説明

多孔質容器の製造方法

【課題】 エレクトロスピニング法にて作製した多孔質材料から上部層および下部層を形成してなる多孔質容器であって、上部層と下部層の間に内包材料を包含させたり、内包材料を溶出させて中空状態にした多孔質容器の製造方法を提供する。
【解決手段】 エレクトロスピニング法にて形成された下部多孔質材料層上に、多孔質材料の貧溶媒に可溶な材料からなる内包材料を載置し、さらに上記内包材料を包含するようにエレクトロスピニング法にて上部多孔質材料層を形成することを特徴とする多孔質容器の製造方法である。また、上記内包材料を多孔質材料の貧溶媒にて溶出させて中空状態の多孔質容器を得ることもできる。多孔質材料としては、ポリε―カプロラクトンを用いることが好ましく、疾患治療用薬物や予防用薬物などの生理活性物質を中空部に含浸や注入することもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質容器の製造方法に関するものであり、詳しくは、エレクトロスピニング法にて作製した多孔質材料から上部層および下部層を形成してなる多孔質容器であって、上部層と下部層の間に内包材料を包含させたり、内包材料を溶出させて中空状態にした多孔質容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリマー繊維を作製する方法としては種々の方法が採用されているが、サブミクロン〜ミクロンオーダーの径を有するポリマー繊維を作製する方法として、エレクトロスピニング法を用いた方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。エレクトロスピニング法とは、シリンジ内に繊維化するためのポリマーの溶液を充填し、シリンジ芯とターゲット間に高電圧をかけた状態で、シリンジ芯の先からポリマー溶液を任意の押出速度で垂下塗出すると、ポリマー溶液がターゲットに向かって繊維状に伸長すると共に溶剤が揮散、乾燥して繊維状に紡糸され、その結果、ターゲット上に不織布状の繊維が堆積するという多孔質膜の製造方法である。
【0003】
エレクトロスピニング法は、比較的小規模の装置を用い、使用するポリマーの種類やポリマー溶液の濃度、溶媒の種類、印加電圧、シリンジ芯とターゲット間の距離、シリンジ芯のノズル先端形状などの作製条件を変化させることによって、得られる多孔質膜の材質や繊維径、膜孔径などを適宜変化させることができるものである。従って、近年は、例えば薬物徐放デバイスや医療用材料、バイオマテリアルなどの種々の分野での使用が期待されている。
【0004】
一方、袋状に成形した不織布のような多孔質容器内に疾患治療用もしくは予防用の薬物を内包させて内包する薬物を徐放させるためのデバイスや、有害物質を分解する細胞を内包させためのデバイスなどが検討されている。これらの袋状の不織布を作製する方法としては、上下2枚の不織布の4辺をヒートシール機で熱溶着させたり、接着剤で4辺を接着したりする方法が主流であるが、材質によっては熱溶着できなかったり、接着剤にて接着できない場合があり、また、溶着部や接着剤塗布部の柔軟性が低下して、生体に対して使用する場合には未だ充分な方法であるとはいいがたいものである。
【非特許文献1】高分子55巻、3月号、126〜133頁(2006年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者らは、上記従来の問題を解決するために鋭意検討を行った結果、エレクトロスピニング法を用いて下部に位置する多孔質材料層を形成したのち、内包材料層をその上に載置し、その上から上部に位置する多孔質材料層をエレクトロスピニング法にて形成することによって、溶着や接着剤を使用せずに柔軟性に優れ、種々の繊維径および孔径を有する多孔質容器を簡単に作製できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明はエレクトロスピニング法にて形成された下部多孔質材料層上に、多孔質材料の貧溶媒に可溶な材料からなる内包材料を載置し、さらに上記内包材料を包含するようにエレクトロスピニング法にて上部多孔質材料層を形成することを特徴とする多孔質容器の製造方法を提供することを第1の要旨とする。
【0007】
