説明

多孔質基材

【課題】 高いプロテインC活性化能をもつ抗血栓性の多孔質基材を提供すること。
【解決手段】 担体として多孔質基材を用いると共に、担体の乾燥重量1gあたりプロテインCを活性化させる生理活性物質を1μg以上保持しており、特に担体と血液とが直に接する表面だけではなく、担体の内孔部にもプロテインCを活性化させる生理活性物質を導入する。
【効果】 高いプロテインC活性化能をもつ抗血栓性の多孔質基材を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテインC活性化能を有した多孔質基材に関する。活性化プロテインCは血栓形成を阻害するため、抗血栓性が必要な材料に幅広く用いることができる。具体的には、血液浄化用モジュール、人工腎臓、人工肺、体外循環医療カラム用補助用具などの医用材料に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
医用材料において生体適合性は重要な問題であり、特に血栓形成を抑制する性質、即ち抗血栓性が要求される。
【0003】
そのため、材料に抗血栓性を付与する試みは、数多く行われている。例えば、血管内カテーテル・人工血管・心臓等は、血液凝固を防ぐためにヘパリンなどをその内面にコーティングする方法(特許文献1)や、アミノ硫酸基を材料表面に導入する方法(特許文献2)が開示されている。
【0004】
そのなかで、近年、材料にプロテインCの活性化能を付与させることで、抗血栓性を達成させることが注目されてきている。活性化されたプロテインCは、第V因子と第VIII因子の不活性化により血液凝固を阻害する。
【0005】
プロテインCの活性化はトロンボモジュリンにトロンビンが結合することによって数千倍に増幅される。トロンボモジュリンは、血管内皮細胞膜上の糖タンパク質であり、血管内および体外の血液凝固を制御している。すなわち、材料にトロンボモジュリンを固定化することにより、プロテインC活性化能を付与することができる。
【0006】
ヒト・トロンボモジュリンを材料に固定化する方法として、スペーサーを介してヒト・トロンボモジュリンを不溶性担体に共有結合により固定化する方法(特許文献3)や、ヒト・トロンボモジュリンを疎水化し、有機溶媒中で疎水性基材に被覆させる方法(特許文献4)が開示されている。また、人工腎臓用セルロース中空糸膜にヒト・トロンボモジュリンを固定化する方法が開示されている(ASAIO journal 1995 ; 41 : M369-M374)。しかしながら、これらの方法では、抗血栓性の効果は十分には得られていなかった。抗血栓性の効果を高めるために、グラフト鎖をフィルム表面に導入し、より多くのヒト・トロンボモジュリンを導入しようという試みも行われている(ASAIO journal 1994 ; 40 : M840-M845)が、このような方法でも、抗血栓性の効果には限界があること、また、操作が煩雑であるといった問題点があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭52-137197号公報
【特許文献2】特開昭54-79997号公報
【特許文献3】特開平4-15063号公報
【特許文献4】特開平9-291043号公報
【非特許文献1】ASAIO journal 1995 ; 41 : M369-M374
【非特許文献2】ASAIO journal 1994 ; 40 : M840-M845
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、高いプロテインC活性化能をもつ抗血栓性の多孔質基材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、担体として多孔質基材を用いると共に、担体の乾燥重量1gあたりプロテインCを活性化させる生理活性物質を1μg以上保持しており、特に担体と血液とが直に接する表面だけではなく、担体の内孔部にもプロテインCを活性化させる生理活性物質を導入することによって上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の構成を有する多孔質基材を提供する。
