説明

多孔質フィルム、電池用セパレータ及び電池

【課題】多孔質フィルムに耐熱層を積層した場合に、耐熱層が剥がれにくい多孔質フィルム、多孔質フィルムと多孔質の耐熱層とが積層された積層多孔質フィルム、電池用セパレータ、及び電池を提供する。
【解決手段】超高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量3000以下であって、かつ主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数が15以下であるポリオレフィンワックスとを含む樹脂組成物を用いて得られる多孔質フィルム。前記多孔質フィルムの少なくとも片面に、多孔質の耐熱層が積層されている積層多孔質フィルム。電池用セパレータである前記多孔質フィルムまたは積層多孔質フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質フィルム、電池用セパレータ及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質フィルムは、衛生材料、医療用材料、電池セパレータ等、多種用途に使用されている。中でも多孔質フィルムをリチウムイオン二次電池等の電池用セパレータとして用いる場合には、高い突刺し強度が要求される。
【0003】
突刺し強度に優れる多孔質フィルムとして、重量平均分子量が5×10以上の高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量が2×10以下の熱可塑性樹脂と、微粒子とを混練し、シート状に成形した後、該シートを延伸して得られる多孔質フィルムが知られている(特許文献1参照)。このような多孔質フィルムでは、製造工程で有機溶媒を用いることなく、高い分子量のポリオレフィンを容易に加工することができ、得られる多孔質フィルムは突刺し強度に優れる。
【0004】
また、電池用セパレータとして、熱可塑性ポリマーからなる多孔質フィルムに多孔質の耐熱層を積層した積層多孔質フィルムも知られている(特許文献2参照)。セパレータとして該積層多孔質フィルムを用いた電池は、過充電などで異常発熱が起きた際、多孔質フィルムが溶融しても、耐熱層によって正極と負極が接触することを防ぐことができるため、安全性に優れる。
【0005】
このような積層多孔質フィルムの製造方法としては、耐熱性の樹脂を含む溶液を多孔質フィルム上に塗布し溶媒を揮発させて耐熱層を形成する方法や、多孔質フィルム上に前記溶液を塗布した後、貧溶媒にさらして耐熱性樹脂を析出させる方法が知られている。このような方法は簡便であり、生産性に優れる。しかしながらこのような方法で得られる積層多孔質フィルムには、耐熱層と多孔質フィルムとの接着強度の点において、さらなる改良が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−69221号公報
【特許文献2】特開2000−30686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、多孔質フィルムに耐熱層を積層した場合に、耐熱層が剥がれにくい多孔質フィルム、多孔質フィルムと多孔質の耐熱層とが積層された積層多孔質フィルム、電池用セパレータ、及び電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明は、[1]〜[5]に係るものである。
[1]超高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量3000以下であって、かつ主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数が15以下であるポリオレフィンワックスとを含む樹脂組成物を用いて得られる多孔質フィルム。
[2]上記[1]における樹脂組成物が、ポリオレフィンワックスを5〜50重量%含む多孔質フィルム(ただし樹脂組成物の重量を100%とする)。
[3]上記[1]または[2]に記載の多孔質フィルムの少なくとも片面に、多孔質の耐熱層が積層されている積層多孔質フィルム。
[4]電池用セパレータである上記[1]または[2]に記載の多孔質フィルム、あるいは上記[3]に記載の積層多孔質フィルム。
[5]上記[4]に記載の電池用セパレータを含む電池。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多孔質フィルムに耐熱層を積層した場合に、耐熱層が剥がれにくい多孔質フィルム、多孔質フィルムと多孔質の耐熱層とが積層された積層多孔質フィルム、電池用セパレータ、及び電池を提供できる。
することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、超高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量3000以下であって、かつ主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数が15以下であるポリオレフィンワックスとを含む樹脂組成物を用いて得られる多孔質フィルムである。
