形状の反応容器20を用いた。また、反応容器20の底面壁部の下側のバーナ取り付け部を除く全面に、冷却器40のアルミ製の冷却部41が密着された状態で配設されている。冷却器40は外部に設置された温度制御機能を有する冷却液貯留槽43から配管42を介して循環される冷却液により冷却部41において、反応容器の底面壁部を所定の温度に冷却する構成を有する。反応容器20の底面壁部の中心には、図4に断面図を示す、外径64mm、11層のノズルを有する石英ガラス製多重管バーナ10が多重管の中心軸がほぼ鉛直となるように配置されている。
【0063】
バーナ10の上端面から上方へ150mmの位置には、厚さ1.4mm直径300mmの石英ガラス製付着板が出発材Sとして、その中心がバーナ10の中心軸と交わるよう配置されている。バーナ10に後述の石英ガラス原料ガス、燃焼ガス等を含むガスを供給し、その先端において酸水素炎(火炎)11中でガラス原料ガスを加水分解させ、生成するシリカ微粒子を付着板Sに付着・堆積させる。
【0064】
上記付着板Sは、回転治具を介して反応容器20の外に設置された駆動手段30に接続するように取り付けられている。駆動手段30は、付着板Sを回転数5rpmで回転させるとともに、付着板Sにシリカ微粒子が付着・堆積してシリカ微粒子堆積物が嵩高くなるのにともない付着板Sを引き上げる機構を有する。
【0065】
また、反応容器20内で発生したHClガスや付着しなかったシリカ微粒子は、反応容器20の側壁に設けられた開口部20aから排気管51によって接続されている洗浄搭50へ捕集した。
【0066】
[例1]
バーナ10を点火した後、表1に示す条件でバーナ10の各層を構成するノズルにガスを供給して30分間待機した。このようにして付着板Sと反応容器20を十分に予熱した後、バーナ10の第1層ノズルにSiClを13.4g/min、10分間供給して、シリカ微粒子を付着板Sに堆積させた。なお、このガス供給条件は、以下に示す条件で反応容器壁部を冷却した場合であっても、付着板Sにシリカ微粒子が逐次堆積する面(ガラス微粒子堆積面)12の温度を、シリカ微粒子が安定的に堆積できる温度である1100℃〜1200℃の範囲とできるように調整した条件である。
【0067】
例1においては、バーナ10の点火からSiClを供給し終わるまでの間、反応容器10の底面壁部を、冷却器40により160℃までに冷却し続けた。また、例1において付着板Sにおけるガラス微粒子堆積面12は、中心が付着板Sの中心と同じ、直径300mmの円形状の領域であり、ガラス微粒子堆積面12と反応容器20壁部の冷却領域との関係は、形態係数において0.87の関係であった。
【0068】
【表1】

*表1中、SLMは標準状態(25℃、1気圧)でのガス供給量(L/min)を示す。
【0069】
上記条件で付着板Sにシリカ微粒子を堆積させた後、付着板Sを回収し、付着板S上に堆積したシリカ微粒子の質量と供給したSiClの質量から計算される理論収量から、シリカ微粒子の収率を算出したところ、71.1%であった。
【0070】
[例2]
反応容器20の底面壁部を冷却器40により冷却する条件を、160℃から110℃に変えた以外は、上記例1と同様の方法で付着板Sにシリカ微粒子を堆積させ、同様の方法でその収率を算出したところ、収率は74.3%であった。
【0071】
[例3]
反応容器20の底面壁部を冷却しなかった以外は、上記例1と同様の方法で付着板Sにシリカ微粒子を堆積させ、同様の方法でその収率を算出したところ、収率は65.7%であった。なお、この場合の反応容器20底面壁部の温度は290℃であった。
これらの結果を表2にまとめた。
【0072】
【表2】

【0073】
以上の結果から、気相反応を用いた多孔質ガラス微粒子堆積体の製造において、反応容器壁部の、ガラス微粒子堆積面に対する形態係数が本発明の範囲となるような領域を、冷却することにより、多孔質ガラス微粒子堆積体を効率よく製造できることがわかる。
これは、上記領域において反応容器の壁部を冷却することで、火炎の温度の降下に比べて、ガラス微粒子堆積面の温度が大幅に降下していることが推定され、それによってガラス微粒子に作用する熱泳動力が増大し、結果としてガラス微粒子堆積面への付着・堆積が効率よく行われるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、例えば、光ファイバやレンズ、プリズム、その他各種光学材料等を製造するための材料として用いる透明ガラスのさらに前駆体である多孔質ガラス微粒子堆積体を、高い生産効率で製造することが可能となり、上記各種光学材料への経済面での寄与が期待できる。
【符号の説明】
【0075】
1…多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置
10…ガラス微粒子合成用バーナ
20…反応容器
30…駆動手段
40…冷却手段
50…洗浄塔
S…出発材
B…多孔質ガラス微粒子堆積体
11…火炎(酸水素炎)
12…ガラス微粒子堆積面
k…反応容器壁部のガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.2となる領域
k’…反応容器壁部のガラス微粒子堆積面に対する形態係数が0.3となる領域
K…反応容器壁部のガラス微粒子堆積面に対する形態係数が1.0となる領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内において、該容器の壁部に取り付けられたガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチを用いて生成されたガラス微粒子を軸周りに回転する出発材の表面に吹き付けることにより、前記出発材の表面に前記ガラス微粒子を付着させ、かつ堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成しながら多孔質ガラス微粒子堆積体を製造する方法において、
前記反応容器の壁部の全領域から、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を選択して冷却することを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記反応容器の壁部における冷却される領域が、前記ガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチの取り付け部の壁部近傍を含む領域である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記反応容器の壁部における冷却される領域が、前記反応容器を前記ガラス微粒子の堆積面の先端部を通る接線を含む水平面で2分割した際に、前記多孔質ガラス微粒子堆積体が内在する側となる反応容器の壁部の領域を含まない、請求項1または2記載の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス微粒子の堆積面における温度が、前記反応容器が冷却されない場合に比べて100℃以上低くなるように、前記反応容器を冷却する請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
反応容器と、
反応容器内において出発材を把持し回転させるための駆動手段と、
前記出発材の表面にガラス微粒子を吹き付けるとともに堆積させて順次ガラス微粒子の堆積面を形成させるためのガラス微粒子合成用のバーナまたはプラズマトーチと、
前記反応容器の壁部の全領域のうちの、前記ガラス微粒子の堆積面に対する形態係数が0.2以上となるような領域を冷却する冷却手段と、
を有する多孔質ガラス微粒子堆積体の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−176861(P2012−176861A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39961(P2011−39961)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】