説明

多孔質ガラス管の製造方法

【課題】表層からのガラス微粒子粉や堆積層の脱落を抑制できる多孔質ガラス管の製造方法を提供する。
【解決手段】ロッド20の周囲にCVD法によりガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体13を作製し、ガラス微粒子堆積体13からロッド20を引き抜いて筒状の多孔質ガラス管11を製造する多孔質ガラス管の製造方法であって、ガラス微粒子堆積体13の作製後に、ガラス微粒子堆積体13の表面をガラス微粒子の原料を含まない火炎により加熱する加熱処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料改質等により生成した水素等を含む混合ガスから水素等を高純度に分離するための流体分離材料等として用いられる多孔質ガラス管の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素エネルギー社会実現のために、水素製造技術や水素利用インフラ整備についての研究開発が進められるなか、自動車用燃料電池、家庭用定置型燃料電池、水素ステーション、そして将来的には大型の化学プラントなどで使用される高純度水素は、今後大きな需要が見込まれ、その製造には更なる高効率化が求められている。
【0003】
現在、水素の製造は、炭化水素燃料を700℃程度の温度で水蒸気改質(CH+HO→CO+3H)した後、さらに数百度程度でCO変成(CO+HO→CO+H)する方法が価格競争力の点から広く利用されている。これらの反応を経て得られたガスの成分には、水素の他に二酸化炭素や一酸化炭素、さらには未反応の炭化水素や水が含まれる。近年、家庭への普及が始まった固体高分子型燃料電池システムでは、低コスト化を実現するために水素の高純度化は行わず、水素濃度60%程度の混合ガスをそのまま燃料電池の燃料極に供給しているが、燃料極の触媒を被毒する一酸化炭素については、供給前に二酸化炭素に酸化し(CO+1/2O→CO)、その濃度を10ppm未満まで除去している。しかしながら、混合ガスを用いる燃料電池は、純水素燃料電池と比較して発電効率が低いため、さらに純度の高い水素を省スペースで安価に製造する技術が求められている。また、自動車用燃料電池には、上記CO濃度の制限に加えて、99.99%以上の水素を供給する必要があり、安価な高純度水素を大量に製造する技術が求められている。
【0004】
水素を含む混合ガスから高純度水素を取り出す方法としては、吸収法、深冷分離法、吸着法、膜分離法などが挙げられるが、膜分離法は高効率で小型化が容易であるという特徴を有している。また、水蒸気改質を行う反応容器内に水素分離膜を挿入したメンブレンリアクターを構成することにより、改質反応によって生成した水素を連続的に反応雰囲気から引き抜き、500℃程度の温度でも改質反応とCO変成反応を同時に促進させ、効率良く高純度水素を製造することが可能となる。さらに、メンブレンリアクターではCO変成に使用される白金等の高価な貴金属触媒も不要となり、コストの低減や設備の小型化が可能となる。なお、水素分離膜を通過した水素ガスの純度は水素分離膜の性能に依存するが、用途に応じてさらにCO除去や高純度化が必要な場合でも、これらの工程にかかる負荷を軽減することが可能となる。
【0005】
以上説明したように、水素分離膜を用いた水素製造方法の有利さを背景に、いくつかの水素分離膜が提案されている。例えば、非特許文献1にはパラジウム合金膜をジルコニア多孔質基材で支持した水素分離膜が記載されている。この水素分離膜においては、水素はパラジウム合金に原子として溶解し、その濃度勾配で拡散して純水素のみを透過させる方法によって水素を分離するため、原理的に高純度の水素を得ることができる。非特許文献2にはシリカガラス膜をアルミナ系多孔質基材で支持した水素分離膜が記載されている。この水素分離膜は、シリカガラス膜が水素分子のみを通す大きさ(0.3nm)の孔を有していることを利用し、水素分子を選択的に透過させる分子ふるい機能により水素を分離するものである。
【0006】
また、水素透過膜が外側に形成された水素分離筒を備えた水素分離装置として、一端が閉塞された試験管の形状の水素分離筒と、水素分離筒の開放端側が挿入された筒状の取付金具とを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、酸化ニッケルとジルコニアと黒鉛粉を混合した混合材を押出成形して有底円筒管を形成し、それを焼成して多孔質支持管を作製し、その周囲を被覆したバリア層を覆うように、金属製の薄膜からなる水素透過膜を形成して水素分離筒を製造することが記載されている。水素分離筒は、その開放端側の端部がシール部材とともに取付金具に嵌められて、固定金具と取付金具との螺合により固定されることで、水素分離装置に組み付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−234798号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池・水素技術開発シンポジウム平成20年度要旨集「高耐久性メンブレン型LPガス改質装置の開発」