【0011】
本発明における超高分子量ポリオレフィンとは、重量平均分子量が5×10以上のポリオレフィンであり、多孔質フィルムの強度の点から、重量平均分子量が10×10以上のポリオレフィンであることが好ましい。成形性の点から、超高分子量ポリオレフィンの重量平均分子量は通常50×10以下であり、40×10以下であることが好ましい。超高分子量ポリオレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどを重合した高分子量の単独重合体または共重合体が挙げられる。中でもエチレン由来の単量体単位を主体とする超高分子量ポリエチレンが好ましい。
【0012】
本発明におけるポリオレフィンワックスとは、重量平均分子量が3000以下であって、かつ主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数が15以下であるポリオレフィンワックスである。ポリオレフィンワックスの重量平均分子量は、好ましくは500〜2500である。ポリオレフィンワックスとしては、エチレン単独重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリエチレン系重合体、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィン共重合体等のポリプロピレン系重合体、4−メチルペンテン−1重合体、ポリ(ブテン−1)、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが挙げられる。超高分子量ポリオレフィンとの相溶性に優れるポリオレフィンワックスを選択することが好ましく、例えば超高分子量ポリオレフィンが超高分子量ポリエチレンである場合には、エチレン単独重合体またはエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリエチレンワックスを用いることが好ましい。
【0013】
超高分子量ポリオレフィンやポリオレフィンワックスの重量平均分子量は、一般的にGPC測定により求めることができる。
【0014】
ポリオレフィンワックスの主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数は、15以下であり、10以下であることが好ましく、5以下であることがより好ましい。
ポリオレフィンワックスの主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数は、H−NMR測定から算出することができる。
【0015】
本発明では、前記した超高分子量ポリオレフィンとポリオレフィンワックスとを含む樹脂組成物を用いて多孔質フィルムを製造する。該樹脂組成物の重量を100重量%とするとき、ポリオレフィンワックスの割合が5〜50重量%であることが好ましく、10〜40重量%であることがより好ましい。また該樹脂組成物に含まれる超高分子量ポリオレフィンの量は、50〜95重量%であることが好ましく、60〜90重量%であることがより好ましい。このような組成の樹脂組成物は、加工性に優れると共に、超高分子量ポリオレフィンの結晶化が促進され、強度に優れる多孔質フィルムを得ることができる。
【0016】
本発明の多孔質フィルムは、前記した超高分子量ポリオレフィンと、ポリオレフィンワックスとを含む樹脂組成物を用いて得られる多孔質フィルムである。このような多孔質フィルムは、該多孔質フィルムの上に耐熱層を積層した場合、該耐熱層が剥がれにくいフィルムである。
【0017】
本発明の多孔質フィルムの製造に用いる樹脂組成物は、前記超高分子量ポリオレフィン、重量平均分子量3000以下のポリオレフィンワックス以外の成分を含んでいてもよい。例えば、超高分子量ポリオレフィン、ポリオレフィンワックスに加えてフィラーを含む樹脂組成物を用いてシートを形成した後、一軸または二軸に延伸することにより、本発明の多孔質フィルムを得ることができる。また、前記シートからフィラーを除去して延伸することや、前記シートを延伸した後フィラーを除去することによっても、多孔質フィルムを得ることができる。
【0018】
フィラーとしては、一般的に充填剤と呼ばれる無機又は有機の微粒子を用いることができる。無機の微粒子としては、炭酸カルシウム、タルク、クレー、カオリン、シリカ、ハイドロタルサイト、珪藻土、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、ガラス粉、酸化亜鉛などの微粒子が使用される。特にこれらの中でも水分の少ない炭酸カルシウムや硫酸バリウムの微粒子が好ましい。有機の微粒子としては、公知の樹脂微粒子が用いられ、該樹脂としてスチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、アクリル酸メチルなどのモノマーを単独あるいは2種類以上重合して得られる重合体、メラミン、尿素などの重縮合樹脂が好ましい。
【0019】