(1) 担体の乾燥重量1gあたりプロテインCを活性化させる生理活性物質を1μg以上保持する多孔質基材。
(2) 前記の生理活性物質を担体表面および内孔部に保持していることを特徴とする(1)に記載の多孔質基材。
(3) 前記の生理活性物質がプロテインCを20%以上活性化させることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の多孔質基材。
(4) 前記の生理活性物質がヒト・トロンボモジュリンもしくはその一部を有するペプチドであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の多孔質基材。
(5) 前記の担体が多孔質分離膜、多孔質ビーズ、多孔質繊維のいずれかであることを特徴とする請求項(1)〜(4)のいずれかに記載の多孔質基材。
(6) 前記の担体が多孔質分離膜であって、膜の両面を前記生理活性物質の水溶液に浸潤させ、またはさらに濾過をかけることによって得られた、(1)〜(5)のいずれかに記載の多孔質基材。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、高いプロテインC活性化能をもつ抗血栓性の多孔質基材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、担体の乾燥重量1gあたりプロテインCを活性化させる生理活性物質を1μg以上保持していることを特徴とする多孔質基材であり、特に担体の表面だけではなく、内孔部にも保持していることが好ましい。プロテインCを活性化させる生理活性物質(以下、単に生理活性物質という)を、多孔質の担体に付与させることで、担体重量あたりの生理活性物質の存在量を大幅に増やすことができる。
【0013】
プロテインCを活性化させることで抗血栓性が得られるメカニズムは、以下の通りである。すなわち、活性化されたプロテインCは第V因子と第VIII因子の不活性化により血液凝固を阻害する。プロテインCの活性化はヒト・トロンボモジュリンにトロンビンが結合することによって数千倍に増幅される。ヒト・トロンボモジュリンは、血管内皮細胞膜上の糖タンパク質であり、血管内および体外の血液凝固を制御している。また、トロンビンはヒト・トロンボモジュリンと結合することで、凝固因子であるトロンビンのフィブリン形成作用および血小板凝集作用等が消失される。このため、生理活性物質としては、合成ペプチドやヒト・トロンボモジュリンなどのタンパク質もしくはその一部を有するペプチドなどが好適に用いられるが、トロンビンの凝固作用を消失できる機能を有していれば、抗血栓性にさらに有利であるため、ヒト・トロンボモジュリンもしくはその構造の一部分を有するペプチドが特に好適に用いられる。
【0014】
つまり、ヒト・トロンボモジュリンがプロテインCやトロンビンに接触できれば、抗血栓性が発揮される。したがって、ヒト・トロンボモジュリンが多孔質内孔部に存在していても、プロテインCやトロンビンが多孔質内孔部に侵入できればよい。このような多孔質基材は、担体重量あたりのヒト・トロンボモジュリンの存在量が非常に多いので、良好な抗血栓性材料となる。
【0015】
多孔質基材の特徴は、比表面積が大きいことである。比表面積が大きいほど、ヒト・トロンボモジュリンなどの生理活性物質をより多く保持できる。比表面積とは、重量あたりの表面積であり、多孔質体の場合は、内孔部を含めた表面積を指す。特に限定されるものではないが、比表面積は、1000cm/g以上、好ましくは5000cm/g以上、さらに好ましくは10000cm/g以上である。
【0016】
比表面積の値は、測定方法によって異なる場合があるので、注意が必要である。多孔質体の平均孔径が100nm以下の場合は、気体吸着法が適しており、平均孔径が100nm以上の場合は、水銀注入法が適している。平均孔径は、それぞれの測定方法において算出できる。
【0017】