また、本発明は上記にて得られた多孔質容器に包含されている内包材料を、多孔質材料の貧溶媒にて溶出させて中空状態の多孔質容器を得ることを特徴とする多孔質容器の製造方法を提供することを第2の要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の多孔質容器は、不織布のような多孔質膜をエレクトロスピニング法によって作製するので、種々のポリマーから多様な繊維径の多孔質膜を形成できる。さらに、袋状の多孔質容器をエレクトロスピニング法によって、ポリマー繊維を堆積させることによって作製できるので、熱溶着や接着剤を用いた接着手段を採用する必要がなく、均質な多孔質容器を得ることができるのである。従って、内包させる材料を疾患治療用の薬物や疾患予防用の薬物とし、内包薬物を徐々に放出させたり、足場材料に保持させた再生細胞などを内包させて本発明の多孔質容器を皮内に移植することによって再生医療に利用することもできるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の多孔質容器を製造するためにはエレクトロスピニング法を用いることが特徴である。
【0010】
図1にその概略図を示す。
【0011】
まず、図1(a)に示すように、エレクトロスピニング法を用いて、下部多孔質材料層を形成する。次いで、図1(b)に示すように、形成した下部多孔質材料層の上に内包材料を載置したのち、図1(c)に示すように、その上からエレクトロスピニング法にて上部多孔質材料層を形成する。上部多孔質材料層はエレクトロスピニング法にてポリマー繊維を堆積させるようにして形成させているので、図1(c)にて図示しているように下部多孔質材料層と上部多孔質材料層との界面は明確に存在しない状態で内包材料を包含した本発明の多孔質容器を得ることができるのである。特に、上部多孔質材料層を構成するポリマーと下部多孔質材料層を構成するポリマーを同一にすることによって、完全一体化した多孔質容器になり好ましいものである。
【0012】
また、図1(c)にて得られた本発明の多孔質容器は、内包材料を溶解する溶剤であって上下多孔質材料の貧溶媒に浸漬するなどして内包材料を溶出させることで、図1(d)に示すような中空部を有する多孔質容器とすることができる。なお、図1(d)におけるX−X線で切断することによって、個々の多孔質容器に分断することができるのである。
【0013】
本発明において上部多孔質材料層や下部多孔質材料層を形成するためのポリマー材料、即ち、ポリマー繊維を形成する材料としては、溶液状態でシリンジ内に収納して、シリンジ芯から塗出できるものであれば特に限定されないが、例えばポリε−カプロラクトンや、ポリ乳酸、ポリグルコール酸、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、およびこれらの共重合物や混合物などを用いることができる。これらのうち、生体適合性や安全性の点から、ポリε−カプロラクトンやポリ乳酸を用いることが好ましい。なお、本発明においては、上部多孔質材料層と下部多孔質材料層を形成するためのポリマー材料は異なっていても良いが、エレクトロスピニング法で繊維を堆積させて多孔質容器を作製するので、上部多孔質材料層と下部多孔質材料層とが完全に一体化するためには同一の材料を採用することが好ましい。
【0014】
また、上記ポリマー材料はシリンジ内に収納するために溶剤に溶解させてポリマー溶液として使用するが、溶剤としてはポリマー材料を溶解する良溶剤であれば特に限定されることはなく、溶液中のポリマー濃度は、シリンジ芯からの良好な塗出性の点から、1〜30重量%、好ましくは3〜20重量%程度に調整する。
【0015】
エレクトロスピニング法にて上記ポリマー溶液を収納するシリンジにおけるシリンジ芯の塗出部の口径は、ポリマー溶液の粘度や得られる繊維径によって適宜調整すれば良いが、通常は0.3〜2μmφ程度とすることで、サブミクロンオーダーからナノオーダーの繊維径の不織布(多孔質膜)を得ることができる。
【0016】
上記のようにして得られる上下多孔質層は、繊維径0.1〜30μm、好ましくは0.3〜20μmの繊維から形成され、理論上ではエレクトロスピニング法で作製される繊維は1本の繊維がウェット状で絡み合い乾燥時に接点で接着することで多孔質層を形成している。また、得られる多孔質層は、孔径3〜300μm、好ましくは5〜200μmである。このような範囲に調整するためには、エレクトロスピニング法において、印加電圧を4〜30kV、好ましくは6〜25kVの範囲に調整し、シリンジ芯とターゲット間の距離を3〜30cm、好ましくは5〜20cm程度に調整することがよい。
【0017】
前記した上部と下部に位置する多孔質材料層の間に介在、内包させる内包材料は、図1(d)に示すように上部多孔質材料層を形成後、任意の溶剤にて溶出させて中空部を形成するものであればよく、多孔質材料層の貧溶媒に溶解する材質であれば特に限定されない。取扱い性の点で水溶性を呈する材質からなることが好ましく、具体的にはポリビニルアルコールやポリエチレングリコール、アクリル酸系ポリマー、ポリアクリルアミドなどの合成高分子物質、コラーゲンやゼラチン、水溶性セルロース、キトサン、多糖類などの天然高分子物質、糖やクエン酸塩などの有機低分子物質、塩化ナトリウムや塩化カリウム、各種炭酸塩などの無機塩、これらの混合物からなり、フィルム状やゲル状、高粘性状、紙状、布状などの形状(性状)で用いることができる。