フィラーは、シートを延伸する前、又は延伸した後に除去してもよい。その際には、フィラーが水溶性であると、中性、酸性やアルカリ性などの水溶液で簡便に除去できるため好ましい。水溶性のフィラーとしては、例えば前述の微粒子の中ではタルク、クレー、カオリン、珪藻土、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、酸化亜鉛、シリカが挙げられる。これらの中でも炭酸カルシウムが好ましい。
【0020】
フィラーの平均粒径は、0.01〜3μmが好ましく、0.02〜1μmがより好ましく、0.05〜0.5μmが最も好ましい。平均粒径が3μm以下であるとより突刺し強度に優れるフィルムを得ることができ、0.01μm以上であると、超高分子量ポリオレフィン及びポリオレフィンワックス内で高分散しやすくなるため、延伸によって均一に開孔しやすくなる。
【0021】
フィラーは、超高分子量ポリオレフィン及びポリオレフィンワックス中で分散しやすくするため、シートを延伸して多孔化する際に超高分子量ポリオレフィン及びポリオレフィンワックスとの界面剥離を促進させるため、また外部からの水分の吸収を防ぐために、表面処理が施されたものを用いることが好ましい。表面処理剤としては例えば、ステアリン酸、ラウリル酸等の高級脂肪酸又はその金属塩を挙げることができる。
【0022】
フィラーを含む樹脂組成物を用いる場合、該樹脂組成物におけるフィラーの含有量は、該樹脂組成物に含まれる超高分子量ポリオレフィンとポリオレフィンワックスの合計体積を100体積部とするとき、該合計体積100体積部に対して、好ましくは15〜150体積部であり、より好ましくは25〜100体積部である。15体積部以上であれば、延伸により十分に開孔し良好な多孔質フィルムを得ることができ、また150体積部以下であると樹脂比率が高いため突刺し強度に優れた多孔質フィルムを得ることができる。
【0023】
また本発明で用いる樹脂組成物には、必要に応じて本発明の目的を損じない範囲で一般に使用される添加剤(帯電防止剤、可塑剤、滑剤、酸化防止剤、増核剤など)を加えてもよい。
【0024】
前記した超高分子量ポリオレフィン、ポリオレフィンワックス、さらに必要に応じてフィラーや他の添加剤、他の樹脂を混練して、樹脂組成物を製造する。混練は、高いせん断力を有する混練装置にて行なうことが好ましく、具体的には、ロール、バンバリミキサー、一軸押出機、二軸押出機などが挙げられる。
【0025】
樹脂組成物を用いてシートを製造する方法は、特に限定はされないが、インフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ押出加工、スカイフ法等が挙げられる。より膜厚精度の高いシートが得られることから、下記の方法により製造することが好ましい。
【0026】
シートの好ましい製造方法とは、樹脂組成物に含有される超高分子量ポリオレフィンの融点より高い表面温度に調整された一対の回転成形工具を用いて、該樹脂組成物を圧延成形する方法である。回転成形工具の表面温度は、(融点+5)℃以上であることが好ましい。また表面温度の上限は、(融点+30)℃以下であることが好ましく、(融点+20)℃以下であることがさらに好ましい。一対の回転成形工具としては、ロールやベルトが挙げられる。両回転成形工具の周速度は必ずしも厳密に同一周速度である必要はなく、それらの差異が±5%以内程度であればよい。このような方法により得られるシートを用いて多孔質フィルムを製造することにより、強度やイオン透過、通気性などに優れる多孔質フィルムを得ることができる。また、前記したような方法により得られる単層のシート同士を積層したものを、多孔質フィルムの製造に使用してもよい。
【0027】
樹脂組成物を一対の回転成形工具により圧延成形する際には、押出機よりストランド状に吐出した樹脂組成物を直接一対の回転成形工具間に導入してもよく、一旦ペレット化した樹脂組成物を用いてもよい。
【0028】
樹脂組成物を成形して得られるシートを延伸して多孔質フィルムとする方法は、特に限定はされないが、テンター、ロール、オートグラフなどの公知の装置を用いて延伸して製造することができる。延伸は一軸方向でも二軸方向でもよく、また延伸を一段で行なっても、多段階に分けて行なってもよい。樹脂とフィラーとの間に界面剥離を起こさせるために、延伸倍率は2〜12倍が好ましく、4〜10倍がより好ましい。延伸温度は、通常超高分子量ポリオレフィンの軟化点以上融点以下の温度で行なわれ、80℃〜120℃で行なうことが好ましい。このような温度で延伸を行なうことにより、延伸時にフィルムが破膜しにくく、かつ超高分子量ポリオレフィンが溶融しにくいため、樹脂とフィラーの界面剥離によって生じた孔が閉孔しにくくなる。また延伸の後に、必要に応じて孔の形態を安定化するために熱固定処理を行なってもよい。
【0029】
樹脂組成物を成形して得られるシートから、少なくとも一部のフィラーを除去した後、延伸して多孔質フィルムを製造してもよい。あるいは、樹脂組成物を成形して得られるシートを延伸した後、少なくとも一部のフィラーを除去して多孔質フィルムを製造してもよい。フィラーを除去する方法としては、シートまたは延伸後のフィルムを、フィラーを溶解可能な液体に浸漬する方法が挙げられる。
【0030】