【非特許文献2】独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「高効率高温水素分離膜の開発」(事後評価)分科会議事録(平成19年7月30日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、本発明者等は、シリカガラス膜を水素分離膜として機能させ、当該シリカガラス膜と熱膨張率が近い多孔質体をその支持体とする水素分離材料をPCT/JP2010/072201(平成22年12月10日出願)にて提案している。かかる構成によれば、熱衝撃に強く、水素分離膜と支持体との密着性が良く、水素分離特性に優れた水素分離材料が実現できる。また、当該先願では、シリカ系多孔質支持体の製法の一例としてCVD法による製造例を記載している。かかる製法は、CVD法によりロッドの周囲にガラス微粒子を堆積し、これをガス透過性能に優れる程度に(即ち高い気孔率を有するように)焼結させ、その後ロッドを引抜くことによってシリカ系多孔質支持体を円筒状のガラス管として構成したものである。
【0010】
しかし、上記のように、ロッドの周囲にガラス微粒子を堆積させて作製したガラス管には、その表面に、ガラス微粒子粉が付着している。このため、作製したガラス管の運搬時や次工程において表面のガラス微粒子粉が脱落するおそれがある。このガラス微粒子粉の脱落を抑えるためには、吸引、表面洗浄あるいは拭き取り等の煩雑な除去工程を行ってガラス微粒子粉を除去することが必要となる。また、ガラス微粒子を多層に堆積させてガラス管を作製した場合では、次工程でのダイヤモンドカッターによる切断処理などで振動や衝撃が加わった際に、表層部の数層が剥がれて脱落するおそれがある。なお、ガラス管の表層におけるガラス微粒子の堆積時に堆積温度を高くするようにしたとしても、堆積した直後の表層部は柔らかい状態(その外側の層が堆積されていないので、火炎であぶられていない状態)であるため、各層間の密着性を高めてガラス微粒子粉の脱落を防ぐには不十分であった。
【0011】
本発明の目的は、表層からのガラス微粒子粉や堆積層の脱落を抑制できる多孔質ガラス管の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することのできる本発明の多孔質ガラス管の製造方法は、ロッドの周囲にCVD法によりガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を作製し、前記ガラス微粒子堆積体から前記ロッドを引き抜いて筒状の多孔質ガラス管を製造する多孔質ガラス管の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の作製後に、前記ガラス微粒子堆積体の表面をガラス微粒子の原料を含まない火炎により加熱する加熱処理を行うことを特徴とする。
【0013】
本発明の多孔質ガラス管の製造方法において、前記加熱処理時に、前記ガラス微粒子堆積体の表面における気孔率が20%以上70%以下となるように加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ガラス微粒子堆積体の表面を加熱処理し、ガラス微粒子堆積体の表面及び表面からある程度の深さまでを加熱することができる。これにより、ガラス微粒子堆積体の表面のガラス微粒子粉を互いに固着させたり、余剰なガラス微粒子粉を火炎によって吹き飛ばすことができる。さらに、ガラス微粒子堆積体の表層付近におけるガラス微粒子の堆積層間の密着力を向上させることができる。
したがって、運搬時や次工程での処理時等における表層部からのガラス微粒子粉の脱落や堆積層の脱落を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の製造方法によって製造される多孔質ガラス管を示す模式図である。
【図2】本発明の多孔質ガラス管の製造方法の一実施形態の各工程を説明する図であって、(a)から(c)は、各工程における断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る多孔質ガラス管の製造方法の実施の形態の例を、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る多孔質ガラス管の製造方法によって製造する多孔質ガラス管11は、略円筒形状であり、その中心には長手方向に延びる略円形断面の中心孔12を有する。多孔質ガラス管11は、中心孔12の外周上に管壁としてガラス微粒子堆積体13を有する。