担体の乾燥重量1gあたり生理活性物質が1μg以上、好ましくは10μg以上付与されていれば、十分な抗血栓性を得ることができる。なお、生理活性物質の付与量の上限は特にないが、コストなどの点から、通常、担体の乾燥重量1gあたり100mg以下である。ここで乾燥重量とは、担体を乾燥させて、乾燥中の1時間での重量変化率が3%以内になった状態の重量をいう。
【0018】
また、多孔質基材が分離膜の場合には、血液処理時に濾過作用が働くため、孔径が大きいと赤血球が分離膜中でトラップされてしまい、溶血を惹起するなどの懸念がある。また孔径が小さすぎると、プロテインCが多孔質内部に入りにくくなるために、生理活性物質の存在量に比べて抗血栓性の効果が低くなる。このため、本発明において好適に用いられる分離膜は、デキストランの篩い係数が0.5の点のデキストラン分子量が5000以上、好ましくは1万以上、さらに好ましくは1.5万以上であり、また、1000万以下、好ましくは100万以下、さらに好ましくは10万以下である。
【0019】
なお、デキストランの篩い係数測定において、分離膜の断面が非対称構造を有する場合、孔径が小さい方の面から、大きい方の面へデキストラン溶液を透過させる。
【0020】
なお、生理活性物質が保持されている担体は、多孔質であることは必要とされるが、分離膜のような貫通孔が必須なわけではない。
【0021】
ここで、担体とは、プロテインCを活性化させる生理活性物質を付与させる材料のことを指し、高分子材料が好ましい。高分子材料の例としては、ポリスルホンやポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、セルロースや、これらの誘導体などが挙げられる。基材の形状としては、多孔質体であれば、特に問わないが、分離膜やビーズ、繊維が好適に用いられる。分離膜としては、中空糸膜でも、平膜であってもよい。これらは、具体的には、抗血栓性が必要な材料、例えば、血液浄化用モジュール、人工腎臓、人工肺、体外循環医療カラム用補助用具などの医用材料に好適に用いられる。
【0022】
また、本発明でいうところの担体に生理活性物質を保持させるとは、担体と生理活性物質が相互作用している状態を指す。相互作用としては化学結合、吸着などが挙げられる。
【0023】
例えば、担体を成型後、化学反応を用いて生理活性物質を架橋させても良い。このとき、生理活性物質と担体の間にスペーサーを介しても良い。化学反応を用いて架橋させる例としては、担体および生理活性物質にアミノ基やカルボキシル基がある場合には、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸などの縮合剤を用いて生理活性物質と担体に化学結合を形成させることができる。
【0024】
また、生理活性物質にアミノ基がある場合は、クロルアセトアミドメチル基をもつ担体と化学結合を形成させることができる。
【0025】
さらには、担体に生理活性物質を吸着させても良い。吸着は、間接的な相互作用であってもよい。例えば、生理活性物質が担体と水分子を介した水素結合によって吸着されていても良いし、担体上に電荷をもつ物質を導入し、静電相互作用によって吸着されていてもよい。具体的には、下記のいずれかよって、生理活性物質の担体への吸着が達成できるが、これに限定されるわけではない。1)担体を生理活性物質溶液に浸漬させる。2)担体を生理活性物質溶液に浸漬させた後、溶液からに抜き出し、湿潤状態で保持させる。3)担体を生理活性物質溶液に浸漬させた後、溶液から抜き出し、水に浸漬させる。
【0026】
ここで、湿潤状態とは、担体を浸漬していた溶液を除去して乾燥させない状態のことを言う。特に限定されるものではないが、担体の乾燥重量に対して3重量%以上の水分を含んでいることが好ましい。
【0027】
また、生理活性物質溶液の溶媒としては、水が好適に用いられるが、緩衝液などのように塩を含んでいても、アルコールなどの有機溶媒を含んでいてもよい。
【0028】
成型後の担体に生理活性物質を多孔質内孔部に保持させるためには、担体を反応溶液や吸着させるための生理活性物質溶液にすべて浸るようにしたほうが良い。例えば、人工腎臓などに使用される多孔質中空糸膜の場合は、中空糸膜の内側と外側に生理活性物質溶液を満たすことによって、簡便に多孔質内孔部に保持させることができる。さらには、これらの溶液を濾過をかけて導入することで、効率的に多孔質内孔部に導入することができる。