本発明では、前記したような方法で得られる多孔質フィルムの少なくとも片面に、多孔質の耐熱層を積層することができる。このような耐熱層を有する積層多孔質フィルムは、膜厚の均一性や耐熱性、強度、イオン透過性に優れ、またセパレータとして電池とした場合、過充電などで異常発熱が起きた際に、多孔質フィルムが溶融しても、該耐熱層が正極と負極が接触することを防ぎ安全性にも優れるため好ましい。
【0031】
前記耐熱層を構成する耐熱樹脂としては、主鎖に窒素原子を含む重合体が好ましく、特に芳香族環を含むものが耐熱性の観点から好ましい。例えば、芳香族ポリアラミド(以下、「アラミド」ということがある)、芳香族ポリイミド(以下、「ポリイミド」ということがある)、芳香族ポリアミドイミドなどが挙げられる。アラミドとしては、例えばメタ配向芳香族ポリアミドやパラ配向芳香族ポリアミド(以下、「パラアラミド」ということがある)が挙げられ、膜厚が均一で通気性に優れる多孔性の耐熱層を形成しやすいことからパラアラミドが好ましい。
【0032】
パラアラミドとは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に伸びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロローパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合等のパラ配向型、またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0033】
耐熱層を設ける際には、通常耐熱樹脂を溶媒に溶かした塗工液を用いる。耐熱樹脂がパラアラミドである場合、前記溶媒としては、極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒を用いることができ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、テトラメチルウレアなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
塗工性の観点から耐熱樹脂は、固有粘度1.0〜2.8dl/gの耐熱樹脂であることが好ましく、固有粘度1.7〜2.5dl/gの耐熱樹脂であることがより好ましい。ここでの固有粘度は、一度析出させた耐熱樹脂を溶解し、耐熱樹脂硫酸溶液にして測定された値である。塗工性の観点から塗工液中の耐熱樹脂濃度は0.5〜10重量%であることが好ましい。
【0034】
耐熱樹脂としてパラアラミドを用いる場合、パラアラミドの溶媒への溶解性を改善する目的で、パラアラミド重合時にアルカリ金属、又はアルカリ土類金属の塩化物を添加することが好ましい。具体例としては、塩化リチウムまたは塩化カルシウムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。上記塩化物の重合系への添加量としては、縮合重合で生成するアミド基1.0モル当たり0.5〜6.0モルが好ましく、1.0〜4.0モル
がより好ましい。塩化物が0.5モル以上であると、生成するパラアラミドの溶解性が十分となり、6.0モル以下であると塩化物が溶媒に溶け残ることがなくなるため好ましい。一般には、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属の塩化物が2重量%以上でパラアラミドの溶解性が十分となる場合が多く、10重量%以下でアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の塩化物が極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒などの極性有機溶媒に溶け残ることなく完全に溶解する場合が多い。
【0035】
本発明に用いられるポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮合重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3'、4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3'−メチレンジアニリン、3,3'−ジアミノベンゾフェノン、3,3'−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5−ナフタレンジアミンなどが挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明においては、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3',4,4'−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの縮合重合物のポリイミドが挙げられる。ポリイミドを溶解させる極性有機溶媒としては、アラミドを溶解させる溶媒として例示したもののほか、ジメチルスルホキサイド、クレゾール、及びo−クロロフェノールなどが好適に使用できる。
【0036】