【0017】
ガラス微粒子堆積体13の外径Tは2mm〜50mmであり、内径(中心孔12の径)Pは1.6mm〜48mm、長さLは200mm〜400mm程度である。中心孔12の一方の端部12aは塞がれていることが望ましい。また、多孔質ガラス管11の表面積を大きくするため、外径Tおよび内径Pを長手方向に周期的に変化させても良く、機械的強度を補強するために厚さを部分的に変化させることもできる。多孔質ガラス管11は、その平均気孔率が、例えば、40〜70%とされている。なお、気孔率は、単位体積当たりの空気容積が占める割合として算出できる。
【0018】
多孔質ガラス管11は、例えば、流体分離材料として用いられる。多孔質ガラス管11を流体分離材料である水素分離材料として用いる場合、多孔質ガラス管11の外周には、孔径が0.3nm程度となるように緻密化されたシリカガラス分離膜層が形成される。そして、水素脆性や原料不純物との反応による膜の劣化が生じることなく、このシリカガラス分離膜層が水素透過膜として使用される。シリカガラス分離膜層の厚さは、例えば、0.01μm〜50μmであることが好ましく、0.02μm〜10μmであることがより好ましく、0.03μm〜5μmであることが更に好ましい。厚さが0.01μm未満では、透過ガスの水素純度が低くなりすぎ、また、50μmを超えると水素透過速度が小さくなりすぎ、実用上十分な水素分離性能が得られにくくなる場合がある。また、シリカガラス分離膜層の孔径等を変更することで、水素以外の気体または液体を分離するものとしても適用可能である。
【0019】
シリカガラス分離膜層の支持体をガラス微粒子堆積体13とすることで、シリカガラス分離膜層における水素の透過を干渉することなく該薄膜を支持することができる。ガラス微粒子堆積体13の外付けの一層の気孔率は、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから、シリカガラス分離膜層よりも大きい20〜70%であることが好ましい。
【0020】
また、ガラス微粒子堆積体13の線熱膨張係数は、2×10−6/K以下である。線熱膨張係数が2×10−6/Kを超えると、発生する熱応力が大きくなり、所望の耐熱衝撃性が得られない場合がある。ガラス微粒子堆積体13の形成材料は、耐熱衝撃性の観点からシリカガラス分離膜と線熱膨張係数が近似するものが好ましく、多孔質シリカガラスであることがより好ましい。
該ガラス微粒子堆積体13の厚さは、特に限定されるものではないが、機械的強度とガス透過性のバランスから0.2〜5mmであることが好ましく、0.5〜3mmであることがより好ましい。
【0021】
耐熱衝撃性の観点からは、ガラス微粒子堆積体13はシリカガラス分離膜層に線熱膨張係数が近似するものから選ばれることが好ましい。また、本実施形態のガラス微粒子堆積体13においては、多孔質シリカガラスに、希土類元素、4B族元素、Al、Ga、又はこれらの2種以上の元素を組合せて添加することがが好ましい。ガラス微粒子堆積体13を構成する多孔質シリカガラスの成分を調整することにより、所望の機械特性や、耐水蒸気性などが得られるからである。例えば、多孔質ガラス管11を炭化水素燃料の水蒸気改質に用いる場合、500℃以上の水蒸気に必然的に接触するため、このように他成分を導入することにより耐水蒸気性能を向上させることが好ましい。
【0022】
次に、多孔質ガラス管の製造方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
多孔質ガラス管11の製造方法の例として、ロッドの周囲にガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体13を形成した後(堆積体作製工程)、ガラス微粒子堆積体13の表面に加熱処理を施し(加熱処理工程)、該ロッドを引き抜いて(引抜工程)行う方法を挙げることができる。図2を用いて、当該方法の一実施形態を以下に説明する。
【0023】
(1)堆積体作製工程
図2(a)に示すように、ロッド20は、先端部が下になるようにして鉛直に配置される。また、水平に配置する形としても良い。ロッド20の素材としては、アルミナ、ガラス、耐火性セラミクス、カーボンなどを用いることができる。ロッド20は固定された後、中心軸を中心として回転される。そして、OVD法によって、ロッド20の側方に配置されたバーナ21により、ロッド20の外周にガラス微粒子が堆積される。バーナ21は、ガラス原料ガスと可燃性ガス及び助燃性ガスとを噴出し、酸水素火炎で生じる火炎加水分解反応によって生成されるガラス微粒子をロッド20へ吹き付ける。バーナ21に供給するガラス原料ガスに所望の成分のガスを添加することにより、生成されるガラス微粒子には、所望の機械特性や耐水蒸気性に応じて、希土類元素、4B族元素、Al、Ga、又はこれらの2種以上の元素を組合せて添加することができる。つまり、この製造法によれば、容易に成分の調整ができる。