【0029】
ここでいう濾過とは、分離膜の場合は、分離膜を通して溶液が濾されることをいう。濾過がかかった状態とは、溶液の通液流量の1%以上好ましくは10%以上、さらに好ましくは50%以上が濾液として出てきている状態をいう。分離膜が平膜で、濾液流量が分離膜の場所によって不均一である場合は、分離膜全体の平均値を取ればよい。多孔質ビーズにおける濾過とは、カラムに内蔵された際、上記の溶液を導入する際に、カラムの入口と出口で、10mmHg以上、好ましくは20mmHg以上、さらに好ましくは30mmHg以上の圧力差を生じるように圧力をかけた状態で導入することをいう。
【0030】
また、担体成型原液に生理活性物質を混練させ、物理的に生理活性物質を担体に内包させる形にしても良い。混練させることで、生理活性物質を多孔質の内孔部に保持させることができるので好ましいが、成型原液中で生理活性物質が変性しないようにすることが必要である。
【0031】
担体に保持した生理活性物質の溶出は少ないことが望まれる。溶出量が多いと、患者によっては出血傾向を助長するなど、安全性に問題が生じる可能性がある。特に限定されるわけではないが、担体の乾燥重量1gあたり273mlの水で洗浄した後、室温で45mlの水を用いて2時間抽出した水中の生理活性物質濃度が、10ng/ml以下であることが好ましい。ここで、水の代わりに生理食塩水もしくは緩衝液を用いてもよい。
【0032】
なお、本発明においては、プロテインCの活性が20%以上増加する生理活性物質を用いることが好ましい。プロテインCの活性化度の測定方法についての詳細は後述するが、405nmの吸光度で比較する。プロテインCが活性化されているとは、吸光度の値がブランクよりも高いことをいう。プロテインCの活性が20%以上増加しているとは、ブランクに対して、吸光度の値が20%以上増加していることを意味する。プロテインCの活性化が20%より少ない場合、抗血栓性の効果が充分でない場合がある。
【実施例】
【0033】
以下実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0034】
実施例1
1.ポリスルホン/ポリビニルピロリドン混合中空糸膜ミニカラム
抗血栓性を付与する担体にポリスルホン/ポリビニルピロリドン混合中空糸膜を用いた。人工腎臓のモデルとして、該中空糸膜のミニカラムを作成した。ポリスルホン(ソルベイ社製ユーデルポリスルホン(登録商標)P-3500)18重量部およびポリビニルピロリドン(BASF社製K30)9重量部をN,N'-ジメチルアセトアミド72重量部および水1重量部の混合溶媒に加え、90℃で14時間加熱して溶解し、製膜原液を得た。この製膜原液を外側の内径0.3mm、内側の内径0.2mmのオリフィス型二重円筒型口金の外側の管より吐出した。芯液としてN,N'-ジメチルアセトアミド58重量部および水42重量部からなる溶液を内側の管より吐出した。吐出された製膜原液は、乾式長350mmを通過した後、水100%の凝固浴に導かれ、中空糸が得られた。
【0035】
中空糸膜を100本束ね、直径約7mm、長さは12cmのプラスチック管ミニカラムケースに挿入した。中空糸膜の両末端を、中空糸膜中空部を閉塞しないようにウレタン系ポッティング剤で固定し、図1に示すようなミニカラムを作成した。ミニカラムの中空糸膜内側および外側を37℃の超純水を1ml/分の流速で30分間洗浄した。
【0036】
2.比表面積の測定
日本ベル(株)製高精度全自動ガス吸着装置(BELSORP 36)を用いて、中空糸膜を100℃で減圧脱気の後、液体窒素温度(77K)で窒素の吸着等温線を測定した。この等温線をBET法で解析し、比表面積を求めた。比表面積は、186m/gであった。
【0037】
3.デキストランの篩い係数測定
分子量1500,6000,2万,4万,6万,20万の6種類のデキストランが各0.5重量%水溶液になるように調整した。
【0038】