本発明において耐熱層を形成するために用いる塗工液は、無機微粒子を含有することが特に好ましい。任意の耐熱樹脂濃度の溶液に無機微粒子が添加された塗工液を用いて耐熱層を形成することにより、膜厚が均一で、かつ微細な多孔質である耐熱層を形成することができる。また無機微粒子の添加量によって、透気度を制御することができる。本発明における無機微粒子は、多孔質フィルムの強度や耐熱層表面の平滑性の点より、一次粒子の平均粒子径が1.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.1μm以下であることがさらに好ましい。
該無機微粒子の含有量は多孔質フィルム中1重量%〜95重量%以下であることが好ましく、5重量%〜50重量%であることがより好ましい。1重量%以上であると、十分な多孔性が得られるためイオン透過性に優れ、95重量%以下であると十分な膜強度が得られるためハンドリングに優れる。使用する無機微粒子の形状は、特に限定はなく、球状でもランダムな形状でも使用できる。
【0037】
耐熱層を形成する際に用いられる無機微粒子は、セラミックス粉末であることが好ましい。セラミックス粉末としては、電気絶縁性の金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物などからなるセラミックス粉末が挙げられ、例えばアルミナ、シリカ、二酸化チタン、酸化ジルコニウムなどの粉末が好ましく用いられる。上記セラミックス粉末は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合してもよく、粒径の異なる同種あるいは異種のセラミックス粉末を任意に混合して用いることもできる。
【0038】
超高分子量ポリオレフィンおよびポリオレフィンワックスを含む樹脂組成物から形成された多孔質フィルムに耐熱層を積層する方法としては、耐熱層を別に製造して後で多孔質フィルムと積層する方法、多孔質フィルムの少なくとも片面にセラミックス粉末と耐熱樹脂とを含有する塗工液を塗布して耐熱層を形成する方法などが挙げられるが、生産性の観点から後者の方法が好ましい。後者の方法としては具体的には以下のような工程を含む方法が挙げられる。
(a)耐熱樹脂100重量部を含む極性有機溶媒溶液に、耐熱樹脂100重量部に対しセラミックス粉末を1〜500重量部分散したスラリー状塗工液を調整する
(b)該塗工液を多孔質フィルムの少なくとも片面に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)加湿、溶媒除去、あるいは耐熱樹脂を溶解しない溶媒への浸漬などの手段で、前記塗工膜から耐熱樹脂を析出させた後、必要に応じて乾燥する。
塗工液は、特開2001−316006号公報に記載の塗工装置及び特開2001−23602号公報に記載の方法により連続的に塗工することが好ましい。
【0039】
また、耐熱樹脂を含む塗工液中に多孔質フィルムを浸漬した後乾燥することによって、多孔質フィルムの両面に耐熱層を積層することもできる。
【0040】
本発明の多孔質フィルムは、使用温度での透過性に優れ、かつ使用温度を超えた場合には低温で速やかにシャットダウン可能であり、非水系電池用セパレータとして好適である。また本発明の多孔質フィルムに耐熱層を積層させた積層多孔質フィルムは、耐熱性、強度、イオン透過性に優れ、非水系電池用セパレータ、特にリチウム2次電池用セパレータとして好適に使用することができる。
【0041】
本発明の電池用セパレータが、本発明の多孔質フィルムを含むものである場合、電解液の保持性と、フィルム強度およびシャットダウン性能の観点から、該多孔質フィルムの空隙率は、30〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは40〜70体積%である。また、シャットダウン性、巻回時の電池短絡防止、電池の高電気容量化の観点から、多孔質フィルムの厚みは、5〜50μmが好ましく、より好ましくは10〜50μmが好ましく、さらに好ましくは10〜30μmである。多孔質フィルムの孔径としては0.1μm以下が好ましく、0.08μm以下がより好ましい。孔径が小さくなることによって同じ透気度でも膜抵抗の値が小さな多孔質フィルムとなる。
【0042】
本発明の電池用セパレータが、本発明の積層多孔質フィルムを含むものである場合、該積層多孔質フィルムのうち、多孔質フィルムの好ましい空隙率、孔径は上記の多孔質フィルムと同様である。ただし膜厚については、積層多孔質フィルム全体として5〜50μmが好ましく、より好ましくは、10〜50μm、さらに好ましくは10〜30μmである。積層多孔質フィルムのうち、耐熱層の空隙率は、電解液の保持量および強度の観点から、30〜80体積%が好ましく、さらに好ましくは40〜70体積%である。耐熱層の膜厚は、加熱時の収縮抑制および電池にした際の負荷特性の観点から、0.5〜10μmが好ましく、さらに好ましくは1〜5μmである。
【0043】
本発明の電池は、本発明の電池用セパレータを含むことを特徴とする。以下に、本発明の電池がリチウム電池などの非水電解液二次電池である場合について、電池用セパレータ以外の構成要素について詳細に説明する。