【0024】
ガラス微粒子の堆積に際して、バーナ21をロッド20の軸方向にトラバースさせるか、またはバーナ21を固定してロッド20を軸方向にトラバースさせる。そのトラバースの回数毎にバーナ21への供給原料の種類やガスの供給量を異ならせることもできる。これにより、ロッド20の外周に堆積されるガラス微粒子は、径方向に所定の嵩密度と組成の分布を有することになる。また、ロッド20の先端部にもガラス微粒子を堆積させることで、先端が閉じた管状のガラス微粒子堆積体13が作製される。
【0025】
なお、ガラス微粒子堆積体13は、OVD法に限らず、他のCVD法であるVAD法やMMD法(多バーナ多層付け法)で作製しても良い。
【0026】
(2)加熱処理工程
ガラス微粒子を堆積した後、ガラス微粒子堆積体13に対して加熱処理を行う。この加熱処理では、バーナ21へのガラス原料ガスの供給を停止することにより、バーナ21からガラス微粒子の原料を含まない酸水素火炎のみを噴出させてトラバースさせ、ガラス微粒子堆積体13の表面を加熱する。これにより、ガラス微粒子堆積体13の表面及び表面からある程度の深さまで加熱される。すると、ガラス微粒子堆積体13の表面のガラス微粒子粉が互いに固着する。また、ガラス微粒子堆積体13の表層付近におけるガラス微粒子の堆積層が緻密化して、堆積層間の密着力が向上する。なお、ガラス微粒子粉は、固着する以外にも火炎によって吹き飛ばされるものもある。この加熱処理では、多孔質ガラス管11を流体分離材料として用いる場合、流体透過性を失わないようにガラス微粒子堆積体13の表面の気孔率が20%以上になるように制御する。なお、この加熱処理では、ガラス微粒子堆積体13の気孔率が何れの部位でも20%以上70%以下の範囲になるように制御するのが好ましい。
【0027】
この加熱処理では、ガラス微粒子の生成時と同一条件で酸素及び水素をバーナ21へ供給して火炎を発生させても良いが、ガラス微粒子堆積体13の表面に付着したガラス微粒子粉の付着量やガラス微粒子堆積体13の表面状態に応じてバーナ21の火炎の強さ(温度や大きさ)を調整するのが好ましい。バーナ21の火炎の強さを調整する場合、ガラス微粒子堆積体13の表面状態をある程度予測してバーナ21の火炎の強さを調整し、ガラス微粒子堆積体13の作製と連続して加熱処理を行っても良い。なお、加熱処理における火炎の条件を設定するために、ガラス微粒子堆積体13を装置から一旦取り外し、ガラス微粒子堆積体13のガラス微粒子粉の付着度合や表面状態を観察しても良い。
【0028】
加熱処理の温度は、特に限定はないが、例えば、900℃〜1400℃とすることが好ましい。900℃未満では表面の安定化が十分に進行しない場合があり、1400℃を超えると気孔率が小さくなりすぎる場合がある。また、加熱温度により気孔率を調整する場合も特に温度の限定はないが、例えば、1250℃程度とすることが好ましい。なお、加熱温度はトラバース速度と密接に関係しており、同じ加熱温度でもトラバース速度が遅いと加熱時間が長くなる為、急激に気孔率が小さくなる場合がある。逆にトラバース速度が速くなると、表面の安定化が進まなくなる。
バーナ21へのガスの供給量は、前記の加熱温度となるような酸素、水素の流量に調整することになるが、例えば酸素20〜30リットル/分、水素1〜10リットル/分とし、バーナ21のトラバース速度は5〜500m/秒、ガラス微粒子堆積体13の回転数は50〜500rpm、バーナ21のトラバース回数は1〜10回とするのが好ましい。なお、加熱処理におけるバーナ21のトラバースは、一方向トラバースでも良く、または往復トラバースでも良い。
【0029】
(3)引抜工程
図2(c)に示すように、加熱処理工程の後の引抜工程では、ガラス微粒子堆積体13からロッド20が引き抜かれる。引抜により形成される中心孔12は、貫通しておらず、下端側(先端側)12aが塞がれていて、上端側のみが開口している。なお、引き抜きを容易にするために、予めロッド20の表面にカーボンや窒化物等を塗布しておくことが好ましい。また、同様に引き抜きを容易にするという観点から、ロッド20は先細のテーパ形状を有することが好ましく、例えばその外径傾斜率を0.2〜2.0mm/1000mmとすることができる。更に、ロッド20は熱膨張率5×10−6/K以下であることが好ましい。ロッド20の熱膨張率が高いと堆積体作製工程中においてバーナ21が接近する度にロッド20に伸縮膨張が生じ、ガラス微粒子堆積体13を破損する虞がある為である。また、熱膨張率を上記範囲とすることでロッド20自体の熱衝撃による破損を防止することができる。さらにロッド20は、例えばガラスとの親和性が低い窒化珪素等の非酸化物からなるロッドであることが好ましい。