中空糸膜ミニカラムの図1の1に、内径2mm、外径4mm、長さ50cmのシリコーンチューブ(製品名ARAM(登録商標))を、図1の2に、内径2mm、外径4mm、長さ100cmのシリコーンチューブを接続した。中空糸膜ミニカラムの図1の4はキャップをつけ、図1の3は、開放した。
【0039】
中空糸膜ミニカラムを垂直に立てて、デキストラン水溶液を下から上(図1の2から1)へワンパスで通液した。このとき、入口側(図1の2)の流速を5ml/minで、出口側(図1の1)の流速を4ml/minとすることで、中空糸膜ミニカラムの図1の3から1ml/minの濾液が出てくるようにした。
【0040】
通流開始4分後から3分間、中空糸膜ミニカラムの図1の3から出てくる濾液をサンプリングした。この液を、f液と呼ぶ。
【0041】
通液開始から7分後に、通液を停止し、図1の1に接続した100cmのチューブ内に残っているデキストラン水溶液をサンプリングした。この液を、Bo液と呼ぶ。また、中空糸膜ミニカラムに通過する前のデキストラン水溶液をBi液と呼ぶ。
【0042】
これらのサンプル液をゲルパーミエーションクロマトグラフィにて、デキストランの分子量と濃度を測定し、デキストランの各分子量における篩い係数を算出した。その結果、篩い係数が0.5のときのデキストラン分子量は1.8万であった。
【0043】
4.ヒト・トロンボモジュリン
プロテインCを活性化させる生理活性物質として、ヒト・トロンボモジュリンを使用した。ヒト・トロンボモジュリンとしては、特開平1-6219号公報の記載に従い、遺伝子工学的手法によって得たヒト・トロンボモジュリンを用いた。
【0044】
このヒト・トロンボモジュリン1ngを5unit/mlのトロンビンおよび100nMのプロテインCを含む溶液(50mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)、0.1重量%NaCl、0.1重量%BSA、2mM CaCl)0.5ml中37℃で1時間インキュベートした。10unit/mlのアンチトロンビンIIIおよび8unit/mlのヘパリンを含む溶液(50mMトリス-塩酸緩衝液(pH8.0)、0.1重量%NaCl、0.1重量%BSA、2mM CaCl)0.5mlを加え、さらに37℃で30分間インキュベートし、ヒト・トロンボモジュリンとプロテインCとの反応を停止させた。
【0045】
この上清50μlに1mMのS-2238(20mMトリス-塩酸緩衝液(pH7.4)、0.1重量%NaCl、0.1重量%BSAの混合溶液)100μlを加えて37℃で5分間インキュベートした。酢酸5μlを加えて発色を停止させた後、405nmの吸光度を測定した。その結果、吸光度は0.158であった。一方で、トロンボモジュリンを添加しなかったブランク溶液の吸光度は0.061であった。ブランクに対して吸光度は250%増加していることから、このヒト・トロンボモジュリンがプロテインC活性化能を有していることが確認できた。
【0046】
5.ヒト・トロンボモジュリンの導入
ヒト・トロンボモジュリンのリン酸緩衝生理食塩水(以下、PBS)溶液(ヒト・トロンボモジュリン濃度は25μg/ml)2.5mlを、前記1.で得られた中空糸膜ミニカラム(図1)の1から2へ、続いて3から4へ通液し(図1中の矢印参照)、10分間、灌流させた。灌流は、室温で、流速は1ml/分で行なった。中空糸膜内側のみならず外側にも灌流させることで、ヒト・トロンボモジュリンを中空糸内側、外側両方に満たし、中空糸膜の内孔部にもヒト・トロンボモジュリンを保持させた。
【0047】
6.ヒト・トロンボモジュリンの溶出実験
中空糸膜ミニカラムについて、ヒト・トロンボモジュリン溶出試験を始める直前に、PBS30ml(中空糸内表面1m換算でPBS4L、中空糸膜乾燥重量1g換算で約273mlに相当する)を室温にて1ml/分で30分循環し、洗浄した。PBS5ml(中空糸内表面1m換算で667mL、中空糸膜乾燥重量1g換算で約45mlに相当する)を0.5ml/分の流速で、室温で2時間循環させた。なお、後述する血液循環試験と対応させるために、循環開始後の最初の1mlは廃棄した後、循環した。2時間循環させた液に溶出したヒト・トロンボモジュリンの濃度は、ELISA法にて測定した。
【0048】
7.ヒト・トロンボモジュリン濃度測定