【0044】
非水電解質溶液としては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解質溶液を用いることができる。リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などのうち1種または2種以上の混合物が挙げられる。リチウム塩として、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、およびLiC(CF3SO23からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0045】
非水電解質溶液で用いる有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの2種以上を混合して用いる。
【0046】
これらの中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。正極シートは、通常、正極活物質、導電材および結着剤を含む合剤を集電体上に担持したものを用いる。具体的には、該正極活物質として、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含み、導電材として炭素質材料を含み、結着剤として熱可塑性樹脂などを含むものを用いることができる。該リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、V、Mn、Fe、Co、Niなどの遷移金属を少なくとも1種含むリチウム複合酸化物が挙げられる。中でも好ましくは、平均放電電位が高いという点で、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO2型構造を母体とする層状リチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を母体とするリチウム複合酸化物が挙げられる。
【0047】
該リチウム複合酸化物は、種々の添加元素を含んでもよく、特にTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Ag、Mg、Al、Ga、InおよびSnからなる群から選ばれた少なくとも1種の金属のモル数とニッケル酸リチウム中のNiのモル数との和に対して、前記の少なくとも1種の金属が0.1〜20モル%であるように該金属を含む複合ニッケル酸リチウムを用いると、高容量での使用におけるサイクル性が向上するので好ましい。
【0048】
該結着剤としての熱可塑性樹脂としては、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0049】
該導電剤としての炭素質材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどが挙げられる。導電材として、それぞれ単独で用いてもよいし、例えば人造黒鉛とカーボンブラックとを混合して用いるといった複合導電材系を選択してもよい。
【0050】
負極シートとしては、例えばリチウムイオンをドープ・脱ドーブ可能な材料、リチウム金属またはリチウム合金などを用いることができる。リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素質材料、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられる。炭素質材料として、電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いため正極と組み合わせた場合大きなエネルギー密度が得られるという点で、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を主成分とする炭素質材料が好ましい。
【0051】
負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを用いることができるが、特にリチウム二次電池においてはリチウムと合金を作り難く、かつ薄膜に加工しやすいという点でCuが好ましい。該負極集電体に負極活物質を含む合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、または溶媒などを用いてペースト化し集電体上に塗布乾燥後プレスするなどして圧着する方法が挙げられる。
【0052】
なお、本発明の電池の形状は、特に限定されるものではなく、ペーパー型、コイン型、円筒型、角形などのいずれであってもよい。
【実施例】
【0053】
以下に実施例、比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
(1)分岐度測定
o−ジクロロベンゼン−d4を溶媒として用いて、ポリオレフィンワックスのH−NMR測定を行った。測定結果のピーク面積から、該ポリオレフィンワックスにおいて、主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数(/1000C)を算出した。