【0018】
また、内包材料を疾患治療用薬物や予防用薬物、フェロモン、各種農薬などの生理活性物質を含有する物質とした場合には、本発明の製造方法によって得られる多孔質容器中から、これらの生理活性物質を徐放させて所望の効果を発揮させることができるのである。また、本発明の製造方法にて得られる多孔質容器から内包材料を溶出させて図1(d)に示すように中空状態にした後、この中空部に上記生理活性物質含有溶液を含浸させたり、注入させることもできる。
【0019】
以上のようにして得られる本発明の多孔質容器は、1個ずつ製造することもできるが、図1に示すように複数の多孔質容器を一括して製造したのち、図1(d)に示すように個々に分割して得ることができ、最終的な大きさとしては矩形状であれば、例えば縦0.5〜20cm×横0.5〜20cm程度の大きさとする。
【実施例】
【0020】
以下に実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下において部および%とは、重量部および重量%を意味する。
実施例
ポリε−カプロラクトン(以下、PCLという)の10%クロロホルム溶液をポリマー溶液として、エレクトロスピニング装置(カトーテック社製)を用い、印加電圧10kVで下部多孔質材料層を形成した。ポリマー溶液の供給速度、ターゲット/シリンジ間距離、シリンジ芯などを調整することで、得られた下部多孔質材料層を構成するPCL不織布繊維は、平均繊維径15μm、平均孔径50μm、縦20cm×横10cm×厚み60μmであった。
【0021】
次いで、上記にて得られた下部多孔質材料層の中央部に、内包材料として縦2cm×横1cm×厚み200μmのゼラチン製フィルムを1枚載置した。
【0022】
次に、内包材料の上から、平均繊維径や平均孔径、大きさ、厚みが下部多孔質材料層と同一となるように、下部多孔質材料層を形成したと同様の方法で、PCL不織布繊維からなる上部多孔質材料層をエレクトロスピニング法にて形成した。
【0023】
最後に、内包するポリビニルアルコール製フィルムの周縁部から3mm外側の位置で裁断して本発明の多孔質容器(不織布製袋)を作製した。
【0024】
得られた多孔質容器を純水中に浸漬することによって、内包するゼラチン製フィルムを溶出させて、中空状態の多孔質容器を得た。得られた多孔質容器は上部多孔質材料層と下部多孔質材料層が周辺部で完全に一体化しており、容易にはその界面で剥離することができないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の多孔質容器を製造する方法を説明する概略断面図である。
【図2】エレクトロスピニング法を説明する概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1 下部多孔質材料層
2 内包材料
3 上部多孔質材料層
4 中空部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法にて形成された下部多孔質材料層上に、多孔質材料の貧溶媒に可溶な材料からなる内包材料を載置し、さらに上記内包材料を包含するようにエレクトロスピニング法にて上部多孔質材料層を形成することを特徴とする多孔質容器の製造方法。
【請求項2】
下部多孔質材料および上部多孔質材料が、ポリε−カプロラクトンである請求項1記載の多孔質容器の製造方法。
【請求項3】
請求項1にて得られた多孔質容器に包含されている内包材料を、多孔質材料の貧溶媒にて溶出させて中空状態の多孔質容器を得ることを特徴とする多孔質容器の製造方法。
【請求項4】
請求項3にて得られた多孔質容器の中空部に、生理活性物質を注入もしくは浸透させてなる多孔質容器の製造方法。
【請求項5】
生理活性物質が、疾患治療用薬物もしくは疾患予防用薬物である請求項4記載の多孔質容器の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−93315(P2008−93315A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280862(P2006−280862)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】