ヒト・トロンボモジュリンの濃度は、ヒトCD141 ELISAキット(DIACLONE社製造)を使用した。実験手順は、以下の通りである。ELISAプレートのウェルにサンプルを100μlずつ加えた。ビオチン化anti-CD141を調整し、50μlずつウェルに加えた。プレートカバーでカバーし、1時間室温下で定温放置した。カバーを外し、プレートをマイクロプレートウオッシャー(BIO-RAD ImmunoWash Model 1575)にて、以下のように洗浄した。
1) 全てのウェルから溶液を吸い出した。
2) 全てのウェルに洗浄液を300μlずつ満たした。
3) 再度全てのウェルから溶液を吸い出した。
4) 手順2)と3)を二度繰り返した。
【0049】
洗浄操作後、ストレプトアビジン-HRP溶液を調整し、ウェルに100μl加えた。プレートカバーでカバーし、30分間室温下で定温放置した。カバーを外してウェルを、上記洗浄操作1)〜4)と同様に洗浄を行った。ready-use(レディ・ユース)TMB基質溶液をウェルに100μl加えた。プレートをアルミホイルで包んで光を遮断し15分間室温で定温放置した。ウェルに100μlの停止試薬HSOを加えて、酵素基質反応を停止した。停止試薬HSOを加えた後に、速やかにマイクロプレートリーダー(BIO-RAD マイクロプレートリーダー モデル680)を用いて450nmの吸光度を読み取った。既知濃度の吸光度の値から検量線を引き、サンプルのヒト・トロンボモジュリン濃度を算出した。
【0050】
8.抗血栓性の評価(血液循環試験)
中空糸膜ミニカラムの片側(図1の1)に、内径1mm、外径2mm、長さ50cmのシリコーンチューブ(製品名ARAM(登録商標))を接続した。中空糸膜ミニカラムについて、血液循環試験を始める直前に、PBS30mlを室温にて1ml/分で30分、図1の1から2へ循環し、洗浄した。
【0051】
健常者ボランティアから静脈血を採血後、十秒内にヘパリンを0.5U/mlになるように添加した。採血後、実験開始までにある程度の時間が経過してしまうことなど、循環実験以外の要因で血液が活性化される。ヘパリンを0.5U/ml程度添加することで、そのような活性化を抑制できると考えられる。ヘパリン添加後、数分以内に、該血液をカラムで循環させた。循環は5mlの血液を、垂直に立てた中空糸膜ミニカラムの上から下に(図1の1から2に)、0.5ml/分の流速で、室温で行った。なお、ミニカラム内および回路内には、はじめはPBSが充填してあるので、循環開始後の最初の1mlは廃棄した後、循環した。該条件での、循環可能時間を測定した。なお、ここでいう循環可能時間とは、回路中もしくはミニカラム中に血栓などが生じて血液が流れなくなるまでの時間、もしくは血液が流れにくくなったため、回路接続部などから血液が漏れだしてくるまでの時間をいう。
【0052】
前記3において、ミニカラムに循環する前後のヒト・トロンボモジュリン濃度および、前記4の溶出試験でのヒト・トロンボモジュリン濃度を測定することで、中空糸膜に保持させたヒト・トロンボモジュリン量を求めた。中空糸膜の乾燥重量は0.11gであり、ヒト・トロンボモジュリン保持量は17μg/gであった。前記3で得られた中空糸膜ミニカラムについて、ヒト・トロンボモジュリンの溶出実験の結果、ヒト・トロンボモジュリン濃度は1ng/ml以下であった。該中空糸膜ミニカラムの抗血栓性を評価した結果、循環可能時間は2時間30分であった。
【0053】
すなわち、ヒト・トロンボモジュリンの溶出は、ほとんどないうえに、プロテインCを活性化することで抗血栓性を有する多孔質な中空糸膜ミニカラムを得ることができた。
【0054】
実施例2
アイソタクチック−ポリメタクリル酸メチル5重量部とシンジオタクチック−ポリメタクリル酸メチル20重量部を、ジメチルスルホキシド75重量部に加え、加熱溶解し製膜原液を得た。この製膜原液をオリフィス型二重円筒型口金から吐出し、空気中を300mm通過させた後、水100%の凝固浴中に導き中空糸膜を得た。この際、内部注入気体として乾燥窒素を用いた。得られた中空糸分離膜の内径は0.2mmであり 、膜厚は0.03mmであった。
【0055】