【0055】
(2)接着強度測定
パラアラミド(ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド))の合成
攪拌翼、温度計、窒素流入管及び粉体添加口を有する、3リットルのセパラブルフラスコを使用して、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)の製造を行った。フラスコを十分乾燥し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)2200gを仕込み、200℃で2時間真空乾燥した塩化カルシウム粉末151.07gを添加し、100℃に昇温して完全に溶解させた。室温に戻して、パラフェニレンジアミン、68.23gを添加し完全に溶解させた。この溶液を20℃±2℃に保ったまま、テレフタル酸ジクロライド、124.97gを10分割して約5分おきに添加した。その後も攪拌しながら、溶液を20℃±2℃に保ったまま1時間熟成した。1500メッシュのステンレス金網でろ過した。得られた溶液は、パラアラミド濃度6%であった。
塗工液の調整
先に重合したパラアラミド溶液100gをフラスコに秤取し、300gのNMPを添加し、パラアラミド濃度が1.5重量%の溶液に調製して60分間攪拌した。上記のパラアラミド濃度が1.5重量%の溶液に、アルミナC(日本アエロジル社製)を6g、アドバンスドアルミナAA−03(住友化学社製)を6g混合し、240分間攪拌した。得られた溶液を1000メッシュの金網でろ過し、その後酸化カルシウム0.73gを添加して240分間攪拌して中和を行い、減圧下で脱泡してスラリー上の塗工液を得た。
接着強度の測定
得られた塗工液を多孔質フィルム上に130μm厚となるようにバーコーターで塗布した後、50℃70%RHのオーブンに15秒間入れ、多孔質フィルム上にアラミドを析出させた。1.5Rの突起を1つ有する2cm角のSUS板の上に錘を載せて、突起部を析出させたアラミド層の上に滑らせ、アラミド層が剥がれない最大の錘の重さを測定した。錘の重さが大きいほど、アラミド層と多孔質フィルムの接着強度が高い。
【0056】
実施例1
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4012、ティコナ社製)を85重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、分岐度1/1000C、日本精鑞社製)15重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、更に全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーで混合した後、二軸混練機で溶融混練してポリオレフィン樹脂組成物とした。該ポリオレフィン樹脂組成物を表面温度が150℃一対のロールにて圧延し、膜厚約60μmのシートを作成した。このシートを塩酸水溶液(塩酸4mol/L、非イオン系界面活性剤0.5重量%)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて105℃で5.8倍に延伸して多孔質フィルム(A)を得た。
前記(2)の「接着強度測定」に記載した方法に従い、多孔質フィルム(A)にアラミド層を積層してその接着強度を測定したところ、7gであった。
【0057】
比較例1
ポリエチレンワックスとして、三井化学社製の重量平均分子量1000のハイワックス110P(分岐度18/1000C)、を用いた以外は実施例1と同様にして、多孔質フィルム(B)を得た。
多孔質フィルム(B)に、実施例1と同様にしてアラミド層を積層してその接着強度を測定したところ、5gであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリオレフィンと、重量平均分子量3000以下であって、かつ主鎖を構成する炭素原子1000個あたりの分岐数が15以下であるポリオレフィンワックスとを含む樹脂組成物を用いて得られる多孔質フィルム。
【請求項2】
前記樹脂組成物が、ポリオレフィンワックスを5〜50重量%含む請求項1に記載の多孔質フィルム(ただし樹脂組成物の重量を100%とする)。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多孔質フィルムの少なくとも片面に、多孔質の耐熱層が積層されている積層多孔質フィルム。
【請求項4】
電池用セパレータである請求項1または2に記載の多孔質フィルム。
【請求項5】
電池用セパレータである請求項3に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項6】
請求項5または6に記載の電池用セパレータを含む電池。

【公開番号】特開2011−32446(P2011−32446A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183165(P2009−183165)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】