【0030】
このように、上記実施形態に係る多孔質ガラス管の製造方法によれば、バーナ20のガラス原料ガスを含まない酸水素火炎を用いてガラス微粒子堆積体13の表面を加熱処理し、ガラス微粒子堆積体13の表面及び表面からある程度の深さまでを加熱する。これにより、ガラス微粒子堆積体13の表面に存在するガラス微粒子粉を互いに固着させたり、余剰なガラス微粒子粉を火炎によって吹き飛ばしたりすることができる。さらに、ガラス微粒子堆積体13の表層付近におけるガラス微粒子の堆積層間の密着力を向上させることができる。したがって、運搬時や次工程での処理時等において、多孔質ガラス管11の表層部からガラス微粒子粉が脱落したり表層の堆積層が脱落したりすることを抑制することができる。
【0031】
上記のようにして製造された多孔質ガラス管11を水素分離材料として用いる場合は、この多孔質ガラス管11の表面に、水素透過膜として使用されるシリカガラス分離膜層を形成する。このシリカガラス分離膜層は、ゾルゲル法やCVD法、多孔質シリカガラスを表面改質する方法などにより形成することができる。なお、「表面改質」とは、水素透過膜部分を作製するために、表面の膜となる部分、例えば、多孔質ガラス管11を構成する多孔質シリカガラスの表面近傍をある程度緻密化することによって、緻密質のシリカガラスの層にすることをいう。その一つの方法として、加熱によるものが挙げられる。具体的には、例えば、CO2レーザー、プラズマアーク、酸水素バーナなどを単独で、又は複数組合せて照射する方法である。表面改質による形成法によれば、多孔質ガラス管11を構成する多孔質シリカガラスとシリカガラス分離膜層を別々に製造して積層する製造方法よりも膜と支持体との接合強度を上げることができ、またシリカガラス分離膜層の厚さや孔の大きさを緻密化の程度によって、簡単に制御することができる。シリカガラス分離膜層の緻密化の程度は、分離する流体の分子サイズで設定される。水素透過の観点から、シリカガラス分離膜層の孔径が0.3nm程度となるように緻密化されることが望ましい。
【0032】
このとき、本実施形態の製造方法によって製造した多孔質ガラス管11では、次工程であるシリカガラス分離膜層の形成工程において、表層部からのガラス微粒子粉の脱落やガラス微粒子の表層の堆積層の脱落が抑えられるので、円滑に処理を行うことができる。
【実施例】
【0033】
(不良率の調査)
堆積体作製工程によってガラス微粒子堆積体を作製し、その後、加熱処理工程で加熱処理を行い、引抜工程でロッドを引き抜き、長さ300mm、外径9mmの多孔質ガラス管を複数本製造した。製造した多孔質ガラス管の不良率を調査した。
【0034】
(加熱処理の条件)
加熱温度1250℃
バーナへのガスの供給量 酸素24リットル/分、水素6リットル/分
トラバース速度100m/分
トラバース回数4回
ガラス微粒子堆積体の回転数100rpm
【0035】
(調査結果)
堆積体作製工程後に加熱処理工程を行うことで、多孔質ガラス管の表層部からのガラス微粒子粉の脱落や表層の堆積層の脱落などを要因とした多孔質ガラス管の不良率を、従来方法の場合の23%から6%に低減させることができた。
【符号の説明】
【0036】
11:多孔質ガラス管、13:ガラス微粒子堆積体、20:ロッド、21:バーナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロッドの周囲にCVD法によりガラス微粒子を堆積させてガラス微粒子堆積体を作製し、前記ガラス微粒子堆積体から前記ロッドを引き抜いて筒状の多孔質ガラス管を製造する多孔質ガラス管の製造方法であって、
前記ガラス微粒子堆積体の作製後に、前記ガラス微粒子堆積体の表面をガラス微粒子の原料を含まない火炎により加熱する加熱処理を行うことを特徴とする多孔質ガラス管の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質ガラス管の製造方法であって、
前記加熱処理時に、前記ガラス微粒子堆積体の表面における気孔率が20%以上70%以下となるように加熱することを特徴とする多孔質ガラス管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−56788(P2013−56788A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195005(P2011−195005)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】