中空糸膜を100本束ね、直径約7mm、長さは12cmのプラスチック管ミニカラムケースに挿入した。中空糸膜の両末端を、中空糸膜中空部を閉塞しないようにウレタン系ポッティング剤で固定し、図1に示すようなミニカラムを作成した。ミニカラムの中空糸膜内側および外側を37℃の超純水を1ml/分の流速で30分間洗浄した。
【0056】
実施例1と同様に比表面積を測定した結果、242m/gであった。また、実施例1と同様にデキストラン篩い係数を測定した結果、篩い係数が0.5のときのデキストラン分子量は1.4万であった。
【0057】
実施例1と同様にヒト・トロンボモジュリンを保持させた。ヒト・トロンボモジュリン量は、5μg/gであった。また、ヒト・トロンボモジュリンの溶出実験の結果、ヒト・トロンボモジュリン濃度は1ng/ml以下であった。
【0058】
該中空糸膜ミニカラムの抗血栓性を評価した結果、循環可能時間は2時間20分であった。すなわち、ヒト・トロンボモジュリンの溶出は、ほとんどないうえに、プロテインCを活性化することで抗血栓性を有する多孔質な中空糸膜ミニカラムを得ることができた。
【0059】
実施例3
1.海島型複合繊維の多孔質化およびクロルアセトアミドメチル化
ポリプロピレン50重量部を島成分とし、ポリスチレン46重量部、ポリプロピレン4重量部の混合物を海成分とする海島型複合繊維(島数16、単糸繊度26デニール、引張強度29g/d、伸度50%、フィラメント数42) 5gを、N−メチロール−α−クロルアセトアミド5g、ニトロベンゼン40g、98重量%硫酸40gおよびパラホルムアルデヒド0.085gからなる混合溶液中に浸し、20℃で1時間反応させた。繊維を反応液から取り出し、0℃の氷水中に投じて反応停止させたのち、水で洗浄し、次に、繊維に付着しているニトロベンゼンを抽出除去した。この繊維を50℃で真空乾燥し、クロルアセトアミドメチル化多孔質繊維を得た。なお、パラホルムアルデヒドは架橋構造を形成し、ニトロベンゼンは海成分であるポリスチレンを溶解するために、多孔質な繊維を得ることができる。
【0060】
2.比表面積の測定
実施例1の2と同様にして行った。比表面積は、2.3m/gであった。
【0061】
3.ヒト・トロンボモジュリンの導入
前記1で得られた繊維0.1g(乾燥重量)を、実施例1の2のヒト・トロンボモジュリンのPBS溶液(ヒト・トロンボモジュリン濃度は25μg/ml)2.5mlに40℃で2時間浸漬、振盪させ、クロルアセトアミドメチル基とヒト・トロンボモジュリンを反応させた。ヒト・トロンボモジュリン固定化多孔質繊維を、PBS溶液2.5mlに、40℃で10分間浸漬、振盪させることで吸着したヒト・トロンボモジュリンを洗浄した。この洗浄操作を3回繰り返し、3回目のPBS溶液中のヒト・トロンボモジュリン濃度が1ng/ml以下になったことを確認した。ヒト・トロンボモジュリンの反応前後の濃度変化および、洗浄液中のヒト・トロンボモジュリン濃度から、固定化した量を算出したところ、1.6μg(16μg/g)であった。
【0062】
この後、該繊維を4.5mlのPBS溶液に浸漬させ、2時間、室温にて振盪させることでヒト・トロンボモジュリンの溶出の有無を確認した。振盪後のPBS溶液中ヒト・トロンボモジュリン濃度は1ng/ml以下であり、溶出は確認されなかった。
【0063】
なお、ヒト・トロンボモジュリン濃度の測定は、実施例1の5と同様の操作で行った。
【0064】
4.抗血栓性の評価(血液振盪試験)
健常者ボランティアから静脈血を採血した全血1mlに前記2で得られたヒト・トロンボモジュリン固定化多孔質繊維0.1gを浸漬させた。採血後、繊維を浸漬させるまでの時間は数十秒以内に行った。室温で30分間振盪させても、ヒト・トロンボモジュリン固定化多孔質繊維に血栓が付着することはなかった。
【0065】
すなわち、ヒト・トロンボモジュリンの溶出は、ほとんどないうえに、プロテインCを活性化することで抗血栓性を有する多孔質繊維を得ることができた。
【0066】
比較例1
実施例1の3の中空糸膜ミニカラムにおいてヒト・トロンボモジュリン溶液の代わりに、水を用いた。該中空糸膜ミニカラムについてヒト・トロンボモジュリンの溶出実験の結果、ヒト・トロンボモジュリン濃度は1ng/ml以下であった。該中空糸膜ミニカラムの抗血栓性を評価した結果、循環可能時間は1時間20分であった。抗血栓性の低い中空糸膜ミニカラムであった。
【0067】
比較例2
実施例1の3の中空糸膜ミニカラムにおいてヒト・トロンボモジュリン溶液を中空糸内側だけに通し、外側には水を充填した。すなわち、図1の1から2にヒト・トロンボモジュリン溶液を、図1の3から4に水を通した。該中空糸膜ミニカラムについて、実施例1と同様にヒト・トロンボモジュリンの保持量を求めた結果、0.77μg/gであった。ヒト・トロンボモジュリンの溶出実験の結果、ヒト・トロンボモジュリン濃度は1ng/ml以下であった。さらに該中空糸膜ミニカラムの抗血栓性を評価した結果、循環可能時間は1時間50分であった。比較例1に比べて抗血栓性を有するが、実施例1には及ばない結果となった。
【0068】
比較例3
実施例3の1におけるニトロベンゼンとパラホルムアルデヒドを添加しない以外は、すべて同一の操作を行った。実施例1の2と同様に比表面積の測定を行ったところ、80cm/gであった。該繊維0.1g(乾燥重量)を実施例3の3と同様の操作によって、ヒト・トロンボモジュリン固定化繊維を得た。ヒト・トロンボモジュリンの固定化量は、0.08μg(0.8μg/g)であった。また、実施例3の3と同様にヒト・トロンボモジュリンの溶出の有無を確認したところ、振盪後のPBS溶液中ヒト・トロンボモジュリン濃度は1ng/ml以下であり、溶出は確認されなかった。
【0069】
実施例3の3と同様に抗血栓性を評価した結果、30分間振盪時点で、繊維に血栓が付着していた。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施例で人工腎臓のモデルとして作製した中空糸膜ミニカラムの概略図である。
【符号の説明】
【0071】
1 中空糸膜内側への連結口(血液流入口)
2 中空糸膜内側への連結口(血液流出口)
3 中空糸膜外側への連結口(入口)
4 中空糸膜外側への連結口(出口)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体の乾燥重量1gあたりプロテインCを活性化させる生理活性物質を1μg以上保持する多孔質基材。
【請求項2】
前記の生理活性物質を担体表面および内孔部に保持していることを特徴とする請求項1に記載の多孔質基材。
【請求項3】
前記の生理活性物質がプロテインCを20%以上活性化させることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項に記載の多孔質基材。
【請求項4】
前記の生理活性物質がヒト・トロンボモジュリンもしくはその一部を有するペプチドであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質基材。
【請求項5】
前記の担体が多孔質分離膜、多孔質ビーズ、多孔質繊維のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質基材。
【請求項6】
前記の担体が多孔質分離膜であって、膜の両面を前記生理活性物質の水溶液に浸潤させ、またはさらに濾過をかけることによって得られた、請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔質基材。

【図1】
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【公開番号】特開2007−29716(P2007−29716A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−169538(P2006−169538)
【出願日】平成18年6月20日(2006.6.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(505115854)株式会社ビーエムティーハイブリッド (6)
【出願人】(505115902)
【出願人】(505115887)
【Fターム(参考)】